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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021996
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/16 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01B7/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125250
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 真一
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA25
2F063EC03
2F063EC05
(57)【要約】
【課題】従来よりもゲージ率が高く、かつ横感度比の低いひずみゲージを提供する。
【解決手段】本ひずみゲージは、基材と、前記基材上に形成された抵抗体と、を有し、前記抵抗体は、Crを主成分とする材料から形成され、横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上となるように、前記抵抗体の線幅Wと膜厚Tとが次の式(1)を満たす関係とされている。w≦0.0177t+0.1521t+2.9541・・・(1)、ただし、式(1)において、w=logW、t=logTである。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された抵抗体と、を有し、
前記抵抗体は、Crを主成分とする材料から形成され、
横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上となるように、前記抵抗体の線幅Wと膜厚Tとが下記の式(1)を満たす関係とされている、ひずみゲージ。
w≦0.0177t+0.1521t+2.9541・・・(1)
ただし、式(1)において、w=logW、t=logTである。
【請求項2】
横感度比が70%以下、ゲージ率が5以上、かつひずみ限界が6000×10-6以上となるように、前記抵抗体の膜厚Tが800nm以下とされている、請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記抵抗体の膜厚Tが200nm以下とされている、請求項2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
前記ひずみ限界は前記抵抗体の膜厚Tと負の相関を有し前記抵抗体の膜厚Tが厚いほど低くなる、請求項2又は3に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記ゲージ率は前記抵抗体の線幅Wに依存せず、かつ前記横感度比は前記抵抗体の線幅Wの対数と正の相関を有し前記抵抗体の線幅Wが狭いほど低くなる、請求項1乃至4の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
前記ゲージ率は前記抵抗体の膜厚Tに依存せず、かつ前記横感度比は前記抵抗体の膜厚Tと負の相関を有し前記抵抗体の膜厚Tが厚いほど低くなる、請求項1乃至5の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記抵抗体の線幅Wが40μm以下とされている、請求項1乃至6の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
前記抵抗体は、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成されている請求項1乃至7の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物に貼り付けて使用するひずみゲージが知られている。ひずみゲージのゲージ率は通常2程度であるが、Crを主成分とする抵抗体を備えたひずみゲージではゲージ率が10程度になるものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、Crを主成分とする抵抗体を備えたひずみゲージでは、主軸方向の感度である縦感度が大きいだけでなく、主軸方向と垂直方向の感度である横感度が縦感度と同程度に大きいことが知られており、この性質は抵抗体の形状には依存しないとされている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6084393号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ひずみセンサ用Cr-N薄膜におけるゲージ率の等方性、電気学会2013年度全国大会講演論文集3(2013):240-241
