(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127885
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】絶縁被膜及びその形成方法、並びに複合部材
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240912BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240912BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079742
(22)【出願日】2024-05-15
(62)【分割の表示】P 2023036021の分割
【原出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真之助
(72)【発明者】
【氏名】牛田 健
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐生
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL031
4J038HA506
4J038HA526
4J038HA536
4J038HA546
4J038KA08
4J038KA20
4J038NA14
4J038NA17
4J038PA05
4J038PB09
(57)【要約】
【課題】絶縁性に加えて耐熱性にも優れ、更にはセラミックテープのような巻き付け作業が不要で、巻きムラや隙間を生じたり、剥がれたりする問題もなく、複雑な形状の導電性基材にも容易に対応可能な絶縁被膜を提供する。
【解決手段】絶縁被膜1は、シリコーンを含む第1のマトリックス10に、少なくとも無機材料20が分散している。また、第1のマトリックス10の材料又は第1のマトリックス10とは異なる成分の第2のマトリックスの材料が含侵されていてもよい。絶縁被膜1は、例えばディップ塗装して形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンを含む第1のマトリックスに、少なくとも無機材料が分散していることを特徴とする絶縁被膜。
【請求項2】
膜表面の少なくとも一部に、前記第1のマトリックスの材料からなる層を有することを特徴とする、請求項1に記載の絶縁被膜。
【請求項3】
前記第1のマトリックスの含有量が、膜表面に近いほど多い傾斜組成であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の絶縁被膜。
【請求項4】
膜表面の少なくとも一部に、前記第1のマトリックスとは異なる成分の第2のマトリックスの材料からなる層を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の絶縁被膜。
【請求項5】
前記第2のマトリックスの含有量が、膜表面に近いほど多い傾斜組成であることを特徴とする、請求項4に記載の絶縁被膜。
【請求項6】
前記無機材料が、シリカ、アルミナ、ムライト及びジルコニアからから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の絶縁被膜。
【請求項7】
前記無機材料が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の絶縁被膜。
【請求項8】
前記無機材料が、フレーク状、繊維状及び粒子状から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の絶縁被膜。
【請求項9】
前記無機材料が、フレーク状ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の絶縁被膜。
【請求項10】
基材を、第1のマトリックスの材料と、少なくとも無機材料とを含有する塗液に浸漬した後、前記基材に付着した前記塗液を乾燥させることを特徴とする絶縁被膜の形成方法。
【請求項11】
絶縁被膜を形成した前記基材を、前記第1のマトリックスの材料、又は前記第1のマトリックスとは異なる成分の第2のマトリックスの材料を含む塗液に浸漬して含侵させることを特徴とする、請求項10に記載の絶縁被膜の形成方法。
【請求項12】
基材の少なくとも一部が、請求項1又は2に記載の絶縁被膜で被覆されてなることを特徴とする、複合部材。
【請求項13】
前記基材が、複数の電池セル又は電池モジュールを接続するバスバーであることを特徴とする、請求項12に記載の複合部材。
【請求項14】
前記基材が、コネクター、電池モジュールの保護部品、電子部品のケース、電池セル、電池モジュール、電池パック又はモーターのコイルであることを特徴とする、請求項12に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被膜及びその形成方法、並びに例えばバスバー等の導電性基材を含む基材に絶縁被膜が被覆された複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
