(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118867
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】電気自動車用フロントフレーム構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20240826BHJP
B62D 21/00 20060101ALI20240826BHJP
B62D 21/15 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B62D21/00 A
B62D21/15 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025422
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BA02
3D203BA17
3D203BB12
3D203BB54
3D203BC14
3D203CA37
3D203CA40
3D203CA42
3D203DB05
3D203DB07
(57)【要約】
【課題】正面衝突時の衝撃からパワーユニットやコントロールユニット、及び車室やバッテリ室を有効に保護することができる電気自動車のフロントフレーム構造を提供する。
【解決手段】フロントフレーム構造は、モータルームの底部から上部までの高さ方向の寸法を有する壁状部と、壁状部の前端部の上部から突出されたアーム状部と、を有するフロントサイドフレームと、壁状部の底部及びアーム状部の前端部に接合され、アーム状部との間に環状の開口部を形成するロアサイドフレームと、開口部の内部に配置されるリンフォースメントと、を備え、リンフォースメントは、互いに接続する第1の斜材と第2の斜材とを有し、アーム状部の前端部、アーム状部の後端部、及び、ロアサイドフレームの中途部に接合されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータルームの底部から上部までの高さ方向の寸法を有する壁状に形成され、前記モータルームの後部領域において車体の前後方向に延在する壁状部と、前記壁状部の前端部の上部から突出され、前記モータルームの前部領域において前記車体の前後方向に延在するアーム状部と、を有するフロントサイドフレームと、
前記壁状部の底部及び前記アーム状部の前端部に接合され、前記アーム状部との間に環状の開口部を形成するサブフレームと、
前記開口部の内部に配置される荷重伝達部材と、
を備え、
前記荷重伝達部材は、互いに接続する2以上の斜材を有し、
前記荷重伝達部材は、少なくとも、前記アーム状部の前端部、前記アーム状部の後端部、及び、前記サブフレームの中途部に接合されていることを特徴とする電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項2】
前記荷重伝達部材が前記アーム状部に対して接合する箇所は、前記荷重伝達部材が前記サブフレームに対して接合する箇所よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項3】
前記荷重伝達部材は、前記開口部の内部にトラス構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項4】
前記壁状部の後端部の上部は、前記車体のフロントピラーに接合していることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【請求項5】
前記壁状部の後端部の下部は、トルクボックスを介してサイドシルに接合していることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用フロントフレーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前部にモータルームを備えた電気自動車用フロントフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気自動車の車体前部には、モータルームが設けられている。モータルームには、電動モータを含むパワーユニットが搭載されている。電気自動車のパワーユニットは、剛体である。このため、フルフラップ前面衝突やスモールオーバラップ前面衝突時において、パワーユニットに衝撃を吸収させることは殆ど不可能である。又、電気自動車のパワーユニットは、レシプロエンジンのパワーユニットに比べて体格が小さい。このため、モータルームの上部に、インバータやDC/DCコンバータ等の高電圧部材を含むコントロールユニットを搭載する場合が多い。