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ひずみゲージでひずみを検出する際には、ゲージ率が大きいことが好ましいが、縦感度に対する横感度の比率である横感度比が大きいと検出誤差を生じる。そのため、従来のゲージ率(2程度)よりもゲージ率が高く、かつ横感度比の低いひずみゲージが求められている。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、従来よりもゲージ率が高く、かつ横感度比の低いひずみゲージの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係るひずみゲージは、基材と、前記基材上に形成された抵抗体と、を有し、前記抵抗体は、Crを主成分とする材料から形成され、横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上となるように、前記抵抗体の線幅Wと膜厚Tとが次の式(1)を満たす関係とされている。w≦0.0177t+0.1521t+2.9541・・・(1)、ただし、式(1)において、w=logW、t=logTである。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、従来よりもゲージ率が高く、かつ横感度比の低いひずみゲージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
図4】横感度比について説明する図である。
図5】実施例1の検討結果を示す図(その1)である。
図6】実施例1の検討結果を示す図(その2)である。
図7】実施例1の検討結果を示す図(その3)である。
図8】実施例1の検討結果を示す図(その4)である。
図9】実施例1の検討結果を示す図(その5)である。
図10】実施例2の検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一の構成部には同一の符号を付す場合がある。
【0012】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)であり、図1のA-A線に沿う断面を示している。
【0013】
図1及び図2を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、配線40と、電極50と、カバー層60とを有している。カバー層60は、必要に応じて設けることができる。なお、図1及び図2では、便宜上、カバー層60の外縁のみを破線で示している。まずは、ひずみゲージ1を構成する各部について詳細に説明する。
【0014】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を「上側」と称し、抵抗体30が設けられていない側を「下側」と称する。又、各部位の上側に位置する面を「上面」と称し、各部位の下側に位置する面を「下面」と称する。ただし、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることもできる。又、ひずみゲージ1は任意の角度で配置することもできる。又、平面視とは、基材10の上面10aに対する上側から下側への法線方向で対象物を視ることを指すものとする。そして、平面形状とは、前記法線方向で対象物を視たときの、対象物の形状を指すものとする。
【0015】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材である。基材10は可撓性を有する。基材10の厚さは特に限定されず、ひずみゲージ1の使用目的等に応じて適宜決定されてよい。例えば、基材10の厚さは5μm~500μm程度であってよい。ひずみゲージ1の下面側には、接着層等を介して起歪体が接合されていてもよい。なお、起歪体の表面から受感部へのひずみの伝達性、及び、環境変化に対する寸法安定性の観点から考えると、基材10の厚さは5μm~200μmの範囲内であることが好ましい。また、絶縁性の観点から考えると、基材10の厚さは10μm以上であることが好ましい。
【0016】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成される。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、かつ可撓性を有する部材を指す。
【0017】
基材10が絶縁樹脂フィルムから形成される場合、当該絶縁樹脂フィルムには、フィラーや不純物等が含まれていてもよい。例えば、基材10は、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成されてもよい。
【0018】
基材10の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO、ZrO(YSZも含む)、Si、Si、Al(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO、BaTiO)等の結晶性材料が挙げられる。又、前述の結晶性材料以外に非晶質のガラス等を基材10の材料としてもよい。又、基材10の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、ステンレス鋼、チタン等の金属を用いてもよい。金属を用いる場合、金属製の基材10の上面及び下面を被覆するように絶縁膜が設けられる。
【0019】
抵抗体30は、基材10の上側に所定のパターンで形成された薄膜である。ひずみゲージ1において、抵抗体30は、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、図1では、便宜上、抵抗体30を密度の高い梨地模様で示している。
【0020】
抵抗体30は、複数の細長状部と、複数の折り返し部とを含む。抵抗体30において、複数の細長状部は、長手方向を同一方向に向けて並置されている。そして、複数の折り返し部は、複数の細長状部の中で隣接する細長状部の端部を互い違いに連結して各々の細長状部を直列に接続する。これにより、抵抗体30は、全体としてジグザグに折り返す構造となっている。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向となる。
