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特開2024-126818セラミック電子部品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024126818
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】セラミック電子部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 512
H01G4/30 513
H01G4/30 515
H01G4/30 516
H01G4/30 517
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
H01G4/30 201K
H01G4/30 311D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035477
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】増田 秀俊
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AE04
5E001AH01
5E001AH03
5E001AJ01
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC35
5E082BC38
5E082EE04
5E082EE05
5E082EE23
5E082EE35
5E082EE37
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082LL02
5E082PP03
5E082PP09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】絶縁信頼性と内部電極層の連続性とが共に向上したセラミック電子部品を及びセラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】積層セラミックコンデンサ100は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層11と、複数の内部電極層12と、が積層された容量部を含む素体10を備え、容量部内に、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の全ての元素を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、複数の内部電極層と、が交互に積層された容量部を含む素体を備え、
前記容量部は、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を含む、セラミック電子部品。
【請求項2】
前記誘電体層と前記内部電極層との界面に、Auと、Feと、前記容量部がCrを含む場合にはCrとが偏析し、前記誘電体層を形成する誘電体結晶粒界に、Al又はCrと、Feと、Siとが偏析している、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記容量部において、Al又はCrの含有量は、前記内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して、合計で0.001at%以上10at%以下である、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記容量部において、Auの含有量は、前記内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下である、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記誘電体結晶粒界において、Auの含有量は、0.00001at%以下である、請求項4に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記容量部において、Feの含有量は、前記内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下である、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記容量部において、Siの含有量は、前記内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下である、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
複数の前記誘電体層と、複数の前記内部電極層とは、それぞれの層の厚みが1μm以下である、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記誘電体層は、チタン酸バリウムである、請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記主成分金属は、Niである、請求項3から9のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
誘電体グリーンシート上に、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成することと、
複数の前記積層単位を積層することによって焼成前の容量部を形成することと、
前記焼成前の容量部を焼成して容量部とすることと、
を含むセラミック電子部品の製造方法。
【請求項12】
前記内部電極パターンを形成することは、真空成膜プロセスによるものである、請求項11に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項13】
前記内部電極パターンを形成する方法は、印刷によるものである、請求項11に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、電子機器に搭載される積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品についても、更なる小型化が求められている。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、複数の内部電極層と、が交互に積層された容量部を含む素体を備えるセラミック電子部品である。このようなセラミック電子部品を小型化・大容量化するための手段としては、誘電体層を薄くして一層あたりの容量値を大きくすること、加えて、誘電体層及び内部電極層を薄層化して、規定の厚さにおける積層数を増加させることが挙げられる。
【0004】
しかしながら、誘電体層を薄くすると、誘電体層に印加される電界強度が大きくなるため、電圧印加時における絶縁信頼性が低下するおそれがある。
【0005】
また、積層セラミックコンデンサは、通常、誘電体層と内部電極層とを一体焼成して作製されるため、内部電極層を薄くすると、焼成時の熱衝撃等によって断裂が発生し易くなり、内部電極層の連続性が低下するおそれがある。積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品において、内部電極層に不連続な箇所が存在していると、内部電極の途切れた箇所に隣接する誘電体層部分は、使用時に電圧が印加されないため、静電容量に寄与しないことが知られている。
【0006】
誘電体層を薄層化した場合であっても、十分な絶縁信頼性を確保することを目的として、内部電極として、NiにSnが添加され、更に、Cu、Ag、Pd、Pt、Rh、Ir、Ru、及びOsのいずれかの金属(元素)Aが、Ni及びSnに固溶した合金(Ni-Sn-A合金)を用いた、積層セラミックコンデンサが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、内部電極層を薄くした場合でも、その連続性を低下させないことを目的として、内部電極層を、Ni及び貴金属(元素)を含むものとした積層セラミックコンデンサが提案されている(特許文献2及び3参照)。特許文献2及び3に記載された積層セラミックコンデンサは、Ni及び貴金属(元素)を含む内部電極層とすることで、焼成時のNiの粒成長を抑制して、内部電極層の途切れを防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-005019号公報
