(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024162658
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】地震動評価モデル生成方法、地震動評価モデル生成装置、地震動評価方法、及び、地震動評価装置
(51)【国際特許分類】
G01V 1/30 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01V1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078392
(22)【出願日】2023-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【弁理士】
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100227455
【弁理士】
【氏名又は名称】莊司 英史
(72)【発明者】
【氏名】小穴 温子
(72)【発明者】
【氏名】宮下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】古川 慧
(72)【発明者】
【氏名】石井 透
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】
【課題】複数の地震動諸特性パラメータの間における相互関係性を簡易かつ適切に反映させて、地震動指標を高精度で評価・予測することを可能とする地震動評価モデル生成方法を提供する。
【解決手段】地震動評価モデル生成方法は、地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて、地震動データのクラスタ分析を行うことにより、複数の地震動データにクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与するクラスタ分析工程と、地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群及びクラスタ識別パラメータを特徴量とし、地震動波形から得られる地震動指標を目的変数として、特徴量及び目的変数で構成される学習用データを複数取得する取得工程と、複数の学習用データに基づいて、特徴量及び目的変数の相関関係を機械学習により学習することにより、機械学習の学習済みモデルとして地震動評価モデルを生成する生成工程とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを用いて機械学習により地震動評価モデルを生成する地震動評価モデル生成方法であって、
地震による地震動波形と、当該地震動波形が得られたときの複数種類の地震動諸特性パラメータからなる地震動諸特性パラメータ群とを関連付けた地震動データを複数記憶するデータベースを参照し、前記地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて、前記地震動データのクラスタ分析を行うことにより、複数の前記地震動データにクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与し、前記データベースに記憶するクラスタ分析工程と、
前記データベースから、前記地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群及び前記クラスタ識別パラメータを特徴量とし、前記地震動波形から得られる地震動指標を目的変数として、前記特徴量及び前記目的変数で構成される学習用データを複数取得する取得工程と、
前記取得工程にて取得された複数の前記学習用データに基づいて、前記特徴量及び前記目的変数の相関関係を前記機械学習により学習することにより、前記機械学習の学習済みモデルとして前記地震動評価モデルを生成する生成工程と、を含む、
地震動評価モデル生成方法。
【請求項2】
前記クラスタ分析工程は、
複数の前記地震動データにおける前記第1の地震動諸特性パラメータ群を前記地震動諸特性パラメータ毎に標準化又は正規化し、次元削減を行うことで得られた次元削減後の特徴パラメータ群に基づいて、複数の前記地震動データに前記クラスタ識別パラメータをそれぞれ付与する、
請求項1に記載の地震動評価モデル生成方法。
【請求項3】
前記第1の地震動諸特性パラメータ群と、前記第2の地震動諸特性パラメータ群とは、互いに重複する前記地震動諸特性パラメータを含まない、
請求項1に記載の地震動評価モデル生成方法。
【請求項4】
前記第1の地震動諸特性パラメータ群と、前記第2の地震動諸特性パラメータ群とは、互いに重複する前記地震動諸特性パラメータを一部に含む、
請求項1に記載の地震動評価モデル生成方法。
【請求項5】
コンピュータを用いて、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の地震動評価モデル生成方法により生成された前記地震動評価モデルに基づいて、前記地震動の特性を評価する地震動評価方法であって、
予測対象の前記地震動諸特性パラメータ群を受け付ける受付工程と、
前記受付工程にて受け付けられた前記予測対象の前記地震動諸特性パラメータ群に含まれる前記第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて前記クラスタ識別パラメータを付与するクラスタ付与工程と、
前記受付工程にて受け付けられた前記予測対象の前記地震動諸特性パラメータ群に含まれる前記第2の地震動諸特性パラメータ群、及び、前記クラスタ付与工程にて付与された前記クラスタ識別パラメータを、前記特徴量として前記地震動評価モデルに入力することにより当該地震動評価モデルから出力される前記目的変数に基づいて、前記予測対象の前記地震動諸特性パラメータ群に対応する前記地震動指標を予測する予測工程と、を含む、
地震動評価方法。
【請求項6】
コンピュータであって、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の地震動評価モデル生成方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える、
地震動評価モデル生成装置。
【請求項7】
コンピュータであって、
請求項5に記載の地震動評価方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える、
