(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126775
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】角度検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/20 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01D5/20 110Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035399
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高垣 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】古川 晃
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA21
2F077CC02
2F077FF34
2F077PP26
2F077TT82
2F077UU20
(57)【要約】
【課題】回転電機の動作状態に応じて変化する回転電機の外乱磁束により生じる角度情報の検出誤差を抑制できる角度検出装置を提供する。
【解決手段】回転電機の回転軸に固定され、突極を有する回転子と、励磁巻線及び出力巻線を有する固定子と、を備えたレゾルバと、励磁用の交流電圧を生成し、前記励磁巻線に前記励磁用の交流電圧に応じた励磁電圧を印加する励磁部と、前記出力巻線の出力信号に基づいての角度情報を演算する角度情報演算部と、前記回転電機の動作状態を取得する状態取得部と、を備え、前記励磁部は、前記回転電機の動作状態に基づいて、前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる角度検出装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の回転軸に固定され、突極を有する回転子と、励磁巻線及び出力巻線を有する固定子と、を備えたレゾルバと、
励磁用の交流電圧を生成し、前記励磁巻線に前記励磁用の交流電圧に応じた励磁電圧を印加する励磁部と、
前記出力巻線の出力信号に基づいての角度情報を演算する角度情報演算部と、
前記回転電機の動作状態を取得する状態取得部と、を備え、
前記励磁部は、前記回転電機の動作状態に基づいて、前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる角度検出装置。
【請求項2】
前記回転電機は、界磁巻線を備える請求項1に記載の角度検出装置。
【請求項3】
前記状態取得部は、前記回転電機の動作状態として、前記界磁巻線を流れる電流を取得し、
前記励磁部は、前記界磁巻線の電流に基づいて、前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる請求項2に記載の角度検出装置。
【請求項4】
前記励磁部は、前記界磁巻線の電流が増加するに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる請求項3に記載の角度検出装置。
【請求項5】
前記状態取得部は、前記回転電機の動作状態として、前記回転電機の回転速度を取得し、
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度に応じて前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる請求項1に記載の角度検出装置。
【請求項6】
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が増加するに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる請求項5に記載の角度検出装置。
【請求項7】
前記回転電機は、界磁巻線を備え、
前記状態取得部は、前記界磁巻線を流れる電流及び前記回転電機の回転速度を取得し、
前記励磁部は、前記界磁巻線の電流及び前記回転電機の回転速度に応じて前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる請求項1に記載の角度検出装置。
【請求項8】
前記励磁部は、前記界磁巻線の電流が増加するに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させると共に、前記回転電機の回転速度が増加するに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる請求項7に記載の角度検出装置。
【請求項9】
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な最大回転速度よりも大きくなった場合に、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な前記最大回転速度以下である場合よりも、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる請求項5に記載の角度検出装置。
【請求項10】
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な最大回転速度から前記回転電機の回生運転が可能な最大回転速度に近づくに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を次第に減少させる請求項5に記載の角度検出装置。
【請求項11】
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な最大回転速度よりも大きくなった場合に、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な前記最大回転速度以下である場合よりも、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる請求項7に記載の角度検出装置。
【請求項12】
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な最大回転速度から前記回転電機の回生運転が可能な最大回転速度に近づくに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を次第に減少させる請求項7に記載の角度検出装置。
【請求項13】
前記励磁部は、PWM制御により前記励磁巻線に励磁用の交流電圧を生成する請求項1から12のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【請求項14】
前記励磁部は、PWM信号を生成するPWM信号生成部と、前記PWM信号に対してローパスフィルタをかけるローパスフィルタ回路と、前記ローパスフィルタ回路の出力信号を電流に変換し、前記励磁巻線に供給するアンプ回路と、備える請求項1から12のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【請求項15】
