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特開2024-38789ワーク洗浄装置、ワーク洗浄方法、および等速自在継手用外側継手部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038789
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】ワーク洗浄装置、ワーク洗浄方法、および等速自在継手用外側継手部材
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/14 20060101AFI20240313BHJP
   B08B 3/04 20060101ALI20240313BHJP
   B08B 3/02 20060101ALI20240313BHJP
   B08B 3/12 20060101ALI20240313BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20240313BHJP
【FI】
C23G1/14
B08B3/04
B08B3/02 A
B08B3/04 A
B08B3/12 A
B23K26/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143065
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】村川 智哉
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 大
【テーマコード(参考)】
3B201
4E168
4K053
【Fターム(参考)】
3B201AA47
3B201BA02
3B201BA12
3B201BB02
3B201BB22
3B201BB83
3B201BB92
3B201BB95
3B201BC01
3B201CB23
3B201CB25
4E168AD03
4E168AD18
4E168CB04
4E168EA15
4K053PA17
4K053QA04
4K053QA06
4K053RA21
4K053SA20
(57)【要約】
【課題】ボンデ被膜および潤滑油が付着した金属部品の塗装処理工程において、酸や強アルカリなどの薬剤を用いることなく、ボンデ被膜および潤滑油を除去することができるワーク洗浄装置、ワーク洗浄方法、及びボンデ被膜および潤滑油を除去する塗装前洗浄が行われた外側継手部材を提供する。
【解決手段】洗浄剤でワークの潤滑油を除去する潤滑油除去工程と、レーザ光をワークに照射することによって、ワークのボンデ被膜を剥離するレーザクリーニング工程とを備える。潤滑油除去工程を行った後、レーザクリーニング工程を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボンデ被膜及び潤滑油が付着した金属部品であるワークを洗浄するワーク洗浄装置であって、
ワークの潤滑油を除去する潤滑油除去手段と、レーザ光をワークに照射することによって、ワークのボンデ被膜を剥離するレーザクリーニング手段とを備えたことを特徴とするワーク洗浄装置。
【請求項2】
潤滑油除去手段は、洗浄剤にワークを浸漬する浸漬構造で構成されることを特徴とする請求項1に記載のワーク洗浄装置。
【請求項3】
潤滑油除去手段は、洗浄剤にワークに噴射する噴射構造で構成されることを特徴とする請求項1に記載のワーク洗浄装置。
【請求項4】
潤滑油除去手段は、ブラシをワークに接触させて潤滑油を除去するブラシ接触構造で構成されることを特徴とする請求項1に記載のワーク洗浄装置。
【請求項5】
洗浄剤が、界面活性剤が含まれたアルカリ洗浄剤と水をイオン化したアルカリ水との少なくともいずれかの弱アルカリ性洗浄剤であることを特徴とする請求項2または請求項3のワーク洗浄装置。
【請求項6】
ボンデ被膜及び潤滑油が付着した金属部品であるワークを洗浄するワーク洗浄方法であって、
