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  • 特開-金属接着体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024119079
(43)【公開日】2024-09-03
(54)【発明の名称】金属接着体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/00 20060101AFI20240827BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C09J5/00
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025689
(22)【出願日】2023-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲也
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EB031
4J040EC001
4J040EF001
4J040JB02
4J040KA32
4J040MA02
4J040PA00
4J040PA02
4J040PA30
(57)【要約】
【課題】優れた接着強度を有する金属接着体を製造でき、優れた加熱効率を有する金属接着体の製造方法を提供すること。
【解決手段】金属接着体1の製造方法は、準備工程と粗面化工程と塗布工程と加熱工程とを備える。準備工程では、第1金属部材2と第2金属部材3とを準備する。粗面化工程では、第1金属部材2および第2金属部材3が接着される部分において、第1金属部材2の少なくとも一部、および/または、第2金属部材3の少なくとも一部を粗面化処理する。塗布工程では、第1金属部材2および第2金属部材3が接着される部分において、粗面化処理により形成された粗面の少なくとも一部に、熱硬化性接着剤を塗布する。加熱工程では、第1金属部材2および/または第2金属部材3をスポット溶接機により通電し、第1金属部材2および/または第2金属部材3を加熱し、第1金属部材2および第2金属部材3の間で熱硬化性接着剤を熱硬化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と第2金属部材とが接着されてなる金属接着体を製造する方法であり、
第1金属部材と第2金属部材とを準備する準備工程と、
前記第1金属部材および前記第2金属部材が接着される部分において、前記第1金属部材の少なくとも一部、および/または、前記第2金属部材の少なくとも一部を粗面化処理する粗面化工程と、
前記第1金属部材および前記第2金属部材が接着される部分において、前記粗面化処理により形成された粗面の少なくとも一部に、熱硬化性接着剤を塗布する塗布工程と、
前記第1金属部材、前記熱硬化性接着剤および前記第2金属部材を積層し、前記第1金属部材および/または前記第2金属部材をスポット溶接機により通電させることによって、前記第1金属部材および/または前記第2金属部材を加熱し、前記第1金属部材および前記第2金属部材の間で前記熱硬化性接着剤を熱硬化させる加熱工程と
を備える、金属接着体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属接着体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属接合体は、複数の金属部材が公知の方法で接合(溶接)されることによって、形成される。金属接合体は、各種産業分野において、広範に使用される。
【0003】
とりわけ、異種金属接合体は、互いに異なる種類の金属部材が接合されることによって、形成される。異種金属接合体は、各種性質(例えば、強度、重量およびコスト)の設計自由度が比較的高いため、建築分野および乗物分野において、好適に使用されている。
【0004】
一方、金属部材の種類によっては、金属部材の溶接において、金属間化合物が形成される場合がある。金属間化合物は、金属部材の間の接合強度を低下させる場合がある。また、金属部材を溶接する場合、コストがかかる。
【0005】
そこで、複数の金属部材を溶接により接合させることに代えて、複数の金属部材を接着剤により接着させることが、提案されている。
【0006】
