(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147494
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】抄造マット及び抄造マットの製造方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20241008BHJP
D06M 15/09 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/233 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/333 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20241008BHJP
D06M 11/79 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F01N3/28 311N
F01N3/28 311P
D06M15/09
D06M15/233
D06M15/263
D06M15/333
D06M15/55
D06M15/693
D06M11/79
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025479
(22)【出願日】2024-02-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2023060456
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023147007
(32)【優先日】2023-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】松田 航
(72)【発明者】
【氏名】山崎 友久
(72)【発明者】
【氏名】前田 敏幸
【テーマコード(参考)】
3G091
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AB01
3G091AB13
3G091BA39
3G091GA06
3G091GB02W
3G091GB03W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091HA26
3G091HA29
4L031AA24
4L031AB34
4L031BA02
4L031BA06
4L031BA11
4L031BA20
4L031DA11
4L033AA09
4L033AB07
4L033AC11
4L033CA05
4L033CA13
4L033CA18
4L033CA29
4L033CA49
4L033CA68
(57)【要約】 (修正有)
【課題】面圧が充分に高い抄造マットを提供する。
【解決手段】無機繊維20から構成される抄造マットであって、上記抄造マットは、10本以上の上記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束21と、上記繊維束を構成しない上記無機繊維とを含み、上記繊維束の平均長さは、5~15mmであり、上記繊維束の平均幅は、0.2~1.0mmであり、上記繊維束は、ちぢれた状態の繊維束を含み、下記なぞり長さ測定方法で測定した上記ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さの方が、上記ちぢれた状態の繊維束の長さよりも0.1mm以上長いことを特徴とする抄造マット。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維から構成される抄造マットであって、
前記抄造マットは、10本以上の前記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束と、前記繊維束を構成しない前記無機繊維とを含み、
前記繊維束の平均長さは、5~15mmであり、
前記繊維束の平均幅は、0.2~1.0mmであり、
前記繊維束は、ちぢれた状態の繊維束を含み、
下記なぞり長さ測定方法で測定した前記ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さの方が、前記ちぢれた状態の繊維束の長さよりも0.1mm以上長いことを特徴とする抄造マット。
なぞり長さの測定方法:
ちぢれた状態の繊維束を平面上に静置する。
静置された前記ちぢれた状態の繊維束を上方から見て、前記ちぢれた状態の繊維束の一方の端部から他方の端部までを前記ちぢれた状態の繊維束に沿ってなぞり、そのなぞった距離を、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」とする。
【請求項2】
前記無機繊維が100重量部に対し、有機バインダを0.1~20重量部、及び、無機バインダを0.1~10重量部含む請求項1に記載の抄造マット。
【請求項3】
前記有機バインダのガラス転移温度Tgは、5℃以下である請求項2に記載の抄造マット。
【請求項4】
前記有機バインダは、水溶性有機重合体として機能するアクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂として機能するスチレン樹脂、並びに、熱硬化樹脂として機能するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2又は3に記載の抄造マット。
【請求項5】
前記無機バインダは、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ホウ素、ダイヤモンド及び軽石からなる少なくとも1種を含む請求項2又は3に記載の抄造マット。
【請求項6】
前記繊維束は、ストレート状態の繊維束を含む請求項1又は2に記載の抄造マット。
【請求項7】
無機繊維成形体を水中で開繊し、開繊された無機繊維を含むスラリーを作製する開繊工程と、
前記スラリーを抄造して抄造マットとする抄造工程とを含む抄造マットの製造方法であって、
前記開繊工程では、前記スラリーに、10本以上の前記無機繊維が撚れるように交絡して形成され、平均長さが5~15mmであり、平均幅が0.2~1.0mmである繊維束と、前記繊維束を構成しない前記無機繊維とが含まれるように開繊を行うことを特徴とする抄造マットの製造方法。
