(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160026
(43)【公開日】2024-11-08
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/055 20060101AFI20241031BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20241031BHJP
H01G 9/008 20060101ALI20241031BHJP
H01G 9/08 20060101ALI20241031BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20241031BHJP
【FI】
H01G9/055
H01G9/048 F
H01G9/008 303
H01G9/08 C
H01G9/00 290D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024151784
(22)【出願日】2024-09-03
(62)【分割の表示】P 2023046840の分割
【原出願日】2018-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 篤志
(72)【発明者】
【氏名】宗安 康太
(57)【要約】
【課題】耐熱衝撃性に優れた固体電解コンデンサを実現する。
【解決手段】固体電解コンデンサ1は、表層に多孔質部を有する陽極体6と、誘電体層7と、誘電体層7の少なくとも一部を覆う陰極部8とを備えるコンデンサ素子2A~2Cと、陽極端子4と、少なくともコンデンサ素子を封止する樹脂外装体3と、を備える。陽極体6は、陰極形成部、および、陰極形成部に隣接する陽極薄肉部を有する。誘電体層7は、陰極形成部における多孔質部の表面の少なくとも一部を覆っている。陽極薄肉部において、多孔質部が除去されているか、または、陽極薄肉部の多孔質部7Aの厚みが陰極形成部における多孔質部の厚みよりも薄い。陽極体は、陽極薄肉部で陽極端子4と接続している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層に多孔質部を有する陽極体と、誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備えるコンデンサ素子と、
陽極端子と、
少なくとも前記コンデンサ素子を封止する樹脂外装体と、を備え、
前記陽極体は、陽極部と、陰極形成部と、を有し、前記陽極部の全部が、前記陰極形成部に隣接する陽極薄肉部であり、
前記誘電体層は、前記陰極形成部における前記多孔質部の表面の少なくとも一部を覆っており、
前記陰極部は、前記陰極形成部における前記多孔質部の表面の少なくとも一部を、前記誘電体層を介して覆っており、
前記陽極薄肉部において、前記多孔質部が除去されているか、または、前記陽極薄肉部の前記多孔質部の厚みが前記陰極形成部における前記多孔質部の厚みよりも薄く、
前記陽極体は、前記陽極薄肉部で前記陽極端子と接続している、固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陽極薄肉部は、前記陰極形成部に隣接した分離部と、前記分離部によって前記陰極形成部から離間した陽極引出部と、を有し、
前記分離部の少なくとも一方の主面に絶縁層が配置されている、請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
表層に多孔質部を有する陽極体と、誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備えるコンデンサ素子と、
陽極端子と、
少なくとも前記コンデンサ素子を封止する樹脂外装体と、を備え、
前記陽極体は、陽極部と、陰極形成部と、を有し、前記陽極部の全部が、前記陰極形成部に隣接する陽極薄肉部であり、
前記誘電体層は、前記陰極形成部における前記多孔質部の表面の少なくとも一部を覆っており、
前記陰極部は、前記陰極形成部における前記多孔質部の表面の少なくとも一部を、前記誘電体層を介して覆っており、
前記陽極薄肉部において、前記多孔質部が除去されているか、または、前記陽極薄肉部の前記多孔質部の厚みが前記陰極形成部における前記多孔質部の厚みよりも薄く、
前記陽極体は、前記陽極薄肉部で前記陽極端子と接続しており、
前記陽極薄肉部は、前記陰極形成部に隣接した分離部と、前記分離部によって前記陰極形成部から離間した陽極引出部と、を有し、
複数の前記コンデンサ素子を積層した素子積層体を備え、
前記複数のコンデンサ素子のそれぞれにおいて、絶縁層が、前記分離部の第1の主面および第2の主面のいずれか一方に配置され、
互いに重ねられる一対の前記コンデンサ素子の一方の前記第1の主面と、他方の前記コンデンサ素子の前記第2の主面とが、前記絶縁層の一層を挟んで向かい合うように積層されている、固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記陰極部は、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、前記固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層と、を備え、
