(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157714
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/14 20160101AFI20241031BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20241031BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20241031BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20241031BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20241031BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20241031BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20241031BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20241031BHJP
B60W 30/14 20060101ALI20241031BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20241031BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
B60W20/14 ZHV
B60K6/48
B60K6/543
B60K6/547
B60W20/40
B60L50/60
B60L50/16
B60L7/14
B60W30/14
B60T8/17 C
B60T7/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072235
(22)【出願日】2023-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 健
【テーマコード(参考)】
3D202
3D241
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB15
3D202BB40
3D202BB54
3D202BB55
3D202CC05
3D202CC07
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3D202FF05
3D202FF06
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3D241CB02
3D241CB03
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3D246AA09
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3D246JB11
3D246LA15Z
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125CB05
(57)【要約】
【課題】エンジン、モータ、およびブレーキ機構による制動力を適切に制御して燃費を向上させることができるハイブリッド車両の制動制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンを連れ回すことによるエンジンブレーキ力と、モータから回生トルクを出力することによる回生ブレーキ力と、ブレーキ機構によって摩擦トルクを車輪に作用させることによる摩擦ブレーキ力とを選択的に発生させることができ、かつ運転者が運転操作することなく設定された目標車速となるように駆動力と制動力とを制御して定速走行するクルーズコントロールが可能なハイブリッド車両の制動制御装置であって、クルーズコントロールによって制動力が要求された場合に、回生ブレーキ力および摩擦ブレーキ力を、エンジンブレーキ力に優先して発生させるように構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源としてのエンジンおよびモータと、車輪に設けられたブレーキ機構とを備え、前記エンジンを連れ回すことによるエンジンブレーキ力と、前記モータから回生トルクを出力することによる回生ブレーキ力と、前記ブレーキ機構によって摩擦トルクを前記車輪に作用させることによる摩擦ブレーキ力とを選択的に発生させることができ、かつ運転者が運転操作することなく設定された目標車速となるように駆動力と制動力とを制御して定速走行するクルーズコントロールが可能なハイブリッド車両の制動制御装置であって、
