(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161182
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】光学素子の製造方法、光学素子、光学機器および撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20241108BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
G02B3/00
C09J201/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024151179
(22)【出願日】2024-09-03
(62)【分割の表示】P 2020114044の分割
【原出願日】2020-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 博幸
(72)【発明者】
【氏名】宇久田 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】米谷 公一
(57)【要約】
【課題】屈折率が高い2枚の透明基材を用いた接合レンズを製造しようとすると、接着剤を十分に硬化させることができなかった。
【解決手段】d線の屈折率が1.80以上である第1透明基材11と、d線の屈折率が1.80以上である第2透明基材12と、を用意する。第1透明基材11および/又は第2透明基材12に、光硬化性樹脂と吸収端波長が410nm以上の光重合開始剤と、を含有する接着剤13aを塗布する。第2透明基材12を介して、接着剤13aに波長が400nm以上の光を照射し、接着剤13aを硬化させ、第1透明基材11と第2透明基材12とを接合し、光学素子10を製造する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
d線の屈折率が1.80以上である第1透明基材と、d線の屈折率が1.80以上である第2透明基材と、を用意する工程と、
前記第1透明基材および/又は前記第2透明基材に、光硬化性樹脂と、吸収端波長が410nm以上の光重合開始剤と、を含有する接着剤を塗布する工程と、
前記第2透明基材を介して、前記接着剤に波長が400nm以上の光を照射し、前記接着剤を硬化させ、前記第1透明基材と、前記第2透明基材と、を接合する工程と、
を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2透明基材のd線の屈折率が1.90以上である請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤における前記光重合開始剤の含有量が0.5質量%以上5.0質量%以下の範囲である請求項1または2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記光重合開始剤が、Irgacure819もしくはIrgacure TPOから選ばれる少なくとも1つである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記接着剤が、前記光重合開始剤としてIrgacure184をさらに含有する請求項4に記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記Irgacure184の含有量が前記Irgacure819もしくはIrgacure TPOに対して50質量%以上250質量%以下の範囲である請求項5に記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
d線の屈折率が1.80以上である第1透明基材と、
d線の屈折率が1.80以上である第2透明基材と、
前記第1透明基材と前記第2透明基材とを接合する、光硬化性樹脂の硬化物を含有する接合部と、を備える光学素子であって、
前記接合部の内部透過率が99%以上であることを特徴とする光学素子。
【請求項8】
前記第1透明基材および前記第2透明基材の少なくとも一方のd線の屈折率が、1.90以上である請求項7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記第1透明基材および前記第2透明基材のd線の屈折率が、1.90以上である請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
前記接合部が、光重合開始剤を含有し、前記光重合開始剤がリンを含有する請求項6乃至9のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項11】
