(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142434
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】羽口打開・検査機及びこれを備えた銅転炉設備並びに銅製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 15/06 20060101AFI20241003BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20241003BHJP
F27D 3/15 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C22B15/06
F27D21/00 G
F27D3/15 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054571
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】小出 克将
(72)【発明者】
【氏名】小林 純一
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【テーマコード(参考)】
4K001
4K055
4K056
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA10
4K001DA05
4K001GA06
4K001GB04
4K001GB11
4K001JA01
4K055AA04
4K055KA01
4K056AA02
4K056BA02
4K056CA04
4K056FA13
4K056FA19
4K056FA27
(57)【要約】
【課題】 銅転炉の羽口閉塞を防ぐと共に、羽口耐火物の損耗の度合いを該シェル部が赤熱する前の段階で確実且つ効率的に把握することが可能な羽口打開・検査機を提供する。
【解決手段】 銅転炉の回動軸方向に沿って1列に設けられている複数の羽口の先端部に付着する凝固物を打開すると共に、羽口耐火物の損耗状態を検査する羽口打開・検査機であって、銅転炉の側方においてその回動軸方向に往復走行可能な台車と、台車に載置されたメカニカルパンチングマシーンと、台車に搭載され、銅転炉のシェル部のうち複数の羽口の貫通箇所の温度を測定する赤外線温度計と、該測定した温度データを無線で送信する送信機と、該送信機から送信された温度データを受信する受信機とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動可能に支持された横置き円筒形の容器からなる銅転炉の回動軸方向に沿って1列に設けられている複数の羽口の先端部に付着する凝固物を打開すると共に、羽口耐火物の損耗状態を検査する羽口打開・検査機であって、前記銅転炉の側方において該回動軸方向に往復走行可能な台車と、前記台車に載置され、前記複数の羽口に挿通させるパンチングロッド及びこれを往復動させるシリンダーから構成されるメカニカルパンチングマシーンと、前記台車に搭載され、前記銅転炉のシェル部のうち前記複数の羽口の貫通箇所の温度を測定する赤外線温度計と、該測定した温度データを無線で送信する送信機と、該送信機から送信された温度データを受信する受信機とを有することを特徴とする羽口打開・検査機。
【請求項2】
前記赤外線温度計が前記台車に搭載されている運転室内に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の羽口打開・検査機。
【請求項3】
前記複数の羽口のうち、前記シェル部の外側に突出している部分の上方に設けられ、該複数の羽口の貫通箇所に向って開口する貫通孔を有する金属配管を更に有しており、前記損耗の度合いが所定の限度を超えているとき、該金属配管を介して羽口の貫通箇所にエアーを吹き付けることを特徴とする、請求項2に記載の羽口打開・検査機。
【請求項4】
銅転炉と、請求項1~3のいずれか1項に記載の羽口打開・検査機とからなることを特徴とする銅転炉設備。
【請求項5】
回動可能に支持された横置き円筒形の容器からなる銅転炉の回動軸方向に沿って1列に設けられている複数の羽口の打開及び検査を伴う銅製錬方法であって、前記銅転炉の側方において該回動軸方向に台車の走行及び停止を繰り返して一端部から他端部まで移動させ、前記複数の羽口に対して1又は複数本ごとにメカニカルパンチングマシーンを用いて凝固物を打開すると共に前記打開のタイミングに合わせて前記1又は複数本ごとに前記銅転炉のシェル部のうち羽口の貫通箇所の温度を赤外線温度計で測定し、前記測定した温度データに基づいて羽口耐火物の損耗の度合いを判断することを特徴とする銅製錬方法。
