(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024128620
(43)【公開日】2024-09-24
(54)【発明の名称】植物育成用培地及び植物育成用培地の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 24/48 20180101AFI20240913BHJP
A01G 24/44 20180101ALI20240913BHJP
【FI】
A01G24/48
A01G24/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023037687
(22)【出願日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】黒木 亜純
(72)【発明者】
【氏名】石田 光太朗
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 奈々
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022BA22
2B022BB02
(57)【要約】
【課題】向上した通気性及び透水性を備えることが可能な植物育成用培地を提供する。
【解決手段】本発明の植物育成用培地(1,2)は、保水体(10)と、保水体(10)に設けられる少なくとも1つの貫通孔(20,21,22)とを有し、保水体(10)は、第1面と、第1面とは異なる方向を向くように配される第2面とを少なくとも有し、貫通孔(20,21,22)は、保水体(10)の第1面から第2面まで貫通している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水体と、前記保水体に設けられる少なくとも1つの貫通孔とを有し、
前記保水体は、第1面と、前記第1面とは異なる方向を向くように配される第2面とを少なくとも有し、
前記貫通孔は、前記保水体の前記第1面から前記第2面まで貫通している
ことを特徴とする植物育成用培地。
【請求項2】
前記保水体は、発泡ポリウレタン樹脂の成形体により形成されている
請求項1記載の植物育成用培地。
【請求項3】
前記成形体は、前記発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体が熱プレス成形されて形成され、
前記粉粒体は、少なくとも一部の独立気泡同士が微生物の作用によって連結された構造を有する
請求項2記載の植物育成用培地。
【請求項4】
植物育成用培地を製造する製造方法において、
発泡樹脂と少なくとも1つの孔形成部材とを準備する準備工程と、
前記発泡樹脂を粉砕して粉粒体を作製する粉砕工程と、
前記発泡樹脂の前記粉粒体と前記孔形成部材とを用いてプレス成形を行うことにより、前記粉粒体により形成される保水体と、前記保水体に埋め込まれる前記孔形成部材とを有し、前記孔形成部材が、前記保水体の第1面から、前記第1面とは異なる方向を向くように配される第2面まで貫通している成形体を形成する成形工程と、
前記成形体から前記孔形成部材を引き抜くことにより、前記保水体に前記保水体の前記第1面から前記第2面まで貫通する貫通孔が設けられた前記培地を形成する引き抜き工程と
を含むことを特徴とする植物育成用培地の製造方法。
【請求項5】
前記準備工程において、前記発泡樹脂として、少なくとも一部に独立気泡を有する発泡ポリウレタン樹脂を準備すること、及び、
前記粉砕工程を行う前に、前記発泡ポリウレタン樹脂に微生物を作用させることにより、前記微生物で前記発泡ポリウレタン樹脂の一部を分解して、少なくとも一部の前記独立気泡同士を連結させる分解工程を行うこと
を含む請求項4記載の植物育成用培地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の育成に使用される培地及びその培地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、植物の栽培では、合成樹脂を利用して形成された植物育成用培地が土壌の代わりに使用されることがある。また、このような植物育成用の培地には、例えば栽培する植物等に応じて、保水性、透水性、通気性、保肥性等の性質が求められることがある。
【0003】
例えば特開2002-262660号公報(特許文献1)には、炭化物を含有したセルロースからなる培地ブロックを有する培地(培地体)が開示されている。この特許文献1の培地では、培地ブロックが、上面に延びる切り込みを備えた第1の孔部と、第1の孔とは別に形成された第2の孔部と、第1の孔部に挿入されるとともに内部に種子が保持された生分解性繊維からなるフィルター状の第1の柱体と、第2の孔部に挿入されるとともに内部に肥料が保持された生分解性繊維からなるフィルター状の第2の柱体とを備えている。
【0004】
