(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146126
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20241004BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241004BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20241004BHJP
B22F 1/0545 20220101ALI20241004BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20241004BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01G4/30 201D
H01B1/22 A
H01G4/30 516
B22F1/054
B22F1/0545
B22F1/107
B22F9/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023058853
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
(72)【発明者】
【氏名】松村 文彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏
(72)【発明者】
【氏名】大和田 夏美
(72)【発明者】
【氏名】野中 康信
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E001
5E082
5G301
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA08
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA05
4K017BB01
4K017BB02
4K017BB04
4K017BB05
4K017BB06
4K017BB07
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017DA08
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BB05
4K018BD04
4K018BD10
4K018KA33
5E001AB03
5E001AC09
5E001AD04
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E001AF06
5E001AH01
5E001AH05
5E001AH06
5E001AH07
5E001AH09
5E001AJ01
5E082AA01
5E082AB03
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE29
5E082EE30
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5G301DA10
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】 積層セラミックコンデンサの焼成工程において、導電性ペーストの乾燥物の焼結開始温度を高くし、セラミックグリーンシートの焼結開始温度に近づけることが可能な導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】 導電性粉末、有機溶剤、バインダー樹脂および添加剤を含む導電性ペーストであって、前記添加剤がフェノール系化合物を含む、導電性ペースト。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、有機溶剤、バインダー樹脂および添加剤を含む導電性ペーストであって、
前記添加剤がフェノール系化合物を含む、導電性ペースト。
【請求項2】
前記フェノール系化合物がtert-ブチル基を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記フェノール系化合物が、2,6-tert-ブチル-p-クレゾールもしくは4-tert-ブチルピロカテコール、またはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記導電性粉末と前記フェノール系化合物の質量比が、100:0.3~3である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記バインダー樹脂がエチルセルロースを含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
セラミック粉末を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記導電性粉末の数平均粒子径が30nm以上100nm以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
請求項1に記載の導電性ペーストを用いて形成された、電子部品。
【請求項9】
誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極層は、請求項1に記載の導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサに関し、より詳しくは、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layer Ceramic Capacitor)の内部電極を形成するために用いる導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やデジタル機器などの電子機器の軽薄短小化に伴い、各種電子部品の小型化が急速に進行し、チップ部品である積層セラミックコンデンサについても小型化、高容量化及び高性能化が進められている。積層セラミックコンデンサは、セラミック誘電体層と内部電極層が交互に重ね合わされ、焼結してこれらが一体化された構造を有している。尚、積層セラミックコンデンサの内部電極材料としては、従来からパラジウム等の貴金属が使用されていたが、現在ではコスト低減のためニッケルが主流となっている。そして、積層セラミックコンデンサの小型化、高容量化及び高性能化を実現するための最も効果的な手段は、ニッケル内部電極層とセラミック誘電体層を薄くして多層化を図ることである。
