(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001672
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】構造スリット部材及び壁躯体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/84 20060101AFI20231227BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
E04B2/84 D
E04B2/84 H
E04H9/02 321H
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100490
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板橋 靖
(72)【発明者】
【氏名】庭野 究
(72)【発明者】
【氏名】杉山 晴香
(72)【発明者】
【氏名】森崎 伸也
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC26
2E139BA22
(57)【要約】
【課題】コンクリート打設中の施工管理の負担が軽減できるうえに、構造スリットに曲がりやズレが生じるのを防ぐことができる構造スリット部材を提供する。
【解決手段】建物1の壁躯体12の側縁に沿って構造スリットを配置するための構造スリット部材2である。
そして、壁躯体の側縁に配置される帯板状の構造スリット3と、構造スリットに沿って壁躯体の内部側に、基板とトラス筋とによって長尺状に形成されるトラス部4と、構造スリットの貫通穴に通した中間支持材61を接続する固定具6とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の壁躯体の側縁に沿って構造スリットを配置するための構造スリット部材であって、
前記壁躯体の側縁に配置される帯板状の構造スリットと、
前記構造スリットに沿って前記壁躯体の内部側に、基板とトラス筋とによって長尺状に形成されるトラス部と、
前記構造スリットの貫通穴に通した中間支持材を接続する固定手段とを備えたことを特徴とする構造スリット部材。
【請求項2】
前記固定手段は、前記構造スリットの貫通穴の延長線上に配置される固定具であって、前記固定具は、前記トラス部の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の構造スリット部材。
【請求項3】
前記固定具は、前記トラス筋の上端筋と下端筋とに跨って取り付けられることを特徴とする請求項2に記載の構造スリット部材。
【請求項4】
前記基板は、鋼板であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の構造スリット部材。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法であって、
前記構造スリット部材を前記柱躯体との境界となる位置に配置する工程と、
前記固定手段に対して、前記柱躯体側から挿入された中間支持材を接続する工程と、
前記トラス部が配置されるとともに配筋がされた前記壁躯体の型枠の内側に、前記壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする壁躯体の構築方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法であって、
前記柱躯体の配筋に前記構造スリット部材を取り付けた柱用ユニットを製作する工程と、
前記柱用ユニットを吊り上げて、前記構造スリット部材が前記壁躯体の側縁に位置するように配置する工程と、
前記固定手段に対して、前記柱躯体側から挿入された中間支持材を接続する工程と、
前記壁躯体の型枠の内側に前記壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする壁躯体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物などの構造物の壁躯体の側縁に沿って配置される構造スリット部材、及びそれを使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されているように、鉄筋コンクリート造の建築物の柱や梁と壁との縁を切ることを目的として構造スリットが設けられることが知られており、地震発生時に建物の脆性破壊を防止する役割を担っている。
