(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168206
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】未加硫混練りゴムの加工方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20241128BHJP
B29B 7/72 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B29C48/92
B29B7/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084685
(22)【出願日】2023-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聖人
(72)【発明者】
【氏名】石川 泰介
【テーマコード(参考)】
4F201
4F207
【Fターム(参考)】
4F201AA45
4F201AM23
4F201AP04
4F201AP14
4F201AP16
4F201AP17
4F201AP20
4F201AR04
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4F207KA01
4F207KA17
4F207KM04
4F207KM06
4F207KM14
4F207KM16
(57)【要約】
【課題】多数種類の未加硫混練りゴムの特徴量により適した加工条件を簡便に決定して、加工された未加硫混練りゴムを効率的に製造できる加工方法およびシステムを提供する。
【解決手段】準備段階S100として、演算装置4に入力したデータセット10から対象特徴11を選択して、多数種類のサンプルAについてそれぞれの対象特徴11の特徴量と適切加工条件とを備える教師データ10aを作成し、演算装置4によって教師データ10aを用いた機械学習により予測モデル20を構築しておき、加工工程S200では、演算装置4に入力した入力データD1と予測モデル20とを用いて演算装置4により、未加硫混練りゴムRを加工装置3で良品に加工できる適切加工条件を予測し、予測したその適切加工条件で未加硫混練りゴムRを加工装置3により加工する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練機による混練り工程を経た未加硫混練りゴムを加工装置に投入し、前記加工装置を演算装置により制御して、前記演算装置に入力した加工条件で前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する未加硫混練りゴムの加工方法において、
準備段階として、配合を異ならせた多数種類の前記未加硫混練りゴムについて前記加工装置に投入される前にその特徴を示す特徴量を多数種類の特徴に対して取得して、前記加工装置でそれぞれの前記未加硫混練りゴムが良品に加工される適切加工条件とともにデータセットとして前記演算装置に入力し、前記データセットから複数種類の前記特徴を対象特徴として選択して、多数種類の前記未加硫混練りゴムについてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量とそれぞれの前記適切加工条件とを備える教師データを作成し、前記演算装置を用いてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量と説明変数とし、それぞれの前記適切加工条件を目的変数として、前記教師データを用いる機械学習により予測モデルを構築しておき、
前記準備段階の完了後に、前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する際には、前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムの前記対象特徴を示す特徴量を取得して入力データとして前記演算装置に入力し、前記入力データと前記予測モデルとを用いて前記演算装置により、それぞれの前記適切加工条件の中から前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムを前記加工装置で良品に加工できる適切加工条件を予測し、予測したその適切加工条件で前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する未加硫混練りゴムの加工方法。
【請求項2】
前記データセットに、それぞれの前記特徴量を取得した取得時期と、それぞれの前記未加硫混練りゴムの配合を特定する配合ラベルとを追加しておき、
同一の前記配合ラベルを有する前記未加硫混練りゴムについてのそれぞれの前記取得時期に基づいて、前記演算装置により、所定の前記対象特徴の前記特徴量の時系列分析を行って、前記適切加工条件を予測する際には、前記時系列分析の結果に基づいて補正した前記入力データを用いる請求項1に記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
【請求項3】
前記データセットには、同一の特徴種で変形程度が異なる複数の変形領域のそれぞれに前記特徴量を有する前記特徴が存在していて、複数の前記変形領域のそれぞれに前記特徴量を有する前記特徴種を前記対象特徴として選択する場合には、それぞれの前記変形領域を個別の前記特徴として扱って前記対象特徴として選択する請求項1または2に記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
【請求項4】
前記対象特徴の選択では、前記未加硫混練りゴムの粘弾性特性を示す複数の前記特徴を有する特徴群と粘性特性を示す複数の前記特徴を有する特徴群と回転振動によって得られるトルク特性を示す複数の前記特徴を有する特徴群の中から少なくとも二つの前記特徴郡を選択して、選択したそれぞれの前記特徴郡の中から少なくとも一つの前記特徴を前記対象特徴として選択する請求項1または2に記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
【請求項5】
前記データセットは、前記未加硫混練りゴムの配合を特定する配合ラベルを前記特徴として備えていて、前記対象特徴として前記配合ラベルを選択する請求項1に記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
【請求項6】
前記加工装置が押出機の場合には、前記適切加工条件がスクリュー温度、コンベヤ速度、押し出ダイ形状、スクリュー温度、および、シリンダ温度であり、前記加工装置が圧延機の場合には、前記適切加工条件がコンベヤ速度、クーリングドラム温度、ロール間ギャップ、ロール速度、および、切り出し幅であり、前記加工装置が加硫装置の場合には、前記適切加工条件が加硫温度、加硫圧力、および、加硫時間である請求項1または2に記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
【請求項7】
混練機による混練り工程を経た未加硫混練りゴムが投入される加工装置と、前記加工装置を制御する演算装置とを備えて、前記演算装置に入力された加工条件で前記未加硫混練りゴムが前記加工装置により加工される未加硫混練りゴムの加工システムにおいて、
