(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042077
(43)【公開日】2024-03-27
(54)【発明の名称】衛星信号受信装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/28 20100101AFI20240319BHJP
G01S 19/22 20100101ALI20240319BHJP
【FI】
G01S19/28
G01S19/22
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015520
(22)【出願日】2024-02-05
(62)【分割の表示】P 2022563606の分割
【原出願日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/043044
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/020391
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠史
(57)【要約】
【課題】衛星信号の受信環境が良くない場合でも、精度良く、GNSSによる測位及び時刻同期を行う。
【解決手段】衛星信号受信装置において、GNSSアンテナにより受信した衛星信号の受信品質に基づいて、所定数の衛星信号を選択する信号選択部と、前記信号選択部により選択された所定数の衛星信号を用いて測位又は時刻同期を実行する計測部と、を備え、前記信号選択部は、受信した全衛星信号の中から受信品質が最も良い衛星信号を選択し、当該最も良い受信品質の値から所定値を引いた値を下限として、当該下限よりも受信品質が良い全ての衛星信号を選択する。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GNSSアンテナにより受信した衛星信号の受信品質に基づいて、所定数の衛星信号を選択する信号選択部と、
前記信号選択部により選択された所定数の衛星信号を用いて測位又は時刻同期を実行する計測部と、を備え、
前記信号選択部は、受信した全衛星信号の中から受信品質が最も良い衛星信号を選択し、当該最も良い受信品質の値から所定値を引いた値を下限として、当該下限よりも受信品質が良い全ての衛星信号を選択する
衛星信号受信装置。
【請求項2】
GNSSアンテナにより受信した衛星信号の受信品質に基づいて、所定数の衛星信号を選択する信号選択部と、
前記信号選択部により選択された所定数の衛星信号を用いて測位又は時刻同期を実行する計測部と、を備え、
前記信号選択部は、受信した全衛星信号の中から受信品質が最も良い衛星信号を選択し、当該最も良い受信品質の値から所定値を引いた値を下限として、当該下限よりも受信品質が良く、かつ、予め設定された最低受信品質よりも受信品質が良い全ての衛星信号を選択する
衛星信号受信装置。
【請求項3】
前記信号選択部は、ある衛星信号を選択するか否かを判断する際に、前記所定値として、当該衛星信号の仰角に依存した値を用いる
請求項1又は2に記載の衛星信号受信装置。
【請求項4】
前記受信品質が最も良い衛星信号と、前記下限よりも受信品質が良い全ての衛星信号の合計数が前記所定数未満である場合、前記信号選択部は、選択される衛星信号の合計数が前記所定数になるように、前記下限以下の受信品質の衛星信号をGNSS種別の優先順位に基づいて選択する
請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置。
【請求項5】
前記受信品質が最も良い衛星信号と、前記下限よりも受信品質が良い全ての衛星信号の合計数が前記所定数未満である場合、前記信号選択部は、選択される衛星信号の合計数が前記所定数になるように、前記下限以下の受信品質の衛星信号をDOP値に基づいて選択する
請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置における各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム)による測位及び時刻同期を高精度に行う技術に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、GNSSによる測位及び時刻同期が幅広いアプリケーションにおいて活用されている。
【0003】
GNSSによる測位及び時刻同期においては、GNSSアンテナにより受信したGNSS衛星信号(以降、衛星信号)を用いて測位及び時刻同期の処理が実行される。
【0004】
GNSSアンテナの設置位置の周囲に存在する構造物等により衛星信号の見通し状態での受信が遮られる場合がある。その場合、当該衛星信号は、GNSSアンテナにおいて必要な信号強度で受信されないか、又は、GNSSアンテナの設置位置の周囲に存在する構造物等により反射・回折するマルチパスにより、不可視衛星信号として受信されることになる。その結果、GNSSによる測位性能及び時刻同期性能が劣化する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】塚越他"オープンソースGNSSライブラリを用いた遊歩道環境での自律移動ロボットナビゲーションのための位置推定"計測自動制御学会論文集Vol.52, No.5, 276/283(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GNSSによる測位及び時刻同期の精度を向上させる上では見通し状態で受信可能な可視衛星信号を多く受信し、精度の劣化に大きな影響を及ぼす、見通し状態で受信できない不可視衛星信号を測位及び時刻同期で使用する衛星信号から有効に排除することが重要である。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、衛星信号の受信環境が良くない場合でも、衛星信号を適切に選択し、精度良く、GNSSによる測位及び時刻同期を行うことを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の技術によれば、 GNSSアンテナにより受信した衛星信号の受信品質に基づいて、所定数の衛星信号を選択する信号選択部と、
前記信号選択部により選択された所定数の衛星信号を用いて測位又は時刻同期を実行する計測部と、を備え、
