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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127593
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】転圧支援システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/36 20060101AFI20240912BHJP
   G08G 1/0969 20060101ALI20240912BHJP
   E02D 3/046 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01C21/36
G08G1/0969
E02D3/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036843
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 博史
(72)【発明者】
【氏名】泉 枝穂
(72)【発明者】
【氏名】増田 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】田中 正道
【テーマコード(参考)】
2D043
2F129
5H181
【Fターム(参考)】
2D043CB01
2F129AA03
2F129EE02
2F129EE26
5H181AA07
5H181FF23
5H181FF27
5H181FF32
(57)【要約】
【課題】オペレータの熟練度による転圧作業への影響を抑制し、転圧作業の精度を向上することができる転圧支援システムを提供すること。
【解決手段】作業現場において締固め機械により通過した範囲の地盤の締固めを行う転圧作業を支援する転圧支援システムにおいて、締固め機械の車両位置を取得する位置情報取得装置と、締固め機械の車両寸法や施工対象の転圧目標値を転圧条件として入力する転圧条件入力装置と、位置情報取得装置が取得した車両位置と、転圧条件入力装置から入力された転圧条件とに基づいて、締固め機械の転圧作業における走路である転圧レーンを演算する転圧支援コントローラと、転圧支援コントローラで演算された締固め機械の転圧レーンと締固め機械の車両位置とを重ねて表示するガイダンス表示装置とを備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業現場において締固め機械により通過した範囲の地盤の締固めを行う転圧作業を支援する転圧支援システムにおいて、
前記締固め機械の車両位置を取得する位置情報取得装置と、
前記締固め機械の車両寸法や施工対象の転圧目標値を転圧条件として入力する転圧条件入力装置と、
前記位置情報取得装置が取得した前記車両位置と、前記転圧条件入力装置から入力された前記転圧条件とに基づいて、前記締固め機械の転圧作業における走路である転圧レーンを演算する転圧支援コントローラと、
前記転圧支援コントローラで演算された前記締固め機械の転圧レーンと前記締固め機械の車両位置とを重ねて表示するガイダンス表示装置と
を備えたことを特徴とする転圧支援システム。
【請求項2】
請求項1記載の転圧支援システムにおいて、
前記転圧支援コントローラは、前記車両位置と前記転圧条件とに基づいて、前記締固め機械が転圧した地盤各所の転圧状況を演算し、
前記ガイダンス表示装置は、前記転圧状況を前記転圧レーンと前記車両位置とにさらに重ねて表示することを特徴とする転圧支援システム。
【請求項3】
請求項1記載の転圧支援システムにおいて、
前記転圧支援コントローラは、前記締固め機械が施工する転圧レーンが変わるレーンチェンジ時に次に転圧を施工する転圧レーンを演算することを特徴とする転圧支援システム。
【請求項4】
請求項1記載の転圧支援システムにおいて、
前記転圧支援コントローラは、前記締固め機械が施工する転圧レーンが変わるレーンチェンジ時、又は、前記締固め機械が施工中の転圧レーンで折り返す時に次に転圧を施工する転圧レーンを演算することを特徴とする転圧支援システム。
【請求項5】
請求項1記載の転圧支援システムにおいて、
前記転圧支援コントローラは、前記締固め機械が前記転圧レーンを往復走行した際の前記車両位置の軌跡を走行軌跡とし、前記走行軌跡を少なくとも1つの近似直線又は近似曲線で近似することで転圧レーンを推定して出力することを特徴とする転圧支援システム。
【請求項6】
請求項3記載の転圧支援システムにおいて、
前記転圧支援コントローラは、
前記車両位置と前記転圧条件とに基づいて、前記締固め機械が転圧した地盤各所の転圧状況を演算し、
