(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024031355
(43)【公開日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ダンプトラック
(51)【国際特許分類】
B60P 1/04 20060101AFI20240229BHJP
F15B 15/14 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B60P1/04 S
F15B15/14 A
F15B15/14 380B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022134861
(22)【出願日】2022-08-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥太朗
【テーマコード(参考)】
3H081
【Fターム(参考)】
3H081AA12
3H081BB02
3H081CC18
3H081DD13
3H081HH08
(57)【要約】
【課題】荷台に対する積載物の積み込み作業時にホイストシリンダを保護する。
【解決手段】ホイストシリンダ26は、チューブ27と、ロッド28と、チューブ27とロッド28との間に設けられた第1中間ロッド29および第2中間ロッド30と、を有し、チューブ27内には、油液が供給されることにより第1中間ロッド29および第2中間ロッド30を伸長させる伸び油室31が設けられている。第2中間ロッド30の伸び油室31側の端面30Hには第1環状溝35が設けられ、第1中間ロッド29の内周面には、ホイストシリンダ26が縮小したときに第1環状溝35に着座する第1スナップリング36が嵌着されている。そして、第2中間ロッド30の端面30Hには、第1スナップリング36が第1環状溝35から離れたときに伸び油室31内の油液を第1環状溝35内に導入する切欠溝39が設けられている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な車体と、前記車体に支持ピンを介して傾転可能に設けられ、積載物の積み込みおよび排出を行う荷台と、前記車体と前記荷台との間に設けられ、前記支持ピンを中心として前記荷台を傾転させるホイストシリンダとを備え、
前記ホイストシリンダは、
前記車体および前記荷台のうち一方に取付けられた中空なチューブと、
前記車体および前記荷台のうち他方に取付けられたロッドと、
前記チューブと前記ロッドとの間に前記チューブと同心状に配置され、前記チューブの内周側に伸縮可能に嵌合する第1中間ロッド、および前記第1中間ロッドの内周側に伸縮可能に嵌合する第2中間ロッドを含む複数の中間ロッドと、
前記チューブ内に設けられ、油液が供給されることにより前記複数の中間ロッドを伸長させる伸び油室と、
前記チューブと前記第1中間ロッドとの間、および前記複数の中間ロッドのうち隣合う中間ロッド間に設けられ、油液が供給されることにより前記複数の中間ロッドを縮小させる縮み油室と、
前記第2中間ロッドの前記伸び油室側の端面に全周に亘って形成された環状溝と、
前記第1中間ロッドの内周面に嵌着され、前記第1中間ロッドおよび第2中間ロッドが縮小したときに前記第2中間ロッドの前記環状溝に着座する環状体と、を備えてなるダンプトラックにおいて、
前記第2中間ロッドの前記伸び油室側の端面には、前記環状体が前記環状溝から離れたときに前記伸び油室内の油液を前記環状溝内に導入する切欠溝が設けられていることを特徴とするダンプトラック。
【請求項2】
前記切欠溝は、前記第2中間ロッドの周方向に均等な間隔をもって複数個設けられていることを特徴とする請求項1に記載のダンプトラック。
【請求項3】
前記切欠溝の溝深さは、前記環状溝の溝深さよりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1に記載のダンプトラック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、砕石、土砂等を積載する荷台を備えたダンプトラックに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大型の運搬車両であるダンプトラックは、自走可能な車体と、車体上に起伏可能に設けられた荷台(ベッセル)とを備え、この荷台に積載した砕石、土砂等の積載物を運搬する。
【0003】
ダンプトラックの荷台は、フレーム構造をなす車体に支持ピンを介して回動可能に設けられ、車体と荷台との間にはホイストシリンダが伸縮可能に設けられている。ホイストシリンダを縮小させた状態では荷台に積載物が積載され、ホイストシリンダを伸長させた状態では、荷台が支持ピンを中心として斜め後方に傾斜するように回動し、積載物が荷台から排出される(特許文献1)。
【0004】
鉱山等で採掘した砕石、土砂等の積載物をダンプトラックに積み込む場合には、ホイストシリンダを縮小させて荷台を車体上に配置した状態で、荷台上に積載物を積み込む。この積み込み作業時には、積載物が荷台に落下したときの衝撃によってホイストシリンダ、車体等が損傷する可能性がある。
【0005】
これに対し、積み込み作業時に車体等が受ける衝撃を緩和するため、積み込み作業を行うときに、ホイストシリンダを僅かに伸長させて荷台を車体から浮かせるようにしたダンプトラックが提案されている。このダンプトラックによれば、積載物が荷台に落下したときの衝撃が車体に伝わるのを緩和することができる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-143849号公報
