(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137769
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】時計用のクラッチ装置
(51)【国際特許分類】
G04F 7/08 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G04F7/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024031121
(22)【出願日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】10 2023 107 567.5
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】506100185
【氏名又は名称】ランゲ ウーレン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】スティーブ レーマン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】構成簡単であり、必要とする設置スペースが小さく、時計の針を支障なくゼロ設定可能にする時計用クラッチ装置を提供する。
【解決手段】クロノグラフ用のクラッチ装置は、回転駆動可能であると共に、軸線方向に固定され、かつクラッチ出力ホイールを相対回転不可能に支持する軸上に配置された、ムーブメントで回転可能に駆動されるクラッチ入力ホイール1と、軸2に対して同軸のクラッチ入力ホイール1のクラッチディスクであって、クラッチディスク3に、軸線方向に変位可能な対抗クラッチディスクが同軸に配置され、対抗クラッチディスクは、クラッチディスクと摩擦係合的に当接するためにばね力によって負荷されると共に、爪8によって下方から把持可能であり、対抗クラッチディスクは、クラッチディスクとの結合位置に当接する位置で爪8によって非結合位置に持ち上げ可能である、クラッチディスクとを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計用のクラッチ装置であって、
・回転駆動可能であると共に、軸線方向に固定され、かつクラッチ出力ホイールを相対回転不可能に支持する軸(2)上に配置された、ムーブメントで回転可能に駆動されるクラッチ入力ホイール(1)と、
・前記軸(2)に対して同軸の前記クラッチ入力ホイール(1)のクラッチディスク(3)であって、前記クラッチディスク(3)に、軸線方向に変位可能な対抗クラッチディスク(4)が同軸に配置され、前記対抗クラッチディスク(4)が、前記クラッチディスク(3)と摩擦係合的に当接するためにばね力によって負荷されると共に、爪(8)によって下方から把持可能であり、前記対抗クラッチディスク(4)が、前記クラッチディスク(3)との結合位置に当接する位置で前記爪(8)によって非結合位置に持ち上げ可能である、前記クラッチディスク(3)と、
を備え、
前記爪(8)が、手動で作動可能なデカップリングプッシャにより、負荷が生じない非作動位置から、最大ストロークのうちストローク1だけ、前記対抗クラッチディスク(4)を前記クラッチディスク(3)から持ち上げる作動位置に移動可能であるクラッチ装置において、
前記爪(8)が更に、ゼロ設定プッシャで作動可能な制御要素により、前記結合位置から、前記対抗クラッチディスク(4)を前記クラッチディスク(3)から持ち上げる位置に移動可能であり、第1ステップにおいて、前記デカップリングプッシャを作動させることにより、前記爪(8)がその作動位置に移動可能であり、第2ステップにおいて、前記デカップリングプッシャが非作動のままであり、前記ゼロ設定プッシャを作動させることにより、前記爪(8)が、前記最大ストロークのうち前記ストローク1よりも大きいストローク2だけ、前記制御要素によって前記対抗クラッチディスク(4)を前記クラッチディスク(3)から持ち上げるよう作動可能であり、第3ステップにおいて、前記デカップリングプッシャが非作動のままであり、前記ゼロ設定プッシャを作動させることにより、前記爪(8)が、前記最大ストロークのうちストローク3だけ、前記制御要素によって下降可能であり、前記対抗クラッチディスク(4)が、前記ストローク2において、ロック装置によって前記クラッチディスク(3)からロック状態で持ち上げられたままであり、第4ステップにおいて、前記デカップリングプッシャが非作動のままであり、前記ゼロ設定プッシャの非作動により、前記爪(8)が、前記最大ストロークのうちストローク4だけ、前記制御要素によって前記ロック装置を解除する位置に持ち上げられ、第5ステップにおいて、前記デカップリングプッシャが非作動のままであり、前記ゼロ設定プッシャの非作動により、前記爪(