(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147495
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】抄造マット及び抄造マットの製造方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20241008BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/09 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/333 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/233 20060101ALI20241008BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20241008BHJP
D06M 11/79 20060101ALI20241008BHJP
D21H 13/36 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F01N3/28 311N
F01N3/28 311P
D06M15/263
D06M15/693
D06M15/09
D06M15/333
D06M15/233
D06M15/55
D06M11/79
D21H13/36
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025480
(22)【出願日】2024-02-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2023060457
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023147008
(32)【優先日】2023-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】松田 航
(72)【発明者】
【氏名】山崎 友久
(72)【発明者】
【氏名】前田 敏幸
【テーマコード(参考)】
3G091
4L031
4L033
4L055
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AB01
3G091AB13
3G091BA39
3G091GA06
3G091GB02W
3G091GB03W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091HA26
3G091HA29
4L031AA24
4L031AB34
4L031BA06
4L031BA11
4L031BA20
4L033AA09
4L033AB07
4L033AC11
4L033CA05
4L033CA13
4L033CA18
4L033CA29
4L033CA49
4L033CA68
4L055AF01
4L055AG46
4L055AG63
4L055AG64
4L055AG71
4L055AG87
4L055AH37
4L055EA08
4L055EA16
4L055EA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】基材に巻き付けたとしても割れが生じにくく、面圧が充分に高い抄造マットを提供する。
【解決手段】無機繊維20から構成される抄造マットであって、上記抄造マットは、10本以上の上記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束21と、上記繊維束を構成しない上記無機繊維とを含み、上記繊維束の平均長さは、5mmを超え、上記無機繊維を含むスラリーを得た際に、上記スラリーに含まれる上記無機繊維の水中嵩比重が、0.012~0.035g/cm
3である。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維から構成される抄造マットであって、
前記抄造マットは、10本以上の前記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束と、前記繊維束を構成しない前記無機繊維とを含み、
前記繊維束の平均長さは、5mmを超え、
前記抄造マットを、下記抄造マットの開繊方法により開繊し、前記無機繊維を含むスラリーを得た際に、前記スラリーに含まれる前記無機繊維の水中嵩比重が、0.012~0.035g/cm3であることを特徴とする抄造マット。
抄造マットの開繊方法:
抄造マットを600℃、1時間で熱処理する。
抄造マットから5.0g分の繊維をほぐしながら計り取り、400ccの水が入った容器に繊維を入れる。
攪拌機の回転数1000rpmで10分間攪拌した後、メスシリンダー容器に移し替え、総容量が500ccになるように水を追加する。
30分間静置させて、沈降した繊維の高さを読み取り、以下の計算式(1)で水中嵩比重を算出する。
水中嵩比重(g/cm3)=5.0(g)/繊維の沈降容積(cm3)・・・(1)
【請求項2】
前記無機繊維が100重量部に対し、有機バインダを0.1~20重量部、及び、無機バインダを0.1~10重量部含む請求項1に記載の抄造マット。
【請求項3】
前記有機バインダのTgは、5℃以下である請求項2に記載の抄造マット。
【請求項4】
前記有機バインダは、水溶性有機重合体として機能するアクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂として機能するスチレン樹脂、並びに、熱硬化樹脂として機能するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2又は3に記載の抄造マット。
【請求項5】
前記無機バインダは、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ホウ素、ダイヤモンド及び軽石からなる少なくとも1種を含む請求項2又は3に記載の抄造マット。
【請求項6】
前記繊維束は、10本以上の前記無機繊維が交絡して形成されており、
10本以上の前記無機繊維が交絡して形成されている前記繊維束の平均長さは、5mmを超え、15mm以下であり、
10本以上の前記無機繊維が交絡して形成されている前記繊維束の平均幅は、0.2~1.0mmである請求項1又は2に記載の抄造マット。
【請求項7】
前記繊維束は、ちぢれた状態の繊維束を含み、
下記なぞり長さ測定方法で測定した前記ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さの方が、前記ちぢれた状態の繊維束の長さよりも0.1mm以上長い請求項1又は2に記載の抄造マット。
なぞり長さの測定方法:
ちぢれた状態の繊維束を平面上に静置する。