前記演算装置には、配合を異ならせた多数種類の前記未加硫混練りゴムについて前記加工装置に投入される前にその特徴を示す特徴量が多数種類の特徴に対して取得されて、前記加工装置で多数種類の前記未加硫混練りゴムが良品に加工されたそれぞれの適切加工条件とともにデータセットとして入力されていて、前記データセットから対象特徴として選択された複数種類の前記特徴の前記特徴量とそれぞれの前記適切加工条件とが多数種類の前記未加硫混練りゴムについて存在する教師データが作成されて、前記演算装置を用いてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量と説明変数とし、それぞれの前記適切加工条件を目的変数として、前記教師データを用いる機械学習により予測モデルが構築されていて、
前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する際には、前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムのそれぞれの前記対象特徴を示す特徴量が取得されて入力データとして前記演算装置に入力されて、それぞれの前記適切加工条件の中から前記入力データと前記予測モデルとを用いて前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムが前記加工装置で良品に加工される適切加工条件が予測されて、予測されたその適切加工条件で前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムが前記加工装置により加工される未加硫混練りゴムの加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未加硫混練りゴムの加工方法およびシステムに関し、より詳しくは、ゴムの特徴量(ゴム物性値)が異なる多数種類の未加硫混練りゴムについて、それぞれのゴムの特徴量により適した加工条件を簡便に決定して、所望の仕様に加工された未加硫混練りゴムを効率的に製造できる未加硫混練りゴムの加工方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
混練機による混練り工程を経た未加硫混練りゴムは、押出機、圧延機、加硫装置などの加工装置により所望の仕様に加工される。それぞれの加工工程では、未加硫混練りゴムを所望の仕様に加工するために適切な加工条件が設定されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の発明では、押し出された未加硫ゴムの寸度および形状を維持するために、未加硫ゴムの物性や環境条件を含む特性に合わせて、押出速度およびコンベヤの搬送速度の速度変更パターンを定めている。
【0003】
タイヤなどのゴム製品の製造現場では、配合が異なるあるいは同一の配合でも混練り条件が異なる多数種類の未加硫混練りゴムが使用されているので、押出速度およびコンベヤの搬送速度の速度変更パターンを定めて加工を行うだけでは、それぞれの未加硫混練りゴムを所望の仕様に加工することは難しい。未加硫混練りゴムの特徴量が類似していれば同じ加工条件にすることで概ね同品質に加工することができる。したがって、ゴムの特徴量が異なる多数種類の未加硫混練りゴムについて、それぞれのゴムの特徴量に適した加工条件を簡便に決定して、所望の仕様に加工された未加硫混練りゴムを効率的に製造するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゴムの特徴量が異なる多数種類の未加硫混練りゴムについて、それぞれのゴムの特徴量により適した加工条件を簡便に決定して、所望の仕様に加工された未加硫混練りゴムを効率的に製造できる未加硫混練りゴムの加工方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明の未加硫混練りゴムの加工方法は、混練機による混練り工程を経た未加硫混練りゴムを加工装置に投入し、前記加工装置を演算装置により制御して、前記演算装置に入力した加工条件で前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する未加硫混練りゴムの加工方法において、準備段階として、配合を異ならせた多数種類の前記未加硫混練りゴムについて前記加工装置に投入される前にその特徴を示す特徴量を多数種類の特徴に対して取得して、前記加工装置でそれぞれの前記未加硫混練りゴムが良品に加工される適切加工条件とともにデータセットとして前記演算装置に入力し、前記データセットから複数種類の前記特徴を対象特徴として選択して、多数種類の前記未加硫混練りゴムについてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量とそれぞれの前記適切加工条件とを備える教師データを作成し、前記演算装置を用いてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量と説明変数とし、それぞれの前記適切加工条件を目的変数として、前記教師データを用いる機械学習により予測モデルを構築しておき、前記準備段階の完了後に、前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する際には、前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムの前記対象特徴を示す特徴量を取得して入力データとして前記演算装置に入力し、前記入力データと前記予測モデルとを用いて前記演算装置により、それぞれの前記適切加工条件の中から前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムを前記加工装置で良品に加工できる適切加工条件を予測し、予測したその適切加工条件で前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工することを特徴とする。
【0007】
本発明の未加硫混練りゴムの加工システムは、混練機による混練り工程を経た未加硫混練りゴムが投入される加工装置と、前記加工装置を制御する演算装置とを備えて、前記演算装置に入力された加工条件で前記未加硫混練りゴムが前記加工装置により加工される未加硫混練りゴムの加工システムにおいて、前記演算装置には、配合を異ならせた多数種類の前記未加硫混練りゴムについて前記加工装置に投入される前にその特徴を示す特徴量が多数種類の特徴に対して取得されて、前記加工装置で多数種類の前記未加硫混練りゴムが良品に加工されたそれぞれの適切加工条件とともにデータセットとして入力されていて、前記データセットから対象特徴として選択された複数種類の前記特徴の前記特徴量とそれぞれの前記適切加工条件とが多数種類の前記未加硫混練りゴムについて存在する教師データが作成されて、前記演算装置を用いてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量と説明変数とし、それぞれの前記適切加工条件を目的変数として、前記教師データを用いる機械学習により予測モデルが構築されていて、前