【請求項8】
前記無機繊維成形体は、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び/又は抄造マット由来の第2無機繊維成形体を含む請求項7に記載の抄造マットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄造マット及び抄造マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される保持シール材(マット材)とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。この保持シール材(マット材)は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排気ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。
【0004】
マット材が排ガス処理体を保持する力(面圧)を向上させるため、特許文献1では、特定の紡糸助剤を用いてアルミナ繊維集合体を製造することにより面圧を向上させたマット材が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、一旦、ニードルリングシートを作製し、当該ニードルリングシートを乾式開繊し、塊状凝集繊維を含む開繊繊維を得て、さらに塊状凝集繊維を含む開繊繊維を用いて抄造シート材を製造することが開示されている。さらに、特許文献2には、塊状凝集繊維を含むことで抄造シート材の面圧が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/012423号
【特許文献2】特開2008-82310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のマット材は、アルミナ繊維が折れやすく、面圧が低下しやすいという問題があった。
特許文献2に記載の抄造シート材は、ニードルリングシートを乾式開繊するので、開繊された繊維が短くなり、塊状凝集繊維を構成する繊維も短くなる。そのため、塊状凝集繊維では繊維同士が充分に交絡せず、塊状凝集繊維が撚れる形状とならない。また、塊状凝集繊維の長さも短くなる。そのため、塊状凝集繊維の弾性が充分に高くならず、これに起因して製造する抄造シート材の面圧が充分に高くなりにくいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、面圧が充分に高い抄造マットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の抄造マットは、無機繊維から構成される抄造マットであって、上記抄造マットは、10本以上の上記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束と、上記繊維束を構成しない上記無機繊維とを含み、上記繊維束の平均長さは、5~15mmであり、上記繊維束の平均幅は、0.2~1.0mmであり、上記繊維束は、ちぢれた状態の繊維束を含み、下記なぞり長さ測定方法で測定した上記ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さの方が、上記ちぢれた状態の繊維束の長さよりも0.1mm以上長いことを特徴とする。
なぞり長さの測定方法:
ちぢれた状態の繊維束を平面上に静置する。
静置された上記ちぢれた状態の繊維束を上方から見て、上記ちぢれた状態の繊維束の一方の端部から他方の端部までを上記ちぢれた状態の繊維束に沿ってなぞり、そのなぞった距離を、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」とする。
【0010】
本発明の抄造マットは、所定の大きさを有する繊維束を含む。
このような繊維束は、10本以上の無機繊維が撚れるように交絡し、所定の長さ及び幅を有するように形成されており、互いに支えあっているので、押圧に対し変形しにくい。そのため、抄造マットに押圧がかかる場合において、繊維束は心材として働き、繊維束を構成しない無機繊維に係る押圧を緩和することができる。従って、繊維束を構成しない無機繊維が押圧により折れてしまうことを防ぐことができる。その結果、本発明の抄造マットは面圧が高くなる。
【0011】
本発明の抄造マットでは、繊維束がちぢれた状態の繊維束を含み、上記なぞり長さ測定方法で測定した上記ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さの方が、上記ちぢれた状態の繊維束の長さよりも0.1mm以上長い。
ちぢれた状態の繊維束は弾性があり、このような繊維束を含む抄造マットは面圧が高くなる。
【0012】
本発明の抄造マットでは、無機繊維が100重量部に対し、有機バインダを0.1~20重量部、及び、無機バインダを0.1~10重量部含むことが好ましい。
有機バインダ及び無機バインダは、無機繊維同士を接着し、抄造マットの形状を維持する。
有機バインダ及び無機バインダの含有量が上記範囲であると、無機繊維同士の接着が適度となり、抄造マットの柔軟性と形状維持性を両立することができる。
また、抄造マットから無機繊維が脱落すること、及び、飛散することを抑止することができる。
【0013】
本発明の抄造マットでは、上記有機バインダのガラス転移温度Tgは、5℃以下であることが好ましい。
上記有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃以下であると、有機バインダにより形成される有機バインダ皮膜の強度を高くしつつ、皮膜伸度が高くて可撓性に優れた抄造マットとすることができる。
【0014】
本発明の抄造マットでは、上記有機バインダは、水溶性有機重合体として機能するアクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂として機能するスチレン樹脂、並びに、熱硬化樹脂として機能するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、本発明の抄造マットでは、上記無機バインダは、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ホウ素、ダイヤモンド及び軽石からなる少なくとも1種を含むことが好ましい。
