(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045299
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】改変ヌクレアーゼを産生するトランスジェニック動物およびトランスジェニック胚
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20240326BHJP
A01K 67/0275 20240101ALI20240326BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240326BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20240326BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240326BHJP
C12N 15/89 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12N15/55
A01K67/0275 ZNA
C12N15/11 Z
C12N9/16 Z
C12N15/63 Z
C12N15/89 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024008570
(22)【出願日】2024-01-24
(62)【分割の表示】P 2022063839の分割
【原出願日】2019-08-14
(31)【優先権主張番号】62/764,905
(32)【優先日】2018-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】10-2019-0065613
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】519397105
【氏名又は名称】ラート バイオ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ゴー
(72)【発明者】
【氏名】ユム、スー ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジム、ギョン ミン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ウォン ユ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジ ヒョン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】改変ヌクレアーゼのコンポーネントを産生するトランスジェニック動物およびトランスジェニック胚を提供する。
【解決手段】改変ヌクレアーゼのコンポーネントを産生するトランスジェニック動物(または胚)は、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物(または胚)であり、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、第1ツールボックスは、第1細胞ゲノムの第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座は第2遺伝子座と異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のタンパク質を発現するトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法であって、前記方法は、
標的エクソポリヌクレオチドを含むゲノムを有する有蹄動物の胚または受精卵を調整することと、
前記標的エクソポリヌクレオチドのいくつかの核酸配列に結合することができるドナーおよびガイド核酸を調整することと、
前記ドナーおよび前記ガイド核酸を、調整された前記受精卵または前記胚にマイクロインジェクションして、修飾された標的エクソポリヌクレオチドを含むゲノムを有する有蹄動物の胚または受精卵を生成することと、
前記有蹄動物の胚または前記受精卵を代理母に移植することと、を備え、
前記標的エクソポリヌクレオチドは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする核酸、および外因性配列であるガイド核酸結合配列(標的配列)を含み、
前記ガイド核酸は、前記標的エクソポリヌクレオチドに存在する前記ガイド核酸結合配列(標的配列)と相補的結合を形成するガイドRNAであり、
前記ガイド核酸は、RNA配列、または前記ガイドRNAをコードするDNA配列を含むベクターとしてマイクロインジェクションされ、
前記ドナーは、前記目的のタンパク質をコードする核酸を含み、前記ドナーは、ベクターの形態であり、
前記トランスジェニック有蹄動物は、ゲノムにおいて、前記目的のタンパク質をコードする前記核酸を含み、前記目的のタンパク質をコードする前記核酸が、前記標的エクソポリヌクレオチドが修飾されるように前記標的エクソポリヌクレオチドに挿入され、
これにより、前記トランスジェニック有蹄動物は、前記ゲノムに挿入された前記目的のタンパク質をコードする前記核酸によって、前記目的のタンパク質を発現する、
トランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において開示される詳細は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントを産生するトランスジェニック動物およびトランスジェニック胚に関する。
【0002】
具体的には、本明細書において開示される詳細は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有するキメラトランスジェニック動物およびキメラトランスジェニック胚に関する。
【0003】
より具体的には、本明細書において開示される詳細は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが第1遺伝子座に位置するゲノムを有する第1細胞と、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座とは異なる第2遺伝子座に位置するゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物およびトランスジェニック胚に関する。
【0004】
追加的に、本明細書において開示される詳細は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードする第1ポリヌクレオチドが第1遺伝子座に位置するゲノムを有する第1細胞と、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードする第2ポリヌクレオチドが第1遺伝子座に位置するゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物およびトランスジェニック胚に関する。この場合、第1ポリヌクレオチドの配列は、第2ポリヌクレオチドと異なる。
【背景技術】
【0005】
現在の傾向では、CRISPR/Cas9を含む遺伝子編集ツールを使用する遺伝子操作が、様々な種の動物および植物に適用されている。
【0006】
従来の遺伝子操作は、遺伝子編集ツールを外から細胞または個体に提供するための方法に依存してきた。しかしながら、この方法は、遺伝子編集ツールが細胞または個体に外から注入されるとき、遺伝子操作の効率が低いという問題を有する。
【0007】
遺伝子編集ツールをコードする遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニック動物が使用されるとき、遺伝子編集ツールが動物または細胞において発現され得るので、その結果、遺伝子操作の効率がより高くなる。
【0008】
追加的に、遺伝子編集ツールをコードする遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニック動物が使用されるとき、様々な遺伝子がノックインまたはノックアウトされる複数の動物を調製できる。上では、遺伝子編集ツールをコードする遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニック動物をプラットフォーム技術として使用することができる。
【0009】
更に、トランスジェニック動物が大型動物であるとき、有用性は小型動物の場合より良いことがあり得る。
【0010】
従って、遺伝子編集ツールをコードする遺伝子が挿入されたゲノムを有する大型動物を開発する必要がある。しかしながら、大型動物における遺伝子操作は、小型動物と比較すると、技術的限界に起因して、発展が遅い。
【0011】
[技術的問題]
一実施形態において、本開示は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック動物に関する。
【0012】
別の実施形態において、本開示は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック胚に関する。
【0013】
本開示の目的は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントを発現させることができるトランスジェニック動物またはトランスジェニック胚を使用して、より効果的な遺伝子操作を可能にすることである。
【0014】
本開示の別の目的は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントを発現させることができるトランスジェニック動物またはトランスジェニック胚を使用して様々な遺伝子がノックインまたはノックアウトされた複数の細胞、胚および/または動物を調製することである。
【0015】
[技術的解決法]
本開示の一態様によれば、本発明は、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物を提供し、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、標的部位は、動物のエンドポリヌクレオチド、または、動物のゲノムに含まれる第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置するエクソポリヌクレオチドであり、第1ツールボックスは、第1細胞のゲノムの第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座は第2遺伝子座と異なる。
【0016】
本開示の別の態様によれば、本発明は、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物を提供し、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、標的部位は、動物のエンドポリヌクレオチド、または、動物のゲノムに含まれる第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置するエクソポリヌクレオチドであり、第1ツールボックスの配列は第2ツールボックスの配列と異なり、第1ツールボックスは第1細胞のゲノムの第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座は第2遺伝子座と同一である。
【0017】
本開示の一態様によれば、本発明は、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚を提供し、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、標的部位は、胚のエンドポリヌクレオチド、または、胚のゲノムに含まれる第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置するエクソポリヌクレオチドであり、第1ツールボックスは、第1細胞のゲノムの第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座は第2遺伝子座と異なる。
【0018】
本開示の別の態様によれば、本発明は、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚を提供し、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、標的部位は、胚のエンドポリヌクレオチド、または、胚のゲノムに含まれる第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置するエクソポリヌクレオチドであり、エクソポリヌクレオチドは、トランスジェニック胚のゲノムにおける第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置し、第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と異なり、第1ツールボックスは、第1細胞のゲノムの第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座は、第2遺伝子座と同一である。
【0019】
本開示の一態様によれば、本発明は、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスおよび修飾部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物を提供し、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、標的部位は、第1領域、第2領域、第3領域を含み、第1領域は、第2領域の5'末端に位置し、第3領域は、第2領域の3'末端に位置し、修飾部位は、第4領域、第5領域および第6領域を含み、第4領域は、第5領域の5'末端に位置し、第6領域は、第5領域の3'末端に位置し、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は、第5領域の配列と異なる。
【0020】
本開示の別の態様によれば、本発明は、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスおよび修飾部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚を提供し、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、標的部位は、第1領域、第2領域、第3領域を含み、第1領域は、第2領域の5'末端に位置し、第3領域は、第2領域の3'末端に位置し、修飾部位は、第4領域、第5領域および第6領域を含み、第4領域は、第5領域の5'末端に位置し、第6領域は、第5領域の3'末端に位置し、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は、第5領域の配列と異なる。
【0021】
本開示の一態様によれば、本発明は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニック胚を調製するための方法を提供し、方法は、ベクターを受精卵または胚にマイクロインジェクションする段階を含み、ベクターは、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含み、ベクターは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターである。
【0022】
本開示の別の態様によれば、本発明は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニック胚を調製するための方法を提供し、方法は、i)改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニックドナー細胞を調製する段階と、ii)トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵子に移植する段階とを含む。
【0023】
本開示の更なる態様によれば、本発明は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニック動物を調製するための方法を提供し、方法は、i)改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニック胚を調製する段階と、ii)トランスジェニック胚を代理母の子宮に移植する段階とを含む。
【0024】
本開示の一態様によれば、本発明は、ゲノムに存在する標的部位において生じた遺伝子編集を含むゲノムを有する胚を調製するための方法を提供し、方法は、標的部位に結合可能なガイド核酸を受精卵または胚に提供する段階を含み、受精卵または胚は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有し、ガイド核酸は、RNAの形態、または、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに組み込まれる形態である。
【0025】
本開示の別の態様によれば、本発明は、ゲノムに存在する標的部位において生じる遺伝子編集を含むゲノムを有する胚を調製するための方法を提供し、方法は、i)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノム、および、ゲノムにおいて存在する標的部位において生じた遺伝子編集を有するトランスジェニックドナー細胞を調製する段階と、ii)トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵子に移植する段階とを含む。
【0026】
本開示の更なる態様によれば、本発明は、ゲノムに存在する標的部位において生じた遺伝子編集を含むゲノムを有する動物を調製するための方法を提供し、方法は、i)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノム、および、ゲノムに存在する標的部位において生じた遺伝子編集を有する胚を調製する段階と、ii)代理母の子宮に胚を移植する段階とを含む。
【0027】
本開示のなお更なる態様によれば、本発明は、ゲノムに存在する標的部位において生じた遺伝子編集を含むゲノムを有する胚を調製するための方法を提供し、方法は、発現調節因子に影響することが可能な材料および条件のうち少なくとも1つを受精卵または胚に提供する段階を含み、受精卵または胚は、i)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドと、ii)標的部位に結合可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドと、iii)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端のうち少なくとも1つに位置する発現調節因子とを含むゲノムを有する。
【0028】
本開示の更なる態様によれば、本発明は、ゲノムに存在する標的部位において生じた遺伝子編集を含むゲノムを有する胚を調製するための方法を提供し、方法は、i)ゲノムを有するトランスジェニックドナー細胞を調製する段階であって、ゲノムは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、標的部位に結合可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端とガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端とのうち少なくとも1つに位置する発現調節因子を含み、ゲノムは、ゲノムに存在する標的部位において生じる遺伝子編集を含む、段階と、ii)トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵子に移植する段階とを含む。
【0029】
本開示のなお更なる態様によれば、本発明は、ゲノムに存在する標的部位において生じた遺伝子編集を含むゲノムを有する動物を調製するための方法を提供し、方法は、i)ゲノムを有する胚を調製する段階であって、ゲノムは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、標的部位に結合可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端とガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端とのうち少なくとも1つに位置する発現調節因子を含み、ゲノムは、ゲノムに存在する標的部位において生じた遺伝子編集を含む、段階と、ii)胚を代理母の子宮に移植する段階とを含む。
[発明の効果]
本明細書によって開示される技術によれば、以下の効果が生じる。
【0030】
本明細書によって開示される一実施形態によれば、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック動物が提供され得る。追加的に、遺伝子操作を実行できるトランスジェニック動物が、より効果的に提供され得る。更に、様々な遺伝子がノックインまたはノックアウトされた細胞、胚および/または動物を調製するためのプラットフォームのトランスジェニック動物が提供され得る。
【0031】
本明細書によって開示される別の実施形態によれば、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック胚が提供され得る。追加的に、遺伝子操作をより効果的に実行できるトランスジェニック胚が提供され得る。更に、様々な遺伝子がノックインまたはノックアウトされた細胞、胚および/または動物を調製するためのプラットフォームのトランスジェニック胚が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスを示す。
【
図2】改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドのいくつかの実施形態を示す。
【0033】
【