静置された前記ちぢれた状態の繊維束を上方から見て、前記ちぢれた状態の繊維束の一方の端部から他方の端部までを前記ちぢれた状態の繊維束に沿ってなぞり、そのなぞった距離を、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」とする。
【請求項8】
無機繊維が集合した無機繊維成形体を水中で開繊し、10本以上の前記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束と、前記繊維束を構成しない前記無機繊維とを含むスラリーを作製する開繊工程と、
前記スラリーを抄造して抄造マットとする抄造工程とを含む抄造マットの製造方法であって、
前記開繊工程では前記繊維束の平均長さが5mmを超え、かつ、前記スラリーに含まれる前記無機繊維の水中嵩比重が0.012~0.035g/cm3となるように開繊を行うことを特徴とする抄造マットの製造方法。
【請求項9】
前記無機繊維成形体は、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び/又は抄造マット由来の第2無機繊維成形体を含む請求項8に記載の抄造マットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄造マット及び抄造マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される保持シール材(マット材)とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。この保持シール材(マット材)は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排気ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。
【0004】
マット材が排ガス処理体を保持する力(面圧)を向上させるため、特許文献1では、特定の紡糸助剤を用いてアルミナ繊維集合体を製造することにより面圧を向上させたマット材が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、直径1~5mmで、全長2~3mmの塊状に凝集された塊状凝集繊維を抄造シートに含ませることで、保持力(面圧)を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/012423号
【特許文献2】特開2008-82310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のマット材は、アルミナ繊維が折れやすく、面圧が低下しやすいという問題があった。
また、特許文献1及び特許文献2に記載されたようなマット材は、使用時に排ガス処理体に巻き付けられることになるが、巻き付け時のマット材の内外周差が原因となり、マット材に割れが生じるという問題がある。
特に特許文献2に記載されたマット材では、塊状凝集繊維同士の間に存在する無機繊維の密度が低く、割れが発生しやすかった。
また、特許文献2に記載の抄造シート材は、ニードルリングシートを乾式開繊するので、開繊された繊維が短くなり、塊状凝集繊維を構成する繊維も短くなる。そのため、塊状凝集繊維では繊維同士が充分に交絡せず、塊状凝集繊維が撚れる形状とならない。また、塊状凝集繊維の長さも短くなる。そのため、塊状凝集繊維の弾性が充分に高くならず、これに起因して製造する抄造シート材の面圧が充分に高くなりにくいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、基材に巻き付けたとしても割れが生じにくく、面圧が充分に高い抄造マットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の抄造マットは、無機繊維から構成される抄造マットであって、上記抄造マットは、10本以上の上記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束と、上記繊維束を構成しない上記無機繊維とを含み、上記繊維束の平均長さは、5mmを超え、上記抄造マットを、下記抄造マットの開繊方法により開繊し、上記無機繊維を含むスラリーを得た際に、上記スラリーに含まれる上記無機繊維の水中嵩比重が、0.012~0.035g/cm3であることを特徴とする。
抄造マットの開繊方法:
抄造マットを600℃、1時間で熱処理する。
抄造マットから5.0g分の繊維をほぐしながら計り取り、400ccの水が入った容器に繊維を入れる。
撹拌機の回転数1000rpmで10分間攪拌した後、メスシリンダー容器に移し替え、総容量が500ccになるように水を追加する。
30分間静置させて、沈降した繊維の高さを読み取り、以下の計算式(1)で水中嵩比重を算出する。
水中嵩比重(g/cm3)=5.0(g)/繊維の沈降容積(cm3)・・・(1)
【0010】
本発明の抄造マットは、繊維束を含む。
このような繊維束は、10本以上の無機繊維が撚れるように交絡して形成されており、互いに支えあっているので、押圧に対し変形しにくい。そのため、抄造マットに押圧がかかる場合において、繊維束は心材として働き、繊維束を構成しない無機繊維にかかる押圧を緩和することができる。従って、繊維束を構成しない無機繊維が押圧により折れてしまうことを防ぐことができる。その結果、本発明の抄造マットは面圧が高くなる。
【0011】
また、本発明の抄造マットでは、繊維束の平均長さは5mmを超えている。
本発明の抄造マットは、無機繊維を含むスラリーを一定の方向に流し、無機繊維を抄き上げることにより製造される。
当該スラリーに、平均長さが5mmを超える繊維束が含まれていると、製造される本発明の抄造マットもこのような繊維束を含むことになる。
このような繊維束が含まれるスラリーを一定の方向に流すと、繊維束が他の無機繊維に引っ掛かり、スラリーの流れる方向に対し垂直な方向に配向しやすくなる。
繊維束は、単独の無機繊維よりも強度が高く曲がりにくい。そのため、繊維束が一方向に配向している抄造マットは、繊維束が配向している方向には曲がりにくいが、繊維束が配向している方向と垂直な方向には曲がりやすい。
従って、このような抄造マットを繊維束が配向している方向と垂直な方向に曲げたとしても応力が生じにくい。また、当該応力に起因する割れが生じにくい。
そのため、本発明の抄造マットを基材に巻き付けたとしても、割れが生じにくい。
【0012】
また、本発明の抄造マットは、繊維束を含むので、本発明の抄造マットを上記の開繊方法により開繊した場合、繊維束は開繊されず、そのままの状態となる。開繊後のスラリーにおいて、繊維束が形成されている部分の無機繊維の密度は、繊維束が形成されていない部分と比較して高くなる。
開繊後のスラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重が、0.012~0.035g/cm3であるということは、抄造マットに含まれる繊維束の割合が適度であることを意味し、上述した繊維束を構成しない無機繊維が押圧により折れてしまうことを防ぐことができる効果を好適に発揮することができる。