これらの有機バインダ及び無機バインダは、無機繊維同士を接着し、抄造マットの形状を維持するのに適している。
【0015】
本発明の抄造マットでは、上記繊維束は、ストレート状態の繊維束を含んでいてもよい。
ストレート状態の繊維束は、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び抄造マット由来の第2無機繊維成形体を水中で開繊することにより得ることができる。
【0016】
本発明の抄造マットの製造方法は、無機繊維成形体を水中で開繊し、開繊された無機繊維を含むスラリーを作製する開繊工程と、上記スラリーを抄造して抄造マットとする抄造工程とを含む抄造マットの製造方法であって、上記開繊工程では、上記スラリーに、10本以上の上記無機繊維が撚れるように交絡して形成され、平均長さが5~15mmであり、平均幅が0.2~1.0mmである繊維束と、上記繊維束を構成しない上記無機繊維とが含まれるように開繊を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明の抄造マットの製造方法では、無機繊維成形体を水中で開繊して得られた無機繊維を抄造してなる。
無機繊維成形体を開繊する際、無機繊維が完全に開繊されず、複数の繊維が撚れるように交絡した繊維束が生じる場合がある。
本発明の抄造マットの製造方法では、このような繊維束を意図的に生じさせている。
なお、繊維束において撚れるように交絡している無機繊維の数、並びに、繊維束の平均長さ及び繊維束の平均幅は、開繊条件を調整することにより調整することができる。
このような方法で製造された抄造マットは面圧が高くなる。
【0018】
本発明の抄造マットの製造方法では、上記無機繊維成形体は、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び/又は抄造マット由来の第2無機繊維成形体を含むことが好ましい。
無機繊維成形体が、ニードルマット由来であっても、抄造マット由来であっても、開繊工程において繊維束を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、面圧が充分に高い抄造マットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】
図1Aは、本発明の抄造マットの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の抄造マットに含まれるちぢれた状態の繊維束の一例の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4A】
図4Aは、実施例1に係る抄造マットに含まれていたストレート状態の繊維束の一つの写真である。
【
図5A】
図5Aは、実施例1に係る抄造マットに含まれていたちぢれた状態の繊維束の一つの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の抄造マットについて具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0022】
本発明に係る抄造マットを、図面を用いて説明する。
図1Aは、本発明の抄造マットの一例を模式的に示す斜視図である。
図1Bは、
図1Aの破線部の拡大図である。
図1Aに示すように、抄造マット10は、無機繊維から構成される抄造マットである。
抄造マット10は、一方の端部11に凸部11aが設けられており、他方の端部12に凹部12aが設けられた、平面視矩形の形状である。
【0023】
詳しくは後述するが、抄造マット10は、排ガス処理体に巻き付けられて、排ガス浄化装置に配置される。
凸部11a及び凹部12aは、抄造マット10を排ガス処理体に巻き付けた際に、丁度嵌合する形状である。
このような凸部11a及び凹部12aが設けられていると、抄造マット10を後述する排ガス浄化装置に配置した際にシール性が向上する。
なお、本発明の抄造マットは、端部に凸部及び凹部を有していなくてもよい。
【0024】
図1Bに示すように、抄造マット10は、10本以上の無機繊維20が撚れるように交絡して形成された繊維束21と、繊維束21を構成しない無機繊維22とを含む。
繊維束21は、ストレート状態(
図1B中、符号「21a」で示す状態)や、ちぢれた状態(
図1B中、符号「21b」で示す状態)を含む。
なお、抄造マット10では、繊維束21は、ちぢれた状態の繊維束21bを必須の構成要件として含む。
【0025】
なお、本明細書において、「ストレート状態」とは繊維束の方向(
図1B中、矢印D1で示す方向)が直線状であることを意味する。
また、本明細書において、「ちぢれた状態」とは、繊維束の方向(
図1B中、矢印D2で示す方向)が少なくとも1回湾曲している状態であることを意味する。
【0026】
繊維束21の平均長さ(
図1B中、符号Lで示す長さの平均値)は、5~15mmである。また、繊維束21の平均長さは、7~13mmであることが好ましく、8~10mmであることがより好ましい。
繊維束21の平均幅(
図1B中、符号Wで示す長さの平均値)は、0.2~1.0mmである。また、繊維束21の平均幅は、0.2~0.8mmであることが好ましい。
なお、
図1Bに示すように、繊維束21がストレート状態の繊維束21aである場合、及び、ちぢれた状態の繊維束21bである場合ともに、その最大幅(
図1B中、それぞれ符号Wa及びWbで示す長さ)が、繊維束21の幅である。
【0027】
繊維束21は、10本以上の無機繊維20が撚れるように交絡して形成されており、互いに支えあっているので、押圧に対し変形しにくい。そのため、抄造マット10に押圧がかかる場合において、繊維束21は心材として働き、繊維束21を構成しない無機繊維22に係る押圧を緩和することができる。従って、繊維束21を構成しない無機繊維22が押圧により折れてしまうことを防ぐことができる。その結果、抄造マット10は面圧が高くなる。
特に、繊維束21がちぢれた状態の繊維束21bである場合、この効果が好適に発揮され、抄造マット10の面圧がより高くなる。
【0028】