【0021】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eを形成する。抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eは、配線40を介して、電極50と電気的に接続されている。言い換えれば、配線40は、抵抗体30のグリッド幅方向の各々の終端30e及び30eと各々の電極50とを電気的に接続している。
【0022】
ひずみゲージ1において、ゲージ率は5以上であることが好ましい。ひずみゲージ1のゲージ率は、抵抗体30の線幅Wに依存しない。ここで、ゲージ率が抵抗体30の線幅Wに依存しないとは、抵抗体30の線幅Wが0.1μm以上70μm以下の範囲におけるゲージ率の最大値と最小値との差が2以下である場合を指す。また、ひずみゲージ1の横感度比は抵抗体30の線幅Wの対数と正の相関を有し、抵抗体の線幅Wが狭いほど低くなる。
【0023】
また、ひずみゲージ1のゲージ率は、抵抗体30の膜厚Tに依存しない。ここで、ゲージ率が抵抗体30の膜厚Tに依存しないとは、抵抗体30の膜厚Tが30nm以上800nm以下の範囲におけるゲージ率の最大値と最小値との差が2以下である場合を指す。また、ひずみゲージ1の横感度比は、抵抗体30の膜厚Tと負の相関を有し、抵抗体30の膜厚Tが厚いほど低くなる。
【0024】
また、ひずみゲージ1の横感度比は、抵抗体30の線幅Wと膜厚Tの両方の影響を受けて値が変化する。なお、横感度比の定義や、抵抗体30の線幅W及び膜厚Tと、ゲージ率及び横感度比との関係については、別途詳述する。
【0025】
また、ひずみ限界は抵抗体30の膜厚Tと負の相関を有し、抵抗体30の膜厚Tが厚いほど低くなる。ここで、ひずみ限界とは、ひずみゲージにひずみを与えたときに、クラック又は断線が生じ始める機械的ひずみの値である。なお、抵抗体30の膜厚Tとひずみ限界との関係については、別途詳述する。
【0026】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を主成分とする材料から形成することができる。ここで、「主成分」とは、抵抗体30を構成する全物質の50重量%以上を占める成分のことを意味する。Crを主成分とする材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Cr混相膜とは、Cr、CrN、及びCrN等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0027】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上させることができる。又例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ゲージ特性を向上させるという観点から考えると、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。更に言えば、同観点から考えると、抵抗体30はα-Crを90重量%以上含むことがより好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0028】
又、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNが20重量%以下であることで、ひずみゲージ1のゲージ率の低下を抑制することができる。
【0029】
又、Cr混相膜におけるCrNとCrNとの比率は、CrNとCrNの重量の合計に対し、CrNの割合が80重量%以上90重量%未満となるようにすることが好ましい。更に言えば、同比率は、CrNとCrNの重量の合計に対し、CrNの割合が90重量%以上95重量%未満となるようにすることがより好ましい。CrNは半導体的な性質を有する。そのため、前述のCrNの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、前述のCrNの割合を90重量%以上95重量%未満とすることで抵抗体30のセラミックス化を低減し、抵抗体30の脆性破壊が起こりにくくすることができる。
【0030】
一方で、CrNは化学的に安定であるという利点を有する。Cr混相膜にCrNをより多く含むことで、不安定なNが発生する可能性を低減することができるため、安定なひずみゲージを得ることができる。ここで「不安定なN」とは、Cr混相膜の膜中に存在し得る、微量のNもしくは原子状のNのことを意味する。これらの不安定なNは、外的環境(例えば高温環境)によっては膜外へ抜け出ることがある。不安定なNが膜外へ抜け出るときに、Cr混相膜の膜応力が変化し得る。
【0031】
ひずみゲージ1において、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合、高感度化かつ、小型化を実現することができる。例えば、従来のひずみゲージの出力変化量が0.04mV/2V程度であったのに対して、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合は0.3mV/2V以上の出力変化量を得ることができる。また、従来のひずみゲージの大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)が3mm×3mm程度であったのに対して、抵抗体30の材料としてCr混相膜を用いた場合の大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)は0.3mm×0.3mm程度に小型化することができる。