8)が、前記非作動位置に移動され、該非作動位置では、前記対抗クラッチディスク(4)が、前記クラッチディスク(3)との前記結合位置に当接する位置に移動されていることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチ装置であって、前記対抗クラッチディスク(4)が、カップ状クラッチスリーブ(6)の底部によって形成され、前記クラッチスリーブ(6)が、前記底部から離れた側の端部に、半径方向に突出するカラー(7)を有することを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクラッチ装置であって、前記爪(8)が、前記軸(2)に対して前記非作動位置と前記作動位置との間で軸線方向に変位可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のクラッチ装置であって、前記爪(8)が、前記軸(2)に対して横方向に延在する旋回軸(9)周りで旋回可能な二腕状旋回レバー(10)によって移動するよう駆動可能であり、前記旋回レバー(10)における第1レバー(11)の端部が、コラムホイール(13)の半径方向コラムによって旋回するよう負荷可能であり、前記旋回レバー(10)における第2レバーアーム(14)の端部により、前記爪(8)が、前記軸(2)に対して前記対抗クラッチディスク(4)を前記結合位置から前記非結合位置に軸線方向に持ち上げるよう負荷可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のクラッチ装置であって、前記コラムホイール(13)が、デカップリングプッシャによって段階的に回転駆動可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載のクラッチ装置であって、前記爪(8)が、前記軸(2)に対して平行に変位可能にガイドされた爪ピン(15)に配置され、該爪ピン(15)が、前記制御要素を形成すると共に、前記ゼロ設定プッシャによって直接的又は間接的に移動するよう駆動可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のクラッチ装置であって、前記ゼロ設定プッシャにより、クラウンホイール(21)が、段階的に回転駆動可能であり、前記爪ピン(15)が、前記クラウンホイール(21)によって変位するよう駆動可能であり、前記爪ピン(15)における一方の端面が、前記クラウンホイール(21)に当接していることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のクラッチ装置であって、前記クラウンホイール(21)が、第1歯(23)及び第2歯(24)で構成された複数の対を交互に有し、前記第2歯(24)が、前記第1歯(23)と同じか又はそれよりも大きな高さを有し、前記第1歯(23)により、前記爪ピン(15)及び爪(8)が、ストローク2に持ち上げ可能であり、前記第1歯(23)と前記第2歯(24)との間の第1隙間(25)において、前記爪ピン(15)及び前記爪(8)が、ストローク3に下降可能であり、前記第2歯(24)により、前記爪ピン(15)及び前記爪(8)が、ストローク4に持ち上げ可能であり、前記第2歯(24)の後の第2隙間(26)により、前記爪ピン(15)及び前記爪(8)が、結合位置に下降可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載のクラッチ装置であって、前記ロック装置が、クローを有し、前記クローが、前記クラッチスリーブ(6)において、前記軸(2)に対して平行なクロー軸線周りで旋回可能に配置され、前記クローが、前記第2ステップにおいて、ストローク2に達したときに前記軸(2)のロック凹部と係合可能であり、前記第4ステップにおいて、ストローク4に達したときに前記ロック凹部から係合解除可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のクラッチ装置であって、前記クローが、第1ストローク及び第2ストロークの間、前記軸(2)の外周面上に半径方向内側に弾性的に当接して保持され、ストローク2に達した後、前記軸(2)における外周面の周方向の環状溝に半径方向内側に係合することを特徴とする、クラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用のクラッチ装置に関し、このクラッチ装置は、回転駆動可能であると共に、軸線方向に固定され、かつクラッチ出力ホイールを相対回転不可能に支持する軸上に配置された、ムーブメントで回転可能に駆動されるクラッチ入力ホイールと、軸に対して同軸のクラッチ入力ホイールのクラッチディスクであって、クラッチディスクに、軸線方向に変位可能な対抗クラッチディスクが同軸に配置され、対抗クラッチディスクは、クラッチディスクと摩擦係合的に当接するためにばね力によって負荷されると共に、爪によって下方から把持可能であり、対抗クラッチディスクは、クラッチディスクとの結合位置に当接する位置で爪によって非結合位置に持ち上げ可能である、上記クラッチディスクとを備える。爪は、手動で作動可能なデカップリングプッシャにより、負荷が生じない非作動位置から、最大ストロークのうちストローク1だけ、対抗クラッチディスクをクラッチディスクから持ち上げる作動位置に移動可能である。
