(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137169
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】磁気ディスク装置及びライト保証回数の調整方法
(51)【国際特許分類】
G11B 20/10 20060101AFI20240927BHJP
G11B 5/09 20060101ALI20240927BHJP
G11B 20/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G11B20/10 301Z
G11B5/09 301Z
G11B20/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023048580
(22)【出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦田 幸雄
【テーマコード(参考)】
5D044
【Fターム(参考)】
5D044BC01
5D044CC04
5D044DE49
5D044DE57
5D044GK18
5D044GK19
(57)【要約】
【課題】 ライト保証回数を調整することのできる磁気ディスク装置及びライト保証回数の調整方法を提供する。
【解決手段】 磁気ディスク装置1は、ディスクDK、ヘッドHD、記憶部、及び制御部を備える。基準テーブルが持つ複数の基準回数はm個あり、調整テーブルが持つ複数の調整値はn個ある。上記制御部は、検出部62と、異常情報を検出した場合に対応する基準回数を上記基準回数と異なる数値を持つライト保証回数に調整する調整部63と、カウンタ64と、判断部65と、リフレッシュ処理部66と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録層を有するディスクであって、前記記録層は、半径方向及び円周方向の少なくとも一方の方向にm個に区分された場合に前記m個の領域である複数の区分領域を含み、前記少なくとも一方の方向に前記m個より多いn個に区分された場合に前記n個の領域である複数の調整領域を含む、前記ディスクと、
前記記録層に対してデータをライトし、前記記録層からデータをリードするヘッドと、
前記記録層に対応する複数の基準回数を持つ基準テーブルと、前記記録層に対応する複数の調整値を持つ調整テーブルと、を記憶する記憶部であって、前記複数の基準回数は、前記m個あり、前記複数の区分領域に一対一で対応し、前記複数の調整値は、前記n個あり、前記複数の調整領域に一対一で対応している、前記記憶部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記記録層の状態及び前記ヘッドの特性を検出する検出部と、
前記検出部で前記状態及び前記特性が正常であることを示す正常情報を検出した場合に各々の前記調整値を更新せず各々の前記基準回数を前記基準回数と同一の数値を持つライト保証回数に調整し、前記検出部で前記状態及び前記特性の一方が異常であることを示す異常情報を検出した場合に前記複数の調整値のうち対応する調整値を更新して前記対応する調整値に基づいて前記複数の基準回数のうち対応する基準回数を前記基準回数と異なる数値を持つ前記ライト保証回数に調整する調整部と、
前記記録層の対象セクタに前記半径方向にて隣接する隣接セクタにデータがライトされる毎に前記対象セクタのライト回数をカウントし、前記ライト回数を前記記憶部に記録するカウンタと、
前記記憶部に記録された前記ライト回数の合計が前記ライト保証回数を超えたかどうか判断する判断部と、
前記合計が前記ライト保証回数を超えた際に、前記対象セクタの対象データをリードし、前記対象データを前記対象セクタにリライトし、前記記憶部に記録した前記対象セクタのライト回数をリセットするリフレッシュ処理部と、を備える、
磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記記憶部は、第1重み係数をさらに記憶し、
前記検出部は、前記記録層のデータが復旧不可能になった場合に第1異常情報を検出し、
前記記録層のうち、前記半径方向に第1長さを持ち、前記円周方向に第1幅を持つ範囲を第1範囲とすると、
前記検出部が、前記対象セクタの前記対象データが復旧不可能になったことを示す前記第1異常情報を検出した場合、
前記調整部は、前記第1範囲の重心が前記対象セクタに位置するように前記第1範囲を位置決めし、前記複数の調整領域のうち前記第1範囲に重なった全ての調整領域に対応する全ての調整値に前記第1重み係数を掛け、前記第1重み係数を掛けた各々の前記調整値を第1調整値に更新する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記記録層のデータをリードするリード処理部をさらに有し、
前記記憶部は、第2重み係数と、リードリトライ閾値を持つリードリトライテーブルと、をさらに記憶し、
前記検出部は、前記リード処理部によって前記記録層の同一のデータをリードする回数が前記リードリトライ閾値を超えた場合に第2異常情報を検出し、
前記記録層のうち、前記半径方向に第2長さを持ち、前記円周方向に第2幅を持つ範囲を第2範囲とすると、
前記検出部が、前記対象セクタの前記対象データをリードする回数が前記リードリトライ閾値を超えたことを示す前記第2異常情報を検出した場合、
前記調整部は、前記第2範囲の重心が前記対象セクタに位置するように前記第2範囲を位置決めし、前記複数の調整領域のうち前記第2範囲に重なった全ての調整領域に対応する全ての調整値に前記第2重み係数を掛け、前記第2重み係数を掛けた各々の前記調整値を第2調整値に更新する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記記憶部は、第3重み係数をさらに記憶し、
前記検出部は、前記リフレッシュ処理部によって前記記録層のデータのリードをリトライした場合に第3異常情報を検出し、
前記記録層のうち、前記半径方向に第3長さを持ち、前記円周方向に第3幅を持つ範囲を第3範囲とすると、
前記検出部が、前記対象セクタの前記対象データのリードをリトライしたことを示す前記第3異常情報を検出した場合、
前記調整部は、前記第3範囲の重心が前記対象セクタに位置するように前記第3範囲を位置決めし、前記複数の調整領域のうち前記第3範囲に重なった全ての調整領域に対応する全ての調整値に前記第3重み係数を掛け、前記第3重み係数を掛けた各々の前記調整値を第3調整値に更新する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
前記記憶部は、第1重み係数をさらに記憶し、
前記検出部は、前記記録層のデータが復旧不可能になった場合に第1異常情報を検出し、
前記記録層のうち、前記半径方向に第1長さを持ち、前記円周方向に第1幅を持つ範囲を第1範囲とすると、
前記検出部が、前記対象セクタの前記対象データが復旧不可能になったことを示す前記第1異常情報を検出した場合、
前記調整部は、前記第1範囲の重心が前記対象セクタに位置するように前記第1範囲を位置決めし、前記複数の調整領域のうち前記第1範囲に重なった全ての調整領域に対応する全ての調整値に前記第1重み係数を掛け、前記第1重み係数を掛けた各々の前記調整値を第1調整値に更新し、
前記ライト保証回数は、前記基準回数を前記調整値で割った数値であり、
前記第1重み係数をaとし、前記第3重み係数をcとし、前記第1調整値に基づいて調整された前記ライト保証回数を第1ライト保証回数とし、前記第3調整値に基づいて調整された前記ライト保証回数を第3ライト保証回数とすると、
a>c>+1であり、
前記第1ライト保証回数は、前記第3ライト保証回数より少ない、
請求項4に記載の磁気ディスク装置。
【請求項6】
前記記憶部は、第4重み係数と、ヘッド特性閾値を持つヘッド特性テーブルと、をさらに記憶し、
前記検出部は、前記ヘッドの特性の悪化量が前記ヘッド特性閾値を超えた場合に第4異常情報を検出し、
前記記録層のうち、前記半径方向に第4長さを持ち、前記円周方向に第4幅を持つ範囲を第4範囲とすると、
前記検出部が、前記ヘッドの特性の悪化量が前記ヘッド特性閾値を超えたことを示す前記第4異常情報を検出した場合、
前記調整部は、前記第4範囲の重心が特定のセクタに位置するように前記第4範囲を位置決めし、前記複数の調整領域のうち前記第4範囲に重なった全ての調整領域に対応する全ての調整値に前記第4重み係数を掛け、前記第4重み係数を掛けた各々の前記調整値を第4調整値に更新する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項7】
前記第4範囲は、前記記録層の全ての調整領域に重ねられ、
前記検出部が、前記第4異常情報を検出した場合、
前記調整部は、前記調整テーブルの全ての調整値を前記第4調整値に更新する、
請求項6に記載の磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記第4重み係数をdとし、前記ヘッドの特性の悪化量をαとし、前記第4調整値に基づいて調整された前記ライト保証回数を第4ライト保証回数とすると、
前記第4ライト保証回数は、前記基準回数を、前記第4調整値と前記αとの積で割った数値である、
請求項6に記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
前記検出部で異常情報を検出した場合、更新された前記調整値に基づいて調整された前記ライト保証回数は、対応する前記基準回数より小さい数値である、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項10】