開繊後のスラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重が、0.012g/cm3未満であると、抄造マットに含まれる繊維束の割合が低くなり、抄造マットの面圧が低くなる。
開繊後のスラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重が、0.035g/cm3を超えると、抄造マットに含まれる繊維束の割合が高くなり、抄造マットの柔軟性が低下する。
【0013】
本発明の抄造マットでは、無機繊維が100重量部に対し、有機バインダを0.1~20重量部、及び、無機バインダを0.1~10重量部含むことが好ましい。
有機バインダ及び無機バインダは、無機繊維同士を接着し、抄造マットの形状を維持する。
有機バインダ及び無機バインダの含有量が上記範囲であると、無機繊維同士の接着が適度となり、抄造マットの柔軟性と形状維持性を両立することができる。
また、抄造マットから無機繊維が脱落すること、及び、飛散することを抑止することができる。
【0014】
本発明の抄造マットでは、上記有機バインダのガラス転移温度Tgは、5℃以下であることが好ましい。
上記有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃以下であると、有機バインダにより形成される有機バインダ皮膜の強度を高くしつつ、皮膜伸度が高くて可撓性に優れた抄造マットとすることができる。
【0015】
本発明の抄造マットでは、上記有機バインダは、水溶性有機重合体として機能するアクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂として機能するスチレン樹脂、並びに、熱硬化樹脂として機能するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、本発明の抄造マットでは、上記無機バインダは、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ホウ素、ダイヤモンド及び軽石からなる少なくとも1種を含むことが好ましい。
これらの有機バインダ及び無機バインダは、無機繊維同士を接着し、抄造マットの形状を維持するのに適している。
【0016】
本発明の抄造マットでは、上記繊維束は、10本以上の上記無機繊維が交絡して形成されており、10本以上の上記無機繊維が交絡して形成されている繊維束の平均長さは、5mmを超え、15mm以下であり、上記繊維束の平均幅は、0.2~1.0mmであることが好ましい。
繊維束がこのような態様であると、繊維束が心材として適度な強度となり、繊維束を構成しない無機繊維にかかる押圧を緩和することができる。従って、繊維束を構成しない無機繊維が押圧により折れてしまうことをより防ぐことができ、本発明の抄造マットの面圧がより高くなる。
【0017】
本発明の抄造マットでは、上記繊維束は、ちぢれた状態の繊維束を含み、下記なぞり長さ測定方法で測定した上記ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さの方が、上記ちぢれた状態の繊維束の長さよりも0.1mm以上長いことが好ましい。
なぞり長さの測定方法:
ちぢれた状態の繊維束を平面上に静置する。
静置された上記ちぢれた状態の繊維束を上方から見て、上記ちぢれた状態の繊維束の一方の端部から他方の端部までを上記ちぢれた状態の繊維束に沿ってなぞり、そのなぞった距離を、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」とする。
ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さの方が、ちぢれた状態の繊維束の長さよりも0.1mm以上長いと、ちぢれた状態の繊維束の弾性が高くなり、抄造マットの面圧が向上する。
【0018】
本発明の抄造マットの製造方法は、無機繊維が集合した無機繊維成形体を水中で開繊し、10本以上の上記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束と、上記繊維束を構成しない上記無機繊維とを含むスラリーを作製する開繊工程と、上記スラリーを抄造して抄造マットとする抄造工程とを含む抄造マットの製造方法であって、上記開繊工程では上記繊維束の平均長さが5mmを超え、かつ、上記スラリーに含まれる上記無機繊維の水中嵩比重が0.012~0.035g/cm3となるように開繊を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の抄造マットの製造方法では、無機繊維成形体を水中で開繊して得られた無機繊維を抄造してなる。
無機繊維成形体を開繊する際、無機繊維が完全に開繊されず、10本以上の繊維が撚れるように交絡した繊維束が生じる場合がある。
本発明の抄造マットの製造方法では、このような繊維束を意図的に生じさせている。
このような繊維束を所定の量だけ生じさせることにより、スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重を0.012~0.035g/cm3とすることができる。
このような方法で製造された抄造マットは、基材に巻き付けたとしても、割れが生じにくく、面圧が充分に高くなる。
【0020】
本発明の抄造マットの製造方法では、上記無機繊維成形体は、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び/又は抄造マット由来の第2無機繊維成形体を含むことが好ましい。
無機繊維成形体が、ニードルマット由来であっても、抄造マット由来であっても、開繊工程において第1繊維束を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、基材に巻き付けたとしても割れが生じにくく、面圧が充分に高い抄造マットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】
図1Aは、本発明の抄造マットの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、ちぢれた状態の繊維束の一例の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
【0023】
本発明に係る抄造マットを、図面を用いて説明する。
図1Aは、本発明の抄造マットの一例を模式的に示す斜視図である。
図1Bは、
図1Aの破線部の拡大図である。
図1Aに示すように、抄造マット10は、無機繊維から構成される抄造マットである。
抄造マット10は、一方の端部11に凸部11aが設けられており、他方の端部12に凹部12aが設けられた、平面視矩形の形状である。
【0024】
詳しくは後述するが、抄造マット10は、排ガス処理体に巻き付けられて、排ガス浄化装置に配置される。
凸部11a及び凹部12aは、抄造マット10を排ガス処理体に巻き付けた際に、丁度嵌合する形状である。