【0032】
配線40は、基材10上に設けられている。配線40は、一端側が抵抗体30の両端に電気的に接続されており、他端側が電極50と電気的に接続されている。配線40は、直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線40は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、図1では、便宜上、配線40を抵抗体30よりも密度の低い梨地模様で示している。
【0033】
電極50は、基材10上に設けられている。電極50は、配線40を介して抵抗体30と電気的に接続されている。電極50は、平面視において、配線40よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極50は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極である。電極50には、例えば外部接続用のリード線等が接合される。電極50の上面に、銅等の抵抗の低い金属層、または、金等のはんだ付け性が良好な金属層を積層してもよい。抵抗体30と配線40と電極50とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成することができる。なお、図1では、便宜上、電極50を配線40と同じ密度の梨地模様で示している。
【0034】
カバー層60は、必要に応じ、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように設けられる。カバー層60の材料としては、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂が挙げられる。なお、カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、カバー層60の厚さは2μm~30μm程度とすることができる。カバー層60を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを抑制することができる。又、カバー層60を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護することができる。
【0035】
[ひずみゲージの製造方法]
本実施形態に係るひずみゲージ1では、基材10上に、抵抗体30と、配線40と、電極50と、カバー層60とが形成される。なお、基材10とこれらの部材の層の間に別の層(後述する機能層等)が形成されてもよい。
【0036】
以下、ひずみゲージ1の製造方法について説明する。ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の上面10aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体30と、配線40と、電極50となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体30等の材料や厚さと同様である。
【0037】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法、蒸着法、アークイオンプレーティング法、またはパルスレーザー堆積法等を用いて成膜されてもよい。金属層Aの成膜時に、金属層Aの膜厚を所望の値に調整することができる。
【0038】
基材10の上面10aに金属層Aを成膜後、周知のフォトリソグラフィ法により、金属層Aを図1の抵抗体30、配線40、及び電極50と同様の平面形状にパターニングする。フォトリソグラフィ法によるパターニングの際に、抵抗体30の線幅を所望の値に調整することができる。抵抗体30は、並置された複数の細長状部と、複数の細長状部の中で隣接する細長状部の端部を互い違いに連結して各々の細長状部を直列に接続する折り返し部とを含む構成となる。
【0039】
なお、基材10の上面10aに下地層を形成してから金属層Aを形成してもよい。例えば、基材10の上面10aに、所定の膜厚の機能層をコンベンショナルスパッタ法により真空成膜してもよい。このように下地層を設けることによって、ひずみゲージ1のゲージ特性を安定化させることができる。
【0040】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体30)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素または水分による金属層Aの酸化を防止する機能、および/または、基材10と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0041】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むことがあり、また、Crは自己酸化膜を形成することがある。そのため、特に金属層AがCrを含む場合、金属層Aの酸化を防止する機能を有する機能層を成膜することが好ましい。
