IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電動機駆動装置 図1
  • 特開-電動機駆動装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024038802
(43)【公開日】2024-03-21
(54)【発明の名称】電動機駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/52 20060101AFI20240313BHJP
   B21B 35/06 20060101ALI20240313BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B21B37/52
B21B35/06
H02P5/46 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143095
(22)【出願日】2022-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】石橋 沙也花
【テーマコード(参考)】
4E124
5H572
【Fターム(参考)】
4E124CC03
4E124CC07
4E124CC08
4E124GG03
5H572AA05
5H572BB06
5H572DD01
5H572EE03
5H572EE09
5H572GG02
5H572GG07
5H572JJ17
5H572JJ24
5H572JJ25
5H572LL01
(57)【要約】
【課題】上下ロールの駆動装置間の負荷バランスをとりながら、圧延機全体の制御応答を向上した電動機駆動装置を提供する。
【解決手段】実施形態の電動機駆動装置は、マスター側制御部と、フォロワー側制御部と、を備える。前記マスター側制御部は、マスター側の電動機を速度制御する。前記フォロワー側制御部は、マスター側のトルク基準に対するフォロワー側のトルク基準の比を計算し、前記比が所定範囲以内の場合に前記比を記憶して、記憶した比の値にマスター側のトルク基準に乗じて出力してフォロワー側の電動機を速度制御する。前記フォロワー側制御部は、前記比が所定範囲外の場合にフォロワー側の電動機を速度制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのロールの一方を駆動する第1電動機を制御するマスター側制御部と、
前記2つのロールの他方を駆動する第2電動機を制御するフォロワー側制御部と、
を備え、
前記マスター側制御部は、前記第1電動機の速度が、あらかじめ設定された第1速度基準に追従するように第1トルク基準を出力して前記第1電動機を制御し、
前記フォロワー側制御部は、前記第2電動機の速度が、あらかじめ設定された第2速度基準に追従するように第2トルク基準を生成し、
前記フォロワー側制御部は、
前記第2トルク基準を前記第1トルク基準にもとづいて補正する負荷バランス制御機能と、
前記第1トルク基準に対する前記第2トルク基準の比を演算し、前記比があらかじめ設定された範囲内であるか否かを監視し、前記比が前記範囲内となったタイミングで前記比を定数として記憶して前記定数に前記第1トルク基準を乗じて第3トルク基準として出力するトルク補正部と、
前記第2トルク基準および前記第3トルク基準を選択的に出力する切替器と、
を有し、
前記切替器は、
前記比が前記範囲外のときに、前記第2トルク基準を出力して前記第2電動機を制御し、
前記比が前記範囲以内のときに、前記第3トルク基準を出力して前記第2電動機を制御する電動機駆動装置。
【請求項2】
前記負荷バランス制御機能は、前記第1トルク基準にもとづいて設定された補正速度で前記第1速度基準を補正するドルーピング補正機能を含む請求項1記載の電動機駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、上下別駆動圧延機の電動機駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上下別駆動圧延機では材料の噛み込み前、および材料抜け後において上下ロール間は機械的に結合されていないため、一方(マスター)を速度制御、他方(フォロワー)をトルク制御としたマスター・フォロワー制御を適用することができない。このため、一般的に上ロールと下ロールはそれぞれ個別に速度制御を行う。
【0003】
