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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128611
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】繊維積層装置及び複合材成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20240913BHJP
   B29C 70/38 20060101ALI20240913BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C70/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037675
(22)【出願日】2023-03-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」委託研究(管理法人:JST)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】寺山 大地
(72)【発明者】
【氏名】國谷 知可
(72)【発明者】
【氏名】中西 舜也
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG03
4F205AJ08
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA23
4F205HA45
4F205HB01
4F205HK03
4F205HK25
4F205HM13
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】複数のプリプレグテープを捩って共通のローラに幅方向に並べて摺動可能に送り出すプリプレグテープのAFP装置において、各プリプレグテープの幅方向における位置ずれ量を低減できるようにすることである。
【解決手段】実施形態に係る繊維積層装置は、繊維強化プラスチックの素材である複数のプリプレグのテープを幅方向に並べて積層するものである。この繊維積層装置は、第1の回転軸を中心に回転することによって前記複数のプリプレグのテープを1枚づつ送り出す複数の第1のローラと、前記第1の回転軸とねじれの位置にある第2の回転軸を中心に回転することによって、前記複数の第1のローラから送り出される前記複数のプリプレグのテープを幅方向に並べて摺動可能に送り出す単一の第2のローラとを有し、前記複数の第1のローラのうち少なくとも1つに、前記第1の回転軸方向における位置を調整する第1の位置調整機構を設けた。
【選択図】 図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチックの素材である複数のプリプレグのテープを幅方向に並べて積層する繊維積層装置において、
第1の回転軸を中心に回転することによって前記複数のプリプレグのテープを1枚づつ送り出す複数の第1のローラと、
前記第1の回転軸とねじれの位置にある第2の回転軸を中心に回転することによって、前記複数の第1のローラから送り出される前記複数のプリプレグのテープを幅方向に並べて摺動可能に送り出す単一の第2のローラと、
を有し、
前記複数の第1のローラのうち少なくとも1つに、前記第1の回転軸方向における位置を調整する第1の位置調整機構を設けた繊維積層装置。
【請求項2】
前記第2のローラに、前記第2の回転軸方向に垂直な方向を含む位置を調整する第2の位置調整機構を設けた請求項1記載の繊維積層装置。
【請求項3】
前記第1の位置調整機構は、
前記第1のローラを回転自在に保持する回転シャフトとして機能するピンボルトと、
前記ピンボルトに固定され、前記第1のローラを前記第1の回転軸方向に押し付けるプッシャと、
前記第1のローラを前記プッシャによる押し付け方向と逆方向に押し返すばねと、
を有する請求項1記載の繊維積層装置。
【請求項4】
前記第2の位置調整機構を、前記第2の回転軸から偏心した回転軸を中心に回転する偏心ブッシュで構成した請求項2記載の繊維積層装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の繊維積層装置で前記複数のプリプレグのテープを積層するステップと、
前記複数のプリプレグのテープに含まれる樹脂を硬化するステップと、
を有し、
前記テープを積層するステップに先立って前記第1の位置調整機構で前記複数の第1のローラのうちの前記少なくとも1つの前記第1の回転軸方向における位置を調整する複合材成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、繊維積層装置及び複合材成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の複合材とも呼ばれる繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)を成形するためには、シート状の繊維に未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグのシートを積層した後、樹脂を硬化させることが必要となる。或いは、樹脂を含浸させる前のシート状の繊維を積層した後、樹脂を含浸させて硬化させることが必要となる。繊維を積層した後、樹脂を含浸させるFRPの成形方法は、RTM(Resin Transfer Molding)法と呼ばれる。
【0003】
近年では、テープ状のプリプレグ又は繊維を自動的に積層する自動繊維積層(AFP:Automated Fiber Placement)装置が市販されており、AFP装置で積層するためのプリプレグテープの他、ドライテープと呼ばれる樹脂を含浸させる前のテープ状の繊維も市販されている。
【0004】
AFP装置でプリプレグテープやドライテープ等のテープ材を積層する場合、複数のテープ材を同時に積層することにより、積層効率、すなわち単位時間当たりに積層されるテープ材の長さを向上することができる。このため、複数のテープ材を同時に積層できるように複数の積層ヘッドを備えたAFP装置が提案されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
また、複数のプリプレグテープを幅方向に並べて隣接するテープ間におけるオーバーラップ量を変化させたり、各テープの幅を変化させたりすることによって、共通のローラから異なる幅で複数のプリプレグテープを送り出すことが可能なAFP装置も提案されている(例えば特許文献3及び特許文献4参照)。
【0006】
特許文献4に記載のAFP装置は、プリプレグテープの数だけテープの幅を変化させる幅調整機構を備えており、それぞれ幅調整機構で幅が調整された複数のプリプレグテープを幅方向に隙間なく並べてコンパクションローラと呼ばれる共通のローラでテーブルに送り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2011-527648号公報
【特許文献2】特開2020-059145号公報
【特許文献3】特開2022-046379号公報
【特許文献4】特開2022-130133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
AFP装置のヘッドが大型化することを回避したり、ヘッドを構成する部品間における干渉を回避したりするためには、特許文献4に示すように幅調整機構からコンパクションローラに向けて各プリプレグテープを捩って送り出すことが必要となる場合が多い。そのためには、各プリプレグテープを送り出すための上流側におけるローラの回転軸と、下流側におけるローラの回転軸を、ねじれの位置に配置することが必要となる。
【0009】
