(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024040986
(43)【公開日】2024-03-26
(54)【発明の名称】プレキャスト部材及びプレキャスト部材の吊り上げ構造
(51)【国際特許分類】
E01D 21/00 20060101AFI20240318BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20240318BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20240318BHJP
B66C 1/66 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
E01D21/00 Z
E04G21/16
E04B2/56 642A
B66C1/66 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145672
(22)【出願日】2022-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】永元 直樹
【テーマコード(参考)】
2D059
2E002
2E174
3F004
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059CC03
2D059DD06
2E002FB02
2E002FB23
2E002MA02
2E002MA41
2E174AA03
2E174BA01
2E174CA03
3F004EA11
3F004EA27
(57)【要約】
【課題】プレキャスト部材の将来の劣化を抑制する。
【解決手段】プレキャスト部材(5)は、コンクリート本体14と、吊り上げ時の係止のためにコンクリート本体14に埋設された複数のインサート部材15とを備える。インサート部材15は、繊維補強プラスチックからなり、且つコンクリート本体15の上面から突出する突出部15bを有する。インサート部材15が突出部15bを有するため、コンクリート本体14の上面に貫通孔や箱抜きを設ける必要がなく、後埋材をコンクリート本体14の上面に設ける必要もない。よって、ひび割れや縁切れの発生が抑制される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャスト部材であって、
コンクリート本体と、
吊り上げ時の係止のために前記コンクリート本体に埋設された複数のインサート部材とを備え、
前記インサート部材が、繊維補強プラスチックからなり、且つ前記コンクリート本体の上面から突出する突出部を有する、プレキャスト部材。
【請求項2】
前記インサート部材が、工具で切断可能な程度に低いせん断抵抗を有する、請求項1に記載のプレキャスト部材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプレキャスト部材の吊り上げ構造であって、
前記インサート部材の前記突出部に定着される定着具と、
前記定着具に取り付けられる吊り具とを含む、吊り上げ構造。
【請求項4】
前記インサート部材の前記突出部を挟むように前記コンクリート本体の上面に配置された1対の支持具と、
前記定着具を1対の前記支持具に対して固定する固定具とを更に含む、請求項3に記載の吊り上げ構造。
【請求項5】
前記固定具が、前記突出部に緊張力を作用させた状態で前記定着具を1対の前記支持具に対して固定している、請求項4に記載の吊り上げ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト部材及びプレキャスト部材の吊り上げ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋等の構造物を製作するための工法として、プレキャストセグメント工法がある。この工法は、予めプレキャスト化されたコンクリートブロック(セグメント)を現場で継ぎ合わせ、緊張材によりプレストレスを導入することによって一体化させる方法である。重量が大きいプレキャストセグメントは、クレーンを用いて吊り上げられ、所定位置に架設される。箱桁橋のプレキャストセグメントの吊り上げ構造として、床版に貫通孔が形成され、この貫通孔に挿通されたPC鋼棒に固定式フレーム(吊り上げ治具)を取り付けてセグメントを吊り上げる構成が公知である(特許文献1の
図2)。
【0003】
また、プレキャスト部材の吊り上げ構造として、
図5(A)に示すように、部材本体51にアンカー材52が埋め込まれ、アンカー材52に吊り治具53を取り付けてプレキャスト部材を吊り上げる構成が採られることもある。アンカー材52は部材本体51に形成された箱抜き部54に設けられる。プレキャスト部材が吊り上げられて所定位置に架設された後、箱抜き部54は、