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する際には、前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムのそれぞれの前記対象特徴を示す特徴量が取得されて入力データとして前記演算装置に入力されて、それぞれの前記適切加工条件の中から前記入力データと前記予測モデルとを用いて前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムが前記加工装置で良品に加工される適切加工条件が予測されて、予測されたその適切加工条件で前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムが前記加工装置により加工されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記予測モデルは、前記教師データを用いることにより、選択されたそれぞれの特徴量と良品に加工できる適切加工条件とが複雑な関連性を有しているが所望の適切加工条件を精度よく予測できる。したがって、前記予測モデルを予め構築しておくことで、未加硫混練りゴムを加工装置で加工する際には、加工装置に投入される前にその未加硫混練りゴムの前記入力データを入力するだけで、それぞれの前記入力データを有する未加硫混練りゴムに適した加工条件を、それぞれの前記適切加工条件の中から精度よく予測できる。その結果、特徴量が様々に異なっていても、所望の仕様に加工された未加硫混練りゴムを効率的に製造できる。
【0009】
また、前記予測モデルを用いることで、未加硫混練りゴムの配合が新規の配合であっても、前記入力データがあれば、その未加硫混練りゴムのゴム特徴量に適した適切加工条件でその未加硫混練りゴムを加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】未加硫混練りゴムの加工システムの実施形態を例示する説明図である。
【
図3】未加硫混練りゴムの加工方法の実施形態の手順を例示するフロー図である。
【
図6】予測モデルの予測精度を例示するグラフ図である。
【
図7】変形例でのデータセットを例示する説明図である。
【
図8】変形例での未加硫混練りゴムの加工方法の手順を例示するフロー図である。
【
図9】時系列分析の結果を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の未加硫混練りゴムの加工方法およびシステムを、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示する未加硫混練りゴムの加工システム1の実施形態を用いて、未加硫混練りゴムの加工方法が実施される。この加工システム1および加工方法は、混練機2による混練り工程を経た未加硫混練りゴムRを加工装置(押出機)3により所望の仕様に加工するために使用される。即ち、この実施形態では、後述するように、
図3に例示する手順に従って、準備段階(後述する準備段階S100)として
図2に例示するデータセット10を演算装置4に入力して、予測モデル20を予め作成しておく。未加硫混練りゴムRを加工装置3により加工する(後述する加工工程S200)際には、未加硫混練りゴムRを加工装置3に投入する前にデータ取得装置5で取得した入力データD1が演算装置4に入力されて、予測モデル20を用いて演算装置4により予測した適切加工条件で未加硫混練りゴムRが加工される。
【0013】
まず、加工システム1の詳細について説明する。
【0014】
加工システム1は、加工装置3と演算装置4と各種のデータ取得装置5とを備えている。加工システム1は、ゴム製品の製造ラインに組み込まれている。加工システム1の加工装置3による未加硫混練りゴムRの加工工程は、混練機2による混練り工程の後に行われる。未加硫混練りゴムRは、例えば、ゴムタイヤ、コンベヤベルト、ホースなどの種々のゴム製品の製造に使用される。
【0015】
加工装置3としては、未加硫混練りゴムRを加工する押出機、圧延機、および、加硫装置などの公知の種々の加工装置を例示できる。この実施形態では、加工装置3として押出機を用いている。押出機により押し出された未加硫混練りゴムRは搬送コンベヤによって次工程に搬送される。加工装置3は演算装置4により制御されていて、加工装置3での加工条件は演算装置4に入力されている。加工条件は、例えば、加工装置3の制御パラメータの目標値(目標となる選択物の場合もある)であり、加工装置3が押出機の場合、スクリュー回転数〔rpm〕、搬送コンベヤのコンベヤ速度〔m/min〕、押出ダイ形状の種類、スクリュー温度〔℃〕、および、シリンダ温度〔℃〕などが例示される。押出ダイ形状は目標となる選択物である。加工装置3が圧延機の場合、加工条件はコンベヤ速度〔m/min〕、クーリングドラム温度〔℃〕、ロール間ギャップ〔mm〕、ロール速度〔rpm〕、および、切り出し幅〔m〕などが例示される。加工装置3が加硫装置の場合、加工条件は、加硫時間〔min〕、加硫温度〔℃〕、および、加硫圧力〔MPa〕などが例示される。加工条件は、例示した制御パラメータに限定されるものではなく、他の制御パラメータも適宜選択可能であり、例えば、加工装置3が押出機の場合、クーリングドラム温度や切り出し幅が含まれてもよい。この実施形態では、加工装置3として押出機を用いている。
【0016】
演算装置4は公知の種々のコンピュータを用いることができる。演算装置4は、中央演算処理部(CPU)、主記憶部(メモリ)、補助記憶部(例えば、HDD)、入力部(キーボード、マウス)、および、出力部(ディスプレイ)を有している。補助記憶部には、所定のプログラムと、データセット10と教師データ10aと予測モデル20とが記憶されている。
【0017】
演算装置4は、未加硫混練りゴムRを加工装置3により加工するよりも前の準備段階S100で入力部によりデータセット10が入力されると、所定のプログラムの実行により、そのプログラムに指示された各データ処理を実行して、予測モデル20を構築する。演算装置4は、準備段階S100の完了後の加工工程S200を実行する際に、各種のデータ取得装置5が取得した入力データD1が入力されると、所定のプログラムの実行により、そのプログラムにより指示された各データ処理を実行して、加工装置3を制御する。
【0018】
各種のデータ取得装置5は、混練り工程を経た未加硫混練りゴムRの特徴量(ゴム物性値)を取得している。より具体的に、各種のデータ取得装置5は、後述する
図3に例示する未加硫混練りゴムの加工方法の手順におけるステップ(S120)で選択されたそれぞれの対象特徴11の特徴量を取得している。各種のデータ取得装置5としては、ムーニー粘度計、キャピラリーレオメータ、可塑度計、プラストメータ、質量計、比重計、比熱測定装置などの公知の種々の測定装置を用いることができる。
【0019】
次に、データセット10の詳細について説明する。
【0020】
図2に例示するデータセット10は、準備段階S100の時点で演算装置4に入力(演算装置4の補助記憶部に記憶)されていればよい。準備段階S100では、配合を異ならせた多数種類の未加硫混練りゴム(サンプルA)について加工装置3に投入される前にその特徴を示す特徴量を多数種類の特徴に対して取得して、加工装置3で多数種類のサンプルAを良品に加工できる適切加工条件とともにデータセット10として演算装置4に入力される。データセット10は、