記録層を有するディスクであって、前記記録層は、半径方向及び円周方向の少なくとも一方の方向にm個に区分された場合に前記m個の領域である複数の区分領域を含み、前記少なくとも一方の方向に前記m個より多いn個に区分された場合に前記n個の領域である複数の調整領域を含む、前記ディスクと、前記記録層に対してデータをライトし、前記記録層からデータをリードするヘッドと、前記記録層に対応する複数の基準回数を持つ基準テーブルと、前記記録層に対応する複数の調整値を持つ調整テーブルと、を記憶する記憶部であって、前記複数の基準回数は、前記m個あり、前記複数の区分領域に一対一で対応し、前記複数の調整値は、前記n個あり、前記複数の調整領域に一対一で対応している、前記記憶部と、制御部と、を備える磁気ディスク装置に適用されるライト保証回数の調整方法であって、
前記記録層の状態及び前記ヘッドの特性を検出し、
前記状態及び前記特性が正常であることを示す正常情報を検出した場合に各々の前記調整値を更新せず各々の前記基準回数を前記基準回数と同一の数値を持つライト保証回数に調整し、前記状態及び前記特性の一方が異常であることを示す異常情報を検出した場合に前記複数の調整値のうち対応する調整値を更新して前記対応する調整値に基づいて前記複数の基準回数のうち対応する基準回数を前記基準回数と異なる数値を持つ前記ライト保証回数に調整し、
前記記録層の対象セクタに前記半径方向にて隣接する隣接セクタにデータがライトされる毎に前記対象セクタのライト回数をカウントし、前記ライト回数を前記記憶部に記録し、
前記記憶部に記録された前記ライト回数の合計が前記ライト保証回数を超えたかどうか判断し、
前記合計が前記ライト保証回数を超えた際に、前記対象セクタの対象データをリードし、前記対象データを前記対象セクタにリライトし、前記記憶部に記録した前記対象セクタのライト回数をリセットする、
ライト保証回数の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気ディスク装置及びライト保証回数の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置として、ディスクの半径方向に間隔に置いて複数のトラックをライトする通常記録(Conventional Magnetic Recording:CMR)型式(又は、従来記録型式)の磁気ディスク装置、ディスクの半径方向に複数のトラックを重ね書きする瓦記録(Shingled write Magnetic Recording:SMR、又はShingled Write Recording:SWR)型式の磁気ディスク装置、及び通常記録型式及び瓦記録型式を選択して実行するハイブリッド記録型式の磁気ディスク装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022/0076695号明細書
【特許文献2】米国特許第10546601号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/0188767号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、ライト保証回数を調整することのできる磁気ディスク装置及びライト保証回数の調整方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る磁気ディスク装置は、
記録層を有するディスクであって、前記記録層は、半径方向及び円周方向の少なくとも一方の方向にm個に区分された場合に前記m個の領域である複数の区分領域を含み、前記少なくとも一方の方向に前記m個より多いn個に区分された場合に前記n個の領域である複数の調整領域を含む、前記ディスクと、
前記記録層に対してデータをライトし、前記記録層からデータをリードするヘッドと、
前記記録層に対応する複数の基準回数を持つ基準テーブルと、前記記録層に対応する複数の調整値を持つ調整テーブルと、を記憶する記憶部であって、前記複数の基準回数は、前記m個あり、前記複数の区分領域に一対一で対応し、前記複数の調整値は、前記n個あり、前記複数の調整領域に一対一で対応している、前記記憶部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記記録層の状態及び前記ヘッドの特性を検出する検出部と、
前記検出部で前記状態及び前記特性が正常であることを示す正常情報を検出した場合に各々の前記調整値を更新せず各々の前記基準回数を前記基準回数と同一の数値を持つライト保証回数に調整し、前記検出部で前記状態及び前記特性の一方が異常であることを示す異常情報を検出した場合に前記複数の調整値のうち対応する調整値を更新して前記対応する調整値に基づいて前記複数の基準回数のうち対応する基準回数を前記基準回数と異なる数値を持つ前記ライト保証回数に調整する調整部と、
前記記録層の対象セクタに前記半径方向にて隣接する隣接セクタにデータがライトされる毎に前記対象セクタのライト回数をカウントし、前記ライト回数を前記記憶部に記録するカウンタと、
前記記憶部に記録された前記ライト回数の合計が前記ライト保証回数を超えたかどうか判断する判断部と、
前記合計が前記ライト保証回数を超えた際に、前記対象セクタの対象データをリードし、前記対象データを前記対象セクタにリライトし、前記記憶部に記録した前記対象セクタのライト回数をリセットするリフレッシュ処理部と、を備える。
【0006】
また、一実施形態に係るライト保証回数の調整方法は、
記録層を有するディスクであって、前記記録層は、半径方向及び円周方向の少なくとも一方の方向にm個に区分された場合に前記m個の領域である複数の区分領域を含み、前記少なくとも一方の方向に前記m個より多いn個に区分された場合に前記n個の領域である複数の調整領域を含む、前記ディスクと、前記記録層に対してデータをライトし、前記記録層からデータをリードするヘッドと、前記記録層に対応する複数の基準回数を持つ基準テーブルと、前記記録層に対応する複数の調整値を持つ調整テーブルと、を記憶する記憶部であって、前記複数の基準回数は、前記m個あり、前記複数の区分領域に一対一で対応し、前記複数の調整値は、前記n個あり、前記複数の調整領域に一対一で対応している、前記記憶部と、制御部と、を備える磁気ディスク装置に適用されるライト保証回数の調整方法であって、
前記記録層の状態及び前記ヘッドの特性を検出し、
前記状態及び前記特性が正常であることを示す正常情報を検出した場合に各々の前記調整値を更新せず各々の前記基準回数を前記基準回数と同一の数値を持つライト保証回数に調整し、前記状態及び前記特性の一方が異常であることを示す異常情報を検出した場合に前記複数の調整値のうち対応する調整値を更新して前記対応する調整値に基づいて前記複数の基準回数のうち対応する基準回数を前記基準回数と異なる数値を持つ前記ライト保証回数に調整し、
前記記録層の対象セクタに前記半径方向にて隣接する隣接セクタにデータがライトされる毎に前記対象セクタのライト回数をカウントし、前記ライト回数を前記記憶部に記録し、
前記記憶部に記録された前記ライト回数の合計が前記ライト保証回数を超えたかどうか判断し、
前記合計が前記ライト保証回数を超えた際に、前記対象セクタの対象データをリードし、前記対象データを前記対象セクタにリライトし、前記記憶部に記録した前記対象セクタのライト回数をリセットする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る磁気ディスク装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、上記磁気ディスク装置の一部を示す斜視図であり、複数枚のディスク及び複数のヘッドを示す図である。
【
図3】
図3は、通常記録処理が行われる複数のトラックの一部を示す模式図である。
【
図4】
図4は、上記磁気ディスク装置のうち半径方向に並んだ3つのセクタを示す概略図であり、対象セクタへのATI影響が小さい場合を説明するための図である。
【
図5】
図5は、上記磁気ディスク装置のうち半径方向に並んだ3つのセクタを示す概略図であり、対象セクタへのATI影響が大きい場合を説明するための図である。
【
図6】
図6は、上記磁気ディスク装置のディスクの記録層を示す平面図であり、記録層に傷がついている状態を示す図である。
【
図7】
図7は、
図1に示した基準テーブルの一部を示す図であり、第1記録層に対応する複数の基準回数等を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1に示した調整テーブルの一部を示す図であり、第1記録層に対応する複数の調整値等を示す図である。
【
図9】
図9は、上記磁気ディスク装置のディスクの第1記録層の一部を示す図であり、一以上の調整領域に特定の範囲が重なっている状態を示す図である。
【
図10】
図10は、上記磁気ディスク装置に適用されるリフレッシュ処理方法を説明するためのフローチャートである。
【
図11】
図11は、
