(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139309
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20241002BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20241002BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
E02F9/24 B
E02F9/20 C
E02F9/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050188
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隅田 亘
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB02
2D003AB03
2D003AB04
2D003BA06
2D003BA07
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB03
2D003DB04
2D015GA03
2D015GB01
2D015GB04
2D015GB07
2D015HA03
(57)【要約】
【課題】作業機械を制御するコントローラの制御負担を軽くすること。
【解決手段】本発明に係る作業機械(1)は、旋回体(1d)及びフロント作業機(1A)を備えた機体と、操作装置と、を備え、機体の周囲の障害物の情報と、フロント作業機の姿勢情報と、操作装置の操作入力とに基づき、機体の動作を制御するコントローラ(100)を備える。コントローラは、姿勢情報に基づいて、作業機械の少なくとも一部を第1の直方体形状で囲んだ領域を所定の座標上に車体領域として設定し、取得した障害物を第2の直方体形状で囲んだ領域を所定の座標上に侵入不可領域として設定し、操作装置の操作入力から車体領域の軌道を予測し、車体領域が所定の座標上において侵入不可領域と接触すると予測された場合に、作業機械が侵入不可領域に侵入しないように少なくとも旋回体またはフロント作業機の動作を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回体及び前記旋回体の前部に取り付けられたフロント作業機を備えた機体と、前記フロント作業機の姿勢を検出する姿勢センサと、前記フロント作業機を操作する操作装置と、を備えた作業機械であって、前記機体の周囲の障害物の情報を取得する外界センサもしくは、予め前記機体の周囲の障害物の情報を記憶した記憶装置から取得した前記障害物の情報と、前記姿勢センサにて検出された前記フロント作業機の姿勢情報と、前記操作装置の操作入力とに基づき、前記機体の動作を制御するコントローラを備えた作業機械において、
前記コントローラは、
前記姿勢情報に基づいて、前記作業機械の少なくとも一部を第1の直方体形状で囲んだ領域を所定の座標上に車体領域として設定し、
前記外界センサもしくは前記記憶装置から取得した前記障害物を第2の直方体形状で囲んだ領域を前記所定の座標上に侵入不可領域として設定し、
前記操作装置の操作入力から前記車体領域の軌道を予測し、前記車体領域が前記所定の座標上において前記侵入不可領域と接触すると予測された場合に、前記作業機械が前記侵入不可領域に侵入しないように少なくとも前記旋回体または前記フロント作業機の動作を制御する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記作業機械のグローバル座標上における位置情報を取得するGPS装置を備え、
前記コントローラは、前記GPS装置により取得した前記作業機械の前記位置情報に基づいて、前記所定の座標としての前記グローバル座標上に前記車体領域及び前記侵入不可領域を設定する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、外部装置またはオペレータから入力される3Dデータ、あるいは前記作業機械に設けられた前記外界センサにて検出された外界データを、前記障害物の情報として取得する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項3に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記外部装置との通信により、前記車体領域及び前記侵入不可領域を更新する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記フロント作業機の種類に応じて前記車体領域を設定する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記操作装置の操作入力に基づいて作業内容を判定し、前記作業内容に応じて前記車体領域を設定する、
