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特開2024-122744バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024122744
(43)【公開日】2024-09-09
(54)【発明の名称】バスバー及びその製造方法、並びに蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/526 20210101AFI20240902BHJP
   H01M 50/505 20210101ALI20240902BHJP
   H01M 50/522 20210101ALI20240902BHJP
   H01M 50/524 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M50/526
H01M50/505
H01M50/522
H01M50/524
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030458
(22)【出願日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】川崎 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真之助
【テーマコード(参考)】
5H043
【Fターム(参考)】
5H043AA04
5H043AA11
5H043AA13
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA05
5H043FA04
5H043FA40
5H043GA25
5H043HA22F
5H043HA29F
5H043JA17F
5H043JA19F
5H043KA13F
5H043KA14F
5H043KA15F
5H043KA22F
5H043LA03F
5H043LA04F
(57)【要約】
【課題】絶縁性を安定して確保できるとともに、異常時における電池セルからの高温や火炎から保護できるバスバー及びバスバーの製造方法を提供する。
【解決手段】バスバー1は、導電性材料を含むバスバー本体5と、フィラーを含み、バスバー本体を被覆する耐熱絶縁被膜10と、を有し、耐熱絶縁被膜10の表面粗さ(Ry)が0<Ry<50[μm]である。また、上記バスバー1の製造方法は、導電性材料を含むバスバー本体5を、耐熱絶縁塗料に浸漬し、バスバー本体5の表面に耐熱絶縁塗料を被着させた後に、耐熱絶縁塗料を乾燥させて耐熱絶縁被膜10を形成する工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含むバスバー本体と、フィラーを含み、前記バスバー本体を被覆する耐熱絶縁被膜と、を有し、
前記耐熱絶縁被膜の表面粗さ(Ry)が0<Ry<50[μm]であることを特徴とする、バスバー。
【請求項2】
前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載のバスバー。
【請求項3】
前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、請求項2に記載のバスバー。
【請求項4】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3に記載のバスバー。
【請求項5】
前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4に記載のバスバー。
【請求項6】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、請求項4に記載のバスバー。
【請求項7】
前記耐熱絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項8】
前記耐熱絶縁被膜の最小膜厚が300μm以上であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項9】
前記耐熱絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項10】
前記耐熱絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のバスバー。
【請求項11】
電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
導電性材料を含むバスバー本体を、フィラーを含む耐熱絶縁塗料に浸漬し、前記バスバー本体の表面に前記耐熱絶縁塗料を被着させた後に、前記耐熱絶縁塗料を乾燥させて耐熱絶縁被膜を形成する工程を有し、
前記耐熱絶縁被膜の表面粗さ(Ry)が0<Ry<50[μm]となるように、前記耐熱絶縁被膜を形成することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【請求項12】
前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、請求項11に記載のバスバーの製造方法。
【請求項13】
前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、請求項12に記載のバスバーの製造方法。
【請求項14】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項13に記載のバスバーの製造方法。
【請求項15】
前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項14に記載のバスバーの製造方法。
【請求項16】