このような凸部11a及び凹部12aが設けられていると、抄造マット10を後述する排ガス浄化装置に配置した際にシール性が向上する。
なお、本発明の抄造マットは、端部に凸部及び凹部を有していなくてもよい。
【0025】
図1Bに示すように、抄造マット10は、10本以上の無機繊維20が撚れるように交絡して形成された繊維束21と、繊維束21を構成しない無機繊維22とを含む。
繊維束21は、ストレート状態(
図1B中、符号「21a」で示す状態)であってもよく、ちぢれ状態(
図1B中、符号「21b」で示す状態)であってもよい。
【0026】
本明細書において、繊維束とは、抄造マットにおいて無機繊維が集中して交絡し、他の部分よりも密度が高くなっている部分を意味する。
【0027】
ここで、ちぢれた状態の繊維束21bについて以下に図面を用いて詳述する。
図2は、ちぢれた状態の繊維束の一例の模式図である。
図2に示すちぢれた状態の繊維束21bは、下記なぞり長さ測定方法で測定したちぢれた状態の繊維束21bのなぞり長さL
tの方が、ちぢれた状態の繊維束21bの長さLよりも長いことが好ましく、0.1mm以上長いことがより好ましく、0.2~0.6mm長いことがさらに好ましい。
【0028】
(なぞり長さの測定方法)
ちぢれた状態の繊維束21bを平面上に静置する。
次に、静置されたちぢれた状態の繊維束21bを上方から見て、ちぢれた状態の繊維束21bの一方の端部P1から他方の端部P2までをちぢれた状態の繊維束21bに沿ってなぞり、そのなぞった距離Ltを、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」とする。
【0029】
ちぢれた状態の繊維束21bのなぞり長さLtの方が、ちぢれた状態の繊維束21bの長さLよりも長いと、ちぢれた状態の繊維束21bの弾性が高くなり、抄造マット10の面圧が向上する。
【0030】
抄造マット10は、
図2に示すちぢれた状態の繊維束21bにおいて、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」を測定する際に、端部P
1と端部P
2とを結ぶ線分Sを2回以上横切るように、ちぢれた状態の繊維束21bをなぞれるような、ちぢれた状態の繊維束21bを含むことが好ましい。
このようなちぢれた状態の繊維束21bは、ちぢれの程度が好適となり、ちぢれた状態の繊維束21bの弾性が高くなり、抄造マット10の面圧が向上する。
【0031】
抄造マット10では、ちぢれた状態の繊維束21bの長さLに対する、ちぢれた状態の繊維束21bのなぞり長さLtの比が、Lt/L=1.1~1.6であることが好ましい。
【0032】
抄造マット10では、下記式(1)の値が、0.1以上であることが好ましく、0.2~0.6であることがより好ましい。
(Lt-L)/Wb・・・(1)
なお、「Wb」は、ちぢれた状態の繊維束21bの幅を意味する。
【0033】
抄造マット10では、ちぢれた状態の繊維束21bを平面上に静置し、上方から見たちぢれた状態の繊維束21bの面積は2.6~8.3mm2であることが好ましい。
【0034】
抄造マット10では、繊維束21に含まれるちぢれた状態の繊維束21bの数の割合は、85%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、10~30%であることがよりさらに好ましい。
【0035】
繊維束21は、複数の無機繊維20が交絡して形成されており、互いに支えあっているので、押圧に対し変形しにくい。そのため、抄造マット10に押圧がかかる場合において、繊維束21は心材として働き、繊維束21を構成しない無機繊維22に係る押圧を緩和することができる。従って、繊維束21を構成しない無機繊維22が押圧により折れてしまうことを防ぐことができる。その結果、抄造マット10は面圧が高くなる。
【0036】
抄造マット10は、繊維束21を含むので、抄造マット10を下記開繊方法により開繊した場合、繊維束は開繊されず、そのままの状態となる。開繊後のスラリーにおいて、繊維束が形成されている部分は無機繊維の密度は、繊維束が形成されていない部分と比較して高くなる。
【0037】
抄造マットの開繊方法:
抄造マットを600℃、1時間で熱処理する。
抄造マットから5.0g分の繊維をほぐしながら計り取り、400ccの水が入った容器に繊維を入れる。
撹拌機(製品名:SMT-101、製造元:ASONE)の回転数1000rpmで10分間攪拌した後、メスシリンダー容器に移し替え、総容量が500ccになるように水を追加する。
30分間静置させて、沈降した繊維の高さを読み取り、以下の計算式(1)で水中嵩比重を算出する。
水中嵩比重(g/cm3)=5.0(g)/繊維の沈降容積(cm3)・・・(1)
【0038】
抄造マット10は、抄造マット10を上記抄造マットの開繊方法により開繊し、無機繊維を含むスラリーを得た際に、スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重が、0.012~0.035g/cm3である。なお、当該スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重は、0.014~0.028g/cm3であることがより好ましい。
【0039】
開繊後のスラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重が、0.012~0.035g/cm3であるということは、抄造マット10に含まれる繊維束21の割合が適度であることを意味し、繊維束21を構成しない無機繊維22が押圧により折れてしまうことを防ぐことができる効果を好適に発揮することができる。
開繊後のスラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重が、0.012g/cm3未満であると、抄造マットに含まれる繊維束の割合が低くなり、抄造マットの面圧が低くなる。
開繊後のスラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重が、0.035g/cm3を超えると、抄造マットに含まれる繊維束の割合が高くなり、抄造マットの柔軟性が低下する。
【0040】
抄造マット10では、10本以上の無機繊維20が交絡して形成された繊維束21の平均長さ(
図1B中、符号Lで示す長さの平均値)は、5mmを超える。また、繊維束21の平均長さは、5mmを超え、15mm以下であることが好ましく、7~13mmであることがより好ましい。
【0041】
詳しくは後述するが、抄造マット10は、無機繊維を含むスラリーを一定の方向に流し、無機繊維を抄き上げることにより製造される。
当該スラリーに、10本以上の無機繊維が交絡して形成され、かつ、平均長さが5mmを超える繊維束21が含まれていると、製造される抄造マット10もこのような繊維束21を含むことになる。