図3】細胞に存在するゲノムから形成される染色体を示す。
【
図4】染色体に挿入されるツールボックスのいくつかの形態を示す。
【0034】
【
図5】ツールボックスが挿入されたゲノムをそれぞれ有する体細胞および生殖細胞を示す。
【0035】
【
図6】ツールボックスが挿入されたゲノムを有する1細胞期受精卵、ならびに、1細胞期受精卵から分割される2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、および、16細胞期胚を示す。
【0036】
【
図7】ツールボックスがいくつかの細胞の各ゲノムに挿入される2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚を示す。
【0037】
【
図8】発現調節因子を有しない、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスと、ツールボックスが挿入されたゲノムにおいて特定の標的部位が切断される形態を示す。
【
図9】発現調節因子を含むツールボックスのいくつかの実施形態を示す。
【
図10】発現調節因子のいくつかの実施形態を示す。
【0038】
【
図11】PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスのいくつかの実施形態を示す。
【0039】
【
図12】PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおける遺伝子編集のプロセスを示す。
【0040】
【
図13】PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおける遺伝子編集の別のプロセスを示す。
【0041】
【
図14】PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおける遺伝子編集の更に別のプロセスを示す。
【0042】
【
図15】標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および、リンカーをコードするポリヌクレオチドをドナーポリヌクレオチドにノックインするプロセス、ならびに、ドナーポリヌクレオチドがノックインされた細胞、または、当該細胞を含むトランスジェニック動物から標的タンパク質を産生するプロセスを示す。
【0043】
【
図16】表面ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を選択する方法を示す。
【0044】
【
図17】遺伝子編集が表面ツールボックスにおいて生じた細胞を選択する方法を示す。
【0045】
【
図18】自殺ツールボックスが挿入されたゲノム、自殺ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞、自殺ツールボックスにおいて遺伝子編集が生じた形態、および、自殺ツールボックスにおいて遺伝子編集が生じた細胞を示す。
【0046】
【
図19】SRYノックアウトツールボックスが挿入されたゲノム、および、SRYノックアウトツールボックスが挿入されたゲノムにおいてSRY遺伝子がノックアウトされたゲノムの形態を示す。
【0047】
【
図20】XY染色体分類ツールボックスが挿入されたゲノム、ならびに、XX染色体を有する胚、および、XY染色体を有する胚がXY染色体分類ツールボックスによって分類されるプロセスを示す。
【0048】
【
図21】トランスポザーゼの発現を誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターによって調節できる切除ツールボックスの実施形態を示す。
【0049】
【
図22】トランスポザーゼの発現を誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターによって調節できる切除ツールボックスの別の実施形態を示す。
【0050】
【
図23】リコンビナーゼの発現を誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターによって調節できる切除ツールボックスの実施形態を示す。
【0051】
【
図24】緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子(緑色蛍光タンパク質遺伝子)が含まれるベクターの一部、および、赤色蛍光タンパク質をコードする遺伝子(赤色蛍光タンパク質遺伝子)が含まれるベクターの一部を示す。
【0052】
【
図25】蛍光タンパク質をコードする遺伝子(蛍光タンパク質遺伝子)を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するドナー細胞における蛍光タンパク質の発現を示す画像を示す。
【0053】
【
図26】クローン胚における、緑色蛍光タンパク質遺伝子または赤色蛍光タンパク質遺伝子のmRNA発現の有無を示す、RT‐PCRの結果、および、クローン胚のゲノムにおける、緑色蛍光タンパク質遺伝子または赤色蛍光タンパク質遺伝子の挿入を確認する、DNA PCRの結果を示す画像を示す。
【0054】
【
図27】蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するクローン胚における蛍光タンパク質の発現を示す画像を示す。
【0055】
【
図28】蛍光タンパク質遺伝子を含む各ベクターにおけるいくつかのベクターの部分的構成を示す。
【0056】
【
図29】黄色蛍光タンパク質をコードする遺伝子(黄色蛍光タンパク質遺伝子)を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシ、および、トランスジェニックウシにおける黄色蛍光タンパク質の発現を確認する結果を示す画像を示す。
【0057】
【
図30】緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシにおける緑色蛍光タンパク質の発現を確認する結果を示す画像を示す。
【0058】
【
図31】発現調節因子、緑色蛍光タンパク質遺伝子および赤色蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシ、ならびに、発現調節因子に影響する物質でトランスジェニックウシが処理されるときに赤色蛍光タンパク質の発現を確認する結果を示す画像を示す。
【0059】
【
図32】発現調節因子、緑色蛍光タンパク質遺伝子および赤色蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシにおける緑色蛍光タンパク質遺伝子の挿入および転写を確認するDNA PCRおよびRT‐PCRの結果、ならびに、トランスジェニックウシにおける発現調節因子に影響する物質による処理に従って、緑色蛍光タンパク質遺伝子が除去され、赤色蛍光タンパク質遺伝子だけが存在することを確認するDNA PCRの結果を示す画像を示す。
【0060】
【
図33】蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する子ウシ、および、子ウシの初代培養細胞における蛍光タンパク質の発現を示す画像を示す。
【0061】
【
図34】蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する子ウシのゲノムにおける蛍光タンパク質遺伝子の存在を確認するDNA PCRの分析結果を示す画像を示す。
【0062】
【
図35】ゲノムに挿入される緑色蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスの数に従って、蛍光タンパク質の発現量の差異を示す画像を示す。
【0063】
【
図36】緑色蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するウシの母乳における緑色蛍光タンパク質の発現を確認する視覚的結果およびELISAの結果を示す画像を示す。
【0064】
【
図37】細胞のゲノムに挿入される緑色蛍光タンパク質遺伝子をノックアウトするためのsgRNA発現ベクターおよびCas9発現ベクターを示す概略図を示す。
【0065】
【
図38】蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するウシ線維芽細胞へのsgRNA発現ベクターおよびCas9発現ベクターのトランスフェクション後の、緑色蛍光タンパク質が発現していない視覚的結果、および、緑色蛍光タンパク質遺伝子のインデルを確認する結果を示す画像を示す。
【0066】
【
図39】緑色蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する初代培養細胞が、緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子を標的化することが可能なgRNA、Cas9、およびドナーDNA(ピューロマイシン耐性遺伝子)でトランスフェクトされた場合において、ドナーDNAがノックインされる結果を示す画像を示す。
【0067】
【
図40】緑色蛍光タンパク質を標的化する、sgRNA発現ベクター、CRISPR/Cas9発現ベクター、および、ドナーDNA(ピューロマイシン耐性遺伝子)発現ベクターでトランスフェクトされた初代培養細胞において緑色蛍光タンパク質が発現しないことを示す画像を示す。
【0068】
【
図41】ウシ初代培養細胞のゲノムに存在する緑色蛍光タンパク質遺伝子を標的化するドナーポリヌクレオチドがノックインされるプロセスを示す概略図を示す。
【0069】
【
図42】緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入、ノックインされ、次に発現されるゲノムを有するウシ初代培養細胞における緑色蛍光タンパク質遺伝子を標的化する赤色蛍光タンパク質遺伝子を示す画像お示す。
【0070】
【
図43】spCas9遺伝子を含むツールボックスが含まれるベクターを示す概略図、ならびに、spCas9遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを各々が有するトランスジェニック胚およびトランスジェニックウシを示す画像を示す。
【0071】
【
図44】spCas9遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシの初代培養細胞における赤色蛍光タンパク質の発現を示す視覚的結果、spCas9遺伝子がトランスジェニックウシのゲノムに挿入されることを示すDNA PCRの結果、および、トランスジェニックウシのゲノムに挿入されるspCas9遺伝子の発現を示すRT‐PCRの結果を示す。
【0072】
【
図45】Cas9遺伝子が挿入されたゲノムを有するウシを使用する標的遺伝子をノックアウトするプロセスを示す概略図を示す。
【0073】
【
図46】spCas9遺伝子が挿入されたゲノムを有するウシを使用する、PRNP遺伝子、ベータラクトグロブリン(BLG)遺伝子、網膜芽細胞腫1(Rb1)遺伝子、Nanog遺伝子、p53遺伝子、および、βカゼイン(BCN)遺伝子のノックアウト結果を示す画像を示す。
【0074】
【
図47】spCas9遺伝子が挿入されたゲノムを有するウシ配偶子を使用して調製された胚盤胞に、PRNP遺伝子を標的化するガイド核酸を注入した後、PRNP遺伝子のノックアウトを確認する電気泳動および配列分析の結果を示す画像を示す。
【0075】
【
図48】spCas9遺伝子が挿入されたゲノムを有するウシの自然交配によって得られる子ウシの初代培養細胞において赤色蛍光タンパク質が発現されること、および、DNA PCRによって、spCas9遺伝子およびFat1遺伝子が子ウシゲノムに挿入されたことを示す画像を示す。
【0076】
【
図49】spCas9遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシの初代培養細胞に、PRNP遺伝子を標的化するsgRNAをトランスフェクションした後、PRNP遺伝子のインデルを確認する電気泳動の結果を示す画像を示す。
【0077】
【
図50】HDRのドナーポリヌクレオチドベクターの一部、および、HITIのドナーポリヌクレオチドベクターの一部を示す概略図を示す。
【
図51】HITIによる、mCherry遺伝子のノックインを確認する結果を示す画像を示す。
【
図52】HDRによる、mCherry遺伝子のノックインを確認する結果を示す画像を示す。
【0078】
【
図53】体細胞核移植を介して調製されたmCherry遺伝子がノックインされた胚、および、mCherry遺伝子がノックインされた胚におけるmCherry発現を示す画像を示す。
【0079】
【
図54】spCas9およびsgRNAの発現を可能にするための最終発現ベクターの一部を示す概略図を示す。
【0080】
【
図55】spCas9遺伝子およびsgRNAをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシの初代培養細胞における赤色蛍光タンパク質の発現、ならびに、トランスジェニックウシにおける線維芽細胞におけるベータ‐ラクトグロブリン遺伝子のインデルを確認するfPCRの結果を示す画像を示す。
【0081】
【
図56】RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節できるベクターの一部を示す概略図を示す。
【0082】
【
図57】RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節できる細胞に対する、Creリコンビナーゼの処理の有無に従って、標的遺伝子のインデルの有無をDNA PCRによって確認する結果を示す画像を示す。
【0083】
【
図58】配列全体のうち網掛けの部分が第1ホモロジーアームおよび第2ホモロジーアームをそれぞれ表す、HDRのドナーベクターの配列を示す画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0084】
本明細書によって提供される一実施形態によれば、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有するトランスジェニック胚が提供され得る。
【0085】
例えば、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有するトランスジェニック受精卵またはトランスジェニック胚が提供され得る。具体的には、胚は偶蹄類の胚であり得る。更に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に、受精卵または胚のゲノムに存在する標的部位に特異的に結合可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを更に含むトランスジェニック受精卵またはトランスジェニック胚が提供され得る。このとき、発現調節因子は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端のうち少なくとも1つに含まれ得る。
【0086】
別の例において、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚が提供され得て、第1ツールボックスは第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座および第2遺伝子座は異なる。第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得る。標的部位は、胚のエンドポリヌクレオチド、または、胚のゲノムに含まれるエクソポリヌクレオチドであり得て、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得る。このとき、第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一でも異なってもよい。
【0087】
別の例において、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚が提供され得て、第1ツールボックスは第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座および第2遺伝子座は互いに同一である。第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得る。標的部位は、胚のエンドポリヌクレオチド、または、胚のゲノムに含まれるエクソポリヌクレオチドであり得て、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得る。このとき、第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と異なる。第1細胞のゲノムは、第1ツールボックスと同一の配列を有する第3ツールボックスを更に含み得る。第2細胞のゲノムは、第2ツールボックスと同一の配列を有する第4ツールボックスを更に含み得る。トランスジェニック胚は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないゲノムを有する第3細胞を更に備え得る。
【0088】
別の例において、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、標的部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚が提供され得る。第1ツールボックスは、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に結合できる第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得て、第2細胞のゲノムは、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できる第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る。追加的に、ITR配列は更に、第1ツールボックスの5'末端および3'末端に含まれ得る。このとき、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよく、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよい。標的部位はエンドポリヌクレオチドであり得る。具体的には、標的部位は、トランスジェニック胚のゲノムに存在する18bp~25bpの塩基配列であり得る。標的部位はエクソポリヌクレオチドであり得る。標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接する配列であり得る。標的部位およびPAM配列は、第1ITR配列および第2ITR配列の間に含まれ得る。
【0089】
本明細書によって提供される別の実施形態によれば、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有するトランスジェニック胚を調製するための方法が提供され得る。
【0090】
トランスジェニック胚を調製するための一方法は、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを受精卵または胚にマイクロインジェクションする段階を含み得る。追加的に、方法は、トランスポゾン遺伝子と相互作用できるトランスポザーゼを受精卵または胚にマイクロインジェクションする段階を含み得る。トランスポザーゼは、タンパク質、ポリペプチド、または、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの形態であり得る。ポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに含まれるものであり得る。更に、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、トランスポゾン遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントと共に単一ベクターに組み込まれ得て、次に、受精卵または胚にマイクロインジェクションされ得る。上記の方法によって調製できる1つの種類のトランスジェニック胚は、第1改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座に含まれるゲノムを有する第1細胞と、第2改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座とは異なる第2遺伝子座に含まれるゲノムを有する第2細胞とを備え得る。このとき、第1改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの配列は互いに同一でも異なってもよい。上記の方法によって調製できる別の種類のトランスジェニック胚は、第1改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座に含まれるゲノムを有する第1細胞と、第2改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座に含まれるゲノムを有する第2細胞とを備え得る。このとき、第1改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの配列は互いに同一でも異なってもよい。
【0091】
