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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024136616
(43)【公開日】2024-10-04
(54)【発明の名称】金属粒子解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20240927BHJP
【FI】
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023047773
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 雅子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光
(72)【発明者】
【氏名】林 徹太郎
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001BA29
2G001CA01
2G001FA18
2G001HA14
2G001NA17
2G001NA18
(57)【要約】
【課題】X線CT装置で、複数成分を有する試料を撮影した際に得られる、輝度とその輝度の頻度との相関を示すグレイバリューのヒストグラムにおいて、モード法によっては閾値を求めることが困難な場合における、閾値を求める方法を提供する。
【解決手段】試料における金属物質と非金属物質との各存在量を分析し、前記試料において前記金属物質が占める体積を求める第1の工程と、前記金属物質が占める体積と、CT撮影におけるボクセル体積とから、グレイバリューのヒストグラムにおいて、前記金属粒子が占めるボクセル数を求める第2の工程と、前記グレイバリューのヒストグラムにおいて、輝度が高い方から、CT撮影におけるボクセル数を積算していき、前記第2の工程で求めた前記金属粒子が占めるボクセル数と等しくなったときの輝度の値を、前記金属粒子と前記バルク成分との間の閾値とする第3の工程とを有する金属粒子解析方法を提供する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属物質である金属粒子と非金属物質であるバルク成分との混合物である試料を、X線CT装置で撮影した際に得られる、輝度とその輝度の頻度との相関を示すグレイバリューのヒストグラムにおいて、前記輝度における前記金属粒子と前記バルク成分との間の閾値を定める方法であって、
前記試料における前記金属物質と前記非金属物質との各存在量を分析し、前記試料において前記金属物質が占める体積を求める第1の工程と、
前記金属物質が占める体積と、CT撮影におけるボクセル体積とから、前記グレイバリューのヒストグラムにおいて、前記金属粒子が占めるボクセル数を求める第2の工程と、
前記グレイバリューのヒストグラムにおいて、輝度が高い方から、CT撮影におけるボクセル数を積算していき、前記第2の工程で求めた前記金属粒子が占めるボクセル数と等しくなったときの輝度の値を、前記金属粒子と前記バルク成分との間の閾値とする第3の工程とを有する、金属粒子解析方法。
【請求項2】
前記非金属物質が金属酸化物である、請求項1に記載の金属粒子解析方法。
【請求項3】
前記試料におけるCT撮影において、検出下限未満の粒子径を有する微小金属粒子の存在比率を、予め測定しておき、前記第3の工程において、前記金属粒子と前記バルク成分との間の閾値を求めるに当たって、前記金属粒子が占めるボクセル数から前記微小金属粒子が占めるボクセル数を減じる補正を行う、請求項1に記載の金属粒子解析方法。
【請求項4】
前記試料における前記金属物質の存在量を臭素メタノール法を用いて分析する、請求項1から3のいずれかに記載の金属粒子解析方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の閾値を用いてCT像の二値化処理を行う、金属粒子解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT装置を用いた金属粒子の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数成分を有する試料(例えば、非金属物質であるバルク成分と、当該バルク成分中に金属物質からなる金属粒子が存在している試料)において、当該金属物質や金属粒子の分析をしようとする場合、その分析目的に応じて各種の分析方法がある。
尚、本発明において金属物質とは、単体金属または複数種の単体金属からなる合金のことであり、金属粒子とは、単体金属粒子または合金粒子のことであり、非金属物質とは、金属物質以外のスラグ成分等の総称であり、バルク成分とは非金属物質からなるマトリックス成分のことである。