特許文献1には、生分解性を備えた環境に優しい培地を小型、軽量に形成できること、また、第1及び第2の柱体に種子と肥料がそれぞれ含有されているので、実質的に水分の供給のみで自然に望ましい形態で植物を成育できることが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている培地において、セルロース製の培地ブロックには空気や水を流通させるための空間や孔部が少ないため、栽培する植物によっては、根腐れが発生することがある。また、根腐れの発生を防ぐために、特許文献1の培地ブロックに対し、例えば空気や水が流通可能な孔を後から加工して形成することも可能であるが、そのような孔を後から加工する場合、培地ブロックの破損や変形等を生じさせ易くなるという不具合があった。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、向上した通気性及び透水性を備えることが可能な植物育成用培地及び植物育成用培地の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明により提供される植物育成用培地は、保水体と、前記保水体に設けられる少なくとも1つの貫通孔とを有し、前記保水体は、第1面と、前記第1面とは異なる方向を向くように配される第2面とを少なくとも有し、前記貫通孔は、前記保水体の前記第1面から前記第2面まで貫通している植物育成用培地である。
【0009】
本発明の植物育成用培地において、前記保水体は、発泡ポリウレタン樹脂の成形体により形成されていることが好ましい。
この場合、前記成形体は、前記発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体が熱プレス成形されて形成され、前記粉粒体は、少なくとも一部の独立気泡同士が微生物の作用によって連結された構造を有することが好ましい。
【0010】
次に、本発明によれば、植物育成用培地を製造する製造方法において、発泡樹脂と少なくとも1つの孔形成部材とを準備する準備工程と、前記発泡樹脂を粉砕して粉粒体を作製する粉砕工程と、前記発泡樹脂の前記粉粒体と前記孔形成部材とを用いてプレス成形を行うことにより、前記粉粒体により形成される保水体と、前記保水体に埋め込まれる前記孔形成部材とを有し、前記孔形成部材が、前記保水体の第1面から、前記第1面とは異なる方向を向くように配される第2面まで貫通している成形体を形成する成形工程と、前記成形体から前記孔形成部材を引き抜くことにより、前記保水体に前記保水体の前記第1面から前記第2面まで貫通する貫通孔が設けられた前記培地を形成する引き抜き工程とを含む植物育成用培地の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の製造方法は、前記準備工程において、前記発泡樹脂として、少なくとも一部に独立気泡を有する発泡ポリウレタン樹脂を準備すること、及び、前記粉砕工程を行う前に、前記発泡ポリウレタン樹脂に微生物を作用させることにより、前記微生物で前記発泡ポリウレタン樹脂の一部を分解して、少なくとも一部の前記独立気泡同士を連結させる分解工程を行うことを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通気性及び透水性が向上した植物育成用培地及び植物育成用培地の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係る植物育成用培地を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した植物育成用培地の製造方法を説明する模式図である。
【
図3】本発明の変形例に係る植物育成用培地を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例を挙げて図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施例に係る植物育成用培地を模式的に示す斜視図である。
図1に示した植物育成用培地1は、直方体の形状を備えるブロック状の保水体10と、保水体10に設けられる複数の貫通孔20とを有する。本実施例の場合、保水体10には、4つの貫通孔20が設けられている。保水体10は、互いに反対向きに配される一対の上面及び下面と、一対の前面及び後面と、一対の左右側面とを有する。
【0015】
なお本発明において、保水体10の形状及び大きさは特に限定されず、必要に応じて変更可能である。また本発明では、少なくとも1つの貫通孔が保水体に設けられていればよく、貫通孔を設ける数は特に限定されない。
【0016】
また本実施例の説明において、上下方向とは、便宜上、
図1に示すように、直方体の6面のうちの最も面積が大きい一対の面に直交する方向を言う。また、上下方向は、育成する植物の芽が出る面に直交する方向と言い換えることもできる。左右方向及び前後方向は、上下方向に直交する方向で、且つ、互いに直交する関係にある方向である。本実施例の場合、直方体の6面のうちの2番目に面積が大きい一対の面に直交する方向を左右方向と言い、上下方向と左右方向とに直交する方向を前後方向と言う。