前記信号選択部は、受信した全衛星信号の中から受信品質が最も良い衛星信号を選択し、当該最も良い受信品質の値から所定値を引いた値を下限として、当該下限よりも受信品質が良い全ての衛星信号を選択する衛星信号受信装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、衛星信号の受信環境が良くない場合でも、精度良く、GNSSによる測位及び時刻同期を行うことを可能とする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態における計測装置の構成図である。
【
図2】衛星信号の選択に係る処理手順例を示す図である。
【
図4】GNSSバイアス値の設定例を示す図である。
【
図7】バイアス値の設定に係る処理手順を示す図である。
【
図8】各グループのCNRの最大値を示す図である。
【
図11】衛星信号の建造物の壁面への入射及び壁面からの反射の様子を示す図である。
【
図12】衛星信号の建造物の壁面への入射及び壁面からの反射の様子を示す図である。
【
図13】仰角に依存したdCNR値の設定例を示す図である。
【
図14】衛星信号の選択に係る処理手順例を示す図である。
【
図16】バイアス値の設定に係る処理手順を示す図である。
【
図18】L1帯における受信特性の実測例を示す図である。
【
図19】L2帯における受信特性の実測例を示す図である。
【
図20】装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限定されるわけではない。
【0012】
(課題の詳細、実施の形態の概要)
近年、GPS以外の航法衛星システムとしてGLONASS、Galileo、BeiDou、QZSSなどが利用できるようになり、衛星数が増加している。
【0013】
前述したように、GNSSによる測位及び時刻同期の精度を向上させる上では見通し状態で受信可能な可視衛星信号を多く受信し、精度の劣化に大きな影響を及ぼす、見通し状態で受信できない不可視衛星信号を測位及び時刻同期で使用する衛星信号から有効に排除することが重要である。
【0014】
不可視衛星信号を排除する従来の方法として、受信した衛星信号から予め設定した閾値以下のCNR(Carrier-to-Noise Ratio:搬送波対雑音比)の衛星信号を排除する、CNRマスク方式が知られている。
【0015】
しかし、衛星信号のCNR値はアンテナのゲイン、受信機の受信感度、アンテナ‐受信機間のケーブル損失、衛星種別等に依存するため最適な閾値を設定することは困難である。
【0016】
また、CNRマスク方式では衛星信号の信号帯域幅に干渉信号が混入した場合、衛星信号のCNR値が全体的に低下し、CNRマスクにより衛星信号をロストする結果、測位及び時刻同期ができなくなるリスクがある。このような干渉信号として、意図的に発生するGNSSジャミング(妨害)信号の他、機器が発生するノイズ、他の通信システムからの干渉信号がある。
【0017】
本実施の形態では、見通し状態で受信可能な可視衛星信号を多く受信し、精度の劣化に大きな影響を及ぼす、見通し状態で受信できない不可視衛星信号を測位及び時刻同期で使用する衛星信号から有効に排除するために、可視衛星数が多く確保可能なマルチGNSS環境を想定した後述する手順で、測位及び時刻同期の使用に適した衛星信号を選択することとしている。当該手順は、衛星信号の受信品質を選択の根拠とし、かつアンテナ及び受信機の個体特性、干渉信号の影響を排除した衛星信号の選択を可能としている。
【0018】
以下、本実施の形態における具体的な構成及び動作の例を詳細に説明する。なお、以下で説明する処理では、受信品質の指標としてCNRを使用するが、CNR以外の受信品質の指標を使用してもよい。また、本実施の形態において、"衛星信号を選択する"際の"衛星信号"は、その衛星信号の送信元のGNSS衛星と紐づいているものとする。例えば、GNSS衛星A、GNSS衛星B、GNSS衛星Cを3機の異なる任意のGNSS衛星であるとすると、3個の衛星信号を選択するとは、GNSS衛星Aからの衛星信号、GNSS衛星Bからの衛星信号、及びGNSS衛星Cからの衛星信号を選択することを意味する。
【0019】
また、本実施の形態では、CNR値の正規化にあたり、仰角依存性とGNSS種別・周波数帯依存性を考慮している。ここでGNSS種別とはGPSやGLONASS等の航法衛星システムの種別を意味する。仰角依存性を考慮する理由は衛星の仰角が小さいほど地表に近い対流圏における伝搬経路が長くなり、衛星信号がより減衰する傾向にあるためである。GNSS種別依存性を考慮する理由はGNSS種別により信号周波数や送信電力が異なり、CNR値に差分を生じるためである。さらに同一のGNSS種別でも信号の周波数帯(GPSの場合はL1帯、L2帯、L5帯、等)によりCNR値に差分を生じる。なお、仰角依存性とGNSS種別・周波数帯依存性のうちのいずれか一方を考慮することとしてもよい。
【0020】
以下では、第1の実施の形態と、第2の実施の形態を説明する。第2の実施の形態については、第1の実施の形態と異なる部分について主に説明する。
―――――――――――第1の実施の形態―――――――――――
【0021】
(装置構成)
図1に、本実施の形態における計測装置100の構成例を示す。本実施の形態における計測装置100は、GNSSアンテナ110、信号受信部120、信号選択部130、計測部140、出力部150、信号データ格納部160、バイアス値設定部170、バイアス値格納部180を有する。なお、計測装置100は、衛星信号を受信して処理する装置であり、これを「衛星信号受信装置」と呼んでもよい。
【0022】
GNSSアンテナ110は、軌道上のGNSS衛星から送信される電波を受信し、電波を電気信号に変換する。この電気信号を「衛星信号」と呼んでもよい。
【0023】
GNSSアンテナ110と信号受信部120とはケーブルで接続され、衛星信号はケーブルにより信号受信部120に送られる。GNSSアンテナ110と信号受信部120との間の距離が長い場合には、GNSSアンテナ110と信号受信部120との間に増幅器が備えられてもよい。
【0024】
信号受信部120は、衛星信号を受信し、CNRを計測するとともに、受信した衛星信号の送信元のGNSS衛星の種別を識別する。また、衛星の軌道情報(例:アルマナック、エフェメリス)を使用し、仰角を計測する。衛星の軌道情報は衛星信号の航法メッセージから取得してもよいし、他の手段(例:ネットワーク上のサーバ)から取得してもよい。信号受信部120は、受信した衛星信号の識別情報(PRN番号等のコード)、当該衛星信号の仰角、CNR、及び衛星種別を信号選択部130に送る。また、信号受信部120は、受信した衛星信号毎の識別情報、仰角、CNR、衛星種別を信号データ格納部160に格納する。なお、仰角とは、衛星信号の受信地点(すなわちGNSSアンテナ)から衛星信号の送信元のGNSS衛星を見る場合の視線と水平面とのなす角度である。例えば、GNSS衛星が天頂にある場合、その仰角は90°である。