前記転圧条件と前記転圧状況とに基づいて、前記締固め機械が現在走行している転圧レーンとの間の地盤すべてが予め定めた転圧目標値を満たすように次に走行する転圧レーンを演算することを特徴とする転圧支援システム。
【請求項7】
請求項1記載の転圧支援システムにおいて、
前記ガイダンス表示装置は、前記転圧支援コントローラが施工中に演算した転圧レーンの1つ以上を表示し、前記締固め機械の走行動作あるいは転圧作業の進展に応じて各転圧レーンの表示態様を変更することを特徴とする転圧支援システム。
【請求項8】
請求項1記載の転圧支援システムにおいて、
前記ガイダンス表示装置は、前記締固め機械が施工中の転圧レーンと前回の転圧レーンとを異なる表示態様で表示する特徴とする転圧支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転圧支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
土木現場において転圧作業に従事するロードローラやタイヤローラといった所謂、締固め機械といわれる建設機械は、本体を形成するフレーム、走行用の車輪あるいは履帯を有し、オペレータによる操作指示により所望の転圧作業を行う。
【0003】
このような建設機械では従来、転圧作業の終了後に砂置換法・水置換法・RI法などによる密度測定を行い、転圧作業を行った地盤が規定の密度に達したかを確認することで転圧状況を管理している。しかしながら、この手作業的な管理方法では、多大な労力と時間を要する上に、実際に密度測定を行った場所のみを局所的に管理する事になるので、地盤全体の転圧状況を厳密に管理することが困難であった。
【0004】
こうした実情から近年では、建設機械の転圧回数をもって地盤の転圧状況を管理する方法が開発されており、その一例としてGPS(Global Positioning System)に代表されるGNSS(Global Navigation Satellite System: 全球測位衛星システム)を利用した施工管理システムがある。
【0005】
例えば、特許文献1には、盛土された盛土領域上で振動ローラを複数回移動させて前記盛土を転圧する際に、前記盛土領域を複数の締固め対象区域に区画し、前記盛土が充分に締め固められたか否かを前記締固め対象区域毎に判定する締固め管理方法において、前記盛土領域上における前記振動ローラの移動経路を検出し、前記振動ローラの移動経路から、前記振動ローラの転圧回数を前記締固め対象区域毎に検出する転圧回数検出工程と、前記盛土領域上で前記振動ローラが移動した後に、前記締固め対象区域毎に前記盛土の高さを取得する高さ取得工程と、前記振動ローラが移動した前記締固め対象区域毎に、前回の前記盛土の高さと今回の前記盛土の高さとを用いて前記盛土の沈下量を算出する沈下量算出工程と、前記沈下量算出工程で算出された前記沈下量が所定値未満となった前記締固め対象区域に対して、前記盛土が充分に締め固められたと判定する締固め判定工程と、を備える締固め管理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-52205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術においては、GPSで測位した建設機械の位置情報を用いて、建設機械が通過した地盤各所の転圧回数を管理し、さらに地盤各所の沈下量の変化を監視することにより転圧状況を精度良く把握しようとしている。
【0008】
ところで、例えば、熟練度の低いオペレータが施工を行う場合には、現在の転圧状況を把握できたとしても、どのように走行すれば適切に施工できるかを判断することが困難であるため、地盤の踏み残しによる転圧不良や、余分な操舵による地盤の損傷などが生じるおそれがあり、その場合には手戻りによる作業工程の遅れや施工品質の低下などを招いてしまうことが考えられる。
【0009】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、オペレータの熟練度による転圧作業への影響を抑制し、転圧作業の精度を向上することができる転圧支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、作業現場において締固め機械により通過した範囲の地盤の締固めを行う転圧作業を支援する転圧支援システムにおいて、前記締固め機械の車両位置を取得する位置情報取得装置と、前記締固め機械の車両寸法や施工対象の転圧目標値を転圧条件として入力する転圧条件入力装置と、前記位置情報取得装置が取得した前記車両位置と、前記転圧条件入力装置から入力された前記転圧条件とに基づいて、前記締固め機械の転圧作業における走路である転圧レーンを演算する転圧支援コントローラと、前記転圧支援コントローラで演算された前記締固め機械の転圧レーンと前記締固め機械の車両位置とを重ねて表示するガイダンス表示装置とを備えたものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、オペレータの熟練度による転圧作業への影響を抑制し、転圧作業の精度を向上することができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】締固め機械の一例であるタイヤローラの外観を概略的に示す斜視図である。