前記絶縁層の厚みが、前記固体電解質層および前記陰極引出層の合計の厚みよりも大きい、請求項2または3に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
複数の前記コンデンサ素子を積層した素子積層体を備え、
前記素子積層体は、前記複数のコンデンサ素子の前記陽極薄肉部が積層された陽極積層部、および、前記複数のコンデンサ素子の前記陰極部が積層された陰極積層部を備え、
前記陽極積層部の前記陽極端子と接触する箇所における厚みが、前記陰極積層部の厚みよりも薄い、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
表層に多孔質部を有する陽極体を準備する第1工程と、
前記多孔質部の少なくとも一部に、誘電体層を形成する第2工程と、
前記多孔質部を部分的に圧縮または除去して前記陽極体の一部を薄肉化することにより、前記陽極体に、前記薄肉化した部分を含む陽極形成部と、前記陽極形成部に隣接し、前記薄肉化した部分を含まない陰極形成部と、を設ける第3工程と、
前記陰極形成部において、前記誘電体層の少なくとも一部に陰極部を設ける第4工程と、
前記陽極形成部の一部を切断して除去することにより、前記陽極形成部のうち、前記薄肉化した部分の一部のみ残して陽極薄肉部を形成し、コンデンサ素子を得る第5工程と、
前記コンデンサ素子の前記陽極体を、前記陽極薄肉部で陽極端子と接続する第6工程と、を備え、
前記第5工程の後、複数の前記コンデンサ素子を用いて、前記陰極部が複数積層された素子積層体を形成する工程をさらに備える、固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
表層に多孔質部を有する陽極体を準備する第1工程と、
前記多孔質部の少なくとも一部に、誘電体層を形成する第2工程と、
前記多孔質部を部分的に圧縮または除去して前記陽極体の一部を薄肉化することにより、前記陽極体に、前記薄肉化した部分を含む陽極形成部と、前記陽極形成部に隣接し、前記薄肉化した部分を含まない陰極形成部と、を設ける第3工程と、
前記陰極形成部において、前記誘電体層の少なくとも一部に陰極部を設ける第4工程と、
前記陽極形成部の一部を切断して除去することにより、前記陽極形成部のうち、前記薄肉化した部分の一部のみ残して陽極薄肉部を形成し、コンデンサ素子を得る第5工程と、
前記コンデンサ素子の前記陽極体を、前記陽極薄肉部で陽極端子と接続する第6工程と、を備え、
前記第3工程の後、前記第4工程の前に、前記陽極形成部の前記薄肉化した部分の両面に絶縁層を形成する工程と、
前記第4工程の後、前記第5工程の前に、前記陽極形成部のいずれか一方の面に形成された前記絶縁層を除去する工程と、をさらに備える、固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記第5工程の後、複数の前記コンデンサ素子を用いて、前記陰極部が複数積層された素子積層体を形成する工程をさらに備え、
前記素子積層体の形成において、複数の前記コンデンサ素子を、互いに重ねられる一対の前記コンデンサ素子の一方の前記絶縁層が形成された面と他方の前記絶縁層が除去された面とが対向するように重ね合わせる、請求項7に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記絶縁層は、絶縁テープであり、
前記絶縁層を除去する工程は、前記陽極形成部の前記一方の面に貼着された前記絶縁テープを剥離する工程である、請求項7または8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、コンデンサ素子と、コンデンサ素子と電気的に接続された電極端子と、コンデンサ素子を封止する外装体とを備える。コンデンサ素子の陰極部には、固体電解質層が設けられている。固体電解質層は、導電性高分子を含み、粗面化された誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成される。
【0003】
特許文献1では、固体電解質層の形成において、陽極引出部と陰極部の間の粗面化層をプレス加工により圧縮することによって、あるいは粗面化層を切削加工により除去することによって禁止帯を形成している。禁止帯により、導電性高分子が粗面化層を介して陽極引出部の側に浸透するのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、固体電解コンデンサの利用が拡大しており、高温環境下での使用も進められている。しかしながら、高温環境下での使用を考えた場合、従来の固体電解コンデンサは、熱衝撃に対する信頼性が十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面は、表層に多孔質部を有する陽極体と、誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備えるコンデンサ素子と、陽極端子と、少なくとも前記コンデンサ素子を封止する樹脂外装体と、を備え、前記陽極体は、陰極形成部、および、前記陰極形成部に隣接する陽極薄肉部を有し、前記誘電体層は、前記陰極形成部における前記多孔質部の表面の少なくとも一部を覆っており、前記陽極薄肉部において、前記多孔質部が除去されているか、または、前記陽極薄肉部の前記多孔質部の厚みが前記陰極形成部における前記多孔質部の厚みよりも薄く、前記陽極体は、前記陽極薄肉部で前記陽極端子と接続している、固体電解コンデンサに関する。
【0007】