洗浄剤でワークの潤滑油を除去する潤滑油除去工程と、レーザ光をワークに照射することによって、ワークのボンデ被膜を剥離するレーザクリーニング工程とを備え、潤滑油除去工程を行った後、レーザクリーニング工程を行うことを特徴とするワーク洗浄方法。
【請求項7】
前記金属部品が塗装される部品であり、前記請求項6に記載のワーク洗浄方法にて、金属部品からボンデ被膜及び潤滑油を除去した後、ボンデ被膜及び潤滑油が除去された金属部品に塗装を施すことを特徴とするワーク洗浄方法。
【請求項8】
内径面にトルク伝達部材の転動を案内する案内溝が複数設けられたカップ部と、該カップ部の底部から軸方向外向きに延びたステム部とを備え、該ステム部に、他部材をトルク伝達可能に連結するための連結要素が設けられた等速自在継手用外側継手部材であって、
前記カップ部が、前記請求項6又は請求項7に記載のワーク洗浄方法が施されてなることを特徴とする等速自在継手用外側継手部材。
【請求項9】
内径面にトルク伝達部材の転動を案内する案内溝が複数設けられたカップ部と、該カップ部の底部から軸方向外向きに延びたステム部とを備え、該ステム部に、他部材をトルク伝達可能に連結するための連結要素が設けられた等速自在継手用外側継手部材であって、
前記ステム部が、前記請求項6又は請求項7に記載のワーク洗浄方法が施されてなることを特徴とする等速自在継手用外側継手部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク洗浄装置、ワーク洗浄方法、および等速自在継手用外側継手部材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製自動車製品としての等速自在継手は、外側継手部材と、内側継手部材と、外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、ボールを保持するケージ等で構成される。この場合、図12に示すように、外側継手部材は、カップ部1とステム部2とからなる。そして、カップ部1の内径面(内球面)3にボールが転動)するトラック溝4が形成されている。また、ステム部2は、雄スプライン部5と、先端の雄ねじ部6とが形成されている。
【0003】
外側継手部材は、一般には、図11に示すように、(亜)熱間鍛造工程11→冷間鍛造工程12→旋削・転造工程13→熱処理・塗装工程14→研削工程15等の工程が行われて製造される。
【0004】
従来には、金属製自動車部品を高周波焼入れし、その焼入れ後に自動車部品の表面に粉体塗料を塗布した上で、自動車部品の焼戻しと焼付けとを高周波誘導加熱により同時に行う方法および製造装置が開示されている(特許文献1)。また、金属製自動車部品としての外側継手部材を冷間鍛造により、製造する方法が開示されている(特許文献2)。
【0005】
ところで、冷間鍛造工程12では、ボンデ処理を行う。ここで、ボンデ処理(リン酸塩被膜+石鹸処理)「ボンデライト・ボンダリューベ法」とは、材料にリン酸塩皮膜処理を行い、材料の表面に潤滑皮膜を生成させる処理である。冷間鍛造成形加工時の成形品と成形金型の摩擦抵抗を減らすために行う。
【0006】
このボンデ処理で、図10に示すように、素材(例えば、中炭素鋼)M上にボンデ被膜Cが形成される。ボンデ被膜Cは、リン酸亜鉛皮膜C1と、リン酸亜鉛皮膜C1上に形成される反応性石鹸層(金属石鹸層)C2と、反応性石鹸層C2上に形成される未反応石鹸層C3との3層構造となる。
【0007】
最下層のリン酸亜鉛皮膜C1は、素材Mとの密着性に優れ、素材Mに追随して、金型とワークとの焼付き(金属接触)を防止する。中間の金属石鹸層C2は摩擦係数を低減する働きがある。上層の未反応石鹸層C3は鍛造時に金型との離型性を向上させる。
【0008】
