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特開2024-130754組成物、樹脂成形体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130754
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】組成物、樹脂成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/26 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C08F20/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040648
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517111309
【氏名又は名称】二瓶 あゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100218855
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政輝
(72)【発明者】
【氏名】山中 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】原 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 あゆみ
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL08P
4J100AL66Q
4J100BA02P
4J100BA02Q
4J100CA04
4J100FA03
(57)【要約】
【課題】発光効率を向上させた樹脂成形体を提供すること。当該樹脂成形体を得るための組成物及び樹脂成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】第1の波長域に含まれる励起光を受けて第1の波長域よりも短い第2の波長域の光を出力するアップコンバージョン材料を含む粒子と、硬化性成分と、を含有し、アップコンバージョン材料が希土類元素を含み、硬化性成分がアルキレングリコール基を有する化合物を含む、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の波長域に含まれる励起光を受けて前記第1の波長域よりも短い第2の波長域の光を出力するアップコンバージョン材料を含む粒子と、硬化性成分と、を含有し、
前記アップコンバージョン材料が希土類元素を含み、
前記硬化性成分がアルキレングリコール基を有する化合物を含む、組成物。
【請求項2】
前記アップコンバージョン材料が、イットリウム、イッテルビウム、及びエルビウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アップコンバージョン材料が前記希土類元素のフッ化物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記粒子の最大長さの平均値が100nm以上10μm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記粒子の平均粒子径が100nm以上10μm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記粒子が、不飽和脂肪酸で被覆されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記粒子の含有量が、組成物の全量を基準として、0.1質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記アルキレングリコール基を有する化合物が紫外線硬化性化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記アルキレングリコール基がエチレングリコール基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記硬化性成分が、第一の硬化性成分と、前記第一の硬化性成分よりも官能基の数が多い第二の硬化性成分と、を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物の硬化物である、樹脂成形体。
【請求項12】
樹脂成形体の製造方法であって、
第1の波長域に含まれる励起光を受けて前記第1の波長域よりも短い第2の波長域の光を出力するアップコンバージョン材料を含む粒子と、硬化性成分と、を含有する組成物を準備する工程と、
前記組成物を硬化させる工程と、
を備え、
前記アップコンバージョン材料が希土類元素を含み、
前記硬化性成分がアルキレングリコール基を有する化合物を含む、方法。
【請求項13】
前記組成物を準備する工程と、前記組成物を硬化させる工程との間に、前記組成物を成形する工程を更に備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アルキレングリコール基を有する化合物が紫外線硬化性化合物であり、
前記硬化させる工程において、前記組成物に紫外線を照射することによって前記組成物を硬化させる、請求項12又は13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、アップコンバージョンナノ粒子と、ポリエチレングリコールモノオレート(界面活性剤)と、メタクリル酸メチルモノマーとを含有する組成物を重合させて得られる透明な複合材料(樹脂成形体)が記載されている。特許文献1には、アップコンバージョンナノ粒子と、ポリエチレングリコール等の界面活性剤と、を含有する組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/019081号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. C. Boyer, et al, "Upconverting Lanthanide-Doped NaYF4-PMMA Polymer Composites Prepared by in SituPolymerization," Chem. Mater. 2009, 21, 2010-2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アップコンバージョンナノ粒子を含む組成物において、界面活性剤はアップコンバージョンナノ粒子を分散させるために用いられているが、界面活性剤はアップコンバージョンナノ粒子の周囲に局在するため、得られる樹脂成形体の発光効率を高めにくい。