より具体的には、例えば、以下の金属板の接着方法が、提案されている。この方法では、被接着体である2つの金属体の接着部間に、導電性の構造用接着剤を設ける。次いで、被接着体である上記2つの金属体の上記接着部間に通電する。そして、上記金属体の発熱により、上記構造用接着剤を硬化させる。このとき、電流値を、上記金属体同士の溶接に必要な電流値の20%~80%の範囲に調整する(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-109359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、金属構造体の分野では、接着剤の加熱効率の向上、および、金属部材間の接着強度の向上が、要求されている。
【0009】
本発明は、優れた接着強度を有する金属接着体を製造でき、優れた加熱効率を有する金属接着体の製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明[1]は、第1金属部材と第2金属部材とが接着されてなる金属接着体を製造する方法であり、第1金属部材と第2金属部材とを準備する準備工程と、前記第1金属部材および前記第2金属部材が接着される部分において、前記第1金属部材の少なくとも一部、および/または、前記第2金属部材の少なくとも一部を粗面化処理する粗面化工程と、前記第1金属部材および前記第2金属部材が接着される部分において、前記粗面化処理により形成された粗面の少なくとも一部に、熱硬化性接着剤を塗布する塗布工程と、前記第1金属部材、前記熱硬化性接着剤および前記第2金属部材を積層し、前記第1金属部材および/または前記第2金属部材をスポット溶接機により通電させることによって、前記第1金属部材および/または前記第2金属部材を加熱し、前記第1金属部材および前記第2金属部材の間で前記熱硬化性接着剤を熱硬化させる加熱工程とを備える、金属接着体の製造方法を、含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属接着体の製造方法では、第1金属部材および/または第2金属部材が、粗面化処理され、熱硬化性接着剤が、粗面化処理により形成された粗面の少なくとも一部に塗布される。そして、第1金属部材、熱硬化性接着剤および第2金属部材が積層され、第1金属部材および/または第2金属部材がスポット溶接機により通電され、第1金属部材および第2金属部材の間で熱硬化性接着剤が熱硬化する。
【0012】
このような金属接着体の製造方法では、第1金属部材および/または第2金属部材が粗面化処理されるため、熱硬化性接着剤が粗面の凹部(溝)内に入り込む。そのため、上記の金属接着体の製造方法では、第1金属部材および/または第2金属部材が粗面化処理されない場合に比べて、第1金属部材および/または第2金属部材と、熱硬化性接着剤との接触面積が、大きくなる。その結果、上記の金属接着体の製造方法は、優れた加熱効率を有する。
【0013】
また、このような金属接着体の製造方法では、第1金属部材および/または第2金属部材が粗面化処理されるため、熱硬化性接着剤が粗面の凹部(溝)内に入り込む。そのため、第1金属部材および/または第2金属部材が粗面化処理されない場合に比べて、熱硬化性接着剤の接着強度が、アンカー効果によって、向上する。その結果、上記の金属接着体の製造方法によれば、優れた接着強度を有する金属接着体が製造される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1A図1Dは、本発明の金属接着体の製造方法の一実施形態を示す概略図であり、図1Aは、準備工程を示し、図1Bは、粗面化工程を示し、図1Cは、塗布工程を示し、図1Dは、加熱工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.金属接着体の製造方法
図1図1A図1D)において、金属接着体1は、第1金属部材2と第2金属部材3とが、接着剤層4により接着されることによって、形成されている。以下、金属接着体1の製造方法を、図1A図1Dを参照して、詳述する。
【0016】
なお、図1A図1Dは、第1金属部材2と第2金属部材3との接着部分の断面図を示している。また、図1A図1Dにおいて、紙面上側が、厚み方向一方側である。また、図1A図1Dにおいて、紙面下側が、厚み方向他方側である。
【0017】
(1)準備工程
より具体的には、この方法では、まず、図1Aが参照されるように、第1金属部材2と第2金属部材3とを準備する(準備工程)。
【0018】