図10に続く上記リフレッシュ処理方法を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は、上記磁気ディスク装置に適用されるライト保証回数の調整方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら一実施形態に係る磁気ディスク装置1及びライト保証回数の調整方法について詳細に説明する。まず、磁気ディスク装置1の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る磁気ディスク装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態において、磁気ディスク装置1は、通常記録型式の磁気ディスク装置である。但し、後述する技術は、瓦記録型式の磁気ディスク装置と、通常記録型式及び瓦記録型式を選択して実行するハイブリッド記録型式の磁気ディスク装置とに適用してもよい。
【0009】
図1に示すように、磁気ディスク装置1は、記録媒体としての複数、例えば、1~6枚のディスク(磁気ディスク)DKと、駆動モータとしてのスピンドルモータ(SPM)20と、ヘッドスタックアッセンブリ22と、ドライバIC120と、ヘッドアンプ集積回路(以下、ヘッドアンプIC、又はプリアンプ)130と、揮発性メモリ70と、バッファメモリ(バッファ)80と、不揮発性メモリ90と、1チップの集積回路であるシステムコントローラ110とを備えている。また、磁気ディスク装置1は、ホストシステム(以下、単に、ホストと称する)100と接続される。
【0010】
各ディスクDKは、例えば、直径95mm(3.5インチ)に形成され、その両面に記録層(磁気記録層)Yを有している。なお、本実施形態において、磁気ディスク装置1は、1~6枚のディスクDKを備えているが、ディスクDKの枚数はこれに限られない。また、磁気ディスク装置1は、単一のディスクDKを備えてもよい。
【0011】
ヘッドスタックアッセンブリ22は、ボイスコイルモータ(以下VCMと称する)24の駆動により、アーム30に搭載されているヘッドHDをディスクDK上の目標位置まで移動制御する。
【0012】
ディスクDKは、そのデータをライト可能な領域に、ユーザから利用可能なユーザデータ領域Uと、システム管理に必要な情報をライトするシステム領域Sとが割り当てられている。ここで、ディスクDKの複数のトラックのうち、任意のトラックを対象トラックとし、ディスクDKの半径方向に対象トラックに隣接するトラックを隣接トラックとする。対象トラックにおいて、ディスクDKの円周方向に並んだ複数のセクタのうち任意のセクタを対象セクタとする。隣接トラックにおいて、ディスクDKの円周方向に並んだ複数のセクタのうちディスクDKの半径方向に対象セクタに隣接するセクタを隣接セクタとする。
【0013】
ヘッドHDは、ディスクDKに対して情報の記録、再生を行なう。ヘッドHDは、スライダを本体として、スライダに実装されているライトヘッドWHDとリードヘッドRHDとを備えている。ライトヘッドWHDは、ディスクDKの記録層Yに対してデータをライトする。リードヘッドRHDは、ディスクDKの記録層Yのデータトラックからデータをリードする。
【0014】
ドライバIC120は、システムコントローラ110(詳細には、後述するMPU60)の制御に従って、SPM20およびVCM24の駆動を制御する。SPM20は、複数枚のディスクDKを支持及び回転させる。
【0015】
ヘッドアンプIC130は、リードアンプ及びライトドライバを備えている。リードアンプは、ディスクDKからリードしたリード信号を増幅して、システムコントローラ110(詳細には、後述するリード/ライト(R/W)チャネル140)に出力する。ライトドライバは、R/Wチャネル140から出力される信号に応じたライト電流をヘッドHDに出力する。
【0016】
揮発性メモリ70は、電力供給が断たれると保存しているデータが失われる半導体メモリである。揮発性メモリ70は、磁気ディスク装置1の各部での処理に必要なデータ等を格納する。揮発性メモリ70は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、又はSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)である。
【0017】
バッファメモリ80は、磁気ディスク装置1とホスト100との間で送受信されるデータ等を一時的に記録する半導体メモリである。なお、バッファメモリ80は、揮発性メモリ70と一体に構成されていてもよい。バッファメモリ80は、例えば、DRAM、SRAM(Static Random Access Memory)、SDRAM、FeRAM(Ferroelectric Random Access memory)、又はMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)等である。
【0018】
不揮発性メモリ90は、電力供給が断たれても保存しているデータを記録する半導体メモリである。不揮発性メモリ90は、例えば、NOR型またはNAND型のフラッシュROM(Flash Read Only Memory :FROM)である。
【0019】
本実施形態において、不揮発性メモリ90は、各種のテーブル等を記憶する記憶部として機能している。例えば、不揮発性メモリ90は、複数の基準回数を持つ基準テーブルTL1と、複数の調整値を持つ調整テーブルTL2と、リードリトライ閾値を持つリードリトライテーブルTL3と、ヘッド特性閾値を持つヘッド特性テーブルTL4と、を記憶している。
【0020】
なお、各種のテーブル等を記憶する記憶部は、不揮発性メモリ90に限定されるものではなく、磁気ディスク装置1内の記録部であればよく、例えばシステム領域Sであってもよい。
【0021】
システムコントローラ(コントローラ)110は、例えば、複数の素子が単一チップに集積されたSystem-on-a-Chip(SoC)と称される大規模集積回路(LSI)を用いて実現される。システムコントローラ110は、リード/ライト(R/W)チャネル140と、ハードディスクコントローラ(HDC)150と、マイクロプロセッサ(MPU)60とを含んでいる。システムコントローラ110は、ドライバIC120、ヘッドアンプIC130、揮発性メモリ70、バッファメモリ80、不揮発性メモリ90、及びホスト100に電気的に接続されている。
【0022】
R/Wチャネル140は、後述するMPU60からの指示に応じて、ディスクDKからホスト100に転送されるリードデータ及びホスト100から転送されるライトデータの信号処理を実行する。R/Wチャネル140は、ライトデータを変調する回路、又は機能を有している。また、R/Wチャネル140は、リードデータの信号品質を測定する回路、又は機能を有している。R/Wチャネル140は、例えば、ヘッドアンプIC130、HDC150、MPU60等に電気的に接続されている。
【0023】
HDC150は、後述するMPU60からの指示に応じて、ホスト100とR/Wチャネル140との間のデータ転送を制御する。HDC150は、例えば、R/Wチャネル140、MPU60、揮発性メモリ70、バッファメモリ80、不揮発性メモリ90等に電気的に接続されている。
【0024】
MPU60は、磁気ディスク装置1の各部を制御する制御部であり、メインコントローラである。MPU60は、ドライバIC120を介してVCM24を制御し、ヘッドHDの位置決めを行なうサーボ制御を実行する。MPU60は、ディスクDKへのデータのライト動作を制御すると共に、ホスト100から転送されるライトデータの保存先を選択する。また、MPU60は、ディスクDKからのデータのリード動作を制御すると共に、ディスクDKからホスト100に転送されるリードデータの処理を制御する。MPU60は、磁気ディスク装置1の各部に接続されている。MPU60は、例えば、ドライバIC120、R/Wチャネル140、HDC150等に電気的に接続されている。
【0025】
MPU60は、リード/ライト処理部61と、検出部62と、調整部63と、カウンタ64と、判断部65と、リフレッシュ処理部66と、を備えている。MPU60は、これら各部、例えば、リード/ライト処理部61、検出部62、調整部63、カウンタ64、判断部65、リフレッシュ処理部66等の処理をファームウェア上で実行する。なお、MPU60は、これら各部を回路として備えてもよい。
【0026】
リード/ライト処理部61は、ライト処理部61a及びリード処理部61bを有している。ホスト100からのコマンドに従って、ライト処理部61aはディスクDKの記録層Yに対するデータのライト処理を制御し、リード処理部61bはディスクDKの記録層Yからのデータのリード処理を制御する。リード/ライト処理部61は、ドライバIC120を介してVCM24を制御し、ヘッドHDをディスクDK上の目標位置(所定の半径位置)に位置決めし、リード処理又はライト処理を実行する。
【0027】
検出部62は、ディスクDKの記録層Yの状態及びヘッドHDの特性を検出することができる。例えば、検出部62は、記録層Yの状態及びヘッドHDの特性が正常であることを示す正常情報を検出することができる。検出部62は、記録層Yの状態及びヘッドHDの特性の一方が異常であることを示す異常情報を検出する場合がある。
【0028】
ディスクDKの記録層Yの状態とは、記録層Yの物理的及び磁気的な状態と、ヘッドHDの特性との両方に基づく、記録層Yのデータの読み取り易さである。
例えば、検出部62は、記録層Yのデータが復旧可能であるかどうかを検出することができる。記録層Yのデータを復旧可能であるとは、リフレッシュ処理を良好に行うことができる(記録層Yの本来のデータをリードすることができ、上記本来のデータを記録層Yにリライトすることができる)状態にあることである。記録層Yのデータを復旧不可能であるとは、リフレッシュ処理を良好に行うことができない(記録層Yの本来のデータをリードすることができない)状態にあることである。