前記接合部の厚みが、5μm以上50μm以下の範囲である請求項6乃至10のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項12】
前記第1透明基材のアッベ数および前記第2透明基材のアッベ数が、10以上35以下の範囲である請求項6乃至11のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項13】
d線の屈折率が1.80以上である第3透明基材と、
前記第2透明基材と前記第3透明基材とを接合する、光硬化性樹脂の硬化物を含有する第2接合部と、をさらに備え、
前記第2接合部の内部透過率が99%以上である請求項6乃至12のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項14】
筐体と、前記筐体内に配置された複数のレンズを有する光学系と、を有する光学機器であって、
前記レンズの少なくとも1つが請求項6乃至13のいずれか1項に記載の光学素子であることを特徴とする光学機器。
【請求項15】
筐体と、前記筐体内に配置された複数のレンズを有する光学系と、前記光学系を通過した光を受光する撮像素子と、を有する撮像装置であって、
前記レンズの少なくとも1つが請求項6乃至13のいずれか1項に記載の光学素子であることを特徴とする撮像装置。
【請求項16】
前記撮像装置がカメラであることを特徴とする請求項15に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高い屈折率を有する2つの透明基材が接合された光学素子の製造方法に関する。また、その製造方法によって製造された光学素子、その光学素子を用いた光学機器および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ等の撮像装置や光学機器の光学系は複数の光学素子から構成され、その一部に硝材のような透明な基材同士を接着する接合レンズが用いられる。接合レンズは光学系の中で、他のレンズで発生する色収差を補正する役目を担う。特許文献1には、凸レンズと凹レンズと、を紫外線硬化性の接着剤を用いて接合レンズを製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、接合される2つのレンズとして、屈折率が高いガラス(硝材)を用いると、紫外線がレンズを十分に透過することができず、接着剤を十分に硬化させることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する光学素子の製造方法は、d線の屈折率が1.80以上である第1透明基材と、d線の屈折率が1.80以上である第2透明基材と、を用意する工程と、前記第1透明基材および/又は前記第2透明基材に、光硬化性樹脂と、吸収端波長が410nm以上の光重合開始剤と、を含有する接着剤を塗布する工程と、前記第2透明基材を介して、前記接着剤に波長が400nm以上の光を照射し、前記接着剤を硬化させ、前記第1透明基材と、前記第2透明基材と、を接合する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、d線の屈折率が1.80以上と高い値を有する2枚の透明基材を十分な接着力で接合した光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の光学素子を示した模式的断面図である。
【
図2】変形例の光学素子を示した模式的断面図である。
【
図3】第1実施形態の光学素子の製造方法を示した概略図である。
【
図4】第1実施形態の光学素子の製造方法に用いる光重合開始剤の(αhv)
1/2の波長依存性を示した概略図である。
【
図5】第2実施形態の撮像装置を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
従前より2枚の透明基材を接着剤により接合する接合レンズと呼ばれる光学素子が知られている。近年のカメラ等の撮像装置や光学機器の高機能化に伴い、接合レンズにも高い性能が要求されている。例えば、屈折率が1.80以上である高屈折率ガラスを貼り合わせることによって、高い色収差補正効果を実現することできる。
【0009】
しかし、屈折率が高くなればなるほどレンズの性能は高まるものの、紫外線の透過率が低くなる。特に、1.80以上と高い屈折率を有するガラスのほとんどは波長が400nm以下である紫外線の透過率が低く、波長によっては全く紫外線が透過しないものも多い。そのため、屈折率が1.80以上である高屈折率ガラスを紫外線硬化性の接着剤を用いて接合しようとしても、接着剤まで光が十分に到達せず、接着剤が十分な強度になるまで硬化させることが困難であった。