前記エンジン、前記モータ、および前記ブレーキ機構を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記クルーズコントロールによって制動力が要求された場合に、前記回生ブレーキ力および前記摩擦ブレーキ力を、前記エンジンブレーキ力に優先して発生させるように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、モータ、およびブレーキ機構によって車輪で制動力を発生させることができるハイブリッド車両の制動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、定速走行制御により要求される減速度を発生させるために駆動力源および摩擦ブレーキを制御する装置が記載されている。この制御装置は、ビジーシフトの抑制と、摩擦ブレーキが昇温することによる性能低下(フェード現象)の抑制とを目的として構成されていて、減速要求があった場合には、まず、駆動力源の要求駆動力を低下させ、その後に、要求減速度を充足させるように摩擦ブレーキを制御する。続いて、摩擦ブレーキによる摩擦制動力が所定値以上の高負荷状態が、予め定められた所定時間以上、継続した場合に、変速機の変速比を増大させるダウンシフトを実行するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された制御装置は、変速機構の変速比を増大させるダウンシフトを実行することによりエンジンブレーキを増加させて減速度を増加させるように構成されている。しかしながら、エンジンとモータとを駆動力源として備えたハイブリッド車両の場合には、モータを発電機として機能させることにより回生トルクを発生させるとともに、その回生トルクの大きさに応じた発電電力を得ることができるため、上記のようにダウンシフトを実行してエンジンブレーキを増加させると、モータに要求される回生トルクが減少して、回生可能な発電電力が低下する可能性がある。このような場合には、蓄電装置の充電電力を増加させる機会が減少することになる。そのため、駆動走行時に蓄電装置からモータに出力可能な電力量が少なくなり、エンジンを停止しまたはエンジンの負荷を低下させて走行することができる距離や期間が短くなり、燃費が悪化する可能性がある。
【0005】
また、エンジンを停止してモータのみのトルクを制御して走行している場合に、制動要求があることによりエンジンブレーキを発生させるとすると、まず、エンジンを始動することになる。そのような場合には、エンジンを始動させるために、一時的に燃料が噴射され、その後に、燃料の噴射を停止してエンジンを連れ回すことによるエンジンブレーキを発生させることになる。したがって、エンジンの始動に伴って不可避的に燃料が使用されることになるため、燃費が悪化する可能性がある。
【0006】
すなわち、エンジン、モータ、およびブレーキ機構によって制動力を発生可能なハイブリッド車両において、燃費を向上させるために、制動走行時における制動力を制御する装置を開発する余地があった。
【0007】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、エンジン、モータ、およびブレーキ機構による制動力を適切に制御して燃費を向上させることができるハイブリッド車両の制動制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、駆動力源としてのエンジンおよびモータと、車輪に設けられたブレーキ機構とを備え、前記エンジンを連れ回すことによるエンジンブレーキ力と、前記モータから回生トルクを出力することによる回生ブレーキ力と、前記ブレーキ機構によって摩擦トルクを前記車輪に作用させることによる摩擦ブレーキ力とを選択的に発生させることができ、かつ運転者が運転操作することなく設定された目標車速となるように駆動力と制動力とを制御して定速走行するクルーズコントロールが可能なハイブリッド車両の制動制御装置であって、前記エンジン、前記モータ、および前記ブレーキ機構を制御するコントローラを備え、前記コントローラは、前記クルーズコントロールによって制動力が要求された場合に、前記回生ブレーキ力および前記摩擦ブレーキ力を、前記エンジンブレーキ力に優先して発生させるように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運転者が運転操作することなく定速で走行可能なクルーズコントロールの制動走行時に、回生ブレーキ力や摩擦ブレーキ力をエンジンブレーキ力に優先して設定することにより、エンジンを停止させた状態を維持する期間を長くし、またはエンジンが始動される頻度を低下させることができる。その結果、エンジンを始動するために燃料が噴射されることを抑制でき、あるいはエンジンの回転数を所定回転数以上に維持するための燃料噴射を抑制することができるため、ハイブリッド車両の燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の一例を説明するための模式図である。
