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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156718
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】GLX由来分子の検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20241029BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 V
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024116110
(22)【出願日】2024-07-19
(62)【分割の表示】P 2021513271の分割
【原出願日】2019-09-12
(31)【優先権主張番号】18194086.7
(32)【優先日】2018-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ブルートゥース
2.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】521093509
【氏名又は名称】ジーエルエックス アナリティクス エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】デラ ヴァレ,ブライアン ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ヘンペル,キャスパ
(57)【要約】
【課題】炎症性疾患の診断及び/又は予知の手段の提供。
【解決手段】本発明は、免疫介在性炎症性疾患(IMID)に関連するバイオマーカー、特にGLX分子、さらにより具体的には、GLX関連グリコサミノグリカン(glycosaminglycan)(GAG)及びGLX関連プロテオグリカン(PG)に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において少なくとも1つの免疫介在性炎症性疾患(IMID)を診断及び/又は予知するエキソビボ方法であって、
a.前記対象からの第1の生体サンプルにおいてグリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベルのインビトロ測定を実施するステップと、
b.任意選択的に、前記第1の生体サンプルよりも後の時点で得られた前記対象からの第2の又はさらなる生体サンプルにおいて前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルのインビトロ測定を実施するステップと、
c.前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを1つ又は複数の対応する基準のレベルと比較するステップと、
d.前記測定値を用いて、前記対象の状態を評価するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記グリコサミノグリカン(GAG)がケラタン硫酸であり、及び/又は前記プロテオグリカン(PG)が、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44から選択される、請求項1に記載のエキソビボ方法。
【請求項3】
2つ以上のバイオマーカーのレベルが測定される、請求項1又は2に記載のエキソビボ方法。
【請求項4】
ステップd.で評価される前記対象の状態が、ケラタン硫酸、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及びCD44のリストから選択される前記2つ以上のバイオマーカーを用いて、所与のIMIDを発症するリスク及び/又は患っているリスクがあると決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項5】
前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルが、少なくとも0.05未満のP値で対応する基準値よりも有意に高いか又は低い、請求項1~4のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項6】
前記生体サンプルが、血液サンプル、例えば、全血、血漿、血清、又は脳脊髄液である、請求項1~5のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項7】
少なくとも1つの付加的なバイオマーカーが、コンドロイチン硫酸(CS)、ヘパラン硫酸(HS)、ヒアルロン酸(HA)、及びデルマタン硫酸(DS)、ケラタン硫酸(KS)からなる群の1つ又は複数から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項8】
少なくとも1つの付加的なバイオマーカーが、シンデカン、グリピカン、及びビグリカンからなる群の1つ又は複数から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項9】
前記シンデカンが、シンデカン-1、シンデカン-2、シンデカン-3及びシンデカン-4からなる群の1つ又は複数から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項10】
前記グリピカンが、グリピカン-1、グリピカン-2、グリピカン-3、グリピカン-4、グリピカン-5及びグリピカン-6からなる群の1つ又は複数から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項11】
前記プロテオグリカン(PG)が、ビグリカン、CD44、パールカン、ミメカン、デコリン、ヒアレクタン(アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン)、ベータグリカン、ルミンカン(lumincan)、ケラトカンからなる群の1つ又は複数から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項12】
前記バイオマーカーが、ビグリカン、CD44、ケラタン硫酸、GPC-1、GPC-4、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、パールカン、シンデカン1、シンデカン2、シンデカン3、及びシンデカン4からなる群から選択される2つ以上のバイオマーカーである、請求項1~11のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのIMIDが、自己免疫疾患、神経炎症性疾患、神経変性疾患、精神疾患、又は臓器系疾患である、請求項1~12のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのIMIDが、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症及びI型糖尿病である、請求項1~13のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項15】
検査される生体サンプルの量が0.01μL以上である、請求項1~14のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項16】
少なくとも2つのバイオマーカーが同時に又は連続して測定される、請求項1~15のいずれか一項に記載のエキソビボ方法。
【請求項17】
グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される少なくとも1つ又は複数のバイオマーカーを有することが分かっている個人の状態を治療する方法において使用するための物質であって、前記バイオマーカーが、対応する1つ又は複数の基準レベルよりも高いレベルにあり、前記物質及び状態がそれぞれ、
【表1】

から選択される、物質。
【請求項18】
前記GAGがケラタン硫酸であり、及び/又は前記PGが、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及びCD44のリストから選択される、請求項17に記載の物質。
【請求項19】
前記物質及び状態がそれぞれ、
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

から選択される、及び/又は
【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

から選択される、請求項17又は18に記載の状態を治療する方法において使用するための物質。
【請求項20】
グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される少なくとも1つ又は複数のバイオマーカーを有することが分かっている個人において、脳卒中、パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、I型糖尿病(T1DM)又はアルツハイマー病(AD)を治療する方法において使用するための、
【表12】

【表13】

からなる群から選択される物質。
【請求項21】
前記グリコサミノグリカン(GAG)がケラタン硫酸であり、及び/又は前記プロテオグリカン(PG)が、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44から選択される、請求項20に記載の物質。
【請求項22】
- グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーに対する結合剤と、
- 任意選択的に、IMIDの評価において前記結合剤を使用するための説明書と
を含むキット。
【請求項23】
前記グリコサミノグリカン(GAG)がケラタン硫酸であり、及び/又は前記プロテオグリカン(PG)が、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44から選択される、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
- ケラタン硫酸、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44に対する結合剤と、
- 脳卒中、パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、I型糖尿病(T1DM)又はアルツハイマー病(AD)の評価において前記結合剤を使用するための説明書と
を含むキット。
【請求項25】
患者においてIMIDを検出するためのマイクロ流体検出チップ(1)であって、前記チップが、グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択されるバイオマーカーに対する1つ又は複数の結合剤でコーティングされた1つ又は複数の分離チャネル(2)を含む、マイクロ流体検出チップ(1)。
