(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157592
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】電力半導体装置および電力半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20241031BHJP
H01L 23/473 20060101ALI20241031BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/46 Z
H05K7/20 B
H05K7/20 F
H05K7/20 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072001
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 達也
(72)【発明者】
【氏名】石井 隆一
(72)【発明者】
【氏名】梶原 孝信
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA03
5E322AA07
5E322AA10
5E322AA11
5E322AB11
5E322DA04
5E322EA10
5E322FA01
5E322FA04
5F136BA03
5F136BC03
5F136DA27
5F136DA41
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA82
5F136GA02
5F136GA35
(57)【要約】
【課題】通電経路のインダクタンスを低減しつつ、複数の電力半導体素子の温度差を低減し、小型軽量で高出力化を実現する電力半導体装置および電力半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上アーム7bおよび下アーム7aの複数の電力半導体素子1、上アームの複数の電力半導体素子の正極側電極と外部を接続するNリード3a、下アームの複数の電力半導体素子の負極側電極と外部を接続するPリード3b、それぞれの表面に一または複数の電力半導体素子が接合された複数の第1のヒートスプレッダ2a、複数の第1のヒートスプレッダの裏面が、絶縁層9を介して表面に接合された第2のヒートスプレッダ2b、および電力半導体素子と第1のヒートスプレッダの実装周囲を封止するモールド樹脂4を有する電力半導体モジュール100と、電力半導体モジュールの裏面に接合されたヒートシンク10とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上アームの複数の半導体素子および下アームの複数の半導体素子、前記上アームの前記複数の半導体素子の正極側電極と外部を接続するための第1のリード、前記下アームの複数の半導体素子の負極側電極と外部を接続するための第2のリード、それぞれの表面に一または複数の前記半導体素子が接合された複数の第1のヒートスプレッダ、複数の前記第1のヒートスプレッダの裏面が、絶縁層を介して表面に接合された第2のヒートスプレッダ、および前記半導体素子と前記第1のヒートスプレッダの実装周囲を封止するモールド樹脂を有する電力半導体モジュールと、
前記電力半導体モジュールの裏面に接合されたヒートシンクと、
を備えたことを特徴とする電力半導体装置。
【請求項2】
前記第1のヒートスプレッダおよび前記第2のヒートスプレッダは、材質が前記ヒートシンクと異なることを特徴とする請求項1に記載の電力半導体装置。
【請求項3】
前記第1のリードは、前記上アームの直線状に並べた前記半導体素子に通電し、前記第2のリードは、前記下アームの直線状に並べた前記半導体素子に通電し、前記上アームの半導体素子と前記下アームの半導体素子が、線対称の位置にあることを特徴とする請求項1に記載の電力半導体装置。
【請求項4】
前記第1のリードと前記第2のリードは、前記モールド樹脂から外部と同方向で接続することを特徴とする請求項1に記載の電力半導体装置。
【請求項5】
前記上アームの前記複数の半導体素子の正極側電極は、一つの第1のヒートスプレッダに接合されていることを特徴とする請求項1に記載の電力半導体装置。
【請求項6】
前記第2のヒートスプレッダは、切り欠き部を有することを特徴とする請求項1に記載の電力半導体装置。
【請求項7】
前記第2のヒートスプレッダは、複数に分割され、分割部がそれぞれ接しないように一定間隔を保持して配置され、前記間隔には前記モールド樹脂が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の電力半導体装置。
【請求項8】
前記分割された第2のヒートスプレッダには、それぞれインバータ回路の相毎に前記上アームの一の半導体素子と前記下アームの一の半導体素子を対で配置したことを特徴とする請求項7に記載の電力半導体装置。
【請求項9】
前記ヒートシンクは、内部に冷媒を流して冷却する構成を有し、前記冷媒の流れる上流から下流方向に、前記上アームの半導体素子および/または前記下アームの半導体素子が並べられたことを特徴とする請求項1に記載の電力半導体装置。
【請求項10】
前記並べられた半導体素子の搭載間隔と前記第1のヒートスプレッダの前記冷媒の流れる方向の幅のそれぞれの値は、下流側の方が上流側よりも全体として大きくなるように設けられたことを特徴とする請求項9に記載の電力半導体装置。
【請求項11】
前記第2のヒートスプレッダは、厚さが前記第1のヒートスプレッダよりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の電力半導体装置。
【請求項12】
前記第1のヒートスプレッダと前記第2のヒートスプレッダは、ともに厚さが、1mm以上、5mm以下であることを特徴とする請求項11に記載の電力半導体装置。
【請求項13】
半導体素子を第1のヒートスプレッダに接合する工程と、
前記第1のヒートスプレッダをリードフレームに接合する工程と、
第2のヒートスプレッダの表面に絶縁層を塗工する工程と、
前記絶縁層を塗工した第2のヒートスプレッダの表面に前記第1のヒートスプレッダを載置する工程と、