【
図2】ECUの機能を説明するためのブロック図である。
【
図3】走行制御部で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】要求制動力を充足させるための各ブレーキ力の大きさの一例を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の一例を
図1に模式的に示してある。
図1に示すハイブリッド車両(以下、単に車両と記す。)Veは、エンジン(Eng)1とモータ2とを駆動力源として備えている。
【0012】
エンジン1は、従来のエンジンと同様に構成することができる。すなわち、吸入空気量を制御するスロットルバルブ、燃料を噴射する燃料噴射装置、空気と燃料との混合気を点火する点火プラグなどが設けられ、エンジン1に要求される出力トルクに基づいて、スロットル開度や、燃料噴射量(0を含む)、あるいは点火時期などを制御できるように構成されている。
【0013】
また、エンジン1への燃料の噴射を停止して、エンジン1が連れ回されることにより、エンジン1を構成する部材のフリクショントルクを発生させることができるように構成されている。そのようにフリクショントルクを発生させることにより車両Veに作用するブレーキ力(制動力)を、以下の説明ではエンジンブレーキ力と記す。
【0014】
このエンジン1には、エンジン回転数を制御するための自動変速機(T/M)3が連結されている。自動変速機3は、変速比をステップ的に変化させる有段式の変速機構であってもよく、変速比を連続的に変化させる無段式の変速機構であってもよい。また、自動変速機3は、エンジン1と自動変速機3における出力軸4との間のトルクの伝達を選択的に遮断することができるように構成されている。
【0015】
例えば、自動変速機3が複数の係合装置を備え、その係合装置を選択的に係合することによって変速段を設定するように構成された有段式の変速機構である場合には、それらの係合装置を解放することによってエンジン1と出力軸4との間のトルクの伝達を遮断することができる。また、自動変速機3が無段式の変速機構である場合には、変速比を変更する変速部の入力側または出力側のいずれか一方に、クラッチ機構を設け、そのクラッチ機構を解放することによってエンジン1と出力軸4との間のトルクの伝達を遮断することができる。あるいは、自動変速機3が、エンジン1と、出力軸4と、図示しないモータなどの反力機構とが差動回転可能に連結された変速機構の場合には、その反力機構から反力トルクを出力しないことにより、エンジン1と出力軸4との間のトルクの伝達を遮断することができる。
【0016】
図1に示す車両Veでは、自動変速機3の出力軸4は、モータ2を貫通して設けられるとともに、モータ2のロータがスプラインなどによって一体回転可能に連結されている。すなわち、出力軸4にモータ2のトルクを付加することができるように構成されている。
【0017】
このモータ2は、従来のハイブリッド車両や電気自動車の駆動力源として設けられたモータと同様に構成することができる。すなわち、図示しない蓄電装置から通電される電力によって駆動トルクを出力するモータとしての機能に加えて、出力軸4の回転数を低下させる方向のトルク(回生トルク)を発生させつつモータ2が連れ回されることにより、その動力の一部を電力に変換して蓄電装置を充電する発電機として機能することができるように構成されている。具体的には、誘導モータや同期モータなどの交流モータによって構成することができる。なお、回生トルクを発生させることにより車両Veに作用するブレーキ力を、以下の説明では、回生ブレーキ力と記す。
【0018】
また、車両Veには、従来の種々の車両と同様に、各車輪5に制動トルクを作用させるためのブレーキ機構6が設けられている。このブレーキ機構6は、車輪5に連結されたブレーキディスク7と、車両Veに連結されたブレーキキャリパ8とによって構成され、ブレーキ機構6に要求される制動トルクに応じた押圧力でブレーキキャリパ8をブレーキディスク7に接触させることにより、ブレーキキャリパ8とブレーキディスク7との摩擦力に応じた摩擦トルクを発生させるように構成されている。なお、摩擦トルクを発生させることにより車両Veに作用するブレーキ力を、以下の説明では、摩擦ブレーキ力と記す。