【請求項6】
前記赤外線温度計で測定した温度データに基づいて判断した前記損耗の度合いが所定の限度を超えている場合は、前記銅転炉のシェル部のうち該当する前記1又は複数本の羽口の貫通部分にエアーを吹き付けることを特徴とする、請求項5に記載の銅製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽口打開・検査機及び該羽口打開・検査機を備えた銅転炉設備並びに銅製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属製錬においては、目的金属を含んだ原料に対して、先ず乾式製錬工程において熔錬処理することで該目的金属を濃縮した後、湿式製錬工程において電解処理することで高純度の目的金属を製造している。例えば銅製錬では、先ず乾式銅製錬工程において、主原料である銅品位20~30%程度の銅精鉱に対して熔錬炉、転炉、及び精製炉で順次処理することで銅品位99%程度の精製粗銅を生成した後、湿式製錬工程において、上記の精製粗銅を鋳造して得たアノードと別途用意したカソードとを電解槽に装入して電解精製を行なうことで最終製品として銅品位99.99%の電気銅を製造している。
【0003】
より具体的に説明すると、乾式銅製錬工程では、上記熔錬炉としての例えば自熔炉に銅精鉱とフラックスとを装入して熔融及び酸化処理することで、主としてFeからなる不純物がスラグ(カラミとも称する)として分離除去され、銅品位60~70%程度のマット(カワとも称する)が生成される。このマットを略円筒形の容器を横置きにして回動可能に支持した構造の転炉にレードルを介して装入して更に酸化処理することで、銅品位98%程度の粗銅が生成される。この粗銅を精製炉に装入して酸素等の不純物を除去することで、銅品位99%程度の精製粗銅が生成される。なお、上記の自熔炉で分離除去されたスラグは微量のマットを含んでいるので、樋を介して錬カン炉に移送されて銅の回収が行なわれる。
【0004】
上記の一連の処理のうち、転炉の処理は、マットに含まれる硫化鉄を酸化することで生成した転炉スラグ(転炉カラミとも称する)を抜き出して硫化銅からなる白カワを炉内に残留させる造カン期(造カン工程とも称する)と、該白カワを酸化して金属銅を生成させる造銅期(造銅工程とも称する)との2段階でのバッチ操業となる。すなわち、先ず造カン期では、自熔炉から受け入れた銅品位60~70%程度のマットに空気又は酸素富化空気を吹き込んで該マットに含まれる硫化鉄を酸化することで、別途添加したSiO2を主成分とするフラックスと共にFe-SiO2系の転炉スラグが生成される。この転炉スラグは重力により転炉の上層側に分離するので、転炉を傾転させて炉口から該転炉スラグを抜き出すことで、鉄分をほとんど含まない銅品位70~80%程度の白カワが転炉内に残留する。上記の造カン期に続く造銅期では、転炉スラグの抜き出し後に残留する白カワに対して、再び空気又は酸素富化空気を吹き込んで白カワに含まれる硫化銅を酸化することで粗銅が生成される。
【0005】
上記の造カン期及び造銅期における空気又は酸素富化空気の吹込みでは、いずれも熔体とも称される流体状のマット又は白カワに対して該空気又は酸素富化空気を分散させて効率良く接触させるため、前述した略円筒形の炉体の直胴部分にその回動軸方向に沿って1列に設けられた金属製のパイプ群からなる複数の羽口を介して吹き込まれる。これら複数の羽口は、転炉の炉体のうち、熔体の液面よりも下側の位置において炉体のシェル部及び耐火物を貫通するように設けられている。このため、上記の造カン期や造銅期のバッチ操業を行なう過程において、該複数の羽口の先端部に存在している熔体が空気又は酸素富化空気により冷却されて凝固し、これら複数の羽口の先端部において凝固物となって付着することがある。この状態をそのまま放置すると、凝固物は徐々に成長していき、最終的にこれら複数の羽口の先端部を閉塞させてしまい、上記の空気又は酸素富化空気を該複数の羽口から吹き込むことが困難となる。
【0006】