前記半導体素子、前記第1のヒートスプレッダ、および前記第2のヒートスプレッダを、前記リードフレームを搭載した状態でトランスファーモールド成型する工程と、
を含むことを特徴とする電力半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力半導体装置および電力半導体装置の製の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のモーターを駆動する電力変換装置である電力半導体装置は、スイッチング可能な電力半導体素子を組み合わせて構成される電力変換回路、電力変換回路を制御する制御回路、平滑コンデンサ、電源装置などから構成される。
【0003】
電力半導体装置は、電源から供給される直流電力を所望の交流電力に変換して、回転電機に供給することで、回転電機を制御している。制御回路は、電力変換回路へ電力半導体素子をスイッチングするための制御信号を送出し、電力半導体素子をオン・オフさせて電力を制御する。平滑コンデンサは、電力制御の際に生じる、電圧変動、ノイズを吸収する役割を担っている。電力半導体素子は、配線状に成形されたリードフレームに実装した状態、またはプリント配線板上に接合された状態で、絶縁性の部材などを介して放熱用のヒートシンクなどに接続される。
【0004】
また、自動車は環境規制などを背景とした燃費効率の向上の要求が厳しく、自動車に搭載される車載用機器には、高出力化と小型・軽量化が求められる。電力半導体モジュールのサイズによって、金属を多量に使用するヒートシンクおよびバスバー配線などのサイズが決まるため、電力半導体モジュールのサイズは、電力半導体装置のサイズおよび重量への影響が大きい。これらの理由から、電力半導体モジュールには常に小型化が求められる。
【0005】
電力半導体装置に電力が印加されて動作する際に、電力半導体素子の表面近くのジャンクション部で発熱が生じ、電力半導体素子の温度が上昇する。電力半導体素子で生じた熱は、配線部材および絶縁層などを通して、ヒートシンクに放出される。電力半導体素子の温度が過度に上昇すると、電力半導体素子の故障、および電力半導体素子に電力を伝達する配線部材との接合部の劣化等の原因となるため、設計段階で決められた許容温度以下で動作させる必要がある。このため、電力半導体装置の電力半導体素子からの放熱性を向上させることが小型・軽量化・高出力化・故障回避の観点で重要となる。伝熱工学の観点から考えると、電力半導体素子および熱伝導部材のサイズ、とりわけ伝熱面積を大きくすれば、放熱性は向上するが、小型・軽量化さらにはコスト低減の要求に相反するため、電力半導体素子の面積を小さくしつつ、電力半導体素子の温度を抑えることが必要である。
【0006】
ハイブリッド自動車および電気自動車用などの高い信頼性が求められる電力半導体素子では、素子の温度を常に許容温度以下で動作させるために、電力半導体素子の表面に温度センサーを備えるもの、および温度の見積もりのもとになる電流センサーなどを備えるものがあり、モーターを駆動させるための電力変換回路を構成する複数の電力半導体素子の最も温度が高い温度検出値をもとに温度保護としての出力制限等の機能を備える。
【0007】
また、電力半導体素子の面積を小さくしつつ温度を抑える方法としては、電力半導体素子で生じる発熱量を小さくすることが考えられる。電力半導体素子の発熱は、導通損失とスイッチング損失に分けられ、導通損失は電力半導体素子の性能と通電する電流の大きさによって主に決定される。一方、スイッチング損失は、電力半導体素子をオン・オフさせるときの電流と電圧が変化のさせ方で主に決まる損失であり、スイッチング速度が損失へ大きな影響を与える。スイッチング速度を早くするためには、電力半導体素子をオン・オフさせるときに生じるサージ電圧を小さくする必要があり、電流の配線経路のインダクタンスが小さいほどサージ電圧を小さくできる。このため、電力半導体モジュールの接続される配線経路のインダクタンスをいかに小さくするかが重要となる。
【0008】
これらの理由から、小型、軽量、高出力な電力半導体装置を得るためには、電力半導体素子に発生する損失を小さくするための電流経路のインダクタンスを低減しつつ、電力変換回路を構成する複数の電力半導体素子の温度を均熱化する必要がある。
【0009】
また、電力半導体装置の小型・軽量化に向けた3相インバータ回路を一つの電力半導体モジュールに搭載する構造について様々な検討がされている。3相インバータ回路を一つの電力半導体モジュールに搭載することで、複数の電力半導体モジュールを外部配線などで接続する場合、および配線基板上に実装して3相インバータ回路を構成する場合などに比べて、小型化が容易となる(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
特許文献1に記載の電力半導体装置は、一つの電力半導体モジュールの中に6個のスイッチング可能な電力半導体素子が搭載され、電力半導体素子は電力半導体モジュールの内部に4個搭載されたヒートスプレッダの上面に搭載されている。さらに、すべての配線用のリード部材を一つのリードフレームで構成しており、通電経路のインダクタンスが低い構成がされているとともに、部品点数の少ない構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に示されるものは、電気回路上の制約等によって、放熱部材としても使用されるヒートスプレッダ形状が決定されており、3相インバータ回路の上アーム側の3個の電力半導体素子が、連結された一つのヒートスプレッダに搭載され、下アームの3個の電力半導体素子が、別々の分割されたヒートスプレッダに搭載されている。ヒートスプレッダの伝熱面積が異なるため上アームと下アームで電力半導体素子の温度がばらつく原因となる。また、外部出力用の主端子リードの配置などの制約で、電力半導体モジュール内部の電力半導体素子の配置が非対称な位置となり、搭載位置の偏りがある構成となっている。
【0013】