前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、請求項14に記載のバスバーの製造方法。
【請求項17】
前記耐熱絶縁塗料中における、全固形成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、請求項11~16のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項18】
乾燥後の前記耐熱絶縁被膜の最小膜厚が300μm以上となるように、前記バスバー本体に前記耐熱絶縁塗料を被着させることを特徴とする、請求項11~16のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項19】
前記耐熱絶縁塗料は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、請求項11~16のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項20】
前記耐熱絶縁塗料は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、請求項11~16のいずれか1項に記載のバスバーの製造方法。
【請求項21】
複数の電池セル又は電池モジュールを、請求項1~6のいずれか1項に記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー及びその製造方法、並びに複数の電池セル又は電池モジュールをバスバーで接続した蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器や、電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車、蓄電池などには、複数の電池セルを、バスバーにて直列又は並列に接続した蓄電装置が搭載されている。また、電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。
【0003】
バスバーには絶縁性が要求されるため、特許文献1では金属板などのバスバー本体に、エポキシやエポキシポリエステル、ポリエステル等の樹脂からなる塗膜を形成している。
【0004】
しかし、電池セルでは、充放電時に過電流が通電され、バスバーが発熱することがあり、場合によっては火炎を発することがある。このような異常時には、特許文献1のように樹脂からなる塗膜は耐熱性が十分ではない。そこで、特許文献2では、絶縁性と耐熱性とを備える雲母シートでバスバー本体を被覆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-48001号公報
【特許文献2】特表2020-528650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2では、雲母シートをバスバー本体に巻き付ける作業が必要になる。電池セルの設置個所の空間的制限などにより、バスバーが複雑な形状を呈することもあるが、バスバーが複雑な形状になると、雲母シートをバスバー本体の隅々まで巻き付けるのが困難である。雲母シートに、巻きムラや隙間があると、絶縁性や耐熱性が十分に得られない。また、高温時に雲母シートの粘着面が剥がれることも想定される。
【0007】
更には、雲母シートの巻き重ね部分ではシート厚が薄くなり、絶縁性や耐熱性が低下する起点になるおそれに加え、バスバーの表面に凹凸ができて寸法精度も低下する。
【0008】
そこで本発明は、表面の凹凸や寸法ムラを無くして絶縁性や耐熱性を安定して確保できるとともに、異常時における電池セルからの高温や火炎から保護できるバスバーを提供することを目的とする。また、雲母シートのような巻き付け作業が不要で、巻きムラやシートの隙間を生じることや、シートの剥がれの問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能で、製造も簡便なバスバーの製造方法を提供することを目的とする。更には、このようなバスバーにより複数の電池セル又は電池モジュール同士を接続し、異常時においても高い安全性を示す蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、バスバーに係る下記[1]の構成により達成される。
【0010】
[1] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーであって、
導電性材料を含むバスバー本体と、フィラーを含み、前記バスバー本体を被覆する耐熱絶縁被膜と、を有し、
前記耐熱絶縁被膜の表面粗さ(Ry)が0<Ry<50[μm]であることを特徴とする、バスバー。
【0011】
また、バスバーに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[10]に関する。
【0012】
[2] 前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、[1]に記載のバスバー。
[3] 前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、[2]に記載のバスバー。
[4] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[3]に記載のバスバー。
[5] 前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[4]に記載のバスバー。
[6] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、[4]に記載のバスバー。