【0019】
上記のエンジン1、自動変速機3、モータ2、およびブレーキ機構6は、電子制御装置(以下、ECUと記す。)9によって制御される。ECU9は、従来の車両に設けられたECUと同様に、マイクロコンピュータを主体に構成され、入力される信号と、予め記憶されているマップや演算式などとに基づいて、エンジン1、自動変速機3、モータ2、およびブレーキ機構6を制御するための指令信号を出力するように構成されている。このECU9が、本発明の実施形態における「コントローラ」に相当する。
【0020】
ECU9に入力される信号は、例えば、車速を検出する車速センサの信号、エンジン1の出力軸の回転角(または回転数)を検出するクランク角センサの信号、アクセル操作量を検出するアクセル開度センサの信号、ブレーキ操作量を検出するブレーキセンサの信号、後述するクルーズコントロールを実行する際に運転者によって操作されるスイッチの信号、蓄電装置の充電残量(SOC)を検出するSOCセンサの信号、蓄電装置とモータ2とが授受する電力を制御するインバータなどのパワーコントロールユニットの温度を検出する温度センサの信号、先行車両との車間距離を検出するレーダの信号などである。
【0021】
このECU9は、運転者が要求(設定)した車速を維持するように駆動力や制動力を自動的に制御して走行する定速走行制御(クルーズコントロール)を実行することができるように構成されている。なお、クルーズコントロールには、先行車両との車間距離が予め定められた距離よりも短くなった場合に、車間距離が過度に短くなることを抑制するために設定されている目標車速を低下させるアダプティブクルーズコントロールが含まれる。
【0022】
図2には、ECU9の機能を説明するためのブロック図を示してある。
図1に示すECU9は、クルーズコントロール部10、走行制御部11、エンジン制御部12、充電制御部13、およびブレーキ制御部14を備えている。
【0023】
クルーズコントロール部10には、クルーズコントロールを実行する際に運転者によって操作されるスイッチの信号、クルーズコントロールにおける目標車速の信号、車速センサによって検出された実車速の信号、および先行車両との車間距離を検出するレーダの信号が入力される。そして、クルーズコントロールを実行する場合には、目標車速と実際の車速との偏差に基づいて要求駆動力を演算し、または要求制動力を演算する。これらの要求駆動力や要求制動力を演算する手段は、従来のクルーズコントロールと同様に行うことができる。また、車間距離が予め定められた車間距離よりも短い場合には、車間距離を広くするために目標車速を低車速側に変更する。
【0024】
本発明の実施形態における制動制御装置は、クルーズコントロール時における制動力を定めるためのものであるため、以下の説明では、クルーズコントロール部10によって要求制動力が演算された場合について説明する。
【0025】
図1に示す例では、クルーズコントロール部10によって要求制動力(目標制動力)が演算されると、その信号が走行制御部11に入力される。また、走行制御部11には、エンジン制御部12により演算されるエンジンブレーキ力の最大値(以下、最大エンジンブレーキ力と記す。)のデータがエンジン制御部12から入力され、充電制御部13により演算される回生ブレーキ力の最大値(以下、最大回生ブレーキ力と記す。)のデータが充電制御部13から入力され、ブレーキ機構6の負荷(以下、ブレーキ負荷と記す。)がブレーキ制御部14から入力される。
【0026】
走行制御部11は、後述するフローチャートに基づいて、エンジン1、自動変速機3、モータ2、およびブレーキ機構6によって発生させる各ブレーキ力を定め、エンジンブレーキ力の要求量をエンジン制御部12に出力し、回生ブレーキ力の要求量を充電制御部13に出力し、摩擦ブレーキ力の要求量をブレーキ制御部14に出力するように構成されている。なお、エンジンブレーキ力の要求量には、エンジン1の始動や停止要求が含まれる。
【0027】
エンジン制御部12は、エンジンブレーキ力が要求されている場合に、その要求されたエンジンブレーキ力を出力するために、エンジン1の出力と、自動変速機3の変速比とを制御するように構成されている。具体的には、車速と自動変速機3によって設定されている変速比とから求められるエンジン回転数が自立回転可能な回転数以上となる場合には、エンジン1への燃料噴射を停止するフューエルカット制御を実行し、そのエンジン回転数が自立回転可能な回転数未満となる場合には、自立回転可能な回転数を維持するためにスロットルバルブ、燃料噴射装置、および点火プラグを制御する。