【0010】
本発明者は、屈折率が1.80以上である2枚の透明基材を接着剤で接合する際に、接着剤に吸収端波長が410nm以上の光重合開始剤を含有させることにより、400nm以上の波長で硬化できることを見出した。また、これにより、十分な接着力を有し、かつ、透明な接合部を形成できることを見出した。以下、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は本発明の製造方法により製造される光学素子の一実施態様を示した断面模式図である。
【0012】
光学素子10は、第1透明基材11と、第2透明基材12と、接合部13と、を備える。すなわち、光学素子10は、2つの透明基材が接着剤で接合される接合レンズと呼ばれるタイプの光学素子である。
【0013】
第1透明基材11および第2透明基材12は、ともにd線の屈折率が1.80以上である。第1透明基材11および第2透明基材12はd線の屈折率が1.80以上であれば、その大小関係は特に限定されず、所望の光学設計に合わせて屈折率を設計することができる。本明細書において、透明とは、波長が400nm以上780nm以下の範囲の光の透過率が10%以上であることを示す。
【0014】
第1透明基材11および第2透明基材12は屈折率が1.80以上と高いため、第1実施形態の光学素子10は高い色収差補正機能を有する。好ましい第1透明基材11および第2透明基材12の少なくとも一方の屈折率が1.90以上である。より好ましくは第1透明基材11および第2透明基材12の屈折率が1.90以上である。
【0015】
第1透明基材11および第2透明基材12は、屈折率が1.80以上と高いため、波長400nm未満の光に対する透過率が極めて低い。特に、波長360nmに対しては透過率がほぼ0である。第1透明基材11および第2透明基材12の波長400nm以上780nm以下の範囲の光の透過率は、30%以上であることが好ましい。詳細は後述するが、接着剤の硬化に要する時間が短くなり、接合部を短時間で形成できるためである。
【0016】
第1透明基材11および第2透明基材12のアッベ数は、10以上35以下の範囲であることが好ましい。光学素子10は、アッベ数がこの範囲を満たすことにより、1.80以上という高い屈折率と合わせて、幅広い光学系に用いることが可能となる。アッベ数とは、波長400nm以上660nm以下の範囲における屈折率の傾きを表す指標であり、以下の式(1)により算出される。
アッベ数νd=(nd-1)/(nf-nc) (1)
nd:d線(587.6nm)屈折率
nf:f線(486.1nm)屈折率
nc:c線(656.3nm)屈折率
第1透明基材11および第2透明基材12には、透明な樹脂や、透明なガラスを用いることができる。第1透明基材11および第2透明基材12は、ガラスを用いることが好ましく、例えば、珪酸ガラスや硼珪酸ガラス、リン酸ガラスに代表される一般的な光学ガラスや、石英ガラス、ガラスセラミックスを用いることができる。商業的に入手可能なものとしては、例えば、FDS18-W(HOYA株式会社製)、S-LAH79、S-NPH3、TAFD65(以上、株式会社オハラ製)がある。第1透明基材11および第2透明基材12の外形は平面視した際に円形であることが好ましい。
図1においては、第1透明基材11が凸面を有し、第2透明基材12が凹面を有し、その凸面と凹面とが、接合部13によって接合されている。ただし、第1透明基材11が凹面を有し、第2透明基材12が凸面を有していても良いし、第1透明基材11および第2透明基材12がともに平面で接合されていても構わない。
【0017】
接合部13は、光硬化性樹脂の硬化物を含有し、内部透過率が99%以上である。接合部13の内部透過率が99%以上であるため、本発明の製造方法によって製造される光学素子はレンズとして光学系に好適に用いることができる。
【0018】
接合部13の厚みは、接着力と光学性能とを両立する観点において、5μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。ここで接合部13の厚みとは、第1透明基材11の第2透明基材12と対向する面、または第2透明基材12の第1透明基材11と対向する面の法線方向における接合部13の厚みである。接合部13の厚みが5μm未満であると、温度が大きく変化した際の第1透明基材11と第2透明基材の線膨張係数差によって生じる歪みを接合部13で吸収できなくなり、光学性能が劣化するおそれがある。一方、接合部13の厚みが50μmを超えると接着力が十分でなくなるおそれがある。また、接合部13の厚みの最大値と最小値の差は10μm以下であることが好ましい。接合部13内に発生する弾性率の差に起因した光学特性の変動を抑制するためである。より好ましい接合部13の厚みの最大値と最小値の差は5μm以下である。