【0003】
正面衝突時における衝撃により剛体であるパワーユニットを後退させてしまうと車室を変形させてしまうことになる。又、高電圧部材であるコントロールユニットを正面衝突時における衝撃で押し潰してしまうことも好ましくない。従って、正面衝突時は、少なくともパワーユニット及びコントロールユニットの手前で正面衝突時の衝撃を吸収することが好ましい。
【0004】
又、電気自動車は、十分な航続距離を確保するために大容量のバッテリを必要とする。多くの電気自動車では、車室の床下のスペース全体にバッテリ室を形成し、このバッテリ室にバッテリを収容している。従って、前面衝突時においては、車室及びバッテリ室の変形を最小限として有効にバッテリを保護する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2012-201284号公報)には、車体の車幅方向中央に、車体前後方向へ延在する1本のメインフレームを有する電気自動車が開示されている。このメインフレームは、の前輪よりも後方に延在する部分にバッテリを収容する。これにより、特許文献1に開示されたメインフレームは、前輪よりも前方に延在する部分によって正面衝突時の衝撃を吸収することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した文献に開示されている電気自動車は専用のフレーム構造として当初から設計されたものである。従って、従来のレシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に設計された電気自動車のフレーム構造に比しコスト高となる不都合がある。
【0008】
又、メインフレームの前端部分で正面衝突時の衝撃を吸収させようとした場合、メインフレームのクラッシュストローク(正面衝突時に衝突方向へ塑性変形し得る量)をパワーユニットよりも前方に設定する必要がある。しかし、メインフレームのみの変形でクラッシュストロークを確保しようとした場合、パワーユニットよりも前方へのフロントオーバハング量が大きくなり、意匠性が損なわれてしまう不都合がある。
【0009】
本発明は、レシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に設計することが可能で、意匠性を損なうことなく、正面衝突時における衝撃からパワーユニットやコントロールユニット、及び車室やバッテリ室を有効に保護することのできる電気自動車用フロントフレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による電気自動車用フロントフレーム構造は、モータルームの底部から上部までの高さ方向の寸法を有する壁状に形成され、前記モータルームの後部領域において車体の前後方向に延在する壁状部と、前記壁状部の前端部の上部から突出され、前記モータルームの前部領域において前記車体の前後方向に延在するアーム状部と、を有するフロントサイドフレームと、前記壁状部の底部及び前記アーム状部の前端部に接合され、前記アーム状部との間に環状の開口部を形成するサブフレームと、前記開口部の内部に配置される荷重伝達部材と、を備え、前記荷重伝達部材は、互いに接続する2以上の斜材を有し、前記荷重伝達部材は、少なくとも、前記アーム状部の前端部、前記アーム状部の後端部、及び、前記サブフレームの中途部に接合されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気自動車用フロントフレーム構造によれば、レシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に設計することが可能で、意匠性を損なうことなく、正面衝突時における衝撃からパワーユニットやコントロールユニット、及び車室やバッテリ室を有効に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】電気自動車のフロントフレーム構造の要部を示す側面図
【
図2】電気自動車のフロントフレーム構造を示す斜視図
【
図3】電気自動車のフロントフレーム構造を示す分解斜視図
【
図4】前面衝突時の初期におけるフロントフレーム構造の挙動を示す説明図
【
図5】前面衝突時の中盤におけるフロントフレーム構造の挙動を示す説明図
【
図6】前面衝突時の終盤におけるフロントフレーム構造の挙動を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係り、
図1は電気自動車のフロントフレーム構造を模式的に示す側面図である。
【0014】
図1,2に示すように、電気自動車1の車体2は、キャビン5と、キャビン5の前方に設けられたモータルーム6と、を有する。