ステム部2の雄スプライン部5の成形は、一般には、転造加工やプレス加工で行われる。その加工の際には潤滑油が使用される。このため、塗装工程で、冷間鍛造で行われたボンデ処理によるボンデ被膜や、スプライン成形時の潤滑油が被塗装品(外側継手部材)に残る。しかながら、このようなボンデ被膜や潤滑油が残れば、塗装剥がれを起こすおそれがある。そこで、従来では、脱脂洗浄が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2012/03925号
【特許文献2】特開2002-346688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、脱脂洗浄を行う場合、潤滑油のみの付着では、例えば、弱アルカリ洗剤を用いて除去することができる。しかしながら、ボンデ被膜を除去する場合、酸や強アルカリ性の洗剤を用いることになる。
【0011】
酸を用いた場合、ボンデ被膜の除去力は高いが、素材表面が腐食されて面精度が悪化し、さらに水素脆性の危険を伴う。また、アルカリ洗浄の場合、ボンデ被膜の除去には強アルカリ性のものが用いられる。酸や強アルカリ性洗剤は環境に問題があり、保護具の装着、排気装置や設備の気密性を高める必要がある。さらに、洗浄で劣化(除去能力の低下)した洗浄剤を処分する際には、中和して無害化する必要があった。
【0012】
このため、従来において、潤滑油とボンデ被膜とが付着した金属部品に対してこれらの潤滑油とボンデ被膜とを除去する工程を行う場合、生産性が劣るとともに、処理コストが高くなる課題を有していた。
【0013】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、ボンデ被膜および潤滑油が付着した金属部品の塗装処理工程において、酸や強アルカリなどの薬剤を用いることなく、ボンデ被膜および潤滑油を除去することができるワーク洗浄装置、ワーク洗浄方法、及びボンデ被膜および潤滑油を除去する塗装前洗浄が行われた等速自在継手用外側継手部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のワーク洗浄装置は、ボンデ被膜及び潤滑油が付着した金属部品であるワークを洗浄するワーク洗浄装置であって、ワークの潤滑油を除去する潤滑油除去手段と、レーザ光をワークに照射することによって、ワークのボンデ被膜を剥離するレーザクリーニング手段とを備えものである
【0015】
本発明のワーク洗浄装置によれば、潤滑油除去手段にてワークの潤滑油を除去することができ、レーザクリーニング手段にてワークのボンデ被膜を剥離することができる。レーザクリーニングは、高いエネルギー密度のレーザ照射により個体あるいは液体の表面から構成物質が爆発的に昇華、蒸散されるレーザアブレーションと呼ばれる現象を利用している。ところが、レーザクリーニングのみで、ボンデ被膜及び潤滑油を除去しようとした場合、レーザで照射された油の一部が旋削加工面のワーク表面に焼付き、塗料の密着を阻害する。このため、レーザクリーニングを行う前に、ワークの潤滑油の除去を行えば、油のワーク表面の焼付きを回避することができる。しかも、潤滑油除去手段にて、ボンデ被膜の除去を行う必要がないので、潤滑油除去手段で使用する洗浄剤に、酸や強アルカリ性の洗剤を用いることなく、弱アルカリ性洗浄剤を使用することができる。
【0016】
潤滑油除去手段は、洗浄剤にワークを浸漬する浸漬構造で構成されても、洗浄剤にワークに噴射する噴射構造で構成されても、ブラシをワークに接触させて潤滑油を除去するブラシ接触構造で構成されてもよい。すなわち、潤滑油除去手段に従来から使用されている公知公用の構造(装置)を用いることができ、設備の低コスト化を図ることができる。
【0017】
洗浄剤として、界面活性剤が含まれたアルカリ洗浄剤と水をイオン化したアルカリ水との少なくともいずれかの弱アルカリ性洗浄剤を用いることができる。
【0018】
本発明のワーク洗浄方法は、ボンデ被膜及び潤滑油が付着した金属部品であるワークを洗浄するワーク洗浄方法であって、洗浄剤でワークの潤滑油を除去する潤滑油除去工程と、レーザ光をワークに照射することによって、ワークのボンデ被膜を剥離するレーザクリーニング工程とを備え、潤滑油除去工程を行った後、レーザクリーニング工程を行うものである。
