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特開2024-12916電波送受信機、分散型フェーズドアレイアンテナシステム、分散型電磁波観測データ収集システムおよび分散型合成開口レーダシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012916
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】電波送受信機、分散型フェーズドアレイアンテナシステム、分散型電磁波観測データ収集システムおよび分散型合成開口レーダシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/90 20060101AFI20240124BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
G01S13/90
G01S7/02 216
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114731
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 亮介
(72)【発明者】
【氏名】荘司 洋三
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB01
5J070AB09
5J070AC20
5J070AD01
5J070AD05
5J070AD09
5J070AD10
5J070AF03
5J070AF05
5J070AF06
5J070AF08
5J070AH31
5J070AK22
(57)【要約】
【課題】ビーム品質の低下を抑制できる電波送受信機を提供する。
【解決手段】電波送受信機2は、同期用アンテナ27を介して他の電波送受信機2とコードの送受信を行い、基準となる電波送受信機2との間での時間的誤差である時間的差分得情報、及び基準となる電波送受信器2との間での空間的誤差である空間的差分情報、の両方を含む時空間差分情報を時空間差分情報取得部28により取得する。この時空間差分情報に基づいて、移相調整部24が送受信モジュール22の移相器221に働きかけて、時空間的誤差を補正するように、通信用アンテナ21から発射される高周波信号の移相量を制御し、時空間的誤差に起因するビーム品質の低下を抑制する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を配列して所望の指向性を得るフェーズドアレイアンテナシステムを構成する前記アンテナ素子として利用可能な電波送受信機であって、
N個(Nは任意の自然数)の通信用アンテナと、時空間差分情報取得部と、移相調整部と、基準周波数信号を生成する基準発振器と、を備え、
前記時空間差分情報取得部は、前記通信用アンテナとは別の同期用アンテナを用いた無線通信によって、他の前記電波送受信機と相互にコード送受信を行い、相互の前記基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、基準となる前記電波送受信機と自機との時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる前記電波送受信機に対する自機の適正位置と自機の現在位置との空間的誤差である空間的差分情報を計測し、前記時間的差分情報及び前記空間的差分情報を含む時空間差分情報を取得し、
前記移相調整部は、前記時空間差分情報に基づいて、前記時間的誤差及び/または前記空間的誤差を補正するように、前記通信用アンテナから放射する電波の移相量を調整する、
ことを特徴とする電波送受信機。
【請求項2】
請求項1に記載の前記電波送受信機を複数用いて構成され、各電波送受信機の前記通信用アンテナから放射される電波の重ね合わせによって特定の指向性をもつ前記フェーズドアレイアンテナシステムを構成することを特徴とする分散型フェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項3】
複数のアンテナ素子を配列して、各アンテナ素子が受信した受信信号に適切な位相シフト処理と適切な重み付け(振幅の増幅・減衰)処理をして合成することで種々の指向性の受信ビームを形成できるビームフォーミングアンテナにおける各アンテナ素子として利用可能な電波送受信機であって、
N個(Nは任意の自然数)の通信用アンテナと、時空間差分情報取得部と、各通信用アンテナに対応するN個の信号受信部と、受信データ送信部と、基準周波数信号を生成する基準発振器と、を備え、
前記時空間差分情報取得部は、前記通信用アンテナとは別の同期用アンテナを用いた無線通信によって、他の前記電波送受信機と相互にコード送受信を行い、相互の前記基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、基準となる前記電波送受信機と自機との時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる前記電波送受信機に対する現在の自機の相対位置である空間的差分情報を計測し、前記時間的差分情報及び前記空間的差分情報を含む時空間差分情報を取得し、
前記受信データ送信部は、前記信号受信部が受信した受信信号と、その受信タイミングにおける前記時空間差分情報と、自機と他の前記電波送受信機とを識別可能に設定された自機の固有情報と、を紐付けた受信データを機外へ送信する、
ことを特徴とする電波送受信機。
【請求項4】
請求項3に記載の電波送受信機を移動体に搭載してなる複数のスレーブモビリティと、
少なくとも、複数の前記スレーブモビリティより送信された前記受信データを収集し、収集した前記受信データをまとめて所定のデータ収集所へ転送するデータ中継機を、移動体に搭載してなるマスターモビリティと、
を含み、
複数の前記スレーブモビリティと前記マスターモビリティを任意に設定した電磁波観測エリアに配置し、各スレーブモビリティからの前記受信データを収集した前記マスターモビリティのみが、収集した前記受信データを電磁波観測データとして前記データ収集所へ転送することを特徴とする分散型電磁波観測データ収集システム。
【請求項5】
複数のアンテナ素子を配列し、画像取得エリアの上空をアジマス方向へ移動しつつパルスの送受信を繰り返して得た受信信号を、合成開口レーダ信号処理装置により加工して二次元画像を生成できる合成開口レーダにおける各アンテナ素子として利用可能な電波送受信機であって、
N個(Nは任意の自然数)の通信用アンテナと、各通信用アンテナに対応するN個のパルス送受信部と、時空間差分情報取得部と、受信データ送信部と、基準周波数信号を生成する基準発振器と、を備え、
前記時空間差分情報取得部は、前記通信用アンテナとは別の同期用アンテナを用いた無線通信によって、他の前記電波送受信機と相互にコード送受信を行い、相互の前記基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、基準となる前記電波送受信機と自機との時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる前記電波送受信機に対する自機の適正位置と自機の現在位置との空間的誤差である空間的差分情報を計測し、前記時間的差分情報及び前記空間的差分情報を含む時空間差分情報を取得し、
前記受信データ送信部は、前記パルス送受信部が受信した反射信号と、前記時空間差分情報取得部が取得した前記時空間差分情報と、自機と他の前記電波送受信機とを識別可能に設定された自機の固有情報と、を受信データとして前記合成開口レーダ信号処理装置へ送信する、
ことを特徴とする電波送受信機。
【請求項6】
請求項5に記載の電波送受信機を移動体に搭載し、前記画像取得エリアに対するパルス信号の送信と反射信号の受信を行うマスター合成開口レーダ装置と、
請求項5に記載の電波送受信機を移動体に搭載し、前記マスター合成開口レーダ装置と同じ画像取得エリアに対してパルス信号の送信と反射信号の受信を行うM台(Mは任意の自然数)のスレーブ合成開口レーダ装置と、
前記マスター合成開口レーダ装置および前記スレーブ合成開口レーダ装置からの受信データを加工して二次元画像を生成する合成開口レーダ信号処理装置と、
を含み、
前記スレーブ合成開口レーダ装置は、前記マスター合成開口レーダ装置を基準となる前記電波送受信機として前記時空間差分情報を取得し、少なくとも前記時間的差分情報に基づいて前記時間的誤差を補正する位相調整を行うことで、前記マスター合成開口レーダ装置のパルス送信と同期したパルス信号の送信を行い、
前記合成開口レーダ信号処理装置は、前記マスター合成開口レーダ装置および/または前記スレーブ合成開口レーダ装置からの前記受信データにおける反射信号に対して、少なくとも前記時空間差分情報における前記空間的差分情報に基づいて前記空間的誤差を補正する位相調整を行う、
ことを特徴とする分散型合成開口レーダシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自機の時空間差分情報を取得できる電波送受信機と、複数の電波送受信機を用いた分散型フェーズドアレイアンテナシステムと、複数の電波送受信機を用いた分散型電磁波観測データ収集システムと、複数の電波送受信機を用いた分散型合成開口レーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の小型アンテナでアレイを構成したアレイアンテナにおいて、各アンテナ素子が位相器に接続され、アンテナ間の相対移相量を制御することでビーム形成を行うフェーズドアレイアンテナがある。フェーズドアレイアンテナのビーム制御は、従来の機械駆動式走査型のビーム制御に比較して高速性・制御性の向上、可動部の減少による故障率の低減などのメリットがある。フェーズドアレイアンテナの用途は多岐に渡り、データ転送の効率化のために特定の相手に対して適応的にメインローブを向けることや、情報収集レーダとして用いる例がある。
【0003】