【0015】
キャビン5は、車体2の前後方向の略中央部に設けられている。このキャビン5は、フロアパネル10と、トーボード11と、左右一対のサイドシル12と、左右一対のフロントピラー13と、を有して構成されている。
【0016】
フロアパネル10は、例えば、略平面状をなす板金部材等によって構成されている。このフロアパネル10は、キャビン5の床面を構成する。フロアパネル10の下方には、バッテリ室15が設けられている。バッテリ室15の内部には、複数のバッテリ16が収容されている。
【0017】
トーボード11は、フロアパネル10の先端から上方に起立する板金部材等によって構成されている。このトーボード11は、キャビン5とモータルーム6とを区画する隔壁を構成する。
【0018】
各サイドシル12は、例えば、閉断面形状をなす中空部材である。これらサイドシル12は、例えば、複数のパネルを接合することによって構成されている。各サイドシル12は、フロアパネル10の左右側部において、車体2の前後方向にそれぞれ延在されている。さらに、各サイドシル12は、フロアパネル10の左右側部にそれぞれ接合されている。
【0019】
各フロントピラー13は、例えば、閉断面形状をなす中空部材である。これらフロントピラー13は、例えば、複数のパネルを接合することによって構成されている。各フロントピラー13は、フロントピラーロア13aと、フロントピラーアッパ13bと、をそれぞれ有する。
【0020】
各フロントピラーロア13aの下端部は、各サイドシル12の前端部にそれぞれ接合されている。また、各フロントピラーロア13aには、トーボード11の左右側部がそれぞれ接合されている。
【0021】
各フロントピラーアッパ13bの下端部は、各フロントピラーロア13aの上端部にそれぞれ接合されている。各フロントピラーアッパ13bは、各フロントピラーロア13aよりも後方に多く傾斜した状態にて、車体2の上方に延在されている。
【0022】
モータルーム6は、トーボード11の前方に設けられたフロントフレーム構造20によって主要部が構成されている。フロントフレーム構造20は、左右一対のアッパサイドフレーム21と(
図2,3参照)、左右一対のフロントサイドフレーム22と、クレードル23と、を有する。
【0023】
各アッパサイドフレーム21は、例えば、板金等によって構成されている。これらアッパサイドフレーム21の後端部は、各フロントピラーロア13aの上端部に接合されている。これにより、アッパサイドフレーム21は、モータルーム6の左右側部上方において、車体2の前後方向にそれぞれ延在されている。
【0024】
各フロントサイドフレーム22は、例えば、閉断面形状をなす中空部材である。これらフロントサイドフレーム22は、例えば、複数のパネルを接合することによって構成されている。これらのフロントサイドフレーム22は、各アッパサイドフレーム21よりも車幅方向の内側において、車体2の前後方向にそれぞれ延在されている。
【0025】
各フロントサイドフレーム22は、壁状部25と、アーム状部26と、を有する。
【0026】
壁状部25は、フロントサイドフレーム22の後部領域を構成する。
【0027】
この壁状部25は、例えば、モータルーム6の底部から上部までの高さ方向の寸法を有する。より具体的には、壁状部25は、車体2の高さ方向において、例えば、モータルーム6の底部からアッパサイドフレーム21と同程度の高さまでの寸法を有する。
【0028】
また、壁状部25は、車体2の前後方向において、トーボード11からモータルーム6の中央付近まで延在する長さを有する。これにより、壁状部25は、側面視形状が略矩形形状をなす壁状に形成されている。
【0029】
この壁状部25の後端部は、トーボード11に接合されている。また、壁状部25の後端部の下部は、トルクボックス27を介して、サイドシル12に接合されている。これにより、壁状部25は、車両1の前面衝突時等に、車体2の前方から伝達された衝撃荷重の一部をサイドシル12に分散させることが可能となっている。
【0030】
また、壁状部25の上面を形成するアッパパネル25aは、車体2の後方及び車幅方向外側に拡張されている。
【0031】
このアッパパネル25aのうち、車体2の後方に拡張された部分は、フロントピラーロア13aの上部に接合されている。これにより、壁状部25は、車両1の前面衝突時等に、車体2の前方から伝達された衝撃荷重の一部をフロントピラー13に分散させることが可能となっている。
【0032】
なお、アッパパネル25a及びアッパサイドフレーム21が接合された各フロントピラーロア13aの上部には、さらに、車幅方向に延在するカウルカバー28の左右両端部が接合されている。