【特許文献2】特開2007-242599号公報
【特許文献3】特開2010-153485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された積層セラミックコンデンサにおいては、内部電極としてNiとSnとの合金が用いられる。NiとSnとの合金は、Snの添加量のわずかな変動で融点が大きく変化するため、融点及びこれに相関のある焼結性を制御することが困難であった。このため、特許文献1に記載された積層セラミックコンデンサは、絶縁信頼性は向上できるものの、内部電極層の連続性については、満足できない場合があった。
【0010】
また、特許文献2及び3に記載された積層セラミックコンデンサにおいては、内部電極層に含有される貴金属が、Niと合金化した状態で内部電極層中に存在するため、誘電体層との界面における電気的障壁の形成には寄与できない状態であった。このため、特許文献2及び3に記載された積層セラミックコンデンサは、内部電極層の連続性については向上できるものの、絶縁信頼性の観点では、更なる向上が求められていた。
【0011】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、誘電体層及び内部電極層を薄くした場合であっても、絶縁信頼性と内部電極層の連続性とを共に向上させることができる、セラミック電子部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた。そして、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、複数の内部電極層と、が積層された容量部を含む素体を備えるセラミック電子部品において容量部内に、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の全ての元素を存在させれば、誘電体層及び内部電極層を薄くした場合であっても、絶縁信頼性と内部電極層の連続性とが共に向上したセラミック電子部品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1]
セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、複数の内部電極層と、が交互に積層された容量部を含む素体を備え、
前記容量部は、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を含む、セラミック電子部品。
[2]
前記誘電体層と前記内部電極層との界面に、Auと、Feと、前記容量部がCrを含む場合にはCrとが偏析し、前記誘電体層を形成する誘電体結晶粒界に、Al又はCrと、Feと、Siとが偏析している、態様[1]に記載のセラミック電子部品。
[3]
前記容量部において、Al又はCrの含有量は、前記内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して、合計で0.001at%以上10at%以下である、態様[1]又は[2]に記載のセラミック電子部品。
[4]
前記容量部において、Auの含有量は、前記内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下である、態様[1]から[3]のいずれか一態様に記載のセラミック電子部品。
[5]
前記誘電体結晶粒界において、Auの含有量は、0.00001at%以下である、態様[4]に記載のセラミック電子部品。
[6]
前記容量部において、Feの含有量は、前記内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下である、態様[1]から[5]のいずれか一態様に記載のセラミック電子部品。
[7]
前記容量部において、Siの含有量は、前記内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下である、態様[1]から[6]のいずれか一態様に記載のセラミック電子部品。
[8]
複数の前記誘電体層と、複数の前記内部電極層とは、それぞれの層の厚みが1μm以下である、態様[1]から[7]のいずれか一態様に記載のセラミック電子部品。
[9]
前記誘電体層は、チタン酸バリウムである、態様[1]から[8]のいずれか一態様に記載のセラミック電子部品。
[10]
前記主成分金属は、Niである、態様[3]から[9]のいずれか一態様に記載のセラミック電子部品。
[11]
誘電体グリーンシート上に、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成することと、
複数の前記積層単位を積層することによって焼成前の容量部を形成することと、
前記焼成前の容量部を焼成して容量部とすることと、
を含むセラミック電子部品の製造方法。
[12]
前記内部電極パターンを形成することは、真空成膜プロセスによるものである、態様[11]に記載のセラミック電子部品の製造方法。
[13]
前記内部電極パターンを形成する方法は、印刷によるものである、態様[11]に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁信頼性と内部電極層の連続性とが共に向上したセラミック電子部品を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2】内部電極層の連続率及び誘電体層と内部電極層との界面の説明のために用いられる断面図である。
図3】実施例1で作製した積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極層との界面の元素分析結果をプロットしたグラフである。
図4】実施例5で作製した積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極層との界面の元素分析結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、実施形態について説明する。
【0017】
<積層セラミックコンデンサ>
積層セラミックコンデンサは、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層された容量部を含む素体と、素体の表面に各々が離間するように形成された少なくとも2つの外部電極と、を備え、各外部電極はそれぞれ、容量部から引き出された一部の内部電極層に接続している。
【0018】
積層セラミックコンデンサの素体は、略直方体形状の外形を有し、素体は、高さ方向に対向する上面と下面、上面と下面に接し素体の長さ方向に対向する2つの端面、及び上面と下面に接し素体の幅方向に対向する2つの側面を有する。
【0019】
積層セラミックコンデンサにおける複数の誘電体層と複数の内部電極層の積層方向は、素体の高さ方向であっても、素体の長さ方向であっても、素体の幅方向であっても、それ以外の方向であってもよい。
【0020】
素体において、容量部の積層方向の最外層には内部電極層が配置され、容量部の最外層の内部電極層は、カバー層によって覆われている。カバー層は、誘電体層及び内部電極層で構成される容量部を、保護するための保護部として機能する。カバー層は素体の高さ方向に対向する上面と下面に配置される場合もあるが、素体と容量部の積層方向との関係によっては、上面と下面以外に配置されてもよい。カバー層は、セラミック材料を主成分としていてもよい。カバー層と誘電体層の材料は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0021】