図5(B)に示すように無収縮モルタルや膨張コンクリート等の後埋め材55を充填されて平坦に処理される。特許文献1に開示されるような貫通孔も、プレキャスト部材の架設後に後埋め材55によって処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の吊り上げ構造では、プレキャスト部材の上面に後埋め材が露出する。長年の使用によって後埋め材が経年劣化すると、後埋め材にひび割れが生じたり、後埋め材とプレキャスト部材との縁が切れたりする虞がある。或いは、後埋め材として膨張コンクリートを用いた場合に、充填時の環境条件によっては十分な膨張効果が得られないことがある。このような場合にも後埋め材とプレキャスト部材との縁が切れやすく、ひび割れが生じやすい。上面にひび割れが生じると、そこから侵入する水による浸食や浸入した水の凍結、鉄筋等の金属部材の水による錆び等により、プレキャスト部材の劣化が進行する。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、プレキャスト部材の将来の劣化を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、プレキャスト部材(5)であって、コンクリート本体(14)と、吊り上げ時の係止のために前記コンクリート本体に埋設された複数のインサート部材(15)とを備え、前記インサート部材が、繊維補強プラスチックからなり、且つ前記コンクリート本体の上面から突出する突出部(15b)を有する。
【0008】
この態様によれば、吊り具をインサート部材に係止してプレキャスト部材を吊り上げることができる。インサート部材が突出部を有するため、コンクリート本体の上面に貫通孔や箱抜き部を設ける必要がなく、後埋め材をコンクリート本体の上面に設ける必要もない。よって、コンクリート本体の上面におけるひび割れや縁切れの発生が抑制される。また、インサート部材が繊維補強プラスチックからなるため、錆びによるインサート部材の劣化がない。よって、プレキャスト部材の劣化が抑制される。
【0009】
上記の態様において、前記インサート部材が、工具で切断可能な程度に低いせん断抵抗を有すると良い。
【0010】
この態様によれば、プレキャスト部材に吊り具を取り付けて吊り上げ、所定位置に移動した後に、不要になった突出部を除去することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために本発明のある態様は、上記態様のプレキャスト部材(5)の吊り上げ構造であって、前記インサート部材の前記突出部に定着される定着具(16)と、前記定着具に取り付けられる吊り具(13)とを含む。
【0012】
インサート部材が繊維補強プラスチックからなるため、インサート部材の突出部に吊り具が直接取り付けられると、突出部が損傷する虞がある。この態様によれば、インサート部材の突出部に定着具が定着され、定着具に吊り具が取り付けられるため、突出部を損傷させることなく吊り具を突出部に連結することができる。
【0013】
上記の態様において、吊り上げ構造は、前記インサート部材の前記突出部を挟むように前記コンクリート本体の上面に配置された1対の支持具(17)と、前記定着具を1対の前記支持具に対して固定する固定具(18)とを更に含むと良い。
【0014】
この態様によれば、突出部が固定具によって1対の支持具に固定されることにより、突出部にせん断力や曲げモーメントが作用することが抑制される。よって、突出部の損傷が抑制され、安全にプレキャスト部材を吊り上げることができる。
【0015】
上記の態様において、前記固定具が、前記突出部に緊張力を作用させた状態で前記定着具を1対の前記支持具に対して固定していると良い。
【0016】
この態様によれば、吊り具を用いてプレキャスト部材を吊り上げた時に、プレキャスト部材の荷重による突出部の伸びによって定着具の支持具に対する固定が緩むことを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の態様によれば、プレキャスト部材の将来の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】インサート部材切断後のプレキャスト床版の拡大断面図
【
図5】従来技術に係るプレキャスト部材の吊り上げ構造の説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態では、発明が桁橋1のプレストレストコンクリート床版4及びプレキャスト床版5に適用された例について説明する。