また、人工衛星や航空機等の飛翔体に搭載したレーダが移動しながら地上に電波を発射し、その反射波を受信して合成することにより、比較的小さい開口のアンテナで、実効的に大開口のアンテナを合成できるようにした合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)がある。SARは全天候性で、かつ昼夜の区別なく高分解能で地形等の映像を得ることができるので、地球観測や惑星探査等に用いられている。そして、フェーズドアレイを用いたSAR(例えば、PALSAR:Phased Array Type L-band Synthetic Aperture Radar)などもある。
【0004】
上記のようなフェーズドアレイアンテナ及びそれを応用したSARにおいては、各アンテナ素子が発射した電波を合成して所望のビーム特性を得るために、アンテナ素子間の相対位相制御が重要となる。したがって、一般的には複数のアンテナ素子・位相器は各々結線されており、所望のビーム特性が得られるように各アンテナ素子から発射される電波の相対位相が集中管理的に制御される。
【0005】
また、フェーズドアレイアンテナ及びそれを応用したSARにおいて、アレイアンテナを構成する各アンテナ素子が各々基準信号発生器や増幅器を有し、独立して自身の位相制御を行う分散型アンテナ/分散型SAR技術がある。このような分散型アンテナ/分散型SARでは、各アンテナ素子の配置状態が安定的に保持されていれば、各アンテナ素子の配列に応じた位相調整を行うことで所望のビーム特性を実現できる。しかし、各アンテナ素子の配置状態が変化する場合には、各アンテナ素子間の電波の相対位相を考慮した上で自律制御する必要がある。
【0006】
例えば、アンテナパネルが折り畳まれた状態で衛星軌道上に打ち上げられた人工衛星がアンテナパネルを展開すると、機械的な歪み、または熱による歪みを受けて、理想的なフェーズドアレイアンテナの放射面形状が得られず、理想的な特性を達成できない。このようなアンテナ形状の歪み等で誘発される位相誤差を光学技術により検出し、これらの誤差を補償するために必要な位相修正値を求め、リアルタイムの形状補償を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この特許文献1に記載のフェーズドアレイアンテナでは、アンテナパネル毎にモジュール(アンテナ素子・増幅器・位相器・制御器で構成される単位ユニット)として分割されているため、個々のモジュール自体を小型化して重ねるように折り畳むことで、打ち上げ用ロケットの積載物フェアリング内への収納が容易になる。
【0007】
また、複数の小型衛星にアンテナ素子がそれぞれ搭載され、複数の小型衛星が協調して、あるいは制御衛星の支援により、位置関係を維持することでフェーズドアレイアンテナを構成する分散型開口システムが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この特許文献2に記載の分散型開口システムでは、小型衛星間、および小型衛星と制御衛星との間の相対位置を一定に維持するために、電磁コイルを使って距離xおよび角度yを維持するように各衛星間の相対距離を変化させる技術が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4951622号公報
【特許文献2】特許第6506365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されたフェーズドアレイアンテナは、独立した位相制御を行うアンテナモジュールが有線接続されて同一の移動体(衛星)に搭載されているため、モジュールの数が増えれば全体としては大型化してしまい、狭小スペースへの収納が困難になる。しかも、特許文献1に記載されたフェーズドアレイアンテナは、アンテナモジュールを任意に再配置することができないため、故障したアンテナモジュールを正常なアンテナモジュールに交換して運用するような柔軟性や、必要に応じてアンテナモジュールの構成数を増減させたりアンテナモジュールの配置構造を変更したりできる拡張性がない。
【0010】
一方、特許文献2に記載された分散型開口システムは、複数の移動体(衛星)にそれぞれアンテナ素子が搭載されており、全体としてアレイアンテナを形成するので、故障した移動体を正常なアンテナ素子を持つ移動体に交換して運用するような柔軟性や、必要に応じて移動体の数を増減させたり移動体の配置構造を変更したりできるので、拡張性に優れる。しかし、特許文献2に記載された分散型開口システムでは、個々の移動体が相互の位置関係を維持してアレイを形成する必要があり、位置決めの精度は移動体の移動手段や外乱に依存するため、位置決めずれによる理想的配置からのずれが無視できない誤差となり得る。すなわち、アンテナ素子の理想的な配置状態を保持できなければ、アレイアンテナ全体として発射されるビームの品質が低下する。なお、この課題は移動体にアンテナ素子を搭載した場合に限らず、可搬式の固定型分散アンテナも同様で、各アンテナを設置するときの位置ずれに起因して、アレイアンテナ全体として発射されるビームの品質が低下する。また、特許文献2に記載の分散型開口システムでは、独立した小型衛星をアレイ化しているため、既知のフェーズドアレイアンテナの如く共通クロックによる高精度の時刻同期が行えないため、各小型衛星の時刻ずれに起因して、アレイアンテナ全体として発射されるビームの品質が低下する。また、複数のアンテナ素子が受信した受信信号に適宜な重み付けをして合成することで種々の指向性の受信ビームを形成できるビームフォーミングアンテナにおいても、受信信号に位相ずれがあると、形成するビームの品質が低下する。また、画像取得エリアの上空をアジマス方向へ移動しつつ、パルスの送受信を繰り返して複数のアンテナ素子で得た受信信号を、合成開口レーダ信号処理装置により加工して二次元画像を生成できる合成開口レーダにおいても、送信信号や受信信号に位相ずれがあると、二次元画像の品質が低下する。
【0011】
そこで、本発明は、ビーム品質の低下を抑制する補正情報として利用可能な位相ずれ情報を取得できる電波送受信機と、複数の電波送受信機を用いた分散型フェーズドアレイアンテナシステムと、複数の電波送受信機を用いた分散型電磁波観測データ収集システムと、複数の電波送受信機を用いた分散型合成開口レーダシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、第1の電波送受信機は、複数のアンテナ素子を配列して所望の指向性を得るフェーズドアレイアンテナシステムを構成する前記アンテナ素子として利用可能な電波送受信機であって、N個(Nは任意の自然数)の通信用アンテナと、時空間差分情報取得部と、移相調整部と、基準周波数信号を生成する基準発振器と、を備え、前記時空間差分情報取得部は、前記通信用アンテナとは別の同期用アンテナを用いた無線通信によって、他の前記電波送受信機と相互にコード送受信を行い、相互の前記基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、基準となる前記電波送受信機と自機との時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる前記電波送受信機に対する自機の適正位置と自機の現在位置との空間的誤差である空間的差分情報を計測し、前記時間的差分情報及び前記空間的差分情報を含む時空間差分情報を取得し、前記移相調整部は、前記時空間差分情報に基づいて、前記時間的誤差及び/または前記空間的誤差を補正するように、前記通信用アンテナから放射する電波の移相量を調整する、ことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る分散型フェーズドアレイアンテナシステムは、第1の電波送受信機を複数用いて構成され、各電波送受信機の前記通信用アンテナから放射される電波の重ね合わせによって特定の指向性をもつ前記フェーズドアレイアンテナシステムを構成することを特徴とする。
【0014】
また、上記の課題を解決するために、第2の電波送受信機は、複数のアンテナ素子を配列して、各アンテナ素子が受信した受信信号に適切な位相シフト処理と適切な重み付け(振幅の増幅・減衰)処理をして合成することで種々の指向性の受信ビームを形成できるビームフォーミングアンテナにおける各アンテナ素子として利用可能な電波送受信機であって、N個(Nは任意の自然数)の通信用アンテナと、時空間差分情報取得部と、各通信用アンテナに対応するN個の信号受信部と、受信データ送信部と、基準周波数信号を生成する基準発振器と、を備え、前記時空間差分情報取得部は、前記通信用アンテナとは別の同期用アンテナを用いた無線通信によって、他の前記電波送受信機と相互にコード送受信を行い、相互の前記基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、基準となる前記電波送受信機と自機との時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる前記電波送受信機に対する現在の自機の相対位置である空間的差分情報を計測し、前記時間的差分情報及び前記空間的差分情報を含む時空間差分情報を取得し、前記受信データ送信部は、前記信号受信部が受信した受信信号と、その受信タイミングにおける前記時空間差分情報と、自機と他の前記電波送受信機とを識別可能に設定された自機の固有情報と、を紐付けた受信データを機外へ送信する、ことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係る分散型電磁波観測データ収集システムは、第2の電波送受信機を移動体に搭載してなる複数のスレーブモビリティと、少なくとも、複数の前記スレーブモビリティより送信された前記受信データを収集し、収集した前記受信データをまとめて所定のデータ収集所へ転送するデータ中継機を、移動体に搭載してなるマスターモビリティと、を含み、複数の前記スレーブモビリティと前記マスターモビリティを任意に設定した電磁波観測エリアに配置し、各スレーブモビリティからの前記受信データを収集した前記マスターモビリティのみが、収集した前記受信データを電磁波観測データとして前記データ収集所へ転送することを特徴とする。
【0016】