地震動評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動評価モデル生成方法、地震動評価モデル生成装置、地震動評価方法、及び、地震動評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震動の最大振幅(最大加速度・最大速度・最大変位)等の地震動指標を評価・予測する技術の一例として、主に全国の規模の大きな地震から得られた経験的知見に基づいて作成された地震動予測式が活用されてきた(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。一般に、地震動予測式は、地震動指標に大きく影響すると考えられる変数(地震動諸特性パラメータ)が用いられ、例えば、地震のマグニチュード、震源距離、震源深さ、評価地点の地盤特性等のように、4~6個程度の変数で説明された式として定義されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nobuyuki Morikawa and Hiroyuki Fujiwara,A New Ground Motion Prediction Equation for Japan Applicable up to M9 Mega-Earthquake,Journal of Disaster Research,Vol.8,No.5,2013,p.878-888
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の地震動予測式の中には、震源断層の型(正断層型・逆断層型・横ずれ断層型)や地震のタイプ(内陸地殻内地震・プレート境界地震・スラブ内地震)によってカテゴライズされたものも提案されている。しかしながら、このように予めカテゴライズされる前の様々な地震動諸特性パラメータには、これまで十分に考慮されていなかった複数の地震動諸特性パラメータの間における相互関係性が存在する可能性がある。また、地震動諸特性パラメータには、震源特性に関するパラメータだけでなく、伝播特性、サイト特性、方位特性等の各種の諸特性に関するパラメータが含まれており、これまで着目されていなかった複数の地震動諸特性パラメータの間における相互関係性が存在する可能性がある。そのような特性を地震動指標の評価・予測に反映することができれば、地震動指標の予測結果のばらつきの低減につながる余地があるが、従来の地震動予測式に取り入れることは困難であるという問題点があった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであって、複数の地震動諸特性パラメータの間における相互関係性を簡易かつ適切に反映させて、地震動指標を高精度で評価・予測することを可能とする地震動評価モデル生成方法、地震動評価モデル生成装置、地震動評価方法、及び、地震動評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一実施形態に係る地震動評価モデル生成方法は、
コンピュータを用いて機械学習により地震動評価モデルを生成する地震動評価モデル生成方法であって、
地震による地震動波形と、当該地震動波形が得られたときの複数種類の地震動諸特性パラメータからなる地震動諸特性パラメータ群とを関連付けた地震動データを複数記憶するデータベースを参照し、前記地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて、前記地震動データのクラスタ分析を行うことにより、複数の前記地震動データにクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与し、前記データベースに記憶するクラスタ分析工程と、
前記データベースから、前記地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群及び前記クラスタ識別パラメータを特徴量とし、前記地震動波形から得られる地震動指標を目的変数として、前記特徴量及び前記目的変数で構成される学習用データを複数取得する取得工程と、
前記取得工程にて取得された複数の前記学習用データに基づいて、前記特徴量及び前記目的変数の相関関係を前記機械学習により学習することにより、前記機械学習の学習済みモデルとして前記地震動評価モデルを生成する生成工程と、を含む。
【0008】
また、本発明の一実施形態に係る地震動評価モデル生成装置は、
コンピュータであって、上記地震動評価モデル生成方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える。
【0009】
また、本発明の一実施形態に係る地震動評価方法は、
コンピュータを用いて、上記地震動評価モデル生成方法により生成された前記地震動評価モデルに基づいて、前記地震動の特性を評価する地震動評価方法であって、
予測対象の前記地震動諸特性パラメータ群を受け付ける受付工程と、
前記受付工程にて受け付けられた前記予測対象の前記地震動諸特性パラメータ群に含まれる前記第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて前記クラスタ識別パラメータを付与するクラスタ付与工程と、
前記受付工程にて受け付けられた前記予測対象の前記地震動諸特性パラメータ群に含まれる前記第2の地震動諸特性パラメータ群、及び、前記クラスタ付与工程にて付与された前記クラスタ識別パラメータを、前記特徴量として前記地震動評価モデルに入力することにより当該地震動評価モデルから出力される前記目的変数に基づいて、前記予測対象の前記地震動諸特性パラメータ群に対応する前記地震動指標を予測する予測工程と、を含む。
【0010】
また、本発明の一実施形態に係る地震動評価装置は、
コンピュータであって、上記地震動評価方法に含まれる各工程を実行する制御部を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に係る地震動評価モデル生成方法、及び、地震動評価モデル生成装置によれば、地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて地震動データのクラスタ分析を行うことにより付与されたクラスタ識別パラメータ、及び、地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群を特徴量とし、地震動波形から得られる地震動指標を目的変数として構成される複数の学習用データが取得される。そして、複数の学習用データに基づいて、特徴量及び目的変数の相関関係を機械学習により学習することにより、機械学習の学習済みモデルとして地震動評価モデルが生成される。したがって、第1の地震動諸特性パラメータ群に含まれる複数の地震動諸特性パラメータの間における相互関係性を簡易かつ適切に反映させて、地震動指標を高精度で評価・予測することを可能とする地震動評価モデルを生成することができる。
【0012】