【0003】
一般に、積層セラミックコンデンサは、例えば以下の製造工程で製造される。まず、内部電極材料としてニッケル粉末などの導電性粉末を有機樹脂バインダー及び溶剤を含有するビヒクル中に分散させた導電性ペーストを作製する。次に、チタン酸バリウム(BaTiO3)などの誘電体粉末を主成分としてこの導電性粉末を有機樹脂バインダー中に分散させてペースト状にし、このペーストをプラスチックのキャリアフィルム上に薄いシート状に延ばし、その後乾燥させることによってセラミックグリーンシートを作製する。導電性ペーストをこのグリーンシート上に印刷した後、乾燥させて溶剤を除去し内部電極となる乾燥膜を形成する。このようにして乾燥膜が形成されたグリーンシートを多層に積み重ねた状態で加熱圧着して一体化し、誘電体ブロックを形成する。そして、一体化した誘電体ブロックを所定のチップサイズにカットし、その後、このチップを有機樹脂バインダーを除去するために、酸化性雰囲気又は不活性雰囲気中にて500℃以下の温度で熱処理し脱バインダー処理を行う。次に、内部電極が酸化しないように還元雰囲気中にて1300℃程度までチップを加熱して焼成処理を行い、内部電極層、およびセラミック誘電体層を一体焼結させる。次に、焼結させたチップの両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布し、800℃程度で焼き付けを行って外部電極を形成する。その後、その外部電極の表面にめっきを行い、積層セラミックコンデンサを得る。
【0004】
しかし、上記焼成処理において、セラミック誘電体層が焼結し収縮を開始する温度は、1200℃程度であり、ニッケルなどの導電性粉末が焼結し収縮を開始する温度に比べて高く、セラミック誘電体層と内部電極層の夫々の収縮挙動が大きく異なることにより、層間剥離(デラミネーション)やクラックといった構造欠陥が発生する場合がある。
【0005】
しかるに、この問題を解決するための従来技術として、特許文献1には、ニッケル元素を主成分とする微粒子の表面に、貴金属元素を主成分とする微粒子を点在させるニッケル微粒子を用いることにより、ニッケル微粒子の耐焼結性を向上させ、内部電極層の収縮や内部電極膜の途切れを抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年の電子部品はますます小型化し、内部電極層や誘電体層の薄層化が進むことにより、層間剥離やクラック、内部電極膜の途切れなどの構造欠陥の発生の問題は、より顕著になり、特許文献1に開示されている技術では解決されているとは言い難い状態になっている。
【0008】
例えば特許文献1に記載の技術は、ニッケル元素を主成分とした微粒子表面に貴金属元素を主成分とする微粒子を点在させる導電粒子を用いるものである。より微細化の進む中で、ニッケル粉末同士が焼結しないように、高価な貴金属微粒子を均一に点在させるには、技術的にも材料的にもコスト高になってしまい好ましくない。
【0009】
本発明は、上記した従来の事情に鑑みてなされたものであり、積層セラミックコンデンサの焼成工程において、導電性ペーストの乾燥物の焼結開始温度を高くし、セラミックグリーンシートの焼結開始温度に近づけることが可能な導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の導電性ペーストは、導電性粉末、有機溶剤、バインダー樹脂および添加剤を含む導電性ペーストであって、前記添加剤がフェノール系化合物を含む、導電性ペーストである。
【0011】
前記フェノール系化合物がtert-ブチル基を含んでもよい。
【0012】
前記フェノール系化合物が、2,6-tert-ブチル-p-クレゾールもしくは4-tert-ブチルピロカテコール、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0013】
前記導電性粉末と前記フェノール系化合物の質量比が、100:0.3~3であってもよい。
【0014】
前記バインダー樹脂がエチルセルロースを含んでもよい。
【0015】
本発明の導電性ペーストは、セラミック粉末を含んでもよい。
【0016】
前記導電性粉末の数平均粒子径が30nm以上100nm以下であってもよい。
【0017】
また、上記の課題を解決するため、本発明の電子部品は、本発明の導電性ペーストを用いて形成された、電子部品である。
【0018】
また、上記の課題を解決するため、本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、前記内部電極層は、本発明の導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、積層セラミックコンデンサの焼成工程において、導電性ペーストの乾燥物の焼結開始温度を高くし、セラミックグリーンシートの焼結開始温度に近づけることが可能な導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】積層セラミックコンデンサを示す斜視図及び側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者は、積層セラミックコンデンサの焼結工程において、導電性ペーストに含有させる各種添加材料が、内部電極層を形成する際の焼結による収縮挙動に与える影響を鋭意検討した結果、導電性ペーストにフェノール系化合物を含有させると、導電性ペーストの焼結開始温度を上昇させる効果があることを見出した。
【0022】
すなわち、フェノール系化合物は焼結時の導電性粉末の耐熱性を向上させ、より高温まで導電性粉末同士の凝集を防止した状態を維持することができるため、焼成時に導電性粉末同士の結合をより高温まで阻害し、焼結温度を上昇させていると考えられる。
【0023】
そして、フェノール系化合物による導電性ペーストに対する焼結温度を上昇させる効果により、導電性粉末の焼結開始温度と誘電体層の焼結開始温度との差が小さくなり、フェノール系化合物を含有しない従来の導電性ペーストに比べて、焼結時の誘電体層と内部電極層との間に発生する応力が小さくなり、焼結時に発生する誘電体層と内部電極層の層間剥離やクラックの発生を抑制できることを見出し、本発明を導出するに至った。