繊維束の平均長さが、5mm未満であると、繊維束が短すぎ、繊維束が心材として繊維束を構成しない無機繊維にかかる押圧を緩和しにくくなる。
繊維束の平均長さが、15mmを超えると、繊維束が長すぎるので、繊維束の側面に押圧を受けると、曲がりやすくなり、心材として機能しにくくなる。
【0029】
繊維束の平均幅が、0.2mm未満であると、繊維束の強度が低くなり、繊維束が曲がりやすくなり、心材として機能しにくくなる。
繊維束の平均幅が、1.0mmを超えると、繊維束の強度が高くなりすぎ、抄造マット全体の柔軟性が低下する。
【0030】
なお、本明細書において、「繊維束」とは、抄造マットにおいて無機繊維が集中し、他の部分よりも密度が高くなっている部分を意味する。
本明細書において、「無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束」とは、以下の繊維束を意味する。
詳しくは後述するが、本発明の抄造マットは、ニードルマット及び抄造マットが開繊されて得られた無機繊維を材料に製造される。
ニードルマット及び抄造マットを開繊する際、無機繊維が完全に開繊されず、複数の繊維が撚れるように交絡した繊維束が生じる場合がある。
つまり、ニードルマットを製造する際は、ニードルにより無機繊維同士を交絡させるので、その部分では無機繊維同士が強く交絡する。
また、抄造マットを製造する際は、有機バインダで無機繊維同士を接着するので、無機繊維同士が離れにくくなる。抄造法で抄造マットを製造する際は、無機繊維同士の集合に斑が生じ、密度が高い無機繊維の集合が形成される。
ニードルマットにおいてニードルにより無機繊維同士を交絡させた部分や、抄造マットにおいて密度が高い無機繊維の集合部分は開繊されにくく、撚れるように交絡した繊維束として残る。
このように、ニードルマット及び抄造マットを開繊する際に残る繊維束が、本明細書における「無機繊維が撚れるように交絡された繊維束」である。
本発明の抄造マットは、このような無機繊維が撚れるように交絡された繊維束を含むものである。
【0031】
繊維束の平均長さ及び繊維束の平均幅は以下のように測定された値を意味する。
抄造マットから150cm3の試験片を切り出す。
その後、試験片を600℃、1時間の条件で焼成し、バインダ成分を熱分解する。
次に試験片を容器入れ、容器を上下左右に振動させることにより試験片を構成する無機繊維をほぐす。
ほぐした試験片から繊維束を取り出し、繊維束の長さ及び幅を測定する。
同様の操作を3回繰り返し、得られた繊維束の長さ及び幅の平均値を算出する。
なお、繊維束の平均長さ及び平均幅を算出するに当たり、10本未満の無機繊維で構成される繊維束は除外して計算する。
【0032】
なお、本発明のマット材は、平均長さが、5~15mmであり、かつ、平均幅が、0.2~1.0mmである繊維束を含んでいれば、長さが5mm未満の繊維束、長さが15mmを超える繊維束、幅が0.2mm未満の繊維束、幅が1.0mmを超える繊維束を含んでいてもよい。
【0033】
上記の通り、抄造マット10は、ちぢれた状態の繊維束21bを必須の構成要件として含む。
ちぢれた状態の繊維束21bについて以下に図面を用いて詳述する。
図2は、本発明の抄造マットに含まれるちぢれた状態の繊維束の一例の模式図である。
図2に示すちぢれた状態の繊維束21bは、下記なぞり長さ測定方法で測定したちぢれた状態の繊維束21bのなぞり長さL
tの方が、ちぢれた状態の繊維束21bの長さLよりも長いことが好ましく、0.1mm以上長いことがより好ましく、0.2~0.6mm長いことがさらに好ましい。
【0034】
(なぞり長さの測定方法)
ちぢれた状態の繊維束21bを平面上に静置する。
次に、静置されたちぢれた状態の繊維束21bを上方から見て、ちぢれた状態の繊維束21bの一方の端部P1から他方の端部P2までをちぢれた状態の繊維束21bに沿ってなぞり、そのなぞった距離Ltを、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」とする。
【0035】
ちぢれた状態の繊維束21bのなぞり長さLtの方が、ちぢれた状態の繊維束21bの長さLよりも長いと、ちぢれた状態の繊維束21bの弾性が高くなり、抄造マット10の面圧が向上する。
【0036】
抄造マット10は、
図2に示すちぢれた状態の繊維束21bにおいて、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」を測定する際に、端部P
1と端部P
2とを結ぶ線分Sを2回以上横切るように、ちぢれた状態の繊維束21bをなぞれるような、ちぢれた状態の繊維束21bを含むことが好ましい。
このようなちぢれた状態の繊維束21bは、ちぢれの程度が好適となり、ちぢれた状態の繊維束21bの弾性が高くなり、抄造マット10の面圧が向上する。
【0037】
抄造マット10では、ちぢれた状態の繊維束21bの長さLに対する、ちぢれた状態の繊維束21bのなぞり長さLtの比が、Lt/L=1.1~1.6であることが好ましい。
【0038】
抄造マット10では、下記式(1)の値が、0.1以上であることが好ましく、0.2~0.6であることがより好ましい。
(Lt-L)/Wb・・・(1)
【0039】
抄造マット10では、ちぢれた状態の繊維束21bを平面上に静置し、上方から見たちぢれた状態の繊維束21bの面積は2.6~8.3mm2であることが好ましい。
【0040】
抄造マット10では、繊維束21に含まれるちぢれた状態の繊維束21bの数の割合は、85%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10~30%であることがよりさらに好ましい。
【0041】
抄造マット10を構成する無機繊維20としては、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、ガラス繊維及び生体溶解性繊維から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
抄造マット10がこれらの無機繊維からなると耐熱性が充分になる。
【0042】
抄造マット10を構成する無機繊維20は、平均繊維径が2~10μmであり、平均繊維長が0.01~5.0mmであることが好ましい。
【0043】
抄造マット10のかさ密度は、0.05~0.30g/cm3であることが好ましい。