【0020】
図1は実施形態を係る桁橋1の施工状況を示す側面図である。
図1に示されるように、桁橋1は、橋軸方向に離間して配置された橋脚2間に架設される主桁3と、主桁3の上に構築されるプレストレストコンクリート床版4とを有する。プレストレストコンクリート床版4は、橋軸方向に並べて配置された複数のプレキャスト床版5を連結して構成される。これらのプレキャスト床版5は、緊張材6によってプレストレスを導入されることによって互いに連結される。緊張材6は、アラミドFRPからなると良く、アラミド以外の繊維強化プラスチックからなっても良い。或いは、緊張材6がPC鋼棒やPC鋼撚り線であっても良い。プレキャスト床版5は、図示しないクレーンによって吊り装置10を介して吊り上げられ、主桁3上の所定の位置に配置される。
【0021】
図2は、
図1中のII矢印から見た桁橋1の正面図である。プレキャスト床版5が橋軸直角方向に長いことから、橋軸直角方向に離間した位置に2つの吊り装置10が配置されている。両吊り装置10は同じ構成を有している。両吊り装置10は、図示しない主フレームによって上方で互いに連結されており、主フレームを介して1つのクレーンによって吊り上げられる。吊り装置10のそれぞれは、矩形のフレーム11と、フレーム11の角部近傍から垂下する4つの垂下部材12と、各垂下部材12の下端に設けられ、プレキャスト床版5に取り付けられる4つの吊り具13とを有する。
【0022】
プレキャスト床版5の橋軸方向を向く1対の側面5aは、ポストテンション方式で緊張される緊張材6によって、橋軸方向の両側に隣接配置されるプレキャスト床版5に接合される接合面である。プレキャスト床版5の橋軸方向を向く側面5aには、複数の緊張材挿通孔7が形成されている。緊張材挿通孔7は、橋軸方向に延在し、プレキャスト床版5の1対の側面5aにて開口している。プレキャスト床版5の側面5aには、図示しないシアキー又はキー溝が形成されていても良い。
【0023】
図3は
図1中のIII部の拡大断面図である。
図3に示すように、プレキャスト床版5は、コンクリート本体14と、コンクリート本体14の上面に埋設されたインサート部材15を備えている。インサート部材15は、繊維補強プラスチックからなる棒状部材であり、例えば、アラミドFRPからなって良い。或いは、インサート部材15は、炭素繊維やガラス繊維など、非金属製の繊維によって補強されたプラスチックからなっていても良い。インサート部材15は、高い引張強度を有しており、プレキャスト床版5を吊り上げる際に吊り具13をプレキャスト床版5に係止するために利用される。
【0024】
インサート部材15は、プレキャスト床版5のコンクリート本体14に埋設された下側の埋設部15aと、コンクリート本体14の上面から上方に突出する突出部15bとを有している。インサート部材15は、直線形状をしていると良く、埋設部15aへのコンクリートの付着によってプレキャスト床版5に直接定着される。
【0025】
インサート部材15の突出部15bには定着具16が取り付けられる。定着具16は、外面に雄ねじが形成された金属製の筒部材であり、内部にインサート部材15の突出部15bが挿入された状態で定着材を注入されることによってインサート部材15を定着させる。つまり、定着具16はインサート部材15に取り外し不能に固定されている。定着材は、無収縮モルタルなどの無機系材料であっても良く、エポキシ樹脂などの有機系材料であってもよい。
【0026】
吊り具13は、プレキャスト床版5を吊り上げるために、定着具16を介してプレキャスト床版5のインサート部材15、より詳細には突出部15bに取り付けられる。具体的な構成は次の通りである。垂下部材12の下端には雄ねじが形成されている。吊り具13は、雌ねじを備えるナット部材であり、インサート部材15の雄ねじ及び垂下部材12の雄ねじに螺合することで垂下部材12とインサート部材15とを互いに連結する。
【0027】
上記のようにインサート部材15は高い引張強度を有する。一方、インサート部材15は、曲げモーメントやせん断力に弱い。そのため、1対の支持具17がインサート部材15の突出部15bを挟むようにコンクリート本体14の上面に載置され、固定具18によって定着具16が1対の支持具17に固定されている。具体的には、固定具18は、定着具16の雄ねじに螺合するナットと、定着具16の外周に遊嵌し、ナットと支持具17と間に配置されて両者に係合する板部材とにより構成されている。ナットを回転させることにより、固定具18は支持具17に支持されて定着具16を引っ張ることで定着具16を固定する。これにより、インサート部材15が引張力のみを受けた状態で固定される。
【0028】