また、上記の課題を解決するために、第3の電波送受信機は、複数のアンテナ素子を配列し、画像取得エリアの上空をアジマス方向へ移動しつつパルスの送受信を繰り返して得た受信信号を、合成開口レーダ信号処理装置により加工して二次元画像を生成できる合成開口レーダにおける各アンテナ素子として利用可能な電波送受信機であって、N個(Nは任意の自然数)の通信用アンテナと、各通信用アンテナに対応するN個のパルス送受信部と、時空間差分情報取得部と、受信データ送信部と、基準周波数信号を生成する基準発振器と、を備え、前記時空間差分情報取得部は、前記通信用アンテナとは別の同期用アンテナを用いた無線通信によって、他の前記電波送受信機と相互にコード送受信を行い、相互の前記基準発振器の時刻ずれと前記コード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、基準となる前記電波送受信機と自機との時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる前記電波送受信機に対する現在の自機の相対位置である空間的差分情報を計測し、前記時間的差分情報及び前記空間的差分情報を含む時空間差分情報を取得し、前記受信データ送信部は、前記パルス送受信部が受信した反射信号と、前記時空間差分情報取得部が取得した前記時空間差分情報と、自機と他の前記電波送受信機とを識別可能に設定された自機の固有情報と、を受信データとして前記合成開口レーダ信号処理装置へ送信する、ことを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明に係る分散型合成開口レーダシステムは、第3の電波送受信機を移動体に搭載し、前記画像取得エリアに対するパルス信号の送信と反射信号の受信を行うマスター合成開口レーダ装置と、請求項5に記載の電波送受信機を移動体に搭載し、前記マスター合成開口レーダ装置と同じ画像取得エリアに対してパルス信号の送信と反射信号の受信を行うM台(Mは任意の自然数)のスレーブ合成開口レーダ装置と、前記マスター合成開口レーダ装置および前記スレーブ合成開口レーダ装置からの受信データを加工して二次元画像を生成する合成開口レーダ信号処理装置と、を含み、前記スレーブ合成開口レーダ装置は、前記マスター合成開口レーダ装置を基準となる前記電波送受信機として前記時空間差分情報を取得し、少なくとも前記時間的差分情報に基づいて前記時間的誤差を補正する位相調整を行うことで、前記マスター合成開口レーダ装置のパルス送信と同期したパルス信号の送信を行い、前記合成開口レーダ信号処理装置は、前記マスター合成開口レーダ装置および/または前記スレーブ合成開口レーダ装置からの前記受信データにおける反射信号に対して、少なくとも前記時空間差分情報における前記空間的差分情報に基づいて前記空間的誤差を補正する位相調整を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る第1~第3の電波送受信機によれば、他の電波送受信機との間での時空間差分情報を取得できる。よって、第1の電波送受信機を複数用いる分散型フェーズドアレイアンテナシステムは、各電波送受信機が取得した時空間差分情報を補正情報として用いることで、ビーム品質の低下を抑制できる。また、第2の電波送受信機を複数用いる分散型電磁波観測データ収集システムは、各電波送受信機が取得した時空間差分情報を補正情報として用いることで、ビーム品質の低下を抑制できる。また、第3の電波送受信機を複数用いる分散型合成開口レーダシステムは、各電波送受信機が取得した時空間差分情報を補正情報として用いることで、二次元画像の品質低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)は本実施形態に係る分散型フェーズドアレイアンテナシステムの概略構成図である。(B)は分散型フェーズドアレイアンテナシステムに用いる第1構成例の電波送受信機の概略構成図である。
図2】(A)はリニアアレイアンテナとして機能するように電波送受信機を直線状に等間隔で配置した分散型フェーズドアレイアンテナシステムにおける放射特性の第1例を示すイメージ図である。(B)はリニアアレイアンテナとして機能するように電波送受信機を直線状に等間隔で配置した分散型フェーズドアレイアンテナシステムにおける放射特性の第2例を示すイメージ図である。
図3】(A)は分散型フェーズドアレイアンテナシステムに用いる各電波送受信機の基準発振器に時間的誤差が無い場合の放射特性を示すイメージ図である。(B)は分散型フェーズドアレイアンテナシステムに用いる各電波送受信機の基準発振器に時間的誤差が有る場合の放射特性を示すイメージ図である。(C)は分散型フェーズドアレイアンテナシステムに用いる各電波送受信機の基準発振器に含まれる時間的誤差を時間的差分情報に基づいて補正した場合の放射特性を示すイメージ図である。
図4】分散型フェーズドアレイアンテナシステムに用いる各電波送受信機が相互の位相差を検出して位相同期を図るために行う補正動作の説明図である。
図5】第2構成例の電波送受信機の概略構成図である。
図6】第3構成例の電波送受信機の第略構成図である。
図7】(A)は複数台の車両にそれぞれ搭載した電波送受信機を用いた分散型フェーズドアレイアンテナシステムのイメージ図である。(B)は複数の無人航空機にそれぞれ搭載した電波送受信機を用いた分散型フェーズドアレイアンテナシステムのイメージ図である。
図8】複数台のスレーブモビリティと1台のマスターモビリティとで構成した分散型電磁波観測データ収集システムの概略構成図である。
図9】(A)はスレーブモビリティに用いる電波送受信機の概略構成図である。(B)はマスターモビリティに用いる電波送受信機の概略構成図である。
図10】1台のマスター合成開口レーダ装置と複数台のスレーブ合成開口レーダ装置と1台の移動型制御装置とで構成した分散型合成開口レーダシステムの概略構成図である。
図11】1台のマスター合成開口レーダ装置とM台のスレーブ合成開口レーダ装置から観測対象物へパルス信号を送信し、1台のマスター合成開口レーダ装置とM台のスレーブ合成開口レーダ装置で反射信号を受信する分散型合成開口レーダシステムの概略構成図である。
図12】1台のマスター合成開口レーダ装置から観測対象物へパルス信号を送信し、1台のマスター合成開口レーダ装置とM台のスレーブ合成開口レーダ装置で反射信号を受信する分散型合成開口レーダシステムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1(A)に示すのは、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1で、通信方向に臨む略平坦な面に配置した4つの電波送受信機2(例えば、第1電波送受信機2A、第2電波送受信機2B、第3電波送受信機2C、第4電波送受信機2D)とシステム制御装置11とから成る。なお、適所に分散配置される第1~第4電波送受信機2A~2Dは、何れも共通の機能を備えるものとし(例えば、図1(B)を参照)、第1~第4電波送受信機2A~2Dを区別する必要が無い場合は、単に電波送受信機2とよぶ。また、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1を構成する電波送受信機2の利用数は、4機に限定されるものではなく、2機あるいは3機でも良いし、5機以上でも構わない。
【0021】
電波送受信機2は、「複数のアンテナ素子を配列して所望の指向性を得るフェーズドアレイアンテシステム」を構成するアンテナ素子として利用可能である。すなわち、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1では、複数の電波送受信機2を配列し、システム制御装置11からの指示により、これら電波送受信機2の全部あるいは一部のアンテナを励振させ、励振振幅と励振位相を制御して得られた電波の重ね合わせによって、所望の指向性を得るのである。
【0022】
なお、アレイアンテナは、その配列方法によってリニアアレイ、プレーナアレイ、サーキュラーアレイ、コンフォーマルアレイなどに区分される。さらに、各放射素子の相対位相によってビーム方向や放射パターンの制御を行うアレイアンテナを、特にフェーズドアレイアンテナと称する。また、放射要素を電気的に接続せずに分離し、各放射要素が独立して自身を制御するアンテナを分散型アレイアンテナと呼ぶ。これらの既存技術をふまえて、独立した放射要素である電波送受信機2の相対位相によってビーム方向や放射パターンの制御を行うシステムである本発明を、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1とよぶ。
【0023】
また、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1がフェーズドアレイアンテナとして機能するためには、システム制御装置11から第1~第4電波送受信機2A~2Dへ指向特性制御の指示を行ったり、第1~第4電波送受信機2A~2Dからシステム制御装置11へ受信信号を送信したりする必要がある。このため、システム制御装置11と第1~第4電波送受信機2A~2Dには、双方向の信号伝送機能が必要であり、図1(A)では、システム制御装置11と第1~第4電波送受信機2A~2Dを有線接続する例を示したが、無線接続でも構わない。また、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1を構成する第1~第4電波送受信機2A~2Dの何れか1機にシステム制御装置11の機能を付加しておけば、システム制御装置11を別途用意する必要が無い。
【0024】
各電波送受信機2は、それぞれ独立した筐体に収容され、個別に取り扱うことができるので、電波送受信機2としてのサイズや重量を十分に低減させておけば、可搬性の高いものとなる。しかも、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1として使用する電波送受信機2の数や配置等を任意に変更して放射特性を制御できるので、システムとしての自由度を高められる。しかしながら、放射要素を分散化したマイナス要因として、電波送受信機2を理想的な配置とする高精度の位置合わせが困難であり、誤差要因となる。加えて、各電波送受信機2は独立していることから、基準クロック等の生成は電波送受信機2毎に行う必要があり、既知のフェーズドアレイアンテナの如く共通クロックによる高精度の同期が行えないため、誤差要因となる。そこで、本実施形態の電波送受信機2には、時間的な誤差や空間的な誤差を補正できる機能を設け、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1として得られるビーム品質の低下を抑制できるようにした。