【0003】
構造スリットは、1981年の建築基準法「新耐震基準」で耐震設計の一手法として盛り込まれており、主に鉄筋コンクリート造のマンションに広く採用されている。一般的な構造スリットは、コンクリートの側圧に対して一定の高さ(例えば1.0m-1.5m程度)までしか形状の保持や固定が難しく、構造スリットの両側にコンクリートを順々に打ち上げる施工方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-186925号公報
【特許文献2】特開2012-67495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、構造スリットの取り付け不良やコンクリート打設中の施工管理が適切に行われなかった場合に、構造スリットの曲がりやズレが生じ、施工後に是正が必要となることがある。
【0006】
そこで本発明は、コンクリート打設中の施工管理の負担が軽減できるうえに、構造スリットに曲がりやズレが生じるのを防ぐことができる構造スリット部材、及びそれを使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の構造スリット部材は、構造物の壁躯体の側縁に沿って構造スリットを配置するための構造スリット部材であって、前記壁躯体の側縁に配置される帯板状の構造スリットと、前記構造スリットに沿って前記壁躯体の内部側に、基板とトラス筋とによって長尺状に形成されるトラス部と、前記構造スリットの貫通穴に通した中間支持材を接続する固定手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記固定手段は、前記構造スリットの貫通穴の延長線上に配置される固定具であって、前記固定具は、前記トラス部の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられる構成とすることができる。さらに、前記固定具は、前記トラス筋の上端筋と下端筋とに跨って取り付けられる構成とすることができる。また、前記基板が、鋼板である構成とすることもできる。
【0009】
また、壁躯体の構築方法の発明は、上記したいずれかの構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法であって、前記構造スリット部材を前記柱躯体との境界となる位置に配置する工程と、前記固定手段に対して、前記柱躯体側から挿入された中間支持材を接続する工程と、前記トラス部が配置されるとともに配筋がされた前記壁躯体の型枠の内側に、前記壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする。
【0010】
さらに別の壁躯体の構築方法の発明は、上記したいずれかの構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法であって、前記柱躯体の配筋に前記構造スリット部材を取り付けた柱用ユニットを製作する工程と、前記柱用ユニットを吊り上げて、前記構造スリット部材が前記壁躯体の側縁に位置するように配置する工程と、前記固定手段に対して、前記柱躯体側から挿入された中間支持材を接続する工程と、前記壁躯体の型枠の内側に前記壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の構造スリット部材は、構造スリットに沿って配置される基板及びトラス筋によって長尺状に形成されたトラス部と、構造スリットの貫通穴に通した中間支持材を接続する固定手段とを備えている。
【0012】
すなわち、構造スリットの剛性を高めるために付加されたトラス部は、壁躯体の外側から固定手段に接続される中間支持材によって支持できるうえに、トラス筋を介して後から充填される壁躯体のコンクリートと一体化できる。
【0013】
このため、コンクリートの大きな側圧にも耐えられるようになり、一度に高くコンクリートを打設するなどして、コンクリート打設中の施工管理の負担を軽減することができる。さらに、構造スリットは、剛性の高いトラス部に支えられるので、曲がりやズレが生じるのを防ぐことができる。
【0014】
特に、中間支持材の固定手段となる固定具が、トラス部の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられていれば、壁躯体の側縁に配置される構造スリットを、高さ方向に偏りなく支持させることができる。
【0015】