トランスジェニック胚を調製するための別の方法は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニックドナー細胞を調製する段階と、トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵子に移植する段階を含み得る。トランスジェニックドナー細胞の調製は、トランスポゾン遺伝子および改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで細胞を形質転換することを含み得る。追加的に、トランスジェニックドナー細胞の調製は、トランスポゾン遺伝子と相互作用できるトランスポザーゼで細胞を形質転換することを更に含み得る。トランスポザーゼは、タンパク質、ポリペプチド、または、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの形態であり得る。ポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに含まれるものであり得る。更に、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、トランスポゾン遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントと共に単一ベクターに組み込まれ得て、次に、受精卵または胚にマイクロインジェクションされ得る。
【0092】
本明細書によって提供される更に別の実施形態によれば、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有するトランスジェニック動物が提供され得る。
【0093】
例えば、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有するトランスジェニック動物が提供され得る。具体的には、動物は偶蹄類であり得る。追加的に、動物に存在する標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが第1ITR配列と第2ITR配列との間に更に含まれるトランスジェニック動物が提供され得る。このとき、発現調節因子は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端と、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端とのうち1または複数に含まれ得る。
【0094】
別の例において、ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、ツールボックスを含まないゲノムを有する第2細胞とを備えるキメラトランスジェニック動物が提供され得る。具体的には、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、標的部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物が提供され得る。第1ツールボックスは、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に結合できる第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得て、第2細胞のゲノムは、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できる第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る。追加的に、ITR配列は更に、第1ツールボックスの5'末端および3'末端に含まれ得る。このとき、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよく、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよい。標的部位はエンドポリヌクレオチドであり得る。具体的には、標的部位は、トランスジェニック動物のゲノムに存在する18bp~25bpの塩基配列であり得る。標的部位はエクソポリヌクレオチドであり得る。標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接する配列であり得る。標的部位およびPAM配列は、第1ITR配列および第2ITR配列の間に含まれ得る。
【0095】
別の例において、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物が提供され得て、第1ツールボックスは第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座および第2遺伝子座は異なる。第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得る。標的部位は、動物のエンドポリヌクレオチド、または、動物のゲノムに含まれ、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得るエクソポリヌクレオチドであり得る。このとき、第1ツールボックスの配列、および、第2ツールボックスの配列は、互いに同一でも異なってもよい。
【0096】
別の例において、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物が提供され得て、第1ツールボックスは第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座および第2遺伝子座は互いに同一である。第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得る。標的部位は、動物のエンドポリヌクレオチド、または、動物のゲノムに含まれ、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得るエクソポリヌクレオチドであり得る。このとき、第1ツールボックスの配列、および、第2ツールボックスの配列は、互いに異なる。第1細胞のゲノムは、第1ツールボックスと同一の配列を有する第3ツールボックスを更に含み得る。第2細胞のゲノムは、第2ツールボックスと同一の配列を有する第4ツールボックスを更に含み得る。トランスジェニック動物は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないゲノムを有する第3細胞を更に備え得る。
【0097】
本明細書によって提供される別の例示的な実施形態によれば、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有するトランスジェニック動物を調製するための方法が提供され得る。
【0098】
トランスジェニック動物を調製するための一方法は、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを受精卵または胚にマイクロインジェクションする段階を含み得る。追加的に、トランスジェニック胚の調製は、トランスポゾン遺伝子と相互作用できるトランスポザーゼを受精卵または胚にマイクロインジェクションすることを更に含み得る。
【0099】
トランスジェニック動物を調製するための別の方法は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニックドナー細胞を調製する段階と、トランスジェニックドナー細胞の核を動物の除核卵子に移植する段階とを含み得る。トランスジェニックドナー細胞を調製する段階は、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで細胞を形質転換する段階を含み得る。追加的に、トランスジェニックドナー細胞の調製は、トランスポゾン遺伝子と相互作用できるトランスポザーゼで細胞を形質転換することを更に含み得る。トランスポザーゼは、タンパク質、ポリペプチド、または、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの形態であり得る。ポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに含まれるものであり得る。更に、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドが、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドと共に単一ベクターに含まれる形態であり得る。
【0100】
本明細書によって提供される一実施形態によれば、遺伝子編集ゲノムを有するトランスジェニック胚が提供され得る。
【0101】
例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、第1ITR配列と第2ITR配列との間のガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、エンドポリヌクレオチドがノックアウトされるゲノムを有するトランスジェニック胚が提供され得る。このとき、ガイド核酸はエンドポリヌクレオチドと特異的に結合できる。エンドポリヌクレオチドがノックアウトされる形態は、i)少なくとも1つのヌクレオチドがエンドポリヌクレオチドの配列に含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが、エンドポリヌクレオチドの配列に更に含まれる形態、および、iii)少なくとも1つのヌクレオチドがエンドポリヌクレオチドの配列から欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが更に含まれる形態であり得る。
【0102】
別の例において、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスおよび修飾部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚が提供され得る。第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一でも異なってもよい。標的部位はエンドポリヌクレオチドであり得る。標的部位はエクソポリヌクレオチドであり得る。修飾部位は、標的部位の配列が遺伝子編集によって変更されたものであり得る。具体的には、標的部位は、第1領域、第2領域および第3領域を含み得て、修飾配列は、第4領域、第5領域および第6領域を含み得る。このとき、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は第5領域の配列と異なる。第2領域および第5領域は各々、PAM配列を含み得る。第3領域および第6領域は各々、PAM配列を含み得る。第5領域の配列は、i)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に更に含まれる形態、または、iii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列から欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが更に含まれる形態であり得る。ii)およびiii)の場合、それに追加的に含まれる少なくとも1つのヌクレオチドは、編集対応コンポーネント、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチド、非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチド、非転写ポリヌクレオチド、人工イントロン、発現調節因子のうち1または複数を含み得る。
【0103】
更に別の例において、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、ツールボックスを含まないが修飾遺伝子を含むゲノムを有する第2細胞とを含むトランスジェニック胚が提供され得る。このとき、第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち1または複数を含み得る。修飾部位は、標的部位の配列が遺伝子編集によって変更されたものであり得る。具体的には、標的配列は、第1領域、第2領域および第3領域を含み得て、修飾配列は、第4領域、第5領域および第6領域を含み得る。このとき、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は第5領域の配列と異なる。第5領域の配列は、i)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に更に含まれる形態、および、iii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列から欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが更に含まれる形態であり得る。
【0104】
本明細書によって提供される別の実施形態によれば、遺伝子編集ゲノムを有するトランスジェニック動物が提供され得る。
【0105】
例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、第1ITR配列と第2ITR配列との間のガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、エンドポリヌクレオチドがノックアウトされるゲノムを有するトランスジェニック動物が提供され得る。このとき、ガイド核酸はエンドポリヌクレオチドと特異的に結合できる。エンドポリヌクレオチドがノックアウトされる形態は、i)少なくとも1つのヌクレオチドがエンドポリヌクレオチドの配列に含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが、エンドポリヌクレオチドの配列に更に含まれる形態、および、iii)少なくとも1つのヌクレオチドがエンドポリヌクレオチドの配列から欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが更に含まれる形態のうち、いずれか1つであり得る。
【0106】
別の例において、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスおよび修飾部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物が提供され得る。第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一でも異なってもよい。このとき、第1ツールボックスおよび/または第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち1または複数を含み得る。標的部位はエンドポリヌクレオチドであり得る。標的部位はエクソポリヌクレオチドであり得る。修飾部位は、標的部位の配列が遺伝子編集によって変更されたものであり得る。具体的には、標的配列は、第1領域、第2領域および第3領域を含み得て、修飾配列は、第4領域、第5領域および第6領域を含み得る。このとき、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は第5領域の配列と異なる。第2領域および第5領域はPAM配列を含み得る。第3領域および第6領域はPAM配列を含み得る。第5領域の配列は、i)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に更に含まれる形態、および、iii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列から欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが更に含まれる形態であり得る。ii)およびiii)の場合、それに更に含まれる少なくとも1つのヌクレオチドは、編集対応コンポーネント、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチド、非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチド、非転写ポリヌクレオチド、人工イントロン、発現調節因子のうち1または複数を含み得る。標的部位および修飾部位は、PAM配列に隣接する配列であり得る。標的部位および修飾部位は、5'末端方向に第1ITR配列を各々含み得て、3'末端方向に第2ITR配列を各々含み得る。
【0107】
[用語の定義]
[形質転換(遺伝子修飾)]
本明細書において使用される場合、「形質転換(遺伝子修飾)」という用語は、細胞における動物ゲノムに含まれるポリヌクレオチドを人工的に形質転換することを指す。形質転換は、細胞の動物ゲノムに含まれるポリヌクレオチドの一部を欠失または置換すること、および、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを動物ゲノムに挿入することを含む。
【0108】
本明細書において使用される場合、「形質転換(遺伝子修飾)」という用語は、細胞において発現させることができるタンパク質またはRNAの追加、修飾および欠失を含む。
【0109】
「部位特異的形質転換」
本明細書において使用される場合、「部位特異的形質転換」という用語は、細胞における動物ゲノムの特異的な位置で生じる形質転換を指す。特異的な位置は、動物ゲノム上のヌクレオチド配列によって判定され得る。例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸の一部に相補結合可能である、動物ゲノム上のヌクレオチド配列を認識でき、それにより、部位特異的形質転換を生じさせる。
【0110】
[形質転換細胞(トランスジェニック細胞)]
本明細書において使用される場合、「形質転換細胞(トランスジェニック細胞)」という用語は、細胞内に動物ゲノムの形質転換部分を含む細胞を指す。
【0111】
細胞の動物ゲノムにおいて、形質転換部分を含む第1細胞は、細胞分裂を経ることがあり得る。第1細胞の細胞分裂を通して得られた第2細胞の動物ゲノムは、第1細胞の形質転換部分と同一のヌクレオチド配列を有する部分を含み得る。本明細書において使用される場合、「形質転換細胞」という用語は、第1細胞および第2細胞を含む。
【0112】
[トランスジェニック動物(形質転換動物)]
本明細書において使用される場合、「トランスジェニック動物(形質転換動物)」という用語は、少なくとも1つの形質転換細胞を含む動物を指す。動物F0は、第1形質転換細胞を含み得る。動物F0は、子F1を産生し得る。F1およびF1の子に含まれる少なくとも1つの形質転換細胞は、第1形質転換細胞の動物ゲノムにおける形質転換部分と同一のヌクレオチド配列を有する部分を含む動物ゲノムを含み得る。本明細書において使用される場合、「トランスジェニック動物」という用語は、F0、F1、および、F1の子を含む。
【0113】
形質転換のための直接的な人工的操作が動物F1の産生中に、または、動物F1の産生後に適用されない場合でも、動物F1が形質転換細胞を含む場合、動物F1をトランスジェニック動物とみなすことができる。
【0114】
直接的な人工的操作が形質転換のために適用される後にF1が動物F0から得られる場合において、動物F1をトランスジェニック動物とみなすことができる。
【0115】
[エンドポリヌクレオチド]
本明細書において使用される場合、「エンドポリヌクレオチド」という用語は、形質転換が生じなかった細胞における動物ゲノムに含まれるポリヌクレオチドを指す。
【0116】
形質転換が生じなかった第1細胞が、細胞分裂を経ることがあり得る。第1細胞の細胞分裂を通して得られる第2細胞は、形質転換細胞であり得る。第2細胞は、第1細胞に含まれるエンドポリヌクレオチドと同一の配列を有するポリヌクレオチドを含み得る。本明細書において使用される場合、「エンドポリヌクレオチド」という用語は、第2細胞に含まれるポリヌクレオチドのうち、第1細胞のエンドポリヌクレオチドと同一の配列を有するポリヌクレオチドを含む。
【0117】
[エクソポリヌクレオチド]
本明細書において使用される場合、「エクソポリヌクレオチド」という用語は、細胞に導入されるポリヌクレオチドを指す。細胞は形質転換細胞であっても、そうでなくてもよい。エクソポリヌクレオチドは、細胞における動物ゲノムに挿入され得る、または、細胞における動物ゲノムと別個に存在し得る。
【0118】
エクソポリヌクレオチドが導入される第1細胞は、細胞分裂を経ることがあり得る。第1細胞の細胞分裂を通して得られる第2細胞は、エクソポリヌクレオチドと同一の配列を有するポリヌクレオチドを含み得る。本明細書において使用される場合、「エクソポリヌクレオチド」という用語は、第2細胞に含まれるポリヌクレオチドのうち、第1細胞のエクソポリヌクレオチドと同一の配列を有するポリヌクレオチドを含む。
【0119】
エクソポリヌクレオチドが導入される細胞を含む動物(F0)は、子(F1)を産生できる。F1およびF1の子は、F0のエクソポリヌクレオチドと同一の配列を有するポリヌクレオチドを含む細胞を含み得る。本明細書において使用される場合、「エクソポリヌクレオチド」という用語は、F1およびF1の子の細胞に含まれるポリヌクレオチドのうち、F0のエクソポリヌクレオチドと同一の配列を有するポリヌクレオチドを含む。
【0120】
[挿入]
本明細書において使用される場合、「挿入」という用語は、「ヌクレオチド挿入」および「ポリヌクレオチド挿入」を含む。本明細書において使用される場合、「ヌクレオチド挿入」という用語は、核酸の中央、5'末端または3'末端にヌクレオチドを追加することを指す。本明細書において使用される場合、「ポリヌクレオチド挿入」という用語は、核酸の中央、5'末端または3'末端にポリヌクレオチドを追加することを指す。
【0121】
[欠失]
本明細書において使用される場合、「欠失」という用語は、「ヌクレオチド欠失」および「ポリヌクレオチド欠失」を含む。本明細書において使用される場合、「ヌクレオチド欠失」という用語は、核酸に含まれるヌクレオチドの欠失を指す。本明細書において使用される場合、「ポリヌクレオチド欠失」という用語は、核酸に含まれるポリヌクレオチドの欠失を指す。
【0122】
[置換]
本明細書において使用される場合、「置換」という用語は、「ヌクレオチド置換」および「ポリヌクレオチド置換」を含む。本明細書において使用される場合、「ヌクレオチド置換」という用語は、核酸に含まれるヌクレオチドを別のヌクレオチドと置換することを指す。本明細書において使用される場合、「ポリヌクレオチド置換」という用語は、核酸に含まれるポリヌクレオチドを別のポリヌクレオチドと置換することを指す。
【0123】
[ノックイン(ノック‐イン)]
本明細書において使用される場合、「ノックイン」という用語は、遺伝子を含むエクソポリヌクレオチドを、細胞における動物ゲノムに挿入または置換することを指す。