【0019】
接合部13の弾性率は0.1GPa以上1.0GPa以下の範囲であることが好ましい。弾性率が0.1GPa未満であると、第1透明基材11と第2透明基材12の中心がずれて所望の光学性能が得られなくなるおそれがある。一方、弾性率が1.0GPaを超えると接合部がもろくなり、光学素子の機械的強度が低下するおそれがある。
【0020】
(光学素子の変形例)
図2は、変形例の光学素子を示した断面模式図である。
【0021】
図2の光学素子10Bは、第1透明基材11と、第2透明基材12と、接合部13に加え、第3透明基材15と、第2接合部14と、をさらに備える。光学素子10Bは、3つの透明基材が接着剤で接合される接合レンズである。第3透明基材15は、第1透明基材11および第2透明基材12と同じく、d線の屈折率が1.80以上である。より好ましい第3透明基材13の屈折率は1.90以上である。第2接合部14は、接合部13と同じく、光硬化性樹脂の硬化物を含有し、内部透過率が99%以上である。接合部13および第2接合部14の内部透過率が99%以上であるため、光学素子10Bはレンズとして光学系に好適に用いることができる。
【0022】
(光学素子の製造方法)
続いて、
図3を用いて第1実施形態の光学素子の製造方法を説明する。
【0023】
まず、第1透明基材11および第2透明基材12を用意する。第1透明基材11は、接合部13との密着性を向上させるため、第2透明基材12と対向する面に前処理をしておくことが好ましい。第2透明基材12は、接合部13との密着性を向上させるため、第1透明基材11と対向する面に前処理をしておくことが好ましい。それぞれの前処理は、オゾン処理であることが好ましい。オゾン処理することにより、接着剤が濡れ広がりやすくなるためである。また、シランカップリング剤を用いてカップリング処理をしてもよい。具体的なカップリング剤としては、ヘキサメチルジシラザン、メチルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン等が挙げられる。
【0024】
次に、
図3(a)のように、第1透明基材11の接合部が形成される面に接合部13の前駆体である未硬化の接着剤13aを塗布する。接着剤13aを塗布する手段は特に限定されず、例えば、ディスペンサーを用いることができる。接着剤13aは光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、を含有する。光硬化性樹脂の種類は特に限定されず、アクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂、シリコーンアクリル樹脂、エポキシ樹脂といった硬化させると透明になる樹脂を用いることができる。光重合開始剤は、光を吸収してラジカルを発生し、そのラジカルによって光硬化性樹脂のモノマーあるいはオリゴマーを重合させる役割を担う。本発明に用いる光重合開始剤は、吸収端波長が410nm以上の長さであり、波長400nm以上の可視光を十分に吸収できる。そのため、本発明に用いる接着剤13aは波長400nm以上の光によって硬化することができる。より好ましい吸収端波長は420nm以上である。
【0025】
光重合開始剤は、具体的に、Irgacure819もしくはIrgacure TPOから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
図4は、光重合開始剤の吸収スペクトルを示す概略図であり、それぞれ、実線がIrgacure819(IR819)、破線がIrgacure TPO(TPO)である。また、横軸は波長λであり、縦軸はαhν
1/2である。ここで、αは吸収係数(cm
-1)、hはプランク定数(J・s)、νは光子の振動数(Hz)、である。吸収端波長は、一般に、x軸に光子エネルギーhνを、y軸にαhν
1/2をプロットし、x軸に外挿したx切片で定義されるものである。
図4は横軸を光子エネルギーhνではなく波長に変換したものだが、
図4からIrgacure819の吸収端波長が455nm、Irgacure TPOの吸収端波長が425nmであることがわかる。なお、最大吸収波長が410nm以上である必要はない。接着剤13aにおける光重合開始剤の含有量は0.5質量%以上5.0質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0026】