さらに、固定具がトラス筋の上端筋と下端筋とに跨って取り付けられる構成であれば、固定具が上端筋などを中心に回転するのを防ぐことができるようになるので、中間支持材の接続作業が実施しやすくなる。
【0016】
また、トラス部の基板を剛性の高い鋼板とすることで、鋼板に重ね合わされる構造スリットの変形がより抑えられるようになるので、構造スリットの曲がりやズレの防止効果を高めることができる。
【0017】
また、壁躯体の構築方法の発明では、構造スリット部材を配置して、柱躯体側から挿入された中間支持材を固定手段に接続した後に、壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する。
【0018】
このように、剛性の高いトラス部が中間支持材によって支持された構造スリット部材を使用することで、壁躯体の高さを一度のコンクリート打設によって構築することができるので、コンクリート打設中の施工管理の負担を軽減することができる。
【0019】
さらに、地組みなどで柱躯体の配筋を行って構造スリット部材を取り付けた柱用ユニットを製作するのであれば、施工性が向上するので、より効率的に柱躯体及び壁躯体を構築することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施の形態の構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体を構築する工程の説明図である。
【
図2】構造スリットが配置される建物の壁躯体及び柱躯体の概略構成を示した説明図である。
【
図3】本実施の形態の構造スリット部材の構成を拡大して説明する斜視図である。
【
図6】本実施の形態の構造スリット部材の全体構成を説明する斜視図である。
【
図7】構造スリット部材が取り付けられた柱用ユニットの構成を説明する斜視図である。
【
図8】柱躯体との境界付近を拡大して示した説明図である。
【
図9】柱躯体の一方側にのみ壁躯体を構築する場合の本実施の形態の構造スリット部材の使用例を示した説明図である。
【
図10】従来の柱と壁のコンクリートの打設順序を例示した説明図である。
【
図11】実施例1の構造スリット部材の構成を拡大して説明する斜視図である。
【
図12】実施例1の別の構造スリット部材の構成を拡大して説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の構造スリット部材2を使用して、構造物となる建物1の柱躯体11及びそれに隣接する壁躯体12を構築する工程を説明する図である。また、
図2は、構造スリット3が配置される建物1の壁躯体12及び柱躯体11の概略構成を示した説明図である。
【0022】
大きな地震が発生した際に、ビルや集合住宅などの建物1の柱や梁のせん断破壊という脆性破壊を防止する目的で、
図2に示すように、柱と壁の境界などに構造スリットが配置される。図示した構造スリット3は、柱躯体11と壁躯体12との縁を切る部材で、鉛直スリット、垂直スリット、耐震スリットなどと呼ばれることもある。
【0023】
構造スリット3は、柱躯体11との境界となる壁躯体12の側縁12aに配置される。壁躯体12は、主要な構造部材とは異なる、袖壁、腰壁、垂れ壁などのいわゆる雑壁と呼ばれる躯体である。一方、梁躯体13と壁躯体12との縁を切る目的で配置される構造スリットは、水平スリット15と呼ばれる(
図2参照)。
【0024】
本実施の形態の構造スリット部材2は、
図3,6に示すように、帯板状の構造スリット3と、構造スリット3に沿って長尺状に形成されるトラス部4と、トラス部4に取り付けられる固定手段となる固定具6とを備えている。
【0025】
構造スリット3は、発泡スチロール、発泡ウレタン、ポリスチレンフォーム、フェノールフォームなどの材料からなる長方形板状の部材である。構造スリット3は、壁躯体12の高さと同程度の長さの長尺状に形成される。
【0026】
構造スリット3は、
図8に示すように、幅が壁躯体12の壁厚(150mm-230mm程度)より狭く、壁躯体12の壁厚方向の両側の端縁には、それぞれ枠材32が取り付けられる。両側に溝が形成された枠材32の一方の溝には、構造スリット3の端縁が嵌め込まれるとともに、他方の溝には、壁型枠72に固定される直方体状の目地棒33が嵌め込まれる。
【0027】
図8に示すように、一対の壁型枠72,72の柱躯体11との境界となる位置には、上述した構造スリット3と枠材32と目地棒33とによって形成された仕切りが配置されて、壁躯体12や柱躯体11を構築するために充填されるコンクリートの流れは、この仕切りによって堰き止められる。