一方、材料の噛み込み中では、上下ロールは、材料を介して機械的に結合される。そのため、上下ロールそれぞれを速度制御のみで制御すると、一方の駆動装置に負荷が偏る場合がある。負荷の偏りが著しい場合には、一方の駆動装置が力行状態となり、もう一方が回生状態となり、圧延機全体として圧延に使用できるトルクが不足する。このような場合には、上下別駆動圧延機では負荷バランス制御が必要となる。
【0004】
従来、上下別駆動圧延機の負荷バランス制御には、ロードバランス制御やドルーピング制御が採用される。ロードバランス制御では、上下2台の駆動装置の負荷バランスの目標値をあらかじめロードバランスゲインとして設定して2台のロールの負荷を制御する。たとえば、形鋼を圧延する上下別駆動圧延機の場合には、上下ロールの形状が異なることがあり、負荷分担が1:1となるようにすることが必ずしも最適ではないため、適切なゲインの設定が難しい。
【0005】
ドルーピング制御は、1台のドライブで複数の電動機を駆動する場合に、各モータの負荷を分散させるための制御である。負荷の高い電動機の速度基準に対して、マイナスの補正量を与えて速度基準を下げるよう制御する。高負荷の電動機の速度を下げることで、もう一方の電動機により多くの負荷を分担させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-295016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロードバランス制御やドルーピング制御など、従来の負荷バランス制御では、2台の駆動装置のうち、フォロワー側の速度基準を補正することで負荷バランスを実現する。この方法では、速度制御系の制御応答を下げる要因となり、材噛み込み中の加減速圧延時の応答遅れや他の圧延機との間で実施するスタンド間無張力制御(Free Tension Control、FTC)の精度が下がるなどの問題がある。
【0008】
本発明の実施形態は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、上下ロールの駆動装置間の負荷バランスをとりながら、圧延機全体の制御応答を向上した電動機駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態は、2つのロールの一方を駆動する第1電動機を制御するマスター側制御部と、前記2つのロールの他方を駆動する第2電動機を制御するフォロワー側制御部と、を備える。前記マスター側制御部は、前記第1電動機の速度が、あらかじめ設定された第1速度基準に追従するように第1トルク基準を出力して前記第1電動機を制御する。前記フォロワー側制御部は、前記第2電動機の速度が、あらかじめ設定された第2速度基準に追従するように第2トルク基準を生成する。前記フォロワー側制御部は、前記第2トルク基準を前記第1トルク基準にもとづいて補正する負荷バランス制御機能と、前記第1トルク基準に対する前記第2トルク基準の比を演算し、前記比があらかじめ設定された範囲内であるか否かを監視し、前記比が前記範囲内となったタイミングで前記比を定数として記憶して前記定数に前記第1トルク基準を乗じて第3トルク基準として出力するトルク補正部と、前記第2トルク基準および前記第3トルク基準を選択的に出力する切替器と、を有する。前記切替器は、前記比が前記範囲外のときに、前記第2トルク基準を出力して前記第2電動機を制御し、前記比が前記範囲以内のときに、前記第3トルク基準を出力して前記第2電動機を制御する。
【発明の効果】
【0010】
実施形態によれば、上下ロールの駆動装置間の負荷バランスをとりながら、圧延機全体の制御応答を向上した電動機駆動装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る電動機駆動装置を例示する模式的なブロック線図である。
図2】実施形態に係る電動機駆動装置の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係る電動機駆動装置を例示する模式的なブロック線図である。
図1に示すように、電動機駆動装置10は、マスター側制御部10aと、フォロワー側制御部10bと、を備える。図示しないが、マスター側制御部10aおよびフォロワー側制御部10bは、それぞれが駆動する電動機のトルク制御部にトルク基準を出力する。マスター側の電動機およびフォロワー側の電動機は、それぞれのトルク基準に応じて圧延ロールを駆動する。マスター側制御部10aおよびフォロワー側制御部10bは、それぞれが駆動する電動機の速度フィードバックを入力し、速度フィードバックが、マスター側制御部10aおよびフォロワー側制御部10bのそれぞれに入力される速度基準に追従するようにフィードバック制御を行う。