この結果、温度がばらついた中で最も高温を示す電力半導体素子を保護するために、電力半導体装置の出力を制限することになり、所定の出力に対応しようとすると、電力半導体素子および電力半導体モジュールが大型化する。また、3相インバータ回路を内蔵する構造では、3相インバータ回路の一部を内蔵する構造に比べて、電力半導体モジュールが大型化する。さらに、モールド封止型の電力半導体モジュールでは、モールド樹脂と配線部材およびヒートスプレッダの線膨張係数の差から反りが生じ、反りが大きい場合は外部に接続する冷却器との間の熱抵抗が大きくなり、反りにより冷却器から位置が離れる部分に搭載された電力半導体素子は冷却性が悪くなるため、温度が高くなり高出力化のさらなる制約となる。
【0014】
本願は、上記のような課題を解決するためになされたもので、3相インバータ回路を1つの電力半導体モジュールに内蔵する構造においても、通電経路のインダクタンスを低減しつつ、複数の電力半導体素子の温度差を低減し、小型軽量で高出力化を実現する電力半導体装置および電力半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願に開示される電力半導体装置は、上アームの複数の半導体素子および下アームの複数の半導体素子、前記上アームの前記複数の半導体素子の正極側電極と外部を接続するための第1のリード、前記下アームの複数の半導体素子の負極側電極と外部を接続するための第2のリード、それぞれの表面に一または複数の前記半導体素子が接合された複数の第1のヒートスプレッダ、複数の前記第1のヒートスプレッダの裏面が、絶縁層を介して表面に接合された第2のヒートスプレッダ、および前記半導体素子と前記第1のヒートスプレッダの実装周囲を封止するモールド樹脂を有する電力半導体モジュールと、前記電力半導体モジュールの裏面に接合されたヒートシンクと、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本願に開示される電力半導体装置の製造方法は、半導体素子を第1のヒートスプレッダに接合する工程と、前記第1のヒートスプレッダをリードフレームに接合する工程と、第2のヒートスプレッダの表面に絶縁層を塗工する工程と、前記絶縁層を塗工した第2のヒートスプレッダの表面に前記第1のヒートスプレッダを載置する工程と、前記半導体素子、前記第1のヒートスプレッダ、および前記第2のヒートスプレッダを、前記リードフレームを搭載した状態でトランスファーモールド成型する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願によれば、小型・軽量化が容易な3相インバータ回路を内蔵した電力半導体モジュールにおいても、配線経路のインダクタンスを低減して電力半導体素子で生じるスイッチング損失を低減するとともに、電力半導体素子間で生じる放熱経路の熱抵抗の違いによって生じる電力半導体素子の温度差を低減することが可能となり、小型・軽量でありながら高出力化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態1に係る電力半導体装置に用いる電力半導体モジュールの構成を示す平面図である。
【
図2】実施の形態1に係る電力半導体装置に用いる電力半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【
図3】実施の形態1に係る電力半導体装置に用いる電力半導体モジュールの構成を示す断面図である。
【
図4】実施の形態1に係る電力半導体装置の回路を示す回路図である。
【
図5】実施の形態1に係る電力半導体装置に用いる電力半導体モジュールでの電流の流れを示す平面図である。
【
図6】実施の形態1に係る電力半導体装置での熱の流れを示す断面図である。
【
図7】従来の電力半導体装置での熱の流れを示す断面図である。
【
図8】実施の形態1に係る電力半導体装置に用いる電力半導体モジュールの製造方法での製造工程を示すフローチャート図である。
【
図9】実施の形態1に係る電力半導体装置に用いるヒートスプレッダの構成を示す平面図である。
【
図10】実施の形態1に係る電力半導体装置に用いるヒートスプレッダの他の構成を示す平面図である。
【
図11】実施の形態2に係る電力半導体装置に用いるヒートスプレッダの構成を示す平面図である。
【
図12】実施の形態2に係る電力半導体装置の構成を示す断面図である。
【
図13】実施の形態2に係る電力半導体装置に用いるヒートスプレッダの他の構成を示す平面図である。
【
図14】実施の形態2に係る電力半導体装置の他の構成を示す断面図である。
【
図15】実施の形態3に係る電力半導体装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
図1は、本願の実施の形態1に係る電力半導体装置に用いる電力半導体モジュール100の構成を示す平面図である。
図2は、
図1のAA矢視断面図であり、
図3は、
図1のBB矢視断面図である。
図4は、電力半導体装置の回路図である。
【0020】
電力半導体モジュール100は、
図1から
図4に示すように、スイッチング可能な電力半導体素子1と、電力半導体素子1を搭載するヒートスプレッダ2と、電力半導体素子1に電力を供給するリード3を、モールド樹脂4で封止したトランスファーモールド型の構造を備える。
【0021】
電力半導体モジュール100は、絶縁性、耐震性、長期信頼性などの高い信頼性要求に答えるため、電力半導体素子1の実装面をモールド樹脂4で封止している。また、高い出力性能に対応するため電力半導体素子1は、電力半導体素子1で生じた熱を拡散するための第1のヒートスプレッダ2aの表面に接合部材5を介して接続されている。電力半導体モジュール100の内部に、複数枚の電力半導体素子1が搭載されており、電力半導体モジュール1個で3相インバータ回路を構成することができる。
図4に示す回路では、3相インバータ回路としてフルブリッジの3相インバータ回路を構成しており、上アーム7bとして3個の電力半導体素子1および下アーム7aとして3個の電力半導体素子1を備えている。また、上アーム7bの1個の電力半導体素子と下アーム7aの1個の電力半導体素子が直列に接続されたレグが3個、並列に接続された構成になっている。
【0022】