【0025】
本実施の形態において対象とするGNSS衛星の種別は、GPS、GLONASS、Galileo、BeiDou、及びQZSSである。ただし、これらは例であり、これらの種別よりも多くてもよいし、少なくてもよい。
【0026】
信号選択部130は、受信した複数の衛星信号の中から、測位と時刻同期に使用する衛星信号を選択する。選択の手順については後述する。
【0027】
計測部140は、絶対時刻に対して精密に時刻が管理される原子時計を搭載したGNSS衛星から送信される衛星信号を用いて時刻同期を行うことにより、絶対時刻に対して高精度に時刻同期した時刻情報を算出する。ここでの絶対時刻とは、例えば、協定世界時(UTC:Coordinated Universal Time)である。なお、計測部140は、測位と時刻同期のうちの一方のみを行うこととしてもよい。
【0028】
受信した衛星信号から、当該衛星信号がGNSS衛星から送信された絶対時刻を知ることができるが、GNSS衛星からGNSSアンテナ110の位置に衛星信号が到達するまでの伝搬時間を計測し、計測部140の時刻と衛星の時刻との間の時刻オフセット値Δtを補正しなければ、受信位置において正確な絶対時刻は得られない。
【0029】
そこで、計測部140は、例えば4機以上のGNSS衛星からの衛星信号を用いて、受信位置の3次元座標情報(x,y,z)、及び時刻オフセット(Δt)の4つのパラメータをコード測位により算出することにより、測位と時刻同期を同時に行う。計測部140はコード測位の他に搬送波位相測位を行ってもよい。
【0030】
計測部140は、出力部150を介してこの絶対時刻に基づく時刻情報と測位結果である位置情報を出力する。例えば、計測装置100がモバイルネットワークにおける基地局であるとすると、当該基地局が絶対時刻に同期した時刻情報を利用して、例えば、(絶対時刻に同期している)隣接する基地局とTDD(Time Division Duplex:時分割複信)信号フレームの上り、下り信号のタイムスロット構成(並び)を一致させた上で、信号フレームの送信タイミングを同期させることで、隣接する基地局と互いに干渉しないようにTDD信号を送信することができる。
【0031】
バイアス値設定部170は、信号データ格納部160に格納されている衛星信号データを用いて、バイアス値を設定(算出)し、設定したバイアス値をバイアス値格納部180に格納する。バイアス値格納部180に格納されたバイアス値は、信号選択部130における衛星信号の選択処理に用いられる。バイアス値設定部170によるバイアス値設定動作の詳細については後述する。
【0032】
本実施の形態における計測装置100は、物理的にまとまった1つの装置であってもよいし、いくつかの機能部が物理的に分離していて、分離された複数の機能部がネットワークにより接続された装置であってもよい。
【0033】
また、計測装置100は、
図1に示す機能を全て含むこととしてもよいし、一部の機能(例えば、信号選択部130と計測部140)がネットワーク上(例えばクラウド上)に備えられ、残りの機能が計測装置100に搭載されて使用されてもよい。
【0034】
例えば、計測装置100に備えられた信号受信部120から観測データを出力し、当該観測データをクラウド上に設けた「信号選択部130と計測部140」からなる装置に送信することで、衛星信号選択及び測位演算をクラウド上で実施してもよい。この場合、クラウド上の計測部140から、出力部150へ測位演算結果が返される。
【0035】
また、計測装置100における「信号データ格納部160とバイアス値設定部170」からなる装置がネットワーク上(例えばクラウド上)に備えられ、残りの機能が計測装置100に搭載されて使用されてもよい。
【0036】
例えば、計測装置100に備えられた信号受信部120から観測データを出力し、当該観測データをクラウド上に設けた信号データ格納部160に格納し、クラウド上に設けたバイアス値設定部170が、格納したデータを用いてバイアス値の設定を行う。この場合、クラウド上のバイアス値設定部170から、バイアス値格納部180へバイアス値が返される。
【0037】
(信号選択部130の動作例)
次に、信号選択部130の動作例を、
図2に示すフローチャートの手順に沿って詳細に説明する。手順の説明の中で、
図3~
図6も参照する。
【0038】
まず、
図3を参照して、手順において使用される設定パラメータについて説明する。
図3に示すとおり、CNR
0は、L1帯の全受信衛星信号のCNRの最大値である。dCNRは、衛星信号の選択範囲を決めるパラメータである。N
0は、選択衛星信号数である。なお、L1帯で受信を行うことは一例である。
【0039】
図2のS101において、信号選択部130は、L1帯で受信した全衛星信号のCNR値をGNSS種別及び仰角依存性を考慮して正規化する。具体的には、観測で得られたCNR値に、バイアス値設定部170により予め設定されたGNSSバイアス値と仰角バイアス値を加えることにより正規化を行う。
【0040】
図4にGNSSバイアス値の設定例を示し、
図5に仰角バイアス値の設定例を示す。これらのバイアス値はバイアス値格納部180に格納されている。
【0041】
例えば、ある衛星信号の観測で得られたCNR値が30dB-Hzであり、仰角が30°であり、衛星種別がGLO(GLONASS)であるとすると、信号選択部130は、当該衛星信号の補正後(正規化後)のCNR値を30+4+2=36dB-Hzとする。以降、CNR値は正規化後のCNR値であることを意味する。
【0042】
図2のS102において、信号選択部130は、L1帯で受信した全衛星信号の中からCNR値の最も大きい衛星信号を選択し、そのCNR値をCNR
0として記録する。なお、ここでは、前提条件として可視衛星信号が少なくとも1つ存在することを想定している。
【0043】
S103において、信号選択部130は、S102で選択した衛星信号のCNR値(CNR0)に対し、CNR0よりdCNR(例:10dB)小さい値をCNRの下限とし、受信した衛星信号から条件を満たす衛星信号を選択する。すなわち、信号選択部130は、L1帯で受信した全衛星信号から、CNR値がCNR0-dCNR<CNR<CNR0を満たす全ての衛星信号を選択する。
【0044】