【0019】
潤滑油除去工程にてワークの潤滑油を除去することができ、レーザクリーニング工程にてワークのボンデ被膜を剥離することができる。しかも、レーザクリーニングを行う前に、ワークの潤滑油が除去されているので、油のワーク表面の焼付きを回避することができる。しかも、潤滑油除去工程にて、ボンデ被膜の除去を行う必要がないので、潤滑油除去工程で使用する洗浄剤に、酸や強アルカリ性の洗剤を用いることなく、弱アルカリ性洗浄剤を使用することができる。
【0020】
前記金属部品が塗装される部品であり、前記ワーク洗浄方法にて、金属部品からボンデ被膜及び潤滑油を除去した後、ボンデ被膜及び潤滑油が除去された金属部品に塗装を施すものであってもよい。このように構成された金属部品には、塗装の下地として密着性を阻害する付着物が排除されており、安定した塗装品質を得ることができ、高品質の金属部品を提供することができる。
【0021】
本発明に係る一の等速自在継手用外側継手部材は、内径面にトルク伝達部材の転動を案内する案内溝が複数設けられたカップ部と、該カップ部の底部から軸方向外向きに延びたステム部とを備え、該ステム部に、他部材をトルク伝達可能に連結するための連結要素が設けられた等速自在継手用外側継手部材であって、前記カップ部が、前記ワーク洗浄方法が施されてなるものである。
【0022】
本発明に係る一の等速自在継手用外側継手部材によれば、カップ部に、塗装の下地として密着性を阻害する付着物が排除されており、安定した塗装品質を得ることができ、高品質のカップ部を提供することができる。
【0023】
また、本発明に係る他の等速自在継手用外側継手部材は、内径面にトルク伝達部材の転動を案内する案内溝が複数設けられたカップ部と、該カップ部の底部から軸方向外向きに延びたステム部とを備え、該ステム部に、他部材をトルク伝達可能に連結するための連結要素が設けられた等速自在継手用外側継手部材であって、前記ステム部が、前記ワーク洗浄方法が施されてなるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、ボンデ被膜および潤滑油が安定して除去されており、高品質の製品(金属部品、たとえば、等速自在継手用外側継手部材)を提供することができる。しかも、潤滑油を除去する際には、酸性の洗浄剤や強アルカリ性の洗浄剤を使用する必要がなく、洗浄剤として、取り扱い性に優れた弱アルカリ性の洗浄剤を使用することができ、生産性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るワーク洗浄装置の簡略ブロック図である。
図2】本発明に係るワーク洗浄方法の簡略工程図である。
図3】第1の潤滑油除去手段の簡略図である。
図4】第2の潤滑油除去手段の簡略図である。
図5】本発明の等速自在継手用外側継手部材の側面図である。
図6】等速自在継手用外側継手部材にレーザクリーニングを施している状態の側面図である。
図7】本発明の他の等速自在継手用外側継手部材の側面図である。
図8】等速自在継手用外側継手部材の焼入工程から焼付け工程までの工程を示す簡略ブロック図である。
図9】等速自在継手用外側継手部材の焼入工程から焼付け工程までの他の工程を示す簡略ブロック図である。
図10】ボンデ被膜の簡略拡大断面図である。
図11】等速自在継手用外側継手部材の製造工程図である。
図12】等速自在継手用外側継手部材の一部断面で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態を図1図9に基づいて説明する。等速自在継手用外側継手部材を焼付け工程と同時に塗装の焼付けを行う場合は、図8に示す工程となる。図8に示す工程では、焼入れ工程S1→塗装前洗浄工程S2→塗装工程S3→焼戻し兼焼付け工程S4を行う。また、焼き戻し工程後に焼付け工程を行う場合は、図9に示す工程となる。図9に示す工程では、焼入れ工程S1→焼戻し工程S5→塗装前洗浄工程S2→塗装工程S3→焼付け工程S6を行う。図8及び図9に示す各工程において、塗装工程の前に塗装前洗浄工程S2を行う。この塗装前洗浄工程S2が、本発明に係るワーク洗浄装置で行うものである。