電力半導体素子1は、表面と裏面にそれぞれ表面電極(負極側電極)と裏面電極(正極側電極)(図示せず)を備える。電力半導体素子1は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Firld Effect Transistor)およびRC-IGBT(逆導通IGBT、Reverse Conducting-Insulated Gate Bipolar Transistor)、IGBTに適用可能である。MOSFETおよびRC-IGBTは、スイッチング可能な電力半導体素子であるとともに、MOSFETであれば内部に寄生ダイオードが、RC-IGBTであればダイオード領域を備えるため、電力半導体素子1に別途並列接続するフリーホイールダイオード(FWD、Freewheeling Diode)が不要である。電力半導体素子1には、表面に表面電極とは別の、ゲート部とゲート電極(図示せず)を備える。
【0023】
電力半導体素子1の材料としては、Siのみならず、SiC、SiN、GaN、GaAsなどの化合物半導体も使用可能である。電力半導体素子1の表面電極は、導電性部材6を介してリード3に接続されており、はんだなどの導電性部材6で接合するためのめっき層など、はんだ付けできる仕様を備える。
【0024】
電力半導体モジュール100に搭載する電力半導体素子1はすべて同一の仕様のものを搭載する。電力半導体素子1を共通化することで、発熱量のばらつきを抑えて電力半導体素子間を均熱化するとともに、製造時の搭載ミスなどを防止して生産性を向上できる。電力半導体素子1の表面電極には温度センサーが搭載されている。この温度センサーは、電力半導体素子1の微細構造が形成される半導体プロセスにおいて形成される微小なサイズのダイオードである。ダイオードは、一定の電流を通電した場合、ダイオードの温度が上昇するのに従ってダイオードの入出力間で生じる電圧降下量が低下する。この温度と電圧の関係を利用して、電力半導体素子1の温度を検出する。
【0025】
リード3は、銅およびアルミを基材にした合金の板材を配線パターン形状に成形したリードフレームから構成され、モールド樹脂4で封止される工程の後に、不要な部分を切り落とされることで、電力半導体モジュール内の配線経路を形成する。リード3は、電力と熱を伝達する経路となっており、要求性能に合わせて電気伝導率と熱伝導率が高い材料を選択する。第1のリードとしてのNリード3aは、下アーム7aの3個の電力半導体素子1の負極側電極を接続し、一端がモールド樹脂4から外部に露出している。第2のリードとしてのPリード3bは、上アーム7bの3個の電力半導体素子の正極側電極が接続されている第1のヒートスプレッダ2aに接続され、一端がモールド樹脂4から外部に露出している。Pリード3bは電源の正極側、Nリード3aは電源の負極側に、電力半導体装置200の構成部品を介して接続される。3個のACリード3cは、それぞれ下アーム7aの電力半導体素子1の正極側電極と上アーム7bの負極側電極との接続点に一端が接続され、他端はモールド樹脂4から外部に露出しており、配線部材を介してモーター8の相交流回路の巻き線コイルと接続される。Pリード3bとNリード3aは、電力半導体モジュール100のモールド樹脂4の外周の同一の面から外部に片側を露出している。
【0026】
図5は、実施の形態1に係る電力半導体装置に用いる電力半導体モジュール100での電流の流れを示す平面図である。
図5に示すように、電力半導体モジュール100の電流の流れは、モールド樹脂4の外部に端部を露出したPリード3bを始点として(電流の流れCb)、3相インバータ回路の上アーム7bの一列に並ぶ電力半導体素子1のいずれかの電力半導体素子1を流れた後、ACリード3cから負荷であるモーター8を通って、下アーム7aの一列に並ぶ別のレグの電力半導体素子1に接続されているACリード3cから当該電力半導体素子1に流れて、モールド樹脂外周のPリード3bが露出する同一の面から外部に露出したNリード3aの端部を終点として流れる(電流の流れCa)。なお、上アーム7bと下アーム7aの電力半導体素子1は、電力半導体モジュール100の図面の左右および上下に対し、それぞれ線対称の位置に搭載されている。下アーム7aを構成する3個の電力半導体素子1の負極側電極に1個の連結されたNリード3aを接続する。
【0027】
以上の構成により、第2のリード3bから流れ込む電流と、第1のリード3aから流れ出す電流は向きが反対となるため、電流経路のループが小さくなり、配線のインダクタンスが小さくなる。この結果、電力半導体素子1で生じるスイッチング損失を小さくすることができ、電力半導体素子1の温度上昇を小さくできる。
【0028】
ヒートスプレッダ2は、第1のヒートスプレッダ2aと第2のヒートスプレッダ2bで構成される。第1のヒートスプレッダ2aと第2のヒートスプレッダ2bともに、銅もしくは、銅を主材とした合金で構成されている。第1のヒートスプレッダ2aは、表面に電力半導体素子1が接合部材5を介して搭載されている。第1のヒートスプレッダ2aは、3相インバータ回路の配線経路としての機能も兼ねていることから、配線経路の制約で、上アーム7bの電力半導体素子1を搭載する第1のヒートスプレッダ2aは3個の電力半導体素子1を搭載する連結された1個のヒートスプレッダから構成され、下アーム7aの電力半導体素子1を搭載する第1のヒートスプレッダ2aは電力半導体素子毎に別々に分かれた構成となっている。
【0029】
上アーム7bの第1のヒートスプレッダ2aが連結されていることで上アーム7bの放熱面積を広くすることができる。また、Pリード3bは、上アーム7bの電力半導体素子1を搭載する第1のヒートスプレッダ2aの端部に接続されていることで、電流経路の入力を1か所に集約できる。例えば、上アーム7bの第1のヒートスプレッダ2aを別々のヒートスプレッダで構成する場合、Pリード3bは3個必要となり、電流経路が複雑化してループが大きくなり、インダクタンスが増大する。
【0030】
第1のヒートスプレッダ2aの裏面は、
図2および