しかしながら、プリプレグテープを送り出すための各ローラの位置等に無視できない物理的な誤差がある場合や、プリプレグテープの品質によっては、捩った後のプリプレグテープの位置が本来の経路からずれることがある。これは、幅が変更し得る複数のプリプレグテープを隙間なく幅方向に並べて送り出す場合には、共通のローラで複数のプリプレグテープを摺動可能に送り出すことになるためである。つまり、複数のプリプレグテープを捩って共通のローラに送り出すと、各プリプレグテープが当該共通のローラ上において幅方向に滑り、狙った位置を通らない場合がある。
【0010】
プリプレグテープの位置が無視できないシフト量で幅方向にずれると、幅方向に隣接するプリプレグテープ間に望ましくない隙間やオーバーラップが生じることになる。このため、プリプレグテープの幅方向における無視できない量の位置ずれは、プリプレグテープの積層によって製作されるプリフォームの品質劣化に繋がる。すなわち、AFP装置に求められるプリプレグテープの積層精度が得られなくなる場合がある。
【0011】
そこで本発明は、複数のプリプレグテープを捩って共通のローラに幅方向に並べて摺動可能に送り出すプリプレグテープのAFP装置において、各プリプレグテープの幅方向における位置ずれ量を低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る繊維積層装置は、繊維強化プラスチックの素材である複数のプリプレグのテープを幅方向に並べて積層するものである。この繊維積層装置は、第1の回転軸を中心に回転することによって前記複数のプリプレグのテープを1枚づつ送り出す複数の第1のローラと、前記第1の回転軸とねじれの位置にある第2の回転軸を中心に回転することによって、前記複数の第1のローラから送り出される前記複数のプリプレグのテープを幅方向に並べて摺動可能に送り出す単一の第2のローラとを有し、前記複数の第1のローラのうち少なくとも1つに、前記第1の回転軸方向における位置を調整する第1の位置調整機構を設けた。
【0013】
また、本発明の実施形態に係る複合材成形方法は、上述した繊維積層装置で前記複数のプリプレグのテープを積層するステップと、前記複数のプリプレグのテープに含まれる樹脂を硬化するステップとを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る繊維積層装置の全体的な概略構成を示す正面図。
図2図1に示す繊維積層装置の側面図。
図3図1に示す積層ヘッド内外における詳細構成例を示す側面図。
図4図3に示すテープ配列装置の詳細構成例を示す上面図。
図5図4に示すテープ配列装置に備えられる複数のピッチ調整用ローラを含む部分の左側面図。
図6図4に示す複数のピッチ調整用ローラを旋回機構で旋回させた例を示す図
図7】従来のテープ配列装置の問題点を説明する図。
図8図4乃至図6に示すピッチ調整用ローラに設けられる第1の位置調整機構の具体的な構成例を示すピッチ調整用ローラ及び第1の位置調整機構の部分縦断面図。
図9図8に示す第1の位置調整機構でピッチ調整用ローラの位置を下方に移動した例を示すピッチ調整用ローラ及び第1の位置調整機構の部分縦断面図。
図10図8及び図9に例示される第1の位置調整機構で配列用ローラ上におけるプリプレグのテープの位置を調整する方法を説明する図。
図11図4及び図6に示す配列用ローラに設けられる第2の位置調整機構を偏心ブッシュで構成した例を示す偏心ブッシュ及び配列用ローラの斜視図。
図12図11に示す偏心ブッシュの正面図。
図13図12に示す偏心ブッシュを時計回りに回転させた例を示す図。
図14図1に示す繊維積層装置を用いてFRPを成形する場合における流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る繊維積層装置及び複合材成形方法について添付図面を参照して説明する。
【0016】
(繊維積層装置の構成及び機能)
図1は、本発明の実施形態に係る繊維積層装置1の全体的な概略構成を示す正面図であり、図2は、図1に示す繊維積層装置1の側面図である。
【0017】
繊維積層装置1は、FRPからなる複合材の素材であるプリプレグのテープTを積層することによってプリプレグのテープTの積層体を製作するためのAFP装置である。プリプレグは、熱可塑性樹脂又は未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたシート状の繊維である。繊維積層装置1は、プリプレグのテープTを巻いたロールを素材としてプリプレグの積層体を製作するプリプレグの自動積層装置である。
【0018】
繊維積層装置1は、積層ヘッド2を懸垂するガントリ3、テーブル4及び制御装置5で構成することができる。積層ヘッド2は、プリプレグのテープTを内部に収納し、プリプレグのテープTを吐出しながらテーブル4上に送り出す装置である。特に、積層ヘッド2は、複数のプリプレグのテープTを並列配置しながらテーブル4上に送り出す機能を有している。このため、積層ヘッド2には、複数のプリプレグのテープTのクリールスタンドが格納される。
【0019】
テーブル4は、プリプレグのテープTを積層するための台である。テーブル4には、プリプレグのテープTを直接積層しても良いが、テーブル4に賦形型等の積層治具Jを載置し、積層治具Jの上にプリプレグのテープTを積層することが、プリプレグの積層体への形状付与や清掃の観点から実用的である。従って、テーブル4には、直接又は積層治具Jを介して間接的にプリプレグのテープTを積層することができる。
【0020】
ガントリ3は、積層ヘッド2を支持する支柱3A等の支持機構の他、積層ヘッド2を任意軸方向に移動させる送り機構6を備えている。送り機構6は、積層ヘッド2を送り動作させる装置である。すなわち、送り機構6が積層ヘッド2をテーブル4に対して相対移動させることによって、プリプレグのテープTをテーブル4側に積層位置を変えながら送り出すことができる。プリプレグのテープTのテーブル4側への送り出し方向は、積層ヘッド2の移動方向と逆方向となる。
【0021】
送り機構6は、典型的な積層ヘッド2の直線移動に加えて、積層ヘッド2の回転移動を行えるように構成されている。従って、プリプレグのテープTを直線的又は曲線的に送り出すことができる。換言すれば、プリプレグのテープTの送り出し方向を変化させることができる。尚、積層ヘッド2の筐体自体を回転させずに、積層ヘッド2に取付けた部品を回転させるようにしても良い。
【0022】
図1及び図2に示す例では、送り機構6が、水平方向及び鉛直方向を含むX軸、Y軸及びZ軸からなる直交3軸方向への平行移動に加えて、鉛直方向のZ軸を回転軸とするC軸方向に積層ヘッド2を回転移動できるように構成されている。もちろん、テーブル4の表面に対して積層ヘッド2を傾斜させるチルト軸を設けても良い。また、積層ヘッド2の移動に加えて、或いは、積層ヘッド2の移動に代えて、テーブル4を送り機構6で積層ヘッド2に対して移動させるようにしても良い。
【0023】
積層ヘッド2やテーブル4を直線移動させるための移動機構は、例えば、電動モータ、油圧モータ或いは空気圧モータ等のモータと、モータを回転させるための電気回路、油圧回路或いは空気圧回路等の回路に加えて、ギアの一種であるラック・アンド・ピニオン、ボールねじ或いは無限軌道(クローラ)等のモータの回転運動を直線運動に変換する所望の機械要素を用いて構成することができる。或いは、モータを使用せずに油圧回路とピストンで移動機構を構成することもできる。
【0024】
一方、積層ヘッド2を回転移動させるための回転機構は、例えば、電動モータ、油圧モータ或いは空気圧モータ等のモータと、モータの動力で回転する回転シャフトを含む所望の機械要素で構成することができる。
【0025】
制御装置5は、送り機構6及び積層ヘッド2を自動制御する装置である。例えば、送り機構6を制御することによってテーブル4に対する積層ヘッド2の相対的な空間位置及び回転移動量を数値(NC:numerical control)制御することができる。また、積層ヘッド2を制御することによって、積層ヘッド2からの複数のプリプレグのテープTの送り出しの開始と終了並びに切断を自動的に行うことができる。制御装置5は、ガントリ3に内蔵又は取付けることができるが、操作盤等のユーザインターフェースや重量物は、ガントリ3の外部に設置しても良い。