部品間を電気的に接続するために、金属片の表面に絶縁被膜が形成された導電性部材が使用されている。例えば、各種電子機器や、電動モーターで駆動する電気自動車又はハイブリッド車、蓄電池などには、複数の電池セルを、導電性部材であるバスバーにて直列又は並列に接続した蓄電装置が搭載されている。また、電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。
【0003】
電池セルでは、充放電時に過電流が通電され、バスバーが発熱することがあり、場合によっては火炎を発することがある。そのため、バスバーには、絶縁性とともに、耐熱性が要求される。例えば、特許文献1では、銅製のバスバー本体に、耐火層としてマイカテープ等のセラミックテープを巻き付けたバスバーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国実用新案第216902355号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、セラミックテープをバスバー本体に巻き付ける作業が必要になる。電池セルの設置個所の空間的制限などにより、バスバーが複雑な形状を呈することもあるが、バスバーが複雑な形状になると、セラミックテープをバスバー本体の隅々まで巻き付けるのが困難である。セラミックテープに、巻きムラや隙間があると、絶縁性や耐熱性が十分に得られない。また、セラミックテープの粘着面が剥がれることも想定される。更には、マイカテープの外側には、絶縁層としてナイロンテープが巻回されているが、ナイロンテープは熱に弱く、耐熱性に問題がある。
【0006】
そこで本発明は、絶縁性に加えて耐熱性にも優れ、更にはセラミックテープのような巻き付け作業が不要で、巻きムラや隙間を生じたり、剥がれたりする問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能な絶縁被膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、絶縁被膜に係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1] シリコーンを含む第1のマトリックスに、少なくとも無機材料が分散していることを特徴とする絶縁被膜。
【0009】
また、絶縁被膜に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[9]に関する。
【0010】
[2] 膜表面の少なくとも一部に、前記第1のマトリックスの材料からなる層を有することを特徴とする、[1]に記載の絶縁被膜。
[3] 前記第1のマトリックスの含有量が、膜表面に近いほど多い傾斜組成であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の絶縁被膜。
[4] 膜表面の少なくとも一部に、前記第1のマトリックスとは異なる成分の第2のマトリックスの材料からなる層を有することを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1つに記載の絶縁被膜。
[5] 前記第2のマトリックスの含有量が、膜表面に近いほど多い傾斜組成であることを特徴とする、[4]に記載の絶縁被膜。
[6] 前記無機材料が、シリカ、アルミナ、ムライト及びジルコニアからから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の絶縁被膜。
[7] 前記無機材料が、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の絶縁被膜。
[8] 前記無機材料が、フレーク状、繊維状及び粒子状から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1つに記載の絶縁被膜。
[9] 前記無機材料が、フレーク状ガラス系材料及びマイカの少なくとも一方を含むことを特徴とする、[1]~[5]のいずれか1つに記載の絶縁被膜。
【0011】
本発明の上記目的は、絶縁被膜の形成方法に係る下記[10]の構成により達成される。
【0012】
[10] 基材を、第1のマトリックスの材料と、少なくとも無機材料とを含有する塗液に浸漬した後、前記基材に付着した前記塗液を乾燥させることを特徴とする絶縁被膜の形成方法。
【0013】
また、絶縁被膜の形成方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[11]に関する。
【0014】
[11] 絶縁被膜を形成した前記基材を、前記第1のマトリックスの材料、又は前記第1のマトリックスとは異なる成分の第2のマトリックスの材料を含む塗液に浸漬して含侵させることを特徴とする、[10]に記載の絶縁被膜の形成方法。
【0015】
本発明の上記目的は、複合部材に係る下記[12]の構成により達成される。
【0016】
[12] 基材の少なくとも一部が、[1]~[9]のいずれか1つに記載の絶縁被膜で被覆されてなることを特徴とする、複合部材。
【0017】
また、複合部材に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[13]及び[14]に関する。