図2の表の最左列に記載された各未加硫混練りゴムのサンプルA(A1、A2、・・・、An)毎に、多数種類の特徴(G’_0.28、G’_300、・・・、G’’_0.28、G’’_300、・・・)の特徴量(以下、特徴データ)と、適切加工条件(スクリュー回転数、スクリュー温度、・・・)とを有している。
【0021】
データセット10は、配合を異ならせて混練機2により混練りされた多数種類の未加硫混練りゴムのサンプルAを用意して、加工装置3に投入される前にデータ取得装置5を用いてそれぞれの特徴を示す特徴量を取得し、加工装置3でサンプルAが実際に良品に加工された際に用いた加工条件を適切加工条件として取得することにより作成してもよい。ゴム製品の製造業者は様々な配合の未加硫混練りゴムRについて多数種類の特徴の特徴量のデータとそれぞれの適切加工条件を大量に蓄積している。製造業者が蓄積しているデータとしては、実際のゴム製品の製造ラインでの測定値や研究開発での多数の実験、試験の結果やコンピュータシミュレーション結果などのラボデータがある。これらの蓄積しているデータをデータセット10として用いることができる。
【0022】
サンプルAの配合には、配合ラベルを用いている。配合ラベルは、未加硫混練りゴムRの配合を特定できるものであればよい。詳述すると、その未加硫混練りゴムRの配合と他の配合とを区別できる表示であればよいので、実際の配合データである必要はなく、単なるマークや記号でもよい。したがって、同じ配合ラベルであれば同じ配合であることを意味する。配合とは未加硫混練りゴムRの成分の種類とその成分量である。データセット10として、配合ラベルまたは配合ラベルと実際の配合データを有していてもよい。
【0023】
同一の配合ラベルであっても混練機2による混練り具合や混練り後の経時変化に起因して、少なくとも一部の特徴の特徴量が若干異なる。配合が類似していると、それぞれの特徴量が近似するのが一般的である。サンプルAの数(n)は、膨大であり、例えば、50個以上である。同一の配合ラベルでのサンプルAの数は、例えば5個以上である。
【0024】
特徴データは、未加硫混練りゴムRのサンプルAに関する特徴を示す特徴量を多数種類の特徴について備える一群データ(サンプルAごとの特徴量の集まり)である。
図2の表中では、特徴および特徴量の一部が「・・・」によって省略された記載になっている。
【0025】
特徴データでのそれぞれの特徴は、サンプルAの粘弾性特性を示す複数の特徴を有する特徴群、粘性特性を示す複数の特徴を有する特徴群、回転振動によって得られるトルク特性を示す複数の特徴を有する特徴群に区分される。具体的には、特徴の種類としては、動的せん断弾性率(G)、動的貯蔵せん断弾性率(G’)、動的損失せん断弾性率(G’’)、複素弾性率(G*)、クリープコンプライアンス(J)、損失クリープコンプライアンス(J’)、複素クリープコンプライアンス(J*)、損失正接(tanδ)、動粘度(η’)、見かけの動粘度(η’’)、複素動粘度(η*)、回転振動によって得られる弾性トルク(S’)、粘性トルク(S’’)、複素トルク(S*)、ムーニー粘度(M)、スコーチタイム(T5、T10、T30、T50、T95)などが例示される。また、特徴の一種として、サンプルAの重量、比重、熱容量などを用いることもできる。
【0026】
データセット10での一部の特徴の特徴量は特定の一つの変形領域のみで取得されていてもよいが、変形程度が異なる複数の変形領域毎で取得されることが好ましい。複数の変形領域は、例えば、ひずみが10%以下の微小変形領域と数十%以上の大変形領域である。複数の変形領域には、微小変形領域と大変形領域との間の中間的な変形領域をさらに採用することもできる。微小変形領域は、ひずみが10%以下の範囲で任意に設定でき、例えば、1%以下、或いは、0.1%以上0.5%以下の範囲にする。大変形領域は、ひずみが数十%以上の範囲で任意に設定でき、例えば、20%以上、或いは、50%以上1250%以下の範囲にする。
図2中では、例えば、特徴種である動的損失せん断弾性率G’に対しては、ひずみが0.28%の微小変形領域での動的損失せん断弾性率G’_0.28と、ひずみが300%の大変形領域での動的損失せん断弾性率G’_300とが存在している。このように、データセット10では、それぞれの変形領域を同一種類の特徴での個別の特徴として扱っている。なお、
図2中では、それぞれの特徴種において変形領域が0.28%と300%で共通になっているが、特徴の種類ごとに所望の変形領域を設定すればよく、例えば、動粘度η’では、微小変形領域としてひずみが0.14%、大変形領域としてひずみが1250%を採用してもよい。
【0027】
サンプルAによっては、一部の特徴の特徴量が欠損している場合がある。特徴量が欠損している場合、欠損しているその特徴量を補完しておくとよい。特徴量の欠損の補完手法には、公知の種々の手法を用いることができる。例えば、データセット10の中に一部の特徴の特徴量が欠損しているサンプルAが存在する場合、同一の配合ラベルのサンプルAの欠損していない当該特徴量を用いて補完する、または、同一の配合ラベルの複数のサンプルAの欠損していない当該特徴量の代表値を用いて補完する。
【0028】
また、データセット10での特徴ごと(列ごと)によって特徴量(数値)の範囲が大幅に異なる場合、それぞれの特徴量をスケーリング(正規化あるは標準化)するとよい。スケーリングの手法には、Min-Max法、平均値および標準偏差を用いる手法、RobustScaler(中央値からの偏差を四分位範囲で除算)、RMSE(二乗平均平方根誤差)を用いた手法などの公知の種々の手法を用いることができる。データセット10の特徴データに対してスケーリングを施すことにより、それぞれの特徴の特徴量が有する値の重みを概ね平等にすることができるので、後述する準備段階S100である特徴のみを重視するなどの偏ったデータ処理の回避には有利になる。
【0029】
それぞれの特徴量は、未加硫混練りゴムのサンプルAが混練機2による混練り工程を経て加工装置3に投入されるまでの間に各種のデータ取得装置5により取得されている。それぞれの特徴量をデータ取得装置5により取得するタイミングは、混練り工程からの経時変化による物性変動を考慮すると加工装置3に投入される直前が望ましいが、多数の特徴量の全てを加工装置3に投入される直前に取得することは難しい。そこで、特徴ごとに同一のタイミングを用いて、特徴ごとに経時変化による物性変動の具合を統一するとよい。実際に加工システム1が組み込まれた製造ラインでは、各特徴量がそれぞれのデータ取得装置5により順次、取得されていて、特徴ごとに概ね同一のタイミングになっている。サンプルAとしてラボデータを用いる場合、実際に製造ラインでのそれぞれのデータ取得装置5による取得タイミング(混練機2から排出されてから経過した時間)を計測しておき、計測したそれぞれの取得タイミングを考慮するとよい。これにより、異なる特徴どうしではその特徴量の取得タイミングが異なるが、同一の特徴では略同一の取得タイミングでその特徴量が取得される。したがって、同一の特徴の特徴量どうしでは、混練り工程後の経時変化の具合が概ね同一になり、経時変化による特徴量の変動の影響を抑制するには有利になる。