【0026】
制御装置5で積層ヘッド2のNC制御を行う場合には、制御装置5は、NCプログラムを読込ませたコンピュータ等の電子回路で構成することができる。また、送り機構6が油圧式又は空気圧式である場合には、油圧回路又は空気圧回路を用いて制御装置5の一部を構成することができる。
【0027】
図3は、図1に示す積層ヘッド2内外における詳細構成例を示す側面図である。
【0028】
積層ヘッド2は、上述したように複数のプリプレグのテープTを幅方向に並べてテーブル4上に送り出す機能を有している。そのために、積層ヘッド2には、図3に例示されるように、複数のボビン10、複数の幅調整装置11、テープ配列装置12、テンションローラ13、フィードローラ14、カッタ15及びコンパクションローラ16を設けることができる。
【0029】
ボビン10は、一定の幅を有するプリプレグのテープTを巻き付けたテープTのクリールスタンドである。ボビン10は、テーブル4上に送り出す可能性があるテープTの数だけ設けられる。尚、ボビン10の一部を休止状態としたり、取外したりすることによってテーブル4上に送り出すテープTの数を減じるようにしても良い。また、ボビン10間でテープTの幅を互いに異なる幅としても良い。
【0030】
幅調整装置11は、必要に応じてボビン10の後段に設けられ、各ボビン10から供給されるテープTの幅を所望の幅に変化させる装置である。例えば、日本国特開2020-93454号公報に開示されているテープTの幅を狭くする装置や日本国特願2022-175767の出願書類に記載されている装置を幅調整装置11として用いることができる。幅調整装置11を配置すれば、ボビン10から供給されるテープTの幅を所望の幅に変化させて供給することができる。一方、幅調整装置11を配置しない場合には、幅が異なるテープTのボビン10と交換することによって、異なる幅を有するテープTを供給することができる。
【0031】
航空機用のプリプレグのテープTの幅は、単位をインチとして規格化されている場合が多い。上述したように積層ヘッド2を回転させてプリプレグのテープTを曲線的にテーブル4上に送り出すステアリング積層を行う場合には、テープTの幅を1/4インチ(6.35mm)以下とすることが、プリプレグのテープTの積層体として製作されるプリフォームの品質を維持する観点から望ましいことがプリフォームの試作試験によって確認された。このため、幅調整装置11を設けるか否かを問わず、幅が1/4インチであるプリプレグのテープTのボビン10や幅が1/8インチであるプリプレグのテープTのボビン10をセットすることができる。
【0032】
テープ配列装置12は、複数のボビン10又は複数の幅調整装置11から送り出された複数のテープTの間隔(ピッチ)を調整した後、同一方向に配列して送り出す装置である。テープ配列装置12の詳細構成については後述する。
【0033】
テンションローラ13は、テープ配列装置12から同一方向に送り出された複数のテープTにテンションをかけることによってテープTの弛みをはモータ14Cの出力シャフトが連結される。このため、動力ローラ14Aはモータ14Cの動力で回転する。サポートローラ14Bは、動力ローラ14Aとの間で複数のテープTを挟み込むためのローラである。
【0034】
もちろん、複数のテープTを挟み込む2つのローラの双方をモータで回転させるようにしても良い。また、動力ローラ14Aの回転シャフトとモータ14Cの出力シャフトとの間には、ギアの他、ワンウェイクラッチを連結しても良い。
【0035】
フィードローラ14を駆動させるモータ14Cは、制御装置5で制御することができる。このため、モータ14Cの回転開始と回転停止の制御によって、テープTの送り出しの開始と終了を制御することができる。
【0036】
カッタ15は、同一方向に送り出された複数のテープTの積層が完了した際に、テープTを切断するための工具である。カッタ15の動作は、制御装置5で制御することができる。
【0037】
図3に示す例では、カッタ15が回転することによってカッタ15の刃15Aを各テープTに接触させる回転式となっているが、カッタ15を平行移動させることによって、カッタ15の刃15Aを各テープTに接触させるようにしても良い。また、カッタ15の刃15Aとの間で各テープTを挟み込むための円筒状のローラ15Bを設けることができる。
【0038】
コンパクションローラ16は、同一方向に送り出された複数のテープTに各テープTの厚さ方向における圧力を付与しながらテーブル4に向けて送り出すための単一の円筒状のローラである。1層目のテープTはコンパクションローラ16で積層治具Jに押付けられることになり、2層目以降のテープTは厚さ方向に隣接する下方の積層済みのテープTに押付けられることになる。従って、コンパクションローラ16は、幅方向に配列された複数のテープTを、積層治具J又は厚さ方向に隣接する複数のテープTに押付けながら送り出すローラである。
【0039】
テープTの積層枚数が増えると、新たに積層するテープTの高さは徐々に高くなる。このため、コンパクションローラ16は鉛直方向にも移動させる必要がある。コンパクションローラ16の鉛直方向における位置は、送り機構6で積層ヘッド2を鉛直方向に平行移動させることによって調整することができる。但し、コンパクションローラ16を積層ヘッド2に対して相対的に上下移動させる駆動軸を設けても良い。
【0040】
同一方向に送り出された複数のテープTをコンパクションローラ16でテーブル4に対して水平方向に相対移動させれば、コンパクションローラ16の移動方向と逆方向に複数のテープTを送り出すことができる。複数のテープTを水平方向に送り出すためには、コンパクションローラ16の回転軸が概ね水平方向となるようにコンパクションローラ16を配置することが重要となる。
【0041】
但し、凹凸を有する積層治具Jや凹凸を有する下方の積層済のテープTの上にテープTを積層する場合もあることから、鉛直方向における弾性や柔軟性をコンパクションローラ16自体やコンパクションローラ16の回転軸に付与しても良い。その場合には、コンパクションローラ16の回転軸が必ずしも水平方向とはならない。
【0042】
各テープTの先端がコンパクションローラ16に到達した後は、動力を有するフィードローラ14で各テープTに張力を与えなくてもコンパクションローラ16から付与される圧力によって各テープTを送り出すことができる。そして、各テープTの送り出し速度は、必然的にコンパクションローラ16から送り出されるテープTの速度となる。従って、各テープTの先端がコンパクションローラ16に到達した後は、フィードローラ14で各テープTに過剰な張力を与えることは各テープTの弛みや突っ張りの原因となり、好ましくない。
【0043】
そこで、フィードローラ14の動力ローラ14Aには、図3に例示されるシリンダ機構14D或いはラック・アンド・ピニオンやボールねじ等の往復移動する機械要素を連結し、各テープTの先端がコンパクションローラ16に到達した後は、動力ローラ14Aを各テープTから退避できるようにすることができる。但し、各テープTの張力を適度に確保するために、フィードローラ14を各テープTと接触させ、フィードローラ14に対して各テープTを滑らせるようにしても良い。また、フィードローラ14に代えて、或いはフィードローラ14に加えて、日本国特願2022-013771の出願書類に開示されているベルトコンベアや吸引チャック付きのベルトコンベアを用いても良い。
【0044】
尚、複数のテープTに隙間を空けて積層することが許容される場合には、換言すれば、複数のテープTの幅の合計よりも、積層エリアの幅の方が広い場合には、複数のテープTに隙間を空けてコンパクションローラ16から送り出すようにしても良い。逆に、複数のテープTを幅方向にオーバーラップさせてコンパクションローラ16から送り出すようにしても良い。
【0045】
複数のテープTを幅方向にオーバーラップさせずに並列配置し、複数のテープT間において送り出し速度を変えてコンパクションローラ16から送り出す場合には、コンパクションローラ16のみならずコンパクションローラ16以外のローラで送り出されるテープTの送り出し速度もテープT間において変えることが必要となる。すなわち、各テープTを独立した送り出し速度で送り出すことが必要となる。