【0042】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製することができる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性が向上する。又、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性が向上する。
【0043】
機能層の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0044】
図3は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。図3は、抵抗体30、配線40、及び電極50の下地層として機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の断面形状を示している。
【0045】
機能層20の平面形状は、例えば抵抗体30、配線40、及び電極50の平面形状と略同一にパターニングされてよい。しかしながら、機能層20と抵抗体30、配線40、及び電極50との平面形状は略同一でなくてもよい。例えば、機能層20が絶縁材料から形成される場合には、機能層20を抵抗体30、配線40、及び電極50の平面形状と異なる形状にパターニングしてもよい。この場合、機能層20は例えば抵抗体30、配線40、及び電極50が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層20は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0046】
抵抗体30、配線40、及び電極50を形成した後、必要に応じ、基材10の上面10aにカバー層60を形成する。カバー層60は抵抗体30及び配線40を被覆するが、電極50はカバー層60から露出していてよい。例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30及び配線40を被覆し電極50を露出するように、半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートして、その後に当該絶縁樹脂フィルムを加熱して硬化させることにより、カバー層60を形成することができる。以上の工程により、ひずみゲージ1が完成する。
【0047】
[横感度比の低減]
まず、横感度比について説明する。図4は、横感度比について説明する図である。図4において、軸Mは、ひずみを測定したい方向を示している。図4では、グリッド方向が軸M方向を向くひずみゲージ1A、及びグリッド方向が軸Mと垂直な方向を向くひずみゲージ1Bが起歪体100に貼り付けられている。なお、図4におけるx軸、y軸、及びz軸は、互いに直交する軸を示している。軸Mはy軸と平行であり、軸Mと垂直な方向はx軸と平行である。
【0048】
図4において、軸Mの方向に引張ひずみが生じたとき、ひずみゲージ1Aの抵抗体は軸Mの方向において伸び、ひずみゲージ1Bの抵抗体は軸Mと垂直な方向においてポアソン比により縮む。図4の矢印Nは、ポアソン比による収縮方向を示している。
【0049】
ここで、軸Mの方向に発生したひずみに対する感度を縦感度F、軸Mと垂直な方向に発生したひずみに対する感度を横感度Fとすると、式(1)及び式(2)が成り立つ。また、横感度Fと縦感度Fの比で定義される横感度比Kは、式(3)で示される。
【0050】
なお、式(1)及び(2)において、εは軸Mの方向に発生したひずみであり、εは軸Mと垂直な方向に発生したひずみである。また、Rは、ひずみが発生していない場合のひずみゲージ1Aの抵抗体の抵抗値である。また、Rは、ひずみが発生していない場合のひずみゲージ1Bの抵抗体の抵抗値である。また、ΔRは、ひずみε及びεが発生した場合に、ひずみゲージ1Aの抵抗体に生じる抵抗値変化である。また、ΔRは、ひずみε及びεが発生した場合に、ひずみゲージ1Bの抵抗体に生じる抵抗値変化である。
【0051】
【数1】
【0052】
【数2】
【0053】
【数3】
一般に市販されているひずみゲージでブリッジ回路を形成した場合、出力変化量は0.10mV/V程度である。市販されているひずみゲージと同等以上の出力変化量を可能にするためには、横感度比が70%以下、かつゲージ率5以上であればよい。
【0054】
横感度比は、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましく、30%以下であることが特に好ましい。また、ゲージ率は、8以上であることがより好ましく、11以上であることがより好ましく、14以上であることが特に好ましい。横感度比が小さく、かつゲージ率が大きくなるほど、ひずみゲージでブリッジ回路を形成した場合の出力変化量を大きくすることができる。
【0055】
以下、実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例には何ら限定されない。
【0056】
[実施例1]
(抵抗体の線幅と横感度比及びゲージ率との関係)
発明者らは、ひずみゲージのサンプルを作製し、抵抗体の線幅と横感度比及びゲージ率との関係について調べた。
【0057】
まず、厚さ25μmのポリイミド樹脂からなる基材10の上面10aに、コンベンショナルスパッタ法により機能層20として膜厚が3nmのTiを真空成膜した。続いて、機能層20の上面全体にマグネトロンスパッタ法により抵抗体30、配線40、及び電極50として膜厚が200nmのCr混相膜を成膜した。その後、機能層20、抵抗体30、配線40、及び電極50をフォトリソグラフィによって図1のようにパターニングし、ひずみゲージのサンプルを作製した。このサンプルでは、抵抗体30の線幅Wが500μmになるようにパターニングした。