【0025】
以下、図1(B)を参照して、第1構成例として示す電波送受信機2の誤差補正機能について詳述する。なお、電波送受信機2がシステム制御装置11と行う信号通信機能や処理動作については、既知のフェーズドアレイアンテナにて採用されている様々な技術を適用可能であるから、図1(B)では省略した。
【0026】
電波送受信機2は、通信用アンテナ21、送受信モジュール22、放射制御部23、位相調整部24、送受信制御部25、基準発振器26、同期用アンテナ27、時空間差分情報取得部28、から構成される。なお、通信用アンテナ21には、ダイポールアンテナ、スロットアンテナ、マイクロストリップアンテナなどが望ましい。通信用アンテナ21、送受信モジュール22、放射制御部23、位相調整部24は、フェーズドアレイを構成する一放射素子として機能する。放射制御部23は、アンテナに給電する高周波の周波数、強度を制御し、位相調整部24は高周波の位相を制御する。送受信モジュール22は、送信パス・受信パスそれぞれの位相を任意に調整できる移相器221と増幅回路(例えば、送信用増幅器222と受信用低雑音増幅器223)を備え、放射制御部23および移相器221を介して給電される高周波を通信用アンテナ21に送信するか、あるいは通信用アンテナ21で受信した高周波を位相シフトした後に復調するかを切り替える。すなわち、電波送受信機2では、任意に位相を制御した電波を通信用アンテナ21から放射・受信できる。なお、以下の電波送受信機2に関する説明では電波を放射する動作例について述べるが、受信でも同様の効果が得られる。
【0027】
図2(A)は、第1~第4電波送受信機2A~2Dを、それぞれ距離dを隔てて直線状に整列配置したリニアアレイ構成の分散型フェーズドアレイアンテナシステム1を示す。また、第1~第4電波送受信機2A~2Dの時計は理想的な精度で同期している。よって、第1~第4電波受信機2A~2Dの各送信用アンテナ21より励振位相Φで同期した高周波が送信されると、第1~第4電波送受信機2A~2Dの配列方向に直交する向きが指向方向となる合成波の波面WFが生ずる。一方、図2(B)は、第1電波送受信機2Aの送信用アンテナ21より励振位相Φの高周波を、第2電波送受信機2Bの送信用アンテナ21より励振位相Φ+Δφの高周波を、第3電波送受信機2Cの送信用アンテナ21より励振位相Φ+2Δφの高周波を、第4電波送受信機2Dの送信用アンテナ21より励振位相Φ+3Δφの高周波を、それぞれ送信した場合を示す。このように、第1~第4電波送受信機2A~2Dの配列位置に応じて位相調整した高周波を送信すると、図2(A)の指向方向に対して角度θ傾いた指向方向となる合成波の波面WFが生ずる。
【0028】
しかしながら、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1に用いる各電波送受信機2は、既知のアレイアンテナのように集中管理されておらず、他の電波送受信機2とは独立して動作するため、自機における励振振幅・位相などの高周波信号の状態を個別に把握・制御しなくてはならない。このとき課題となるのは、他の電波送受信機2との間で一定の規則のもと位相をそろえることである。そのためには、基準となる電波送受信機2と自機との時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる電波送受信機2に対する自機の適正位置と自機の現在位置との空間的誤差である空間的差分情報を把握し、所望の合成波を得るために必要な位相ずれ量を補正するように高周波の状態を制御することが肝要である。なお、時間的差分情報とは、基準となる電波送受信機2の基準発振器26と自機の基準発振器26との誤差でも良いし、基準となる電波送受信機2の基準発振器26が生成する基準周波数信号(例えば、基準クロック信号)をカウントしている時計と自機の時計との誤差であっても良い。また、空間的差分情報は、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1において自機に割り当てられた理想的配置となる位置(適正位置)と自機の現在位置との空間的誤差を、基準となる電波送受信機2(以下、基準機と呼ぶ)の位置を元に取得するものである。仮に、基準機の位置が適正位置から若干ずれていたとしても、他の電波送受信機2が基準機に対して適正位置に配置されていれば、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1としては、意図通りの指向性を実現できるからである。
【0029】
そこで、電波送受信機2には、基準発振器26に加えて、同期用アンテナ27および時空間差分情報取得部28を設けた。時空間差分情報取得部28は、他の電波送受信機2との間での時間的差分情報、及び他の電波送受信機2との間での空間的差分情報、の両方を含む時空間差分情報を取得する。この時空間差分情報に基づいて、位相調整部24が送受信モジュール22の移相器221に働きかけ、通信用アンテナ21から発射される高周波信号の移相量を制御する。このように、上述した時間的差分情報および空間的差分情報を含む時空間差分情報を把握し、時間的誤差と空間的誤差を補正することにより、独立して動作する複数の電波送受信機2を用いていても、協調して所望の合成波を得ることができる。例えば、時空間差分情報取得部28は、同期用アンテナ27を介した無線通信で他の電波送受信機2とコードの送受信を行い、相互の基準発振器26の時刻ずれとコード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、時間的差分情報と前記空間的差分情報を計測する。なお、同期用アンテナ27を使わず、有線接続された他の電波送受信機2と通信を行って位相ずれを計測するようにしても良い。
【0030】
時空間差分情報取得部28が取得した時間的差分情報及び空間的差分情報を含む時空間差分情報は、送受信制御部25を介して位相調整部24に供給され、位相ずれを補正する制御に使用される。すなわち、放射制御部23は基準発振器26によるクロック源に基づいて高周波信号を励振し、位相調整部24は時空間差分情報に基づいて移相器221による位相量を制御して高周波信号の時空間的誤差を補正し、ビーム品質の低下を抑制した高周波信号を通信用アンテナ21より送信する。これにより、独立して動作する複数の電波送受信機2を用いた分散型フェーズドアレイアンテナシステム1として、所望の合成波を得ることが可能になる。このような位相補正動作について、図3を参照して説明する。なお、図3では、説明を簡単にするため、第1~第3電波送受信機2A~2Cを等間隔で一列に配置したリニアアレイ構造とした。
【0031】
例えば、図3(A)に示すように、第1~第3電波送受信機2A~2Cの各基準発振器26が高精度に同期しており、時刻TMに時間的誤差が無かった場合、送受信モジュール22に供給される高周波信号に時間的誤差は生じていない。先ず、第1電波送受信機2Aの送受信モジュール22にて位相調整する位相ずれ量Φa0を、システム制御装置11からの指示通り0(ゼロ)とすれば、通信用アンテナ21より発射される高周波信号は指示通りの位相となる。同様に、第2電波送受信機2Bの送受信モジュール22にて位相調整する位相ずれ量Φb0を、システム制御装置11からの指示通りπ/6とすれば、通信用アンテナ21より発射される高周波信号は指示通りの位相となる。同様に、第3電波送受信機2Cの送受信モジュール22にて位相調整する位相ずれ量Φc0を、システム制御装置11からの指示通りπ/3(=2π/6)とすれば、通信用アンテナ21より発射される高周波信号は指示通りの位相となる。このように、第1~第3電波送受信機2A~2Cの時刻TMに時間的誤差が無ければ、各通信用アンテナ21より発射される高周波信号の位相差に応じた指向方向に波面が揃い、好適な指向性を得られる。
【0032】
しかしながら、図3(B)に示すように、第1~第3電波送受信機2A~2Cの時刻がマスタークロックに同期していなかった場合、送受信モジュール22に供給される高周波信号に時間的誤差が生じてしまう。先ず、第1電波送受信機2Aの時計はマスタークロックに同期(時刻TMに一致)しているので、送受信モジュール22内で位相調整(位相ずれ量Φa0=0)された高周波信号は、指示通りの位相となる。しかし、第2電波送受信機2Bの時計はマスタークロックよりもΔtb進んでいるので時刻TM+Δtbが高周波信号の発振基準となり、送受信モジュール22内で位相調整(位相ずれ量Φb0=π/6)された高周波信号は、本来の指示よりも位相がずれた状態となる。また、第3電波送受信機2Cの時計はマスタークロックよりもΔtc進んでいるので時刻TM+Δtcが高周波信号の発振基準となり、送受信モジュール22内で位相調整(位相ずれ量Φc0=π/3)された高周波信号は、本来の指示よりも位相がずれた位相となる。よって、図3(B)の各通信用アンテナ21より発射される高周波信号は、その位相差に応じた指向方向に波面が揃わず、好適な指向性を得られない。
【0033】
一方、図3(C)に示すように、第1~第3電波送受信機2A~2Cの時刻がマスタークロックに同期していない場合でも、位相調整部24によって時刻ずれを補正するように位相量の調整を行えば、高周波信号に生じた時間的誤差を解消できる。なお、以下では送信する高周波信号の周期をPとする。先ず、第1電波送受信機2Aの時計はマスタークロックに同期(時刻TMに一致)しているので、位相調整部24が送受信モジュール22に指示する補正位相調整量ΦaCはΦa0(=0)のままで、通信用アンテナ21より発射される高周波信号は指示通りの位相となる。しかし、第2電波送受信機2Bの時計はマスタークロックよりもΔtb進んでいるので、Δtbによって生じる位相ずれ量(2πΔtb/P)を加味した補正位相調整量ΦbC=Φb0-2πΔtb/P(=π/6-2πΔtb/P)を位相調整部24が送受信モジュール22に指示することで、通信用アンテナ21より発射される高周波信号は指示通りの位相となる。また、第3電波送受信機2Cの時計はマスタークロックよりもΔtc進んでいるので、Δtcによって生じる位相ずれ量(2πΔtc/P)を加味した補正位相調整量ΦcC=Φc0-2πΔtc/P(=π/3-2πΔtc/P)を位相調整部24が送受信モジュール22に指示することで、通信用アンテナ21より発射される高周波信号は指示通りの位相となる。このように、第1~第3電波送受信機2A~2Cの時刻TMに時間的誤差が有っても、時刻ずれを補正するように位相量の調整を行えば、各通信用アンテナ21より発射される高周波信号の位相差に応じた指向方向に波面が揃い、好適な指向性を得られる。