上記の複数の羽口の閉塞を防止するため、特許文献1には各羽口の内径よりも小径のパンチングロッドと称する金属製の丸棒を、例えば圧縮空気を利用したシリンダーで往復動させる機構を備えた羽口打開機又はメカニカルパンチングマシーンと称する装置を転炉に隣接して設ける技術が開示されている。これにより、パンチングロッドをその先端部が各羽口の先端開口部からわずかに突出する程度に羽口に差し込むことができるので、該羽口の先端部に付着している凝固物を除去すること(以下、打開とも称する)が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、羽口からは空気又は酸素富化空気が吹き込まれるため、羽口の先端部の近傍に存在している熔体が特に集中的に該空気又は酸素富化空気との酸化反応を生じやすく、その結果発熱を伴う該酸化反応によって、転炉のうち羽口が貫通している部分の耐火物(以下、羽口耐火物とも称する)が、著しく損耗する傾向がある。このため、上記した転炉のバッチ操業の回数を重ねるうちに羽口耐火物が内張りされている領域の転炉のシェル部が赤熱することがあった。
【0009】
上記のように転炉のシェル部が赤熱すると、シェル部の破損に至るおそれがあるので、直ちに転炉の操業を停止して転炉の耐火物を補修しなければならなかった。そのため、銅製錬の生産量が低下したり、転炉の寿命が短くなったりする問題が生じることがあった。従って、できるだけ計画的に操業を停止して修理を行なうことができるように、シェル部が赤熱する前の段階で羽口耐火物において損耗がどの程度進んでいるか把握できる技術が求められていた。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、羽口の先端部に付着する凝固物を除去するためにバッチ操業中にメカニカルパンチングマシーンを稼働させることによって、操業中の銅転炉の複数の羽口の閉塞を防ぐと共に、これら複数の羽口の貫通箇所のシェル部に内張りされている羽口耐火物の損耗の度合いを該シェル部が赤熱する前の段階で確実且つ効率的に把握することが可能な羽口打開・検査機及びこれを備えた銅転炉設備並びに該銅転炉設備を用いた銅製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る羽口打開・検査機は、回動可能に支持された横置き円筒形の容器からなる銅転炉の回動軸方向に沿って1列に設けられている複数の羽口の先端部に付着する凝固物を打開すると共に、羽口耐火物の損耗状態を検査する羽口打開・検査機であって、前記銅転炉の側方において該回動軸方向に往復走行可能な台車と、前記台車に載置され、前記複数の羽口に挿通させるパンチングロッド及びこれを往復動させるシリンダーから構成されるメカニカルパンチングマシーンと、前記台車に搭載され、前記銅転炉のシェル部のうち前記複数の羽口の貫通箇所の温度を測定する赤外線温度計と、該測定した温度データを無線で送信する送信機と、該送信機から送信された温度データを受信する受信機とを有することを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る銅転炉設備は、上記の羽口打開・検査機と銅転炉とからなることを特徴としている。
【0013】
更に、本発明に係る銅製錬方法は、回動可能に支持された横置き円筒形の容器からなる銅転炉の回動軸方向に沿って1列に設けられている複数の羽口の打開及び検査を伴う銅製錬方法であって、前記銅転炉の側方において該回動軸方向に台車の走行及び停止を繰り返して一端部から他端部まで移動させ、前記複数の羽口に対して1又は複数本ごとにメカニカルパンチングマシーンを用いて凝固物を打開すると共に前記打開のタイミングに合わせて前記1又は複数本ごとに前記銅転炉のシェル部のうち羽口の貫通箇所の温度を赤外線温度計で測定し、前記測定した温度データに基づいて羽口耐火物の損耗の度合いを判断することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、操業中の銅転炉の複数の羽口の閉塞を防ぐことができるうえ、これら複数の羽口の貫通箇所及びその周辺部に内張りされている羽口耐火物の損耗の度合いを該シェル部が赤熱する前の段階で確実且つ効率的に把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態の銅転炉設備の斜視図である。
【
図2】
図1の銅転炉設備を構成する羽口打開・検査機の側面図及び銅転炉の羽口部分の断面図である。
【
図3】
図1の銅転炉設備を構成する銅転炉の羽口耐火物が損耗したときの状態を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態の銅転炉設備が有する制御手段によって制御される制御システムの構成図である。
【
図5】