本発明の他の局面は、表層に多孔質部を有する陽極体を準備する第1工程と、前記多孔質部の少なくとも一部に、誘電体層を形成する第2工程と、前記多孔質部を部分的に圧縮または除去して、前記陽極体に厚みの小さい陽極形成部と、前記陽極形成部よりも厚みの大きい陰極形成部とを設ける第3工程と、前記陰極形成部において、前記誘電体層の少なくとも一部に陰極部を設ける第4工程と、前記陽極形成部の一部を切断して除去することにより、前記陽極形成部の残部を含む陽極薄肉部を形成し、コンデンサ素子を得る第5工程と、を備える、固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
耐熱衝撃性に優れた固体電解コンデンサを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る固体電解コンデンサを模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1の固体電解コンデンサに用いられるコンデンサ素子の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る固体電解コンデンサは、コンデンサ素子と、陽極端子と、少なくともコンデンサ素子を封止する樹脂外装体と、を備える。コンデンサ素子は、表層に多孔質部を有する陽極体と、誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を備える。コンデンサ素子において、陽極体は、陰極形成部、および、陰極形成部に隣接する陽極薄肉部を有し、誘電体層は、陰極形成部における多孔質部の表面の少なくとも一部を覆っている。さらに、陽極薄肉部において、多孔質部が除去され、無孔質の芯材部が露出しているか、または、陽極薄肉部の多孔質部の厚みが陰極形成部における多孔質部の厚みよりも薄い。陽極体は、陽極薄肉部で陽極端子と接続している。
【0011】
ここで、陽極体が陽極薄肉部で陽極端子と接続しているとは、陽極体を陽極端子と電気的に接続するための接続部分が、陽極薄肉部に形成されていることを意味する。陽極薄肉部と陽極端子との電気的接続の方法として、陽極薄肉部が陽極端子と直接接触する場合のほか、後述するように、複数のコンデンサ素子の陽極薄肉部を重ね合わせて陽極積層体を形成し、陽極積層体を陽極端子と接触させる場合も考えられる。陽極体が陽極薄肉部で陽極端子と接続しているとは、この両方の場合を含む。
【0012】
陽極体は、通常、陽極部と陰極形成部とを有する。誘電体層は、陰極形成部の多孔質部の少なくとも一部を覆うように形成され得る。誘電体層の少なくとも一部を覆うように、陰極部が形成され得る。陰極部は、固体電解質層を含む。陰極部は、例えば、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層と、を備える。
【0013】
陰極形成部に隣接して設けられた陽極薄肉部は、固体電解質層の形成工程において、陰極形成部の多孔質部を介して固体電解質が陽極側に浸透するのを防ぐ役割を有している。陽極薄肉部は、例えば、多孔質部を圧縮した圧縮層を有する。
【0014】
従来の固体電解コンデンサの構成として、陽極部の陽極端子との接続部(陽極引出部)と、陰極形成部との間に陽極薄肉部を設けているものがある。この場合、固体電解コンデンサは、高温環境と低温環境とに繰り返しさらされることで、容量が低下し易いことが分かった。容量低下の原因を調べたところ、陽極引出部(特に、陽極薄肉部との境界部近傍)にクラックが生じており、このクラック部分に応力が集中していることが分かった。熱衝撃を受けることでクラックを起点に陽極引出部が疲労破壊し、容量抜けが発生することが判明した。なお、クラックは、陽極薄肉部を形成するためのプレス加工時に形成され易い。また、切削により多孔質部を除去した場合も、加工時に加わる負荷によりクラックが形成され易い。いずれの場合も、クラックは陽極体肉部の加工領域と非加工領域との境界部に形成され易い。
【0015】
そこで、本実施形態の固体電解コンデンサでは、陽極体をプレス加工する領域を陽極引出部の形成領域にまで広げる。そして、プレス加工により薄肉化した領域の一部を切断して除去し、残部を陽極薄肉部とする。このようにして、陽極引出部を含む陽極部の全部が陽極薄肉部である陽極体が得られる。この場合、プレス加工により薄肉化した領域のうち、クラックが存在し易い領域は陽極箔の切断除去した部分に含まれており、残部である陽極薄肉部の陽極引出部側にクラックは殆ど存在しない。したがって、クラックが大幅に低減された陽極薄肉部を陽極端子と接続することで、クラックを起点とした陽極引出部の疲労破壊は抑制される。よって、熱衝撃による容量の低下が抑制され、熱衝撃に対して信頼性の高い固体電解コンデンサを実現できる。
【0016】
陽極薄肉部は、プレス加工により、陽極体の多孔質部を圧縮することにより形成され得る。しかしながら、陽極薄肉部は、切削加工、あるいはレーザー加工などにより多孔質部の少なくとも一部を除去することにより形成されてもよい。あるいは、陽極薄肉部は、多孔質部の全部を除去し、芯材部を露出させることにより形成されてもよい。
【0017】
コンデンサ素子の封止を樹脂外装体により行うとした場合、通常、陽極引出部の表面の少なくとも一部、および、陽極端子の少なくとも一部は、樹脂外装体で覆われる。陽極引出層および陽極端子の樹脂外装体との接触部分では、樹脂外装体との熱膨張率との違いにより熱応力が発生し易く、熱衝撃による応力集中が発生し易い。よって、熱衝撃による容量の低下の問題が顕在化し易い。しかしながら、本実施形態の固体電解コンデンサでは、陽極薄肉部内にクラックが殆ど存在しないため、陽極薄肉部の表面の少なくとも一部および陽極端子の少なくとも一部が樹脂外装体で覆われる場合であっても、熱衝撃による容量の低下が抑制される。
