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特開2024-151785トバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法およびトバモライト含有珪酸カルシウム成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024151785
(43)【公開日】2024-10-25
(54)【発明の名称】トバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法およびトバモライト含有珪酸カルシウム成形体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/18 20060101AFI20241018BHJP
   C04B 14/38 20060101ALI20241018BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20241018BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20241018BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20241018BHJP
   C01B 33/24 20060101ALI20241018BHJP
【FI】
C04B28/18
C04B14/38
C04B16/06
C04B20/00 A
C04B40/02
C01B33/24 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023065489
(22)【出願日】2023-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 純
(72)【発明者】
【氏名】小林 祐記
(72)【発明者】
【氏名】田仁 裕也
(72)【発明者】
【氏名】高間 健吾
【テーマコード(参考)】
4G073
4G112
【Fターム(参考)】
4G073BA10
4G073BA11
4G073BA20
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA76
4G073BD03
4G073CC14
4G073FA09
4G073FB01
4G073FB02
4G073FB09
4G073FB45
4G073FB46
4G073FC03
4G073FC13
4G073FC25
4G073FC30
4G073FD27
4G073GA03
4G073GA16
4G073GA26
4G073GA31
4G073GA40
4G112PA15
4G112PA24
4G112PE08
4G112RA00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を製造する方法を提供する。
【解決手段】珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含む混合原料を水に混合した水性スラリーを脱水成形し、得られた成形物を加熱処理するトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、前記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%以下であり、前記水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05であることを特徴とするトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含む混合原料の水性スラリーを脱水成形し、得られた成形物を加熱処理するトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、
前記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%以下であり、
前記水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05である
ことを特徴とするトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項2】
前記石膏が、天然石膏、排脱石膏、中和石膏、リン酸石膏、ボウ硝石膏および廃石膏ボード粉砕粉から選ばれる一種以上である請求項1に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項3】
前記石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物が、マイエナイト、アルミン酸三石灰、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四石灰および鉄アルミン酸四カルシウムから選ばれる一種以上を含む化合物である請求項1に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項4】
前記石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物が、製紙スラッジ灰である請求項1に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項5】
前記水性スラリー中に、固形分換算で、前記製紙スラッジ灰を10~50質量%含み、前記水性スラリー中における前記製紙スラッジ灰および前記石膏の合計量が固形分換算で50質量%以上である請求項4に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項6】
前記水性スラリーがさらに補強繊維を含む請求項1に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理を120℃以上200℃未満の温度下で行う請求項1に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項8】
得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体が、嵩密度0.40g/cm~1.20g/cm、曲げ強度5.00N/mm以上、 吸水寸法変化率0.15%以下、1000℃加熱収縮率7.0%以下である請求項1に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法。
【請求項9】
珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含有する水性スラリーの加熱処理物からなるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体であって、
前記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%以下であり、
前記水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05である
