(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024030805
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】鋳造装置の異常検知システムおよび異常検知方法
(51)【国際特許分類】
B22D 17/32 20060101AFI20240229BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240229BHJP
B29C 45/77 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B22D17/32 J
B29C45/26
B29C45/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022133953
(22)【出願日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河原 慎
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AM32
4F202AP07
4F202CA11
4F202CB01
4F206AM32
4F206AP07
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM04
4F206JN11
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JP30
(57)【要約】
【課題】異常データを抜け漏れなく正確に抽出でき、抽出した異常データに基づいて異常検知を行うことで、精度の高い鋳造装置の異常検知システムおよび異常検知方法を提供することを目的とする。
【解決手段】鋳造装置から発信される鋳造波形データに基づいて異常検知を行う異常検知部は、教師なし学習モデルを用いて異常データを判定する第1異常判定工程と、異常データを教師データとして設定する教師データ設定工程と、教師あり学習モデルを用いて鋳造装置の異常判定を行う第2異常判定工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造金型を型締して形成される金型キャビティに向けて、溶湯を射出充填して鋳造品を生産鋳造する鋳造装置から発信される鋳造波形データに基づいて異常検知を行う異常検知部を備えた、前記鋳造装置の異常検知システムにおいて、
前記異常検知部は、教師なし学習プログラムを用いて、前記鋳造波形データの中から基準波形データを抽出し特徴の定義付けを行う第1学習部と、前記基準波形データと前記鋳造波形データを比較して異常スコア値としてカウントする第2学習部と、前記異常スコア値が予め設定した閾値を超えた前記鋳造波形データを異常データとして判定する第1異常判定部と、前記第1異常判定部で判定した前記異常データを教師データとして設定する教師データ設定部と、前記教師データ設定部の設定に基づいて教師あり学習プログラムを用いて前記鋳造波形データの中から前記鋳造装置の異常判定を行う第2異常判定部と、を備えることを特徴とする鋳造装置の異常検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の異常検知システムを用いて行う鋳造装置の異常検知方法において、
前記鋳造波形データを収集する波形データ収集工程と、教師なし学習プログラムを用いて、前記鋳造波形データの中から基準波形データを抽出し特徴の定義付けを第1学習部で行う第1学習工程と、前記基準波形データと前記鋳造成形データを比較して異常スコア値として前記第2学習部でカウントする第2学習工程と、前記異常スコア値が予め設定した閾値を超えた前記鋳造波形データを異常データとして第1異常判定部で判定する第1異常判定工程と、前記第1異常判定工程で判定した前記異常データを教師データとして教師データ設定部で設定する教師データ設定工程と、前記教師データ設定工程で設定した前記教師データに基づいて、教師あり学習プログラムを用いて前記鋳造波形データの中から前記鋳造装置の異常判定を前記第2異常判定部で行う第2異常判定工程と、を備えることを特徴とする鋳造装置の異常検知方法。
【請求項3】
前記基準波形データは、過去の生産鋳造において、前記鋳造品の鋳造品質が予め設定した品質基準値を満足した前記鋳造波形データとする、請求項2に記載の鋳造装置の異常検知方法。
【請求項4】
鋳造金型を型締して形成される金型キャビティに向けて、溶湯を射出充填して鋳造品を生産鋳造する鋳造装置から発信される鋳造波形データに基づいて異常検知を行う異常検知部を備えた、前記鋳造装置の異常検知システムにおいて、
前記異常検知部は、前記鋳造波形データの中から基準波形データを抽出し特徴の定義付けを行う第1学習部と、前記基準波形データと前記鋳造波形データを比較して異常スコア値としてカウントする第2学習部と、前記異常スコア値が予め設定した閾値を超えた前記鋳造波形データを異常データとして判定する第1異常判定部と、前記第1異常判定部で判定した前記異常データを教師データとして設定する教師データ設定部と、前記教師データ設定部の設定に基づいて前記鋳造波形データの中から前記鋳造装置の異常判定を行う第2異常判定部と、を備えることを特徴とする鋳造装置の異常検知システム。
【請求項5】
請求項4に記載の異常検知システムを用いて行う鋳造装置の異常検知方法において、
前記鋳造波形データを収集する波形データ収集工程と、前記鋳造波形データの中から基準波形データを抽出し特徴の定義付けを第1学習部で行う第1学習工程と、前記基準波形データと前記鋳造成形データを比較して異常スコア値として前記第2学習部でカウントする第2学習工程と、前記異常スコア値が予め設定した閾値を超えた前記鋳造波形データを異常データとして第1異常判定部で判定する第1異常判定工程と、前記第1異常判定工程で判定した前記異常データを教師データとして教師データ設定部で設定する教師データ設定工程と、前記教師データ設定工程で設定した前記教師データに基づいて、前記鋳造波形データの中から前記鋳造装置の異常判定を前記第2異常判定部で行う第2異常判定工程と、を備えることを特徴とする鋳造装置の異常検知方法。
