(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024129252
(43)【公開日】2024-09-27
(54)【発明の名称】海面養殖用施肥材及び水産生物の海面養殖方法
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20240919BHJP
A01G 33/02 20060101ALI20240919BHJP
【FI】
A01K63/04 F
A01G33/02 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023038335
(22)【出願日】2023-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】597021369
【氏名又は名称】日の丸カーボテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】河尻 義孝
【テーマコード(参考)】
2B026
2B104
【Fターム(参考)】
2B026EA03
2B026EB01
2B104AA22
2B104AA26
2B104FA13
2B104FA27
(57)【要約】
【課題】養殖する水産生物の周囲に持続的に栄養分を供与し得る海面養殖用施肥材及び水産生物の海面養殖方法を提供する。
【解決手段】海面養殖用施肥材10は、スラグ、窒素、リン、炭素を含有し、水中で栄養分を溶出する。海面養殖用施肥材10は固形状であり、紐通し穴が形成されている。水産生物の海面養殖方法は、海面養殖用施肥材10を紐に通し、紐を水産生物の養殖に用いる保持部材に固定して水産生物を養殖する。水産生物の周辺には海面養殖用施肥材10から溶出される栄養分が豊富になり、この栄養分を水産生物が吸収することで、水産生物の生育が促進される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグ、窒素、リン、炭素を含有し、水中で栄養分を溶出する固形状の海面養殖用施肥材であって、
前記海面養殖用施肥材には紐通し穴が形成されている、
ことを特徴とする海面養殖用施肥材。
【請求項2】
請求項1に記載の海面養殖用施肥材を紐に通し、
前記紐を水産生物の養殖に用いる保持部材に固定して前記水産生物を養殖する、
ことを特徴とする水産生物の海面養殖方法。
【請求項3】
前記保持部材が牡蠣筏であり、前記水産生物として牡蠣を養殖する、
ことを特徴とする請求項2に記載の水産生物の海面養殖方法。
【請求項4】
前記保持部材が海苔筏であり、前記水産生物として海苔を養殖する、
ことを特徴とする請求項2に記載の水産生物の海面養殖方法。
【請求項5】
前記保持部材が干潟又は浅海面に敷設された防護網であり、前記水産生物としてアサリを養殖する、
ことを特徴とする請求項2に記載の水産生物の海面養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面養殖用施肥材及び水産生物の海面養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海面漁業の漁獲量の著しい減少が問題視されている。例えば、閉鎖性水域において、干潟ではアサリ等の二枚貝が育たず、ほとんど獲れない状況になっている。また、海苔の養殖においては、海苔の漁獲量の減少に加え、育った海苔の色が薄く、品質低下の問題も生じている。
【0003】
漁獲量減少の大きな要因として、海洋の貧栄養化が挙げられている。閉鎖性水域の水質保全に対する取り組みによる下水処理施設の高度処理化や排水規制、護岸工事や埋め立などによって海に流れ込むリンや窒素、ケイ素などの栄養塩が減少したことが貧栄養化を引き起こしたと考えられる。
【0004】
このような事態を鑑みて、海洋に栄養塩を溶出する試みがなされている。例えば、特許文献1、2では、栄養塩を溶出する施肥材を海に散布したり、底泥にすき込んだりすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-226511号公報
【特許文献2】特開2014-205808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2では、施肥材の海への散布、底泥へのすき込みの場合、潮の流れや波などによって施肥材が流されることが懸念される。養殖場に適用した場合、養殖場から施肥材が離れてしまうと、養殖する水産生物の周囲には栄養分が供与されなくなってしまう。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、養殖する水産生物の周囲に持続的に栄養分を供与し得る海面養殖用施肥材及び水産生物の海面養殖方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る海面養殖用施肥材は、
スラグ、窒素、リン、炭素を含有し、水中で栄養分を溶出する固形状の海面養殖用施肥材であって、
前記海面養殖用施肥材には紐通し穴が形成されている、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の観点に係る水産生物の海面養殖方法は、
本発明の第1の観点に係る海面養殖用施肥材を紐に通し、
前記紐を水産生物の養殖に用いる保持部材に固定して前記水産生物を養殖する、
ことを特徴とする。
【0010】
また、前記保持部材が牡蠣筏であり、前記水産生物として牡蠣を養殖してもよい。
【0011】
また、前記保持部材が海苔筏であり、前記水産生物として海苔を養殖してもよい。
【0012】
また、前記保持部材が干潟又は浅海面に敷設された防護網であり、前記水産生物としてアサリを養殖してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、養殖する水産生物の周囲に持続的に栄養分を供与し得る海面養殖用施肥材及び水産生物の海面養殖方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】複数個の海面養殖用施肥材を連ねた状態を示す断面図である。