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械の稼働時の不慮の接触を低減するために、作業機械の動作を制御する制御装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の制御装置は、作業機械の姿勢を示す状態情報、作業機械の動作を示す動作情報、及び、作業機械の周辺の物体の配置を示す周辺情報を取得する取得手段と、状態情報と動作情報とに基づいて、可動部と周辺の物体との間に設定される安全距離を特定する特定手段と、安全距離と周辺情報とに応じて、作業機械の動作を制御する動作制御手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、特定手段は、可動部の速度ベクトルの各成分に応じた各軸半径を有する楕円体を設定し、安全距離を、楕円体の半径として特定する構成である。楕円体を定義するには点群データが必要となるうえ、楕円体の演算には複雑な処理が必要となるため、高性能のコントローラが要求される。一方で、作業機械は作業中に振動が発生するため、コントローラには耐震性が求められる。高性能なコントローラを振動の激しい作業機械に搭載することは現実的ではないことから、汎用のコントローラでも処理できるよう、コントローラの制御負担を軽くすることが重要な課題である。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、作業機械を制御するコントローラの制御負担を軽くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、旋回体及び前記旋回体の前部に取り付けられたフロント作業機を備えた機体と、前記フロント作業機の姿勢を検出する姿勢センサと、前記フロント作業機を操作する操作装置と、を備えた作業機械であって、前記機体の周囲の障害物の情報を取得する外界センサもしくは、予め前記機体の周囲の障害物の情報を記憶した記憶装置から取得した前記障害物の情報と、前記姿勢センサにて検出された前記フロント作業機の姿勢情報と、前記操作装置の操作入力とに基づき、前記機体の動作を制御するコントローラを備えた作業機械において、前記コントローラは、前記姿勢情報に基づいて、前記作業機械の少なくとも一部を第1の直方体形状で囲んだ領域を所定の座標上に車体領域として設定し、前記外界センサもしくは前記記憶装置から取得した前記障害物を第2の直方体形状で囲んだ領域を前記所定の座標上に侵入不可領域として設定し、前記操作装置の操作入力から前記車体領域の軌道を予測し、前記車体領域が前記所定の座標上において前記侵入不可領域と接触すると予測された場合に、前記作業機械が前記侵入不可領域に侵入しないように少なくとも前記旋回体または前記フロント作業機の動作を制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車体領域と侵入不可領域とをそれぞれ仮想の直方体形状を用いて設定できるため、コントローラの制御負担を軽くできる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの外観を示す斜視図である。
【
図3】油圧ショベルと障害物とを直方体形状を用いてモデル化した図である。
【
図4】(a)障害物に対する直方体形状の設定の変形例を示す図、(b)バケットに対する直方体形状の設定の変形例を示す図である。
【
図5】フロント作業機が障害物と接触する場合をモデル化した図である。
【
図6】接触判定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】作業内容に応じた直方体形状の設定方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を示す斜視図である。
図1に示すように、油圧ショベル1は、垂直方向にそれぞれ回動するブーム1a、アーム1b、及びバケット1cからなる多関節型のフロント作業機1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eからなる車体1Bとで構成され、フロント作業機1Aのブーム1aの基端は上部旋回体1dの前部に支持されている。ブーム1a、アーム1b、バケット1c、上部旋回体1d、及び下部走行体1eは、それぞれブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、旋回モータ(図示せず)、及び左右の走行モータ(左側の走行モータ3eのみ図示)によりそれぞれ駆動される被駆動部材を構成し、それらの動作は、上部旋回体1dの運転室に設けられた操作装置(A106/