抄造マット10のかさ密度が0.05g/cm3未満であると、無機繊維のからみ合いが弱く、無機繊維が剥離しやすいため、抄造マットの形状を所定の形状に保ちにくくなる。
抄造マット10のかさ密度が0.30g/cm3を超えると、抄造マットが硬くなり、巻き付け性が低下し、マット裂けが発生しやすくなる。
【0044】
抄造マット10では、無機繊維20が100重量部に対し、有機バインダを0.1~20重量部含むことが好ましく、0.5~10重量部含むことがより好ましい。
また、無機繊維20が100重量部に対し、無機バインダを0.1~10重量部含むことが好ましく、0.5~3.0重量部含むことがより好ましい。
有機バインダ及び無機バインダは、無機繊維同士を接着し、抄造マットの形状を維持する。
有機バインダ及び無機バインダの含有量が上記範囲であると、無機繊維同士の接着が適度となり、抄造マットの柔軟性と形状維持性を両立することができる。
また、抄造マットから無機繊維が脱落すること、及び、飛散することを抑止することができる。
【0045】
抄造マット10では、有機バインダのガラス転移温度Tgは、5℃以下であることが好ましく、-35~5℃であることがより好ましい。
有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃以下であると、有機バインダにより形成される有機バインダ皮膜の強度を高くしつつ、皮膜伸度が高くて可撓性に優れた抄造マットとすることができる。
また、抄造マット10を排ガス処理体に巻きつける際等にマット裂けが発生しにくくなる。さらに、有機バインダ皮膜が硬くなり過ぎないため、無機繊維が破断した際に、無機繊維同士を繋ぎ止める効果を発揮し、無機繊維の飛散を抑制することができる。
有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃を超える場合、抄造マットの可撓性が低下し、破断伸度が低下してしまうことがある。
【0046】
本発明の抄造マットでは、上記有機バインダは、水溶性有機重合体であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化樹脂であってもよい。
水溶性有機重合体としては、アクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールが挙げられる。熱可塑性樹脂としてはスチレン樹脂が挙げられる。熱硬化樹脂として機能するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0047】
抄造マット10では、無機バインダは、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ホウ素、ダイヤモンド及び軽石からなる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0048】
これらの有機バインダ及び無機バインダは、無機繊維同士を接着し、抄造マットの形状を維持するのに適している。
【0049】
次に、本発明の抄造マットの製造方法について説明する。
本発明の抄造マットの製造方法は、(1)開繊工程及び(2)抄造工程とを含む。
なお、以下の説明では、無機繊維成形体として、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び抄造マット由来の第2無機繊維成形体の両方を用いる場合について説明するが、本発明の抄造マットの製造方法では、どちらか一方の無機繊維成形体を用いてもよい。
各工程について以下に詳述する。
【0050】
(1)開繊工程
本工程では、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び抄造マット由来の第2無機繊維成形体を水中で開繊し、開繊された無機繊維を含むスラリーを作製する。
本工程では、スラリーに、10本以上の上記無機繊維が撚れるように交絡して形成され、平均長さが5~15mmであり、平均幅が0.2~1.0mmである繊維束と、繊維束を構成しない上記無機繊維とが含まれるように開繊を行う。
なお、本工程では、乾式開繊を行わないことが好ましい。
【0051】
ニードルマット及び抄造マットを開繊する際、無機繊維が完全に開繊されず、複数の繊維が撚れるように交絡した繊維束が生じる場合がある。
より具体的には以下の通りである。
ニードルマットを製造する際は、ニードルにより無機繊維同士を交絡させるので、その部分では無機繊維同士が強く交絡する。
また、抄造マットを製造する際は、有機バインダで無機繊維同士を接着するので、無機繊維同士が離れにくくなる。抄造法で抄造マットを製造する際は、無機繊維同士の集合に斑が生じ、密度が高い無機繊維の集合が形成される。
ニードルマットにおいてニードルにより無機繊維同士を交絡させた部分や、抄造マットにおいて密度が高い無機繊維の集合部分は開繊されにくく、撚れるように交絡した繊維束として残る。
本発明の抄造マットの製造方法では、このような繊維束を意図的に生じさせている。
なお、繊維束において撚れるように交絡している無機繊維の数、並びに、繊維束の平均長さ及び繊維束の平均幅は、開繊条件を調整することにより調整することができる。
【0052】
開繊条件は特に限定されないが、例えば、水中で撹拌機を用いて開繊を行う場合、撹拌機の回転速度、時間を調整することにより、繊維束において撚れるように交絡している無機繊維の数、並びに、繊維束の平均長さ及び繊維束の平均幅を調整することができる。
【0053】
なお、本工程において乾式開繊を行うと、無機繊維が破断されやすくなり、繊維束の長さが短くなる。その結果、得られる繊維束の長さが短くなり、所望の形状を有する繊維束を得ることができない。
そのため、本工程では、乾式開繊を行わないことが好ましい。
【0054】
また、本工程において生じさせる繊維束は、第1無機繊維成形体由来であってもよく、第2無機繊維成形体由来であってもよい。
無機繊維成形体が、第1無機繊維成形体由来(ニードルマット由来)であっても、第2無機繊維成形体由来(抄造マット由来)であっても、開繊工程において繊維束を形成することができる。
【0055】
開繊の例としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を700~1000℃で1.0~8.0時間焼成する。好ましい焼成温度は、800~950℃である。