【請求項6】
前記基準波形データは、過去の生産鋳造において、前記鋳造品の鋳造品質が予め設定した品質基準値を満足した前記鋳造波形データとする、請求項5に記載の鋳造装置の異常検知方法。
【請求項7】
前記第1学習工程と前記第2学習工程および前記第1異常判定工程は教師なし学習プログラムを用いて行い、前記教師データ設定工程と前記第2異常判定工程は教師あり学習プログラムを用いて行う、請求項5または6に記載の鋳造装置の異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造金型を型締して形成される金型キャビティに向けて、溶湯を射出充填して鋳造品を生産鋳造する鋳造装置から発信される鋳造波形データに基づいて異常検知を行う異常検知部を備えた、鋳造装置の異常検知システムおよび異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金等の溶湯を金型キャビティに向けて射出充填する鋳造装置に異常が潜んでいる状態で鋳造成形を継続すると、初期においては鋳造品質が変動し、次第に設定された品質規格を満足することができない鋳造不良が多発し、鋳造成形を中断することになる。また、鋳造不良で欠品となる場合は、別途作り直し等の無駄な時間を要する。この時点で、鋳造装置の根本的なメンテナンスを行うことが好ましいが、生産計画等を優先させて鋳造不良を発生させながら鋳造成形を無理矢理に継続させると、最終的には鋳造金型を含む鋳造装置の損傷に発展し、鋳造成形が完全に停止することになる。
【0003】
そのために、軽微な異常であっても精度良く検知でき、初期の段階で好適なメンテナンス等を行うことで、高品質な鋳造品の安定生産を可能とする、鋳造装置の異常検知手段が多く提案されている。例えば、特許文献1に示すような、射出成形機から内外的な状態変数を取得し、異常が発生しなかった射出成形機から得られた状態変数(正常データ)と、異常が発生した射出成形機から得られた状態変数(異常データ)に基づいて、教師あり学習プログラムの分析手法を用いて、射出成形機の異常検知を行う手段が提案されている。これによると、異常の分析を行う分析者の知識や経験の量によらず精度の高い異常検知を行うことができるとされる。また、特許文献2に示すような、成形前の金型の摩耗量を示す状態情報に基づいて、教師あり学習プログラムの分析手法を用いて、金型の異常検知を行う手段が提案されている。これによると、成形後の金型の摩耗状態を正確に予測できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-30221号公報
【特許文献2】特開2020-199706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1において、複数の射出成形機から異常データと正常データをそれぞれ取得して、異常データを教師データに定義して教師あり学習プログラムを用いた異常検知を行うとしている。そのために、複数の射出成形機は、使用する成形材料や金型および温調手段等の付帯設備も含めて、全く同じ設備能力であることがベースとなる。しかしながら、全ての設備には特有の誤差を含んでおり現実的ではない。仮に、全ての設備の設備能力が誤差なく同じとしても、異常の有無の識別および異常内容の分析等の作業を分析者に委ねることになり矛盾する。
【0006】
また、特許文献2において、成形前の金型摩耗量という明確な情報を教師データに定義することで、教師あり学習プログラムの精度が高まり、異常検知および金型摩耗量の予測の精度を高めることができている。しかしながら、鋳造成形および鋳造装置においては、溶湯の温度や溶湯の組成、射出スリーブ等の射出手段の熱膨張や熱変形、金型の熱膨張や不純物の付着、鋳造装置の駆動部の潤滑状態、油圧駆動の場合の油温の影響、等の多くの不確定要素が複雑に絡み合った結果で異常が現れる。また、1つ1つの要素において、異常データが少ないか不明瞭なケースが多く、教師データの定義付けが困難である。さらに、異常が発生した場合の作業者等の認識の抜け漏れにより、異常データの正確な収集ができないことが想定される。その結果、鋳造装置の異常検知において、教師データを正確に定義付けすることは難しく、異常検知の手段に教師あり学習プログラムを用いることは好ましくない形態とされる。
【0007】
そこで、本発明は、異常データを抜け漏れなく正確に抽出でき、抽出した異常データに基づいて異常検知を行うことで、精度の高い鋳造装置の異常検知システムおよび異常検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鋳造装置の異常検知システムは、
鋳造金型を型締して形成される金型キャビティに向けて、溶湯を射出充填して鋳造品を生産鋳造する鋳造装置から発信される鋳造波形データに基づいて異常検知を行う異常検知部を備えた、前記鋳造装置の異常検知システムにおいて、
前記異常検知部は、教師なし学習プログラムを用いて、前記鋳造波形データの中から基準波形データを抽出し特徴の定義付けを行う第1学習部と、前記基準波形データと前記鋳造波形データを比較して異常スコア値としてカウントする第2学習部と、前記異常スコア値が予め設定した閾値を超えた前記鋳造波形データを異常データとして判定する第1異常判定部と、前記第1異常判定部で判定した前記異常データを教師データとして設定する教師データ設定部と、前記教師データ設定部の設定に基づいて教師あり学習プログラムを用いて前記鋳造波形データの中から前記鋳造装置の異常判定を行う第2異常判定部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の鋳造装置の異常検知方法は、
前記鋳造波形データを収集する波形データ収集工程と、教師なし学習プログラムを用いて、前記鋳造波形データの中から基準波形データを抽出し特徴の定義付けを第1学習部で行う第1学習工程と、前記基準波形データと前記鋳造成形データを比較して異常スコア値として前記第2学習部でカウントする第2学習工程と、前記異常スコア値が予め設定した閾値を超えた前記鋳造波形データを異常データとして第1異常判定部で判定する第1異常判定工程と、前記第1異常判定工程で判定した前記異常データを教師データとして教師データ設定部で設定する教師データ設定工程と、前記教師データ設定工程で設定した前記教師データに基づいて、教師あり学習プログラムを用いて前記鋳造波形データの中から前記鋳造装置の異常判定を前記第2異常判定部で行う第2異常判定工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の鋳造装置の異常検知方法において、