【0030】
適切加工条件は、未加硫混練りゴムのサンプルAが加工装置3で良品に加工された際の各種の制御パラメータの設定値を備えている。
図2の表中では、適切加工条件のより具体的な制御パラメータの一部および制御パラメータの設定値の一部が「・・・」によって省略された記載になっている。加工装置3として押出機を用いる場合、適切加工条件として設定される制御パラメータは、例えば、スクリュー回転数、コンベヤ速度、押し出しダイ形状、スクリュー温度、シリンダ温度である。
【0031】
良品とは、加工装置3で加工されたサンプルAの加工具合が良好な状態を意味する。良品か否かは、例えば、加工後のサンプルAの寸法、形状、表面状態などを指標として予め決定されている許容範囲に入るか否かによって判断される。許容範囲に入っていれば良品であり、入っていなければ不良品である。
【0032】
適切加工条件は、実際にサンプルAが加工装置3により良品に加工された際に設定されていた制御パラメータの設定値を用いてもよいが、各サンプルAの特徴量に基づいて予測された予測値を用いてもよい。各サンプルAの特徴量を把握することで、当業者であれば、ゴム製品の製造過程で得られた経験、公知の種々の文献、多数の実験や試験データの蓄積やコンピュータシミュレーション結果の蓄積などを参考にして、各サンプルAに適した適切加工条件を予測できる。このような当業者の知見を利用して、それぞれのサンプルAについての適切加工条件が設定されてもよい。このように、適切加工条件は、サンプルAを加工装置3により所望の仕様に加工しても、良品になるように設定される。
【0033】
次に、未加硫混練りゴムの加工方法の詳細について説明する。
【0034】
図3に例示するように未加硫混練りゴムの加工方法の手順としては、準備段階S100を加工工程S200よりも前に実行する。準備段階S100として、データセット10を演算装置4に入力し(S110)、予測モデル20を構築しておく(S120、S130)。次いで、未加硫混練りゴムRを加工装置3により加工する加工工程S200では、加工装置3に投入する前に各種のデータ取得装置5が取得した入力データD1を演算装置4に入力し(S210)、それぞれの適切加工条件の中から入力された入力データD1と予測モデル20を用いて予測された適切加工条件で未加硫混練りゴムRが加工される(S220、S230)。以下に、各ステップ(S110~S150、S210~S230)の内容について詳述する。
【0035】
ステップ(S110)では、データセット10を演算装置4に入力する。このステップは、準備段階S100を開始するよりも前の任意のタイミングで行うことができる。
【0036】
ステップ(S120)では、データセット10の特徴データの多数種類の特徴の中から複数種類の特徴を対象特徴11として選択する。具体的に、演算装置4により対象特徴11の選択画面を出力部に出力するデータ処理が実行され、その選択画面に入力部により対象特徴11が選択される。
【0037】
対象特徴11として選択される特徴の特徴種の種類数が少ないと後述する予測モデル20の構築に必要な情報が欠けてしまう一方で、その種類数が多すぎると球面集中現象の発生や相関係数の高い組み合わせが発生してしまう。また、予測モデル20の構築に用いる機械学習の種類(例えば、重回帰分析)によっては多重共線性の問題が起こり得る。そこで、精度向上および情報の重複により特定の特性が過度に影響を与えることになってしまうことを考慮して、適切な個数の特徴種の対象特徴11が選択されることが望ましい。対象特徴11の特徴種の種類数は、4個以上が好ましく、上限は例えば12個である。例えば、加工される未加硫混練りゴムRの使用用途(ゴム製品での部位)毎に適切な対象特徴11が選択される。
【0038】
対象特徴11の選択には、特に制約を設けなくてもよいが、制約を設けることによりステップ(S130)で構築される予測モデル20の予測精度の向上には有利になる。そこで、選択する特徴の種類を制約する制約条件を用いて、その制約条件を満足する特徴を対象特徴11として選択することが望ましい。
【0039】
制約条件としては、対象特徴11を各特性に応じたそれぞれの特徴に限定する。例えば、粘弾性特性を示す特徴郡(複数の特徴の集まり)、粘性特性を示す特徴郡、回転振動によって得られるトルク特性を示す特徴郡の中から少なくとも二つの特徴郡を選択して、選択したそれぞれの特徴郡の中から少なくとも一つの特徴を対象特徴11として選択する。より望ましくは、それらの特徴郡の全てを選択して、選択したそれぞれの特徴郡の中から少なくとも一つの特徴を対象特徴11として選択する。このように、同一の特性のみではなく、異なる特性の特徴を対象特徴11として選択することにより、未加硫混練りゴムRの物性をより多角的に把握するには有利になる。
【0040】
別の制約条件としては、対象特徴11として選択した特徴種が、データセット10において、変形程度が異なる複数の変形領域毎での特徴量を有している場合、それぞれの変形領域での特徴(同一種類の特徴での個別の特徴)を対象特徴11として選択する。例えば、対象特徴11として動的貯蔵せん断弾性率G’を選択する場合、微小変形領域の動的貯蔵せん断弾性率G’_0.28と大変形領域の動的貯蔵せん断弾性率G’_300のそれぞれの特徴(同一種類の特徴での個別の特徴)を対象特徴11として選択する。このように、対象特徴11を選択することで、加工装置3による未加硫混練りゴムの加工時の挙動の具合をより正確に把握できる。
【0041】
制約条件は、上記に限定されるものではない。例えば、未加硫混練りゴムRの各特性から選択された特徴に加えて、変形領域に応じてその特徴量が変化しない特徴(重量、比重、熱容量など)を対象特徴11として選択するとよい。また、それぞれの配合ラベルや実際の配合データがデータセットに記載されている場合は、配合ラベルや実際の配合データを対象特徴11として選択するとよい。配合ラベルや実際の配合データを対象特徴11として選択して予測モデル20を構築すると、サンプルAの配合と適切加工条件との関連性を分析できる。
【0042】
対象特徴11としては、例えば、ひずみが0.28%の微小変形領域とひずみが300%の大変形領域との2種類の変形領域での動的貯蔵せん断弾性率(G’)、動的損失せん断弾性率(G’’)、回転振動によって得られる弾性トルク(S’)、粘性トルク(S’’)、損失クリープコンプライアンス(J’)、複素クリープコンプライアンス(J*)、動粘度(η’)、見かけの動粘度(η’’)、損失正接(tanδ)が選択される。即ち、対象特徴11としては、例えば、9種類の特徴種と2種類の変形領域との組み合わせによって合計18種類の特徴が選択される。
【0043】
図4に例示する教師データ10aは、対象特徴11が選択されることにより作成されて、演算装置4の補助記憶部に記憶される。教師データ10aは、
図4の表の最左列に記載された各未加硫混練りゴムのサンプルA(A1、A2、・・・、An)毎に、それぞれの対象特徴11(G’_0.28、G’_300、G’’_0.28、G’’_300、・・・、tanδ_0.28、tanδ_300)の特徴量と、適切加工条件(スクリュー回転数、スクリュー温度、・・・)とを有している。即ち、教師データ10aは、上記の