【0003】
試料中の金属物質の重量割合を分析するなら、臭素メタノール法といった化学分析方法が有る(非特許文献1参照)。また、試料中の金属粒子の分析をするなら、試料を断面研磨し、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて当該断面を観察するといった方法がある。さらに、試料中の金属粒子の粒子情報として、粒子の体積、粒子の球相当径、粒子の球形度、等の形状パラメータを分析するなら、X線CT装置を用いた方法もある(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-34372号公報
【特許文献2】特開2020-134504号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】臭素メタノール法による酸化ニッケル中の金属ニッケルの定量(関税中央分析所報(13),1973-03,p7)
【非特許文献2】X線CTを用いたアスファルト舗装材料の定量的評価に関する研究(土木学会論文集E1(舗装工学),Vol67,No3,(舗装工学論文集第16巻)
【非特許文献3】X線CTスキャナを用いたアスファルト混合物内部の品質評価手法の開発(土木技術資料55-2(2013))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、試料中における金属粒子の粒子情報を得るためにX線CT装置で分析する方法があるが、本発明者らの検討によると次のような課題があった。
【0007】
X線は試料を透過するが、試料の材質に応じた吸収もされる。その結果、試料の各部分におけるX線の透過には減衰差が生じる。試料の材質の密度・原子番号が大きい程、X線は吸収され易くなり、CT像の輝度は高くなる。このCT像における明暗の階調をグレイバリューと呼ぶ。
【0008】
一方、X線CT装置で試料を撮影すると、試料の各部分の輝度とその頻度(ボクセル数)との相関を示すグレイバリューのヒストグラムが得られる。
ヒストグラムは、横軸に輝度をとり、縦軸に頻度(ボクセル数)をとって、両者の関係を示す曲線を引いたグラフである。当該ヒストグラムの1例を図1に示す。
尚、本発明において、ボクセルとは、コンピュータで立体を表現する際の、データの最小単位からなる立方体のことである。
【0009】
図1のヒストグラムのパターンにおいて、例えば、試料が金属粒子とバルク成分との混合物であれば、上述した試料の密度と輝度との関係より、「輝度の高いAのピークの部分は金属粒子、輝度の低いBのピークの部分はバルク成分」と定義付け出来る。
【0010】
次に、CT像において、金属粒子と定義した部分を抽出するためには、ヒストグラムにおけるAのピークとBのピークとの境界箇所における境界値(本発明において「閾値」と記載する場合がある。)を求める。そして、当該閾値における輝度の値をもってCT像のグレイレベルを、金属粒子とバルク成分とに二値化処理することで、CT像における金属粒子を抽出出来るので、それを解析すればよい。
【0011】
ここで、ヒストグラムのパターンとして、図1に示すパターンのように、Aのピークの部分とBのピークの部分とに対応した2つのピークが得られる場合は、当該2ピークの間の谷になる部分の値を閾値とする、所謂モード法を用いることが出来る。
【0012】
しかし、本発明者らの検討によると、試料が、金属粒子とバルク成分との混合物であっても、金属粒子の割合が低いなどの理由により、ヒストグラムのパターンにおいて、図2に示すように、ピークが1つしか得られない場合がある。このような場合、上述したモード法によっては、閾値を求めることが不可能であるため、CT像において二値化処理が実施出来ない。この結果、CT像から、金属粒子と定義した部分を抽出することが出来ず、金属粒子の体積、金属粒子の球相当径、金属粒子の球形度、等を解析することが出来ないという課題があった。
【0013】
本発明は、上述の状況のもとで為されたものであり、その解決しようとする課題は、X線CT装置で、複数成分を有する試料を撮影した際に得られる、輝度とその輝度の頻度との相関を示すグレイバリューのヒストグラムにおいて、モード法によっては閾値を求めることが困難な場合における、閾値を求める方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するため、本発明者らは研究を行い、上述した臭素メタノール法等の分析方法による定量分析結果と、X線CT装置で試料を撮影することで得られるグレイバリューのヒストグラムとを照合することにより、閾値を求める構成に想到し、本発明を完成した。
【0015】
即ち、前記課題を解決するための第1の発明は、