【0017】
本実施例におけるブロック状の保水体10は、発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体を熱プレス成形した成形体により形成されている。このように保水体10が発泡ポリウレタン樹脂により形成されていることによって、保水体10が吸水性と保水性を備えることができる。ここで、粉粒体は、粉末や粒子などが集まった集合体を意味する。また本発明において、粉粒体には、例えば平均粒径が1000μm~8000μm程度の粒体や、粒子よりも平均粒径が小さい粉体等が含まれる。
【0018】
本実施例において、保水体(成形体)10を形成する発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体は、少なくとも一部の独立した気泡が微細空洞によって互いに連結された構造を有する。この場合、独立気泡を連結する微細空洞は、後述するように微生物を発泡ポリウレタン樹脂に作用させることによって、口径が1μm~10μm程度の大きさで独立気泡の壁面に形成されている。
【0019】
本実施例の保水体10には、上述したように4つの貫通孔20が設けられている。4つの貫通孔20は、保水体10内に前後方向に沿って、互いに平行に配されており、また、左右方向に一定の間隔を開けて設けられている。各貫通孔20は、例えば
図2に示すような金型を備えたプレス成形装置40を用いて熱プレス成形(蒸気プレス成形)を行うときに、後述するようにプレス成形装置40内に孔形成棒(孔形成部材)45がインサートされた状態で発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体の成形を行い、その後、得られる成形体から孔形成棒45を引き抜くことによって形成される(
図2を参照)。
【0020】
本実施例において、4つの貫通孔20は、それぞれ円柱状の空間部を有しており、また、互いに同じ大きさ及び形状に形成されている。各貫通孔20は、保水体10の前面と後面とに開口しており、各貫通孔20の空間部は外部の大気に連通している。また、各貫通孔20は、保水体10の前面に形成される開口から、保水体10の後面に形成される開口まで、貫通孔20の長さ方向に直交する断面の形状が一定の円形となるように連続して形成されている。
【0021】
次に、上述した本実施例の培地1を製造する方法について、具体的に説明する。
始めに、保水体10を形成する発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体を作製する。
【0022】
発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体を作製するために、独立気泡を有する発泡ポリウレタン樹脂を準備する準備工程と、準備した発泡ポリウレタン樹脂を不飽和脂肪酸で処理する予備処理工程と、不飽和脂肪酸で処理した発泡ポリウレタン樹脂に微生物を作用させて発泡ポリウレタン樹脂を分解する分解工程と、微生物を作用させた発泡ポリウレタン樹脂を粉砕する粉砕工程とが行われる。
【0023】
先ず、準備工程では、発泡ポリウレタン樹脂の廃材を利用して、出発材料となる発泡ポリウレタン樹脂を準備するとともに、貫通孔20を形成するために用いる複数の孔形成棒(孔形成部材)45を準備する。この場合、発泡ポリウレタン樹脂の廃材としては、例えば自動車のシートやステアリングなどの自動車部品に用いられた発泡ポリウレタン樹脂、ベッドやソファーのような家具及び建材等に用いられた発泡ポリウレタン樹脂等を利用することが可能である。
【0024】
本実施例において、出発材料となる発泡ポリウレタン樹脂として、発泡ポリウレタン樹脂の少なくとも一部に、例えば粒径が100μm以上300μm以下程度の独立気泡を有するものが準備される。なお、発泡ポリウレタン樹脂の一部には、気泡同士が連結している部分が含まれていていてもよい。また本発明において、発泡ポリウレタン樹脂に形成されている独立気泡のサイズや密度は特に限定されない。
【0025】
準備する孔形成棒45は、中実の円柱形状に形成されており、また、例えば
図2に示すプレス成形装置40を用いて行われる熱プレス成形(蒸気プレス成形)に対して、耐熱性を備える材料により形成されている。この場合、孔形成棒45は、中実の円柱形状ではなく、中空の円筒形状に形成されていてもよい。また、孔形成棒45の外周面には、熱プレス成形によって成形体が得られた後に、その成形体から孔形成棒45を引き抜くために離型剤が塗布される。なお発明において、孔形成棒の材質は、上述のような耐熱性を備えていれば、特に限定されない。
【0026】
続く予備処理工程では、準備した発泡ポリウレタン樹脂を不飽和脂肪酸で処理する。これによって、次の分解工程において、微生物によるポリウレタンの分解作用を飛躍的に高めることができる。