【請求項26】
前記グリコサミノグリカン(GAG)がケラタン硫酸から選択され、及び/又は前記プロテオグリカン(PG)が、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44から選択される、請求項25に記載のマイクロ流体検出チップ。
【請求項27】
前記チップ(1)が、複数の分離チャネル(2)が各層内に配置された1つ又は複数の層(3)と、前記分離チャネル(2)と流体連通すると共に生体サンプルがその中に導入される少なくとも1つのサンプルインレットポート(4)とを含み、前記分離チャネル(2)の1つ又は複数が、断続的な分配ゾーンを有する複数の三次元(3D)分離ゾーン(5)を有し、前記チップが光学チップである、患者において少なくとも1つのIMIDを検出するための、請求項25又は26に記載のマイクロ流体検出チップ。
【請求項28】
請求項25又は27に記載のマイクロ流体チップをさらに含む、請求項22~24のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性疾患の診断及び/又は予知に関する。より具体的には、対象において炎症性疾患を発症するリスク及び/又は患っているリスクを予測するためのバイオマーカーの測定に関する。さらに、本発明は、個人の炎症性疾患の治療又は予防のための薬剤又は物質、治療成功の監視、及び治療の選択に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
免疫介在性炎症性疾患(IMID)は、炎症をもたらす一般的な炎症経路を特徴とし、正常な免疫応答の調節不全に起因し得るか、或いは誘発され得る状態又は疾患の群のいずれかである。全てのIMIDは末端臓器損傷を引き起こす可能性があり、罹患率及び/又は死亡率の増加に関連する。
【0003】
炎症は、自己免疫疾患(例えば、強直性脊椎炎、乾癬、全身性エリテマトーデス乾癬性関節炎、ベーチェット病、関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、I型糖尿病(T1DM)及びアレルギー)、並びに多数の心血管疾患、神経筋疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS))、神経変性疾患(例えば、パーキンソン病(PD))、多系統萎縮症(MSA)、アルツハイマー病(AD)、精神疾患(例えば、大うつ病、双極性疾患、統合失調症、不安障害)、神経発達疾患、及び感染症などの多数の医学的障害を仲介し、その主要な駆動体であるため、炎症は生物医学研究及び保健医療の増大しつつある重要な領域である。
【0004】
IMIDは免疫調節不全を特徴とし、この免疫調節不全の1つの根本的な徴候は、IL-12、IL-6又はTNFアルファなどの炎症性サイトカインの不適切な活性化であり、多くの場合、抗炎症性サイトカインの産生の低下と同時に起こり、これらの作用が病理学的帰結につながる。
【0005】
疾患関連性を示す証拠は存在しているが、研究が臨床像に従って疾患に特異的な方法で進められており、多くの場合、疾患の後期に集中していることにより、進展は限られている。したがって、免疫寛容の喪失を取り巻く初期機構、又は初期炎症扇動因子(instigator)は見落とされてきた。
【0006】
特許文献の国際公開第2009068685号は、一般的な原理、検出、診断、ハイスループットデバイス、及びこのようなデバイスの前記目的での使用を広く開示する。
【0007】
血漿バイオマーカーを評価するためのプロテオミクスの出現にもかかわらず、治療戦略は、疾患重症度、新しい疾患再発の初期兆候、及び治療への応答を予測する特徴的なバイオマーカーの欠如という課題を抱えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
西洋社会におけるIMIDの有病率は10%であると推定される。現在、一般的な疾患の特徴を特定するための直接的な方法はなく、したがって、潜在的に臓器の機能障害、不全及び慢性疾患をもたらし得るIMIDを発症するリスクを予測するのに使用可能なバイオマーカーの必要性はまだ満たされていないままである。さらに、特定のタイプの炎症性疾患をさらに決定し、この背景において、標的とされた効果的な治療コースを開始することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
本発明の第1の態様では、これらの目的の1つ又は複数は、対象において少なくとも1つの免疫介在性炎症性疾患(IMID)を診断及び/又は予知するエキソビボ方法によって解決され、前記方法は、
a.対象からの第1の生体サンプルにおいてグリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベルのインビトロ測定を実施するステップと、
b.任意選択的に、前記第1の生体サンプルよりも後の時点で得られた対象からの第2の又はさらなる生体サンプルにおいて1つ又は複数のバイオマーカーのレベルのインビトロ測定を実施するステップと、
c.前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを1つ又は複数の対応する基準のレベルと比較するステップと、
d.測定値を用いて、対象の状態を評価するステップと
を含む。
【0010】
さらなる実施形態では、グリコサミノグリカン(GAG)はケラタン硫酸であり、及び/又はプロテオグリカン(PG)は、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44から選択される。
【0011】
さらなる実施形態では、2つ以上のバイオマーカーのレベルが測定される。
【0012】
さらなる実施形態では、ステップd.で評価される対象の状態は、2つ以上のバイオマーカーの前記レベルが対応する1つ又は複数の基準レベルよりも高い及び/又は低ければ、所与のIMIDを発症するリスク及び/又は患っているリスクがあると決定され、そして前記1つ又は複数のレベルが1つ又は複数の対応する基準レベルに等しければ、IMIDを発症するか又は患っているリスクがないと決定される。
【0013】
さらに別の実施形態では、1つ又は複数のバイオマーカーのレベルは、少なくとも0.05未満のP値で対応する基準値よりも有意に高いか又は低い。
【0014】
グリコカリックスは、プロテオグリカン、糖タンパク質、及び糖脂質から構成される層であり、ほとんどの上皮動物細胞の細胞膜を被覆する。一般に、グリコカリックスの成分はシグナル伝達、細胞間認識、通信、細胞間接着(白血球及び血小板)に関与し、血管壁の恒常性を維持する。
【0015】
血管内で、内皮グリコカリックスは、内腔に面する頂端表面に位置する。内皮細胞の頂端表面に位置するグリコカリックスは、プロテオグリカン、糖タンパク質、及び糖脂質の負に帯電したネットワークから構成される。血管をカチオン性染料で染色すると、透過電子顕微鏡法により、血管の内腔へと広がる不規則形状の多様な層が示される。これは、様々な微小血管床(毛細血管を含む)及び大血管(動脈及び静脈)の全体にわたって存在する。
【0016】
グリコカリックス障壁は、血管及び臓器を疾患に対して強化する。血管内皮におけるグリコカリックスの別の主要な機能は、血管透過性障壁としての役割を果たしながら、血管壁を血流への直接曝露から遮蔽することである。その保護機能は、血管系全体にわたって普遍的である。心血管系全体にわたる別の保護機能は、毛細血管から間質腔への間質液のろ過に影響するその能力である。
【0017】
グリコカリックスは心血管系全体にわたって非常に突出しているため、この構造の破壊は有害作用を有し、疾患を引き起こし得る。グリコカリックスの初期機能障害は、内部流体の不均衡と、潜在的に浮腫、白血球浸潤とをもたらし、障壁の機能と、潜在的に内皮細胞自体とを破壊し、炎症の有害なカスケード作用をもたらす。
【0018】
グリコカリックスの脱落(shedding)は、腫瘍壊死因子-アルファなどの炎症性刺激によって誘発され得る。しかしながら、刺激が何であっても、グリコカリックスの脱落は、一連の調節不全、機能障害をもたらし、そして血管及びそれが貢献する臓器の損傷を許すことになる。
【0019】
本発明の一実施形態では、生体サンプルは、血液サンプル、例えば、全血、血漿、血清、又は脳脊髄液である。
【0020】
本発明のさらなる実施形態では、少なくとも1つの付加的なバイオマーカーは、コンドロイチン硫酸(CS)、ヘパラン硫酸(HS)、ヒアルロン酸(HA)及びデルマタン硫酸(DS)、ケラタン硫酸(KS)からなる群の1つ又は複数から選択され、及び/又はシンデカン、グリピカン、及びビグリカンからなる群の1つ又は複数から選択される。「1つの付加的なバイオマーカー」という用語は、別のバイオマーカーに加えた1つのバイオマーカー、又は2つ以上のバイオマーカーに加えた1つのバイオマーカーを意味する。
【0021】
さらに別の実施形態では、シンデカンは、シンデカン-1、シンデカン-2、シンデカン-3及びシンデカン-4からなる群の1つ又は複数から選択され、及び/又はグリピカンは、グリピカン-1、グリピカン-2、グリピカン-3、グリピカン-4、グリピカン-5及びグリピカン-6からなる群の1つ又は複数から選択され、及び又は、プロテオグリカン(PG)は、ビグリカン、CD44、パールカン、ミメカン、デコリン、ヒアレクタン(hyalectan)(アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン)、ベータグリカン、ルミンカン(lumincan)、ケラトカンからなる群の1つ又は複数から選択される。
【0022】
本発明の特定の実施形態では、バイオマーカーは、ビグリカン、CD44、ケラタン硫酸、GPC-1、GPC-4、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、パールカン、ヘパラン硫酸、シンデカン1、シンデカン2、シンデカン3、及びシンデカン4からなる群から選択される2つ以上のバイオマーカーである。
【0023】
本発明に従って診断又は予知される免疫介在性炎症性疾患は、自己免疫疾患、神経炎症性疾患、神経変性疾患、精神疾患、臓器系疾患であり得るか又はこれらに進展し得る、或いはより具体的には、以下の表1の疾患の1つであり得るか又は以下の表1の疾患の1つに進展し得ると考えられ、これらは、本発明の方法によって診断又は予知され得る。個々の疾患は、単一の生体サンプルにおいて、単独で又は同時に診断又は予知され得る。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
検査される生体サンプルの量は0.01μl以上、例えば、0.02μl、0.05μl、0.1μl、0.5μl、1μl、2μl、5μl又は10μlである。アッセイに応じて、より大きい容積が使用され得る。
【0029】
本発明に従うエキソビボ方法の一実施形態では、ステップa)は、2、3、4、5、10、20個又はそれ以上の選択されたバイオマーカーのレベルのインビトロ測定を実施することである。2つ以上のバイオマーカーのレベルの測定は、同時に又は連続して行うことができ、例えば、2つ以上のバイオマーカーの多重化である。
