(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038775
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】逆入力防止クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/06 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
F16D41/06 E
F16D41/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143043
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】糸見 正二
(57)【要約】
【課題】部品点数が少なく、組立性に優れたロック式の逆入力防止クラッチを提供する。
【解決手段】出力側部材を構成する内輪3と固定部材を構成する外輪5との間に楔形空間12を形成し、楔形空間12に組み込まれたころ(転動体)11と周方向で対向する位置に、保持器の柱部9aと環状部材の柱部10aをそれぞれの先端側部分が径方向で重なる状態で挿入して、逆入力トルクが加えられたときに、内輪3は僅かに回転するが、環状部材は外輪5に対する回転抵抗によって回転せず、ころ11が環状部材の柱部10aに当接した状態で停止し、相対的に楔形空間12の狭小部に移動して内輪3および外輪5と係合することにより、出力側部材がロックされ、回転伝達が行われないようにした。この構成では、従来の逆入力防止クラッチに組み込まれている多数の弾性部材を必要としないので、従来よりも部品点数を削減できるし、組立作業を効率よく行うことができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一軸心のまわりに回転する状態で配される入力側部材および出力側部材と、前記入力側部材の回転を前記出力側部材に伝達するトルク伝達手段と、前記出力側部材の径方向外側に配される固定部材と、前記入力側部材と一体回転するように連結された保持器と、前記出力側部材と前記固定部材との間に配される複数の転動体および環状部材とを備え、
前記固定部材は内周に円筒面が設けられ、前記出力側部材の外周面に周方向に複数のカム面が設けられていることにより、前記固定部材の内周円筒面と出力側部材の各カム面との間に周方向の少なくとも一側で狭小となる楔形空間が形成されており、前記各楔形空間に前記転動体が1つずつ組み込まれ、前記各転動体と周方向で対向する位置に、前記保持器の柱部と前記環状部材の柱部が径方向で重なる状態で挿入されており、
前記出力側部材に逆入力トルクが加えられたときは、前記出力側部材の僅かな回転にともない、前記環状部材の前記固定部材に対する回転抵抗によって環状部材の柱部に当接した前記転動体が、相対的に前記楔形空間の狭小部に移動して前記出力側部材および固定部材と係合することにより、前記出力側部材がロックされて前記入力側部材が回転しないようになっている逆入力防止クラッチ。
【請求項2】
前記環状部材の前記固定部材に対する回転抵抗は、前記環状部材と前記固定部材の内周面との間に入り込んだ潤滑剤の粘性抵抗によって生じるものであることを特徴とする請求項1に記載の逆入力防止クラッチ。
【請求項3】
前記潤滑剤は、混和ちょう度が350以下、基油動粘度が100cSt以上のグリースであることを特徴とする請求項2に記載の逆入力防止クラッチ。
【請求項4】
前記潤滑剤が、クラッチ内部空間にその容積の50~100%を占めるように封入されていることを特徴とする請求項2に記載の逆入力防止クラッチ。
【請求項5】
前記固定部材には前記環状部材を軸方向に抜け止めする蓋部が形成されており、前記固定部材の蓋部と環状部材との間に、前記環状部材を軸方向に押圧して前記保持器に押し付ける弾性部材が組み込まれていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の逆入力防止クラッチ。
【請求項6】
前記弾性部材がコイルバネであることを特徴とする請求項5に記載の逆入力防止クラッチ。
【請求項7】
前記出力側部材のカム面は、2つの凸曲面または1つの凹曲面で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の逆入力防止クラッチ。
【請求項8】