図2のデータセット10の特徴データの多数種類の特徴の中から選択された対象特徴11を除いた残りの特徴が削除されたデータである。
図4中では、一部の対象特徴11が「・・・」および各特徴量が「・・・」によって省略された記載になっている。
【0044】
ステップ(S130)では、教師データ10aを用いる機械学習を用いて、演算装置4により、予測モデル20を構築するデータ処理が実行される。予測モデル20は、教師データ10aを用いた機械学習により構築され、未加硫混練りゴムRが加工装置3で良品に加工される適切加工条件を予測するコンピュータプログラムの一種である。予測モデル20は、それぞれの対象特徴11の特徴量を説明変数とし、それぞれの適切加工条件を目的変数とした、教師あり機械学習により構築される。教師あり機械学習としては、重回帰分析、ランダムフォレスト、ディープニューラルネットワーク(DNN)などの公知の種々の教師あり機械学習が例示される。
【0045】
適切加工条件は、未加硫混練りゴムRのそれぞれの特徴量が複雑に影響し合う。構築された予測モデル20は、教師データ10aを用いた機械学習により構築されているため、それぞれの適切加工条件とそれぞれの対象特徴11の特徴量との関係が紐づけされていて、それぞれの適切加工条件に対するそれぞれの対象特徴11の特徴量の影響具合が分析、評価された状態になっている。それ故、未加硫混練りゴムRのそれぞれの対象特徴11の特徴量が入力された予測モデル20から出力される適切加工条件は、それぞれの対象特徴11の特徴量の違いなどによる加工条件の相違程度のそれぞれの場合における変化を高精度に表している。また、教師データ10aのそれぞれの適切加工条件には、複数種類の制御パラメータが含まれているため、構築された予測モデル20では、複数種類の制御パラメータどうしの関連性も精度よく把握できている。したがって、予測モデル20は、未加硫混練りゴムRのそれぞれの対象特徴11の特徴量を予測モデル20に入力することにより、それぞれの適切加工条件の中から未加硫混練りゴムRが加工装置3で良品に加工される適切加工条件を精度よく予測できる。
【0046】
以上の準備段階S100の実施により、予測モデル20が構築されて、演算装置4の補助記憶部に記憶される。準備段階S100の各ステップ(S110~S130)は、未加硫混練りゴムRを加工装置3により実際に加工する加工工程S200とは関係なく任意の所望のタイミングで行うことができる。準備段階S100で構築した予測モデル20は、データセット10へのサンプルAの追加、ステップ(S120)で選択される対象特徴11の変更など、予測モデル20に関するデータの変更がない限り、構築し直す必要がない。即ち、一度構築した予測モデル20は何回でもそのまま使用することが可能であるので、予測モデル20が構築されていれば、準備段階S100を省略できる。
【0047】
次に、加工工程S200の詳細について説明する。
【0048】
ステップ(S210)では、混練機2による混練り工程を経た未加硫混練りゴムRが加工装置3に投入される前に、各種のデータ取得装置5により、未加硫混練りゴムRに関するそれぞれの対象特徴11の特徴量が取得されて、各種のデータ取得装置5により取得されたそれぞれの対象特徴11の特徴量が入力データD1として演算装置4に入力される。入力データD1は、各種のデータ取得装置5から直に演算装置4に入力されてもよいが、入力部により演算装置4に入力されてもよい。
【0049】
図5に例示する入力データD1は、各種のデータ取得装置5により取得されて、演算装置4に入力される。入力データD1は、未加硫混練りゴムRのそれぞれの対象特徴11の特徴量が集積している。
図5の表中では、具体的な特徴量が「・・・」によって省略されている。
【0050】
入力データD1での対象特徴11は、上述した準備段階S100のステップ(S120)で選択された対象特徴11と同一である。入力データD1は上述した
図2のデータセット10と同様に欠損している特徴量の補完や各特徴量のスケーリングを行うとよい。各種のデータ取得装置5により入力データD1を取得するタイミングは、データセット10での特徴量を取得するタイミングと同様のタイミングを用いるとよい。各種のデータ取得装置5での取得タイミングをデータセット10での取得タイミングに合わせることにより、データセット10での特徴量とこのステップ(S210)で取得された特徴量との混練り工程後の経時変化の具合が概ね同一になり、経時変化による特徴量の変動の影響を排除するには有利になる。
【0051】
ステップ(S220)では、入力された入力データD1と予測モデル20とを用いて、演算装置4により、それぞれの適切加工条件の中から未加硫混練りゴムRが加工装置3で良品に加工される適切加工条件を予測するデータ処理が実行される。未加硫混練りゴムRが加工装置3に投入される前に各種のデータ取得装置5により取得した入力データD1が予測モデル20に入力されるため、混練り工程での出来栄えや混練り工程後の経時変化などの影響によるゴム物性の変動が考慮された適切加工条件が出力される。
【0052】
ステップ(S230)では、演算装置4により、予測した適切加工条件で加工装置3を制御するデータ処理が実行されて、その適切加工条件で未加硫混練りゴムRが加工される。ステップ(S230)において適切加工条件を開始した後で、適宜のタイミングで加工条件を調節することも可能である。
【0053】
図6は、配合や混練り条件が異なる未加硫混練りゴムを複数用意して、上述の実施形態と同様の方法で予測された加工装置(押出機)3のスクリュー温度の目標値と、未加硫混練りゴムをその加工装置3で良品に加工できた際のスクリュー温度の観測値の比較結果である。
図6中の黒点は、用意したそれぞれの未加硫混練りゴムについての目標値と観測値の該当位置にプロットしたものである。このプロットした黒点群は、目標値と観測値とが一致す
図6中の破線で示す直線に近接している。このように、予測された目標値が用意した未加硫混練りゴムを加工装置3で良品に加工できる範疇になるように多数の教師データ10aを用いて予測モデル20を構築する。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、選択された対象特徴11のそれぞれの特徴量と良品に加工できる適切加工条件とが複雑な関連性を有しているが、教師データ10aを用いて構築された予測モデル20は所望の適切加工条件を精度よく予測できる。したがって、準備段階S100として予測モデル20を予め構築しておくことで、未加硫混練りゴムRを加工装置3で加工する際には、加工装置3に投入される前にその未加硫混練りゴムRの入力データD1を入力するだけで、それぞれの入力データD1を有する未加硫混練りゴムRに適した加工条件を、それぞれの適切加工条件の中から精度よく予測できる。その結果、特徴量が様々に異なっていても、所望の仕様に加工された未加硫混練りゴムRを効率的に製造できる。
【0055】
また、予測モデル20を用いることで、未加硫混練りゴムRの配合が新規の配合であっても、入力データD1があれば、その未加硫混練りゴムRのゴム特徴量に適した適切加工条件でその未加硫混練りゴムRを加工できる。
【0056】