【0058】
次に、同様の方法で、抵抗体30の線幅Wが、それぞれ200μm、100μm、50μm、40μm、20μm、10μm、5μmとなるようにパターニングしたひずみゲージのサンプルを作製した。そして、20℃の環境において、ひずみゲージの各サンプルの横感度比及びゲージ率を測定し、図5にまとめた。
【0059】
図5に示すように、作製したサンプルのゲージ率は、抵抗体30の線幅Wには依存しない。図5では、抵抗体30の線幅Wが変わったときのゲージ率の最大値と最小値との差は1.5程度である。これに対して、横感度比は、抵抗体30の線幅Wの対数と正の相関を有し抵抗体30の線幅が狭いほど低くなる。また図6に、同様の方法でゲージ率が約9であるサンプルを作製した場合における、抵抗体の線幅と横感度比及びゲージ率との関係を示す。この場合も、ゲージ率が抵抗体30の線幅Wには依存しないのに対して、横感度比は、抵抗体30の線幅Wの対数と正の相関を有し抵抗体30の線幅が狭いほど低くなっている。なお図示等を省略するが、ゲージ率5以上の他のサンプルにおいても、同様の特性を呈する。
【0060】
これらの結果から、Crを主成分とする材料から抵抗体30を形成し、かつ抵抗体30の線幅Wを細くすることにより、高いゲージ率を保ったまま横感度比を小さくできることがわかった。つまり、Crを主成分とする材料から抵抗体30を形成し、かつ抵抗体の線幅Wを制御することで、従来よりもゲージ率が高く、かつ横感度比の低いひずみゲージを実現できることが分かった。このように、高いゲージ率を保ったまま横感度比を小さくすることにより、ひずみ検出の精度向上を図ることができる。
【0061】
図7は、抵抗体の線幅と横感度比とひずみゲージの出力変化量との関係を示す図である。図7は、ゲージ率が5のひずみゲージと、ゲージ率が15のひずみゲージについて、線幅と横感度比とひずみゲージの出力変化量との関係を発明者らが実験により求めたものである。また、図7には、比較例として、市販されているゲージ率が2のひずみゲージの出力変化量も示している。なお、図7に示す出力変化量は、ひずみゲージでブリッジ回路を形成した場合の出力変化量である。
【0062】
図7に示すように、ゲージ率が5で横感度比が70%以上であれば、市販されているひずみゲージと同等以上の出力変化量を得られることがわかる。抵抗体30の線幅Wを70μm以下とすることにより、横感度比を70%以下とすることができるため、横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上となるように、抵抗体30の線幅を70μm以下することで、市販されているひずみゲージと同等以上の出力変化量のひずみゲージを実現できる。例えば、横感度比が70%かつゲージ率が15となるように、抵抗体30の線幅を70μmすることで、市販されているひずみゲージの3倍程度の出力変化量のひずみゲージを実現できる。
【0063】
また、前述のように、横感度比は、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましく、30%以下であることが特に好ましい。図5より、抵抗体30の線幅Wを20μm以下とすることにより、横感度比を50%以下とすることができる。また、図5より、抵抗体30の線幅Wを10μm以下とすることにより、横感度比を40%以下とすることができる。また、図5より、抵抗体30の線幅Wを5μm以下とすることにより、横感度比を30%以下とすることができる。
【0064】
また、市販されているひずみゲージと同等以上の出力変化量を得るためには、ゲージ率は5以上であればよいが、抵抗体30にCr混相膜を用いた各サンプルのゲージ率は14以上であり、十分大きな値が得られている。なお、抵抗体30にCr混相膜を用いた場合でも、抵抗体30におけるα-Crの含有量を変えることにより、ゲージ率を5以上の様々な値に調整することができる。また、抵抗体30にCr混相膜を用い、α-Crの結晶性を上げることでゲージ率は5以上10以下程度となる。
【0065】
このように、Crを主成分とする材料から抵抗体30を形成し、ゲージ率が5以上であって抵抗体30の線幅に依存せず、かつ横感度比が抵抗体30の線幅の対数と正の相関を有し抵抗体30の線幅が狭いほど低くなるひずみゲージを実現できる。このような特性は、少なくとも抵抗体30の線幅が0.1μm以上70μmの範囲内において実現できればよい。
【0066】
(抵抗体の膜厚と横感度比及びゲージ率との関係)
次に、発明者らは、ひずみゲージのサンプルを作製し、抵抗体の膜厚と横感度比及びゲージ率との関係について調べた。
【0067】
まず、厚さ25μmのポリイミド樹脂からなる基材10の上面10aに、コンベンショナルスパッタ法により機能層20として膜厚が3nmのTiを真空成膜した。続いて、機能層20の上面全体にマグネトロンスパッタ法により抵抗体30、配線40、及び電極50として膜厚が800nmのCr混相膜を成膜した。その後、機能層20、抵抗体30、配線40、及び電極50をフォトリソグラフィによって図1のようにパターニングし、ひずみゲージのサンプルを作製した。なお、抵抗体30の線幅Wは、50μmになるようにパターニングした。
【0068】
次に、同様の方法で、抵抗体30の膜厚Tが、それぞれ500nm、200nm、100nm、50nm、30nmとなるように成膜したひずみゲージのサンプルを作製した。そして、20℃の環境において、ひずみゲージの各サンプルの横感度比及びゲージ率を測定し、図8にまとめた。