図2】転圧支援システムを構成する転圧支援コントローラの機能を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
図3】転圧支援コントローラにおける処理の流れを示すシーケンス図である。
図4】転圧レーンの演算の処理内容を示すフローチャートである。
図5】第1の実施の形態に係る転圧レーンの演算方法を示す図である。
図6】地盤と転圧対象領域のメッシュ分けの一例を模式的に示す図である。
図7】ガイダンス表示の一例を模式的に示す図である。
図8】ガイダンス表示の他の例を模式的に示す図である。
図9】第2の実施の形態に係る転圧レーンの演算の処理内容を示すフローチャートである。
図10】第2の実施の形態係る転圧レーンの演算方法を示す図である。
図11】第2の実施の形態に係るガイダンス表示の一例を示す図である。
図12】第3の実施の形態に係るガイダンス表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。本実施の形態においては、建設機械である転圧機械(締固め機械)の一例としてタイヤローラを例示して説明するが、ロードローラなどの他の建設機械においても本発明を適用することが可能である。
【0014】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を図1図8を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態に係る建設機械(締固め機械)の一例であるタイヤローラの外観を概略的に示す斜視図である。
【0016】
図1において、タイヤローラ100(締固め機械)は、本体を形成するフレーム101と、前輪102aおよび後輪102bからなる車輪102と、タイヤローラ100の位置に係る情報である位置情報を取得する位置センサ104(位置情報取得装置)と、オペレータの入力操作による各種情報の入力を受け付ける入力装置であるキーボード108(転圧条件入力装置)と、オペレータに対して各種情報を表示する表示装置であるモニタ109(表示装置)と、作業現場の各所の地盤毎の転圧状況を表示装置に表示してタイヤローラ100を操作するオペレータに報知する転圧支援コントローラ200とを備えている。
【0017】
位置センサ104は、タイヤローラ100の位置に係る情報である位置情報を取得する位置情報取得装置であり、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)により構成されている。位置センサ104としてGNSSを用いる場合には、タイヤローラ100の作業現場における位置(高さ情報を含む)を取得することができる。なお、位置センサ104は、タイヤローラ100の位置情報の変化から移動方向(進行方向)に係る情報である進行方向情報を取得する進行方向情報取得装置としての機能も有している。また、キーボード108は、タイヤローラ100の車両寸法や施工対象の転圧目標値を転圧条件として入力する転圧条件入力装置である。
【0018】
図2は、転圧支援システムを構成する転圧支援コントローラの機能を関連構成とともに示す機能ブロック図である。
【0019】
図2において、転圧支援コントローラ200は、転圧条件取得部202、車両位置取得部204、転圧状況演算部210、転圧レーン演算部260、及び、ガイダンス表示部290から概略構成されている。
【0020】
転圧条件取得部202は、キーボード108を介したオペレータの操作により入力された転圧条件(CC)を取得し、転圧状況演算部210および転圧レーン演算部260に出力する。
【0021】
車両位置取得部204は、位置センサ104よりタイヤローラ100(締固め機械)の現在の車両位置(VP)を取得し、転圧状況演算部210、転圧レーン演算部260、及び、ガイダンス表示部290に出力する。
【0022】
転圧状況演算部210は、車両位置取得部204からの現在の車両位置(VP)と、転圧条件取得部202からの転圧条件(CC)とに基づいて、タイヤローラ100が転圧した地盤各所の転圧状況(CS)を演算して、転圧レーン演算部260およびガイダンス表示部290に出力する。
【0023】