また、本発明の一実施形態に係る地震動評価方法、及び、地震動評価装置によれば、地震動評価モデル生成装置及び地震動評価モデル生成方法により生成された地震動評価モデルを利用することにより、予測対象の地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて付与されたクラスタ識別パラメータ、及び、予測対象の地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群を特徴量として、予測対象の地震動諸特性パラメータ群に対応する地震動指標が予測される。したがって、第1の地震動諸特性パラメータ群に含まれる複数の地震動諸特性パラメータの間における相互関係性を簡易かつ適切に反映させて、地震動指標を高精度で評価・予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る地震動評価システム1の一例を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る地震動評価システム1の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る地震動評価モデル生成装置3及び地震動評価モデル生成方法の一例を示す機能説明図である。
【
図4】データベース10の一例を示すデータ構成図である。
【
図6】勾配ブースティング木の一例を示す概要図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る地震動評価装置4及び地震動評価方法の一例を示す機能説明図である。
【
図8】地震動諸特性パラメータ群及びクラスタ識別パラメータが地震動指標の評価値に及ぼす影響度を示す図である。
【
図9】地震動波形から得られる地震動指標の「観測値」と、地震動評価モデル13により得られる地震動指標の「評価値」との相関を示す散布図である。
【
図10】各目的変数(地震動指標)の「評価値/観測値」の対数値をヒストグラムで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る地震動評価システム1の一例を示す概略構成図である。
図2は、本発明の実施形態に係る地震動評価システム1の一例を示すブロック図である。
【0016】
地震動評価システム1は、地震による地震動が複数の観測点にてそれぞれ観測された地震動観測記録としての地震動波形を収集し、その観測結果を外部に提供する観測データ提供装置2Aと、地震動波形に基づいて地震の震源や規模を解析し、その解析結果を外部に提供する解析データ提供装置2Bと、地震動の評価・予測に用いる地下構造に関する地下構造パラメータを外部に提供する地下構造データ提供装置2Cと、所定のシミュレーション手法に従って地震動シミュレーションを実行し、そのときのシミュレーション条件やシミュレーション結果をシミュレーションデータとして外部に提供する地震動シミュレーションデータ提供装置2Dとを備える。
【0017】
また、地震動評価システム1は、データ提供装置2A~2Dにより提供されたデータをデータベース10に登録するとともに、そのデータベース10を用いて機械学習に基づく地震動評価モデル13を生成する地震動評価モデル生成装置3と、地震動評価モデル生成装置3により生成された地震動評価モデル13に基づいて地震動を評価・予測する地震動評価装置4と、各装置間を接続するネットワーク5とを備える。
【0018】
本実施軽では、地震動評価モデル生成装置3にて生成された地震動評価モデル13は、地震動評価装置4で用いられるものとして説明するが、例えば、地震動の特徴分析・解釈から建築物・構造物の挙動予測・構造設計等、更には地震防災等に至るまで、社会で幅広く活用することが可能である。
【0019】
観測データ提供装置2Aは、地震が発生したときに、複数の観測点に設置された地震計(不図示)により測定された南北方向、東西方向及び上下方向に対する三成分の時刻歴波形データを地震動波形としてそれぞれ収集し、その地震動波形と、例えば、観測点の位置を示す観測点位置等の付加情報とを含む観測データを外部に提供する。観測データは、例えば、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、「防災科研」という)の強震観測網K-NETにより提供されるデータが使用される。なお、
図1では、観測点として、関東地方の一都六県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬)に設置された観測点138地点(
図1参照)が図示されているが、観測点の位置や数はこれらに限られない。
【0020】
解析データ提供装置2Bは、地震動波形に基づいて地震の震源や規模を解析し、その解析結果として、例えば、モーメントマグニチュード、気象庁マグニチュード、震央位置、震源深さ、地震種別、断層タイプ、及び、震源メカニズム解等を含む解析データを外部に提供する。解析データは、例えば、防災科研の広帯域震観測網F-netや気象庁により提供されるデータが使用される。
【0021】
地下構造データ提供装置2Cは、地下構造パラメータとして、例えば、地震基盤面深さ、工学的基盤面深さ、層厚、密度、地震波伝播速度、Q値、減衰定数等を含む地下構造データを外部に提供する。地下構造データは、例えば、防災科研の地震ハザードステーションJ-SHISにより提供されるデータが使用される。
【0022】
なお、観測データ提供装置2A、解析データ提供装置2B及び地下構造データ提供装置2Cは、地震が発生したときに、当該地震に関する提供データをリアルタイムに地震動評価モデル生成装置3に提供してもよいし、地震動評価モデル生成装置3からデータの要求を受けたときに、その要求に関する提供データ(過去に発生した地震のうち所定の条件に合致する複数の地震に関する提供データでもよい)を地震動評価モデル生成装置3に提供してもよい。また、本実施形態では、データ提供装置2A~2Cは、別々の3つの装置であるものとして説明するが、これに限られず、1つの装置として構成されていてもよいし、他のデータ提供装置がさらに付加されてもよい。
【0023】
地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、地震が発生したときに、又は、仮想の地震が発生したと想定したときに、当該地震による地震動を所定のシミュレーション手法に従って解析するものであり、そのときのシミュレーション条件やシミュレーション結果をシミュレーションデータとして外部に提供する。その際、所定のシミュレーション手法は、任意の手法が採用可能であり、複数の手法が採用されてもよい。また、地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、自装置にて地震動シミュレーションを実行することでシミュレーションデータを提供するものでもよいし、他の装置で地震動シミュレーションが実行されたときのシミュレーションデータを提供するものでもよい。