【0030】
本発明の別の態様では、目的は、グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される少なくとも1つ又は複数のバイオマーカーを有することが分かっている個人の状態を治療する方法において使用するための物質を提供することによって解決され、ここで、バイオマーカーは、対応する1つ又は複数の基準レベルよりも高いレベルにあり、物質及び状態は、以下から選択される:
【0031】
【表5】
【0032】
一実施形態では、GAGはケラタン硫酸であり、及び/又はPGは、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及びCD44のリストから選択される。
【0033】
さらに、目的は、グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される少なくとも1つ又は複数のバイオマーカーを有することが分かっている個人の状態を治療する方法において使用するための物質を提供することによって解決され、ここで、物質及び状態は、以下から選択される:
【0034】
【表6】
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】
【表9】
【0038】
及び/又は以下から選択される:
【0039】
【表10】
【0040】
【表11】
【0041】
【表12】
【0042】
【表13】
【0043】
【表14】
【0044】
特定の実施形態では、グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される少なくとも1つ又は複数のバイオマーカーを有することが分かっている個人において、脳卒中、パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、I型糖尿病(T1DM)又はアルツハイマー病(AD)を治療する方法において使用するための、以下から構成される群から選択される物質である:
【0045】
【表15】
【0046】
【表16】
【0047】
一実施形態では、GAGはケラタン硫酸であり、及び/又はPGは、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及びCD44のリストから選択される。
【0048】
本発明の別の態様では、上記の目的は、
- グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーに対する結合剤と、
- 任意選択的に、IMIDの評価において結合剤を使用するための説明書と
を含むキットを提供することによって解決される。
【0049】
一実施形態では、GAGはケラタン硫酸であり、及び/又はPGは、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44のリストから選択される。
【0050】
適切には、キットは、
- ケラタン硫酸、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44に対する結合剤と、
- 脳卒中、パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、I型糖尿病(T1DM)又はアルツハイマー病(AD)の評価において結合剤を使用するための説明書と
を含み得る。
【0051】
さらに別の態様では、患者においてIMID感染を検出するためのマイクロ流体検出チップであって、前記チップは、グリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択されるバイオマーカーに対する1つ又は複数の結合剤でコーティングされた1つ又は複数の分離チャネル(2)を含む。
【0052】
一実施形態では、GAGは、ケラタン硫酸、コンドロイチン硫酸及びヘパラン硫酸から選択され、及び/又はプロテオグリカン(PG)は、ビグリカン、グリピカン-1、グリピカン-4、シンデカン-3及び/又はCD44から選択される。
【0053】
別の実施形態では、患者において少なくとも1つのIMIDを検出するためのマイクロ流体検出チップは、複数の分離チャネル(2)が各層内に配置された1つ又は複数の層(3)と、分離チャネル(2)と流体連通すると共に生体サンプルがその中に導入される少なくとも1つのサンプルインレットポート(4)とを含み、分離チャネル(2)の1つ又は複数は、断続的な分配ゾーンを有する複数の三次元(3D)分離ゾーン(5)を有し、チップは光学チップである。
【0054】
一実施形態では、本発明に従うキットは、前記マイクロ流体チップをさらに含み、ここで、1つ又は複数の分離チャネルは、GAG及びPGの1つ又は複数のバイオマーカーに特異的な前記結合剤で被覆されている。
【0055】
図面の簡単な説明
本発明は、実施形態の非限定的な例により、そして図1~10を参照して、以下により詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】脳卒中に対するグリコカリックス関連血液バイオマーカーのドットブロッティング分析の結果を示す。検査したバイオマーカーは、a)シンデカン-3、b)コンドロイチン硫酸(CS)、c)CD44、d)ヘパラン硫酸(HS)、e)シンデカン-4、f)シンデカン-1、g)グリピカン-1及びh)ヒアルロン酸(HA)である。
図2A】健常者(HI)の血漿において、及び虚血性脳卒中(ISS)後に長期的に検出されるグリコカリックス(GLX)成分を示す。HI並びにISS後3日以内、7日目、及び90日目の患者からの血漿をGLXマーカーについてイムノアッセイした。
図2B】健常者(HI)の血漿において、及び虚血性脳卒中(ISS)後に長期的に検出されるグリコカリックス(GLX)成分を示す。HI並びにISS後3日以内、7日目、及び90日目の患者からの血漿をGLXマーカーについてイムノアッセイした。
図2C】健常者(HI)の血漿において、及び虚血性脳卒中(ISS)後に長期的に検出されるグリコカリックス(GLX)成分を示す。HI並びにISS後3日以内、7日目、及び90日目の患者からの血漿をGLXマーカーについてイムノアッセイした。
図3】健常者の血漿において、及びISS後に長期的に検出されるGLX成分の相関ヒートマッププロファイルを示す。
図4A】パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っている患者、並びに年齢適合健常対照群(HC)の血漿において検出されるGLX成分を示す。
図4B】パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っている患者、並びに年齢適合健常対照群(HC)の血漿において検出されるGLX成分を示す。
図5】パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っている患者、並びに年齢適合健常対照群(HC)の血漿において検出されるGLX成分の相関ヒートマッププロファイルを示す。
図6A】小児(6~9歳)のI型糖尿病(T1DM)を患っている患者の血漿、及びT1DMのない兄弟姉妹の健常対照群の血漿において検出されるGLX成分を示す。
図6B】小児(6~9歳)のI型糖尿病(T1DM)を患っている患者の血漿、及びT1DMのない兄弟姉妹の健常対照群の血漿において検出されるGLX成分を示す。
図7】小児(6~9歳)のI型糖尿病(T1DM)を患っている患者の血漿、及びT1DMのない兄弟姉妹の健常対照群の血漿において検出されるGLX成分の相関ヒートマッププロファイルを示す。
図8A】アルツハイマー病(AD)を患っている患者及び年齢適合健常対照群(HC)の血漿において検出されるGLX成分を示す。
図8B】アルツハイマー病(AD)を患っている患者及び年齢適合健常対照群(HC)の血漿において検出されるGLX成分を示す。
図9】アルツハイマー病(AD)を患っている患者及び年齢適合健常対照群(HC)の血漿において検出されるGLX成分の相関ヒートマッププロファイルと、6か月の治療(プラセボ対治療)後のGLX成分の相関ヒートマッププロファイルとを示す。
図10】プラセボ投与に対して、6か月の治療後のアルツハイマー病(AD)を患っている患者の血漿において検出されるCD44を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
詳細な説明
以下において、本発明の実施形態がさらに詳細に記載される。他に特に記述されない限り、特徴の特定の変化形はそれぞれ本発明の他の実施形態に適用され得る。
【0058】
本発明のバイオマーカーは、内皮グリコカリックス(GLX)と呼ばれる血管の厚いマトリックスライニングの可溶性成分である。この層は血管の恒常性を維持し、複数の破壊的刺激が可溶性及び検出可能な成分の脱落、したがってこの層の喪失をもたらす。血液中のGLXの低下は、一部は、血管若しくは臓器の炎症駆動による変性及び/又は加齢及び/又は遺伝子抑制に起因し得る。これは血漿値の変化につながり、我々は、ほんの微量の血液を用いてこれらの変化を検出するための非常に高感度のアッセイを開発した。これらのバイオマーカーは、血管系及び脳の疾患、例えば、アルツハイマー病、全般的な認知症、パーキンソン病、ALS、うつ病、統合失調症(Schziophrenia)、外傷性脳損傷、ループス、関節炎、炎症性腸疾患、甲状腺炎、ギラン・バレー症候群、及び血管炎のリスクを予測又はこれらの疾患を診断し得る。自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、神経疾患、変性疾患、精神疾患、及び心血管疾患などであるがこれらに限定されない、特定の種類の多数の稀な疾患を含めて、このような発明から利益を得ることができる疾患は広範に存在する。特定の疾患は表2に記載される。
【0059】
GLXは、種々のプロテオグリカン、糖脂質及び/又はグリコサミノグリカンの組合せを含む。生体液又はサンプル中で検出されるこれらの分子の組合せは疾患のタイプによって異なり、例えば、アルツハイマー病対パーキンソン病では異なる。このようにして、異なる臓器に存在する異なる疾患は、疾患の経過を予測し、発作を予測し、さらにMRIなどの他の技術を補って疾患を診断することができるであろう。
【0060】
GLX切断酵素は、罹患臓器への免疫浸潤の間に、或いは疾患を引き起こすことになる自己活性化免疫細胞によって活性化されると考えられる。実際に、GLX除去酵素は、いくつかの疾患の血液中で増加される。
【0061】
さらに、GLX脱落に対する複合バイオマーカーは、疾患のモニタリングへの個別のアプローチを改善し、精密医療に基づいた治療法を設計し得ると考えられる。したがって、血液中のGLX脱落成分の全体構造の同定、及びこれらのマーカーを複合バイオマーカー、GLXプロファイル又はフィンガープリント若しくはシグネチャーへ組み込むことにより、疾患、重症度及び治療反応の検出が可能になる。
【0062】