また、検出部62は、リードする際にリードのリトライが必要であるデータであるかどうかを検出することができる。
さらに、検出部62は、リフレッシュ処理の際にリードのリトライが必要であるデータであるかどうかを検出することができる。
【0029】
検出部62がヘッドHDの特性を検出するとは、ヘッドHDのリード特性値及びライト特性値を検出することである。リード特性値はヘッドHDのリード処理の特性を示す値であり、ライト特性値はヘッドHDのライト処理の特性を示す値である。例えば、リード処理の誤り率を測定することでリード特性値を求めることができ、ライト処理の誤り率を測定することでライト特性値を求めることができる。
ヘッドHDがディスクDKに接触することでヘッドHDが損傷したり、ヘッドHDが経年劣化したりすることで、ヘッドHDの特性は変化する。そこで、検出部62は、ヘッドHDの特性(例えば、誤り率)を検出することができる。磁気ディスク装置1の使用を開始した直後(初期)にて、検出部62は、ヘッドHDの特性を検出することができる。また、磁気ディスク装置1の使用を開始した後に、検出部62は、ヘッドHDの特性を定期的に検出することができる。これにより、検出部62は、ヘッドHDの特性の悪化量を定期的に検出することができる。
【0030】
検出部62は、記録層Yのデータが復旧不可能になった場合に第1異常情報を検出することができる。
検出部62は、リード処理部61bによって記録層Yの同一のデータをリードする回数がリードリトライテーブルTL3のリードリトライ閾値を超えた場合に第2異常情報を検出することができる。例えば、リードのリトライ1回目は同じ条件でリードしたり、リードのリトライ2回目はオフセットしてリードしたりすることができる。
検出部62は、リフレッシュ処理部66によって記録層Yのデータのリードをリトライした場合に第3異常情報を検出することができる。
検出部62は、ヘッドHDの特性の悪化量αがヘッド特性テーブルTL4のヘッド特性閾値を超えた場合に第4異常情報を検出することができる。
【0031】
調整部63は、正常情報を検出した場合に、調整テーブルTL2の各々の調整値を更新せず基準テーブルTL1の各々の基準回数をライト保証回数に調整する。その場合、ライト保証回数は、基準回数と同一の数値を持っている。
調整部63は、異常情報を検出した場合に、調整テーブルTL2の複数の調整値のうち対応する調整値を更新して、対応する調整値に基づいて基準テーブルTL1の複数の基準回数のうち対応する基準回数をライト保証回数に調整する。その場合、ライト保証回数は、基準回数と異なる数値を持っている。
【0032】
例えば、検出部62で異常情報を検出した場合、更新された調整値に基づいて調整されたライト保証回数は、対応する基準回数より小さい数値である。MPU60は、異常情報を検出することでリードエラーが発生し易くなる記録層Yの領域を予想することができる。ここで、リードエラーが発生するとは、アンリカバリー状態になることである。MPU60は、複数のライト保証回数のうち、リードエラーが発生し易くなると予想される領域に対応するライト保証回数のみ、小さい数値に調整することができる。これにより、MPU60は、記録層Yのデータのリードエラーを回避しつつ、リフレッシュの発動による性能悪化を最小限にとどめることができる。
【0033】
図1及び
図4に示すように、カウンタ64は、記録層Yの対象セクタ(セクタSCav)に半径方向dr1にて隣接する隣接セクタ(セクタSCa(v-1)及びセクタSCa(v+1))にデータがライトされる毎に、対象セクタ(セクタSCav)のライト回数をカウントし、上記ライト回数を不揮発性メモリ90(記憶部)に記録する。言い換えると、カウンタ64は、対象セクタ(セクタSCav)のライト回数の合計を更新することができる。
【0034】
例えば、不揮発性メモリ90(記憶部)は、複数のカウント加算係数をさらに記憶してもよい。その場合、カウンタ64は、複数のカウント加算係数に基づいてライト回数をカウントすることができる。例えば、隣接セクタ(セクタSCa(v-1))にデータをライトした際に対象セクタ(セクタSCav)へのATI(Adjacent Track Interference:隣接トラック干渉)の影響が小さい場合、カウンタ64は、不揮発性メモリ90から「1」であるカウント加算係数を選択し、対象セクタ(セクタSCav)のライト回数を「1」回とカウントすることができる。
【0035】
図1及び
図5に示すように、一方、隣接セクタ(セクタSCa(v-1))にデータをライトした際に対象セクタ(セクタSCav)へのATIの影響が大きい場合、カウンタ64は、不揮発性メモリ90から「1.5」であるカウント加算係数を選択し、対象セクタ(セクタSCav)のライト回数を「1.5」回とカウントすることができる。
なお、セクタSCa(v-1)にデータをライトした際に、カウンタ64は、セクタSCavのライト回数の合計を例えば「1」足した値に増加させるが、セクタSCa(v-1)のライト回数の合計に関しては「1」回に更新する。
【0036】
図1に示すように、判断部65は、不揮発性メモリ90(記憶部)に記録されたライト回数の合計が上記ライト保証回数を超えたかどうか判断することができる。
図1及び
図4に示すように、リフレッシュ処理部66は、対象セクタ(セクタSCav)のライト回数の合計が上記ライト保証回数を超えた際に、リフレッシュ処理を行うことができる。すなわち、リフレッシュ処理部66は、対象セクタ(セクタSCav)の対象データをリードし、上記対象データを対象セクタにリライトし、不揮発性メモリ90(記憶部)に記録した対象セクタのライト回数を「0」回にリセットすることができる。
【0037】
図2は、磁気ディスク装置1の一部を示す斜視図であり、複数枚のディスクDK及び複数のヘッドHDを示す図である。
図2に示すように、円周方向において、ディスクDKの回転する方向を回転方向dr3と称する。なお、
図2に示した例では、回転方向は、反時計回りで示しているが、逆向き(時計回り)であってもよい。また、ディスクDKに対するヘッドHDの進行方向dr2は、回転方向dr3と逆向きである。進行方向dr2は、円周方向においてディスクDKに対してヘッドHDがデータをシーケンシャルにライト及びリードする方向、つまり、円周方向においてディスクDKに対してヘッドHDが進行する方向である。また、ディスクDKの半径方向dr1において、ディスクDKの外周に向かう方向を外方向(外側)と称し、外方向と反対方向を内方向(内側)と称する。
【0038】
磁気ディスク装置1は、ディスクDK1乃至ディスクDKiのi枚のディスクと、ヘッドHD1乃至ヘッドHDjのj個のヘッドと、を備えている。本実施形態において、ヘッドHDの個数は、ディスクDKの枚数の2倍である(j=2・i)。
ディスクDK1乃至DKiは、同軸に設けられ、互いに間隔を置いて重ねられている。ディスクDK1乃至DKiの直径は、同じである。ここで、“同じ”、“同一”、“一致”、“同等”などの用語は、全く同じという意味はもちろん、実質的に同じであると見做せる程度に異なるという意味を含んでいる。なお、ディスクDK1乃至DKiの直径は、互いに異なってもよい。
【0039】
各々のディスクDKは、両側に記録層Yを有している。例えば、ディスクDK1は、第1記録層Ya1と、第1記録層Ya1の反対側の第2記録層Yb1と、を有している。ディスクDK2は、第1記録層Ya2と、第1記録層Ya2の反対側の第2記録層Yb2と、を有している。ディスクDKiは、第1記録層Yaiと、第1記録層Yaiの反対側の第2記録層Ybiと、を有している。各々の第1記録層Yaは、表面又は記録面と称される場合もある。各々の第2記録層Ybは、裏面又は記録面と称される場合もある。
【0040】
上述したように、本実施形態の磁気ディスク装置1は、通常記録型式の磁気ディスク装置である。そのため、各々の記録層Yのユーザデータ領域Uは、通常記録領域である。通常記録型式の磁気ディスク装置において、ユーザデータ領域U内でランダムにデータをライトすることが許可されている、つまり、通常記録が許可されている。
【0041】
各々の記録層Yは、ユーザデータ領域U及びシステム領域Sを有している。
第1記録層Ya1は、ユーザデータ領域Ua1及びシステム領域Sa1を有している。
第2記録層Yb1は、ユーザデータ領域Ub1及びシステム領域Sb1を有している。
第1記録層Ya2は、ユーザデータ領域Ua2及びシステム領域Sa2を有している。
第2記録層Yb2は、ユーザデータ領域Ub2及びシステム領域Sb2を有している。
第1記録層Yaiは、ユーザデータ領域Uai及びシステム領域Saiを有している。
第2記録層Ybiは、ユーザデータ領域Ubi及びシステム領域Sbiを有している。
【0042】
ユーザデータ領域Ua1(第1記録層Ya1)のうち、図中二重の破線で挟まれたトラックをトラックTa1とする。ユーザデータ領域Ub1(第2記録層Yb1)のうち、トラックTa1の反対側に位置するトラックをトラックTb1とする。
ユーザデータ領域Ua2(第1記録層Ya2)のうち、図中二重の破線で挟まれたトラックをトラックTc1とする。ユーザデータ領域Ub2(第2記録層Yb2)のうち、トラックTc1の反対側に位置するトラックをトラックTd1とする。
ユーザデータ領域Uai(第1記録層Yai)のうち、図中二重の破線で挟まれたトラックをトラックTe1とする。ユーザデータ領域Ubi(第2記録層Ybi)のうち、トラックTe1の反対側に位置するトラックをトラックTf1とする。
本実施形態において、トラックTa1,Tb1,Tc1,Td1,Te1,Tf1は、同一のシリンダに位置している。