前記励磁部は、前記回転電機からの外乱磁束による外乱ノイズが重畳した場合の前記励磁電圧又は前記出力巻線の出力信号の変化範囲が、出力可能範囲内になるように、前記回転電機の動作状態に基づいて、前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる請求項1から12のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【請求項16】
前記角度情報演算部は、前記出力巻線の出力信号に対して前記回転電機からの外乱ノイズを除去するハイパスフィルタを有する請求項1から12のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【請求項17】
前記角度情報演算部は、前記出力巻線の出力信号に対して前記回転電機からの外乱ノイズを除去するバンドパスフィルタを有する請求項1から12のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【請求項18】
前記角度情報演算部は、前記出力巻線の出力信号に対して前記回転電機からの外乱ノイズを除去するハイパスフィルタを有する請求項15に記載の角度検出装置。
【請求項19】
前記角度情報演算部は、前記出力巻線の出力信号に対して前記回転電機からの外乱ノイズを除去するバンドパスフィルタを有する請求項15に記載の角度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、角度検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の技術は、レゾルバが回転電機の回転軸に固定され、レゾルバにより検出された角度情報に基づいて、回転電機を制御している。
【0003】
特許文献1の技術では、レゾルバは、励磁巻線と、位相の異なる2つの出力巻線とを有しており、励磁巻線に正弦波の励磁信号を入力し、レゾルバに磁場を発生させ、2つの出力巻線に出力信号を発生させる。特許文献1の技術では、2つの出力信号の位相をシフトさせ、合成器により位相変調信号を生成し、位相変調信号と励磁信号の位相差に基づいて回転子の回転角を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回転電機の界磁巻線等によって発生した磁束が回転電機の回転軸を通して湧き出し、レゾルバの励磁巻線及び出力巻線に鎖交する。回転電機の回転軸が偏芯すると、鎖交磁束が回転周期で変動し、励磁巻線及び出力巻線に誘導起電力が生じ、外乱ノイズになり、検出角の誤差を引き起こす。
【0006】
特許文献1の技術では、2つの出力信号に対して、バンドパスフィルタを通過させることで外乱ノイズを減衰させ、回転電機の回転速度変動による外乱ノイズへの影響については、ゲイン調整回路を別途設け、回転電機の回転速度が高くなるほど位相変調信号のゲインを調整することで対応している。
【0007】
しかしながら、励磁信号に外乱ノイズが重畳し、励磁信号の振幅が出力可能範囲により上下限制限されると、励磁信号の電圧波形が正弦波から歪み、2つの出力信号の波形が歪む。この場合、特許文献1の技術のように、バンドパスフィルタを用いても2つの出力信号の波形の歪みは取れず、角度検出誤差を生じる。
【0008】
このような回転電機から生じた外乱磁束は、回転電機の動作状態に応じて変化する。よって、回転電機の動作状態に応じて、外乱磁束による励磁信号及び出力信号の変動量が変化し、変動量が大きい場合に、角度検出誤差が大きくなる。
【0009】
そこで、本願は、回転電機の動作状態に応じて変化する回転電機の外乱磁束により生じる角度情報の検出誤差を抑制できる角度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に係る角度検出装置は、
回転電機の回転軸に固定され、突極を有する回転子と、励磁巻線及び出力巻線を有する固定子と、を備えたレゾルバと、
励磁用の交流電圧を生成し、前記励磁巻線に前記励磁用の交流電圧に応じた励磁電圧を印加する励磁部と、
前記出力巻線の出力信号に基づいての角度情報を演算する角度情報演算部と、
前記回転電機の動作状態を取得する状態取得部と、を備え、
前記励磁部は、前記回転電機の動作状態に基づいて、前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させるものである。
【発明の効果】
【0011】
回転電機の動作状態が変化すると、回転電機の外乱磁束が変化し、励磁電圧及び出力巻線の出力信号への影響が変化する。回転電機の動作状態に基づいて、励磁用の交流電圧の振幅を変化させることにより、外乱磁束による変動後の励磁信号及び出力信号の変化幅が大きくなり過ぎないようにでき、角度情報の検出誤差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る回転電機及び角度検出装置等の概略構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る角度検出装置の概略構成図である。
【
図3】実施の形態1に係る励磁電圧及び出力信号の挙動を説明するタイムチャートである。
【
図4】実施の形態1に係る回転電機及び電力変換器の概略構成図である。
【
図5】実施の形態1に係る制御装置の概略ブロック図である。
【
図6】実施の形態1に係る励磁部のPWM制御を説明するタイムチャートである。
【
図7】実施の形態1に係る角度検出装置の概略構成図である。
【
図8】実施の形態1に係る外乱磁束を説明するための模式図である。
【
図9】実施の形態1に係る外乱磁束が無い場合の励磁電圧を説明するためのタイムチャートである。
【
図10】実施の形態1に係る外乱磁束がある場合の励磁電圧を説明するためのタイムチャートである。
【
図11】実施の形態1に係る外乱磁束がある場合の励磁電圧を説明するためのタイムチャートである。
【
図12】実施の形態1に係る界磁巻線の電流に応じた変調率Kの設定を説明するための図である。
【
図13】実施の形態1に係る回転速度に応じた変調率Kの設定を説明するための図である。
【
図14】実施の形態1に係る変調率の急変の影響を説明するためのタイムチャートである。
【
図15】実施の形態1に係る回転速度に応じた変調率Kの設定を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る角度検出装置1について図面を参照して説明する。
図1は、角度検出装置1の概略構成図である。本実施の形態では、角度検出装置1は、回転電機の制御装置30(以下、制御装置30と称す)に組み込まれている。
【0014】
1-1.レゾルバ5
角度検出装置1は、レゾルバ5を備えている。
図2に示すように、レゾルバ5は、レゾルバ固定子55及びレゾルバ回転子51を備えている。レゾルバ固定子55は、励磁巻線52、及び出力巻線を有している。出力巻線として、第1出力巻線53、及び第2出力巻線54が設けられている。
【0015】