【0034】
上述したように、独立して動作する電波送受信機2の間で、時空間差分情報を取得し、高周波信号の位相ずれ量を補正すれば、合成波を形成する各波源の意図しない位相ずれを低減させることができ、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1としてのビーム品質を向上させることができる。なお、図3は時間的誤差の補正手法についてのみ示したが、空間的誤差の補正手法も同様である。電波送受信機2の間で、時空間差分情報を取得し、高周波信号の位相ずれ量を補正すれば、合成波を形成する各波源の意図しない位相ずれを低減させることができる。無論、時間的誤差と空間的誤差の両方が生じている場合には、時間的誤差量と空間的誤差量の両方を加味して高周波信号の位相を補正すれば、合成波を形成する各波源の意図しない位相ずれを低減させることができる。
【0035】
なお、時空間差分情報取得部28による時間的差分情報の取得手法および空間的差分情報の取得手法は、特に限定されるものではなく、公知既存の適宜な手法を用いて構わない。例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)を用いる場合、GNSS衛星をマスタークロックとして、各電波送受信機2がその時刻に同期する補正動作を行えばよい。GNSSで時刻同期を行う手法は、GNSSの信号が届く地上・上空では有効である。また、各電波送受信機2の間の伝搬遅延時間を用いるIEEE802.1AS-2011などの種々の時刻同期手法を用いてもよい。この場合は、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1を構成する複数の電波送受信機2の中の一つがマスタークロックとしての機能を担うか、あるいは基準となる電波送受信機2との相対的な時刻ずれを検出できるようにする。例えば、図4に示すように、第1電波送受信機2Aがマスタークロックを備えるものとし、第2電波送受信機2Bは第1電波送受信機2Aとの伝搬遅延時間に基づく誤差φABで自機内のクロックを補正する。同様に、第3電波送受信機2Cは第1電波送受信機2Aとの伝搬遅延時間に基づく誤差φACで自機内のクロックを補正する。なお、第3電波送受信機2Cは、クロック補正後の第2電波送受信機2Bとの伝搬遅延時間に基づく誤差φBCで自機内のクロックを補正しても良いし、誤差φACと誤差φBCとの平均値などで自機のクロックを補正しても良い。第4電波送受信機2Dは、クロック補正後の第2電波送受信機2Bとの伝搬遅延時間に基づく誤差φBD或いはクロック補正後の第3電波送受信機2Cとの伝搬遅延時間に基づく誤差φCDで自機内のクロックを補正しても良いし、誤差φBDと誤差φCDとの平均値などで自機のクロックを補正しても良い。この伝搬遅延時間(RTT)を用いる手法では高い同期精度を得られるため、ビーム品質を向上させる観点から望ましい。
【0036】
また、時間的な位相ずれを補正するのではなく、検出した位相ずれを打ち消すように基準発振器26の位相ずれを解消する(すなわち同期させる)ように調整しても良い。例えば、図5に示す電波送受信機2′は、VCOやOCXOなどの周波数調整可能な基準発振器26′を備えると共に、時空間差分情報取得部28′は、空間的差分情報検出器281と時間的差分情報検出器282を備える。時間的差分情報検出器282は、マスタークロックあるいはその位相を示す情報を同期用アンテナ27から受信し、その受信情報に基づいて基準発振器26′の励振位相をマスタークロックに合わせる。より具体的には、マスタークロックから送信される特定の周波数の電波を同期用アンテナ27で受信し、その電波と基準発振器26′のクロックとの位相ずれを時間的差分情報検出器282によって検出する。時間的差分情報検出器282によって得られた時間的誤差を、基準発振器26′にフィードバックすることで、マスタークロックと同位相で基準発振器26′を励振させることができる。このように、基準発振器26′の発振クロックを位相レベルでマスタークロックと同期させれば、位相ずれを最小限に抑えることができ、ビーム品質を向上させることができる。また、マスタークロックはグローバルなものでなくてよく、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1を構成する複数の電波送受信機2の間のみで成立する局所的な同期でも構わない。この場合は、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1を構成する複数の電波送受信機2の中から、マスタークロックとなる電波送受信機2を任意に選定すれば良い。
【0037】
一方。空間的差分情報、すなわち複数の電波送受信機2の間の位置関係は、GNSS、AoA(Angle of Arrival)、AoD(Angle of Departure)、RSSI(Received Signal Strength Indicator)を用いた距離推定など、無線を用いる測位技術を用いて検出できる。特に、地上や空中などのGNSS信号が届く場所に電波送受信機2を配置する場合、GNSSは有効な手段である。また、空間的差分情報の取得においても、緯度・経度・高度といったグローバルな位置ではなく、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1を構成する複数の電波送受信機2の間のみで相対的な位置関係が把握できるような局所的なものでも構わない。したがって、AoA、AoD、あるいはRSSIなどを用いて、複数の電波送受信機2の間で互いの位置を把握できるような測位技術であってもよい。さらに、電波の伝搬遅延時間を用いて互いの距離を測位することで位置関係を把握してもよい。このとき、複数の電波送受信機2の間での距離が分かればよい。
【0038】
このようにして得られた空間的差分情報は、送受信制御部25が決定する移相量を決める材料となる。たとえば、理想的はアレイアンテナの配置から装置がずれている場合、その空間的誤差による位相ずれを求め、ビーム品質への影響が最小限になるように移相量を調整する。この移相量は、マクスウェル方程式、フレネル・キルヒホッフの回折理論、レイ・トレーシングなどの手法により計算し、全体として最適なビームになるような値を用いることが望ましい。より簡単には、理想的な位置からのずれを表す距離と電波の伝搬波長から位相ずれを計算し、この空間的誤差を補正するように高周波信号の位相を調整してもよい。
【0039】
また、電波送受信機2に搭載する放射素子機能は一つに限定されるものではなく、N個(Nは任意の自然数)の通信用アンテナ21と、各送信用アンテナ21に対応した送受信モジュール22を設けても良い。図6に示す電波送受信機2″は2組(N=2)の放射素子機能を備えるもので、第1通信用アンテナ21Aと第2通信用アンテナ21B、第1,第2送信用アンテナ21A,21Bにそれぞれ対応した第1送受信モジュール22Aと第2送受信モジュール22Bを備える。また、第1通信用アンテナ21Aから放射する高周波信号と第2通信用アンテナ21Bから放射する高周波信号は、独立に制御するので、第1送受信モジュール22Aに対応する第1放射制御部23Aおよび第1位相調整部24Aを設けると共に、第2送受信モジュール22Bに対応する第2放射制御部23Bおよび第2位相調整部24Bを設ける。このように、複数の放射素子機能を設けた電波送受信機2″においては、放射素子機能の間隔を狭めて配置することができる。例えは、素子間隔をd、信号波長をλ、最大走査角をθとすると、d/λ=1/(1+sinθ)であるから、d≦λ/(1+sinθ)となるように素子間隔dを調整すれば、グレーティングローブの発生を抑制できる。
【0040】
上記のように、時間的差分情報および空間的差分情報を取得して、時空間的誤差量を補正するように高周波信号の位相調整を行える電波送受信機2は、アレイアンテナの放射素子を独立して利用できるだけでなく、さらに移動手段に搭載することで、移動式の分散型フェーズドアレイアンテナシステムとなる。例えば、電波送受信機2を搭載する移動体として、地上を走行する車両3(図7(A)を参照)、海上を航行する船舶、空域を飛行する航空機やUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)4(図7(B)を参照)、軌道上の人工衛星などがある。なお、移動体と電波送受信機2を別体とせず、一体構造としても構わない。
【0041】
図7(A)に示す移動式の分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′は、第1~第8車両3A~3Hに、それぞれ第1~第8電波送受信機2A~2Hを搭載したもので、例えば、第1電波送受信機2Aにシステム制御装置11の機能を持たせている。この分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′では、前述した分散型フェーズドアレイアンテナシステム1のように各電波送受信機2が固定配置されていないので、第1~第8車両3A~3Hの移動に伴って、第1~第8電波送受信機2A~2Hの相対位置は時々刻々変化することとなる。しかしながら、各電波送受信機2には、時空間差分情報取得部28を設けてあるので、時間的差分情報及び空間的差分情報を取得して時空間的誤差量を補正した高周波信号を発射でき、第1~第8車両3A~3Hの移動に伴う時空間的誤差量の変化にも追随できる。よって、移動体である車両3を用いた移動式の分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′においても、特定の方向にメインローブを向けた合成波を形成できる。