素体において、容量部の外側には、サイドマージン部が容量部の積層方向に垂直に設けられている。サイドマージン部には、内部電極層は引き出されておらず、誘電体層及び内部電極層で構成される容量部を、保護するための保護部として機能する。すなわちサイドマージン部は、積層方向から見た容量部に隣接した容量部の外側の領域であって、内部電極層が引き出されていない領域である。サイドマージン部は、素体の側面側となる容量部の外側領域に存在する場合もあるが、素体と容量部の積層方向との関係と、素体表面に形成される外部電極の形成面によっては、側面とは異なる面側の容量部の外側領域に存在していてもよいし、あるいは、側面及びその他の面の双方の容量部の外側領域に存在していてもよい。サイドマージン部は、セラミック材料を主成分としていてもよい。サイドマージン部と誘電体層の材料は、同じであっても、異なっていてもよい。サイドマージン部は、静電容量を生じない領域である。
【0022】
素体において、容量部の外側には、内部電極が素体の表面に引き出されているエンドマージン部が設けられている。エンドマージン部は、積層方向から見た容量部に隣接した容量部の外側の領域であって、内部電極層が引き出されている領域である。エンドマージン部は、素体の端面側となる容量部の外側領域に存在する場合もあるが、素体と容量部の積層方向との関係と、素体表面に形成される外部電極の形成表面によっては、端面とは異なる面側の容量部の外側領域に存在していてもよいし、端面及びその他の面の双方の容量部の外側領域に存在していてもよい。エンドマージン部は、内部電極層が引き出される素体の表面が1面であれば1か所、2面であれば2か所存在する。例えば、外部電極が3か所形成された3端子構造など、内部電極層が素体の複数の表面に引き出される場合には、エンドマージン部は複数存在する。エンドマージン部は、セラミック材料を主成分としていてもよい。エンドマージン部と誘電体層の材料は、同じであっても、異なっていてもよい。エンドマージン部は、同一の面に引き出された内部電極層の間に浮遊容量を有する場合があるが、基本的には静電容量を生じないとみなすことができる領域である。
【0023】
複数の内部電極層はそれぞれ、定められた異なるエンドマージン部に引き出され、それぞれのエンドマージン部の外側に設けられた外部電極に、それぞれ電気的に接続されている。内部電極層が引き出されるエンドマージン部は、素体において対向する面のそれぞれの表面領域であってもよいし、素体において隣接する面のそれぞれの表面領域であってもよいし、あるいは、素体において同一面の異なる表面領域であってもよい。外部電極は、互いに離間していれば、素体において、内部電極層が引き出されたエンドマージン部が存在する面から、隣接する素体の他の面へと延在していてもよい。
【0024】
以下、図1を用いて、本発明のセラミック電子部品について説明する。なお、図1は、セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサの一例であり、本発明は本態様に限定されるものではない。
【0025】
図1は、積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1に例示された積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する素体10と、素体10の2端面に設けられた互いに離間した外部電極20a及び20bを備える。なお、素体10の外部電極20a及び20bを備えない4面のうち、素体10の上下方向の面はそれぞれ上面及び下面、素体10の上面及び下面以外の2面は側面である。
【0026】
図1に示される積層セラミックコンデンサ100においては、端面に設けられた外部電極20a及び20bは、素体10の積層方向の上面、下面、及び2つの側面に延在している。ただし、外部電極20a及び20bは、互いに離間している。なお、図1において、X軸方向(第1方向)は、素体10の長さ方向であって、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向(第2方向)は、内部電極層の幅方向である。Z軸方向(第3方向)は、積層方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0027】
図1に示される積層セラミックコンデンサ100においては、素体10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層され、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。一部の内部電極層12は、エンドマージン部16aに引き出されて素体10の外部電極20aが設けられた面の表面に到達し、外部電極20aに電気的に接続されている。他の内部電極層12は、エンドマージン部16b(図示せず)に引き出されて素体10の外部電極20bが設けられた面の表面に到達し、外部電極20bに電気的に接続されている。それにより、内部電極層12はそれぞれ、外部電極20a及び外部電極20bのいずれかに導通している。
【0028】
外部電極20aに接続された内部電極層12と、外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において静電容量を生じる領域であり、容量領域となる。図1に示される積層セラミックコンデンサ100においては、容量領域14として示す。容量領域14は、異なる外部電極である外部電極20aと外部電極20bに接続された、隣接する内部電極層12同士が対向する領域であり、誘電体層と呼ぶ層のうち1層の領域である。
【0029】
素体10において、素体10の2つの側面から内部電極層12に至るまでの領域は、それぞれ、サイドマージン部15である。図1に示される積層セラミックコンデンサ100においては、サイドマージン部15は、素体10の側面側となる容量部の外側領域に存在している。上記の通り、サイドマージン部15は、静電容量を生じない領域である。
【0030】
また、積層セラミックコンデンサ100においては、容量部の積層方向(Z軸方向:第3方向)の最外層には内部電極層12が配置され、当該容量部の上面及び下面が、カバー層13によって覆われている。
【0031】
積層セラミックコンデンサ100の大きさは、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜変更することができる。積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、又は長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、又は長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、又は長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、又は長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、又は長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmである。積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ>幅≧高さであってもよく、幅>長さ≧高さであってもよく、高さ>長さ≧幅であってもよく、高さ>幅≧長さであってもよい。
【0032】
以下、本開示のセラミック電子部品を構成する各部分の材料等について詳述する。
【0033】
[誘電体層]
本開示のセラミック電子部品における誘電体層は、セラミックを主成分とするものであれば特に限定されず、セラミック電子部品に要求される特性に応じて適宜選択すればよい。誘電体層としては、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とするものが挙げられる。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。ここで、式中のαは、化学量論からのずれを意味する。以下、αは省略して表記される。
【0034】