S104において、信号選択部130は、S102とS103で選択された衛星信号の数が、予め設定した最低選択衛星信号数(N0)以上であるか否かを判定する。S104の判定結果がYesであれば、信号選択部130による信号選択処理を終了する。信号選択部130は、選択された衛星信号の識別情報(PRN番号等のコード)を計測部140に通知し、計測部140は、選択された衛星信号を使用して測位と時刻同期を行う。
【0045】
S104の判定結果がNoである場合、すなわち、S102とS103で選択された衛星信号の数が、予め設定した最低選択衛星信号数(N0)未満である場合、S105に進む。
【0046】
S105において、信号選択部130は、予め設定したGNSS種別の優先順位に基づき、CNR値が「CNR0-dCNR」以下でCNR値の大きい次点の衛星信号から順に衛星信号を選択し、トータルの選択衛星信号数がN0となるよう補填する。
【0047】
図6に、GNSS種別の優先順位の設定例を示す。GNSS種別の優先順位の設定値についてもバイアス値格納部180に格納されており、信号選択部130は、バイアス値格納部180に格納された設定値を参照する。
図6において、GPSの優先順位が最も高く、GLO(GLONASS)の優先順位が最も低いことが示されている。
【0048】
ここで、GNSS種別の優先順位に基づく選択について説明する。GNSS衛星の種別毎に、衛星を運用している時計の絶対時刻を基準とした時刻精度に差分(クロックバイアス)が存在する。S105で補欠の衛星信号を選択する際にはクロックバイアスを含む、GNSSの信頼度を考慮して選択することとしている。
【0049】
例えば、GPSとQZSSは航法衛星システムとして時刻が互いに完全に同期しており、クロックバイアスが小さいのでカテゴリー1、カテゴリー2がGalileo、カテゴリー3がGLONASS及びBeiDouといった形で分類することができる。このようなカテゴリー分けに基づいて、
図6に示すような優先順位の設定がなされる。
【0050】
上記のような信頼度に基づく優先順位を考慮した補欠衛星信号の選択方法としては、一例として、優先順位(又は信頼度のカテゴリー)に応じてCNR値にプレミアム(付加する値)を設定し、CNR値が最高値の衛星信号から必要数を順に選択する方法がある。
【0051】
例えば、
図6の例において、優先順位1のプレミアムを5とし、優先順位2のプレミアムを4とし、優先順位3のプレミアムを3とし、優先順位4のプレミアムを2とし、優先順位5のプレミアムを1とする。
【0052】
一例として、N0が5であるとし、S102、S103で3個の衛星信号が選択されたとする。また、「CNR0-dCNR」以下のCNR値を持つ衛星信号として、衛星信号1(CNR値=26dB-Hz、プレミアム=1)、衛星信号2(CNR値=25dB-Hz、プレミアム=3)、衛星信号3(CNR値=24dB-Hz、プレミアム=5)があるとすると、S105において、信号選択部130は、プレミアムを加えたCNR値が、29dB-Hz、28dB-Hzとなる衛星信号3と衛星信号2を選択する。
【0053】
(バイアス値設定に関する動作例)
次に、バイアス値を設定するための動作例を、
図7に示すフローチャートの手順に沿って詳細に説明する。手順の説明の中で、
図8~
図10も参照する。
【0054】
S201において、信号受信部120により、衛星信号データを継続的に収集する。収集する時間長に関して、オープンスカイ環境であれば、連続で24時間収集すれば十分である。それ以外の受信環境では更に長期連続収集が必要である。随時データを収集し、バイアス値を更新してもよい。
【0055】
S202において、収集した衛星信号データを(GNSS種別,仰角,CNR値)のセットとして信号データ格納部160に格納する。
【0056】
S203において、バイアス値設定部170は、信号データ格納部160に格納された衛星信号データに基づいて、同一GNSS種別のデータに対し、仰角の範囲毎にデータをグループ分けし、各グループのCNRの最大値を抽出する。
【0057】
図8に、あるGNSS種別におけるS203の処理の例を示す。
図8の例では、仰角が0°~15°、15°~30°、30°~45°、45°~60°、60°~75°、75°~90°にグループ分けされ、各グループのCNRの最大値が抽出されている。
【0058】
S204において、バイアス値設定部170は、抽出した最大値データに対し例えば非線形最小二乗法によりカーブフィッティングを適用する。S205において、バイアス値設定部170は、最も大きい外れ値を除いたカーブフィッティングを数回繰り返す。
図8に示したGNSS種別に対するS204、S205の例を
図9に示す。
【0059】
S206において、バイアス値設定部170は、GNSS種別毎にフィッティング関数を生成し、S207において、各GNSS種別のフィッティング関数によりGNSS種別・仰角のバイアス値を設定する。S206、S207の例を
図10に示す。
図10に示すように、いずれのGNSS種別においても、仰角が小さいほど大きなバイアス値が設定される。また、
図10の例において、GNSS種別間では、GNSS-C>GNSS-B>GNSS-Aの順の大きさのバイアス値が設定される。
【0060】
(dCNRの設定値について)
次に、dCNRの設定値(dCNR値と呼ぶ)について説明する。dCNR値は、
図2のS103で説明したとおり、衛星信号を選択するためのCNR値の範囲を決めるパラメータである。dCNR値は、衛星信号の仰角に依らない固定値であってもよいが、以下では、衛星信号の仰角に依存してdCNR値を決める例について説明する。ここで説明する例は、都市部のように、衛星信号の反射面が建造物の鉛直方向の壁面(コンクリートorガラス)であるような場合を想定した例である。
【0061】
図11は、仰角の高い衛星信号が建造物の垂直な壁面に入射して反射する様子を示し、
図12は、仰角の低い衛星信号が建造物の垂直な壁面に入射して反射する様子を示している。
図11、
図12に示されるとおり、仰角の低い衛星信号が建造物の垂直な壁面に入射する入射角は、仰角の高い衛星信号が建造物の垂直な壁面に入射する入射角よりも大きい。
【0062】
衛星信号の建造物の垂直な壁面による反射率は入射角に依存するため、仰角の低い衛星信号は仰角の高い衛星信号と比較して相対的に反射率が大きい(反射波の信号強度が大きい)ことが期待される。
【0063】
そこで、dCNR値に仰角依存性を与えることが可視/不可視の衛星選択においては有効となる。
図13に、仰角依存性を与えたdCNR値の設定例を示す。
図13に示すように、衛星信号の仰角が大きくなるとdCNR値も大きくなるように設定する。このような仰角依存性を持つ設定値は、例えば、