第1金属部材2は、金属材料を含む部材である。好ましくは、第1金属部材2は、金属材料からなる部材である。金属材料としては、特に制限されないが、例えば、非合金および合金が挙げられる。非合金としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルトおよびチタンが挙げられる。合金としては、例えば、鉄系合金、銅系合金、アルミニウム系合金、ニッケル系合金、コバルト系合金およびチタン系合金が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上できる。金属材料として、好ましくは、非合金および合金が挙げられ、より好ましくは、鉄、鉄系合金、アルミニウム、およびアルミニウム系合金が挙げられ、さらに好ましくは、鉄系合金およびアルミニウム系合金が挙げられ、とりわけ好ましくは、アルミニウム合金が挙げられる。
【0019】
鉄系合金としては、例えば、鋼が挙げられる。鋼としては、例えば、ステンレス鋼および炭素鋼が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。
【0020】
アルミニウム系合金としては、例えば、アルミニウム-銅合金(Al-Cu合金)、アルミニウム-マンガン合金(Al-Mn合金)、アルミニウム-ケイ素合金(Al-Si合金)、アルミニウム-マグネシウム合金(Al-Mg合金)、アルミニウム-ジルコニウム合金(Al-Zr合金)、アルミニウム-マグネシウム-ケイ素合金(Al-Mg-Si合金)、アルミニウム-亜鉛-マグネシウム合金(Al-Zn-Mg合金)、アルミニウム-亜鉛-マグネシウム-銅合金(Al-Zn-Mg-Cu合金)、および、アルミニウム-鉄-ジルコニウム合金(Al-Fe-Zr合金)が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。
【0021】
第1金属部材2として、好ましくは、鉄系合金(鋼)からなる部材、および、アルミニウム系合金からなる部材が挙げられ、より好ましくは、アルミニウム系合金からなる部材が挙げられる。
【0022】
第1金属部材2の形状は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。第1金属部材2の形状としては、例えば、板状、シート状、錐状、角柱状、円柱状、球状、塊状および管状が挙げられ、好ましくは、板状が挙げられる。
【0023】
第1金属部材2のサイズは、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0024】
第2金属部材3は、金属材料を含む部材である。好ましくは、第2金属部材3は、金属材料からなる部材である。金属材料としては、例えば、上記の非合金、および、上記の合金が挙げられる。金属材料として、好ましくは、非合金および合金が挙げられ、より好ましくは、鉄、鉄系合金、アルミニウム、およびアルミニウム系合金が挙げられ、さらに好ましくは、鉄系合金およびアルミニウム系合金が挙げられ、とりわけ好ましくは、アルミニウム合金が挙げられる。
【0025】
第2金属部材3として、好ましくは、第1金属部材2とは異なる金属材料からなる部材が挙げられる。すなわち、第1金属部材2とおよび2金属部材3は、好ましくは、互いに異種の金属材料からなる部材である。
【0026】
第2金属部材3として、より好ましくは、鉄系合金(鋼)からなる部材、および、アルミニウム系合金からなる部材が挙げられ、さらに好ましくは、鉄系合金(鋼)からなる部材が挙げられる。
【0027】
とりわけ好ましくは、第1金属部材2がアルミニウム系合金からなる部材であり、かつ、第2金属部材が、鉄系合金(鋼)からなる部材である。
【0028】
第2金属部材3の形状は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。第2金属部材3の形状としては、例えば、板状、シート状、錐状、角柱状、円柱状、球状、塊状および管状が挙げられ、好ましくは、板状が挙げられる。
【0029】
第2金属部材3のサイズは、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0030】
また、好ましくは、第2金属部材3の厚みは、第1金属部材2の厚みよりも、薄い。なお、第1金属部材2の厚みと第2金属部材3の厚みとの差は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0031】
なお、第1金属部材2の厚み、および、第2金属部材3の厚みは、公知の方法によって測定される。また、第1金属部材2の厚み、および、第2金属部材3の厚みは、後述する粗面を除く部分の厚みである。
【0032】
(2)粗面化工程
次いで、この方法では、図1Bが参照されるように、第1金属部材2および第2金属部材3が接着される部分において、第1金属部材の少なくとも一部、および/または、第2金属部材の少なくとも一部を、粗面化処理する(粗面化工程)。