繊維束21が含まれるスラリーを一定の方向に流すと、繊維束21が他の無機繊維(20、22)に引っ掛かり、スラリーの流れる方向に対し垂直な方向に配向しやすくなる。
繊維束21は、単独の無機繊維22よりも強度が高く曲がりにくい。そのため、繊維束21が一方向に配向している抄造マット10は、繊維束21が配向している方向には曲がりにくいが、繊維束21が配向している方向と垂直な方向には曲がりやすい。
従って、このような抄造マット10を繊維束21が配向している方向と垂直な方向に曲げたとしても応力が生じにくい。また、当該応力に起因する割れが生じにくい。
そのため、抄造マット10を基材に巻き付けたとしても、割れが生じにくい。
【0042】
また、当該繊維束の平均長さが、5mm以下であると、繊維束が短すぎ、繊維束が心材として繊維束を構成しない無機繊維にかかる押圧を緩和しにくくなる。
当該繊維束の平均長さが、15mmを超えると、繊維束が長すぎるので、繊維束の側面に押圧を受けると、曲がりやすくなり、心材として機能しにくくなる。また、抄造マットを曲げた際に、繊維束が折れやすくなり、繊維束が折れると、その部分を起点に抄造マットに割れが生じやすくなる。
【0043】
抄造マット10では、10本以上の無機繊維20が交絡して形成された繊維束21の平均幅(
図1B中、符号Wで示す長さの平均値)は、0.2~1.0mmであることが好ましく、0.2~0.8mmであることがより好ましい。
なお、
図1Bに示すように、繊維束21がストレート状態21aである場合、及び、ちぢれ状態21bである場合ともに、その最大幅(
図1B中、それぞれ符号Wa及びWbで示す長さ)が、繊維束21の幅である。
【0044】
当該繊維束の平均幅が、0.2mm未満であると、繊維束の強度が低くなり、繊維束が曲がりやすくなり、心材として機能しにくくなる。
当該繊維束の平均幅が、1.0mmを超えると、繊維束の強度が高くなりすぎ、抄造マット全体の柔軟性が低下する。
【0045】
10本以上の無機繊維が交絡して形成された繊維束の平均長さ、及び、10本以上の無機繊維が交絡して形成されている繊維束の平均幅は以下のように測定された値を意味する。
抄造マットから150cm3の試験片を切り出す。
その後、試験片を600℃、1時間の条件で焼成し、バインダ成分を熱分解する。
次に試験片を容器入れ、容器を上下左右に振動させることにより試験片を構成する無機繊維をほぐす。
ほぐした試験片から10本以上の無機繊維が交絡して形成されている繊維束を取り出し、当該繊維束の長さ及び幅を測定する。
同様の操作を3回繰り返し、得られた繊維束の長さ及び幅の平均値を算出する。
なお、繊維束の平均長さ及び平均幅を算出するに当たり、10本未満の無機繊維で構成される繊維束は除外して計算する。
【0046】
抄造マット10では、繊維束21が一方向に配向していることが好ましい。
繊維束21が一方向に配向している場合、抄造マット10を繊維束21が配向している方向と垂直な方向に曲げたとしても応力が生じにくい。また、当該応力に起因する割れが生じにくい。
そのため、抄造マット10を基材に巻き付けたとしても、割れが生じにくい。
【0047】
繊維束21が一方向に配向しているか否かは、以下の方法で判断する。
まず、
図1Bに示すように、抄造マット10の第1主面において、繊維束21の一方端21e
1から他方端21e
2を結ぶ線分を引く。次に、線分と任意の方向dとが形成する鋭角aの角度を測定する。そして、当該角度が、0~45°である場合、その線分の由来元である繊維束21を、方向dに配向する繊維束21とする。
抄造マット10の第1主面の任意の縦×横=5cm×5cmの範囲において、繊維束21全体の内、50%以上が、方向dに配向する繊維束21である場合、繊維束21全体が方向dに配向していると判断する。
そして、繊維束21がこのような状態である場合、抄造マットにおいて、「繊維束が一方向に配向している」と判断する。
【0048】
なお、上記の通り、抄造マット10を製造する際の抄造工程において、繊維束21が含まれるスラリーを一定の方向に流すと、繊維束21が他の無機繊維(20、22)に引っ掛かり、スラリーの流れる方向に対し垂直な方向に配向しやすくなる。
このように繊維束21がスラリーの流れる方向に対し垂直な方向に配向する現象は、抄造マット10の厚さ方向全体で生じる。そのため、抄造マット10の主面において、繊維束21が一方向に配向している場合、抄造マット10の全体でも、繊維束21が一方向に配向していると判断できる。
【0049】
抄造マット10を構成する無機繊維20としては、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、ガラス繊維及び生体溶解性繊維から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
抄造マット10がこれらの無機繊維からなると耐熱性が充分になる。
【0050】
抄造マット10を構成する無機繊維20は、平均繊維径が3~50μmであり、平均繊維長が100~100000μmであることが好ましい。
【0051】
抄造マット10のかさ密度は、0.05~0.30g/cm3であることが好ましい。
抄造マット10のかさ密度が0.05g/cm3未満であると、無機繊維のからみ合いが弱く、無機繊維が剥離しやすいため、抄造マットの形状を所定の形状に保ちにくくなる。
抄造マット10のかさ密度が0.30g/cm3を超えると、抄造マットが硬くなり、巻き付け性が低下し、マット裂けが発生しやすくなる。
【0052】
抄造マット10では、無機繊維20が100重量部に対し、有機バインダを0.1~20重量部含むことが好ましく、0.5~10重量部含むことがより好ましい。
また、無機繊維20が100重量部に対し、無機バインダを0.1~10重量部含むことが好ましく、0.5~3.0重量部含むことがより好ましい。
有機バインダ及び無機バインダは、無機繊維同士を接着し、抄造マットの形状を維持する。
有機バインダ及び無機バインダの含有量が上記範囲であると、無機繊維同士の接着が適度となり、抄造マットの柔軟性と形状維持性を両立することができる。
また、抄造マットから無機繊維が脱落すること、及び、飛散することを抑止することができる。
【0053】
抄造マット10では、有機バインダのガラス転移温度Tgは、5℃以下であることが好ましく、-35~5℃であることがより好ましい。
有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃以下であると、有機バインダにより形成される有機バインダ皮膜の強度を高くしつつ、皮膜伸度が高くて可撓性に優れた抄造マットとすることができる。
また、抄造マット10を排ガス処理体に巻きつける際等にマット裂けが発生しにくくなる。さらに、有機バインダ皮膜が硬くなり過ぎないため、無機繊維が破断した際に、無機繊維同士を繋ぎ止める効果を発揮し、無機繊維の飛散を抑制することができる。
有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃を超える場合、抄造マットの可撓性が低下し、破断伸度が低下してしまうことがある。