図13の曲線に相当する関数の形でバイアス値格納部180に保存されてもよいし、各仰角(例えば5°刻み)に対するdCNR値を保持するテーブルの形でバイアス値格納部180に保存されてもよい。
【0064】
信号選択部130は、前述したS103において、ある衛星信号のCNR値が「CNR0-dCNR<CNR<CNR0」を満たすか否かを判断する際に、バイアス値格納部180を参照して、その衛星信号の仰角に対応するdCNR値を取得し、そのdCNR値を用いて「CNR0-dCNR<CNR<CNR0」を満たすか否かを判断する。
【0065】
また、前述したS105の補欠の衛星信号選択において、信号選択部130は、ある衛星信号のCNR値が「CNR0-dCNR」以下か否かを判断する際に、バイアス値格納部180を参照して、その衛星信号の仰角に対応するdCNR値を取得し、そのdCNR値を用いて「CNR0-dCNR」以下か否かを判断する。
【0066】
「CNR0-dCNR<CNR<CNR0」により衛星信号を選択するか否かの判断において、仰角の低い衛星信号のほうが仰角の高い衛星信号よりもdCNR値が小さくなるので、仰角の低い衛星信号のほうが仰角の高い衛星信号よりも「CNR0-dCNR<CNR<CNR0」の範囲が狭くなる。すなわち、仰角の低い衛星信号のほうが仰角の高い衛星信号よりも厳しめのフィルタリングがなされる。このように、仰角の低い衛星信号のほうが仰角の高い衛星信号よりも厳しめのフィルタリングがなされるようにdCNR値に仰角依存性を持たせる理由を以下に説明する。
【0067】
都市部において衛星信号の反射面が建造物の鉛直方向の壁面(コンクリートorガラス)であると想定すると低仰角の衛星信号は全反射に近い状態になり、反射した衛星信号の信号強度と、仮に障害物が存在せずに直接波として受信した場合の信号強度(
図4、
図5のバイアス値により正規化される基準信号強度)との差分は小さくなる。
【0068】
つまり、低仰角の衛星信号は電離層や対流圏といった信号強度を減衰させる媒質の光路長が長くなる分、直接波として受信した場合の信号強度は小さくなるが、一方で、建造物で反射した際の信号強度の低下は小さいため、不可視衛星信号のマルチパス信号(反射波)を除去する上ではdCNR値を小さくし、厳しめにフィルタリングする必要がある。高仰角衛星はその逆になり、「CNR0-dCNR<CNR<CNR0」の範囲を広げ、選択されやすくする。
【0069】
なお、衛星信号の仰角が大きくなるとdCNR値も大きくなるように仰角依存性を与えることは例である。環境によっては、上記とは異なる仰角依存性をdCNR値に与えることとしてもよい。
【0070】
なお、各衛星種別単位での衛星選択を行うことも考えられるが、それは行わない。その理由は下記のとおりである。
【0071】
本発明に係る技術では、少なくとも1つの可視衛星が存在することが前提となる。各衛星種別単位で衛星選択を行った場合、ある衛星種別で可視衛星が存在しなかった場合には基準CNR値(CNR0)が不適切な値となり、衛星選択の精度が劣化する可能性がある。第1及び第2の実施の形態のように、全衛星種別を対象とすれば、少なくとも1つの可視衛星が存在する確率が向上する。
―――――――――――第2の実施の形態―――――――――――
【0072】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、計測装置100が、周波数帯毎に衛星信号の選択を行う点が第1の実施の形態と異なる。すなわち、第1の実施の形態では、例としてL1帯のみを対象として衛星信号の選択を行っていたが、第2の実施の形態では、各衛星の出力する複数の周波数帯のそれぞれに対し、衛星信号の選択を行う。
【0073】
なお、第1の実施の形態で説明した技術により、発明の効果を発揮することができる。第2の実施の形態は、発明の実施形態のバリエーションである。第2の実施の形態において、周波数帯毎に衛星信号の選択を行う理由は下記のとおりである。
【0074】
各衛星は複数の周波数帯の信号を出力しているため、衛星の位置(可視/不可視)により、測位に適する衛星を選択するという観点では、何れか1つの周波数帯の衛星信号により衛星の可視/不可視が正確に判定できるのであれば、複数の周波数帯それぞれの信号で衛星選択を行う必要性はない。
【0075】
しかし、実際には可視/不可視を100%正確に判定できることは保証されない。また、周波数帯毎にアンテナ・レシーバの受信特性や干渉信号の混入状態が異なる可能性があり、複数の周波数帯でそれぞれ衛星信号の選択を行うことで測位演算により適した衛星信号の組み合わせを選択する可能性がある。
【0076】
測位演算においては周波数帯毎に異なる衛星信号を使用することができる。衛星によりサポートする周波数帯が異なる(例えばGPSのL5周波数帯は一部の衛星のみ対応)ため、周波数帯毎に衛星信号を個別に選択することによって、測位演算のポリシー設定のバリエーション(周波数帯毎にN0値を変える等)を広げることができる。
【0077】
(装置構成)
第2の実施の形態における計測装置100の装置構成は第1の実施の形態における装置構成と同じであり、
図1に示したとおりである。各部の動作も基本的に第1の実施の形態と同じであるが、周波数帯毎に衛星信号の選択を行うための動作を行う点が第1の実施の形態と異なる。
【0078】
すなわち、信号受信部120は、周波数帯毎に、受信した衛星信号の識別情報(PRN番号等のコード)、当該衛星信号の仰角、CNR、及び衛星種別を信号選択部130に送る。また、信号受信部120は、周波数帯毎に、受信した衛星信号毎の識別情報、仰角、CNR、衛星種別を信号データ格納部160に格納する。本実施の形態では、複数の周波数帯としてL1帯とL2帯を対象とする。ただし、L1帯とL2帯を使用することは例であり、これらに加えてL5帯を使用してもよいし、L1帯、L2帯、L5帯以外の周波数帯を使用してもよい。
【0079】
(信号選択部130の動作例)
次に、第2の実施の形態における信号選択部130の動作例を説明する。
図14は、信号選択部130の動作を示すフローチャートである。基本的に
図2に示した第1の実施の形態でのフローと同じであるが、第2の実施の形態では、
図14のフローを周波数帯毎に繰り返すとともに、S113(
図2のS103に対応)において、処理中の周波数帯における最低CNR値を満たすかどうかの判定を行う点が第1の実施の形態と異なる。なお、
図14は、例として、周波数帯毎の繰り返しにおけるL1帯についての処理を示している。
【0080】
まず、
図15を参照して、第2の実施の形態の手順において使用される設定パラメータについて説明する。