【0046】
そこで、コンパクションローラ16の他、幅方向にオーバーラップさせずに並列配置された複数のテープTの先端がコンパクションローラ16に到達した後、引続き複数のテープTと同時に接触して無視できない摩擦力が生じるテンションローラ13等のローラについては、各テープTを容易に独立した送り出し速度で送り出すことが可能な日本国特願2022-153128の出願書類に開示されている、互いに同一の直径を有する複数のサブローラを回転自在に共通の支持シャフトで支持した円筒状のテープ送り出し用のローラユニットで構成しても良い。
【0047】
次に上述したテープ配列装置12の詳細構成について説明する。
【0048】
図4は、図3に示すテープ配列装置12の詳細構成例を示す上面図、図5は、図4に示すテープ配列装置12に備えられる複数のピッチ調整用ローラ20を含む部分の左側面図である。
【0049】
図4及び図5に示すように、テープ配列装置12は、複数のピッチ調整用ローラ20、配列用ローラ21、各ピッチ調整用ローラ20をそれぞれ回転自在に保持する複数の支持フレーム22及び支持フレーム22を旋回させるピボット23Aを備えた旋回機構23で構成することができる。旋回機構23は、複数のリンクを回転自在にジョイントで連結したリンク機構等の所望の機構で構成することができる。従って、各ピッチ調整用ローラ20を支持するための各支持フレーム22を、旋回機構23を構成するリンクの1つとしても良い。
【0050】
複数のピッチ調整用ローラ20は、複数のプリプレグのテープTを配列用ローラ21に向けて幅方向に摺動しないように1枚づつ個別に送り出すローラである。従って、ピッチ調整用ローラ20は、複数のボビン10又は複数の幅調整装置11から送り出される可能性があるプリプレグのテープTの数と同じ数だけ設けられる。
【0051】
各ピッチ調整用ローラ20は、各ピッチ調整用ローラ20の回転中心となる第1の回転軸AX1が、配列用ローラ21の回転中心となる第2の回転軸AX2に対してねじれの位置となるように配置される。すなわち、各ピッチ調整用ローラ20は、それぞれ配列用ローラ21の第2の回転軸AX2と平行でなく、かつ延長した場合に交差することもない、ねじれの位置にある第1の回転軸AX1を中心に回転する。
【0052】
一方、配列用ローラ21は、複数のピッチ調整用ローラ20から送り出される複数のプリプレグのテープTを幅方向に並べて摺動可能に送り出す単一のローラである。換言すれば、配列用ローラ21は、複数のピッチ調整用ローラ20から送り出された複数のプリプレグのテープTを、厚さ方向及び長さ方向が概ね平行となるように配列して同一の送り出し方向に送り出すための円筒状のローラである。従って、配列用ローラ21は、コンパクションローラ16やテンションローラ13等のローラと同様に、日本国特願2022-153128の出願書類に開示されている、互いに同一の直径を有する複数のサブローラを回転自在に共通の支持シャフトで支持した円筒状のテープ送り出し用のローラユニットで構成しても良い。
【0053】
配列用ローラ21は、複数のピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1とそれぞれねじれの位置にある第2の回転軸AX2を中心に回転する。このため、複数のピッチ調整用ローラ20から送り出される複数のプリプレグのテープTは、それぞれ捩られた後、配列用ローラ21に到達する。具体的には、複数のピッチ調整用ローラ20から送り出された直後における各プリプレグのテープTの厚さ方向は、各ピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1にそれぞれ垂直となるが、配列用ローラ21に到達した各プリプレグのテープTの厚さ方向は、配列用ローラ21の第2の回転軸AX2にそれぞれ垂直となる。
【0054】
図6は、図4に示す複数のピッチ調整用ローラ20を旋回機構23で旋回させた例を示す図である。
【0055】
図6に示すように旋回機構23でピボット23Aを中心に支持フレーム22を旋回させると、支持フレーム22で保持された各ピッチ調整用ローラ20は、ピボット23Aを中心に回転する。この場合、複数のピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1を、それぞれ配列用ローラ21の第2の回転軸AX2を含む面に投影して得られる複数の線分の間隔は、支持フレーム22の回転角度に応じて変化する。
【0056】
各ピッチ調整用ローラ20は、テープTの最大幅に合わせて決定した間隔でフランジを形成した円筒状のローラで構成される。従って、各ピッチ調整用ローラ20に対して各テープTは幅方向に摺動可能とはならない。これに対して、配列用ローラ21上では、各プリプレグのテープTが幅方向に摺動可能である。
【0057】
このため、旋回機構23による支持フレーム22の旋回角度θを制御することによって、複数のピッチ調整用ローラ20から配列用ローラ21に向けて送り出される複数のプリプレグのテープTのピッチを調整することができる。より具体的には、複数のピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1を、それぞれ配列用ローラ21の第2の回転軸AX2を含む面に投影して得られる複数の線分の間隔が変化すると、変化後の間隔に合わせて各プリプレグのテープTが配列用ローラ21上において幅方向に滑るため、配列用ローラ21から送り出される配列後におけるプリプレグのテープTの間隔も調整することができる。
【0058】
尚、複数のピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1同士は、必ずしも平行でなくてもテープTのピッチを変化させることはできるが、図4乃至図6に例示されるように互いに平行に配置することが、テープTのピッチの制御を簡明にする観点から現実的である。特に、図4乃至図6に例示されるように、第2の回転軸AX2を含む面に複数の第1の回転軸AX1を投影して得られる複数の線分がそれぞれ第2の回転軸AX2と垂直となるように複数のピッチ調整用ローラ20と配列用ローラ21を配置すれば、第2の回転軸AX2を含む面に複数の第1の回転軸AX1を投影して得られる複数の線分の間隔をテープT間におけるピッチの制御値とすることができる。
【0059】
この場合、旋回機構23のピボット23Aを第1の回転軸AX1と平行にすれば、ピッチ調整用ローラ20の旋回角度θと、テープT間におけるピッチとの間における関係を幾何学的に容易に求めることが可能となる。
【0060】
配列用ローラ21で配列された複数のプリプレグのテープTは、最終的にコンパクションローラ16に送り出されることになる。このため、配列用ローラ21の第2の回転軸AX2は、コンパクションローラ16の回転軸と同様に概ね水平方向とすることが合理的である。一方、各ピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1は、図4乃至図6に例示されるように鉛直方向とすることがテープ配列装置12の構成の簡易化及び制御の容易化に繋がる。
【0061】
以上のように、旋回機構23で回転する複数のピッチ調整用ローラ20でプリプレグのテープTのピッチを調整した後、配列用ローラ21で各テープTの送り出し方向が同一となるように各テープTを配列することができる。
【0062】
尚、図4乃至図6に示す例では、各テープTが単一のピッチ調整用ローラ20で送り出されるようになっているが、日本国特開2022-130133号公報に例示されるように一対のピッチ調整用ローラ20で各テープTを挟み込んで送り出すようにしたり、積層ヘッド2の大型化を回避するために、ピッチ調整用ローラ20の旋回半径が短くなるようにピッチ調整用ローラ20を2組に分け、ピボット23Aを中心に複数のピッチ調整用ローラ20をV字型に旋回させるようにしたりしても良い。また、複数のピボット23Aを中心に複数組の複数のピッチ調整用ローラ20を旋回させるようにしても良い。