免疫細胞が内皮細胞に到達する作用のメカニズムは、酵素を分泌してGLX構造を除去し、所与の臓器内へ遊出させ、損傷を引き起こすと考えられる。さらに、GLX脱落は、遺伝子抑制及び臓器変性のために、血液中で下方制御され得る。
【0063】
炎症に基づく疾患は診断の最大の標的であり、本質的に抗炎症性又は疾患修飾性である治療は、治療効力を検査し、治療応答者を非応答者から分離するための主要な使用であり得る。
【0064】
二次的に、非常に多数の疾患は臓器への損傷をもたらし、その後に炎症が起こる。二次的炎症、及びさらに慢性炎症が関与する疾患は非常に多数あるが、これは、例えば、脳卒中及びてんかん及びパーキンソン病に当てはまる。
【0065】
したがって、本発明は、この類の疾患についても、発生する損傷、損傷の拡大及び疾患の回復(バイオマーカーの低減が伴われるように)を追跡するために有用であろう。さらに、炎症は疾患重症度の二次的なマーカーであり、治療応答者及び非応答者の分離に対しても価値を広げるので、これは、根本的な疾患に対する治療効力と連結され得る。
【0066】
さらに、バイオマーカーは、臓器系を区別するための方法において使用され得ると考えられる。これは、体内のどこから炎症が起こっているのかを決定するために価値があるであろう。例えば、ループス患者からの炎症は、腎臓又は皮膚からのものであり得る。
【0067】
バイオマーカーの検出のためのアッセイは抗体に基づき、抗体はバイオマーカーの特異的なエピトープに結合する。例えば、HRP酵素活性又は蛍光若しくは近赤外発光に基づく化学発光検出システムにより、標識二次抗体を使用して、抗体-抗原複合体を可視化する。代替案として、ランタニドの連結が使用され得る。
【0068】
GLX-バイオマーカーの同定のための方法は、免疫ストリップであり得る。免疫ストリップは免疫センサーであり、ここで、認識剤は分析物に結合する抗体であり、検出は反射又は蛍光分光光度法による。
【0069】
本発明のバイオマーカーを検出するのに適した検出システムには、特異的抗体、ランタニド、レクチン、GAG結合分子(表2)、アルシアンブルー、トルイジンブルー又はジメチルメチレンブルーに基づくイムノアッセイが含まれるが、これらに限定されない。
【0070】
【表17】
【0071】
GLX-バイオマーカーの同定のための他の方法は、MALDI-MS、LC-MS、HPLC-MS又は液体クロマトグラフィ-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析などの質量分析(MS)であり得る。
【0072】
1つのサンプルにおいて1つ又は複数のバイオマーカーを検出する(いわゆる多重化)ためのプラットフォームは、チップベースのデバイスにおけるものであり得る。
【0073】
キットは、特定の疾患に対するバイオマーカーとして価値があると見なされる全てのGLXマーカーのパネルを含み得る。これらは、個々のGLXマーカーのそれぞれに特異的に結合し得る、表面(例えば、プレート又はチューブ)に化学的に結合された検出分子(例えば、抗体)である。このキットは1つの生体サンプルを取り、1回で全てのGLXマーカーについて検査し、基準値と比較する。これは多重アッセイであり、基準と比較した各マーカーの表示値を提供し、所与の疾患が活性であるか、或いは治療反応及び/又は自己免疫疾患の場合には、寛解期にあるかを決定し得る。
【0074】
これらの要素を結合するチップベースの技術において、デバイスは、プリントアウト、ブルートゥース、WIFi/インターネット、及び/又はリモートセンサリング(remote sensoring)技術によって、発生したシグナルを送信し得る。
【0075】
チップシステムは、マイクロ流体チップであり得る。
【0076】
定義
本発明をさらに詳細に議論する前に、以下の用語及び慣習が最初に定義される。
【0077】
免疫介在性炎症性疾患
免疫介在性炎症性疾患(IMID)は、炎症をもたらす一般的な炎症経路を特徴とし、正常な免疫応答の調節不全に起因し得るか、或いは誘発され得る状態又は疾患の群のいずれかである。全てのIMIDは末端臓器損傷を引き起こす可能性があり、罹患率及び/又は死亡率の増加に関連する。IMIDは、表1に示されるリストからの任意の疾患であり得る。
【0078】
GLX分子
「GLX」又は「グリコカリックス」は、内腔内皮を含む体内の細胞の大部分の細胞表面の、炭水化物が豊富な外側部分である。この層は、全身及び血液脳関門(BBB)において、血液と血管壁との間の最初の相互作用である。本明細書に記載されるように、GLXの脱落は、自己免疫及び神経変性、疾患重症度、並びに治療効力の早期の予測因子であり得る。GLX分子の例は、グリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)である。これらは脳に由来し得る。したがって、「GLX関連」という用語は、GLX構造に関連している(又は関連していた)分子であると理解されるべきである。言い換えると、「GLX関連」は、GLX構造に由来する分子であると理解され得る。
【0079】
グリコサミノグリカン
グリコサミノグリカン(GAG)又は「ムコ多糖」は、二糖単位の繰り返しからなる長鎖非分枝多糖類である。本発明の一部を形成するグリコサミノグリカン(GAG)の例は、以下のものである:
- ケラタン硫酸:ケラタン硫酸(KS)は、β-1,3-結合ポリ-N-アセチルラクトサミンであり、ガラトース(galatose)及びN-アセチルグルコサミンの6位に硫酸残基を有する。
- コンドロイチン硫酸:コンドロイチン硫酸(CS)は、交互の糖(N20アセチルガラクトサミン及びグルクロン酸)の鎖から構成される硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)である。通常、プロテオグリカンの一部としてタンパク質に結合して見出される。
- ヒアルロン酸:ヒアルロナンとも呼ばれるヒアルロン酸(HA)は、結合組織、上皮組織、及び神経組織の全体わたって広く分布するアニオン性の非硫酸化GAGである。ゴルジ装置ではなく形質膜において非硫酸化形態であり、非常に大きいことがあり、その分子量は100万に達することが多いという点で、グリコサミノグリカンの中で独特である。D-グルコロン酸(glucoronic acid)及びN-アセチルグルコサミンの二量体によって構成される。
- ヘパラン硫酸:ヘパラン硫酸(HS)は、全ての動物組織において見出される線状多糖類である。細胞表面又は細胞外マトリックスタンパク質に極めて近接して2つ又は3つのHS鎖が結合されたプロテオグリカン(HSPG)として存在する。硫酸化されており、グルクロン酸及びN-アセチルグルコサミンの二量体によって構成される。
- デルマタン硫酸(DS):DSは、β結合(それぞれ、1.4又は1.3)によりGalNAc及びIdoAを含有する二糖によって形成される線状多糖類である。
【0080】
プロテオグリカン
プロテオグリカン(PG)は、高度にグリコシル化されたタンパク質である。基本的なプロテオグリカン単位は、1つ又は複数の共有結合したグリコサミノグリカン(GAG)鎖を有する「コアタンパク質」からなる。本発明の一部を形成するプロテオグリカンの例は、以下のものである:
- シンデカン:シンデカンは、特にGタンパク質結合受容体に対する共受容体として働くと考えられる、単一膜貫通ドメインプロテオグリカンである。これらのコアタンパク質は、ヘパラン硫酸(HS)及びコンドロイチン硫酸(CS)鎖を保有する。シンデカンタンパク質ファミリーは、シンデカン1~4の4つのメンバーを有する。
- グリピカン:グリピカン(GPC又はGP)は、ヘパラン硫酸プロテオグリカンの2つの主要なファミリーの1つを構成し、他の主要なファミリーはシンデカンである。哺乳類において6つのグリピカンが同定されており、GPC1~GPC6又はGP1~GP6と称される。
- ビグリカン:ビグリカンは小分子ロイシンに富むリピートプロテオグリカン(SLRP)であり、様々な細胞外マトリックス組織において見出され、多くの場合、GAG鎖が結合されている。
- CD44-CD44は、細胞間相互作用、細胞接着及び遊走に関与する細胞表面PGであり、ヒアルロン酸及び他のリガンドの受容体として働く。
- パールカン-主にその広範な分布のために、種々の生物学的プロセスを制御するモジュラーHSPGである。
- ヒアレクタン(アグリカン、バーシカン、ニューロカン、ブレビカン)-ヒアルロナン結合ドメイン、GAG側鎖、及びレクチン結合ドメインを含むトリドメイン構造を有するPGである。
- ミメカン-オステオグリシンとしても知られており、KS GAG及び小分子ロイシンリピートに関連するPGである。
- ケラトカン-3本鎖のKS、マンノース含有オリゴ糖によってアスパラギン残基に共有結合されたN-アセチル-ラクトサミンの高度に硫酸化された線状ポリマーを含有するKS PGである。
- ルミンカン(lumincan)-Fasリガンドと相互作用し、シェダーゼ活性を制御するKS PGである。
- デコリン-様々な種類のプロセスにおける機能活性を有する小分子ロイシンに富むPGである。
- ベータグリカン-高トランスフォーミング成長因子β結合を有する膜結合PGである。
【0081】
基準レベル
本発明との関連において、「基準レベル」という用語は、他の値又は特徴と比較することができる、量に関連する標準に関する。本発明の一実施形態では、健常者からの生体サンプル又は血液サンプルにおいて、本発明に従うバイオマーカーの1つ又は複数の存在量(例えば、基準レベルに関して上昇又は低下したレベル)を調べることによって、基準レベルを決定することが可能である。多変量解析などの異なる統計的手段を適用することにより、1つ又は複数の基準レベルを計算することができる。これらの結果に基づいて、検出レベルとリスクのある患者との関係を示すカットオフを得ることができる。それにより、カットオフを使用して、例えばPDのリスクの増加に対応する、1つ又は複数のバイオマーカーの量を決定することができる。
【0082】
基準は単一のサンプルのバイオマーカーレベルからなるか、又は2つ以上のサンプルからのバイオマーカーレベルの平均値を含むことができる。或いは、2つ以上の単一のサンプルはそれぞれ2つ以上の基準と考えることができる。
【0083】
さらに、いくつかのバイオマーカーのバイオマーカーレベルをそれらの対応する基準レベルと比較して、分析サンプルの「プロファイル」を得ることも可能である。このようなプロファイルは、2つ以上のディメンション、例えば、いくつかのバイオマーカーのレベルの上昇及び低下、及び/又はマーカー間の関係性の増加又は低下を含むことができる。
【0084】
リスクアセスメント
本発明者らは、対象が脳卒中、AD、ALS、PD、T1DM及び/又はMSAを発症するリスクを予測するための新規の方法を開発するのに成功した。実施例において提示される結果は、患者が脳卒中、AD、ALS、PD、T1DM及び/又はMSAを発症するリスクが増大しているかを決定するために、記載されるバイオマーカー(単独又は組み合わせで)が効率的なバイオマーカーであると思われることを示す。
【0085】