【0018】
[13] 前記基材が、複数の電池セル又は電池モジュールを接続するバスバーであることを特徴とする、[12]に記載の複合部材。
【0019】
[14] 前記基材が、コネクター、電池モジュールの保護部品、電子部品のケース、電池セル、電池モジュール、電池パック又はモーターのコイルであることを特徴とする、[12]に記載の複合部材。
【発明の効果】
【0020】
本発明の絶縁被膜は、シリコーンをマトリックスとするものであるが、シリコーンは熱分解して官能基が消失することでSiO結合を形成し、更にSiO2に変化する。SiO2は、火炎を受けても焼失することがなく、耐熱性が高まる。また、無機材料も耐熱性に優れる。更には、シリコーン及び無機材料は、共に絶縁性にも優れている。
【0021】
また、シリコーンをマトリックスとし、無機材料が分散している絶縁被膜に、更にマトリックス材料を含侵させることにより、膜材料の揮発成分が成膜中に揮発して絶縁被膜中に生じた気泡を埋めるため、絶縁被膜がより緻密になって膜強度が高まる。加えて、マトリックスの材料が、絶縁被膜の表面の少なくとも一部に残存し、硬化してトップコートとしての層を形成するため、無機材料等の粉落ちや膜表面の損傷を防いだり、耐衝撃性を高める。
【0022】
更には、絶縁被膜の成膜方法も、マトリックスと無機材料とを含む塗液を用いてディップ塗装するため、製造工程が簡易である。また、マトリックス材料を含侵させる際も、マトリックス材料に浸漬するだけであり、簡便である。
【0023】
絶縁被膜は、バスバー等の導電性部材を被覆するのに特に有用である。その際、ディップ塗装であるから、セラミックテープのような巻き付け作業が不要で、巻きムラや隙間を生じたり、剥がれたりする問題もなく、複雑な形状にも容易に対応可能である。また、シリコーン及び無機材料は耐熱性に優れるため、例えばバスバーが適用される蓄電装置の電池セルが熱暴走を起こし、火炎が発生した場合でも十分に対処できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態の絶縁被膜の断面を撮影した図面代用写真である。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態の絶縁被膜の断面を撮影した図面代用写真である。
【
図3】
図3は、本発明の複合部材の一例として、導電性部材であるバスバーを模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施例で用いた試験装置を示す模試図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す試験装置を用いた加熱後の絶縁被膜1A(試験片A/発明例)及びマイカテープ(試験片B/比較例)の剥離の有無を観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0026】
[絶縁被膜]
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る絶縁被膜の断面を撮影した写真である。絶縁被膜1では、シリコーンを有する第1のマトリックス(図中の灰色部分:符号10)に、無機材料(図中の白い線分:符号20)が分散している。
【0027】
シリコーンには、熱分解すると官能基が消失してSiO結合が発生し、焼失してSiO2に変化する。SiO2は、火炎を受けても焼失することがなく、絶縁被膜1は耐熱性に優れたものとなる。なお、シリコーンには、シリコーンレジンとシリコーンゴムとがあり、いずれでもよいが、シリコーンレジンであることが、形成されるSiO2を高密度にするという観点から好ましい。
【0028】
後述するように、絶縁被膜1はディップ塗装して得られるが、第1のマトリックス10の材料と、無機材料20とを含む塗液の塗布性能を高めるために、チクソ剤を併用することが好ましい。
【0029】
無機材料20は融点が高く、耐熱性に優れるが、中でもケイ酸塩化合物を含むことが好ましい。上記のとおり、シリコーンは、熱分解によるSiO2に変化し得るが、ケイ酸塩化合物は、シリコーンが形成するSiO2と同じ成分を有するため、シリコーンを有する第1のマトリックス10と、無機材料20との結合力が高まる。なお、ケイ酸塩化合物としては、ガラス系材料、マイカ、カオリン、タルク、クレー、パイロフィライト、モンモリロナイト、ベントナイト、ワラストナイト、ゾノトライト、ゼオライト、ケイソウ土及びハロイサイトから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0030】
また、無機材料20としては、シリカ、アルミナ、ムライト及びジルコニアからから選択される少なくとも1種であることが、高融点、かつ、高い絶縁性を有することの観点から好ましい。なお、本発明の複合部材の一例として、導電性部材であるバスバーが適用される際、これら材料は、一般的なバスバー本体に用いられる金属材料の融点以上で想定される熱暴露温度以上の融点を備える無機材料であることから、バスバー用の絶縁被膜1に好適に用いられる。
【0031】