図4の制御系の制御アルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る羽口打開・検査機の実施形態について説明する。先ず、本発明の実施形態の羽口打開・検査機を具備する銅転炉設備について
図1を参照しながら説明する。この
図1に示す銅転炉設備は、銅転炉1と、メカニカルパンチングマシーンを有する羽口打開・検査機2とからなり、この銅転炉1の運転は制御室3において制御されている。銅転炉1は、横置き円筒形のシェル部及びその内張りとなる耐火物で構成される炉体11と、該炉体11の外側に同芯軸状に設けられた1対の転炉タイヤ12と、該転炉タイヤ12を介して炉体11を回動可能に支持する受けローラ13とから構成される。上記炉体11の回動軸方向の中央部には、熔体の出入口となる炉口14が設けられており、また、炉体11の直胴部分には回動軸方向に沿って複数の羽口15が1列に設けられている。これにより、銅転炉1は白矢印のように回動軸Oを中心として回動自在であり、銅転炉1を傾けることによって炉内で生成された転炉スラグや粗銅を炉口14から流出することが可能になる。
【0017】
一方、羽口打開・検査機2は、
図2にも示すように、上記銅転炉1の側方において上記回動軸Oに平行に敷設された軌道21の上を往復走行可能な台車22と、この台車22上に載置されているメカニカルパンチングマシーン23と、該メカニカルパンチングマシーン23を操作する操作手段が設けられている運転室24と、銅転炉1のシェル部のうち上記の複数の羽口15の貫通箇所の温度を測定する赤外線温度計25と、この測定した温度データを無線で送信する送信機26と、該送信機26から送信された温度データを受信して出力する受信機27と、該受信機27から入力した温度データに基づいて判断される羽口耐火物の損耗の程度に応じて利用されるバルブ30を備えた鋼管などのエアー放出配管31とを有している。
【0018】
上記構成により、銅転炉1の複数の羽口15が凝固物で閉塞されるのを防ぐことができるうえ、銅転炉1のシェル部のうちこれら複数の羽口15の温度が所定の閾値を超えたときに、例えば、必要に応じて制御室3でアラームを発令したうえで、バルブ30に開信号を出力してエアー放出配管31から当該閾値を超えた温度を有する羽口15に向けてエアーを放出して冷却することができる。その結果、銅転炉1の炉体11のシェル部において羽口15の貫通箇所及びその周辺部に内張りされている羽口耐火物の損耗を該シェル部が赤熱する前の段階で確実且つ効率的に検知することが可能になり、結果的に銅転炉1の寿命を延ばすことができる。
【0019】
すなわち、従来、炉体11のシェル部Sのうち羽口15の貫通箇所Pが赤熱しない限り羽口耐火物Cの損耗が進行していることを把握することができなかったため、該羽口15の貫通箇所が赤熱を呈したときは
図3に示すように羽口耐火物Cが既に大きく損耗していることが多く、そのまま放置するとシェル部Sの破損に至るおそれがある。そのため、直ちに銅転炉の操業を停止して修理する必要があり、また、赤熱するまで羽口耐火物の損耗が進行したことにより銅転炉の寿命に悪影響を及ぼしていた。これに対して、上記した本発明の実施形態の羽口打開・検査機2を採用することで、羽口耐火物の損耗の進行を早い段階で検知して補修できるので、生産性への悪影響が最少となるように計画的に操業停止を行なうことができるうえ、銅転炉の寿命が短命化するのを防ぐことができる。
【0020】
メカニカルパンチングマシーン23は、1本のパンチングロッドを1個のシリンダーで往復動させるものでも良いが、複数本の平行に並べられたパンチングロッドを1個のシリンダーで同時に往復動させるのが作業効率を高めることができるので好ましい。なお、
図1には4本のパンチングロッドを1個のシリンダーで往復動させる例が示されているが、パンチングロッドの本数は4本に限定されるものではない。
【0021】
上記のように、パンチングロッドが1本の場合は、このパンチングロッドの先端部を複数の羽口15に1本ずつ順次対向するように台車22を間欠的に移動させ、各停止位置でパンチングロッドを往復動させることで付着した凝固物を除去する。一方、パンチングロッドが例えば4本の場合は、これら4本1組のパンチングロッドの先端部を複数の羽口15に対して4本ずつ順次対向するように台車22を間欠的に移動させ、各停止位置でこれら4本のパンチングロッドを往復動させることで、4本の羽口に対してまとめて凝固物を除去する。このように、パンチングロッドが複数本あれば複数本の羽口に対して一括して打開作業を行なうことができるので、作業効率が著しく向上する。