【
図3】海苔の養殖筏に海面養殖用施肥材を取り付けて、海苔を養殖している様子を示す斜視図である。
【
図4】牡蠣の養殖筏に海面養殖用施肥材を取り付けて、牡蠣を養殖している様子を示す斜視図である。
【
図5】防護網に海面養殖用施肥材を取り付けて、アサリを養殖している様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態に係る海面養殖用施肥材及び水産生物の海面養殖方法について、図を参照しつつ説明する。海面養殖用施肥材10は、
図1に示すように、固形状であり、中心部に貫通する紐通し穴が形成されている。
【0016】
海面養殖用施肥材10は、紐通し穴を有することにより、
図2に示すように、複数個の海面養殖用施肥材10を紐に通して連ね、紐に保持させることができる。ここでは、所定の長さのスペーサー30を用い、所定の間隔で複数個の海面養殖用施肥材10が紐に連なって保持されている。海面養殖用施肥材10の紐への連設方法は、スペーサー30を用いるほか、紐に海面養殖用施肥材10を通すごとに結び目をつくり、結び目によって海面養殖用施肥材10同士の間隔を空ける形態など、種々の方法で行えばよい。
【0017】
そして、水産生物の養殖に用いられる水産生物の保持部材に、紐20を結びつける等の手段により、海面養殖用施肥材10を保持部材に固定することができる。保持部材とは、水産生物の養殖に用いられるもので、区画された場所に水産生物を保持するものである。保持部材として、例えば、垂下式の筏等、通常用いられる各種の筏のほか、干潟や浅海面に施設して水産生物を外敵から保護する防護網などが挙げられる。
【0018】
海面養殖用施肥材10の直径、高さは任意でよく、例えば、直径が5cm~15cm、高さが5cm~10cmである。紐通し穴の直径は、用いる紐の径に応じて設定されればよく、例えば、1cm~3cmである。
【0019】
なお、海面養殖用施肥材10の形状は、紐通し穴を有していれば制限はなく、円柱形状のほか、多角柱形状、球形状等であってもよい。
【0020】
海面養殖用施肥材10は、スラグ、窒素、リン、炭素を含有している。スラグは、シリカや鉄等を含有しており、海面養殖用施肥材10を海水中に配置すると、シリカ、鉄、窒素、リンの栄養分が海水中に溶出される。したがって、海面養殖用施肥材10を保持部材に固定することにより、これらの栄養分が海水中に溶出され、保持部材周辺の海水の富栄養化が促進される。海面養殖用施肥材10は、保持部材に固定されていることから、潮の流れ等によって保持部材から遠方へ離れていくことが抑えられる。
【0021】
海面養殖用施肥材10は、上記の成分に加え、他の成分を含有していてもよい。例えば、他の成分として、モンモリナイトを含有していてもよい。モンモリナイトは、ナトリウムやカルシウム、マグネシウム等のミネラルを含有しており、海水中にてこれらのミネラルを溶出する。また、他の成分として、フルボ酸を含有していてもよい。フルボ酸は、キレート化剤として機能し、溶出した鉄イオン等の陽イオンとキレートを形成するので、酸化しやすい鉄イオン等をキレートとしてイオン状態で海中に漂わせることができる。
【0022】
それぞれの成分の配合比は任意でよく、スラグが35~45重量%、窒素が10~20重量%、リンが10~20重量%、炭素が15~25重量%、モンモリナイトが5~15重量%、フルボ酸が5~15重量%である。
【0023】
上記の海面養殖用施肥材10は、例えば、以下のようにして製造することができる。上記の各成分を混合し、バインダーを加え、混練する。バインダーとして、酸化マグネシウム等、公知の物質を用いることができる。そして、型枠等を用い、押し固め、乾燥させることで海面養殖用施肥材10を得ることができる。紐通し穴の形成は、紐通し穴の形成が可能な型枠を用いて海面養殖用施肥材10を製造してもよく、海面養殖用施肥材10を製造した後で穿って紐通し穴を形成する形態でもよい。
【0024】
続いて、水産生物の海面養殖方法について、具体的に説明する。まず、
図3に、水産生物として海苔を養殖する方法を示している。海苔筏40に海面養殖用施肥材10が設置されている。具体的には、海苔筏40の杭に張られた網に海面養殖用施肥材10を複数個連接した紐20を固定している。海面養殖用施肥材10が紐20によって海苔筏40に固定されているので、潮の流れなどで海面養殖用施肥材10が海苔筏40から離れていくことがない。このため、海苔筏40の周辺には海面養殖用施肥材10から溶出される栄養分が豊富になり、この栄養分を海苔が吸収することで、海苔の生育が促進される。
【0025】
また、水産生物として牡蠣を養殖してもよい。
図4では、牡蠣の養殖に用いられる牡蠣筏50に海面養殖用施肥材10を複数個連設した紐20を固定している。牡蠣筏50の周辺では、海面養殖用施肥材10から溶出した栄養分が豊富になり、植物性プランクトンの増殖が促される。豊富な植物性プランクトンを捕食することで牡蠣の生育が促進される。
【0026】
また、
図5に示すように、水産生物としてアサリを養殖してもよい。この場合、アサリを生育させる干潟や浅海面に、エイや黒鯛など、アサリを捕食する外敵からアサリを防護するための防護網60を杭等の固定部材を用いて施設する。この防護網60や防護網60を固定する杭に、海面養殖用施肥材10を連ねた紐20を固定し、防護網60の下に海面養殖用施肥材10を配置する。防護網60の周辺では海面養殖用施肥材10から溶出する栄養分が豊富になり、アサリの餌となる植物性プランクトンの増殖を促す。豊富な植物性プランクトンを餌として捕食するアサリの生育が促進される。
【符号の説明】
【0027】
10 海面養殖用施肥材
20 紐
30 スペーサー
40 海苔筏
50 牡蠣筏
60 防護網