前記環状部材が樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の逆入力防止クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力トルクが加えられたときは入力側部材の回転を出力側部材に伝達し、逆入力トルクに対しては入力側部材が回転しないようにする逆入力防止クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
逆入力防止クラッチは、入力側部材に入力トルクが加えられたときは、その回転を出力側部材に伝達し、出力側部材に逆入力トルクが加えられたときは、入力側部材が回転しないようにするものである。そのうち、逆入力トルクに対して出力側部材をロックさせる方式のものを、以下では「ロック式」と称する。
【0003】
ロック式の逆入力防止クラッチとしては、同一軸心のまわりに回転する状態で配される入力側部材と出力側部材との間に、入力側部材の回転を出力側部材に伝達するトルク伝達手段を設け、内周側に円筒面を有する固定部材を出力側部材の径方向外側に配し、出力側部材の外周面に複数のカム面を設けて、固定部材の内周円筒面と出力側部材の各カム面との間に周方向両側で次第に狭小となる楔形空間を形成し、これらの各楔形空間に転動体を1つずつ組み込み、各転動体と周方向で対向する位置に挿入される柱部を有する保持器を入力側部材と一体回転するように連結し、各転動体の周方向両側に、保持器の柱部に支持されて転動体を楔形空間の広大部に保持する一対の弾性部材を組み込んだものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上記構成の逆入力防止クラッチは、出力側部材に逆入力トルクが加えられたときには、出力側部材の僅かな回転にともない、保持器と弾性部材によって静止状態で保持された転動体が、相対的に楔形空間の狭小部に移動して出力側部材および固定部材と係合することにより、出力側部材がロックされて入力側部材も回転しない。
【0005】
一方、入力側部材に入力トルクが加えられたときは、出力側部材がロック状態にあっても(転動体が楔形空間の狭小部で出力側部材および固定部材と係合していても)、入力側部材と一体に回転する保持器の柱部が弾性部材を介して転動体を楔形空間の広大側へ押し出すことにより、出力側部材がロック状態から解放され、その後、トルク伝達手段によって入力側部材から出力側部材に回転が伝達されるようになる。
【0006】
また、上記構成では各転動体の周方向両側に弾性部材を組み込んでいるが、特許文献2に記載されている逆入力防止クラッチでは、各転動体の周方向両側に配される複数のバネ片を一体に形成した金属製バネ体(転動体を保持する弾性部材)と樹脂製の係止用補助部材とを組み合わせたバネ部材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2713601号公報(第7図)
【特許文献2】特許第4621156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1のように各転動体の周方向両側に弾性部材を組み込んでいる逆入力防止クラッチでは、転動体数の2倍の数の弾性部材が必要となるので、部品点数が多くなるという難点がある。また、弾性部材として通常想定されるコイルバネを用いる場合には、クラッチ組立時にコイルバネを圧縮変形させて転動体の周方向両側に挿入することになり、組み立てに手間がかかるという問題もある。
【0009】
一方、上記特許文献2の逆入力防止クラッチは、2つのバネ部材ですべての転動体を保持するようにしているので、各転動体の周方向両側に1つずつ弾性部材を組み込んでいるものに比べて部品点数は少ない。
【0010】
しかし、バネ部材のバネ片が板バネであり、変形量に対する応力の変動が大きく、転動体を押圧するストロークを大きく取れないため、クラッチ動作が不安定になるおそれがある。また、バネ部材の金属製バネ体が一体構造であっても、クラッチ組立時に多数のバネ片を圧縮変形させて転動体の周方向両側に挿入する点はコイルバネを用いた場合と同じであり、組立性に課題が残る。
【0011】