【特許文献2】特開2013-226902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の従来技術では、荷台のうち支持ピンよりも前側の位置に土砂が積み込まれた場合には、支持ピンを中心(支点)として荷台の前側が下向きに回動するため、積載物が荷台に落下したときの衝撃が車体に伝わるのをホイストシリンダによって緩和することができる。しかし、荷台のうち支持ピンよりも後側の位置に土砂が積み込まれた場合には、支持ピンを中心として荷台の前側を上向きに回動させる力が働く。このため、ホイストシリンダに対して伸長方向への外力が作用し、ホイストシリンダ内に急激な負圧が発生することにより、ホイストシリンダが損傷して油漏れを生じる可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、荷台に対する積載物の積み込み作業時にホイストシリンダを保護することができるようにしたダンプトラックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、自走可能な車体と、前記車体に支持ピンを介して傾転可能に設けられ、積載物の積み込みおよび排出を行う荷台と、前記車体と前記荷台との間に設けられ、前記支持ピンを中心として前記荷台を傾転させるホイストシリンダとを備え、前記ホイストシリンダは、前記車体および前記荷台のうち一方に取付けられた中空なチューブと、前記車体および前記荷台のうち他方に取付けられたロッドと、前記チューブと前記ロッドとの間に前記チューブと同心状に配置され、前記チューブの内周側に伸縮可能に嵌合する第1中間ロッド、および前記第1中間ロッドの内周側に伸縮可能に嵌合する第2中間ロッドを含む複数の中間ロッドと、前記チューブ内に設けられ、油液が供給されることにより前記複数の中間ロッドを伸長させる伸び油室と、前記チューブと前記第1中間ロッドとの間、および前記複数の中間ロッドのうち隣合う中間ロッド間に設けられ、油液が供給されることにより前記複数の中間ロッドを縮小させる縮み油室と、前記第2中間ロッドの前記伸び油室側の端面に全周に亘って形成された環状溝と、前記第1中間ロッドの内周面に嵌着され、前記第1中間ロッドおよび第2中間ロッドが縮小したときに前記第2中間ロッドの前記環状溝に着座する環状体と、を備えてなるダンプトラックにおいて、前記第2中間ロッドの前記伸び油室側の端面には、前記環状体が前記環状溝から離れたときに前記伸び油室内の油液を前記環状溝内に導入する切欠溝が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、荷台に対する積載物の積み込み作業時に、ホイストシリンダに伸長方向への外力が作用してホイストシリンダ内に負圧が発生し、環状溝から環状体が離れたとしても、油室内の油液を、切欠溝を通じて環状溝内に導入することができる。これにより、負圧によって環状体が第2中間ロッドから脱落するのを抑え、ホイストシリンダを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るダンプトラックを示す左側面図である。
【
図2】ホイストシリンダを縮小状態で示す断面図である。
【
図3】ホイストシリンダを伸長状態で示す断面図である。
【
図4】ホイストシリンダに伸長方向への外力が作用した状態を示す断面図である。
【
図5】第2ロッドの端面に設けられた環状溝、複数の切欠溝を示す斜視図である。
【
図6】
図2中の第1中間ロッド、第2中間ロッド、第1スナップリング、第1環状溝等を拡大して示す拡大断面図である。
【
図7】
図4中の第1中間ロッド、第2中間ロッド、第1スナップリング、第1環状溝、切欠溝等を拡大して示す拡大断面図である。
【
図8】ダンプトラックのホイストシリンダを駆動するための油圧回路図である。
【
図9】比較例による第1中間ロッド、第2中間ロッド、第1スナップリング、第1環状溝等を拡大して示す
図7と同様な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るダンプトラックについて、添付図面に従って詳細に説明する。
【0013】
図中、ダンプトラック1は、鉱山等で採掘した砕石、土砂等を運搬する大型の運搬車両である。ダンプトラック1は、頑丈なフレーム構造をなす自走可能な車体2と、車体2上に起伏可能に搭載された荷台(ベッセル)3とを含んで構成されている。
【0014】
荷台3は、砕石等の積載物(荷物)を大量に積み込むための大型の容器として形成されている。荷台3の底部の後部側3Aは、車体2の後端側に支持ピン4を用いてピン結合されている。荷台3の前部側3Bは、支持ピン4を中心(支点)として上下方向に回動する構成となっている。また、荷台3の前端部上側には、キャブ7等を上側から覆う庇部3Cが一体に設けられている。
【0015】
車体2の前部側には、左右の前輪(左側のみ図示)5が設けられている。前輪5は、ダンプトラック1のオペレータによって操舵される操舵輪を構成している。車体2と前輪5との間には、例えば油圧緩衝器等からなる前輪側サスペンション(図示せず)が設けられている。車体2の後部側には、左右の後輪(左側のみ図示)6が設けられている。後輪6は、ダンプトラック1の駆動輪を構成し、走行装置(図示せず)により回転駆動される。車体2と後輪6との間には、例えば油圧緩衝器等からなる後輪側サスペンション(図示せず)が設けられている。
【0016】
車体2の前部側には、前輪5よりも上側に位置してキャブ7が設けられている。キャブ7の内部には、運転席、操舵用のハンドル、ホイストシリンダ26を伸縮させるための操作装置等(いずれも図示せず)が設けられている。タンク8は、荷台3よりも下側に位置して車体2に取付けられている。タンク8には、ダンプトラック1に搭載されたホイストシリンダ26等の油圧アクチュエータに供給される作動油(油液)が収容されている。
【0017】
エンジン9は、左右の前輪5の間に位置して車体2の前部側に設けられている。エンジン9は、例えば大型のディーゼルエンジン等により構成され、キャブ7内に乗り込んだオペレータが始動スイッチを操作することにより起動し、後述する油圧ポンプ10等を回転駆動する。
【0018】