【0028】
また、エンジンブレーキ力は、エンジンボアとピストンとの摺動抵抗などのエンジン1を構成する部材のフリクショントルクに起因するものであり、エンジン回転数に応じた大きさとなる。したがって、エンジン制御部12は、要求されるエンジンブレーキ力を充足できるエンジン回転数となるように、自動変速機3の変速比を制御する。すなわち、要求されるエンジンブレーキ力を発生させるためのエンジン回転数を求め、そのエンジン回転数と車速とから自動変速機3の変速比を演算し、必要に応じて自動変速機3の変速比を変更する。
【0029】
さらに、エンジン制御部12は、最大エンジンブレーキ力を演算し、そのデータを走行制御部11に出力するように構成されている。すなわち、エンジン1の最大回転数と、上記のフリクショントルクとに基づいて最大エンジンブレーキ力を求め、そのデータを走行制御部11に出力する。なお、エンジン1の最大回転数は、エンジン1を保護するために定められたエンジンの上限回転数や、車速と最大変速比とに基づいて求められるエンジン1の最大回転数が含まれる。
【0030】
充電制御部13は、回生ブレーキ力が要求されている場合に、その要求された回生ブレーキ力を出力するために、モータ2の回生トルクを制御するように構成されている。また、モータ2の回生トルクは、モータ2の回転数、蓄電装置の充電残量、パワーコントロールユニットの温度などに基づいて制限される。したがって、充電制御部13は、それらの種々のパラメータに基づいて最大回生ブレーキ力を求め、そのデータを走行制御部11に出力する。
【0031】
ブレーキ制御部14は、摩擦ブレーキ力が要求されている場合に、その要求された摩擦ブレーキ力を出力するために、ブレーキ機構6の摩擦トルクを制御するように構成されている。また、ブレーキ機構6は、その温度が予め定められた上限温度以上に昇温すると、ブレーキ力が低下するフェード現象が生じる。そのため、ブレーキ制御部14は、ブレーキ機構6の負荷(温度)を求め、そのデータを走行制御部11に出力する。
【0032】
図3には、走行制御部11で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートを示してある。
図3に示す制御例は、クルーズコントロール部10により制動要求があった場合に実行される。なお、制動要求には、車両Veを減速させるために制動力を発生させる要求に加えて、例えば、降坂路を走行している場合に、車速を維持するために制動力を発生させる要求を含む。
【0033】
制動要求があることにより
図3に示す制御が実行されると、走行抵抗のみによって要求制動力を充足できるか否かを判断する(ステップS1)。すなわち、モータ2による回生トルクや、ブレーキ機構6による摩擦トルクを発生させることなく、車輪5に連結された構成部材の摺動抵抗や、車両Veに作用する走行抵抗などによって要求制動力を充足できるか否かを判断する。
【0034】
走行抵抗のみによって要求制動力を充足できることによりステップS1で肯定的に判断された場合は、走行抵抗のみで制動して(ステップS2)、このルーチンを一旦終了する。すなわち、モータ2やブレーキ機構6によってトルクを発生させない。それとは反対に、走行抵抗のみによって要求制動力を充足することができないことによりステップS1で否定的に判断された場合は、回生ブレーキ力のみで要求制動力を充足することができるか否かを判断する(ステップS3)。このステップS3は、充電制御部13から走行制御部11に入力される最大回生ブレーキ力が要求制動力以上であるか否かに基づいて判断することができる。
【0035】
要求制動力を回生ブレーキ力のみで発生することができることによりステップS3で肯定的に判断された場合は、要求制動力に応じた回生ブレーキ力を発生させるようにモータ2の回生トルクを制御して(ステップS4)、このルーチンを一旦終了する。すなわち、ブレーキ機構6によって摩擦ブレーキ力を発生させない。
【0036】
図4には、要求制動力を出力するためのブレーキの種別(区分け)を模式的に示してあり、ステップS4が実行された場合には、
図4(a)に示すように回生ブレーキ力のみ出力する。
【0037】
それとは反対に、要求制動力を回生ブレーキ力のみでは発生することができないことによりステップS3で否定的に判断された場合は、緊急性が高いか否かを判断する(ステップS5)。このステップS5は、例えば、先行車両が比較的大きな減速度で減速したことにより、車間距離の減少率が所定率以上となったか否かや、先行車両と自車両Veとの間に他の車両が急な車線変更をしてきたか否かなどに基づいて判断することができる。なお、これらの判断はレーダの検出値などに基づいて判断することができる。