これらの光重合開始剤は、波長400nm以上の光を吸収可能であり、かつ、リンを含有する塩を有するリン系の材料である。リン系の材料は、アンチモンを含有する塩を有するアンチモン系の材料のように毒性を有さない点で好ましい。なお、硬化後の接合部13にリンが含まれているか否かは、波長分散型X線分析、エネルギー分散型X線分析、ICP発光分析、ICP質量分析といった公知の手法を用いることができる。また、この測定は、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)等の公知の手法と、各種データシートを参照して、光硬化性樹脂と光重合開始剤の種類、含有量を推定してから行うことが好ましい。
【0027】
また、光重合開始剤は、Irgacure819もしくはIrgacure TPOに加えて、Irgacure184をさらに含有することが好ましい。
図4のスペクトルにおいて、点線がIrgacure184(IR814)である。
図4に示すように、Irgacure184は吸収端波長が380nmである。そのため、Irgacure184は波長400nm以上の光を吸収しないが、Irgacure819もしくはIrgacure TPOがラジカルを発生したのちに光硬化性樹脂のモノマーあるいはオリゴマーを重合させる役割を担う。Irgacure184は無色であり透明性に優れるため、Irgacure184を含有させた接着剤を硬化させた接合部13の内部透過率をより高くすることができる。好ましいIrgacure184の含有量は、Irgacure819もしくはIrgacure TPOに対し、50質量%以上250質量%以下の範囲である。
【0028】
次に、第2透明基材12の中心と第1透明基材11の中心が合うように不図示の治具を用いて位置合わせしたのちに、
図3(b)および(c)のように第1透明基材11に第2透明基材12を近づけることによって、接着剤13aを径方向に充填させる。接着剤13aが所望の厚さになるまで、第1透明基材11に第2透明基材12を近づける。
【0029】
次に、
図3(d)のように、第2透明基材12を介して光源17から波長400nm以上の光を接着剤13aに照射することにより、接着剤13aの硬化反応を開始させる。第2透明基材12は屈折率が1.80以上と高いが、波長400nm以上に対しては透過率が10%以上あるため、第2透明基材12を通して接着剤13aに光を到達させることが可能となる。なお、第1透明基材11を通して光源17から波長400nm以上の光を接着剤13aに照射しても構わない。光源17は、例えば、LEDである。
【0030】
そして、一定時間、波長400nm以上の光を接着剤13aに照射することにより、
図3(e)のように、内部透過率が99%以上である接合部13を形成することにより光学素子10が得られる。なお、接合部13には未反応の光重合開始剤が含有されていることが好ましい。第1透明基材11および第2透明基材12の接合面が曲面のときに、光重合開始剤が全て反応してしまうと接合部13に内部応力が多く残留してしまう。内部応力が残留すると、高温高湿環境から室温に戻したときに、光学素子10の光学面の形状が変形するおそれがあるためである。未反応の光重合開始剤の含有量は、含有させた光重合開始剤に対して10質量%以下の範囲であることが好ましい。前述したように、接着剤13aにおける光重合開始剤の含有量は0.5質量%以上5.0質量%以下の範囲であることが好ましい。そのため、未反応の光重合開始剤は接合部13に対し、0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲で含有されていることが好ましい。
【0031】
上記の説明では接着剤13aは第1透明基材11に塗布したが、第2透明基材12に塗布しても構わない。また、接着剤13aは第1透明基材11と第2透明基材12の両方に塗布しても構わない。
【0032】
[第2実施形態
【0033】
(光学機器)
第2実施形態では、第1実施形態の光学素子の具体的な適用例について説明する。具体的な適用例としては、カメラやビデオカメラ用の光学機器(撮影光学系)を構成するレンズや液晶プロジェクター用の光学機器(投影光学系)を構成するレンズ等が挙げられる。また、DVDレコーダー等のピックアップレンズに用いることもできる。これらの光学系は、筐体内に配置された複数のレンズからなり、それらの複数のレンズの少なくとも1つを第1実施形態の光学素子とすることができる。
【0034】
(撮像装置)
図5は、第1実施形態の光学素子を用いた撮像装置の好適な実施形態の一例である、一眼レフデジタルカメラ600の構成を示している。
図5において、カメラ本体602と光学機器であるレンズ鏡筒601とが結合されているが、レンズ鏡筒601はカメラ本体602に対して着脱可能ないわゆる交換レンズである。
【0035】