予備処理工程において、不飽和脂肪酸には、構造中に二重結合を1個以上含んでいる不飽和脂肪酸が好適に使用される。具体的には、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エルカ酸、トウハク酸、リンデル酸、及び、エライジン酸などが不飽和脂肪酸として使用される。この場合、一種類の不飽和脂肪酸が単独で用いられてもよく、又は、二種類以上の不飽和脂肪酸が混合されて用いられてもよい。
【0027】
また、予備処理工程では、上述した不飽和脂肪酸とアルコールとを混合して用いることが好ましい。この場合、不飽和脂肪酸に混合するアルコールは、不飽和脂肪酸よりも粘度が低く、かつ、不飽和脂肪酸に対して十分な溶解親和性を有するものであることが好ましい。なお本発明において、アルコールの種類、アルコールを混合する割合等は特に限定されない。
【0028】
予備処理工程において、不飽和脂肪酸とアルコールとを混合した処理溶液を用いることにより、処理溶液の取り扱い性を改善でき、また、バラツキの少ない安定した予備処理を行うことが可能となる。また、不飽和脂肪酸とアルコールとを混合した処理溶液を用いて処理を行うことにより、発泡ポリウレタン樹脂の破断応力や伸びといった物性を大幅に低下させることができ、それによって、分解工程における微生物による分解効率を高めることができる。更に、アルコールによって発泡ポリウレタン樹脂の表面を洗浄する効果も得られる。
【0029】
更に、予備処理工程では、例えば、発泡ポリウレタン樹脂を処理溶液に浸漬すること、又は、発泡ポリウレタン樹脂に処理溶液を塗布すること等によって、発泡ポリウレタン樹脂を不飽和脂肪酸で処理することができる。なお本発明において、予備処理工程における具体的な処理方法、処理手段、処理時間、処理温度等は特に限定されない。
【0030】
分解工程では、予備処理された発泡ポリウレタン樹脂に微生物を接触させることによって、発泡ポリウレタン樹脂に微生物を作用させる。この場合、発泡ポリウレタン樹脂に作用させる微生物には、ポリウレタン樹脂に対して分解能を有する微生物、例えば、ストレプトマイセス(Streptomyces)属に属する微生物が好適に用いられる。
【0031】
より具体的に説明すると、上述のような分解能を有する微生物の一例としては、受託番号FERM P-21770で特定される微生物(Streptomyces C13a)が用いられる。この微生物は、2009年2月12日付にて、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に、上記した受託番号で寄託されており、また、2017年1月18日付にてブタペスト条約に基づく国際寄託への移管請求がなされ、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受託番号BP-21770で寄託されている。また、例えば、S.albogriseolus(NBRC12834)、S.thermoluteus(NBRC14269)、及びS.viridodiastaticus(NBRC13106)等のような上記微生物の変異株についても、上記受託番号の微生物と同等の発泡ポリウレタン樹脂への吸着・分解能を有する場合、発泡ポリウレタン樹脂に作用させる微生物として好適に用いることが可能である。
【0032】
上述のような微生物を、予備処理された発泡ポリウレタン樹脂に対して作用させることにより、微生物で発泡ポリウレタン樹脂を分解して発泡ポリウレタン樹脂内に1μm~10μm程度の口径を有する微細空洞を形成でき、また、この微生物による分解作用が進行することにより、発泡ポリウレタン樹脂内の独立した複数の気泡を、形成された微細空洞で連結させることができる。従って、微生物を作用させた後の発泡ポリウレタン樹脂は、独立気泡を有する発泡樹脂と、連通した気泡を有する発泡樹脂の両方の性質を備えることができる。
【0033】
なお本発明において、発泡ポリウレタン樹脂に微生物を作用(接触)させる方法及び手段は特に限定されるものではなく、例えば、微生物を培養している培養液に対して発泡ポリウレタン樹脂を添加すること、又は、発泡ポリウレタン樹脂が添加された培養液中に微生物を接種すること等によって、発泡ポリウレタン樹脂に微生物を容易に作用させることができる。
【0034】
また、分解工程では、発泡ポリウレタン樹脂を不飽和脂肪酸で処理しながら微生物を作用させてもよい。これにより、より簡易な方法で効率的に発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体を作製することが可能となる。
【0035】
本実施例の分解工程において、発泡ポリウレタン樹脂に微生物を作用させる温度は、微生物の増殖やウレタンの分解に適した温度、例えば26~45℃、特に30~45℃程度であることが好ましい。なお、発泡ポリウレタン樹脂に微生物を作用させる時間は特に限定されない。