【0124】
例えば、ヒトアルブミン遺伝子を含むエクソポリヌクレオチドを、細胞における非ヒト動物ゲノムに挿入することができる。この場合、非ヒト動物ゲノムを含む細胞は、ヒトアルブミンを発現することが可能であり得て、このプロセスは、ヒトアルブミン遺伝子のノックインと呼ばれ得る。
【0125】
[ノックアウト(ノック‐アウト)]
本明細書において使用される場合、「ノックアウト」という用語は、細胞における動物ゲノムに存在する遺伝子が機能できないようにすることを指する。遺伝子は、細胞における動物ゲノム上に位置する対応する遺伝子におけるポリヌクレオチドの形質転換によってノックアウトされ得る。
【0126】
例えば、ヒトアルブミン遺伝子を含むエクソポリヌクレオチドは、細胞における非ヒト動物ゲノムに存在する非ヒトアルブミン遺伝子のエクソンに対応するヌクレオチド配列に挿入され得る。この場合、細胞は、非ヒトアルブミンを発現できず、このプロセスは、非ヒトアルブミン遺伝子のノックアウトと呼ばれ得る。
【0127】
別の例において、細胞における非ヒト動物ゲノム上に存在する非ヒトアルブミン遺伝子のエクソンの一部は、標的部位として非ヒトアルブミン遺伝子のエクソンの一部を標的化する改変ヌクレアーゼを使用して欠失され得る。この場合、細胞は、非ヒトアルブミンを発現できず、このプロセスは、非ヒトアルブミン遺伝子のノックアウトと呼ばれ得る。
【0128】
[改変ヌクレアーゼ]
本明細書において使用される場合、「改変ヌクレアーゼ」という用語は、動物ゲノムへの部位特異的形質転換が可能なタンパク質、または、当該タンパク質を含む複合体を指す。タンパク質は、天然において発見された非修飾タンパク質、または、修飾/改変タンパク質であり得る。
【0129】
本開示の改変ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、および、CRISPR/酵素系を含み得るが、これらに限定されない。
【0130】
[標的部位]
改変ヌクレアーゼの標的部位は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントによって認識できる核酸の領域を指し得る。
【0131】
例えば、CRISPR/酵素系の標的部位は、核酸上のガイド核酸の部分的領域と同一である、または、それと相補結合が可能な少なくとも1つのヌクレオチド配列であり得る。
【0132】
本明細書において使用される場合、「同一のヌクレオチド配列」という用語の例として、ウラシル(U)とチミン(T)との間の関係が含まれ得る。本明細書において使用される場合、「相補結合が可能なヌクレオチド配列」という用語の例として、ウラシル(U)とアデニン(A)との間の関係が含まれ得る。標的部位は、ゲノムに存在するエンドポリヌクレオチドであり得る。標的部位は、ゲノムに挿入されるエクソポリヌクレオチドであり得る。
【0133】
[CRISPR/酵素系]
CRISPR/酵素系とは、細胞における動物ゲノム上の標的部位、または、エクソポリヌクレオチドの標的部位との相互作用によって、標的部位の一部を切断することが可能なタンパク質を含む複合体を指す。CRISPR/酵素系は、ガイド核酸およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼを含み得る。
【0134】
[ガイド核酸]
本明細書において使用される場合、「ガイド核酸」という用語は、細胞における動物ゲノムの標的部位、または、エクソポリヌクレオチドの標的部位と結合できる核酸を指す。本明細書において使用される場合、「ガイド核酸」という用語は、一本鎖ガイド核酸(単一鎖ガイド核酸)、および、少なくとも2本の鎖の核酸から成るガイド核酸を含む。
【0135】
一本鎖ガイド核酸(単一鎖ガイド核酸)はgRNAを含み得る。gRNAは、プロトスペーサードメイン、第1相補ドメイン、第2相補ドメイン、近位ドメイン、および、尾部ドメインのうち、少なくとも1つを含み得る。
【0136】
プロトスペーサードメインは、動物ゲノムの標的部位の一部、または、エクソポリヌクレオチドの標的部位の一部に相補結合できるヌクレオチド配列を含むドメインである。
【0137】
第1相補ドメインおよび第2相補ドメインは、互いに対する相補結合を有し得るドメインであり、それにより、RNA誘導性エンドヌクレアーゼとの相互作用が可能である。第2相補ドメインは、第1相補ドメインの下流に位置し得る。近位ドメインは、第2相補ドメインの下流に位置し得る。尾部ドメインは、gRNAの3'末端に位置し得る。
【0138】
少なくとも2本鎖の核酸から成るガイド核酸は、デュアルgRNAを含み得る。デュアルgRNAは、crRNAおよびtracrRNAを含み得る。crRNAは、プロトスペーサードメインおよび第1相補ドメインを含み得る。tracrRNAは、第2相補ドメイン、近位ドメイン、および、尾部ドメインを含み得る。
【0139】
[RNA誘導性エンドヌクレアーゼ]
本明細書において使用される場合、「RNA誘導性エンドヌクレアーゼ」という用語は、ポリヌクレオチドと相互作用が可能なドメイン、および、ポリヌクレオチドの中央を切断可能なドメインを含むポリペプチドまたはタンパク質を指す。
【0140】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、spCas9、CjCas9、StCas9、SaCas9、NmCas9、Cpf1タンパク質、および、それらの変異体を含み得るが、それらに限定されない。
【0141】
修飾/改変の目的に従って、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、不活性型Cas9、Cas9ニッカーゼ、eSpCas9およびSpCas9‐HF1を含み得るが、これらに限定されない。
【0142】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、核酸との相互作用によって二本鎖を切断でき、または、核酸との相互作用によって二本鎖のうち一本鎖を切断できる。代替的に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、核酸と相互作用できるが、核酸を切断しないことがあり得る。
【0143】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼが核酸と相互作用し、それにより、二本鎖、または、二本鎖のうちの1つの鎖を切断する場合、ヌクレオチド挿入またはポリヌクレオチド挿入が切断領域において生じ得る。代替的に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼが核酸と相互作用し、それにより、二本鎖、または、二本鎖のうちの1つの鎖を切断する場合、ヌクレオチド欠失またはポリヌクレオチド欠失が切断領域において生じ得る。
【0144】
[CRISPR/酵素系の標的部位]
細胞における動物ゲノムの標的部位、または、エクソポリヌクレオチドの標的部位は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列の5'末端または3'末端に隣接するヌクレオチド配列であり得る。
【0145】
PAM配列は、NGG、NNGRRT、NNAGAAW、NNNNGATT、NNNVRYACおよびTTNを含み得るが、これらに限定されない。Nは、A、T、U、G、Cのうち、いずれか1つであり得る。Vは、A、C、Gのうち、いずれか1つであり得る。Wは、AおよびTのうち、いずれか1つであり得る。YはCおよびTのうちのいずれか1つであり得る。
【0146】
PAM配列は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼに応じて変化し得る。例えば、spCas9、または、その変異体のPAM配列は、NGGであり得る。例えば、SaCas9、または、その変異体のPAM配列は、NNGRRTであり得る。例えば、StCas9、または、その変異体のPAM配列は、NNAGAAWであり得る。例えば、NmCas9、または、その変異体のPAM配列は、NNNGATTであり得る。例えば、CjCas9、または、その変異体のPAM配列は、NNNVRYACであり得る。例えば、Cpf1、および、その変異体のPAM配列は、TTNであり得る。
【0147】
[トランスポゾン系]
[トランスポゾン]
本明細書において使用される場合、「トランスポゾン」という用語は、細胞における動物ゲノム中で転移できるポリヌクレオチドを指す。追加的に、「トランスポゾン」という用語は、核酸と細胞における動物ゲノムとの間で転移できるポリヌクレオチドを指す。
【0148】
トランスポゾンは、クラスIトランスポゾン(レトロトランスポゾン)およびクラス2トランスポゾン(DNAトランスポゾン)に分割され得る。
【0149】
クラスIトランスポゾンは、RNAが核酸の、または、細胞における動物ゲノム中のトランスポゾンDNAから転写され、次に、RNAから逆転写されるDNAが、動物ゲノムにおける異なる位置に挿入されるという方式で機能する。
【0150】
クラス2トランスポゾンは、核酸または動物ゲノムにおけるトランスポゾンDNAが細胞において切断され、切断されたトランスポゾンDNAが、動物ゲノムにおける異なる位置に挿入されるという方式で機能する。
【0151】
クラス2トランスポゾンは、5'末端の第1ポリヌクレオチド、3'末端の第2ポリヌクレオチド、および、第3ポリヌクレオチドを含み得る。第1ポリヌクレオチドおよび第2ポリヌクレオチドは、逆位末端反復(以降、ITR)配列を含み得る。第3ポリヌクレオチドは、第1ポリヌクレオチドと第2ポリヌクレオチドとの間に位置し得る。第3ポリヌクレオチドは、エクソポリヌクレオチドを含み得る。第3ポリヌクレオチドは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0152】
別段の定めが無い限り、「トランスポゾン」という用語は、トランスポゾンがクラス2トランスポゾンである場合を指す。しかしながら、「トランスポゾン」が「クラスIトランスポゾン」として解釈されるときでも技術的な側面から問題が無い場合、トランスポゾンをクラス2トランスポゾンとして解釈する必要は無い。
【0153】
[トランスポザーゼ]
本明細書において使用される場合、「トランスポザーゼ」という用語は、細胞における核酸または動物ゲノムに位置するクラス2トランスポゾンの両端に位置するITR配列との相互作用によって、クラス2トランスポゾンを切断し、または、クラス2トランスポゾンを動物ゲノムに挿入できるタンパク質を指す。
【0154】
トランスポザーゼは、hobo/Ac/Tam、P因子、Sleeping Beauty (SB)、Frog Prince、Hsmar1、Hsmar2、piggyBac (PB)、Tol2、および、それらの変異体を含み得るが、それらに限定されない。トランスポザーゼは、細胞における核酸または動物ゲノムに存在するトランスポゾンを切断できる。トランスポザーゼは、クラス2トランスポゾンを動物ゲノムに挿入できる。
【0155】
トランスポザーゼがクラス2トランスポゾンを動物ゲノムに挿入する位置は、動物ゲノム上のヌクレオチド配列に関連しないことがあり得る。
【0156】
トランスポザーゼがクラス2トランスポゾンを動物ゲノムに挿入する位置は、トランスポザーゼによって認識できる、動物ゲノム上の特定のヌクレオチド配列によって判定され得る。例えば、Sleeping Beautyの場合、Sleeping Beautyトランスポザーゼは、動物ゲノム上のTA配列を認識することによって、トランスポゾンを挿入できる。追加的に、piggyBacトランスポザーゼは、動物ゲノム上のTTAA配列を認識することによって、トランスポゾンを挿入できる。
【0157】
トランスポザーゼおよびクラス2トランスポゾンは、細胞における動物ゲノムにエクソポリヌクレオチドを挿入するために使用され得る。例えば、エクソポリヌクレオチドは、5'末端におけるpiggyBacトランスポザーゼ、および、3'末端におけるpiggyBacとそれぞれ相互作用することが可能なITR配列を含むエクソポリヌクレオチドを細胞に送達することによって、細胞における動物ゲノムに挿入され得る。
【0158】
この場合、エクソポリヌクレオチドが挿入される位置を事前に判定する、または、エクソポリヌクレオチドが挿入される位置に応じてエクソポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を変更する必要は無い。
【0159】
追加的に、細胞における動物ゲノムに挿入できるエクソポリヌクレオチドの数には、制限が無い。従って、細胞の標的タンパク質の発現量は、標的タンパク質をコードする複数のエクソポリヌクレオチドを、細胞における動物ゲノムに挿入することによって、増加させることができる。
【0160】
追加的に、エクソポリヌクレオチドがトランスポザーゼによって挿入される位置は、細胞の遺伝子発現が阻害されない位置であり得る。例えば、piggyBacトランスポザーゼの場合、トランスポゾンは、動物ゲノムにおけるイントロン、5'UTR、または、3'UTRに挿入できる。
【0161】
[部位特異的組み換え]
本明細書において使用される場合、「部位特異的組み換え」という用語は、核酸または動物ゲノム上の同一または同じ特性を有する2つのヌクレオチド配列が対を形成し、それにより、ヌクレオチド配列の対の間に相互の交換が生じる現象を指す。この場合、相互の交換が生じるヌクレオチド配列は、リコンビナーゼ認識部位(RRS)と呼ばれる。追加的に、RRSの対と相互作用し、部位特異的組み換えを促進するタンパク質は、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)と呼ばれる。
【0162】
[リコンビナーゼ認識部位]
本開示のリコンビナーゼ認識部位(RRS)は、loxp、rox、FRT、attP、attB、および、これらの変異体を含み得るが、これらに限定されない。loxp変異体は、loxp66、loxp71、loxp72、loxp2722、loxp5171およびloxpm2を含み得るが、これらに限定されない。rox変異体は、rox4R、rox6R、および、rox2Nを含み得るが、これらに限定されない。FRT変異体は、F3、F5、F10、F11、F12、F13、F14、F15、F16を含み得るが、これらに限定されない。
【0163】
RRSにおいて、2つは対を形成し得て、それにより、SSRと相互作用し得る。loxpまたはloxp変異体において、同一のRRSの2つは、対を形成し得る。roxまたはrox変異体において、同一のRRSの2つは対を形成し得る。FRTまたはFRT変異体において、同一のRRSの2つは、対を形成し得る。attPはattBと対を形成し得る。
【0164】
[部位特異的リコンビナーゼ]
部位特異的リコンビナーゼ(SSR)または本開示のリコンビナーゼは、Cre、Dre、Flp、KD、B2、B3、lambda、HK022、HP1、gamma delta、ParA、Tn3、Hin、Gin、Pin、phiC31、Bxb1、R4、または、その変異体を含み得るが、それらに限定されない。
【0165】
SSRはRRSの対と相互作用できる。CreまたはCre変異体は、loxpまたはloxp変異体と特異的に相互作用し得る。DreまたはDre変異体は、roxまたはrox変異体と特異的に相互作用し得る。FlpまたはFlp変異体は、FRTまたはFRT変異体と特異的に相互作用し得る。PhiC31またはphiC31変異体は、attPまたはattBと特異的に相互作用し得る。
【0166】
[部位特異的組み換えの種類]
本開示の部位特異的組み換えは、挿入、欠失、逆位、交換を含み得る。部位特異的組み換えは、可逆的、または、非可逆的であり得る。
【0167】
[挿入]
RRSの対の1つが第1核酸に位置し、他方が第2核酸に位置するとき、第2核酸の挿入が、RRSの対と特異的であるSSRとの相互作用を通して、第1核酸で生じ得る。
【0168】
挿入が可逆的であるとき、第2核酸は、SSRとの相互作用を通して欠失し得る。
【0169】
[欠失]
RRSの対が、核酸に関して同一方向に位置するとき、RRSの対に特異的なSSRとの相互作用を通して、RRSの対の間に位置するポリヌクレオチドの欠失が生じ得る。
【0170】
欠失が可逆的であるとき、RRSの対の間に位置するポリヌクレオチドの挿入が生じ得る。
【0171】
[逆位]
RRSの対が、核酸に関して反対方向に位置するとき、RRSの対に特異的なSSRとの相互作用を通して、RRSの対の間に位置するポリヌクレオチドの逆位が生じ得る。
【0172】
逆位が可逆的であるとき、RRSの対の間に位置するポリヌクレオチドの逆位が再び生じ得る。
【0173】
[交換]
RRS AおよびRRS Bが対を形成し、RRS CおよびRRS Dが対を形成するとき、RRS AおよびRRS Cは、第1核酸に位置し得て、RRS BおよびRRS Dは、第2核酸に位置し得る。第1核酸において、RRS Cは、RRS Aの更に下流に位置し得て、第2核酸において、RRS Dは、RRS Bの更に下流に位置し得る。この場合、第1のRRSの対に特異的であるSSRとの相互作用、および、第2のRRSの対と対を形成するSSRとの相互作用が生じ得る。交換は、RRS AとRRS Cとの間に位置するポリヌクレオチドと、RRS BとRRS Dとの間に位置するポリヌクレオチドとの間で生じ得る。
【0174】
交換が可逆的であるとき、交換は、RRS AとRRS Cとの間に位置するポリヌクレオチドと、RRS BとRRS Dとの間に位置するポリヌクレオチドとの間で再び生じ得る。
【0175】
[マーカー遺伝子]
本明細書において使用される場合、「マーカー遺伝子」という用語は、意図された形質転換が達成される細胞を選択するように、細胞における動物ゲノムに挿入される遺伝子を指す。マーカー遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含むエクソポリヌクレオチドが細胞に導入され、次に、エクソポリヌクレオチドが動物ゲノムに挿入されるとき、マーカー遺伝子は細胞において発現され得るので、細胞の選択に役立つ。
【0176】
マーカー遺伝子は、抗生物質耐性遺伝子、抗原遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、蛍光タンパク質をコードする遺伝子、表面マーカー遺伝子、自殺遺伝子を含み得るが、それらに限定されない。
【0177】
[抗生物質耐性遺伝子]
マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子であるとき、細胞選択は、複合抗生物質と共に培養することによって実行され得る。複合抗生物質には、アンピシリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、および、カナマイシンが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0178】
[抗原遺伝子]
マーカー遺伝子が、抗原をコードする遺伝子、または、抗原として作用できるヌクレオチドを含む遺伝子であるとき、抗原として特異的に作用できる抗体と共に培養することによって細胞選択が実行され得る。抗原は、表面抗原を含み得る。表面抗原は、CD分子を含み得る。抗体は、磁性粒子またはフルオロフォアと相互作用できる。
【0179】
[ルシフェラーゼ遺伝子]
マーカー遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子であるとき、ルシフェリンと共に培養することによって、細胞選択が実行され得る。
【0180】
[βガラクトシダーゼ遺伝子]
マーカー遺伝子がβガラクトシダーゼ遺伝子であるとき、5‐ブロモ‐4‐クロロ‐3‐インドリル‐ベータ‐d‐ガラクトピラノシド(X‐gal)と共に培養することによって細胞選択が実行され得る。
【0181】
[蛍光タンパク質をコードする遺伝子(蛍光タンパク質遺伝子)]
マーカー遺伝子が、蛍光タンパク質をコードする遺伝子であるとき、細胞選択は、蛍光シグナルを測定することによって実行され得る。蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(以降、GFP)、黄色蛍光タンパク質(以降、YFP)、および、赤色蛍光タンパク質(以降、RFP)を含み得るが、これらに限定されない。
【0182】
[自殺遺伝子]
マーカー遺伝子が自殺遺伝子であるとき、自殺遺伝子と対を形成するプロドラッグと共に培養することによって細胞選択が実行され得る。自殺遺伝子は、チミジンキナーゼ遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、シトクロムP450遺伝子、ニトロレダクターゼ遺伝子、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ遺伝子、および、カルボキシペプチダーゼG2遺伝子を含み得るが、これらに限定されない。プロドラッグは、アシクロビル、ガンシクロビル、5‐フルオロシトシン、シクロホスファミド、イホスファミド、5‐[アジリジン‐1‐イル]‐2,4‐ジニトロベンズアミド(CB1954)、6‐メチルプリン‐2‐デオキシリボシド(MeP‐dR)、アラビノフラノシル‐2‐フルオロアデニン一リン酸(F‐araA)、およびN,N‐[(2‐クロロエチル)(2‐メシルオキシエチル)アミノ]安息香酸)(CMDA)を含み得るが、これらに限定されない。
【0183】
[発現調節因子]
本明細書において使用される場合、「発現調節因子」という用語は、転写調節因子、転写後処理調節因子、翻訳調節因子および翻訳後修飾調節因子を含む。
【0184】
[転写調節因子]
本明細書において使用される場合、「転写調節因子」という用語は、RNA、または、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからmRNAを合成することを開始、促進、阻害、または、終結することが可能である物質またはヌクレオチド配列を指す。
【0185】
転写調節因子は、エンハンサー、サイレンサー、リプレッサー、アクチベーター、インヒビター、プロモーター、転写終止コドン、および、loxp‐転写終止コドン‐loxp(以降、LTL)を含み得るが、これらに限定されない。転写終止コドンは、ポリT配列(用語「ポリT配列」が、用語「ポリA配列」と交換可能に使用される)およびAATAAA配列を含み得るが、これらに限定されない。