【0024】
なお、地震動シミュレーションデータ提供装置2Dは、新たな地震動シミュレーションを実行したときに、当該地震動シミュレーションに関するシミュレーションデータを地震動評価モデル生成装置3に随時提供してもよいし、地震動評価モデル生成装置3からデータの要求を受けたときに、その要求に関するシミュレーションデータ(地震動評価モデル生成装置3からシミュレーション条件を受けた場合には、そのシミュレーション条件に基づいて地震動シミュレーションを実行したときのシミュレーション結果を含むシミュレーションデータでもよい)を地震動評価モデル生成装置3に提供してもよい。
【0025】
ネットワーク5は、無線通信又は有線通信により各種のデータや信号を通信するものであり、任意の通信規格が用いられる。
【0026】
(地震動評価モデル生成装置3の構成と各部による工程について)
地震動評価モデル生成装置3は、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データ(観測データ、解析データ、地下構造データ、シミュレーションデータ)を収集し、データベース10に登録する。地震動評価モデル生成装置3は、データベース10を用いて、例えば、勾配ブースティング木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)等の機械学習アルゴリズムを実行することにより、機械学習の学習済みモデルとして、地震動評価モデル13を生成する。
【0027】
地震動評価モデル生成装置3は、汎用又は専用のコンピュータで構成されており、
図2に示すように、HDD、メモリ等により構成される記憶部30と、CPU、GPU等のプロセッサにより構成される制御部31と、ネットワーク5との通信インターフェースである通信部32と、キーボード、マウス等により構成される入力部33と、ディスプレイ、タッチパネル等により構成される表示部34とを備える。
【0028】
記憶部30には、データ提供装置2A~2Dにより提供されたデータが登録・更新されるデータベース10と、学習済みモデルである地震動評価モデル13と、地震動評価モデル生成装置3の動作を制御して地震動評価モデル生成方法を実現する地震動評価モデル生成プログラム300とが記憶されている。なお、データベース10は、記憶部30に代えて、外部記憶装置に記憶されていてもよく、その場合には、地震動評価モデル生成装置3は、ネットワーク5を介して当該外部記憶装置と通信し、データベース10にアクセスするようにすればよい。
【0029】
制御部31は、地震動評価モデル生成プログラム300を実行することにより、DB管理部310、クラスタ分析部311、取得部312、及び、生成部313として機能する。なお、各部の機能の詳細は後述する。
【0030】
図3は、本発明の実施形態に係る地震動評価モデル生成装置3及び地震動評価モデル生成方法の一例を示す機能説明図である。
【0031】
(DB管理部310によるデータベース管理工程について)
DB管理部310は、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データ(観測データ、解析データ、地下構造データ、シミュレーションデータ)に基づいて、地震動データ11を収集し、データベース10に登録することにより、データベース10を管理する。
【0032】
図4は、データベース10の一例を示すデータ構成図である。データベース10には、地震による地震動が観測点で観測された地震動波形と、その地震動波形が観測されたときの複数種類の地震動諸特性パラメータからなる地震動諸特性パラメータ群とが関連付けられた地震動データ11が複数登録されて記憶されている。シミュレーションデータが、実際の地震又は仮想の地震による地震動を地震動シミュレーションにより算出したときのシミュレーション条件及びシミュレーション結果を含む場合には、シミュレーション条件を地震動諸特性パラメータ群として、シミュレーション結果を地震動波形又は地震動指標として扱うことにより、データベース10には、当該シミュレーションデータが地震動データ11として登録されて記憶されている。
【0033】
また、データベース10には、地震動データ11のクラスタ分析(詳細は後述)が行われたときの分析結果としてのクラスタ識別パラメータ(Cluster)が地震動データ11に関連付けて登録されて記憶されている。
【0034】
地震動諸特性パラメータ群は、地震動の諸特性を記述する各種の地震動諸特性パラメータからなる。地震動の諸特性は、例えば、地震動の震源特性、及び、伝播特性を含み、サイト特性、方位特性、地震動観測特性、及び、地震動予測特定をさらに含む。本実施形態では、地震動諸特性パラメータは、データ提供装置2A~2Dにより提供された提供データを、上記の地震動の諸特性に応じて分類・記録したものである。以下に、地震動諸特性パラメータに含まれる震源特性に関する震源諸特性パラメータ、伝播特性に関する伝播諸特性パラメータ、サイト特性に関するサイト諸特性パラメータ、方位特性に関する方位諸特性パラメータ、地震動観測特性に関する観測諸特性パラメータ、及び、地震動予測特定に関する予測諸特性パラメータについて説明する。
【0035】
震源特性に関する震源諸特性パラメータは、例えば、マグニチュード(モーメントマグニチュードMw、気象庁マグニチュードMJ等)、震源深さH、震源位置(緯度lat_eq,経度lon_eq)、地震種別Type(内陸地殻内地震・プレート境界地震・スラブ内地震)、断層タイプMech(正断層・逆断層・横ずれ断層)、震源メカニズム解(走向Strike1、傾斜角dip1、すべり角rake1)、震源メカニズム解の共役解(走向Strike2、傾斜角dip2、すべり角rake2)、6つのモーメントテンソルMxx,Mxy,Mxz,Myy,Myz,Mzz、及び、震源の破壊伝播効果係数Dir等の少なくとも1つである。
図4の例では、震源特性として、モーメントマグニチュードMw、気象庁マグニチュードMJ、震源深さH、震源の緯度・経度、震源メカニズム解、及び、震源メカニズム解の共役解、モーメントテンソル、震源の破壊伝播効果係数が図示されている。
【0036】
伝播特性に関する伝播諸特性パラメータは、例えば、震源距離Xmin、断層最短距離、及び、震央距離の少なくとも1つである。
図4の例では、伝播特性として、震源距離Xminが図示されており、震源距離Xminは、観測点位置と、震央位置との間の距離として算定される。
【0037】
サイト特性に関するサイト諸特性パラメータは、例えば、観測点位置(緯度lat_site,経度lon_site)、微地形区分JCODE、地震基盤面深さ、工学的基盤面深さ、層厚、密度、地震波伝播速度、Q値、減衰定数、及び、火山フロント通過の判定フラグの少なくとも1つである。