【0043】
ヘッドHDは、ディスクDKに対向している。本実施形態において、ディスクDKの各記録層Yには、1個のヘッドHDが対向している。例えば、ヘッドHD1は、ディスクDK1の第1記録層Ya1に対向し、第1記録層Ya1にデータをライトし、第1記録層Ya1からデータをリードする。ヘッドHD2は、ディスクDK1の第2記録層Yb1に対向し、第2記録層Yb1にデータをライトし、第2記録層Yb1からデータをリードする。ヘッドHD3は、ディスクDK2の第1記録層Ya2に対向し、第1記録層Ya2にデータをライトし、第1記録層Ya2からデータをリードする。ヘッドHD4は、ディスクDK2の第2記録層Yb2に対向し、第2記録層Yb2にデータをライトし、第2記録層Yb2からデータをリードする。ヘッドHDj-1は、ディスクDKiの第1記録層Yaiに対向し、第1記録層Yaiにデータをライトし、第1記録層Yaiからデータをリードする。ヘッドHDjは、ディスクDKiの第2記録層Ybiに対向し、第2記録層Ybiにデータをライトし、第2記録層Ybiからデータをリードする。
【0044】
図3は、通常記録処理が行われる複数のトラックの一部を示す模式図である。
図3に示すように、ディスクDK1の第1記録層Ya1は、半径方向dr1に並んだトラックTa1、トラックTa2、トラックTa3、…、トラックTa(v-1)、トラックTav、トラックTa(v+1)等を有している。図中、トラックTa1はディスクDK1の最も外周OD側に位置し、トラックTa(v+1)はディスクDK1の最も内周ID側に位置している。
【0045】
トラックTa1は、半径方向dr1にトラック幅W1を有し、半径方向dr1の中心にトラックセンタC1を有している。トラックTa1と同様に、トラックTa2はトラック幅W2及びトラックセンタC2を有し、トラックTa3はトラック幅W3及びトラックセンタC3を有し、トラックTa(v-1)はトラック幅W(v-1)及びトラックセンタC(v-1)を有し、トラックTavはトラック幅Wv及びトラックセンタCvを有し、トラックTa(v+1)はトラック幅W(v+1)及びトラックセンタC(v+1)を有している。トラック幅W1乃至W(v+1)は、同一である。但し、トラック幅W1乃至W(v+1)は、互いに異なってもよい。
【0046】
トラックTa1乃至Ta(v+1)は、半径方向dr1にピッチ(通常記録トラックピッチ)Ptで配置されている。例えば、トラックセンタC1とトラックセンタC2とは半径方向dr1にピッチPtで離れ、トラックセンタC2とトラックセンタC3とは半径方向dr1にピッチPtで離れている。また、トラックセンタC(v-1)とトラックセンタCvとは半径方向dr1にピッチPtで離れ、トラックセンタCvとトラックセンタC(v+1)とは半径方向dr1にピッチPtで離れている。なお、トラックTa1乃至Ta(v+1)は、それぞれ、半径方向dr1に異なるピッチで配置されてもよい。
【0047】
通常記録型式の磁気ディスク装置において、記憶容量を増大させるためにピッチPtを狭く設計することで高密度化を図ることができる。
【0048】
また、
図3に示した例では、トラックTa1乃至Ta(v+1)は、それぞれ、半径方向dr1にギャップgを置いて配置されている。例えば、トラックTa1及びトラックTa2は半径方向dr1にギャップgで離れ、トラックTa2及びトラックTa3は、半径方向dr1にギャップgで離れている。また、トラックTa(v-1)及びトラックTavは半径方向dr1にギャップgで離れ、トラックTav及びトラックTa(v+1)は半径方向dr1にギャップgで離れている。なお、トラックTa1乃至Ta(v+1)は、互いに異なるギャップを置いて配置されてもよい。
【0049】
図3では、説明の便宜上、各トラックTaを長方形状に示しているが、実際には、各トラックTaは円周方向に沿って湾曲している。また、各トラックは、半径方向dr1に変動しながら円周方向に延出している波状であってもよい。
【0050】
通常のライト処理を実行する際、ライト処理部61aは、ヘッドHD1をトラックセンタC1に位置決めしてデータをトラックTa1にライトし、ヘッドHD1をトラックセンタC2に位置決めしてデータをトラックTa2にライトし、ヘッドHD1をトラックセンタC3に位置決めしてデータをトラックTa3にライトし、ヘッドHD1をトラックセンタC(v-1)に位置決めしてデータをトラックTa(v-1)にライトし、ヘッドHD1をトラックセンタCvに位置決めしてデータをトラックTavにライトし、ヘッドHD1をトラックセンタC(v+1)に位置決めしてデータをトラックTa(v+1)にライトする。
【0051】
図3に示した例では、ライト処理部61aは、トラックTa1乃至Ta(v+1)にシーケンシャルにライト処理を実行してもよく、トラックTa1乃至Ta(v+1)のそれぞれの所定のセクタにランダムにライト処理を実行してもよい。
【0052】
図4は、磁気ディスク装置1のうち半径方向dr1に並んだ3つのセクタSCa(v-1),SCav,SCa(v+1)を示す概略図であり、セクタSCavへのATI影響が小さい場合を説明するための図である。
図5は、上記3つのセクタSCa(v-1),SCav,SCa(v+1)を示す概略図であり、セクタSCavへのATI影響が大きい場合を説明するための図である。
【0053】
図4及び
図5において、セクタSCavを対象とするデータのライト処理が行われた領域に斜線を付し、セクタSCa(v-1)を対象とするデータのライト処理が行われた領域及びセクタSCa(v+1)を対象とするデータのライト処理が行われた領域にドットパターンを付している。
【0054】
図4及び
図5に示すように、トラックTavは、セクタSCavを有している。トラックTa(v-1)は、半径方向dr1にセクタSCavに隣接したセクタSCa(v-1)を有している。トラックTa(v+1)は、半径方向dr1にセクタSCavに隣接したセクタSCa(v+1)を有している。
【0055】
以下、トラックTavを対象トラックTavと称し、トラックTa(v-1)を隣接トラックTa(v-1)と称し、トラックTa(v+1)を隣接トラックTa(v+1)と称する。隣接トラックTa(v+1)は、対象トラックTavより内側に位置した内側隣接トラックである。隣接トラックTa(v-1)は、対象トラックTavより外側に位置した外側隣接トラックである。
【0056】
また、セクタSCavを対象セクタSCavと称し、セクタSCa(v-1)を隣接セクタSCa(v-1)と称し、セクタSCa(v+1)を隣接セクタSCa(v+1)と称する。隣接セクタSCa(v+1)は、半径方向dr1に対象セクタSCavに隣接する内側隣接セクタである。隣接セクタSCa(v-1)は、半径方向dr1に対象セクタSCavに隣接する外側隣接セクタである。
【0057】
図4に示すように、隣接セクタSCa(v-1)にデータのライト処理が行われたり、隣接セクタSCa(v+1)にデータのライト処理が行われたりしても、対象セクタSCavのデータへのATI影響が小さい場合がある。
【0058】
図5に示すように、しかしながら、隣接セクタSCa(v-1)を対象とするデータのライト処理が行われたり、隣接セクタSCa(v+1)を対象とするデータのライト処理が行われたりすると、対象セクタSCavのデータ又はその近傍の領域へのATI影響が大きくなる場合もある。
【0059】
さらに、隣接セクタSCa(v-1),SCa(v+1)にデータのライトが何回も行われる場合、都度、対象セクタSCavのうち隣接セクタSCa(v-1),SCa(v+1)との境界近傍にもデータがライト(オーバーライト)される。隣接セクタSCa(v-1),SCa(v+1)へのライトの回数が多くなると、対象セクタSCavの本来の対象データをリードできなくなる恐れがある。
【0060】
上述したことから、磁気ディスク装置1は、ATI影響を考慮し、隣接セクタSCa(v-1),SCa(v+1)へのライト回数の合計がライト保証回数を超えた場合にATIリフレッシュ動作と呼ばれるリフレッシュ処理を実施している。対象セクタSCavをリフレッシュする処理は、対象セクタSCavのデータをリードし、リードしたデータを対象セクタSCavにリライトする処理である。これにより、ATI影響による対象セクタSCavの本来の対象データをリードできなくなる事態を事前に回避することができる。
【0061】
図6は、磁気ディスク装置1のディスクDKの記録層Yを示す平面図であり、記録層Yに傷SRがついている状態を示す図である。
図6に示すように、記録層Yは、全体的に同一の特性を持っている状態が理想である。しかしながら、実際は、記録層Yに傷SRがついていたり、記録層Yを構成する各層が全体的に均一な厚みになるように形成されていなかったりし、記録層Yにて物理的な状態にばらつき(面ムラ)が生じていることが分かる。
【0062】
図7は、
図1に示した基準テーブルTL1の一部を示す図であり、第1記録層Ya1に対応する複数の基準回数等を示す図である。
図7に示すように、第1記録層Ya1は、半径方向dr1及び円周方向(トラック方向)の少なくとも一方の方向にm個に区分されている。第1記録層Ya1は、m個の領域である複数の区分領域Adを含んでいる。本実施形態において、第1記録層Ya1は、半径方向dr1及び円周方向(トラック方向)にm個に区分されている。
【0063】
第1記録層Ya1は、半径方向dr1にて、ゾーン0からゾーンxまでのx+1個のゾーンに分割されている。第1記録層Ya1は、トラック方向(円周方向)にて、分割1から分割pまでのp個の領域に分割されている。そのため、m=(x+1)×pである。なお、上記pは自然数であればよい(p≧1)。