そこで、本発明は、部品点数が少なく、組立性に優れたロック式の逆入力防止クラッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の逆入力防止クラッチは、同一軸心のまわりに回転する状態で配される入力側部材および出力側部材と、前記入力側部材の回転を前記出力側部材に伝達するトルク伝達手段と、前記出力側部材の径方向外側に配される固定部材と、前記入力側部材と一体回転するように連結された保持器と、前記出力側部材と前記固定部材との間に配される複数の転動体および環状部材とを備え、前記固定部材は内周に円筒面が設けられ、前記出力側部材の外周面に周方向に複数のカム面が設けられていることにより、前記固定部材の内周円筒面と出力側部材の各カム面との間に周方向の少なくとも一側で狭小となる楔形空間が形成されており、前記各楔形空間に前記転動体が1つずつ組み込まれ、前記各転動体と周方向で対向する位置に、前記保持器の柱部と前記環状部材の柱部が径方向で重なる状態で挿入されており、前記各楔形空間に前記転動体が1つずつ組み込まれ、前記各転動体と周方向で対向する位置に前記環状部材の柱部が挿入されており、前記出力側部材に逆入力トルクが加えられたときは、前記出力側部材の僅かな回転にともない、前記環状部材の前記固定部材に対する回転抵抗によって環状部材の柱部に当接した前記転動体が、相対的に前記楔形空間の狭小部に移動して前記出力側部材および固定部材と係合することにより、前記出力側部材がロックされて前記入力側部材が回転しない構成(構成1)とした。
【0013】
上記の構成1では、前述の従来の逆入力防止クラッチに組み込まれているような弾性部材がなく、代わりに1つの環状部材が組み込まれているだけなので、従来よりも部品点数を削減できるし、安定したクラッチ動作が得られる。また、環状部材の組み込みはその柱部を各転動体と周方向で対向する位置に挿入だけでよいので、従来の弾性部材組み込み時の煩雑さがなく、クラッチ組立作業を効率よく行うことができる。
【0014】
ここで、上記構成1においては、前記環状部材の前記固定部材に対する回転抵抗は、前記環状部材と前記固定部材の内周面との間に入り込んだ潤滑剤の粘性抵抗によって生じるものとすることが望ましい(構成2)。その場合、前記潤滑剤は、混和ちょう度が350以下、基油動粘度が100cSt以上のグリースが好ましい(構成3)。そして、構成2または構成3において、前記潤滑剤を、クラッチ内部空間にその容積の50~100%を占めるように封入すれば(構成4)、環状部材に十分な大きさの回転抵抗を生じさせることができる。
【0015】
また、上記構成1乃至4のいずれにおいても、前記固定部材には前記環状部材を軸方向に抜け止めする蓋部が形成されており、前記固定部材の蓋部と環状部材との間に、前記環状部材を軸方向に押圧して前記保持器に押し付ける弾性部材が組み込まれている構成(構成5)を採用すれば、環状部材の固定部材に対する回転抵抗が大きくなり、逆入力トルクが加えられたときの出力側部材のロック動作がより確実に行われるようになる。なお、この構成5の弾性部材は、従来の逆入力防止クラッチの弾性部材とは異なり、転動体を押圧するように組み込む必要がないので、クラッチ全体の組立性を低下させない。そして、この構成5の弾性部材としては、コイルバネを採用することができる(構成6)。
【0016】
また、上記構成1乃至6のいずれにおいても、前記出力側部材のカム面は、2つの凸曲面または1つの凹曲面で形成されているものとすることができる(構成7)。カム面を1つの凹曲面で形成すれば、転動体とカム面との接触面圧を小さくできるので、出力側部材がロックしたときの許容トルク値を大きく設定することができる。
【0017】
また、上記構成1乃至7のいずれにおいても、前記環状部材は、やや複雑な形状となるため、樹脂材料の射出成形で形成されていることが好ましい(構成8)。なお、樹脂材料は、合成樹脂単体のもののほか、合成樹脂に強化材を配合したものも含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明の逆入力防止クラッチは、上述したように、従来の転動体を保持する弾性部材をなくして、各転動体と周方向で対向する位置に環状部材の柱部を挿入し、その環状部材の回転抵抗によって逆入力トルクに対する出力側部材のロック動作が行われるようにしたものであるから、従来よりも部品点数を削減でき、クラッチ組立作業も効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の逆入力防止クラッチの縦断正面図
【
図6】(a)、(b)は、
図2に対応して入力トルクが加えられたときのクラッチ動作を説明する断面図
【
図7】(a)、(b)は、
図6(b)の状態から逆入力トルクが加えられたときのクラッチ動作を説明する断面図
【
図8】
図7(b)の状態から入力トルクが加えられたときのクラッチ動作を説明する断面図
【
図9】
図2に対応して出力側部材のカム面の変形例を示す断面図
【
図10】(a)は第2実施形態の逆入力防止クラッチの縦断正面図、(b)は(a)の要部の分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。