【0024】
以下、本発明の導電性ペースト、電子部品、及び、積層セラミックコンデンサの一実施形態について説明する。
【0025】
[導電性ペースト]
本発明の導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサの内部電極形成用のペーストとして好適なものであり、導電性粉末、有機溶剤、バインダー樹脂および添加剤を含む。そして、添加剤としてはフェノール系化合物を含む。
【0026】
さらに、本発明の導電性ペーストにおいては、収縮挙動をグリーンシートにより近づけるために、グリーンシートの構成材料である誘電体粉末としてセラミック粉末を含んでも良い。
【0027】
以下、導電性粉末、セラミック粉末、有機溶剤、バインダー樹脂及び添加剤について、詳細に説明する。
【0028】
(導電性粉末)
導電性粉末は、特に限定されず、金属粉末を用いることができ、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、及びこれらの合金から選ばれる1種以上の金属粉末を用いることができる。これらの中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、Ni、又はNi合金の粉末が好ましい。Ni合金としては、例えば、Mn、Cr、Co、Al、Fe、Cu、Zn、Ag、Au、Pt及びPdからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素とNiとの合金(Ni合金)を用いることができる。Ni合金におけるNiの含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上である。
【0029】
また、Ni粉末は、脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、Ni粉末の製造過程においてNi粉末の表面を表面処理する硫黄コート処理により、数百ppm程度の硫黄を含める場合がある。
【0030】
導電性粉末の数平均粒子径は、好ましくは30nm以上100nm以下であり、より好ましくは40nm以上90nm以下である。導電性粉末の平均粒径が上記範囲である場合、薄膜化した積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電性ペーストとして好適に用いることができ、乾燥膜の平滑性が向上する。ここで、数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率10,000倍にて観察した画像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0031】
前記導電性粉末の前記導電性ペーストの全体量に対する含有量は、好ましくは40質量%~65質量%であり、より好ましくは45質量%~60質量%である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0032】
(セラミック粉末)
セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極用の導電性ペーストである場合、適用する積層セラミックコンデンサの種類により適宜、公知のセラミック粉末が選択される。セラミック粉末としては、例えば、Ba及びTiを含むペロブスカイト型酸化物が挙げられ、好ましくはチタン酸バリウム(BaTiO3)である。
【0033】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウムを主成分とし、酸化物を副成分として含むセラミック粉末を用いてもよい。酸化物としては、Mn、Cr、Si、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、Nb及び1種類以上の希土類元素の酸化物が挙げられる。また、セラミック粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のBa原子やTi原子を他の原子、例えば、Sn、Pb、Zr等で置換したペロブスカイト型酸化物強誘電体のセラミック粉末を用いてもよい。
【0034】
内部電極用の導電性ペーストにおいては、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを構成する誘電体セラミック粉末と同一組成の粉末を、セラミック粉末として用いてもよい。これにより、焼結工程における誘電体層と内部電極層との界面での収縮のミスマッチによるクラック発生が抑制される。このようなセラミック粉末としては、上記以外に、例えば、ZnO、フェライト、PZT、BaO、Al2O3、Bi2O3、R(希土類元素)2O3、TiO2等の酸化物が挙げられる。なお、セラミック粉末は、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0035】
セラミック粉末の数平均粒子径は、例えば、10nm~100nmであり、好ましくは10nm~70nmの範囲である。セラミック粉末の数平均粒子径が上記範囲であることにより、内部電極用の導電性ペーストとして用いた場合、十分に細く薄い均一な内部電極を形成することができる。数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から求められる値であり、SEMで倍率50,000倍にて観察した映像から、複数の粒子一つ一つの粒径を測定して、得られる平均値である。
【0036】
導電性ペーストがセラミック粉末を含む場合、セラミック粉末の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部~30質量部であり、より好ましくは3質量部~30質量部である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0037】