【0064】
基準テーブルTL1が持つ第1記録層Ya1に対応する複数の基準回数は、m個あり、複数の区分領域Adに一対一で対応している。例えば、第1記録層Ya1のゾーン0のうち分割1に属する区分領域Adに対応する基準回数は、「1503」回である。
【0065】
第1記録層Ya1に対応する複数の基準回数の値は、同一ではない。何故なら、磁気ディスク装置1の製造時において、第1記録層Ya1の面内にて物理的な状態にばらつきが生じているためである。複数の基準回数の値は、製造時に第1記録層Ya1のうち一部のゾーンのATI耐力を測定した結果を反映したものである。基準テーブルTL1は、製造時に設定されたテーブルである。複数の基準回数の値は、全てのゾーンのATI耐力を測定した結果を反映したものではない。上述した例において、ゾーン3乃至ゾーンx-1のATI耐力は測定していない。
【0066】
例えば、第1記録層Ya1のゾーン0の複数のトラック全体(一部のトラックの全周)のATI耐力を測定することで、ゾーン0のp個の区分領域Adに基準回数を独立して設定することができる。同様に、第1記録層Ya1のゾーン1の複数のトラック全体(一部のトラックの全周)のATI耐力を測定することで、ゾーン1のp個の区分領域Adに基準回数を独立して設定することができ、第1記録層Ya1のゾーン2の複数のトラック全体(一部のトラックの全周)のATI耐力を測定することで、ゾーン2のp個の区分領域Adに基準回数を独立して設定することができ、第1記録層Ya1のゾーンxの複数のトラック全体(一部のトラックの全周)のATI耐力を測定することで、ゾーンxのp個の区分領域Adに基準回数を独立して設定することができる。
ゾーン3乃至ゾーン(x-1)の基準回数については、基準回数を半径方向dr1に直線的に変化させることで設定することができる。例えば、第1記録層Ya1の分割1に注目した場合、ゾーン2の分割1の基準回数「1488」から、ゾーンxの分割1の基準回数「1202」まで半径方向dr1に基準回数を次第に減少させることで、ゾーン3の分割1の基準回数からゾーン(x-1)の分割1までの基準回数を設定することができる。
【0067】
ATI耐力とは、ATIに対する耐久力である。トラックのATI耐力を測定することで、上記トラックにリードエラーが発生する可能性のあるライト回数を求めることができる。磁気ディスク装置1のMPU60に最初に電源が投入されるタイミングにおいて、
図7の基準回数はライト保証回数と同値であり、
図7の基準回数をライト保証回数としてそのまま使用することになる。
図7の基準回数をライト保証回数として使用し続ける場合を仮定すると、リードエラーが発生する可能性がある。何故なら、
図7の基準回数は、(1)第1記録層Ya1の面ムラ、(2)不良セクタとして登録されない軽微な傷や突起、(3)磁気ディスク装置1の製造終了後に第1記録層Ya1につく傷、(4)経年劣化、(5)第1記録層Ya1のうちマージナルな領域の集中的な使用等をカバーすることが困難なためである。ここで、マージナルな領域とは、ライト保証回数に到達する寸前の領域であり、リフレッシュ処理が間に合う寸前の領域であり、不良になり易い領域である。マージナルな領域のセクタは、ダメージを受けることで不良セクタになり易い。例えば、マージナルな領域に集中的にリード処理を行った場合、上記領域は物理的にダメージを受ける。マージナルな領域に集中的にライト処理を行った場合、上記領域は磁気的及び物理的にダメージを受ける。
【0068】
図8は、
図1に示した調整テーブルTL2の一部を示す図であり、第1記録層Ya1に対応する複数の調整値等を示す図である。
図8に示すように、第1記録層Ya1は、半径方向dr1及び円周方向(トラック方向)の少なくとも一方の方向にn個に区分されている。第1記録層Ya1は、n個の領域である複数の調整領域Aaを含んでいる。本実施形態において、第1記録層Ya1は、半径方向dr1及び円周方向(トラック方向)にn個に区分されている。上記nは、上記mより大きい数値である(n>m)。
【0069】
第1記録層Ya1は、半径方向dr1にて、ゾーン0からゾーンxまでのx+1個のゾーンに分割されている。各々のゾーンは、さらに、半径方向dr1にて、分割Div0から分割Divkまでのk+1個の領域に分割されている。第1記録層Ya1は、トラック方向(円周方向)にて、分割1から分割qまでのq個の領域に分割されている。そのため、n={(x+1)×(k+1)}×qである。なお、上記qは整数であり、上記p以上の数値である(q≧p)。
【0070】
調整テーブルTL2が持つ第1記録層Ya1に対応する複数の調整値は、n個あり、複数の調整領域Aaに一対一で対応している。磁気ディスク装置1のMPU60に最初に電源が投入されるタイミングにおいて、調整テーブルTL2が持つ全ての調整値は、同一であり、「1.00」である。そのため、
図8の例において、調整値は、一律「1.00」に初期設定されている。
【0071】
上述したように、磁気ディスク装置1は調整テーブルTL2を有し、調整テーブルTL2は、基準テーブルTL1より分解能が高い。言い換えると、調整テーブルTL2は、第1記録層Ya1を基準テーブルTL1より細かく分けている。
【0072】
MPU60に最初に電源が投入されるタイミング以降において、調整部63は、調整テーブルTL2の複数の調整値を更新することができる。検出部62が上記第1異常情報、上記第2異常情報、上記第3異常情報、及び上記第4異常情報を検出した際、調整部63は、調整テーブルTL2のうち対応する一以上の調整値を更新することができる。そのため、基準テーブルTL1の基準回数が調整される場合と比較し、第1記録層Ya1のライト保証回数を細かく調整することができ、リフレッシュが必要以上に発動する事態を低減することができる。また、各種の異常情報に基づいてライト保証回数を調整することができるため、記録層Yのデータのリードエラーを抑制することができる。
【0073】
次に、検出部62が、第1乃至第4異常情報を検出した場合について説明する。
図9は、磁気ディスク装置1のディスクDK1の第1記録層Ya1の一部を示す図であり、一以上の調整領域Aaに特定の範囲RAが重なっている状態を示す図である。
【0074】
まず、検出部62が、第2異常情報を検出した場合について説明する。
図9及び
図1に示すように、不揮発性メモリ90(記憶部)は、重み係数、長さr、及び幅lをさらに記憶している。例えば、重み係数は第2重み係数bであり、長さrは第2長さr2であり、幅lは第2幅l2である。範囲RAは、重心CEを持っている。範囲RAは、例えば第2範囲RA2である。第2範囲RA2は、第1記録層Ya1のうち、半径方向dr1に第2長さr2を持ち、円周方向(トラック方向)に第2幅l2を持つ範囲である。
【0075】
検出部62は、重度リードリトライを検出することができる。重度リードリトライとは、リード処理のリトライ回数が閾値(リードリトライ閾値)を超えることである。リードリトライは、トラックにライトされたデータが、トラックセンタを中心にライトされていなかった場合に起こる。初回のリード処理に失敗した場合、まず、ヘッドHDをオフセットせずに1回目のリードリトライが行われる。1回目のリードリトライでもリード処理に失敗した場合、ヘッドHDをオフセットしヘッドHDの位置を変えながら2回目以降のリードリトライが行われる。そのように、リード処理の条件を変えたりしてリードリトライが試される。特定回数、リードリトライを試してもリード処理に失敗した場合、特殊な復旧リードが試される。特殊な復旧リードを試してもリード処理に失敗した場合、すなわち、リード処理のリトライ回数がリードリトライ閾値を超えた場合、記録層Yのデータは復旧不可能になる。
【0076】
例えば、検出部62は、対象セクタSCavの対象データをリードする回数がリードリトライテーブルTL3のリードリトライ閾値を超えたことを示す第2異常情報を検出する。その場合、調整部63は、第2範囲RA2の重心CEが対象セクタSCavに位置するように第2範囲RA2を位置決めする。そして、調整部63は、複数の調整領域Aaのうち第2範囲RA2に重なった全ての調整領域Aaに対応する全ての調整値に第2重み係数bを掛け、第2重み係数bを掛けた各々の調整値を第2調整値に更新する。
【0077】
本実施形態において、対象セクタSCavの位置は、「HD1」のヘッド番号と、「1000」のトラック番号(シリンダ番号)と、「200」のトラック分割(セクタ番号)と、の組合せで表されるアドレスに位置している。
【0078】
対象セクタSCavにて重度リードリトライが発生した場合、調整部63は、対象セクタSCavを中心に半径方向dr1及び円周方向に拡張した第2範囲RA2に重なった全ての調整領域Aaの各々の調整値を第2調整値に更新することができる。
【0079】
図9に示す例では、範囲RA(第2範囲RA2)は、第1記録層Ya1のゾーン0のうち、分割Div0の分割1、分割2、及び分割3に属する3つの調整領域Aaと、分割Div1の分割1、分割2、及び分割3に属する3つの調整領域Aaと、の計6つの調整領域Aaに重なっている。図中、6つの調整領域Aaにはドットパターンを付している。
【0080】
調整部63は、6つの調整領域Aaに対応する調整値を第2調整値に更新する。初期状態において調整値は「1.00」であるため、第2調整値は、初期状態の調整値をb倍して更新された値である。すなわち、第2調整値=(初期状態の調整値である1.00)×第2重み係数であるb=bである。調整部63は、6つの調整領域Aaに対応する第2調整値のみbに更新することができる。なお、調整部63は、残りの調整領域Aaに対応する調整値を更新せず、上記調整値を「1.00」のままとする。