【0018】
同様に、陽極部が屈曲または湾曲している場合、コンデンサ素子は、陽極部に常に曲げ応力が印加された状態にあるため、熱衝撃による応力集中を受け易い環境にあり、熱衝撃による容量の低下の問題が顕在化し易い。しかしながら、本実施形態の固体電解コンデンサでは、陽極薄肉部内にクラックが殆ど存在しないため、陽極薄肉部が屈曲または湾曲している場合であっても、熱衝撃による容量の低下が抑制される。
【0019】
陽極薄肉部は、陰極形成部に隣接した分離部と、分離部によって陰極形成部から離間した陽極引出部と、を有し、分離部の少なくとも一方の主面に絶縁層が配置されていてもよい。絶縁層は、例えば、絶縁テープなどである。絶縁層は、固体電解質層の形成工程において、固体電解質が陽極部に形成されるのを防ぐ役割を有している。絶縁層は、通常、分離部の両面に形成されるが、固体電解質層を形成した後に、両面に形成された絶縁層の少なくとも一方を取り除いてもよい。
【0020】
絶縁層を除去しない場合、絶縁層の厚みは、固体電解質層および陰極引出層の合計の厚み(陰極部の厚み)よりも大きくてもよく、陰極部の厚み以下であってもよい。陽極引出部と陰極部とを明確に分離するため、絶縁層の厚みは、陰極層の厚みより大きいことが好ましい。
【0021】
固体電解コンデンサは、複数のコンデンサ素子を備えることができる。この場合、複数のコンデンサ素子を積層した素子積層体が形成され得る。素子積層体は、例えば、複数のコンデンサ素子の陽極薄肉部が積層された陽極積層部、および、複数のコンデンサ素子の陰極部が積層された陰極積層部を備える。陽極積層部は陽極端子と電気的に接続し、陰極積層部は陰極端子と電気的に接続する。陽極積層部と陽極端子との電気的接続は、複数のコンデンサの陽極引出部(陽極薄肉部)同士を溶接あるいは加締め等により接合し、接合部分を陽極端子と接触させることにより行ってもよいし、陽極積層部において複数のコンデンサの陽極引出部(陽極薄肉部)を一定の間隔を有する状態で束ね、それぞれの陽極引出部の端面を陽極端子と接触させることにより行ってもよい。いずれの場合であっても、陽極積層部には陰極部が形成されないため、陽極積層部の陽極端子と接触する箇所における厚みは、陰極積層部の厚みよりも薄くなり易い。
【0022】
陽極積層部の厚みと陰極積層部の厚みが異なる場合、素子積層体を構成する複数のコンデンサ素子の少なくともいずれかにおいて、陽極部の屈曲または湾曲は避けられない。特に、素子積層体の最上層または最下層に位置するコンデンサ素子において、陽極部が大きく屈曲または湾曲し易い。結果、上述の通り、熱衝撃による応力集中を受け易く、熱衝撃による容量の低下の問題が顕在化し易い。
【0023】
さらに、分離部において絶縁層が存在する場合、絶縁層の厚みが大きいと、素子積層体は、分離部において膨らんだ形状になり易い。特に、絶縁層の厚みが固体電解質層と陰極引出層の合計の厚みよりも大きい場合、分離部の膨らみが顕著である。結果、陽極部の屈曲または湾曲の度合がより大きくなり、より大きな曲げ応力が陽極部に加わり易い。
【0024】
しかしながら、本実施形態の固体電解コンデンサでは、上述した通り、陽極薄肉部が屈曲または湾曲している場合であっても、熱衝撃による容量の低下が抑制される。本実施形態の固体電解コンデンサは、複数のコンデンサ素子を積層した素子積層体を有する構造において特に有用である。
【0025】
陽極部の屈曲または湾曲の度合を低減し、熱衝撃による応力集中を抑制する観点から、分離部の両面に形成した二つの絶縁層のうちの少なくとも一方を除去することが好ましい。具体的に、固体電解コンデンサは、素子積層体を構成する複数のコンデンサ素子において、分離部の第1の主面および第2の主面のいずれか一方にだけ絶縁層が配置されていてもよい。このとき、複数のコンデンサ素子は、互いに重ねられる一対のコンデンサ素子の一方の第1の主面と、他方のコンデンサ素子の第2の主面とが、絶縁層の一層を挟んで向かい合うように積層され得る。なお、素子積層体を構成する複数のコンデンサ素子のうち、一部が第1の主面と第2の主面の両方に絶縁層を有していてもよい。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る固体電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。
図2は、固体電解コンデンサで用いるコンデンサ素子の構造を模式的に示す断面図である。
【0027】
図示例では、固体電解コンデンサ1は、複数のコンデンサ素子2A~2Cを備える。固体電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2A~2Cを封止する外装体(具体的には、樹脂外装体)3と、陽極端子4と、陰極端子5と、をさらに備える。外装体3は、ほぼ直方体の外形を有しており、固体電解コンデンサ1もほぼ直方体の外形を有している。
【0028】
コンデンサ素子2A~2Cは、陽極体6と、誘電体層7と、誘電体層7を覆う陰極部8とを備える。陽極体6は、芯材部と多孔質部を有する。コンデンサ素子2A~2C同士は、陰極部間に介在する導電性接着剤(図示せず)を介して積層され、素子積層体を形成している。