前記基準波形データは、過去の生産鋳造において、前記鋳造品の鋳造品質が予め設定した品質基準値を満足した前記鋳造波形データとする、ことが好ましい。
【0011】
本発明の鋳造装置の異常検知システムは、
鋳造金型を型締して形成される金型キャビティに向けて、溶湯を射出充填して鋳造品を生産鋳造する鋳造装置から発信される鋳造波形データに基づいて異常検知を行う異常検知部を備えた、前記鋳造装置の異常検知システムにおいて、
前記異常検知部は、前記鋳造波形データの中から基準波形データを抽出し特徴の定義付けを行う第1学習部と、前記基準波形データと前記鋳造波形データを比較して異常スコア値としてカウントする第2学習部と、前記異常スコア値が予め設定した閾値を超えた前記鋳造波形データを異常データとして判定する第1異常判定部と、前記第1異常判定部で判定した前記異常データを教師データとして設定する教師データ設定部と、前記教師データ設定部の設定に基づいて前記鋳造波形データの中から前記鋳造装置の異常判定を行う第2異常判定部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の鋳造装置の異常検知方法は、
前記鋳造波形データを収集する波形データ収集工程と、前記鋳造波形データの中から基準波形データを抽出し特徴の定義付けを第1学習部で行う第1学習工程と、前記基準波形データと前記鋳造成形データを比較して異常スコア値として前記第2学習部でカウントする第2学習工程と、前記異常スコア値が予め設定した閾値を超えた前記鋳造波形データを異常データとして第1異常判定部で判定する第1異常判定工程と、前記第1異常判定工程で判定した前記異常データを教師データとして教師データ設定部で設定する教師データ設定工程と、前記教師データ設定工程で設定した前記教師データに基づいて、前記鋳造波形データの中から前記鋳造装置の異常判定を前記第2異常判定部で行う第2異常判定工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の鋳造装置の異常検知方法において、
前記基準波形データは、過去の生産鋳造において、前記鋳造品の鋳造品質が予め設定した品質基準値を満足した前記鋳造波形データとする、ことが好ましい。
【0014】
また、本発明の鋳造装置の異常検知方法において、
前記第1学習工程と前記第2学習工程および前記第1異常判定工程は教師なし学習プログラムを用いて行い、前記教師データ設定工程と前記第2異常判定工程は教師あり学習プログラムを用いて行う、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異常データを抜け漏れなく正確に抽出でき、抽出した異常データに基づいて異常検知を行うことで、精度の高い鋳造装置の異常検知システムおよび異常検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋳造装置を示す概念図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る異常検知システムを示す概念図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る異常検知方法を示す図である。
【
図4】
図3に続いて本発明の実施形態に係る異常検知方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0018】
(鋳造装置)
先ず、本発明の実施形態に係る鋳造装置について、
図1を用いて説明する。
図1に示す鋳造装置100は、鋳造金型10と、型締部20と、射出部30と、鋳造制御部40と、異常検知部50と、を備える。なお、
図1において、鋳造金型10と射出部30が水平方向に配置された形態(横型締横鋳込みの鋳造装置100)としたが、これに限定されることなく、例えば、水平方向に配置された鋳造金型10と鉛直方向に配置された射出部30の形態(横型締竪鋳込みの鋳造装置100)であっても良く、鋳造金型10と射出部30が鉛直方向に配置された形態(竪型締竪鋳込みの鋳造装置100)であっても良い。いずれにおいても、構成要素は変わらず、鋳造金型10と射出部30の配置の組合せを変えたものであるので、以下は横型締横鋳込みの鋳造装置100を用いて説明する。
【0019】
鋳造金型10は、型締部20を操作して固定盤21と可動盤22を型締することで金型キャビティ13と金型ゲート14が形成される。射出部30から金型キャビティ13に向けて溶湯を射出充填する前に、金型キャビティ13および金型ゲート14に離型剤を塗布することが好ましい。また、固定金型11および可動金型12には、図示しない温調回路を含む金型温調手段を設けて、所定の温度に調整することが好ましい。また、鋳造金型10に図示しない真空吸引手段を設け、この真空吸引手段を用いて金型キャビティ13内を直接的に真空吸引するとしても良い。
【0020】
型締部20は、固定金型11を支持する固定盤21と、可動金型12を支持する可動盤22と、型締駆動部25を支持する型締盤23と、を備える。型締駆動部25は、油圧シリンダ等の油圧駆動手段とし、シリンダロッド26を介して型締駆動部25と可動盤22が接続される。また、固定盤21と型締盤23は、可動盤22を貫通した複数のタイバー24で連結される。型締制御部27で型締駆動部25を操作して、シリンダロッド26を介して、タイバー24をガイドとして可動盤22が型開閉方向に摺動する。ここで、可動盤22および可動金型12の摺動について、固定盤21および固定金型11に近接する方向の動作を型締動作、離間する方向の動作を型開動作と定義する。
【0021】
なお、