図1乃至
図9は第1実施形態を示す。この逆入力防止クラッチは、
図1乃至
図5に示すように、入力軸(入力側部材)1と、出力軸2と内輪3が一体成形された出力側部材4と、内輪3の径方向外側に配される外輪5が一体形成されたハウジング6と入力軸1を通す押え蓋7とからなる固定部材8と、内輪3と外輪5との間の軸方向一端側に挿入される複数の柱部9aを有する保持器9と、内輪3と外輪5との間の軸方向他端側に挿入される複数の柱部10aを有する環状部材10と、内輪3と外輪5との間に配される複数の転動体としての円筒状のころ11とで構成されている。
【0021】
固定部材8は、押え蓋7の外周縁に複数の爪7aが形成されており、これらの爪7aをハウジング6一端のフランジの外周縁に形成された切欠き6aに嵌め込んで折り曲げることにより、押え蓋7をハウジング6に固定している。そのハウジング6の他端には、環状部材10を軸方向に抜け止めする蓋部が形成されている。そして、ハウジング6の蓋部の内周面で出力軸2を、押え蓋7の内周面で入力軸1をそれぞれ回転自在に支持している。また、押え蓋7の外周から張り出す3つの舌状の張出部には、固定部材8を図示省略した外部部材に固定するための取付孔7bが設けられている。
【0022】
入力軸1は、断面小判形の係合部1aの前半部が、内輪3中央に設けられた係合穴3aに挿入され、係合部1aの先端から突出する小径円筒部が係合穴3aの奥の小穴に嵌め込まれて、出力側部材4と同一軸心のまわりに回転するようになっている。ここで、内輪3の係合穴3aは入力軸1を挿入したときに僅かな回転方向の隙間が生じるように形成されており、これにより、入力軸1の回転を僅かな角度遅れをもって出力側部材4に伝達するトルク伝達手段が構成されている。また、この入力軸1の係合部1aの後半部に保持器9が隙間なく嵌め込まれ、入力軸1と保持器9が一体回転するようになっている。
【0023】
出力側部材4のうちの出力軸2の外周面には、図示省略した外部の回転部材に回転を伝達するための二面幅部2aが形成されている。
【0024】
一方、内輪3の外周面には、2つの凸曲面からなり、外輪5の内周円筒面と径方向で対向するカム面3bが周方向に複数設けられており、これらの各カム面3bと外輪5の内周円筒面との間に周方向両側で次第に狭小となる楔形空間12が形成されている。そして、各楔形空間12にころ11が1つずつ組み込まれ、各ころ11と周方向で対向する位置に保持器9の柱部9aと環状部材10の柱部10aが挿入されている。
【0025】
保持器9は、各柱部9aがころ11の軸方向中央位置よりも他端側まで延びており、各柱部9aの先端部分の内周面がテーパ状に形成されている。また、環状の本体部の外周には、周方向で隣り合う柱部9aどうしの間で径方向に突出する凸部9bが設けられ、この凸部9bでころ11の軸方向一端側への脱落を防止するようになっている。
【0026】
環状部材10は、各柱部10aが保持器9の柱部9aの径方向内側で軸方向中央位置よりも一端側まで延びている。柱部10aの長手方向中央部分は、外周面が保持器柱部9aの内周のテーパ面に沿うテーパ状に形成されている。また、柱部10aのころ11と対向する部分の長さは、ころ11の長さの70%以上とすることが好ましい。これは、後述するように環状部材10の柱部10aに当接したころ11が相対的に楔形空間12の狭小部に移動して内輪3のカム面3bと係合する際に、柱部10aのころ11と対向する部分が長いほど、ころ11のスキュー(周方向の傾き)が生じにくくなり、安定したクラッチ動作が得られるようになるからである。
【0027】
ここで、環状部材10は、やや複雑な形状となるため、樹脂材料の射出成形で形成されていることが好ましい。また、樹脂材料は、合成樹脂単体のもののほか、ころ11から受ける力に対して塑性変形しない程度の十分な強度が得られるように、合成樹脂にガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維等を強化材として配合したものを採用することもできる。
【0028】
また、環状部材10の外径および内径は、環状部材10の外周面と外輪5の内周面との径方向隙間Soが、環状部材10の内周面と内輪3のカム面3bとの径方向隙間Siよりも小さくなるように(So<Siとなるように)設定されている。
【0029】