【0029】
陽極体6は、多孔質部に誘電体層7が形成されている部分(陰極形成部)と、陰極形成部に隣接して、多孔質部の厚みが陰極形成部より薄く形成された部分(陽極薄肉部)を有する。図示例では、陽極体6をプレス加工により圧縮することで薄膜化した多孔質部を圧縮層7Aとして示している。圧縮層7Aが形成されている部分が陽極薄肉部である。陽極薄肉部は、陰極形成部に隣接する分離部と、陽極引出部に区分される。陽極引出部において、陽極端子4との接続がなされる。分離部には、陽極体6の表面を帯状に覆うように絶縁層13が形成され、陰極部8と陽極引出部との接触が規制されている。
【0030】
陰極形成部において、陰極部8は、誘電体層7の少なくとも一部を覆う固体電解質層9と、固体電解質層9を覆う陰極引出層10とを備える。陰極引出層10は、例えば、カーボン層に導電性ペースト層を積層したものである。なお、図示例では多孔質部と誘電体層を区別していない。
【0031】
図2に示すように、コンデンサ素子2A~2Cは、積層構造の違いにより、陽極引出領域A1、分離領域A2、および、陰極形成領域A3の3つの領域に区分される。陽極体6の陽極引出領域A1に属する部分が、上記の陽極引出部に対応する。同様に、陽極体6の分離領域A2に属する部分、および、陽極体6の陰極形成領域A3に対応する部分が、それぞれ、上記の分離部および陰極形成部に対応する。
【0032】
陽極引出領域A1において、コンデンサ素子2A~2Cの陽極引出部同士が重ね合わせられ、素子積層体の陽極積層部が形成されている。陽極積層部に、所定形状に折り曲げ成形された外部端子4Aを有する陽極端子4が電気的に接続されている。外部端子4Aは、陽極端子4の一部であり、陽極端子4の残部と一体でもよいし、別部材でもよい。一方、陰極形成領域A3において、コンデンサ素子2A~2Cの陰極引出層10同士が重ね合わせられ、素子積層体の陰極積層部が形成されている。陰極積層部に、導電性接着剤より形成される接着層14を介して、陰極端子5が電気的に接続されている。陰極端子5の外面は外部端子として機能する。
【0033】
素子積層体は、外装体3により封止されているが、陽極端子4の一部である外部端子4Aおよび陰極端子5の少なくとも一部は、外装体3から露出させてある。
【0034】
分離領域A2において、陽極薄肉部である陽極体6の分離部の一方の面に絶縁層13が設けられている。絶縁層13が介在した状態で分離部同士が重ね合わせられていること、および、陽極端子4との接続のために陽極引出部同士が重ね合わせられていることから、分離領域A2において、最上層に位置するコンデンサ素子2A、および、最下層に位置するコンデンサ素子2Cの分離部は湾曲し、陽極引出部との接続部において屈曲している。特に、陽極引出部との接続部における屈曲度合が大きい。したがって、コンデンサ素子2A、および、コンデンサ素子2Cの陽極引出部に曲げ応力が加わっており、クラックが存在する場合、熱衝撃による応力集中を受け、陽極引出部の疲労破壊が発生し易い条件にある。
【0035】
しかしながら、固体電解コンデンサ1では、陽極体6の陽極引出部および分離部の双方が陽極薄肉部であることから、そもそも陽極引出部および分離部にクラックは殆ど存在していない。したがって、熱衝撃が加えられたとしても、陽極引出部の疲労破壊は発生し難い。結果、固体電解コンデンサ1は、熱衝撃による容量の低下が抑制されており、熱衝撃に対して高い信頼性を有する。
【0036】
以下に、固体電解コンデンサの構成についてより詳細に説明する。
(外装体3)
外装体3は、コンデンサ素子を封止するものである。コンデンサ素子内への空気の侵入を抑制する観点からは、陽極端子4および陰極端子5の一部が外装体3で封止されていることが望ましい。樹脂外装体は、コンデンサ素子、および、陽極端子4および陰極端子5の一部を樹脂材料で封止することにより形成され得る。
【0037】
樹脂外装体は、硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂もしくはそれを含む組成物を含んでもよい。ケースを構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂もしくはそれを含む組成物などが挙げられる。
【0038】
樹脂外装体は、射出成形、インサート成形、圧縮成形などの成形技術を用いて形成することができる。樹脂外装体は、例えば、所定の金型を用いて、硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂(組成物)をコンデンサ素子と、陽極端子4および陰極端子5の一端部とを覆うように所定の箇所に充填して形成することができる。複数のコンデンサ素子2A~2Cの積層体を用いる場合には、積層体と陽極端子4および陰極端子5の一部とを覆うように樹脂外装体を形成すればよい。
【0039】
硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂に加え、フィラー、硬化剤、重合開始剤、および/または触媒などを含んでもよい。硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ジアリルフタレート、不飽和ポリエステルなどが挙げられる。硬化性樹脂組成物は、複数の硬化性樹脂を含んでもよい。
【0040】
