(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155026
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】アノード厚み検査用治具及びこれを用いたアノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C25C7/02 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069382
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】小出 克将
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 純一
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA25
4K058BA21
4K058BB03
4K058EA10
4K058EC01
4K058EC10
4K058FA08
(57)【要約】
【課題】アノードの特定部位の厚みが所定の範囲内にあるか否かを簡易かつ低コストで検査可能な技術を提供する。
【解決手段】 アノードAの耳部A
L、A
Rに代表される特定部位の許容厚みの上限値に等しい第1の幅D
1で離間している1対の互いに対向する挟込部11a、11b及びこれら1対の挟込部11a、11bの一端部同士を繋ぐ接続部12からなる金属製の検査部13と、接続部12に取り付けられている金属製の棒状の把持部14とから構成されるアノード厚み検査用治具10であって、検査部13は、その奥側に段差部15が設けられて1段狭くなっており、該1段狭い部分の第2の幅D
2はアノードAの特定部位の許容厚みの下限値に等しい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードの特定部位の許容厚みの上限値に等しい幅で離間している1対の互いに対向する挟込部及びこれら1対の挟込部の一端部同士を繋ぐ接続部からなる金属製の検査部と、該接続部に取り付けられている金属製の棒状の把持部とから構成されるアノード厚み検査用治具であって、前記検査部は、その奥側に段差部が設けられて1段狭くなっており、該1段狭い部分の幅は前記アノードの特定部位の許容厚みの下限値に等しいことを特徴とするアノード厚み検査用治具。
【請求項2】
前記1対の挟込部及び接続部からなる前記検査部は、肉厚が3mm以上10mm以下であって前記把持部を真上にして前記1対の挟込部が離間する方向から該検査部を見たときの横幅が10mm以上30mm以下、高さが40mm以上100mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のアノード厚み検査用治具。
【請求項3】
前記許容厚みの上限値が35mm以上55mm以下であり、前記許容厚みの下限値が20mm以上40mm以下であることを特徴とする、請求項2に記載のアノード厚み検査用治具。
【請求項4】
前記段差部が、前記1対の挟込部の一方と前記接続部とが接合する隅部に設けた断面略L字形状の屈曲部からなることを特徴とする、請求項1に記載のアノード厚み検査用治具。
【請求項5】
銅電解用のアノードの製造方法であって、製錬炉で生成した銅品位99%以上の精製粗銅を1個以上の樋を用いて移送し、間欠的に回転するターンテーブルに周方向に等間隔に載置されている複数のアノード鋳型に順次鋳込む工程と、前記複数のアノード鋳型に鋳込まれた精製粗銅を冷却固化する工程と、前記複数のアノード鋳型から前記鋳込まれたアノードを剥ぎ取る工程と、前記剥ぎ取ったアノードをその両側の耳部で懸架した状態で冷却水に浸漬させることで冷却する工程と、前記冷却されたアノードを複数枚まとめて懸架台に懸架状態で保持する工程とを有し、請求項1に記載のアノード厚み検査用治具の前記検査部を前記懸架状態にあるアノードの特定部位に挟み込むことができるか否かで前記特定部位の厚さが許容範囲内に入っているか否かを検査することを特徴とするアノードの製造方法。
【請求項6】
