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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012224
(43)【公開日】2024-01-26
(54)【発明の名称】クラッチ装置および自動二輪車
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20240118BHJP
   F16D 13/56 20060101ALI20240118BHJP
   F16D 43/24 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
F16D13/52 C
F16D13/56
F16D43/24
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023066658
(22)【出願日】2023-04-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022114262
(32)【優先日】2022-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑樹
【テーマコード(参考)】
3J056
3J068
【Fターム(参考)】
3J056AA33
3J056AA38
3J056AA60
3J056AA62
3J056BA04
3J056BB21
3J056BB50
3J056BC02
3J056BC03
3J056BE21
3J056CA05
3J056CA07
3J056CA12
3J056CC13
3J056CC32
3J056CC39
3J056GA02
3J056GA13
3J068AA07
3J068BA02
3J068BB06
3J068CB03
3J068EE17
3J068GA02
3J068GA05
(57)【要約】
【課題】プレッシャプレートにおいて円環部の剛性を確保しつつ、クラッチオイルを内部に効果的に導くこと。
【解決手段】クラッチ装置210は、入力側回転板20および出力側回転板22を押圧可能なプレッシャプレート270を備え、プレッシャプレート270は、円環部280と、円環部280の径方向外側に位置するベース壁273と、ベース壁273よりも径方向外側に位置しかつ方向Dに延びる外周壁275と、ベース壁273を方向Dに貫通して形成されたプレッシャ側カム孔273Hと、ベース壁273の第2の方向D2側の面273D2から第2の方向D2に延びかつ円環部280に接続された複数のリブ244と、を有し、複数のリブ244と外周壁275とは、径方向に関して離隔して配置されている。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備え、
前記プレッシャプレートは、
環状の円環部と、
前記円環部の径方向外側に位置するベース壁と、
前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに対して接近および離隔する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、前記ベース壁よりも径方向外側に位置しかつ前記移動方向に延びる環状の外周壁と、
前記ベース壁を前記移動方向に貫通して形成された貫通孔と、
前記ベース壁の前記第2の方向側の面から前記第2の方向に延びかつ前記円環部に接続された複数のリブと、を有し、
複数の前記リブと前記外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている、クラッチ装置。
【請求項2】
前記プレッシャプレートは、前記ベース壁の前記第1の方向側の面から前記第1の方向に突出するように形成され、かつ、前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有する複数のプレッシャ側カム部を備えている、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記プレッシャ側カム部は、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を減少させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタから離隔させるプレッシャ側スリッパーカム面を有する、請求項2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
周方向に関して一方の前記プレッシャ側カム部から他方の前記プレッシャ側カム部に向かう方向を第1の周方向、他方の前記プレッシャ側カム部から一方の前記プレッシャ側カム部に向かう方向を第2の周方向としたとき、前記プレッシャプレートは、1つの前記プレッシャ側カム部の前記プレッシャ側スリッパーカム面から前記プレッシャ側アシストカム面に向かう方向である前記第1の周方向に回転するように構成され、
前記ベース壁のうち前記貫通孔を区画する区画面と、前記リブとは面一に形成されている、請求項3に記載のクラッチ装置。
【請求項5】
前記プレッシャプレートは、
前記外周壁を貫通するように形成され、かつ、前記出力軸から流出したクラッチオイルを前記プレッシャプレートの外部に排出するオイル排出孔を備え、
前記オイル排出孔は、前記貫通孔の径方向外側に位置する、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記リブの径方向の長さは、前記リブと前記外周壁との間隔よりも長い、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項7】
前記リブは、前記第2の方向に行くほど径方向内側に向かうように傾斜している、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか一項に記載のクラッチ装置を備えた自動二輪車。
【請求項9】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備え、
前記プレッシャプレートは、
環状の円環部と、
前記円環部の径方向外側に位置するベース壁と、
前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに対して接近および離隔する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、前記ベース壁の前記第1の方向側の面から前記第1の方向に突出するように形成され、かつ、前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有する複数のプレッシャ側カム部と、
前記ベース壁よりも径方向外側に位置しかつ前記移動方向に延びる環状の外周壁と、
隣り合う前記プレッシャ側カム部の間に位置するように前記ベース壁を前記移動方向に貫通して形成された貫通孔と、
前記ベース壁の前記第2の方向側の面から前記第2の方向に延びかつ前記円環部に接続された複数のリブと、を有し、
複数の前記リブと前記外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている、クラッチ装置。
【請求項10】
前記プレッシャ側カム部は、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を減少させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタから離隔させるプレッシャ側スリッパーカム面を有する、請求項9に記載のクラッチ装置。
【請求項11】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備え、
前記プレッシャプレートは、
環状の円環部と、
前記円環部の径方向外側に位置するベース壁と、
前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに対して接近および離隔する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、前記ベース壁の前記第1の方向側の面から前記第1の方向に突出するように形成され、かつ、前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を減少させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタから離隔させるプレッシャ側スリッパーカム面を有する複数のプレッシャ側カム部と、
前記ベース壁よりも径方向外側に位置しかつ前記移動方向に延びる環状の外周壁と、
隣り合う前記プレッシャ側カム部の間に位置するように前記ベース壁を前記移動方向に貫通して形成された貫通孔と、
前記ベース壁の前記第2の方向側の面から前記第2の方向に延びかつ前記円環部に接続された複数のリブと、を有し、