【0081】
例えば、対象セクタSCavにて重度リードリトライが発生した場合、調整部63は、調整値を第2調整値に更新することができる。これにより、対象セクタSCavの周辺領域にて重度リードリトライの発生を抑制することができる。
【0082】
次に、検出部62が、第1異常情報を検出した場合について説明する。
図9及び
図1に示すように、例えば、不揮発性メモリ90(記憶部)は、第1重み係数a、第1長さr1、及び第1幅l1をさらに記憶している。例えば、重み係数は第1重み係数aであり、長さrは第1長さr1であり、幅lは第1幅l1であり、範囲RAは第1範囲RA1である。第1範囲RA1は、第1記録層Ya1のうち、半径方向dr1に第1長さr1を持ち、円周方向(トラック方向)に第1幅l1を持つ範囲である。
【0083】
検出部62は、アンリカバリー状態になったセクタを検出することができる。ここで、アンリカバリー状態とは、記録層Yのデータが復旧不可能になった状態を言う。記録層Yのデータを復旧不可能であるとは、リフレッシュ処理を良好に行うことができない(記録層Yの本来のデータをリードすることができない)状態にあることである。
例えば、検出部62は、対象セクタSCavの対象データが復旧不可能になったことを示す第1異常情報を検出する。その場合、調整部63は、第1範囲RA1の重心CEが対象セクタSCavに位置するように第1範囲RA1を位置決めする。そして、調整部63は、複数の調整領域Aaのうち第1範囲RA1に重なった全ての調整領域Aaに対応する全ての調整値に第1重み係数aを掛け、第1重み係数aを掛けた各々の調整値を第1調整値に更新する。
【0084】
対象セクタSCavにてリードエラーが発生した場合、調整部63は、対象セクタSCavを中心に半径方向dr1及び円周方向に拡張した第1範囲RA1に重なった全ての調整領域Aaの各々の調整値を第1調整値に更新することができる。
【0085】
調整部63は、第1範囲RA1に重なった調整領域Aaに対応する調整値を第1調整値に更新する。初期状態において調整値は「1.00」であるため、第1調整値は、初期状態の調整値をa倍して更新された値である。すなわち、第1調整値=(初期状態の調整値である1.00)×第1重み係数であるa=aである。調整部63は、第1範囲RA1に重なった調整領域Aaに対応する調整値のみaに更新することができる。なお、調整部63は、残りの調整領域Aaに対応する調整値を更新せず、上記調整値を「1.00」のままとする。
【0086】
例えば、対象セクタSCavがアンリカバリー状態になった場合、以降、対象セクタSCavをリード処理及びライト処理の対象から除外し、対象セクタSCavはスペア領域の代替セクタに交替される。対象セクタSCavを復旧することはできないが、調整部63は、調整値を第1調整値に更新することができる。これにより、対象セクタSCavの周辺領域にてアンリカバリー状態になるセクタの発生を抑制することができる。例えば、対象セクタSCavが
図6の傷SRが付いている領域にある場合、傷SRが付いている領域の他のセクタがアンリカバリー状態になることを抑制することができる。ディスクDKの傷は、磁気ディスク装置1の使用初期に既に付いている傷SRや、磁気ディスク装置1の使用を開始した後に付く傷を挙げることができる。
対象セクタSCavの周辺領域がアンリカバリー状態になり易い原因は傷以外も考えられる。例えば、ヘッドHDの特性が劣化し、記録層Yのデータのリードが全体的に難くなる場合が考えられる。その場合、記録層Yのうち元々の特性が良好ではなかった領域は、アンリカバリー状態になり易くなる。
又は、ライト処理が記録層Yの特定の領域に集中する場合が考えられる。
【0087】
次に、検出部62が、第3異常情報を検出した場合について説明する。
図9及び
図1に示すように、例えば、不揮発性メモリ90(記憶部)は、第3重み係数c、第3長さr3、及び第3幅l3をさらに記憶している。例えば、重み係数は第3重み係数cであり、長さrは第3長さr3であり、幅lは第3幅l3であり、範囲RAは第3範囲RA3である。第3範囲RA3は、第1記録層Ya1のうち、半径方向dr1に第3長さr3を持ち、円周方向(トラック方向)に第3幅l3を持つ範囲である。
【0088】
検出部62は、リフレッシュ処理中にリードリトライが発生したことを検出することができる。例えば、検出部62が、対象セクタSCavの対象データのリードをリトライしたことを示す第3異常情報を検出する。その場合、調整部63は、第3範囲RA3の重心CEが対象セクタSCavに位置するように第3範囲RA3を位置決めする。そして、調整部63は、複数の調整領域Aaのうち第3範囲RA3に重なった全ての調整領域Aaに対応する全ての調整値に第3重み係数cを掛け、第3重み係数cを掛けた各々の調整値を第3調整値に更新する。
【0089】
対象セクタSCavのリフレッシュ処理中にリードリトライが発生した場合、調整部63は、対象セクタSCavを中心に半径方向dr1及び円周方向に拡張した第3範囲RA3に重なった全ての調整領域Aaの各々の調整値を第3調整値に更新することができる。
【0090】
調整部63は、第3範囲RA3に重なった調整領域Aaに対応する調整値を第3調整値に更新する。初期状態において調整値は「1.00」であるため、第3調整値は、初期状態の調整値をc倍して更新された値である。すなわち、第3調整値=(初期状態の調整値である1.00)×第3重み係数であるc=cである。調整部63は、第3範囲RA3に重なった調整領域Aaに対応する調整値のみcに更新することができる。なお、調整部63は、残りの調整領域Aaに対応する調整値を更新せず、上記調整値を「1.00」のままとする。
【0091】
例えば、対象セクタSCavのリフレッシュ処理中にリードリトライが発生した場合、調整部63は、調整値を第3調整値に更新することができる。これにより、対象セクタSCavの周辺領域にてリフレッシュ処理中のリードリトライの発生を抑制することができる。例えば、対象セクタSCavが
図6の傷SRが付いている領域にある場合、傷SRが付いている領域の他のセクタにてリフレッシュ処理中のリードリトライの発生を抑制することができる。
【0092】
ライト保証回数は、基準テーブルTL1の基準回数を調整テーブルTL2の調整値で割った数値である。上記第1調整値に基づいて調整されたライト保証回数を第1ライト保証回数とする。上記第3調整値に基づいて調整されたライト保証回数を第3ライト保証回数とする。すると、例えば、第1ライト保証回数は、第3ライト保証回数より少なくともよい。その場合、第1重み係数aと第3重み係数cとの関係は、a>c>+1.00となる。
但し、第1重み係数aと第3重み係数cとの大小関係や、第1ライト保証回数と第3ライト保証回数との大小関係は、上記の例に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【0093】
次に、検出部62が、第4異常情報を検出した場合について説明する。
図9及び
図1に示すように、例えば、不揮発性メモリ90(記憶部)は、第4重み係数d、第4長さr4、及び第4幅l4をさらに記憶している。例えば、重み係数は第4重み係数dであり、長さrは第4長さr4であり、幅lは第4幅l4であり、範囲RAは第4範囲RA4である。第4範囲RA4は、第1記録層Ya1のうち、半径方向dr1に第4長さr4を持ち、円周方向(トラック方向)に第4幅l4を持つ範囲である。
【0094】
検出部62は、ヘッドHDでのエラーを検出することができる。例えば、検出部62が、ヘッドHD1の特性の悪化量がヘッド特性テーブルTL4のヘッド特性閾値を超えたことを示す第4異常情報を検出する。その場合、調整部63は、第4範囲RA4の重心CEが特定のセクタSCaに位置するように第4範囲RA4を位置決めする。そして、調整部63は、複数の調整領域Aaのうち第4範囲RA4に重なった全ての調整領域Aaに対応する全ての調整値に第4重み係数dを掛け、第4重み係数dを掛けた各々の調整値を第4調整値に更新する。
【0095】
検出部62は、一定期間毎にヘッドHDの特性を知るための測定からヘッドHDでのエラーを検出することができる。
【0096】
ヘッドHD1でエラーが発生した場合、調整部63は、特定のセクタSCaを中心に半径方向dr1及び円周方向に拡張した第4範囲RA4に重なった全ての調整領域Aaの各々の調整値を第4調整値に更新することができる。
【0097】
調整部63は、第4範囲RA4に重なった調整領域Aaに対応する調整値を第4調整値に更新する。初期状態において調整値は「1.00」であるため、第4調整値は、初期状態の調整値をd倍して更新された値である。すなわち、第4調整値=(初期状態の調整値である1.00)×第4重み係数であるd=dである。調整部63は、第4範囲RA4に重なった調整領域Aaに対応する調整値のみdに更新することができる。なお、調整部63は、残りの調整領域Aaに対応する調整値を更新せず、上記調整値を「1.00」のままとする。
【0098】
本実施形態において、第4範囲RA4は、第1記録層Ya1の全ての調整領域Aaに重ねられている。そのため、検出部62が、第4異常情報を検出した場合、調整部63は、調整テーブルTL2の全ての調整値を第4調整値に更新することができる。上述したことから、ヘッドエラーの発生を抑制することができる。なお、本実施形態において、第1範囲RA1乃至第4範囲RA4のうち、第4範囲RA4が最も大きい。
【0099】