【0006】
本発明は、発光効率を向上させた樹脂成形体を提供することを目的とする。また、本発明は、当該樹脂成形体を得るための組成物及び樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、以下の[1]~[13]の発明を含む。
[1]第1の波長域に含まれる励起光を受けて前記第1の波長域よりも短い第2の波長域の光を出力するアップコンバージョン材料を含む粒子と、硬化性成分と、を含有し、
前記アップコンバージョン材料が希土類元素を含み、
前記硬化性成分がアルキレングリコール基を有する化合物を含む、組成物。
[2]前記アップコンバージョン材料が、イットリウム、イッテルビウム、及びエルビウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、[1]に記載の組成物。
[3]前記アップコンバージョン材料が前記希土類元素のフッ化物を含む、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記粒子の最大長さの平均値が100nm以上10μm以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の組成物。
[5]前記粒子の平均粒子径が100nm以上10μm以下である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[6]前記粒子が、不飽和脂肪酸で被覆されている、[1]~[5]のいずれか一つに記載の組成物。
[7]前記粒子の含有量が、組成物の全量を基準として、0.1質量%以上20質量%以下である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の組成物。
[8]前記アルキレングリコール基を有する化合物が紫外線硬化性化合物である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の組成物。
[9]前記アルキレングリコール基を有する化合物がエチレングリコール基を有する、[1]~[8]のいずれか一つに記載の組成物。
[10]前記硬化性成分が、第一の硬化性成分と、前記第一の硬化性成分よりも官能基の数が多い第二の硬化性成分と、を含む、[1]~[8]のいずれか一つに記載の組成物。
[11][1]~[10]のいずれか一つに記載の組成物の硬化物である、樹脂成形体。
[12]樹脂成形体の製造方法であって、
第1の波長域に含まれる励起光を受けて前記第1の波長域よりも短い第2の波長域の光を出力するアップコンバージョン材料を含む粒子と、硬化性成分と、を含有する組成物を準備する工程と、
前記組成物を硬化させる工程と、
を備え、
前記アップコンバージョン材料が希土類元素を含み、
前記硬化性成分がアルキレングリコール基を有する化合物を含む、方法。
[13]前記組成物を準備する工程と、前記組成物を硬化させる工程との間に、前記組成物を成形する工程を更に備える、[12]に記載の方法。
[14]前記アルキレングリコール基を有する化合物が紫外線硬化性化合物であり、
前記硬化させる工程において、前記組成物に紫外線を照射することによって前記組成物を硬化させる、[12]又は[13]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光効率を向上させた樹脂成形体を提供することができる。また、本発明によれば、当該樹脂成形体を得るための組成物及び樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
<組成物>
本発明の一実施形態に係る組成物は、第1の波長域に含まれる励起光を受けて第1の波長域よりも短い第2の波長域の光を出力するアップコンバージョン材料を含む粒子と、硬化性成分と、を含有する。アップコンバージョン材料は希土類元素を含み、硬化性成分はアルキレングリコール基を有する化合物を含む。本実施形態に係る組成物は、硬化させることにより樹脂成形体を得ることができ、得られる樹脂成形体の発光効率を向上させることができる。
【0011】
(アップコンバージョン材料を含む粒子)
本実施形態に係る組成物は、第1の波長域に含まれる励起光を受けて第1の波長域よりも短い第2の波長域の光を出力するアップコンバージョン材料を含む粒子(以下、この粒子を「UC粒子」ともいう)を含有する。アップコンバージョン材料とは、近赤外光等の長波長の低エネルギー光をより短波長の高エネルギー光に変換する作用を有する材料を意味する。
【0012】
アップコンバージョン材料は希土類元素を含む。希土類元素は、三価の希土類元素であってもよい。希土類元素としては、イットリウム、イッテルビウム、エルビウム、ランタン、ガドリニウム、ネオジム、ツリウム、ホルミウム等が挙げられる。アップコンバージョン材料は、発光効率をより向上させやすい観点から、イットリウム、イッテルビウム、及びエルビウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。
【0013】
アップコンバージョン材料は、複数の希土類元素を含んでもよい。例えば、アップコンバージョン材料は、発光効率をより向上させやすい観点から、発光種の希土類元素(エルビウム、ツリウム、ホルミウム等)と、ホストの希土類元素(イッテルビウム、ランタン、ガドリニウム等)と、エネルギードナーの希土類元素(イッテルビウム、ネオジム等)とをそれぞれ含んでもよい。