図4の例では、サイト特性として、観測点の緯度・経度、最上層のS波速度VS1、表層10m平均S波速度AVS10、表層30m平均S波速度AVS30、地震基盤面深さDbase、火山フロント通過の判定フラグXvflgが図示されている。地震基盤面深さDbaseは、防災科研の地震ハザードステーションJ-SHISで公開されている対象観測点位置が含まれるメッシュの深部地盤モデルの第28層の下面深さ(同モデルで地震基盤に相当するP波速度5000m/s・S波速度2700m/sの第29層の上面深さに等しい)とした。
【0038】
方位特性に関する方位諸特性パラメータは、例えば、観測点を基準として震央が位置する方位を示す震央方位Λである。そのため、震央方位Λは、観測点位置を基準として震央位置が存在する方位として算定される。その際、震央方位Λは、真北を0°として時計回りに定めるとともに、真北を境に不連続量となるため、
図4の例では、方位特性として、震央方位Λを表すsinΛとcosΛのペアを用いる場合が図示されている。
【0039】
地震動観測特性に関する観測諸特性パラメータは、例えば、地震動波形として記録された時刻歴波形のデータが南北方向、東西方向及び上下方向のいずれかであることを示す地震動の方向成分Compである。なお、
図4の例では、地震動観測特性を省略している。
【0040】
地震動予測特性に関する予測諸特性パラメータは、例えば、既往の地震動評価式fに基づく地震動指標の予測結果MF13である。
図4の例では、地震動指標の予測結果MF13が図示されており、予測結果MF13は、地震動評価式fに、例えば、地震動諸特性パラメータ群のうち、モーメントマグニチュードMw、震源深さH、震源距離X、及び、地震種別Typeの4種類を代入することで算出される。
【0041】
地震動波形は、例えば、南北方向、東西方向及び上下方向に対する三成分の加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形である。地震動波形は、所定の評価手法により評価・解析されることで、各種の地震動指標が得られる。本実施形態に係る地震動波形は、強震観測網K-NETのうち関東地方一都六県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬)に設置された観測点138地点(
図1参照)にて観測された水平二成分(南北方向及び東西方向)に対する時刻歴波形である。なお、観測点の位置や数はこれらに限られない。
【0042】
地震動指標は、地震動の振幅特性、周期特性、及び、経時特性の少なくとも1つを含む。
【0043】
振幅特性は、地震動波形(加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形)から得られる地震動の最大加速度PGA、最大速度、及び、最大変位の少なくとも1つである。本実施形態に係る振幅特性は、最大加速度PGAである。
【0044】
周期特性は、地震動波形(加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形)から得られる応答スペクトル又はフーリエスペクトル等において、少なくとも1つの周期に対する応答値である。応答スペクトルは、例えば、所定の減衰定数(例えば、5%)に対する加速度応答スペクトル、擬似速度応答スペクトルpSv、速度応答スペクトル、及び、変位応答スペクトル等である。フーリエスペクトルは、例えば、加速度フーリエスペクトル、速度フーリエスペクトル、及び、変位フーリエスペクトル等である。本実施形態に係る周期特性は、0.1秒、0.5秒、1秒、3秒、5秒の各周期における減衰定数5%の擬似速度応答スペクトルpSv(0.1s)、pSv(0.5s)、pSv(1s)、pSv(3s)、pSv(5s)の5つである。
【0045】
経時特性は、例えば、地震動波形(加速度、速度、及び、変位の時刻歴波形)から得られる応答継続時間スペクトルにおいて、少なくとも1つの周期に対する応答継続時間である。応答継続時間スペクトルは、例えば、所定の減衰定数(例えば、5%)に対する加速度応答継続時間スペクトル、速度応答継続時間スペクトルTSv、及び、変位応答継続時間スペクトル等である。本実施形態に係る経時特性は、0.1秒、0.5秒、1秒、3秒、5秒の各周期における減衰定数5%の速度応答継続時間スペクトルTSv(0.1s)、TSv(0.5s)、TSv(1s)、TSv(3s)、TSv(5s)の5つである。なお、応答継続時間の開始と終了を規定するパラメータは、p1=0.03、p2=0.95である。
【0046】
(クラスタ分析部311によるクラスタ分析工程と、クラスタ識別パラメータについて)
クラスタ分析部311は、データベース10を参照し、地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて、地震動データ11のクラスタ分析を行うことにより、複数の地震動データ11にクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与し、データベース10に記憶する。
【0047】
例えば、クラスタ分析部311は、複数の地震動データ11における第1の地震動諸特性パラメータ群を地震動諸特性パラメータ毎に標準化又は正規化し、二次元又は三次元に次元削減を行うことで得られた次元削減後の特徴パラメータ群に基づいて、複数の地震動データ11にクラスタ識別パラメータをそれぞれ付与する。クラスタ識別パラメータは、地震動データ11にそれぞれ関係付けられた状態でデータベース10に登録される。
【0048】
クラスタ識別パラメータは、クラスタを識別するための識別子であり、第1の地震動諸特性パラメータ群から教師なし学習で得られた特徴量である。クラスタ識別パラメータは、任意のデータ形成を用いることができる。例えば、クラスタ識別パラメータは、アルファベットや番号等で指定されてもよいし、後述する次元削減後の特徴パラメータ群を用いて、二次元の座標や三次元の座標で指定されてもよい。
【0049】
図5は、クラスタ分析の一例を示す概要図である。本実施形態では、第1の地震動諸特性パラメータ群として、モーメントマグニチュードMw、震源深さH、震源の緯度lat_eq・経度lon_eq、走向Strike1、傾斜角Dip1、すべり角Rake1、6つのモーメントテンソルMxx,Mxy,Mxz,Myy,Myz,Mzzからなる13種類の地震動諸特性パラメータ(具体的には、13種類の震源諸特性パラメータ)を採用した場合について
図5を参照しながら説明する。なお、第1の地震動諸特性パラメータ群に含まれる地震動諸特性パラメータの種類や数は上記の例に限られない。
に限られない。
【0050】