図3に示すように、第2のヒートスプレッダ2bの表面と絶縁層9を介して接続されている。第2のヒートスプレッダ2bの裏面は、電力半導体モジュール100の外部に露出しており、銅および銅合金の無垢表面および、めっき表面などのはんだ付け可能な仕様を備えている。第2のヒートスプレッダ2bは、少なくとも2個以上の第1のヒートスプレッダ2aと接続されており、第1のヒートスプレッダ2aよりも伝熱面積が大きくなるように構成されているので、電力半導体素子1で生じた熱を拡散する性能が高い。
【0031】
第1のヒートスプレッダ2aと第2のヒートスプレッダ2bは、ともに厚さが1mm以上、5mm以下で構成されている。第1のヒートスプレッダ2aと第2のヒートスプレッダ2bともに、放熱経路の熱を広げるのに必要な厚みとして1mm以上の厚さを備える。1mmより薄いと、熱の拡散が不十分となり均等に放熱することができない。5mmを超えると、重量が重くなるだけでなく、電力半導体モジュール100の厚みも厚くなり、銅の伸びが支配的となり反りが大きくなる。なお、第2のヒートスプレッダ2bの厚さは、第1のヒートスプレッダ2aの厚さよりも大きくなるように構成されている。
【0032】
第1のヒートスプレッダ2aは、回路構成上の制約で、上アーム7bと下アーム7aの形状を同一にできないが、この放熱性の差を第2のヒートスプレッダ2bで伝熱面積を広げることで、電力半導体素子1の温度を均一化する。第2のヒートスプレッダ2bの厚さを増加させるほど、この効果が向上する。第2のヒートスプレッダ2bの厚さがより大きくなるように構成することで、第1のヒートスプレッダ2aの厚さを、回路上の制約で設定できる第1のヒートスプレッダ2aの面積で熱を拡散できる厚さ以上に設定する必要がなくなる。なお、第2のヒートスプレッダ2bの厚さは、第2のヒートスプレッダ2bの伝熱面積を十分に取れる場合は、第1のヒートスプレッダ2aの厚さ以下であってもよい。
【0033】
モールド樹脂4は、電力半導体素子1、ヒートスプレッダ2、リード3、絶縁層9などを内部に包み込むように配置される。モールド樹脂4は、ヒートスプレッダ2上に部品を実装した後に、トランスファー成形により形成される。前述のとおり、モールド樹脂4で電力半導体素子、ヒートスプレッダ、リードフレーム、絶縁層を一体成型した後に、リードフレームの不要な部分を切り落としてリード3を形成し、リード3のモールド樹脂4からの延出部を曲げることによって電力半導体モジュール100が構成される。モールド樹脂4は、絶縁性の放熱フィラーを含んでおり、電力半導体素子1で生じた熱がモールド樹脂4のフィラーへ拡散することで、温度を低減させる作用を備えている。
【0034】
絶縁層9は、主に絶縁性のフィラーと接着剤で構成される。フィラーにはセラミックから構成される微細な粒子を使用する。接着剤にはエポキシ樹脂などの熱硬化性の樹脂を使用する。絶縁層9の厚さは、要求される絶縁性能と放熱性能をもとに選択した100μm~数百μmに設定される。絶縁層9は、あらかじめ第2のヒートスプレッダ2bの上に塗工した状態でトランスファー成型工程に持ち込まれる。
【0035】
図6は、実施の形態1に係る電力半導体装置200に用いる電力半導体モジュール100での熱の流れを示す断面図である。
図6に示すように、電力半導体装置200のヒートシンク10は、電力半導体モジュール100の裏面に露出した第2のヒートスプレッダ2bの裏面と接合部材11を介して接続されている。接合部材11には、はんだ等の金属の接合部材を用いる。
【0036】
本願による構成では、電力半導体素子1で生じた熱の伝熱状態が、下アーム7aの電力半導体素子1が搭載された第1のヒートスプレッダ2aが回路上の制約で別々のヒートスプレッダで構成されているため、電力半導体素子1で生じた熱が接続された第1のヒートスプレッダ2aに伝熱され(熱の流れD)、第1のヒートスプレッダ2aの面積まで拡散される。設計段階で発熱量等から見積もった、電力半導体素子1の熱が第1のヒートスプレッダ全体に広がるのに必要な厚さに第1のヒートスプレッダ2aの厚さを設定する。第2のヒートスプレッダ2bは、第1のヒートスプレッダ2aを複数個搭載できる面積が大きい状態に構成され、厚さは構造上許容される範囲で厚くする。この結果、第1のヒートスプレッダ2aまでで第1のヒートスプレッダ2aの面積までしか拡散されていなかった熱が、第2のヒートスプレッダ2bに伝熱され(熱の流れE)、さらに広い伝熱面積でヒートシンク10へと伝達される。さらに、複数の第1のヒートスプレッダ2aが同じ第2のヒートスプレッダ2bの上に搭載されているため、第1のヒートスプレッダ2aの第2のヒートスプレッダ2bとの接続面の温度差が縮小し、その上に設置される電力半導体素子1の温度差も縮小する。
【0037】
これにより、ヒートシンク10と第2のヒートスプレッダ2bの間の接触部の熱抵抗が低減でき、高い放熱性を備える構成を実現できる。電力半導体モジュール100の内部の絶縁層9で3相インバータ回路と第2のヒートスプレッダ2bが絶縁された構成となっているため、直接金属材料で接合することを実現している。なお、本実施の形態1で用いたヒートシンク10は、フィンが形成したタイプであるが、フィンがない板材をヒートシンクとして使用する場合、ヒートシンクに水路を形成する水冷タイプ、およびヒートパイプなどを使用した冷却器でも適用可能である。
【0038】
図7は、従来の電力半導体装置での熱の流れを示す断面図である。こちらの場合も、下アームの電力半導体素子1が搭載されたヒートスプレッダ2が回路上の制約で別々のヒートスプレッダ2で構成されているため、電力半導体素子1で生じた熱が接続されたヒートスプレッダ2に伝熱され、ヒートスプレッダ2の面積まで拡散される。しかしながら、ヒートスプレッダ2が一つのみ設置されているため、ヒートスプレッダ2の表面側で早々に、ヒートスプレッダ2の面積いっぱいまで拡散された熱が、そのままの伝熱面積でヒートシンク10に伝達される(熱の流れF)。この結果、伝熱面積が拡大しないことで放熱経路の熱抵抗が増大して放熱性が悪化する。また、ヒートシンク10は、材質がヒートスプレッダ2とは異なり、銅および銅合金で構成されるヒートスプレッダ2よりも熱伝導率が低いアルミニウムおよびアルミニウム合金で構成される。このため、ヒートスプレッダ2の接続部間の温度分布が発生しやすく、ヒートスプレッダ2に搭載された電力半導体素子間の温度差が拡大する。
【0039】