【0038】
緊急性が高いことによりステップS5で肯定的に判断された場合には、車両Veを構成する部材の保護などに優先して制動する必要があるため、要求制動力を充足するように回生ブレーキ力と摩擦ブレーキ力とを発生させて(ステップS6)、このルーチンを一旦終了する。具体的には、
図4(b)に示すように最大回生ブレーキ力を発生させ、要求制動力と最大回生ブレーキ力との差分の制動力となるように摩擦ブレーキ力を発生させる。なお、蓄電装置の充電残量が上限値に到達しているなどにより、回生ブレーキ力を発生させることができない場合には、
図4(c)に示すように要求制動力の大きさに応じた摩擦ブレーキ力のみを発生させる。
【0039】
それとは反対に、緊急性が高くないことによりステップS5で否定的に判断された場合は、要求制動力に応じた摩擦ブレーキ力を発生させた場合、または要求制動力から最大回生ブレーキ力を減じた大きさの摩擦ブレーキ力を発生させた場合に、ブレーキ負荷が許容値以上となるか否かを判断する(ステップS7)。このステップS7は、ブレーキ機構6のブレーキ性能が低下するフェード現象が生じることを抑制するためのステップであって、例えば、ブレーキ機構6の温度が所定温度以上であるか否かに基づいて判断することができる。
【0040】
ブレーキ負荷が許容値以上とならないことによりステップS7で否定的に判断された場合は、ブレーキ機構6による摩擦ブレーキ力を使用することができる。したがって、ステップS6に移行して、このルーチンを一旦終了する。すなわち、最大回生ブレーキ力を発生させ、要求制動力と最大回生ブレーキ力との差分の制動力となるように摩擦ブレーキ力を発生させる。なお、蓄電装置の充電残量が上限値に到達しているなどにより、回生ブレーキ力を発生させることができない場合には、要求制動力の大きさに応じた摩擦ブレーキ力のみを発生させる。
【0041】
それとは反対に、ブレーキ負荷が許容値以上となることによりステップS7で否定的に判断された場合には、摩擦ブレーキ力による制動力を得ることができず、または回生ブレーキ力と摩擦ブレーキ力とを許容範囲で使用したとしても要求制動力を充足することができない。そのため、ステップS7で否定的に判断された場合には、エンジンブレーキ力を使用可能か否かを判断し、エンジンブレーキ力を使用できる場合には、回生ブレーキ力、摩擦ブレーキ力に加えてまたは代えて、エンジンブレーキ力を使用する。
【0042】
具体的には、エンジン1が停止中であるか否かを判断する(ステップS8)。このステップS8におけるエンジン1の停止とは、エンジン1が回転していないことの意である。したがって、ステップS8は、クランク角センサの検出値に基づいて判断することができる。エンジン1が停止中であることによりステップS8で肯定的に判断された場合は、エンジン1を始動した後にフューエルカット制御(F/C)を行うことによりエンジンブレーキ力を使用することができるか否かを判断する(ステップS9)。例えば、極低車速であって自動変速機3の変速比を最大変速比に設定したとしてもエンジン回転数が自立回転数以下となる場合などにエンジンブレーキ力が使用できないと判断される。
【0043】
エンジンブレーキ力を使用することができないことによりステップS9で否定的に判断された場合は、エンジン1を始動することなく、回生ブレーキと摩擦ブレーキとを許容範囲で使用して(ステップS10)、このルーチンを一旦終了する。すなわち、要求制動力を出力できないことを許容する。それとは反対に、エンジン1を始動した後に、フューエルカット制御を行えばエンジンブレーキ力を使用することができることによりステップS9で肯定的に判断された場合は、エンジン1を始動する(ステップS11)。すなわち、図示しないスタータモータや他のモータからエンジン1にトルクを伝達し、または自動変速機3に設けられた係合機構を介して車輪5からエンジン1にトルクを伝達してエンジン1をモータリングし、その後に、燃料を噴射するとともに混合気に点火してエンジン1を始動する。
【0044】
一方、エンジン1が停止していないことによりステップS8で否定的に判断された場合は、自動変速機3の変速比を増加させるダウンシフトを実行してもフューエルカット制御によるエンジンブレーキ力を使用できないか否かを判断する(ステップS12)。このステップS12は、実質的にステップS9と同様である。すなわち、極低車速であって自動変速機3の変速比を最大変速比に設定したとしてもエンジン回転数が自立回転数以下となる場合などに肯定的に判断される。
【0045】