【0042】
なお、第1~第8車両3A~3Hが自動運転車などであれば、第1~第8電波送受信機2A~2Hがアレイアンテナとして理想的な配置となるように、第1~第8車両3A~3Hに隊列を組ませた状態で移動できるので、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′におけるビーム品質を保持したまま移動可能となる。また、第1~第8電波送受信機2A~2Hは、時空間差分情報取得部28によって取得した時空間差分情報から互いの位置を把握できるので、各電波送受信機2は自機がどの様に移動すればアレイアンテナとして理想的な配置となるかを判断できる。そこで、各電波送受信機2に移動補正指示手段を設け、移動補正指示手段から各移動体の移動制御装置(例えば、車両3の自動運転制御装置)へ移動補正情報を送信することで、各移動体の移動制御装置が移動補正情報に基づいて移動方向や移動速度を補正すれば、各移動体によって各電波送受信機2を最適な位置に移動させることができる。なお、各移動体の移動補正だけでは各電波送受信機2の最適な配置を実現できない場合であっても、各電波送受信機2はそのときに検出した時空間差分情報に基づく高周波信号の位相補正動作を行うので、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′として、ビーム品質の低下を最小限に抑制できる。無論、移動体の移動補正を適正に行えない場合(例えば、車両を人が運転する場合など)においても、各電波送受信機2による高周波信号の位相補正動作によって合成波の品質低下を抑制できる可能性がある。
【0043】
図7(B)に示す移動式の分散型フェーズドアレイアンテナシステム1″は、第1~第9UAV4A~4Iに、それぞれ第1~第9電波送受信機2A~2Iを搭載したもので、例えば、第1電波送受信機2Aにシステム制御装置11の機能を持たせている。この分散型フェーズドアレイアンテナシステム1″では、飛行可能な移動体であるUAV4に各電波送受信機2を搭載したので、空間を三次元的に活用したアレイ配列を実現できる。例えば、大開口化の難しい三次元曲面を持つようなアレイアンテナの機能を分散型フェーズドアレイアンテナシステム1″によって容易に実現できる。また、各電波送受信機2の送受信モジュール22のパワーアンプのゲインが可変でない場合、個体のばらつきを抑えるために、各電波送受信機2の三次元的な配列を微調整することで、ビーム品質の低下を抑制できる。
【0044】
また、UAV4が自律飛行型であれば、各電波送受信機2に移動補正指示手段を設け、移動補正指示手段から各移動体の移動制御装置(例えば、UAV4の自立飛行転制御装置)へ移動補正情報を送信することで、各移動体の移動制御装置が移動補正情報に基づいて移動方向や移動速度を補正すれば、各移動体によって各電波送受信機2を最適な位置に移動させることができる。なお、各UAV4が無線で遠隔操作できる無人機の場合には、各電波送受信機2に移動体の移動制御を行う移動制御部を設けておき、各電波送受信機2の移動制御部が各UAV4を直接制御するようにしても構わない。この場合、移動制御部は、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1″を構成する各電波送受信機2の相対的な移動制御に加えて、時空間差分情報取得部28が取得した前記時空間差分情報に基づく位相ずれを補正するような移動制御も行う。なお、各電波送受信機2の移動制御部による各UAV4に対する移動制御により、各電波送受信機2が理想の配置に移動するまでは、各電波送受信機2による高周波信号の位相補正により、ビーム品質の低下を抑制できる。
【0045】
さらに、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1″では、各UAV4が自由な隊列を組めることを利用し、各電波送受信機2が全体として不等間隔アレイを構成する配置に設定できる。不等間隔アレイの配置を採れば、通常のグレーティングローブ発生条件よりも広い素子間隔で配列できるので、素子数(利用する電波送受信機2の数)の削減が可能である。しかも、不等間隔アレイでは、素子の配列密度により等価的に振幅分布をつけられるので、各電波送受信機2の振幅分布が一定の場合でも低サイドローブを実現でき、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1″として、より指向性を高められる。
【0046】
上述したように、車両3やUAV4といった移動体に電波送受信機2を搭載すると、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′,1″全体としての移動手段を備えることになり、利便性の高いものとなる。しかも、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′,1″の使用用途に応じて、移動体を移動させれば各電波送受信機2の配列を変更でき、自由度の高いものとなる。加えて、移動体に電波送受信機2を搭載して移動機能を付加すると、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′,1″のスケール変化に柔軟に対応できるスケーラビリティを実現でき、分散システムとしての利点を最大限に活かせる。
【0047】
例えば、各電波送受信機2に、自らに生じた故障などを診断できる自己診断部と、自機が搭載された移動体を任意に移動制御できる自律移動制御部と、を持たせておく。分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′,1″を構成する電波送受信機2が、自己診断部により故障したと判断したとき、自律移動制御部によって自律的に移動してアレイ配置から外れる。この穴を埋めるように他の電波送受信機2が自律的に配列を調整すれば、一部の電波送受信機2に生じた故障による影響を最小限に抑え、引き続き分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′,1″として動作できる。なお、予備機として待機している電波送受信機2が有る場合には、故障により脱落した電波送受信機2の代わりに予備機が自律的に適正位置へ移動することで、速やかに適正なアレイ配置を復元できるようにしても良い。また、電波送受信機2の自己診断部による診断が、本来の出力の電波を放射できないが、弱い電波の放射は可能であるような状況の場合、アレイ配置の最外部へ放射能力の弱った電波送受信機2を配置し直せば、故障の影響を低減させる。また、各電波送受信機2の放射特性のばらつきを考慮したうえで、最適な不等間隔アレイとなるように各電波送受信機2の配列を組むようにしても良い。また、各電波送受信機2の自律移動制御部が強化学習による自己学習機能を有するものとすれば、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′,1″として所望の合成波を得ることができる最適解を自己学習して、各電波送受信機2の放射特性などを考慮し、各電波送受信機2の自律移動制御部が自律的に配列を組み替えるような自律制御が可能となる。このような自己学習機能を各電波送受信機2に持たせておけば、各電波送受信機2の経年劣化等で放射特性が変化した際などにも、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1′,1″としての合成波の劣化を最小限に抑えられる。
【0048】
上述した分散型フェーズドアレイアンテナシステム1,1′,1″は、時空間差分情報を取得できる電波送受信機2,2′,2″等を用いて、送信ビームの品質低下を抑制するものであるが、時空間差分情報を取得できる電波送受信機は、受信した受信信号に適切な位相シフト処理と適切な重み付け(振幅方向の増幅・減衰)処理をして合成することで種々の指向性の受信ビームを形成できるビームフォーミングにも適用できる。図8に示すのは、ビームフォーミング技術を用いて到来する電磁波を観測するためのデータ収集を行う分散型電磁波観測データ収集システム5である。この分散型電磁波観測データ収集システム5は、単独で電波観測に利用できるのはもちろん、超長基線電波干渉法(VLBI)による観測用の分散された各アンテナ(例えば、電波望遠鏡)としても利用できる。
【0049】
この分散型電磁波観測データ収集システム5は、例えば、任意に設定した電波観測エリアOAの上空に1台のマスターモビリティ51Mと第1~第8スレーブモビリティ51S1~51S8(特に区別する必要が無い場合、単にスレーブモビリティ51Sという)で構成される。第1~第8スレーブモビリティ51S1~51S8およびマスターモビリティ51Mは、電波観測エリアOAに到来する電波をそれぞれ受信し、第1~第8スレーブモビリティ51S1~51S8は受信データ(観測データ)をマスターモビリティ51Mへ送信する。そして、観測データを収集したマスターモビリティ51Mは、所定のデータ転送タイミング(例えば、一定時間毎、あるいは観測データの蓄積容量が所定値に達したタイミング)に低空へ移動し、比較的近距離から観測データ収集所としての観測データ収集局CPへ観測データを送信する。このように、マスターモビリティ51Mが一旦低空へ移動して観測データの送信を行う運用とすれば、上空から観測データ収集局CPへ直接送信する場合に比べ、送信電力を抑えて大容量通信を行うことができる。
【0050】
観測データを受け取った観測データ収集局CPでは、マスターモビリティ51Mおよび第1~第8スレーブモビリティ51S1~51S8が収集した観測データの受信信号に適切な位相シフト処理と適切な重み付け処理をして合成することで、受信ビームを生成できる。このとき、各受信信号に対する移相シフト処理やウェイトの組合せを異ならせれば、異なるパターンの受信ビームを生成できる。すなわち、マスターモビリティ51Mおよび第1~第8スレーブモビリティ51S1~51S8が所定の配列で受信した電磁波の観測データから、様々なビームパターンの出力を得られるのである。
【0051】