次に、実施の形態1に係る電力半導体装置200に用いる電力半導体モジュール100の製造方法について説明する。
【0040】
トランスファーモールド型の電力半導体モジュールの製造工程は、すべてのリードがつながっており同電位になっているリードフレームとヒートスプレッダ上に、電力半導体素子および配線用の個片のリードなどの配線部材を実装し、モールド樹脂で封止して一体化した後に、リードフレームの不要な部分を切り落とすことで、配線パターン状のリードが形成され内部の回路が完成する。
【0041】
図8は、実施の形態1に係る電力半導体装置200に用いる電力半導体モジュール100の製造方法での製造工程を示すフローチャート図である。
【0042】
まず、電力半導体素子1を第1のヒートスプレッダ2aに接合する(ステップS801)。電力半導体素子1を接合する際に、ヒートスプレッダ上にあらかじめはんだ、または焼結用のペーストを塗布し、その上に電力半導体素子1を搭載する。次に、加熱処理、または加圧しながら加熱処理をすることで、電力半導体素子の裏面とヒートスプレッダの裏面が接合される。
【0043】
続いて、第1のヒートスプレッダ2aをリードフレームに接合する(ステップS802)。リードフレームにあらかじめ第1のヒートスプレッダ2aとの接合部が設けられており、この接合部と第1のヒートスプレッダ2aが接続される。接続方法は、はんだ接合や溶接等を用いる。
【0044】
次いで、信号線を接続する(ステップS803)。リードフレームに、電力半導体モジュール100の外部と信号をやり取りするために端子が設けられており、この端子と電力半導体素子1の上面に設けられた信号パッドを接続する。接続にはワイヤーボンドを用いる。
【0045】
続いて、表面に絶縁層9を塗工(ステップS804)した第2のヒートスプレッダ2bの表面に第1のヒートスプレッダ2aを接合する(ステップS805)。トランスファー成型用の金型に、表面に絶縁層を塗工した第2のヒートスプレッダ2bを配置し、その上にリードフレームと接続された第1のヒートスプレッダ2aを搭載する。
【0046】
リードフレームを搭載した状態でトランスファーモールド成型する(ステップS806)。表面に絶縁層9が塗工された第2のヒートスプレッダ2bの上に、第1のヒートスプレッダ2aが搭載された状態でトランスファー成型にて、全体を覆うように封止する。この時、第2のヒートスプレッダ2bの裏面は、モールド樹脂4に覆われないように構成する。第2のヒートスプレッダ2bの裏面は放熱経路となっており、熱伝導率が比較的低いモールド樹脂4を配置しないことで、放熱性の低下を回避する。
【0047】
次いで、モールド樹脂4から突出したリード3の形状を成型する(ステップS807)。この工程で、リードを電力半導体モジュール100の外部のバスバーや制御基板等と接続できるように、任意の形状にリード3を折り曲げる。
【0048】
最後に、ヒートシンク10と電力半導体モジュール100を接合することで電力半導体装置が形成される(ステップS808)。
【0049】
これにより、第2のヒートスプレッダ2bにあらかじめ塗工した絶縁層9と第1のヒートスプレッダ2aが押し付けられた状態で、モールド樹脂4で一体にトランスファーモールド成型されることで、電力半導体モジュール100の外部で絶縁構造を設けるのに対して、製造時に絶縁層を効率よく形成でき、絶縁層9の厚さを薄く均一に形成できるため、生産性を損なうことなく、高い絶縁性と放熱性の向上が両立できる。
【0050】
図9は、実施の形態1に係る電力半導体装置200に用いるヒートスプレッダ2の構成を示す平面図である。
図9に示すように、複数の第1のヒートスプレッダ2aが、一つの第2のヒートスプレッダ2bの上に搭載されている。この構成により、第2のヒートスプレッダ2bを一つの形状にすることで、所定の形状の加工する工程が少なくて済むため生産性が高く、部品点数も少なくできる。また、第2のヒートスプレッダ2bでの熱の拡散方向が増え、放熱性と電力半導体素子間の温度差の低減がさらに促進される。
【0051】
実施の形態1では、第2のヒートスプレッダ2bを一つの矩形の形状としたが、さらに第2のヒートスプレッダ2bに切り欠き部を設けてもよい。
図10は、実施の形態1に係る電力半導体装置200に用いるヒートスプレッダ2の他の構成を示す平面図である。
図10に示すように、第2のヒートスプレッダ2bが一つ形状で構成されているとともに、上アーム7bの3個の電力半導体素子1を搭載する1個の第1のヒートスプレッダ2a側の第2のヒートスプレッダ2bに切欠き部2bcを備えることで、第1のヒートスプレッダ2aから伝わった熱の広がり方を、第2のヒートスプレッダ2bの伝熱面積で調整することが可能となり、電力半導体素子間の温度差をさらに小さくすることができる。また、不要な第2のヒートスプレッダ2bを切欠き部2bcでなくすことで、軽量化につながる。
【0052】
以上のように、本実施の形態1に係る電力半導体装置200によれば、3相インバータ回路を構成する上アーム7bの複数の電力半導体素子1および下アーム7aの複数の電力半導体素子1、3相インバータ回路の上アーム7bの複数の電力半導体素子1の正極側電極と外部を接続するための第1のリードであるNリード3a、3相インバータ回路の下アーム7aの複数の電力半導体素子1の負極側電極と外部を接続するための第2のリードであるPリード3b、それぞれの表面に一または複数の電力半導体素子1が接合された複数の第1のヒートスプレッダ2a、複数の第1のヒートスプレッダ2aの裏面が、絶縁層9を介して表面に接合された第2のヒートスプレッダ2b、および電力半導体素子1と第1のヒートスプレッダ2aの実装周囲を封止するモールド樹脂4を有する電力半導体モジュール100と、電力半導体モジュール100の裏面に接合されたヒートシンク10と、を備えるようにしたので、小型・軽量化が容易な3相インバータ回路を内蔵した電力半導体モジュールにおいても、配線経路のインダクタンスを低減して電力半導体素子で生じるスイッチング損失を低減するともに、電力半導体素子間で生じる放熱経路の熱抵抗の違いによって生じる電力半導体素子の温度差を低減することが可能となり、小型・軽量でありながら高出力化が実現できる。
【0053】
実施の形態2.