吊り具13を用いてプレキャスト床版5を吊り上げると、プレキャスト床版5の荷重によってインサート部材15の突出部15bは伸び、定着具16の支持具17に対する固定が緩む。そこで、定着具16は、インサート部材15が支持すべき荷重よりも大きな緊張力を固定具18によって付与された状態で1対の支持具17に固定されている。なお、インサート部材15が支持すべき荷重は、本実施形態では8つのインサート部材15が設けられているため、プレキャスト床版5の重量の概ね1/8である。
【0029】
このように、インサート部材15が、コンクリート本体14の上面から突出する突出部15bを有するため、
図1及び
図2に示すように、吊り具13をインサート部材15に係止し、吊り装置10によってプレキャスト床版5を吊り上げることができる。吊り装置10によってプレキャスト床版5を主桁3上の所定の位置に配置した後、インサート部材15は不要になる。そこで、インサート部材15は、工具を用いて切断、除去される。即ち、インサート部材15は、工具で切断可能な程度に低いせん断抵抗を有するように構成されている。
【0030】
図4は、インサート部材15切断後のプレキャスト床版5の拡大断面図である。
図4に示すように、インサート部材15は、プレキャスト床版5のコンクリート本体14の上面近傍で切断されると良い。これにより、インサート部材15の突出部15bの略全体が除去される。
【0031】
このように本実施形態では、インサート部材15がコンクリート本体14の上面から突出する突出部15bを有する。そのため、コンクリート本体14の上面に貫通孔や箱抜き部34(
図5参照)を設ける必要がなく、後埋め材36(
図5参照)をコンクリート本体14の上面に設ける必要もない。よって、コンクリート本体14の上面におけるひび割れや縁切れの発生が抑制される。また、インサート部材15が繊維補強プラスチックからなるため、錆びによるインサート部材15の劣化がない。よって、プレキャスト床版5の劣化が抑制される。
【0032】
また、インサート部材15が工具で切断可能な程度に低いせん断抵抗を有することにより、プレキャスト床版5に吊り具13を取り付けて吊り上げ、所定位置に移動した後に、不要になったインサート部材15の突出部15bを除去することができる。
【0033】
上記のようにインサート部材15が繊維補強プラスチックからなるため、インサート部材15の突出部15bに吊り具13が直接取り付けられると、突出部15bが損傷する虞がある。これに対し、本実施形態のプレキャスト床版5の吊り上げ構造では、
図3に示すように、インサート部材15の突出部15bに定着具16が定着され、定着具16に吊り具13が取り付けられる。これにより、突出部15bを損傷させることなく吊り具13を突出部15bに連結することができる。
【0034】
また、インサート部材15の突出部15bを挟むようにコンクリート本体14の上面に1対の支持具17が配置され、定着具16が固定具18によって1対の支持具17に固定される。これにより、突出部15bにせん断力や曲げモーメントが作用することが抑制される。よって、突出部15bの損傷が抑制され、安全にプレキャスト床版5を吊り上げることができる。
【0035】
ここで固定具18は、インサート部材15の突出部15bに緊張力を作用させた状態で定着具16を1対の支持具17に対して固定している。これにより、吊り具13を用いてプレキャスト床版5を吊り上げた時に、プレキャスト床版5の荷重による突出部15bの伸びによって定着具16の支持具17に対する固定が緩むことが抑制される。
【0036】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。
【0037】
例えば、発明に係るプレキャスト部材が箱桁橋のプレキャストセグメントに適用されても良く、発明に係る吊り上げ構造が箱桁橋のプレキャストセグメントの吊り上げ構造に適用されても良い。また、発明に係るプレキャスト部材がボックスカルバートのプレキャストセグメントに適用されても良い。或いは、発明に係るプレキャスト部材が開削溝のプレキャストセグメントに適用されても良い。
【0038】
この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、或いは構築手順等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 :桁橋
2 :橋脚
3 :主桁
4 :プレストレストコンクリート床版
5 :プレキャスト床版(プレキャスト部材)
10 :吊り装置
11 :フレーム
12 :垂下部材
13 :吊り具
14 :コンクリート本体
15 :インサート部材
15a :埋設部
15b :突出部
16 :定着具
17 :支持具
18 :固定具