【0069】
図8に示すように、作製したサンプルのゲージ率は、抵抗体30の膜厚Tには依存しない。図8では、抵抗体30の膜厚Tが変わったときのゲージ率の最大値と最小値との差は1.5程度である。これに対して、横感度比は、抵抗体30の膜厚Tと負の相関を有し、抵抗体30の膜厚Tが厚くなるにつれて、横感度比の値が低くなる傾向が認められる。
【0070】
なお、図8では、ゲージ率が15程度であるが、5以上の様々なゲージ率のサンプルにおいても、図示等は省略するが、図8と同様の特性を呈することが確認されている。
【0071】
これらの結果から、Crを主成分とする材料から抵抗体30を形成し、かつ抵抗体30の膜厚Tを厚くすることにより、高いゲージ率を保ったまま横感度比を小さくできることがわかった。つまり、Crを主成分とする材料から抵抗体30を形成し、かつ抵抗体の膜厚Tを制御することで、従来よりもゲージ率が高く、かつ横感度比の低いひずみゲージを実現できることがわかった。このように、高いゲージ率を保ったまま横感度比を小さくすることにより、ひずみ検出の精度向上を図ることができる。
【0072】
前述のように、横感度比が70%以下であれば市販されているひずみゲージと同等以上の出力変化量を得られるが、図8より、抵抗体30の膜厚Tを200nm以上とすることにより、横感度比を70%以下とすることができる。つまり、横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上となるように、抵抗体30の膜厚が200nm以上とされているひずみゲージを実現できる。
【0073】
また、市販されているひずみゲージと同等以上の出力変化量を得るためには、ゲージ率は5以上であればよいが、抵抗体30にCr混相膜を用いた各サンプルのゲージ率は14以上であり、十分大きな値が得られている。なお、抵抗体30にCr混相膜を用いた場合でも、抵抗体30におけるα-Crの含有量を変えることにより、ゲージ率を5以上の様々な値に調整することができる。また、抵抗体30にCr混相膜を用い、α-Crの結晶性を上げることでゲージ率は5以上10以下程度となる。
【0074】
このように、Crを主成分とする材料から抵抗体30を形成し、ゲージ率が5以上であって抵抗体30の膜厚に依存せず、かつ横感度比が抵抗体30の膜厚と負の相関を有し抵抗体30の膜厚が厚いほど低くなるひずみゲージを実現できる。
【0075】
(抵抗体の線幅及び膜厚と、横感度比及びゲージ率との関係)
発明者らの更なる検討の結果、ひずみゲージ1の横感度比は、抵抗体30の線幅Wと膜厚Tの両方の影響を受けて値が変化するとの知見を得た。
【0076】
すなわち、上記の実験では、抵抗体30の膜厚Tが200nmの場合に、横感度比を70%以下にするためには、抵抗体30の線幅Wを70μm以下とすればよいことを示した。また、上記の実験ではば、抵抗体30線幅Wが50μmの場合に、横感度比を70%以下にするためには、抵抗体30の膜厚Tを200nm以上とすればよいことを示した。
【0077】
しかし、ひずみゲージ1の横感度比は、抵抗体30の線幅Wと膜厚Tの両方の影響を受けて値が変化するため、上記の実験で得られた線幅Wや膜厚Tよりも広い範囲で横感度比を70%以下にすることが可能である。すなわち、抵抗体30の線幅Wが70μmより太くても、膜厚Tを適切な値に調整することで、横感度比を70%以下にすることができる。同様に、抵抗体30の膜厚Tが200nmより薄くても、線幅Wを適切な値に調整することで、横感度比を70%以下にすることができる。
【0078】
図9は、線幅と膜厚に対する横感度比を示す等高図であり、発明者らの行った実験結果をまとめたものである。図9において、高密度のドットパターンで示す第1領域では、0%≦横感度比≦70%である。また、低密度のドットパターンで示す第2領域では、70%<横感度比≦100%である。
【0079】
第1領域と第2領域と境界線は、w=0.0177t+0.1521t+2.9541で近似できる。ここで、抵抗体の線幅をW、膜厚をTとしたときに、w=logW、t=logTである。すなわち、w=logWとt=logTが、w≦0.0177t+0.1521t+2.9541・・・(1)を満たすことにより、横感度比を70%以下とすることができる。言い換えれば、横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上となるように、抵抗体30の線幅Wと膜厚Tとが上記の式(1)を満たす関係とされているひずみゲージを実現できる。
【0080】
また、図9からわかるように、抵抗体30の線幅Wを40μm以下とすることで、ほぼ膜厚Tに依存せずに、横感度比を70%以下にすることができる。
【0081】
なお、実施例1では基材10にポリイミド樹脂を用いたが、図5図9に示す特性は基材10の材料には依存しない。例えば、基材10に樹脂以外の材料を用いた場合も図5図9と同様の特性を得ることができる。
【0082】
また、Cr混相膜に代えて、他の材料を用いても、5以上のゲージ率を得ることができる。5以上のゲージ率が得られる材料としては、Ge、Pt、Si、Ni、Cu、C、Ti、Cr、またはこれらを含む材料が挙げられる。具体的には、Cr-N、Ge、Ge-In、Ge-Ga、Ge-P、Pt、Pt-In、Cu、Ni-C、Si、Ti-C-O等である。また、これらの材料を用いた抵抗体30の線幅W及び/又は膜厚Tを調整することにより、所望の横感度比を得ることができる。
【0083】