ことを特徴とするトバモライト含有珪酸カルシウム成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法およびトバモライト含有珪酸カルシウム成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
トバモライト(5CaO・6SiO・5HO)は、珪酸カルシウム水和物の一種であり、寸法安定性や耐熱性に優れることから、珪酸カルシウム板(ケイカル板)などの珪酸カルシウム成形体の構成材料として広く利用されている。
【0003】
このトバモライト(5CaO・6SiO・5HO)は、特許文献1(特開平7-17708号公報)等に開示されているように、一般的に、石英、珪石などの溶融性の低い珪酸質原料と、消石灰等の石灰質原料との混合物を、水の共存下でオートクレーブ内で加熱し、水熱合成することによって製造されている。
上記オートクレーブでの反応は、反応初期において、珪酸質原料から溶出する珪酸イオンと石灰質原料から溶出するカルシウムイオンが反応し、非結晶質の中間生成物である珪酸カルシウム水和物、すなわちCa-SiO-HOゲル(以下、単に「C-S-Hゲル」と称する)が生成される。そして、さらに反応が進むと、C-S-Hゲルが結晶化してトバモライト結晶が生成する。
【0004】
一方、近年、珪酸カルシウム成形体の原料に、製紙スラッジ等の産業廃棄物を使用し、コストダウンを図ることが提案されている。
しかしながら、珪酸カルシウム成形体の原料混合物において産業廃棄物の含有割合を多くした場合、特に産業廃棄物として未焼成の製紙スラッジを使用した場合には、製造後の珪酸カルシウム成形体の曲げ強度が低下するという技術課題が存在していた。
【0005】
上記技術課題を解決する珪酸カルシウム成形体として、出願人は、先に、珪酸質原料、石灰質原料、製紙スラッジ灰及び補強繊維を含む珪酸カルシウム成形体の原料と水とを混合した混合スラリーを脱水成形し、得られた成形物を水熱反応させることにより得られる珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、前記原料中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分とのモル比がAl/(Al+Si)=7~15%であり、前記原料中に前記製紙スラッジ灰を6~14重量%含み、前記原料中にさらに排脱石膏を含むとともに、前記排脱石膏と前記製紙スラッジ灰の合計量が50重量%以上である、珪酸カルシウム成形体の製造方法を提案するに至っている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-17708号公報
【特許文献2】特許第4646310号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2記載の製造方法によれば、原料中の産業廃棄物の割合を多くした場合においても、高い曲げ強度を維持する珪酸カルシウム成形体を提供することができる。
【0008】
一方、本発明者等の検討によれば、特許文献2記載の製造方法では、原料混合物に水を加えて混合スラリーとした後、脱水成形してグリーンシートを得、次いで得られたグリーンシートをオートクレーブ中に装入し、例えば温度180℃、圧力0.9MPaの処理条件下で加熱処理して水熱合成することにより、専ら中間体である珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)を経由して珪酸カルシウム成形体を得ているが、上記オートクレーブで焼成処理する際に、加熱処理時間を低減し難かったり、加熱処理時間を増大させることなく温度や圧力を低減し難く、工業生産上、生産設備費用や製造時のエネルギーコスト等の費用の増大を招き易いことが判明した。
【0009】
本点について本発明者等がさらに検討したところ、珪石等の珪酸質原料の溶解度は消石灰等の石灰質原料に比べて低く、反応初期において珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)が未反応の珪酸質原料粒子の周囲を取り囲むように生成することから、珪酸質原料の溶解性が一層低減してしまい、このために、原料混合物をトバモライトに結晶化するためにはオートクレーブ内の温度を十分に上げ蒸気圧を高めた状態で珪酸質原料の溶解度を向上させる必要があるためであることが判明した。
オートクレーブ内の温度が低いと珪石の溶解が進行し難く所望物性を得るための処理時間が増大することから、珪酸カルシウム成形体の工業生産性を向上させる上では、上記オートクレーブで加熱処理する際の温度や圧力は低減し難いことになる。
【0010】
従って、本発明は、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を製造する方法およびトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者等が鋭意検討を行ったところ、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含む混合原料の水性スラリーを脱水成形し、得られた成形物を加熱処理するトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、前記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%以下であり、前記水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05であるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含む混合原料の水性スラリーを脱水成形し、得られた成形物を加熱処理するトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、
前記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%以下であり、
前記水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05である
ことを特徴とするトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法、
(2)前記石膏が、天然石膏、排脱石膏、中和石膏、リン酸石膏、ボウ硝石膏および廃石膏ボード粉砕粉から選ばれる一種以上である上記(1)に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法、
(3)前記石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物が、マイエナイト、アルミン酸三石灰、アルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四石灰および鉄アルミン酸四カルシウムから選ばれる一種以上を含む化合物である上記(1)に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法、