【0033】
より具体的には、例えば、第1金属部材2および第2金属部材3が接着される部分において、第1金属部材2の厚み方向一方側(紙面上側)の少なくとも一部を、粗面化処理する。
【0034】
また、例えば、第1金属部材2および第2金属部材3が接着される部分において、第2金属部材3の厚み方向他方側(紙面下側)の少なくとも一部を、粗面化処理する。
【0035】
好ましくは、例えば、第1金属部材2および第2金属部材3が接着される部分において、第1金属部材2の厚み方向一方側(紙面上側)の少なくとも一部と、第2金属部材3の厚み方向他方側(紙面下側)の少なくとも一部との両方を、粗面化処理する。
【0036】
粗面化処理する方法は、特に制限されない。粗面化処理としては、例えば、機械的処理、物理的処理、電気的処理および化学的処理が挙げられる。機械的処理としては、例えば、研磨(傷付け)処理が挙げられる。物理的処理としては、例えば、プラズマ処理およびレーザー処理が挙げられる。電気的処理としては、例えば、アルマイト処理が挙げられる。化学的処理としては、例えば、エッチング処理が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。粗面化処理として、好ましくは、機械的処理が挙げられ、より好ましくは、研磨(傷付け)処理が挙げられる。
【0037】
粗面化処理により、第1金属部材2の厚み方向一方側(紙面上側)の少なくとも一部、および/または、第2金属部材3の厚み方向他方側(紙面下側)の少なくとも一部に、粗面(凹凸面)が形成される。
【0038】
粗面(凹凸面)における凹部(溝)の深さは、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。粗面(凹凸面)における凹部(溝)の深さは、接着強度の観点から、例えば、0.01mm以上、好ましくは、0.1mm以上である。また、粗面(凹凸面)における凹部(溝)の深さは、接着強度の観点から、例えば、1.0mm以下、好ましくは、0.5mm以下である。
【0039】
また、粗面(凹凸面)における凹部(溝)の配置は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。例えば、凹部(溝)が、規則的(例えば、格子状)に配置されていてもよい。また、凹部(溝)が、不規則に配置されていてもよい。接着強度の観点から、凹部(溝)は、不規則に配置される。
【0040】
また、粗面(凹凸面)における凹部(溝)の形状は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。例えば、凹部(溝)が、断面視矩形状を有していてもよく、断面視半円形状を有していてもよく、断面視矢印形状を有していてもよい。接着強度の観点から、凹部(溝)の形状は、好ましくは、有している。
【0041】
第1金属部材2および/または第2金属部材3において、粗面(凹凸面)の位置は、例えば、後述するスポット溶接機により通電される位置に、対応する。つまり、後述するスポット溶接機により通電される部分において、第1金属部材2および/または第2金属部材3が、粗面化処理される。
【0042】
粗面化処理される部分の面積(被処理面積)は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。例えば、第1金属部材2および/または第2金属部材3において、粗面化処理される部分の面積(被処理面積)は、第1金属部材2および/または第2金属部材3に対してスポット溶接機(後述)の電極が接触する部分の面積(スポット面積)以上である。
【0043】
より具体的には、スポット溶接機における電極接触部の面積(スポット面積)に対する、粗面化処理される部分の面積(被処理面積)の比率(被処理面積/スポット面積)が、接着強度の観点から、例えば、1.0倍以上、好ましくは、1.1倍以上である。また、スポット溶接機における電極接触部の面積(スポット面積)に対する、粗面化処理される部分の面積(被処理面積)の比率(被処理面積/スポット面積)が、接着強度の観点から、例えば、2.0倍以下、好ましくは、1.5倍以下である。
【0044】
(3)塗布工程
次いで、この方法では、図1Cが参照されるように、第1金属部材2および第2金属部材3が接着される部分において、粗面化処理により形成された粗面の少なくとも一部に、熱硬化性接着剤5を塗布する(塗布工程)。
【0045】
熱硬化性接着剤5としては、例えば、熱硬化型フェノール樹脂接着剤、熱硬化型ウレタン樹脂接着剤、および、熱硬化型エポキシ樹脂接着剤が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。