まず、クラスタ分析部311は、複数の地震動データ11における第1の地震動諸特性パラメータ群を地震動諸特性パラメータ毎に標準化又は正規化する。本実施形態では、第1の地震動諸特性パラメータ群は、上記のように、13種類の地震動諸特性パラメータからなるため、13種類の地震動諸特性パラメータのそれぞれについて、標準化又は正規化する。標準化するか、それとも、正規化するかは、地震動諸特性パラメータの種類毎に決めればよい。
【0051】
次に、標準化又は正規化された13種類(13次元)の地震動諸特性パラメータに対して次元削減を行うことで、二次元又は三次元の特徴パラメータ群に圧縮する。次元削減の手法としては、例えば、主成分分析、t分布型確率的近傍埋め込み法(t-SNE等)、多次元尺度構成法等を用いることができる。
図5の例では、二次元に圧縮された場合が図示されている。
【0052】
そして、次元削減後の特徴パラメータ群に対してクラスタリングを行うことで、次元削減後の特徴パラメータ群に対応する地震動データ11にクラスタ識別パラメータを付与する。クラスタリングの手法としては、例えば、k-means法等の非階層的手法や、最短距離法等の階層的手法を用いることができる。クラスタリングの結果として付与されたクラスタ識別パラメータは、地震動データ11にそれぞれ関係付けられた状態でデータベース10に登録される。
図5の例では、k-means法により9つのクラスタに分類されて、クラスタ識別パラメータとして、アルファベットのA~Iが地震動データ11にそれぞれ付与された場合が図示されている。
【0053】
クラスタ識別パラメータは、相互関係性を有するような1組の組み合わせとして考慮すべき複数の地震動諸特性パラメータに基づいて付与されるのが好ましい。クラスタ識別パラメータは、例えば、震源メカニズム解を構成する走向Strike1、傾斜角Dip1、すべり角Rake1のような組み合わせを含む第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて付与されてもよいし、6つのモーメントテンソルMxx,Mxy,Mxz,Myy,Myz,Mzzのような組み合わせを含む第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて付与されてもよい。その際、第1の地震動諸特性パラメータ群は、本実施形態のように、複数の組み合わせを含むものでもよい。また、第1の地震動諸特性パラメータ群は、上記以外の組み合わせに基づく複数の地震動諸特性パラメータを含むものでもよい。さらに、第1の地震動諸特性パラメータ群は、本実施形態のように、複数の震源諸特性パラメータ(具体的には、13種類の震源諸特性パラメータ)を含むものでもよいし、他の諸特性に関する地震動諸特性パラメータ(具体的には、伝播諸特性パラメータ、サイト諸特性パラメータ、方位諸特性パラメータ、観測諸特性パラメータ、又は、予測諸特性パラメータ)を含むものでもよい。その際、第1の地震動諸特性パラメータ群は、例えば、震源諸特性パラメータとサイト諸特性パラメータのように、複数の諸特性に関する地震動諸特性パラメータを任意に組み合わせてもよい。
【0054】
したがって、クラスタ識別パラメータは、1組の組み合わせとして考慮すべき複数の地震動諸特性パラメータを1つのパラメータに統合したような新たな地震動諸特性パラメータとして捉えることができる。
【0055】
(取得部312による取得工程と、学習用データ12について)
取得部312は、
図3に示すように、データベース10から、地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群及びクラスタ識別パラメータを特徴量とし、地震動波形から得られる地震動指標を目的変数として、特徴量及び目的変数で構成される学習用データ12を複数取得する。学習用データ12は、教師あり学習における学習データ(トレーニングデータ)、検証データ及びテストデータとして用いられるデータである。また、複数の学習用データ12からなる学習用データ12の集合は、学習用データセットという。
【0056】
本実施形態では、学習用データ12は、
図3に示すように、6種類の地震動諸特性パラメータからなる第2の地震動諸特性パラメータ群及びクラスタ識別パラメータを特徴量とし、1種類の地震動指標を目的変数として構成される場合について説明する。特に、学習用データ12の特徴量としての第2の地震動諸特性パラメータ群は、気象庁マグニチュードMJ、震源深さH、震源距離Xmin、表層30m平均S波速度AVS30、地震基盤上面の深さDbase、震央方位Λ(sinΛとcosΛのペア)であるが、これらに限られない。また、学習用データ12の目的変数としての地震動評価指標は、最大加速度PGAの1種類であるが、これに限られない。
【0057】
学習用データ12の特徴量には、第1の地震動諸特性パラメータ群を統合した新た地震動諸特性パラメータ群と捉えられるクラスタ識別パラメータだけでなく、第2の地震動諸特性パラメータ群が含まれることで、第2の地震動諸特性パラメータ群が、クラスタ識別パラメータを補足するように作用する。
【0058】
なお、クラスタ分析の対象となる第1の地震動諸特性パラメータ群と、学習用データ12の特徴量を構成する第2の地震動諸特性パラメータ群とは、互いに重複する地震動諸特性パラメータを一部に含むものでもよい。本実施形態では、第1の地震動諸特性パラメータ群と、第2の地震動諸特性パラメータ群とは、互いに重複する地震動諸特性パラメータとして、震源深さHを含んでいる。この場合には、第1の地震動諸特性パラメータ群及び第2の地震動諸特性パラメータ群の両方に含まれる特定の地震動諸特性パラメータ(本実施形態では、震源深さH)の影響が、クラスタ識別パラメータに埋もれないように、目的変数の評価・予測に強く反映させることができる。
【0059】
また、クラスタ分析の対象となる第1の地震動諸特性パラメータ群と、学習用データ12の特徴量を構成する第2の地震動諸特性パラメータ群とは、互いに重複する地震動諸特性パラメータを含まないものでもよい。この場合には、クラスタ識別パラメータに包含されていない第2の地震動諸特性パラメータ群が、クラスタ識別パラメータを補足することになるので、目的変数の評価・予測精度をより向上させることができる。
【0060】
(生成部313による生成工程と、地震動評価モデル13について)
生成部313は、
図3に示すように、取得部312にて取得された複数の学習用データ12に基づいて、特徴量及び目的変数の相関関係を機械学習により学習することにより、学習済みモデルとして地震動評価モデル13を生成し、記憶部30に記憶する。本実施形態では、機械学習における機械学習アルゴリズムとして、勾配ブースティング木(Gradient Boosting Decision Tree)を用いる場合について説明する。