【0036】
次に、粉砕工程では、微生物を作用させた発泡ポリウレタン樹脂を、カッティングミルや遠心タイプの粉砕機等の粉砕手段を用いることによって、所要の粒径を有する粉粒体に粉砕する。本実施例では、上述した微生物の作用により独立気泡が連結された発泡ポリウレタン樹脂に対して、粉砕手段による粉砕を行うため、例えば微生物を作用させていない発泡ポリウレタン樹脂(例えば、微生物を作用させる前の発泡ポリウレタン樹脂)を粉砕する場合に比べて、発泡ポリウレタン樹脂を容易に且つ安定して粉砕でき、またそれによって、粉砕に要するコストを抑えることができる。
【0037】
この粉砕工程では、粉砕手段に例えばカッティングミルを用いることにより、粒径が比較的大きな発泡ポリウレタン樹脂の粒体を作製できる。また、粉砕手段として遠心タイプの粉砕機を用いることにより、粒径が小さな発泡ポリウレタン樹脂の粉体を作製できる。なお本発明において、粉砕工程で得られる粉粒体の平均粒径、粒度分布等は特に限定されず、育成する植物の種類等に応じて変更可能である。
【0038】
上記の粉砕工程によって発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体を作製した後、得られた発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体と、準備した複数の孔形成棒45とを用いて成形工程を行う。
この成形工程では、例えば
図2に示すプレス成形装置40が用いられる。このプレス成形装置40は、蒸気を利用する蒸気プレス成形装置であり、また、固定型となる第1金型41と、可動型となる第2金型42とを有する。なお本発明において、培地1を成形する成形装置の構造は特に限定されない。
【0039】
本実施例の成形工程では、先ず、発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体と、接着成分であるバインダーとを混合して、成形材料となる混合物を作製する。この場合、バインダーとしては、例えば、水分硬化型のイソシアネートプレポリマー等を用いることができる。また、混合物における発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体とバインダーの混合割合(粉粒体:バインダー)は、重量比で、5:5~9:1であること、特に6:4~8:2であることが好ましい。
【0040】
次に、蒸気プレス成形装置40の第1金型41内に、発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体とバインダーの混合物を投入し、また、投入される混合物内に複数の孔形成棒45(インサート品)を所要の位置にセットする。混合物(成形材料)は、例えば0.05g/cm3以上1.0g/cm3以下の密度、特に0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下の密度となるように第1金型41内に投入されることが好ましい。また、孔形成棒45は、孔形成棒45の長さ方向における一端部及び他端部を第1金型41に接触させて又は保持して第1金型41内に収容される。
【0041】
上述した混合物と孔形成棒45とを第1金型41内に収容した後、例えばボイラーの蒸気を利用して、第1金型41と第2金型42とによる熱プレス成形(蒸気プレス成形)を行う。この熱プレス成形を行うことにより、
図2に示すように、発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体により形成されるブロック状の保水体10と、保水体10にインサート成形により一体化された複数の孔形成棒45とを有する成形体44を得ることができる。なお本発明において、熱プレス成形を行うときの成形温度や成形時間等の成形条件は特に限定されない。
【0042】
上述した熱プレス成形の成形工程を行った後、得られる成形体44から複数の孔形成棒45を引き抜く引き抜き工程を行う。この引き抜き工程では、保水体10にインサート成形した孔形成棒45を引き抜くことにより、保水体10に、孔形成棒45に対応する円柱形状の貫通孔20を形成できる。このとき、孔形成棒45の外周面には上述したように離型剤が塗布されているため、孔形成棒45を引っ張ることにより、孔形成棒45を保水体10から円滑に引き抜くことができ、また、孔形成棒45の引き抜きに起因して保水体10に変形や破損が生じることもない。これにより、保水体10に複数の貫通孔20が設けられた培地1を形成することができる。
【0043】
更に本実施例では、孔形成棒45の引き抜き工程を行った後に、得られた培地1を恒温槽に収容して乾燥させる乾燥工程を行う。この乾燥工程では、培地1を恒温槽によって、例えば90℃以上110℃以下の乾燥温度で、1時間以上24時間以下の乾燥時間で乾燥させる。なお本発明では、乾燥工程における乾燥温度や乾燥時間等の条件も特に限定されない。