フィラーとしては、例えば、絶縁性の粒子(無機系、有機系)および/または繊維などが好ましい。フィラーを構成する絶縁性材料としては、例えば、シリカ、アルミナなどの絶縁性の化合物(酸化物など)、ガラス、鉱物材料(タルク、マイカ、クレーなど)などが挙げられる。外装樹脂層は、これらのフィラーを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。外装樹脂層中のフィラーの含有量は、例えば、10~90質量%である。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などを用いることができる。熱可塑性樹脂を含む組成物は、熱可塑性樹脂に加え、上記のフィラーなどを含んでもよい。
【0042】
(陽極端子4,陰極端子5)
陽極端子4および陰極端子5の一端部は、コンデンサ素子と電気的に接続され、他端部は外装体3の外部に引き出される。固体電解コンデンサ1において、陽極端子4および陰極端子5の一端部側は、コンデンサ素子2A~2Cとともに外装体3により覆われている。陽極端子4および陰極端子5としては、例えば、リードフレームと呼ばれるものを用いてもよい。陽極端子4および陰極端子5の素材としては、例えば、銅などの金属またはその合金などが挙げられる。
【0043】
(コンデンサ素子2A~2C)
コンデンサ素子2A~2Cは、それぞれ、陽極部を構成する陽極体6と、誘電体層7と、固体電解質層9を含む陰極部8とを備える。陰極部8は、少なくとも固体電解質層9を備えていればよいが、
図1および
図2に示されるように、固体電解質層9と、固体電解質層9を覆う陰極引出層10とを備えることが好ましい。
【0044】
電解コンデンサは、少なくとも1つのコンデンサ素子を有する。電解コンデンサは、コンデンサ素子を1つ有していてもよく、
図1に示す例のように、電解コンデンサ1内に複数のコンデンサ素子2A~2Cを有するものであってもよい。電解コンデンサに含まれるコンデンサ素子の数は、用途に応じて決定すればよい。
【0045】
(陽極体6)
陽極体6は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物などを含むことができる。これらの材料は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましく使用される。陽極体6の多孔質部は、例えば、エッチングなどにより弁作用金属を含む基材(箔状または板状の基材など)の表面を粗面化することで得られる。
【0046】
陽極体6は、誘電体層7が形成される陰極形成部以外の部分に極力クラックを発生させないように薄肉化されている。これは、例えばプレス、切削加工あるいはレーザー加工などにより、多孔質部の厚みを薄くする加工を施すか、あるいは多孔質部を除去し、芯材部分を露出させることにより行われる。
【0047】
(誘電体層7)
誘電体層7は、陽極体6の表面の弁作用金属を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。誘電体層7は、陽極体6の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。誘電体層7は、通常、陽極体6の表面に形成される。誘電体層7は、陽極体6の多孔質の表面に形成されるため、陽極体6の表面の孔や窪み(ピット)の内壁面に沿って形成される。
【0048】
誘電体層7は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa2O5を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl2O3を含む。尚、誘電体層7はこれに限らず、誘電体として機能するものであればよい。陽極体6の表面が多孔質である場合、誘電体層7は、陽極体6の表面(孔の内壁面を含む)に沿って形成される。
【0049】
(陰極部8,固体電解質層9)
陰極部8を構成する固体電解質層9は、導電性高分子を含むが、必要に応じて、さらに、ドーパントや添加剤などを含んでもよい。導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびこれらの誘導体などを用いることができる。固体電解質層9は、例えば、原料モノマーを誘電体層7上で化学重合および/または電解重合することにより、形成することができる。あるいは、導電性高分子が溶解した溶液、または、導電性高分子が分散した分散液を、誘電体層7に接触させることにより、形成することができる。固体電解質層9は、誘電体層7の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。
【0050】
(陰極引出層10)
陰極部8を構成する陰極引出層10は、例えば、カーボン層および導電性ペースト層の積層により形成され得る。カーボン層は、導電性を有していればよく、例えば、黒鉛などの導電性炭素材料を用いて構成することができる。導電性ペースト層には、例えば、金属粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂など)を含む組成物を用いることができる。金属粒子は、例えば、銀粒子である。なお、陰極引出層10の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。陰極引出層10は、固体電解質層9の少なくとも一部を覆うように形成される。
【0051】
[固体電解コンデンサの製造方法]