(4)前記石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物が、製紙スラッジ灰である上記(1)に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法、
(5)前記水性スラリー中に、固形分換算で、前記製紙スラッジ灰を10~50質量%含み、前記水性スラリー中における前記製紙スラッジ灰および前記石膏の合計量が固形分換算で50質量%以上である上記(4)に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法、
(6)前記水性スラリーがさらに補強繊維を含む上記(1)に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法、
(7)前記加熱処理を120℃以上200℃未満の温度下で行う上記(1)に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法、
(8)得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体が、嵩密度0.40g/cm~1.20g/cm 、曲げ強度5.00N/mm以上、 吸水寸法変化率0.15%以下、1000℃加熱収縮率7.0%以下である上記(1)に記載のトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法、
(9)珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含有する水性スラリーの加熱処理物からなるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体であって、
前記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%以下であり、
前記水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05である
ことを特徴とするトバモライト含有珪酸カルシウム成形体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特許文献2記載の珪酸カルシウム成形体の製造方法に比較して、原料中におけるアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合(モル%)が高く、硫黄(S)成分に対してアルミニウム(Al)成分を一定割合で含む点が相違する。このため、水性スラリー中に、珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)ではなくエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を前駆体としてさらにハイドロキシルエレスタダイト(3.5CaO・1.5SiO・1.5CaSO・0.5HO)を生成し、珪酸カルシウム水和物が珪石等の珪酸質原料粒子の周囲に生成することによる珪酸質原料の溶解性の低下を抑制できると考えられる。
また、特許文献2記載の製造方法のように、珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)を経由してトバモライト結晶を生成する場合に比較して、エトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を前駆体とするハイドロキシルエレスタダイトを経由してトバモライト結晶を生成する場合の方が、水熱合成時の加熱処理時間を低減しつつトバモライト結晶を生成したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなくトバモライト結晶を低温かつ低圧力下で生成することができる。
このため、本発明によれば、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を製造する方法およびトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法について説明する。
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法は、
珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含む混合原料の水性スラリーを脱水成形し、得られた成形物を加熱処理するトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法であって、
前記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%以下であり、
前記水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05である
ことを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法においては、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含む混合原料の水性スラリーを脱水成形し、得られた成形物を加熱処理する。
【0016】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、珪酸質原料としては、珪石、珪藻土、マイクロシリカ、シリカヒューム、シリカフラワー等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0017】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーは、固形分換算で、珪酸質原料を、10~60質量%含むものであることが好ましく、12~55質量%含むものであることがより好ましく、15~50質量%含むものであることがさらに好ましく、25~50質量%含むものであることが一層好ましく、38~40質量%含むものであることがより一層好ましい。
【0018】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中に、固形分換算で珪酸質原料を上記割合で含有することにより、珪酸質原料の使用割合を相対的に低減させ、後述する石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物等の使用割合を増大させて混合原料中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合を所望範囲内に容易に制御することができる。
【0019】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、石灰質原料としては、セメント、消石灰、生石灰等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0020】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーは、固形分換算で、石灰質原料を、3~50質量%含むものであることが好ましく、4~50質量%含むものであることがより好ましく、10~50質量%含むものであることがさらに好ましく、15~45質量%含むものであることが一層好ましく、31~39質量%含むものであることがより一層好ましい。