金属物質である金属粒子と非金属物質であるバルク成分との混合物である試料を、X線CT装置で撮影した際に得られる、輝度とその輝度の頻度との相関を示すグレイバリューのヒストグラムにおいて、前記輝度における前記金属粒子と前記バルク成分との間の閾値を定める方法であって、
前記試料における前記金属物質と前記非金属物質との各存在量を分析し、前記試料において前記金属物質が占める体積を求める第1の工程と、
前記金属物質が占める体積と、CT撮影におけるボクセル体積とから、前記グレイバリューのヒストグラムにおいて、前記金属粒子が占めるボクセル数を求める第2の工程と、
前記グレイバリューのヒストグラムにおいて、輝度が高い方から、CT撮影におけるボクセル数を積算していき、前記第2の工程で求めた前記金属粒子が占めるボクセル数と等しくなったときの輝度の値を、前記金属粒子と前記バルク成分との間の閾値とする第3の工程とを有する、金属粒子解析方法である。
第2の発明は、
前記非金属物質が金属酸化物である、第1の発明に記載の金属粒子解析方法である。
第3の発明は、
前記試料におけるCT撮影において、検出下限未満の粒子径を有する微小金属粒子の存在比率を、予め測定しておき、前記第3の工程において、前記金属粒子と前記バルク成分との間の閾値を求めるに当たって、前記金属粒子が占めるボクセル数から前記微小金属粒子が占めるボクセル数を減じる補正を行う、第1の発明に記載の金属粒子解析方法である。
第4の発明は、
前記試料における前記金属物質の存在量を臭素メタノール法を用いて分析する、第1から第3の発明のいずれかに記載の金属粒子解析方法である。
第5の発明は、
第1から第3の発明のいずれかに記載の閾値を用いてCT像の二値化処理を行う、金属粒子解析方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属物質である金属粒子と非金属物質であるバルク成分との混合物である試料を、X線CT装置で撮影した際に得られる、輝度とその輝度の頻度との相関を示すグレイバリューのヒストグラムにおいて、モード法によっては金属粒子とバルク成分との間の閾値を求めることが困難な場合であっても、閾値を求めることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】輝度と頻度(ボクセル数)との相関を示すグレイバリューの模式的なヒストグラムの一例である。
図2】輝度と頻度(ボクセル数)との相関を示すグレイバリューの模式的なヒストグラムの異なる一例である。
図3】輝度と頻度(ボクセル数)との相関を示すグレイバリューの模式的なヒストグラムにおいて、ボクセル数の積算値と金属粒子が占めるボクセル数とが等しくなった閾値(輝度の値)を示したものである。
図4】実施例1に係るグレイバリューのヒストグラムにおいて、ボクセル数の積算値と金属粒子が占めるボクセル数とが等しくなった閾値を示したものである。
図5】実施例1に係るCT像において、金属粒子と判定した関心領域の周囲を白線で囲んだものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
X線CT(Computed Tomography;コンピュータ断層撮影)装置は、対象試料を360°回転させながらX線を照射し、当該試料における各部分の材質ごとのX線吸収量の違いを利用して、物質の内部構造を非破壊で三次元的に評価するものである。
【0019】
X線は試料を透過する性質があるが、試料における各部分の材質に応じてX線の吸収量に違いが生じる。この現象は吸収コントラストと呼ばれる。この吸収コントラストを利用し、試料のX線の透過像を取得すると、試料の密度・厚さ・原子番号が大きいほど、透過X線強度は小さくなり、試料の密度・厚さ・原子番号が小さいほど、透過X線強度は大きくなる。
【0020】
例えば、試料が、金属物質である金属粒子と非金属物質であるバルク成分との混合物である場合、CT像において金属粒子は、バルク成分より高密度であるために高輝度を示す。この輝度差を利用してCT像を画像解析することで、試料中の金属粒子を、バルク成分から分離して観測し、金属粒子の体積、分布、形状等を評価することが出来る。
【0021】
上述した画像解析を実施するにあたり、金属粒子とバルク成分とを分離して、金属粒子を抽出するためには、当該輝度における金属粒子とバルク成分との間の閾値を求め、当該閾値を用いてCT像を二値化処理すれば良い。
【0022】
上述したように、試料が、金属粒子とバルク成分との混合物であって、図1のヒストグラムのパターンにおいて模式的に示すように、Aのピークの部分とBのピークの部分とに対応した2つのピークが得られる場合は、密度と輝度との関係より「Aのピークの部分は金属粒子、Bのピークの部分はバルク成分」と定義付け出来る。そして、当該2ピークの間の谷になる部分の境界値を閾値とする、所謂モード法を用いて閾値を求めれば良い。