図2参照)により指示される。ブーム1a、アーム1b、及びバケット1cは、それぞれの角度を計測する角度センサ8a、8b、8c(A102/
図2参照)を有している。なお、フロント作業機1Aは、バケット1cの代わりに、グラップル等のアタッチメントを備える場合もある。
【0011】
次に、油圧ショベル1に搭載されたコントローラ100の電気的構成について説明する。
図2は、コントローラ100の機能ブロック図である。
【0012】
図2に示すように、コントローラ100の入力側は、モニタデバイスA100、角度センサA102、GPS装置A103、通信デバイスA101、操作装置A106、及びパイロット圧センサA107と接続されている。また、コントローラ100の出力側は、モニタデバイスA100、電磁弁A104、及びブザーA105と接続されている。
【0013】
モニタデバイスA100は、例えばタッチ操作可能な液晶パネルから成り、オペレータによる侵入不可領域(AC)を設定できる機能を備えている。また、モニタデバイスA100は、液晶画面上に、エリア情報等を提示する。
【0014】
通信デバイス(外部装置)A101は、油圧ショベル1の周囲のエリア情報を更新する。具体的には、通信デバイスA101は、地図情報などの更新データを3Dエリアデータ管理部S102に定期的に送信する。また、通信デバイスA101は、必要に応じて、作業場所の目標面情報や他車両の情報などを3Dエリアデータ管理部S102に定期的に送信する。
【0015】
角度センサA102は、複数の角度センサを含む。複数の角度センサの何れかが、ブーム1a、アーム1b、または、バケット1cの角度を計測し、あるいは上部旋回体1dの旋回角度を計測する。そして、角度センサA102は、計測したセンサ値を車体姿勢情報管理部S101に出力する。
【0016】
GPS装置A103は、油圧ショベル1のグローバル座標上の位置及び範囲を観測し、その位置及び範囲を油圧ショベル1の車体座標として3Dエリアデータ管理部S102に出力する。
【0017】
電磁弁A104は、エリアコントロール制御部S1から出力される目標操作圧に基づいて作動する。電磁弁A104が作動すると、電磁弁A104に対応するブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、または旋回モータが作動し、ブーム1a、アーム1b、またはバケット1cが所定の方向に動作し、あるいは上部旋回体1dが所定の方向に回転する。
【0018】
ブザーA105は、エリア干渉時にオペレータに警報を発報する。なお、ブザーA105の代わりに、スピーカ等を介して音声により警報を発報しても良いし、ランプ等によりオペレータに警告を知らせても良い。
【0019】
操作装置A106は、例えば油圧式レバーまたは電気式レバーであり、フロント作業機1Aを操作するためのものである。操作装置A106が電気式レバーの場合、電気式レバーの操作量は、コントローラ100の操作量算出部S103に直接入力される。また、操作装置A106が油圧式レバーの場合、パイロット圧センサA107が油圧式レバーのレバー操作圧を検出する。そして、操作装置A106からの操作量は、パイロット圧センサA107からのセンサ値として、操作量算出部S103に入力される。
【0020】
コントローラ100は、CPU、RAM、ROM、インターフェイス回路等を含む1つまたは複数の電子回路ユニットにより構成される。コントローラ100は、実装されたハードウェア構成またはプログラムにより実現される機能として、
図2に示すように、表示制御部S100と、車体姿勢情報管理部S101と、3Dエリアデータ管理部S102と、操作量算出部S103と、アタッチメント情報管理部S107と、エリアコントロール制御部S1と、を含む。
【0021】
表示制御部S100は、モニタデバイスA100から入力された領域情報、即ち侵入不可領域をAC設定情報として、エリアコントロール制御部S1に出力する。また、表示制御部S100は、エリアコントロール制御部S1から出力されるエリア情報をモニタ表示できる形に変換し、モニタデバイスA100に出力する。エリア情報は、例えば、エリアの座標位置、エリアに対する車体姿勢、エリアと車体の干渉警告などの情報である。
【0022】
車体姿勢情報管理部S101は、フロント作業機1Aの姿勢(即ち、角度)及び上部旋回体1dの旋回角度を角度センサA102の値から算出し、フロント作業機1A及び上部旋回体1dを任意の数の仮想の直方体形状(第1の直方体形状)で囲い、囲われた直方体形状の領域を車体領域として設定する(