図1において、型締駆動部25を油圧シリンダ等の油圧駆動手段としたが、これに限定されることなく、例えば、電動モータの回転運動を直線運動に変換するボールネジ機構を用いた電動駆動手段であっても良く、油圧駆動手段と電動駆動手段を組み合せたハイブリット駆動手段であっても良い。また、型締駆動部25を複数配置しても良く、タイバー24に型締駆動部25を配置した形態であっても良い。
【0022】
射出部30は、水平方向に配置された円筒状の射出スリーブ31と、射出スリーブ31内で前後方向に摺動するプランジャチップ32と、射出スリーブ31内にアルミニウム合金等の溶湯Mを供給する注湯口34と、プランジャチップ32の摺動を操作する射出駆動部36と、を備える。注湯口34と反対側の射出スリーブ31の先端部は、固定盤21と固定金型11を貫通して、金型ゲート14に接続される。ここで、プランジャチップ32の摺動について、金型ゲート14に近づく方向を前方F、前方Fに向かう動作を前進動作、金型ゲート14から離れる方向を後方R、後方Rに向かう動作を後退動作と定義する。
【0023】
ここで、プランジャチップ32と連結するプランジャロッド33は、連結部35を介して油圧シリンダ等の油圧駆動手段の射出駆動部36の駆動ロッド37と連結される。プランジャチップ32が注湯口34よりも後方Rに待機している間に、図示しない給湯手段を用いて、注湯口34から射出スリーブ31内に溶湯Mを供給する。射出制御部38で射出駆動部36を操作し、駆動ロッド37と連結部35およびプランジャロッド33を介して、プランジャチップ32の前進動作および後退動作が制御される。プランジャチップ32の前進動作により、射出スリーブ31内に供給された溶湯Mが押圧され、金型ゲート14を経由して金型キャビティ13内に射出充填される。
【0024】
また、射出スリーブ31およびプランジャチップ32には、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却手段が設けられている。また、プランジャチップ32および射出スリーブ31の強固な接触によるカジリ損傷の防止や摺動状態の安定化及び溶湯残渣物の付着抑制等のため、射出スリーブ31とプランジャチップ32との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。また、鋳造金型10に設けた真空吸引手段による金型キャビティ13内の真空吸引と射出充填を同時に行う形態としても良い。あるいは、射出スリーブ31に図示しない真空吸引手段を設け、射出スリーブ31内を真空吸引し、金型ゲート14を介して金型キャビティ13内を間接的に真空吸引するとしても良く、直接的な真空吸引と間接的な真空吸引を組み合せて行う形態であっても良い。
【0025】
なお、
図1において、射出駆動部36を油圧シリンダ等の油圧駆動手段としたが、これに限定されることなく、例えば、電動モータの回転運動を直線運動に変換するボールネジ機構を用いた電動駆動手段であっても良く、油圧駆動手段と電動駆動手段を組み合せたハイブリット駆動手段であっても良い。また、油圧駆動手段の場合は、アキュムレータ等の蓄圧手段をさらに備える形態であっても良い。
【0026】
また、
図1において、射出スリーブ31を水平方向に配置したが、例えば、金型キャビティ13および金型ゲート14に対して水平方向から鉛直下方の範囲で任意に配置するとしても良い。また、注湯口34から射出スリーブ31へ溶湯Mを供給するとしたが、例えば、溶湯Mを保持する図示しない溶解炉と射出スリーブ31を給湯管等の連結手段で連結し、この連結手段を経由して射出スリーブ31へ溶湯Mを供給するとしても良い。また、射出スリーブ31とプランジャチップ32の組合せとしたが、例えば、図示しない密閉された溶湯Mの保持炉内に加圧ガス等を供給し、給湯管を経由して金型キャビティ13に溶湯Mを射出充填する形態であっても良く、加圧ガスの供給の代わりに輸送ポンプ等の輸送手段を用いて、溶湯Mを射出充填するとしても良い。
【0027】
鋳造制御部40は、型締制御部27および射出制御部38と接続する。予め設定された鋳造条件に基づいて、鋳造制御部40で型締制御部27を操作して、鋳造金型10の型締動作および型開動作を行う。同様に、鋳造制御部40で射出制御部38を操作して、金型キャビティ13内に向けて溶湯Mの射出充填を行う。その他に、図示しない給湯手段や冷却手段および真空吸引手段等の周辺設備に対して操作指令を発信し、鋳造装置100を操作して鋳造成形を管理する。
【0028】
また、異常検知部50は鋳造装置100の鋳造制御部40と接続する。これにより、異常検知部50は、鋳造制御部40を経由して、型締制御部27と射出制御部38および周辺設備から発信される鋳造波形データを受信することができ、鋳造成形データに基づいて鋳造装置100の異常検知を行うことが可能となる。この異常検知部50と鋳造装置100の鋳造制御部40が接続された状態を異常検知システム200といい、
図2を用いて詳細に説明する。なお、
図1において、異常検知部50と鋳造装置100を別構成とした異常検知システム200としたが、例えば、鋳造装置100の鋳造制御部40の中に異常検知部50を組み込んだ形態の異常検知システム200であっても良い。
【0029】
(異常検知システム)
次に、本発明の実施形態に係る異常検知システム200について、
図2を用いて説明する。
図2(a)は、異常検知システム200の異常検知部50を示し、
図2(b)は、異常検知部50のデータ設定部52について示す。
【0030】
先ず、
図2(a)に示すように、異常検知部50は、データ送受信部51と、データ設定部52と、第1学習部53と、第2学習部54と、第1異常判定部55と、教師データ設定部56と、第2異常判定部57と、表示部58と、を備える。
【0031】
データ送受信部51は、鋳造装置100の鋳造制御部40と接続し、鋳造制御部40を経由して、射出制御部38、型締制御部27、および、給湯手段や冷却手段および真空吸引手段等の周辺設備99から鋳造波形データを受信する。また、第1異常判定部55および第2異常判定部57の判定データを、鋳造制御部40を経由して射出制御部38と型締制御部27および周辺設備99に送信する。
【0032】
データ設定部52は、データ送受信部51で受信した鋳造波形データに基づいて鋳造装置100の異常検知に必要な条件設定を行う。詳しくは、