車体2と荷台3との間には、後述するホイストシリンダ26が設けられている。ホイストシリンダ26は、多段式の油圧シリンダからなり、車体2の左右に1本ずつ(合計2本)配置されている。ホイストシリンダ26が縮小状態となったときには、荷台3の前部側3Bが車体2上に当接した運搬姿勢となり、ホイストシリンダ26が伸長状態となったときには、支持ピン4を中心として荷台3の前部側3Bが上方に回動した排出姿勢となる。
【0019】
次に、ホイストシリンダ26を駆動するための油圧回路について、
図8を参照して説明する。
【0020】
油圧ポンプ10は、作動油を収容するタンク8と共に、ホイストシリンダ26に対して作動用の圧油を供給、排出する油圧源を構成している。油圧ポンプ10は、エンジン9によって駆動され、タンク8から吸い込んだ作動油を加圧し、ホイストシリンダ26に供給される圧油としてポンプ管路11に吐出する。一方、ホイストシリンダ26からの戻り油は、タンク管路12を通じてタンク8に排出される。
【0021】
油圧管路13Aは、後述する伸び油室31に接続されている。油圧管路13Bは、後述する第3縮み油室34に接続されている。一方の油圧管路13Aは、基端側が制御弁装置14を介して油圧ポンプ10およびタンク8からなる油圧源に接続され、先端側はホイストシリンダ26のロッド28内を通って伸び油室31に接続されている。他方の油圧管路13Bは、基端側が制御弁装置14を介して油圧源に接続され、先端側はホイストシリンダ26のロッド28内を通って第3縮み油室34に接続されている。
【0022】
制御弁装置14は、油圧ポンプ10およびタンク8からなる油圧源とホイストシリンダ26との間に設けられ、ホイストシリンダ26に対する圧油の供給、排出を制御する。制御弁装置14は、高圧側油路15、低圧側油路16、バイパス油路17、第1の方向制御弁18、第2の方向制御弁19等によって構成されている。ここで、第1の方向制御弁18と第2の方向制御弁19とは、高圧側油路15、低圧側油路16、バイパス油路17を介して互いにパラレル接続されている。
【0023】
高圧側油路15は、ポンプ管路11を介して油圧ポンプ10の吐出側に接続され、低圧側油路16は、タンク管路12を介してタンク8に接続されている。また、バイパス油路17は、第1の方向制御弁18と第2の方向制御弁19とが中立位置(a)にあるときには、高圧側油路15と低圧側油路16とを連通し、油圧ポンプ10をアンロード状態として吐出圧力(ポンプ管路11内の圧力)をタンク圧に近い低圧状態に保つ。
【0024】
第1の方向制御弁18は、例えば6ポート3位置の油圧パイロット式方向制御弁により構成され、一対の油圧パイロット部18A,18Bを有している。これら油圧パイロット部18A,18Bは、それぞれ電磁弁を介してパイロットポンプ(いずれも図示せず)に接続され、電磁弁は、例えばキャブ7内に設けられた操作装置によって開閉操作される。第1の方向制御弁18は、油圧パイロット部18Aに対し、荷台3の前部側3Bを上昇させるためのパイロット圧Pbが供給されたときには、中立位置(a)から上げ位置(b)に切換えられる。また、第1の方向制御弁18は、油圧パイロット部18Bに対し、荷台3の前部側3Bを自重により自由落下させるためのパイロット圧Pcが供給されたときには、中立位置(a)から浮き位置(c)に切換えられる。
【0025】
第2の方向制御弁19は、例えば6ポート3位置の油圧パイロット式方向制御弁により構成され、一対の油圧パイロット部19A,19Bを有している。これら油圧パイロット部19A,19Bは、それぞれ電磁弁を介してパイロットポンプに接続され、電磁弁は、例えばキャブ7内に設けられた操作装置によって開閉操作される。第2の方向制御弁19は、油圧パイロット部19Aに対し、荷台3の前部側3Bを上昇させるためのパイロット圧Pbが供給されたときには、中立位置(a)から上げ位置(b)に切換えられる。また、第2の方向制御弁19は、油圧パイロット部19Bに対し、荷台3の前部側3Bを下降させるためのパイロット圧Pdが供給されたときには、中立位置(a)から下げ位置(d)に切換えられる。
【0026】
第1の方向制御弁18の出力側には、一対のアクチュエータ側油路20A,20Bが接続されている。アクチュエータ側油路20Aは、油圧管路13Aを介してホイストシリンダ26の伸び油室31に接続され、アクチュエータ側油路20Bは、油圧管路13Bを介してホイストシリンダ26の第3縮み油室34に接続されている。一方、第2の方向制御弁19の出力側には、一対のアクチュエータ側油路21A,21Bが接続されている。アクチュエータ側油路21Aは、油圧管路13Aを介してホイストシリンダ26の伸び油室31に接続され、アクチュエータ側油路21Bは、油圧管路13Bを介してホイストシリンダ26の第3縮み油室34に接続されている。
【0027】
メイクアップ用のチェック弁22A,22Bは、第1の方向制御弁18を迂回した状態でアクチュエータ側油路20A,20Bと低圧側油路16との間に設けられている。一方のチェック弁22Aは、タンク8内の作動油がタンク管路12、低圧側油路16、アクチュエータ側油路20A、油圧管路13Aを通じてホイストシリンダ26の伸び油室31に流入するのを許し、逆向きの流れを阻止する。他方のチェック弁22Bは、タンク8内の作動油がタンク管路12、低圧側油路16、アクチュエータ側油路20B、油圧管路13Bを通じてホイストシリンダ26の第3縮み油室34に流入するのを許し、逆向きの流れを阻止する。これにより、ホイストシリンダ26の第3縮み油室34、伸び油室31に対してタンク8内の作動油を補給することができ、各油室内が負圧となるのが防止される。
【0028】
過負荷防止用のリリーフ弁23A,23Bは、第1の方向制御弁18を迂回した状態でアクチュエータ側油路20A,20Bと低圧側油路16との間に設けられている。一方のリリーフ弁23Aは、チェック弁22Aと並列に接続され、ホイストシリンダ26に対し伸長方向の過負荷が作用したときに、伸び油室31側の過剰圧をリリーフするために開弁する。他方のリリーフ弁23Bは、チェック弁22Bと並列に接続され、ホイストシリンダ26に対し縮小方向の過負荷が作用したときに、第3縮み油室34側の過剰圧をリリーフするために開弁する。