【0033】
また、アッパパネル25aのうち、車幅方向外側に拡張された部分は、壁状部25の外側面を形成するアウタパネル25bとともに、サスペンションタワー30の一部を構成する。これにより、サスペンションタワー30は、フロントサイドフレーム22と一体的に構成されている。なお、サスペンションタワー30の車幅方向外側の上端部は、アッパサイドフレーム21に接合されている。
【0034】
アーム状部26は、フロントサイドフレーム22の前部領域を構成する。このアーム状部26は、壁状部25の前端部の上部から車体2の前方に向けて延在されている。このため、アーム状部26の高さ方向の寸法は、壁状部25の高さ方向の寸法よりも小さく設定されている。さらに、アーム状部26の高さ方向の寸法は、アーム状部26の後側から前側に向かうほど徐々に小さくなるように設定されている。具体的には、アーム状部26の上面は、前方に向けて所定の俯角にて傾斜している。これに対し、アーム状部26の底面は、略水平となっている。これらにより、アーム状部26は、アーム状部の後側から前側に向かうほど太さが徐々に減少する先細り形状をなしている。
【0035】
このようなフロントサイドフレーム22において、壁状部25によって構成された後部領域の剛性は、アーム状部26によって構成された前部領域の剛性よりも相対的に高くなっている。
【0036】
図3に示すように、クレードル23は、例えば、サブフレームとしての左右一対のロアサイドフレーム31と、前後一対のクロスメンバ32と、を有する。
【0037】
各ロアサイドフレーム31は、例えば、閉断面形状をなす中空部材である。各ロアサイドフレーム31は、例えば、複数のパネルを接合することによって構成されている。これらロアサイドフレーム31は、一対のフロントサイドフレーム22と同等の車幅方向の間隔を有した状態にて、車体2の前後方向に延在されている。
【0038】
ここで、各ロアサイドフレーム31の前部には、突起31aが設けられている。各突起31aは、各ロアサイドフレーム31に略直交した状態にて、上方に突出している。
【0039】
また、各ロアサイドフレーム31の車幅方向の外側の面には、サスペンションアーム37が接続されている(
図2,3参照)。これにより、各サスペンションアーム37は、上下方向に揺動自在となるようにクレードル23に支持されている。
【0040】
各クロスメンバ32は、例えば、閉断面形状をなす中空部材である。これらクロスメンバ32は、例えば、複数のパネルを接合することによって構成されている。各クロスメンバ32は、車体の前後方向に所定の間隔を有した状態にて、車幅方向に延在されている。
【0041】
各クロスメンバ32の左右端部は、各ロアサイドフレーム31にそれぞれ接合されている。これにより、各ロアサイドフレーム31及び各クロスメンバ32は、所謂ラダー構造をなすクレードル23を構成する。
【0042】
このように構成されたクレードル23は、各フロントサイドフレーム22に接合されている。具体的には、クレードル23を構成する各ロアサイドフレーム31の後部領域が、各壁状部25の下部に接合されている。また、各ロアサイドフレーム31の前端部が、各アーム状部26の前端部に接合されている。
【0043】
ここで、各ロアサイドフレーム31の前端部は、各アーム状部26の前端部に対し、それぞれブラケット29を介して接合されている。例えば、
図3に示すように、本実施形態の各ブラケット29は、溶接等により、予め各アーム状部26の前端部に接合されている。これら各ブラケット29には、各ロアサイドフレーム31の突起31aが接合されている。これにより、各ロアサイドフレーム31の前端部は、各アーム状部26の前端部に接合されている。
【0044】
これら各フロントサイドフレーム22に対するクレードル23の接合により、クレードル23のロアサイドフレーム31は、フロントサイドフレーム22を補剛する。
【0045】
ここで、各フロントサイドフレーム22の前部は、壁状部25の上側の領域から延在するアーム状部26によって構成されている。このため、モータルーム6の前側左右側部には、車幅方向に貫通する環状の開口部35が形成されている。本実施形態において、開口部35は、矩形の側面視形状を有する。
【0046】
各開口部35には、荷重伝達部材としてのリンフォースメント36がそれぞれ配置されている。各リンフォースメント36は、例えば、第1の斜材36aと、第2の斜材36bと、を有する。第1の斜材36aは、例えば、前方に向けて所定の仰角にて傾斜している。また、第2の斜材36bは、例えば、前方に向けて所定の俯角にて傾斜している。これら第1の斜材36aの後端部と第2の斜材36b前端部とは、互いに接続されている。これにより、各リンフォースメント36は、略V字状に屈曲した側面視形状を有する。