【0021】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中に、固形分換算で石灰質原料を上記割合で含有することにより、珪酸質原料の使用割合を相対的に低減させ、後述する混合原料中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分の含有割合を所望範囲内に容易に制御することができる。
【0022】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、石膏としては、天然石膏、排脱石膏、中和石膏、リン酸石膏、ボウ硝石膏および廃石膏ボード粉砕粉から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0023】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、排脱石膏、中和石膏、リン酸石膏およびボウ硝石膏は、化学石膏と称されるものであって、各種化学工業において副産物として生成するものである。
【0024】
上記石膏のうち、例えば排脱石膏は、排煙脱硫石膏とも称されるものであって、排煙脱硫装置でSOガスを回収して石膏化したCaSO・2HO(二水石膏)を意味する。
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、石膏として産業廃棄物である排脱石膏を使用した場合には、製造コストを容易に低減することができる。
【0025】
また、上記石膏のうち、例えば中和石膏は、銅精錬時に発生する廃硫酸等の硫酸によって炭酸カルシウムを中和したものを意味する。
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、石膏として中和石膏を使用した場合にも、産業廃棄物である廃硫酸を活用し得ることから、産業廃棄物を有効活用しつつ製造コストを容易に低減することができる。
【0026】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中に、固形分換算で、石膏を、0質量%を超え50質量%以下含むことが好ましく、5~40質量%含むことがより好ましく、10~25質量%含むことがさらに好ましい。
【0027】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中に固形分換算で石膏を上記割合で含有することにより、水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比を所望割合に容易に制御することができる。
【0028】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物としては、マイエナイト(C12A7;12CaO・7Al)、アルミン酸三石灰、アルミン酸三カルシウム(C3A;3CaO・Al)、鉄アルミン酸四石灰および鉄アルミン酸四カルシウム(C4AF;4CaO・Al・Fe)から選ばれる一種以上を含む化合物を挙げることができ、マイエナイト、アルミン酸三石灰およびアルミン酸三カルシウム、鉄アルミン酸四カルシウムから選ばれる一種以上を含むものが好ましい。
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物として、具体的には、製紙スラッジ灰を挙げることができる。
【0029】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、製紙スラッジ灰とは、製紙スラッジ、すなわち、パルプ製造工程、紙製造工程、古紙処理工程などの製紙加工工程で発生する、再利用不可能なパルプ繊維や、古紙から原料となるパルプ繊維を取り出した後の紙に不向きな短繊維や、粘土分(主にカオリン)または炭酸カルシウムを含む工場廃液に対し、凝集剤としてポリ塩化アルミニウム等を加えて凝集沈殿させた泥状物を、さらに焼却処理して得られる焼却灰(製紙スラッジ焼却灰)を意味する。
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物として産業廃棄物である製紙スラッジ灰を使用することにより、製造コストを容易に低減することができる。
【0030】
製紙スラッジ灰は、Al、SiOおよびCaOを主成分として含む。
製紙スラッジ灰としては、Alを、5~30質量%含むものが好ましく、10~25質量%含むものがより好ましく、12~18質量%含むものがさらに好ましい。
製紙スラッジ灰としては、SiOを、5~40質量%含むものが好ましく、5~30質量%含むものがより好ましく、10~20質量%含むものがさらに好ましい。
製紙スラッジ灰としては、CaOを、30~70質量%含むものが好ましく、40~70質量%含むものがより好ましく、50~70質量%含むものがさらに好ましい。
【0031】
製紙スラッジ灰が、Al、SiOおよびCaOを各々上記割合で含むものであることにより、従来トバモライトの原料として用いられてきた珪酸質原料や石灰質原料の使用量を抑制し、混合原料中の産業廃棄物の割合を高めてこれを有効活用しつつ、混合原料中におけるアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合(モル%)と硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比(モル比)とを所望範囲に容易に制御することができる。
【0032】
なお、本出願書類において、製紙スラッジ灰中のAl、SiOおよびCaOの含有割合は、株式会社リガク製波長分散型蛍光X線装置ZSX Primus IIにより測定した値を意味する。
【0033】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーは、固形分換算で、石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を、10~50質量%含むものであることが好ましく、12~45質量%含むものであることがより好ましく、15~45質量%含むものであることがさらに好ましく、15~40質量%含むものであることが一層好ましく、15~30質量%含むものであることがより一層好ましく、18~30質量%含むものであることが特に好ましい。
【0034】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーが、固形分換算で石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を上記割合で含有することにより、混合原料中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合と硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比(モル比)とを所望範囲内に容易に制御することができる。