【0029】
メイクアップ用のチェック弁24A,24Bは、第2の方向制御弁19を迂回した状態でアクチュエータ側油路21A,21Bと低圧側油路16との間に設けられている。一方のチェック弁24Aは、タンク8内の作動油がタンク管路12、低圧側油路16、アクチュエータ側油路21A、油圧管路13Aを通じてホイストシリンダ26の伸び油室31に流入するのを許し、逆向きの流れを阻止する。他方のチェック弁24Bは、タンク8内の作動油がタンク管路12、低圧側油路16、アクチュエータ側油路21B、油圧管路13Bを通じてホイストシリンダ26の第3縮み油室34に流入するのを許し、逆向きの流れを阻止する。これにより、ホイストシリンダ26の伸び油室31、第3縮み油室34に対してタンク8内の作動油を補給することができ、各油室内が負圧となるのが防止される。
【0030】
リリーフ弁25は、高圧側油路15と低圧側油路16との間に設けられている。リリーフ弁25は、リリーフ設定圧を変更することが可能であり、油圧ポンプ10の最大吐出圧を決め、これ以上の圧力が発生すると、過剰圧としてタンク8側にリリーフする。リリーフ弁25は、リリーフ設定圧を低圧設定と高圧設定とに切換えるための設定圧可変部25Aを有している。
【0031】
リリーフ弁25は、第1の方向制御弁18および第2の方向制御弁19(油圧パイロット部18Aおよび19A)にパイロット圧Pbが供給され、第1の方向制御弁18および第2の方向制御弁19が上げ位置(b)に切換えられているときに、このパイロット圧Pbが設定圧可変部25Aに供給されることにより、リリーフ設定圧を高圧として油圧ポンプ10の吐出圧を高い圧力に設定する。一方、パイロット圧Pbの供給が停止され、第1の方向制御弁18および第2の方向制御弁19が上げ位置(b)以外の切換位置、即ち、中立位置(a)、浮き位置(c)または下げ位置(d)に切換えられているときには、リリーフ弁25のリリーフ設定圧は低圧となり、油圧ポンプ10の吐出圧が低い圧力に設定される。
【0032】
次に、本実施形態に用いられるホイストシリンダ26について、
図2ないし
図7を参照して説明する。
【0033】
ホイストシリンダ26は、支持ピン4よりも前側に位置して車体2と荷台3との間に設けられている。ホイストシリンダ26は、多段式(例えば3段式)の油圧シリンダからなり、車体2の左右に1本ずつ(合計2本)配置されている。ホイストシリンダ26は、チューブ27と、ロッド28と、第1中間ロッド29と、第2中間ロッド30と、第1環状溝35と、第1スナップリング36と、複数の切欠溝39とを含んで構成されている。
【0034】
チューブ27は、有底円筒状に形成されている。チューブ27は、軸方向に延びる円筒部27Aを有し、円筒部27Aの軸方向の一端は底部27Bとなっている。底部27Bには、ピン孔27Cを有する取付部27Dが突設され、取付部27Dは、ピン孔27Cに挿通された連結ピン(図示せず)を介して、荷台3の底部に回動可能に取付けられている。チューブ27(円筒部27A)の内周側には、第1中間ロッド29が軸方向に伸縮可能に挿嵌され、円筒部27Aの軸方向の他端には、円板状の蓋体27Eが取付けられている。蓋体27Eは、円筒部27Aの周縁部から径方向内側に張り出す円筒状の張出し部27Fを有している。張出し部27Fは、第1中間ロッド29をチューブ27に対して抜止めしている。
【0035】
ロッド28は、チューブ27と同心状に配置され、第2中間ロッド30の内周側に軸方向に伸縮可能に嵌合している。ロッド28の外周面28Aは、第2中間ロッド30を構成する内周側張出し部30Fの内周面に摺動可能に当接(摺接)している。ロッド28の軸方向の一端には、円板状のピストン部28Bが設けられ、ピストン部28Bの外周面28Cは、第2中間ロッド30を構成する円筒部30Aの内周面に摺動可能に当接(摺接)している。ロッド28の軸方向の他端側には、ピン孔28Dを有する取付部28Eが設けられ、取付部28Eは、ピン孔28Dに挿通された連結ピン(図示せず)を介して車体2に回動可能に連結されている。
【0036】
ロッド28の中心部には、ピストン部28Bと取付部28Eとの間を軸方向に延びるパイプ状の伸び側油路28Fと、伸び側油路28Fの外周側を取囲む円筒状の縮み側油路28Gとが同心状に設けられている。伸び側油路28Fの軸方向の一端は、ピストン部28Bが設けられたロッド28の一端側の端面に開口し、チューブ27(円筒部27A)の内周側に連通している。伸び側油路28Fの軸方向の他端は、取付部28Eに形成された伸び油室用外部接続ポート28Hに接続されている。一方、縮み側油路28Gの軸方向の一端には、ロッド28の外周面28Aに開口する複数の連通ポート28Jが、放射状に形成されている。縮み側油路28Gの軸方向の他端は、取付部28Eに形成された縮み油室用外部接続ポート28Kに接続されている。
【0037】
第1中間ロッド29は、第2中間ロッド30と共にチューブ27とロッド28との間に設けられている。第1中間ロッド29は、チューブ27と同心状に配置され、チューブ27の内周側に伸縮可能に嵌合している。第1中間ロッド29は、軸方向の両端が開口した円筒部29Aを有し、円筒部29Aの外周面29Bは、チューブ27を構成する蓋体27Eに設けられた張出し部27Fの内周面に摺接している。
【0038】
円筒部29Aの軸方向の一端側には、円筒部29Aの外周縁から径方向外側に張り出す円筒状の外周側張出し部29Cが形成されている。外周側張出し部29Cの外周面29Dは、チューブ27を構成する円筒部27Aの内周面に摺接している。第1中間ロッド29の外周側張出し部29Cと、チューブ27の張出し部27Fとの間には、第1縮み油室32が形成されている。外周側張出し部29Cには、第1縮み油室32と後述する第2縮み油室33との間を連通させる複数の連通ポート29Eが放射状に形成されている。