励磁巻線52、第1出力巻線53、及び第2出力巻線54は、同じ1つのレゾルバ固定子55に巻装されている。レゾルバ固定子55の径方向内側にレゾルバ回転子51が配置されている。本実施の形態では、レゾルバ回転子51は、回転電機の回転軸8に固定されている。本例では、レゾルバ回転子51は、回転電機の回転軸8の先端部に固定されている。
【0016】
レゾルバ回転子51は、突極を有している。本実施の形態では、レゾルバ回転子51は、N個(Nは、2以上の自然数)の突極を有している。本例は、N=4に設定されており、軸倍角Nは4とされている。よって、レゾルバ回転子51が機械角で1回転する毎に、電気角で4回転する。レゾルバ回転子51は、外周部に周方向に均等配置されたN個の突出部を備えている。突出部により突極が生じる。突出部の径方向外側への突出高さは、レゾルバ固定子55及びレゾルバ回転子51間のギャップパーミアンスが、回転に応じて、正弦波状に変化するように形成されている。すなわち、レゾルバ5は、可変リラクタンス(VR)型レゾルバとされている。
【0017】
図3に示すように、励磁巻線52に励磁用の交流電圧VRに応じた励磁電圧Vexが供給されている状態で、回転子が回転すると、回転子の電気角での回転角度(ギャップパーミンアンス)に応じて第1出力巻線53に誘起される交流電圧S1(以下、第1出力信号S1と称す)の振幅が正弦波状に変化し、及び第2出力巻線54に誘起される交流電圧S2(以下、第2出力信号S2と称す)の振幅が余弦波状に変化する。第1出力巻線53と第2出力巻線54とは、それらの交流電圧の振幅が相互に電気角で90度異なるように、レゾルバ固定子55の周方向の位置に巻装されている。
【0018】
例えば、励磁用の交流電圧VRが10kHzの正弦波であり、突極数Nが4である場合は、第1出力信号S1は10kHzで振動しながら、その振幅は、レゾルバ回転子51が機械角で1回転する間に、正弦波状に4周期分変化し、第2出力信号S2は10kHzで振動しながら、その振幅は、レゾルバ回転子51が1回転する間に、余弦波状に4周期分変化し、第1出力信号S1の正弦波状の振幅と、第2出力信号S2の余弦波状の振幅とは、電気角で位相がπ/2異なる。
【0019】
1-2.回転電機2及び電力変換器6
図1に示すように、回転電機2は、円筒状の固定子3と、固定子3の径方向内側に配置された回転子4と、を備えている。
図4に示すように、固定子3には、複数相の電機子巻線(本例では、U相、V相、W相の3相の電機子巻線Cu、Cv、Cw)が設けられている。回転子4には、回転子4に磁束を発生させる界磁巻線67が設けられている。回転子4に、界磁巻線67と共に永久磁石が設けられてもよい。回転子4及び界磁巻線67は、クローポール型とされており、回転軸8の一方端がN極となり、他方端がS極となる。回転軸8の一方端又は他方端には、レゾルバ回転子51が固定されている。
【0020】
電力変換器6として、直流電源61と電機子巻線との間の電力変換を行うインバータ63と、直流電源61と界磁巻線67との間の電力変換を行うコンバータ64と、が設けられている。インバータ63とコンバータ64には、スイッチング素子SWが設けられている。インバータ63は、3相ブリッジ回路とされ、コンバータ64は、Hブリッジ回路とされている。インバータ63とコンバータ64には、公知の各種のものが用いられてもよい。各スイッチング素子SWは、制御装置30によりオンオフされる。インバータ63には、電機子巻線に流れる電流Iu、Iv、Iwを検出する電流センサ65が設けられており、コンバータ64には、界磁巻線67に流れる電流Ifを検出する電流センサ66が設けられている。
【0021】
1-3.制御装置30
図1及び
図2に示すように、制御装置30(角度検出装置1)は、励磁部31、角度情報演算部32、及び情報取得部33を備えている。また、制御装置30は、回転電機制御部34を備えている。
【0022】
制御装置30の各機能は、制御装置30が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置30は、
図5に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93、及び外部装置とデータ通信を行う通信回路94等を備えている。
【0023】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、及び演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。入力回路92には、第1出力巻線53、第2出力巻線54、電流センサ65、66が接続されている。入力回路92は、これらの信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93には、励磁巻線52、電力変換器6が接続され、これらを駆動するためのスイッチング素子、ローパスフィルタ回路31b、アンプ回路31、ゲート駆動回路等の駆動回路を備えている。通信回路94は、外部装置95と通信を行う。
【0024】
そして、制御装置30が備える各処理部31~34等の各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、出力回路93、及び通信回路94等の制御装置30の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各処理部31~34等が用いる変調率K等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。以下、制御装置30の各機能について詳細に説明する。
【0025】
<励磁部31>
励磁部31は、励磁用の交流電圧VRを生成し、励磁巻線52に交流電圧VRに応じた励磁電圧Vexを印加する。後述するように、励磁部31は、回転電機の動作状態に基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅を変化させる。励磁部31は、PWM制御(Pulse Width Modulation)により励磁用の交流電圧VRを生成する。PWM制御周期Tcは、励磁用の交流電圧VRの励磁周期Texよりも短くされている。
【0026】
例えば、励磁部31は、励磁周期Tex(励磁周波数fex)で振動する正弦波の励磁用の交流電圧指令値Vinを演算する。励磁用の交流電圧指令値Vinは、励磁用の交流電圧VRに対応する。励磁部31は、回転電機の動作状態に基づいて、励磁用の交流電圧指令値Vinを変化させる。
【0027】
図6に示すように、励磁部31は、交流電圧指令値Vinと三角波Cexとの比較結果に基づいて、出力回路93に設けられた励磁巻線用のスイッチング素子をオンオフするPWM信号を生成する。三角波Cexは、0と電源電圧Vcとの間を、PWM制御周期Tcで振動する三角波とされている。励磁部31は、三角波Cexが交流電圧指令値Vinを下回った場合は、スイッチング素子をオンし、電源電圧Vcを励磁巻線52側に印加させ、三角波Cexが交流電圧指令値Vinを上回った場合は、スイッチング素子をオフし、電源電圧Vcの印加を停止する(0Vを励磁巻線52側に印加させる)。
【0028】
本実施の形態では、励磁部31は、上述したPWM信号を生成するPWM信号生成部31aと、ローパスフィルタ回路31bの出力信号を電流に変換し、励磁巻線52に供給するアンプ回路31cと、備えている。