【0061】
図6は、勾配ブースティング木の一例を示す概要図である。勾配ブースティング木は、勾配ブースティングと決定木を組み合わせた学習器である。勾配ブースティングは、複数の弱学習器(低性能な機械学習モデル)を結合していくことにより強学習器(高性能な機械学習モデル)を構築する手法である。決定木は、樹木の分岐構造を利用した条件分岐を行うことにより分類・回帰が可能な機械学習モデルを生成する手法である。これら2つの手法を組み合わせた勾配ブースティング木は、決定木により生成した複数の弱学習器を勾配ブースティングにより結合する手法である。
【0062】
なお、
図4に示す11種類の地震動指標のうち、最大加速度PGA及び擬似速度応答スペクトルpSvについては、振幅が大きくなるにつれてデータ数が急激に減少すると考えられる。そのため、目的変数の分布図に発生する偏りを低減するため、最大加速度PGA及び擬似速度応答スペクトルpSvに対する目的変数のデータとして、常用対数(log
10PGAとlog
10pSv)をそれぞれ用いるのが好ましい。また、勾配ブースティング木における損失関数として、最大加速度PGA及び擬似速度応答スペクトルpSvには、最小二乗法(正規分布図)を適用し、速度応答継続時間スペクトルTSvにはポアソン分布図を適用するのが好ましい。
【0063】
さらに、生成部313が、勾配ブースティング木を用いて地震動評価モデル13を生成する際、目的変数として、
図4に示す11種類の地震動指標を採用する場合には、地震動評価モデル13を目的変数毎に生成するようにすればよい。すなわち、特徴量と目的変数(最大加速度PGA=1種類目の地震動指標)との相関関係を学習させた第1の地震動評価モデル13A、特徴量と目的変数(擬似速度応答スペクトルpSv(0.1s)=2種類目の地震動指標)との相関関係を学習させた第2の地震動評価モデル13Bというように、第3の地震動評価モデル13Cから第11の地震動評価モデル13Kまでをそれぞれ生成し、合計11個の地震動評価モデル13A~13Kを生成するようにすればよい。
【0064】
また、DB管理部310によるデータベース管理工程において、データベース10に地震動データ11が随時登録されて、所定の数の地震動データ11が新たに蓄積された場合には、新たな地震動データ11を含む複数の地震動データ11に対して、クラスタ分析部311によるクラスタ分析工程、取得部312による取得工程、及び、生成部313による生成工程を再度行うことにより、地震動評価モデル13を更新してもよい。
【0065】
(地震動評価装置4の構成と各部による工程について)
地震動評価装置4は、地震動評価モデル生成装置3により生成された地震動評価モデル13に基づいて、地震動を評価・予測し、その結果を、例えば、表示媒体や紙媒体等の出力媒体に出力する。
【0066】
地震動評価装置4は、地震動評価モデル生成装置3と同様に、汎用又は専用のコンピュータで構成されており、
図2に示すように、HDD、メモリ等により構成される記憶部40と、CPU、GPU等のプロセッサにより構成される制御部41と、ネットワーク5との通信インターフェースである通信部42と、キーボード、マウス等により構成される入力部43と、ディスプレイ、タッチパネル等により構成される表示部44とを備える。
【0067】
記憶部40には、地震動評価モデル生成装置3により学習済みモデルとして提供された地震動評価モデル13と、地震動評価装置4の動作を制御して地震動評価方法を実現する地震動評価プログラム400が記憶されている。
【0068】
制御部41は、地震動評価プログラム400を実行することにより、受付部410、クラスタ付与部411、予測部412、及び、出力処理部413として機能する。なお、各部の機能の詳細は後述する。
【0069】
図7は、本発明の実施形態に係る地震動評価装置4及び地震動評価方法の一例を示す機能説明図である。
【0070】
(受付部410による受付工程について)
受付部410は、予測対象の地震動諸特性パラメータ群を受け付ける。具体的には、受付部410は、例えば、地震動評価装置4のユーザが予測対象として想定している地震(以下、「想定地震」という)の地震動諸特性パラメータ群について入力部33を介して受け付けるとともに、当該想定地震による地震動がどの程度発生するのかを予測したい予測点の位置を示す予測点位置についても入力部33を介して受け付ける。なお、予測点位置は、任意の位置でもよいし、観測点位置と同じでもよい。また、予測点位置は、複数でもよく、例えば、所定の格子間隔(例えば、5km間隔)における各格子点等でもよい。
【0071】
(クラスタ付与部411によるクラスタ付与工程について)
クラスタ付与部411は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいてクラスタ識別パラメータを付与する。例えば、クラスタ付与部411は、クラスタ分析部311がクラスタ分類を行ったときの次元削減の手法やクラスタリングの手法と同様の手法を用いて、クラスタ識別パラメータを付与する。その際、クラスタ分析部311によるアルゴリズムやパラメータを引き継ぐようにして、クラスタ識別パラメータを付与するのが好ましい。
【0072】
(予測部412による予測工程について)
予測部412は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群、及び、クラスタ付与部411にて付与されたクラスタ識別パラメータを、特徴量として地震動評価モデル13(本実施形態では、6種類の地震動諸特性パラメータ及びクラスタ識別パラメータを特徴量とし、1種類の地震動指標を目的変数として、両者の相関関係を学習した学習済みモデル)に入力することにより当該地震動評価モデル13から出力される目的変数に基づいて、予測対象の地震動諸特性パラメータ群に対応する地震動指標を予測する。
【0073】
その際、受付部410が、想定地震を複数受け付けたり、予測点位置を複数受け付けたりすることで、予測対象として複数の地震動諸特性パラメータ群を受け付けた場合には、予測部412は、複数の地震動諸特性パラメータ群の各々に対応する地震動指標(予測値)をそれぞれ予測する。
【0074】
なお、地震動評価モデル13が、目的変数(11種類の地震動指標)毎に生成された合計11個の地震動評価モデル13A~13Kを含む場合には、予測部412は、予測対象の地震動諸特性パラメータを特徴量として合計11個の地震動評価モデル13A~13Kにそれぞれ入力し、合計11個の地震動評価モデル13A~13Kからそれぞれ出力される目的変数(11種類の地震動指標)毎に、予測対象の地震動諸特性パラメータに対応する地震動指標(予測値)を予測すればよい。
【0075】
(出力処理部413による出力処理工程について)