【0039】
一方、円筒部29Aの軸方向の他端側には、円筒部29Aの内周縁から径方向内側に張り出す円筒状の内周側張出し部29Fが形成されている。内周側張出し部29Fの内周面は、第2中間ロッド30を構成する円筒部30Aの外周面30Bに摺接している。第1中間ロッド29の内周側張出し部29Fと、第2中間ロッド30の外周側張出し部30Cとの間には、第2縮み油室33が形成されている。
【0040】
第2中間ロッド30は、ロッド28と第1中間ロッド29との間に設けられている。第2中間ロッド30は、チューブ27と同心状に配置され、第1中間ロッド29の内周側に伸縮可能に嵌合している。第2中間ロッド30は、軸方向の両端が開口した円筒部30Aを有し、円筒部30Aの外周面30Bは、第1中間ロッド29を構成する内周側張出し部29Fの内周面に摺接している。
【0041】
円筒部30Aの軸方向の一端側には、円筒部30Aの外周縁から径方向外側に張り出す円筒状の外周側張出し部30Cが形成されている。外周側張出し部30Cの外周面30Dは、第1中間ロッド29を構成する円筒部29Aの内周面に摺接している。外周側張出し部30Cには、第2縮み油室33と後述する第3縮み油室34との間を連通させる複数の連通ポート30Eが放射状に形成されている。
【0042】
一方、円筒部30Aの軸方向の他端側には、円筒部30Aの内周縁から径方向内側に張り出す円筒状の内周側張出し部30Fが形成されている。内周側張出し部30Fの内周面は、ロッド28の外周面28Aに摺接している。第2中間ロッド30の内周側張出し部30Fと、ロッド28のピストン部28Bとの間には、第3縮み油室34が形成されている。
【0043】
伸び油室31は、チューブ27の内周側に形成されている。具体的には、伸び油室31は、チューブ27の円筒部27A、底部27B、第1中間ロッド29、第2中間ロッド30、ロッド28のピストン部28Bによって画成されている。伸び油室31は、ロッド28の伸び側油路28Fを介して伸び油室用外部接続ポート28Hに連通している。従って、油圧ポンプ10からの圧油は、伸び油室用外部接続ポート28Hからロッド28の伸び側油路28Fを通じて伸び油室31に供給される。
【0044】
第1縮み油室32は、チューブ27と第1中間ロッド29との間に全周に亘って環状に形成されている。具体的には、第1縮み油室32は、チューブ27の円筒部27Aの内周面と、第1中間ロッド29の円筒部29Aの外周面29Bと、チューブ27の蓋体27Eの張出し部27Fと、第1中間ロッド29の外周側張出し部29Cによって画成されている。チューブ27の円筒部27Aと第1中間ロッド29の円筒部29Aとの摺接面、およびチューブ27(蓋体27E)の張出し部27Fと第1中間ロッド29の外周側張出し部29Cとの摺接面には、第1縮み油室32を封止するオイルシール(図示せず)がそれぞれ設けられている。
【0045】
第2縮み油室33は、第1中間ロッド29と第2中間ロッド30との間に全周に亘って環状に形成されている。具体的には、第2縮み油室33は、第1中間ロッド29の円筒部29Aの内周面と、第2中間ロッド30の円筒部30Aの外周面30Bと、第1中間ロッド29の内周側張出し部29Fと、第2中間ロッド30の外周側張出し部30Cによって画成されている。第1中間ロッド29の円筒部29Aと第2中間ロッド30の外周側張出し部30Cとの摺接面、および第1中間ロッド29の内周側張出し部30Fと第2中間ロッド30の円筒部30Aとの摺接面には、第2縮み油室33を封止するオイルシール(図示せず)がそれぞれ設けられている。
【0046】
第3縮み油室34は、第2中間ロッド30とロッド28との間に全周に亘って環状に形成されている。具体的には、第3縮み油室34は、第2中間ロッド30の円筒部30Aの内周面と、ロッド28の外周面28Aと、第2中間ロッド30の内周側張出し部30Fと、ロッド28のピストン部28Bによって画成されている。第2中間ロッド30の円筒部30Aとロッド28のピストン部28Bとの摺接面、および第2中間ロッド30の内周側張出し部30Fとロッド28との摺接面には、第3縮み油室34を封止するオイルシール(図示せず)がそれぞれ設けられている。第3縮み油室34は、ロッド28の連通ポート28J、縮み側油路28Gを介して縮み油室用外部接続ポート28Kに連通している。
【0047】
第1環状溝35は、第2中間ロッド30の伸び油室31側の端面30Hに全周に亘って形成されている。第1環状溝35は、第2中間ロッド30の伸び油室31側に位置する端面30Hの外周縁を、円弧状の断面形状をもって切欠くことにより形成されている。第1環状溝35は、後述する第1スナップリング36に対応する断面形状を有し、ホイストシリンダ26が縮小状態となったときに第1スナップリング36が着座する。
【0048】
第1スナップリング36は、第1中間ロッド29の内周面に設けられている。第1スナップリング36は、径方向に弾性を有する環状体(穴用止め輪)であり、第1中間ロッド29のうち、伸び油室31側の端面近傍の内周面に形成された第1リング取付溝29Gに嵌着されている。第1スナップリング36は、ホイストシリンダ26が縮小状態となったときに、第2中間ロッド30に形成された第1環状溝35に着座し、第2中間ロッド30に対する第1中間ロッド29の停止位置を設定する(
図2参照)。
【0049】
第2環状溝37は、ロッド28を構成するピストン部28Bの伸び油室31側の端面に全周に亘って形成されている。第2環状溝37は、ピストン部28Bの伸び油室31側に位置する端面の外周縁を、円弧状の断面形状をもって切欠くことにより形成されている。第2環状溝37は、後述する第2スナップリング38に対応する断面形状を有し、ホイストシリンダ26が縮小状態となったときに第2スナップリング38が着座する。
【0050】