図2(b)を用いて説明する。
【0033】
第1学習部53は、鋳造波形データから基準波形データを抽出し、例えば、公知のディープラーニング画像診断手法を用いて、抽出した基準波形データの特徴の定義付け(基準特徴という)を行う。また、第2学習部54は、データ送受信部51で受信した鋳造波形データを収集し、同様にディープラーニング画像解析手法を用いて、収集した鋳造波形データの特徴の定義付け(評価特徴という)を行う。この基準特徴と評価特徴を比較して、特徴の乖離度を異常スコア値としてカウントし、異常スコア値カウントデータとして第2学習部54に保存する。また、第1異常判定部55は、第2学習部54に保存した異常スコア値カウントデータが、予め設定した閾値を超えた鋳造波形データを異常波形データとして判定する。この第1学習部53と第2学習部54および第1異常判定部55は、教師なし学習プログラムを用いて、基準特徴および評価特徴の定義付けの学習と、異常波形データの判定を行う(教師なし学習という)。この教師なし学習は、表示部58で表示される。
【0034】
教師データ設定部56は、第1異常判定部55で判定した異常波形データを教師データとして設定する。また、第2異常判定部57は、この教師データに基づいて、データ送受信部51で受信した鋳造波形データの中から、教師あり学習プログラムを用いて鋳造装置100の異常を示す鋳造波形データを抽出する異常判定を行う(教師あり学習という)。第1異常判定部55および第2異常判定部57の判定データは、データ送受信部51から鋳造装置100の鋳造制御部40に向けて送信される。この教師あり学習は、表示部58で表示される。
【0035】
表示部58は、データ送受信部51で受信した鋳造波形データ、第1学習部53の基準波形データ、第2学習部54の異常スコア値カウントデータ、第1異常判定部55および第2異常判定部57の判定結果、教師データ設定部56の教師データ、データ設定部52の設定項目の表示を行う。
【0036】
ここで、型締制御部27から発信される鋳造波形データとしては、鋳造成形の開始から終了までを時間軸として、例えば、型締力波形、型締駆動部25の駆動トルク波形、型締部20の振動波形、型開動作初期の型締駆動部25の離型力波形、型締部20に内蔵された図示しない押出手段の押出力波形、型開閉速度波形、複数のタイバー24に発生する応力波形、等を示す。
【0037】
また、射出制御部38から発信される鋳造波形データとしては、鋳造成形の開始から終了までを時間軸として、例えば、プランジャチップ32の前進速度波形(射出速度波形という)、プランジャチップ32による溶湯Mの押圧力波形(鋳造圧力波形という)、金型キャビティ13に溶湯Mを充満させる射出充填に要した時間波形(射出時間波形という)、プランジャチップ32の位置波形(射出位置波形という)、射出駆動部36の駆動トルク波形、射出スリーブ31あるいはプランジャチップ32の温度波形、溶湯Mの温度波形、プランジャチップ32の前進動作および後退動作時の振動波形または振動加速度波形、射出速度の切替え時間波形(加速度波形という)、射出制御部38の操作指令波形および射出駆動部36の実行波形、等を示す。
【0038】
また、周辺設備99から発信される鋳造波形データとしては、鋳造成形の開始から終了までを時間軸として、例えば、鋳造金型10の温度波形、鋳造金型10および射出部30の冷却手段に用いる冷却媒体の温度波形および流量波形、金型キャビティ13あるいは射出スリーブ31内の真空度波形、鋳造金型10の熱膨張波形、金型キャビティ13および金型ゲート14への離型剤塗布量波形、型締動作時の鋳造金型10の変形量波形、給湯手段の溶湯輸送時間波形および輸送量波形、気温および湿度、等を示す。
【0039】
次に、データ設定部52について、
図2(b)を用いて説明する。先ず、予め異常検知部50に設定された鋳造装置100の想定異常リストから、異常検知選択スイッチ521で異常検知する項目を選択する。想定異常リストとは、例えば、プランジャチップ32の摺動異常を示すチップカジリ、プランジャチップ32や真空吸引手段に用いる真空リング等の消耗部品の交換時期を示す部品寿命、鋳造金型10や型締駆動部25および射出駆動部36等の鋳造装置100の基幹部品のメンテナンス時期を示すメンテナンス予測、プランジャチップ32および射出スリーブ31の潤滑不良を示す潤滑異常、給湯手段の給湯異常、金型キャビティ13内に鋳造品が残る型残り異常、冷却手段の異常を示す各部の温度異常、等を示す。なお、異常検知選択スイッチ521での選択する項目は1つでも良く、複数の項目を選択し、項目に優先順位をつけて異常検知を行う形態であっても良い。また、鋳造成形の継続により項目の追加・削除等を行っても良い。
【0040】
計測波形選択スイッチ522は、データ送受信部51で受信した、射出制御部38と型締制御部27および周辺設備99から発信される鋳造波形データから、異常検知に用いる鋳造波形データを選択し設定する。なお、選択と設定は鋳造作業者等が行うとするが、例えば、異常検知選択スイッチ521で選択した項目に基づいて、異常検知に好適とされる鋳造波形データを自動で設定するとしても良い。また、好適とされる鋳造波形データを優先的に表示し、表示された中から鋳造作業者等が選択して設定するとしても良い。
【0041】
基準波形選択スイッチ523は、第1学習部53で基準特徴の定義付けを行う基準波形データを、データ送受信部51で送信した鋳造波形データから抽出し設定する。ここで、基準波形データは、例えば、過去の生産鋳造において、鋳造品の鋳造品質が予め設定した品質基準値を満足した鋳造波形データとする。あるいは、流動解析等のCAE解析手段を用いて得られた解析結果を基準波形データとして用いても良い。ここで、第1学習部53から第2学習部54および第2異常判定部57までの学習によって、基準波形データの精度を高めることができるので、第1学習部53での基準波形選択スイッチ523の基準波形データの設定は簡単で良い。
【0042】