誘電体層となる、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料としては、例えば、BaTiO(チタン酸バリウム)、CaZrO(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO(チタン酸カルシウム)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)、ペロブスカイト構造を形成するBa1-xyCaSrTi1-zZr(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)等を挙げることができる。中では、チタン酸バリウム(BaTiO)を主成分とするものが好ましい。
【0035】
1層あたりの誘電体層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.05μm以上5μm以下であり、又は0.1μm以上3μm以下であり、又はは0.2μm以上1μm以下である。
【0036】
特に、本開示のセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極層を薄くした場合であっても、絶縁信頼性と内部電極層の連続性とが共に向上するものであるため、複数の誘電体層と、複数の内部電極層とは、それぞれの層の厚みが1μm以下であることで、発明の効果を十分に発揮することができる。
【0037】
[内部電極層]
本開示のセラミック電子部品における内部電極層は、ニッケル(Ni)を主成分元素とすることが好ましい。ここで、本明細書における「主成分元素」とは、原子百分率(at%)で表した含有量が最も多い元素を意味する。内部電極層がニッケルを主成分元素とするものであることで、貴金属等の高価な材料の使用量を抑制し、積層セラミックコンデンサの製造コストを低減できる。
【0038】
1層あたりの内部電極層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、0.01μm以上5μm以下であり、又は0.05μm以上3μm以下であり、又は0.1μm以上1μm以下である。
【0039】
特に、本開示のセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極層を薄くした場合であっても、絶縁信頼性と内部電極層の連続性とが共に向上するものであるため、複数の誘電体層と、複数の内部電極層とは、それぞれの層の厚みが1μm以下であることで、発明の効果を十分に発揮することができる。
【0040】
内部電極層の積層数は、例えば、10から5000であり、50から4000であり、100から3000である。
【0041】
[外部電極]
本開示のセラミック電子部品における外部電極は、導電性を有するものであれば、その材料は限定されない。外部電極の材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)等の金属、又はこれらのうちいずれかを主成分元素とする合金が挙げられる。外部電極は複数の層を有していてもよく、表面にめっき層が設けられていてもよい。めっき層としては、例えば、Niめっき層、Snめっき層、Cuめっき層等が挙げられ、複数のめっき層が積層された積層体であってもよい。
【0042】
[カバー層及びサイドマージン部]
本開示のセラミック電子部品におけるカバー層及びサイドマージン部は、電気的絶縁性が高く、水分等の劣化因子の透過性が低いものであれば、その材料は限定されない。セラミック電子部品における素体を製造する際に焼成中の収縮を均一にすることや、セラミック電子部品における内部応力を緩和すること等の観点からは、カバー層及びサイドマージン部の材料は、誘電体層を形成する材料と同じものとすることが好ましい。
【0043】
<素体における容量部が含有する元素>
本開示のセラミック電子部品の素体における容量部は、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を同時に含む。これらの元素を含有することにより、本開示のセラミック電子部品は、誘電体層及び内部電極層を薄くした場合であっても、絶縁信頼性と内部電極層の連続性とが共に向上する。
【0044】
絶縁信頼性と内部電極層の連続性の効果を共に発現する理由は、Auと、Crと、Feとが、又はAuと、Feとが、誘電体層と内部電極層との界面に偏析し、それと同時に、Al又はCrと、Feと、Siとが、誘電体層を形成する誘電体結晶粒界に偏析しているためである。
【0045】
誘電体層と内部電極層との界面、及び誘電体層を形成する誘電体結晶粒界について、図2を用いて説明する。図2は、セラミック電子部品の容量部の断面図である。図2に示されるように、誘電体層と内部電極層との界面19とは、誘電体層11と内部電極層12との境界を意味する。また、誘電体層を形成する誘電体結晶粒界とは、誘電体層11に含まれる、誘電体層を構成する材料の結晶粒子(誘電体結晶粒子)とその周囲の粒界部との界面を意味する。
【0046】
[誘電体層と内部電極層との界面]
本開示のセラミック電子部品の容量部は、誘電体層と内部電極層との界面に、Auと、Crと、Feとが、又はAuと、Feとが偏析している。すなわち、誘電体層と内部電極層との界面に、AuとCrとFeとが共存し、又はAuとFeとが共存しており、これら元素の相互作用により、これら元素が単体で存在する場合と比較して、顕著な効果を発現する。
【0047】
具体的には、絶縁信頼性の視点では、容量部の誘電体層と内部電極層との界面に存在している元素は、元素が複合化することで、それぞれの元素の単体から物性が変化し、界面の電位障壁の大きさに差異を発現させる。AuとFe、又はAuとCrとFeは、複合化により界面障壁を向上させる組合せであり、絶縁性を向上させることができる。
【0048】
また、内部電極層の連続性の視点では、誘電体層と内部電極層との界面に存在している元素は、元素が複合化することで、それぞれの元素の単体から物性が変化し、界面の拡散バリア性能に差異を発現させる。AuとCrとFe、又はAuとFeは、複合化によりバリア性能を向上させる組み合わせであり、内部電極層を構成する金属元素が誘電体に拡散することを妨げ、その結果、内部電極層の断裂を阻害する作用を高めることができる。
【0049】
[誘電体層を形成する誘電体結晶粒界]
また、本開示のセラミック電子部品の容量部は、誘電体層を形成する誘電体結晶粒界に、Al又はCrと、Feと、Siと、が偏析している。すなわち、誘電体層を形成する誘電体結晶粒界には、AlとFeとSiとが共存し、又はCrとFeとSiとが共存しており、これら元素の相互作用により、これら元素が単体で存在する場合と比較して、顕著な効果を発現する。
【0050】
具体的には、絶縁信頼性の視点では、AlとFeとSi、又はCrとFeとSiは、3種の元素を含む三元複合酸化物として誘電体層中の誘電体結晶粒界に存在し、それぞれの元素単体の酸化物又は2種の元素を含む二元複合酸化物と比較して、誘電体結晶粒界の絶縁性を高めることができ、これによって誘電体層全体の絶縁信頼性を高めることができる。また、内部電極層の連続性の視点では、焼成時に誘電体粒子の粒成長を抑制できれば、内部電極層の断裂を抑制できるところ、粒成長の阻害効果は、効果が強く発現する温度域が元素ごとに異なる。AlとFeとSi、又はCrとFeとSiの組み合わせは、粒成長の進行を阻害する温度域にて焼成を実施することができ、内部電極層の連続性を高めることができる。
【0051】
このとき、内部電極にAuが存在すると、Auは焼成時に、内部電極に含まれている他の金属元素に比べ低い温度から誘電体層中の誘電体結晶粒界内へと拡散し始め、長い距離を拡散する性質を有していることから、Auの拡散が呼び水となって、Auと同時に内部電極に含まれているAlとFeとSi、又はCrとFeとSiは、誘電体層中の誘電体結晶粒界に効率的に供給されることとなる。誘電体粒子の粒成長や添加元素の誘電体結晶粒界への拡散は、高温での焼成の段階で進行するが、焼成後に室温に戻る際の降温過程においては、Auは、室温における誘電体中の固溶度が著しく低いため、誘電体層から、誘電体層と内部電極層との界面へと排出されてしまい、誘電体層には残り難い。このため誘電体層を形成する誘電体結晶粒界において、Auの含有量は非常に低くなり、例えば、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.0001at%以下となる。このため誘電体層中の誘電体結晶粒界には主にAlとFeとSi、又はCrとFeとSiの、3種の元素を含む三元複合酸化物が存在することになる。