【0186】
[転写後処理調節因子]
本明細書において使用される場合、「転写後処理調節因子」という用語は、ポリヌクレオチドから合成されたmRNAの構造に対する修飾を生じさせることが可能な化学化合物、ポリヌクレオチド、または、酵素を指す。
【0187】
転写後処理調節因子は、5'キャップ、3'切断、3'ポリアデニル化、または、スプライシングを生じさせ得る化学化合物、ポリヌクレオチド、または、酵素を含み得るが、これらに限定されない。
【0188】
[翻訳調節因子]
本明細書において使用される場合、「翻訳調節因子」という用語は、mRNAからポリペプチドを合成することを開始、促進、阻害、または、終結することが可能な物質またはヌクレオチド配列を指す。
【0189】
翻訳調節因子は、3'未翻訳領域(以降、3'UTR)、5'未翻訳領域(以降、5'UTR)、エクソン、イントロン、開始コドン、終止コドン、コザック配列IRES、2Aペプチドをコードするポリヌクレオチド、loxp‐終止コドン‐loxp(以降、LSL)を含み得るが、これらに限定されない。
【0190】
[翻訳後修飾調節因子]
本明細書において使用される場合、「翻訳後修飾調節因子」という用語は、mRNAから合成されるポリペプチドの構造に対する修飾を生じさせ得る化学化合物、ポリヌクレオチド、または、酵素を指す。
【0191】
翻訳後修飾調節因子には、ポリヌクレオチドから転写および翻訳されるポリペプチドのグリコシル化、折り畳み、ユビキチン化、SUMO化、アセチル化、リン酸化を引き起こし得る化学化合物または酵素が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0192】
[プロモーター]
本開示の「プロモーター」とは、核酸における、RNAポリメラーゼと相互作用することにより転写を開始する核酸配列である。本開示の「プロモーター」には、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターが含まれる。
【0193】
[構成プロモーター]
本開示の「構成プロモーター」は、細胞における環境変化に関係なく、転写を開始させるプロモーターを指す。構成プロモーターには、CMVプロモーター、CAGプロモーター、U6プロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0194】
[組織特異的プロモーター]
本開示の「組織特異的プロモーター」は、動物の特異的な組織だけで転写を開始することが可能であるプロモーターを指す。組織特異的プロモーターには、乳腺組織特異的プロモーターまたは生殖器特異的プロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0195】
乳腺組織特異的プロモーターには、アルファ‐カゼインプロモーター、ベータ‐カゼインプロモーター、カッパ‐カゼインプロモーター、ミュー‐カゼインプロモーター、および、ベータ‐ラクトグロブリンプロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0196】
生殖器特異的プロモーターには、卵巣特異的プロモーターおよび精巣特異的プロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0197】
[誘導性プロモーター]
本開示の「誘導性プロモーター」は、細胞内環境または細胞外環境の変化に応じて転写を開始するプロモーターを指す。誘導性プロモーターは、化学誘導性プロモーター、温度誘導性プロモーター、光誘導性プロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0198】
化学誘導性プロモーターには、抗生物質誘導性プロモーター、アルコール誘導性プロモーター、ステロイド誘導性プロモーター、金属誘導性プロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。抗生物質誘導性プロモーターには、Tet‐onプロモーター、Tet‐offプロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。ステロイド誘導性プロモーターには、エストロゲン誘導性プロモーターが含まれ得るが、これに限定されない。金属誘導性プロモーターには、銅誘導性プロモーターが含まれ得るが、これに限定されない。
【0199】
温度誘導性プロモーターには、高温刺激誘導性プロモーターおよび低温刺激誘導性プロモーターが含まれ得るが、これに限定されない。高温刺激誘導性プロモーターには、Hspプロモーターが含まれ得るが、これに限定されない。
【0200】
[送達]
本明細書において使用される場合、「送達」という用語は、エクソポリヌクレオチドを生体の臓器、組織、細胞または細胞内小器官に導入することを指し得る。
【0201】
本明細書において使用される場合、「送達」という用語は、ポリペプチドまたはタンパク質を生体の臓器、組織、細胞または細胞内小器官に導入することも指し得る。
【0202】
本開示において、「送達」という用語は、「提供」という用語と交換可能に使用され得る。
[非ウイルス送達]
送達には非ウイルス送達が含まれ得る。
【0203】
非ウイルス送達はネイキッド核酸ベクターを使用し得る。ネイキッド核酸ベクターには、円状の核酸ベクターおよび線状の核酸ベクターが含まれ得る。円状の核酸ベクターには、プラスミドベクターが含まれ得るが、これに限定されない。
【0204】
非ウイルス送達は非ウイルスベクターを使用し得る。非ウイルスベクターには、人工的な染色体、リポソーム、ポリマー、脂質ポリマーハイブリッド、無機ナノ粒子、および、有機ナノ粒子が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0205】
非ウイルス送達には、マイクロインジェクション、遺伝子ガン、電気穿孔、超音波穿孔、光穿孔、磁気穿孔、水穿孔が含まれ得るが、これらに限定されない。
[ウイルス送達]
遺伝子送達にはウイルス送達が含まれ得る。
【0206】
ウイルス送達は、RNAベースのウイルスベクターを使用し得る。RNAベースウイルスベクターには、オンコレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヒトフォーミーウイルスベクターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0207】
ウイルス送達は、DNAベースウイルスベクターを使用し得る。DNAベースウイルスベクターには、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、エプスタイン‐バールウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、ポックスウイルスベクターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0208】
ウイルス送達の場合、大きいサイズの遺伝子の送達効率が優れているという利点がある。
【0209】
[マイクロインジェクション]
本明細書において使用される場合、「マイクロインジェクション」という用語は、生体の臓器、組織、細胞または細胞内小器官に物質を注入することを指す。物質には化学化合物、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが含まれ得る。
【0210】
本明細書において使用される場合、「マイクロインジェクション」という用語は、配偶子マイクロインジェクション、接合子マイクロインジェクション、胚マイクロインジェクションおよび体細胞マイクロインジェクションが含まれ得る。
【0211】
本明細書において使用される場合、「配偶子マイクロインジェクション」という用語は、ポリヌクレオチドを含む物質を配偶子にマイクロインジェクションすることを指す。本明細書において使用される場合、「配偶子マイクロインジェクション」という用語には、ポリヌクレオチドを含む物質を配偶子にマイクロインジェクションして、受精段階、分化段階などを経てトランスジェニック動物を得る技法が含まれる。
【0212】
本明細書において使用される場合、「接合子マイクロインジェクション」という用語は、ポリヌクレオチドを含む物質を接合子にマイクロインジェクションすることを指す。本明細書において使用される場合、「接合子マイクロインジェクション」という用語には、ポリヌクレオチドを含む物質を接合子にマイクロインジェクションして、分化段階などを経てトランスジェニック動物を得る技法が含まれる。
【0213】
本明細書において使用される場合、「胚マイクロインジェクション」という用語は、ポリヌクレオチドを含む物質を胚にマイクロインジェクションすることを指す。本明細書において使用される場合、「胚マイクロインジェクション」という用語には、ポリヌクレオチドを含む物質を胚にマイクロインジェクションして、分化段階などを経てトランスジェニック動物を得る技法が含まれる。
【0214】
本開示の「体細胞マイクロインジェクション」は、ポリヌクレオチドを含む物質を体細胞にマイクロインジェクションすることを指す。
【0215】
[核移植]
本明細書において使用される場合、「核移植」という用語は、核を卵母細胞から除去して、別の細胞から得られたドナー核酸を卵母細胞に導入することを指す。本明細書において使用される場合、「体細胞核移植(SCNT)」という用語は、ドナー核酸を含む細胞が体細胞である核移植を指す。
【0216】
本明細書において使用される場合、「核移植」という用語は、動物の卵母細胞から核を除去して、動物細胞から得られたドナー核酸を導入する段階、リプログラミング段階、分化段階、および、代理母を介した移植段階を経て、ドナー核酸を含む動物細胞と同一の遺伝情報を含む動物を得る技法を含む。本明細書において使用される場合、ドナー核酸を含む動物が体細胞であるとき、「体細胞核移植(SCNT)」という用語は、上述の段階を経て、体細胞と同一の遺伝情報を含む動物を得る技法を含む。
【0217】
トランスジェニック動物は、ドナー核酸を含む細胞への送達を通して調製され得る。例えば、トランスジェニック動物は、体細胞マイクロインジェクション後に、体細胞核移植(SCNT)を通して調製され得る。
[動物]
本開示の動物には非ヒト動物が含まれ得る。動物には哺乳類が含まれ得る。哺乳類には有蹄類が含まれ得る。
【0218】
有蹄類にはウマ目が含まれ得る。ウマ目にはウマが含まれ得るが、これに限定されない。
【0219】
有蹄類には偶蹄類が含まれ得る。偶蹄類には、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0220】
哺乳類には齧歯動物が含まれ得る。齧歯動物は、ラットおよびマウスが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0221】
哺乳類には、ウサギ目が含まれ得る。ウサギ目には、ウサギ、ノウサギが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0222】
[バイオリアクター]
本開示の「バイオリアクター」は、生体において生じる生物学的または化学的反応を引き起こすことができる生物を指す。
【0223】
生物には、細胞、細胞株、動物が含まれ得る。生物には、トランスジェニック細胞、トランスジェニック細胞株、トランスジェニック動物が含まれ得る。例えば、バイオリアクターは、トランスジェニックマウスであり得る。代替的に、バイオリアクターは、トランスジェニックラットであり得る。代替的に、バイオリアクターは、トランスジェニックウシであり得る。
【0224】
バイオリアクターは、標的物質を産生するのに使用され得る。標的物質には、標的タンパク質が含まれ得る。例えば、バイオリアクターが、ヒトアルブミン遺伝子がノックインされたトランスジェニックウシであるとき、トランスジェニックウシは、ヒトアルブミンを産生するのに使用され得る。
【0225】
[第1部 ツールボックス]
[1.ツールボックスの定義]
本明細書において使用される場合、「ツールボックス」という用語は、細胞における動物ゲノムに挿入される、または、挿入できるエクソポリヌクレオチドを指す。ツールボックスを挿入できる細胞は、形質転換細胞であっても、そうでなくてもよい。
【0226】
本明細書において使用される場合、「ツールボックス」という用語は、細胞における動物ゲノムの形質転換のためのエクソポリヌクレオチドを指し得る。例えば、ツールボックスは、細胞における動物ゲノムにおける、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。別の例において、ツールボックスには、細胞における動物ゲノムにおいて部位特異的形質転換を実行することが可能である、改変ヌクレアーゼのコンポーネント、または、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが含まれ得る。別の例において、ツールボックスにはトランスポゾンが含まれ得る。
【0227】
[2.ツールボックスコンポーネント]
ツールボックスは、5'末端の第1端領域、3'末端の第2端領域、第1端領域と第2端領域との間に位置するコアドメインを含み得る。
【0228】
第1端領域および第2端領域は、少なくとも1つの編集可能なコンポーネントを含み得る。第1端領域および第2端領域は同一のポリヌクレオチドを含み得る。第1端領域および第2端領域は、互いに異なるポリヌクレオチドを含み得る。
【0229】
ITR配列が第1端領域および第2端領域に含まれ得て、ITR配列の間に存在するポリヌクレオチドがコアドメインに含まれ得る。コアドメインは、編集可能コンポーネントを含み得る。コアドメインは、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチドを含み得る。コアドメインは、非機能性ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み得る。コアドメインは、人工イントロンをコードするポリヌクレオチドを含み得る。コアドメインは、非機能性RNAをコードするポリヌクレオチドを含み得る。コアドメインは非転写ポリヌクレオチドを含み得る。コアドメインは、未翻訳ポリヌクレオチドを含み得る。コアドメインは発現調節因子を含み得る。コアドメインはプロモーターを含み得る。
【0230】
[2.1 編集可能コンポーネント]
[2‐1‐1 リコンビナーゼ認識部位]
ツールボックスは、RRSをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。RRSには、loxp、rox、FRT、attP、attB、それらの変異体が含まれ得るが、これらに限定されない。loxp変異体には、loxp66、loxp71、loxp72、loxp2722、loxp5171、loxpm2が含まれ得るが、これらに限定されない。rox変異体には、rox4R、rox6R、rox2Nが含まれ得るが、これらに限定されない。FRT変異体には、F3、F5、F10、F11、F12、F13、F14、F15およびF16が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0231】
[2‐1‐2 逆位末端反復(ITR)配列]
ツールボックスは、少なくとも1つのITR配列を含み得る。ITR配列は、hobo/Ac/Tam、P因子、Sleeping Beauty(SB)、Frog Prince、Hsmar1、Hsmar2、piggyBac(PB)、Tol2、または、それらの変異体と相互作用できる。
【0232】
[2‐1‐3 改変ヌクレアーゼ標的部位]
ツールボックスは、少なくとも1つの改変ヌクレアーゼ標的部位を含み得る。改変ヌクレアーゼ標的部位は、CRISPR/酵素系の標的部位を含み得る。標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接するヌクレオチド配列であり得る。
【0233】
ツールボックスは、その一端に、改変ヌクレアーゼの標的部位の一部を含み得る。ツールボックスは、その他端に、改変ヌクレアーゼの標的部位の別の一部およびPAM配列を含み得る。
【0234】
[2‐2.タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチド]
[2‐2‐1 標的タンパク質]
ツールボックスは、タンパク質をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。形質転換技術の対象となる細胞または動物において標的タンパク質を産生できる限り、標的タンパク質の種類は限定されない。
【0235】
標的タンパク質は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントを含み得る。例えば、標的タンパク質は、ZFN、TALEN、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、または、それらの修飾/改変形態を含み得るが、それらに限定されない。
【0236】
標的タンパク質には、非ヒト動物に由来するタンパク質が含まれ得る。例えば、標的タンパク質には、非ヒトアルブミン、非ヒトインターロイキン、非ヒトインスリン、非ヒトエリスロポエチン、非ヒト抗体、非ヒトオメガ3、または、それらの修飾/改変形態が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0237】
標的タンパク質には、ヒトに由来するタンパク質が含まれ得る。例えば、標的タンパク質には、ヒトアルブミン、ヒトインターロイキン、ヒトインスリン、ヒトエリスロポエチン、ヒトガンマチェーン、ヒトデルタチェーン、ヒトアルファチェーン、ヒトミューチェーン、ヒトイプシロンチェーン、ヒトカッパチェーン、ヒトラムダチェーン、または、それらの修飾/改変形態が含まれ得るが、それらに限定されない。
【0238】
[2‐2‐2.マーカー遺伝子]
ツールボックスには、マーカー遺伝子をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドが含まれ得る。マーカー遺伝子には、抗生物質耐性遺伝子、抗原遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、自殺遺伝子が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0239】
[2‐2‐3.部位特異的リコンビナーゼ]
ツールボックスは、SSRをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。SSRは、Cre、Dre、Flp、KD、B2、B3、lambda、HK022、HP1、gamma delta、ParA、Tn3、Hin、Gin、Pin、phiC31、Bxb1、R4、または、その変異体を含み得るが、それらに限定されない。
【0240】
[2‐2‐4.トランスポザーゼ]
ツールボックスは、トランスポザーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。トランスポザーゼは、hobo/Ac/Tam、P因子、Sleeping Beauty (SB)、Frog Prince、Hsmar1、Hsmar2、piggyBac (PB)、Tol2、および、それらの変異体を含み得るが、それらに限定されない。
【0241】
[2‐2‐5 エンドヌクレアーゼ]
ツールボックスは、エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。エンドヌクレアーゼには、ZFN、TALEN、RNA誘導性エンドヌクレアーゼが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0242】
ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、Cas9またはCas9の変異体を含み得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、Cpf1またはCpf1の変異体を含み得るが、これらに限定されない。
【0243】
[2‐2‐6.ガイド核酸]
ツールボックスは、crRNA、tracrRNAおよびgRNAのうち少なくとも1つをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
[2‐3.非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド]
ツールボックスは、非機能性ポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
【0244】
非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドには、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの一部、マーカー遺伝子の一部、部位特異的リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドの一部、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの一部、エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの一部が含まれ得るが、これらに限定されない。非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドには、終止コドンが含まれ得る。非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドには、LSLが含まれ得る。
【0245】
非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドには、2Aペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれ得る。非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドには、IRESが含まれ得る。