【0014】
アップコンバージョン材料は、希土類元素の酸化物を含んでもよく、希土類元素のフッ化物を含んでもよい。アップコンバージョン材料は、発光効率をより向上させやすい観点から、希土類元素のフッ化物を含んでもよく、例えば、MLnF(M:ナトリウム等の金属原子、Ln:希土類元素)を含んでもよい。
【0015】
UC粒子の結晶系としては、立方晶系、六方晶系、三斜晶系、単斜晶系、直方晶系、正方晶系等が挙げられる。例えば、UC粒子がMLnFの構造を取る場合、UC粒子は立方晶系又は六方晶系の結晶系である。
【0016】
UC粒子の最大長さの平均値は、発光効率をより向上させやすい観点から、50nm以上、80nm以上、又は100nm以上であってもよい。UC粒子の最大長さの平均値は、200nm以上、300nm以上、400nm以上、又は500nm以上であってもよい。UC粒子の最大長さの平均値は、組成物におけるUC粒子の分散性が向上する観点から、10μm以下、8μm以下、6μm以下、4μm以下、2μm以下、又は1μm以下であってもよい。UC粒子の最大長さの平均値は、800nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、又は100nm以下であってもよい。UC粒子の最大長さの平均値は、UC粒子をヘキサン溶媒に対して質量比で99:1(ヘキサン溶媒:UC粒子)となるように分散させ、導電性基板上にスピンコート法によって成膜して測定サンプルを得た後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて80000倍で測定サンプルを観察し、同一画角内で10個のUC粒子が見えている条件において、各粒子の最大長さを測定し、10個のUC粒子の最大長さの平均することにより測定される。
【0017】
UC粒子の平均粒子径は、発光効率をより向上させやすい観点から、40nm以上、70nm以上、90nm以上、又は100nm以上であってもよい。UC粒子の平均粒子径は、200nm以上、300nm以上、又は400nm以上であってもよい。UC粒子の平均粒子径は、UC粒子の分散性が向上する観点から、10μm以下、8μm以下、6μm以下、4μm以下、2μm以下、1.5μm以下、又は1μm以下であってもよい。UC粒子の平均粒子径は、800nm以下、600nm以下、500nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、又は150nm以下であってもよい。UC粒子の平均粒子径は、UC粒子をヘキサン溶媒に対して質量比で99:1(ヘキサン溶媒:UC粒子)となるように分散させてサンプル溶液を得た後、サンプル溶液に対して動的散乱測定(測定装置:アントンパール社製Litesizer500)を行うことにより測定される。
【0018】
UC粒子は、組成物におけるUC粒子の分散性が向上する観点から、不飽和脂肪酸により被覆されていてもよい。不飽和脂肪酸としては、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸等が挙げられる。
【0019】
UC粒子に対する不飽和脂肪酸の被覆度は、赤外分光(IR)測定により確認することができる。具体的には、希土類元素に由来するIRピーク強度に対するアルキル鎖に由来するIRピーク強度の比率(アルキル鎖に由来するIRピーク強度/希土類元素に由来するIRピーク強度)を算出することにより確認できる。
【0020】
UC粒子に対する不飽和脂肪酸の被覆度が大きい(すなわち、上記の比率が大きい)ほど、組成物におけるUC粒子の分散性が向上する傾向にある。UC粒子に対する不飽和脂肪酸の被覆度が小さい(すなわち、上記の比率が小さい)ほど、発光効率が優れる傾向にある。上記の比率は、組成物におけるUC粒子の分散性が向上する観点から、0.01以上、0.05以上、又は0.1以上であってもよい。上記の比率は、発光効率をより向上させやすい観点から、100以下、50以下、又は10以下であってもよい。
【0021】
UC粒子の含有量は、発光効率をより向上させやすい観点から、組成物の全量を基準として、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、又は2.5質量%以上であってもよい。UC粒子の含有量は、光散乱抑制の観点から、組成物の全量を基準として、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3.5質量%以下、又は3質量%以下であってもよい。
【0022】
(硬化性成分)
本実施形態に係る組成物は、硬化性成分としてアルキレングリコール基を有する化合物を含有する。アルキレングリコール基とは、-(C2nO)-(n、mは、それぞれ1以上の整数)で表される2価の構造を意味する。
【0023】
硬化性成分としては、紫外線硬化性化合物、熱硬化性化合物等が挙げられる。組成物を硬化させて成形体を得る際に、UC粒子の凝集を抑制し、UC粒子が均一に分散した樹脂成形体を得やすい観点から、硬化性成分は紫外線硬化性化合物であってもよい。
【0024】
紫外線硬化性化合物としては、(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリル樹脂、エポキシモノマー、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂等が挙げられる。硬化性成分は、(メタ)アクリルモノマー、エポキシモノマー、及びビニルモノマーからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよく、(メタ)アクリルモノマーを含んでもよい。(メタ)アクリルモノマーは、単官能(1官能)であってもよく、多官能(2官能以上)であってもよい。本明細書において、「(メタ)アクリルモノマー」とは、「アクリルモノマー」及びそれに対応する「メタクリルモノマー」の少なくとも一方を意味し、(メタ)アクリル樹脂等の他の類似表現についても同様である。