【0063】
更に、積層ヘッド2に複数のテープ配列装置12を設けたり、或いは、単一のテープ配列装置12に複数の配列用ローラ21を設けたりしても良い。その場合には、間隔を空けて配列された複数のプリプレグのテープTが各配列用ローラ21から送り出される。このため、間隔を空けて配列した複数組の複数のプリプレグのテープTを、後方に配置した別の配列用ローラで交互に再配列したり、日本国特開2022-130133号公報に例示されるようにコンパクションローラで交互に再配列したりすることができる。
【0064】
図7は、従来のテープ配列装置30の問題点を説明する図である。
【0065】
複数のピッチ調整用ローラ31で複数のプリプレグのテープTのピッチを調整した後、共通の配列用ローラ32で各テープTを配列する従来のテープ配列装置30で複数のテープTを配列しようとすると、各テープTが配列用ローラ32上において狙った位置から幅方向にずれることがある。すなわち、配列用ローラ32から送り出されるテープTのピッチが狙ったピッチとならないことがある。これは、ピッチ調整用ローラ31と配列用ローラ32との間において各テープTが捩れる上、配列用ローラ32上において各テープTが幅方向に滑るためである。
【0066】
そこで、図4乃至図6に示すように、複数のピッチ調整用ローラ20のうち少なくとも1つのピッチ調整用ローラ20には、第1の回転軸AX1方向におけるピッチ調整用ローラ20の位置を調整する第1の位置調整機構24が設けられる。
【0067】
図8は、図4乃至図6に示すピッチ調整用ローラ20に設けられる第1の位置調整機構24の具体的な構成例を示すピッチ調整用ローラ20及び第1の位置調整機構24の部分縦断面図であり、図9は、図8に示す第1の位置調整機構24でピッチ調整用ローラ20の位置を下方に移動した例を示すピッチ調整用ローラ20及び第1の位置調整機構24の部分縦断面図である。
【0068】
図8及び図9に例示されるように、各ピッチ調整用ローラ20は、両端が開口端となっている円筒状のローラ本体20Aの中心に形成される貫通孔の両端部分に1対のベアリング20Bの各外輪を固定した構成とすることができる。ローラ本体20Aの円筒状の表面の両端には、テープTの幅方向への位置ずれを防止するための円環状のフランジ20Cが形成される。これにより、フランジ20C間におけるローラ本体20Aの円筒状の表面の部分が、テープTと接触するピッチ調整用ローラ20の表面となる。また、一対のベアリング20Bの内輪間には、内輪を軸方向に支持するための円筒状のスペーサ20Dを配置することができる。
【0069】
一方、第1の位置調整機構24は、ピンボルト40、プッシャ41及びばね42で構成することができる。ピンボルト40のシャフト部分は、ベアリング20Bの内輪の内側に摺動可能に挿入されることによって、ピッチ調整用ローラ20を回転自在に保持する回転シャフトとして機能する。
【0070】
従って、ピンボルト40は、ピッチ調整用ローラ20を保持するための2本の支持フレーム22A、22Bにそれぞれ設けられた貫通孔に回転シャフトとして挿入される。ピンボルト40の頭側における支持フレーム22Aの貫通孔には、ピンボルト40のシャフト部分が回転可能に挿入される。一方、ピンボルト40の先端側における支持フレーム22Bの貫通孔には、ピンボルト40の雄ねじを締付けるための雌ねじが形成される。従って、ピンボルト40を回転させると、ピンボルト40は2本の支持フレーム22A、22Bに対してピンボルト40の長さ方向に移動する。また、ピンボルト40の先端側における雌ねじを設けた支持フレーム22Bは、第1の位置調整機構24の部品を兼ねていると言うこともできる。
【0071】
ピンボルト40の頭側における支持フレーム22Aと、ピッチ調整用ローラ20との間に配置されるピンボルト40のシャフト部分には、ピッチ調整用ローラ20を第1の回転軸AX1方向に押し付けるプッシャ41が固定される。図8及び図9に示す例では、プッシャ41として、ベアリング20Bの内輪のみと接触するリング状の止め輪がピンボルト40のシャフトに固定されているが、ローラ本体20Aの回転を妨げないようにベアリング20Bの内輪を第1の回転軸AX1方向に押し付けることが可能であればプッシャ41の形状は任意である。
【0072】
他方、ピンボルト40の先端側における支持フレーム22Bと、ピッチ調整用ローラ20との間には、ピッチ調整用ローラ20をプッシャ41による押し付け方向と逆方向に押し返すばね42が配置される。図8及び図9に示す例では、ピンボルト40のシャフトを直径が同一のリング状の複数の皿ばねの各貫通孔に挿入することによって、ピンボルト40のシャフトに対して回転自在に複数の皿ばねが直列に配置されている。各皿ばねのサイズは、ピッチ調整用ローラ20に最も近い位置に配置される皿ばねがベアリング20Bの内輪のみと接触するように決定される。従って、ローラ本体20Aの回転を妨げることなく、ばね42でピッチ調整用ローラ20を第1の回転軸AX1方向に押し付けることができる。
【0073】
もちろん、ばね42としてコイルばね等の皿ばね以外のばねを用いても良い。但し、皿ばねを用いれば、皿ばねの数を変えることによって容易にばね42の全長を調整することができる。このため、支持フレーム22A、22Bの間隔に合わせてばね42の全長を調整することが可能となる。従って、図7に示す従来のピッチ調整用ローラ31に第1の位置調整機構24を追加する改修を行う場合のように、支持フレーム22A、22Bの間隔を容易に変更できない場合であっても、第1の位置調整機構24をピッチ調整用ローラ20に容易に設けることができる。
【0074】
ピッチ調整用ローラ20が両側からプッシャ41とばね42で挟み込まれるように、プッシャ41の第1の回転軸AX1方向における位置と、ばね42の全長を適切に決定すると、ピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1方向における位置は、プッシャ41に隣接する位置となる。従って、ピンボルト40を回転させてピンボルト40を長さ方向に移動すると、ピッチ調整用ローラ20を、ピンボルト40の長さ方向と同一直線上となる第1の回転軸AX1方向に移動させることができる。
【0075】
尚、ピンボルト40の先端側における支持フレーム22Bと、ピッチ調整用ローラ20との間に配置されるピンボルト40のシャフト部分に止め輪等のプッシャ41を固定する一方、ピンボルト40の頭側における支持フレーム22Aと、ピッチ調整用ローラ20との間に複数の皿ばね等で構成されるばね42を配置しても良い。換言すれば、図8及び図9において、ピンボルト40の向きを上下反転させても良い。
【0076】
ピンボルト40は、ステンレスや炭素鋼等の鉄系の金属で構成される場合が多い。一方、複数のピッチ調整用ローラ20を保持しながら旋回させる支持フレーム22A、22Bについても、ステンレスや炭素鋼等の鉄系の金属で構成することが現実的である。このため、プッシャ41やローラ本体20Aについても、ステンレスや炭素鋼等の鉄系の金属で構成することができる。
【0077】
ピンボルト40は、ピンボルト40の頭の形状に応じた六角棒レンチ、ソケットレンチ或いはオープンレンチ(スパナ)等のレンチで作業者が回転させることができる。すなわち、ピンボルト40の回転によるピッチ調整用ローラ20の位置調整は作業者が手動で行うことができる。これは、ピッチ調整用ローラ20の位置調整は、図7に示すようなテープTの幅方向における位置ずれを低減するためにテープTの積層に先立つ繊維積層装置1のメンテナンスとして行っておけば、テープTの積層中に行う必要が無い場合が多いと考えられるためである。但し、テープTの積層中において、より精密な微調整を行えるようにしたり、作業者の熟練度を不要にしたりできるように、ピンボルト40をモータで自動回転させるようにしても良い。
【0078】