[7] 前記耐熱絶縁被膜中における、全成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれか1つに記載のバスバー。
[8] 前記耐熱絶縁被膜の最小膜厚が300μm以上であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれか1つに記載のバスバー。
[9] 前記耐熱絶縁被膜は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、[1」~[6]のいずれか1つに記載のバスバー。
[10] 前記耐熱絶縁被膜は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、[1]~[6]のいずれか1つに記載のバスバー。
【0013】
また、本発明の上記目的は、バスバーの製造方法に係る下記[11]の構成により達成される。
【0014】
[11] 電池セルを含む蓄電装置に用いられるバスバーの製造方法であって、
導電性材料を含むバスバー本体を、フィラーを含む耐熱絶縁塗料に浸漬し、前記バスバー本体の表面に前記耐熱絶縁塗料を被着させた後に、前記耐熱絶縁塗料を乾燥させて耐熱絶縁被膜を形成する工程を有し、
前記耐熱絶縁被膜の表面粗さ(Ry)が0<Ry<50[μm]となるように、前記耐熱絶縁被膜を形成することを特徴とする、バスバーの製造方法。
【0015】
また、バスバーの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[12]~[20]に関する。
【0016】
[12] 前記フィラーは、無機化合物を含むことを特徴とする、[11]に記載のバスバーの製造方法。
[13] 前記無機化合物は、ケイ酸塩化合物を含むことを特徴とする、[12]に記載のバスバーの製造方法。
[14] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[13]に記載のバスバーの製造方法。
[15] 前記ガラス系材料が、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[14]に記載のバスバーの製造方法。
[16] 前記ケイ酸塩化合物が、ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含み、前記ガラス系材料はフレーク状ガラスであることを特徴とする、[14]に記載のバスバーの製造方法。
[17] 前記耐熱絶縁塗料中における、全固形成分に対する前記フィラーの含有量が、3~70体積%であることを特徴とする、[11]~[16]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
[18] 乾燥後の前記耐熱絶縁被膜の最小膜厚が300μm以上となるように、前記バスバー本体を前記耐熱絶縁塗料を被着させることを特徴とする、[11]~[16]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
[19] 前記耐熱絶縁塗料は、シリコーン系材料を含むことを特徴とする、[11]~[16]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
[20] 前記耐熱絶縁塗料は、シリコーン樹脂と、チクソトロピック剤と、を含むことを特徴とする、[11]~[16]のいずれか1つに記載のバスバーの製造方法。
【0017】
また、本発明の上記目的は、蓄電装置に係る下記[21]の構成により達成される。
【0018】
[21] 複数の電池セル又は電池モジュールを、[1]~[10]のいずれか1つに記載のバスバーで接続した、蓄電装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明のバスバーは、表面粗さ(Ry)が0<Ry<50[μm]であってフィラーを含む耐熱絶縁被膜によって、バスバー本体が被覆されている。そのため、表面が平滑性に優れており、絶縁性や耐熱性が低下する起点となる膜厚の薄い部分が無くなり、寸法精度も高い。
【0020】
また、本発明のバスバーの製造方法は、ディップ塗装により耐熱絶縁被膜を形成するため、製造工程が簡易である、また、バスバー本体の形状に関係なく、隙間もなく耐熱絶縁被膜を形成することができる。
【0021】
さらに、本発明の蓄電装置は、このようなバスバーにより複数の電池セルや電池モジュールを接続しているため、絶縁不良を起こしにくく、耐熱性も優れて異常時においても高い安全性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明のバスバーの一例を電池セルに装着した状態を示す分解斜視図である。
図2図2は、耐熱絶縁被膜の最小膜厚及び最大膜厚の測定方法を説明するための斜視図である。
図3図3は、本発明の蓄電装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0024】
[バスバー]
図1は、本実施形態に係るバスバー1を電池セル110に装着した状態を示す分解斜視図である。図1に示されるように、導電性材料からなるバスバー本体5は、例えば、全体がZ字状の金属製の板部材であり、一方の先端の接続孔6aに電池セル110の電極111を挿入し、端子キャップ112を被せて固定される。また、バスバー本体5の他方の先端の接続孔6bには、隣接する電池セル(図示せず)や外部機器(図示せず)が接続される。そして、バスバー本体5の接続孔6a,6bを除く部分(表面)を、後述する耐熱絶縁被膜10で覆い、バスバー1が構成される。
【0025】
なお、図示は省略するが、バスバー本体5は、全体をI字状にしたり、湾曲部を有するような不定形など、電池セル110の設置個所に応じて種々の形状とすることができる。
【0026】