[2‐4.未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチド]
ツールボックスは、未翻訳RNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチドは、ガイド核酸を含み得る。未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチドは、AATAAA配列を含み得る。未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチドは、ポリTを含み得る。未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチドは、開始コドンを含まないことがあり得る。未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチドは、コザック配列を含まないことがあり得る。
[2‐5.非転写ポリヌクレオチド]
ツールボックスは、少なくとも1つの非転写ポリヌクレオチドを含み得る。非転写ポリヌクレオチドはプロモーターであり得る。
【0246】
非転写ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、細胞における動物ゲノムに存在しないヌクレオチド配列であり得る。この場合、標的部位として非転写ポリヌクレオチドを標的化する改変ヌクレアーゼが使用されるとき、細胞における動物ゲノムと相互作用することなく、部位特異的形質転換を実行できる。
【0247】
非転写ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、細胞において通常に発現され得るタンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチドの一部と同一であり得る。この場合、プロモーターは、非転写ポリヌクレオチドの上流に位置しないことがあり得る。
【0248】
非転写ポリヌクレオチドは、改変ヌクレアーゼ標的部位として使用され得る。例えば、非転写ポリヌクレオチドを含むツールボックスが細胞における動物ゲノムに挿入される場合、部位特異的形質転換は、Cas9、および、非転写ポリヌクレオチドの一部と同一である、または、それと相補結合することが可能であるgRNAを細胞に導入することによって、非転写ポリヌクレオチドにおいて生じ得る。
[2‐6.人工イントロン]
ツールボックスは、少なくとも1つの人工イントロンを含み得る。
【0249】
人工イントロンは、個々に、または、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドと組み合わせてツールボックスに含まれ得る。
【0250】
人工イントロンは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写ユニットに位置し得る。
【0251】
人工イントロンは、5'末端のスプライス供与部位および3'末端のスプライス受容部位を含み得る。
【0252】
RRSをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドは、人工イントロンのスプライス供与部位とスプライス受容部位との間に含まれ得る。人工イントロンは終止コドンを含み得る。人工イントロンはエンハンサーを含み得る。人工イントロンはスプライシングによって欠失され得る。
【0253】
人工イントロンは、a)標的遺伝子自体の天然イントロンに由来するイントロン、b)天然イントロンに由来するヌクレオチドの置換、欠失および/または挿入によって修飾されるイントロン、c)異なる標的遺伝子からの天然イントロン、d)異なるイントロンに由来するイントロン、e)標的遺伝子および/または異なる遺伝子のうち少なくとも1つの天然イントロン配列から誘導される異なるイントロン配列から成るキメライントロン、f)新規に合成されたシンターゼイントロン、および、g)それらの組み合わせから成る任意の群から選択され得る。
【0254】
人工イントロンは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現を増大または低下させ得る。人工イントロンは、ゲノムにおけるポリヌクレオチドの発現を増大または低下させ得る。
[2‐7.発現調節因子]
ツールボックスは、少なくとも1つの発現調節因子を含み得る。
【0255】
発現調節因子は転写調節因子を含み得る。転写調節因子は上記と同一である。
【0256】
発現調節因子は転写後処理調節因子を含み得る。転写後処理調節因子は上記と同一である。
【0257】
発現調節因子は翻訳調節因子を含み得る。翻訳調節因子は上記と同一である。
【0258】
発現調節因子は翻訳後修飾調節因子を含み得る。翻訳後修飾調節因子は、上記と同一である。
[2‐8.プロモーター」
ツールボックスはプロモーターを含み得る。
【0259】
プロモーターは構成プロモーターを含み得る。構成プロモーターは上記と同一である。
【0260】
プロモーターは組織特異的プロモーターを含み得る。組織特異的プロモーターは上記と同一である。
【0261】
プロモーターは誘導性プロモーターを含み得る。誘導性プロモーターは上記と同一である。
【0262】
[2‐9.ツールボックスの構造]
[2‐9‐1.ITR配列リコンビナーゼ認識部位または改変ヌクレアーゼ標的部位ITR配列]
ツールボックスの第1端領域および第2端領域はITR配列を含み得る。ツールボックスのコアドメインは少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位を含み得る。
【0263】
ツールボックスは、細胞における動物ゲノムの遺伝子発現に対して致死的影響を与えることなく、エクソポリヌクレオチドの挿入または交換を達成できる位置を提供できる。
【0264】
[2‐9‐2.ITR配列‐改変ヌクレアーゼ標的部位‐ITR配列]
ツールボックスの第1端領域および第2端領域はITR配列を含み得る。ツールボックスのコアドメインは、少なくとも1つの改変ヌクレアーゼ標的部位を含み得る。
【0265】
ツールボックスは、細胞における動物ゲノムの遺伝子発現に対して致死的影響を与えることなく、エクソポリヌクレオチドの挿入または交換を達成できる位置を提供できる。
【0266】
[2‐9‐3.改変ヌクレアーゼ‐リコンビナーゼ認識部位‐ITR配列をコードするITR配列ポリヌクレオチド]
【0267】
ツールボックスの第1端領域および第2端領域はITR配列を含み得る。ツールボックスのコアドメインは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスのコアドメインは少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位を含み得る。
【0268】
少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位を使用して、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドをツールボックスに挿入できる。リコンビナーゼ認識部位を使用して、部位特異的形質転換が生じ得る標的部位が変更され得る。
【0269】
少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位は、リコンビナーゼ認識部位1(RRS1)およびリコンビナーゼ認識部位2(RRS2)を含み得る。リコンビナーゼ認識部位1(RRS1)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの上流に位置し得て、リコンビナーゼ認識部位2(RRS2)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの下流に位置し得る。ツールボックスにおける、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、リコンビナーゼ認識部位1(RRS1)およびリコンビナーゼ認識部位2(RRS2)を使用して、異なるエクソポリヌクレオチドと交換され得る。
【0270】
[2‐9‐4.RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするITR配列ポリヌクレオチド‐ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド‐リコンビナーゼ認識部位‐発現調節因子‐ITR配列]
【0271】
ツールボックスの第1端領域および第2端領域はITR配列を含み得る。ツールボックスのコアドメインは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスのコアドメインは、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスのコアドメインは、少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位を含み得る。ツールボックスのコアドメインは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節する因子、および、ガイド核酸の発現を調節する因子のうち、少なくとも1つを含み得る。
【0272】
少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの上流または下流に位置し得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの発現を調節する因子は、少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位を使用して、挿入または欠失され得る。
【0273】
少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位は、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの上流または下流に位置し得る。ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの発現を調節する因子は、少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位を使用して挿入または欠失され得る。
【0274】
少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位は、リコンビナーゼ認識部位1(RRS1)またはリコンビナーゼ認識部位2(RRS2)を含み得る。リコンビナーゼ認識部位1(RRS1)は、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの上流に位置し得て、リコンビナーゼ認識部位2(RRS2)は、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの下流に位置し得る。ツールボックスにおけるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、リコンビナーゼ認識部位1(RRS1)およびリコンビナーゼ認識部位2(RRS2)を使用して欠失され得る。
【0275】
[2‐9‐5.ITR配列‐マーカー遺伝子‐ITR配列]
ツールボックスの第1端領域および第2端領域はITR配列を含み得る。ツールボックスおコアドメインは、少なくとも1つのマーカー遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含み得る。少なくとも1つマーカー遺伝子は、自殺遺伝子を含み得る。
【0276】
マーカー遺伝子は、マーカー遺伝子をコードするポリヌクレオチドの部位特異的形質転換によってノックアウトされ得る。
【0277】
[2‐9‐6.リコンビナーゼ認識部位‐トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド‐リコンビナーゼ認識部位]
【0278】
ツールボックスの第1端領域は、リコンビナーゼ認識部位1(RRS1)を含み得る。ツールボックスの第2端領域は、リコンビナーゼ認識部位1(RRS1)と対を形成するリコンビナーゼ認識部位2(RRS2)を含み得る。ツールボックスのコアドメインは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを含み得る。トランスポザーゼは、切除限定トランスポザーゼ(excision‐only transposase)を含み得る。細胞における動物ゲノムに含まれるトランスポゾンは、ツールボックスを使用して欠失され得る。
【0279】
[2‐9‐7.改変ヌクレアーゼ標的部位‐ITR配列‐エクソポリヌクレオチド‐ITR配列‐改変ヌクレアーゼ標的部位]
【0280】
ツールボックスの第1端領域および第2端領域は、改変ヌクレアーゼ標的部位を含み得る。ツールボックスのコアドメインは、第1ITR配列、第2ITR配列およびエクソポリヌクレオチドを含み得る。標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置し得る。
【0281】
エクソポリヌクレオチドは、部位特異的形質転換を実行しながら、ツールボックスを使用して、細胞における動物ゲノムに挿入され得る。追加的に、細胞における動物ゲノムにおいて部位特異的形質転換を維持しながら、エクソポリヌクレオチドだけがトランスポザーゼによって欠失され得る。
【0282】
[3.ツールボックス機能]
ツールボックスは、細胞における動物ゲノムの形質転換に必要なタンパク質または核酸の発現に使用され得る。例えば、ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドを含み得る。標的部位としてツールボックスを含む動物ゲノムにおけるヌクレオチド配列の一部を有するgRNAが細胞に導入されるとき、gRNAは、細胞において発現されるCas9と複合体を形成することにより、動物ゲノムにおける標的部位において部位特異的形質転換を誘導し得す。
【0283】
ツールボックスは、細胞における動物ゲノムに遺伝子をノックインするために使用され得る。例えば、ツールボックスは、ヒトインターロイキンをコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスは、細胞がヒトインターロイキンを発現するように、細胞におけるウシゲノムに挿入され得る。
【0284】
ツールボックスは、細胞における動物ゲノムに存在する遺伝子のノックアウトに使用され得る。例えば、ツールボックスは、細胞におけるウシゲノムにおけるウシアルブミンのエクソンをコードするポリヌクレオチドの中央に挿入されることにより、細胞がウシアルブミンを発現することを防止し得る。
【0285】
ツールボックスは、細胞における動物ゲノムにおいて、形質転換が可能な部位を提供し得る。例えば、ツールボックスは、改変ヌクレアーゼ標的部位になり得るヌクレオチド配列を含み得る。例えば、ツールボックスは、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするポリヌクレオチドを含み得る。細胞におけるウシゲノムがツールボックスを含むとき、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列の一部を標的化するgRNA、および、Cas9が、細胞に導入され得ることにより、部位特異的形質転換が、ツールボックスの外のヌクレオチド配列ではなく、ツールボックスにおける緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列の一部に誘導され得る。
【0286】
[第2部 ツールボックス挿入]
[1.ツールボックス送達ベクター]
ツールボックスを細胞における動物ゲノムに挿入するためにツールボックスが送達され得る。ツールボックスを含む核酸送達ベクターは、ネイキッド核酸ベクター、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターであり得る。
【0287】
[2.ツールボックス挿入方法]
[2‐1.相同組換えの使用]
第1ホモロジーアームは、ツールボックスの第1端領域の5'末端に位置し得る。第2ホモロジーアームは、第2端領域の3'末端に位置し得る。第1ホモロジーアームは、細胞における動物ゲノムの一部と同一のヌクレオチド配列を有し得る。第2ホモロジーアームは、細胞における動物ゲノムの一部と同一のヌクレオチド配列を有し得る。
【0288】
第1ホモロジーアームおよび第2ホモロジーアームは、細胞におけるゲノムの一部と相互作用できる。ツールボックスは、相互作用を通して、ゲノムに挿入され得る。
【0289】
[2‐2 部位特異的組み換えの使用]
ツールボックスの第1端領域は、RRS1を含み得る。ツールボックスの第2端領域は、RRS2を含み得る。
【0290】
少なくとも1つのリコンビナーゼが、ツールボックスを細胞に導入するために提供され得る。リコンビナーゼは、RRS1と相互作用できる第1リコンビナーゼを含み得る。リコンビナーゼは、RRS2と相互作用できる第2リコンビナーゼを含み得る。第1リコンビナーゼおよび第2リコンビナーゼは、互いに同一であり得る。例えば、RRS1がloxpであり、RRS2がloxp変異体であるとき、第1リコンビナーゼおよび第2リコンビナーゼはCreであり得る。
【0291】
少なくとも1つのリコンビナーゼを細胞に導入するべく、ネイキッド核酸ベクター、非ウイルスベクター、ウイルスベクター(これらは各々、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドを含む)、または、リコンビナーゼポリペプチドが使用され得る。
【0292】
ツールボックスを細胞に導入するべく、ツールボックスおよび少なくとも1つのリコンビナーゼを含む核酸が、個々の形態で提供され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸は、DNAプラスミドベクターによって送達され得て、リコンビナーゼは、リコンビナーゼポリペプチドによって送達され得る。
【0293】
ツールボックスを細胞に導入するべく、ツールボックスおよび少なくとも1つのリコンビナーゼを含む核酸が、1つの送達ベクターによって提供され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸、および、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドは、1つのDNAプラスミドベクターによって提供され得る。
[2‐3.トランスポゾン系の使用]
ツールボックスの第1端領域および第2端領域はITR配列を含み得る。
【0294】
ツールボックスを細胞に導入するべく、トランスポザーゼが提供され得る。トランスポザーゼはITR配列と相互作用できる。
【0295】
トランスポザーゼを細胞に導入するべく、ネイキッド核酸ベクター、非ウイルスベクター、ウイルスベクター(これらは各々、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを含む)、または、トランスポザーゼポリペプチドが使用され得る。
【0296】
ツールボックスを含む核酸およびトランスポザーゼが、個々の形態で提供され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸は、DNAプラスミドベクターによって送達され得て、トランスポザーゼは、ポリペプチドによって送達され得る。
【0297】
ツールボックスを含む核酸およびトランスポザーゼが、個々の形態で提供され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸は、DNAプラスミドベクターによって送達され得て、トランスポザーゼは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを含む別個のDNAプラスミドベクターによって送達され得る。
【0298】
ツールボックスおよびトランスポザーゼを含む核酸は、1つの送達ベクターによって細胞に導入され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸、および、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、1つのDNAプラスミドベクターによって提供され得る。
【0299】
[2‐4.改変ヌクレアーゼの使用]
[2‐4‐1.相同組換え修復(HDR)の使用]
第1ホモロジーアームは、ツールボックスの第1端領域の5'末端に位置し得る。第2ホモロジーアームは、ツールボックスの第2端領域の3'末端に位置し得る。第1ホモロジーアームは、細胞における動物ゲノムの一部と同一のヌクレオチド配列を有し得る。第2ホモロジーアームは、細胞における動物ゲノムの一部と同一のヌクレオチド配列を有し得る。
【0300】
ツールボックスを細胞に導入するべく、ツールボックスを含む核酸送達ベクターのいずれか1つが使用され得る。
【0301】
ツールボックスを細胞に導入するべく、改変ヌクレアーゼが提供され得る。改変ヌクレアーゼは、動物ゲノムに存在する改変ヌクレアーゼ標的部位に対して特異的に作用し得る。動物ゲノムに存在する改変ヌクレアーゼ標的部位は、第1ホモロジーアームと同一であるまたはそれに相補的であるヌクレオチド配列に位置し得て、第2ホモロジーアームと同一であるまたはそれに相補的であるヌクレオチド配列に位置し得て、または、第1ホモロジーアームと同一であるまたは相補的であるヌクレオチド配列と、第2ホモロジーアームと同一であるまたは相補的であるヌクレオチド配列との間に位置し得る。
【0302】
少なくとも1つの改変ヌクレアーゼは、改変ヌクレアーゼ、改変ヌクレアーゼタンパク質、改変ヌクレアーゼタンパク質を含む複合体、それらの組み合わせの各コンポーネントをコードするポリヌクレオチドを各々が含む、ネイキッド核酸ベクター、非ウイルスベクター、ウイルスベクターから選択されるいずれか1つにおいて提供され得る。
【0303】