ピッチ調整用ローラ20が、日本国特開2022-130133号公報に例示されるように一対のローラでテープTを挟み込んで送り出すローラユニットである場合には、双方のローラにピンボルト40で構成される第1の位置調整機構24を設けることができる。或いは、一方のローラをメインローラとする一方、他方のローラをサブローラとし、メインローラのみにピンボルト40で構成される第1の位置調整機構24を設ける一方、サブローラの長さをメインローラの移動範囲をカバーできる長さとしても良い。
【0079】
また、ピンボルト40以外の機械要素で第1の位置調整機構24を構成する場合の例としては、エアシリンダ、電動シリンダ或いは油圧シリンダ等のシリンダチューブ内をピストンが往復するシリンダ機構でピストンに連結したロッドを伸縮させ、ロッドの先端をピッチ調整用ローラ20と連結することによってピッチ調整用ローラ20を第1の回転軸AX1方向に往復移動させる機構や、ギアの一種であるラック・アンド・ピニオンのラック側をピッチ調整用ローラ20と連結することによってピッチ調整用ローラ20を第1の回転軸AX1方向に往復移動させる機構で第1の位置調整機構24を構成する例が挙げられる。
【0080】
図10は、図8及び図9に例示される第1の位置調整機構24で配列用ローラ21上におけるプリプレグのテープTの位置を調整する方法を説明する図である。
【0081】
図10に示すようにピッチ調整用ローラ20から配列用ローラ21にテープTを捩って送り出すと、摩擦力等を無視すれば、テープTは理論的に最短ルートを通ることになる。フランジ20Cを有するピッチ調整用ローラ20を第1の回転軸AX1方向に移動させると、幅方向が第1の回転軸AX1方向となっているテープTも第1の回転軸AX1方向に移動する。そうすると、ピッチ調整用ローラ20からのテープTの離脱位置から配列用ローラ21までの最短距離と共に、テープTの最短ルートも変化する。その結果、配列用ローラ21上において幅方向に摺動可能なテープTの位置を幅方向にスライドさせることができる。
【0082】
具体例として、図10に例示されるように、テープTの進行方向に向かって反時計回りにテープTを捩ってピッチ調整用ローラ20から配列用ローラ21にテープTが送り出される場合において、第1の回転軸AX1方向が鉛直方向となっているピッチ調整用ローラ20を下方に移動させると、第2の回転軸AX2方向が水平方向となっている配列用ローラ21上において、テープTはテープTの進行方向に向かって右方向にスライドする。
【0083】
従って、各ピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1方向における位置をそれぞれ第1の位置調整機構24で調整すれば、配列用ローラ21上における各テープTの幅方向における位置を調整することができる。つまり、配列用ローラ21上における各テープTの幅方向における位置ずれを補正し、配列用ローラ21上における各テープTのピッチを、第1の回転軸AX1の間隔に対応する狙ったピッチとすることができる。
【0084】
但し、干渉等によって全てのピッチ調整用ローラ20に第1の位置調整機構24を設けることが物理的に困難な場合や全てのピッチ調整用ローラ20に第1の位置調整機構24を設けることが好ましくない場合には、上述したように第1の位置調整機構24を設けることが可能な少なくとも1つのピッチ調整用ローラ20にのみ第1の位置調整機構24を設けるようにしても良い。逆に言えば、複数のピッチ調整用ローラ20のうち少なくとも1つのピッチ調整用ローラ20には、第1の回転軸AX1方向における位置を調整する第1の位置調整機構24を設けないようにしても良い。
【0085】
その場合には、複数のピッチ調整用ローラ20から送り出される複数のプリプレグのテープTのうち、少なくとも1つのテープTの配列用ローラ21上における幅方向の位置が、第1の位置調整機構24によって調整されることになる。逆に、複数のピッチ調整用ローラ20から送り出される複数のプリプレグのテープTのうち、少なくとも1つのテープTの配列用ローラ21上における幅方向の位置については、第1の位置調整機構24によって調整することができない。
【0086】
具体例として、図4乃至図6に例示されるように支持フレーム22を旋回させる旋回機構23のピボット23Aを回転可能に支持する金具23B等とピンボルトの頭との間における干渉を回避するために、ピボット23Aに最も近い2本のピッチ調整用ローラ20に第1の位置調整機構24を設けることが困難である場合には、第1の位置調整機構24を設けなくても良い。
【0087】
その代わりに、配列用ローラ21の位置を調整する第2の位置調整機構25を配列用ローラ21に設けることができる。第2の位置調整機構25は、第2の回転軸AX2方向に垂直な方向を含む配列用ローラ21の位置を調整する装置である。これにより、第1の位置調整機構24によって配列用ローラ21上における幅方向の位置を調整できないテープTについては、第2の位置調整機構25で調整することができる。すなわち、第1の位置調整機構24によって幅方向における位置ずれを補正できないテープTの幅方向における位置ずれを第2の位置調整機構25で補正することが可能となる。
【0088】
図11は、図4及び図6に示す配列用ローラ21に設けられる第2の位置調整機構25を偏心ブッシュ50で構成した例を示す偏心ブッシュ50及び配列用ローラ21の斜視図、図12は、図11に示す偏心ブッシュ50の正面図、図13は、図12に示す偏心ブッシュ50を時計回りに回転させた例を示す図である。
【0089】
図11乃至図13等に例示されるように配列用ローラ21の両端に、第2の回転軸AX2の位置を変化させる一対の偏心ブッシュ50を第2の位置調整機構25として設けることができる。偏心ブッシュ50は、第2の回転軸AX2から偏心した回転軸を中心に回転するブッシュである。
【0090】
図11乃至図13に示すように各偏心ブッシュ50の回転中心と、配列用ローラ21の第2の回転軸AX2は同一直線上になく、局所的に平行となっている。従って、偏心ブッシュ50を図12に示す初期位置から回転させれば、図13に示すように配列用ローラ21の第2の回転軸AX2及び回転シャフト21Aの位置を、第2の回転軸AX2及び回転シャフト21Aに垂直な平面上において円弧に沿って変化させることができる。
【0091】
配列用ローラ21をピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1と平行な方向に移動させれば、図10を参照して説明したように、全てのピッチ調整用ローラ20を第1の回転軸AX1方向に向かって配列用ローラ21の移動方向と逆方向に移動させた場合と同等な効果が得られる。すなわち、各ピッチ調整用ローラ20から配列用ローラ21までの各テープTの最短経路が変化するため、配列用ローラ21上における各テープTの幅方向における位置を微調整することができる。
【0092】
尚、偏心ブッシュ50で配列用ローラ21の位置を変化させる場合には、ピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1及び配列用ローラ21の第2の回転軸AX2の双方と垂直な方向における配列用ローラ21の位置も変化することになる。従って、厳密には、各ピッチ調整用ローラ20から配列用ローラ21までの各テープTの最短経路は、第1の回転軸AX1方向における配列用ローラ21の位置の変化のみならず、第1の回転軸AX1及び第2の回転軸AX2の双方と垂直な方向における配列用ローラ21の位置の変化によっても変化することになる。
【0093】
また、配列用ローラ21の両端に設けられる各偏心ブッシュ50を互いに独立して操作できるようにしても良い。その場合には、配列用ローラ21の第2の回転軸AX2が調整前における方向に対して僅かに傾斜する場合がある。すなわち、配列用ローラ21の第2の回転軸AX2が初期状態において水平方向であったとしても、偏心ブッシュ50による位置の調整後には水平方向とならない場合がある。従って、偏心ブッシュ50の回転軸と、配列用ローラ21の第2の回転軸AX2は、大局的には平行になるとは限らない。
【0094】