つまり、これらの材料を用いても、横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上となるように、抵抗体30の線幅Wと膜厚Tとが上記の式(1)を満たす関係とされているひずみゲージを実現できる。また、ゲージ率が5以上であって抵抗体30の線幅に依存せず、かつ横感度比が抵抗体30の線幅の対数と正の相関を有し抵抗体30の線幅が狭いほど低くなるひずみゲージを実現できる。あるいは、これらの材料から抵抗体30を形成し、ゲージ率が5以上であって抵抗体30の膜厚に依存せず、かつ横感度比が抵抗体30の膜厚と負の相関を有し抵抗体30の膜厚が厚いほど低くなるひずみゲージを実現できる。
【0084】
[実施例2]
発明者らは、実施例1の『抵抗体の膜厚と横感度比及びゲージ率との関係』で使用したものと同一仕様のひずみゲージのサンプルを膜厚ごとに複数個ずつ作製し、抵抗体の膜厚とひずみ限界との関係について調べた。ただし、抵抗体の膜厚の種類は、1100nm、800nm、500nm、200nm、100nm、50nm、30nmとした。なお、抵抗体の線幅は、50μmで一定としたが、ひずみ限界は抵抗体の線幅には、ほぼ依存しない。
【0085】
図10は、実施例2の検討結果を示す図であり、複数個のひずみゲージのサンプルにおけるひずみ限界の膜厚ごとの最小値をプロットしたものである。図10に示すように、ひずみ限界は抵抗体30の膜厚Tと負の相関を有し、抵抗体30の膜厚Tが厚くなるにつれて、ひずみ限界の値が低くなる傾向が認められる。特に、抵抗体30の膜厚Tが30nm以上200nm以下の範囲では、ひずみ限界値は大きく減少している。これに対し、抵抗体30の膜厚Tが200nmを超えると、ひずみ限界値は緩やかに減少していく。
【0086】
ひずみゲージ1を実際に使用するにあたっては、6000×10-6程度のひずみ限界が要求される場合がある。そのため、図10の結果から、抵抗体30の膜厚Tは、ひずみ限界が6000×10-6以上となる、800nm以下が好ましいといえる。
【0087】
ひずみゲージ1は起歪体へ貼り付けられ、起歪体の動きに追従し伸び縮みすることで、起歪体のひずみ量を検出する。そのため、より大きなひずみ量を検出するためには、伸び縮みの過程でひずみゲージ1自身が破損(断線等)してはならず、より高いひずみ限界が求められる。ひずみゲージ1において、抵抗体30の膜厚Tを800nm以下とすることで、ひずみ限界の向上を実現可能となる。
【0088】
また、図10より、ひずみ限界の観点からは、膜厚Tを600nm以下とすることがより好ましく、400nm以下とすることがさらに好ましく、200nm以下とすることが特に好ましい。図10からわかるように膜厚Tを200nm以下とすることで、ひずみ限界を大幅に向上することができ、膜厚Tを100nm以下とすることで、ひずみ限界をさらに向上することができる。また、図9より、膜厚Tが100nmや200nmであっても、線幅Wを調整することで、横感度比を70%以下にすることができることがわかる。例えば、抵抗体30の線幅Wを40μm以下とし、かつ膜厚Tを200nm以下とすることで、横感度比を70%以下にすることができ、かつひずみ限界を大幅に向上することができる。
【0089】
なお、実施例2では基材10にポリイミド樹脂を用いたが、図10に示す特性は基材10の材料には依存しない。例えば、基材10に樹脂以外の材料を用いた場合も図10と同様の特性を得ることができる。
【0090】
また、Cr混相膜に代えて、他の材料を用いても、図10と同様の特性を得ることができる。他の材料としては、Ge、Pt、Si、Ni、Cu、C、Ti、Cr、またはこれらを含む材料が挙げられる。具体的には、Cr-N、Ge、Ge-In、Ge-Ga、Ge-P、Pt、Pt-In、Cu、Ni-C、Si、Ti-C-O等である。
【0091】
[抵抗体30の膜厚Tの好適な範囲]
実施例2の結果から、ひずみ限界に着目すると、ひずみ限界が6000×10-6以上となるように、抵抗体30の膜厚Tが800nm以下とされていることが好ましい。よって、実施例1の結果に実施例2の結果を加味すると、膜厚Tが800nm以下となる範囲で、横感度比が70%以下かつゲージ率が5以上となるように、抵抗体30の線幅Wと膜厚Tとが上記の式(1)を満たすことが好ましいといえる。
【0092】
これにより、横感度比が70%以下、ゲージ率が5以上、かつひずみ限界が6000×10-6以上となるように、抵抗体30の線幅W及び膜厚Tが調整されたひずみゲージを実現できる。そして、このひずみゲージにより、ひずみ検出の精度向上を図ることができるとともに、より大きなひずみ量を検出することができる。
【0093】
なお、要求仕様によっては、ひずみ限界が6000×10-6未満であってもよい場合があるため、抵抗体30の膜厚Tを800nm以下とすることは必須ではない。
【0094】
以上、好ましい実施形態等について詳説した。しかしながら、本開示に係るひずみゲージは、上述した実施形態及び変形例等に限定されない。例えば、上述した実施形態等に係るひずみゲージについて、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0095】
1,1A,1B ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、20 機能層、30 抵抗体、30e,30e 終端、40 配線、50 電極、60 カバー層、100 起歪体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10