軸選択スイッチ524は、教師なし学習および教師あり学習を行うにおいて、基準波形データおよび鋳造波形データの基準となる軸を選択し設定する。例えば、異常検知選択スイッチ521でチップカジリを選択し、計測波形選択スイッチ522および基準波形選択スイッチ523で射出速度波形を選択すると、プランジャチップ32の前進動作の開始から終了までの経過時間またはプランジャチップ32の前進位置を軸選択スイッチ524で設定するのが好ましい。または、異常検知選択スイッチ521と計測波形選択スイッチ522および基準波形選択スイッチ523の選択に基づいて、軸選択スイッチ524は自動で設定するとしても良い。
【0043】
学習区間設定スイッチ525は、軸選択スイッチ524の設定に基づいて、基準波形データおよび鋳造波形データから異常発生起因となる区間(学習区間という)を設定する。特に、生産鋳造で収集する鋳造波形データのデータ容量は膨大であり、極めて大きなデータメモリ容量を有する異常検知部50を必要とし、異常検知システム200の大型化やコストアップとなる。また、異常検知を行う解析時間が長くなる。そこで、鋳造波形データの中から必要な箇所のみを学習区間として設定することでデータ容量を圧縮することができ、異常検知システム200の小型化やコスト低減および異常検知に要する解析時間の短縮を図ることができる。
【0044】
この学習区間の設定は、例えば、過去の鋳造成形の実績から鋳造波形データに変化が表れている箇所を選択して、鋳造成形を運転操作する成形技術者が行っても良い。または、流動解析等の解析手段を用いて解析結果を設定するとしても良い。あるいは、鋳造成形の1ショット毎に行う教師なし学習を用いて、鋳造波形データの変化点を求めて自動で設定するとしても良い。この学習区間の設定に関しては、
図3および
図4を用いて詳しく説明する。
【0045】
ここで、第1学習開始スイッチ526を押すと、第1学習部53において基準波形データの選定と基準特徴の定義付けの教師なし学習を開始する。また、第2学習開始スイッチ527を押すと、第2学習部54において鋳造波形データの収集と評価特徴の定義付けの教師なし学習を開始する。また、第1異常判定開始スイッチ529を押すと、第1異常判定部55において基準特徴と評価特徴を比較して異常スコア値をカウントし、異常データの判定を行う教師なし学習を開始する。また、第2異常判定開始スイッチ531を押すと、教師データ設定部56で設定した教師データに基づいて、第2異常判定部57において鋳造装置100の異常判定の教師あり学習を開始する。なお、第1異常判定開始スイッチ529は、第2学習開始スイッチ527と連動して自動で開始するとしても良い。
【0046】
閾値設定スイッチ528は、基準波形データの基準特徴と鋳造波形データの評価特徴を比較して異常スコア値をカウントする際の閾値として設定する。なお、設定された閾値は、その後の教師なし学習で調整されるとしても良い。この閾値の設定は、例えば、過去の鋳造成形の実績から閾値を算出し、鋳造成形を運転操作する成形技術者が行っても良い。または、流動解析等の解析手段を用いて解析結果を設定するとしても良い。あるいは、鋳造成形の1ショット毎に教師なし学習を用いて、鋳造波形データの変化点を求めて自動で設定するとしても良い。
【0047】
また、教師データ設定スイッチ530は、第2異常判定部57で行う教師あり学習の教師データとなる鋳造波形データを選択し設定する。なお、第1異常判定部55で判定した異常データを、教師データ設定スイッチ530に自動で設定するとしても良い。また、第2異常判定開始スイッチ531は、教師データ設定スイッチ530と連動して自動で開始するとしても良い。
【0048】
なお、
図2(b)において、スイッチの表記は省略してある。また、各スイッチには、選択した項目や、教師なし学習および教師あり学習の進行状態、および、判定結果等を表示する表示パネルEPを備える。
【0049】
このように、鋳造装置100の鋳造波形データに基づいて、異常検知部50で鋳造装置100の異常検知を行う異常検知システム200によって、異常データを抜け漏れなく正確に抽出でき、抽出した異常データに基づいて異常検知を行うことで、精度の高い鋳造装置100の異常検知システム200を提供することができる。その結果、鋳造装置100の精度の高い予防保全を可能とし、高品質な鋳造品の安定製造を可能とする。また、学習区間の設定という手法を用いることで、鋳造波形データのメモリ容量を圧縮することができ、異常検知システム200の小型化およびコスト低減を可能とする。さらに、教師なし学習プログラムを用いて鋳造波形データの中から異常データを抽出し、抽出した異常データを教師データとして教師あり学習プログラムを用いて、鋳造装置100の異常検知を行う異常検知システム200によって、異常検知の精度を更に高めることができる。
【0050】
(異常検知方法)
次に、本発明の実施形態に係る、
図1および
図2に示す異常検知システム200を用いて行う鋳造装置100の異常検知方法について、
図3および
図4を用いて説明する。
【0051】
先ず、鋳造装置100の射出制御部38と型締制御部27および周辺設備99から発信される鋳造波形データを、鋳造制御部40を経由して、異常検知部50のデータ送受信部51で受信する(波形データ収集工程)。
【0052】
この波形データ収集工程で収集した鋳造波形データの中から、データ設定部52の設定に基づいて、第1学習部53で基準波形データの抽出を行う。例えば、データ設定部52の異常検知選択スイッチ521でチップカジリを設定し、計測波形選択スイッチ522で射出速度波形を設定し、軸選択スイッチ524で射出位置を設定したと仮定する。以後は、これらの設定の仮定に基づいて説明を行う。
図3(a)は、これらの設定の仮定に基づいて、射出位置を横軸とし、射出速度を縦軸とした基準波形データH1を示す。この基準波形データH1は、第1学習部53にデータ保存し、表示部58にデータ表示される。
【0053】
また、第1学習部53は、データ設定部52の学習区間設定スイッチ525の設定に基づいて、基準波形データH1に対して異常発生起因となる区間(学習区間)の設定を行う。また、第1学習開始スイッチ526を開始させて、設定した学習区間において、基準波形データH1の特徴の定義付け(基準特徴という)を行い、第1学習部53にこの学習区間と基準特徴をデータ保存する。このように、第1学習部53は、基準波形データH1の抽出と学習区間の設定および基準特徴の定義付けを、教師なし学習プログラムを用いて行う(第1学習工程)。