【0054】
本発明の抄造マットでは、上記有機バインダは、水溶性有機重合体であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化樹脂であってもよい。
水溶性有機重合体としては、アクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールが挙げられる。熱可塑性樹脂としてはスチレン樹脂が挙げられる。熱硬化樹脂として機能するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0055】
抄造マット10では、無機バインダは、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、ジルコニア、窒化ホウ素、ダイヤモンド及び軽石からなる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0056】
これらの有機バインダ及び無機バインダは、無機繊維同士を接着し、抄造マットの形状を維持するのに適している。
【0057】
次に、本発明の抄造マットの製造方法について説明する。
本発明の抄造マットの製造方法は、(1)開繊工程及び(2)抄造工程とを含む。
なお、以下の説明では、無機繊維成形体として、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び抄造マット由来の第2無機繊維成形体の両方を用いる場合について説明するが、本発明の抄造マットの製造方法では、どちらか一方の無機繊維成形体を用いてもよい。
各工程について以下に詳述する。
【0058】
(1)開繊工程
本工程では、ニードルマット由来の第1無機繊維成形体及び抄造マット由来の第2無機繊維成形体を水中で開繊し、開繊された無機繊維を含むスラリーを作製する。
本工程では、スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重が0.012~0.035g/cm3となるように開繊を行う。
なお、本工程では、水中での開繊の前後に乾式開繊を行わないことが好ましい。
【0059】
ニードルマット及び抄造マットを開繊する際、無機繊維が完全に開繊されず、複数の繊維が交絡した繊維束が生じる場合がある。
このような繊維束が生じる理由を以下に説明する。
【0060】
ニードルマットを製造する際は、ニードルにより無機繊維同士を交絡させるので、その部分では無機繊維同士が強く交絡する。
また、抄造マットを製造する際は、有機バインダで無機繊維同士を接着するので、無機繊維同士が離れにくくなる。抄造法で抄造マットを製造する際は、無機繊維同士の集合に斑が生じ、密度が高い無機繊維の集合が形成される。
このようなニードルマット由来の第1無機繊維形成体及び抄造マット由来の第2無機繊維成形体を開繊する場合、ニードルマットにおいてニードルにより無機繊維同士を交絡させた部分や、抄造マットにおいて密度が高い無機繊維の集合部分は開繊されにくく、撚れた繊維束として残る。
本発明の抄造マットの製造方法では、このような繊維束を意図的に生じさせている。
つまり、本発明の抄造マットの製造方法では、繊維束が形成され、かつ、繊維束の平均長さが5mm超えるように開繊を行う。
このような繊維束を所定の量だけ生じさせることにより、スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重を0.012~0.035g/cm3とすることができる。
【0061】
なお、スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重は、以下の方法により測定することができる。
まず、スラリーを完全に乾燥させ、スラリーの乾燥物から5.0g分の繊維をほぐしながら計り取り、400ccの水が入った容器に繊維を入れる。
次に、回転数1000rpmで10分間攪拌した後、メスシリンダー容器に移し替え、総容量が500ccになるように水を追加する。
30分間静置させて、沈降した繊維の高さを読み取り、以下の計算式(1)で水中嵩比重を算出する。
水中嵩比重(g/cm3)=5.0(g)/繊維の沈降容積(cm3)・・・(1)
【0062】
スラリーに含まれる繊維束は、10本以上の無機繊維が交絡して形成され、平均長さが5~15mmであり、平均幅が0.2~1.0mmであることが好ましい。
【0063】
開繊条件は特に限定されないが、例えば、水中で撹拌機を用いて開繊を行う場合、撹拌機の回転速度、時間を調整することにより、スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重を0.012~0.035g/cm3とすることができる。また、撹拌機の回転速度、時間を調整することにより、繊維束の平均長さ及び平均幅も調整することができる。
【0064】
また、本工程において生じさせる繊維束は、第1無機繊維成形体のニードル痕由来であることが好ましい。
ニードルマットを製造する際、ニードルパンチングを行うことにより、無機繊維を交絡する。このようなニードルマットを水中で開繊すると、複数の無機繊維が交絡した繊維束を含む無機繊維が得られる。当該繊維束は、ちぢれた繊維束となる。
ニードルパンチングの条件を調整することにより、スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重を容易に0.012~0.035g/cm3とすることができる。
つまり、本発明の抄造マットは、所定のニードルマットを開繊する工程を経て製造すると、容易に製造することができる。
【0065】
開繊の例としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を500~1200℃で0.5~10.0時間焼成する。好ましい焼成温度は、800~950℃である。
これにより、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体に含まれる有機バインダを熱分解することができ、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を開繊しやすくなる。
【0066】
次に、焼成後の第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を常温になるまで静置し、その後、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を手でほぐす。
【0067】
次に、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を、重量比で50~400倍量の水に入れ、攪拌することにより開繊を行うことにより無機繊維を含むスラリーを作製する。