第2スナップリング38は、第2中間ロッド30の内周面に設けられている。第2スナップリング38は、径方向に弾性を有する環状体(穴用止め輪)であり、第2中間ロッド30のうち、伸び油室31側の端面近傍の内周面に形成された第2リング取付溝30Gに嵌着されている。第2スナップリング38は、ホイストシリンダ26が縮小状態となったときに、ロッド28のピストン部28Bに形成された第2環状溝37に着座し、ロッド28に対する第2中間ロッド30の停止位置を設定する(
図2参照)。
【0051】
複数の切欠溝39は、第2中間ロッド30のうち伸び油室31側の端面(軸方向端面)30Hに設けられている。
図5に示すように、複数の切欠溝39は、第2中間ロッド30の端面30Hを内周縁から外周縁まで平面的に切欠くことにより、第2中間ロッド30の周方向に均等な間隔をもって形成され、第2中間ロッド30の中心に対して放射状に配置されている。
図7に示すように、切欠溝39の溝深さAは、第1環状溝35の溝深さBよりも小さく設定されている(A<B)。
【0052】
複数の切欠溝39は、ホイストシリンダ26のチューブ27が瞬間的に伸長側に移動し、第1スナップリング36が第1環状溝35から離脱したときに、
図7中の矢印F1で示すように、伸び油室31内の圧油の一部を、第1環状溝35内に導入する。これにより、第1スナップリング36が離脱するときに、瞬間的に第1環状溝35と第1スナップリング36との間に環状に生じる微小な隙間Sを通じて第1環状溝35内に流入する圧油の流れF2の流速を低減し、この圧油の流れF2によって第1スナップリング36に作用する負圧を抑制する。
【0053】
ホイストシリンダ26を、
図2に示す縮小状態から
図3に示す伸長状態とする場合には、油圧ポンプ10から吐出した圧油が、ロッド28の伸び油室用外部接続ポート28H、伸び側油路28Fを通じて伸び油室31内に供給され、チューブ27が第1中間ロッド29に対して伸長側に移動する。このとき、第1縮み油室32内の圧油は、連通ポート29E,30E,28J、縮み側油路28G、縮み油室用外部接続ポート28K等を通じてタンク8に排出される。チューブ27の蓋体27Eが、第1中間ロッド29の外周側張出し部29Cに当接すると、第1中間ロッド29が第2中間ロッド30に対して伸長側に移動する。このとき、第2縮み油室33内の圧油は、連通ポート30E,28J、縮み側油路28G、縮み油室用外部接続ポート28K等を通じてタンク8に排出される。
【0054】
第1中間ロッド29の内周側張出し部29Fが、第2中間ロッド30の外周側張出し部30Cに当接すると、第2中間ロッド30がロッド28に対して伸長側に移動する。このとき、第3縮み油室34内の圧油は、連通ポート28J、縮み側油路28G、縮み油室用外部接続ポート28K等を通じてタンク8に排出される。このようにして、ホイストシリンダ26は、縮小状態から伸長状態に変位し、ダンプトラック1の荷台3は、支持ピン4を中心として前部側3Bが上方に回動した排出姿勢となる。
【0055】
一方、ホイストシリンダ26を、
図3に示す伸長状態から
図2に示す縮小状態とする場合には、油圧ポンプ10から吐出した圧油が、ロッド28の縮み油室用外部接続ポート28K、縮み側油路28G、連通ポート28Jを通じて第3縮み油室34内に供給され、第2中間ロッド30がロッド28に対して縮小側に移動する。このとき、伸び油室31内の圧油は、伸び側油路28F、伸び油室用外部接続ポート28H等を通じてタンク8に排出される。第2中間ロッド30に設けられた第2スナップリング38が、ロッド28のピストン部28Bに設けられた第2環状溝37に着座すると、第3縮み油室34が連通ポート30Eを介して第2縮み油室33に連通する。これにより、油圧ポンプ10からの圧油が、第3縮み油室34から連通ポート30Eを介して第2縮み油室33に供給され、第1中間ロッド29が第2中間ロッド30に対して縮小側に移動する。
【0056】
第1中間ロッド29に設けられた第1スナップリング36が、第2中間ロッド30に設けられた第1環状溝35に着座すると、第2縮み油室33が連通ポート29Eを介して第1縮み油室32に連通する。これにより、油圧ポンプ10からの圧油が、第2縮み油室33から連通ポート29Eを介して第1縮み油室32に供給され、チューブ27が第1中間ロッド29に対して縮小側に移動する。このようにして、ホイストシリンダ26は、伸長状態から縮小状態に変位し、ダンプトラック1の荷台3は、前部側3Bが車体2上に当接した運搬姿勢となる。
【0057】
本実施形態によるダンプトラック1は、上述の如き構成を有するもので、以下、その動作について説明する。
【0058】
まず、砕石、土砂等の積載物をダンプトラック1の荷台3に積み込むときには、荷台3は、前部側3Bが車体2上に当接した運搬姿勢にある(
図1参照)。このとき、制御弁装置14を構成する第1の方向制御弁18、第2の方向制御弁19は、いずれも中立位置(a)を保持し、荷台3は運搬姿勢を保持する。
【0059】
この状態で、油圧ショベル等を用いて、ダンプトラック1の荷台3に積載物を積み込む。荷台3上に積載物が積み込まれると、ダンプトラック1は集荷場まで自走し、集荷場において荷台3上の積載物を排出する。積載物の排出作業を行う場合には、キャブ7内のオペレータが、操作装置(図示せず)を操作することにより、第1の方向制御弁18の油圧パイロット部18Aおよび第2の方向制御弁19の油圧パイロット部19Aにパイロット圧Pbが供給される。これにより、第1の方向制御弁18および第2の方向制御弁19が中立位置(a)から上げ位置(b)に切換えられ、油圧ポンプ10から吐出した圧油は、ポンプ管路11、高圧側油路15、第1の方向制御弁18、第2の方向制御弁19、アクチュエータ側油路20A,21A、油圧管路13Aを通じて、ホイストシリンダ26の伸び油室用外部接続ポート28Hから伸び油室31に供給される。
【0060】