【0047】
各リンフォースメント36の前端部は、アーム状部26の前端部と突起31aの上端部との接合部に当接されている。すなわち、第1の斜材36aの前端部は、開口部35の上側において、アーム状部26の前端部及び突起31aの上端部に当接されている。そして、各リンフォースメント36の前端部は、アーム状部26に対して接合されている。
【0048】
各リンフォースメント36の中途部は、ロアサイドフレーム31の中途部に当接されている。すなわち、第1の斜材36aの後端部及び第2の斜材36bの前端部は、開口部35の下側において、ロアサイドフレーム31の中途部に当接されている。そして、各リンフォースメント36の中途部は、ロアサイドフレーム31に対して接合されている。
【0049】
各リンフォースメント36の後端部は、アーム状部26の後端部及び壁状部25の前端部に接合されている。すなわち、第2の斜材36bの後端部は、開口部35の上側において、アーム状部26の後端部及び壁状部25の前端部に接合されている。そして、各リンフォースメント36の後端部は、アーム状部26に対して接合されている。
【0050】
これらの接合により、各リンフォースメント36は、開口部35の下側よりも開口部35の上側に多くの接合箇所を有する。本実施形態において、具体的には、各リンフォースメント36は、開口部35の下側を構成するロアサイドフレーム31の中途部に対して、1つの接合箇所を有する。また、各リンフォースメント36は、開口部35の上側を構成するアーム状部26の前端部及び後端部に対して、それぞれ1つの接合箇所を有する。
【0051】
そして、これらの接合箇所により、各リンフォースメント36は、各開口部35の内部にトラス構造を形成する。すなわち、開口部35の内部にリンフォースメント36を配置することにより、開口部35の内部は、第1の空間35aと、第2の空間35bと、第3の空間35cと、に区画される。
【0052】
ここで、第1の空間35aは、ロアサイドフレーム31と、突起31aと、第1の斜材36aと、によって囲まれた側面視三角形状をなす空間である。第2の空間35bは、アーム状部26と、第1の斜材36aと、第2の斜材36bと、によって囲まれた側面視三角形状をなす空間である。第3の空間35cは、壁状部22と、ロアサイドフレーム31と、第2の斜材36bと、によって囲まれた側面視三角形状をなす空間である。
【0053】
このようなトラス構造を形成することにより、各リンフォースメント36は、前面衝突時等の衝突エネルギー(衝撃荷重)に対する反力をコントロールする。
【0054】
なお、各リンフォースメント36の形状は、V字状の側面視形状に限定されるものではない。例えば、各リンフォースメント36の形状は、W字状の側面視形状とすることも可能である。このような場合、各リンフォースメント36は、開口部35の下側であるロアサイドフレーム31に対して2つの接合箇所を有する。また、各リンフォースメント36は、開口部35の上側であるアーム状部26側に対して3つの接合箇所を有する。
【0055】
また、各ブラケット29には、車体2の前方に突出するクラッシュボックス38がそれぞれ設けられている。さらに、各クラッシュボックス38の前端部には、車幅方向に延在するバンパビーム39が接合されている。
【0056】
このように構成されたモータルーム6には、パワーユニット41が収容されている。パワーユニット41は、電動モータと、変速機と、を備えて構成されている。このパワーユニット41は、図示しないマウント部材を介して、クレードル23の各クロスメンバ32にマウントされている。
【0057】
さらに、パワーユニット41の上部には、コントロールユニット42が設けられている。コントロールユニット42は、図示しないインバータやDC/DCコンバータ等を備えて構成されている。これにより、コントロールユニット42は、バッテリ16から電動モータに供給される駆動電力等の制御を行う。
【0058】
なお、パワーユニット41の駆動力を前輪に伝達するためのアクスル軸等(図示せず)は、開口部35の内部におけるリンフォースメント36の隙間を介して、車幅方向の外側に延出することが可能となっている。
【0059】
このように構成された車両1が前面衝突すると、衝突初期において、バンパビーム39及び各クラッシュボックス38が、軸圧壊する(
図4参照)。
【0060】
続く衝突中盤において、各フロントサイドフレーム22のアーム状部26、及び、クレードル23の各ロアサイドフレーム31の軸圧壊が開始する。その際、各アーム状部26及び各ロアサイドフレーム31の軸圧壊は、各リンフォースメント36によってコントロールされる。