【0052】
本開示において、誘電体層と内部電極層との界面の界面近傍に、いかなる元素が存在しているかの確認は、例えば、積層セラミックコンデンサ100については、以下の手順で実施することができる。まず、積層セラミックコンデンサ100の素体10の幅方向(Y軸方向:第2方向)中央部付近、すなわちY軸方向の寸法の1/3から2/3の間の位置から、収束イオンビーム装置(FIB)を用いて、積層方向(Z軸方向:第3方向)に平行な面を主面とする、厚さ50nmから100nmの薄片試料を取り出す。次いで、薄片状試料中央部付近、すなわちZ軸方向及びX軸方向の各寸法の1/3から2/3の間の位置を、エネルギー分散型エックス線分光(EDS)検出器を搭載した走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて観察し、誘電体層11及び内部電極層12が、共に観察される視野を特定する。なお、STEM像では、誘電体層11と内部電極層12との差異は、コントラスト(明暗)の差異により認識され、誘電体層11は暗く(黒っぽく)観察され、内部電極層12は明るく(白っぽく)観察される。次いで、EDSを用いて、誘電体層11と内部電極層12との境界近傍の線分析を行い、各測定箇所における各金属元素の特性エックス線強度を測定する。測定は、加速電圧を200kV、電子ビーム径を1.0nmとし、1測定点あたりの測定時間は20分とする。また、測定は、1測定点について5回以上繰り返して実施し、得られた各元素の特定エックス線強度の平均値を、該測定点における各元素の特性エックス線強度とする。線分析は、誘電体層11側から内部電極層12側に向かって、該境界に垂直な方向(図2中のA1方向)に行う。次いで、各測定点について、得られた各元素の特性エックス線強度から、原子番号効果、吸収効果、及び蛍光励起効果を勘案した補正(ZAF補正)を行って、各測定点での各元素の原子百分率を算出し、これを測定位置に対してプロットしてグラフを作図する。得られたグラフより、誘電体層11と内部電極層12との界面を決定するとともに、この界面に、どのような元素が偏在しているのかを確認することができる。測定は異なった3視野で行い、その平均を各元素の原子百分率とする。
【0053】
同様に、誘電体層を形成する誘電体結晶粒界近傍に、いかなる元素が存在しているかの確認は、例えば、積層セラミックコンデンサ100については、上記と同様の方法で誘電体層から取り出した薄片資料について、誘電体層11内部の誘電体結晶粒が観察される視野を特定して、同様の方法で実施することができる。
【0054】
本明細書において、誘電体層と内部電極層との界面は、誘電体層を構成する酸素を除く元素の原子百分率と、内部電極層を構成する主たる金属元素の原子百分率とが、等しい点が集合して構成する面として特定される。すなわち、上記グラフにおいて誘電体層を構成する酸素を除く元素の原子百分率と、内部導体層を構成する金属元素の原子百分率とが等しい点を、誘電体層と内部電極層との界面は含む。
【0055】
誘電体層と内部電極層との界面に元素が偏析しているとは、上記グラフにおいて、誘電体層と内部電極層との界面に含まれる点近傍にピークを有する状態を意味する。ここでいうピークとは、平均的なレベルに対して1.5倍以上高いことをいう。誘電体層と内部電極層との界面近傍とは、例えば、界面前後の幅10nm程度であってもよい。すなわち、誘電体層と内部電極層との界面に元素が偏析しているとは、その元素の含有量について、界面前後の幅10nm以内に、界面前後の幅10nmの外側の平均含有量レベルに対して1.5倍以上高い点を有していることである。また、誘電体層と内部電極層との界面に元素が偏析していないとは、その元素の含有量について、界面前後の幅10nm以内に、界面前後の幅10nmの外側の平均含有量レベルに対して1.5倍以上高い点を有していないことである。界面前後の幅10nmの外側の平均含有量レベルとは、界面両側の10nmから20nmの幅における元素の平均含有量レベルとする。
【0056】
また、本明細書において、誘電体層を形成する誘電体結晶粒界は、走査型電子顕微鏡(SEM)で誘電体層の断面を見たときに、コントラストの差異により、誘電体結晶粒子とその周囲の粒界部とが識別される境界とする。
【0057】
誘電体層を形成する誘電体結晶粒界に元素が偏析しているとは、上記グラフにおいて、誘電体結晶粒界近傍にピークを有する状態を意味する。ここでいうピークとは平均的なレベルに対して1.5倍以上高いことをいう。誘電体結晶粒界近傍とは、例えば、誘電体結晶粒界の前後の幅10nm程度であってもよい。すなわち、誘電体層を形成する誘電体結晶粒界に特定の元素が偏析しているとは、その元素の含有量について、粒界前後の幅10nm以内に、粒界前後の幅10nmの外側の平均含有量レベルに対して1.5倍以上高い点を有していることである。粒界前後の幅10nmの外側の平均含有量レベルとは、粒界両側の10nmから20nmの幅における元素の平均含有量レベルとする。
【0058】
本開示のセラミック電子部品における誘電体層と内部電極層とが積層された容量部において、Al又はCrの含有量は、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して、合計で0.001at%以上10at%以下であることが好ましい。
【0059】
本開示のセラミック電子部品における誘電体層と内部電極層とが積層された容量部において、Auの含有量は、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下であることが好ましい。
【0060】
本開示のセラミック電子部品における誘電体層を形成する誘電体結晶粒界において、Auの含有量は、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.0001at%以下であることが好ましい。
【0061】
本開示のセラミック電子部品における誘電体層と内部電極層とが積層された容量部において、Feの含有量は、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下であることが好ましい。
【0062】
本開示のセラミック電子部品における誘電体層と内部電極層とが積層された容量部において、Siの含有量は、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、の合計に対して0.001at%以上10at%以下であることが好ましい。
【0063】
ここで、誘電体層と内部電極層とが積層された容量部における金属元素の含有量は、例えば、積層セラミックコンデンサ100については、以下の手順1又は手順2により求めることができる。手順1及び手順2のいずれも、測定は3点以上について実施し、その平均を含有量とする。手順1と手順2で測定した結果が一致せず疑義が生じた場合には、手順1の測定値をもって判定する。
手順1:まず、積層セラミックコンデンサ100の素体10における誘電体層11と内部電極層12とが積層された容量部について、切断、研磨等の手段により、外部電極20a及び20bが対向する方向(X軸方向:第1方向)に直交し、内部電極層12が観察される断面を露出させる。この断面は素体10の幅方向(Y軸方向:第2方向)の中央部付近の断面(幅方向寸法の1/3から2/3の間の断面)とする。次いで、露出した断面に対して炭素を蒸着して、測定用試料とする。次いで、前記測定用試料における前記断面の中央付近を、エネルギー分散型エックス線分光器(Energy Dispersive X-ray Spectrometer、EDS)若しくは波長分散型エックス線分光器(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer、WDS)を搭載した走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)、又は電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer、EPMA)により、観察倍率300倍、加速電圧7kV、照射電流50nAとし、300×300μmの範囲で、1μmステップで試料断面を走査する面分析を行い、それぞれの元素の総量を、それぞれ原子百分率で算出する。次いで、得られた各元素の原子百分率から、それぞれの元素の含有量をそれぞれ算出する。