患者が脳卒中、AD、ALS、PD、T1DM及び/又はMSAを発症するリスク、或いはループス発作などの急性炎症性発作の事象を起こすリスクが増大しているかを決定するために、カットオフを設定しなければならない。このカットオフは、研究所により、医師により、又は各患者に対して個別的に応じて設定され得る。カットオフレベルは、多変量統計検定(例えば、部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)、ランダムフォレスト、サポートベクターマシンなど)、パーセンタイル、平均+/-標準偏差、中央値、倍率変化を含むいくつかの方法を用いて設定され得る。多変量判別分析及び他のリスクアセスメントは、無料若しくは市販のコンピュータ統計パッケージ(SAS、SPSS、Matlab、Rなど)、又は当業者に知られている他の統計ソフトウェアパッケージ若しくはスクリーニングソフトウェアにおいて実施することができる。
【0086】
当業者には明らかであるように、上記の実施形態のいずれかにおいて、リスクカットオフレベルの変化は、各対象の判別分析の結果を変化させ得る。統計学は、各レベルの有意性の評価を可能にする。データセットに適用される慣用的な統計的検定には、t-検定、f-検定、又はさらにより進歩したデータの比較検定若しくは方法が含まれる。このような検定又は方法の使用により、2つ以上のサンプルが有意に異なるかどうかの決定が可能になる。
【0087】
有意性は、当業者に知られている標準的な統計的方法論によって決定され得る。選択された基準レベルは、検定が適用される哺乳類/対象に応じて変化され得る。好ましくは、本発明に従う対象はヒト対象、例えば、脳卒中を患っているか又は発症するリスクがあると考えられる対象である。
【0088】
選択される基準レベルは、所望により、当該技術分野において知られているように、異なる特異性又は感度を与えるように変化され得る。感度及び特異性は、バイオマーカー又は診断検査がどの程度良好で信頼できるかを説明及び定量化するために広く使用される統計値である。感度は、疾患の検出においてバイオマーカー又は診断検査がどの程度良好であるかを評価し、特異性は、個人(すなわち対照群、疾患のない患者)が病気でないと正確に特定され得る可能性がどの程度かを評価する。
【0089】
感度及び特異性の記載と共にいくつかの用語が使用される:真陽性(TP)、真陰性(TN)、偽陰性(FN)及び偽陽性。病気の患者に疾患が存在することが証明されており、診断検査が疾患の存在を確認すれば、診断検査の結果は、TPと考えられる。個人(すなわち対照群、疾患のない患者)において疾患が存在せず、診断検査が疾患の不在を確認すれば、検査結果はTNである。このような疾患のない個人において診断検査が疾患の存在を示せば、検査結果はFPである。最後に、診断検査が、疾患のある患者において疾患の不在を示せば、検査結果はFNである。
【0090】
感度
感度=TP/(TP+FN)=真陽性アセスメントの数/疾患を有する患者からの全てのサンプルの数。本明細書で使用される場合、感度は、診断検査と同様に(すなわち、正常よりも低いPaO2を有すると特定された、正常よりも低いPaO2を有する人の割合)、陽性であると正確に特定された実際の陽性の割合の尺度を指す。
【0091】
特異性
特異性=TN/(TN+FP)=真陰性アセスメントの数/対照群からの全てのサンプルの数。本明細書で使用される場合、特異性は、正確に特定される陰性の割合の尺度を指す。感度及び特異性の両方の間の関係は、ROC曲線によって評価することができる。このグラフ表示は、診断検査又はバイオマーカー候補のための最良の閾値又はカットオフの決定を通して、最適モデルを判定するのに役立つ。
【0092】
当業者により一般的に理解され得るように、スクリーニングのための方法は意思決定のプロセスであり、したがって、選択される特異性及び感度は、所与のアッセイにより最適な結果であると考えられることに依存する。
【0093】
大抵の場合、より低い特異性を犠牲にしてより高い感度を選択し、疾患リスクを有する患者をできるだけ多く特定することが有利であり得ることは、当業者には明らかであろう。
【0094】
好ましい実施形態では、本発明は、高い特異性、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば100%の特異性を有する方法に関する。別の好ましい実施形態では、本発明は、高い感度、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%、例えば100%の感度を有する方法に関する。
【実施例0095】
実施例
実施例1:ヒト脳卒中患者からの血液(図1
GLX構造のバイオマーカーが血液サンプル中で検出可能であること、及びこれらのバイオマーカーが疾患及び炎症に応答して増加することを示すために、急性脳卒中事象の1日目(72時間以内)、10日後、及び90日後に患者から得られた血液サンプルを検査し、健常者からの血液サンプル中のGLXマーカーのレベルと比較した(基準サンプルは、図1a)~h)のx軸上にGLXマーカーの略語で示される)。
【0096】
材料及び方法
血漿ドットブロッティング
抗体に基づくドットブロットを用いて、長期的にGLXマーカーを評価した。2μlの血漿をカチオン性ニトロセルロース膜(Hybond N+、Amersham, GE Healthcare, Brondby, Denmark)にデュプリケートでドットし、乾燥させた。ブロッキング緩衝液:トリス緩衝生理食塩水+0.05%のTween20(TBS-T;Sigma-Aldrich)中5%のスキムミルク粉末(Sigma-Aldrich)の中で膜を室温で60分間インキュベートした。その後、膜をそのそれぞれの希釈度の一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。その後、TBS-T中で膜を洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合され、ブロッキング緩衝液中にそれぞれの希釈度で希釈され、一次抗体のソースに対して産生された二次抗体と共に60分間インキュベートした。膜をTBS-Tで十分に洗浄し、最後にTBS中で洗浄した。Supersignal Westフェムト発光基質及び Chemidoc XRS CCDカメラ(Bio-Rad Laboratories)を用いて膜を可視化した。ImageJソフトウェアでバックグラウンドに対して正規化した後に、デンシトメトリーにより化学発光を定量化した。
【0097】
一次抗体:ヘパラン硫酸(HS)(1:1500、Millipore)、シンデカン-1(R&D Systems)、シンデカン-4(Santa Cruz))。コンドロイチン硫酸(CS)(1:1000、Sigma-Aldrich)、シンデカン-3(1:1000、R&D Systems)。HA(Bio-Rad)、グリピカン-1(R&D Systems)、CD44(1:200、DAKO/Aglient)。
【0098】
二次抗体:HRP結合:抗ウサギ(1:2000)、抗ラット(1:4000)、抗マウス(1:3000)(DAKO/Agilent)。
【0099】
可視化及び光学濃度分析は、二次抗体-HRP複合体及び化学発光を用いて上記のように実施される(フェムトグラム分解能)。以下のバイオマーカーについて検査を実施した:
プロテオグリカン:
シンデカン-1(図1f))
シンデカン-3(図1a))
シンデカン-4(図1e))
グリピカン-1(図1g))
CD44(図1c))
グリコサミノグリカン:
コンドロイチン硫酸(CS)(図1b))
ヘパラン硫酸(HS)(図1d))
ヒアルロン酸(HA)(図1h))
【0100】
データ分析:
統計解析を実施する(一元配置ANOVA)前に、正規性(Shapiro-Wilk)及び等分散についてデータセットを検定した。非正規であるデータを対数変換し、正規性及び等分散について再検定した。次に、変換後の正規性に基づいてパラメトリック又はノンパラメトリック統計によりデータセットを分析した。0.05未満のP値を統計的に有意に異なるとして報告した。データは、正規データについては平均±S.E.M、そして非正規データについては中央値±四分位範囲で表される。
【0101】
結果
図1a)~h)に見られるように、全てのGLXマーカーは、全ての患者及び健常対照群サンプルにおいてバックグラウンドを上回って検出可能である。全てのGLXマーカーは、患者と健常対照群との間で、そして各患者において時間スケールにわたって独特のシグネチャーを表示する。図1に見られるように、シンデカン-3、コンドロイチン硫酸(CS)、CD44及びヘパラン硫酸(HS)は、7日の時間間隔で健常対照群サンプルを脳卒中患者サンプルから分離するのに特に有効である。
【0102】
結論
この一連の実験において、様々な種類にわたるGLX成分は、脳卒中患者間で、そして各患者において時間と共に上昇され且つ可変であり、したがって、疾患、疾患重症度、及び治療反応の潜在的なバイオマーカーであると考えるべきであることが示される。実質的に関連性があることが示されたGLXの種類は、グリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)である。
【0103】
まとめると、本明細書において、生体サンプルにおけるGAG:コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、及びヘパラン硫酸と、PG:シンデカン、及びグリピカンとからなるGLX成分の同定の証拠が提供される。これらはGLX構造の大部分を表し、全てが脳卒中疾患のバイオマーカーであることを示していると特定される。
【0104】
実施例2:ヒト脳卒中患者からの血液(図2及び図3
GLX構造のバイオマーカーが血液サンプル中で検出可能であること、及びこれらのバイオマーカーが疾患及び炎症に応答して増加又は低下することを示すために、急性脳卒中事象の3日以内、7日後、及び90日後に患者から得られた血液サンプルを検査し、年齢適合健常者(HI)からの血液サンプル中のGLXマーカーのレベルと比較した。
【0105】
図2:血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。健常者(HI)、並びに脳卒中事象の3日以内(72時間以内に採取したサンプル)、7日後、及び90日後の虚血性脳卒中患者において、GLXマーカーをヒト血漿中で測定し、箱ひげ図(10~90パーセンタイル、中央線及び平均に対する「+」)として示した。データは、p<0.05、0.01、又は<0.001の場合に、それぞれ*****を用いて有意であると表示した。血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。
【0106】
図3:血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。a)健常対照群、並びに虚血性脳卒中後のb)1日目(脳卒中後72時間以内)、c)7日目、及びd)90日目におけるグリコカリックス(GLX)マーカーの相関ヒートマップ。GLXマーカーをヒト血漿中で測定し、ピアソン相関を-1~1のスケールでマッピングした。0未満の値を赤色でプロットし、ゼロを超える値を青色でプロットした。血液中のGLXマーカーは炎症性疾患の結果として変化し、また、脳卒中の損傷が回復したらベースラインへ戻り(90日目)、可溶性プロファイルを表す。