図15に示すとおり、CNR
L1は、L1帯の選択衛星の最低CNR値である。dCNR
L1は、L1帯の衛星信号の選択範囲を決めるパラメータである。N
0L1は、L1帯の選択衛星信号数である。L2帯の関しても同様のパラメータが設定されている。なお、他の周波数帯を使う場合、周波数帯毎にパラメータを設定すればよい。例えば、L5帯であればCNR
L5等を設定する。
【0081】
まず、L1帯について、
図14のフローの処理を実行する。S101、S102の処理は第1の実施の形態と同じである。ただし、第2の実施の形態では、周波数帯毎に、
図4,
図5に示したようなバイアス値が設定されており、S101の正規化処理では、処理中の周波数帯に対応するバイアス値を用いて正規化を行う。S102では、該当周波数帯(最初はL1帯)で受信した全衛星信号の中からCNR値の最も大きい衛星信号を選択し、そのCNR値をCNR
0として記録する。
【0082】
S113において、信号選択部130は、S102で選択した衛星信号のCNR値(CNR0)に対し、CNR0よりdCNRL1(例:10dB)小さい値をCNRの下限とし、受信した衛星信号から条件を満たす衛星信号を選択する。ここでは、信号選択部130は、L1帯で受信した全衛星信号から、CNR値がCNR0-dCNRL1<CNR<CNR0を満たし、かつ、CNRL1<CNRを満たす全ての衛星信号を選択する。
【0083】
S104において、信号選択部130は、S102とS103で選択された衛星信号の数が、予め設定した最低選択衛星信号数(N0L1)以上であるか否かを判定する。S104の判定結果がYesであれば、L1帯についての信号選択部130による信号選択処理を終了する。信号選択部130は、選択された衛星信号の識別情報(PRN番号等のコード)を計測部140に通知し、計測部140は、選択された衛星信号を使用して測位と時刻同期を行う。
【0084】
信号選択部130は、次の周波数帯(例えばL2帯)について、
図14のフローの処理を実行する。
【0085】
S104の判定結果がNoである場合、すなわち、S102とS103で選択された衛星信号の数が、予め設定した最低選択衛星信号数(N0L1)未満である場合、S105に進む。
【0086】
S105の処理は、第1の実施の形態で説明した処理と同じでよい。すなわち、S105において、信号選択部130は、予め設定したGNSS種別の優先順位(例:
図6)に基づき、CNR値が「CNR
0-dCNR」以下でCNR値の大きい次点の衛星信号から順に衛星信号を選択し、トータルの選択衛星信号数がN
0L1となるよう補填する。
【0087】
なお、
図6に示したような優先順位の設定は、周波数帯毎に定められてもよい。その場合、信号選択部130は、処理中の周波数帯に対応する優先順位を用いて、衛星信号の選択を行う。
【0088】
第1の実施の形態と同様に、信頼度に基づく優先順位を考慮した補欠衛星信号の選択方法として、優先順位(又は信頼度のカテゴリー)に応じてCNR値にプレミアム(付加する値)を設定し、CNR値が最高値の衛星信号から必要数を順に選択する方法を用いることができる。
【0089】
例えば、
図6の例において、優先順位1のプレミアムを5とし、優先順位2のプレミアムを4とし、優先順位3のプレミアムを3とし、優先順位4のプレミアムを2とし、優先順位5のプレミアムを1とする。
【0090】
一例として、N0L1が5であるとし、S102、S103で3個の衛星信号が選択されたとする。また、「CNR0-dCNRL1」以下のCNR値を持つ衛星信号として、衛星信号1(CNR値=26dB-Hz、プレミアム=1)、衛星信号2(CNR値=25dB-Hz、プレミアム=3)、衛星信号3(CNR値=24dB-Hz、プレミアム=5)があるとすると、S105において、信号選択部130は、プレミアムを加えたCNR値が、29dB-Hz、28dB-Hzとなる衛星信号3と衛星信号2を選択する。
【0091】
S105が終了すると、信号選択部130は、選択された衛星信号の識別情報(PRN番号等のコード)を計測部140に通知し、計測部140は、選択された衛星信号を使用して測位と時刻同期を行う。
【0092】
信号選択部130は、次の周波数帯(例えばL2帯)について、
図14のフローの処理を実行する。
【0093】
なお、上記の例では、周波数帯毎に、選択された衛星信号を用いて測位と時刻同期を行うこととしているが、特定の周波数帯で選択された衛星信号に基づき複数の周波数帯の衛星信号を使用する測位と時刻同期を行うこととしてもよい。
【0094】
例えば、L1帯とL2帯のそれぞれで
図14のフローを実行することで、L1帯において衛星信号1、2、3、4が選択され、L2帯において衛星信号5、6、7、8が選択された場合において、衛星信号1、2、3、4のDOP(Dilution of Precision)値と、衛星信号5、6、7、8のDOP値とを比較して、DOP値が小さいほうの周波数帯の衛星信号を選択して、L1帯とL2帯の信号を使用した測位と時刻同期を行うこととしてもよい。
【0095】
(補欠衛星信号の選択方法のバリエーション)
S105における補欠衛星信号の選択についての他の例を説明する。信号選択部130は、DOP値を考慮して、補欠の衛星信号を選択してもよい。例えば、信号選択部130は、CNR値が「CNR0-dCNR」以下でCNR値の大きい次点の衛星信号から順に衛星信号A、B、Cを、補正衛星信号候補として選択し、既に選択されている衛星信号に補欠衛星候補A、B、Cをそれぞれ加えた場合のDOP値を計算し、DOP値が最も小さくなる衛星信号を選択する。
【0096】
例えば、S104の時点で既に選択されている衛星信号が衛星信号1、2、3であるとすると、「衛星信号1、2、3、A」、「衛星信号1、2、3、B」、「衛星信号1、2、3、C」のそれぞれのDOP値を計算する。もしも「衛星信号1、2、3、A」のDOP値が最小であれば、「衛星信号1、2、3、A」を選択する。選択すべき衛星数が、4よりも大きければ、上記の処理をその衛星数になるまで繰り返せばよい。
【0097】
ここで、第1の実施の形態で説明した補欠衛星信号選択方法を選択方法1とし、DOP値を用いる上記の方法を選択方法2とする。信号選択部130は、選択方法1、2の組み合わせで補欠衛星信号を選択してもよい。
【0098】
組み合わせの例としては、選択方法1により、補欠の衛星信号を選択し、その選択された衛星信号のそれぞれで選択方法2を実施して、DOP値が小さい衛星信号を選択する。
【0099】