手順2:手順1と同様に測定用試料を作成し、得られた測定用試料を、レーザーアブレーション-誘導結合プラズマ質量分析法(Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry、LA-ICP)により分析し、それぞれの元素の総量を、それぞれ原子百分率で算出する。次いで、得られた各元素の原子百分率から、それぞれの元素の含有量をそれぞれ算出する。
【0064】
なお、製造時に使用した内部電極用ペースト中の金属組成が既知であり、かつ誘電体層中に該ペースト中に含まれる金属元素を添加していない場合には、前述した手順を省略し、該既知の組成に基づいて、金属元素の含有量をそれぞれ算出してもよい。
【0065】
<セラミック電子部品の製造方法>
本開示のセラミック電子部品の製法方法は、例えば、誘電体グリーンシート上に、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を含む内部電極パターンを形成することによって積層単位を形成することと、複数の積層単位を積層することによって焼成前の容量部を形成することと、焼成前の容量部を焼成することと、を含む。
【0066】
[誘電体グリーンシート用組成物粉末の準備]
誘電体グリーンシートを作成するための組成物粉末は、例えば、その構成元素を含む各種原料粉末を所定の比率で混合し、予備焼成(仮焼成)することで得られる。各種原料粉末を所定の比率で混合する際に、焼結助剤等の各種添加物を更に添加してもよく、仮焼成後の粉末に、各種添加物を更に添加しても良い。
【0067】
原料粉末を混合する方法は、不純物の混入を抑えつつ各粉末が均一に混合されるものであれば特に限定されず、乾式混合、湿式混合のいずれを採用してもよい。混合方法としてボールミルを用いた湿式混合を採用する場合には、例えば、部分安定化ジルコニア(PSZ)ボールを用い、エタノール等の有機溶媒又は水を分散媒とするボールミルによって8時間から60時間程度撹拌した後、分散媒を揮発乾燥すればよい。必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。
【0068】
混合した原料粉末の仮焼成条件は、各種原料粉末が反応して所定の誘電体グリーンシート用組成物粉末が得られるものであれば特に限定されない。一例として、大気中、800℃から1100℃の温度で、1時間から10時間焼成することが挙げられる。仮焼成後の粉末は、そのままの状態で生シートに加工してもよいが、ボールミルやスタンプミル等によって解砕することが、均一なスラリーを経て平滑な生シートが得られる点や、焼結性が高まる点で好ましい。
【0069】
なお、誘電体グリーンシート用組成物粉末として市販のものが利用できる場合は、前述した原料粉末の混合及び仮焼成を行わず、この粉末に対して以後の操作を行ってもよい。
【0070】
[誘電体グリーンシートの作製]
誘電体グリーンシート用組成物粉末と、バインダ、及び分散媒とを混合してスラリーを調製し、該スラリーをシート状に成形して乾燥させることで、誘電体グリーンシートを作製することができる。
【0071】
バインダとしては、誘電体グリーンシートの形状を保持できるとともに、焼成ないしこれに先立つバインダ除去処理によって炭素等を残存させることなく揮発するものを用いることが好ましい。使用できるバインダの例としては、ポリビニルアルコール系、ポリビニルブチラール系、セルロース系、ウレタン系、及び酢酸ビニル系のものが挙げられる。バインダの使用量は特に限定されないが、後工程で除去するものであるため、所期の成形性・保形性が得られる範囲内で極力少なくすることが、原料コストを低減する点で好ましい。
【0072】
分散媒としては、誘電体グリーンシート用組成物粉末及びバインダの凝集を生じることなく、シート成形後に揮発等により容易に除去できるものを用いる。使用できる分散媒の例としては、水及びアルコール系溶媒等が挙げられる。
【0073】
スラリーには、分散剤、可塑剤及び増粘剤等のスラリーの性状を調節する成分を添加してもよい。
【0074】
誘電体グリーンシート用組成物粉末を、バインダ、及び分散媒等と混合する方法は、不純物の混入を防ぎつつ各成分が均一に混合されるものであれば、特に限定されない。一例として、ボールミルによる混合が挙げられる。
【0075】
調製したスラリーをシート状に成形する方法としては、例えば、ダイコータ法やドクターブレード法等の慣用されている方法を採用できる。作製されたシート状の成形物を乾燥させることで、誘電体グリーンシートを得ることができる。なお、調製したスラリーを、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の基材の上に塗布して乾燥させることで、基材上に積層された誘電体グリーンシートとしてもよい。
【0076】
[内部電極パターンの形成による積層単位の形成]
本開示のセラミック電子部品の製造方法においては、上記で得られた誘電体グリーンシート上に、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を含む内部電極パターンを形成することで、積層単位を得る。
【0077】
内部電極パターンを形成する方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、スパッタリング等の真空成膜プロセスによって内部電極パターンを成膜してもよいし、印刷によって内部電極パターンを形成してもよい。
【0078】
スパッタリング等の真空成膜プロセスによって内部電極パターンを成膜する場合には、内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を含む合金ターゲットを用いて実施してもよいし、個別ターゲットを用いた同時スパッタリングを実施してもよい。
【0079】
印刷によって内部電極パターンを作製する場合には、例えば、内部電極用ペーストを準備し、当該ペーストを誘電体グリーンシートに塗布する。
【0080】
(内部電極用ペーストの準備)
内部電極層の主成分金属と、Al又はCrと、Auと、Feと、Siと、を含む内部電極用ペーストは、例えば、各金属元素を含む金属粉末とビヒクルとを、三本ロールミルにて混合することで得られる。内部電極用ペーストは、必須成分となる前記の金属の他に、ガラスフリットや誘電体グリーンシート用組成物粉末を含むものであってもよい。
【0081】
使用するビヒクルに含まれるバインダ及び溶剤の種類及び量については、特に限定されず、内部電極用ペーストの粘度、取扱いのし易さ、及び誘電体グリーンシートとの相性等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0082】
(内部電極用ペースト及び引き出し部用ペーストの印刷)
誘電体グリーンシート上への内部電極用ペーストの印刷は、例えば、所定の内部電極パターンが形成されたスクリーンマスクを用いて実施できる。誘電体グリーンシート上には、内部電極層を引き出すための引き出しパターンも印刷される。内部電極層を引き出すための引き出しパターンは、内部電極層となる電極部と同時に形成しても、別途形成してもよい。別途形成する場合には、例えば、所定の引き出しパターンが形成されたスクリーンマスクを用いて実施してもよい。引き出しパターンの形成には、内部電極用ペーストを用いてもよいし、別途異なる組成の引き出し部用ペーストを、内部電極用ペーストと同様に準備して用いてもよい。
【0083】
内部電極用ペーストの印刷の際には、容量部を含む素体を形成した際に、サイドマージン部となるスペースを空けて印刷してもよい。また、引き出し部の周囲には、エンドマージン部において引き出し部の隣接部となるスペースを空けて印刷してもよい。サイドマージン部、又はエンドマージン部を形成するための誘電体ペーストを、このスペースに印刷してもよい。サイドマージン部、又はエンドマージン部を形成するための誘電体ペーストは、誘電体層と同じ原材料を用いたペーストであってもよいし、異なった原材料を用いたペーストであってもよい。サイドマージン部とエンドマージン部を形成するため誘電体ペーストの材料が同じ場合には、同じ組成であってもよいし、異なった組成であってもよい。