複数の前記リブと前記外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている、クラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置および自動二輪車に関する。より詳細には、エンジン等の原動機によって回転駆動する入力軸の回転駆動力を任意に出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置およびそれを備えた自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車等の車両はクラッチ装置を備えている。クラッチ装置は、エンジンと駆動輪との間に配置され、エンジンの回転駆動力を駆動輪に伝達または遮断する。クラッチ装置は、通常、エンジンの回転駆動力によって回転する複数の入力側回転板と、駆動輪に回転駆動力を伝達する出力軸に接続された複数の出力側回転板と、を備えている。入力側回転板と出力側回転板とは積層方向に交互に配置され、入力側回転板と出力側回転板とを圧接および離隔させることにより回転駆動力の伝達または遮断が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1および特許文献2には、クラッチセンタと、クラッチセンタに対して接近および離隔可能に設けられたプレッシャプレートと、を備えたクラッチ装置が開示されている。プレッシャプレートは、入力側回転板および出力側回転板を押圧可能に構成されている。このように、クラッチ装置では、クラッチセンタとプレッシャプレートとが組み付けられて用いられている。
【0004】
また、特許文献1および特許文献2のクラッチ装置のクラッチセンタおよびプレッシャプレートは、エンジンの回転駆動力が出力軸に伝達され得る状態にったときにプレッシャプレートをクラッチセンタに接近させる方向の力を発生させて入力側回転板と出力側回転との押圧力を増加させるアシストカム面と、クラッチセンタの回転数がプレッシャプレートの回転数を上回ったときにプレッシャプレートをクラッチセンタから離隔させて入力側回転板と出力側回転との押圧力を低減させるスリッパーカム面と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6894792号公報
【特許文献2】国際公開第2018/172176号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2のプレッシャプレートはその中心部分に環状の円環部を有している。円環部にはクラッチの接続時等に曲げ応力が加わり得るため高い曲げ剛性が必要である。また、プレッシャプレートには、クラッチオイルをプレッシャプレートの外部から内部に導くことが可能な貫通孔が形成されており、クラッチオイルを効果的にプレッシャプレートの内部に導くことが望まれている。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、プレッシャプレートの円環部の剛性を確保しつつ、クラッチオイルを内部に効果的に導くことができるプレッシャプレートを備えたクラッチ装置およびそれを備えた自動二輪車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、円環部の剛性を確保するために、円環部に接続された複数のリブを設けることに思いたった。ところが、円環部に接続されたリブを環状の外周壁まで延ばしてしまうと、リブによってクラッチオイルの流れが阻害されてしまい、貫通孔を介してクラッチオイルをプレッシャプレートの内部に導くことが困難であることに気が付いた。そこで、クラッチオイルの流れをスムーズにするために、リブと外周壁との間に隙間を設けることを見出した。
【0009】
本発明に係るクラッチ装置は、入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備え、前記プレッシャプレートは、環状の円環部と、前記円環部の径方向外側に位置するベース壁と、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに対して接近および離隔する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、前記ベース壁よりも径方向外側に位置しかつ前記移動方向に延びる環状の外周壁と、前記ベース壁を前記移動方向に貫通して形成された貫通孔と、前記ベース壁の前記第2の方向側の面から前記第2の方向に延びかつ前記円環部に接続された複数のリブと、を有し、複数の前記リブと前記外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている。
【0010】
本発明に係るクラッチ装置によると、プレッシャプレートは、ベース壁の第2の方向側の面から第2の方向に延びかつ円環部に接続された複数のリブを有している。これにより、円環部の剛性が高まり、曲げ剛性を確保することができる。また、複数のリブと外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている。このため、プレッシャプレートが回転したときの遠心力によって外周壁側に移動したクラッチオイルは、リブによって阻害されることなく、ベース壁の第2の方向側の面の表面をスムーズに移動することができる。そして、ベース壁に形成された貫通孔を介してクラッチオイルをプレッシャプレートの内部へと導くことができる。
【0011】
本発明の係る他のクラッチ装置は、入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備え、前記プレッシャプレートは、環状の円環部と、前記円環部の径方向外側に位置するベース壁と、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに対して接近および離隔する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、前記ベース壁の前記第1の方向側の面から前記第1の方向に突出するように形成され、かつ、前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有する複数のプレッシャ側カム部と、前記ベース壁よりも径方向外側に位置しかつ前記移動方向に延びる環状の外周壁と、隣り合う前記プレッシャ側カム部の間に位置するように前記ベース壁を前記移動方向に貫通して形成された貫通孔と、前記ベース壁の前記第2の方向側の面から前記第2の方向に延びかつ前記円環部に接続された複数のリブと、を有し、複数の前記リブと前記外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている。
【0012】
本発明に係る他のクラッチ装置によると、プレッシャプレートは、ベース壁の第2の方向側の面から第2の方向に延びかつ円環部に接続された複数のリブを有している。これにより、円環部の剛性が高まり、曲げ剛性を確保することができる。また、複数のリブと外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている。このため、プレッシャプレートが回転したときの遠心力によって外周壁側に移動したクラッチオイルは、リブによって阻害されることなく、ベース壁の第2の方向側の面の表面をスムーズに移動することができる。そして、ベース壁に形成された貫通孔を介してクラッチオイルをプレッシャプレートの内部へと導くことができる。
【0013】
本発明の係る他のクラッチ装置は、入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、を備え、前記プレッシャプレートは、環状の円環部と、前記円環部の径方向外側に位置するベース壁と、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに対して接近および離隔する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、前記ベース壁の前記第1の方向側の面から前記第1の方向に突出するように形成され、かつ、前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を減少させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタから離隔させるプレッシャ側スリッパーカム面を有する複数のプレッシャ側カム部と、前記ベース壁よりも径方向外側に位置しかつ前記移動方向に延びる環状の外周壁と、隣り合う前記プレッシャ側カム部の間に位置するように前記ベース壁を前記移動方向に貫通して形成された貫通孔と、前記ベース壁の前記第2の方向側の面から前記第2の方向に延びかつ前記円環部に接続された複数のリブと、を有し、複数の前記リブと前記外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている。
【0014】