図11乃至図13に示す例では、作業者が目盛りを参照しながらダイヤルを兼ねた偏心ブッシュ50を直接手作業で回転できるようになっているが、偏心ブッシュ50にレバーやハンドルを連結しても良い。また、偏心ブッシュ50の偏心する孔に配列用ローラ21の回転シャフト21Aを回転可能に滑合させたり、或いは、偏心ブッシュ50に内歯車を形成する一方、配列用ローラ21の回転シャフト21Aに偏心ブッシュ50の内歯車と噛み合う外歯車を固定したりすることによって、配列用ローラ21の回転シャフト21Aを偏心ブッシュ50に回転可能に連結することができる。
【0095】
偏心ブッシュ50以外の機械要素で第2の位置調整機構25を構成する場合の例としては、配列用ローラ21の回転シャフト21Aの両端を第2の回転軸AX2に垂直な平面上において先端が回転振子のように往復する一対の棒状のフレームで支持する機構、配列用ローラ21の回転シャフト21Aの両端を第2の回転軸AX2に垂直な方向に往復移動させるエアシリンダ、電動シリンダ或いは油圧シリンダ等の一対のシリンダ機構又は一対のラック・アンド・ピニオンで支持する機構、配列用ローラ21の回転シャフト21Aの両端に連結した動滑車やスプロケットを配列用ローラ21の自重を利用してベルト、ワイヤ又はチェーンで鉛直方向に移動させる機構で第2の位置調整機構25を構成する例が挙げられる。
【0096】
偏心ブッシュ50等の第2の位置調整機構25で配列用ローラ21の位置を調整すると、配列用ローラ21と接触する全てのテープTの位置が同時に変化することになる。このため、第2の位置調整機構25で配列用ローラ21と接触する複数のテープTの位置を調整した後、第1の位置調整機構24で位置調整することが可能な各テープTの位置調整を個別に行うことが合理的である。
【0097】
(複合材成形方法)
次に繊維積層装置1を用いた複合材成形方法について説明する。
【0098】
図14は、図1に示す繊維積層装置1を用いてFRPを成形する場合における流れを示すフローチャートである。
【0099】
FRPの成形を行う場合には、まずプリプレグのテープTの積層と賦形によって、成形後のFRPの形状に対応する形状を有するプリフォームが製作される。そのために、プリプレグのテープTを積層するための単純な形状を有する積層治具Jと、プリプレグのテープTの積層体を賦形するための複雑な形状を有する賦形治具を別々に準備し、積層治具Jに積層したプリプレグのテープTの積層体を賦形治具に載せ替えて賦形を行っても良いし、積層治具Jと賦形治具を共通にしても良い。
【0100】
プリプレグのテープTを積層治具Jに積層する作業は、図1乃至図6等に例示されるテープ配列装置12を備えた繊維積層装置1で行われる。但し、プリプレグのテープTの積層に先立って各ピッチ調整用ローラ20及び配列用ローラ21の位置調整が行われる。具体的には、実際に繊維積層装置1から複数のプリプレグのテープTを試験的に送り出し、送り出された複数のテープTの位置又は間隔が確認される。そして、確認された複数のテープTの位置又は間隔に基づいてピッチ調整用ローラ20及び配列用ローラ21の各位置調整が行われる。尚、試験用のテープTを送り出してピッチ調整用ローラ20及び配列用ローラ21の各位置を調整する際には、プリフォームの製作用の積層治具Jとは別の治具をテーブル4に載置しても良い。
【0101】
上述したように、ピッチ調整用ローラ20の位置は、第1の位置調整機構24によって第1の回転軸AX1方向に調整される。一方、配列用ローラ21の位置は、第2の位置調整機構25によって第2の回転軸AX2方向に垂直な方向を含む方向に調整される。従って、第1の位置調整機構24が設けられていないピッチ調整用ローラ20がある場合には、第1の位置調整機構24が設けられているピッチ調整用ローラ20のみの位置調整が行われる。また、第2の位置調整機構25が省略されている場合には、配列用ローラ21の位置調整は行われず、第1の位置調整機構24が設けられているピッチ調整用ローラ20のみの位置調整が行われる。
【0102】
図11乃至図13等に例示されているように、第1の位置調整機構24が設けられていないピッチ調整用ローラ20から送り出されるテープTの位置を調整できるように配列用ローラ21に偏心ブッシュ50等の第2の位置調整機構25が設けられている場合には、第1の位置調整機構24が設けられていないピッチ調整用ローラ20から送り出されるテープTの位置を第2の位置調整機構25による配列用ローラ21の位置調整によって先に微調整した後、第1の位置調整機構24が設けられているピッチ調整用ローラ20から送り出される各テープTの位置をそれぞれ第1の位置調整機構24によるピッチ調整用ローラ20の位置調整によって微調整することが合理的である。
【0103】
そこで、ステップS1において、繊維積層装置1からFRPの製作のために積層されるプリプレグのテープTと同じテープTが試験用のテープTとして送り出される。そのために、積層に使用する幅のプリプレグのテープTを巻き付けた複数のボビン10が積層ヘッド2にセットされる。この時、各テープTの先端はフィードローラ14を構成する動力ローラ14Aとサポートローラ14Bで挟み込まれる。
【0104】
次に、制御装置5による制御下で繊維積層装置1を作動させるとフィードローラ14のモータ14Cが駆動し、動力ローラ14Aが回転する。これにより、各テープTの先端が同一の送り出し速度で送り出される。すなわち、各ボビン10から幅調整装置11、テープ配列装置12及びテンションローラ13を経由するテープTが同一の送り出し速度で送り出される。
【0105】
この際、制御装置5による制御下においてテープ配列装置12を構成する旋回機構23が駆動し、複数のピッチ調整用ローラ20がピボット23Aを中心に旋回する。これにより、テープTの幅方向におけるピッチが制御される。
【0106】
各テープTの先端が積層治具Jの表面に到達すると制御装置5による統括制御下で送り機構6が駆動し、積層ヘッド2が各テープTの送り出し方向と逆方向に移動する。このため、コンパクションローラ16が積層治具J等に対して各テープTの送り出し方向と逆方向に移動し、各テープTの先端がコンパクションローラ16と積層治具Jで挟み込まれる。すなわち、各テープTの先端がコンパクションローラ16に到達する。
【0107】
そうすると、制御装置5による統括制御下でシリンダ機構14Dが駆動し、動力ローラ14Aが各テープTから退避する。このため、積層ヘッド2を引続き各テープTの送り出し方向と逆方向に移動させると、各テープTは送り出し方向に送り出され、各テープTの送り出し速度は、コンパクションローラ16から圧力を受けながら送り出されるテープTの速度、すなわちコンパクションローラ16及び積層ヘッド2に対するテーブル4及び積層治具J等の相対速度となる。
【0108】
試験用のテープTが積層治具J等に送り出されると、各テープTの位置を確認することが可能となる。そこで、先に位置の微調整を行うべきテープTである第1の位置調整機構24が設けられていないピッチ調整用ローラ20から送り出されるテープTを基準テープとし、ステップS2において、基準テープの位置の確認を行うことができる。
【0109】
図4乃至図6に例示されるように第1の位置調整機構24が設けられていないピッチ調整用ローラ20が複数個存在する場合には、基準テープの数も複数となる。その場合には、基準テープの位置を確認すると共に基準テープ間の間隔を測定するようにしても良い。基準テープの位置及び間隔は、スケールやメジャー等の公知の測定器で基準位置からの距離等として測定することができる。
【0110】
次に、ステップS3において、各基準テープの位置が適切であるか否かが判定される。すなわち、各基準テープの位置がそれぞれ各ピッチ調整用ローラ20の旋回角度θに対応する目標位置となっているか否かが判定される。
【0111】
そして、各基準テープの位置が適切でないと判定された場合には、ステップS4において、図11乃至図13に例示される偏心ブッシュ50等の第2の位置調整機構25で配列用ローラ21の位置が調整される。この配列用ローラ21の位置調整は、ステップS3において、各基準テープの位置が適切であると判定されるまで繰り返される。