【0028】
トラス部4は、構造スリット3の長手方向(鉛直方向)に沿って、壁躯体12の内部側に長尺状に形成される。本実施の形態のトラス部4は、
図3に示すように、基板41とトラス筋42とによって形成される。
【0029】
基板41は、構造スリット3の一面に密着させる帯板状の部材で、デッキプレートや波板などによって形成される。基板41は、幅及び長さが構造スリット3の幅及び長さと同程度であって、基板41を構造スリット3の一面に接着剤やビスや両面テープなどによって接合させることで、トラス部4と構造スリット3とを一体に扱うことができる。
【0030】
一方、トラス筋42は、上端筋421と下端筋422とこれらを繋ぐ波形のラチス筋423とによって、平面視二等辺三角形状に形成される(
図8参照)。トラス筋42には、様々な形態のものがあり、上端筋421については二等辺三角形の頂点付近に配置されることになるが、下端筋422の位置やラチス筋423の形状については、様々なものが使用できる。
【0031】
要するにトラス部4は、基板41と、基板41の一面に平面視二等辺三角形(
図8参照)の底辺部が接合されるトラス筋42とによって、剛性の高い長尺状部材に形成されていればよい。例えば、薄い亜鉛メッキ鋼板によって形成される基板41と、細径の鉄筋(421,422,423)を組み合わせて形成されるトラス筋42とによって製作されたトラス部4は、剛性が高いうえに軽量であるため、取り扱いがしやすい。
【0032】
ここで
図8に示すように、壁躯体12の一方の壁面を第1壁面121とし、それに対向する他方の壁面を第2壁面122とする。トラス部4は、第1壁面121と第2壁面122との間の壁躯体12の内部に配置される。トラス筋42の周囲に、壁躯体12を形成するために現場打ちされたコンクリートが充填されることによって、トラス部4と壁躯体12とは一体化する。
【0033】
また、トラス部4には、
図3に示すように、中間支持材61の固定手段となる固定具6が取り付けられる。この固定具6に対峙する構造スリット3及び基板41の位置には、
図6に示すように、貫通穴31が穿孔されている。すなわち、構造スリット3及び基板41の貫通穴31の延長線上に、中間支持材61の固定具6が配置される。
【0034】
図4は、固定具6の構成の一例を説明する斜視図である。この固定具6には、トラス筋42の上端筋421と下端筋422を通すための2つの挟持部62を備えている。
図3に示すように、平面視U字形の挟持部62の内空に、上端筋421や下端筋422が通される。
【0035】
挟持部62の開放側には、上端筋421や下端筋422の嵌め込みを可能にするとともに、外れたりズレたりするのを防ぐためのストッパ621が、ゴムなどの樹脂材によって形成される。
【0036】
2つの挟持部62からは、それぞれ垂片63が張り出されており、垂片63によって形成されるアーチ天井と、その下方に架け渡された固定ネジ64との間の空間に、中間支持材61が挿し込まれる。
【0037】
固定ネジ64は、挟持部62に一端が固定されるとともに垂片63から他端が突出されていて、突出された固定ネジ64の端部にねじ込まれたナット641を締め付けることによって、挿入された中間支持材61を固定することができる。
【0038】
図3に示すように、固定具6は、トラス筋42の上端筋421と下端筋422とに跨って取り付けられるので、上端筋421や下端筋422を中心に回転するのを防ぐことができる。また、2つの垂片63に通された中間支持材61は、壁躯体12の内部に向けて水平に張り出される。
【0039】
固定手段となる固定具6は、
図4に図示された形態に限定されるものではなく、
図5には、別の固定具6Aの構成を示した。
図5に示した固定具6Aは、挟持部62及びストッパ621については
図4の固定具6と同じであるが、中間支持材61の接続の仕方が異なっている。
【0040】
固定具6Aの2つの挟持部62からは、それぞれ張出片65が基板41と平行となるように張り出されており、張出片65の穴に中間支持材61が挿し込まれる。張出片65の穴の位置には固定ナット66が配置され、固定ナット66を締め付けることによって、挿入された中間支持材61を固定することができる。2つの張出片65に支持される中間支持材61は、壁躯体12の内部に向けて水平に張り出される。
【0041】
固定具6は、