【0029】
PWM信号に対してローパスフィルタをかけることにより、正弦波状の電圧信号が生成される。ローパスフィルタ回路31bは、高周波成分を急峻に除去したい場合には、2段以上の1次フィルタを設ければよい。アンプ回路31cは、正弦波状の電圧信号を正弦波状の電流に変換し、励磁巻線52に供給する。アンプ回路31cは、差動電圧入力・差動電流出力回路とされている。アンプ回路31cに入力される電圧と、アンプ回路31cから出力され、励磁巻線に印加される励磁電圧Vexとは、予め設定されたゲイン及びオフセットを有する一次関数の関係になる。アンプ回路31cから出力される励磁電圧Vexには、後述するように、回路性能により定まる出力可能範囲-Vmax~Vmaxがあり、励磁電圧Vexは、出力可能範囲により上下限制限され、出力可能範囲を超えた電圧を励磁巻線に印加できない。
【0030】
後述する界磁巻線による外乱磁束が生じていない状態では、正弦波状の励磁用の交流電圧指令値Vinの振幅がVc/2以下の場合は、電圧飽和が生じず、正弦波状の励磁用の交流電圧指令値Vinに応じた正弦波状の励磁用の交流電圧VRを励磁巻線52側に出力でき、励磁用の交流電圧VRの正弦波からの歪みを抑制できる。励磁用の交流電圧指令値Vinの振幅を、Vc/2で除算した値を、変調率Kと定義する。励磁用の交流電圧指令値Vinの振幅がVc/2である場合は、変調率Kが1になる。一方、界磁巻線による外乱磁束が生じている状態では、界磁巻線の外乱磁束による励磁用の交流電圧VRの正弦波からの歪みを抑制するために、後述するように、励磁用の交流電圧指令値Vinの振幅(変調率K、励磁用の交流電圧VRの振幅)が変化される。なお、本実施の形態では、界磁巻線による外乱磁束が生じていない状態で、変調率K=1の励磁用の交流電圧指令値Vinを生成した場合の、励磁電圧Vexの振幅は、出力可能範囲-Vmax~Vmaxに収まる。
【0031】
<角度情報演算部32>
角度情報演算部32は、出力巻線の出力信号に基づいての角度情報を演算する。角度情報演算部32は、第1出力信号S1及び第2出力信号S2から角度情報を演算する。例えば、特許第7186846号のように、励磁周期Texで振動する第1出力信号S1及び第2出力信号S2の山及び谷のタイミングで検出した第1出力信号S1と第2出力信号S2の比に対して逆正接を演算することで検出角を演算し、検出角の変化量から回転速度を演算する。
【0032】
或いは、特開2013-72867号公報のように、角度情報演算部32は、山及び谷のタイミングで検出した第1出力信号S1及び第2出力信号S2をフィードバック処理して得られるレゾルバ角速度から回転速度を演算し、レゾルバ角速度を積分することで検出角を演算してもよい。角度情報として、必要に応じて、検出角のみ、あるいは回転速度のみが演算されてもよい。
【0033】
図7に示すように、角度情報演算部32は、出力巻線の出力信号に対して回転電機等からの外乱ノイズを除去するバンドパスフィルタ32aを有してもよい。例えば、バンドパスフィルタ32aを、出力信号の増幅率が可変できるアクティブフィルタで構成して、A/D分解能が低下しないように出力信号の増幅を行うとよい。なお、使用時の周波数帯域が限定される場合などには、バンドパスフィルタ32aの代わりにハイパスフィルタを用いてもよい。
【0034】
<回転電機制御部34>
回転電機制御部34は、電力変換器6を介して、回転電機を制御する。回転電機制御部34は、外部からの動作指令および角度情報演算部32から得られた角度情報に基づいて、電機子巻線の3相の交流電圧指令値を演算し、3相の電圧指令値に基づいてPWM制御により、電力変換器(インバータ)のスイッチング素子をオンオフする。回転電機制御部34は、外部からの動作指令および角度情報演算部32から得られた角度情報に基づいて、界磁巻線の電圧指令値を演算し、電圧指令値に基づいてPWM制御により、電力変換器(コンバータ)のスイッチング素子をオンオフする。外部の動作指令としては、トルク指令値又は回転速度指令値などが挙げられる。各電圧指令値の演算方法及びPWM制御には、各種の公知の方法が用いられる。
【0035】
例えば、回転電機制御部34は、外部からの動作指令及び直流電圧及び回転速度に基づいて、界磁巻線の電流指令値を演算し、電流指令値に基づいて界磁巻線の電圧指令値を演算する。界磁巻線を流れる電流Ifを検出する電流センサが設けられ、界磁巻線の電流Ifが検出される。界磁巻線の電流Ifが、界磁巻線の電流指令値に近づくように、電圧指令値が変化されるフィードバック制御が行われるとよい。
【0036】
力行運転時は、回転電機制御部34は、外部からの動作指令及び直流電圧及び回転速度に基づいて、電機子巻線の電流指令値を演算し、電流指令値及び角度情報に基づいて電機子巻線の電圧指令値を演算する。電機子巻線を流れる電流を検出する電流センサが設けられ、電機子巻線の電流が検出される。電機子巻線の電流が、電機子巻線の電流指令値に近づくように、電圧指令値が変化されるフィードバック制御が行われるとよい。なお、電流センサは必須では無く、フィードフォワード制御を実施してもよい。
【0037】
回生運転時は、回転速度が小さい場合は、回転電機制御部34は、力行運転時と同様に、電流指令値及び電圧指令値を演算し、PWM制御を実行する。回転速度が大きい場合は、回転電機制御部34は、電力変換器(インバータ)のスイッチング素子を全てオフするダイオード整流制御、又は誘起電圧によって発生する電流が流れるスイッチング素子をオンする同期整流制御を実行する。例えば、特開2016-195514号公報のような方式がある。なお、回生運転時に、力行運転時と同様の制御を行わずに、ダイオード整流制御又は同期整流制御のみを実行してもよい。或いは、回生運転時に、ダイオード整流制御又は同期整流制御を行わずに、力行運転時と同様の制御のみを実行してもよい。
【0038】
<励磁用の交流電圧VRの振幅変化の必要性>
図8は、界磁巻線に電流を流した状態における磁束を模式的に示す。回転電機の回転子4にて発生した磁束は、回転軸8を通って回転軸8の先端に取り付けられたレゾルバ回転子51まで到達する。レゾルバ回転子51が取り付けられた回転軸8の先端は、N極又はS極になる。回転軸8の先端では中心から放射状に湧き出すような磁束が生じる。回転軸8及びレゾルバ回転子51が回転中心に対して偏芯している場合には、励磁巻線52に鎖交する鎖交磁束φnは、回転軸8が1回転する間に強弱が少なくとも1回変化する。この時の鎖交磁束φnは、回転軸の回転速度をωmとすると、式(1)で与えられる。鎖交磁束の振幅φn0は、偏芯量が大きいほど大きく、界磁巻線により発生した磁束が大きいほど大きくなる。なお、式(1)では、簡単化して回転1次の成分のみで表しているが、他の高調波成分が存在しても同様の効果を得ることができる。
【数1】
【0039】
前述のように、励磁巻線に外乱磁束が作用していない状態では、励磁周波数fexの正弦波電流が流れるように励磁電圧Vexが励磁巻線に印加されており、励磁電圧Vexは、ローパスフィルタ回路31bの出力電圧から励磁電圧Vexまでの伝達関数をGとすると、式(2)で与えることができる。ここで、Kは、励磁用の交流電圧指令値Vinの振幅(励磁用の交流電圧VRの振幅)を、Vc/2で除算した変調率である。