前記検査の結果、前記アノードの特定部位の厚みが前記許容範囲内に入ってない場合は、前記ターンテーブルに載置されている前記アノード鋳型の高さをライナーにより調整することを特徴とする、請求項5に記載のアノードの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬で製造されるアノードの特定部位の厚みが所定の範囲内にあるか否かを検査するアノード厚み検査用治具、及びこのアノード厚み検査用治具を用いたアノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式銅製錬においては、主として銅精鉱からなる原料に対して熔錬工程、製銅工程、及び精製工程で段階的に銅品位を高める処理を施すことで、製品として電気銅を製造している。具体的には、先ず熔錬工程において熔錬炉としての例えば自熔炉に硅石と共に銅精鉱を吹き込んで酸化処理することで、酸化鉄及び硅石をスラグとして相分離し、銅含有率60質量%程度のマットを生成している。次に製銅工程において上記マットを自熔炉から転炉に移送して更に酸化処理することで、銅含有率98質量%程度の粗銅を生成している。最後に精製工程において上記粗銅を転炉から精製炉に移送して酸素を除去することで、銅含有率99質量%以上の精製粗銅を生成し、これを鋳造することで得た電解用アノード(以下、単にアノードとよぶ)を電解精製することで、銅含有率99.99質量%以上の電気銅を生成している。
【0003】
上記のアノードの鋳造では、ターンテーブルと称する円形基台の上に設けた複数のアノード鋳造用の鋳型内に上記の精製炉から抜き出される精製粗銅を1つ以上の樋を経て順次鋳込むことで、複数のアノードを連続的に鋳造している。この鋳造により略矩形板状に成形される各アノードは、その上端部から左右にそれぞれ突出する1対の耳部がいずれも適切な厚みを有していることが求められる。その理由は、後段の電解精製において複数のアノードを電解槽に懸架する際、各アノードは自身の1対の耳部で支えられるため、これら1対の耳部の少なくとも一方の厚みが許容範囲から外れていた場合は、隣接するアノードとのアノード面同士が互いに平行にならずに下端部で近接し、短絡を生じるおそれがあるからである。
【0004】
そこで、鋳造したアノードの1対の耳部が適切な厚みを有していることを確認するため、様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、銅製錬のアノード鋳造工程において、アノード上部に生じる鋳張りやアノード端の盛り上り部分の大きさを測定する測定装置が開示されている。この特許文献1の測定装置は、 ロッドにアノード面と平行になるよう当て板を固設した第1のエアシリンダと、当て板と共にエアシリンダの作動方向に移動するようスライド板に保持された差動トランス及び第2のエアシリンダとを備え、エアシリンダのロッドを常時当て板よりアノード側に突出させ、かつエアシリンダより弱い圧力で付勢し、またエアシリンダのロッドと差動トランスのコアを板状連結具で連結するものである。これにより、鋳張りの有無を測定するため、第1のエアシリンダのロッドを作動させて当て板をアノードの端に当るまで延ばしたとき、アノードに鋳張りがなければロッドの先端はアノード面に当った後、エアシリンダ本体内に押し込まれる。一方、鋳張りがあれば、押し込まれるコアの深さが短くなるので、その度合いにより鋳張りの大小を測定できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1の技術を採用することで、アノードの鋳張りや鋳造時の不適切な盛り上り部分の大きさを測定することが可能になると考えられるが、特許文献1の厚み測定では複雑な機構の測定装置を用いるため、設備コストがかさむうえ、そのメンテナンスのためにも多くのコストと手間がかかると考えられる。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鋳造により得られたアノードの特定部位の厚みが許容範囲内にあるか否かを簡易かつ低コストで検査可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のアノード厚み検査用治具は、アノードの特定部位の許容厚みの上限値に等しい幅で離間している1対の互いに対向する挟込部及びこれら1対の挟込部の一端部同士を繋ぐ接続部からなる金属製の検査部と、該接続部に取り付けられている金属製の棒状の把持部とから構成されるアノード厚み検査用治具であって、前記検査部は、その奥側に段差部が設けられて1段狭くなっており、該1段狭い部分の幅は前記アノードの特定部位の許容厚みの下限値に等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アノードの特定部位の厚みが許容範囲内にあるか否を簡易かつ低コストで検査することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のアノード厚み検査用治具の検査対象となるアノードが鋳造される電解用アノード鋳造装置の模式的な平面図である。