【0022】
なお、パンチングロッドが複数本の場合は、上記のように複数の羽口15のうちパンチングロッドの本数ずつ順次対向するように、台車22をパンチングロッドの本数分ずつ移動させてもよいし、必要に応じて複数の羽口15の各々に対してこれら複数本のパンチングロッドで複数回打開作業を行なうため、パンチングロッドの本数分未満の本数分ずつ移動させてもよい。例えば
図1のようにメカニカルパンチングマシーン23がパンチングロッドを4本有している場合、台車22をパンチングロッドの2本分ずつ移動させることで、各羽口に対して異なるパンチングロッドで2回ずつ打開作業を行なうことができる。この場合は上記方法に比べて作業効率が低下するものの、付着した凝固物をより確実に除去することができる。
【0023】
赤外線温度計25は、上記の打開作業を行なっている間に、シェル部のうちこの打開作業が行なわれている羽口15の貫通箇所の温度を測定する。この場合、赤外線温度計25で一度に測定する羽口15の貫通箇所は4箇所以上8箇所以下の範囲内であるのが好ましい。この一度に温度測定する箇所を8箇所以下の限られた範囲にすることで、精度の高い温度データを得ることができる。また、4箇所以上の範囲にすることで、上記したようにメカニカルパンチングマシーン23が有するパンチングロッドの本数分ずつ台車22を移動させる場合であっても、複数の羽口15の貫通箇所のうち温度測定が行なわれない箇所が発生する問題を避けることができる。
【0024】
上記の赤外線温度計25は運転室24内に設けられていることが好ましい。その理由は、羽口打開・検査機2が設けられている雰囲気は、銅転炉1の炉口14を経て銅転炉1内へ装入される様々な原材料に由来する粉塵や、銅転炉1の炉口14から操業中に排出される排ガスに随伴する粉塵などが多く漂っているため、これら粉塵による故障などの悪影響を避けるためである。
【0025】
また、赤外線温度測定装置25を構成する赤外線温度計は、上記の粉塵を防ぐためレンズにカバーが設けられていることが好ましく、更に、このカバーの表面に常時又は定期的にエアーが吹き付けられていることが好ましい。これにより、該赤外線温度計が放射熱の悪影響を受けにくくできるうえ、該カバーの表面への粉塵の付着を防ぐことができる。
【0026】
次に、上記した本発明の実施形態の羽口打開・検査機を用いた銅製錬方法について説明する。この本発明の実施形態の銅製錬方法は、銅転炉1の側方において回動軸Oに平行に敷設されている軌道21に沿って台車22を一定距離の走行及び停止を繰り返すことで、銅転炉1の一端部から他端部まで台車22を移動させる。そして、それぞれの停止位置において、メカニカルパンチングマシーン23が有する1又は複数本のパンチングロッドを用いて、銅転炉1の炉体11の直胴部分に回動軸O方向に沿って1列に設けられている複数の羽口15に対して、1又は複数本ずつ打開作業を行なう。これにより、これら複数本の羽口15の先端部に付着している凝固物を順次除去することができる。
【0027】
本発明の実施形態の銅製錬方法は、更に上記の銅転炉1の羽口15の1又は複数本ごとの打開のタイミングに合わせて、この1又は複数本ごとの羽口15に対して銅転炉1のシェル部のうち該羽口15の貫通箇所の温度を赤外線温度計25で測定する。そして、この赤外線温度計25で測定した温度データを送信機26を用いて制御室3内に設けられている受信機27に向けて無線で送信する。受信機27は、受信した温度データを制御手段28に出力する。制御手段28は受信機27から入力した温度データに基づいて例えば
図4に示す制御システム構成図の制御を行なう。この
図4に示す制御システムは、例えば
図5に示す制御アルゴリズムで制御が行なわれる。すなわち、赤外線温度計25で測定した温度データが所定の上限値を超えた場合は、エアー放出配管のバルブ30に開信号を出力することで、銅転炉1のシェル部のうち羽口15の貫通箇所にエアーを吹き付けて冷却する。また、上記制御システムが無い場合、上記温度データをグラフや表に表示させ、作業者が上限値を超えていると判断した後、エアー放出配管のバルブを開として銅転炉1のシェル部のうち羽口15の貫通箇所にエアーを吹き付けて冷却しても良い。
【0028】
上記のように、銅転炉1のシェル部のうち羽口の貫通箇所にエアーを吹き付ける場合は、羽口のうち、