本発明に係る他のクラッチ装置によると、プレッシャプレートは、ベース壁の第2の方向側の面から第2の方向に延びかつ円環部に接続された複数のリブを有している。これにより、円環部の剛性が高まり、曲げ剛性を確保することができる。また、複数のリブと外周壁とは、径方向に関して離隔して配置されている。このため、プレッシャプレートが回転したときの遠心力によって外周壁側に移動したクラッチオイルは、リブによって阻害されることなく、ベース壁の第2の方向側の面の表面をスムーズに移動することができる。そして、ベース壁に形成された貫通孔を介してクラッチオイルをプレッシャプレートの内部へと導くことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プレッシャプレートの円環部の剛性を確保しつつ、クラッチオイルを内部に効果的に導くことができるプレッシャプレートを備えたクラッチ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態に係るクラッチ装置の断面図である。
図2図2は、一実施形態に係るクラッチセンタの斜視図である。
図3図3は、一実施形態に係るクラッチセンタの平面図である。
図4図4は、一実施形態に係るクラッチセンタの斜視図である。
図5図5は、一実施形態に係るクラッチセンタの平面図である。
図6図6は、一実施形態に係るプレッシャプレートの斜視図である。
図7図7は、一実施形態に係るプレッシャプレートの平面図である。
図8図8は、一実施形態に係るプレッシャプレートの斜視図である。
図9図9は、一実施形態に係るプレッシャプレートの平面図である。
図10図10は、一実施形態に係るクラッチセンタとプレッシャプレートとが組み合わされた状態を示す平面図である。
図11A図11Aは、センタ側アシストカム面およびプレッシャ側アシストカム面の作用について説明する模式図である。
図11B図11Bは、センタ側スリッパーカム面およびプレッシャ側スリッパーカム面の作用について説明する模式図である。
図12図12は、他の一実施形態に係るクラッチセンタおよびプレッシャプレートの分解斜視図である。
図13図13は、他の一実施形態に係るプレッシャプレートの斜視図である。
図14図14は、他の一実施形態に係るプレッシャプレートの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るクラッチ装置の実施形態について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係るクラッチ装置10の断面図である。クラッチ装置10は、例えば、自動二輪車等の車両に設けられている。クラッチ装置10は、例えば、自動二輪車のエンジンの入力軸(クランクシャフト)の回転駆動力を出力軸15に伝達または遮断する装置である。クラッチ装置10は、出力軸15を介して入力軸の回転駆動力を駆動輪(後輪)に伝達または遮断するための装置である。クラッチ装置10は、エンジンと変速機との間に配置される。
【0019】
以下の説明では、クラッチ装置10のプレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して接近および離隔する方向を方向D(移動方向の一例である)とし、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に接近する方向を第1の方向D1、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から離隔する方向を第2の方向D2とする。また、クラッチセンタ40およびプレッシャプレート70の周方向を周方向Sとし、周方向Sに関して一方のプレッシャ側カム部90から他方のプレッシャ側カム部90に向かう方向(一方のセンタ側カム部60から他方のセンタ側カム部60に向かう方向)を第1の周方向S1(図7参照)、他方のプレッシャ側カム部90から一方のプレッシャ側カム部90に向かう方向(他方のセンタ側カム部60から一方のセンタ側カム部60に向かう方向)を第2の周方向S2(図7参照)とする。本実施形態では、出力軸15の軸線方向、クラッチハウジング30の軸線方向、クラッチセンタ40の軸線方向およびプレッシャプレート70の軸線方向は、方向Dと同じ方向である。また、プレッシャプレート70およびクラッチセンタ40は、第1の周方向S1(即ち1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aからセンタ側スリッパーカム面60Sに向かう方向)に回転する。ただし、上記方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、クラッチ装置10の設置態様を何ら限定するものではなく、本発明を何ら限定するものでもない。
【0020】
図1に示すように、クラッチ装置10は、出力軸15と、入力側回転板20と、出力側回転板22と、クラッチハウジング30と、クラッチセンタ40と、プレッシャプレート70と、ストッパプレート100と、を備えている。
【0021】
図1に示すように、出力軸15は、中空状に形成された軸体である。出力軸15の一方側の端部は、ニードルベアリング15Aを介して後述する入力ギア35およびクラッチハウジング30を回転自在に支持する。出力軸15は、ナット15Bを介してクラッチセンタ40を固定的に支持する。即ち、出力軸15は、クラッチセンタ40と一体的に回転する。出力軸15の他方側の端部は、例えば、自動車二輪車の変速機(図示せず)に連結されている。
【0022】
図1に示すように、出力軸15は、その中空部15Hにプッシュロッド16Aと、プッシュロッド16Aに隣接して設けられたプッシュ部材16Bと、を備えている。中空部15Hは、クラッチオイルの流通路としての機能を有する。クラッチオイルは、出力軸15内、即ち中空部15H内を流動する。プッシュロッド16Aおよびプッシュ部材16Bは、出力軸15の中空部15H内を摺動可能に設けられている。プッシュロッド16Aは、一方の端部(図示左側の端部)が自動二輪車のクラッチ操作レバー(図示せず)に連結されており、クラッチ操作レバーの操作によって中空部15H内を摺動してプッシュ部材16Bを第2の方向D2に押圧する。プッシュ部材16Bの一部は出力軸15の外方(ここでは第2の方向D2)に突出しており、プレッシャプレート70に設けられたレリーズベアリング18に連結している。プッシュロッド16Aおよびプッシュ部材16Bは、中空部15Hの内径よりも細く形成されており、中空部15H内においてクラッチオイルの流通性が確保されている。
【0023】
クラッチハウジング30は、アルミニウム合金から形成されている。クラッチハウジング30は、有底円筒状に形成されている。図1に示すように、クラッチハウジング30は、略円形状に形成された底壁31と、底壁31の縁部から第2の方向D2に延びる側壁33と、を有する。クラッチハウジング30は、複数の入力側回転板20を保持する。
【0024】
図1に示すように、クラッチハウジング30の底壁31には、入力ギア35が設けられている。入力ギア35は、トルクダンパ35Aを介してリベット35Bによって底壁31に固定されている。入力ギア35は、エンジンの入力軸の回転駆動によって回転する駆動ギア(図示せず)と噛み合っている。入力ギア35は、出力軸15から独立してクラッチハウジング30と一体的に回転駆動する。
【0025】
入力側回転板20は、入力軸の回転駆動によって回転駆動する。図1に示すように、入力側回転板20は、クラッチハウジング30の側壁33の内周面に保持されている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30にスプライン嵌合によって保持されている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30の軸線方向に沿って変位可能に設けられている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30と一体的に回転可能に設けられている。
【0026】
入力側回転板20は、出力側回転板22に押し当てられる部材である。入力側回転板20は、環状に形成された平板である。入力側回転板20は、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板を環状に打ち抜いて成形されている。入力側回転板20の表面および裏面には、複数の紙片からなる摩擦材(図示せず)が貼り付けられている。摩擦材の間にはクラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの溝が形成されている。
【0027】
図1に示すように、クラッチセンタ40は、クラッチハウジング30に収容されている。クラッチセンタ40は、クラッチハウジング30と同心に配置されている。クラッチセンタ40は、円筒状の本体42と、本体42の外周縁から径方向外側に延びるフランジ68とを有する。クラッチセンタ40は、入力側回転板20と方向Dに交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。クラッチセンタ40は、出力軸15と共に回転駆動する。
【0028】