このような乾燥工程が終了することによって、本実施例の培地1が製造される。
【0044】
以上の製造方法により製造される本実施例の植物育成用培地1では、保水体10が、微生物を作用させた発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体を用いて形成されている。
例えば従来では、独立気泡の発泡ポリウレタン樹脂は、連続気泡の発泡ポリウレタン樹脂に比べて強度が高いため、発泡ポリウレタン樹脂を粉砕してリサイクルする場合に、リサイクル処理に要するコストやエネルギーが高くなるという問題があった。これに対し、本実施例では、発泡ポリウレタン樹脂に微生物を作用させることにより、独立気泡の発泡ポリウレタン樹脂を容易に粉砕して粉粒体を形成できるため、所望の形状を有する培地1を低コストで安定して製造することが可能となる。
【0045】
また、本実施例の培地1では、保水体10が、上述したように、独立気泡の発泡ポリウレタン樹脂の性質と、複数の気泡が微細空洞によって連通した発泡ポリウレタン樹脂の性質の両方を備えることが可能である。このため、保水体10は、独立気泡の構造により、培地1の使用に耐え得る適切な強度を有することができ、また、気泡が連通した構造により、安定した吸水性及び保水性を備えることができる。
【0046】
更に本実施例の培地1では、複数の貫通孔20が保水体10に設けられており、且つ、各貫通孔20は、保水体10の前面及び後面に表出して、貫通孔20の空間部を外部に連通させている。従って、本実施例の培地1は、保水体10に設けられた貫通孔20によって、保水体10の前面及び後面からの高い通気性及び透水性を備えることができるため、その貫通孔20を介して、保水体10内に空気や水を通し易くすることができる。これにより、本実施例の培地1で植物を育成するときには、植物の根腐れを発生させ難くすることができ、それによって、植物を長持ちさせることができる。また、本実施例の培地1では、植物の成長を更に促進させる効果も期待できる。
【0047】
その上、本実施例の培地1では、通気性及び透水性の向上に寄与する貫通孔20が、培地1の製造工程において保水体10に予め形成されるため、保水体10に対し、空気や水の流通用の孔を後から加工する必要がない。従って、本実施例の培地1は、孔の後加工に起因して保水体10の破損や変形を生じさせることがないため、培地1を安定して長く使用することが可能となり、また、培地1の良好な外観を維持し易くできる。
【0048】
なお、上述した実施例では、保水体10内に複数の貫通孔20が前後方向に沿って埋め込まれている。しかし本発明において、貫通孔は、貫通孔における長さ方向の一端部及び他端部が保水体の互いに向きを異ならせる2つの面に開口するように設けられていれば、貫通孔を形成する位置、向き、長さ、形状、個数等は特に限定されるもののではない。
【0049】
本発明では、例えば
図3に変形例に係る培地2を示すように、保水体10に、前後方向に沿って互いに平行に配される2つの第1貫通孔21と、左右方向に沿って互いに平行に配される2つの第2貫通孔22とが、厚さ方向の互いに異なる位置に設けられていてもよい。また、貫通孔20は、前後方向、上下方向、及び左右方向の少なくとも1つに対して傾斜した方向に沿って設けられていてもよく、又は、保水体10の前面又は後面と、左右の何れかの側面とに開口するように斜めに設けられていてもよい。
【0050】
また上述した実施例において、各貫通孔20は円柱の形状を有しているが、本発明において、各貫通孔20は例えば三角柱等の角柱の形状に形成されていてもよく、又は、貫通孔20の長さ方向に直交する断面形状が貫通孔20の一端部又は他端部に向けて漸増するように形成されていてもよい。
【0051】
更に上述した実施例において、培地1の保水体10は、発泡ポリウレタン樹脂の粉粒体を用いて形成されている。しかし本発明において、培地の保水体は、発泡ポリウレタン樹脂以外の発泡樹脂の粉粒体を用いて形成されていてもよい。
すなわち、本発明における培地の保水体は、発泡ポリウレタン樹脂、発泡ポリスチレン樹脂、発泡ポリエチレン樹脂、発泡ポリプロピレン樹脂、発泡フェノール樹脂等の複数の発泡樹脂の中から選択される1種類の発泡樹脂の粉粒体を用いて、又は2種類以上の発泡樹脂の粉粒体を組み合わせて形成されていてもよい。また、本発明における培地の保水体は、炭化コルク等の自然素材に微生物を作用して得られる粉粒体を用いて成形されていてもよい。
【0052】
更に本発明において、培地の保水体は、微生物を作用させていない従来の一般的な発泡樹脂を粉砕して再生される粉砕物(例えば、チップウレタン)を用いて成形されていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1,2 培地
10 保水体
20 貫通孔
21 第1貫通孔
22 第2貫通孔
40 プレス成形装置
41 第1金型
42 第2金型
44 成形体
45 孔形成棒(孔形成部材)