図2に示すようにシェル部から外側に突出している部分の上側に銅転炉1の回動軸O方向に平行に鋼管などの金属製のエアー放出配管31を設け、該配管31に予め穿孔しておいた貫通孔から上記羽口の貫通箇所に向けてエアーを放出することが好ましい。上記のように金属製のパイプを使用する理由は、シェル部の温度が400℃を超える場合があるからである。
【0029】
なお、
図1には複数の羽口15の全体に対してエアー放出配管31を1本のみ設けた例が示されているが、これに限定されるものではなく、例えばメカニカルパンチングマシーン23で一括して打開を行なう1又は複数本の羽口ごとにエアー放出配管31及びバルブ30を設けてもよい。また、エアー放出配管31は、複数本の羽口に対してそれらが上記したようにシェル部から外側に突出している部分の上側に載せてもよいし、複数本の羽口の突出している部分の下側に吊り下げてもよい。いずれの場合でも容易に設置することができるうえ、複数本の羽口部を効率的に冷却できるので好ましい。
【0030】
上記の羽口打開・検査機2を用いた作業は、造カン期においては、そのバッチ操業の開始から5分以上経過してから造カン期が終了するまでの間に行なうことが好ましい。一方、造銅期においては、造銅期のバッチ操業前に装入した故銅原料を熔解させるため、バッチ操業の開始から15分以上経過してから炉口を経由して故銅原料を再投入するまでの間、或いは、終盤で炉内温度が上昇してくるバッチ操業の終了20分前からバッチ操業終了までの間に行なうことが好ましい。
【実施例0031】
図1に示すような、横置き円筒形の炉体からなる銅転炉1と、この銅転炉1の回動軸O方向に走行する台車22の上にメカニカルパンチングマシーン23が載置された構造の羽口打開・検査機2とからなる銅転炉設備を使用して銅製錬操業を行った。上記の羽口打開・検査機2は、銅転炉1のシェル部に横1列に設けられている複数の羽口15のうち、メカニカルパンチングマシーンで一括して打開する4本の羽口のシェル部の貫通箇所の温度を測定する赤外線温度計25と、この赤外線温度計25で測定した温度データを制御室3に設けた受信機27に無線で送信する送信機26とを設けた。制御室3では、受信機27から入力した温度データが400℃を超えたときに、シェル部のうち該当する羽口の貫通箇所にエアーを吹き付けて冷却できるようにした。
【0032】
上記エアーによる冷却は、シェル部に1列に並んで設けられている全ての羽口に対して、その上側に鉄製のエアー放出配管31を設置した。各エアー放出配管31には、シェル部に対向する位置に予めエアー放出孔を穿孔しておいた。そして、エアー放出配管31に設けたバルブ30を介してエアー供給源から圧縮エアーを導入した。銅転炉1は転炉スラグを生成する2つの造カン期と、粗銅を生成する造銅期とから構成されるバッチ操業とし、最初の造カン期ではカワ量を140tから170t受け入れ、その次に行なわれる造カン期ではカワ量を60から90t受け入れた。上記のバッチ操業を2キャンペーン行った。ここでキャンペーンとは、炉修が完了した転炉の操業を開始し、複数回のバッチ操業を行い、前記羽口耐火物が損耗したことで、操業を終え、炉修に入るまでの操業全体をいう。
【0033】
比較例のため、メカニカルパンチングマシーンが搭載されている台車に、銅転炉1のシェル部のうち羽口の貫通箇所温度を測定する赤外線温度計、及び該赤外線温度計で測定した温度データを送信する送信機を搭載しないことと、該温度データを受信する受信機を制御室に設けないこととを除いて実施例と同様にして銅製錬のバッチ操業を10キャンペーン行った。
【0034】
その結果、実施例では、バッチ操業を平均でキャンペーン全体の71%の操業回行ったところで、羽口が取り付けられている銅転炉のシェル部の温度が400℃を超えたことを検知したのでエアーによる当該箇所の冷却を開始し、以降はこの冷却を行いながら残り29%のバッチ操業を行った後、転炉の炉修に入った。一方、比較例では、バッチ操業を平均でキャンペーン全体の91%の操業回行ったところで、羽口が取り付けられている銅転炉のシェル部の赤熱が認められたのでエアーによる当該箇所の冷却を開始し、以降はこの冷却を行いながら、平均で残り9%のバッチ操業を行った後、転炉の炉修に入った。
【0035】
上記のように、実施例では、銅転炉のメカニカルパンチングマシーンが稼働している操業中の複数の羽口の全ての貫通箇所の温度を効率的に測定することができた。その結果、実施例では羽口の貫通箇所の温度が所定の閾値である400℃を超えたときに正確に検知できたので、当該羽口の貫通箇所に対して早いタイミングで冷却することが可能になり、比較例に対して転炉のキャンペーン寿命を平均6%延ばすことができた。