図3の符号C100~500)。さらに、車体姿勢情報管理部S101は、これら車体領域のグローバル座標上における位置をGPS装置A103の値に基づいて算出する。そして、車体姿勢情報管理部S101は、車体の姿勢情報、車体領域のグローバル座標上での位置を車体姿勢情報としてエリアコントロール制御部S1に出力する。
【0023】
ここで、フロント作業機1Aの寸法情報は、予めコントローラ100のROMに記憶されている。コントローラ100は、入力された角度センサの情報やGPS情報と、ROMに記憶されている寸法情報とに基づいて、フロント作業機1Aや上部旋回体1dの車体範囲に相当する直方体形状を定義する。
【0024】
また、車体姿勢情報管理部S101は、アタッチメント情報管理部S107から油圧ショベル1が現在装着しているアタッチメント情報を入手し、そのアタッチメントの形状に合わせて自動で車体領域の変更を行う。ここで、アタッチメント情報としては、例えば、アタッチメントに装着されたICタグ等によって自動認識された情報、もしくはモニタデバイスA100から手動で入力した情報などが使用され得る。
【0025】
車体領域の座標は、まずセンサ値が零点となる地点での車体座標系から見た位置が初期値として設定される。そこから角度センサA102の値に応じて、車体姿勢情報管理部S101が直方体形状の座標変換を行い、現在の姿勢でのフロント作業機1Aの車体座標位置を設定する。車体姿勢情報管理部S101は、設定した車体座標位置を車体姿勢情報として3Dエリアデータ管理部S102に出力する。3Dエリアデータ管理部S102は、その車体姿勢情報とGPS装置A103からの車体座標とに基づいて車体座標系をグローバル座標系に落とし込む。
【0026】
3Dエリアデータ管理部S102は、グローバル座標上に任意の形状、個数の直方体形状の領域を設定し、エリアコントロール制御部S1が扱いやすい形式に変換し、エリア位置情報としてエリアコントロール制御部S1に出力する。その際、3Dエリアデータ管理部S102は、演算軽量化のために車体姿勢情報管理部S101の車体姿勢情報にもとづいて、接触判定対象となるエリアの絞り込みを行ってもよい。
【0027】
さらに、3Dエリアデータ管理部S102は、障害物に関する情報を通信デバイスA101から取得し、その障害物を仮想の直方体形状(第2の直方体形状)で囲い、囲われた直方体形状の領域を侵入不可領域として設定する。なお、3Dエリアデータ管理部S102は、レーダセンサ等に基づいて障害物の大きさを計測し、その計測値に基づいて、障害物を仮想の直方体形状で囲って侵入不可領域を設定しても良い。
【0028】
直方体形状の領域は、特定の2面間の距離を限りなく小さくすることで長方形面に近似することが可能である。よって、同様のロジックにて車体領域が触れる前に、停止する長方形面を定義することも可能である。
【0029】
操作量算出部S103は、操作装置A106から電気レバーによる操作量、もしくは油圧レバーによるレバー操作圧をパイロット圧センサA107によって計測したセンサ値によりレバー操作量及びアクチュエータの目標速度を演算し、エリアコントロール制御部S1に出力する。
【0030】
エリアコントロール制御部S1は、フロント軌道予測部S104と、接触判定部S105と、アクチュエータ制御部S106と、を含む。
【0031】
フロント軌道予測部S104は、車体姿勢情報管理部S101からの車体姿勢情報と、操作量算出部S103のレバー操作量から演算したフロント作業機1A(具体的には、ブーム1a、アーム1b、及びバケット1c)の角速度と角加速度、さらに上部旋回体1dの動特性とを用いて、車体領域の予測軌道を演算する。
【0032】
接触判定部S105は、侵入不可領域と軌道予測後の車体領域とが接触しているかを判別する。接触判定部S105は、分離超平面の理論を用いた接触判定を使うことで演算を軽量化する。具体的には、接触判定部S105は、分離超平面の理論により2つの直方体形状が接触しているかを判定する。接触判定は分離軸を用いて行う。分離軸は2つの直方体形状が接触していない場合に存在するその2つの直方体形状を分断する平面(分離超平面)と垂直に交わる直線のことをいう。分離軸上に落とした直方体形状の射影の和の半分の長さと2つの直方体形状の中心を結んだ線分を分離軸上に落とした場合の長さを比較し、前者の長さが後者の長さより長い場合、直方体形状同士は接触していないと判定できる。判定が必要な分離軸はどちらかの直方体形状の辺と並行な直線すべてとそれぞれの直方体形状から一つずつ選んだ2つの辺の外積と平行な直線すべてである。
【0033】