【0025】
単官能(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、2-エチルへキシルグリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
多官能(メタ)アクリルモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
熱硬化性型化合物としては、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂(ノボラック樹脂、レゾール樹脂等)、及びメラミン樹脂などが挙げられる。
【0028】
アルキレングリコール基としては、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、及びブチレングリコール基等が挙げられる。アルキレングリコール基は、UC粒子の分散性や発光効率の向上の観点から、エチレングリコール基であってもよい。
【0029】
アルキレングリコール基の繰り返し単位の数((C2nO)のmの数)は、発光効率をより向上させやすい観点から、1以上、又は2以上であってもよく、10以下、8以下、6以下、5以下、又は4以下であってもよい。
【0030】
硬化性成分は、成形体の強度、性質等を調整する観点から、官能基数が異なる複数の成分を含んでもよい。すなわち、硬化性成分は、第一の硬化性成分と、第一の硬化性成分よりも官能基の数が多い第二の硬化性成分と、を含んでもよい。第一の硬化性成分及び第二の硬化性成分のうち、少なくとも一方はアルキレングリコール基を有する化合物であり、両方がアルキレングリコール基を有する化合物であってもよい。例えば、硬化性成分は、官能基数が1つのアルキレングリコール基を有する化合物と、官能基数が2以上のアルキレングリコール基を有する化合物とを含んでもよく、単官能(メタ)アクリルモノマーと多官能(メタ)アクリルモノマーとを含んでもよい。
【0031】
第一の硬化性成分の質量基準の含有量に対する第二の硬化性成分の質量基準の含有量との比率(第二の硬化性成分の質量基準の含有量/第一の硬化性成分の質量基準の含有量)は、0.1以上、0.5以上、又は1以上であってもよく、10以下、2以下、又は1以下であってもよい。
【0032】
硬化性成分は、アルキレングリコール基を有する化合物以外の硬化性成分(すなわち、アルキレングリコール基を有さない硬化性成分。以下、「その他硬化性成分」ともいう)を含んでもよい。その他硬化性成分としては、アルキレングリコール基を有する化合物に該当しない紫外線硬化性化合物、熱硬化性化合物等が挙げられる。
【0033】
硬化性成分におけるアルキレングリコール基を有する化合物の含有量は、硬化性成分の全量を基準として、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は100質量%(実質的にアルキレングリコール基を有する化合物からなる態様)であってもよい。
【0034】
硬化性成分の含有量は、組成物の全量を基準として、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、92質量%以上、94質量%以上、又は95質量%以上であってもよい。硬化性成分の含有量は、組成物の全量を基準として、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99質量%以下、98.5質量%以下、又は98質量%以下であってもよい。
【0035】
(その他成分)
組成物は、UC粒子及び硬化性成分以外にその他の成分を更に含有してもよい。その他の成分は、開始剤、溶媒、カップリング剤、硬化促進剤(硬化触媒)、分散剤等であってよい。
【0036】
(開始剤)
本実施形態に係る組成物は、開始剤を含有してもよい。開始剤は、光ラジカル重合開始剤又は熱ラジカル重合開始剤であってもよく、開始剤の種類は、組成物の硬化方法に応じて選択することができる。
【0037】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0038】
熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ステアリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド;t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウリレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2’-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0039】
開始剤の含有量は、硬化性成分の全量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってもよく、5質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下であってよい。
【0040】
組成物の25℃における粘度は、組成物におけるUC粒子の分散性が向上する観点から、0.1mPa・s以上、0.3mPa・s以上、又は0.5mPa・s以上であってよく、200mPa・s以下、150mPa・s以下、又は100mPa・s以下であってよい。本明細書における粘度は、回転式粘度計を用いて、せん断速度10(1/秒)の条件で測定される粘度を意味する。
【0041】
<樹脂成形体>
本発明の一実施形態に係る樹脂成形体は、上述した組成物の硬化物である。本実施形態に係る樹脂成形体は、従来よりも発光効率を向上させることができる。
【0042】
UC粒子の含有量は、発光効率をより向上させやすい観点から、樹脂成形体の全量を基準として、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、又は2.5質量%以上であってもよい。UC粒子の含有量は、樹脂成形体の全量を基準として、20質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3.5質量%以下、又は3質量%以下であってもよい。