【0023】
しかし、試料が、金属粒子とバルク成分との混合物であっても、金属粒子の割合が低い等の理由により、図2に示すように、ピークが1つしか得られない場合が有る。ピークが1つしか得られない場合、上述したモード法によっては、閾値を求めることが困難である。このため、CT像を二値化処理することが出来なかった。
【0024】
一方、例えば、臭素メタノール法といった化学分析方法によれば、試料における、金属物質の存在量と非金属物質(主に、金属酸化物である。)の存在量とを、分離して定量分析することが出来る。
しかし、このような化学分析方法では、試料における金属粒子の分布や形状等を評価することが出来ない。
ここで、本発明者らは、臭素メタノール法等の化学分析方法による定量分析結果と、グレイバリューのヒストグラムとを照合することにより、金属粒子とバルク成分との間の閾値を求める構成に想到した。
【0025】
具体的には、まずX線CT装置を用いて、試料のCT像とグレイバリューのヒストグラムとを得る。
一方、当該同一試料に対し、臭素メタノール法等を用いて、当該試料における金属物質の存在量と非金属物質の存在量とを分離して定量分析する。そして当該定量分析結果をもって、所謂、Pタイル法(Percentile Method)を適用し、図3に示すように、グレイバリューのヒストグラムにおいて、金属粒子とバルク成分との間(境界)における輝度の閾値を求めるものである。
尚、Pタイル法は、特定の層や構造の分率を用いて閾値を推定する手法であり、非特許文献2、3に解説がある。
【0026】
具体的には、試料における金属物質の重量割合が化学分析方法により既知となれば、グレイバリューのヒストグラム作成に供した全試料質量と、当該金属物質の密度とを基に、当該金属物質の総体積を算出出来る。次に図3に示すグレイバリューのヒストグラムにおいて、輝度が高い方からボクセル数を積算していき、そのボクセル数の積算値が、前記金属粒子が占めるボクセル数と等しくなったときの輝度の値(図3において、グレーで示した部分)を閾値として求めればよい。
【0027】
また、金属物質が複数の金属元素からなる場合は、適宜な定量分析方法を用いて、金属物質の重量割合を各金属元素ごとに測定し、各金属元素の密度を基に各金属物質の体積を求め、それらを合計することで金属物質の総体積を算出出来る。
【0028】
さらに、各金属物質の密度が互いに大きく異なる場合も、適宜な定量分析方法を用いて、高密度な金属物質の体積、低密度な金属物質の体積を個別に求める。そして、グレイバリューのヒストグラムにおいて、輝度が高い方からボクセル数を積算していき、そのボクセル数の積算値が、高密度な金属粒子が占めるボクセル数と等しくなったときの輝度の値を、高密度な金属粒子と低密度な金属粒子との間の閾値とする。さらにボクセル数を積算していき、そのボクセル数の積算値が、低密度な金属粒子が占めるボクセル数と等しくなったときの輝度の値を、低密度な金属粒子とバルク成分との間の閾値とすることが出来る。尚、密度が互いに大きく異なる金属物質とは、例えば、アルミニウムと鉄、鉄と鉛といったものを言う。
【0029】
一方、バルク成分中にX線CT装置の分解能未満のサイズである微小な金属粒子の存在が考えられる場合、当該バルク成分が占めるボクセルを、金属粒子が占めるボクセルとして検出してしまうことが考えられる。このような事態が考えられる場合は、求めた閾値の値を補正することも好ましい構成である。すなわち、予め、CT撮影における検出下限未満の粒子径を有する微小金属粒子の存在比率を測定しておく。そして、当該試料において、金属粒子とバルク成分との間の閾値を求めるに当たって、金属粒子が占めるボクセル数から前記検出下限未満の粒子径を有する微小金属粒子が占めるボクセル数を減じる補正を行うものである。
【0030】
ここで、予め、CT撮影における検出下限未満の粒子径を有する微小金属粒子の存在比率を測定するには、例えば、SEM-EDS(電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)分析による撮影画像を解析することで、微小金属粒子の存在比率を測定することが出来る。また、別途、超高解像度(最小画素サイズ)によるX線CT撮影を行って微小金属粒子の存在比率の測定を行っても良い。
【0031】
同種類の試料を継続的に測定する場合は、上述したCT撮影における検出下限未満の粒子径を有する微小金属粒子の存在比率のデータを蓄積し、測定対象試料や測定条件に応じた補正のパラメータを予め決定しておき、簡単な計算式によって補正を実施することも好ましい構成である。
【0032】