【0084】
[焼成前の容量部の作製]
本開示のセラミック電子部品の製造方法においては、複数の上記で得られた積層単位を積層することで、未焼成の容量部を得る。さらに、この未焼成の容量部に、必要に応じてサイドマージン部の形成やカバー層の積層を実施した後に、圧着することで、圧着された未焼成の容量部を含む圧着体を得る。通常の積層セラミックコンデンサの製造方法では、複数の未焼成の容量部を集合させて圧着体を作成するため、この段階で圧着体を個片化することによって、複数の焼成前の容量部を形成する。
【0085】
圧着体は、例えば、内部電極パターン及び引き出しパターンが形成された積層単位を、所定の枚数積層し、該積層単位同士を圧着させることで得られる。積層及び圧着は、慣用されている方法で行えばよく、積層した積層単位同士を加熱しながら積層方向にプレスし、バインダの作用で熱圧着する方法等を採用できる。
【0086】
このとき、内部電極パターン及び引き出しパターンが形成された積層単位が、基材の上に作製されている場合には、基材を剥がしつつ、積層単位を積層する。
【0087】
積層及び圧着に際しては、積層方向の両端部に、積層セラミックコンデンサとした際にカバー部となるグリーンシートを追加してもよい。この場合、追加するグリーンシートは、内部電極パターン及び引き出しパターンが形成された誘電体グリーンシートと同一の組成であっても、これとは異なる組成であってもよい。焼成時の収縮率を揃える観点からは、追加するグリーンシートの組成は、内部電極パターン及び引き出しパターンが形成された誘電体グリーンシートと同一又は類似の組成であることが好ましい。
【0088】
圧着して得られた圧着体は、ダイサーやレーザーカットなど、慣用されている方法にて個片化されて、焼成前の容量部となる。
【0089】
圧着体を個片化したとき、あらかじめサイドマージン部となる部分が形成されていない場合には、すなわち、サイドマージン部となるスペースが設けられてなかったり、サイドマージン部となる印刷がなされていなかった場合には、積層方向から見て容量部となる部分の外側であって、内部電極層の引き出し部を含むエンドマージン部が形成されていない部分に、この段階でサイドマージン部を形成して、焼成前の容量部を含む焼成前の素体を得る。サイドマージン部の作製方法は、特に限定されるものではなく、サイドマージン部を形成するためのペーストの塗布やシートの貼り付けなど、慣用の方法から適宜選択することができる。サイドマージン部を形成するための材料及びその組成は、誘電体層を形成するための材料及び組成と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0090】
[素体の作製(焼成前の容量部を含む焼成前の素体の焼成)]
本開示のセラミック電子部品の製造方法においては、上記で作成した、個片化された焼成前の容量部を含む焼成前の素体を焼成することにより、焼成された容量部を含む成型体である素体を得る。素体は、誘電体層と内部電極層とが積層された容量部と、容量部に隣接し内部電極から引き出された引き出し部を含むエンドマージン部と、容量部に隣接し引き出し部を有しないサイドマージン部と、カバー層と、を有する。焼成に先立って、焼成前の成型体からバインダを除去してもよい。この場合、バインダの除去と焼成とは、同じ焼成装置を用いて連続して行ってもよい。
【0091】
バインダの除去及び焼成の条件は、バインダの揮発温度及び含有量、誘電体グリーンシート用組成物粉末の焼結性、並びに内部電極用ペースト及び引き出し部用ペーストに含まれる金属の耐熱性及び耐酸化性等を考慮して、適宜設定すればよい。バインダを除去する条件の例としては、窒素(N)雰囲気中、200℃から500℃の温度で5時間から20時間が挙げられる。
【0092】
素体の焼成前に、素体に外部電極を形成することも可能であり、この場合、焼成前の素体からバインダを除去した後、表面に引き出しパターンが引き出された焼成途上の素体の引出面に、導体ペーストを付着させる。導体ペーストを付着させる方法としては、印刷やディップ等が挙げられる。その後、焼成途上の素体の焼成を完結させることで、素体を得ると同時に導電ペーストが焼結した外部電極を作製することができる。
【0093】
外部電極を備える場合の素体の焼成条件としては、例えば、窒素(N)と水素(H)と水蒸気(HO)とを混合した還元性雰囲気中、800℃から1000℃にて10分から1時間保持後、1000℃から1400℃で10分から2時間焼成とすることが挙げられる。焼成途中で温度保持することにより、静電容量の大きな積層セラミックコンデンサが得られる。
【0094】
焼成後に、窒素(N)ガス雰囲気中又は低酸素雰囲気中で、600℃~1000℃に保持する再酸化処理を行ってもよい。なお、焼成に先立って圧着体を個片化し、得られた焼成前の素体を焼成する代わりに、圧着体を個片化しないまま焼成し、必要であれば再酸化処理を行い、その後に個片化して複数の素体を得てもよい。
【0095】
[外部電極の形成]
作製した素体に、外部電極を形成する場合には、素体の引出面に導体ペーストを付着させた後に焼き付ける。これにより、素体に外部電極が形成されて、積層セラミックコンデンサを得ることができる。導体ペーストを付着させる方法としては、印刷やディップ等が挙げられる。複数の層を有する外部電極とする場合には、表面にめっき層等を設けてもよい。めっき層としては、例えば、Niめっき層、Snめっき層、Cuめっき層等が挙げられ、外部電極は、複数のめっき層が積層された積層体としてもよい。
【0096】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0097】
例えば、上述した実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明にセラミック係る電子部品としては積層セラミックコンデンサに限らず、複数の誘電体層と、複数の内部電極層と、が積層された容量部を含む素体を備える電子部品であれば、何でもよい。
【実施例0098】
以下、実施例等により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0099】
<実施例1~3、5~7>
[内部電極用ペーストの準備]
内部電極層の主成分としてNiを用い、Al、Cr、Au、Fe、及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属を副元素として含有する内部電極用ペーストを準備した。用いた副元素の種類及び含有量を、表1に示す。表1において、含有量は、Ni及び配合された副元素の合計に対して、当該元素の原子百分率(at%)で示されている。
【0100】
内部電極用ペーストは、Ni及び副元素となる金属粉末と、ビヒクルとを、三本ロールミルで混合することで作製した。
【0101】
[内部電極パターン及び引き出しパターンの形成]
誘電体グリーンシートを準備し、その表面に、上記で作製した内部電極用ペーストを印刷し、内部電極パターンを形成した。引き出しパターンについても、内部電極用ペーストを用いて、内部電極パターンの印刷時に合わせて印刷した。
【0102】
[焼成前の素体の作製]
内部電極パターン及び引き出しパターンが形成された誘電体グリーンシートを、あらかじめ準備したカバー層の上に13層積層し、更にその上にカバー層を積層した。続いて、加熱しながら190MPa程度の圧力で加圧して圧着させることで、焼成前の容量部を含む焼成前の素体の集合体である圧着体を得た。
【0103】
[積層セラミックコンデンサの作製]