【背景技術】
【0002】
既知のクロノグラフ用クラッチ装置では、ストローククラウン(ストロークリューズ)は、コラムホイール上に配置されている。爪が作動されると、この爪がクロノグラフ動作中にクラッチを開放状態に保持する。この場合、クラッチ入力ホイールは解放されるが、クラッチは爪の摩擦に対してゼロ設定(ゼロ調整)されなければならず、このことはプッシャを作動させるときに強い力がかかることにもつながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の課題は、冒頭に述べたタイプの時計用クラッチ装置において、上述した欠点を回避し、構成簡単であり、必要とする設置スペースが小さく、時計の針を支障なくゼロ設定可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決するため、爪が更に、ゼロ設定プッシャで作動可能な制御要素により、結合位置から、対抗クラッチディスクをクラッチディスクから持ち上げる位置に移動可能であり、第1ステップにおいて、デカップリングプッシャを作動させることにより、爪がその作動位置に移動可能であり、第2ステップにおいて、デカップリングプッシャが非作動のままであり、ゼロ設定プッシャを作動させることにより、爪が、最大ストロークのうちストローク1よりも大きいストローク2だけ、制御要素によって対抗クラッチディスクをクラッチディスクから持ち上げるよう作動可能であり、第3ステップにおいて、デカップリングプッシャが非作動のままであり、ゼロ設定プッシャを作動させることにより、爪が、最大ストロークのうちストローク3だけ、制御要素によって下降可能であり、対抗クラッチディスクが、ストローク2において、ロック装置によってクラッチディスクからロック状態で持ち上げられたままであり、第4ステップにおいて、デカップリングプッシャが非作動のままであり、ゼロ設定プッシャの非作動により、爪が、最大ストロークのうちストローク4だけ、制御要素によってロック装置を解除する位置に持ち上げられ、第5ステップにおいて、デカップリングプッシャが非作動のままであり、ゼロ設定プッシャの非作動により、爪が、非作動位置に移動され、この非作動位置では、対抗クラッチディスクが、クラッチディスクとの結合位置に当接する位置に移動されていることを特徴とする。
【0005】
本発明に係るこの構成では、針のゼロ設定は、コラムホイールの要素を介して行われるのではなく、別個に配置されている。これにより、クロノモードの状態(開始又は停止)にかかわらず、時計の針をゼロに設定することができる。クラッチは、爪及びクラッチ入力ホイールから分離可能であり、従って針をゼロに設定する際にクラッチが摩擦なしで回転することができる。クラッチが分離状態から再び解除されると、クロノは、停止モード又は開始モードの何れかに留まることができる。
【0006】
簡単な構成において、対抗クラッチディスクは、カップ状クラッチスリーブの底部によって形成することができ、クラッチスリーブは、底部から離れた側の端部に、半径方向に突出するカラーを有する。
【0007】
爪がその非作動位置と作動位置との間で軸に対して軸線方向に変位可能であれば、爪の作動要素と対抗クラッチディスクとの間の摩擦損失が回避され、クラッチ装置の動作が円滑になる。
【0008】
簡単な構成は、爪が、軸に対して横方向に延在する旋回軸周りで旋回可能な二腕状旋回レバーによって移動するよう駆動可能であり、旋回レバーにおける第1レバーの端部が、コラムホイールの半径方向コラムによって旋回するよう負荷可能であり、旋回レバーにおける第2レバーアームの端部により、爪が、軸に対して対抗クラッチディスクを結合位置から非結合位置に軸線方向に持ち上げるよう負荷可能であることによって実現される。
【0009】
この場合、コラムホイールは、デカップリングプッシャによって明確なステップで回転駆動可能である。
【0010】
爪が、軸に対して平行に変位可能にガイドされた爪ピンであって、制御要素を形成すると共に、ゼロ設定プッシャによって直接的又は間接的に移動するよう駆動可能な上記爪ピンに配置されていれば、爪は、爪ピンにより、旋回レバーを介してデカップリングプッシャによってのみならず、ゼロ設定プッシャによっても移動するよう駆動することができる。
【0011】