【0112】
ステップS3において、各基準テープの位置が適切であると判定されると、ステップS5において、ステップS1における試験用のテープTの送り出しと同様な流れで、引き続き試験用のテープTが送り出される。そうすると、ステップS6において、基準テープ以外の残りのテープT、すなわち第1の位置調整機構24が設けられているピッチ調整用ローラ20から送り出されたテープTの各位置を確認することが可能となる。
【0113】
次に、ステップS7において、基準テープ以外の残りのテープTの各位置が適切であるか否かが判定される。すなわち、基準テープ以外の残りのテープTの各位置がそれぞれ各ピッチ調整用ローラ20の旋回角度に対応する目標位置となっているか否かが判定される。
【0114】
そして、基準テープ以外の残りのテープTの少なくとも1つの位置が適切でないと判定された場合には、ステップS8において、図8及び図9に例示されるピンボルト40等で構成される第1の位置調整機構24で、位置が適切となっていないテープTを送り出したピッチ調整用ローラ20の第1の回転軸AX1方向における位置が調整される。この少なくとも1つのピッチ調整用ローラ20の位置調整は、ステップS7において、全てのテープTの位置が適切であると判定されるまで繰り返される。
【0115】
ステップS7において、全てのテープTの位置が適切であると判定されると、ステップS9において、プリフォームの製作のためのプリプレグのテープTの積層を行うことができる。すなわち、繊維積層装置1で複数のプリプレグのテープTを幅方向に並べて積層治具J上に積層することができる。
【0116】
プリフォームの製作用のプリプレグのテープTは、試験用のテープTと同様に送り出すことができる。但し、プリフォームの製作用のプリプレグのテープTを送り出す場合には、ピッチ調整用ローラ20及び配列用ローラ21が調整後の位置に固定される。このため、複数のプリプレグのテープTをそれぞれ幅方向における正確な位置に並べ、正確なピッチで送り出すことができる。
【0117】
加えて、プリフォームの製作用のプリプレグのテープTを送り出す場合には、FRPの形状に応じた繊維積層装置1の自動制御プログラムを制御装置5に読み込ませることによって、複数のテープTを曲線的に送り出すステアリング積層を行うことはもちろん、凹凸を有する積層治具J上にテープTを送り出したり、幅調整装置11で幅を連続的に変えながらテープTを送り出したりすることもできる。
【0118】
積層ヘッド2が1層目の積層終了位置に到達すると制御装置5による統括制御下でカッタ15が駆動し、各テープTが切断される。続いて、制御装置5による統括制御下で送り機構6が駆動し、積層ヘッド2が2層目の積層開始位置に移動する。そして、1層目と同様に2層目の各テープTの積層を開始することができる。このようにして、全ての層の積層が完了するとプリプレグの積層体が製作される。尚、同一の層が複数の積層エリアに分割されている場合やテープTの幅を不連続に変化させる場合には、同一の層の積層中において各テープTの切断と積層の再開を行うことができる。
【0119】
湾曲したウェブとフランジを有する航空機部品のように製作対象となるFRPの形状が複雑である場合には、積層治具Jに積層されたプリプレグの積層体にFRPの形状に対応する形状を付与することが必要となる場合がある。その場合には、プリプレグの積層工程に続いて、プリプレグの積層体に形状を付与する賦形工程が実施される。
【0120】
プリプレグの積層体の賦形は、加熱装置による加熱と加圧によって行うことができる。加圧は、プレス機による賦形型の押し当てやバギングによる大気圧の負荷によって行うことができる。上述したように積層治具Jが賦形型を兼ねていない場合には、プリプレグの積層体が積層治具Jから賦形型に載せ替えられる。逆に、積層治具Jが賦形型を兼ねている場合には、プリプレグの積層体を載置した積層治具Jがバギングやプレス機等によって賦形工程を実施するためのエリアに搬送される。
【0121】
プリプレグの積層体の賦形が完了すると、成形後のFRPの形状に対応する形状を有するプリフォームが製作される。また、航空機のパネルのようにFRPの形状が単純であり、賦形用の形状を有する積層治具JにプリプレグのテープTを積層するのみでプリフォームが製作される場合には、プリプレグの積層と賦形が同時に行われることになる。
【0122】
プリフォームが製作されると、ステップS10において、プリフォームに含まれる樹脂の硬化が行われる。すなわち、積層及び賦形後におけるプリプレグのテープTに予め含浸させておいた樹脂の硬化工程が実施される。これにより、目的とする形状を有するFRPを成形することができる。
【0123】
樹脂が熱硬化性樹脂であれば樹脂の硬化工程はオーブンやオートクレーブ装置等の加熱装置を用いた樹脂の加熱となる。一方、樹脂が熱可塑性樹脂であれば樹脂の硬化工程は加熱装置で一旦樹脂を加熱して溶融させた後、空冷等で樹脂を冷却する工程となる。また、樹脂の硬化に先立って、プリフォームを他のプリフォームや中間硬化した他のFRPと組合せる組立工程を実施したり、プリフォームの上にRTM法で成形するための別のドライプリフォームを載置して樹脂を注入したりしても良い。
【0124】
プリフォームに含まれる樹脂を硬化することによってFRPを成形するための成形治具についても積層治具J又は賦形治具と共通にしても良いし、別に準備してプリフォームを載せ替えるようにしても良い。
【0125】
(効果)
以上の繊維積層装置1及び複合材成形方法は、複数のピッチ調整用ローラ20でピッチが調整された複数のプリプレグのテープTを捩って配列用ローラ21に送り出し、配列用ローラ21で複数のテープTを幅方向に並べて積層できるようにしつつ、少なくとも1つのピッチ調整用ローラ20を第1の位置調整機構24で第1の回転軸AX1方向に移動できるようにしたものである。
【0126】
このため、繊維積層装置1及び複合材成形方法によれば、少なくとも第1の位置調整機構24を設けたピッチ調整用ローラ20から送り出されたプリプレグのテープTの位置が配列用ローラ21上においてテープTの幅方向にずれたとしてもテープTの位置を補正することができる。すなわち、隣接するピッチ調整用ローラ20間における間隔の制御とは別に、ピッチ調整用ローラ20自体の第1の回転軸AX1方向における位置の調整によってテープTの幅方向における位置の微調整を行うことが可能となる。
【0127】
加えて、配列用ローラ21の位置も第2の位置調整機構25で調整できるようにすることで、全てのテープTの位置を適切な位置に補正することが可能となる。すなわち、繊維積層装置1によるプリプレグのテープTの積層精度を向上させることができる。その結果、複数のプリプレグのテープTを適切な間隔で積層し、高品質なプリフォーム及びFRPを製作することが可能となる。
【0128】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0129】
1…繊維積層装置、2…積層ヘッド、3…ガントリ、3A…支柱、4…テーブル、5…制御装置、6…送り機構、10…ボビン、11…幅調整装置、12…テープ配列装置、13…テンションローラ、14…フィードローラ、14A…動力ローラ、14B…サポートローラ、14C…モータ、14D…シリンダ機構、15…カッタ、15A…刃、15B…ローラ、16…コンパクションローラ、20…ピッチ調整用ローラ、20A…ローラ本体、20B…ベアリング、20C…フランジ、20D…スペーサ、21…配列用ローラ、21A…回転シャフト、22、22A、22B…支持フレーム、23…旋回機構、23A…ピボット、23B…金具、24…第1の位置調整機構、25…第2の位置調整機構、30…従来のテープ配列装置、31…ピッチ調整用ローラ、32…配列用ローラ、40…ピンボルト、41…プッシャ、42…ばね、50…偏心ブッシュ、AX1…第1の回転軸、AX2…第2の回転軸、J…積層治具、T…プリプレグのテープ、θ…旋回角度。
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