【
図2】本発明のアノード厚み検査用治具の検査対象となるアノードの斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具の斜視図である。
【
図4】
図3のアノード厚み検査用治具の(a)正面図、(b)側面図、(c)平面図、及び(d)底面図である。
【
図5】本発明のアノード厚み検査用治具の他の実施形態の斜視図である。
【
図6】本発明のアノード厚み検査用治具の更に他の実施形態の斜視図である。
【
図7】
図3のアノード厚み検査用治具を用いて、懸架台において懸架状態にあるアノードの耳部を検査している様子(a)、及び冷却槽内において懸架状態にあるアノードの耳部を検査している様子(b)を示す斜視図である。
【
図8】
図3のアノード厚み検査用治具を用いてアノードの耳部を合格又は不合格と判断する様子を示す正面図である。
【
図9】本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具の検査結果に基づいてアノード鋳型の下にライナーを差し込む状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1. 電解用アノード鋳造設備
先ず、本発明のアノード厚み検査用治具の検査対象となるアノードが鋳造される電解用アノード鋳造設備の一具体例について
図1を参照しながら説明する。この
図1に示す電解用アノード鋳造設備は、2基のターンテーブルからなるいわゆるツインホイールタイプのアノード鋳造設備であり、熔体からなる精製粗銅から複数のアノードを連続的に鋳造することができる。
【0011】
具体的に説明すると、この
図1に示す電解用アノード鋳造設備は、白矢印方向に間欠的に回転する2基の円形のターンテーブル1と、各ターンテーブル1上に周方向に等間隔に載置された複数のアノード鋳型2と、これら複数のアノード鋳型2に、図示しない前段の精製炉においてバッチ方式(回分式)で精製処理された熔体からなる精製粗銅(熔湯とも称する)を一定量ずつ順次鋳込む樋部3と、アノード鋳型2に順次鋳込まれた熔湯に冷却水を散布することで冷却固化(凝固)させる冷却装置4と、該冷却装置4において固化されたアノードAをアノード鋳型2から剥ぎ取る剥取機5と、この剥ぎ取り時の剥離性を高めるためにアノード鋳型2内にスラリー状の離型剤を散布する離型剤散布機6と、該剥取機5で剥ぎ取られたアノードAを冷却する冷却槽7と、該冷却槽7で冷却されたアノードAを複数枚ずつまとめてフォークリフトで運搬するため、懸架状態で一時的に保持する懸架台8と、該冷却槽7内からアノードAを引き上げて該懸架台に移載する移載機9とから主に構成される。なお、
図1にはターンテーブル1の上に18個のアノード鋳型2を設けた例が示されているが、アノード鋳型の個数はこれに限定されるものではない。
【0012】
上記の電解用アノード鋳造設備で鋳造されるアノードAは、前述したように電解槽の対向する両側壁によって懸架された状態で電解液に浸漬されるため、
図2に示すように、縦横の長さが1000~1500mm程度の略矩形板状部分の上側両角部に、紙面左右にそれぞれ突出する1対の耳部A
L、A
Rを有している。アノードAは、これら1対の耳部A
L、A
Rによって電解槽内に支持されるほか、後述する冷却槽7内の1対のチェーンコンベア及び懸架台8においてもこれら1対の耳部A
L、A
Rで支持される。
【0013】
2.アノード厚み検査用治具
本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具は、上記の電解用アノード鋳造設備で製造されたアノードAの特定部位として、上記の耳部A
L、A
Rを検査対象としている。すなわち、
図3及び4に示すように、本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具10は、1対の互いに対向する略矩形板状の挟込部11a、11b、及びこれら1対の挟込部11a、11bの一端部同士を繋ぐ略矩形板状の接続部12からなる金属製の門型の検査部13と、この接続部12の中央部において上記1対の挟込部11a、11bが延出する側とは反対側に立設する金属製の棒状の把持部14とから構成される。
【0014】