図6に示した中間支持材61の位置からも分かるように、トラス部4の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられる。例えば、鉛直方向に200mm-400mm程度の間隔を置いて、トラス部4に固定具6が取り付けられる。
【0042】
固定具6に対しては、柱躯体11側から挿入される中間支持材61の端部が接続され、この中間支持材61によって構造スリット部材2を支持させることができる。中間支持材61は、鉄筋、セパレータ、全ネジなどの棒状材料によって形成することができる。また、中間支持材61は、1本の棒状材料によって形成されるものに限定されるものではなく、途中に継手があるなど複数の棒状材料を組み合わせて形成されるものであってもよい。
【0043】
そして、コンクリートの側圧が大きくなる構造スリット部材2の下部における固定具6の配置間隔は、上部よりも密にすることが好ましい。例えば
図6では、構造スリット部材2の下部の配置間隔を200mmとし、中間部から上部の配置間隔を400mmとした例を示している。
【0044】
本実施の形態の構造スリット部材2は、固定具6に通される中間支持材61によって、柱躯体11と接続されることになる。従来の構造スリットを設ける耐震構造では、柱と縁切りされる壁の転倒などを防ぐために振れ止め筋を配置する必要があったが、中間支持材61を介して壁躯体12が柱躯体11に接続されるようになる本実施の形態の構造スリット部材2を使用することで、中間支持材61に振れ止め筋の機能を持たせることができる。
【0045】
次に、本実施の形態の構造スリット部材2を使用した柱躯体11に隣接する壁躯体12の構築方法について説明する。本実施の形態では、
図1又は
図9に示すように、柱躯体11に隣接して壁躯体12を構築する場合について説明する。
【0046】
柱躯体11の柱配筋111は、鉛直方向に延伸される主鉄筋の外側を囲むように、せん断補強鉄筋となる帯鉄筋が配筋される。また、平面視略長方形の帯鉄筋の内空を区切るように、せん断補強鉄筋となる中間帯鉄筋が架け渡される(
図1,7参照)。
【0047】
構造スリット部材2を所定の位置に据え付ける前に、壁躯体12の一方の壁面を形成する壁型枠72を組み立てておく。例えば
図1に図示した柱型枠71に連続する図の上方の壁型枠72を、先に設置する。型枠(71,72)は、単管や桟木などを使って組み立てられる支保工7、せき板、セパレータ52などによって形成される。
【0048】
そして、柱型枠71の内側には柱配筋111が組み立てられ、壁型枠72の内側には壁配筋123が組み立てられることになる。また、壁配筋123の両側縁には、構造スリット部材2が設置される。
【0049】
ここで、構造スリット部材2の配置方法には、2通りの方法がある。第1の方法としては、まず、構造スリット部材2を柱躯体11との境界となる位置に配置した後に、壁配筋123を組み立てる方法である。
【0050】
第2の方法としては、
図7に示すような柱用ユニット20を地組みによって組み立てる方法である。例えば、作業ヤードにおいて柱配筋111を組み立てる。作業ヤードなどの広い場所で施工できる地組みであれば、効率よく柱配筋111を組み立てることができる。
【0051】
そして、地組みされた柱配筋111の壁躯体12との境界となる位置に、それぞれ構造スリット部材2を取り付ける。このようにして製作された柱用ユニット20(上述した第1の方法であれば構造スリット部材2)は、ホイストやクレーンなどで吊り上げられて、所定の位置に据え付けられる。トラス部4によって剛性が高められた構造スリット部材2は、軽量なので柱配筋111に取り付けても重量の増加が少なく、柱用ユニット20として柱配筋111と一緒にクレーンなどで吊り上げて設置することができる。
【0052】
壁配筋123は、下の階の梁躯体13上に形成された床面に、水平スリット15を介して配置される。すなわち、壁躯体12と床面とは、水平スリット15によって縁切りされた状態になる(
図2参照)。
【0053】
柱躯体11との境界となる位置に配置された構造スリット部材2に対しては、
図1に示すように、柱配筋111側から貫通穴31(
図6参照)を通って壁躯体12側に突出した中間支持材61の一端が、固定具6に接続される。
【0054】
図1に示した建物1では、中間支持材61の他端も、柱躯体11を挟んで反対側に構築される壁躯体12用の構造スリット部材2の固定具6に接続される。要するに、中間支持材61によって、柱躯体11を挟んだ両側の構造スリット部材2,2の間隔は、保持されることになる。
【0055】
一方、