ここで、ヘッドHDの特性の悪化量をαとする。上記第4調整値に基づいて調整されたライト保証回数を第4ライト保証回数とする。第4ライト保証回数は、基準テーブルTL1の基準回数を、第4調整値(例えば、d)と上記αとの積で割った数値である。
【0100】
上述したように、検出部62が第1乃至第4異常情報を検出する毎に、調整部63は、調整値を更新することができる。例えば、調整値を第1調整値である「a」に更新済みである調整領域Aaにて再び検出部62が第1異常情報を検出した場合、調整部63は、第1調整値である「a」に第1重み係数aを掛け、第1調整値を「a2」にさらに更新することができる。
そして、異常が発生した領域の周辺にてリフレッシュを発動させる時期を早めることができるため、第1記録層Ya1のデータのリードエラーを回避することができる。
本実施形態の磁気ディスク装置1は上述したように構成されている。
【0101】
次に、リフレッシュ処理方法について説明する。
図10及び
図11は、磁気ディスク装置1に適用されるリフレッシュ処理方法を説明するためのフローチャートである。
図10、
図1、及び
図4に示すように、リフレッシュ処理方法を開始すると、まず、ステップSt1において、ライト処理部61aはセクタSCa(v-1)にライト処理を行い、ステップSt2において、検出部62はライト処理を行ったセクタSCa(v-1)の情報を取得する。続いて、ステップSt3において、カウンタ64はライトカウンタ値を取得し、ステップSt4において、調整部63は調整テーブルTL2から調整値(ATI加算値)を取得する。
【0102】
次いで、ステップSt5において、カウンタ64は、基準テーブルTL1から基準回数を取得し、不揮発性メモリ90(記憶部)からカウント加算係数を取得する。これにより、ステップSt6において、カウンタ64は、セクタSCavのライト回数を上述したように「1.0」回、「1.5」回等とカウントし、セクタSCavのライト回数の合計(ライトカウント値)を更新する。
【0103】
図11、
図1、及び
図4に示すように、その後、ステップSt7において、セクタSCavのライト回数の合計がライト保証回数(基準回数を調整値で割った数値)を超えたかどうか判断する。ライト回数の合計がライト保証回数を超えていない場合(ステップSt7)、リフレッシュを発動せずにリフレッシュ処理方法を終了する。
【0104】
一方、ライト回数の合計がライト保証回数を超えている場合(ステップSt7)、ステップSt8に移行し、ステップSt8において、リフレッシュ処理部66はライト回数をカウントしたセクタSCaの情報を取得する。続いて、ステップSt9において、リフレッシュ処理部66は、リードベリファイを実施し、セクタSCaにリライトするためのデータを取得する。そして、ステップSt10において、リフレッシュ処理部66は、セクタSCaにセクタSCaの本来のデータをリライトする。
【0105】
その後、ステップSt10において、リフレッシュ処理部66は、不揮発性メモリ90(記憶部)に記録したセクタSCaのライト回数を「0」回にリセットし、リフレッシュ処理方法を終了する。セクタSCaのライト回数の合計も「0」回となる。上述したように、ライト回数の合計がライト保証回数を超えている場合、リフレッシュを発動してリフレッシュ処理方法を終了することができる。
【0106】
次に、ライト保証回数の調整方法について説明する。
図12は、磁気ディスク装置1に適用されるライト保証回数の調整方法を説明するためのフローチャートである。
図12及び
図1に示すように、イベントが発生し、ライト保証回数の調整方法を開始すると、まず、ステップSp1において、調整テーブルTL2の調整値は「1.00」であり、範囲RAは設定されていない。続いて、ステップSp2において、検出部62が第1異常情報を検出したかどうか判断する。
【0107】
検出部62が第1異常情報を検出した場合(ステップSp2)、ステップSp3に移行し、ステップSp3において、調整部63は、重み係数を第1重み係数aに更新し、長さrを第1長さr1に更新し、幅lを第1幅l1に更新し、ステップSp10に移行する。
一方、検出部62が第1異常情報を検出しなかった場合(ステップSp2)、ステップSp4に移行し、ステップSp4において、検出部62が第2異常情報を検出したかどうか判断する。
【0108】
検出部62が第2異常情報を検出した場合(ステップSp4)、ステップSp5に移行し、ステップSp5において、調整部63は、重み係数を第2重み係数bに更新し、長さrを第2長さr2に更新し、幅lを第2幅l2に更新し、ステップSp10に移行する。
一方、検出部62が第2異常情報を検出しなかった場合(ステップSp4)、ステップSp6に移行し、ステップSp6において、検出部62が第3異常情報を検出したかどうか判断する。
【0109】
検出部62が第3異常情報を検出した場合(ステップSp6)、ステップSp7に移行し、ステップSp7において、調整部63は、重み係数を第3重み係数cに更新し、長さrを第3長さr3に更新し、幅lを第3幅l3に更新し、ステップSp10に移行する。
一方、検出部62が第3異常情報を検出しなかった場合(ステップSp6)、ステップSp8に移行し、ステップSp8において、検出部62が第4異常情報を検出したかどうか判断する。
【0110】
検出部62が第4異常情報を検出した場合(ステップSp8)、ステップSp9に移行し、ステップSp9において、調整部63は、重み係数を第4重み係数dに更新し、長さrを第4長さr4に更新し、幅lを第4幅l4に更新し、ステップSp10に移行する。
一方、検出部62が第4異常情報を検出しなかった場合(ステップSp8)、ステップSp10に移行する。
【0111】
次いで、ステップSp10において、調整部63は、イベントが発生した個所周辺の範囲RA内の全ての調整値を抽出する。その後、ステップSp11において、調整部63は、抽出した全ての調整値を「a」、「b」、「c」、又は「d」に更新する。これにより、ライト保証回数の調整方法を終了する。なお、検出部62が第1乃至第4異常情報の何れも検出しなかった場合(ステップSp8)、ステップSp10に移行せず、ライト保証回数の調整方法をそのまま終了してもよい。
【0112】
上記のように構成された磁気ディスク装置1及びライト保証回数の調整方法によれば、磁気ディスク装置1は、複数の基準回数を持つ基準テーブルTL1を備えている。基準回数をライト保証回数として使用し続けた場合、ATIリフレッシュ動作が間に合わなくなる恐れがある。
【0113】
そこで、磁気ディスク装置1は、複数の調整値を持つ調整テーブルTL2をさらに備えている。調整テーブルTL2は、基準テーブルTL1より分解能が高い。磁気ディスク装置1の製造が終了した後であり、ユーザが磁気ディスク装置1を使用中である期間に、検出部62が検出した第1乃至第4異常情報に基づいて、調整部63は、調整テーブルTL2を更新し、ライト保証回数を調整することができる。調整部63は、記録層Yの細分化された領域(調整領域Aa)毎にライト保証回数を独立して調整することができる。第1乃至第4異常情報の何れか一が検出された際、調整部63は、複数の調整領域Aaのうち範囲RAに重なった全ての調整領域Aaのライト保証回数を調整することができる。
調整部63は、リードエラーが発生し易い領域(調整領域Aa)のみ、リフレッシュ処理の頻度を高めることができる。これにより、記録層Yのデータのリードエラーを回避することができる。また、ライト保証回数を調整する際、調整部63は、複数の調整領域Aaのうち最小限の調整領域Aaについてのみライト保証回数を調整している。必要以上にライト保証回数を調整していないため、コマンド処理が遅延する原因となるリフレッシュ処理の発動を最小限に抑えることができ、磁気ディスク装置1の性能悪化を最小限にとどめることができる。
上述したことから、ライト保証回数を調整することのできる磁気ディスク装置1及びライト保証回数の調整方法を得ることができる。
【0114】
本発明の上記実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記の新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0115】
例えば、上述した技術は、瓦記録型式の磁気ディスク装置と、通常記録型式及び瓦記録型式を選択して実行するハイブリッド記録型式の磁気ディスク装置とに適用してもよい。例えば、ハイブリッド記録型式において、記録層Yのユーザデータ領域Uは、内周側に瓦記録領域を有し、瓦記録領域より外周側に通常記録領域を有している。この通常記録領域は、コンベンショナルゾーン(Conventional Zone)と称される場合もあり、システムファイル、メタデータ等の頻繁に書き換えを行うデータが記録される領域になり得る。
【符号の説明】
【0116】
1…磁気ディスク装置、60…MPU、61…リード/ライト処理部、62…検出部、63…調整部、64…カウンタ、65…判断部、66…リフレッシュ処理部、70…揮発性メモリ、80…バッファメモリ、90…不揮発性メモリ、100…ホスト、110…システムコントローラ、120…ドライバIC、130…ヘッドアンプIC、140…R/Wチャネル、150…HDC、DK…ディスク、Y…記録層、SCa…セクタ、Aa…調整領域、Ad…区分領域、HD…ヘッド、RA…範囲、l…幅、r…長さ、CE…重心、TL1…基準テーブル、TL2…調整テーブル、TL3…リードリトライテーブル、TL4…ヘッド特性テーブル、a,b,c,d…重み係数、dr1…半径方向、dr2…進行方向、dr3…回転方向。