この場合、容易な作動を実現するために、ゼロ設定プッシャにより、クラウンホイールを、段階的に回転駆動可能とすることができ、爪ピンを、クラウンホイールによって変位するよう駆動可能とすることができ、爪ピンにおける一方の端面が、クラウンホイールに当接している。
【0012】
爪ピンを軸線方向に容易に駆動するために、クラウンホイールは、第1歯及び第2歯で構成された複数の対を交互に有することができ、第2歯は、第1歯と同じか又はそれよりも大きな高さを有し、第1歯により、爪ピン、従って爪は、ストローク2に持ち上げ可能であり、第1歯と第2歯との間の第1隙間において、爪ピン、従って爪は、ストローク3に下降可能であり、第2歯により、爪ピン、従って爪は、ストローク4に持ち上げ可能であり、第2歯の後の第2隙間により、爪ピン、従って爪は、結合位置に下降可能である。
【0013】
ロック装置の簡単な構成は、ロック装置が、クローを有し、クローが、クラッチスリーブにおいて、軸に対して平行なクロー軸線周りで旋回可能に配置され、クローが、第2ステップにおいて、ストローク2に達したときに軸のロック凹部と係合可能であり、第4ステップにおいて、ストローク4に達したときにロック凹部から係合解除可能であることによって実現することができる。
【0014】
この場合、簡単な構成において、クローは、第1ストローク及び第2ストロークの間、軸の外周面上に半径方向内側に弾性的に当接して保持することができ、ストローク2に達した後、軸における外周面の周方向の環状溝に半径方向内側に係合することができる。
【0015】
以下、図面に示す本発明の一実施形態をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】非作動のゼロ設定プッシャと、部分的に作動したデカップリングプッシャにおいて、コラムホイールによって作動可能な非作動の旋回レバーとを備えるクラッチ装置を示すホイールブリッジ図である。
【
図2】非作動のゼロ設定プッシャと、部分的に作動したデカップリングプッシャにおいて、コラムホイールによって作動可能な非作動の旋回レバーとを備える、
図1における線I-Iに沿うクラッチ装置を示す断面図である。
【
図3】非作動のゼロ設定プッシャと、部分的に作動したデカップリングプッシャにおいて、コラムホイールによって作動可能な非作動の旋回レバーとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すダイヤル図である。
【
図4】非作動のゼロ設定プッシャと、作動したデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すホイールブリッジ図である。
【
図5】非作動のゼロ設定プッシャと、作動したデカップリングプッシャとを備える、
図1における線I-Iに沿うクラッチ装置を示す断面図である。
【
図6】非作動のゼロ設定プッシャと、作動したデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すダイヤル図である。
【
図7】3/4作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すホイールブリッジ図である。
【
図8】3/4作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1における線I-Iに沿うクラッチ装置を示す断面図である。
【
図9】3/4作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すダイヤル図である。
【
図10】完全に作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すホイールブリッジ図である。
【
図11】完全に作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1における線I-Iに沿うクラッチ装置を示す断面図である。
【
図12】完全に作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すダイヤル図である。
【
図13】完全に作動した状態から戻る3/4作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すホイールブリッジ図である。
【
図14】完全に作動した状態から戻る3/4作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1における線I-Iに沿うクラッチ装置を示す断面図である。
【
図15】完全に作動した状態から戻る3/4作動したゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すダイヤル図である。
【