これにより、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体に含まれる有機バインダを熱分解することができ、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を開繊しやすくなる。
【0056】
次に、焼成後の第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を常温になるまで静置し、その後、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を手でほぐす。
【0057】
次に、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を、重量比で50~400倍量の水に入れ、攪拌することにより開繊を行うことにより無機繊維を含むスラリーを作製する。当該重量比は、100~200倍量であることが好ましい。
また、攪拌の条件は適宜設定することが好ましいが、例えば、10Lのスラリーを作製する際は、撹拌機として、(製品名:SMT-101、製造元:ASONE)を用い、回転数が500~1000rpm、攪拌時間が200~900秒の条件で攪拌することが好ましい。好ましくは、回転速度650~850rpm、攪拌時間500~700秒であり、より好ましくは、回転速度700~800rpm、攪拌時間500~650秒である。
なおこの際、スラリーを乾燥させた際に、10本以上の上記無機繊維が撚れるように交絡して形成され、平均長さが5~15mmであり、平均幅が0.2~1.0mmである繊維束が形成されるように開繊を行う。
【0058】
次に、スラリーに有機バインダ及び無機バインダを加える。
有機バインダは、製造される抄造マットにおいて、無機繊維が100重量部に対し、0.1~20重量部となるように加えることが好ましく、0.5~15.0重量部となるように加えることがより好ましい。
無機バインダは、製造される抄造マットにおいて、無機繊維が100重量部に対し、0.1~15.0重量部となるように加えることが好ましく、0.5~10重量部となるように加えることがより好ましい。
好ましい有機バインダ及び無機バインダの種類は既に説明しているので、ここでの説明は省略する。
【0059】
(2)抄造工程
次に、底面にろ過用のメッシュが形成された成形器にスラリーを流し込み、スラリー中の溶媒を脱溶媒処理することで無機繊維集合体を得る。そして、無機繊維集合体を脱水及び乾燥することにより本発明の抄造マットを得ることができる。
【0060】
なお、抄造工程では、無機繊維集合体を加熱加圧して乾燥してもよい。加熱加圧の際、熱風を無機繊維集合体に通気させて乾燥する熱処理をしてもよく、熱処理をせずに湿潤状態としてもよい。
熱処理をする場合には、有機バインダの熱による劣化を防ぐため、加熱温度や熱風温度は150~210℃であることが好ましい。
150~210℃の範囲においては、有機バインダの劣化を抑制しつつ、水分を無機繊維集合体からとばすことができる。加熱温度や熱風温度が150℃未満の場合、無機繊維集合体の中央部まで温度が伝わらず、乾燥時間が長くなる。また、210℃を超えると、有機バインダを劣化させてしまい、繊維間の拘束力を低減させるため、無機繊維集合体の厚みが制御しにくくなる。
【0061】
本発明の抄造マットの製造方法では、抄造工程において、バッチ抄造又は連続抄造を行うことが好ましい。
バッチ抄造又は連続抄造を行うことにより、容易に本発明の抄造マットを得ることができる。
【0062】
次に、本発明の抄造マットの使用方法について説明する。
図3は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、排ガス浄化装置100は、金属ケーシング30と、金属ケーシング30に収容された排ガス処理体40と、排ガス処理体40及び金属ケーシング30の間に配設された抄造マット10とを備えている。抄造マット10は本発明の抄造マットである。
排ガス処理体40は、多数のセル41がセル壁42を隔てて長手方向に並設された柱状のものである。なお、金属ケーシング30の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と、排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることになる。
図3に示す排ガス浄化装置100では、排ガス処理体40として、各々のセルにおけるいずれか一方が封止材43によって目封じされた排ガスフィルタ(ハニカムフィルタ)を用いているが、いずれの端面にも封止材による目封じがなされていない触媒担体を用いてもよい。
【0063】
図3に示すように、内燃機関から排出され、排ガス浄化装置100に流入した排ガス(
図3中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、排ガス処理体(ハニカムフィルタ)40の排ガス流入側端面40aに開口した一のセル41に流入し、セル41を隔てるセル壁42を通過する。この際、排ガス中のPMがセル壁42で捕集され、排ガスが浄化されることとなる。浄化された排ガスは、排ガス流出側端面40bに開口した他のセル41から流出し、外部に排出される。
【0064】
上記の通り、抄造マット10は面圧が高い。そのため、排ガス浄化装置100において、排ガス処理体40が、排ガスから高い圧力を受けたとしても、排ガス処理体40が、金属ケーシング30から脱落することを防ぐことができる。
【0065】
排ガス処理体40は、炭化ケイ素や窒化ケイ素などの非酸化多孔質セラミックからなっていてもよく、サイアロン、アルミナ、コーデェライト、ムライト等の酸化多孔質セラミックからなっていてもよい。これらの中では、炭化ケイ素であることが好ましい。
【0066】
排ガス処理体40が炭化ケイ素質の多孔質セラミックである場合、多孔質セラミックの気孔率は特に限定されないが、35~60%であることが好ましい。
気孔率が35%未満であると、排ガス処理体がすぐに目詰まりを起こすことがあり、一方、気孔率が60%を超えると、排ガス処理体の強度が低下して容易に破壊されることがある。
【0067】