【0054】
ここで、学習区間の設定は、
図3(a)に示すように、学習区間設定スイッチ525で学習区間(S1、S2)を設定する。なお、学習区間(S1、S2)の設定において、例えば、過去の鋳造成形の実績から鋳造波形データに変化が表れている箇所を選択して、鋳造成形を運転操作する成形技術者が行っても良い。または、流動解析等の解析手段を用いて解析結果を設定するとしても良い。あるいは、鋳造成形の1ショット毎に教師なし学習プログラムを用いて、鋳造波形データの変化点を求めて自動で設定するとしても良い。また、最初に学習区間(S1、S2)を広めに設定しておいて、鋳造波形データの収集に応じて変化点を探索し、次第に学習区間(S1、S2)を狭く設定するとしても良い。この学習区間(S1、S2)の設定によって、鋳造波形データのメモリ容量を圧縮することができ、第1学習工程の時間の短縮および学習精度を高め、異常検知システム200の小型化およびコスト低減を可能とする。
【0055】
また、基準特徴の定義付けは、例えば、公知のディープラーニング画像診断手法を用いて、基準波形データH1の特徴(基準特徴という)を抽出する。例えば、
図3(a)において、基準波形データH1の基準特徴は、学習区間(S1、S2)に山が存在する、山が1つ、射出速度が最大値HS以下、と定義付けされ、第1学習部53に設定する。
【0056】
次に、第2学習開始スイッチ527を開始させて、
図3(b)に示すように、第2学習部54において、波形データ収集工程で収集する生産鋳造時の鋳造波形データ(評価波形データH2という)と、基準波形データH1の比較評価を行う。先ず、学習区間(S1、S2)において、基準特徴の定義付けと同様に、例えば、公知のディープラーニング画像診断手法を用いて、評価波形データH2の特徴(評価特徴という)の定義付けを行う。例えば、
図3(b)において、評価波形データH2の評価特徴は、学習区間(S1、S2)に山が存在する、山が1つ、射出速度が最大値HS以下、と定義付けされ、第2学習部54に設定する。続いて、第1学習部53で設定した基準特徴と評価特徴を比較して、基準波形データH1と評価波形データH2の相違点を抽出する。第2学習部54は、この工程を教師なし学習プログラムを用いて行う(第2学習工程)。
【0057】
ここで、
図3(b)においては、基準波形データH1の基準特徴と評価波形データH2の評価特徴の相違点が確認されないので、評価波形データH2を正常波形データH2として第2学習部54で判定する。その結果、鋳造装置100は正常状態であると第2学習部54で判定される。なお、
図3(b)において、正常波形データH2を1つに簡素化して表記しているが、実際は生産鋳造のショット数に応じて複数の正常波形データH2が表示部58に表示される。
【0058】
次に、
図3(c)に示すように、波形データ収集工程で収集する生産鋳造時の鋳造波形データ(評価波形データH3)の評価特徴と、基準波形データH1の基準特徴に相違点が確認された形態について説明する。例えば、評価波形データH3の評価特徴は、学習区間(S1、S2)に山が存在する、山が2つ、射出速度が最大値HS以上、と定義付けする。その結果、基準波形データH1の基準特徴と評価波形データH3の評価特徴は、2つの特徴が異なるので、評価波形データH3を異常波形データH3として第2学習部54で判定する。その結果、鋳造装置100は異常状態であると第2学習部54で判定され、異常状態の数値管理を開始する
【0059】
具体的には、異常波形データH3の評価特徴と基準波形データH1の基準特徴の相違を、予め設定したルールに基づいて数値化し、異常スコア値として第2学習部54でカウントし保存する。この異常スコア値のカウントまでを第2学習工程という。例えば、
図3(c)において、異常波形データH3が示す最高射出速度と、基準特徴の定義付けに用いた射出速度の最大値HSとの相違量を異常スコア値K1として設定する。または、異常波形データH3の最高射出速度を示す射出位置において、異常波形データH3と基準波形データH1の射出速度の相違量を異常スコア値K2として設定する。あるいは、異常波形データH3の、学習区間(S1、S2)で山が2つ、の評価特徴から、異常スコア値を加算(K1+K2)するとしても良い。
【0060】
ここで、本発明において、第1学習部53で行う第1学習工程と、第2学習部54で行う第2学習工程において、教師なし学習プログラムを用いることを特徴とする。鋳造装置100を用いた鋳造成形において、溶湯Mの温度や溶湯Mの組成、射出スリーブ31やプランジャチップ32等の射出部30の熱膨張や熱変形、鋳造金型10の熱膨張、金型キャビティ13への不純物の付着や鋳造品の型残り異常、鋳造装置100の摺動箇所の潤滑状態、油圧駆動手段の場合の油温の影響、等の多くの不確定要素が複雑に絡み合った結果で、鋳造装置100に異常が生じ、異常波形データH3が確認される。また、1つ1つの不確定要素においても、異常波形データH3が少ないか不明瞭なケースが多い。さらに、鋳造技術者の知識や熟練度にもよるが、軽微な異常波形データH3を正確に認識することが難しく、抜け漏れ等による異常波形データの正確な収集ができないことが想定される。一般的には、この異常波形データH3を教師データとして設定し、教師あり学習プログラムを用いることが一般的とされる。しかしながら、異常波形データH3を正確に収集することが困難な鋳造装置100を用いた鋳造成形において、教師データを正確に設定することが困難であり、教師あり学習プログラムは好ましい手段と断言できない。
【0061】
そこで、本発明においては、鋳造波形データの収集が容易で、精度良く明確に設定することができる、鋳造装置100あるいは鋳造品に異常が確認されていない状態の正常波形データH2を利用し、教師なし学習プログラムを用いて鋳造装置100の異常検知を行う。これによって、正確性に課題が残る教師データの設定を省略することができ、鋳造装置100の異常検知の精度を高めることができる。
【0062】
次に、第1異常判定開始スイッチ529を開始させて、第2学習工程でカウントした異常スコア値を用いて、第1異常判定部55で鋳造装置100の異常検知を行う。例えば、