一方、ホイストシリンダ26の第1縮み油室32、第2縮み油室33、第3縮み油室34内の圧油は、縮み油室用外部接続ポート28Kから、油圧管路13B、アクチュエータ側油路20B,21B、第1の方向制御弁18、第2の方向制御弁19、低圧側油路16、タンク管路12を通じてタンク8に排出される。このため、ホイストシリンダ26は、
図3に示す伸長状態に移行し、ダンプトラック1の荷台3は、前部側3Bが支持ピン4を中心として上方に回動した排出姿勢となる。この状態で、操作装置に対する操作を停止してパイロット圧Pbの供給を停止すると、第1の方向制御弁18および第2の方向制御弁19は、上げ位置(b)から中立位置(a)に切換えられる。この結果、ホイストシリンダ26は伸長状態を保持し、荷台3が排出姿勢のまま停止するので、荷台3に積み込まれた積載物を排出することができる。
【0061】
積載物の排出作業が終了した後に、荷台3をその自重によって運搬姿勢に移行させる場合には、操作装置を操作して第1の方向制御弁18の油圧パイロット部18Bにパイロット圧Pcを供給する。これにより、第2の方向制御弁19は中立位置(a)を保持し、第1の方向制御弁18のみが中立位置(a)から浮き位置(c)に切換えられる。この場合には、ホイストシリンダ26の伸び油室31内の圧油が、油圧管路13A、アクチュエータ側油路20A、第1の方向制御弁18、タンク管路12を通じてタンク8に排出される。また、ホイストシリンダ26の第1縮み油室32、第2縮み油室33、第3縮み油室34には、タンク管路12、低圧側油路16、チェック弁22B,24B、アクチュエータ側油路20B,21B、油圧管路13Bを通じてタンク8内の作動油が補給される。これにより、ホイストシリンダ26は、荷台3の自重によって縮小し、荷台3は、前部側3Bが車体2上に当接した運搬姿勢となる。
【0062】
一方、積載物の排出作業が終了した後に、ホイストシリンダ26を縮小させて荷台3を運搬姿勢に移行させる場合には、操作装置を操作して第2の方向制御弁19の油圧パイロット部19Bにパイロット圧Pdを供給する。これにより、第1の方向制御弁18は中立位置(a)を保持し、第2の方向制御弁19のみが中立位置(a)から下げ位置(d)に切換えられる。この場合には、油圧ポンプ10から吐出した圧油が、ポンプ管路11、高圧側油路15、第2の方向制御弁19、アクチュエータ側油路21B、油圧管路13Bを通じて、ホイストシリンダ26の縮み油室用外部接続ポート28Kから第1縮み油室32、第2縮み油室33、第3縮み油室34に供給される。また、伸び油室31内の圧油は、伸び油室用外部接続ポート28Hから、油圧管路13A、アクチュエータ側油路21A、第2の方向制御弁19、低圧側油路16、タンク管路12を通じてタンク8に排出される。このため、ホイストシリンダ26は、伸長状態から縮小状態に移行し、荷台3は、前部側3Bが車体2上に当接した運搬姿勢となる。
【0063】
このようにして、荷台3を運搬姿勢とした後には、操作装置に対する操作を停止することにより、第1の方向制御弁18および第2の方向制御弁19が中立位置(a)に切換えられ、荷台3は排出姿勢を保持する。この状態で、ダンプトラック1を積み込み作業現場まで自走させることにより、荷台3に積載物を積み込むことができる。
【0064】
荷台3が運搬姿勢を保持しているときには、ホイストシリンダ26は縮小状態となり、第1スナップリング36が第1環状溝35に着座し、第2スナップリング38が第2環状溝37に着座することにより、安定した縮小状態を保持する。この状態で、運搬姿勢となった荷台3に積載物を積み込むときに、荷台3のうち支持ピン4よりも後側の部位に積載物が落下した場合には、荷台3の前部側3Bが支持ピン4を中心として上方に回動しようとすることにより、縮小状態にあるホイストシリンダ26に対し、伸長方向への外力が作用する。これにより、
図4に示すように、ホイストシリンダ26のチューブ27が瞬間的に伸長側に移動し、第1スナップリング36が第1環状溝35から離脱する。
【0065】
このとき、
図7に矢印F2で示すように、伸び油室31内の圧油は、第1スナップリング36が離脱する瞬間に生じる第1環状溝35と第1スナップリング36との間の環状の微小な隙間Sを通じて、第1環状溝35内に流入する。これと同時に、伸び油室31内の圧油は、複数の切欠溝39を通じて矢印F1で示すように第1環状溝35内に導入される。このため、隙間Sを通じて第1環状溝35内に流入する圧油の流速を低減することができ、第1環状溝35内に流入する圧油によって第1スナップリング36に作用する負圧を抑制し、第1スナップリング36が第1リング取付溝29Gから脱落するのを防止することができる。この結果、ホイストシリンダ26が縮小状態に移行するときに、第1中間ロッド29が第2中間ロッド30に対して過剰に縮小側に移動するのを抑え、第1中間ロッド29と第2中間ロッド30との摺接部に設けたオイルシール(図示せず)が外部に露出してオイル漏れを引き起こすのを防止することができる。
【0066】
次に、本実施形態の比較例として、ホイストシリンダ26′を構成する第2中間ロッド30′の端面30H′に、本実施形態のような切欠溝39が形成されていない構成について説明する。なお、比較例のうち本実施形態に対応する構成要素には、本実施形態と同一符号に「′」を付し、例えば第2中間ロッド30′のように表記する。
【0067】
この比較例において、縮小状態にあるホイストシリンダ26′に伸長方向への外力が作用してチューブ27′が瞬間的に伸長側に移動すると、第1スナップリング36′が第1環状溝35′から離脱することにより、伸び油室31′内の圧油は、
図9中に矢印F2で示すように、第1環状溝35′と第1スナップリング36′との間の微小な隙間Sを通じて第1環状溝35′内に流入する。
【0068】