アクチュエータ制御部S106は、接触判定部S105での接触判定と予測時間から、車体領域と侵入不可領域が衝突するまでのフロント作業機1A及び上部旋回体1dの許容角度を演算する。そして、アクチュエータ制御部S106は、フロント作業機1A及び上部旋回体1dに対して減速開始角度と目標速度に対する減速度を設定し、電磁弁A104に対して指令信号を出力する。アクチュエータ制御部S106が電磁弁A104を制御して、各アクチュエータ(即ち、ブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c、及び旋回モータ)を減速することで、侵入不可領域(障害物)との接触前にフロント作業機1A及び上部旋回体1dの減速を行う。さらに、エリアコントロール制御部S1は、ブザーA105に対して発報信号を出力し、接触回避のためにアクチュエータの減速制御を行っていることを、ブザーA105を介してオペレータに報知する。
【0034】
なお、減速度を可変とすることで、オペレータの操作感に対応できる構成としても良い。また、許容角度に応じて段階的に減速度を設けることで、フロント作業機1Aまたは上部旋回体1dの停止時のショックを軽減することができる。
【0035】
図3は、油圧ショベルと障害物とを直方体形状を用いてモデル化した図である。
図3に示すように、衝突したくない障害物M1を囲んだ仮想の直方体形状D100が侵入不可領域として設定される。
図3は、直方体形状C100,C200,C300,C400がフロント作業機1Aの車体領域であり、直方体形状C500が上部旋回体1dの車体領域であることを示している。
【0036】
ここで、直方体形状の設定は
図3に示す例に限定されない。
図4(a)は障害物に対する直方体形状の設定の変形例を示す図、
図4(b)はバケットに対する直方体形状の設定の変形例を示す図である。
図4(a)に示すように、障害物M2を複数の直方体形状D110,D111,D112で囲んで、これらの直方体形状の領域を侵入不可領域として設定することで、より侵入不可領域と障害物の形状とが一致する。また同様に、
図4(b)に示すように、バケット1cについても、直方体形状C100で囲って車体領域を設定する代わりに、直方体形状C110,C111,C112,C113のように細かい直方体形状でバケット1cの車体領域を設定すれば、より車体領域とバケット1cの形状とが一致する。
【0037】
図5は、フロント作業機1Aが障害物M1と接触する場合をモデル化した図である。
図5に示すように、バケット1cの直方体形状C100で設定された車体領域が、障害物M1の直方体形状D100で設定された侵入不可領域と接触する。接触判定部S105は、フロント軌道予測部S104によるフロント作業機1Aの軌道予測から、直方体形状C100と直方体形状D100とが重なっているか否かを上述した分離平面理論により判定する。そして、接触判定部S105が、車体領域と侵入不可領域とが接触すると判定した場合、アクチュエータ制御部S106が電磁弁A104の動作を制御し、フロント作業機1Aが障害物M1と接触するのを回避する。
【0038】
次に、コントローラ100による接触判定処理について説明する。
図6は、接触判定処理の手順を示すフローチャートである。
図6に示す処理は、例えばエンジン始動に基づいて開始し、所定時間毎(例えば1ミリ秒毎)に繰り返し実行され、エンジン停止に基づいて終了する。
【0039】
まず、3Dエリアデータ管理部S102は、作業現場において、架線や埋設光ケーブルなどのインフラ設備等、油圧ショベル1と接触させたくない障害物が存在する場所の3Dデータを、通信デバイスA101を介して読み込む(B100)。そして、3Dエリアデータ管理部S102は、障害物の領域を仮想の直方体形状で囲い、侵入不可領域として設定した後、GPS装置A103からの車体座標と紐づけて、グローバル座標上に侵入不可領域を設定する。
【0040】
なお、侵入不可領域は、オペレータがモニタデバイスA100にて設定しても良いし、油圧ショベル1に設けられたカメラや、ミリ波レーダなどの外界センサによるセンサ値(外界データ)などに基づいて、車体領域と侵入不可領域とをローカル座標上に設定し、ローカル座標上において車体と障害物との接触を判定しても良い。
【0041】
ここで、3Dエリアデータ管理部S102で生成されたエリア位置情報は、エリアコントロール制御部S1が表示制御部S100を介してモニタデバイスA100に所定の態様で表示される。ここで、所定の態様とは、二次元データによる表示、三次元データによる表示、カメラ映像におけるAR(Augmented Reality/拡張現実)による表示など、あらゆる態様を含む。
【0042】
次いで、車体姿勢情報管理部S101は、角度センサA102から入力されたセンサ値とアタッチメント情報管理部S107から入力されたアタッチメント情報とに基づいて、フロント作業機1A及び上部旋回体1dを囲う直方体形状のグローバル座標上の座標を演算し、その座標をグローバル座標上に車体領域として設定する(B101)。
【0043】