【0014】
マスター側制御部10aの構成について説明する。
マスター側制御部10aは、マスター側PI制御器26aを有している。マスター側速度基準入力22aには、たとえば、この例のように、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)に設定されたマスター側の電動機(第1電動機)のための速度基準(第1速度基準)が入力される。マスター側速度フィードバック入力24aには、マスター側の電動機に設けられた速度検出器によって検出された速度フィードバックの検出値が入力される。
【0015】
マスター側PI制御器26aには、速度基準と速度フィードバックとの差分が入力される。マスター側トルク基準出力28aは、速度基準と速度フィードバックとの差分を比例積分演算して算出されたマスター側トルク基準(第1トルク基準)を出力する。
【0016】
フォロワー側制御部10bの構成について説明する。
フォロワー側制御部10bは、フォロワー側PI制御器26bと、トルク補正部30bと、切替器27bと、を有している。フォロワー側速度基準入力22bには、たとえば、この例のように、PLCに設定されたフォロワー側の電動機(第2電動機)のための速度基準(第2速度基準)が入力される。フォロワー側の電動機のための速度基準は、上下ロールのそれぞれの形状に応じて設定される。上下ロールのそれぞれの形状によっては、フォロワー側の電動機のための速度基準は、マスター側の電動機のための速度基準と同じ値とされる場合もあり、異なる値とされる場合もある。マスター側の電動機のための速度基準およびフォロワー側の電動機のための速度基準は、時間経過により一定である場合に限らず、圧延工程の進度等により再計算等されて、時間的に変化する速度パターンとして設定される場合もある。
【0017】
フォロワー側速度フィードバック入力24bには、フォロワー側の電動機に設けられた速度検出器によって検出された速度フィードバックの検出値が入力される。マスター側制御部10aと同様に、フォロワー側PI制御器26bは、速度基準と速度フィードバックとの差分を入力して、比例積分演算してフォロワー側トルク基準(第2トルク基準)を生成し出力する。
【0018】
この例では、フォロワー側制御部10bには、ドルーピング補正が追加されている。ドルーピング補正入力23bには、ドルーピング補正のための補正値が入力される。ドルーピング補正のための補正値は、フォロワー側の速度基準に加算される。この補正値は、マスター側のトルク基準にもとづいて算出され、マスター側のトルク基準の一部をフォロワー側に分配するように設定される。補正値は、たとえば、マスター側のトルク基準にあらかじめ設定された定数を乗じることによって算出される。つまり、マスター側のトルク基準が大きいほど、ドルーピング補正の補正値は大きくなり、フォロワー側の速度基準は、マスター側のトルク基準に応じて大きい値となる。
【0019】
トルク補正部30bは、トルク比演算部34bとメモリー36bと切替指令部38bとを有する。トルク比演算部34bには、フォロワー側PI制御器26bが生成したフォロワー側のトルク基準(A)を入力し、マスター側PI制御器26aが生成したマスター側のトルク基準(第1トルク基準、B)を入力する。トルク比演算部34bは、フォロワー側のトルク基準をマスター側のトルク基準で除して、トルク比(A/B)を計算し、算出したトルク比が所定の範囲と判定された場合には、算出したトルク比をメモリー36bに出力する。トルク補正部30bは、メモリー36bに記憶されたトルク比に、マスター側のトルク基準を乗じて切替器27bに出力する。トルク比が所定の範囲内であるか否かの判定では、たとえば、あらかじめ設定された一定期間内にトルク比が所定の範囲内であるか否かにより行われる。
【0020】
切替指令部38bは、トルク比演算部34bが一定値であると判定したトルク比をメモリー36bに出力したタイミングで、トルク比一定制御切替指令を切替器27bに出力する。切替器27bの一方の入力には、フォロワー側PI制御器26bの出力が接続され、切替器27bの他方の入力には、トルク補正部30bの出力が接続されている。切替器27bは、切替指令部38bから切替指令の出力がない場合には、フォロワー側PI制御器26bが生成したトルク基準(第2トルク基準、A)を出力する。切替器27bは、切替指令が出力された場合には、トルク補正部30bが出力する補正されたトルク基準(第3トルク基準、C)を出力する。