【0027】
ところで、等速自在継手用外側継手部材20(以下、単に、外側継手部材20と呼ぶ場合がある)は、図5に示すように、カップ部21とステム部22とからなる。そして、カップ部21の内径面(内球面)にボールが転動)するトラック溝が形成されている。また、ステム部22は雄スプライン部26が形成されている。
【0028】
この外側継手部材20は、図11に示す工程にて成形されるものであり、図11に示す熱処理・塗装工程14が、前記図8図9に示す工程である。このため、この外側継手部材20には、スプライン成形時に使用した潤滑油及び冷間鍛造時に成形されるボンデ被膜C(図5参照)が付着している。この場合、ボンデ被膜Cは、カップ部21の外周面21aに形成された軸方向凹溝27と、カップ部の外周面の軸方向中央部の周方向突隆部28とに付着している。
【0029】
本発明に係るワーク洗浄装置は、ボンデ被膜及び潤滑油が付着した金属部品であるワークである図5に示すような外側継手部材20を洗浄するものであって、図1に示すように、ワーク(外側継手部材20)の潤滑油を除去する潤滑油除去手段31と、レーザ光をワーク(外側継手部材20)に照射することによって、ワーク(外側継手部材20)のボンデ被膜Cを剥離するレーザクリーニング手段32とを備えたものである。
【0030】
潤滑油除去手段31として、図3に示すように、洗浄剤Wにワークとしての外側継手部材20を浸漬する浸漬構造M1であっても、図4に示すように、洗浄剤Wをワークとしての外側継手部材20に噴射する噴射構造M2等であってもよい。
【0031】
図3に示す浸漬構造M1は、洗浄剤Wが入った洗浄槽33に外側継手部材20を浸漬するものであり、この際、ステム部22を保持した状態で、外側継手部材20をその軸心回りに回転させても、外側継手部材20に振動を付与させてもよい。また、洗浄槽33内の洗浄剤Wを超音波により振動させ、被洗浄物(ワーク)に付着した潤滑油を外側継手部材20から落とす(除去する)超音波洗浄であってもよい。
【0032】
噴射構造M2では、洗浄剤Wを、洗浄剤噴射装置35の噴射口36から外側継手部材20に噴射するものである。この際、外側継手部材20をその軸心回りに回転させるのが好ましい。なお、この噴射構造M2には、スプレー洗浄、シャワー洗浄、及びジェット洗浄を含む。ジェット洗浄とは、高圧の洗浄剤をワークに噴射するものであり、スプレー洗浄とは、中圧の洗浄剤をワークに噴射するものであり、シャワー洗浄とは、低圧の洗浄剤をシャワー状としてワークに噴射するものである。
【0033】
ところで、洗浄剤Wとして、界面活性剤が含まれたアルカリ洗浄剤と、水をイオン化したアルカリ水との少なくともいずれかの弱アルカリ性洗浄剤であるのが好ましい。なお、洗浄剤Wとして、浸漬構造M1と噴射構造M2とで、相違させても、同一のものを使用してもよい。また、特開平4-371318号公報に記載されているような、ブラシを用いたブラシ洗浄であってもよい。潤滑油除去手段31は、ブラシをワークに接触させて潤滑油を除去するブラシ接触構造(図示省略)で構成されるものであってもよい。
【0034】
レーザクリーニングは、高いエネルギー密度のレーザ照射により個体あるいは液体の表面から構成物質が爆発的に昇華、蒸散されるレーザアブレーションと呼ばれる現象を利用している。すなわち、レーザクリーニングは、除去対象物と母材表面のレーザ照射強度による加工閾値の差を利用して加工が行われる。除去対象物のみがレーザ照射に反応し、母材表面はレーザ照射に反応しない条件でレーザを照射することでいわゆるダメージレス加工が可能になる。除去対象物を上回り、母材を下回る加工閾値のレーザ照射条件とすることにより、母材にダメージを与えることなく、除去対象物が除去可能となる。このため、除去対象物が母材を上回る加工閾値のものは、除去不可能となる。
【0035】