【0061】
具体的には、クラッシュボックス38に伝達された衝突エネルギーは、アーム状部26と、突起31aと、第1の斜材36aと、に分散して伝達される。
【0062】
これら分散された衝突エネルギーのうち、突起31aに伝達された衝突エネルギーは、各ロアサイドフレーム31の先端に伝達される。また、各第1の斜材36aに伝達された衝突エネルギーは、各ロアサイドフレーム31の中途及び各第2の斜材36bに伝達される。
【0063】
そして、各突起31a及び各第1の斜材36aを介して各ロアサイドフレーム31に伝達された衝突エネルギーは、各ロアサイドフレーム31の先端側を上方に回転させる方向のモーメントを発生させる。このモーメントの発生により、各ロアサイドフレーム31は、第1,第2の斜材36a,36bとの接合箇所を起点としてV字状に屈曲する軸圧壊を開始する(
図5参照)。このような各ロアサイドフレーム31の軸圧壊は、例えば、各アーム状部26の軸圧壊よりも早い段階に開始するよう、各リンフォースメント36の配置及び強度等によってコントロールされる。
【0064】
続く衝突終盤において、各ロアサイドフレーム31及び各アーム状部26の軸圧壊が進展する(
図6参照)。
【0065】
この場合において、各ロアサイドフレーム31は、衝突中盤から、V字状に屈曲する軸圧壊を開始している。従って、各アーム状部26の軸圧壊は、各ロアサイドフレーム31によって阻害されることなく、十分なストロークにて実現される。加えて、各アーム状部26の軸圧壊と併行して、各ロアサイドフレーム31が軸圧壊する。これらにより、前面衝突時の衝突エネルギーは、モータルーム6の前部領域において効率良く吸収される。
【0066】
ところで、各フロントサイドフレーム22の壁状部25の高さ方向の寸法は、アーム状部26の高さ方向の寸法よりも十分に大きく設定されている。このため、壁状部25の剛性は、アーム状部26の剛性よりも格段に高く設定されている。
【0067】
また、壁状部25は、後端部の下部をサイドシル12に接合し、さらに、後端部の上部をフロントピラーロア13aの上部に接合した構成を採用している。このため、アーム状部26から壁状部25に伝達された衝撃荷重は、キャビン5を構成する車体骨格に対して効率良く分散される。
【0068】
これらの構成により、壁状部25は、前面衝突による衝撃荷重が伝達された場合にも、圧壊が抑制される。これにより、モータルーム6の全壊が回避され、モータルーム6の後部領域の空間が維持される。このモータルーム6の後部領域の空間には、パワーユニット41及びコントロールユニット42を留まらせることが可能である。これにより、剛体であるパワーユニット41等の衝撃荷重による後退が抑制され、パワーユニット41等によるキャビン5及びバッテリ室15の変形を抑制することができる。
【0069】
このような実施形態によれば、フロントフレーム構造20は、モータルーム6の底部から上部までの高さ方向の寸法を有する壁状に形成され、モータルーム6の後部領域において車体2の前後方向に延在する壁状部25と、壁状部25の前端部の上部から突出され、モータルーム6の前部領域において車体2の前後方向に延在するアーム状部26と、を有するフロントサイドフレーム22と、壁状部25の底部及びアーム状部26の前端部に接合され、アーム状部26との間に環状の開口部35を形成するロアサイドフレーム31と、開口部35の内部に配置されるリンフォースメント36と、を備えている。また、リンフォースメント36は、互いに接続する第1の斜材38aと第2の斜材36bとを有する。そして、リンフォースメント36は、アーム状部26の前端部、アーム状部26の後端部、及び、ロアサイドフレーム31の中途部に接合されている。これらの構成により、レシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本に設計することが可能で、意匠性を損なうことなく、正面衝突時における衝撃からパワーユニット41やコントロールユニット42、及びキャビン5やバッテリ室15を有効に保護することができる。
【0070】
すなわち、レシプロエンジンを用いたパワーユニットを構成する各種機器類は、エンジンルーム内において大きな容積を占める。例えば、エンジンルーム内の下部側のスペースは、クランクシャフトやエンジンオイルパン等によって占められる。また、エンジンルーム内の上部側のスペースは、吸排気のヘッドスペース等によって占められている。
【0071】
これに対し、電気自動車用のパワーユニット41は、レシプロエンジン等から構成されるパワーユニットに比べて、格段に小型化が可能である。従って、レシプロエンジンを搭載する車両に用いたフロントフレーム構造を基本とした場合、電気自動車用のフロントフレーム構造20では、フロントサイドフレーム22のレイアウトを車体2の上下方向に展開させることができる。