【0046】
熱硬化性接着剤5は、導電性を有していてもよく、また、導電性を有していなくともよい。また、熱硬化性接着剤5は、必要に応じて、導電材を含有していてもよい。導電材としては、例えば、カーボン粒子、金属粒子および金属酸化物粒子が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。なお、導電材の含有割合は、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0047】
熱硬化性接着剤5は、上記の通り、粗面化処理により形成された粗面の少なくとも一部に塗布される。例えば、第1金属部材2および第2金属部材3が粗面を有する場合、熱硬化性接着剤5が、第1金属部材2の粗面にのみ塗布され、第2金属部材3の粗面に塗布されなくともよい。また、第1金属部材2および第2金属部材3が粗面を有する場合、熱硬化性接着剤5が、第2金属部材3の粗面にのみ塗布され、第1金属部材2の粗面に塗布されなくともよい。好ましくは、熱硬化性接着剤5が、第1金属部材2の粗面にのみ塗布され、第2金属部材3の粗面に塗布されない。
【0048】
また、熱硬化性接着剤5は、第1金属部材2および/または第2金属部材3の粗面の全部に塗布されていてもよく、また、第1金属部材2および/または第2金属部材3の粗面の任意の部分のみに塗布されていてもよい。接着強度の観点から、好ましくは、熱硬化性接着剤5は、第1金属部材2および/または第2金属部材3の粗面の全部に塗布される。
【0049】
また、熱硬化性接着剤5は、第1金属部材2および/または第2金属部材3の粗面にのみ塗布されていてもよく、また、第1金属部材2および/または第2金属部材3の粗面と、粗面以外の部分とに塗布されていてもよい。接着強度の観点から、好ましくは、熱硬化性接着剤5は、第1金属部材2および/または第2金属部材3の粗面と、粗面以外の部分とに塗布される。
【0050】
熱硬化性接着剤5を塗布する方法は、特に制限されない。例えば、刷毛塗り、バーコート法、ディップコート法、ロールコート法およびスプレー法が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。
【0051】
熱硬化性接着剤5の塗膜(未硬化塗膜)の厚みは、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。例えば、熱硬化性接着剤5の塗膜(未硬化塗膜)の厚みは、接着強度の観点から、例えば、0.1mm以上、好ましくは、0.5mm以上である。また、熱硬化性接着剤5の塗膜(未硬化塗膜)の厚みは、接着強度の観点から、例えば、3.0mm以下、好ましくは、5.0mm以下である。
【0052】
(4)加熱工程
次いで、この方法では、図1Dが参照されるように、第1金属部材2、熱硬化性接着剤5および第2金属部材3を積層し、第1金属部材2および第2金属部材3をスポット溶接機により通電させることによって、第1金属部材3および第2金属部材3を加熱し、第1金属部材2および第2金属部材3の間で熱硬化性接着剤を熱硬化させる(加熱工程)。
【0053】
より具体的には、この方法では、熱硬化性接着剤5の塗膜(未硬化塗膜)を介して、第1金属部材2および第2金属部材3を積層する。つまり、第1金属部材2、熱硬化性接着剤5および第2金属部材3を、この順で積層する。そして、これらの積層体を、積層方向に沿って押圧する(図1Dの仮想線矢印参照)。
【0054】
これにより、熱硬化性接着剤5と、第1金属部材2および/または第2金属部材3とを、接触(密着)させる。このとき、上記の第1金属部材2および/または第2金属部材3は、粗面化処理されている。そのため、上記の押圧によって、熱硬化性接着剤5は、第1金属部材2および/または第2金属部材3の粗面の凹部(溝)に侵入する。その結果、第1金属部材2および/または第2金属部材3が粗面化処理されない場合に比べて、第1金属部材2および/または第2金属部材3と、熱硬化性接着剤と5の接触面積が、大きくなる。
【0055】
そして、この方法では、第1金属部材2と熱硬化性接着剤5の塗膜(未硬化塗膜)と第2金属部材3との積層体を、厚み方向両側から、スポット溶接機の一対の電極10で挟み込む。より具体的には、第1金属部材2および/または第2金属部材3の粗面と、熱硬化性接着剤5の塗膜(未硬化塗膜)と、スポット溶接機の一対の電極10とが、厚み方向における投影面において重複するように、スポット溶接機の一対の電極10を、配置する(図1Dの仮想線参照)。
【0056】