図16】完全に作動した状態から戻るゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すホイールブリッジ図である。
【
図17】完全に作動した状態から戻るゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1における線I-Iに沿うクラッチ装置を示す断面図である。
【
図18】完全に作動した状態から戻るゼロ設定プッシャと、非作動のデカップリングプッシャとを備える、
図1におけるクラッチ装置を示すダイヤル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図示のクラッチ装置は、軸線方向に固定された軸2上で自由に回転可能かつ軸線方向に変位可能に配置されたクラッチ入力ホイール1を備える。
【0018】
クラッチ入力ホイール1は、クロノグラフのムーブメント(図示せず)によって回転可能に駆動される。
【0019】
クラッチ入力ホイール1は、クラッチディスク3を相対回転不可能に有し、このクラッチディスク3には、軸線方向に変位可能な対抗クラッチディスク4が同軸配置され、対抗クラッチディスク4は、圧縮ばね5のばね力により、クラッチディスク3との結合位置において摩擦係合的に当接するために負荷されている。
【0020】
対抗クラッチディスク4は、クラッチスリーブ6の底部によって形成され、結合位置においてクラッチディスク3と摩擦係合的に当接している。クラッチスリーブ6は、対抗クラッチディスク4から離れた端部領域において、半径方向外側に向けて延在する周方向カラー7を有する。
【0021】
カラー7は、爪8によって下方から把持可能であり、この爪8は、手動で作動可能なデカップリングプッシャ(図示せず)により、カラー7を負荷しない非作動位置から、対抗クラッチディスク4がクラッチディスク3から持ち上げられる作動位置に移動可能である。
【0022】
爪8により、クラッチスリーブ6、従って対抗クラッチディスク4は、デカップリングプッシャを作動させたときに、圧縮ばね5のばね力に抗してクラッチディスク3から持ち上げることができる。
【0023】
爪8は、軸2に対して横方向に延在する旋回軸9周りで旋回可能な二腕状旋回レバー10によって移動するよう駆動可能である。この場合、旋回レバー10における第1レバーアーム11の端部は、コラムホイール13の半径方向コラムによって旋回するよう負荷可能である。旋回レバー10における第2レバーアーム14の端部により、軸2に対して平行に変位可能にガイドされた爪ピン15における周方向に突出するピンカラー16が負荷可能であり、従って爪ピン15が変位可能に負荷可能である。爪ピン15の上端は爪8に作用し、これにより爪8は、対抗クラッチディスク4が結合位置から、ストローク1だけ、非結合位置に持ち上げられるよう軸2に対して軸線方向に負荷される。
【0024】
コラムホイール13は、デカップリングプッシャ(図示せず)によって段階的に回転可能である。
【0025】
ゼロ設定プッシャ(図示せず)により、連結ロッド17が変位可能であり、この連結ロッド17は、第1クラウンクロー(第1クラウン爪)18及び第2クラウンクロー(第2クラウン爪)19を支持し、これらクロー18,19により、クラウンホイール21のストローククラウンピニオン20がクラウンホイール軸線27周りで回転するよう段階的に順送り可能である。
【0026】
爪ピン15は、爪8から離れた側の端面がクラウンホイール21に当接している。
【0027】
クラウンホイール21は、第1歯23及び第2歯24で構成された複数の対を交互に有し、第2歯24は、第1歯23よりも大きな高さを有する。第1歯23により、爪ピン15、従って爪8は、ストローク2に持ち上げ可能であり、第1歯23と第2歯24との間の第1隙間25において、爪ピン15、従って爪8がストローク3に下降可能である。第2歯24により、爪ピン15、従って爪8がストローク4に持ち上げ可能であり、第2歯24の後の第2隙間26により、爪ピン15、従って爪8が結合位置に下降可能である。
【0028】
初期位置(
図1~
図3参照)では、クラッチディスク3と摩擦当接する対抗クラッチディスク4及びこのディスクと相対回転不可能に接続された軸2を介して、クラッチ入力ホイールからクラッチ出力ホイールが回転可能に駆動される。
【0029】
結合を解除するために、第1ステップにおいて、デカップリングプッシャを作動させることにより、爪8が初期位置(
図1~
図3参照)から作動位置に移動可能である(
図4~
図6参照)。これにより、対抗クラッチディスク4がクラッチディスク3から持ち上げられ、従ってクラッチ入力ホイール1が軸2から結合解除され、クラッチ出力ホイールももはや駆動されなくなる。
【0030】