転圧レーン演算部260は、車両位置取得部204からの現在の車両位置(VP)と、転圧条件取得部202からの転圧条件(CC)と、転圧状況演算部210からの転圧状況(CS)とに基づいて、タイヤローラ100が転圧する転圧レーン(CL)を演算し、ガイダンス表示部290に出力する。ここで、転圧レーン(CL)とは、タイヤローラ100が転圧(転圧作業)のために走行する予定の走路、或いは、転圧のために走行した走路のことである。
【0024】
ガイダンス表示部290は、車両位置取得部204からの現在の車両位置(VP)と、転圧レーン演算部260からの転圧レーン(CL)と、転圧状況演算部210からの転圧状況(CS)とに基づいて、転圧レーン(CL)および転圧状況(CS)を重ねて図示した画像情報を作成し、ガイダンス画像(PL)としてモニタ109に出力する。
【0025】
図3は、転圧支援コントローラにおける処理の流れを示すシーケンス図である。
【0026】
図3においては、オペレータがタイヤローラ100の電源をONにしてから、所定の施工作業を実施し、タイヤローラ100の電源をOFFにするまでの間に行われる処理の流れを示している。
【0027】
図3に示すように、施工作業を始めるにあたって、オペレータはタイヤローラ100に搭乗し、タイヤローラ100の電源ON操作を行う(ステップS100)。
【0028】
タイヤローラ100の起動処理が終了すると、転圧支援コントローラ200では、転圧支援用アプリケーションが動作を開始する。転圧支援用アプリケーションはモニタ109を介して、転圧支援に関わるユーザインタフェースを表示し、転圧支援システムに必要な初期設定をユーザに要求する。オペレータはキーボード108を介して、初期設定として転圧条件(CC)の入力を行う(ステップS110)。
【0029】
転圧条件(CC)は、タイヤローラ100の車両寸法と、施工現場における所定の転圧目標値が含まれる。車両寸法には、位置センサ104が計測するGNSSのアンテナ位置から、実際の転圧位置である車輪102の位置までのオフセット情報を設定させる。オフセット情報は位置センサ104の設置位置に変更がない限りは固定値であるので、デフォルト入力値として前回の施工時にオペレータが入力された値が設定される。転圧目標値には、地盤の密度・高さ・転圧回数などの指標があるが、本実施の形態では転圧回数とする。
【0030】
オペレータによる初期設定が行われることで、施工を開始する事が可能となる。以下、オペレータが施工を終了するまでの施工実施中の間に、転圧支援コントローラ200において、所定の処理間隔(例えば、1秒間隔)で周期的に実施されるループ処理について説明する。
【0031】
転圧支援コントローラ200は、転圧状況の演算(ステップS210)、転圧レーンの演算(ステップS220)、ガイダンス情報の出力(ステップS230)の順番に処理を行う。なお、ステップS220の転圧レーンの演算に係る処理については後に詳述する。
【0032】
続いて、オペレータは、モニタ109を介して提示されるガイダンス画像(PL)を見ながら、加減速や操舵といった走行操作を実施する(ステップS120)。
【0033】
以上のように、転圧支援コントローラ200の処理(ステップS210,S220,S230)およびオペレータの処理(ステップS120)がループ処理の対象である。ステップS120の処理まで実施したら、ステップS210の処理に戻ってループ処理を繰り返す。
【0034】
施工終了後(すなわち、ループ処理の終了後)、オペレータはタイヤローラ100を停車させ、タイヤローラ100の電源をOFFにする(ステップS140)。以上により、転圧支援システムに関する処理を終了する。
【0035】
図4は、転圧レーンの演算の処理内容を示すフローチャートである。
【0036】
図4に示すように、転圧レーンの演算(図3のステップS220参照)において、転圧支援コントローラ200は、まず、転圧状況演算部210が出力する転圧状況(CS)を取り込む(ステップS221)。
【0037】
続いて、車両位置取得部204が出力する現在の車両位置(VP)を取り込む(ステップS222)。
【0038】
続いて、ステップS222で取り込んだ現在の車両位置(VP)を、現在レーンにおけるタイヤローラ100の走行軌跡を格納する現在レーン走行軌跡(LT)に追加して更新する(ステップS223)。
【0039】
ここで、タイヤローラ100がレーンチェンジ動作を行ったか否かを判定する(ステップS224)。本実施の形態では、現在レーン走行軌跡(LT)を参照してタイヤローラ100の移動ベクトルを所定の間隔(例えば、5秒)毎に演算し、車両側面方向の移動成分が所定量以上となった際にレーンチェンジがあったと判定する。
【0040】