予測された適切加工条件は、未加硫混練りゴムRを良品に加工可能な目安として利用することができる。入力データD1を入力することで得られた適切加工条件を基準として、周囲環境や混練り工程から経時的な物性変動を考慮して、加工条件の微調整を行うことにより、現場に則したより適切な加工条件で未加硫混練りゴムRを加工装置3により加工することができる。即ち、目安となる適切加工条件が簡便に決定するため、作業者のスキルの程度に影響を受けることなく効率的に、所望の仕様に加工された未加硫混練りゴムRを製造できる。
【0057】
次に、未加硫混練りゴムの加工方法およびシステムの実施形態の変形例について説明する。
【0058】
図7は変形例で用いるデータセット10Bの一例を示す。データセット10Bは、上述した
図2のデータセット10に対して、取得時期が追加されている。取得時期は、各サンプルAについての加工装置3による加工工程S200が実施された時期(多数種類の特徴の特徴量が取得された時期)を示すデータである。
図7の表中では、取得時期が「・・・」によって省略された記載になっているが実際は年月日(YYYY/MM/DD)が記載されている。取得時期は、年月だけにすることも、年と上期/下期などにすることもできる。また、データセット10Bは、特徴として配合ラベル(C1、C2、・・・、Cm)を備えている。
【0059】
図8は変形例での未加硫混練りゴムの加工方法の手順の一例を示す。変形例では、上述した
図3の手順に対して別のステップ(S310、S320)が追加されている。即ち、変形例の手順では、演算装置4により、入力された入力データD1が補正される(S310、S320)。したがって、変形例では、演算装置4により、補正された入力データD1と予測モデル20を用いて適切加工条件が予測される(S220)。
【0060】
ステップ(S310)では、同一の配合ラベルを有する多数のサンプルAについてのそれぞれの取得時期に基づいて、演算装置4により、所定の対象特徴11の特徴量の時系列分析を行うデータ処理が実行される。時系列分析(時系列予測)には、X11分解法、加法型あるいは積乗型季節平滑法、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデル、季節変動自己回帰和分移動平均(SARIMA)モデル、STL分解(Season-trend Decomposition)などの公知の種々の時系列分析手法を用いることができる。混練機2による混練り工程は、季節による周囲環境の温度変化の影響を受けることから、時系列分析は、季節的な要因を含まないデータに適した移動平均法や指数平滑法などの非季節手法以外の手法を用いることが望ましい。
【0061】
時系列分析に用いるサンプルAは、任意に選択してもよいが、サンプルAの数が多いほど時系列分析でのデータ数が多くなり、時系列での特徴量の変動の傾向をより正確に把握するには有利になる。また、時系列分析に用いる多数のサンプルAは、同一の配合ラベルであることが好ましい。同一の配合ラベルのサンプルAどうしでは配合の差異による特徴量の変動に及ぼす影響が排除されるため、時系列での特徴量の変動の傾向をより正確に把握するには有利になる。したがって、時系列分析に用いる多数のサンプルAには、データセット10Bを同一の配合ラベルを有する多数のサンプルA毎のグループに分類して、分類したグループの中から分類されたサンプルAの数が最多のグループを用いるとよい。
【0062】
図9は、データセット10aの中で最多のサンプル数となる配合ラベルCmを有するサンプルAについての大変形領域での動的貯蔵せん断弾性率G’_300の変動量を時系列分析した結果の一例を示している。
図9中の白丸点は、観測値であり、サンプルAごとの大変形領域での動的貯蔵せん断弾性率G’_300の変動量と日付の該当位置にプロットしたものである。
図9中の白四角点は、観測値から時系列分析により得られた季節変動による変動量と日付の該当位置にプロットしたものである。
図9中の黒丸点は、観測値から季節変動と不規則変動(ノイズ)を除去した傾向変動(長期変動)による変動量と日付の該当位置にプロットしたものである。
【0063】
図9中の太い破線は、黒丸点群を直線に近似したものであり、予測される傾向変動を示している。
図9中では未加硫混練りゴムRの混練り工程や加工工程S200の取得時期をDbで示している。取得時期Dbでの太い破線上にある黒星点は、未加硫混練りゴムRの特徴量での傾向変動量を示している。傾向変動量は、混練機2による混練り工程での出来栄えの度合いの変化による影響が反映されていて、その要因は、例えば、混練機2の経年劣化である。
【0064】
図9中の白星点は、未加硫混練りゴムRの特徴量での季節変動量を示している。
図9中の白四角点群では、季節変動を正確に予想するにはデータ数が少なく、その季節変動量は季節変動における季節平均に対する影響の程度が正か負かを示している。したがって、変形例では季節変動量が考慮されない(季節変動量=0)が、データセット10Bによっては季節変動量を取得することもできる。季節変動を正確に予測して未加硫混練りゴムRの特徴量での季節変動量を取得するには、例えば、複数年単位でデータ収集したデータセット10Bを用いる。そのようなデータセット10Bであれば、季節変動による周期的な特徴量の変動を予測して、未加硫混練りゴムRの特徴量での季節変動量を取得できる。取得した季節変動量は、季節による気温や湿度などの周囲環境の変化による影響が反映される。
【0065】
ステップ(S320)は、演算装置4により、時系列分析の結果に基づいて入力データD1を補正するデータ処理が実行される。この入力データD1の補正では、季節変動や傾向変動が入力データD1の変動に及ぼす影響を排除して、概ね同じ条件下で入力データD1とデータセット10Bとを比較できるようにする。具体的に、演算装置4は、未加硫混練りゴムRの特徴量での季節変動量と傾向変動量とに基づいた補正値を算出して、算出した補正値により入力データD1の各特徴量を補正する。季節変動量の補正値は、時系列分析の結果で得られた季節変動量を零にする値である。傾向変動量の補正値は、時系列分析の結果で得られた傾向変動量と時系列分析での傾向変動の平均的な値(
図8中の黒丸点の代表値)との差分である。したがって、入力データD1は、季節変動量の補正値と傾向変動量の補正値との合計値で補正される。
【0066】
以上のように変形例によれば、ステップ(S220)では、演算装置4により、補正された入力データD1と予測モデル20とを用いて適切加工条件を予測するデータ処理が実行される。予測に用いる補正された入力データD1は、季節変動や傾向変動が入力データD1の変動に及ぼす影響が排除されて、データセット10Bと概ね同じ条件下で取得されと見做せる値になっている。それ故、予測モデル20での適切加工条件の予測の精度を向上するには有利になる。
【0067】
上記のステップ(S120)では、データセット10の特徴データの中の予め決まっている所定の特徴を対象特徴11として選択することもできる。即ち、対象特徴11として選択される特徴を演算装置4に記憶させておき、準備段階S100では、演算装置4により記憶していた対象特徴11を選択するデータ処理が実行される。これにより、上記のステップ(S120)を演算装置4により自動的に行うこともできる。
【0068】