上記の門型の検査部13は、肉厚が3mm以上10mm以下であるのが好ましい。この肉厚が3mm未満では、強度が低下して使用しているうちに変形するおそれがある。逆にこの肉厚が10mmを超えると、冷却槽7内で懸架した状態で1列に並べられている複数のアノードの隣り合うもの同士の耳部と耳部の隙間に差し込むことが困難になる。また、検査部13は、把持部14を真上に延在させた状態で1対の挟込部11a、11bが互いに離間する方向(即ち、対向する方向)から見たとき、横幅Wが10mm以上30mm以下であり、高さHが40mm以上100mm以下であるのが好ましい。この横幅Wが10mm未満では強度が低下して使用しているうちに変形するおそれがある。逆に横幅Wが30mmを超えると、検査対象のアノードの耳部AL、ARの厚みを検査するとき、横幅Wが長すぎるため耳部AL、AR以外の厚みを検査してしまうおそれがある。
【0015】
上記検査部13における1対の挟込部11a、11bは、厚み検査対象のアノードAの耳部AL、ARの許容厚みの上限値に一致する第1の幅D1で離間している。更に、これら1対の挟込部11a、11bの少なくとも一方は、接続部12との接続箇所に段差部15が設けられており、これにより段差部15よりも奥側が1段狭くなっている。この段差部15よりも奥側の1段狭い部分における第2の幅D2は、厚み検査対象のアノードAの耳部AL、ARの許容厚みの下限値に一致している。
【0016】
上記の第1の幅D
1は、35mm以上55mm以下の範囲内であるのが好ましい。一方、第1の幅D
1よりも狭い第2の幅D
2は、20mm以上40mm以下の範囲内であるのが好ましい。これにより、銅製錬で一般的に取り扱われる1枚当たり質量300kg以上500kg以下程度のアノードAの耳部A
L、A
Rの厚み検査に好適に利用することができる。なお、
図3では挟込部11aに対して垂直な段差部15が設けられているが、これに限定されるものではなく、徐々に狭くなるように傾斜する段差を設けてもよい。これにより、アノードAの耳部A
L、A
Rを段差部15の奥側に導きやすくすることができる。
【0017】
更に、上記の検査部13の形状は、第1の幅D
1を有する手前側部分と、この、第1の幅D
1よりも狭い第2の幅D
2を有する部分を段差部15よりも奥側に有するのであれば、
図3のように、1対の挟込部11a、11bの一方と接続部12とが接合する隅部に断面略L字形状の屈曲部を設ける構造に限定されるものではない。例えば
図5(a)に示す他の実施形態のアノード厚み検査用治具20のように、1対の挟込部21a、21bのうちの一方を2ヶ所で屈曲させて段差部25を設けてもよいし、
図5(b)に示す他の実施形態のアノード厚み検査用治具30のように、1対の挟込部31a、31bの両方を各々2ヶ所で屈曲させて段差部35a、35bを設けてもよい。なお、前者の1対の挟込部21a、21bのうち一方のみに段差を設けるほうが、段差の奥側にアノードAの耳部A
L、A
Rを導きやすいので好ましい。
【0018】
更に、検査部を金属板に代えて把持部と同じ金属棒で形成してもよい。すなわち、
図6(a)の更に他の実施形態のアノード厚み検査用治具40のように、金属棒からなる1対の挟込部41a、41bのうちの一方を2ヶ所で屈曲させて段差部45を設けてもよいし、
図6(b)の更に他の実施形態のアノード厚み検査用治具50のように、金属棒からなる1対の挟込部51a、51bの両方を各々2ヶ所で屈曲させて段差部55a、55bを設けてもよい。このように金属棒で検査部を形成する場合は、上記の金属板で形成する
図3や
図5のアノード厚み検査用治具よりは強度が若干低くなるものの、軽量化できるうえより低コストで作製することができる。
【0019】
上記した本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具10を用いてアノードAの耳部A
L、A
Rを検査するときは、アノードAが耳部A
L、A
Rで支持されることで懸架状態にあるときに行なうのが好ましい。例えば
図7(a)に示すように、フォークリフトの爪部Fで引っ掛けて持ち上げるために利用する懸架台8において、その両側壁上端部に耳部A
L、A
Rをそれぞれ載せて懸架状態にあるアノードAに対して検査を行なうことが好ましい。
【0020】
あるいは、
図7(b)に示すように、冷却槽7においては、モーター7a駆動のチェーンコンベア7bが槽内に設けられており、このチェーンコンベア7bの両側の無限軌道の上面にアノードAの耳部A
L、A
Rを載せることで、アノードAを冷却槽7の長手方向に搬送しながら槽内の冷却水に浸漬させて冷却している。このように、無限軌道上に耳部A
L、A