なお、マスターモビリティ51Mが収集した観測データを観測データ収集所へ転送する手法は特に限定されるものではなく、例えば、観測データを受け取るデータ収集車CVを電磁波観測エリアOA内に待機させておき、マスターモビリティ51Mからデータ収集車CVへ直接送信する運用としても良い。あるいは、マスターモビリティ51Mにおける観測データの蓄積を記録メディアに行い、データ転送タイミングとなって地上まで降下してきたマスターモビリティ51Mから調査員等が観測データの蓄積された記録メディアを抜き取って、十分な空き容量のある記録メディアと交換し、速やかにマスターモビリティ51Mを上空の定位置へ戻すような運用でも良い。あるいは、マスターモビリティ51Mおよび第1~第8スレーブモビリティ51S1~51S8が電磁波観測エリアOAへ移動し、地上にて電磁波観測を行い、所定のデータ転送タイミングになると、マスターモビリティ51Mのみが観測データ収集局CP等へ移動して、蓄積した観測データを転送する運用としても良い。
【0052】
マスターモビリティ51Mは、電波送受信機52MをUAV4に搭載したものである。一方、第1スレーブモビリティ51S1は、電波送受信機52SをUAV4に搭載したものである。同様に、第2スレーブモビリティ51S2,第3スレーブモビリティ51S3,第4スレーブモビリティ51S4,第5スレーブモビリティ51S5,第6スレーブモビリティ51S6,第7スレーブモビリティ51S7,第8スレーブモビリティ51S8も、電波送受信機52SをUAV4に搭載したものである。以下、スレーブ用の電波送受信機52Sとマスター用の電波送受信機52Mについて、図9を参照して説明する。
【0053】
図9(A)は、スレーブモビリティ51S用の電波送受信機52Sの概略構成を示す。スレーブモビリティ51S用の電波送受信機52Sは、自らビームを発射する機能は必要ないので、図9(A)では、受信機能についてのみ示したが、前述した電波送受信機2,2′,2″と同様の位相補正可能な送信機能を備えていても良い。時空間差分情報を送信時の位相補正に用いる送信機能と、時空間差分情報を受信信号の位相補正に利用できるにする受信機能とを併せ持つ電波送受信機としておけば、分散型フェーズドアレイアンテナシステム1,1′,1″としても、分散型電磁波観測データ収集システム5としても利用できるので、汎用性の高いものとなる。なお、図9(A),(B)において、図1(B)の電波送受信機2、図5の電波送受信機2′、図6の電波送受信機2″と同一機能については、同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
電波送受信機52Sは、1個の通信用アンテナ21と、時空間差分情報取得部28と、通信用アンテナ21に対応する1個の信号受信部としての送受信モジュール22と、受信データ送信部524と、基準周波数信号を生成する基準発振器26と、を備える。送受信モジュール22で受信した信号は、ダウンコンバータ521にて扱いやすい中間周波数等に変換され、さらにA/D変換部522にてデジタル信号に変換され、送受信制御部523Sに入力される。なお、複数のアンテナから得た受信信号によるビームフォーミングの処理は、アナログ回路でも実現可能であるが、デジタル信号処理の方がフレキシビリティが高く現実的である。
【0055】
一方、時空間差分情報取得部28は、通信用アンテナ21とは別の同期用アンテナ27を用いた無線通信によって、他の電波送受信機52Sまたは電波送受信機52Mと相互にコード送受信を行い、相互の基準発振器26の時刻ずれとコード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、基準となる電波送受信機52S,52Mと自機との時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる電波送受信機52S,52Mに対する自機の適正位置と自機の現在位置との空間的誤差である空間的差分情報を計測し、時間的差分情報及び空間的差分情報を含む時空間差分情報を取得する。この時空間差分情報は送受信制御部523Sに入力される。なお、マスターモビリティ51Mにおける電波送受信機52Mおよび全てのスレーブモビリティ51Sにおける電波送受信機52Sの中から基準機を選定し、選定された基準機の基準発振器26をマスタークロックとし、他の電波送受信機52M,52Sの基準発振器26を同期させれば、受信信号に時間的誤差は生じないので、空間的差分情報のみを時空間差分情報として取得しても良い。
【0056】
上記のようにして、受信信号と時空間差分情報を受けた送受信制御部523Sは、デジタル化された受信信号と、その受信タイミングにおける時空間差分情報とをセットにして、受信データ送信部524へ渡す。受信データ送信部524は、受信部としての送受信モジュール22にて受信した受信信号と、その受信タイミングにおける時空間差分情報と、自機と他の電波送受信機52S、52Mとを識別可能に設定された自機の固有情報(例えば、任意に設定されたID番号や、送受信モジュール22に固有のチップID等)と、を紐付けた受信データを、受信データ送信用アンテナ525を介してマスターモビリティ51Mの電波送受信機52Mへ送信する。
【0057】
なお、複数の通信用アンテナ21と、それらに対応した受信部(送受信モジュール22、ダウンコンバータ521、A/D変換部522)を併せて設けた場合、受信データ送信部524は、電波送受信機52Sにおける各受信部を識別可能な情報も受信データに含ませておけば良い。また、送受信制御部523に移動体位置制御部523aを設けておき、時空間差分情報の空間的差分情報に基づいて自機の位置を補正するように移動体としてのUAV4を移動させ、自機を適正位置へ近づける制御を行っても良い。
【0058】
上述したスレーブモビリティ51Sの電波送受信機52Sより受信データが送信されるマスターモビリティ51Mの電波送受信機52Mの概略構成を図9(B)に示す。
【0059】
観測データ受信アンテナ526および観測データ受信部を介して、各電波送受信機52Sから受信した受信データは、観測データとして観測データ蓄積部523bに蓄積されて行く。なお、マスターモビリティ51Mとしては、観測データを収集してデータ収集所へ転送する機能を備えていれば良いのであるが、マスターモビリティ51Mも電磁波観測を行えるように、電波送受信機52Sに受信部(送受信モジュール22、ダウンコンバータ521、A/D変換部522)を設けてある。そのため、電波送受信機52Mが受信した受信信号と時空間差分情報と電波送受信機52Mの固有情報も、観測データとして観測データ蓄積部523bに蓄積されて行く。
【0060】
そして、送受信制御部523Mが所定のデータ転送タイミングになったと判断すると、移動体位置制御部523aから移動体としてのUAV4に指示することで低空へ移動し、観測データ送信部528および観測データ送信用アンテナ529を介して観測データをデータ収集所へ転送する。観測データの転送が終了すると、マスターモビリティ51Mは再び所定の観測位置へ復帰し、電波観測を再開する。
【0061】
このように、電波送受信機52MをUAV4に搭載したマスターモビリティ51Mと、電波送受信機52SをUAV4に搭載した第1~第8スレーブモビリティ51S1~51S8を用いる分散型電磁波観測データ収集システム5は、各電波送受信機52M,52Sが取得した時空間差分情報を補正情報として用いることで、ビーム品質の低下を抑制できる。すなわち、観測データを受け取った観測データ収集局CPが、マスターモビリティ51Mおよび第1~第8スレーブモビリティ51S1~51S8が収集した観測データの受信信号を、それぞれの時空間差分情報に基づいて位相補正することで、受信信号の精度を高め、精度の高い受信信号に適切な位相シフト処理と適切な重み付け処理をして合成することで、高品質の受信ビームを生成できる。なお、電波送受信機52S,52Mに設ける時空間差分情報取得部28は、基準となる電波送受信機52S,52Mに対する現在の自機の相対位置を空間的差分情報として取得するものでも良い。マスターモビリティ51Mより観測データを受け取った観測データ収集局CPは、電波受信時ごとの観測データにおいて、基準となる電波送受信機52S,52Sに対する他の電波送受信機52S,52Sの相対位置を把握できれば、電波送受信機52S,52Mの相対的な位置ずれを加味した適切な位相シフト処理と適切な重み付け処理を行えるからである。
【0062】
また、時空間差分情報を取得できる電波送受信機2,2′,2″,52M,52Sを分散型フェーズドアレイアンテナシステム1,1′,1″や分散型電磁波観測データ収集システム5に用いる例を示したが、そのほか、パッシブレーダ、アクティブレーダとして用いることもできる。開口径が大きいレーダほど解像度が上がるが、大開口レーダを製造・運用することは容易ではない。しかしながら、上述した電波送受信機2,2′,2″,52M,52Sのように、分散型のレーダであれば、製造・運用が容易となる。一例として、画像取得エリアの上空をアジマス方向へ移動しつつパルスの送受信を繰り返して得た受信信号を加工して二次元画像を生成できる合成開口レーダ(SAR)に適用した分散型合成開口レーダシステム6を、図10に示す。
【0063】
分散型合成開口レーダシステム6は、例えば、マスター合成開口レーダ装置61M、第1スレーブ合成開口レーダ装置61S1、第2スレーブ合成開口レーダ装置61S2および位相制御装置64から構成する。マスター合成開口レーダ装置61Mは、電波送受信機62Mを移動体としてのUAV4に搭載して成る。第1スレーブ合成開口レーダ装置61S1および第2スレーブ合成開口レーダ装置61S2は、電波送受信機62Sを移動体としてのUAV4に搭載して成る。位相制御装置64は、合成開口レーダ信号処理装置63を移動体としてのUAV4に搭載して成る。
【0064】