実施の形態1では、1つの第2のヒートスプレッダ2bの場合について説明したが、実施の形態2では、第2のヒートスプレッダ2bが2つの場合について説明する。
【0054】
図11は、実施の形態2に係る電力半導体装置201に用いるヒートスプレッダ2の構成を示す平面図である。
図12は、
図11のGGの位置での電力半導体装置201の矢視断面図である。
【0055】
図11および
図12に示すように、第2のヒートスプレッダ2bは、2個に分割されて対称な位置に配置され、2個の第2のヒートスプレッダ2bの切り欠き部がそれぞれ接しないように隙間を持った状態で、互い違いに組み合わされるように配置される。2個の第2のヒートスプレッダ2bの隙間Hにはモールド樹脂4が充填されている。実施の形態2に係る電力半導体装置201のその他の構成については、実施の形態1の電力半導体装置200の構成と同様であり、対応する部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0056】
これにより、2個の第2のヒートスプレッダ2bが対称な位置に配置されることで、電力半導体素子間の温度差を小さくできるだけでなく、ヒートスプレッダ2の隙間Hにモールド樹脂4が配置されることで、モジュールに温度変化が生じたときにモールド樹脂4とヒートスプレッダ2の間の線膨張係数差で生じる反りを小さくすることができる。
【0057】
これは、モールド樹脂4の線膨張係数が、ヒートスプレッダ2の線膨張係数よりも小さく設定されているため、第2のヒートスプレッダ2bの間に配置された樹脂分、変化時の伸びが低下し反りが低減する。また、モールド樹脂4は、ヒートスプレッダ2よりも弾性率が低く、温度変化時にヒートスプレッダ2が拡大収縮した際に、モールド樹脂4が変形することで反りが抑制される。この結果、ヒートシンク10との間の距離を保つことで、熱抵抗が均一になり、電力半導体素子1からの温度が均一化される。
【0058】
実施の形態2では、第2のヒートスプレッダ2bを2つに分割したがこれに限るものではなく、3つ以上に分割してもよい。
図13は、実施の形態2に係る電力半導体装置201に用いるヒートスプレッダ2の他の構成を示す平面図である。
図14は
図13のIIの位置での電力半導体装置201の矢視断面図である。
【0059】
図13および
図14に示すように、第2のヒートスプレッダ2bは、3個に分割され、3個の第2のヒートスプレッダ2bがそれぞれ接しないように隙間を持った状態で配置される。3個の第2のヒートスプレッダ2bの隙間Iにはモールド樹脂4が充填されている。
【0060】
この場合も、3個の第2のヒートスプレッダ2bが分離して配置され、ヒートスプレッダ2の隙間Jにモールド樹脂4が配置されることで、モジュールに温度変化が生じたときにモールド樹脂4とヒートスプレッダ2の間の線膨張係数差で生じる反りを小さくすることができる。
【0061】
これは、モールド樹脂4の線膨張係数が、ヒートスプレッダ2の線膨張係数よりも小さく設定されているため、第2のヒートスプレッダ2bの間に配置された樹脂分温度変化時の伸びが低下し反りが低減する。また、モールド樹脂4は、ヒートスプレッダ2よりも弾性率が低く、温度変化時にヒートスプレッダ2が拡大収縮した際に、モールド樹脂4が変形することで反りが抑制される。この結果、ヒートシンク10との間の距離を保つことで、熱抵抗が均一になり、電力半導体素子1からの温度が均一化される。
【0062】
また、3個の第2のヒートスプレッダ2bには、それぞれ3相インバータ回路の各相の上アーム7bの電力半導体素子1と下アーム7aの電力半導体素子1が1個ずつ、一つの第2のヒートスプレッダ2b上に配置されている。
【0063】
これにより、3相インバータ回路の相毎に、上アーム7bと下アーム7aの電力半導体素子1が同じ第2のヒートスプレッダに搭載され、上アームと下アームの熱が第2のヒートスプレッダで拡散されるため、同じ相の上アームと下アームの温度差が縮小する。また、電力半導体素子1の発熱量が大きい電力半導体装置の場合、第1のヒートスプレッダが一体である上アームの電力半導体素子1同士の熱が干渉する場合に、第2のヒートスプレッダ2bの隙間Jにモールド樹脂4が間にあるため、干渉しにくくなり、中央の電力半導体素子1の温度が高くなるのを防ぐことができる。
【0064】
以上のように、本実施の形態2に係る電力半導体装置201によれば、第2のヒートスプレッダ2bを、複数に分割して、分割部がそれぞれ接しないように一定間隔Hを保持して配置し、間隔Hにはモールド樹脂4を充填するようにしたので、実施の形態1の効果だけでなく、分割したヒートスプレッダの隙間にモールド樹脂を配置することで、モジュールに温度変化が生じたときにモールド樹脂とヒートスプレッダの間の線膨張係数差で生じる反りを小さくすることができ、ヒートシンクとの間の距離を保つことで、熱抵抗が均一になり、電力半導体素子からの温度が均一化される。
【0065】
分割された第2のヒートスプレッダ2bに、それぞれ3相インバータ回路の相毎に上アーム7bの一の電力半導体素子1と下アーム7aの一の電力半導体素子1を対で配置するようにしたので、上アームと下アームの熱が第2のヒートスプレッダで拡散されるため、同じ相の上アームと下アームの温度差が縮小する。また、電力半導体素子の発熱量が大きい電力半導体装置の場合、第1のヒートスプレッダが一体である上アームの電力半導体素子同士の熱が干渉する場合に、第2のヒートスプレッダの隙間にモールド樹脂が間にあるため、干渉しにくくなり、中央部にある電力半導体素子の温度が高くなるのを防ぐことができる。
【0066】
実施の形態3.