【数2】
【0040】
励磁巻線の励磁電圧Vexの出力可能範囲が-Vmax~Vmaxである場合、1以下の安全率Sfを用いて式(3)をみたす必要がある。本実施の形態では、出力可能範囲は、アンプ回路31cの仕様によって定まっている。なお、安全率Sfは、回路ばらつきを考慮して設定すればよい。外乱磁束による外乱ノイズが重畳していない状態では、励磁巻線の励磁電圧Vexが出力可能範囲にあるため、励磁電圧Vexは、
図9のように励磁周波数fexの正弦波となる。
【数3】
【0041】
しかしながら、式(1)の回転軸の偏芯により生じた、界磁巻線による鎖交磁束φnの回転周期変動(外乱磁束)が入ると、励磁巻線に印加される励磁電圧Vexは式(4)のようになり、
図10のような波形となる。第2項が、外乱磁束による、励磁電圧Vexの回転周期変動成分(外乱ノイズ)であり、鎖交磁束φnの時間微分値であり、誘導起電力である。
【数4】
【0042】
式(4)の第2項の振幅は、鎖交磁束の振幅φn0又は回転速度ωmが大きくなるに従って、大きくなるため、負荷および回転速度が大きい場合に励磁電圧Vexの振幅は大きくなる。特に、式(4)の第1項と第2項の周波数は異なるため、両方の振幅が最大となるタイミングが重なったときに励磁電圧Vexの振幅は最大となる。励磁電圧Vexの振幅が、出力可能範囲-Vmax~Vmaxにより上下限制限されないためには、式(5)をみたす必要がある。
【数5】
【0043】
式(5)を動作領域全域でみたすためには、偏芯量が公差の最悪値(最大値)かつ界磁巻線に流れる電流Ifが最大値Ifmaxのときの鎖交磁束の振幅φn0をφn0_maxとし、回転電機の動作可能回転速度の最大値をωm_maxとすると、式(6)をみたす必要がある。
【数6】
【0044】
式(6)の範囲を逸脱し、励磁電圧Vexが出力可能範囲-Vmax~Vmaxに上下限されると、
図11のように励磁電圧Vexのピーク値が上下限制限され、波形が歪む。つまり、偏芯が無い場合には式(2)の信号が得られるが、偏芯があり励磁電圧Vexの振幅が出力可能範囲を超過する場合には、式(4)に対して、ピーク値が上下限制限された歪んだ信号となる。励磁電圧Vexが歪むと、第1出力信号S1及び第2出力信号S2が歪み、波形歪みの影響は検出角誤差として表れる。
【0045】
また、動作領域全域で式(6)をみたすように励磁電圧Vexの振幅を決定すると、界磁巻線を流れる電流が小さい場合、又は回転速度が小さい場合には式(4)の第2項は小さくなるため、必要以上に振幅が減少されることとなる。その結果、不必要に、励磁電圧Vex、第1出力信号S1、及び第2出力信号S2の振幅が小さくなり、S/N比が悪化したり分解能が粗くなったりして、検出角の精度悪化につながる。
【0046】
<回転電機の動作状態に応じた励磁用の交流電圧VRの振幅変化>
そこで、本実施の形態では、情報取得部33は、回転電機の動作状態を取得し、励磁部31は、回転電機の動作状態に基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させる。
【0047】
レゾルバは、回転電機に隣接配置されているので、回転電機から生じた外乱磁束の影響を受ける。回転電機の動作状態が変化すると、回転電機の外乱磁束が変化し、励磁電圧Vexへの影響が変化する。回転電機の動作状態に基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅を変化させることにより、外乱磁束による変動後の励磁電圧Vexの変化幅が大きくなり過ぎないようにでき、角度情報の検出誤差を抑制することができる。
【0048】
本実施の形態では、回転電機は界磁巻線を備えており、界磁巻線が生じた磁束が、回転軸を介して伝達し、励磁巻線に鎖交する。回転軸が偏芯すると鎖交磁束φnが回転周期で変動し、励磁電圧Vexが鎖交磁束φnの時間微分値により変動する。鎖交磁束φnの時間微分値は、回転電機の動作状態により変動する。回転電機の動作状態に基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させることで、鎖交磁束φnによる変動後の励磁電圧Vexの変化幅が大きくなり過ぎないようにでき、角度情報の検出誤差を抑制することができる。
【0049】
励磁部31は、回転電機からの外乱磁束による外乱ノイズが重畳した場合の励磁電圧Vexの変化範囲が、出力可能範囲内になるように、回転電機の動作状態に基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させる。
【0050】
上述したように、外乱ノイズの重畳により励磁電圧Vexの振幅が、出力可能範囲-Vmax~Vmaxにより上下限制限されると、励磁電圧Vexのピーク値が上下限制限され、励磁電圧Vexの波形が歪み、第1出力信号S1及び第2出力信号S2が歪み、波形歪みの影響は検出角誤差として表れる。上記の構成によれば、回転電機からの外乱磁束による外乱ノイズが重畳した場合でも、励磁電圧Vexの振幅が、出力可能範囲-Vmax~Vmaxにより上下限制限されないようにでき、励磁電圧Vex、第1出力信号S1、及び第2出力信号S2の歪みを抑制でき、角度情報の検出誤差を抑制することができる。
【0051】
本実施の形態では、外乱ノイズとして、偏芯量が公差の最悪値(最大値)である場合に、回転軸の偏芯による、鎖交磁束φnの回転周期変動により生じた、励磁電圧Vexの回転周期変動成分が想定されている。偏芯量の公差の最悪値は、設計時に予め把握でき、その場合の励磁電圧Vexの回転周期変動成分も、設計時に予め把握できる。
【0052】
<界磁巻線の電流Ifによる振幅変化>
情報取得部33は、回転電機の動作状態として、界磁巻線を流れる電流Ifを取得する。界磁巻線の電流Ifは、電流センサにより検出されてもよいし、界磁巻線の電圧指令値又は界磁巻線の電流指令値に基づいて推定されてもよい。励磁部31は、界磁巻線の電流Ifに基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させる。
【0053】
界磁巻線の電流Ifが大きくなるに従って、界磁巻線が生じる磁束が大きくなり、偏芯の発生時の鎖交磁束の振幅φn0が大きくなり、励磁電圧Vexの変動量が大きくなる。界磁巻線の電流Ifに基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させることで、鎖交磁束φnによる変動後の励磁電圧Vexの変化幅が大きくなり過ぎないようにでき、角度情報の検出誤差を抑制することができる。
【0054】
本実施の形態では、励磁部31は、界磁巻線の電流Ifが増加するに従って、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を減少させる。
【0055】
この構成によれば、界磁巻線の電流Ifが増加し、励磁電圧Vexの変動量が増加するに従って、励磁用の交流電圧VRの振幅を減少させ、鎖交磁束φnによる変動後の励磁電圧Vexの変化幅が大きくなり過ぎないようにでき、角度情報の検出誤差を抑制することができる。