Rを載せた状態のときに該耳部A
L、A
Rの検査を行なってもよい。この場合は、自動的に搬送されるアノードAに対してアノード厚み検査用治具10を単に上下させるだけで検査できるので、極めて簡易且つ効率的に検査することが可能になる。
【0021】
上記のアノード厚み検査用治具10による耳部A
L、A
Rの検査では、該耳部A
L、A
Rに検査部13を挟み込むことができるか否かで簡易に合否を判断することができる。具体的には、アノードAの例えば左側の耳部A
Lを検査するときは、
図8(a)に示すように、検査部13の手前側部分では1対の挟込部11a、11bによって耳部A
Lを挟み込むことができるが、段差部15よりも奥側では耳部A
Lを挟み込むことができなければ、耳部A
Lは厚みの許容範囲の上限及び下限の要件をいずれも満たしているので合格と判断することができる。他方、
図8(b)に示すように、アノードAの耳部A
Lを段差部15よりも奥側に挟み込むことができれば、耳部A
Lの厚さは許容範囲の下限を下回っているので不合格と判断することができ、また、
図8(c)に示すように、アノードAの耳部A
Lを検査部13の手前側部分で1対の挟込部11a、11bによって挟み込むことができなければ、この左側の耳部A
Lの厚さは許容範囲の上限を超えているので不合格と判断することができる。
【0022】
上記のように、本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具を用いることで、左右の耳部AL、ARのようにアノードAの特定部位に対して、単にアノード厚み検査用治具の検査部を挟み込むことができるか否かを調べるだけで、当該特定部位の厚さが許容範囲の上限を超えているか否か、或いは許容範囲の下限を下回っているか否かを簡易に判断することができる。
【0023】
3.アノードの製造方法
次に、上記した本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具を用いた銅電解用のアノードの製造方法について説明する。このアノードの製造方法は、前段の製錬炉で生成した銅品位99%以上の精製粗銅を1個以上の樋を用いて移送した後、間欠的に回転するターンテーブル上に周方向に等間隔に載置されている複数のアノード鋳型に順次鋳込む鋳込工程と、該アノード鋳型に鋳込まれた精製粗銅を冷却水を吹き付けてアノードを冷却固化する固化工程と、該固化されたアノードをアノード鋳型から剥ぎ取る剥取工程と、該剥ぎ取ったアノードをその両側の耳部で支持して懸架させることで冷却槽内の冷却水に浸漬させて冷却する冷却工程と、該冷却槽で冷却されたアノードAを複数枚ずつまとめてフォークリフトで運搬するため懸架状態で一時的に懸架台に保持する懸架工程とを有し、上記の冷却槽内において懸架状態にあるアノードの耳部に対して、上記のアノード厚み検査用治具10の検査部13の手前側及び奥側で挟み込むことができるか否かについて検査を行なう。
【0024】
そして、上記検査の結果、アノードAの耳部A
L、A
Rの少なくとも一方の厚さが許容範囲から外れている場合は、このアノードAを鋳造したターンテーブル1上の対応するアノード鋳型2の下側に、
図9に示すように、くさび状や板状のライナーLを用いてアノード鋳型2の平面視4箇所の角部の高さ調整を行なう。例えばアノードAの左側の耳部A
Lの厚さが許容範囲の上限を超えている場合は、アノード鋳型2においてこの左側の耳部A
Lを鋳造する部分に精製粗銅が入り過ぎていることになるので、アノード鋳型2においてこの耳部A
Lを鋳造する部分の下に
図9に示すようにライナーLを差し込んだり、既にこの部分にライナーが差し込まれている場合は、その厚さを厚くしたりする。これにより、この耳部A
Lを鋳造する部分の高さを相対的に上げることができるので、この部分に精製粗銅が入る量を減らすことができる。
【0025】
逆に、アノードAの左側の耳部ALの厚さが許容範囲の下限を下回る場合は、アノード鋳型2においてこの左側の耳部ALを鋳造する部分に精製粗銅の入る量が不足していることになるので、アノード鋳型2においてこの耳部ALを鋳造する部分の下に既にライナーが差し込まれている場合は取り外すか厚さの薄いものと交換したり、他の部分にライナーLを差し込んだりする。これにより、この耳部ALを鋳造する部分の高さを相対的に下げることができるので、この部分に精製粗銅が多く入るようにすることができる。
【0026】