例えば、Cas9タンパク質およびgRNAを含む複合体が提供され得る。別の例において、Cas9をコードするポリヌクレオチド、および、gRNAをコードするポリヌクレオチドを含むネイキッド核酸ベクターが提供され得る。
【0304】
ツールボックスを細胞に導入するべく、ツールボックスおよび少なくとも1つの改変ヌクレアーゼを含む核酸が分離形態で提供され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸は、DNAプラスミドベクターによって提供され得て、改変ヌクレアーゼは、Cas9タンパク質およびgRNAを含む複合体として提供され得る。別の例において、ツールボックスを含む核酸は、DNAプラスミドベクターによって提供され得て、改変ヌクレアーゼは、Cas9をコードするポリヌクレオチド、および、gRNAをコードするポリヌクレオチドを含むネイキッド核酸ベクターによって提供され得る。
【0305】
ツールボックスを細胞に導入するべく、ツールボックスを含む核酸および改変ヌクレアーゼが1つのベクターによって提供され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸、Cas9をコードするポリヌクレオチド、gRNAを含むポリヌクレオチドが1つのDNAプラスミドベクターによって提供され得る。
【0306】
[2‐4‐2.相同性非依存的標的化挿入(HITI)の使用]
ツールボックスの第1端領域は、第1改変ヌクレアーゼ標的部位を含み得る。ツールボックスお第2端領域は、第2改変ヌクレアーゼ標的部位を含み得る。第1改変ヌクレアーゼ標的部位および第2改変ヌクレアーゼ標的部位は、互いに同一のヌクレオチド配列を含み得る。
【0307】
ツールボックスを細胞に導入するべく、少なくとも1つの改変ヌクレアーゼが提供され得る。改変ヌクレアーゼは、第1改変ヌクレアーゼ標的部位に対して特異的に作用できる第1改変ヌクレアーゼを含み得る。改変ヌクレアーゼは、第2改変ヌクレアーゼ標的部位に対して特異的に作用できる第2改変ヌクレアーゼを含み得る。第1改変ヌクレアーゼおよび第2改変ヌクレアーゼは互いに同一であり得る。
【0308】
少なくとも1つの改変ヌクレアーゼは、改変ヌクレアーゼ、改変ヌクレアーゼタンパク質、改変ヌクレアーゼタンパク質を含む複合体、それらの組み合わせの各コンポーネントをコードするポリヌクレオチドを各々が含む、ネイキッド核酸ベクター、非ウイルスベクター、ウイルスベクターから選択されるいずれか1つにおいて提供され得る。
【0309】
ツールボックスを細胞に導入するべく、ツールボックスおよび少なくとも1つの改変ヌクレアーゼを含む核酸が分離形態で提供され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸は、DNAプラスミドベクターによって提供され得て、改変ヌクレアーゼは、Cas9タンパク質およびgRNAを含む複合体として提供され得る。別の例において、ツールボックスを含む核酸は、DNAプラスミドベクターによって提供され得て、改変ヌクレアーゼは、Cas9をコードするポリヌクレオチド、および、gRNAをコードするポリヌクレオチドを含むネイキッド核酸ベクターによって提供され得る。
【0310】
ツールボックスを細胞に導入するべく、ツールボックスを含む核酸および、少なくとも1つの改変ヌクレアーゼが1つのベクターによって提供され得る。例えば、ツールボックスを含む核酸、Cas9をコードするポリヌクレオチド、gRNAを含むポリヌクレオチドが1つのDNAプラスミドベクターによって提供され得る。
[3.ツールボックス挿入遺伝子座]
[3‐1.単一ツールボックス挿入]
細胞における動物ゲノムは1つのツールボックスを含み得る。1つのツールボックスは、動物ゲノムにおける常染色体のいずれか1つに含まれ得る。
【0311】
ツールボックスは、動物ゲノムにおける性染色体のいずれか1つに含まれ得る。ツールボックスは、動物ゲノムのX染色体に含まれ得る。ツールボックスは、動物ゲノムのY染色体に含まれ得る。
[3‐2.複数のツールボックス挿入]
細胞における動物ゲノムは2以上のツールボックスを含み得る。2以上のツールボックスのすべては互いに同一であり得る。2以上のツールボックスの1つは、残りのものと異なり得る。
【0312】
ツールボックス間の差異は、これらのツールボックスの間の配列の差異を指し得る。
【0313】
例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む第1ツールボックス、および、標的部位に結合可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含む第2ツールボックスは、2つの異なるツールボックスとして見なされ得る。
【0314】
2以上のポリヌクレオチドのすべては、1つの染色体に含まれ得る。染色体は、常染色体または性染色体であり得る。
【0315】
2以上のツールボックスは、少なくとも第1ツールボックスおよび第2ツールボックスを含み得る。この場合、第1ツールボックスは、第1染色体に位置し得て、第2ツールボックスは、第1染色体と異なる第2染色体に位置し得る。第1染色体は常染色体であり得る。第1染色体は性染色体であり得る。第2染色体は常染色体であり得る。第2染色体は性染色体であり得る。
【0316】
[3‐3.挿入遺伝子座の特性]
ツールボックスが、トランスポザーゼと相互作用できるヌクレオチド配列の間に位置し得る。トランスポザーゼと相互作用できるヌクレオチド配列は、TAおよびTTAAを含み得るが、これらに限定されない。
【0317】
ツールボックスは、細胞における動物ゲノムにおける任意のタンパク質またはRNAの発現に関与し得るポリヌクレオチド上に位置し得る。
【0318】
例えば、ツールボックスは、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチド、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチドのプロモーター、5'UTR、イントロン、エクソン、3'UTRから選択される、いずれか1つに位置し得る。ツールボックスは、細胞における動物ゲノムにおいて、タンパク質またはRNAをノックアウトし得る。例えば、ツールボックスが、ウシゲノムにおけるベータ‐ラクトグロブリン遺伝子のエクソンに位置するとき、ウシゲノムを含む細胞におけるベータラクトグロブリンの発現を防止することが可能である。
【0319】
ツールボックスは、タンパク質またはRNAの発現に関与しない細胞における動物ゲノムにおけるポリヌクレオチドに位置し得る。追加的に、ツールボックスは、細胞における動物ゲノムにおけるセーフハーバー内に位置し得る。
【0320】
動物ゲノムがマウスゲノムであるとき、マウスゲノムのセーフハーバーは、既に広く知られているrosa26遺伝子座を含み得る。
【0321】
動物ゲノムがウシゲノムであるとき、ウシゲノムのセーフハーバーは、ウシゲノムにおいて既に広く知られている位置を含み得る。ウシゲノムのセーフハーバーは、下のテーブル1に示される遺伝子座を含み得るが、これらに限定されない。下のテーブル1に記載される遺伝子座の各々は、5'末端の最も近くに位置する遺伝子(5'遺伝子)と、3'末端の最も近くに位置する遺伝子(3'遺伝子)との間に位置し得る。
[テーブル1]
【表1】
【0322】
ツールボックスが、細胞における動物ゲノムにおけるタンパク質またはRNAの発現に関与しないポリヌクレオチド上に位置する、または、細胞における動物ゲノムにおけるセーフハーバー内に位置するとき、ツールボックスは、追加的な形質転換のための人工的セーフハーバーとして利用され得る。例えば、ウシゲノムにおけるセーフハーバーに位置するツールボックスがloxpを含むとき、細胞における動物ゲノムにおける任意のタンパク質またはRNAの発現に影響することなく、loxpおよびCreリコンビナーゼを含むエクソポリヌクレオチドを送達することによって、エクソポリヌクレオチドがツールボックスに挿入され得る。
【0323】
[4.ツールボックスが挿入される形質転換細胞]
[4‐1.単一細胞]
[4‐1‐1.倍数性]
少なくとも1つのツールボックスを含む形質転換細胞は2倍体細胞であり得る。2倍体細胞は幹細胞、体細胞、卵原幹細胞、卵祖細胞、第一卵母細胞、精原幹細胞、精原幹細胞、精原細胞、第一精母細胞、および、接合子を含み得る。少なくとも1つのツールボックスを含む形質転換細胞は1倍体細胞であり得る。1倍体細胞は、第2卵母細胞、卵子、第2精母細胞および精子を含み得る。
【0324】
[4‐1‐2.接合性]
形質転換細胞は少なくとも一対の相同染色体を含み得る。少なくとも一対の相同染色体は、相同染色体の関係にある第1染色体および第2染色体を含み得る。2以上のツールボックスを含む形質転換細胞はホモ接合体であり得る。
【0325】
ホモ接合体である形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれるツールボックスの種類、数、位置のすべては同一であり得る。
【0326】
ホモ接合体である形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれるツールボックスの種類および数の両方は同一であり得る。
【0327】
ホモ接合体である形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれるツールボックスの種類は同一であり得る。
【0328】
ホモ接合体である形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体の両方が、任意のツールボックスを含まないことがあり得る。2以上のツールボックスを含む形質転換細胞はヘテロ接合体であり得る。
【0329】
ヘテロ接合体である形質転換細胞において、第1染色体は、ツールボックスを含まないことがあり得て、第2染色体は、少なくとも1つのツールボックスを含み得る。
【0330】
代替的に、ヘテロ接合体である形質転換細胞において、第2染色体は、第1染色体に含まれるものと同一であるツールボックスを含まないことがあり得る。
【0331】
[4‐2.細胞コロニー]
少なくとも1つのツールボックスを含む形質転換細胞は細胞コロニーを形成し得る。細胞コロニーは、単一細胞から培養される細胞集団であり得る。
【0332】
[4‐2‐1.相同性細胞コロニー]
相同性細胞コロニーに含まれる各細胞は単一ツールボックスを含み得る。各細胞によって保持される単一ツールボックスは同一であり得る。各細胞において、単一ツールボックスは、同一位置に位置し得る。
【0333】
相同性細胞コロニーい含まれる各細胞は、2以上のツールボックスを含み得る。2以上のツールボックスは、第nツールボックス(n≧1、nは整数)を含み得る。各細胞において、第nツールボックスの種類および位置の両方は同一であり得る。
【0334】
2以上のツールボックスは、互いに同一であり得る。代替的に、2以上のツールボックスの1つは、残りのツールボックスの他方とは異なり得る。
【0335】
以降、別段の定めが無い限り、「第1細胞に含まれるツールボックスは第2細胞に含まれるものと同一である」という表現は、第1細胞に含まれるツールボックスの種類、数、位置が、第2細胞に含まれるツールボックスの種類、数、位置と完全に同一であることを意味する。
【0336】
[4‐2‐2.キメラ細胞コロニー]
キメラ細胞コロニーは、相同性細胞コロニー以外の細胞コロニーを指す。キメラ細胞コロニーは、ツールボックスが含まれないゲノムを有する細胞、および、少なくとも1つのツールボックスが含まれるゲノムを有する細胞の両方を含み得る。
【0337】
キメラ細胞コロニーは、少なくとも1つのツールボックスが含まれるゲノムを各々が有する第1細胞および第2細胞を含み得る。この場合、第1細胞のゲノムに含まれるツールボックスの種類、数、遺伝子座のうち少なくとも1つは、第2細胞のゲノムに含まれるツールボックスの種類、数および遺伝子座と同一でないことがあり得る。
【0338】
例えば、第1ツールボックスが第1細胞のゲノムに含まれ、かつ、同一の種類の第1ツールボックスが第2細胞のゲノムに含まれる細胞コロニーの場合、i)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの数が、第2細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスと異なる、または、ii)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの遺伝子座が、第2細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスと異なるとき、細胞コロニーは、キメラ細胞コロニーであり得る。
【0339】
別の例において、第1ツールボックスが第1細胞のゲノムに含まれ、かつ、異なる種類の第2ツールボックスが第2細胞のゲノムに含まれる細胞コロニーの場合、i)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの数が、第2細胞のゲノムに含まれる第2ツールボックスと同一である、および、ii)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスのすべての遺伝子座が、第2細胞のゲノムに含まれる第2ツールボックスと同一であるときも、細胞コロニーは、キメラ細胞コロニーであり得る。
【0340】
追加的に、第1ツールボックスが第1細胞のゲノムに含まれ、かつ、異なる種類の第2ツールボックスが第2細胞のゲノムに含まれる細胞コロニーの場合、i)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの数が第2細胞のゲノムに含まれる第2ツールボックスと異なる、または、ii)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの遺伝子座が、第2細胞のゲノムに含まれる第2ツールボックスと異なるときも、細胞コロニーは、キメラ細胞コロニーであり得る。
【0341】
本明細書において使用される場合、「遺伝子座」という用語は、ツールボックスに関して、5'末端の最も近くに位置する内在性遺伝子、および、3'末端の最も近くに位置する内在性遺伝子のうち1または複数によって指定され得る。
【0342】
本明細書において使用される場合、「ツールボックスの遺伝子座」という用語は、ツールボックスに関して、5'末端の最も近くに位置する内在性遺伝子、および、3'末端の最も近くに位置する内在性遺伝子のうち1または複数によって指定され得る。
【0343】
すなわち、第1ツールボックスの5'末端の最も近くに位置する内在性遺伝子が、第2ツールボックスの5'末端の最も近くに位置するものと異なるとき、第1ツールボックスの遺伝子座は、第2ツールボックスと異なる。追加的に、第1ツールボックスの3'末端の最も近くに位置する内在性遺伝子が、第2ツールボックスの3'末端の最も近くに位置するものと異なるとき、第1ツールボックスの遺伝子座は、第2ツールボックスと異なる。
【0344】
[5.ツールボックスが挿入される形質転換細胞の選択]
[5‐1.抗生物質耐性遺伝子を使用する形質転換細胞の選択]
ツールボックスのコアドメインは抗生物質耐性遺伝子を含み得る。ツールボックスを含む動物細胞は、細胞が抗生物質で処理されたとき、生存できる。従って、ツールボックスを含む動物細胞は、ツールボックスを含まないものから分離できる。
【0345】
[5‐2.抗原抗体反応を使用する形質転換細胞の選択]
ツールボックスのコアドメインは、抗原をコードするポリヌクレオチド、または、抗原として作用できるヌクレオチドを含み得る。ツールボックスを含む動物細胞は、抗原に特異的な抗体と相互作用できる。従って、ツールボックスを含む動物細胞は、ツールボックスを含まないものから区別できる。
【0346】
[5‐3.蛍光タンパク質を使用する形質転換細胞の選択]
ツールボックスのコアドメインは、蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスを含む動物細胞は、蛍光シグナルを測定され得る。従って、ツールボックスを含む動物細胞は、ツールボックスを含まないものから区別できる。
【0347】
[5‐4.表面マーカー遺伝子を使用する形質転換細胞の選択]
ツールボックスのコアドメインは、表面マーカーをコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスを含む動物細胞は、表面マーカーに特異的な抗体と相互作用できる。抗体は、磁性粒子またはフルオロフォアと相互作用できる。従って、ツールボックスを含む動物細胞は、磁気特性または蛍光シグナルを介して、ツールボックスを含まないものから区別できる。
【0348】
[6.ツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物]
[6‐1.ツールボックスが挿入される個々のトランスジェニック動物]
トランスジェニック動物は、各形質転換細胞が少なくとも1つのツールボックスを含む1または複数形質転換細胞を含み得る。
【0349】
[6‐1‐1.相同性]
相同トランスジェニック動物に含まれる細胞の各々は、単一ツールボックスを個々に含み得る。各細胞によって保持される単一ツールボックスは同一であり得る。各細胞において、単一ツールボックスは、同一の染色体に位置し得る。
【0350】
相同トランスジェニック動物に含まれる細胞の各々は、2以上のツールボックスを含み得る。2以上のツールボックスは、第nツールボックスを含み得る(n≧1、nは整数)。各細胞において、第nツールボックスが位置する染色体のすべては同一であり得る。
【0351】
2以上のツールボックスは互いに同一であり得る。代替的に、2以上のツールボックスの1つは、残りのツールボックスの他方とは異なり得る。相同トランスジェニック動物は、ホモ接合体である形質転換細胞を含み得る。相同トランスジェニック動物は、ヘテロ接合体である形質転換細胞を含み得る。
【0352】
[6‐1‐2.キメラ]
キメラトランスジェニック動物は、相同トランスジェニック動物以外のトランスジェニック動物を指す。キメラトランスジェニック動物は、ホモ接合体形質転換細胞を含み得る。キメラトランスジェニック動物はヘテロ接合体形質転換細胞を含み得る。
【0353】
キメラトランスジェニック動物は、ツールボックスが含まれないゲノムを有する細胞、および、少なくとも1つのツールボックスが含まれるゲノムを有する細胞の両方を含み得る。
【0354】
キメラトランスジェニック動物は、少なくとも1つのツールボックスを含むゲノムを各々が有する第1細胞および第2細胞を含み得る。この場合、キメラトランスジェニック動物において、第1細胞のゲノムに含まれるツールボックスの種類、数、遺伝子座のうち少なくとも1つは、第2細胞のゲノムに含まれるツールボックスの種類、数および遺伝子座と同一でないことがあり得る。
【0355】
例えば、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞、および、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞を備えるトランスジェニック動物の場合、i)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの数が、第2細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスと異なる、または、ii)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの遺伝子座のうち少なくとも1つが、第2細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスと異なるとき、トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0356】
別の例において、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞、および、第1ツールボックスとは異なる種類である第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞を備えるトランスジェニック動物の場合、i)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの数が、第2細胞のゲノムに含まれる第2ツールボックスと同一である、および、ii)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスのすべての遺伝子座が、第2細胞のゲノムに含まれる第2ツールボックスと同一であるとき、トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0357】
追加的に、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞、および、第1ツールボックスとは異なる種類である第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞を備えるトランスジェニック動物の場合、i)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの数が第2細胞のゲノムに含まれる第2ツールボックスと異なる、または、ii)第1細胞のゲノムに含まれる第1ツールボックスの遺伝子座のうち少なくとも1つが、第2細胞のゲノムに含まれる第2ツールボックスと異なるとき、トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0358】
[6‐2.ツールボックスが挿入される個々のトランスジェニック動物を調製する方法]
ツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物を調製する方法は、動物細胞からトランスジェニック動物を調製するための方法、動物の組織または臓器へのツールボックスの送達を介してトランスジェニック動物を調製するための方法、および、トランスジェニック動物の間の交配によってトランスジェニック動物を調製するための方法を含む。動物細胞からトランスジェニック動物を調製するための方法は、野性型動物細胞からトランスジェニック動物を調製するための方法、および、トランスジェニック動物の細胞からトランスジェニック動物を調製するための方法を含む。