以上のようにして、得られた閾値における輝度の値を読み取る。そして、CT像において、読み取られた輝度の値より大きな値の部分を金属粒子、読み取られた輝度の値より小さな値の部分をバルク成分とする二値化処理を行う。当該二値化処理の結果、CT像において金属粒子とバルク成分との境界が明確化する。
【0033】
この結果、例えば、非金属物質であるバルク成分をマトリックスとし、その中に金属粒子が分散している試料であれば、当該金属粒子の体積、球相当径、球形度、バルク成分中における分布状態、等、様々なデータの取得が可能となる。
【0034】
さらに、金属物質が複数の金属元素からなる場合は、所望によりEDX(エネルギー分散型X線分光法)や、MLA(鉱物粒子解析装置)による分析を併せて実施することにより、試料中における各金属物質からなる金属粒子の分布、状態に係る様々なデータの取得も可能となる。
【実施例0035】
金属粒子とバルク成分とからなる試料を用い、X線CT装置で得たグレイバリューのヒストグラムにおいて、金属粒子とバルク成分とのとの間(境界)の閾値を求めた例を実施例として、本発明を具体的に説明する。但し、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0036】
(1)測定対象試料:金属物質と非金属物質とからなる試料を準備した。当該試料は、リモナイト鉱石を還元溶融することによって得られた、金属粒子であるフェロニッケルメタル(鉄-ニッケル合金)粒子が、バルク成分(金属酸化物)中に分散した状態の、金属物質と非金属物質との混合物である。上記還元溶融物を窒素ガス雰囲気で冷却した後、大気中で放冷したものを、ハンマーによって最大で6mm程度の粒子になるように粉砕し、測定対象試料とした。
【0037】
(2)化学分析法として臭素メタノール法を用い、当該試料中における金属物質の存在量P[wt%]を定量した。
このとき、金属元素が複数nの場合は、各金属元素の存在量Pi[wt%]を定量した。具体的には、上記測定対象試料を分取し、臭素メタノール法によって金属鉄および金属ニッケルの重量含有率を定量した。その結果、鉄3.0重量%、ニッケル0.3重量%という値が得られた。
【0038】
(3)X線CT装置を用い、当該試料における全領域のCT像を撮影した。このとき、当該試料量2.0[g]を予め秤量しておいた。CT像の撮影には、リガク社製CTLabHX130を用い、撮影条件として「FOV15のSuper High(画素サイズ:5.3μm、積算枚数:8枚)」を選択した。
【0039】
尚、FOV(Field of View)は、本発明においては試料容器の円柱の直径(mm)のことであり、FOVが小さいほど最小画素サイズが小さくなり、高解像度となる。一方で、FOVを小さくし過ぎると、測定される試料量が少なくなるため、測定対象試料に対するCT撮影試料のバラツキ誤差は大きくなる。そのため、当該測定対象試料に対する最適条件であるFOV15という値を選択した。積算枚数は、透過像1画像を撮像するに当たっての撮影枚数である。すなわち、ノイズによる揺らぎ等の影響を排除するために、8枚の撮像像を合成して1枚の透過像にする。
【0040】
(4)ここで、X線CT装置で全領域撮影した試料における金属物質の総体積V[cm]を(式1)から算出した。

但し、ρi:各金属元素の密度

ここで、(2)で得られたPFe=3.0重量%、PNi=0.3重量%、(3)で得られたw=2.0[g]という値、およびρFe=7.87、ρNi=8.90から、V=8.26×10-3cmという値が得られた。
【0041】
(5)上記(3)において全領域撮影した試料中の金属粒子に相当するボクセル数を、以下のように求めた。
〈1〉X線CT装置の撮影条件によって、1個のボクセルのサイズが決定する。(例えば、前記立方体の1辺の長さがl[cm]のとき、1個のボクセル体積vは、v[cm/voxel]=l[cm]となる。)本撮影条件では、画素サイズが5.3μmなので、v=(5.3μm)=149μm=1.49×10-10cmとなる。
〈2〉全領域撮影した試料中における、上記(4)において算出した金属物質の総体積Vに相当するボクセル数Cを(式2)により算出した。

ここで、V=8.26×10-3cm、v=1.49×10-10cmより、C=5.55×10と求められた。
【0042】
(6)図4に示す当該試料における全領域のCT撮影で得られたグレイバリューのヒストグラムにおいて、輝度が高い方からボクセル数を積算していき、図4の右上欄における「合計」の値が、(5)の〈2〉で算出したボクセル数C=5.55×10となったとき、金属粒子とバルク成分との閾値(境界)である輝度の値「左」は2931であった。
【0043】
(7)求められた輝度の閾値2931を用い、CT像において輝度の値が2931以上あり、金属粒子と判定した関心領域の周囲を白線で囲んだものを図5に示す。
図1
図2
図3
図4
図5