図2に示すように、本体42は、出力軸保持部50と、出力軸保持部50の径方向外側に位置する環状のベース壁43と、ベース壁43よりも径方向外側に位置しかつ方向Dに延びる外周壁45と、ベース壁43および外周壁45に接続された複数のセンタ側カム部60と、センタ側嵌合部58と、を備えている。
【0029】
出力軸保持部50は、円筒状に形成されている。出力軸保持部50には、出力軸15が挿入されてスプライン嵌合する挿入孔51が形成されている。挿入孔51は、ベース壁43を貫通して形成されている。出力軸保持部50のうち挿入孔51を形成する内周面50Aには、軸線方向に沿って複数のスプライン溝が形成されている。出力軸保持部50には、出力軸15が連結されている。
【0030】
図2に示すように、クラッチセンタ40の外周壁45は、出力軸保持部50よりも径方向外側に配置されている。外周壁45は、センタ側カム部60よりも径方向外側に位置する。外周壁45は、環状に形成されている。外周壁45の方向Dの中途部にベース壁43が位置する。即ち、外周壁45は、ベース壁43に対して第1の方向D1側に位置する部分と第2の方向D2側に位置する部分とを有する。外周壁45の外周面には、スプライン嵌合部46が設けられている。スプライン嵌合部46は、外周壁45の外周面に沿ってクラッチセンタ40の軸線方向に延びる複数のセンタ側嵌合歯47と、隣り合うセンタ側嵌合歯47の間に形成されかつクラッチセンタ40の軸線方向に延びる複数のスプライン溝48と、オイル排出孔49とを有する。センタ側嵌合歯47は、出力側回転板22を保持する。複数のセンタ側嵌合歯47は、周方向Sに並ぶ。複数のセンタ側嵌合歯47は、周方向Sに等間隔に形成されている。複数のセンタ側嵌合歯47は、同じ形状に形成されている。センタ側嵌合歯47は、外周壁45の外周面から径方向外側に突出する。オイル排出孔49は、外周壁45を径方向に貫通して形成されている。オイル排出孔49は、隣り合うセンタ側嵌合歯47の間に形成されている。即ち、オイル排出孔49は、スプライン溝48に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側カム部60の側方に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側カム部60のセンタ側スリッパーカム面60Sの側方に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側スリッパーカム面60Sよりも第2の周方向S2側に形成されている。オイル排出孔49は、後述するボス部54よりも第1の周方向S1側に形成されている。オイル排出孔49は、後述するセンタ側カム孔43Hの径方向外側に位置する。本実施形態では、オイル排出孔49は、外周壁45の周方向Sの3か所に4つずつ形成されている。オイル排出孔49は、周方向Sに等間隔に配置されている。オイル排出孔49は、クラッチセンタ40の内部と外部とを連通する。オイル排出孔49は、出力軸15からクラッチセンタ40内に流出したクラッチオイルやセンタ側カム孔43Hを介してクラッチセンタ40の外部から内部に導かれたクラッチオイルを、クラッチセンタ40の外部に排出する孔である。オイル排出孔49から排出されたクラッチオイルは、オイル排出孔49の径方向外側に位置する入力側回転板20および出力側回転板22に供給される。
【0031】
出力側回転板22は、クラッチセンタ40のスプライン嵌合部46およびプレッシャプレート70に保持されている。出力側回転板22の一部は、クラッチセンタ40のセンタ側嵌合歯47およびスプライン溝48にスプライン嵌合によって保持されている。出力側回転板22の他の一部は、プレッシャプレート70の後述するプレッシャ側嵌合歯77(図6参照)に保持されている。出力側回転板22は、クラッチセンタ40の軸線方向に沿って変位可能に設けられている。出力側回転板22は、クラッチセンタ40と一体的に回転可能に設けられている。
【0032】
出力側回転板22は、入力側回転板20に押し当てられる部材である。出力側回転板22は、環状に形成された平板である。出力側回転板22は、SPCC材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。出力側回転板22の表面および裏面には、クラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの溝が形成されている。出力側回転板22の表面および裏面には、耐摩耗性を向上させるために表面硬化処理がそれぞれ施されている。なお、入力側回転板20に設けられた摩擦材は、入力側回転板20に代えて出力側回転板22に設けられていてもよいし、入力側回転板20および出力側回転板22のそれぞれに設けてもよい。
【0033】
センタ側カム部60は、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させる力であるアシストトルクまたは入力側回転板20と出力側回転板22とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させる力であるスリッパートルクを生じさせるアシスト&スリッパー(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状に形成されている。図2に示すように、センタ側カム部60は、ベース壁43の第2の方向D2側の面43D2から第2の方向D2に突出するように形成されている。図3に示すように、センタ側カム部60は、クラッチセンタ40の周方向Sに等間隔に配置されている。本実施形態では、クラッチセンタ40は、3つのセンタ側カム部60を有しているが、センタ側カム部60の数は3に限定されない。
【0034】
図3に示すように、センタ側カム部60は、出力軸保持部50の径方向外側に位置する。センタ側カム部60は、センタ側アシストカム面60Aと、センタ側スリッパーカム面60Sとを有する。センタ側アシストカム面60Aは、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるように構成されている。本実施形態では、上記力が発生するときにはクラッチセンタ40に対するプレッシャプレート70の位置は変化せず、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して物理的に接近する必要はない。なお、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して物理的に変位してもよい。センタ側スリッパーカム面60Sは、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるように構成されている。周方向Sに関して隣り合うセンタ側カム部60において、一方のセンタ側カム部60Lのセンタ側アシストカム面60Aと他方のセンタ側カム部60Mのセンタ側スリッパーカム面60Sとは周方向Sに対向して配置されている。
【0035】
図2に示すように、クラッチセンタ40は、複数(本実施形態では3つ)のボス部54を備えている。ボス部54は、プレッシャプレート70を支持する部材である。複数のボス部54は、周方向Sに等間隔に配置されている。ボス部54は、円筒状に形成されている。ボス部54は、出力軸保持部50より径方向外側に位置する。ボス部54は、プレッシャプレート70に向けて(即ち第2の方向D2に向けて)延びる。ボス部54は、ベース壁43に設けられている。ボス部54には、ボルト28(図1参照)が挿入されるねじ穴54Hが形成されている。ねじ穴54Hは、クラッチセンタ40の軸線方向に延びる。
【0036】
図2に示すように、センタ側嵌合部58は、出力軸保持部50より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部58は、センタ側カム部60より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部58は、センタ側カム部60よりも第2の方向D2側に位置する。センタ側嵌合部58は、外周壁45の内周面に形成されている。センタ側嵌合部58は、後述するプレッシャ側嵌合部88(図6参照)に摺動可能に外嵌するように構成されている。センタ側嵌合部58の内径は、プレッシャ側嵌合部88に対して出力軸15の先端部15Tから流出するクラッチオイルの流通を許容する嵌め合い公差を有して形成されている。即ち、センタ側嵌合部58と後述するプレッシャ側嵌合部88との間には隙間が形成されている。本実施形態では、例えば、センタ側嵌合部58は、プレッシャ側嵌合部88の外径に対して0.1mmだけ大きな内径に形成されている。このセンタ側嵌合部58の内径とプレッシャ側嵌合部88の外径との寸法公差は、流通させたいクラッチオイル量に応じて適宜設定されるが、例えば、0.1mm以上かつ0.5mm以下である。
【0037】