また、攪拌の条件は適宜設定することが好ましいが、例えば、10Lのスラリーを作製する際は、撹拌機として、(製品名:SMT-101、製造元:ASONE)を用い、回転数が500~1000rpm、攪拌時間が200~900秒の条件で攪拌することが好ましい。好ましくは、回転速度650~850rpm、攪拌時間500~700秒であり、より好ましくは、回転速度700~800rpm、攪拌時間500~650秒である。
これにより、スラリー含まれる無機繊維の水中嵩比重を0.012~0.035g/cm3とすることができ、かつ、繊維束の平均長さを、5mmを超えるようにすることができる。
【0068】
次に、スラリーに有機バインダ及び無機バインダを加える。
有機バインダは、製造される抄造マットにおいて、無機繊維が100重量部に対し、0.1~20重量部となるように加えることが好ましく、0.5~15.0重量部となるように加えることがより好ましい。
無機バインダは、製造される抄造マットにおいて、無機繊維が100重量部に対し、0.1~15.0重量部となるように加えることが好ましく、0.5~10重量部となるように加えることがより好ましい。
好ましい有機バインダ及び無機バインダの種類は既に説明しているので、ここでの説明は省略する。
【0069】
(2)抄造工程
次に、底面にろ過用のメッシュが形成された成形器にスラリーを流し込み、スラリー中の溶媒を脱溶媒処理することで無機繊維集合体を得る。そして、無機繊維集合体を脱水及び乾燥する。
【0070】
なお、抄造工程では、無機繊維集合体を加熱加圧して乾燥してもよい。加熱加圧の際、熱風を無機繊維集合体に通気させて乾燥する熱処理をしてもよく、熱処理をせずに湿潤状態としてもよい。
熱処理をする場合には、有機バインダの熱による劣化を防ぐため、加熱温度や熱風温度は100~250℃であることが好ましい。100~250℃の範囲においては、有機バインダの劣化を抑制しつつ、水分を無機繊維集合体からとばすことができる。加熱温度や熱風温度が100℃未満の場合、無機繊維集合体の中央部まで温度が伝わらず、乾燥時間が長くなる。また、250℃を超えると、有機バインダを劣化させてしまい、繊維間の拘束力を低減させるため、無機繊維集合体の厚みが制御しにくくなる。
【0071】
以上の工程を経て、本発明の抄造マットを製造することができる。
なお、抄造工程において、新たに繊維束は生じないので、得られた抄造マットを上記抄造マットの開繊方法により開繊し、無機繊維を含むスラリーを得ると、当該スラリーに含まれる無機繊維の水中嵩比重は、0.012~0.035g/cm3となる。
【0072】
本発明の抄造マットの製造方法では、抄造工程において、バッチ抄造又は連続抄造を行うことが好ましい。
バッチ抄造又は連続抄造を行うことにより、容易に本発明の抄造マットを得ることができる。
【0073】
次に、本発明の抄造マットの使用方法について説明する。
図3は、本発明の排ガス浄化装置の一例を模式的に示す断面図である。
図3に示すように、排ガス浄化装置100は、金属ケーシング30と、金属ケーシング30に収容された排ガス処理体40と、排ガス処理体40及び金属ケーシング30の間に配設された抄造マット10とを備えている。抄造マット10は本発明の抄造マットである。
排ガス処理体40は、多数のセル41がセル壁42を隔てて長手方向に並設された柱状のものである。なお、金属ケーシング30の端部には、必要に応じて、内燃機関から排出された排ガスを導入する導入管と、排ガス浄化装置を通過した排ガスが外部に排出される排出管とが接続されることになる。
図3に示す排ガス浄化装置100では、排ガス処理体40として、各々のセルにおけるいずれか一方が封止材43によって目封じされた排ガスフィルタ(ハニカムフィルタ)を用いているが、いずれの端面にも封止材による目封じがなされていない触媒担体を用いてもよい。
【0074】
図3に示すように、内燃機関から排出され、排ガス浄化装置100に流入した排ガス(
図3中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、排ガス処理体(ハニカムフィルタ)40の排ガス流入側端面40aに開口した一のセル41に流入し、セル41を隔てるセル壁42を通過する。この際、排ガス中のPMがセル壁42で捕集され、排ガスが浄化されることとなる。浄化された排ガスは、排ガス流出側端面40bに開口した他のセル41から流出し、外部に排出される。
【0075】
上記の通り、抄造マット10は面圧が高い。そのため、排ガス浄化装置100において、排ガス処理体40が、排ガスから高い圧力を受けたとしても、排ガス処理体40が、金属ケーシング30から脱落することを防ぐことができる。
【0076】
排ガス処理体40は、炭化ケイ素や窒化ケイ素などの非酸化多孔質セラミックからなっていてもよく、サイアロン、アルミナ、コーデェライト、ムライト等の酸化多孔質セラミックからなっていてもよい。これらの中では、炭化ケイ素であることが好ましい。
【0077】
排ガス処理体40が炭化ケイ素質の多孔質セラミックである場合、多孔質セラミックの気孔率は特に限定されないが、35~60%であることが好ましい。
気孔率が35%未満であると、排ガス処理体がすぐに目詰まりを起こすことがあり、一方、気孔率が60%を超えると、排ガス処理体の強度が低下して容易に破壊されることがある。
【0078】
また、多孔質セラミックの平均気孔径は5~30μmであることが好ましい。
平均気孔径が5μm未満であると、PMが容易に目詰まりを起こすことがある。
平均気孔径が30μmを超えると、PMが気孔を通り抜けてしまい、PMを捕集することができず、フィルタとして機能することができないことがある。
なお、上記気孔率及び気孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定の従来公知の方法により測定することができる。
【0079】
排ガス処理体40の断面におけるセル密度は、特に限定されないが、好ましい下限は、31.0個/cm2(200個/inch2)、好ましい上限は、93.0個/cm2(600個/inch2)である。また、より好ましい下限は、38.8個/cm2(250個/inch2)、より好ましい上限は、77.5個/cm2(500個/inch2)である。
【0080】
排ガス処理体40には、排ガスを浄化するための触媒を担持させてもよく、担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が好ましく、この中では、白金がより好ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いることもできる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
これら触媒が担持されていると、PMを燃焼除去しやすくなり、有毒な排ガスの浄化も可能になる。
【0081】
(金属ケーシング)
金属ケーシング30は、略円筒形である。
金属ケーシング30の内径(排ガス処理体を収容する部分の内径)は、抄造マット10が巻き付けられた排ガス処理体40の直径より若干短くなっていることが好ましい。
【0082】
金属ケーシング30は、特に限定されないが、ステンレス鋼からなることが好ましい。