【0035】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーは、固形分換算で、石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物および石膏を合計で、50質量%以上含むことが好ましく、50~60質量%含むことがより好ましく、50~55質量%含むことがさらに好ましい。
【0036】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中に、固形分換算で、石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物および石膏を合計で上記の量を含有することにより、珪酸質原料や石灰質原料を主たる原料として使用する場合に比較して、トバモライト結晶を含有する珪酸カルシウム成形体を低温かつ低圧力下で容易に製造することができる。
【0037】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーは、固形分換算で、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を合計で、79~89質量%含むことが好ましく、81~88質量%含むことがより好ましく、83~87質量%含むことがさらに好ましい。
【0038】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中に、固形分換算で、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を合計で、上記の量を含有することにより、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を容易に製造することができる。
【0039】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合、すなわち、
{水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分の含有量(モル量)/(水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計含有量(モル量)}×100
で表される含有割合(モル%)は、15モル%を超え25モル%以下であり、16~23モル%であることが好ましく、17~21モル%であることがより好ましい。
【0040】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比、すなわち、
(水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分の含有量(モル量)/(水性スラリー中の硫黄(S)成分の含有量(モル量))
で表される比(モル比)は、0.40~1.05であり、0.41~1.04であることが好ましく、0.42~1.02であることがより好ましく、0.44~1.02が一層好ましく、0.46~1.02がより一層好ましい。
【0041】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、上記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合や、水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比を求める際に使用される、アルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分の含有量とは、トバモライトの生成源となるアルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分の含有量を意味する。
すなわち、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、トバモライトの生成源となる、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物等の原料を構成する、アルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分各々の合計含有量を意味する。
【0042】
なお、本出願書類において、水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分のモル量は、株式会社リガク製 波長分散型蛍光X線装置ZSX Primus IIにより測定した各成分量(質量%)を、各成分の分子量で除した値を意味する。
上記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分のモル量は、具体的には、以下の方法により算出する。
(1)珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物等のトバモライト形成原料を各々構成する、アルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分の各成分量(質量%)を株式会社リガク製 波長分散型蛍光X線装置ZSX Primus IIにより求める。
(2)水性スラリーに投入する珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物等のトバモライト形成成分を各々構成する上記アルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分の各成分量(質量%)と、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物等の各反応成分の配合割合(固形分割合)から、水性スラリー中における、固形分換算した、アルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分各々の合計含有量(質量%)を求める。
(3)水性スラリー中におけるアルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分の上記各合計含有量(質量%)を、アルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分の分子量で各々除すことにより、上記合計成分量を各々質量%からモル%に換算する。
(4)上記アルミニウム(Al)成分、珪素(Si)成分および硫黄(S)成分の各合計含有量(モル%)を各々のモル量とする。
【0043】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合や、水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、上記範囲内にあることにより、水性スラリー中に、珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)ではなくエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を前駆体としてさらにハイドロキシルエレスタダイト(3.5CaO・1.5SiO・1.5CaSO・0.5HO)を生成し、珪酸カルシウム水和物が珪石等の珪酸質原料粒子の周囲に生成することによる珪酸質原料の溶解性の低下を抑制することができる。