次に、フロント軌道予測部S104は、操作装置A106のレバー操作が入力されたとき、その操作量に応じた車体の動きを、車体の動特性、試験データによる関数テーブル等によって演算し、フロント作業機1A、上部旋回体1dを囲っている直方体形状の軌道を予測する(B102)。
【0044】
次に、接触判定部S105は、分離超平面の論理を用いて、侵入不可領域と車体領域の接触判定を行い、接触すると判定された場合は何秒数に接触するか接触判定時間を算出する(B103)。
【0045】
次いで、アクチュエータ制御部S106は、接触判定時間に基づき、電磁弁A104の作動を制御する。電磁弁A104の制御介入により、アクチュエータの動作を減速させ、車体が障害物に接触する前に、車体動作を制限あるいは停止する(B104)。その際、モニタデバイスA100の画面表示や、ブザーA105などでオペレータに警告を行う。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、車体領域と侵入不可領域とを仮想の直方体形状にて設定し、直方体形状が接触しているか否かを分離超平面の論理を用いて判定しているため、点群データに基づいて接触判定する場合と比べて、データ量が大幅に圧縮され、コントローラの制御負担も大幅に軽くなる。そのため、高性能なコントローラは不要であり、コスト削減の効果が見込める。
【0047】
なお、上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【0048】
例えば、
図6のB101の処理において、車体姿勢情報管理部S101は、操作装置A106の操作入力に基づいて、油圧ショベル1の作業内容を判定し、判定した作業内容に応じて、直方体形状の設定を変更しても良い。コントローラ100は、操作する操作レバーの組み合わせを監視することで、例えば、バケット1cをクラウドするのかダンプするのか、バケット1cの角度から法面作業を行っているのかなど、具体的な作業内容を判定することができる。
図7は、作業内容に応じた直方体形状の設定方法の一例を示す図である。
【0049】
図7(a)に示すように、通常の作業の場合には、直方体形状C100が選択される。ただし、直方体形状C100は、領域Fの部分も車体領域とみなすため、本来、バケット1cが障害物と接触しないにも関わらず、直方体形状C100が障害物と接触すると判定されてしまう。そこで、作業内容に応じて、
図7(b)に示す直方体形状C101または
図7(c)に示す直方体形状C102を選択すれば、バケット1cと障害物との接触をより正確に判定できる。
【0050】
より具体的に説明すると、バケットクラウドや法面作業を行う場合、バケット1cの手前側に障害物が存在することは稀であるため、直方体形状C101,C102を選択した方がバケット1cの手前側が車体領域と判定されないため、より正確に障害物との接触判定を行うことができる。即ち、仮に障害物があったとしても、領域Fの分だけバケット1cを移動させることができる。そのため、作業効率も向上する。
【0051】
また、
図7(d)に示すように、バケット1cの代わりにアタッチメントとしてグラップルが用いられる場合、直方体形状C103、C104によりグラップルの車体領域を設定すれば、グラップルと障害物との接触をより正確に判定できる。
【0052】
なお、車体領域の座標情報を、通信デバイスA101を介して通信により他車両と共有し、他車両の車体領域を侵入不可領域に設定すれば、自車両が他車両と接触するのを防止できる。即ち、本発明のコントローラを複数の作業機械に搭載し、互いに通信することで、車両同士の衝突を回避できる。
【0053】
なお、上記した実施形態では、フロント作業機1Aと上部旋回体1dの両方を直方体形状で囲って車体領域を設定する例を説明したが、一方のみを直方体形状で囲って車体領域を設定し、その車体領域と侵入不可領域との接触を判定しても良い。例えば、フロント作業機1Aと障害物との接触を回避したければ、フロント作業機1Aと障害物とを直方体形状で囲って接触判定し、フロント作業機1Aの動作を制御すれば良い。また、上部旋回体1dのみを対象に制御しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 油圧ショベル(作業機械)
1A フロント作業機(機体)
1a ブーム
1b アーム
1c バケット
1B 車体
1d 上部旋回体(機体)
1e 下部走行体
3a ブームシリンダ
3b アームシリンダ
3c バケットシリンダ
A102(8a~8c) 角度センサ(姿勢センサ)
A103 GPS装置(位置情報取得装置)
A106 操作装置
100 コントローラ
C100~500 直方体形状(車体領域)
D100 直方体形状(侵入不可領域)
M1 障害物