以上、本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具及び該検査用治具を用いたアノードの製造方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更例や代替例を含むことができる。例えば、上記の本発明の実施形態のアノード厚み検査用治具はアノードの左右の耳部の厚みを検査するものであったが、これに限定されるものではなく、アノードの略矩形板状部分の例えば上部、側部又は下部の厚みを検査しもよい。
【実施例0027】
図1に示すようなアノード鋳造設備を用いて銅製錬における電解精製の対象となるアノードを製造した。具体的には、製錬炉で生成した銅品位99%以上の精製粗銅を該製錬炉から排出して3個の樋部3を用いて移送し、2台のターンテーブル1を間欠的に回転しながら各々の上に載置されている18個のアノード鋳型にこの精製粗銅を順次鋳込んでいき、冷却装置4で冷却水を吹き付けることで精製粗銅を固化した。その後、アノード鋳型から剥取機5でアノードAを剥ぎ取り、その耳部A
L、A
Rを冷却槽7内のチェーンコンベア7bで支持することで懸架させた状態で冷却水に浸漬させた。この後、該冷却槽で冷却されたアノードAを複数枚ずつまとめてフォークリフトで搬送するため懸架状態で一時的に懸架台8に保持した。この懸架台8で懸架状態にあるアノードAの耳部A
L、A
Rに対して、
図3に示す形状のアノード厚み検査用治具10を用いて厚み検査を行なった。
【0028】
このアノード厚み検査用治具10は、1対の挟込部11a、11b及びそれらの接続部12からなる門型の検査部13を厚さ5mm、横幅W30mm、高さH50mmの金属板で形成し、この接続部12の外側中央部に把持部14として長さ500mm、直径10mmの鉄製丸棒を1本立設させた。更に、検査部13の内側において、1対の挟込部11a、11bのうち右側11aと接続部12とが接合する隅部にL字形状の段差部15を設けた。これにより1対の挟込部11a、11bをアノードAの耳部AL、ARの許容厚みの上限値に等しい第1の幅D1で互いに離間させると共に、検査部13において段差部15よりも奥側ではアノードAの耳部AL、ARの許容厚みの下限値に等しい第2の幅D2で離間するように1段狭くした。
【0029】
上記のアノード厚み検査用治具10の把持部14を把持して、
図7に示すように冷却槽内のチェーンコンベア7bに支持されているアノードAの耳部A
L、A
Rに対して、検査部13の手前側及び奥側で挟み込むことができるか否かを調べた。すなわち、
図8に示すように、検査対象のアノードA耳部A
L、A
Rに対して、第1の幅D
1で離間する検査部13の手前側で挟み込むことができ、且つ第2の幅D
2で離間する段差部15よりも奥側では挟み込むことができない場合(
図8(a))は合格と判断し、段差部15よりも奥側で挟み込むことができる場合(
図8(b))や、検査部13の手前側で挟み込むことができない場合(
図8(c))は不合格と判断した。そして、上記判断の結果、不合格と判断したアノードを鋳造したアノード鋳型2に対して、
図9に示すようにライナーLの厚みを調整することでアノード鋳型2において耳部A
L、A
Rが鋳造される部位の高さを調整した。
【0030】
上記の方法で精製炉72バッチ分の精製粗銅からアノードを製造した。そして、1バッチごとに、鋳造開始から1時間後、3時間後、及び5時間後の時点において各々36枚のアノードAに対して上記のアノード厚み検査用治具10を用いて、それらの耳部AL、ARの厚みを検査した。その結果、平均すると1バッチにつき0.5個のアノード鋳型2の高さを調整することができた。
【0031】
比較例として、上記したアノード厚み検査用治具10を使用せずに、冷却槽7から取り出したアノードをフォークリフトを使用して移動させた移動先のアノード置場において、作業員がノギスを用いて耳部AL、ARの厚み測定を行なった。これ以外は上記の実施例と同様にして精製炉22バッチ分の精製粗銅からアノードを製造した。この比較例では、実施例と同程度の作業時間をかけて対応したところ、11バッチに1回の頻度で18枚のアノードAの耳部AL、ARしか肉厚測定を行なうことができなかった。そのため、平均すると11バッチに2個のアノード鋳型2しか高さ調整ができなかった。
【0032】
上記のように、本発明の要件を満たすアノード厚み検査用治具10を用いることで、アノードの耳部の厚みを容易に検査することができ、結果的に実施例では比較例に比べて、平均して1バッチ当たり60倍以上の数のアノードを検査することができ、この検査結果を受けて、実施例ではアノード鋳型の高さをきめ細かく調整することができた。