また、多孔質セラミックの平均気孔径は5~30μmであることが好ましい。
平均気孔径が5μm未満であると、PMが容易に目詰まりを起こすことがある。
平均気孔径が30μmを超えると、PMが気孔を通り抜けてしまい、PMを捕集することができず、フィルタとして機能することができないことがある。
なお、上記気孔率及び気孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定の従来公知の方法により測定することができる。
【0068】
排ガス処理体40の断面におけるセル密度は、特に限定されないが、好ましい下限は、31.0個/cm2(200個/inch2)、好ましい上限は、93.0個/cm2(600個/inch2)である。また、より好ましい下限は、38.8個/cm2(250個/inch2)、より好ましい上限は、77.5個/cm2(500個/inch2)である。
【0069】
排ガス処理体40には、排ガスを浄化するための触媒を担持させてもよく、担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が好ましく、この中では、白金がより好ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いることもできる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
これら触媒が担持されていると、PMを燃焼除去しやすくなり、有毒な排ガスの浄化も可能になる。
【0070】
(金属ケーシング)
金属ケーシング30は、略円筒形である。
金属ケーシング30の内径(排ガス処理体を収容する部分の内径)は、抄造マット10が巻き付けられた排ガス処理体40の直径より若干短くなっていることが好ましい。
【0071】
金属ケーシング30は、特に限定されないが、ステンレス鋼からなることが好ましい。
【実施例0072】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
Al2O3:SiO2=72:28(重量比)であるアルミナ-シリカ繊維からなり、かさ密度が0.17g/cm3であり、ニードル痕の密度が21個/cm2の密度であるニードルマット由来の第1無機繊維成形体を準備した。
また、Al2O3:SiO2=72:28(重量比)であるアルミナ-シリカ繊維からなり、かさ密度が0.12g/cm3である抄造マット由来の第2無機繊維成形体を準備した。
【0074】
次に、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を800℃で1時間焼成し、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体に含まれる有機バインダを熱分解させた。
【0075】
次に、焼成後の第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を常温になるまで静置し、その後、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を手でほぐした。
【0076】
次に、第1無機繊維成形体を5.0g、第2無機繊維成形体を5.0g取り出し、0.4Lの水に入れた。その後、撹拌機(製品名:SMT-101、製造元:ASONE)を用い、回転数が1000rpm、攪拌時間が10分間の条件で攪拌して、開繊を行うことにより、無機繊維のスラリーを作製した。
【0077】
なお、スラリーに繊維束が形成されているかを確認するため、スラリーの一部を取り出し、乾燥させたところ、10本以上の無機繊維が撚れるように繊維束が形成されていることが確認された。
【0078】
次に、スラリーに有機バインダを、無機繊維が100重量部に対し、0.5~10重量部となるように加えた。
また、スラリーに無機バインダを、無機繊維が100重量部に対し、0.5~3.0重量部となるように加えた。
【0079】
次に、底面にろ過用のメッシュが形成された成形器にスラリーを流し込み、スラリー中の溶媒を脱溶媒処理することで無機繊維集合体を得た。その後、無機繊維集合体を脱水し、150~210℃、5分~1時間の条件で乾燥することにより実施例1に係る抄造マットを製造した。
【0080】
(繊維束の観察1)
実施例1に係る抄造マットから、150cm3の試験片を切り出した。
その後、試験片を600℃、1時間の条件で焼成し、バインダ成分を熱分解させた。
次に試験片を容器入れ、容器を上下左右に振動させることにより試験片を構成する無機繊維をほぐした。
ほぐした試験片から無作為に繊維束を取り出し、繊維束の長さ及び繊維束の幅を測定した。
同様の操作を3回繰り返し、繊維束の長さ及び繊維束の幅の平均値を算出した。
その結果、繊維束の平均長さは8mmであり、繊維束の平均幅は0.393mmであった。
【0081】
また、実施例1に係る抄造マットに含まれていた繊維束の写真を
図4A及び
図5Aに示す。また、各繊維束の方向を
図4B及び
図5Bに示す。
【0082】
図4Aは、実施例1に係る抄造マットに含まれていたストレート状態の繊維束の一つの写真である。
図4Bは、
図4Aに示す繊維束の方向を図示する写真である。
図5Aは、実施例1に係る抄造マットに含まれているちぢれた状態の繊維束の一つの写真である。
図5Bは、
図5Aに示す繊維束の方向を図示する写真である。
【0083】
図4Bに示す繊維束はストレート状態であり、繊維束の方向は、矢印D1に沿っていた。
図5Bに示す繊維束はちぢれた状態であり、繊維束の方向は、矢印D2に沿っていた。
【0084】
(実施例2)並びに(比較例1)及び(比較例2)
各無機繊維成形体を撹拌機で開繊して無機繊維のスラリーを作製する際に攪拌時間を変更し、製造される抄造マットに含まれる繊維束の平均長さが、表1に示す長さとなるように調節した以外は、実施例1と同様に実施例2並びに比較例1及び比較例2に係る抄造マットを製造した。
【0085】
【0086】
(比較例3)
塩基性塩化アルミニウム水溶液に対して、焼成後の無機繊維における組成比が、Al2O3:SiO2=72:28(重量比)となるようにシリカゾルを配合し、さらに、有機重合体(ポリビニルアルコール)を適量添加して混合液を調製した。