また、例えば、選択方法1、2に基づき選択された衛星信号による測位精度の改善度合いを期待値としてコスト値(評価値)を設定し、選択方法1と2のトータルのコスト値(評価値)が最小となる衛星信号を補欠衛星信号として選択してもよい。例えば、選択方法1、2の組み合わせにより補欠衛星信号の候補として衛星信号Aと衛星信号Bが選択されたとする。例えば、衛星信号AのCNR値が30dB-Hz、衛星信号BのCNR値が28dB-Hzであり、衛星信号Aを選択した場合のDOP値が5、衛星信号Bを選択した場合のDOP値が4であったとする。選択方法1と2のトータルのコスト値(評価値)をDOP値/CNR値として設定した場合、衛星信号A、Bのコスト値はそれぞれ1/6、1/7となり、衛星信号Aよりも衛星信号Bのほうが小さいため、衛星信号Bを補欠衛星信号として選択する。
【0100】
(バイアス値設定に関する動作例)
第2の実施の形態において、バイアス値設定部170により実行されるバイアス値設定動作は、基本的に第1の実施の形態でのバイアス値設定動作と同じであるが、第2の実施の形態では、周波数帯毎にバイアス値を設定する点が第1の実施の形態と異なる。
【0101】
図16に、第2の実施の形態におけるバイアス値設定動作のフローチャートを示す。S201では、信号受信部120により、周波数帯毎に、衛星信号データを継続的に収集する。
【0102】
S212において、収集した衛星信号データを(GNSS種別,周波数帯,仰角,CNR値)のセットとして信号データ格納部160に格納する。
【0103】
S213において、バイアス値設定部170は、信号データ格納部160に格納された衛星信号データに基づいて、同一GNSS種別・周波数帯のデータに対し、仰角の範囲毎にデータをグループ分けし、各グループのCNRの最大値を抽出する。その処理例は
図8を参照して説明したとおりである。
【0104】
S204において、バイアス値設定部170は、抽出した最大値データに対し非線形最小二乗法等によりカーブフィッティングを適用する。S205において、バイアス値設定部170は、最も大きい外れ値を除いたカーブフィッティングを数回繰り返す。
図8に示したGNSS種別に対するS204、S205の例は、
図9に示したとおりである。
【0105】
S206において、バイアス値設定部170は、GNSS種別毎にフィッティング関数を生成し、S207において、各GNSS種別のフィッティング関数によりGNSS種別・仰角のバイアス値を設定する。L1帯に対する、S206、S207の例を
図17に示す。
【0106】
上述したとおり、第2の実施の形態では、GNSS衛星種別に対して各衛星信号の周波数帯(例えばGPSの場合はL1帯、L2帯、L5帯)毎にバイアス値を設定する。それは、衛星信号の受信特性がGNSS衛星種別、仰角以外に、衛星信号の周波数帯にも依存するためである。なお、仰角を用いずに、GNSS衛星種別・周波数帯のみに基づくバイアス値を設定してもよい。
【0107】
同一のGNSSアンテナとGNSSレシーバの組み合わせに対する、周波数帯による受信特性の違いの実測例を
図18、
図19に示す。
図18は、GPSのL1信号を示し、
図19は、GPSのL2信号を示す。
図18、
図19ともに、横軸は仰角(°)であり、縦軸はCNR(SNR)値(dB-Hz)である。
【0108】
(バイアス値設定に関するバリエーション)
同じGNSS種別でも個別の衛星により送信信号出力が異なるケースがある。例えば、衛星の軌道(GEO/IGSO/MEO)により送信信号出力が異なる場合がある。その場合、個別の衛星に対しバイアス値を設定してもよい。
【0109】
例えば、衛星Aの送信信号強度が同じGNSS種別の他の衛星の信号強度より小さい場合、受信信号強度が小さくなり直接波として受信した場合でも選択されないケースがある。その場合に正規化の際に当該衛星信号については、受信品質に個別のバイアス値を加える補正を実施する。個別のバイアス値は、
図4、
図5に示したGNSSバイアス値と仰角バイアス値に追加して適用する。あるいは、個別のバイアス値を適用する衛星信号に対しては、GNSSバイアス値と仰角バイアス値を適用せずに、個別のバイアス値のみを適用してもよい。あるいは、個別のバイアス値を適用する衛星信号に対しては、GNSSバイアス値を適用せずに、仰角バイアス値と個別のバイアス値を適用してもよい。
【0110】
どのGNSS種別のどの衛星に対して個別のバイアス値を設定するかについては、例えば、事前に、GNSS種別毎・衛星毎に、受信信号強度の測定を行って、測定値を信号データ格納部160に格納し、バイアス値設定部170が、上記の衛星Aと同様の事象が生じる衛星を選択し、選択した衛星に対して個別のバイアス値を設定する。
【0111】
また、特定の衛星に対する個別のバイアス値を、上記の衛星Aのような送信信号出力に関わるケース以外のケースに適用してもよい。
【0112】
(dCNRの設定値について)
第2の実施の形態における周波数帯毎のdCNR値に関しても、
図11、
図12を参照して説明したように、仰角依存性を与えたdCNR値を設定してもよい。この場合、例えば、
図13に示したような仰角依存性を与えたdCNR値を周波数帯毎に設定する。
【0113】
(ハードウェア構成例)
図20は、第1及び第2の実施の形態における計測装置100として使用することができるコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。当該コンピュータは、物理的な装置としてのコンピュータであってもよいし、クラウド上の仮想マシンであってもよい。
【0114】
図20のコンピュータは、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置1000、補助記憶装置1002、メモリ装置1003、CPU1004、インタフェース装置1005、表示装置1006、入力装置1007、及び出力装置1008等を有する。なお、
図20にはGNSSアンテナ110は示されていない。GNSSアンテナ110は、例えば、インタフェース装置1005に接続される。
【0115】
当該コンピュータでの処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1001によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1001がドライブ装置1000にセットされると、プログラムが記録媒体1001からドライブ装置1000を介して補助記憶装置1002にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1001より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置1002は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0116】