そして、積層体の厚み方向両側から、スポット溶接機の電極10間に通電する。これにより、第1金属部材2および第2金属部材3を、スポット溶接機によって通電させる。
【0057】
より具体的には、熱硬化性接着剤5が導電性を有する場合には、熱硬化性接着剤5を介して、第1金属部材2および第2金属部材3を、スポット溶接機を使用して、通電させる。
【0058】
また、熱硬化性接着剤5が導電性を有しない場合には、上記の押圧により、第1金属部材2の少なくとも一部(例えば、粗面の凸部)と、第2金属部材3の少なくとも一部(例えば、粗面の凸部)とを、接触させる。そして、この方法では、第1金属部材2と第2金属部材3との接触部分を介して、第1金属部材2および第2金属部材3を、スポット溶接機を使用して、通電させる。
【0059】
スポット溶接機による通電条件は、特に制限されず、第1金属部材2の種類、第1金属部材2のサイズ(厚み)、熱硬化性接着剤5の種類、熱硬化性接着剤5の塗膜の厚み、第2金属部材3の種類、および、第2金属部材3のサイズ(厚み)に応じて、適宜設定される。
【0060】
そして、上記の通電によって、第1金属部材2および第2金属部材3が発熱する。つまり、第1金属部材2および第2金属部材3が、通電により加熱される。
【0061】
これにより、第1金属部材2および第2金属部材3の間で、熱硬化性接着剤5が、加熱される。その結果、第1金属部材2および第2金属部材3の間で、熱硬化性接着剤5が熱硬化し、接着剤層4が形成される。これにより、金属接着体1が、形成される。図1Dにおいて、金属接着体1は、第1金属部材2と、第1金属部材2の厚み方向一方側(紙面上側)に配置される接着剤層4と、接着剤層4の厚み方向一方側(紙面上側)に配置される第2金属部材3とを備える積層体である。
【0062】
(5)作用効果
上記の金属接着体1の製造方法では、第1金属部材2および/または第2金属部材3が、粗面化処理され、熱硬化性接着剤5が、粗面化処理により形成された粗面の少なくとも一部に塗布される。そして、第1金属部材2および/または第2金属部材3がスポット溶接機により通電され、熱硬化性接着剤5が熱硬化する。
【0063】
このような金属接着体1の製造方法では、第1金属部材2および/または第2金属部材3が粗面化処理されるため、熱硬化性接着剤5が粗面の凹部(溝)内に入り込む。そのため、上記の金属接着体1の製造方法では、第1金属部材2および/または第2金属部材3が粗面化処理されない場合に比べて、第1金属部材2および/または第2金属部材3と、熱硬化性接着剤5との接触面積が、大きくなる。その結果、上記の金属接着体1の製造方法は、優れた加熱効率を有する。
【0064】
また、このような金属接着体1の製造方法では、第1金属部材2および/または第2金属部材3が粗面化処理されるため、熱硬化性接着剤5が粗面の凹部(溝)内に入り込む。そのため、第1金属部材2および/または第2金属部材3が粗面化処理されない場合に比べて、熱硬化性接着剤5の接着強度が、アンカー効果によって、向上する。その結果、上記の金属接着体1の製造方法によれば、優れた接着強度を有する金属接着体1が製造される。
【0065】
(6)変形例
上記の説明では、第1金属部材2と熱硬化性接着剤5の塗膜(未硬化塗膜)と第2金属部材3との積層体を、厚み方向両側に、スポット溶接機の一対の電極10で挟み込んでいる。そして、上記の説明では、積層体の厚み方向両側から、電極10間を通電させることにより、第1金属部材2および第2金属部材3を発熱させ、熱硬化性接着剤5を加熱している。
【0066】
しかし、スポット溶接機による通電方法は、上記に限定されない。例えば、上記積層体の厚み方向一方側(紙面上側、つまり、第2金属部材3側)にのみ、一対の電極10の両方を配置してもよい。このような場合、電極10に接触する第2金属部材3のみが、スポット溶接機によって通電し、発熱する。つまり、第2金属部材3が、スポット溶接機により加熱される。このような方法でも、熱硬化性接着剤5を加熱し、熱硬化させることができる。
【0067】
また、例えば、上記積層体の厚み方向他方側(紙面下側、つまり、第1金属部材2側)にのみ、一対の電極10の両方を配置してもよい。このような場合、電極10に接触する第1金属部材2のみが、スポット溶接機によって通電し、発熱する。つまり、第1金属部材3が、スポット溶接機により加熱される。このような方法でも、熱硬化性接着剤5を加熱し、熱硬化させることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 金属接着体
2 第1金属部材
3 第2金属部材
4 接着剤層
5 熱硬化性接着剤
図1