既述した実施形態やその変形例では、既存ではない新規の配合の未加硫混練りゴムの開発や混練機2などの装置の経年劣化などの製造環境の変化に対応させるために、定期的なデータセット10、10Bの拡充と予測モデル20の更新とを行うことが望ましい。拡充や更新の頻度は、任意に設定できるが、例えば、月ごとや半年ごとなどの所定の期間ごとである。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の未加硫混練りゴムの加工方法およびシステムは特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0070】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明(1):混練機による混練り工程を経た未加硫混練りゴムを加工装置に投入し、前記加工装置を演算装置により制御して、前記演算装置に入力した加工条件で前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する未加硫混練りゴムの加工方法において、
準備段階として、配合を異ならせた多数種類の前記未加硫混練りゴムについて前記加工装置に投入される前にその特徴を示す特徴量を多数種類の特徴に対して取得して、前記加工装置でそれぞれの前記未加硫混練りゴムが良品に加工される適切加工条件とともにデータセットとして前記演算装置に入力し、前記データセットから複数種類の前記特徴を対象特徴として選択して、多数種類の前記未加硫混練りゴムについてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量とそれぞれの前記適切加工条件とを備える教師データを作成し、前記演算装置を用いてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量と説明変数とし、それぞれの前記適切加工条件を目的変数として、前記教師データを用いる機械学習により予測モデルを構築しておき、
前記準備段階の完了後に、前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する際には、前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムの前記対象特徴を示す特徴量を取得して入力データとして前記演算装置に入力し、前記入力データと前記予測モデルとを用いて前記演算装置により、それぞれの前記適切加工条件の中から前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムを前記加工装置で良品に加工できる適切加工条件を予測し、予測したその適切加工条件で前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する未加硫混練りゴムの加工方法。
発明(2):前記データセットに、それぞれの前記特徴量を取得した取得時期と、それぞれの前記未加硫混練りゴムの配合を特定する配合ラベルとを追加しておき、
同一の前記配合ラベルを有する前記未加硫混練りゴムについてのそれぞれの前記取得時期に基づいて、前記演算装置により、所定の前記対象特徴の前記特徴量の時系列分析を行って、前記適切加工条件を予測する際には、前記時系列分析の結果に基づいて補正した前記入力データを用いる発明(1)に記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
発明(3):前記データセットには、同一の特徴種で変形程度が異なる複数の変形領域のそれぞれに前記特徴量を有する前記特徴が存在していて、複数の前記変形領域のそれぞれに前記特徴量を有する前記特徴種を前記対象特徴として選択する場合には、それぞれの前記変形領域を個別の前記特徴として扱って前記対象特徴として選択する発明(1)または(2)に記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
発明(4):前記対象特徴の選択では、前記未加硫混練りゴムの粘弾性特性を示す複数の前記特徴を有する特徴群と粘性特性を示す複数の前記特徴を有する特徴群と回転振動によって得られるトルク特性を示す複数の前記特徴を有する特徴群の中から少なくとも二つの前記特徴郡を選択して、選択したそれぞれの前記特徴郡の中から少なくとも一つの前記特徴を前記対象特徴として選択する発明(1)~(3)のいずれかに記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
発明(5):前記データセットは、前記未加硫混練りゴムの配合を特定する配合ラベルを前記特徴として備えていて、前記対象特徴として前記配合ラベルを選択する発明(1)~(4)のいずれかに記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
発明(6):前記加工装置が押出機の場合には、前記適切加工条件がスクリュー温度、コンベヤ速度、押し出ダイ形状、スクリュー温度、および、シリンダ温度であり、前記加工装置が圧延機の場合には、前記適切加工条件がコンベヤ速度、クーリングドラム温度、ロール間ギャップ、ロール速度、および、切り出し幅であり、前記加工装置が加硫装置の場合には、前記適切加工条件が加硫温度、加硫圧力、および、加硫時間である発明(1)~(5)のいずれかに記載の未加硫混練りゴムの加工方法。
発明(7):混練機による混練り工程を経た未加硫混練りゴムが投入される加工装置と、前記加工装置を制御する演算装置とを備えて、前記演算装置に入力された加工条件で前記未加硫混練りゴムが前記加工装置により加工される未加硫混練りゴムの加工システムにおいて、
前記演算装置には、配合を異ならせた多数種類の前記未加硫混練りゴムについて前記加工装置に投入される前にその特徴を示す特徴量が多数種類の特徴に対して取得されて、前記加工装置で多数種類の前記未加硫混練りゴムが良品に加工されたそれぞれの適切加工条件とともにデータセットとして入力されていて、前記データセットから対象特徴として選択された複数種類の前記特徴の前記特徴量とそれぞれの前記適切加工条件とが多数種類の前記未加硫混練りゴムについて存在する教師データが作成されて、前記演算装置を用いてそれぞれの前記対象特徴の前記特徴量と説明変数とし、それぞれの前記適切加工条件を目的変数として、前記教師データを用いる機械学習により予測モデルが構築されていて、
前記未加硫混練りゴムを前記加工装置により加工する際には、前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムのそれぞれの前記対象特徴を示す特徴量が取得されて入力データとして前記演算装置に入力されて、それぞれの前記適切加工条件の中から前記入力データと前記予測モデルとを用いて前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムが前記加工装置で良品に加工される適切加工条件が予測されて、予測されたその適切加工条件で前記加工装置に投入されるその未加硫混練りゴムが前記加工装置により加工される未加硫混練りゴムの加工システム。
【符号の説明】
【0071】
1 加工システム
2 混練機
3 加工装置
4 演算装置
10 データセット
10a 教師データ
20 予測モデル