【実施例0083】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
Al2O3:SiO2=72:28(重量比)であるアルミナ-シリカ繊維からなり、かさ密度が0.17g/mm3であり、ニードル痕の密度が21個/cm2の密度であるニードルマット由来の第1無機繊維成形体を準備した。
また、Al2O3:SiO2=72:28(重量比)であるアルミナ-シリカ繊維からなり、かさ密度が1.2g/mm3である抄造マット由来の第2無機繊維成形体を準備した。
【0085】
次に、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を800℃で1時間焼成し、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体に含まれる有機バインダを熱分解させた。
【0086】
次に、焼成後の第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を常温になるまで静置し、その後、第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体を手でほぐした。
【0087】
次に、第1無機繊維成形体を5.0g、第2無機繊維成形体を5.0g取り出し、0.4Lの水に入れた。その後、撹拌機(製品名:SMT-101、製造元:ASONE)を用い、回転数が1000rpm、攪拌時間が10分間の条件で攪拌して、開繊を行うことにより、無機繊維のスラリーを作製した。
【0088】
なお、スラリーに繊維束が形成されているかを確認するため、スラリーを一部取り出し、乾燥させたところ、10本以上の無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束が形成されていることが確認された。
【0089】
次に、スラリーに有機バインダを、無機繊維が100重量部に対し、0.5~10重量部となるように加えた。
また、スラリーに無機バインダを、無機繊維が100重量部に対し、0.3~3.0重量部となるように加えた。
【0090】
次に、底面にろ過用のメッシュが形成された成形器にスラリーを流し込み、スラリー中の溶媒を脱溶媒処理することで無機繊維集合体を得た。その後、無機繊維集合体を脱水し、150~210℃、5分~1時間の条件で乾燥することにより実施例1に係る抄造マットを製造した。実施例1に係る抄造マットの厚さは、13mmであった。
【0091】
(比較例1)
第1無機繊維成形体及び第2無機繊維成形体の開繊を、撹拌機を用いずに、手で充分にほぐした以外は、実施例と同様にして、比較例1に係る抄造マットを製造した。
比較例1に係る抄造マットの厚さは、12.9mmであった。
【0092】
(水中嵩比重の測定)
実施例1及び比較例1に係る抄造マットを600℃、1時間で熱処理した。
その後、5.0g分の繊維をほぐしながら計り取り、400ccの水が入った容器に繊維を入れた。
回転数1000rpmで10分間攪拌した後、メスシリンダー容器に移し替え、総容量が500ccになるように水を追加した。
30分間静置させて、沈降した繊維の高さを読み取り、以下の計算式(1)で水中嵩比重を算出した。結果を表1に示す。
水中嵩比重(g/cm3)=5.0(g)/繊維の沈降容積(cm3)・・・(1)
【0093】
【0094】
(繊維束の観察)
実施例1及び比較例1に係る抄造マットから、150cm3の試験片を切り出した。
その後、試験片を600℃、1時間の条件で焼成し、バインダ成分を熱分解させた。
次に試験片を容器入れ、容器を上下左右に振動させることにより試験片を構成する無機繊維をほぐした。
ほぐした試験片から10本以上の無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束を取り出し、繊維束の長さ及び無機繊維の幅を測定した。
同様の操作を3回繰り返し、繊維束の長さ及び繊維束の幅の平均値を算出した。
結果を表1に示す。
【0095】
(面圧の測定)
実施例1及び比較例1に係る抄造マットを、試験機(製品名:SMT-101、製造元:ASONE)にセットし、空隙かさ密度(GBD)が0.40mm3/gとなるまで25.4mm/minの速度で圧縮した。空隙かさ密度(GBD)が0.40mm3/gの状態で10min間保持した。
その後、各抄造マットの面圧を測定した。結果を表1に示す。
【0096】
(巻付け性評価)
実施例1及び比較例1に係る抄造マットを、長手方向の長さが350mmとなり、短手方向の長さが30mmの矩形となるように裁断して試験片を作製した。
なおこの際、抄造マットの製造時の抄造工程において、成形器にスラリーを流し込む方向と、試験片の長手方向とが一致するように裁断を行った。
【0097】
次に、直径が100mmの円柱体を準備し、各試験片の長手方向と巻付け方向とが一致するように、各試験片を当該円柱体に巻き付けた。そして、各試験片に割れが生じるかを目視で観察した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
〇:割れが観察されなかった。
×:割れが観察された。
【0098】
表1に示すように、実施例1に係る抄造マットは、面圧が高く、基材に巻き付けても割れが生じにくいことが判明した。
前記有機バインダは、水溶性有機重合体として機能するアクリル樹脂、アクリレート系ラテックス、ゴム系ラテックス、カルボキシメチルセルロース及びポリビニルアルコール、熱可塑性樹脂として機能するスチレン樹脂、並びに、熱硬化樹脂として機能するエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2又は3に記載の抄造マット。
無機繊維が集合した無機繊維成形体を水中で開繊し、10本以上の前記無機繊維が撚れるように交絡して形成された繊維束と、前記繊維束を構成しない前記無機繊維とを含むスラリーを作製する開繊工程と、
前記スラリーを抄造して抄造マットとする抄造工程とを含む抄造マットの製造方法であって、
前記開繊工程では前記繊維束の平均長さが5mmを超え、かつ、前記スラリーに含まれる前記無機繊維の水中嵩比重が0.012~0.035g/cm3となるようにし、
さらに、前記繊維束が、ちぢれた状態の繊維束を含み、
下記なぞり長さ測定方法で測定した前記ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さの方が、前記ちぢれた状態の繊維束の長さよりも0.1mm以上長く、
前記繊維束に含まれる前記ちぢれた状態の繊維束の数の割合が、10%以上となるように開繊を行うことを特徴とする抄造マットの製造方法。
なぞり長さの測定方法:
ちぢれた状態の繊維束を平面上に静置する。
静置された前記ちぢれた状態の繊維束を上方から見て、前記ちぢれた状態の繊維束の一方の端部から他方の端部までを前記ちぢれた状態の繊維束に沿ってなぞり、そのなぞった距離を、「ちぢれた状態の繊維束のなぞり長さ」とする。