また、珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)を経由してトバモライト結晶を生成する場合に比較して、エトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を前駆体とするハイドロキシルエレスタダイトを経由してトバモライト結晶を生成することによりトバモライト結晶を低温かつ低圧力下で生成することができる。
【0044】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、補強繊維としては、ワラストナイト、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維や、パルプ等の有機繊維から選ばれる一種以上を挙げることができる。
なお、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、上記ワラストナイト等の無機繊維は、一般的に1000℃以下の加温による変化が無いため、トバモライト形成成分ではなく補強繊維として取り扱うものとする。
【0045】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法は、補強繊維を原料とするものであることにより、得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体に所望の強度を容易に付与することができる。
【0046】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中に、固形分換算で、補強繊維を、6~16質量%含むことがさらに好ましく、8~14質量%含むことが一層好ましく、10~12質量%含むことがより一層好ましい。
【0047】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーが、固形分換算で補強繊維を上記割合で含有することにより、得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体に所望の強度を容易に付与することができる。
【0048】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーは、固形分換算で、珪酸質原料、石灰質原料、石膏、当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物および補強繊維を合計で、85~100質量%含むことが好ましく、86~96質量%以上含むことがより好ましく、88~95質量%含むことがさらに好ましく、90~94質量%含むことが一層好ましい。
【0049】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中に、固形分換算で、珪酸質原料、石灰質原料、石膏、当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物および補強繊維を合計で、上記の量を含有することにより、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を一層容易に製造することができる。
【0050】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーを構成する水性媒体としては、水または水と水混和性溶剤との混合物等を挙げることができる。
上記水混和性溶剤の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類、グリセリン等の多価アルコール類、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール等の(ポリ)アルキレングリコールとそのアルキルエーテル類等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0051】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリー中の固形分濃度は、5~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがより好ましい。
【0052】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法においては、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエントリガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含む混合原料の水性スラリーを脱水成形し、得られた成形物を加熱処理する。
【0053】
上記水性スラリーの脱水成形方法としては、吸引脱水成形法、加圧脱水成形法または抄造法等を挙げることができる。
【0054】
また、上記水性スラリーを脱水成形して得られる成形体(湿式成形体)は、嵩密度が、1.2~1.7g/cmであるものが好ましく、1.3~1.6g/cmであるものがより好ましく、1.4~1.5g/cmであるものがさらに好ましい。
【0055】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法においては、上記水性スラリーを脱水成形して得られた成形体(湿式成形体)を加熱処理することにより水熱合成が進行し、トバモライトを含有する結晶を容易に形成することができる。
【0056】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、上記水熱スラリーを脱水成形して得られた成形体(湿式成形体)の加熱処理は、オートクレーブ中で行うことが好ましい。
【0057】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体において、水性スラリーを脱水成形して得られた成形体(湿式成形体)の加熱処理時の処理温度は、120℃以上200℃未満が好ましく、130~180℃がより好ましく、140~160℃がさらに好ましい。
【0058】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法において、水性スラリーを脱水成形して得られた成形体(湿式成形体)の加熱処理時の処理圧力は、1.4MPa以下が好ましく、0.1~0.9MPaがより好ましく、0.2~0.5MPaがさらに好ましい。
【0059】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体において、水性スラリーを脱水成形して得られた成形体(湿式成形体)の加熱処理時の処理時間は、2~16時間が好ましく、4~14時間がより好ましく、6~12時間がさらに好ましい。