図2および図3に示すように、クラッチセンタ40は、ベース壁43の一部を貫通するセンタ側カム孔43Hを有する。センタ側カム孔43Hは、貫通孔の一例である。センタ側カム孔43Hは、ベース壁43を方向Dに貫通する。センタ側カム孔43Hは、出力軸保持部50の側方から外周壁45まで延びる。センタ側カム孔43Hは、隣り合うセンタ側カム部60の間に位置する。センタ側カム孔43Hは、センタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aとボス部54との間に形成されている。クラッチセンタ40の軸線方向から見て、センタ側アシストカム面60Aとセンタ側カム孔43Hの一部とは重なる。センタ側カム孔43Hは、クラッチセンタ40の内部と外部とを連通する。センタ側カム孔43Hは、出力軸15から流出したクラッチオイルをクラッチセンタ40の内部に導くように構成されている。より詳細には、図1の矢印FSに示すように、出力軸15からクラッチセンタ40に向けて流出したクラッチオイルは、センタ側カム孔43Hを介してクラッチセンタ40の内部に流れ込む。センタ側カム孔43Hは、オイル排出孔49と連通している。
【0038】
図4および図5に示すように、クラッチセンタ40は、ベース壁43の第1の方向D1側の面43D1から第1の方向D1に延びる複数のリブ44を備えている。リブ44は、出力軸保持部50に接続されている。リブ44は、第1の方向D1に行くほど径方向内側に向かうように傾斜している。複数のリブ44と外周壁45とは、径方向に関して離隔して配置されている。即ち、径方向に関してリブ44と外周壁45との間には隙間が形成されている。リブ44の径方向の長さL1は、リブ44と外周壁45との間隔L2よりも長い。図4に示すように、ベース壁43のうちセンタ側カム孔43Hを区画する区画面45Kと、リブ44とは面一に形成されている。即ち、区画面45Kとリブ44との境界には段差がなく、一体的に形成されている。ここで、区画面45Kは、径方向かつ方向Dに延びる面である。
【0039】
図1に示すように、プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40に対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられている。プレッシャプレート70は、入力側回転板20および出力側回転板22を押圧可能に構成されている。プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40およびクラッチハウジング30と同心に配置されている。プレッシャプレート70は、本体72と、本体72の第2の方向D2側の外周縁に接続しかつ径方向外側に延びるフランジ98とを有する。本体72は、フランジ98よりも第1の方向D1に突出している。フランジ98は、後述する筒状部80(図6参照)よりも径方向外側に位置する。プレッシャプレート70は、入力側回転板20と交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。フランジ98は、入力側回転板20および出力側回転板22を押圧可能に構成されている。
【0040】
図6に示すように、本体72は、筒状部80と、複数のプレッシャ側カム部90と、プレッシャ側嵌合部88と、スプリング収容部84(図8も参照)とを備えている。
【0041】
筒状部80は、円筒状に形成されている。筒状部80は、プレッシャ側カム部90と一体に形成されている。筒状部80は、出力軸15の先端部15T(図1参照)を収容する。筒状部80には、レリーズベアリング18(図1参照)が収容される。筒状部80は、プッシュ部材16Bからの押圧力を受ける部位である。筒状部80は、出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルを受け止める部位である。
【0042】
プレッシャ側カム部90は、センタ側カム部60に摺動してアシストトルクまたはスリッパートルクを発生させるアシスト&スリッパー(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状に形成されている。プレッシャ側カム部90は、フランジ98よりも第1の方向D1に突出するように形成されている。図7に示すように、プレッシャ側カム部90は、プレッシャプレート70の周方向Sに等間隔に配置されている。本実施形態では、プレッシャプレート70は、3つのプレッシャ側カム部90を有しているが、プレッシャ側カム部90の数は3に限定されない。
【0043】
図7に示すように、プレッシャ側カム部90は、筒状部80の径方向外側に位置する。プレッシャ側カム部90は、プレッシャ側アシストカム面90A(図9も参照)と、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとを有する。プレッシャ側アシストカム面90Aは、センタ側アシストカム面60Aと接触可能に構成されている。プレッシャ側アシストカム面90Aは、クラッチセンタ40に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるように構成されている。プレッシャ側スリッパーカム面90Sは、センタ側スリッパーカム面60Sと接触可能に構成されている。プレッシャ側スリッパーカム面90Sは、クラッチセンタ40に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるように構成されている。周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90において、一方のプレッシャ側カム部90Lのプレッシャ側アシストカム面90Aと他方のプレッシャ側カム部90Mのプレッシャ側スリッパーカム面90Sとは周方向Sに対向して配置されている。
【0044】
ここで、センタ側カム部60およびプレッシャ側カム部90の作用について説明する。エンジンの回転数が上がり、入力ギア35およびクラッチハウジング30に入力された回転駆動力がクラッチセンタ40介して出力軸15に伝達され得る状態となったときには、図11Aに示すように、プレッシャプレート70には第1の周方向S1の回転力が付与される。このため、センタ側アシストカム面60Aおよびプレッシャ側アシストカム面90Aの作用により、プレッシャプレート70には第1の方向D1への力が発生する。これにより、入力側回転板20と出力側回転板22との圧接力を増加させるようになっている。
【0045】
一方、出力軸15の回転数が入力ギア35およびクラッチハウジング30の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、図11Bに示すように、クラッチセンタ40には第1の周方向S1の回転力が付与される。このため、センタ側スリッパーカム面60Sおよびプレッシャ側スリッパーカム面90Sの作用により、プレッシャプレート70を第2の方向D2へ移動させて入力側回転板20と出力側回転板22との圧接力を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによるエンジンや変速機に対する不具合を回避することができる。
【0046】
図6に示すように、プレッシャ側嵌合部88は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合部88は、プレッシャ側カム部90よりも第2の方向D2側に位置する。プレッシャ側嵌合部88は、センタ側嵌合部58(図2参照)に摺動可能に内嵌するように構成されている。
【0047】
図6および図7に示すように、プレッシャプレート70は、本体72およびフランジ98の一部を貫通するプレッシャ側カム孔73Hを有する。プレッシャ側カム孔73Hは、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム孔73Hは、筒状部80の側方からプレッシャ側嵌合部88よりも径方向外側まで延びる。プレッシャ側カム孔73Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側スリッパーカム面90Sとの間に形成されている。図7および図9に示すように、プレッシャプレート70の軸線方向から見て、プレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側カム孔73Hの一部とは重なる。
【0048】
図6に示すように、プレッシャプレート70は、フランジ98に配置された複数のプレッシャ側嵌合歯77を備えている。プレッシャ側嵌合歯77は、出力側回転板22を保持する。プレッシャ側嵌合歯77は、フランジ98から第1の方向D1に向けて突出する。プレッシャ側嵌合歯77は、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77は、プレッシャ側嵌合部88より径方向外側に位置する。複数のプレッシャ側嵌合歯77は、周方向Sに並ぶ。複数のプレッシャ側嵌合歯77は、周方向Sに等間隔に配置されている。なお、本実施形態では、一部のプレッシャ側嵌合歯77が取り除かれているため、該部分の間隔は広がっているが、その他の隣り合うプレッシャ側嵌合歯77は等間隔に配置されている。
【0049】