得られた圧着体をカットして個片化することで焼成前の素体を得た後、窒素雰囲気中で300℃まで加熱して脱バインダ処理を行った。焼成途上の素体において引き出しパターンが引き出された引出面を、ニッケルを含む導電性ペースト中に浸し、外部電極の前駆体を形成した。続いて、外部電極の前駆体が形成された焼成途上の素体を、窒素中に水素を含む還元ガスに水蒸気を導入した、いわゆる還元-水蒸気雰囲気中にて、800℃で30分保持した後に、1200℃で2時間焼成した後、降温途中で、窒素雰囲気中700℃で1時間保持し、室温付近まで降温して、積層セラミックコンデンサを得た。
【0104】
得られた積層セラミックコンデンサは、素体の積層方向に垂直な面が1.0mm×0.5mmの略直方体形状を有し、誘電体層の厚みが0.6μmであった。
【0105】
【表1】
【0106】
<実施例4、8>
内部電極パターンの形成を、表1に示される副元素の個別ターゲットを用いてスパッタリングにより実施し、得られた内部電極パターン及び引き出しパターンが形成された誘電体グリーンシートを用いた以外は、実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを作製した。
【0107】
<比較例1>
内部電極層の成分をNiのみとし、副元素を含有させなかった以外は、実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを得た。
【0108】
<比較例2~13>
用いた副元素の種類及び含有量を、表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして積層セラミックコンデンサを得た。
【0109】
<積層セラミックコンデンサの評価>
[誘電体層と内部電極層との界面の元素分析]
実施例1及び実施例5で作製した積層セラミックコンデンサについて、誘電体層と内部電極層との界面の元素分析を実施した。分析方法は、前記の段落[0052]に示す方法の通りである。実施例1の積層セラミックコンデンサについての分析結果をプロットしたグラフを図3に、実施例5の積層セラミックコンデンサについての分析結果をプロットしたグラフを図4に示す。
【0110】
図3に示されるように、実施例1の積層セラミックコンデンサにおいては、距離1.0nmから2.0nmの間に、AuとFeのピークが見られることから、誘電体層と内部電極層との界面に、AuとFeとが偏析していることが判る。
【0111】
また、図4に示されるように、実施例5の積層セラミックコンデンサにおいては、距離1.0nmから2.0nmの間に、AuとFeとCrのピークが見られることから、誘電体層と内部電極層との界面に、AuとFeとCrとが偏析していることが判る。
【0112】
[誘電体層と内部電極層との界面、及び誘電体結晶粒界の確認]
実施例1及び実施例5で作製した積層セラミックコンデンサについて、誘電体層と内部電極層との界面の確認を実施した。1サンプルについて5点のTEM-EDS分析を実施し、1μm程度の視野範囲で粒子の全景を確認するとともに、誘電体層と内部電極層との界面及び誘電体結晶粒界については、近傍を20nm程度までの視野範囲で、高倍率にて観察した。
【0113】
その結果、実施例1で作製した積層セラミックコンデンサにおいては、誘電体層と内部電極層との界面に、AuとFeとが偏析している様子が確認できた。また、誘電体結晶粒界に、Al、Fe、及びSiが偏析している様子が確認できた。なお、内部電極層の主成分であるNiも、誘電体結晶粒界に析出していることが確認された。
【0114】
また、実施例5で作製した積層セラミックコンデンサにおいては、誘電体層と内部電極層との界面に、Au、Cr、及びFeが偏析している様子が確認できた。また、誘電体結晶粒界に、Cr、Fe、及びSiが偏析している様子が確認できた。なお、内部電極層の主成分であるNiも、誘電体結晶粒界に析出していることが確認された。
【0115】
[HALT(高温負荷)寿命試験]
実施例1~8、及び比較例1~13で作製した積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、複数のサンプルの故障に至るまでの時間を測定した。測定手法は、150℃/18V/μmの直流電界下にて漏れ電流が最小漏れ電流の10倍になるまでの時間を測定した。結果を表1に示す。
【0116】
[内部電極層の連続率]
実施例1~8、及び比較例1~13で作製した積層セラミックコンデンサを、それぞれ側面から研磨して内部電極層を露出させ、顕微鏡等で5000~10000倍に拡大して観察し、図2に示すように、顕微鏡のスケール等を用いて、観察部分における長さL0を測定し、次いで一層の内部電極層について、L0の範囲内における電極部分の長さL1~L4を測定して合計し、ΣLn/L0を算出して当該層の連続率を求め、これを30層分行ってその平均値とした。結果を表1に示す。
【0117】
[内部電極層の厚み]
実施例1~8、及び比較例1~13で作製した積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、内部電極層の厚みを測定した。測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて実施し、測定箇所は30箇所とし、その平均値とした。結果を表1に示す。
【0118】
[誘電体の粒径]
実施例1~8、及び比較例1~13で作製した積層セラミックコンデンサのそれぞれについて、誘電体の粒径を測定した。積層セラミックコンデンサを誘電体層及び内部電極層の積層方向に切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)により、その断面における誘電体粒子の径が最大となる長さを測定した。200個以上の誘電体粒子について粒子径を測定し、得られた粒子径の平均値を、誘電体粒径とした。結果を表1に示す。
【0119】
<考察>
実施例1~8の積層セラミックコンデンサは、比較例1~13の積層セラミックコンデンサと比較して、HALT寿命が著しく長く、したがって、絶縁信頼性が高いものとなっている。同時に、実施例1~8の積層セラミックコンデンサは、比較例1~13の積層セラミックコンデンサと比較して、内部電極層の連続率が大きいことが判る。
【0120】
実施例1~8の積層セラミックコンデンサは、比較例1~13の積層セラミックコンデンサと比較して、内部電極層の厚みが小さいものとなっていた。焼成前の内部電極層の厚さには、実施例と比較例とで差がなかったことから、比較例では、焼成時に内部電極層の断裂が起こり、断裂した部分に存在していた材料が、断裂していない部分に移動したことで、内部電極層の厚みが大きくなったのに対し、実施例では、焼成時の内部電極層の断裂が抑制された結果、内部電極層の厚みが小さくなったことが予想される。
【0121】
更に、実施例1~8の積層セラミックコンデンサは、比較例1~11の積層セラミックコンデンサと比較して、誘電体層の誘電体粒子の粒径が小さく、誘電体粒子の成長が抑制されていることが判る。これにより、誘電体粒子の成長に起因する内部電極層の断裂が、抑制されることが予想される。
【0122】
また、4種の副元素を含む実施例1と、副元素を含まない比較例1、1種の副元素を含む比較例2~6、2種の副元素を含む比較例7~11、3種の副元素を含む比較例12~13を、比較してみると、4種の副元素を含むことで、絶縁信頼性と内部電極層の連続性の両者が、飛躍的に向上していることが判る。これは、4種の金属元素が相互的に作用したことによるものである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、絶縁信頼性が高く、かつ内部電極層の連続性の高い、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品を実現することができる。このようなセラミック電子部品は、小型でも大きな静電容量を有するとともに高い絶縁信頼性を保持しているため、携帯電話をはじめとする高周波通信用システムに好適に使用することができ、産業上、大変有益である。
【符号の説明】
【0124】
100 積層セラミックコンデンサ
10 素体
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 容量領域
15 サイドマージン部
16a エンドマージン部
19 誘電体層と内部電極層との界面
20a、20b 外部電極
A1 分析方向
図1
図2
図3
図4