第2ステップでは、デカップリングプッシャが非作動のままである。ゼロ設定プッシャをその作動ストロークの3/4だけ作動させることにより、連結ロッド17及び第1クラウンクロー18を介してクラウンホイール21が回転され、これにより爪ピン15がクラウンホイール21の第1歯23に乗り上げると共に、爪8が対抗クラッチディスク4をクラッチディスク3から持ち上げるよう最大ストロークのうちストローク2だけ作動する。この場合、ストローク2は、ストローク1よりも大きい(
図7~
図9参照)。
【0031】
第3ステップでは、デカップリングプッシャが非作動のままである。ゼロ設定プッシャをその全作動ストロークだけ作動させることにより、クラウンホイール21が更に回転され、これにより爪ピン15が第1隙間25に落ち込み、爪ピン15が爪8を最大ストロークのうちストローク3に下降させる。この場合、対抗クラッチディスク4は、ロック装置(図示せず)によってロックされつつ、クラッチディスク3からストローク2だけ持ち上げられている(
図10~
図12参照)。
【0032】
この状態において、針を支障なくゼロに設定することができる。
【0033】
デカップリングプッシャが非作動の第4ステップでは、ゼロ設定プッシャをその戻り経路の3/4の位置まで戻すことにより、クラウンホイール21が更に回転され、これにより爪ピン15が第2歯24に乗り上げる。これにより爪8は、爪ピン15によって、ロック装置が解除される位置まで、最大ストロークのうちストローク4だけ持ち上げられる(
図13~
図15参照)。
【0034】
第5ステップでは、デカップリングプッシャが引き続き非作動のままである。ゼロ設定プッシャの非作動時に、ゼロ設定プッシャを完全に戻すことにより、クラウンホイール21が再び更に回転され、これにより爪ピン15が第2隙間26に滑り落ちる。これにより爪8は非作動位置に移動され、この非作動位置では、対抗クラッチディスク4がクラッチディスク3との結合位置に当接するよう移動されると共に、クラッチ出力ホイールが再び回転可能に駆動される(
図16~
図18参照)。
【符号の説明】
【0035】
1 クラッチ入力ホイール
2 軸
3 クラッチディスク
4 対抗クラッチディスク
5 圧縮ばね
6 クラッチスリーブ
7 カラー
8 爪
9 旋回軸
10 旋回レバー
11 第1レバーアーム
12 半径方向コラム
13 コラムホイール
14 第2レバーアーム
15 爪ピン
16 ピンカラー
17 連結ロッド
18 第1クラウンクロー
19 第2クラウンクロー
20 ストローククラウンピニオン
21 クラウンホイール
23 第1歯
24 第2歯
25 第1隙間
26 第2隙間
27 クラウンホイール軸線
【手続補正書】
【提出日】2024-07-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計用のクラッチ装置であって、
・回転駆動可能であると共に、軸線方向に固定され、かつクラッチ出力ホイールを相対回転不可能に支持する軸(2)上に配置された、ムーブメントで回転可能に駆動されるクラッチ入力ホイール(1)と、
・前記軸(2)に対して同軸の前記クラッチ入力ホイール(1)のクラッチディスク(3)であって、前記クラッチディスク(3)に、軸線方向に変位可能な対抗クラッチディスク(4)が同軸に配置され、前記対抗クラッチディスク(4)が、前記クラッチディスク(3)と摩擦係合的に当接するためにばね力によって負荷されると共に、爪(8)によって下方から把持可能であり、前記対抗クラッチディスク(4)が、前記クラッチディスク(3)との結合位置に当接する位置で前記爪(8)によって非結合位置に持ち上げ可能である、前記クラッチディスク(3)と、
を備え、
前記爪(8)が、手動で作動可能なデカップリングプッシャにより、負荷が生じない非作動位置から、最大ストロークのうちストローク1だけ、前記対抗クラッチディスク(4)を前記クラッチディスク(3)から持ち上げる作動位置に移動可能であるクラッチ装置において、
前記爪(8)が更に、ゼロ設定プッシャで作動可能な制御要素により、前記結合位置から、前記対抗クラッチディスク(4)を前記クラッチディスク(3)から持ち上げる位置に移動可能であり、第1ステップにおいて、前記デカップリングプッシャを作動させることにより、前記爪(8)がその作動位置に移動可能であり、第2ステップにおいて、前記デカップリングプッシャが非作動のままであり、前記ゼロ設定プッシャを作動させることにより、前記爪(8)が、前記最大ストロークのうち前記ストローク1よりも大きいストローク2だけ、前記制御要素によって前記対抗クラッチディスク(4)を前記クラッチディスク(3)から持ち上げるよう作動可能であり、第3ステップにおいて、前記デカップリングプッシャが非作動のままであり、前記ゼロ設定プッシャを作動させることにより、前記爪(8)が、前記最大ストロークのうちストローク3だけ、前記制御要素によって下降可能であり、前記対抗クラッチディスク(4)が、前記ストローク2において、