【0056】
例えば、
図12に示すように、界磁巻線の電流Ifに応じて変調率Kが設定されればよい。なお、変調率Kに電源電圧の半分値Vc/2を乗算した値が、励磁用の交流電圧VRの振幅になる。界磁巻線の電流Ifと変調率Kとの関係が予め設定されたマップデータが用いられるとよい。
【0057】
左辺が変調率Kになるように、式(6)を変形して、変調率Kを最小変調率Kminに置き換えると式(7)を得る。界磁巻線の電流Ifが界磁巻線の電流の最大値Ifmaxである場合に設定される変調率である最小変調率Kminは、式(7)が満たされるように設定されればよい。ここで、φn0_maxは、偏芯量が公差の最悪値であり、界磁巻線の電流Ifが最大値Ifmaxである場合の鎖交磁束の振幅φn0である。ωm_maxは、回転電機の力行運転が可能な最大回転速度である。最小変調率Kminは、偏芯量が公差の最悪値であり、回転速度が力行運転可能な最大回転速度ωm_maxであり、界磁巻線の電流が最大値Ifmaxである場合において、励磁電圧Vexの振幅が、出力可能範囲-Vmax~Vmaxにより上下限制限されないような変調率である。励磁電圧Vexの振幅を最大限に大きくし、S/N比及び分解能を良好にするためには、式(7)を満たす最小変調率Kminの最大値が設定されればよい。すなわち、式(7)において左辺と右辺とを等号により接続すればよい。適切な安全率Sfが設定されれば特に問題ない。
【数7】
【0058】
また、左辺が鎖交磁束の振幅φn0になるように、式(5)を変形し、変調率K=1に設定し、回転速度ωmを、力行運転可能な最大回転速度ωm_maxに置き換えると式(8)を得る。式(8)が満たされる鎖交磁束の振幅φn0の範囲が、偏芯量が公差の最悪値であり、回転速度が力行運転可能な最大回転速度ωm_maxである場合において変調率K=1に設定できる範囲である。変調率K=1に設定できる鎖交磁束の振幅φn0の範囲内に、変調率K=1に設定する鎖交磁束の最大振幅φn1を設定する。そして、偏芯量が公差の最悪値であり、回転速度が力行運転可能な最大回転速度ωm_maxである場合において、鎖交磁束の最大振幅φn1を生じる界磁巻線の電流Ifを、変調率K=1に設定する界磁巻線の最大電流If1に設定する。励磁電圧Vexの振幅を最大限に大きくし、S/N比及び分解能を良好にするためには、式(8)を満たす鎖交磁束の振幅φn0の最大値に対応する界磁巻線の最大電流If1が設定されればよい。すなわち、式(8)において左辺と右辺とを等号により接続すればよい。適切な安全率Sfが設定されれば特に問題ない。
【数8】
【0059】
そして、
図12に示すように、励磁部31は、界磁巻線の電流Ifが、0から、変調率K=1に設定する界磁巻線の最大電流If1の範囲である場合は、変調率Kを1に設定する。励磁部31は、界磁巻線の電流Ifが、変調率K=1に設定する界磁巻線の最大電流If1から、界磁巻線の電流の最大値Ifmaxに近づくに従って、変調率Kを1から最小変調率Kminに次第に減少する。
図12の例では、直線で結ばれているが、直線でなくてもよい。
【0060】
<回転速度ωmによる振幅変化>
情報取得部33は、回転電機の動作状態として、回転電機の回転速度ωmを取得する。回転速度ωmは、角度情報演算部32の角度情報に基づいて算出される。励磁部31は、回転電機の回転速度ωmに基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させてもよい。
【0061】
式(4)を用いて説明したように、回転速度ωmが大きくなるに従って、偏芯の発生時に回転周期で変動する鎖交磁束φnの時間微分値が大きくなり、励磁電圧Vexの変動量が大きくなる。回転電機の回転速度ωmに基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させることで、鎖交磁束φnによる変動後の励磁電圧Vexの変化幅が大きくなり過ぎないようにでき、角度情報の検出誤差を抑制することができる。
【0062】
本実施の形態では、励磁部31は、回転電機の回転速度ωmが増加するに従って、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を減少させる。
【0063】
この構成によれば、回転電機の回転速度ωmが増加し、励磁電圧Vexの変動量が増加するに従って、励磁用の交流電圧VRの振幅を減少させ、鎖交磁束φnによる変動後の励磁電圧Vexの変化幅が大きくなり過ぎないようにでき、角度情報の検出誤差を抑制することができる。
【0064】
例えば、
図13に示すように、回転電機の回転速度ωmに応じて変調率Kが設定されればよい。回転速度ωmと変調率Kとの関係が予め設定されたマップデータが用いられるとよい。
【0065】
回転速度ωmが、力行運転可能な最大回転速度ωm_maxである場合に、変調率Kに設定される最小変調率Kminは、式(7)を用いて説明したように設定される。
【0066】
左辺が回転速度ωmになるように、式(5)を変形し、変調率K=1に設定し、鎖交磁束の振幅φn0を、偏芯量が公差の最悪値であり、界磁巻線の電流Ifが最大値Ifmaxである場合の鎖交磁束の振幅φn0_maxに置き換えると式(9)を得る。式(9)が満たされる回転速度ωmの範囲が、偏芯量が公差の最悪値であり、界磁巻線の電流Ifが最大値Ifmaxである場合において変調率K=1に設定できる範囲である。変調率K=1に設定できる回転速度ωmの範囲内に、変調率K=1に設定する最大回転速度ωm1を設定する。励磁電圧Vexの振幅を最大限に大きくし、S/N比及び分解能を良好にするためには、式(9)を満たす回転速度ωmの最大値が設定されればよい。すなわち、式(9)において左辺と右辺とを等号により接続すればよい。適切な安全率Sfが設定されれば特に問題ない。
【数9】
【0067】
そして、
図13に示すように、励磁部31は、回転速度ωmが、0から、変調率K=1に設定する最大回転速度ωm1の範囲である場合は、変調率Kを1に設定する。励磁部31は、回転速度ωmが、変調率K=1に設定する最大回転速度ωm1から、力行運転可能な最大回転速度ωm_maxに近づくに従って、変調率Kを1から最小変調率Kminに次第に減少する。
図13の例では、直線で結ばれているが、直線でなくてもよい。
【0068】
<界磁巻線の電流If及び回転速度ωmによる振幅変化>
図12は、回転速度ωmが、力行運転可能な最大回転速度ωm_maxであると仮定して、界磁巻線の電流Ifに応じて変調率Kを設定する場合の設定例であった。
図13は、界磁巻線の電流Ifが最大値Ifmaxであると仮定して、回転速度ωmに応じて変調率Kを設定する場合の設定例であった。しかし、励磁電圧Vexの変動量は、界磁巻線の電流If及び回転速度ωmに応じて変化する。
【0069】