【0060】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法によれば、特定原料を特定の割合で含む水性スラリーの脱水成形物を加熱処理してなるものであることから、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつ目的とするトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を得ることができる。
【0061】
本発明に係る製造方法で得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体は、嵩密度が、0.40g/cm~1.20g/cmであるものが好ましく、0.6~1.0g/cm であるものがより好ましく、0.7~0.9g/cmであるものがさらに好ましい。
【0062】
なお、本出願書類において、嵩密度は、JIS A5430(珪酸カルシウム板タイプ2)6.3により測定した値を意味する。
【0063】
本発明に係る製造方法で得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体は、曲げ強度(繊維配向方向の曲げ強度)が、5.00N/mm以上であるものが好ましく、6.00~7.50N/mmであるものがより好ましく、6.50~8.00N/mmであるものがさらに好ましい。
【0064】
なお、本出願書類において、上記曲げ強度は、JIS A5430(珪酸カルシウム板タイプ2)6.4により測定した値を意味する。
【0065】
本発明に係る製造方法で得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体は、吸水寸法変化率が、0.15%以下であるものが好ましく、0.14~0.15%であるものがより好ましく、0.11~0.13%であるものがさらに好ましい。
【0066】
なお、本出願書類において、吸水寸法変化率は、JIS A5430(珪酸カルシウム板タイプ2)6.7により測定した値を意味する。
【0067】
本発明に係る製造方法で得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体は、1000℃加熱収縮率が、7.0%以下(0.0~7.0%)であるものが好ましく、5.0%以下(0.0~5.0%)であるものがより好ましく、3.0%以下(0.0~3.0%)であるものがさらに好ましい。
【0068】
なお、本出願書類において、1000℃加熱収縮率は、得られた成形体を5cm角の立方体状に切り出し、得られたサンプルの各辺の長さを採寸した後、同サンプルを雰囲気温度200度以下の焼成炉に静置し、1時間あたり400℃の昇温速度で1000℃まで昇温し同温度で3時間保持した後、1時間あたり180℃の高温速度で200℃まで降温し、次いで焼成炉から取り出した試験片の各辺の長さを採寸して、各辺における収縮率を下記式
{(焼成前の辺の長さ(cm)-焼成後の辺の長さ(cm))/焼成前の辺の長さ(cm)}×100
により算出したときの算術平均値を意味する。
【0069】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法によれば、従来の製造方法に比較して、特に、混合原料中における、アルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合(モル%)が高いとともに、硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比(モル比)が特定範囲内にあることが相違する。
このため、中間体として、珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)ではなくエトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を前駆体とするハイドロキシルエレスタダイト(3.5CaO・1.5SiO・1.5CaSO・0.5HO)を生成して、珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)が珪石等の珪酸質原料粒子の周囲に生成することによる珪酸質原料の溶解抑制を低減できると考えられる。
また、珪酸カルシウム水和物(C-S-Hゲル)を中間体とする場合に比較して、エトリンガイトを前駆体とするハイドロキシルエレスタダイトを中間体として水熱合成反応を行うことにより、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつトバモライト結晶を生成することができる。
【0070】
このため、本発明によれば、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつトバモライト含有珪酸カルシウム成形体(トバモライト型珪酸カルシウムを含む成形体)を簡便に製造する方法を提供することができる。
【0071】
なお、本発明において、珪酸カルシウム成形体がトバモライト結晶を含むか否かは、以下の方法により確認する。
<トバモライト結晶の確認方法>
X線粉末回折装置(Bruker社製NEW8ADVANCE)を用いて解析した際に、国際回折データセンター(ICD)のデータベースで、Tobermorite-1.1nmの第2ピークである2θ=7.8、d値=11.8付近にピークが認められる場合にはトバモライト結晶を含み、同ピークが認められない場合にはトバモライト結晶を含まないと判断する。
【0072】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法により、以下に説明する本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を効果的に製造することができる。
【0073】
次に、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体について説明する。
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体は、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を含有する水性スラリーの加熱処理物からなるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体であって、
前記水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%以下であり、
前記水性スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05である
ことを特徴とするものである。
【0074】
本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体において、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物の詳細や、所望によりさらに使用される補強繊維の詳細や、これ等を含有する水性スラリーの詳細は、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法の説明で述べたとおりであり、上記水性スラリーを用い、加熱処理することによって加熱処理物を得る方法の詳細も、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の製造方法の説明で述べたとおりである。