メモリ装置1003は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1002からプログラムを読み出して格納する。CPU1004は、メモリ装置1003に格納されたプログラムに従って、計測装置100に係る機能を実現する。インタフェース装置1005は、GNSSアンテナ110に接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1006はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置1007はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。出力装置1008は演算結果を出力する。
【0117】
(実施の形態の効果)
以上説明したように、第1及び第2の実施の形態において説明した本発明の実施の形態によれば、使用する機器の特性や干渉信号の重畳による受信品質の変動を反映するために受信品質の基準値(CNR0)を計測し、さらに衛星種別や仰角による受信品質を考慮した衛星信号の選択を行うことにより、衛星信号の受信環境が良くない場合でも、精度良く、GNSSによる測位及び時刻同期を行うことが可能となる。
【0118】
(実施の形態のまとめ)
本実施の形態において、少なくとも、下記の各項に記載された計測装置、計測方法、及びプログラムが提供される。
(第1項)
GNSSアンテナにより受信した衛星信号の受信品質に基づいて、所定数の衛星信号を選択する信号選択部と、
前記信号選択部により選択された所定数の衛星信号を用いて測位又は時刻同期を実行する計測部と
を備える衛星信号受信装置。
(第2項)
前記信号選択部は、衛星信号のGNSS種別又は周波数帯又は仰角に基づいて、受信した衛星信号から測定された受信品質を正規化し、正規化後の受信品質を用いて前記所定数の衛星信号を選択する
第1項に記載の衛星信号受信装置。
(第3項)
前記信号選択部は、受信した衛星信号から測定された受信品質に、衛星信号のGNSS種別又は仰角に基づいて予め設定されたバイアス値を加えることにより前記正規化を行う
第2項に記載の衛星信号受信装置。
(第4項)
収集された衛星信号のGNSS種別、周波数帯、仰角、及び受信品質に基づいて、仰角と受信品質についてのフィッティング関数をGNSS種別、周波数帯毎に求め、求めたフィッティング関数を用いて前記バイアス値を設定するバイアス値設定部
を備える第3項に記載の衛星信号受信装置。
(第5項)
前記信号選択部は、特定の衛星から受信した衛星信号の受信品質に対し、当該特定の衛星に対して予め設定された個別のバイアス値を加えることにより正規化を行い、正規化後の受信品質を用いて前記所定数の衛星信号を選択する
第1項ないし第4項のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置。
(第6項)
前記信号選択部は、受信した全衛星信号の中から受信品質が最も良い衛星信号を選択し、当該最も良い受信品質の値から所定値を引いた値を下限として、当該下限よりも受信品質が良い全ての衛星信号を選択する
第1項ないし第5項のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置。
(第7項)
前記信号選択部は、受信した全衛星信号の中から受信品質が最も良い衛星信号を選択し、当該最も良い受信品質の値から所定値を引いた値を下限として、当該下限よりも受信品質が良く、かつ、予め設定された最低受信品質よりも受信品質が良い全ての衛星信号を選択する
第1項ないし第5項のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置。
(第8項)
前記信号選択部は、ある衛星信号を選択するか否かを判断する際に、前記所定値として、当該衛星信号の仰角に依存した値を用いる
第6項又は第7項に記載の衛星信号受信装置。
(第9項)
前記受信品質が最も良い衛星信号と、前記下限よりも受信品質が良い全ての衛星信号の合計数が前記所定数未満である場合、前記信号選択部は、選択される衛星信号の合計数が前記所定数になるように、前記下限以下の受信品質の衛星信号をGNSS種別の優先順位に基づいて選択する
第1項ないし第8項のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置。
(第10項)
前記受信品質が最も良い衛星信号と、前記下限よりも受信品質が良い全ての衛星信号の合計数が前記所定数未満である場合、前記信号選択部は、選択される衛星信号の合計数が前記所定数になるように、前記下限以下の受信品質の衛星信号をDOP値に基づいて選択する
第6項ないし第9項のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置。
(第11項)
衛星信号受信装置が実行する衛星信号処理方法であって、
GNSSアンテナにより受信した衛星信号の受信品質に基づいて、所定数の衛星信号を選択する信号選択ステップと、
前記信号選択ステップにより選択された所定数の衛星信号を用いて測位又は時刻同期を実行する計測ステップと
を備える衛星信号処理方法。
(第12項)
コンピュータを、第1項ないし第10項のうちいずれか1項に記載の衛星信号受信装置における各部として機能させるためのプログラム。
【0119】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0120】
本特許出願は2020年11月18日に出願した国際出願PCT/JP2020/043044、及び2021年5月28日に出願した国際出願PCT/JP2021/020391に基づきその優先権を主張するものであり、国際出願PCT/JP2020/043044及び国際出願PCT/JP2021/020391の全内容を本願に援用する。
【符号の説明】
【0121】
100 計測装置
110 GNSSアンテナ
120 信号受信部
130 信号選択部
140 計測部
150 出力部
160 信号データ格納部
170 バイアス値設定部
180 バイアス値格納部
1000 ドライブ装置
1001 記録媒体
1002 補助記憶装置
1003 メモリ装置
1004 CPU
1005 インタフェース装置
1006 表示装置
1007 入力装置
1008 出力装置