そして、クラッチ内部空間(固定部材8の内側)には、その容積の50~100%を占めるように潤滑剤としてのグリース(図示省略)が封入され、ころ11の他部品との接触部や各部品どうしの摺動部の潤滑が行われるようになっている。グリースは、混和ちょう度が350以下、基油動粘度が100cSt以上のものが使用されている。そのグリースが環状部材10と外輪5の内周面との間および環状部材10と内輪3の外周面との間に入り込み、その粘性抵抗によって、環状部材10の外輪5および内輪3に対する回転抵抗を生じさせる。ここで、前述のように、So(環状部材10と外輪5の径方向隙間)<Si(環状部材10と内輪3の径方向隙間)であることから、環状部材10の外輪5に対する回転抵抗Toと環状部材10の内輪3に対する回転抵抗Tiとでは、To>Tiとなる。
【0030】
なお、So(環状部材10と外輪5の径方向隙間)およびSi(環状部材10と内輪3の径方向隙間)は適宜設定されるが、Soは20μm以上100μm以下であることが好ましく、Siは100μmより大きいことが好ましい。
【0031】
次に、この逆入力防止クラッチ全体の動作について説明する。
【0032】
まず、クラッチ組立時には
図2に示すようにころ11が楔形空間12の広大部に組み込まれており、この状態から入力軸1に入力トルクが加えられると、
図6(a)に示すように、入力軸1と一体に回転する保持器9の柱部9aがころ11に近接するとともに、入力軸1の係合部1aが内輪3の係合穴3aと係合した後、
図6(b)に示すように、入力軸1の回転が出力側部材4(内輪3および出力軸2)に伝達される。
【0033】
そして、
図6(b)に示した回転伝達状態から、
図7(a)に示すように入力軸1が停止し、出力軸2および内輪3に逆入力トルクが加えられると、
図7(b)に示すように、出力軸2および内輪3は僅かに回転するが、環状部材10は外輪5に対する回転抵抗Toが内輪3に対する回転抵抗Tiよりも大きいために回転せず、そのままの位置に留まる。そして、ころ11が環状部材10の柱部10aに当接した状態で停止し、相対的に楔形空間12の狭小部に移動して内輪3および外輪5と係合することにより、出力側部材4がロックされ、出力側部材4から入力軸1への回転伝達は行われない。
【0034】
また、
図7(b)に示したロック状態から
図8に示すように入力軸1に入力トルクが加えられると、入力軸1が僅かに回転したときに、保持器9の柱部9aがころ11を楔形空間12の広大側へ押し出すことにより、そのころ11と内輪3および外輪5との係合が解除されて、前述の
図6(a)の状態となり、出力側部材4がロック状態から解放される。その後、入力軸1がさらに回転することにより、前述の
図6(b)の状態となって、入力軸1から出力側部材4へ回転が伝達される。
【0035】
この逆入力防止クラッチは、上記の構成であり、ころ11と周方向で対向する位置に環状部材10の柱部10aを挿入し、その環状部材10の回転抵抗によって逆入力トルクに対する出力側部材4のロック動作が行われるようにしたので、従来のものに比べて、ころを保持する多数の弾性部材をなくした分、部品点数が少なくコストを抑えられるし、組立作業も効率よく行うことができる。そして、弾性部材がないことにより、従来よりも安定したクラッチ動作が得られるし、ころを多く組み込んで出力側部材がロックしたときの許容トルク値を大きく設定することができる。
【0036】
また、上述した実施形態では内輪3のカム面3bを2つの凸曲面で形成したが、
図9に示す変形例のように、内輪3のカム面3bを1つの凹曲面で形成すれば、ころ11とカム面3bとの接触面圧を小さくできるので、許容トルク値をより大きく設定することができる。
【0037】
図10は第2実施形態の逆入力防止クラッチを示す。この実施形態は、第1実施形態をベースとして、環状部材10のハウジング6の蓋部との対向面に環状の凹部10bを設け、その凹部10bに弾性部材としての1回巻きコイルバネ13を圧縮状態で組み込んだものである。
【0038】
この第2実施形態では、コイルバネ13が環状部材10を軸方向に押圧して、その柱部10aを保持器9の柱部9aに押し付けているので、環状部材10の固定部材8に対する回転抵抗が第1実施形態よりも大きくなり、逆入力トルクが加えられたときの出力側部材4のロック動作がより確実に行われるようになっている。なお、コイルバネ13は複数巻きのものを用いてもよいし、他の種類の弾性部材に代えることもできる。
【0039】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0040】
1 入力軸(入力側部材)
1a 係合部
2 出力軸
3 内輪
3a 係合穴
3b カム面
4 出力側部材
5 外輪
6 ハウジング
7 押え蓋
8 固定部材
9 保持器
9a 柱部
10 環状部材
10a 柱部
11 ころ(転動体)
12 楔形空間
13 コイルバネ(弾性部材)