上記の固体電解コンデンサは、表層に多孔質部を有する陽極体を準備する工程(第1工程)と、多孔質部の少なくとも一部に、誘電体層を形成する工程(第2工程)と、多孔質部を部分的に圧縮または除去して、陽極体に厚みの小さい陽極形成部と、前記陽極形成部よりも厚みの大きい陰極形成部とを設ける工程(第3工程)と、陰極形成部において、誘電体層の少なくとも一部に陰極部を設ける工程(第4工程)と、陽極形成部の一部を切断して除去することにより、陽極形成部の残部を含む陽極薄肉部を形成し、コンデンサ素子を得る工程(第5工程)と、を備える製造方法により製造できる。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0052】
(第1工程)
この工程では、陽極体6の種類に応じて、公知の方法により、表層に多孔質部を有する陽極体を準備する。
陽極体は、例えば、弁作用金属を含む箔状または板状の基材の表面を粗面化することにより準備することができる。粗面化は、基材表面に凹凸を形成できればよく、例えば、基材表面をエッチング(例えば、電解エッチング)することにより行ってもよい。
【0053】
(第2工程)
次に、多孔質部の少なくとも一部に、誘電体層を形成する。誘電体層は、陽極体の表面を陽極酸化することにより形成される。陽極酸化は、公知の方法、例えば、化成処理などにより行うことができる。化成処理は、例えば、陽極体を化成液中に浸漬することにより、陽極体に化成液を含浸させ、陽極体をアノードとして、化成液中に浸漬したカソードとの間に電圧を印加することにより行うことができる。化成液としては、例えば、リン酸水溶液などを用いることが好ましい。
なお、誘電体層の形成は、後述の第3工程を行う前の多孔質部が薄肉化されていない陽極体に対して行ってもよいし、第3工程後の陰極形成部に対して行ってもよい。
【0054】
(第3工程)
次に、陽極体の多孔質部を部分的に圧縮または除去し、陽極体の一部に厚みの小さい領域を設け、陽極形成部とする。一方で、陽極体の圧縮または除去されない残部は、第3工程で誘電体層の形成が予定される領域(陰極形成部)を含む。
多孔質部の圧縮は、陽極形成部のプレス加工により行うことができる。または、陽極形成部の多孔質部を切削により除去し、多孔質部の厚みを小さくしてもよい。このとき、陽極形成部の表面(特に、加工領域と非加工領域との境界部)には、加工時の負荷によりクラックが形成され得る。
【0055】
(第4工程)
次に、陰極形成部の誘電体層の少なくとも一部に陰極部を設ける。陰極部は、固体電解質層を含む。この工程では、例えば、誘電体層の少なくとも一部を覆うように固体電解質層を形成し、固体電解質層の少なくとも一部を覆うように陰極引出層を形成する。
【0056】
固体電解質層が導電性高分子を含む場合、固体電解質層は、例えば、導電性高分子を含む処理液を付着させた後、乾燥させることで形成され得る。処理液は、さらにドーパントなどの他の成分を含んでもよい。導電性高分子には、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)が用いられる。ドーパントには、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)が用いられる。処理液は、導電性高分子の分散液または溶液である。分散媒(溶媒)としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。
導電性高分子を含む固体電解質層は、例えば、モノマーやオリゴマーを含浸し、化学重合や電解重合により重合させる方法により形成してもよい。
【0057】
続いて、形成された固体電解質層の表面の少なくとも一部に、カーボンペーストおよび導電性ペーストを順次、塗布することにより、カーボン層および導電性ペースト層で構成される陰極引出層を形成することができる。陰極引出層の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。
【0058】
(第5工程)
次に、薄肉化された陽極形成部の一部を切断して除去する。これにより、陽極形成部のうち、クラックが形成され易い部分が取り除かれる。一方、陽極形成部の残部である陽極薄肉部には、クラックは殆ど存在していない。結果、陽極引出部にクラックが殆ど存在しないコンデンサ素子が得られる。
【0059】
この後、必要に応じて、コンデンサ素子を用いて、陰極部が複数積層された素子積層体を形成してもよい。コンデンサ素子または素子積層体の陽極引出部を陽極端子と電気的に接続し、コンデンサ素子または素子積層体の陰極引出層を陰極端子と電気的に接続する。さらに、コンデンサ素子または素子積層体を樹脂外装体で覆うことにより封止し、固体電解コンデンサが製造され得る。
【0060】
上記第3工程(陽極形成部の薄肉化)の後、上記第4工程(陰極部形成)の前に、陽極形成部の両面に絶縁層を形成する工程を設けてもよい。絶縁層は、第4工程において、固体電解質が陽極形成部に形成されるのを防ぐためのものである。絶縁層は、陽極形成部の陰極形成部に近接した領域に設けられる。この場合、陽極形成部のうち、絶縁層が形成されていない領域が陽極引出部となる。陽極引出部は、絶縁層によって陰極部から分離される。
上記第4工程の後、上記第5工程の前に、陽極形成部の少なくともいずれか一方の面に形成された絶縁層を除去してもよい。
【0061】