また、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の物性の詳細も、本発明に係る製造方法で得られるトバモライト含有珪酸カルシウム成形体の物性と同様である。
【0075】
上述したように、従来より知られている珪酸カルシウム成形体は、珪酸質原料から溶出する珪酸イオンと石灰質原料から溶出するカルシウムイオンが反応して得られた、珪酸カルシウム水和物(Ca-SiO-HOゲル(C-S-Hゲル))の水熱合成反応がさらに進行して得られたトバモライト結晶からなる。
これに対して、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体は、エトリンガイト(3CaO・Al・3CaSO・32HO)を前駆体とするハイドロキシルエレスタダイト(3.5CaO・1.5SiO・1.5CaSO・0.5HO)を中間体として、比較的低温、低圧下で水熱合成して得られるものであり、トバモライトの他に無水石膏等を含有するものになっている。
また、本発明に係るトバモライト含有珪酸カルシウム成形体は、その一部にカトアイト(3CaO・Al・(3-x)SiO・(4-x)HO)を中間体として生成するトバモライトを含む。
【0076】
このため、本発明によれば、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつ製造可能なトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を提供することができる。
【0077】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
【0078】
(実施例1~実施例3、比較例1~比較例5)
(1)原料
珪酸カルシウム成形体の原料として以下の各原料を用意した。
・珪酸質原料 :珪石(SiO含有量が97質量%であるもの)
・石灰質原料 :セメント(SiO含有量22質量%、Al含有量1質量%であるもの)
・石膏 :排脱石膏(SO含有量57質量%、CaO含有量41質量%であるもの)
・石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物:製紙スラッジ灰(Al含有量14質量%、SiO含有量12質量%、CaO含有量50質量%、MgO含有量2質量%、TiO含有量1質量%であるもの)
・補強繊維1 :ワラストナイト
・補強繊維2 :パルプ
【0079】
(2)水スラリーの調製
上記各原料を、表1に示す割合となるように各々混合した上で、水を加えて固形分濃度が10質量%である水スラリーを各々調製した。
上記水スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合、すなわち、下記式
{Al/(Al+Si)}×100
(ただし、Al:水スラリー中に含まれるアルミニウム量(モル量)、Si:水スラリー中に含まれるケイ素量(モル量))により算出される、各水スラリー中に含まれるアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合(Al/(Al+Si)(モル%))を表1に併記する。
また、上記水スラリー中の硫黄(S)成分に対するアルミニウム(Al)成分の含有比、すなわち、下記式
Al/S
(ただし、S:水スラリー中に含まれる硫黄量(モル量)、Al:水スラリー中に含まれるアルミニウム量(モル量))により算出される、各水スラリー中に含まれるアルミニウム(Al)成分に対する硫黄(S)成分の含有比(Al/S(モル比))を表1に併記する。
【0080】
【表1】
【0081】
(3)脱水成形および加熱処理
(2)で各々得られた水スラリーを脱水成形することにより、厚さ10mmの湿式成形体(グリーンシート)を得た。
得られた湿式成形体(グリーンシート)を各々オートクレーブに入れて、各々表2に示す加熱条件で加熱処理することにより水熱合成行うことにより、各珪酸カルシウム成形板を得た。
ただし、比較例4および比較例5においては、水熱合成が進行せず、珪酸カルシウム成形板を得ることができなかった。
得られた各珪酸カルシウム成形体において、トバモライト結晶形成の有無について確認するとともに、各種物性(嵩密度(g/cm)、曲げ強度(N/mm)および吸水寸法変化率(%))を測定した。結果を表2に示す。
なお、本実施例および比較例において、密度は、JIS A5430(珪酸カルシウム板タイプ2)6.3により測定した値を意味し、曲げ強度は、JIS A5430(珪酸カルシウム板タイプ2)6.4により測定した値を意味し、吸水寸法変化率は、JIS A5430(珪酸カルシウム板タイプ2)6.7により測定した値を意味する。
【0082】
【表2】
【0083】
表1および表2より、実施例1~実施例3においては、珪酸質原料、石灰質原料、石膏および当該石膏と常温で反応してエトリンガイトを生成するアルミニウム含有化合物を所定の規程を満たすように含む混合原料の水性スラリーを用いて水熱合成反応を行っていることから、比較例2と対比したときに水熱合成時の加熱処理時間を低減したり(実施例3)、比較例2と対比したときに水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく低温かつ低圧力下で(実施例1~実施例2)、曲げ強度や吸水寸法変化率等の物性に優れたトバモライト含有珪酸カルシウム成形板を製造できていることが分かる。
【0084】
一方、表1および表2より、比較例1~比較例4おいては、水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分と珪素(Si)成分との合計量に対するアルミニウム(Al)成分の含有割合が15モル%を超え25モル%の範囲外であるとともに、比較例1~比較例3および比較例5においては、水性スラリー中のアルミニウム(Al)成分に対する硫黄(S)成分の含有比が、モル比で、0.40~1.05の範囲外にある。
このため、得られた珪酸カルシウム成形体がトバモライトを含有せず、曲げ強度に劣るものであったり(比較例1、比較例3)、実施例1および実施例2と比較してより高温(150℃→180℃)で高圧(0.4MPa→0.9MPa)の処理を要したり、実施例3と比較してより長時間の加熱処理(2時間→8時間)を要する(比較例2)ものであることが分かる。また、珪酸カルシウム成形体が得られないものであることが分かる(比較例4および比較例5)。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、水熱合成時の加熱処理時間を低減したり、水熱合成時の加熱処理時間を増大させることなく加熱温度および加圧力を低減しつつトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を製造する方法およびトバモライト含有珪酸カルシウム成形体を提供することができる。