また、無機材料20としては、フレーク状、繊維状及び粒子状から選択される少なくとも1種であることが、第1のマトリックス10に無機材料20が分散する際、第1のマトリックス10との密着力が高まり、絶縁被膜1の強度向上に寄与するため、好ましい。
【0032】
また、無機材料20としてガラス系材料が含まれる場合、ガラス系材料は、フレーク状ガラス、ガラス粒子及びガラス繊維から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、フレーク状ガラスは、膜中で面状に配向して優れた絶縁性や耐熱性を示すため、フレーク状ガラスを含むことが特に好ましい。また、上記したマイカについても、フレーク状ガラスと同様の理由により、用いられることが好ましい。
【0033】
絶縁被膜1における全成分に対する無機材料20の含有量は、3~70体積%であることが好ましく、10~50体積%であることがより好ましく、20~40体積%であることが更に好ましい。無機材料20の含有量が3体積%未満では、絶縁性や耐熱性が十分に得られないおそれがある。一方、70体積%を超えるとディップ塗装する塗液の粘度が高くなりすぎて成膜性に劣るようなる。
【0034】
また、シリコーン及び無機材料20はともに、耐熱性に加えて、絶縁性にも優れているため、絶縁被膜1の構成成分として有用である。
【0035】
なお、絶縁被膜1は、上記した第1のマトリックス10及び無機材料20の他にも、絶縁性や耐熱性に影響を与えない範囲で、難燃剤や分散剤、顔料などの他の材料を含んでもよい。
【0036】
(第2実施形態)
第1実施形態の絶縁被膜1は、第1のマトリックス10に無機材料20が分散したものであるが、絶縁被膜1には膜材料の揮発成分が成膜中に揮発し、膜中に気泡を生じる。なお、
図1において、黒い部分が気泡30であり、膜中に多数点在している。
【0037】
そこで、気泡30を埋めるために、第1のマトリックス10と同じ材料、又は、場合により、第1のマトリックスとは異なる成分の第2のマトリックスの材料(以下、まとめて「マトリックス材料」ともいう。)を、第1実施形態の絶縁被膜1に含侵させる。すなわち、第2実施形態の絶縁被膜1Aは、第1実施形態の絶縁被膜1の気泡30をマトリックス材料で埋めたものであり、被膜がより緻密になって膜強度が高まる。
図2は、第2実施形態の絶縁被膜1Aの断面写真であるが、第1実施形態の絶縁被膜1のような気泡30は殆ど見られず、気泡30がマトリックス材料で埋められているのがわかる。
【0038】
含侵させるマトリックス材料としては、親和性の観点から、絶縁被膜1の第1のマトリックス10と同じ材料とすることが好ましい。また、第1のマトリックス10はシリコーンであるため、シリコーンが増量されて絶縁被膜1Aが形成される基材との密着性がより高まり、無機材料20の保持力も高まる。更には、シリコーンが増量する結果として、SiO2も増量されることになり、火炎を受けたときでも絶縁被膜1Aがより効果的に維持される。
【0039】
第2のマトリックスの材料も、第1のマトリックスの材料との親和性が高いことが好ましく、第1のマトリックス10と同じ材料であることが好ましい。第2のマトリックスの材料を用いた場合でも、第1のマトリックス10が膜中に存在するため、シリコーンに由来するSiO2による耐熱性は維持される。
【0040】
マトリックス材料は膜表面から膜中に浸透していくため、マトリックス材料の一部が膜表面に残存し、そのまま硬化して層を形成する。また、マトリックス材料の量が十分に多いと、膜中に浸漬した分とは別に、余ったマトリックス材料が膜表面に広がり、そのまま硬化して層を形成する。そして、マトリックス材料の量によっては、膜表面の全面を覆うように層を形成する。
【0041】
すなわち、絶縁被膜1Aでは、
図2に示すように、膜表面の一部、又は全面に層40が存在している。このような層40は、トップコートとして作用し、無機材料20等の粉落ちを防止したり、膜表面の損傷を抑制したり、衝突物の衝撃を緩和する。
【0042】
また、絶縁被膜1Aでは、更にマトリックス材料を含侵させて得られるため、膜表面に近いほどマトリックス材料が多い傾斜組成となることから、上記した無機材料20等の粉落ちを防止したり、膜表面の損傷を抑制したり、衝突物の衝撃を緩和することをより効果的に発揮し得るという観点で特に有利である。
【0043】
[絶縁被膜の形成方法]
マトリックス材料が液状であるため、絶縁被膜の形成方法として、ディップ塗装を行うことが好ましい。ディップ塗装は、セラミックテープのような巻き付け作業が不要で、工程が簡便である、また、巻きムラや隙間を生じたり、剥がれたりする問題もなく、複雑な形状の導電性基材にも容易に対応可能である。
【0044】
すなわち、第1実施形態の絶縁被膜1を形成するには、第1のマトリックスの材料と、少なくとも無機材料とを含有する塗液に、基材を浸漬し、引き上げた後、塗液を乾燥させる。
【0045】
また、第2実施形態の絶縁被膜1Aを形成するには、絶縁被膜1を形成した基材を、マトリックス材料を含む塗液に浸漬して含侵させ、引き上げた後、塗液を乾燥させる。浸漬時間により、マトリックス材料の含侵量を制御する。
【0046】
[導電性部材]
本発明はまた、導電性基材を、上記の絶縁被膜1又は絶縁被膜1Aで被覆した導電性部材に関する。導電性部材には制限はないが、ここでは、蓄電装置において複数の電池セル又は電池モジュールを接続するために用いられるバスバーを例示して説明する。