【0021】
トルク比演算部34bは、切替器27bがトルク補正部30bの出力をフォロワー側のトルク基準として出力している期間中もトルク比を継続して計算している。トルク比演算部34bは、算出したトルク比が所定の範囲からはずれた場合には、被圧延材がロールを抜けたものと判断して、切替器27bに対して独立制御切替指令を出力する。切替器27bは、フォロワー側PI制御器26bの出力をフォロワー側のトルク基準として出力する。
【0022】
実施形態に係る電動機駆動装置10は、被圧延材のロールへの噛み込みおよびロールからの抜けをトルク基準の比により判定する。被圧延材のロールへの噛み込み後には、フォロワー側制御部10bは、トルク比一定を行い、被圧延材のロールへの噛み込み前およびロールからの抜け後には、独立速度制御を行う。これにより、被圧延材の噛み込みの有無にかかわらず、安定して上下別駆動圧延機の電動機駆動装置を実現することができる。
【0023】
実施形態に係る電動機駆動装置10の動作について説明する。
図2は、実施形態に係る電動機駆動装置の動作を説明するための模式的なグラフ図である。
図2は、上側ロールの速度N(u)、上側ロールのトルク基準Tq(u)、トルク比Tq(u)/Tq(L)、下側ロールの速度N(L)および下側ロールのトルク基準Tq(L)の時間変化を表している。上側ロールの速度N(u)、上側ロールのトルク基準Tq(U)、トルク比Tq(U)/Tq(L)、下側ロールの速度N(L)および下側ロールのトルク基準Tq(L)は、上からこの順に描かれている。図2のグラフ図は、各特性の時間変化の傾向を示すものである。グラフ図の縦軸は任意スケールであり、特性ごとの絶対的な大きさや特性間の相対的な大きさの関係を表すものではない。
【0024】
図2の例では、時刻t0において、被圧延材が上下のロールに噛み込まれるものとする。また、図2の例では、上下ロールのうち、下ロールがマスター側制御部10aにより速度制御され、上ロールがフォロワー側制御部10bにより制御されるものとする。時刻t0から時刻t1の期間は、ドルーピング補正による制御が開始されるまでの制御遅れである。時刻t1から時刻t2の期間では、ドルーピング補正による負荷バランス制御が行われ、時刻t2以降では、トルク比一定制御による負荷バランス制御が行われるものとする。
【0025】
図2に示すように、時刻t0で、被圧延材が上下のロールに噛み込まれると、マスター側制御部10aにより、下ロールの速度は、マスター側の速度基準に追従するように制御され、マスター側制御部10aは、マスター側の電動機のための速度基準と速度フィードバックとの差分に応じたトルク基準を生成して出力する。時刻t0から時刻t1の期間では、上側ロールの速度N(L)は、たとえばほぼ一定となる。
【0026】
時刻t0から時刻t1の期間では、ドルーピング補正による制御が有効となっていないため、上ロールの電動機は、マスター側制御部10aとは独立にフォロワー側制御部10bで速度制御される。この期間では、上ロールの速度N(u)は、速度基準に追従するように制御される。
【0027】
時刻t0から時刻t1の期間では、マスター側のトルク基準およびフォロワー側のトルク基準ともそれぞれの制御部による速度の差分に応じて生成されるが、被圧延材の噛み込みにより相互のトルク配分が時間とともに変動し得る。そのため、この期間では、トルク基準は、一定値となるとは限らず、たとえばこの例のように、トルク比Tq(U)/Tq(L)は、時間に応じて変動する。
【0028】
ドルーピング制御が開始されると、たとえば下ロールの負荷が大きい場合には、時刻t1から時刻t2の期間では、フォロワー側制御部10bによって制御される上ロールの速度N(u)は、時間とともに低下し、トルク基準Tq(U)も時間とともに低下する。
【0029】
ドルーピング補正により、マスター側のトルクがフォロワー側に分配されることによって、時刻t1から時刻t2の期間では、トルク比Tq(U)/Tq(L)の時間的な変動は、時刻t0から時刻t1の期間での変動よりも小さくなる。
【0030】