ステップS224での判定結果がYESの場合、すなわち、レーンチェンジ動作ありと判定した場合には、現在レーン走行軌跡(LT)を消去する(ステップS225)。本実施の形態では、走り始め或いは最後にレーンチェンジをした時から現在走行中のレーンを1往復するまでの間の走行軌跡を用いて転圧レーンを演算するので、レーンチェンジのタイミングで転圧レーンの演算に用いる走行軌跡を作り直す。
【0041】
ステップS224での判定結果がNOの場合(すなわち、レーンチェンジなしと判定した場合)、又は、ステップS225の処理が終了した場合には、続いて、タイヤローラ100がレーン往復動作を行ったか否かを判定する(ステップS226)。本実施の形態では、現在レーン走行軌跡LTを参照してタイヤローラ100の移動ベクトルを5秒毎に演算し、移動ベクトルの向きの変化が所定量以上となった際に、前後進の折り返しがあったと判断し、この折り返しを2回検出する度に、レーン往復動作があったと判定する。
【0042】
ステップS226での判定結果がYESの場合、すなわち、レーン往復ありと判定した場合には、転圧レーン(CL)を演算する(ステップS227)。転圧レーン(CL)の演算方法については後に詳述する。
【0043】
また、ステップS226での判定結果がNOの場合(すなわち、レーン往復なしと判定した場合)、又は、ステップS227の処理が終了した場合には、続いて、転圧レーン(CL)を出力し(ステップS228)、処理を終了する。なお、走り始めから初回のレーン往復動作を行うまでの間は、転圧レーン(CL)は未演算となるので、転圧レーン(CL)として無効値を出力する。
【0044】
図5は、図4のステップS227に示した転圧レーンの演算方法を示す図である。
【0045】
図5において、現在レーン走行軌跡(LT)に格納した全要素がLT[0]からLT[n]の丸点で示されており、これらが現在のレーンを走り始めてから1往復するまでのタイヤローラ100の移動軌跡である。
【0046】
本実施の形態では、現在レーン走行軌跡(LT)の全要素の座標情報を用いて、線形近似によって転圧レーン(CL)を算出する。レーンの往復走行が少なくとも1回行われたことを捉えることで、レーンの始点と終点を特定している。特に、一部の道路機械では、走行が若干不安定となる後進走行が施工上必須となるので、このように往路と復路の移動軌跡を用いて転圧レーンの推定精度を高めることが好ましい。
【0047】
図6は、地盤と転圧対象領域のメッシュ分けの一例を模式的に示す図である。また、図7は、ガイダンス表示の一例を模式的に示す図である。
【0048】
図6及び図7を用いて、ガイダンス情報の出力(図3のステップS230参照)について説明する。
【0049】
図6では、地盤を所定間隔でメッシュ状に分割した状態を示している。一般に、転圧支援システムでは、このようなメッシュ単位で施工品質の管理が行われる。転圧状況演算部210が出力する転圧状況(CS)には、タイヤローラ100の車輪が各メッシュを通過して転圧した回数を計上した結果が格納されている。転圧回数は各メッシュを色分けすることで示される。本実施の形態では、図6図7などの中に凡例で示しているように0回・1回・2回・3回以上の4色で転圧回数を表現する場合を例示する。ただし、図示の都合により、凡例で示す各色をハッチングや塗潰し等で表現している。
【0050】
図7では、実際に施工している最中のガイダンス表示を示しており、タイヤローラ100の走行によって演算された転圧状況(CS)を各メッシュの色分けによって描いている。また、タイヤローラ100の現在位置をシンボルによって描いている。図7においては、転圧レーン演算部260が出力する転圧レーン(CL)を実線で描く場合を示している。なお、転圧レーン(CL)に無効値が出力されている間は、転圧レーン(CL)の描画は行わない。
【0051】
各レーンの走行において、オペレータが極めて正確に同じ走行経路をなぞらない限り、レーンの往復を重ねるにつれて、各メッシュの色分けは特にレーン外縁部で斑状になる。そのため、オペレータは転圧状況(CS)の描画のみでは転圧しているレーンを見失うことがあるが、本実施の形態のようにタイヤローラ100が転圧する予定の走路(すなわち、転圧作業を行うべき走路)である転圧レーン(CL)を予めオペレータに提示することによって適切な走行を行うことが可能となる。
【0052】
図7の例では、施工領域を直線状に走行して転圧する様子を示しているが、例えば道路のカーブ部における盛土を施工する場合には、施工領域を曲線状に走行して転圧する走行操作が必要となる。曲線状に走行して転圧する状況では高度な走行技術が求められ、不要な蛇行がより生じやすいので、転圧レーン(CL)を描画することがより有用である。
【0053】