ロック装置によって前記クラッチディスク(3)からロック状態で持ち上げられたままであり、第4ステップにおいて、前記デカップリングプッシャが非作動のままであり、前記ゼロ設定プッシャの非作動により、前記爪(8)が、前記最大ストロークのうちストローク4だけ、前記制御要素によって前記ロック装置を解除する位置に持ち上げられ、第5ステップにおいて、前記デカップリングプッシャが非作動のままであり、前記ゼロ設定プッシャの非作動により、前記爪(8)が、前記非作動位置に移動され、該非作動位置では、前記対抗クラッチディスク(4)が、前記クラッチディスク(3)との前記結合位置に当接する位置に移動されていることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチ装置であって、前記対抗クラッチディスク(4)が、カップ状クラッチスリーブ(6)の底部によって形成され、前記クラッチスリーブ(6)が、前記底部から離れた側の端部に、半径方向に突出するカラー(7)を有することを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のクラッチ装置であって、前記爪(8)が、前記軸(2)に対して前記非作動位置と前記作動位置との間で軸線方向に変位可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項4】
請求項1に記載のクラッチ装置であって、前記爪(8)が、前記軸(2)に対して横方向に延在する旋回軸(9)周りで旋回可能な二腕状旋回レバー(10)によって移動するよう駆動可能であり、前記旋回レバー(10)における第1レバー(11)の端部が、コラムホイール(13)の半径方向コラムによって旋回するよう負荷可能であり、前記旋回レバー(10)における第2レバーアーム(14)の端部により、前記爪(8)が、前記軸(2)に対して前記対抗クラッチディスク(4)を前記結合位置から前記非結合位置に軸線方向に持ち上げるよう負荷可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のクラッチ装置であって、前記コラムホイール(13)が、デカップリングプッシャによって段階的に回転駆動可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のクラッチ装置であって、前記爪(8)が、前記軸(2)に対して平行に変位可能にガイドされた爪ピン(15)に配置され、該爪ピン(15)が、前記制御要素を形成すると共に、前記ゼロ設定プッシャによって直接的又は間接的に移動するよう駆動可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のクラッチ装置であって、前記ゼロ設定プッシャにより、クラウンホイール(21)が、段階的に回転駆動可能であり、前記爪ピン(15)が、前記クラウンホイール(21)によって変位するよう駆動可能であり、前記爪ピン(15)における一方の端面が、前記クラウンホイール(21)に当接していることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のクラッチ装置であって、前記クラウンホイール(21)が、第1歯(23)及び第2歯(24)で構成された複数の対を交互に有し、前記第2歯(24)が、前記第1歯(23)と同じか又はそれよりも大きな高さを有し、前記第1歯(23)により、前記爪ピン(15)及び爪(8)が、ストローク2に持ち上げ可能であり、前記第1歯(23)と前記第2歯(24)との間の第1隙間(25)において、前記爪ピン(15)及び前記爪(8)が、ストローク3に下降可能であり、前記第2歯(24)により、前記爪ピン(15)及び前記爪(8)が、ストローク4に持ち上げ可能であり、前記第2歯(24)の後の第2隙間(26)により、前記爪ピン(15)及び前記爪(8)が、結合位置に下降可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項9】
請求項1に記載のクラッチ装置であって、前記ロック装置が、クローを有し、前記クローが、前記クラッチスリーブ(6)において、前記軸(2)に対して平行なクロー軸線周りで旋回可能に配置され、前記クローが、前記第2ステップにおいて、ストローク2に達したときに前記軸(2)のロック凹部と係合可能であり、前記第4ステップにおいて、ストローク4に達したときに前記ロック凹部から係合解除可能であることを特徴とする、クラッチ装置。
【請求項10】
請求項9に記載のクラッチ装置であって、前記クローが、第1ストローク及び第2ストロークの間、前記軸(2)の外周面上に半径方向内側に弾性的に当接して保持され、ストローク2に達した後、前記軸(2)における外周面の周方向の環状溝に半径方向内側に係合することを特徴とする、クラッチ装置。
【外国語明細書】