【0107】
材料及び方法
患者
急性脳卒中ユニットにおいて3日以内(72時間以内 N=13)、7日目(N=9)、及び90日目(N=13)のISS患者から、そして健常者(HI、N=8)から、インフォームドコンセントの後に血漿を-20℃で貯蔵した。国際的脳卒中ガイドラインに従って患者(patent)を治療し、抗血栓性スタチンと、適切な場合には降圧治療とを受けさせた。除外基準:一過性脳虚血、炎症性疾患及び癌;細胞増殖抑制/免疫抑制療法;並びに3か月以内の大脳、心臓、眼又は末梢の梗塞。NIH脳卒中スケール(National Institutes of Health Stroke Scale)(NIHSS)を用いて神経学的障害を推定した。
【0108】
血漿GLX分析
2マイクロリットルの血漿をナイロン膜(Hybond N, Amersham, RPN203B)にデュプリケートでドットした。膜をブロッキング緩衝液(5%スキムミルク+TBS-0.05%のTween20)中でブロックし、ブロッキング緩衝液+一次抗体中、4℃で一晩インキュベートし、洗浄し(TBS-0.05%のTween20)、ブロッキング緩衝液+二次抗体と共にインキュベートし、洗浄し、SuperSignal Femto Reagent(Thermo Scientific)と共にインキュベートし、CCDカメラ(LAS 4000, GE)により画像化し、ImageJを用いて生の積分密度(raw integrated density)について分析し、10-5の倍率で変換した。一次抗体標的:グリコサミノグリカン(GAG):コンドロイチン硫酸(CS、Sigma)、ヘパリン硫酸(heparin sulfate)(HS、Millipore)、ケラチン硫酸(keratin sulfate)(KS、US-Biologicals)、及びヒアルロン酸(HA、Bio-Rad);並びにプロテオグリカン(PG):CD44(DAKO)、シンデカン(Syn)-1(R&D)、-2(R&D)、-3(R&D)、-4(Santa Cruz)、グリピカン-1(R&D)、及びビグリカン(Abcam)。二次抗体標的:抗マウス、抗ヤギ、抗ラット、抗ウサギ-HRP(DAKO)。
【0109】
データ分析
データセットを正規性について検定した(Shapiro-Wilk)。非正規データセットを対数変換し、再度検定した。非正規のままであるデータセットをノンパラメトリック統計により検定した。パラメトリックデータを一元配置ANOVAで検定し、ノンパラメトリックデータをKruskal-Wallis検定で検定した。7日目は、最も動的なサンプリング時間であるようであった。したがって、我々は、3日以内のNISSが7日目のレベルを予測するかを検定した。最良適合のロバストラインにアプローチするために、ROUT(ロバスト回帰及び外れ値除去)補正(Q=1%)による最小二乗回帰モデリングを用いてデータセットを検定した。残差を正規性について検定した(QQプロット)。相関を正規性について検定し、ピアソン係数を報告した。有意差は、p<0.05の場合に報告される(GraphPad Prism 8)。
【0110】
GLX測定から相関ヒートマップを作成し、マーカー間のピアソン相関を-1~1のスケールでマッピングした。0未満の値を赤色でプロットし、ゼロを超える値を青色でプロットした。
A)グリコサミノグリカン:
ケラタン硫酸(KS)
コンドロイチン硫酸(CS)
ヘパラン硫酸(HS)
ヒアルロン酸(HA)
B)プロテオグリカン:
CD44
シンデカン-1
シンデカン-2
シンデカン-3
シンデカン-4
グリピカン-1
ビグリカン
【0111】
結果
図2A)及びB)に見られるように、全てのGLXマーカーは、全ての患者及び健常対照群サンプルにおいてバックグラウンドを上回って検出可能である。全てのGLXマーカーは、患者と健常対照群との間で、そして各患者において時間スケールにわたって独特のシグネチャーを表示する。11のGLXマーカーのうちの5つ(KS、CS、HS、CD44及びシンデカン-3)はISS後に有意に増加し、1つは減少した(シンデカン-2)。一元配置ANOVAにより正規データの差を検定し、Kruskal-Wallisにより対数変換後に非正規であるデータを検定した。*****、及び****は、それぞれ<0.05、0.01、0.001及び0.0001のP値を表す。データの表示:中央値(ライン)/箱(25th~75thパーセンタイル)及びひげ部分(10th~90thパーセンタイル);ドットとしての残りのデータポイント;及びパラメトリックな生データについての平均(+)。
【0112】
ケラタン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、CD44、シンデカン-3及びシンデカン-2は、7日の時間間隔で健常対照群サンプルを脳卒中患者サンプルから分離するのに特に有効である。
【0113】
ケラタン硫酸及びシンデカン-2は、90日の時間間隔で健常対照群サンプルを脳卒中患者サンプルから分離するのに特に有効である。
【0114】
図2C)に見られるように、7日目の可溶性CD44は、軽微な脳卒中後の初期神経学的障害と有意に相関する。虚血性脳卒中事象の72時間以内(3日以内)にNIHSSにより神経学的障害を推定した。7日目の血漿CD44はNIHSSと有意に相関した(正規データ、ピアソン(Person)のr:0.72、P<0.05;ロバスト線形回帰フィット:0.52)。
【0115】
図3に見られるように、健常対照群、並びに脳卒中の1日、7日及び90日後の脳卒中患者のサンプルについて、バイオマーカーの各セット間の関係性が分析されている。脳卒中後3日以内のヒートマップ相関プロファイルは、ビグリカン、Syn1又はSyn3のいずれかと組み合わせたCD44のレベル間の正の関係性の増加を明白に示す。また、脳卒中の1日後のヒートマップは、ビグリカン、Syn1又はSyn3のいずれかと組み合わせたKSのレベルの上昇、Syn3と組み合わせたGPC-1のレベルの上昇、並びにビグリカン、CD44、KS、HA及びSyn1と組み合わせたSyn-3のレベルの上昇を明白に示す。脳卒中の1日後にバイオマーカーの組合せのレベルが上昇又は低下する他の組合せは、図3において見出すことができる。
【0116】
脳卒中の7日後のヒートマップ相関プロファイルは、ビグリカン、Syn1、Syn3又はSyn4のいずれかと組み合わせたCD44のレベルの上昇を明白に示す。また、脳卒中の7日後のヒートマップは、ビグリカン、Syn1、Syn3又はSyn4のいずれかと組み合わせたKSのレベル間の正の関係性の増加、Syn1又はSyn2のいずれかと組み合わせたGPC-1のレベルの上昇、並びにCD44、KS Syn-1及びSyn-4と組み合わせたSyn-3のレベルの上昇を明白に示す。脳卒中の7日後にバイオマーカーの組合せのレベルが上昇又は低下する、上に記載されていない他の組合せは図3に開示される。
【0117】
脳卒中の90日後のヒートマップは相関するバイオマーカーの数の減少のみを示し、バイオマーカープロファイルは、健常対照群のヒートマップのプロファイルと類似するところまで戻るが、まだ同一ではない。
【0118】
結論
この一連の実験において、様々な種類にわたるGLX成分は、脳卒中患者間で、そして各患者において時間と共に上昇され且つ可変であり、したがって、疾患、疾患重症度、及び治療反応の潜在的なバイオマーカーであると考えるべきであることが示される。実質的に関連性があることが示されたGLX成分は、ケラタン硫酸、CD44、シンデカン-3及びシンデカン-2である。さらに、脳卒中後及び互いに経時的な、そして健常対照群からの、血液GLXプロファイルを示すGLXプロファイル(ヒートマップ)は、疾患と疾患からの寛解とを区別することができる。
【0119】
我々はさらに、脳卒中後の1日目及び/又は7日目に2つのバイオマーカーの1つ又は複数のセットが上昇されており、図3に示されるようにバイオマーカーのいくつかの間に特定の関係性があることが示されると結論する。
【0120】
まとめると、本明細書において、脳卒中患者からの生体サンプルにおけるGLX成分のケラタン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、CD44、シンデカン-3及びシンデカン-2の同定の証拠が提供される。これらはGLX構造の大部分を表し、全てが脳卒中疾患のバイオマーカーであることを示していると特定される。
【0121】
実施例3:神経変性障害患者からの血液(図4及び図5
GLX構造のバイオマーカーが血液サンプル中で検出可能であること、及びこれらのバイオマーカーの濃度が疾患及び炎症に応答して変化することを示すために、パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する患者から得られた血液サンプルを検査し、年齢適合健常対照群(HC)からの血液サンプル中のGLXマーカーのレベルと比較した(y軸:任意OD)。
【0122】
図4:血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。年齢/性別適合健常対照群(HC)、並びにパーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)において、GLXマーカーをヒト血漿中で測定し、箱ひげ図(10~90パーセンタイル、中央線及び平均に対する「+」)として示した。データは、p<0.05、0.01、又は<0.001の場合に、それぞれ*****を用いて有意であると表示した。血液中のGLXマーカーは炎症性疾患の結果として変化する。
【0123】
図5:血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。a)年齢/性別適合健常対照群、及びb)パーキンソン病(PD)、c)多系統萎縮症(MSA)、d)筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるグリコカリックス(GLX)マーカーの相関ヒートマップ。GLXマーカーをヒト血漿中で測定し、ピアソン相関をスケール-1~1でマッピングした。0未満の値を赤色でプロットし、ゼロを超える値を青色でプロットした。血液中のGLXマーカーは炎症性疾患の結果として変化し、可溶性GLXプロファイルを表す。
【0124】
材料及び方法
患者
血漿サンプルは、PD、MSA、ALSを有する患者及び適合健常対照群(HC)(N=20)から得た。
【0125】
血漿GLX分析