図9に示した建物1Aでは、柱躯体11に対して、1方向にのみ壁躯体12が設けられるので、一端が固定具6に接続された中間支持材61の他端は、柱型枠71を支持する支保工7に定着させることになる。
【0056】
このようにして柱配筋111及び壁配筋123を組み立てた後に、残りの柱型枠71及び壁型枠72を据え付ける。ここで、壁型枠72,72間は、
図1,9に示すように、セパレータ52によって連結する。このようにして、場所打ちコンクリートを充填できる状態にする。
【0057】
ここで、
図10を参照しながら、従来の建物a1における柱と壁と梁のコンクリートの打設順序について説明する。この建物a1では、柱と両脇の壁との間に、構造スリットa2を介在させる。
【0058】
まず最初に、柱の下部のコンクリートを打設する。コンクリートは、充填時には流動体であるため、
図10の左側の壁の中央に部分的なイメージとして例示したように、打設高さに応じた側圧が構造スリットa2に作用することになる。
【0059】
構造スリットa2自体は、発泡スチロールなどによって成形された剛性の低い板材なので、大きなコンクリートの側圧が作用すると、曲がったりズレたりする可能性がある。そこで、まずは柱の高さの1/3程度のコンクリートを打設する。
【0060】
続いて、柱の左右の壁の下部にも、同程度の高さまでコンクリートを充填する。そして、柱及び左右の壁の中間部のコンクリートを打設し、その後に柱及び左右の壁の上部のコンクリートを打設する。そして、最後に梁のコンクリートを打設することになるが、コンクリートの打設工程は、10工程にもなる。
【0061】
これに対して、本実施の形態の構造スリット部材2は、剛性の高いトラス部4を備えているうえに、トラス部4が柱躯体11側から接続された中間支持材61によって支持されている。
【0062】
中間支持材61は、
図6に示した貫通穴31に挿入されることになるが、トラス部4の鉛直方向の端部だけでなく中間部にも配置されるので、全長に亘って均等に構造スリット部材2を支持することができる。
【0063】
このため、
図2に図示したように、2.5m程度までであれば、柱躯体11のコンクリートを連続して一度に打設することができる。また、柱躯体11の左右の壁躯体12に対しても、壁躯体12の高さに至るまで連続してコンクリートを充填することができる。
【0064】
そして、最後に梁躯体13のコンクリートを打設することになるが、コンクリートの打設工程は、4工程で済むことになる。要するに、従来のコンクリートの打設工程と比べて、6工程も削減することができる。
【0065】
次に、本実施の形態の構造スリット部材2、及びそれを使用した柱躯体11に隣接する壁躯体12の構築方法の作用について説明する。
【0066】
このように構成された本実施の形態の構造スリット部材2は、構造スリット3に沿って配置される基板41及びトラス筋42によって長尺状に形成されたトラス部4と、構造スリット3の貫通穴31の延長線上に配置される中間支持材61の固定具6とを備えている。
【0067】
すなわち、剛性を高めるために構造スリット3に付加されたトラス部4は、壁躯体12の外側から固定具6に接続される中間支持材61などによって支持できるうえに、トラス筋42を介して後から充填される壁躯体12のコンクリートと一体化できる。
【0068】
こうしてコンクリートの大きな側圧にも耐えられるようになれば、一度に1.5mを超えるような高さまでコンクリートを連続して打設することができるようになるので、コンクリート打設中の施工管理の負担を軽減することができるようになる。
【0069】
さらに、構造スリット3は、剛性の高いトラス部4に支えられるので、曲がりやズレが生じるのを防ぐことができる。特に、中間支持材61の固定具6が、トラス部4の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられていれば、壁躯体12の側縁12aに配置される構造スリット3を、高さ方向に偏りなく支持させることができる。
【0070】
また、固定具6がトラス筋42の上端筋421と下端筋422とに跨って取り付けられる構成であれば、固定具6が上端筋421などを中心に回転するのを防ぐことができるようになるので、中間支持材61の接続作業が実施しやすくなる。
【0071】
また、本実施の形態の壁躯体の構築方法では、軽量で扱いやすい構造スリット部材2を配置して、柱躯体11側から挿入された中間支持材61の端部を固定具6に接続した後に、壁躯体12の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する。
【0072】