【0043】
硬化性成分の含有量は、樹脂成形体の全量を基準として、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、92質量%以上、94質量%以上、又は95質量%以上であってもよい。硬化性成分の含有量は、樹脂成形体の全量を基準として、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99質量%以下、98.5質量%以下、又は98質量%以下であってもよい。
【0044】
樹脂成形体の厚みは、例えば、500nm以上、1μm以上、又は2μm以上であってよく、10μm以下、100μm以下、又は1mm以下であってよい。
【0045】
<樹脂成形体の製造方法>
樹脂成形体は、第1の波長域に含まれる励起光を受けて第1の波長域よりも短い第2の波長域の光を出力するアップコンバージョン材料を含む粒子(UC粒子)と、硬化性成分と、を含有する組成物を準備する工程(準備工程)と、組成物を硬化させる工程(硬化工程)と、を備える製造方法により製造することができる。当該方法において、アップコンバージョン材料は希土類元素を含み、硬化性成分はアルキレングリコール基を有する化合物を含む。
【0046】
準備工程では、例えば、UC粒子と、硬化性成分と、必要に応じてその他成分とを混合して、組成物を準備してもよい。これらの成分を混合する順序は特に限定されず、例えば、硬化性成分にその他成分を添加して溶解させた後、UC粒子を加えて混合してもよい。これらの成分の混合は、公知の方法で行うことができる。準備工程では、例えば、UC粒子と、硬化性成分と、を少なくとも含有する組成物を第三者から得てもよい。
【0047】
本実施形態に係る製造方法は、準備工程と、硬化工程との間に、組成物を成形する工程(成形工程)を更に備えてもよい。成形工程では、組成物を特定の形状に調整する。例えば、組成物を型等に流し込み、組成物を特定の形状に成形してもよく、基材上に組成物を塗布して、フィルム状に成形してもよい。
【0048】
硬化工程では、組成物を硬化させる。組成物を硬化させる方法は、硬化性成分の種類に応じて選択される。例えば、硬化性成分が紫外線硬化性化合物を含有する場合、組成物に紫外線を照射することによって組成物を硬化させてもよい。例えば、硬化性成分が熱硬化性化合物を含有する場合、組成物を加熱することによって組成物を硬化させてもよい。硬化工程では、組成物を硬化させる際に加圧を行ってもよい。
【0049】
樹脂成形体の製造方法は、硬化工程の後に、得られる硬化物を所望の形状に加工する加工工程を更に備えてよい。加工工程は、例えば、硬化物の表面を研磨して、得られる樹脂成形体の厚みを調整する工程であってもよい。
【実施例0050】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[使用材料]
(UC粒子)
UC粒子A:NaYF:Yb,Er(六方晶系)、最大長さの平均値:500nm、平均粒子径:445nm、オレイン酸で被覆されている粒子
UC粒子B:NaYF:Yb,Er(六方晶系)、最大長さの平均値:100nm、平均粒子径:124nm、オレイン酸で被覆されている粒子
(硬化性成分)
・2-エチルへキシルグリコールアクリレート
・テトラエチレングリコールジアクリレート
・1.6-ヘキサンジオールジアクリレート
(その他成分)
開始剤:2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、Irgacure651、BASF株式会社製
界面活性剤:ポリエチレングリコールモノオレート、カタログ番号460176、シグマアルドリッチ社製
【0052】
(実施例1)
2-エチルへキシルグリコールアクリレートとテトラエチレングリコールジアクリレートとを質量比で1:1の割合で混合した後、当該溶液の全量に対して0.3質量%となるように開始剤を溶解させた。次いで、溶液の全量に対して3質量%のUC粒子Aを加えて、マグネティックスターラーを用いて攪拌し、組成物を得た。
得られた組成物を、スペーサーを挟んだガラス基板中に流し込み、窒素雰囲気中で、UVランプ(アズワン製)を用いて365nmの紫外線を10分間照射することによって組成物を硬化させ、樹脂成形体を得た。
【0053】
(実施例2)
UC粒子Aに代えてUC粒子Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0054】
(比較例1)
1.6-ヘキサンジオールジアクリレートと界面活性剤とを質量比で97:3の割合で混合した後、当該溶液の全量に対して0.3質量%となるように開始剤を溶解させた。次いで、溶液の全量に対して3質量%のUC粒子Aを加えて、マグネティックスターラーを用いて攪拌し、組成物を得た。
得られた組成物を、スペーサーを挟んだガラス基板中に流し込み、窒素雰囲気中で、UVランプを用いて365nmの紫外線を10分間照射することによって組成物を硬化させ、樹脂成形体を得た。
【0055】
(比較例2)
UC粒子Aに代えてUC粒子Bを用いたこと以外は比較例1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0056】
[発光量子収率の測定]
実施例1、2で得られた樹脂成形体の発光量子収率に関して、絶対量収率測定装置(浜松ホトニクス社製、Quantaurus-QY Plus)を用いて測定した結果を表1に示す。なお、励起波長は980nmで行った。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1と比較例1との比較、及び実施例2と比較例2との比較により、同じUC粒子を用いた場合であっても、硬化性成分としてアルキレングリコール基を有する化合物を含む実施例の方が、比較例よりも発光量子収率が高く、発光効率が向上された樹脂成形体が得られたことがわかる。