図8および図9に示すように、スプリング収容部84は、プレッシャ側カム部90に形成されている。スプリング収容部84は、第2の方向D2から第1の方向D1に凹むように形成されている。スプリング収容部84は、楕円形状に形成されている。スプリング収容部84は、プレッシャスプリング25(図1参照)を収容する。スプリング収容部84には、ボス部54(図2参照)が挿入される挿入孔84Hが貫通形成されている。即ち、挿入孔84Hは、プレッシャ側カム部90に貫通形成されている。挿入孔84Hは、楕円形状に形成されている。
【0050】
図1に示すように、プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84に収容されている。プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84の挿入孔84Hに挿入されたボス部54に保持されている。プレッシャスプリング25は、プレッシャプレート70をクラッチセンタ40に向けて(即ち第1の方向D1に向けて)付勢する。プレッシャスプリング25は、例えば、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングである。
【0051】
図10は、クラッチセンタ40とプレッシャプレート70とが組み合わされた状態を示す平面図である。図10に示す状態では、プレッシャ側アシストカム面90Aとセンタ側アシストカム面60Aとは接触せず、かつ、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは接触していない。このとき、プレッシャプレート70はクラッチセンタ40に最も接近している。
【0052】
図1に示すように、ストッパプレート100は、プレッシャプレート70と接触可能に設けられている。ストッパプレート100は、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から第2の方向D2に所定の距離以上離隔することを抑制する部材である。ストッパプレート100は、クラッチセンタ40のボス部54にボルト28によって固定されている。プレッシャプレート70は、スプリング収容部84にクラッチセンタ40のボス部54およびプレッシャスプリング25が配置された状態でストッパプレート100を介してボルト28がボス部54に締め付けられて固定されている。ストッパプレート100は、平面視で略三角形状に形成されている。
【0053】
ここで、プレッシャプレート70がストッパプレート100と接触するとき、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとセンタ側スリッパーカム面60Sとは、それぞれ、プレッシャ側スリッパーカム面90Sの面積の50%以上90%以下、かつ、センタ側スリッパーカム面60Sの面積の50%以上90%以下で互いに接触している。また、プレッシャプレート70がストッパプレート100に接触するとき、プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84の側壁から離隔している。即ち、プレッシャスプリング25は、ボス部54とスプリング収容部84とによって挟み込まれておらず、ボス部54に過度な応力が加わることが抑制されている。
【0054】
クラッチ装置10内には、所定量のクラッチオイルが充填されている。クラッチオイルは、出力軸15の中空部15Hを介してクラッチセンタ40およびプレッシャプレート70内に流通し、その後センタ側嵌合部58とプレッシャ側嵌合部88との隙間やオイル排出孔49を介して入力側回転板20および出力側回転板22に供給される。クラッチオイルは、熱の吸収や摩擦材の摩耗を抑止する。本実施形態のクラッチ装置10は、いわゆる湿式多板摩擦クラッチ装置である。
【0055】
次に、本実施形態のクラッチ装置10の作動について説明する。クラッチ装置10は、上述のように、自動二輪車のエンジンと変速機との間に配置されるものであり、運転者がクラッチ操作レバーを操作することによって、エンジンの回転駆動力を変速機へ伝達および遮断する。
【0056】
クラッチ装置10は、自動二輪車の運転者がクラッチ操作レバーを操作しない場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がプッシュロッド16Aを押圧しないため、プレッシャプレート70がプレッシャスプリング25の付勢力(弾性力)によって入力側回転板20を押圧する。これにより、クラッチセンタ40は、入力側回転板20と出力側回転板22とが互いに押し当てられて摩擦連結されたクラッチONの状態となって回転駆動する。即ち、エンジンの回転駆動力がクラッチセンタ40に伝達されて出力軸15が回転駆動する。
【0057】
クラッチON状態において、出力軸15の中空部H内を流動しかつ出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルは、筒状部80内に落下または飛翔して付着する(図1の矢印F参照)。筒状部80内に付着したクラッチオイルは、クラッチセンタ40内に導かれる。これにより、クラッチオイルは、オイル排出孔49を介してクラッチセンタ40の外部に流出する。また、クラッチオイルは、センタ側嵌合部58とプレッシャ側嵌合部88との隙間を介してクラッチセンタ40の外部に流出する。そして、クラッチセンタ40の外部に流出したクラッチオイルは、入力側回転板20および出力側回転板22に供給される。
【0058】
一方、クラッチ装置10は、クラッチON状態において自動二輪車の運転者がクラッチ操作レバーを操作した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がプッシュロッド16Aを押圧するため、プレッシャプレート70がプレッシャスプリング25の付勢力に抗してクラッチセンタ40から離隔する方向(第2の方向D2)に変位する。これにより、クラッチセンタ40は、入力側回転板20と出力側回転板22との摩擦連結が解消されたクラッチOFFの状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。即ち、エンジンの回転駆動力がクラッチセンタ40に対して遮断される。
【0059】
クラッチOFF状態において、出力軸15の中空部H内を流動しかつ出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルは、クラッチON状態と同様に、クラッチセンタ40内に導かれる。このとき、プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40に対して離隔するため、センタ側嵌合部58およびプレッシャ側嵌合部88との嵌合量が少なくなる。この結果、筒状部80内のクラッチオイルは、より積極的にクラッチセンタ40の外部に流出してクラッチ装置10の内部の各所に流動する。特に、互いに離隔する入力側回転板20と出力側回転板22との間にクラッチオイルを積極的に導くことができる。
【0060】
そして、クラッチOFF状態において運転者がクラッチ操作レバーを解除した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)によるプッシュ部材16Bを介したプレッシャプレート70の押圧が解除されるため、プレッシャプレート70はプレッシャスプリング25の付勢力によってクラッチセンタ40に接近する方向(第1の方向D1)に変位する。
【0061】
以上のように、本実施形態のクラッチ装置10によると、クラッチセンタ40は、ベース壁43の第1の方向D1側の面43D1から第1の方向D1に延びかつ出力軸保持部50に接続された複数のリブ44を有している。これにより、出力軸保持部50の剛性が高まり、出力軸15の回転に対する曲げ剛性を確保することができる。また、複数のリブ44と外周壁45とは、径方向に関して離隔して配置されている。このため、クラッチセンタ40が回転したときの遠心力によって外周壁45側に移動したクラッチオイルは、リブ44によって阻害されることなく、ベース壁43の第1の方向D1側の面43D1の表面をスムーズに移動することができる。そして、ベース壁43に形成されたセンタ側カム孔43Hを介してクラッチオイルをクラッチセンタ40の内部へと導くことができる。
【0062】
本実施形態のクラッチ装置10では、クラッチセンタ40は、ベース壁43の第2の方向D2側の面43D2から第2の方向D2に突出するように形成され、かつ、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向(即ち第1の方向D1)の力を発生させるセンタ側アシストカム面60Aを有する複数のセンタ側カム部60を備えている。上記態様によれば、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を増加させる力であるアシストトルクを生じさせることができる。
【0063】
本実施形態のクラッチ装置10では、センタ側カム部60は、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるセンタ側スリッパーカム面60Sを有する。上記態様によれば、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を減少させる力であるスリッパートルクを生じさせることができる。