そこで、励磁部31は、界磁巻線の電流If及び回転電機の回転速度ωmに基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させてもよい。この場合も、励磁部31は、界磁巻線の電流Ifが増加するに従って、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を減少させる。また、励磁部31は、回転電機の回転速度ωmが増加するに従って、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を減少させる。また、励磁部31は、回転電機からの外乱磁束による外乱ノイズが重畳した場合の励磁電圧Vexの変化範囲が、出力可能範囲内になるように、界磁巻線の電流If及び回転電機の回転速度ωmに基づいて、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を変化させる。
【0070】
左辺が変調率Kになるように、式(5)を変形すると式(10)を得る。ここで、φn0は、偏芯量が公差の最悪値であり、界磁巻線の電流Ifが各動作点である場合の鎖交磁束の振幅である。式(10)が満たされる変調率Kの範囲が、偏芯量が公差の最悪値である場合において、界磁巻線の電流Ifの各動作点、及び回転速度ωmの各動作点において、励磁電圧Vexの振幅が出力可能範囲-Vmax~Vmaxにより上下限制限されない範囲である。励磁電圧Vexの振幅を最大限に大きくし、S/N比及び分解能を良好にするためには、界磁巻線の電流Ifの各動作点、及び回転速度ωmの各動作点において、式(10)を満たす変調率Kの最大値が設定されればよい。すなわち、式(10)において左辺と右辺とを等号により接続すればよい。適切な安全率Sfが設定されれば特に問題ない。設定可能な変調率Kの最大値は1であるので、式(10)により設定された変調率Kは、1で上限制限される。
【数10】
【0071】
界磁巻線の電流Ifの各動作点、及び回転速度ωmの各動作点において、式(10)を満たすように設定された変調率Kは、マップデータに予め設定されてもよい。すなわち、界磁巻線の電流Ifと回転速度ωmと変調率Kとの関係が予め設定されたマップデータが用いられてもよい。
【0072】
<第1出力信号S1及び第2出力信号の出力可能範囲を用いた振幅変化>
ここまで、励磁電圧Vexの振幅が出力可能範囲-Vmax~Vmaxにより上下限制限されない変調率Kの設定方法を説明した。しかし、第1出力信号S1及び第2出力信号S2にも、出力可能範囲が存在する。この出力可能範囲は、A/D変換器のA/D変換可能な電圧範囲によって定まる。例えば、式(11)に示すように、第1出力信号S1及び第2出力信号S2は、励磁電圧Vexに対して、正弦波又は余弦波と、ゲインAとを乗算し、オフセットCを加算した値になる。
【数11】
【0073】
例えば、第1出力信号S1及び第2出力信号S2の出力可能範囲の最大値をVsmaxとすると、上記の各式のVmaxに、次式が代入された式を用いて、同様の考え方で、変調率Kを設定することができる。
【数12】
【0074】
なお、外乱磁束による励磁電圧Vexの変動による間接的な出力信号の変動だけでなく、外乱磁束による直接的な出力信号の変動も考慮されてもよい。
【0075】
<力行運転の最大回転速度、回生運転の最大回転速度に応じた振幅変化>
力行運転時、及び回転速度が小さい領域での回生運転時に、検出角を用いて電機子巻線の電圧指令値を演算する場合には、検出角誤差によって回転電機の出力トルク、又は出力電流の制御精度が悪化する。そのため、これらの運転時には検出角誤差を抑制したい。一方、ダイオード整流制御又は同期整流制御による回生運転時には、S/N比の低下によって検出角に含まれる回転n次の誤差が大きくなっても、回転速度が大きい場合には回転速度誤差としては小さくなり、また誤差が大きい場合にはローパスフィルタを通して回転速度を演算すればよい。したがって、回転速度を用いて生成する電流指令値の精度はそれほど悪化しないため、所望の出力トルクあるいは出力電流を得ることが可能である。
【0076】
そこで、励磁部31は、回転速度ωmが、力行運転が可能な最大回転速度ωm_maxよりも大きくなった場合に、回転速度ωmが、力行運転が可能な最大回転速度ωm_max以下である場合よりも、励磁用の交流電圧VRの振幅(変調率K)を減少させる。
【0077】
この構成によれば、検出角が必要な力行運転時は、励磁電圧Vexの振幅を大きくし、S/N比及び分解能を良好にできる。例えば、励磁部31は、回転速度ωmが、力行運転が可能な最大回転速度ωm_max以下の場合は、変調率Kを1に設定し、回転速度ωmが、力行運転が可能な最大回転速度ωm_maxより大きい場合は、変調率Kを1未満に設定する。この場合は、
図13の例と異なり、力行運転可能な最大回転速度ωm_maxにおいて、変調率Kを1に設定できるように、式(7)の右辺の各パラメータが設定されている。
【0078】
図14は、変調率Kを急変させたときの励磁電圧Vexであるが、変調率Kの急変前後の検出角が一瞬不連続になるため、変調率Kの変化を滑らかにして不連続箇所を無くしたい。
【0079】
そこで、
図15に示すように、励磁部31は、回転速度ωmが、0から、力行運転可能な最大回転速度ωm_maxの範囲である場合は、変調率Kを1に設定する。励磁部31は、回転速度ωmが、力行運転が可能な最大回転速度ωm_maxから回生運転が可能な最大回転速度ωm_maxgenに近づくに従って、変調率Kを1から次第に減少させる。
図15の例では、変調率Kは、1から最小変調率Kminまで次第に減少されている。
【0080】
<その他の実施の形態>
上記の実施の形態では、変調率Kの最大設定値が1であったが、伝達関数G及び励磁電圧Vexの出力可能範囲を考慮して最適な値に設定されればよいため、1未満の値に設定されてもよい。
【0081】
上記の実施の形態では、回転子に界磁巻線を有する回転電機について説明したが、回転子に永久磁石を備える永久磁石式の回転電機であってもよい。この場合でも、回転軸を通じて湧き出し磁束は発生するため、回転速度ωmに基づいて変調率Kを変化させることで、同様の効果を得ることができる。特に、コンシクエントポール型の回転電機の場合には湧き出し磁束が大きくなりやすいため、改善効果が大きくなる。
【0082】
上記の実施の形態では、角度検出装置1は、回転電機の制御装置30に組み込まれていたが、角度検出装置1は、回転電機の制御装置30と別体であってもよい。この場合は、角度検出装置1は、回転電機の制御装置30と通信し、角度情報及び回転電機の動作状態を伝達する。
【0083】
上記の実施の形態では、励磁部31は、アンプ回路31cを備えていたが、アンプ回路31cを備えておらず、ローパスフィルタ回路31bの出力電圧が、励磁巻線52に供給されてもよい。この場合は、励磁用の交流電圧VRが、励磁電圧Vexになる。
【0084】
上記の実施の形態では、1組の励磁巻線及び出力巻線が設けられていたが、複数組の励磁巻線及び出力巻線が設けられてもよい。この場合は、各組について、励磁用の交流電圧VRの振幅が変化される。
【0085】
<本願の諸態様のまとめ>
以下、本願の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
回転電機の回転軸に固定され、突極を有する回転子と、励磁巻線及び出力巻線を有する固定子と、を備えたレゾルバと、
励磁用の交流電圧を生成し、前記励磁巻線に前記励磁用の交流電圧に応じた励磁電圧を印加する励磁部と、
前記出力巻線の出力信号に基づいての角度情報を演算する角度情報演算部と、