レーザクリーニング手段32に用いるレーザ照射装置としては、反射鏡(ガルバノミラー)を用いたガルバノ方式であっても、回析光学素子を用いたホモジナイザー方式であってもよく、線状あるいは面状のレーザ光をワーク(外側継手部材20)に照射するのが好ましい(効率的である)。
【0036】
外側継手部材20にレーザ光を照射する場合、例えば、図6に示すように、カップ部21の開口部が下方を向くように配置し、その状態で、図示省略のレーザ照射装置から外側継手部材20にレーザ光を線状として照射する。この際、図示省略の回転駆動手段にて、外側継手部材20をその軸心回りに回転可能させて、レーザ光をスキャンさせる。図6において、L(L1,L2)kはレーザ光の照射範囲(照射跡)を示している。
【0037】
この場合、カップ部21の外周面21aに形成された軸方向凹溝27のボンデ被膜C(Ca)と、カップ部21の外周面21aの軸方向中央部の周方向突隆部28のボンデ被膜C(Cb)とを有するので、ボンデ被膜Caを除去(剥離)する場合、レーザ光の照射範囲L1がAとされ、ボンデ被膜Cbを除去(剥離)する場合、レーザ光の照射範囲L2がBとされる。ここで、照射範囲Aは、軸方向凹溝27のマウス軸方向長さであり、照射範囲Bは、周方向突隆部28の軸方向長さである。各レーザ光のマウス周方向長さは、母材(外側継手部材の母材)にダメージを与えることなく、除去対象物(ボンデ被膜C)が除去可能となるレーザ照射強度になるものでよい。なお、ボンデ被膜Cが付着していない部位にレーザ光が照射されても、レーザ照射強度による加工閾値を下回るように設定されるので、外側継手部材20の母材にダメージを与えない。
【0038】
ところで、図7は、外側継手部材の他の形態を示し、この場合の外側継手部材20のカップ部21の外周面には、軸方向凹溝27と、2条の周方向突隆部38,39が設けられている。このため、軸方向凹溝27のボンデ被膜Caを除去(剥離)する場合、周方向突隆部38,39のボンデ被膜Cb1,Cb2を除去(剥離)する場合とがある。
【0039】
ボンデ被膜Caを除去(剥離)する場合、レーザ光の照射範囲がAとされ、ボンデ被膜Cb1、Cb2を除去(剥離)する場合、レーザ光の照射範囲がB1、B2とされる。ここで、照射範囲Aは、軸方向凹溝27のマウス軸方向長さであり、照射範囲B1、B2は、周方向突隆部38,39の軸方向長さである。各レーザ光のマウス周方向長さは、母材(外側継手部材20の母材)にダメージを与えることなく、除去対象物(ボンデ被膜C)が除去可能となるレーザ照射強度になるものでよい。
【0040】
すなわち、レーザクリーニング工程S12でのレーザ光の照射範囲(線方向長さ)Lは、ボンデ被膜Cのカップ部軸方向長さに応じて種々変更できる。
【0041】
次に、図1に示すように、潤滑油除去手段31とレーザクリーニング手段32とを備えたワーク洗浄装置を用いて、潤滑油とボンデ被膜Cとを除去するワーク洗浄方法を、図2を用いて説明する。
【0042】
この場合、先ず潤滑油除去手段31にて、ワークである外側継手部材20に付着している潤滑油を除去する潤滑油除去工程S11を行う。その後、レーザクリーニング手段32にて、ワークである外側継手部材20に付着してボンデ被膜Cを除去するレーザクリーニング工程S12を行う。
【0043】
レーザクリーニング工程終了後は、すすぎ・乾燥工程S13を行う。すなわち、ワーク(外側継手部材20)の表面に残渣する洗浄剤成分とレーザ光照射で生じたコンタミ成分を洗い流すため、お湯(例えば、約40~50℃程度の湯)または水(水道水であっても純水であってもよい)ですすぎを行い、その後、温風ブロア等の乾燥手段で水分を除去する。
【0044】
これによって、塗装前洗浄S2が終了する。その後は、図8に示すような、塗装工程S3を行った後、焼戻し兼焼付け工程S4を行ったり、図9に示すような、塗装工程S3を行った後、焼付け工程S6を行ったりすることになる。
【0045】