導電性ペーストがセラミック粉末を含む場合、セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは1質量%~20質量%であり、より好ましくは3質量%~20質量%以下である。導電性粉末の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0038】
(有機溶剤)
導電性ペーストには、粘度調整用に更に有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、導電性ペーストに用いられている一般的な有機溶剤を用いることができるが、有機ビヒクルに用いる有機溶剤を用いるのが好ましい。有機溶剤としては、例えば、ジヒドロターピネオールを含んでもよい。ジヒドロターピネオールを使用することにより、導電性ペーストのスクリーン印刷への使用時に適した粘度とすることができる。
【0039】
有機溶剤の含有量の合計は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは40質量部~120質量部であり、より好ましくは70質量部~110質量部である。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0040】
有機溶剤の含有量の合計は、導電性ペースト全体に対して、20質量%~60質量%が好ましく、35質量%~55質量%がより好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0041】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されないが、例えば、質量平均分子量が30000~150000であり、エトキシ基含有量が45~50質量%のエチルセルロースを含んでもよい。このようなエチルセルロースを含むことにより、乾燥後の導電膜としての平滑性が高い導電性ペーストを得ることができる。また、導電性ペーストを内部電極へ加工する過程において焼成する工程があるが、この焼成後の残留炭素分が過度に増加することなく、印刷性を充分に確保することができる。
【0042】
なお、エチルセルロースの質量平均分子量が30000未満の場合には、印刷を行うために充分な粘度を得ることが困難になるおそれがある。また、同分子量が150000よりも大きいと、得られる導電性ペーストが増粘して、印刷性が悪くなるおそれがある。
【0043】
また、エチルセルロースのエトキシ基含有量が45~50質量%であれば、有機溶剤に対する相溶性に優れ、溶解性が良好であることから、乾燥後の導電膜としての平滑性が高い導電性ペーストを得ることができる。エチルセルロースのエトキシ基含有量は、より好ましくは、47~50質量%である。
【0044】
バインダー樹脂としては、上記のエチルセルロースのみを単独で使用しても良く、エチルセルロース以外の樹脂をさらに含んでも良い。例えば、前記バインダー樹脂が、エチルセルロースに加えて、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース及びポリビニルブチラールから選ばれる樹脂のうち、少なくとも1種以上をさらに含んでもよい。
【0045】
例えば、内部電極用の導電性ペーストとして用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点からポリビニルブチラールを使用してもよい。
【0046】
メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース及びポリビニルブチラールから選ばれるバインダー樹脂において、質量平均分子量は、例えば、20000~300000程度であることが好ましい。質量平均分子量が20000未満であると、印刷を行うために充分な粘度を得ることが困難になる。質量平均分子量のより好ましい下限は30000である。かかる下限が30000以上であれば残留炭素分の増加を生じることなく、印刷性を充分に確保することができる。一方で、質量平均分子量が300000を超えると、得られる導電性ペーストが増粘して印刷性が悪くなるおそれがある。質量平均分子量が300000以下であれば、エチルセルロースとの相溶性を確保しつつ、印刷性に優れる導電性ペーストを得ることができる。質量平均分子量の好ましい上限については、エチルセルロースとの配合比等にもよるが、300000以下とすることで、導電性ペーストを乾燥させた塗膜を焼成後の残留炭素を低減させることが可能となる。
【0047】
バインダー樹脂としてエチルセルロース以外の樹脂を含む場合には、質量比でエチルセルロース:エチルセルロース以外の樹脂=30~70:70~30とすることが好ましい。
【0048】
バインダー樹脂の含有量は、導電性粉末100質量部に対して、好ましくは1質量部~10質量部以下であり、より好ましくは1質量部~8質量部である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0049】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全体に対して、好ましくは0.5質量%~10質量%であり、より好ましくは1質量%~6質量%である。バインダー樹脂の含有量が上記範囲である場合、導電性及び分散性に優れる。
【0050】
(添加剤)
本発明の導電性ペーストに用いる添加剤は、フェノール系化合物を含有する。上述したように、フェノール系化合物は耐熱性を有し、導電性粉末同士の結合を通常の焼結温度よりも高温まで阻害し、導電性粉末の焼結温度を上昇させていると考えられる。このようなフェノール系化合物は、tert-ブチル基を含む。tert-ブチル基を含むフェノール系化合物としては、例えば、2,6-tert-ブチル-p-クレゾール、4-tert-ブチルピロカテコールが挙げられ、これらを併用してもよい。
【0051】
また、本発明の積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストに用いる添加剤は、フェノール系化合物に加えて、さらに、フェノール系化合物以外の添加剤を含有しても良い。フェノール系化合物に加えて含有しうるフェノール系化合物以外の添加剤としては、例えば、高級脂肪酸や高分子界面活性剤等の酸系分散剤や、アミン塩基系分散剤などの塩基系分散剤など、一般に導電性ペーストに用いられている添加剤を含有させることができる。