バスバー本体5が、図1に示されるZ字状のような屈曲部5aや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献2のバスバーのように雲母シートを巻き付ける方式では、屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかったり、あるいは振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、後述するように、本実施形態では、バスバー本体5を耐熱絶縁塗料に浸漬し、引き上げた後、乾燥させる「ディップ塗装」により耐熱絶縁被膜10を形成するため、そのような問題は起こらない。また、「ディップ塗装」は、工程が簡便であるという利点もある。なお、本明細書において、「ディップ塗装」により得られる耐熱絶縁皮膜は、「耐熱絶縁塗膜」と言い換えることもできる。
【0027】
また、本実施形態において、耐熱絶縁被膜10は、その表面粗さ(Ry)が0<Ry<50[μm]と小さく、平滑性に優れる。表面粗さ(Ry)は、JIS B 0601-1994で規定されている最大高さを意味するものである。特許文献2のように雲母シートを巻き付ける方式では、雲母シートの巻き重ね部分ではシート厚が薄くなり、バスバー1の表面に凹凸ができ、本発明で規定するような平滑性を実現することができない。凹凸の谷部ではシート厚が薄く、絶縁性や耐熱性が低下する起点となるが、表面に凹凸がない本発明のバスバー1では絶縁性や耐熱性が低下するような凹凸が見られず、信頼性に優れる。また、本発明のバスバー1は寸法精度にも優れ、製品品質にも優れる。
【0028】
また、バスバー本体5は、保管や輸送に際して、表面に思わぬ損傷を受けることがある。しかし、バスバー1の表面には耐熱絶縁被膜10が形成されているため、バスバー1がバスバー本体5の表面の損傷を反映することもない。
【0029】
このような効果を得るためには、耐熱絶縁被膜10の表面粗さ(Ry)として50[μm]未満を確保する必要がある。また、耐熱絶縁被膜10の表面粗さ(Ry)は小さいほど好ましく、0<Ry<50[μm]とすることがより好ましく、0<Ry<40[μm]とすることがより好ましく、0<Ry<30[μm]とすることが更に好ましい。
【0030】
耐熱絶縁被膜10は、絶縁性を有するとともに、異常時に電池セル110からの発熱や火炎に耐え得る耐熱性や耐火性を兼備する必要があり、好ましくは以下に示す組成とすることが好ましい。
【0031】
耐熱絶縁被膜10がフィラーを含むことにより、耐熱性を確保することができる。また、無機化合物は、融点が高く、耐熱性により優れることから、耐熱絶縁被膜10は、フィラーとして無機化合物を含むことがより好ましく、中でもケイ酸塩化合物を含むことがさらに好ましい。
【0032】
ケイ酸塩化合物としては、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0033】
また、ガラス系材料としては、フレーク状ガラス、ガラス粒子、ガラス繊維及びガラスビーズから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
これらフィラーは、耐熱絶縁被膜10の表面粗さ(Ry)を50[μm]未満にするために小径である必要があり、円相当径として、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。また、マイカやフレーク状ガラスは、被膜中で面状に配向して優れた絶縁性や耐熱性を示すことから、フィラーとして特に好ましい。
【0035】
耐熱絶縁被膜10中における全成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましく、20~50体積%であることが更に好ましい。フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。後述するように、耐熱絶縁被膜10は「ディップ塗装」により形成されるが、フィラーの含有量が70体積%を超えると、ディップする耐熱絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性に劣るようになる。また、フィラーは固形であるため、規定の表面粗さ(Ry)を満足できないおそれがある。
【0036】
また、耐熱絶縁被膜10には、バインダーとして、不燃性や耐熱性に優れることから、シリコーン系材料を含むことが好ましい。シリコーン系材料としては、シリコーン樹脂が挙げられ、増粘剤としてチクソトロピック剤を併用することにより、耐熱絶縁被膜の膜厚の制御を容易にすることができる。
【0037】
なお、耐熱絶縁被膜10は、上記したフィラーやシリコーン系材料の他にも、絶縁性や耐熱性に影響を与えない範囲で、難燃剤や分散剤、顔料などの他の材料を含んでもよい。
【0038】
耐熱絶縁被膜10の最小膜厚としては、300μm以上が好ましい。最小膜厚が300μm未満では十分な絶縁性や耐熱性が得られないおそれがあり、400μm以上であることがより好ましく、500μm以上であることが更に好ましい。なお、膜厚の上限としては、必要以上に厚くなったとしても絶縁性や耐熱性の更なる向上は見込めなくなり、むしろ耐熱絶縁被膜10に亀裂が生じるなど膜質に不具合が見られるようになる。したがって、耐熱絶縁被膜10の最大膜厚としては、2000μm以下であることが好ましく、1500μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることが更に好ましい。
【0039】