実施の形態1および実施の形態2では、空冷式のヒートシンク10を用いたが、実施の形態3では、水冷式のヒートシンクを用いた場合について説明する。
【0067】
図15は、実施の形態3に係る電力半導体装置202の構成を示す断面図である。
図15に示すように、電力半導体装置202は、ヒートシンク12が、内部に流体、例えば水を流して冷却する構成を備え、流体の上流側から下流側に向けて下アーム7aの電力半導体素子1が3個並べるように配置される。なお、電力半導体装置202は、流体の上流側から下流側に向けて上アーム7bもしくは下アーム7aの電力半導体素子1の少なくともどちらかが3個並べるように配置されていればよい。
【0068】
並べられた3個の電力半導体素子1の搭載間隔と第1のヒートスプレッダ2aの流体の流れる方向Kの幅のそれぞれの値は、下流側の寸法値が上流側の値よりも全体として大きくなる(電力半導体素子1の搭載間隔:W10<W20、第1のヒートスプレッダ2aの幅:2W1<W2+W3)ようにする。
【0069】
例えば、
図15に示したように、水冷式のヒートシンク12では、冷媒となる水はヒートシンク12の中を流れながら電力半導体モジュール100の熱を水中に取り込む。この際、ヒートシンク12のフィン12aから水に伝達される熱量は、ヒートシンク12の温度と、水の温度の差に比例する。水の流れ(K方向)の下流側では上流側の熱を取り込み水の温度が上昇するため、フィン12aとの温度差が小さくなり、放熱性が低下するため、下流側に配置された電力半導体素子1の温度が他よりも高くなる。この温度差を均一にするため、下流側の電力半導体素子1が搭載される第1のヒートスプレッダ2aの面積を他の第1のヒートスプレッダ2aよりも面積を大きくする。この結果、電力半導体素子1間の温度が縮小し、高出力化が可能となる。
【0070】
以上のように、本実施の形態3に係る電力半導体装置202によれば、ヒートシンク12は、内部に冷媒を流して冷却する構成を有し、前記冷媒の流れる上流から下流方向に、上アーム7bの電力半導体素子1および/または下アーム7aの電力半導体素子1を並べ、並べられた電力半導体素子1の搭載間隔と第1のヒートスプレッダ2aの冷媒の流れる方向の幅のそれぞれの値は、下流側の方が上流側よりも全体として大きくなるようにしたので、実施の形態1の効果だけでなく、さらに電力半導体素子間の温度が縮小し、高出力化が可能となる。
【0071】
本願は、様々な例示的な実施の形態および実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、および機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0072】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0073】
(付記1)
上アームの複数の半導体素子および下アームの複数の半導体素子、前記上アームの前記複数の半導体素子の正極側電極と外部を接続するための第1のリード、前記下アームの複数の半導体素子の負極側電極と外部を接続するための第2のリード、それぞれの表面に一または複数の前記半導体素子が接合された複数の第1のヒートスプレッダ、複数の前記第1のヒートスプレッダの裏面が、絶縁層を介して表面に接合された第2のヒートスプレッダ、および前記半導体素子と前記第1のヒートスプレッダの実装周囲を封止するモールド樹脂を有する電力半導体モジュールと、
前記電力半導体モジュールの裏面に接合されたヒートシンクと、
を備えたことを特徴とする電力半導体装置。
(付記2)
前記第1のヒートスプレッダおよび前記第2のヒートスプレッダは、材質が前記ヒートシンクと異なることを特徴とする付記1に記載の電力半導体装置。
(付記3)
前記上アームの前記複数の半導体素子は直線状に並べられ、前記下アームの前記複数の半導体素子は直線状に並べられ、前記上アームの前記複数の半導体素子と前記下アームの前記複数の半導体素子が、線対称の位置にあることを特徴とする付記1または付記2に記載の電力半導体装置。
(付記4)
前記第1のリードと前記第2のリードは、前記モールド樹脂から外部と同方向で接続することを特徴とする付記1から付記3のいずれか1項に記載の電力半導体装置。
(付記5)
前記上アームの前記複数の半導体素子の正極側電極は、一つの第1のヒートスプレッダに接合されていることを特徴とする付記1から付記4のいずれか1項に記載の電力半導体装置。
(付記6)
前記第2のヒートスプレッダは、切り欠き部を有することを特徴とする付記1から付記5のいずれか1項に記載の電力半導体装置。
(付記7)
前記第2のヒートスプレッダは、複数に分割され、分割部がそれぞれ接しないように一定間隔を保持して配置され、前記間隔には前記モールド樹脂が充填されていることを特徴とする付記1から付記6のいずれか1項に記載の電力半導体装置。
(付記8)
前記分割された第2のヒートスプレッダには、それぞれインバータ回路の相毎に前記上アームの一の半導体素子と前記下アームの一の半導体素子を対で配置したことを特徴とする付記7に記載の電力半導体装置。
(付記9)
前記ヒートシンクは、内部に冷媒を流して冷却する構成を有し、前記冷媒の流れる上流から下流方向に、前記上アームの半導体素子および/または前記下アームの半導体素子が並べられたことを特徴とする付記1から付記8のいずれか1項に記載の電力半導体装置。
(付記10)
前記並べられた半導体素子の搭載間隔と前記第1のヒートスプレッダの前記冷媒の流れる方向の幅のそれぞれの値は、下流側の方が上流側よりも全体として大きくなるように設けられたことを特徴とする付記9に記載の電力半導体装置。
(付記11)
前記第2のヒートスプレッダは、厚さが前記第1のヒートスプレッダよりも大きいことを特徴とする付記1から付記10のいずれか1項に記載の電力半導体装置。
(付記12)
前記第1のヒートスプレッダと前記第2のヒートスプレッダは、ともに厚さが、1mm以上、5mm以下であることを特徴とする付記11に記載の電力半導体装置。
(付記13)
半導体素子を第1のヒートスプレッダに接合する工程と、
前記第1のヒートスプレッダをリードフレームに接合する工程と、
第2のヒートスプレッダの表面に絶縁層を塗工する工程と、
前記絶縁層を塗工した第2のヒートスプレッダの表面に前記第1のヒートスプレッダを載置する工程と、
前記半導体素子、前記第1のヒートスプレッダ、および前記第2のヒートスプレッダを、前記リードフレームを搭載した状態でトランスファーモールド成型する工程と、
を含むことを特徴とする電力半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0074】
1 電力半導体素子、2 ヒートスプレッダ、2a 第1のヒートスプレッダ、2b 第2のヒートスプレッダ、3 リード、3a Nリード(第1のリード)、3b Pリード(第2のリード)、4 モールド樹脂、7a 下アーム、7b 上アーム、9 絶縁層、10、12 ヒートシンク、100 電力半導体モジュール、200、201、202 電力半導体装置。