被写体からの光は、レンズ鏡筒601の筐体620内の撮影光学系の光軸上に配置された複数のレンズ603、605などからなる光学系を介して撮影される。第1実施形態の光学素子は例えば、レンズ603、605に用いることができる。第1実施形態の光学素子は、高屈折率の2枚の透明基材が接合されているため、従来の光学素子より屈折力が高く、光学系の長さを従来よりも短くすることができる。結果、レンズ鏡筒601の軽量化を実現することができる。ここで、レンズ605は内筒604によって支持されて、フォーカシングやズーミングのためにレンズ鏡筒601の外筒に対して可動支持されている。
【0036】
撮影前の観察期間では、被写体からの光は、カメラ本体の筐体621内の主ミラー607により反射され、プリズム611を透過後、ファインダレンズ612を通して撮影者に撮影画像が映し出される。主ミラー607は例えばハーフミラーとなっており、主ミラーを透過した光はサブミラー608によりAF(オートフォーカス)ユニット613の方向に反射され、例えばこの反射光は測距に使用される。また、主ミラー607は主ミラーホルダ640に接着などによって装着、支持されている。不図示の駆動機構を介して、撮影時には主ミラー607とサブミラー608を光路外に移動させ、シャッタ609を開き、撮像素子610がレンズ鏡筒601から入射して撮影光学系を通過した光を受光して撮影光像を結像するようにする。また、絞り606は、開口面積を変更することにより撮影時の明るさや焦点深度を変更できるよう構成される。
【0037】
なお、ここでは、一眼レフデジタルカメラを用いて撮像装置を説明したが、第1実施形態の光学素子はスマートフォンやコンパクトデジタルカメラなどにも同様に用いることができる。
【実施例0038】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明をする。まず、実施例および比較例の評価方法について説明する。
【0039】
(接着力)
製造した光学素子を温度60℃、湿度70%に設定した恒温槽に投入し、2000時間経過後に取り出した。取り出した光学素子の接合部を目視及び光学顕微鏡にて観察し、剥離が生じていなかったものをA、剥離が生じていたものをCとした。
【0040】
(接合部の内部透過率)
接合部の内部透過率は、透過率測定サンプルを2種類作製して評価した。厚さ1mmの透明基材を2枚用意し、2枚の透明基材の間に硬化後の厚みd1が10μmとなるように接着剤を充填した。充填した接着剤に対し、実施例および比較例と同じ波長の光を光強度10mW/cm2で照射し、第1のサンプルを得た。接着剤の量を多くした点以外は同様の手順で、2枚の透明基材の間に硬化後の厚みd2が50μmとなる、第2のサンプルを得た。第1のサンプル及び第2のサンプルの透過率を紫外可視近赤外分光光度計(日立製作所製、U-4000)によって測定し、それぞれをT1、T2とした。これらのパラメータより、厚さd(=10μm)のときの接合部の内部透過率τを以下の式より求めた。
【0041】
【0042】
(面精度)
製造した光学素子を、オーブンで高温下に放置し、測定前と測定後の形状を比較することで面精度を評価した。具体的には、製造した光学素子について、まず環境温度20℃±5℃の条件で、Verifireレーザー干渉計システム(ZYGO社製)を使用し、面形状の測定を行った。その後、光学素子をオーブンに投入し、20℃から70℃までを5時間かけて昇温し、70℃に24時間保持した後、70℃から20℃まで5時間かけて降温した。そして降温冷却から1時間後に光学素子の温度が25℃以下になっていることを確認してから、環境温度20℃±5℃の条件において、面形状の測定を行った。第1透明基材および第2透明基材のレンズ径の90%の領域について、R形状のフィッティングを行い、オーブン投入前後の面形状変化の結果を干渉縞で評価した。干渉縞1本以内の変化であればA、2本以内の変化であればB、それより大きい変化であればCとした。
【0043】
次に、実施例および比較例に用いた透明基材と光重合開始剤を以下にまとめる。
【0044】
(透明基材
【0045】
(S-1)FDS18-W、HOYA株式会社製、屈折率nd=1.945、アッベ数νd=17.98、平凸レンズ、直径φ=30mm、曲率半径R=+30mm、中心厚t=15mm、波長が400nm以上780nm以下の範囲である光の透過率が36%以
【0046】
(S-2)S-NPH3、株式会社オハラ製、屈折率nd=1.959、アッベ数νd=17.47、平凹レンズ、直径φ=30mm、曲率半径R=-30mm、中心厚t=5mm、波長が400nm以上780nm以下の範囲である光の透過率が12%以
【0047】