絶縁層は、絶縁性の樹脂を含む液状の絶縁材料を所定の位置に塗布することによって形成されてもよいし、絶縁性の樹脂を含むテープ状の絶縁材料(絶縁テープ)を所定の位置に貼着することによって形成されてもよい。なかでも、絶縁層は、絶縁テープにより形成されることが好ましい。絶縁層の形成が容易であるとともに、固体電解質層の形成後に、少なくとも一方の主面に配置された絶縁テープを剥離により除去し易いためである。
【0062】
複数のコンデンサ素子の陰極部を積層した素子積層体を形成する場合、陽極形成部の両面に形成された絶縁層の一方を除去し、他方の絶縁層を除去せずに残した状態でコンデンサ素子を積層してもよい。素子積層体の形成において、複数のコンデンサ素子を、互いに重ねられる一対のコンデンサ素子の一方の絶縁層が形成された面(第1の主面)と他方の絶縁層が除去された面(第2の主面)とが対向するように、複数のコンデンサ素子を重ね合わせればよい。これにより、例えば
図1に示すように、一対のコンデンサ素子の一方の第1の主面と、他方の第2の主面とが、絶縁層の一層を挟んで向かい合う構成となる。
【0063】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
《実施例1》
下記の要領で、固体電解コンデンサ1を作製し、その特性を評価した。
(1)コンデンサ素子の作製
基材としてアルミニウム箔(厚み100μm)を準備し、アルミニウム箔の表面の全面にエッチング処理を施し、陽極体を得た。陽極体を濃度0.3質量%のリン酸溶液(液温70℃)に浸して70Vの直流電圧を20分間印加することにより、陽極体の表面の一部に酸化アルミニウム(Al2O3)を含む誘電体層を形成した。
【0065】
続いて、陽極体の所定領域(陽極形成部)をプレスにより薄肉化した。陽極形成部において、誘電体層に近接する箇所に絶縁性のレジストテープを両面に貼り付けた。
【0066】
その後、誘電体層が形成された陽極体を、ポリスチレンスルホン酸(PSS)がドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)の水分散液(濃度2質量%)に浸漬した後、乾燥し、固体電解質層を形成した。
【0067】
固体電解質層に、カーボン粒子を水に分散した分散液を塗布した後、乾燥させ、固体電解質層の表面にカーボン層を形成した。次いで、カーボン層の表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布した後、加熱してバインダ樹脂を硬化させ、導電性ペースト層を形成した。このようにして、カーボン層と導電性ペースト層とで構成される陰極引出層を形成した。
さらに、陽極形成領域の一部を切断により除去した。
このようにして、コンデンサ素子を得た。
【0068】
(2)固体電解コンデンサの組み立て
上記のコンデンサ素子を6つ、陰極引出層同士を重ね合わせて素子積層体を形成した。6つのコンデンサ素子のそれぞれの陽極引出部を陽極端子と接続し、最下層の陰極引出層を陰極端子と、接着層を介して接続した。さらに、フィラーとしてシリカ粒子を含む樹脂を用いて外装体を形成し、コンデンサ素子を封止した。
このようにして、固体電解コンデンサを作製した。
【0069】
《比較例1》
コンデンサ素子の作製において、プレスにより薄肉化する領域を変更した。陽極体のうち、絶縁性のレジストテープが設けられる領域のみが薄膜化されるように、プレス加工する領域の幅を狭く設定した。
陰極引出層の形成後、薄膜化されていない部分で陽極体を切断し、コンデンサ素子を得た。
【0070】
上記以外については、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを得た。
この場合、陽極引出部の陽極端子との接続部分はプレス加工により薄膜化されておらず、プレス加工部分とプレス非加工部分との境界が、絶縁テープが設けられた箇所と陽極引出部との間に存在している。
【0071】
上記で作製した実施例および比較例の固体電解コンデンサについて、以下の評価を行った。
【0072】
[評価]
実施例1および比較例1の固体電解コンデンサを、それぞれ、-55℃の環境に30分置き、続いて、125℃の環境に30分置いた。これを1ヒートサイクルとし、-55℃/125℃のヒートサイクルを1500サイクル繰り返した。各ヒートサイクルの後で、20℃における静電容量を測定した。
【0073】
比較例1の固体電解コンデンサでは、800ヒートサイクル経過後に静電容量が不連続に低下し、容量抜けが見られた。一方、実施例1の固体電解コンデンサでは、1500ヒートサイクル経過後においても容量抜けは見られなかった。
【0074】
1500ヒートサイクル経過後の固体電解コンデンサを、素子積層体の積層方向に平行な面で切断し、陽極引出部における陽極体の断面形状の写真を観察した。結果、比較例1の固体電解コンデンサでは、一部のコンデンサ素子において、陽極引出部が破断していた。一方、実施例1の固体電解コンデンサでは、陽極引出部の破断は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る固体電解コンデンサは、耐熱衝撃性に優れることから、高温環境下での使用が想定される様々な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
1:固体電解コンデンサ、2A~2C:コンデンサ素子、3:外装体、4:陽極端子、4A:陽極端子の外部端子、5:陰極端子、6:陽極体、7:誘電体層、7A:圧縮層、8:陰極部、9:固体電解質層、10:陰極引出層、13:絶縁層、14:接着層、A1:陽極引出領域、A2:分離領域、A3:陰極形成領域