本実施の形態では上述の様に、転圧レーン(CL)を演算したが、その他の方法により演算してもよい。転圧レーン(CL)は直線による線形近似に限らず、線分の集合や曲線により定義したものに代えてもよい。施工対象の領域が図面などにより予め定められている場合には、施工対象の領域に演算範囲を限定する方法を取ってもよい。
【0054】
また、ガイダンス画像(PL)を作成したが、提示の態様はこれに限定するものではない。例えば、転圧レーン(CL)を破線のような実線以外の態様で描いたり、点滅表示によって強調したり等の方法に変えてもよい。また、レーンの中心線として転圧レーン(CL)を描く代わりに、図8に示すように、転圧幅に応じて中心線からオフセットしたレーン外縁の線を描いてもよい。これは、転圧レーン(CL)が直線以外の場合も同様である。
【0055】
また、レーンチェンジ動作を上記以外の方法により判定してもよい。例えば、レーンチェンジ動作をタイヤローラ100の移動ベクトルから判定する代わりに、タイヤローラ100のステアリング状態やオペレータ操作から判定する方法を用いてもよい。
【0056】
同様に、レーン往復動作を上記以外の方法により判定してもよい。例えば、レーン往復動作をタイヤローラ100の移動ベクトルから判定する代わりに、タイヤローラ100のステアリング状態やオペレータ操作から判定する方法をとってもよい。
【0057】
以上のように構成した本実施の形態においては、施工作業中に、車両の位置に基づいて演算した転圧レーンと、現状の地盤の転圧状況とを合わせて、オペレータに表示することができる。
【0058】
これにより、オペレータは転圧しているレーンを見失わずに転圧状況を把握できるので、地盤の踏み残しによる転圧不良や、余計な操舵による地盤の損傷など(過転圧などを含む)を生じないような適切な走行で施工することができる。
【0059】
すなわち、転圧作業に不慣れなオペレータが施工を行う状況においても、多大な労力と時間を要することなく地盤の締固めを精度よく行うことができるので、オペレータの熟練度による転圧作業への影響を抑制し、転圧作業の精度を向上することができることができる。
【0060】
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を図9図11を参照しつつ説明する。
【0061】
本実施の形態は、タイヤローラ100の転圧状況(CS)に基づいて転圧レーン(CL)を演算する場合を示すものである。以下、図面および説明において第1の実施の形態と同様のものについては説明を省略する。
【0062】
図9は、転圧レーンの演算の処理内容を示すフローチャートである。
【0063】
図9に示すように、転圧レーンの演算(図3のステップS220参照)において、転圧支援コントローラ200は、まず、転圧状況演算部210が出力する転圧状況(CS)を取り込む(ステップS221)。
【0064】
続いて、車両位置取得部204が出力する現在の車両位置(VP)を取り込む(ステップS222)。
【0065】
続いて、転圧条件取得部202が出力する転圧条件(CC)を取り込む(ステップS223A)。
【0066】
ここで、タイヤローラ100がレーンチェンジ動作を行ったか否かを判定する(ステップS224)。本実施の形態では、現在レーン走行軌跡(LT)を参照してタイヤローラ100の移動ベクトルを所定の間隔(例えば、5秒)毎に演算し、車両側面方向の移動成分が所定量以上となった際にレーンチェンジがあったと判定する。
【0067】
ステップS224での判定結果がYESの場合、すなわち、レーチェンジありと判定した場合には、転圧レーン(CL)を演算する(ステップS227A)。転圧レーン(CL)の演算方法については後に詳述する。
【0068】
また、ステップS224での判定結果がNOの場合(すなわち、レーン往復なしと判定した場合)、又は、ステップS227Aの処理が終了した場合には、続いて、転圧レーン(CL)を出力し(ステップS228)、処理を終了する。なお、走り始めから初回のレーン往復動作を行うまでの間は、転圧レーン(CL)は未演算となるので、転圧レーン(CL)として無効値を出力する。
【0069】
図10は、転圧レーンの演算方法を示す図である。
【0070】
図10を用いて、転圧レーン(CL)の演算(図9のステップS227A参照)について説明する。
【0071】
図10は、転圧レーン(CL)の演算の様子を模式的に示しており、左側に転圧レーン演算時点の転圧状況(CS)を、中央に転圧済みレーンに沿った車両位置ノード群(VN)を、右側に車両位置ノード群を基に生成した転圧レーン(CL)を示している。
【0072】
転圧レーン演算時の転圧状況(CS)(左側)では、既に転圧済みのひとつ前のレーンが示されている。
【0073】