マスター合成開口レーダ装置61Mの飛行方向がアジマス方向であり、このアジマス方向に直交するグランドレンジ方向に画像取得エリアとしての観測エリアOAが形成されるように、マスター合成開口レーダ装置61Mは観測用のパルス信号の送信と反射信号の受信を繰り返し行う。第1スレーブ合成開口レーダ装置61S1と第2スレーブ合成開口レーダ装置61S2は、グランドレンジ方向と平行な配列方向にマスター合成開口レーダ装置61Mと列んで配列され、マスター合成開口レーダ装置61Mと同じ観測エリアOAに対してパルス信号の送信と反射信号の受信を繰り返し行う。すなわち、マスター合成開口レーダ装置61Mの放射ビームBMと第1スレーブ合成開口レーダ装置61S1の放射ビームBS1と第2スレーブ合成開口レーダ装置61S2の放射ビームMS2は、等しく観測エリアOAに放射され、アジマス方向へ観測エリアOAが徐々にずれてゆく(スリップマッピング)。また、マスター合成開口レーダ装置61Mと第1スレーブ合成開口レーダ装置61S1と第2スレーブ合成開口レーダ装置61S2との離隔間隔は、数十センチから数メートル程度であり、数百メートルの高度を飛行している場合、観測エリアOAからは、単一の放射源からパルス信号が送信された状態と看做し得る。なお、スレーブ合成開口レーダ装置61Sは、2台に限らず、1台でも良いし、3台以上でも良い。
【0065】
移動制御装置64は、マスター合成開口レーダ装置61Mおよび第1,第2スレーブ合成開口レーダ装置61S1,61S2に追随して飛行しており、マスター合成開口レーダ装置61Mおよび第1,第2スレーブ合成開口レーダ装置61S1,61S2から受信データを受け取る。マスター合成開口レーダ装置61Mと第1,第2スレーブ合成開口レーダ装置61S1,61S2からの受信データを受けた合成開口レーダ信号処理装置63は、受信データを加工して二次元画像を生成する。なお、合成開口レーダ信号処理装置63による加工処理として、例えば、周波数変調したチャープ信号を観測エリアOAに送信して得た反射信号と参照信号(チャープパルスの一部区間)との相関処理を実行することでグランドレンジ方向を解像し、マスター合成開口レーダ装置61Mと第1,第2スレーブ合成開口レーダ装置61S1,61S2の飛行速度によるドップラー効果を加味して計算した参照波と受信信号の相関処理を実行することでアジマス方向を解像する。
【0066】
次に、分散型合成開口レーダシステム6を構成するマスター合成開口レーダ装置61M、第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smおよび位相制御装置64の詳細機能を、図11に基づき説明する。
【0067】
例えば、マスター合成開口レーダ装置61Mの電波送受信機62Mは、通信用アンテナ621を介してパルス信号の送受信を行うパルス送受信部622を備える。また、通信用アンテナ621とは別の同期用アンテナ6231を用いた無線通信によって、他の電波送受信機62Sと相互にコード送受信を行い、相互の基準発振器624の時刻ずれとコード送受信に伴う伝搬遅延時間とに基づいて、基準となる電波送受信機62Sとの時間的誤差である時間的差分情報及び基準となる電波送受信機62Sに対する自機の適正位置と自機の現在位置との空間的誤差である空間的差分情報を計測し、時間的差分情報及び空間的差分情報を含む時空間差分情報を取得する時空間差分情報取得部6232を備える。
【0068】
しかしながら、本実施例の分散型合成開口レーダシステム6においては、マスター合成開口レーダ装置61Mにおける電波送受信機62Mの基準発振器624をマスタークロックに選定し、第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smの電波送受信機62Sの基準発振器624を同期させるため、同期制御部6233は、基準発振器624をマスタークロックとして位相ずれ検出を行うように時空間差分情報取得部6232を制御する。したがって、電波送受信機62Mの時空間差分情報取得部6232は時間的差分情報を取得することは無く、空間的差分情報のみが時空間差分情報蓄積部625に記憶されて行くこととなる。また、マスター合成開口レーダ装置61Mの飛行位置を基準として、他の電波送受信機62Sの空間的差分情報を検出させる場合には、電波送受信機62Mの時空間差分情報取得部6232が空間的差分情報を検出することも無くなる。なお、時空間差分情報蓄積部625に時空間差分情報を記憶する際には、保存タイミングが明確になるようタイムスタンプを併せて記憶する。
【0069】
パルス送受信部622は、チャープパルス生成部6221によって周波数変調したチャープ信号を生成し、アンテナ駆動部6222によって適正な放射位置に駆動された通信用アンテナ621からパルス信号を発射する。観測対象物で反射した反射信号は、反射信号受信部6223にて受信し、反射信号蓄積部626に記憶して行く。このとき、反射信号の保存タイミングが明確になるようタイムスタンプを合わせて記憶する。
【0070】
そして、受信データ送信部6271は、パルス送受信部622が受信して反射信号蓄積部626に記憶された反射信号と、時空間差分情報蓄積部625に記憶された時空間差分情報と、電波送受信機62Mの固有情報と、を受信データとして、移動制御装置64の合成開口レーダ信号処理装置63へ送信する。なお、反射信号と時空間差分情報は、各々のタイムスタンプから、両者の対応関係を合成開口レーダ信号処理装置63にて判断できる。
【0071】
一方、第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smの電波送受信機62Sも、上述したマスター合成開口レーダ装置61Mにおける電波送受信機62Mとほぼ同様の構成であるから、同一機能には同一符号を付して説明を省略し、異なる点のみ以下に説明する。
【0072】
電波送受信機62Sの時空間差分情報取得部6232は、同期用アンテナ6231を用いた無線通信によって、電波送受信機62Mの基準発振器624をマスタークロックとして時間的差分情報を取得し、その時間的誤差を補正するように同期制御部6233が基準発振器624を制御する。これにより、電波送受信機62Sの基準発振器624は、電波送受信機62Mの基準発振器624と同期することとなる。したがって、第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smの電波送受信機62Sのチャープパルス生成部6221によって生成されるチャープパルスの位相を高精度で揃えることができる。すなわち、マスター合成開口レーダ装置61Mと第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smから同時にパルス信号を観測エリアOAに向けて発射すると、見かけ上の単一アンテナから高出力のチャープパルスを発射したこととなり、観測対象物からの反射信号の受信レベルが高くなり、ノイズの影響を軽減できる。加えて、観測対象物からの反射信号をマスター合成開口レーダ装置61Mと第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smが同時に受信するので、見かけ上、大口径のアンテナで反射信号を受信したこととなる。
【0073】
なお、分散型合成開口レーダシステム6におけるコントロール機能(飛行速度や通信用アンテナ621の方向制御など)は、マスター合成開口レーダ装置61Mに持たせても良いし、移動制御装置64に持たせても構わない。
【0074】
移動制御装置64の合成開口レーダ信号処理装置63は、データ受信用アンテナ631および無線通信部632を介して、マスター合成開口レーダ装置61Mおよび第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smからの受信データを取得する。マスター合成開口レーダ装置61Mからの受信データにおける反射信号に対して、時空間差分情報における空間的差分情報に基づく空間的誤差を補正する位相調整を位相調整部633で行う。これにより、時空間差分情報に基づいて空間的誤差を補正したマスター合成開口レーダ装置61Mの受信データが得られる。同様に、第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smからの受信データにおける反射信号に対して、時空間差分情報における空間的差分情報に基づく空間的誤差を補正する位相調整を位相調整部633で行う。これにより、時空間差分情報に基づいて位相ずれを補正した第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smの受信データが得られる。
【0075】
上述したように、マスター合成開口レーダ装置61Mと第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1~61Smが同時に受信した反射信号は、同じ観測エリアOAのデータと看做せる。これら同時取得された反射信号に対して位相調整し、これらを合成した合成受信データとすれば、不規則なノイズの影響が軽減される。そこで、相関処理実行部634が、合成受信データに相関処理を実行して解像すれば、精度の高い二次元画像を得ることが可能となる。
【0076】
なお、図12に示す分散型合成開口レーダシステム6′のように、チャープパルスの発射はマスター合成開口レーダ装置61Mのみが行い、第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1′~61Sm′の電波送受信機62S′は、パルス受信のみ行う構成としても良い。この場合、電波送受信機62S′には基準発振器624をマスタークロックと同期させる機能が不要になると共に、パルス送受信部622のパルス送信機能を使用しなければ良い。あるいは、パルス送受信部622に代えてパルス受信部628を設け、通信用アンテナ621を駆動させるアンテナ駆動部6281と反射信号樹脂部6282のみを備える構成としても構わない。この分散型合成開口レーダシステム6′においても、マスター合成開口レーダ装置61Mと第1~第Mスレーブ合成開口レーダ装置61S1′~61Sm′が同時に受信した反射信号を合成して相関処理を行えば、精度の高い二次元画像を得ることが可能となる。
【0077】
以上、本発明に係る電波送受信機、分散型フェーズドアレイアンテナシステム、分散型電磁波観測データ収集システムおよび分散型合成開口レーダシステムの実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0078】
1 分散型フェーズドアレイアンテナシステム
2 電波送受信機
21 通信用アンテナ
24 位相調整部
26 基準発振器
28 時空間差分情報取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12