出力処理部413は、予測部412にて予測された地震動指標の予測値を視認可能な出力媒体に出力する。例えば、出力媒体が、表示部44のような表示媒体である場合には、出力処理部413は、表示媒体に表示するための表示データ(出力データ)を生成し、表示媒体に表示出力する。また、出力媒体が、紙媒体である場合には、出力処理部413は、紙媒体に印刷するための印刷データ(出力データ)を生成し、紙媒体に印刷出力する。なお、出力処理部413は、出力データを、例えば、地震動予測マップ作成システムやハザードマップ作成システム等に通信出力するようにしてもよいし、公共施設、建物、工場等の防災システムに通信出力するようにしてもよい。
【0076】
例えば、出力処理部413は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータ群が、1つの想定地震に対して、例えば、各格子点を予測点位置とするような複数の地震動諸特性パラメータ群であるとき、当該複数の地震動諸特性パラメータ群に基づいて予測部412にて予測された各予測点位置における複数の地震動指標の予測値を、地図上に重畳するように、例えば、コンター図や、色分けしたメッシュ図として出力媒体に出力する。
【0077】
また、出力処理部413は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータ群が、予測点位置を中心として異なる複数の方位特性を含む複数の地震動諸特性パラメータ群であるとき、当該複数の地震動諸特性パラメータ群に基づいて予測部412にて予測された各方位における複数の地震動指標の予測値を、出力媒体における基準点からの距離として表すとともに、複数の方位特性を、基準点を中心とする各方位に割り当てることにより、複数の地震動指標を出力媒体に出力する。
【0078】
さらに、出力処理部413は、受付部410にて受け付けられた予測対象の地震動諸特性パラメータ群が、異なる震源距離を含む複数の地震動諸特性パラメータ群であるとき、当該複数の地震動諸特性パラメータ群に基づいて予測部412にて予測された複数の地震動指標の予測値を距離減衰特性として表すことにより、複数の地震動指標を出力媒体に出力する。
【0079】
以上のように、本実施形態に係る地震動評価モデル生成装置3及び地震動評価モデル生成方法によれば、地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて地震動データ11のクラスタ分析を行うことにより付与されたクラスタ識別パラメータ、及び、地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群を特徴量とし、地震動波形から得られる地震動指標を目的変数として構成される複数の学習用データ12が取得される。そして、複数の学習用データ12に基づいて、特徴量及び目的変数の相関関係を機械学習により学習することにより、機械学習の学習済みモデルとして地震動評価モデル13が生成される。したがって、第1の地震動諸特性パラメータ群に含まれる複数の地震動諸特性パラメータの間における相互関係性を簡易かつ適切に反映させて、地震動指標を高精度で評価・予測することを可能とする地震動評価モデル13を生成することができる。
【0080】
また、本実施形態に係る地震動評価装置4及び地震動評価方法によれば、地震動評価モデル生成装置3及び地震動評価モデル生成方法により生成された地震動評価モデル13を利用することにより、予測対象の地震動諸特性パラメータ群に含まれる第1の地震動諸特性パラメータ群に基づいて付与されたクラスタ識別パラメータ、及び、予測対象の地震動諸特性パラメータ群に含まれる第2の地震動諸特性パラメータ群を特徴量として、予測対象の地震動諸特性パラメータ群に対応する地震動指標が予測される。したがって、第1の地震動諸特性パラメータ群に含まれる複数の地震動諸特性パラメータの間における相互関係性を簡易かつ適切に反映させて、地震動指標を高精度で評価・予測することができる。
【0081】
図8は、地震動諸特性パラメータ群及びクラスタ識別パラメータが地震動指標の評価値に及ぼす影響度を示す図である。クラスタ識別パラメータ(Cluster)の影響度は、表層地盤や深部地盤の特徴量に匹敵する大きさであることが分かった。
【0082】
図9は、地震動波形から得られる地震動指標の「観測値」と、地震動評価モデル13により得られる地震動指標の「評価値」との相関を示す散布図である。
図10は、各目的変数(地震動指標)の「評価値/観測値」の対数値をヒストグラムで示す図である。観測値に対する評価値の比率の常用対数標準偏差は、約0.16となり、従来の地震動予測式の0.2~0.4程度と比べて小さくなることが分かった。
【0083】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0084】
例えば、上記各実施形態において、地震動評価モデル13の対象となる地域は適宜変更してもよく、例えば、対象となる地域の範囲や形状を任意に変更してもよい。さらに、地震動評価モデル13は、地域を対象とするだけでなく、任意の地点を対象としてもよいし、複数の地点が所定の分類基準に従ってグループ化された地点グループを対象としてもよい。
【0085】
また、上記各実施形態では、地震動評価モデル生成プログラム300及び地震動評価プログラム400は、記憶部30、40にそれぞれ記憶されたものとして説明したが、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、DVD、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、地震動評価モデル生成プログラム300及び地震動評価プログラム400は、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供されてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1…地震動評価システム、2A…観測データ提供装置、
2B…解析データ提供装置、2C…地下構造データ提供装置、
2D…地震動シミュレーションデータ提供装置、
3…地震動評価モデル生成装置、4…地震動評価装置、5…ネットワーク、
10…データベース、11…地震動データ、12…学習用データ、
13…地震動評価モデル、
30…記憶部、31…制御部、32…通信部、33…入力部、34…表示部、
40…記憶部、41…制御部、42…通信部、43…入力部、44…表示部、
300…地震動評価モデル生成プログラム、310…DB管理部、
311…クラスタ分析部、312…取得部、313…生成部、
400…地震動評価プログラム、410…受付部、411…クラスタ付与部、
412…予測部、413…出力処理部