ダウンシフトを実行してもエンジンブレーキ力を使用できないことによりステップS12で肯定的に判断された場合は、エンジン1を駆動することによる燃費の悪化を抑制するために、エンジン1を停止して(ステップS13)、ステップS10に移行する。すなわち、回生ブレーキと摩擦ブレーキとを許容範囲で使用し、要求制動力を出力できないことを許容する。
【0046】
それとは反対に、ダウンシフトを実行すればエンジンブレーキ力を使用できることによりステップS12で否定的に判断された場合、また上記ステップS11が実行されてエンジン1が始動された場合には、蓄電装置の充電残量が、蓄電装置の過充電を抑制するために定められた所定残量以上であるか否かを判断し(ステップS14)、所定残量以上であることによりステップS14で肯定的に判断された場合は、
図4(d)に示すようにエンジンブレーキ力の要求量を、要求制動力よりも高く設定するとともに、車両Veの制動力が要求制動力となるようにモータ2から駆動トルクを出力して(ステップS15)、このルーチンを一旦終了する。すなわち、モータ2を力行制御する。
【0047】
一方、蓄電装置の充電残量が、所定残量未満であることによりステップS14で否定的に判断された場合は、モータ2、ブレーキ機構6、およびエンジン1によって制動力を発生させて(ステップS16)、このルーチンを一旦終了する。
【0048】
具体的には、ブレーキ負荷が高く摩擦ブレーキ力を一切出力することができない場合には、
図4(e)に示すように回生ブレーキ力とエンジンブレーキ力とによって要求制動力を充足させる。ここで、エンジンブレーキ力は、エンジン1の回転数に応じた大きさとなるため、必要に応じて自動変速機3をダウンシフトする。また、エンジンブレーキ力が不足する分の制動力を回生ブレーキ力によって補う。
【0049】
また、回生ブレーキ力、摩擦ブレーキ力、エンジンブレーキ力によって要求制動力を充足させる場合には、
図4(f)に示すように最大回生ブレーキ力を出力するとともに、要求制動力と最大回生ブレーキ力との差以下の制動力分、エンジンブレーキ力を発生させ、更に不足する制動力分を摩擦ブレーキ力で補う。
【0050】
さらに、回生ブレーキ力、および摩擦ブレーキ力を発生させることができない場合には、
図4(g)に示すようにエンジンブレーキ力のみで要求制動力を充足させる。その場合、上記のようにエンジンブレーキ力は、エンジン1の回転数に応じた大きさとなるため、要求制動力に完全に一致させることができないため、要求制動力に近似するエンジンブレーキ力を発生可能な変速比に、自動変速機3の変速比を変更することが好ましい。
【0051】
上述したように運転者が運転操作することなく定速で走行可能なクルーズコントロールの制動走行時に、回生ブレーキ力や摩擦ブレーキ力によって要求制動力を充足できない場合に、エンジンブレーキ力を発生させるように構成すること、すなわち、回生ブレーキ力や摩擦ブレーキ力をエンジンブレーキ力に優先して設定することにより、エンジン1を停止させた状態を維持する期間を長くし、またはエンジン1が始動される頻度を低下させることができる。その結果、エンジン1を始動するために燃料が噴射されることを抑制でき、あるいはエンジン1の回転数を所定回転数以上に維持するための燃料噴射を抑制することができるため、車両Veの燃費を向上させることができる。
【0052】
また、
図4(d)に示すようにエンジンブレーキ力の要求量を、要求制動力よりも高く設定するとともに、車両Veの制動力が要求制動力となるようにモータ2から駆動トルクを出力することにより、蓄電装置の充電残量を一時的に低下させることができる。その結果、蓄電装置が過充電となることを抑制しつつ、要求制動力を充足することができる。また、そのように蓄電装置の充電残量を一時的に低下させた場合には、充電残量がヒステリシスを考慮した所定残量未満に低下した時点で、回生ブレーキ力を発生させることができる。その結果、エンジン1を再度停止しつつ、蓄電装置の充電残量を比較的高い残量に復帰させることができる。
【0053】
なお、本発明の実施形態におけるハイブリッド車両は、エンジン1と自動変速機3との間にモータ2を設け、エンジン1とモータ2との間のトルクの伝達を遮断できるようにクラッチ機構を設けた車両、エンジン1が連結された駆動輪とは異なる駆動輪にモータ2が連結された車両などの
図1に示す車両Veとは異なる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン
2 モータ
3 自動変速機
4 出力軸
5 車輪
6 ブレーキ機構
7 ブレーキディスク
8 ブレーキキャリパ
9 電子制御装置(ECU)
10 クルーズコントロール部
11 走行制御部
12 エンジン制御部
13 充電制御部
14 ブレーキ制御部
Ve 車両