2マイクロリットルの血漿をナイロン膜(Hybond N, Amersham, RPN203B)にデュプリケートでドットした。膜をブロッキング緩衝液(5%スキムミルク+TBS-0.05%のTween20)中でブロックし、ブロッキング緩衝液+一次抗体中、室温で1時間インキュベートし、洗浄し(TBS-0.05%のTween20)、ブロッキング緩衝液+二次抗体と共にインキュベートし、洗浄し、SuperSignal Femto Reagent(Thermo Scientific)と共にインキュベートし、CCDカメラ(LAS 4000, GE)により画像化し、ImageJを用いて生の積分密度について分析した。一次抗体標的:グリコサミノグリカン(GAG):コンドロイチン硫酸(CS、Sigma)、ヘパリン硫酸(heparin sulfate)(HS、Millipore)、ケラチン硫酸(keratin sulfate)(KS、US-Biologicals)、及びヒアルロン酸(HA、Bio-Rad);並びにプロテオグリカン(PG):CD44(DAKO)、シンデカン(Syn)-1(R&D)、-2(R&D)、-3(R&D)、-4(Santa Cruz)、グリピカン-1(R&D)、グリピカン-4(Us Biologicals)及びビグリカン(Abcam)。二次抗体標的:抗マウス、抗ヤギ、抗ウサギ-HRP(DAKO)及びラット-HRP(Sigma)。
【0126】
データ分析
データセットを正規性について検定した(Shapiro-Wilk)。非正規データセットを対数変換し、再度検定した。非正規のままであるデータセットをノンパラメトリック統計により検定した。パラメトリックデータを一元配置ANOVAで検定し、ノンパラメトリックデータをKruskal-Wallis検定で検定した。有意差は、p<0.05の場合に報告される(GraphPad Prism 8)。*****、及び****は、それぞれ<0.05、0.01、0.001及び0.0001のP値を表す。
【0127】
GLX測定から相関ヒートマップを作成し、マーカー間のピアソン相関を-1~1のスケールでマッピングした。0未満の値を赤色でプロットし、ゼロを超える値を青色でプロットした。
GLX構造:
ケラタン硫酸(KS)
CD44
GPC-4
ビグリカン
ヒアルロン酸(HA)
コンドロイチン硫酸(CS)
ヘパラン硫酸(HS)
GPC-1
シンデカン-1
シンデカン-2
シンデカン-3
シンデカン-4
【0128】
結果
図4に見られるように、全てのGLXマーカーは、全ての患者及び健常対照群サンプルにおいてバックグラウンドを上回って検出可能である。全てのGLXマーカーは、患者と健常対照群との間で、独特のシグネチャーを表示する。
【0129】
PD患者の場合、12のGLXマーカーのうちの10のマーカー、すなわち、KS、CD44、GP4、ビグリカン、HA、HS、GPC-1、Syn2、Syn3及びSyn4は、健常対照群と比べて有意に増加される。最強の増加は、バイオマーカーKS、HA、及びSyn4に関して観察される。
【0130】
MSA患者の場合、12のGLXマーカーのうちの10のマーカー、すなわち、KS、CD44、GP4、HA、コンドロイチン硫酸、HS、GPC-1、Syn2、Syn3、及びSyn4は、健常対照群と比べて有意に増加される。最強の増加は、バイオマーカーKS、CD44、GP4、HA、HS、Syn2、Syn3、及びSyn4に関して観察される。
【0131】
ALS患者の場合、12のGLXマーカーのうちの2つ、すなわちSyn2及びSyn4は、健常対照群と比べて有意に増加される。最強の増加は、バイオマーカーSyn2に関して観察される。
【0132】
3つの疾患(PD、MSA及びALS)の全てのサンプルにおいて有意に増加されるバイオマーカーはSyn2及びSyn4である。3つの疾患のうちの2つ、すなわちPD及びMSAについて増加されるバイオマーカーは、KS、CD44、GP4、HA、HS、GPC-1、及びSyn3である。
【0133】
図5に見られるように、健常対照群、並びにパーキンソン病、MSA及びALSの患者のサンプルについて、2つのバイオマーカーの各セットにおける関係性が分析された。
【0134】
PD患者についての図5b)のヒートマッププロファイリングは、Syn3及びビグリカン、CD44及びビグリカン、Syn4及びビグリカン、Syn4及びGPC4、CD44及びSyn3、CD44及びSyn4、Syn4及びGPC1、並びにCD44及びGPC1のレベル間の正の関係性の増加を明白に示す。
【0135】
MSA患者についての図5c)のヒートマップは、分析されるバイオマーカーの全体的な増加を明白に示す。特に正に増加されたバイオマーカーのセットは、HA及びビグリカン、ビグリカン及びGPC-1、ビグリカン及びSyn3、CD44及びGPC-1、CD44及びSyn4、GP4及びSyn1、KS及びSyn4、HA及びGPC-1、HA及びSyn1、HA及びSyn2、HA及びSyn3、CS及びSyn3、CS及びSyn1、CS及びSyn2、CS及びGPC1、HS及びCD44、HS及びGPC-1、HS及びSyn1、HS及びSyn2、HS及びSyn3、GPC-1及びGPC-1及びSyn3、GPC-1及びSyn4、並びにSyn3及びSyn4のセットである。
【0136】
ALS患者についての図5d)のヒートマップ相関プロファイルは、ビグリカン及びCD44、ビグリカン及びHA、ビグリカン及びCS、ビグリカン及びHS、ビグリカン及びSyn2、CD44及びCS、CD44及びHS、CD44及びSyn2、HA及びSyn2、CS及びSyn1、CS及びSyn2、HS及びSyn2、GPC1及びSyn4、並びにSyn3及びSyn4のセットについてレベルの関係性の増加を明白に示す。
【0137】
PD、MSA及びALSに対するバイオマーカーの組合せのレベルが上昇又は低下する、上に記載されていない他の組合せは、図5に開示される。
【0138】
図5a)~d)に見られるように、PD、MSA及びALSのヒートマップは、各疾患の特定のパターンを示す。
【0139】
結論
この一連の実験において、様々な種類にわたるGLX成分は、PD、MSA及びALS患者に対して上昇されると共に可変であり、したがって、疾患の潜在的なバイオマーカーであると考えるべきであることが示される。PD患者について実質的に関連性があることが示されたGLX成分は、ケラタン硫酸、CD44、ビグリカン、GPC-4、GPC-1、HA、Syn2、Syn3及びSyn4である。MSA患者について実質的に関連性があることが示されたGLX成分は、ケラタン硫酸、CD44、GPC-4、GPC-1、HA、Syn2、Syn3及びSyn4である。ALS患者について実質的に関連性があることが示されたGLX成分は、Syn2及びSyn4である。
【0140】
我々はさらに、PD、ALS及びMSAの各疾患について、2つのバイオマーカーの1つ又は複数のセットが特に上昇されており、図5に示されるようにバイオマーカーのいくつかの間に特定の関係性があることが示されると結論する。さらに、PD、ALS及びMSA各疾患について、相関関係の典型的なパターンを「フィンガープリント」として使用して、患者のPD、ALS及び/又はMSAの状態を決定することができる。
【0141】
まとめると、本明細書において、PD、MSA及び/又はALS患者からの生体サンプルにおけるGLX成分の同定の証拠が提供される。上記のGLX成分は全て、PD、MSA及び/又はALSのバイオマーカーであることを示していると特定される。
【0142】
実施例4:自己免疫疾患、I型糖尿病の患者からの血液(図6及び図7
GLX構造のバイオマーカーが血液サンプル中で検出可能であること、及びこれらのバイオマーカーの濃度が疾患及び炎症に応答して変化することを示すために、自己免疫性I型糖尿病(T1DM)を有する6~9歳の小児から得られた血液サンプルを検査し、T1DMのない兄弟姉妹の健常対照群(兄弟姉妹)からの血液サンプル中のGLXマーカーのレベルと比較した(y軸:任意OD)。
【0143】
図6:年齢/性別適合健常対照群(兄弟姉妹)及びI型糖尿病(T1DM)において、GLXマーカーをヒト血漿中で測定し、箱ひげ図(10~90パーセンタイル、中央線及び平均に対する「+」)として示した。健常対照群は、家族にT1DM兄弟姉妹がいる健常な兄弟姉妹である。データは、p<0.05、0.01、又は<0.001の場合に、それぞれ*****を用いて有意であると表示した。血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。
【0144】
図7:血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。a)年齢/性別適合健常対照群及びb)自己免疫疾患I型糖尿病(T1DM)におけるグリコカリックス(GLX)マーカーの相関ヒートマップ。GLXマーカーをヒト血漿中で測定し、ピアソン相関をスケール-1~1でマッピングした。0未満の値を赤色でプロットし、ゼロを超える値を青色でプロットした。血液中のGLXマーカーは炎症性疾患の結果として変化し、可溶性GLXプロファイルを表す。
【0145】
材料及び方法
患者
血漿は、自己免疫性T1DMを有する患者、及び健常であるがT1DMを有する兄弟姉妹のいる兄弟姉妹からの適合対照群(それぞれ、N=33、36)から得た。
【0146】
血漿GLX分析
2マイクロリットルの血漿をナイロン膜(Hybond N, Amersham, RPN203B)にデュプリケートでドットした。膜をブロッキング緩衝液(5%スキムミルク+TBS-0.05%のTween20)中でブロックし、ブロッキング緩衝液+一次抗体中、4Cで一晩インキュベートし、洗浄し(TBS-0.05%のTween20)、ブロッキング緩衝液+二次抗体と共にインキュベートし、洗浄し、SuperSignal Femto Reagent(Thermo Scientific)と共にインキュベートし、CCDカメラ(LAS 4000, GE)により画像化し、ImageJを用いて生の積分密度について分析した。一次抗体標的:グリコサミノグリカン(GAG):コンドロイチン硫酸(CS、Sigma)、ヘパリン硫酸(heparin sulfate)(HS、Millipore)、ケラチン硫酸(keratin sulfate)(KS、US-Biologicals)、及びヒアルロン酸(HA、Bio-Rad);並びにプロテオグリカン(PG):CD44(DAKO)、シンデカン(Syn)-1(R&D)、-2(R&D)、-3(R&D)、-4(Santa Cruz)、グリピカン-4(Us Biologicals)及びビグリカン(Abcam)。二次抗体標的:抗マウス、抗ヤギ、抗ウサギ-HRP(DAKO)及びラット-HRP(Sigma)。
【0147】
データ分析
データセットを正規性について検定した(Shapiro-Wilk)。非正規データセットを対数変換し、再度検定した。非正規のままであるデータセットをノンパラメトリック統計により検定した。パラメトリックデータを一元配置ANOVAで検定し、ノンパラメトリックデータをKruskal-Wallis検定で検定した。有意差は、p<0.05の場合に報告される(GraphPad Prism 8)。*****、及び****は、それぞれ<0.05、0.01、0.001及び0.0001のP値を表す。
【0148】
GLX測定から相関ヒートマップを作成し、マーカー間のピアソン相関を-1~1のスケールでマッピングした。0未満の値を赤色でプロットし、ゼロを超える値を青色でプロットした。