転圧済みレーンに沿った車両位置ノード群(VN)(中央)では、転圧条件(CC)に含まれる車両寸法および転圧回数の目標値を考慮して、転圧済みのひとつ前のレーンに沿った車両位置を所定の間隔で得られるように演算する。この間隔は、タイヤローラ100の車両寸法や走行性能に基づく距離とし、本実施形態では10mとする。図10中では、車両位置ノード群(VN)として、VN[0],VN[1],VN[2],VN[3]の4点を描いている。この例では、VN[0]およびVN[2]の付近で転圧済みレーンのレーン外縁部に転圧不足が残っているため、当該の車両位置ノードが転圧済みレーンに寄っている。
【0074】
車両位置ノード群を基に生成した転圧レーン(CL)(右側)では、転圧済みレーンに沿った車両位置ノード群(VN)(中央)の各点(VN[0]~VN[3])を変曲点とした曲線を演算し、これを転圧レーン(CL)とする。
【0075】
図11は、ガイダンス表示の一例を示す図である。
【0076】
図11では、実際に施工している最中のガイダンス表示を示しており、タイヤローラ100の走行によって演算された転圧状況(CS)を各メッシュの色分けによって描いている。また、タイヤローラ100の現在位置をシンボルによって描いている。実線で描いているのが、転圧レーン演算部260が出力する転圧レーン(CL)である。転圧レーン(CL)に無効値が出力されている間は、転圧レーン(CL)の描画は行わない。
【0077】
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0078】
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
また、ひとつ前に転圧したレーンの転圧状況を踏まえて、転圧不足がないような転圧レーン(CL)を提示するので、地盤の踏み残しによる転圧不良をより効果的に防止することができる。これにより、オペレータは転圧しているレーンを見失わずに転圧状況を把握できるので、地盤の踏み残しによる転圧不良や、余計な操舵による地盤の損傷などを生じないような適切な走行で施工することができる。
【0080】
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態を図12を参照しつつ説明する。
【0081】
本実施の形態は、1レーン目のガイダンスには第1の実施の形態で示した演算方法で求めた転圧レーン(CL)を用い、2レーン目以降のガイダンスには第2の実施の圭太いで示した演算方法で求めた転圧レーン(CL)を用いるものである。以下、図面および説明において第1の実施の形態と同様のものについては説明を省略する。
【0082】
本実施の形態においても、第1の実施の形態の図3の説明と同様に、まず、オペレータがタイヤローラ100の電源ON操作(ステップS100)、及び、転圧条件(CC)設定操作(ステップS110)を行い、転圧支援コントローラ200は、転圧状況の演算(ステップS210)、転圧レーンの演算(ステップS220B)、ガイダンス情報の出力(ステップS230B)の処理を行い、オペレータは走行操作(ステップS120)を実施し、タイヤローラ100の電源をOFFにする(ステップS140)。
【0083】
ここで、本実施の形態における転圧レーンの演算(ステップS220B)における処理内容を説明する。転圧支援コントローラ200は、タイヤローラ100が1レーン目を施工している状況、すなわち施工開始からレーンチェンジを一度も行っていない状況では、第1の実施形態の図4で説明した演算方法を用いて転圧レーン(CL)を演算する。また、2レーン目以降を施工している状況では、第2の実施形態の図8で説明した演算方法を用いて転圧レーン(CL)を演算する。
【0084】
続いて、ガイダンス情報の出力(ステップS230B)における処理内容を説明する。本実施の形態においては、モニタ109に複数の転圧レーン(CL)を表示しながら、転圧作業の進展に応じて、各転圧レーン(CL)の表示態様を変更する。
【0085】
図12は、本実施の形態におけるガイダンス表示の一例を示す図である。
【0086】
図12を用いて、本実施形態における複数の転圧レーン(CL)の表示方法を説明する。
【0087】
図12は、ガイダンス表示の変化の様子を模式的に示しており、左側に1レーン目で1往復を完了した時点での表示を、中央に2レーン目に入ったばかりのレーンチェンジ直後の時点での表示を、右側に3レーン目に入ったばかりのレーンチェンジ直後の時点での表示を示している。
【0088】
1レーン目で1往復を完了した時点での表示(左側)では、1レーン目に対応する転圧レーンCL[0]のみを表示している。転圧レーンCL[0]は、第1の実施形態の演算方法で演算されたものである。
【0089】