(S-3)S-LAH79、株式会社オハラ製、屈折率nd=2.003、アッベ数νd=28.27、平凹レンズ、直径φ=30mm、曲率半径R=-30mm、中心厚t=5mm、波長が400nm以上780nm以下の範囲である光の透過率が50%以
【0048】
(S-4)TAFD65、株式会社オハラ製、屈折率nd=2.050、アッベ数νd=26.94、平凹レンズ、直径φ=30mm、曲率半径R=-30mm、中心厚t=5mm、波長が400nm以上780nm以下の範囲である光の透過率が60.9%以
【0049】
(S-5)S-NPH1、株式会社オハラ製、屈折率nd=1.808、アッベ数νd=22.80、平凹レンズ、直径φ=30mm、曲率半径R=-30mm、中心厚t=5mm、波長が400nm以上780nm以下の範囲である光の透過率が77%以
【0050】
(光重合開始剤
【0051】
(I-1)アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤Irgacure819、IGM Resins B.V.社
【0052】
(I-2)アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤Irgacure TPO、IGM Resins B.V.社
【0053】
(I-3)アルキルフェノン系光重合開始剤 Irgacure184、IGM Resins B.V.社
【0054】
(実施例1)
実施例1では、
図1に示した形状の光学素子を
図3に示した製造方法で作製した。
【0055】
第1透明基材11には、HOYA株式会社のFDS18-W(S-1)を用いた。第2透明基材12には、株式会社オハラのS-LAH79(S-3)を用いた。まず、
図3(a)に示すように、第1透明基材11に、未硬化の接着剤13aとしてアクリル系UV硬化性樹脂を滴下した。この接着剤13aには光重合開始剤として、Irgacure819(I-1)が2質量%含有されている。
【0056】
次に、
図3(b)および(c)に示すように、第1透明基材11と第2透明基材12とを近づけて、接着剤13aを押し広げることによって、第1透明基材11と第2透明基材12の間に接着剤13aを充填した。
【0057】
続いて、
図3(d)に示すように、第2透明基材12の側から接着剤13a全体に波長405nmの光を照射し、接着剤13aを硬化させ、第1透明基材11と第2透明基材12と、を接合した。なお、光源17には高圧水銀ランプ(EXECURE250、HOYA CANDEO OPTRONICS(株))を用いた。このときの光の照射条件は、2条件とし、1つは2J、もう1つは20Jとした。以上の工程で、実施例1の光学素子を製造した。また、接合部の厚みは10μmから20μmの範囲であった。
【0058】
(実施例2)
第2透明基材12として、株式会社オハラのTAFD65(S-4)を用いた点以外は実施例1と同様の手順で実施例2の光学素子を製造した。
【0059】
(実施例3)
第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH3(S-2)を用いた点以外は実施例1と同様の手順で実施例3の光学素子を製造した。
【0060】
(実施例4)
光重合開始剤として、Irgacure819の代わりに、Irgacure TPO(I-2)を3質量%含有させた点以外は実施例1と同様の手順で実施例4の光学素子を製造した。
【0061】
(実施例5)
第2透明基材12として、株式会社オハラのTAFD65(S-4)を用いた点以外は実施例4と同様の手順で実施例5の光学素子を製造した。
【0062】
(実施例6)
第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH3(S-2)を用いた点以外は実施例4と同様の手順で実施例6の光学素子を製造した。
【0063】
(実施例7)
光重合開始剤として、Irgacure819(I-1)を1.5質量%、Irgacure184(I-3)を2質量%含有させた点以外は実施例1と同様の手順で実施例7の光学素子を製造した。
【0064】
(実施例8)
第2透明基材12として、株式会社オハラのTAFD65(S-4)を用いた点以外は実施例7と同様の手順で実施例8の光学素子を製造した。
【0065】
(実施例9)
第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH3(S-2)を用いた点以外は実施例7と同様の手順で実施例9の光学素子を製造した。
【0066】
(実施例10)
光重合開始剤として、Irgacure TPO(I-2)を2質量%、Irgacure184(I-3)を2質量%含有させた点以外は実施例1と同様の手順で実施例10の光学素子を製造した。
【0067】
(実施例11)