【0064】
本実施形態のクラッチ装置10では、ベース壁43のうちセンタ側カム孔43Hを区画する区画面45Kと、リブ44とは面一に形成されている。上記態様によれば、リブ44とベース壁43の第1の方向D1側の面43D1との間にクラッチオイルが溜まることを抑制することができる。
【0065】
本実施形態のクラッチ装置10では、クラッチセンタ40は、外周壁45を貫通するように形成され、かつ、出力軸15から流出したクラッチオイルをクラッチセンタ40の外部に排出するオイル排出孔49を備え、オイル排出孔49は、センタ側カム孔43Hの径方向外側に位置する。上記態様によれば、センタ側カム孔43Hを介してクラッチセンタ40の内部に導かれるクラッチオイルを、オイル排出孔49を介してクラッチセンタ40の外部へと効果的に排出することができる。
【0066】
本実施形態のクラッチ装置10では、リブ44の径方向の長さL1は、リブ44と外周壁45との間隔L2よりも長い。上記態様によれば、出力軸保持部50の剛性を確保しつつ、ベース壁43の第1の方向D1側の面43D1に沿ってクラッチオイルをスムーズに流すことができる。
【0067】
本実施形態のクラッチ装置10では、リブ44は、第1の方向D1に行くほど径方向内側に向かうように傾斜している。上記態様によれば、リブ44とリブ44との間にクラッチオイルが滞留することを抑制することができる。
【0068】
<第2実施形態>
図12は、第2実施形態に係るクラッチ装置210のクラッチセンタ240およびプレッシャプレート270の分解斜視図である。
【0069】
クラッチセンタ240は、クラッチハウジング30(図1参照)に収容されている。クラッチセンタ240は、クラッチハウジング30と同心に配置されている。図12に示すように、クラッチセンタ240は、本体242と、本体242の第1の方向D1側の外周縁に接続しかつ径方向外側に延びるフランジ268とを有する。本体242は、フランジ268よりも第2の方向D2に突出している。クラッチセンタ240は、出力側回転板22を保持しない。クラッチセンタ240は、出力軸15(図1参照)と共に回転駆動する。
【0070】
図12に示すように、本体242は、出力軸保持部250と、複数のセンタ側カム部60と、センタ側嵌合部258と、を備えている。センタ側カム部60は、フランジ268よりも第2の方向D2に突出するように形成されている。センタ側カム部60は、出力軸保持部250の径方向外側に位置する。
【0071】
出力軸保持部250は、円筒状に形成されている。出力軸保持部250には、出力軸15(図1参照)が挿入されてスプライン嵌合する挿入孔251が形成されている。挿入孔251は、本体242を貫通して形成されている。出力軸保持部250のうち挿入孔251を形成する内周面250Aには、軸線方向に沿って複数のスプライン溝が形成されている。出力軸保持部250には、出力軸15が連結されている。
【0072】
図12に示すように、クラッチセンタ240は、複数(本実施形態では3つ)のボス部54を備えている。ボス部54は、出力軸保持部250より径方向外側に位置する。ボス部54は、本体242に設けられている。
【0073】
図12に示すように、クラッチセンタ240は、本体242およびフランジ268の一部を貫通するセンタ側カム孔243Hを有する。センタ側カム孔243Hは、本体242およびフランジ268を方向Dに貫通する。センタ側カム孔243Hは、出力軸保持部250の側方からフランジ268まで延びる。センタ側カム孔243Hは、センタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aとボス部54との間に形成されている。クラッチセンタ240の軸線方向から見て、センタ側アシストカム面60Aとセンタ側カム孔243Hの一部とは重なる。
【0074】
図12に示すように、センタ側嵌合部258は、本体242に設けられている。センタ側嵌合部258は、センタ側カム部60より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部258は、センタ側カム部60よりも第1の方向D1側に位置する。センタ側嵌合部258は、プレッシャ側嵌合部288(図13参照)に摺動可能に内嵌するように構成されている。
【0075】
図12に示すように、プレッシャプレート270は、クラッチセンタ240に対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられている。プレッシャプレート270は、入力側回転板20および出力側回転板22を押圧可能に構成されている。プレッシャプレート270は、クラッチセンタ240およびクラッチハウジング30と同心に配置されている。プレッシャプレート270は、円筒状の本体272と、本体272の外周縁から径方向外側に延びるフランジ298とを有する。プレッシャプレート270は、入力側回転板20と方向Dに交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。
【0076】
図13に示すように、本体272は、環状の円環部280と、円環部280の径方向外側に位置する環状のベース壁273と、ベース壁273よりも径方向外側に位置しかつ方向Dに延びる(即ちベース壁273から第1の方向D1に向けて延びる)外周壁275と、ベース壁273および外周壁275に接続された複数のプレッシャ側カム部90と、プレッシャ側嵌合部288と、スプリング収容部84(図12参照)とを備えている。プレッシャ側カム部90は、本体272から第1の方向D1に突出するように形成されている。プレッシャ側カム部90は、ベース壁273の第1の方向D1側の面273D1から第1の方向D1に突出するように形成されている。プレッシャ側カム部90は、円環部280の径方向外側に位置する。プレッシャ側カム部90は、外周壁275よりも径方向内側に位置する。
【0077】
円環部280は、本体272の中央に設けられている。円環部280には、貫通孔280Hが形成されている。円環部280は、プレッシャ側カム部90と一体に形成されている。円環部280は、出力軸15の先端部15T(図1参照)を収容する。円環部280には、レリーズベアリング18(図1参照)が収容される。円環部280は、プッシュ部材16Bからの押圧力を受ける部位である。円環部280は、出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルを受け止める部位である。
【0078】
図13に示すように、プレッシャプレート270の外周壁275は、円環部280よりも径方向外側に配置されている。外周壁275は、方向Dに延びる環状に形成されている。外周壁275の外周面275Aには、スプライン嵌合部276が設けられている。スプライン嵌合部276は、外周壁275の外周面275Aに沿ってプレッシャプレート270の軸線方向に延びる複数のプレッシャ側嵌合歯277と、隣り合うプレッシャ側嵌合歯277の間に形成されかつプレッシャプレート270の軸線方向に延びる複数のスプライン溝278と、オイル排出孔279とを有する。プレッシャ側嵌合歯277は、出力側回転板22を保持する。複数のプレッシャ側嵌合歯277は、周方向Sに並ぶ。複数のプレッシャ側嵌合歯277は、周方向Sに等間隔に形成されている。複数のプレッシャ側嵌合歯277は、同じ形状に形成されている。プレッシャ側嵌合歯277は、外周壁275の外周面275Aから径方向外側に突出する。オイル排出孔279は、外周壁275を径方向に貫通して形成されている。オイル排出孔279は、隣り合うプレッシャ側嵌合歯277の間に形成されている。即ち、オイル排出孔279は、スプライン溝278に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側カム部90の側方に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aの側方に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側アシストカム面90Aよりも第1の周方向S1側に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側スリッパーカム面90Sよりも第2の周方向S2側に形成されている。オイル排出孔279は、プレッシャ側カム孔273Hの径方向外側に位置する。本実施形態では、オイル排出孔279は、外周壁275の周方向Sの3か所に3つずつ形成されている。オイル排出孔279は、周方向Sに等間隔の位置に配置されている。オイル排出孔279は、プレッシャプレート270の内部と外部とを連通する。オイル排出孔279は、出力軸15からプレッシャプレート270内に流出したクラッチオイルを、プレッシャプレート270の外部に排出する孔である。ここでは、オイル排出孔279は、外周壁275の内周面275B側を流れるクラッチオイルをプレッシャプレート270の外部に排出する。オイル排出孔279の少なくとも一部は、センタ側嵌合部258(図12参照)と対向する位置に設けられている。