【0052】
なお、本発明の導電性ペーストにおけるフェノール系化合物の含有量は、導電性粉末100質量部に対し、0.3質量部以上3質量部以下であることが好ましい。
【0053】
フェノール系化合物の含有量が0.3質量部未満であると、導電性粉末に充分分配されない場合があり、焼成時の焼結開始温度を上昇させる効果を発揮できない場合がある。
【0054】
一方、フェノール系化合物の含有量が3質量部を上回ると、焼結開始温度を上昇させる効果が飽和し、導電性ペーストをグリーンシートに塗布・乾燥した後に、添加剤が乾燥膜表層にブリードアウトする場合がある。
【0055】
また、本発明の導電性ペーストにおいては、フェノール系化合物以外の他の添加剤を含めた添加剤の含有量の総量は、導電性ペースト100質量%に対し、0.09質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0056】
フェノール系化合物以外の他の添加剤を含めた添加剤の含有量の総量が0.09質量%未満であると、導電性粉末を含めたペースト構成材料を十分均一に分散できない場合があるので好ましくない。
【0057】
一方、フェノール系化合物以外の他の添加剤を含めた添加剤の含有量の総量が5質量%を上回ると、導電性ペーストをグリーンシートに塗布・乾燥した後に、添加剤が乾燥膜表層にブリードアウトする場合があるので好ましくない。
【0058】
(ニッケルペーストを用いた積層体の焼結挙動の評価)
導電性粉末としてニッケルを使用したニッケルペーストを用いた積層体は、焼成処理をすると730℃~1000℃程度の温度で焼結を開始し、さらに温度を1300℃程度まで上げることにより、ニッケル及びセラミックグリーンシートの焼結が進み収縮していく。この焼結による収縮は、730℃~1000℃程度の比較的低温で焼結を開始し、焼結開始後は焼結が急速に進行するニッケル粉末の焼結挙動と、1200℃程度の比較的高温で焼結を開始し、焼結開始後は焼結がゆっくり進行するセラミックグリーンシートの焼結挙動とが合わさって生じているものである。
【0059】
ここで、セラミックグリーンシートの焼結開始温度は、導電体を形成するニッケルペーストの影響を受けず、ほとんど変化しないと考えられるため、ニッケル粉末の焼結開始温度が低く、より低温で焼結が開始されると、セラミックグリーンシートの焼結開始温度との差がより大きくなってしまうことになる。一方、ニッケル粉末の焼結開始温度が高いほど、セラミックグリーンシートとニッケル粉末の収縮挙動が近くなり、構造欠陥を発生し難いといえる。
【0060】
そこで、後述する実施例において、本発明の構成を備えた積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストと、本発明の構成を備えない従来用いられている積層セラミックコンデンサ用ニッケルペーストの夫々の評価試料の焼結開始温度を評価することにより、ニッケル粉末の収縮挙動とセラミックグリーンシートの収縮挙動の近づき度合いを評価することとした。
【0061】
(導電性ペーストの製造方法)
本発明の導電性ペーストの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。導電性ペーストは、例えば、上記の各成分を用意し、3本ロールミル、ボールミル、ミキサー等で攪拌・混練することにより製造することができる。その際、導電性粉末表面に予め分散剤を塗布すると、導電性粉末が凝集することなく十分にほぐれて、その表面に分散剤が行きわたるようになり、均一な導電性ペーストを得やすい。また、バインダー樹脂をビヒクル用の有機溶剤に溶解させ、有機ビヒクルを作製し、ペースト用の有機溶剤へ、導電性粉末、セラミック粉末、有機ビヒクル及び分散剤を添加し、ミキサーで攪拌・混練し、導電性ペーストを作製してもよい。
【0062】
導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサやバリスタ等の電子部品に好適に用いることができる。積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートを用いて形成される誘電体層及び導電性ペーストを用いて形成される内部電極層を有する。
【0063】
積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートに含まれる誘電体セラミック粉末と導電性ペーストに含まれるセラミック粉末とが同一組成の粉末であることが好ましい。本実施形態の導電性ペーストを用いて製造される積層セラミックコンデンサは、誘電体グリーンシートの厚さが、例えば2μm以下である場合でも、シートアタックやグリーンシートの剥離不良が抑制される。
【0064】
[電子部品]
以下、本発明の導電性ペーストを用いて製造することのできる電子部品等の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向等を、適宜、
図1等に示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0065】
図1A及び
図1Bは、実施形態に係る電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す斜視図及び側面断面図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層したセラミック積層体10と外部電極20とを備える。
【0066】
以下、上記導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサ1の製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシートからなる誘電体層上に、導電性ペーストを印刷して、乾燥し、乾燥膜を形成する。この乾燥膜を上面に有する複数の誘電体層を、圧着により積層させて積層体を得た後、積層体を焼成して一体化することにより、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層したセラミック積層体10を作製する。その後、セラミック積層体10の両端部に一対の外部電極20を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0067】
まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0068】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、スクリーン印刷法等の公知の方法によって、上述の導電性ペーストを印刷(塗布)して乾燥し、乾燥膜を形成したものを複数枚、用意する。なお、印刷後の導電性ペースト(乾燥膜)の厚みは、内部電極層11の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0069】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートからなる誘電体層とその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体を得る。なお、積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0070】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、当該グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、セラミック積層体10を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気又はN2ガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0071】
グリーンチップの焼成を行うことにより、グリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラミック製の誘電体層12が形成される。また乾燥膜中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末又はニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極が形成され、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0072】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極20を設けることにより、積層セラミックコンデンサ1が製造される。例えば、外部電極20は、外部電極層21及びメッキ層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続される。なお、外部電極20の材料としては、例えば、銅やニッケル、又はこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、バリスタ等の積層セラミックコンデンサ以外の電子部品であってもよい。
【実施例0073】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は実施例における各評価試料の結果によって何ら限定されるものではない。
【0074】
<実施例1>
(ニッケルペーストの作製)
ニッケル粉末(数平均粒子径60nm)100質量部に対し、エチルセルロース6質量部をジヒドロターピネオール103質量部に溶解させて得た有機ビヒクルを109質量部、添加剤として2,6-tert-ブチル-p-クレゾールを0.3質量部、セラミック粒子としてチタン酸バリウム(数平均粒子径10nm)を8質量部となる比率で準備した原材料を、3本ロールミルを用いて同時に混練し、実施例1のニッケルペーストを製造した。
【0075】
(焼結挙動の評価)
得られた導電性ペーストを、120℃で40分乾燥処理して有機溶剤を揮発させ、得られた乾燥物を粉砕し、乾燥粉末試料を得た。作製した乾燥粉末試料0.15gを円柱形の金型(底面の直径5mm)に入れ、98mNの荷重をかけ、焼結挙動評価用ペレットを作製した。作製した焼結挙動評価用ペレットを熱機械分析装置(以下、TMA、Rigaku社製:EVO2G TMA 8311B)に設置し、まず脱バインダー処理を行った。脱バインダー処理では、焼結挙動評価用ペレットに98mNの荷重を加えながら、窒素ガスを200mL/分の流量で導入しながら、310℃で3時間加熱した。脱バインダー処理の後、焼成処理を行った。焼成処理では、脱バインダー処理後の焼結挙動評価用ペレットに98mNの荷重を加えながら、0.15体積%の水素を含む窒素を200mL/分の流量で導入し、さらに40℃における相対湿度が90%になるように水蒸気を導入し、昇温速度5℃/分で25℃から1300℃まで加熱した。焼成処理において、ペレットの高さが8%以上収縮する温度を、焼結開始温度とした。焼結開始温度が730℃以上である場合を焼結挙動が最も良好(○)、700℃から730℃未満である場合を焼結挙動が良好(△)、700℃未満である場合を焼結挙動が不良(×)、とした。焼結挙動の評価結果を表1に示す。
【0076】
<実施例2>
添加剤として2,6-tert-ブチル-p-クレゾールに変えて4-tert-ブチルピロカテコールを0.3質量部使用した以外は、実施例1と同様にニッケルペーストを作製し、焼結挙動を評価した。焼結挙動の評価結果を表1に示す。
【0077】
<比較例1>
添加剤として何も使用しなかった以外は、実施例1と同様にニッケルペーストを作製し、焼結挙動を評価した。焼結挙動の評価結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
実施例1、2は、比較例1と比較して、焼結開始温度がより高温であることから、ニッケル粉末とセラミックグリーンシートの焼結挙動が近づいていることが推認できる。このことから、フェノール系化合物の含有量を本発明における好ましい範囲とすることで、ニッケル粉末による導電層とセラミックグリーンシートによる誘電体層との間に層間剥離が生じたり、応力差により導電層にクラックが生じたり、内部電極膜に途切れが生じたりし難くなることが推認できる。
【0080】
本評価の結果より、ニッケル粉末とセラミックグリーンシートの焼結挙動を近づけることにより、内部電極層や誘電体層の薄層化が進む積層セラミックコンデンサの不良品の発生を低減させることが可能となるといえる。