2レーン目に入ったばかりのレーンチェンジ直後の時点での表示(中央)では、2レーン目に対応する転圧レーンCL[1]を新たに表示している。転圧レーンCL[1]は、第2実施形態の演算方法で演算されたものである。なお、表示の態様は、転圧レーンCL[0]は破線表示、転圧レーンCL[1]は実線表示としている。このように、現在走行中のレーンを常に実線で描くことで、オペレータは現在走行中のレーンを認識しやすくなる。
【0090】
3レーン目に入ったばかりのレーンチェンジ直後の時点での表示(右側)では、3レーン目に対応する転圧レーンCL[2]を新たに表示している。転圧レーンCL[2]は、第2実施形態の演算方法で演算されたものである。なお、表示の態様は、転圧レーンCL[0]は非表示、転圧レーンCL[1]は破線表示、転圧レーンCL[2]は実線表示としている。このように、走行する直近2レーンのみを表示し、それより過去に走行したレーンについては非表示とすることで、目前の施工作業には不要なノイズとなる情報を取り除いている。また、既に転圧した前のレーンと、これから転圧する次のレーンを見比べると、2つのレーンが並行でない場所で転圧に歪みが生じていることが認識できるので、走行を改善するためのフィードバック情報として使用することもできる。
【0091】
なお、転圧レーン(CL)を他の方法により演算してもよい。例えば、本実施の形態において転圧レーン(CL)が新規に演算されるタイミングは、第2実施形態の演算方法のタイミング(レーンチェンジ時)としていたが、現在のレーンが施工完了したタイミングで転圧レーン(CL)を新規に演算するようにしてもよい。また、レーンの施工完了は、転圧状況あるいはタイヤローラ100の折り返し回数などから判断することが可能である。このように構成することで、レーンチェンジを行う前に次のレーンをオペレータに提示することができる。
【0092】
また、転圧レーン(CL)を他の方法により表示してもよい。例えば、本実施の形態では、レーンチェンジの回数すなわち現在何レーン目を走っているかに基づいて、直近2レーンのみを表示していたが、他の指標を用いて転圧作業の進展を判断してもよい。例えば、転圧状況(CS)および転圧条件(CC)から現在何レーン目までの転圧が終わったかを演算して判断してもよいし、或いは、より単純に、タイヤローラ100の折り返し動作の回数や、レーンの始点および終点の通過回数から判断してもよい。
【0093】
また、転圧レーン(CL)の描画は図12に例示したような実線と破線に限定するものではない。例えば、走行中のレーンを、赤色等の目を引く色に変えたり、点滅させたりすることによって、強調してもよい。より効果的にガイダンスを行うためには、タイヤローラ100の走行動作あるいは転圧作業の進展に基づいて、転圧レーン(CL)の描画態様を変更することが好ましい。例えば、走行中の転圧レーン(CL)から車両が逸脱しそうな時に、レーンを点滅表示する等によって警告すると、走行操作の改善を促すことが出来る。また、転圧が完了した区間を実線で、未完了の区間を破線で表示するといった表現も効果的である。このように転圧レーン(CL)の表示態様を変更して提示すると、オペレータは適切な走行に必要な情報をより少ない労力で認識することができる。
【0094】
以上の様に構成した本実施の形態においては、施工作業中に、転圧条件および転圧状況に基づいて演算した転圧レーンと、現状の地盤の転圧状況とを合わせて、オペレータに表示することができる。
【0095】
また、第2の実施形態の手法を用いることにより、地盤の踏み残しによる転圧不良をより効果的に防止でき、かつ、第1実施形態の手法を用いることにより、転圧済みレーンが未だ存在しない最初のレーンを施工している状況でもガイダンスの可用性を向上させることができる。
【0096】
このため、オペレータは転圧しているレーンを見失わずに転圧状況を把握できるので、地盤の踏み残しによる転圧不良や、余計な操舵による地盤の損傷などを生じないような適切な走行で施工することができる。
【0097】
その結果、転圧作業に不慣れなオペレータが施工を行う状況においても、多大な労力と時間を要することなく地盤の締固めを精度よく行うことができる。
【0098】
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0099】
100…タイヤローラ、101…フレーム、102…車輪、102a…前輪、102b…後輪、104…位置センサ、108…キーボード、109…モニタ、200…転圧支援コントローラ、202…転圧条件取得部、204…車両位置取得部、210…転圧状況演算部、260…転圧レーン演算部、290…ガイダンス表示部、CC…転圧条件、CL…転圧レーン、CS…転圧状況、LT…現在レーン走行軌跡、VN…車両位置ノード群、VP…車両位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12