このように、軽量で剛性の高いトラス部4が中間支持材61によって支持された構造スリット部材2を使用することで、壁躯体12の高さを一度のコンクリート打設によって構築することができるので、コンクリート打設中の施工管理の負担を軽減することができる。
【0073】
さらに、地組みなどで柱躯体11の配筋を行って構造スリット部材2を取り付けた柱用ユニット20を製作するのであれば、型枠が接近した狭い場所で作業するよりも施工性が向上するので、より効率的に柱躯体11及び壁躯体12を構築することができるようになる。
【実施例0074】
以下、前記した実施の形態の構造スリット部材2とは別の実施形態の構造スリット部材2A,2Bについて、
図11,
図12を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0075】
図11は、実施例1の構造スリット部材2Aの構成を拡大して説明する斜視図である。実施例1の1つ目の構造スリット部材2Aは、帯板状の構造スリット3と、構造スリット3に沿って長尺状に形成されるトラス部4Aと、トラス部4Aに取り付けられる固定具6とを備えている。ここで、中間支持材61の固定手段となる固定具6については、前記実施の形態で説明した固定具6A(
図5参照)であってもよい。
【0076】
構造スリット部材2Aのトラス部4Aは、基板となる鋼板43と、トラス筋42とによって形成される。鋼板43は、構造スリット3の一面に密着させる帯板状の鋼材で、厚みに応じて剛性を調整することができる。
【0077】
鋼板43は、幅及び長さが構造スリット3の幅及び長さと同程度であって、重ね合わされた構造スリット3及び鋼板43の両側の端縁には、それぞれ枠材32が嵌め込まれる。構造スリット3と鋼板43は、接着剤やビスや両面テープなどによって接合させることもできる。そして、壁躯体12側に露出した鋼板43の面に、トラス筋42が接合される。
【0078】
一方
図12は、実施例1の別の構造スリット部材2Bの構成を拡大して説明する斜視図である。実施例1の2つ目の構造スリット部材2Bは、帯板状の構造スリット3と、構造スリット3に沿って長尺状に形成されるトラス部4Bと、トラス部4Bに取り付けられる固定具6Aとを備えている。ここで、中間支持材61の固定手段となる固定具6Aについては、前記実施の形態で説明した固定具6(
図4参照)であってもよい。
【0079】
構造スリット部材2Bのトラス部4Bは、基板となる鋼板44と、トラス筋42とによって形成される。鋼板44は、構造スリット3の一面に密着させる帯板状の鋼材で、厚みに応じて剛性を調整することができる。
【0080】
鋼板44は、長さは構造スリット3の長さと同程度であるが、幅は構造スリット3の幅よりも狭く、構造スリット3の両端縁に嵌め込まれた枠材32,32間に収まる幅に形成される。
【0081】
接着剤やビスや両面テープなどによって、構造スリット3の一面に重ね合わせる鋼板44を接合させることで、トラス部4Bと構造スリット3とを一体に扱うことができるようになる。そして、壁躯体12側に露出した鋼板44の面には、トラス筋42が接合される。
【0082】
このように構成された実施例1の構造スリット部材2A,2Bは、トラス部4の基板を剛性の高い鋼板43,44とすることで、鋼板43,44に重ね合わされる構造スリット3の変形がより抑えられるようになるので、構造スリット3の曲がりやズレの防止効果を高めることができる。
【0083】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【0084】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0085】
例えば、前記実施の形態で説明した構造スリット3及び枠材32の材質や形状は例示であって、これに限定されるものではなく、様々な形態の構造スリットに本発明を適用することができる。
【0086】
また、前記実施の形態及び実施例1では、固定手段として固定具6,6Aを例示したが、これに限定されるものではなく、中間支持材61を接続できるのであればよく、様々な形態の固定具をトラス部4,4A,4Bに取り付けることができる。
【0087】
さらに、前記実施の形態及び実施例1では、中間支持材61の固定手段として固定具6,6Aを使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、基板41や鋼板43,44の貫通穴31に中間支持材61を通した後に、溶接で接合させる固定手段であってもよい。