第2透明基材12として、株式会社オハラのTAFD65(S-4)を用いた点以外は実施例10と同様の手順で実施例11の光学素子を製造した。
【0068】
(実施例12)
第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH3(S-2)を用いた点以外は実施例10と同様の手順で実施例12の光学素子を製造した。
【0069】
(実施例13)
光重合開始剤として、Irgacure819(I-1)を2質量%、Irgacure TPO(I-2)を2質量%含有させた点以外は実施例1と同様の手順で実施例13の光学素子を製造した。
【0070】
(実施例14)
第2透明基材12として、株式会社オハラのTAFD65(S-4)を用いた点以外は実施例13と同様の手順で実施例14の光学素子を製造した。
【0071】
(実施例15)
第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH3(S-2)を用いた点以外は実施例13と同様の手順で実施例15の光学素子を製造した。
【0072】
(実施例16)
第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH1(S-5)を用いた点以外は実施例13と同様の手順で実施例16の光学素子を製造した。
【0073】
(比較例1)
比較例1は実施例1と光の照射条件が異なる。具体的には、第2透明基材12の側から接着剤13a全体に照射する光の波長を365nmとした。それ以外は実施例1と同様の手順で比較例1の光学素子を製造した。
【0074】
(比較例2)
第2透明基材12として、株式会社オハラのTAFD65(S-4)を用いた点以外は比較例1と同様の手順で比較例2の光学素子を製造した。
【0075】
(比較例3)
第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH3(S-2)を用いた点以外は比較例1と同様の手順で比較例3の光学素子を製造した。
【0076】
(比較例4)
比較例1は実施例1と光重合開始剤の種類が異なる。具体的には、接着剤に光重合開始剤として、Irgacure819の代わりに、Irgacure184(I-3)を3質量%含有させた。それ以外は実施例1と同様の手順で比較例4の光学素子を製造した。
【0077】
(比較例5)
第2透明基材12として、株式会社オハラのTAFD65(S-4)を用いた点以外は比較例4と同様の手順で比較例5の光学素子を製造した。
【0078】
(比較例6)
第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH3(S-2)を用いた点以外は比較例4と同様の手順で比較例6の光学素子を製造した。
【0079】
以上、実施例1~16および比較例1~6の製造条件を表1にまとめる。
【0080】
【表1】
続いて、実施例1~16および比較例1~6の光学素子の接着力、接合部の内部透過率および面精度を上述した方法で評価した。その評価結果を表2にまとめた。
【0081】
【表2】
比較例1~6は接着力評価において剥離が確認され、結果はCと不十分であった。
【0082】
比較例1~3は照射する光の波長を365nmとしたために、第2透明基材が光を十分に透過せず、接着剤がほとんど硬化しなかったため剥離が発生したと考えられる。そのため、比較例1~3は内部透過率の評価及び面精度の評価を行わなかった。
【0083】
また、比較例4~6は照射する光の波長は405nmだったものの、接着剤に含有させた光重合開始剤の吸収端波長が410nmに満たなかったため、接着剤がほとんど硬化せず剥離が発生したと考えられる。そのため、比較例4~6は内部透過率の評価及び面精度の評価を行わなかった。
【0084】
一方、実施例1~16は接着力評価において剥離が確認されなかったため、結果はAと良好であった。また、実施例1~16は接合部の内部透過率が99%以上と良好であった。また、面精度も20Jを付与した場合は全て良好な結果となった。
【0085】
なお、第2透明基材12として、株式会社オハラのS-NPH3(S-2)を用いた実施例3,6,9および12は2Jの照射条件においては面精度がBであった。これは他の実施例と比べて、第2透明基材の波長405nmの透過率が低いことに起因していると考えられる。
【0086】
また、実施例の内部透過率を比較すると、光重合開始剤としてIrgacure819やIrgacure TPOを単独で用いた実施例よりも、2種の光重合開始剤を用いた実施例の方が。透過率が高くなる傾向があった。特に、Irgacure TPOとIrgacure184を組み合わせた実施例10~12が最も高い透過率を示した。