GLX構造:
ケラタン硫酸(KS)
CD44
GPC-4
ビグリカン
コンドロイチン硫酸(CS)
ヘパラン硫酸(HS)
ヒアルロン酸(HA)
シンデカン-1
シンデカン-2
シンデカン-3
シンデカン-4
【0149】
結果
図6に見られるように、全てのGLXマーカーは、全ての患者及び健常対照群サンプルにおいてバックグラウンドを上回って検出可能である。全てのGLXマーカーは、患者と健常対照群との間で、独特のシグネチャーを表示する。
【0150】
T1DM患者の場合、11のGLXマーカーのうちの7つ、すなわち、KS、CD44、GP4、ビグリカン、HA、Syn1、及びSyn3は、健常対照群と比べて有意に増加される。最強の増加は、バイオマーカーKS、ビグリカン、GP4及びSyn3に関して観察される。
【0151】
図7に見られるように、兄弟姉妹の健常対照群(図7a))及びT1DM患者のサンプル(図7b))について、2つのバイオマーカーの各セットにおける関係性が分析された。
【0152】
T1DM患者についてのヒートマップは、ビグリカン及びCD44、ビグリカン及びSyn3、ビグリカン及びSyn4、CD44及びSyn3、CD44及びSyn4、HA及びビグリカン、HA及びSyn3、HA及びSyn4、並びにSyn3及びSyn4のセットのレベルの上昇を明白に示す。
【0153】
T1DMに対するバイオマーカーの組合せのレベルが上昇又は低下する、上に記載されていない他の組合せは、図7に開示される。
【0154】
結論
この一連の実験において、様々な種類にわたるGLX成分は、T1DM患者に対して上昇されると共に可変であり、したがって、疾患の潜在的なバイオマーカーであると考えるべきであることが示される。T1DM患者について実質的に関連性があることが示されたGLX成分は、ケラタン硫酸、CD44、ビグリカン、GPC-4、Syn1及びSyn3である。
【0155】
我々はさらに、T1DMについて、2つのバイオマーカーの1つ又は複数のセットが特に上昇されており、図7に示されるようにバイオマーカーのいくつかの間に特定の関係性があることが示され、これは、健康及び疾患を区別することができると結論する。
【0156】
まとめると、本明細書において、T1DM患者からの生体サンプルにおけるGLX成分の同定の証拠が提供される。GLX成分のケラタン硫酸、CD44、ビグリカン、GPC-4、Syn1及びSyn3は全て、T1DMのバイオマーカーであることを示していると特定される。
【0157】
実施例5:アルツハイマー病患者からの血液(図8及び図9
GLX構造のバイオマーカーが血液サンプル中で検出可能であること、及びこれらのバイオマーカーの濃度が疾患及び炎症に応答して変化することを示すために、アルツハイマー病患者から得られた血液サンプル(AD、灰色のバー)を検査し、年齢適合健常対照群からの血液サンプル(HC、白色のバー)中のGLXマーカーのレベルと比較した(y軸:任意OD)。
【0158】
図8:血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。年齢/性別適合健常対照群(白色)及びアルツハイマー病(AD;灰色)において、GLXマーカーをヒト血漿中で測定し、箱ひげ図(10~90パーセンタイル、中央線及び平均に対する「+」)として示した。データは、p<0.05、0.01、又は<0.001の場合に、それぞれ*****を用いて有意であると表示した。血液中のGLXマーカーは、炎症性疾患の結果として変化する。
【0159】
図9:血液中のGLXマーカーは炎症性疾患の結果として変化し、疾患修飾性薬物治療に応答する。a)年齢/性別適合健常対照群、並びにb)アルツハイマー病(AD)、及びc)プラセボによる治療及びd)疾患修飾性薬物治療の6か月後のAD患者におけるグリコカリックス(GLX)マーカーの相関ヒートマップ。GLXマーカーをヒト血漿中で測定し、ピアソン相関をスケール-1~1でマッピングした。0未満の値を赤色でプロットし、ゼロを超える値を青色でプロットした。血液中のGLXマーカーは炎症性疾患及び治療の結果として変化し、可溶性GLXプロファイルを表す。
【0160】
材料及び方法
患者
AD患者(ベースライン(N=32))、健常対照群(N=20)からの血漿を得て、プラセボ(N=19)又は疾患治療(N=13)を受けさせた6か月後にAD患者を追跡した。
【0161】
血漿GLX分析
2マイクロリットルの血漿をナイロン膜(Hybond N, Amersham, RPN203B)にデュプリケートでドットした。膜をブロッキング緩衝液(5%スキムミルク+TBS-0.05%のTween20)中でブロックし、ブロッキング緩衝液+一次抗体中、室温で1時間インキュベートし、洗浄し(TBS-0.05%のTween20)、ブロッキング緩衝液+二次抗体と共にインキュベートし、洗浄し、SuperSignal Femto Reagent(Thermo Scientific)と共にインキュベートし、CCDカメラ(LAS 4000, GE)により画像化し、ImageJを用いて生の積分密度について分析した。一次抗体標的:グリコサミノグリカン(GAG):コンドロイチン硫酸(CS、Sigma)、ヘパリン硫酸(heparin sulfate)(HS、Millipore)、ケラチン硫酸(keratin sulfate)(KS、US-Biologicals)、及びヒアルロン酸(HA、Bio-Rad);並びにプロテオグリカン(PG):CD44(DAKO)、シンデカン(Syn)-1(R&D)、-2(R&D)、-3(R&D)、-4(Santa Cruz)、グリピカン-1(R&D)、グリピカン-4(Us Biologicals)、パールカン(R&D)、及びビグリカン(Abcam)。二次抗体標的:抗マウス、抗ヤギ、抗ウサギ-HRP(DAKO)及びラット-HRP(Sigma)。
【0162】
データ分析
データセットを正規性について検定した(Shapiro-Wilk)。非正規データセットを対数変換し、再度検定した。非正規のままであるデータセットをノンパラメトリック統計により検定した。パラメトリックデータを一元配置ANOVAで検定し、ノンパラメトリックデータをKruskal-Wallis検定で検定した。有意差は、p<0.05の場合に報告される。*****、及び****は、それぞれ<0.05、0.01、0.001及び0.0001のP値を表す(GraphPad Prism 8)。
【0163】
GLX測定から相関ヒートマップを作成し、マーカー間のピアソン相関を-1~1のスケールでマッピングした。0未満の値を赤色でプロットし、ゼロを超える値を青色でプロットした。
GLX構造:
ケラタン硫酸(KS)
CD44
GPC-4
ビグリカン
コンドロイチン硫酸(CS)
ヘパラン硫酸(HS)
ヒアルロン酸
GPC-1
シンデカン-1
シンデカン-2
シンデカン-3
シンデカン-4
パールカン
【0164】
結果
図8に見られるように、全てのGLXマーカーは、全ての患者及び健常対照群サンプルにおいてバックグラウンドを上回って検出可能である。全てのGLXマーカーは、患者と健常対照群との間で、独特のシグネチャーを表示する。
【0165】
AD患者の場合、13のGLXマーカーのうちの7つ、すなわち、KS(増加)、CD44(増加)、GP4(増加)、ビグリカン(低下)、GPC-1(低下)、コンドロイチン硫酸(低下)、ヘパラン硫酸(低下)は、健常対照群と比べて有意に変化する。最強の増加は、バイオマーカーKS、CD44及びGPC-1について観察される。
【0166】
図9に見られるように、AD患者のヒートマップ(図9b))は、健常対照群のヒートマップ(図9a))と比べて、バイオマーカー間の異なる相関関係を示す。正の関係性が増加したバイオマーカーのセットは、例えば、CD44及びCS、CD44及びHS、GP4及びHS、GP4及びSyn2、KS及びHA、KS及びSyn2、ビグリカン及びHA、HA及びSyn4、CS及びSyn3、CS及びSyn4、並びにHS及びSyn3のセットである。
【0167】
6か月のプラセボサンプルについてのバイオマーカーヒートマップ(図9c))は、未治療のAD患者のヒートマップ(図9b))と類似しているが、同一ではない。対照的に、6か月の治療のサンプルのバイオマーカーヒートマップ(図9d))は、健常対照群と比較的似ているが同一ではなく、プラセボサンプルとは全く似ていない。
【0168】
ADに対するバイオマーカーの組合せのレベルが上昇又は低下する、上に記載されていない他の組合せは、図9に開示される。
【0169】
図10に見られるように、6か月の治療を受けたAD患者におけるCD44の存在は、プラセボのみを受けたAD患者におけるCD44のレベルと比べて低下される。
【0170】
結論
この一連の実験において、様々な種類にわたるGLX成分は有意に増加又は低下され、したがってAD患者に対して異なり、したがって、疾患、疾患重症度、及び治療反応の潜在的なバイオマーカーであると考えるべきであることが示される。AD患者について実質的に関連性があることが示されたGLX成分は、ケラタン硫酸、CD44、GP4、ビグリカン、GPC-1及びコンドロイチン硫酸である。
【0171】
我々はさらに、ADについて、2つのバイオマーカーの1つ又は複数のセットが特に相関性があり、図9に示されるようにバイオマーカーのいくつかの間に特定の関係性があることが示されると結論する。さらに、分析したバイオマーカーを用いて、プラセボのみの治療と比べて治療の進行をモニターすることが可能である。これを用いて、治療を受けた患者と、治療を全く受けていない患者又は不十分な治療しか受けていない患者とを区別することも可能である。例示的に、CD44のレベルは、わずか6か月後に、プラセボを受けた患者と、治療を受けた患者とを区別することができる。
【0172】
まとめると、本明細書において、AD患者からの生体サンプルにおけるGLX成分の同定の証拠が提供される。GLX成分のKS、CD44、GP4、ビグリカン、GPC-1及びコンドロイチン硫酸は全て、ADのバイオマーカーであることを示していると特定される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において少なくとも1つの免疫介在性炎症性疾患(IMID)を診断及び/又は予知するエキソビボ方法であって、
a.前記対象からの第1の生体サンプルにおいてグリコカリックスのグリコサミノグリカン(GAG)及びプロテオグリカン(PG)からなる群から選択される1つ又は複数のバイオマーカーのレベルのインビトロ測定を実施するステップと、
b.任意選択的に、前記第1の生体サンプルよりも後の時点で得られた前記対象からの第2の又はさらなる生体サンプルにおいて前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルのインビトロ測定を実施するステップと、
c.前記1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを1つ又は複数の対応する基準のレベルと比較するステップと、
d.前記測定値を用いて、前記対象の状態を評価するステップと
を含む方法。
【外国語明細書】