【0079】
出力側回転板22は、プレッシャプレート270のスプライン嵌合部276に保持されている。出力側回転板22は、プレッシャ側嵌合歯277およびスプライン溝278にスプライン嵌合によって保持されている。出力側回転板22は、プレッシャプレート270の軸線方向に沿って変位可能に設けられている。出力側回転板22は、プレッシャプレート270と一体的に回転可能に設けられている。
【0080】
図12および図13に示すように、プレッシャプレート270は、ベース壁273の一部を貫通するプレッシャ側カム孔273Hを有する。プレッシャ側カム孔273Hは、貫通孔の一例である。プレッシャ側カム孔273Hは、ベース壁273を方向Dに貫通する。プレッシャ側カム孔273Hは、円環部280よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム孔273Hは、円環部280の側方から外周壁275まで延びる。プレッシャ側カム孔273Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90の間に貫通形成されている。プレッシャ側カム孔273Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側スリッパーカム面90Sとの間に貫通形成されている。プレッシャプレート270の軸線方向から見て、プレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側カム孔273Hの一部とは重なる。プレッシャ側カム孔273Hにはプレッシャプレート270の外部からクラッチオイルが流れ込む。
【0081】
図13に示すように、プレッシャ側嵌合部288は、円環部280より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合部288は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合部288は、プレッシャ側カム部90よりも第1の方向D1側に位置する。プレッシャ側嵌合部288は、外周壁275の内周面275Bに形成されている。プレッシャ側嵌合部288は、センタ側嵌合部258(図12参照)に摺動可能に外嵌するように構成されている。プレッシャ側嵌合部288とセンタ側嵌合部258との間には隙間が形成されている。
【0082】
図12および図14に示すように、プレッシャプレート270は、ベース壁273の第2の方向D2側の面273D2から第2の方向D2に延びる複数のリブ244を備えている。リブ244は、円環部280に接続されている。リブ244は、第2の方向D2に行くほど径方向内側に向かうように傾斜している。複数のリブ244と外周壁275とは、径方向に関して離隔して配置されている。即ち、径方向に関してリブ244と外周壁275との間には隙間が形成されている。リブ244の径方向の長さL3は、リブ244と外周壁275との間隔L4よりも長い。図12に示すように、ベース壁273のうちプレッシャ側カム孔273Hを区画する区画面275Kと、リブ244とは面一に形成されている。即ち、区画面275Kとリブ244との境界には段差がなく、一体的に形成されている。ここで、区画面275Kは、径方向かつ方向Dに延びる面である。
【0083】
以上のように、本実施形態のクラッチ装置210によると、プレッシャプレート270は、ベース壁273の第2の方向D2側の面273D2から第2の方向D2に延びかつ円環部280に接続された複数のリブ244を有している。これにより、円環部280の剛性が高まり、曲げ剛性を確保することができる。また、複数のリブ244と外周壁275とは、径方向に関して離隔して配置されている。このため、プレッシャプレート270が回転したときの遠心力によって外周壁275側に移動したクラッチオイルは、リブ244によって阻害されることなく、ベース壁273の第2の方向D2側の面273D2の表面をスムーズに移動することができる。そして、ベース壁273に形成されたプレッシャ側カム孔273Hを介してクラッチオイルをプレッシャプレート270の内部へと導くことができる。
【0084】
本実施形態のクラッチ装置210では、プレッシャプレート270は、ベース壁273の第1の方向D1側の面273D1から第1の方向D1に突出するように形成され、かつ、クラッチセンタ240に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を増加させるためにプレッシャプレート270をクラッチセンタ240に接近させる方向(即ち第1の方向D1)の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面90Aを有する複数のプレッシャ側カム部90を備えている。上記態様によれば、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を増加させる力であるアシストトルクを生じさせることができる。
【0085】
本実施形態のクラッチ装置210では、プレッシャ側カム部90は、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を減少させるためにプレッシャプレート270をクラッチセンタ240から離隔させるプレッシャ側スリッパーカム面90Sを有する。上記態様によれば、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力を減少させる力であるスリッパートルクを生じさせることができる。
【0086】
本実施形態のクラッチ装置210では、ベース壁273のうちプレッシャ側カム孔273Hを区画する区画面275Kの第2の方向D2側の面と、リブ244の第2の方向D2側の面とは面一に形成されている。上記態様によれば、リブ244とベース壁273の第2の方向D2側の面273D2との間にクラッチオイルが溜まることを抑制することができる。
【0087】
本実施形態のクラッチ装置210では、プレッシャプレート270は、外周壁275を貫通するように形成され、かつ、出力軸15から流出したクラッチオイルをプレッシャプレート270の外部に排出するオイル排出孔279を備え、オイル排出孔279は、プレッシャ側カム孔273Hの径方向外側に位置する。上記態様によれば、プレッシャ側カム孔273Hを介してプレッシャプレート270の内部に導かれるクラッチオイルを、オイル排出孔279を介してプレッシャプレート270の外部へと効果的に排出することができる。
【0088】
本実施形態のクラッチ装置210では、リブ244の径方向の長さL3は、リブ244と外周壁275との間隔L4よりも長い。上記態様によれば、円環部280の剛性を確保しつつ、ベース壁273の第2の方向D2側の面273D2に沿ってクラッチオイルをスムーズに流すことができる。
【0089】
本実施形態のクラッチ装置210では、リブ244は、第2の方向D2に行くほど径方向内側に向かうように傾斜している。上記態様によれば、リブ244とリブ244との間にクラッチオイルが滞留することを抑制することができる。
【0090】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の各実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0091】
上述した各実施形態では、センタ側カム部60は、センタ側アシストカム面60Aと、センタ側スリッパーカム面60Sとを有していたが、いずれか一方のみを有していてもよい。また、プレッシャ側カム部90は、プレッシャ側アシストカム面90Aと、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとを有していたが、いずれか一方のみを有していてもよい。また、クラッチセンタ40、240は、センタ側カム部60を有していなくてもよい。また、プレッシャプレート70、270は、プレッシャ側カム部90を有していなくてもよい。
【0092】
上述した第2実施形態では、クラッチセンタ240は、出力側回転板22を保持しないように構成されていたが、これに限定されない。クラッチセンタ240は、出力側回転板22を保持可能な第1実施形態のプレッシャ側嵌合歯77と類似の構成を有するセンタ側嵌合歯を有していてもよい。
【符号の説明】
【0093】
15 出力軸
20 入力側回転板
22 出力側回転板
30 クラッチハウジング
60 センタ側カム部
60A センタ側アシストカム面
60S センタ側スリッパーカム面
90 プレッシャ側カム部
90A プレッシャ側アシストカム面
90S プレッシャ側スリッパーカム面
210 クラッチ装置
240 クラッチセンタ
244 リブ
270 プレッシャプレート
273 ベース壁
273H プレッシャ側カム孔(貫通孔)
275 外周壁
275K 区画面
279 オイル排出孔
280 円環部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14