前記回転電機の動作状態を取得する状態取得部と、を備え、
前記励磁部は、前記回転電機の動作状態に基づいて、前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる角度検出装置。
【0086】
(付記2)
前記回転電機は、界磁巻線を備える付記1に記載の角度検出装置。
【0087】
(付記3)
前記状態取得部は、前記回転電機の動作状態として、前記界磁巻線を流れる電流を取得し、
前記励磁部は、前記界磁巻線の電流に基づいて、前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる付記2に記載の角度検出装置。
【0088】
(付記4)
前記励磁部は、前記界磁巻線の電流が増加するに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる付記3に記載の角度検出装置。
【0089】
(付記5)
前記状態取得部は、前記回転電機の動作状態として、前記回転電機の回転速度を取得し、
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度に応じて前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる付記1から4のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【0090】
(付記6)
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が増加するに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる付記5に記載の角度検出装置。
【0091】
(付記7)
前記回転電機は、界磁巻線を備え、
前記状態取得部は、前記界磁巻線を流れる電流及び前記回転電機の回転速度を取得し、
前記励磁部は、前記界磁巻線の電流及び前記回転電機の回転速度に応じて前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる付記1に記載の角度検出装置。
【0092】
(付記8)
前記励磁部は、前記界磁巻線の電流が増加するに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させると共に、前記回転電機の回転速度が増加するに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる付記7に記載の角度検出装置。
【0093】
(付記9)
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な最大回転速度よりも大きくなった場合に、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な前記最大回転速度以下である場合よりも、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる付記5又は6に記載の角度検出装置。
【0094】
(付記10)
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な最大回転速度から前記回転電機の回生運転が可能な最大回転速度に近づくに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を次第に減少させる付記5、6、及び9のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【0095】
(付記11)
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な最大回転速度よりも大きくなった場合に、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な前記最大回転速度以下である場合よりも、前記励磁用の交流電圧の振幅を減少させる付記7又は8に記載の角度検出装置。
【0096】
(付記12)
前記励磁部は、前記回転電機の回転速度が、前記回転電機の力行運転が可能な最大回転速度から前記回転電機の回生運転が可能な最大回転速度に近づくに従って、前記励磁用の交流電圧の振幅を次第に減少させる付記7、8、及び11のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【0097】
(付記13)
前記励磁部は、PWM制御により前記励磁巻線に励磁用の交流電圧を生成する付記1から12のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【0098】
(付記14)
前記励磁部は、PWM信号を生成するPWM信号生成部と、前記PWM信号に対してローパスフィルタを行うローパスフィルタ回路と、前記ローパスフィルタ回路の出力信号を電流に変換し、前記励磁巻線に供給するアンプ回路と、備える付記1から13のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【0099】
(付記15)
前記励磁部は、前記回転電機からの外乱磁束による外乱ノイズが重畳した場合の前記励磁電圧又は前記出力巻線の出力信号の変化範囲が、出力可能範囲内になるように、前記回転電機の動作状態に基づいて、前記励磁用の交流電圧の振幅を変化させる付記1から14のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【0100】
(付記16)
前記角度情報演算部は、前記出力巻線の出力信号に対して前記回転電機からの外乱ノイズを除去するハイパスフィルタを有する付記1から14のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【0101】
(付記17)
前記角度情報演算部は、前記出力巻線の出力信号に対して前記回転電機からの外乱ノイズを除去するバンドパスフィルタを有する付記1から14のいずれか一項に記載の角度検出装置。
【0102】
(付記18)
前記角度情報演算部は、前記出力巻線の出力信号に対して前記回転電機からの外乱ノイズを除去するハイパスフィルタを有する付記15に記載の角度検出装置。
【0103】
(付記19)
前記角度情報演算部は、前記出力巻線の出力信号に対して前記回転電機からの外乱ノイズを除去するバンドパスフィルタを有する付記15に記載の角度検出装置。
【0104】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0105】
1:角度検出装置、2:回転電機、5:レゾルバ、8:回転軸、31:励磁部、31a:PWM信号生成部、31b:ローパスフィルタ回路、31c:アンプ回路、32:角度情報演算部、32a:バンドパスフィルタ、33:情報取得部、34:回転電機制御部、51:レゾルバ回転子、52:励磁巻線、53:第1出力巻線、54:第2出力巻線、55:レゾルバ固定子、VR:励磁用の交流電圧、Vex:励磁電圧、ωm:回転速度、ωm_max:力行運転が可能な最大回転速度、ωm_maxgen:回生運転が可能な最大回転速度