【0047】
図3は、本実施形態に係るバスバー100を電池セル130に装着した状態を示す分解斜視図である。バスバー本体110は、例えば、全体がZ字状の金属製の板部材であり、一方の先端の接続孔115aに電池セル130の電極135を挿入し、端子キャップ136を被せて固定される。また、バスバー本体110の他方の先端の接続孔115bには、隣接する電池セル(図示せず)や外部機器(図示せず)が接続される。そして、バスバー本体110の接続孔115a,115bを除く部分を、絶縁被膜1又は絶縁被膜1Aで覆い、バスバー100が構成される。
【0048】
なお、図示は省略するが、バスバー本体110は、全体をI字状にしたり、湾曲部を有するような不定形など、電池セル130の設置個所に応じて種々の形状とすることができる。
【0049】
バスバー本体110が、図示されるZ字状のような屈曲部110aや湾曲部(図示せず)を有する形状であると、上記特許文献1のバスバーのようにセラミックテープを巻き付ける方式では、屈曲部110aや湾曲部に巻きムラや隙間が生じないようにするために巻き付け作業に手間がかかったり、あるいは振動などにより隙間が生じたり、粘着剤が剥離することなどが想定される。しかし、本実施形態では、「ディップ塗装」により絶縁被膜1又は絶縁被膜1Aを形成するため、そのような問題は起こらない。
【0050】
なお、バスバー100を製造するには、「ディップ塗装」する際に、接続孔115a,115bをマスキングして塗液に浸漬する。
【0051】
バスバー100を被覆している絶縁被膜1又は絶縁被膜1Aは、シリコーンを含んでいるため、熱暴走を起こした電池セル130からの火炎を受けたとしても、SiOが生成して焼失することはない。
【0052】
[複合部材]
本発明はまた、上記導電性部材に限らず、基材を、上記の絶縁被膜1又は絶縁被膜1Aで被覆した複合部材に関する。複合部材には特に制限はないが、上記した導電性部材の一例であるバスバー以外として、例えば、基材が、コネクター、電池モジュールの保護部品、電子部品のケース、電池セル、電池モジュール、電池パック又はモーターのコイルであることが例として挙げられる。
【0053】
なお、バスバーに適用される場合の導電性基材としては、その基材自体が通電されるものであるが、本発明の絶縁被膜1又は絶縁被膜1Aが被覆される基材としては、それに限られるものではなく、基材自体が通電されないものに対する本発明への適用を妨げるものではない。
【実施例0054】
本実施例では、発明例に係る絶縁被膜1Aの技術的効果を検証した。
【0055】
まず、シリコーンレジンとマイカとを含む塗液を、30mm×75mm、厚さ2mmの銅板(C1100)に塗装後、銅板に付着している塗液を乾燥、硬化させて絶縁被膜1Aの中間体を形成した。次いで、形成された絶縁被膜1Aの中間体に、シリコーンレジンを更に含侵させ、その後、乾燥、硬化させて、銅板上に絶縁被膜1Aを備える試験片Aを作製した。なお、シリコーンレジンを更に含侵させて形成された最終的な絶縁被膜1Aの厚さは1006μmであった。
【0056】
また、比較のために、同じ銅板に厚さ150μmのマイカテープを2重に巻き付けて試験片Bを作製した。
【0057】
そして、
図4に示す試験装置を用いて加熱後の絶縁被膜1A(試験片A/発明例)及びマイカテープ(試験片B/比較例)の剥離の有無を観察した。試験装置200は、一端に試験片210が装着されるアルミ製の可動部220と、可動部220の他端を回動自在に支持し、支持台250に垂設した基部230で構成されている。可動部220は、基部230に対して所定の角度θをなすように一端(試験片側)を手で持ち上げ、手を離すと振り子のような軌道(図中矢印)で基部230に衝突する。
【0058】
試験は、バスバーが熱暴走した電池セルから火炎を受けた場合を想定して、試験片A又は試験片Bに対し、電気炉を用いて約1000℃にて所定時間(60分)加熱した後、試験片A又は試験片Bを可動部220に装着し、角度θをそれぞれ15°、30°、60°、90°に変えて基部230に衝突させた。そして、衝突後の試験片Aの絶縁被膜1A、試験片Bのマイカテープの破損状態を目視で確認した。
【0059】
試験の結果を
図5に示す。
図5に示すように、発明例である試験片Aでは、角度θ=15°、30°及び60°のいずれの位置から衝突させた場合にも、1回目の繰り返し試験後において試験片Aの絶縁被膜1Aに剥離が見られなかった。さらに、角度θ=90°の位置から衝突させた場合には、5回目の繰り返し試験後においても試験片Aの絶縁被膜1Aに剥離が見られなかった。
【0060】
一方、比較例である試験片Bでは、角度θ=15°、30°及び60°のいずれの位置から衝突させた場合にも、1回目の繰り返し試験後において試験片Bのマイカテープに剥離が見られなかったものの、角度θ=90°の位置から衝突させた場合には、2回目の繰り返し試験後において試験片Bのマイカテープに剥離が見られた(図中、矢印を参照)。
【0061】
このことから、発明例である試験片Aの絶縁被膜1Aは、高温に暴露されても十分な被膜が維持され、例えばバスバーへの用途に適することがわかる。