ここで、本実施形態に係るバスバー1における耐熱絶縁被膜10の最小膜厚及び最大膜厚の測定方法について、図2を参照して具体的に説明する。なお、図2は、図1に示すバスバー1の全ての屈曲部について、内角側を構成する2つの面に沿って切断し、板状体11、12、13と、屈曲体14、15に分割した図である。バスバー本体5の表面に形成された全領域における耐熱絶縁被膜10の膜厚を測定することは困難であるため、本実施形態においては、以下の測定方法により膜厚を測定するものとする。なお、バスバー1を、内角側を構成する2つの面に沿って切断する際に切り落とされる屈曲体14、15については、本測定方法では無視するものとする。
【0040】
例えば、板状体12については、その長手方向に直交する方向に沿って、膜厚測定線12a、12b、12cの3箇所で切断する。膜厚測定線12a及び膜厚測定線12cの位置は、板状体12の長手方向の両端面12d、12eから、それぞれ1mm内側の位置とする。また、膜厚測定線12bの位置は、膜厚測定線12aと膜厚測定線12cとの間の中央位置とする。
【0041】
板状体11については、板状体12の切断方向と同一の方向で、膜厚測定線11a、11b、11cの3箇所で切断する。なお、板状体11の一方の端部には、接続孔6aが設けられており、耐熱絶縁被膜10における接続孔6a側の端部11dの近傍は膜厚が安定していない可能性がある。したがって、膜厚測定線11aの位置は、耐熱絶縁被膜10の端部11dから5mm内側の位置とする。また、膜厚測定線11cの位置は、板状体11の他方の端面11eから1mm内側の位置とし、膜厚測定線11bの位置は、膜厚測定線11aと膜厚測定線11cとの間の中央位置とする。
【0042】
板状体13については、板状体11と同様に、一方の端部に接続孔6bが設けられているため、膜厚測定線13aの位置は、耐熱絶縁被膜10の端部13dから5mm内側の位置とする。また、膜厚測定線13cの位置は、板状体13の他方の端面13eから1mm内側の位置とし、膜厚測定線13bの位置は、膜厚測定線13aと膜厚測定線13cとの間の中央位置とする。
【0043】
上記のようにして、3つの板状体11、12、13について、それぞれ膜厚測定線11a~11c、12a~12c、13a~13cで切断し、合計9つの切断面について写真を撮影する。そして、それぞれの写真について画像処理を行い、バスバー本体5の表面から耐熱絶縁被膜10の表面までの距離を測定して、最小となった膜厚を最小膜厚とし、最大となった膜厚を最大膜厚とする。
【0044】
なお、図示は省略するが、バスバーが湾曲部を有する形状である場合には、板状体に切り分ける際に切り落とされる湾曲体についても、上記方法と同様にして、両端面から1mm内側の位置とこれらの中央の位置とにおいて切断し、膜厚を測定することが好ましい。
【0045】
[バスバーの製造方法]
バスバー1を製造するには、バスバー本体5の表面に、「ディップ塗装」により耐熱絶縁被膜10を形成する。具体的には、シリコーン樹脂に所定量のフィラーを投入し、十分に混合して耐熱絶縁塗料を調製する。そして、バスバー本体5の接続孔6a,6b(図1参照)の周囲をマスキングし、耐熱絶縁塗料に浸漬して、バスバー本体5の表面に絶縁塗料を被着させた後に、これを引き上げ、耐熱絶縁塗料を乾燥させて耐熱絶縁被膜を形成する。
【0046】
耐熱絶縁塗料を被着させる量としては、乾燥後の最小膜厚(すなわち、耐熱絶縁被膜10の最小膜厚)が300μm以上、好ましくは400μm以上、より好ましくは500μm以上となるように、引き上げ速度や乾燥温度などを適宜調整することが好ましい。
【0047】
また、耐熱絶縁塗料中における、全固形成分に対するフィラーの含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~60体積%であることがより好ましく、20~50体積%であることが更に好ましい。上述のとおり、フィラーの含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。一方、フィラーの含有量が、70体積%を超えると、耐熱絶縁塗料の粘度が高くなりすぎて成膜性が劣るとともに、規定の表面粗さ(Ry)を満足できないないおそれがある。
【0048】
特許文献2のように雲母シートを巻き付ける方法では、巻き付け作業が必要であり、特に屈曲部5aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするには、巻き付け作業に手間がかかる。また、振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、本発明では「ディップ塗装」により耐熱絶縁被膜10を形成するため、そのような問題は起こらない。
【0049】
また、耐熱絶縁被膜10には雲母シートのように巻き重ね部分が無く、絶縁性や耐熱性が低下することもない。更には、耐熱絶縁被膜10の表面粗さ(Ry)が50[μm]未満に抑えられているため、バスバー1の寸法精度も高い。
【0050】
[蓄電装置]
図3に示すように、蓄電装置100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、隣接する電池セル110と電池セル110とを上記バスバー1で接続している。なお、図中の符号112は、端子キャップ(図1参照)である。
【0051】
バスバー1は、上記耐熱絶縁被膜10で被覆したものであり、絶縁性や耐熱性が低下するような凹凸が極めて少ないため、ある電池セル110が熱暴走を起こしてもバスバー1を保護できる。
そして、本実施形態に係る蓄電装置は、上記バスバー1により複数の電池セル110や電池モジュール(図示せず)を接続しているため、バスバー1を介して隣接する電池セル110への熱暴走の連鎖を防ぐことができ、異常時においても高い安全性を示す。
【符号の説明】
【0052】
1 バスバー
5 バスバー本体
6a,6b 接続孔
10 耐熱絶縁被膜
100 蓄電装置
110 電池セル
111 電極
120 電池ケース
図1
図2
図3