トルク補正部30bのトルク比演算部34bは、時刻t0以降、継続的にトルク比Tq(U)/Tq(L)の値を算出し、所定の範囲内であるか否かを監視している。時刻t2において、トルク比演算部34bは、トルク比Tq(U)/Tq(L)が所定の範囲内であると判定し、その値Kをメモリー36bに格納する。同時に、トルク比演算部34bは、トルク比一定制御切替指令を切替器27bに出力する。トルク補正部30bは、トルク比の一定の値Kを、マスター側のトルク基準Tq(L)に乗じて切替器27bに出力する。フォロワー側制御部10bは、K×Tq(L)をフォロワー側のトルク基準として出力する。
【0031】
以上の処理により、時刻t2以降では、マスター側の速度N(L)は、設定された速度基準に追従するように制御され、たとえばほぼ一定速度に制御される。マスター側およびフォロワー側のトルク比が一定の値Kとなるように、制御されるので、マスター側のトルク基準Tq(L)、フォロワー側のトルク基準Tq(U)およびフォロワー側の速度N(u)は、トルク比Kおよび被圧延材の噛み込みによるトルク分配により、たとえば時間的に変動しながら推移する。
【0032】
時刻t2以降のトルク比一定制御では、たとえば、マスター側のトルク基準Tq(L)が大きくなるように変化した場合には、フォロワー側のトルク基準Tq(U)もマスター側のトルク基準Tq(L)の変化に応じて大きくなる。逆に、マスター側のトルク基準Tq(L)が小さくなるように変化した場合には、フォロワー側のトルク基準Tq(U)もマスター側のトルク基準Tq(L)の変化に応じて小さくなる。マスター側のトルク基準に対するフォロワー側のトルク基準の応答は、線形式の演算によるものなので、制御応答は十分に高くなる。
【0033】
なお、図示しないが、被圧延材がロールから抜けた場合には、トルク比Tq(U)/Tq(L)が所定範囲からはずれるので、マスター側制御部10aおよびフォロワー側制御部10bは、それぞれの独立した速度制御が行われるようになる。
【0034】
実施形態に係る電動機駆動装置10の効果について説明する。
実施形態に係る電動機駆動装置10は、トルク補正部30bを備えている。トルク補正部30bでは、上下ロールのそれぞれ対応する制御部が生成して出力するトルク基準の比をトルク比として監視し、トルク比が一定値に達して安定すると、フォロワー側制御部10bは、マスター側制御部10aが出力するトルク基準にトルク比を乗じてフォロワー側制御部10bのトルク基準として出力する。そのため、上下ロールの形状が異なっている場合であっても、適切な負荷分担とすることができる。
【0035】
たとえば、特許文献1に記載された技術では、上下ロールの速度制御をそれぞれの速度差にもとづいて、速さを調整する。ロールの速度制御は、PI制御等の一次あるいは二次遅れの制御系を介して行われるので、応答遅れを生じやすいとの問題がある。
【0036】
これに対して、実施形態に係る電動機駆動装置10では、マスター側およびフォロワー側の双方がトルク基準を生成して出力した後には、フォロワー側の制御は、マスター側とフォロワー側のトルク基準の比にもとづいて行われる。そのため、負荷変動に対する応答に速度制御系を含めないので、高速な応答を実現することが可能になる。したがって、上下別駆動圧延機において、材の噛み込み中に加減速を行う場合やFTCを行う場合であっても高速応答が可能で、高い精度の圧延工程を実現することができる。
【0037】
トルク比一定制御にドルーピング補正制御を組み合わせることによって、負荷分担の一部をドルーピング補正に担わせることができ、トルク比一定制御の担う制御負担を軽減することができる。したがって、より適切な負荷分担を実現することができる。
【0038】
このようにして、上下ロールの駆動装置間の負荷バランスをとりながら、圧延機全体の制御応答を向上した電動機駆動装置を実現することができる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
10…電動機駆動装置、10a…マスター側制御部、10b…フォロワー側制御部、22a…マスター側速度基準入力、22b…フォロワー側速度基準入力、23b…ドルーピング補正入力、24a…マスター側速度フィードバック入力、24b…フォロワー側速度フィードバック入力、26a…マスター側PI制御器、26b…フォロワー側PI制御器、27b…切替器、28a…マスター側トルク基準出力、28b…フォロワー側トルク基準出力、30b…トルク補正部、34b…トルク比演算部、36b…メモリー、38b…切替指令部
図1
図2