ところで、レーザクリーニングのみで、ボンデ被膜C及び潤滑油を除去しようとした場合、レーザで照射された油の一部が旋削加工面のワーク表面に焼付き、塗料の密着を阻害する。また、弱アルカリ性洗浄剤のみでは、ボンデ被膜の未反応石鹸層の除去は可能であるが、その下の反応性石鹸層(金属石鹸層)の除去が困難である。
【0046】
これらに対して、本発明に係るワーク洗浄装置およびワーク洗浄方法では、潤滑油除去手段31にてワークの潤滑油を除去することができ、レーザクリーニング手段32にてワークのボンデ被膜Cを剥離することができる。すなわち、レーザクリーニングを行う前に、ワークの潤滑油を除去を行えば、油のワーク表面の焼付きを回避することができる。しかも、潤滑油除去手段31にて、ボンデ被膜Cの除去を行う必要がないので、潤滑油除去手段31で使用する洗浄剤に、酸や強アルカリ性の洗剤を用いることなく、弱アルカリ性洗浄剤を使用することができる。
【0047】
このため、本発明に係るワーク洗浄装置およびワーク洗浄方法、ではボンデ被膜Cおよび潤滑油が安定して除去されており、高品質の製品(金属部品、たとえば、等速自在継手用外側継手部材)を提供することができる。しかも、潤滑油を除去する際には、酸性の洗浄剤や強アルカリ性の洗浄剤を使用する必要がなく、洗浄剤として、取り扱い性に優れた弱アルカリ性の洗浄剤を使用することができ、生産性の向上およびコスト低減を図ることができる。
【0048】
潤滑油除去手段31は、洗浄剤Wにワークを浸漬する浸漬構造M1で構成されても、洗浄剤Wにワークに噴射する噴射構造M2で構成されても、ブラシをワークに接触させて潤滑油を除去するブラシ接触構造(図示省略)で構成されもよい。すなわち、潤滑油除去手段に従来から使用されている公知公用の構造(装置)を用いることができ、設備の低コスト化を図ることができる。
【0049】
洗浄剤として、界面活性剤が含まれたアルカリ洗浄剤と水をイオン化したアルカリ水との少なくともいずれかの弱アルカリ性洗浄剤を用いることができる。すなわち、公知公用の市販の洗浄剤を使用することで、低コスト化を図ることができる。
【0050】
また、カップ部21が、本発明に係るワーク洗浄方法が施された等速自在継手用外側継手部材では、カップ部21に、塗装の下地として密着性を阻害する付着物が排除されており、安定した塗装品質を得ることができ、高品質のカップ部21を提供することができる。
【0051】
ステム部22に、本発明に係るワーク洗浄方法を施した速自在継手用外側継手部材を製造することも可能である。このような外側継手部材では、ステム部22に、塗装の下地として密着性を阻害する付着物が排除されており、安定した塗装品質を得ることができ、高品質のステム部22を提供することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、ワークである金属部品として、外側継手部材20に限るものではなく、ボンデ被膜C及び潤滑油が付着したものであればよく、切削油、プレス油、熱処理油、圧延油、及び引抜油等の加工油として潤滑油を使用し、かつ、これらの部品に対して冷間鍛造を行うために、ボンデ被膜Cを形成するものである。
【0053】
等速自在継手として、バーフィールド型(BJ)やアンダーカットフリー型(UJ)等の固定式等速自在継手であっても、ブルオフセット型等速自在継手(DOJ)やクロスグルーブ型等速自在継手(LJ)、トリポード型等速自在継手等の摺動式等速自在継手であってもよい。トリポード型等速自在継手の場合、シングルローラタイプであっても、ダブルローラタイプであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
20 外側継手部材
21 カップ部
22 ステム部
31 潤滑油除去手段
32 レーザクリーニング手段
C ボンデ被膜
Ca ボンデ被膜
Cb ボンデ被膜
Cb1 ボンデ被膜
Cb1,Cb2 ボンデ被膜
S11 潤滑油除去工程
S12 塗装前洗浄工程
S13 すすぎ・乾燥工程
W 洗浄剤
図1
図2
図3
図4
図5
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図11
図12