隙間Sを通じて第1環状溝35′内に流入する圧油の流速は大きいため、第1スナップリング36′の全周に大きな負圧が作用する。これにより、第1スナップリング36′が縮径するように変形し、第1中間ロッド29′の第1リング取付溝29G′から脱落する可能性がある。このように、第1スナップリング36′が第1リング取付溝29G′から脱落した場合には、ホイストシリンダ26′が縮小したときに、第1中間ロッド29′を適正な位置に停止させることができなくなり、第1中間ロッド29′が縮小側に過剰に移動する。この結果、第1中間ロッド29′と第2中間ロッド30′との摺接面に設けられたオイルシール(図示せず)が外部に出てしまい、オイル漏れが発生する可能性がある。
【0069】
これに対し、本実施形態では、第2中間ロッド30のうち伸び油室31側の端面30Hに、第1スナップリング36が第1環状溝35から離れたときに伸び油室31内の圧油を第1環状溝35内に導入する複数の切欠溝39が設けられている。これにより、
図7に示すように、チューブ27が瞬間的に伸長側に移動して第1スナップリング36が第1環状溝35から離脱し、伸び油室31内の圧油が第1環状溝35と第1スナップリング36との間の微小な隙間Sを通じて第1環状溝35内に流入したとしても、これと同時に、伸び油室31内の圧油が、複数の切欠溝39を通じて第1環状溝35内に導入される。このため、隙間Sを通じて第1環状溝35内に流入する圧油の流速を低減することができ、第1スナップリング36に作用する負圧を抑制することができる。この結果、第1スナップリング36が第1リング取付溝29Gから脱落するのを防止し、荷台に対する積載物の積み込み作業時にホイストシリンダ26を保護することができる。
【0070】
かくして、実施形態によるダンプトラック1は、自走可能な車体2と、車体2に支持ピン4を介して傾転可能に設けられ、積載物の積み込みおよび排出を行う荷台3と、車体2と荷台3との間に設けられ、支持ピン4を中心として荷台3を傾転させるホイストシリンダ26とを備え、ホイストシリンダ26は、車体2および荷台3のうち一方に取付けられた中空なチューブ27と、車体2および荷台3のうち他方に取付けられたロッド28と、チューブ27とロッド28との間にチューブ27と同心状に配置され、チューブ27の内周側に伸縮可能に嵌合する第1中間ロッド29、および第1中間ロッド29の内周側に伸縮可能に嵌合する第2中間ロッド30を含む複数の中間ロッドと、チューブ27内に設けられ、油液が供給されることにより前記複数の中間ロッドを伸長させる伸び油室31と、チューブ27と第1中間ロッド29との間、および前記複数の中間ロッドのうち隣合う中間ロッド間に設けられ、油液が供給されることにより前記複数の中間ロッドを縮小させる縮み油室と、第2中間ロッド30の伸び油室31側の端面30Hに全周に亘って形成された第1環状溝35と、第1中間ロッド29の内周面に嵌着され、第1中間ロッド29および第2中間ロッド30が縮小したときに第2中間ロッド30の第1環状溝35に着座する第1スナップリング36とを備えている。
【0071】
そして、第2中間ロッド30の伸び油室31側の端面30Hには、第1スナップリング36が第1環状溝35から離れたときに伸び油室31内の油液を第1環状溝35内に導入する切欠溝39が設けられている。
【0072】
この構成によれば、ホイストシリンダ26に対して伸長方向の外力が作用し、チューブ27が瞬間的に伸長側に移動して第1スナップリング36が第1環状溝35から離脱した場合に、伸び油室31内の圧油が第1環状溝35と第1スナップリング36との間の微小な隙間Sを通じて第1環状溝35内に流入したとしても、これと同時に、伸び油室31内の圧油を、複数の切欠溝39を通じて第1環状溝35内に導入することができる。これにより、隙間Sを通じて第1環状溝35内に流入する圧油の流速を低減し、第1スナップリング36に作用する負圧を抑制することができる。この結果、第1スナップリング36が第1リング取付溝29Gから脱落するのを防止し、荷台3に対する積載物の積み込み作業時にホイストシリンダ26を保護することができる。
【0073】
実施形態では、切欠溝39は、第2中間ロッド30の周方向に均等な間隔をもって複数個設けられている。この構成によれば、伸び油室31内の圧油が、第1環状溝35と第1スナップリング36との間に形成された環状の隙間Sを通じて第1環状溝35内に流入するときに、複数の切欠溝39を通じて第1環状溝35内に圧油を均等に導入することができる。これにより、隙間Sを通じて第1環状溝35内に流入する圧油の流速を抑制し、第1スナップリング36に作用する負圧を全周に亘って均等に低減することができる。この結果、第1のスナップリング36に対して部分的に大きな負圧が作用するのを抑え、第1のスナップリング36が変形して第1リング取付溝29Gから脱落するのを防止することができる。
【0074】
実施形態では、切欠溝39の溝深さAは、第1環状溝35の溝深さBよりも小さく設定されている。この構成によれば、第2中間ロッド30のうち第1環状溝35の周囲に形成された部材に、切欠溝39が干渉するのを抑えることができる。
【0075】
なお、実施形態では、チューブ27とロッド28との間に設けられる中間ロッドを、第1中間ロッド29と第2中間ロッド30との2部材によって構成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第1中間ロッドと第2中間ロッドとを含む3以上の部材によって中間ロッドを構成してもよい。
【0076】
また、実施形態では、ホイストシリンダ26のチューブ27が荷台3に取付けられ、ロッド28が車体2に取付けられた場合を例示しているが、これとは逆に、チューブ27が車体2に取付けられ、ロッド28が荷台3に取付けられる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 ダンプトラック
2 車体
3 荷台
4 支持ピン
26 ホイストシリンダ
27 チューブ
28 ロッド
29 第1中間ロッド
30 第2中間ロッド
30H 端面
31 伸び油室
32 第1縮み油室
33 第2縮み油室
35 第1環状溝
36 第1スナップリング(環状体)
39 切欠溝