【0072】
このようなレイアウト上の利点を有効活用し、本実施形態のフロントフレーム構造20では、フロントサイドフレーム22の後部領域を壁状部25によって構成している。これにより、フロントサイドフレーム22の後部領域の剛性を飛躍的に高めることができる。
【0073】
また、フロントサイドフレーム22の先負領域を構成するアーム状部26は、壁状部25の前端部の上部から突出されている。これにより、フロントサイドフレーム22の前部領域を、ロアサイドフレーム31と環状に接合することができる。このように環状に接合されたフロントサイドフレーム22及びロアサイドフレーム31の前部領域は、突荷重を効率的に吸収することが可能である。これにより、フロントサイドフレーム22の後部領域(壁状部25)の変形をより効果的に抑制することができる。
【0074】
加えて、開口部35の内部にリンフォースメント36を設けることにより、アーム状部26に伝達される衝撃荷重の一部を、ロアサイドフレーム31にも分散させることができる。この場合において、リンフォースメント36を、アーム状部26の前端部、アーム状部26の後端部、及び、ロアサイドフレーム31の中途部に接合させることにより、ロアサイドフレーム31が軸圧壊する際の起点をコントロールすることができる。そして、ロアサイドフレーム31の軸圧壊の起点を適切な位置にコントロールすることにより、モータルーム6の前部領域において、アーム状部26及びロアサイドフレーム31の衝撃吸収のためのクラッシュストロークを適切に確保することができる。
【0075】
これらにより、フロントサイドフレーム22やクラッシュボックス38等を前方に延長させることなく、前面衝突時においてもモータルーム6の後部領域の空間を維持することができる。
【0076】
この場合において、リンフォースメント36がアーム状部26に対して接合する箇所は、リンフォースメント36がロアサイドフレーム31に対して接合する箇所よりも多く設定されている。さらに、リンフォースメント36は、開口部35の内部にトラス構造を形成する。これらにより、アーム状部26からリンフォースメント36に分散された衝撃荷重をロアサイドフレーム31の中途部に的確に伝達して、ロアサイドフレーム31の軸圧壊を適切にコントロールすることができる。
【0077】
また、壁状部25は高さ方向の寸法を有するため、壁状部25の後端部を、サイドシル12のみならず、フロントピラー13に対しても接続することが可能である。これにより、壁状部25に伝達された衝突荷重を効率良く分散させて、壁状部25の圧壊をより効果的に抑制することができる。
【0078】
さらに、壁状部25は高さ方向の寸法を有するため、壁状部25を構成するパネルによってサスペンションタワー30の一部を構成することができる。これにより、サスペンションタワー30の剛性についても高めることができる。
【0079】
以上の実施の形態に記載した発明は、それらの形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得るものである。
【0080】
例えば、実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、述べられている課題が解決でき、述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0081】
1 … 車両(電気自動車)
2 … 車体
5 … キャビン
6 … モータルーム
10 … フロアパネル
11 … トーボード
12 … サイドシル
13 … フロントピラー
13a … フロントピラーロア
13b … フロントピラーアッパ
15 … バッテリ室
16 … バッテリ
20 … フロントフレーム構造
21 … アッパサイドフレーム
22 … フロントサイドフレーム
23 … クレードル
25 … 壁状部
25a … アッパパネル
25b … アウタパネル
26 … アーム状部
27 … トルクボックス
28 … カウルカバー
29 … ブラケット
30 … サスペンションタワー
31 … ロアサイドフレーム
31a … 突起
32 … クロスメンバ
35 … 開口部
35a … 第1の空間
35b … 第2の空間
35c … 第3の空間
36 … リンフォースメント
36a … 第1の斜材
36b … 第2の斜材
37 … サスペンションアーム
38 … クラッシュボックス
39 … バンパビーム
41 … パワーユニット
42 … コントロールユニット