図4(a)に示すように、生産鋳造の鋳造ショット数を横軸とし、異常スコア値を縦軸とした、異常スコア値の積算数を示す波形(異常スコア値波形ERという)を用いる。なお、この異常スコア値波形ERは表示部58で表示される。例えば、
図4(a)において、鋳造ショット数ES1までは異常スコア値波形ERが表示されず、鋳造装置100は正常状態であることを示している。この鋳造ショット数ES1までに、第1学習工程を完了させておくことが好ましい。鋳造ショット数ES1で異常スコア値波形ERを初めて確認し、鋳造ショット数の増加とともに異常スコア値波形ERも増加傾向を示す。なお、この時点では、異常スコア値波形ERは小さく、鋳造装置100の異常レベルは小さいと第1異常判定部55で判定する。また、直ぐに生産鋳造を中断して鋳造装置100のメンテナンスを行う必要性は無いと第1異常判定部55で判断して、生産鋳造を継続する。
【0063】
ここで、閾値設定スイッチ528の設定に基づいて、2つの閾値を第1異常判定部55に設定する。閾値の1つは、このまま生産鋳造を継続すると、データ設定部52の異常検知選択スイッチ521で設定した鋳造装置100の異常(チップカジリ)が、高い確率で発生するとして、成形技術者に注意喚起を行う閾値ERAである。異常スコア値波形ERが閾値ERAを超えた鋳造ショット数ES2で、注意喚起を促す警報を発すると同時に、表示部58に注意喚起のメッセージを表示する。この注意喚起を受けて、鋳造技術者は、生産鋳造を一時中断して、鋳造装置100のメンテナンスを行うことが好ましく、鋳造装置100の好適なメンテナンスの時期を示すことができる。
【0064】
閾値のもう1つは、既に鋳造装置100に致命的な異常が発生しており、直ちに生産鋳造を停止して大規模なメンテナンスを実施することを提起する閾値ERZである。例えば、
図4(a)では、異常スコア値波形ERが閾値ERZを超えた鋳造ショット数ES3のタイミングで、直ちに生産鋳造を停止して鋳造装置100のメンテナンスを行うことを示す警報を発すると同時に、表示部58に警告を表示する。なお、閾値(ERA、ERZ)は、例えば、過去のメンテナンスを行った実績、流動解析等の解析手段による解析結果、異常検知部50にデータ保存されている鋳造装置100の異常の発生履歴、等を参考にして設定することが好ましい。第1異常判定部55は、異常スコア値波形ERと閾値(ERA、ERZ)を用いて鋳造装置100の異常検知を行う(第1異常判定工程)。
【0065】
次に、
図4(b)に示すように、データ送受信部51の波形データ収集工程、第1学習部53の第1学習工程、第2学習部54の第2学習工程、第1異常判定部55の第1異常判定工程に続いて、教師データ設定工程に進む。この教師データ設定工程は、第1異常判定工程において、異常スコア値波形ERが閾値(ERA、ERZ)を超えた鋳造ショット数(ES2、ES3)の鋳造波形データを異常データとして教師データ設定部56に登録する。さらに、本発明において、教師データ設定部56は、登録した異常データを教師データとして設定することを特徴とする。なお、異常データの登録に用いる閾値(ERA、ERZ)を2つとしたが、好ましくは、閾値ERAを用いて異常データを登録し教師データを設定する形態が、鋳造装置100の好適なメンテナンスの時期を示すとされる。
【0066】
さらに、本発明において、教師データ設定工程で設定した教師データに基づいて、教師あり学習プログラムを用いて、鋳造装置100の異常判定を第2異常判定部57で行う第2異常判定工程を備えることを特徴とする。具体的には、波形データ収集工程で収集した鋳造波形データと、教師データ設定工程で設定した教師データを比較して、鋳造波形データ≧教師データの場合に、鋳造装置100に異常(例えば、チップカジリ)が発生したとして第2異常判定部57で異常判定し、生産鋳造を中断して鋳造装置100のメンテナンスを行うとする。
【0067】
このように、異常データの認識と抽出が難しい鋳造装置100を用いた生産鋳造において、精度良く明確に選定できる正常状態の鋳造波形データに基づいて、教師なし学習プログラムを用いて異常データを抽出する。これによって、異常データの抜け漏れがなく正確に抽出できる。さらに、抽出した異常データを教師データとして設定して、教師あり学習プログラムを用いて鋳造装置100の異常判定を行う。これによって、精度の高い鋳造装置100の異常検知方法を提供することができる。その結果、鋳造装置100の精度の高い予防保全を可能とし、高品質な鋳造品の安定製造を可能とする。また、学習区間を設定することで、鋳造波形データのメモリ容量を圧縮することができ、異常検知システム200の小型化およびコスト低減を可能とする。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0069】
100 鋳造装置
200 異常検知システム
10 鋳造金型
11 固定金型
12 可動金型
13 金型キャビティ
14 金型ゲート
20 型締部
21 固定盤
22 可動盤
23 型締盤
24 タイバー
25 型締駆動部
26 シリンダロッド
27 型締制御部
30 射出部
31 射出スリーブ
32 プランジャチップ
33 プランジャロッド
34 注湯口
35 連結部
36 射出駆動部
37 駆動ロッド
38 射出制御部
40 鋳造制御部
50 異常検知部
51 データ送受信部
52 データ設定部
521 異常検知選択スイッチ
522 計測波形選択スイッチ
523 基準波形選択スイッチ
524 軸選択スイッチ
525 学習区間設定スイッチ
526 第1学習開始スイッチ
527 第2学習開始スイッチ
528 閾値設定スイッチ
529 第1異常判定開始スイッチ
530 教師データ設定スイッチ
531 第2異常判定開始スイッチ
EP 表示パネル
53 第1学習部
54 第2学習部
55 第1異常判定部
56 教師データ設定部
57 第2異常判定部
58 表示部
99 周辺設備
M 溶湯
F 前方
R 後方
H1 基準波形データ
H2 評価波形データ(正常波形データ)
H3 評価波形データ(異常波形データ)
HS 最大値
S1、S2 学習区間
K1、K2 異常スコア値
ES1、ES2、ES3 鋳造ショット数
ER 異常スコア値波形
ERA、ERZ 閾値