得られた混合液を濃縮して紡糸用混合物とし、この紡糸用混合物をブローイング法(紡糸雰囲気温度:120℃)により紡糸してアルミナ繊維前駆体を作製した。
次に、得られた無機繊維前駆体を圧縮し、連続したシート状物を作製した。その後シート状物を加熱炉内に配置し、焼成処理を行うことにより、無機繊維集合体を製造した。
次に、無機繊維集合体から、撹拌機(製品名:SMT-101、製造元:AS ONE)を用いて回転数が1000rpm、攪拌時間が10分間の条件で攪拌して開繊した。
【0087】
なお、スラリーに繊維束が形成されているかを確認するため、スラリーの一部を取り出し、乾燥させたところ、繊維束が形成されていることが確認されたものの、当該繊維束は撚れていなかった。
【0088】
次に、底面にろ過用のメッシュが形成された成形器にスラリーを流し込み、スラリー中の溶媒を脱溶媒処理することで無機繊維集合体を得た。その後、無機繊維集合体を脱水し、150~210℃、5分~1時間の条件で乾燥することにより比較例3に係る抄造マットを製造した。
上記「(繊維束の観察1)」と同様の方法で、比較例3に係る抄造マットを観察したところ、撚れていない繊維束が含まれており、当該繊維束の平均長さは20mmであり、繊維束の平均幅は、0.37mmであった。
【0089】
(面圧の測定)
実施例1及び2及び比較例1~3に係る抄造マットを試験機(製品名:SMT-101、製造元:ASONE)にセットし、空隙かさ密度(GBD)が0.40mm3/gとなるまで25.4mm/minの速度で圧縮した。空隙かさ密度(GBD)が0.40mm3/gの状態で10min間保持した。
その後、各抄造マットの面圧を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
表1に示すように、各実施例に係る抄造マットは、面圧が高いことが判明した。
【0091】
(比較例4)
アルミニウム含有量70g/l、Al/Cl=1.8(原子比)の塩基性塩化アルミニウム水溶液に、アルミナ系繊維の組成がAl2O3:SiO2=72:28となるように、シリカゾルを配合し、アルミナ系繊維の前駆体を形成した。次に、アルミナ系繊維の前駆体に、ポリビニルアルコール等の有機重合体を添加した。さらに、この液を濃縮して紡糸液とし、この紡糸液を用いてブローイング法にて紡糸した。その後アルミナ系繊維の前駆体を折り畳んだものを積層して、アルミナ系繊維の積層シートを製作した。次に、この積層シートに対して、ニードリング処理を行った。ニードリング処理は、それぞれ50個/100cm2のニードルが設置された2組のニードルボードを積層シートの表裏それぞれの面側に配設し、積層シートの両側から行った。これにより、約1個/cm2程度の交絡点密度を有する積層シートが得られた。
【0092】
その後、得られた積層シートを常温から最高温度1250℃で連続焼成し、厚さ約7mmのニードリングシート材を得た。
【0093】
次にニードリングシート材を200mm×200mm以下の寸法に粗切断した後、これをフェザーミル装置(FM-1、ホソカワミクロン(株)社製)に投入して乾式開繊し、直径約150mmの綿状の開繊繊維を得た。
【0094】
次に、原料スラリーを調製するため、得られた開繊繊維1200gと、水120000gを攪拌機の中に入れ、1分間、撹拌した。次に、この溶液に有機バインダ(ラテックス)を60g加え、さらに1分間、撹拌した。次に、この溶液に無機バインダ(アルミナゾル)を12g添加し、さらに1分間、撹拌した。最後に、凝集剤(パコール292)を6g添加し、1分間撹拌し、原料スラリーを得た。
【0095】
次に、成形体の形成を行うため、このように調製した原料スラリーを、底部にろ過用金網(30メッシュ)を備える縦930mm×横515mm×深さ400mmの成型器に移し、脱水処理を行った。脱水処理は、サクションポンプを用いて、成型器の底部側から、ろ過用金網を介して原料スラリーの水分を強制吸引を行うことにより実施した。
【0096】
次に、この成形体を成型器から取り出し、これを120℃、70kPaで30分間、圧縮乾燥させた。このような工程により、厚さ13mm、密度0.19g/cm3の比較例4に係る抄造マットを製造した。
【0097】
上記「(繊維束の観察1)」と同様の方法で、比較例4に係る抄造マットを観察したところ、撚れていない繊維束が含まれており、当該繊維束の平均長さは3mmであり、繊維束の平均幅は、1.43mmであった。
【0098】
(繊維束の観察2)
実施例1に係る抄造マット、及び、比較例4に係る抄造マットから、それぞれ、150cm3の試験片を切り出した。
その後、試験片を600℃、1時間の条件で焼成し、バインダ成分を熱分解させた。
次に試験片を容器入れ、容器を上下左右に振動させることにより試験片を構成する無機繊維をほぐした。
実施例1に係る抄造マットに由来する試験片から繊維束を無作為に13本取り出し、比較例4に係る抄造マットに由来する試験片から繊維束を無作為に4本取り出した。
【0099】
実施例1に係る抄造マットに由来する試験片から取り出した繊維束には、9本のちぢれた状態の繊維束と、4本のストレート状態の繊維束が含まれていた。
これらのちぢれた状態の繊維束の長さLの平均値は、6.78mmであった。また面積の平均値は、4.95mm2であった。
これらにストレート状態の繊維束の長さLの平均値は、7.97mmであった。また面積の平均値は、2.83mm2であった。
【0100】
比較例4に係る抄造マットに由来する試験片から取り出した繊維束は、全てストレート状態の繊維束であった。
これらにストレート状態の繊維束の長さLの平均値は、3.23mmであった。また面積の平均値は、3.41mm2であった。
【0101】
実施例1のちぢれた状態の各繊維束について、平面に静置し、当該繊維束を上方から見て、繊維束のなぞり長さLtを測定し、その平均値を算出した。
そして、繊維束の長さL及び繊維束のなぞり長さLtの差(Lt-L)と比(Lt/L)を算出した。結果を表2に示す。
【0102】
前記有機バインダは、水溶性有機重合体として機能するアクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂として機能するスチレン樹脂、並びに、熱硬化樹脂として機能するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2又は3に記載の抄造マット。