【0359】
上記の方法のいずれか1つによって産生されるトランスジェニック動物は、キメラトランスジェニック動物または相同トランスジェニック動物のうちいずれか1つであり得る。
【0360】
[6‐2‐1.動物細胞からトランスジェニック動物を調製するための方法]
トランスジェニック動物は、ツールボックスを野性型動物細胞に送達するプロセスを含むように調製され得る。
【0361】
例えば、トランスジェニック動物は、体細胞核移植(以降SCNT)の後に体細胞マイクロインジェクションによって野性型体細胞にポリヌクレオチドを注入することによって調製され得る。トランスジェニック動物は相同トランスジェニック動物であり得る。
【0362】
例えば、トランスジェニック動物は、野性型配偶子への配偶子マイクロインジェクションによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0363】
例えば、トランスジェニック動物は、野性型接合子への接合子マイクロインジェクションによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0364】
例えばは、トランスジェニック動物は、野性型胚への胚マイクロインジェクションによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。トランスジェニック動物は、トランスジェニック動物細胞を使用して調製され得る。
【0365】
例えば、トランスジェニック動物は、トランスジェニック体細胞を使用して、SCNTを介して調製され得る。トランスジェニック動物は相同トランスジェニック動物であり得る。
【0366】
例えば、トランスジェニック動物は、トランスジェニック体細胞への体細胞マイクロインジェクション後に、SCNTを介して調製され得る。トランスジェニック動物は相同トランスジェニック動物であり得る。
【0367】
例えば、トランスジェニック動物は、トランスジェニック配偶子への配偶子マイクロインジェクションによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0368】
例えば、トランスジェニック動物は、トランスジェニック接合子への接合子マイクロインジェクションによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0369】
例えば、トランスジェニック動物は、トランスジェニック胚への胚マイクロインジェクションによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0370】
[6‐2‐2.動物の組織または臓器へのツールボックスの送達を介してトランスジェニック動物を調製するための方法]
トランスジェニック動物は、動物の組織または臓器へのツールボックス送達によって調製され得る。
【0371】
例えば、トランスジェニック動物は、動物の乳腺組織へのマイクロインジェクションによって調製され得る。トランスジェニック動物は、キメラトランスジェニック動物であり得る。
【0372】
例えば、トランスジェニック動物は、動物の生殖器へのマイクロインジェクションによって調製され得る。トランスジェニック動物の配偶子から得られる子もトランスジェニック動物であり得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0373】
[6‐2‐3.トランスジェニック動物の交配]
トランスジェニック動物と野性型動物との間の交配によって、トランスジェニック動物が調製され得る。
【0374】
代替的に、第1トランスジェニック動物と第2トランスジェニック動物との間の交配によって、トランスジェニック動物が調製され得る。
【0375】
第2トランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物の子であり得る、または、第1トランスジェニック動物と血縁関係にあり得る。代替的に、第2トランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物と血縁関係でないことがあり得る。
【0376】
交配によって得られたトランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物の動物ゲノムに含まれるツールボックスの一部と同一であるツールボックスを、同一の位置に含み得る。
【0377】
交配によって得られたトランスジェニック動物は、第2トランスジェニック動物の動物ゲノムに含まれるツールボックスの一部と同一であるツールボックスを、同一の位置に含み得る。交配によって得られたトランスジェニック動物は、相同トランスジェニック動物であり得る。
【0378】
交配によって得られたトランスジェニック動物は、ホモ接合体である形質転換細胞を含み得る。交配によって得られたトランスジェニック動物は、ヘテロ接合体である形質転換細胞を含み得る。
【0379】
[7.ツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物の使用]
[7‐1.品種改良された動物]
ツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物は、品種改良された動物として使用され得る。品種改良された動物には、ベータラクトグロブリンをコードするポリヌクレオチドがノックアウトされたウシ、オメガ3をコードするポリヌクレオチドがノックインされたウシが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0380】
[7‐2.疾患動物モデル]
ツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物は、疾患動物モデルとして使用され得る。疾患動物モデルには、癌抑制タンパク質をコードするポリヌクレオチドがノックアウトされたウシが含まれ得るが、これに限定されない。
【0381】
[7‐3.疾患耐性動物]
ツールボックスが挿入されたトランスジェニック動物は疾患耐性動物として使用され得る。疾患耐性動物には、プリオンタンパク質をコードするポリヌクレオチドがノックアウトされたウシが含まれ得るが、これに限定されない。
【0382】
[7‐4.副産物の使用]
ツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物の臓器、肉、皮膚、髪、体液が使用され得るが、使用されるトランスジェニック動物の部分はこれらに限定されない。
【0383】
[7‐5.バイオリアクター]
ツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物が、バイオリアクターとして使用され得る。トランスジェニック動物の体液が取得され得る。体液には、母乳、血液、または、尿が含まれ得る。生体分子は、トランスジェニック動物の体液から取得され得る。生体分子にはタンパク質が含まれ得る。タンパク質には標的タンパク質が含まれ得る。
【0384】
[第3部 ツールボックスにおけるRRSを使用する形質転換]
[1.RRSをツールボックスに挿入するための構造]
形質転換細胞は、動物ゲノムにおける少なくとも1つのツールボックスを含み得る。ツールボックスのいずれか1つは、少なくとも1つのRRSを含み得る。
【0385】
[1‐1.1つのRRSが含まれる場合]
ツールボックスが1つのRRSを含み得る。 例えば、ツールボックスの第1端領域は1つのRRSを含み得る。別の例において、ツールボックスの第2端領域は1つのRRSを含み得る。更に別の例において、ツールボックスのコアドメインは1つのRRSを含み得る。
【0386】
[1‐2.2以上のRRSが含まれる場合]
ツールボックスは2以上のRRSを含み得る。2以上のRRSは、RRS1およびRRS2を含み得る。RRS1は、第1端領域、第2端領域、および、ツールボックスのコアドメインのうちいずれか1つに位置し得る。RRS2は、ツールボックスの第1端領域、第2端領域、コアドメインのいずれか1つに位置し得る。
【0387】
例えば、RRS1およびRRS2は両方、コアドメインに位置し得る。異なる例において、RRS1は、第1端領域に位置し得て、RRS2は、第2端領域に位置し得る。
【0388】
RRS1およびRRS2は、互いに同一であり得る。RRS1およびRRS2は、互いに同一方向に位置し得る。代替的に、RRS1およびRRS2は、互いに反対方向に位置し得る。
【0389】
RRS1およびRRS2は互いに異なり得る。RRS1およびRRS2は、互いに同一方向に位置し得る。代替的に、RRS1およびRRS2は、互いに反対方向に位置し得る。
【0390】
RRS1およびRRS2は互いに異なり得る。RRS1と特異的に相互作用できるSSR1、および、RRS2と特異的に相互作用できるSSR2は、互いに同一であり得る、または、互いに異なり得る。
【0391】
RRS1およびRRS2は互いに異なり得る。RRS1およびRRS2は、対を形成し得て、それにより、相互交換が生じ得る。代替的に、RRS1およびRRS2は対を形成しないことがあり得て、それにより、相互交換が生じないことがあり得る。
【0392】
[2.ツールボックスにおけるRRSの使用のためのSSR]
[2‐1.動物ゲノムから提供されるSSR]
細胞における動物ゲノムは、ツールボックスに含まれるRRSのいずれか1つに特異的なSSRをコードするポリヌクレオチドを含み得る。SSRをコードするポリヌクレオチドは、RRSを含むツールボックスに含まれ得る。SSRをコードするポリヌクレオチドは、異なるツールボックスに含まれ得る。
【0393】
[2‐2.動物ゲノム以外のものから提供されるSSR]
ツールボックスに含まれるRRSのいずれか1つと相互作用できるSSRをコードするポリヌクレオチドが細胞における動物ゲノムに存在しないとき、SSRが提供され得る。SSRを提供する形態は、ネイキッド核酸ベクター、非ウイルスベクター、ウイルスベクターであり得て、これらは各々、SSRをコードするポリヌクレオチド、または、リコンビナーゼポリペプチドを含む。
【0394】
[3.ツールボックスにおけるRRSを使用する部位特異的組み換え]
[3‐1.RRSを使用するポリヌクレオチド挿入]
ツールボックスは、少なくとも1つのRRSを含み得る。 ツールボックスに含まれるRRSのいずれか1つと対を形成するRRSを含むエクソポリヌクレオチドは、ツールボックスを含む細胞に提供され得る。
【0395】
この場合、エクソポリヌクレオチドのツールボックスへの挿入が、RRSの対に特異的なSSRとの相互作用を介して生じ得る。
[3‐2.RRSを使用するポリヌクレオチドの欠失]
ツールボックスは2以上のRRSを含み得る。2以上のRRSはRRS1およびRRS2を含み得る。
【0396】
RRS1およびRRS2は、対を形成し得て、同一方向に位置し得る。例えば、ツールボックスのコアドメインにおいて、2つのloxpは、同一方向に位置し得る。
【0397】
この場合、RRSの対の間に位置するポリヌクレオチドは、RRSの対に特異的なSSRとの相互作用を介して欠失され得る。例えば、ツールボックスのコアドメインが、2つのloxpの間のgRNAをコードするポリヌクレオチドを含むとき、Creリコンビナーゼを提供することによって、gRNAをコードするポリヌクレオチドは、ツールボックスから欠失され得る。
[3‐3.RRSを使用するポリヌクレオチドの逆位]
ツールボックスが2以上のRRSを含み得る。2以上のRRSはRRS1およびRRS2を含み得る。RRS1およびRRS2は対を形成し得て、反対方向に位置し得る。
【0398】
この場合、RRSの対の間に位置するポリヌクレオチドは、RRSの対に特異的なSSRとの相互作用を介して逆位が生じ得る。
[3‐4.RRSを使用するポリヌクレオチドの交換]
ツールボックスが2以上のRRSを含み得る。2以上のRRSはRRS1およびRRS2を含み得る。
【0399】
RRS1およびRRS2は、対を形成しないことがあり得る。例えば、ツールボックスのコアドメインは、loxp(RRS1)およびloxp2722(RRS2)を含み得る。loxpは、loxp2722の上流に位置し得る。
【0400】
RRS1と対を形成するRRS3、および、RRS2と対を形成するRRS4を各々が含むエクソポリヌクレオチドが、ツールボックスを含む細胞に提供され得る。例えば、エクソポリヌクレオチドは、loxp(RRS3)およびloxp2722(RRS4)を含み得る。loxpはloxp2722の上流に位置し得る。
【0401】
この場合、RRS1およびRRS3に特異的なSSRとの相互作用、ならびに、RRS2およびRRS4に特異的なSSRとの相互作用が生じ得る。追加的に、RRS1とRRS2との間に位置するポリヌクレオチドと、RRS3とRRS4との間に位置するポリヌクレオチドとの間で交換が生じ得る。
【0402】
例えば、非転写ポリヌクレオチドがツールボックスのloxpとloxp2722との間に位置し、gRNAをコードするポリヌクレオチドがエクソポリヌクレオチドのloxpとloxp2722との間に位置するとき、ツールボックスにおける非転写ポリヌクレオチド、および、エクソポリヌクレオチドのgRNAをコードするポリヌクレオチドは、Creリコンビナーゼを提供することによって交換され得る。
[3‐5.1つのツールボックス内に存在する2以上のRRSを使用する部位特異的組み換え]
ツールボックスは2以上のRRSを含み得る。2以上のRRSはRRS1およびRRS2を含み得る。
【0403】
RRS1およびRRS2は対を形成しないことがあり得る。例えば、ツールボックスのコアドメインは、loxp(RRS1)およびloxp2722(RRS2)を含み得る。loxpはloxp2722の上流に位置し得る。
【0404】
RRS1との対を形成するRRS3を含む第1エクソポリヌクレオチド、および、RRS2と対を形成するRRS4を含む第2エクソポリヌクレオチドは、ツールボックスを含む細胞に提供され得る。
【0405】
例えば、第1エクソポリヌクレオチドは、loxp(RRS3)を含み得て、第2エクソポリヌクレオチドは、loxp2722(RRS4)を含み得る。
【0406】
この場合、RRS1およびRRS3に特異的なSSRとの相互作用、ならびに、RRS2およびRRS4に特異的なSSRとの相互作用が生じ得る。追加的に、第1エクソポリヌクレオチドは、RRS1の位置に挿入され得て、第2エクソポリヌクレオチドは、RRS2の位置に挿入され得る。すなわち、2以上の種類のエクソポリヌクレオチドはすべて、2以上のRRSを含むツールボックスを含む動物ゲノムを有する細胞に挿入できる。
【0407】
上述のように、2以上の種類のエクソポリヌクレオチドが希望時間においてツールボックスにそれぞれ挿入され得るだけでなく、ツールボックスに既に存在する2以上の種類のエクソポリヌクレオチドが欠失または交換され得る。実施形態において、ツールボックスは、loxp、loxp変異体、roxおよびattPを含み得る。
【0408】
例えば、(ツールボックスに含まれるroxと対を形成する)roxバリアントおよびCas9から成る第1エクソポリヌクレオチドが、ツールボックスを含む細胞へ提供され得る。この場合、第1エクソポリヌクレオチドのツールボックスへの挿入は、roxおよびそのroxバリアントに特異的なDreとの相互作用を介して生じ得る。
【0409】
別の例において、(ツールボックスに含まれるroxと対を形成する)roxバリアントおよびCas9から成る第1エクソポリヌクレオチド、ならびに、(ツールボックスに含まれるattPと対を形成する)attBおよびgRNAから成る第2エクソポリヌクレオチドが、ツールボックスを含む細胞に提供され得る。この場合、第1エクソポリヌクレオチドおよび第2エクソポリヌクレオチドのツールボックスへの挿入が、(roxおよびそのroxバリアントに特異的な)Dreとの相互作用、および、(attPおよびattBに特異的な)PhiC31との相互作用を介して生じ得る。この場合、Cas9およびgRNAは、ツールボックスを含む細胞において同時に発現され得るので、Cas9またはgRNAが別個に送達されないときでも、CRISPR/酵素系は機能できる。
【0410】
追加的に、別の例において、(ツールボックスに含まれるroxと対を形成する)roxバリアントおよびCas9から成る第1エクソポリヌクレオチド、ならびに、loxpまたはloxpと対を形成するloxp変異体と、ツールボックスに含まれるloxpバリアントとの間に存在する第2エクソポリヌクレオチドが、ツールボックスを含む細胞に提供され得る。この場合、第1エクソポリヌクレオチドのツールボックスへの挿入は、roxおよびそのroxバリアントに特異的なDreとの相互作用を介して生じ得て、第2エクソポリヌクレオチドの交換は、loxpおよびそのloxpバリアントに特異的なCreとの相互作用を介して生じ得る。
【0411】
[3‐6.複数のツールボックスのうち所望のツールボックスにおける部位特異的組み換え]
上述のように、動物ゲノムに存在する任意の1つのツールボックスに含まれるRRSが、同一の動物ゲノムにおける異なるツールボックスに含まれるRRSと異なる配列を有するとき、部位特異的組み換えは、所望の遺伝子座に位置するツールボックスに生じ得る。
【0412】
例えば、第1ツールボックスのRRS1と対を形成するRRS1、または、そのRRS1バリアントを含むエクソポリヌクレオチドが、RRS1を含む第1ツールボックスおよびRRS2を含む第2ツールボックスが含まれる動物ゲノムを含む形質転換細胞に提供され得る。この場合、エクソポリヌクレオチドの第1ツールボックスへの挿入は、RRS1に特異的なSSR1、または、そのRRS1バリアントとの相互作用を通して生じ得る。
【0413】
別の例において、ツールボックスのRRS1と対を形成するRRS1、または、そのRRS1バリアントと、第1ツールボックスのRRS2と対を形成するRRS2、または、そのRRS2バリアントとの間に位置するエクソポリヌクレオチドが、RRS1およびRRS2を含む第1ツールボックス、ならびに、RRS1およびRRS3を含む第2ツールボックスが含まれる動物ゲノムを有する形質転換細胞に提供され得る。この場合、第1ツールボックスのRRS1とRRS2との間に位置するポリヌクレオチドと、RRS1またはそのRRS1バリアントと、RRS2またはそのRRS2バリアントとの間に位置するエクソポリヌクレオチドとの間の交換が、RRS1またはそのRRS1バリアントに特異的なSSR1との相互作用、および、RRS2またはそのRRS2バリアントに特異的なSSR2との相互作用を通して生じ得る。
【0414】
追加的に、別の例において、第1ツールボックスのRRS1、または、そのRRS1バリアントとの対を形成するRRS1を含むエクソポリヌクレオチドが、2以上のRRS1を含む第1ツールボックスおよびRRS2を含む第2ツールボックスが含まれる動物ゲノムを有する形質転換細胞に提供され得る。
【0415】
この場合、RRS1またはそのRRS1バリアントは、RRS1またはそのRRS1バリアントに特異的なSSR1と相互作用できる。追加的に、第1ツールボックスにおける2つのRRS1の間に位置するポリヌクレオチドが欠失された後に、第1ツールボックスにRRS1またはそのRRS1バリアントを含むエクソポリヌクレオチドの挿入が生じ得る。
【0416】
[4.編集されたツールボックスを有する形質転換細胞]
形質転換細胞は少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスのいずれか1つは少なくとも1つのRRSを含み得る。少なくとも1つのRRSを使用することにより、部位特異的組み換えを介した形質転換が可能であり得る。
【0417】
形質転換細胞は、編集されたツールボックスを含み得る。編集されたツールボックスは、部位特異的組み換えが生じたツールボックスを指す。
【0418】
[4‐1.単一細胞]
[4‐1‐1.倍数性]
少なくとも1つお編集されたツールボックスを含む形質転換細胞は、2倍体細胞であり得る。2倍体細胞は上述の通りである。
【0419】
少なくとも1つの編集されたツールボックスを含む形質転換細胞は1倍体細胞であり得る。1倍体細胞は上述の通りである。
[4‐1‐2.接合性]
2以上の編集されたツールボックスを含む形質転換細胞はホモ接合体であり得る。2以上の編集されたツールボックスを含む形質転換細胞はヘテロ接合体であり得る。
[4.2 細胞コロニー]
少なくとも1つの編集されたツールボックスを含む形質転換細胞は、細胞コロニーを形成し得る。
【0420】
[4‐2‐1.相同性細胞コロニー]
相同性細胞コロニーの特徴として、各細胞に含まれるツールボックスは、互いに同一であり、各細胞に含まれる編集されたツールボックスも、互いに同一である。
[4‐2‐2.キメラ細胞コロニー]
キメラ細胞コロニーは、相同性細胞コロニー以外の細胞コロニーを指す。
[5.編集されたツールボックスが挿入される形質転換細胞の選択]
[5‐1.蛍光タンパク質を使用する形質転換細胞の選択]
編集されたツールボックスは、蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0421】
例えば、蛍光タンパク質をコードするエクソポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを使用して、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスに挿入され得る。
【0422】
従って、編集されたツールボックスを含む動物細胞は、編集されたツールボックスを含まない動物細胞から区別できる。
【0423】
[5‐2.抗生物質耐性遺伝子を使用する形質転換細胞の選択]
編集されたツールボックスは抗生物質耐性遺伝子を含み得る。動物ゲノムは編集されたツールボックスを含み得る。
【0424】
例えば、抗生物質耐性遺伝子をコードするエクソポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを使用して、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスに挿入され得る。
【0425】
編集されたツールボックスを含む動物細胞は、動物細胞が抗生物質で処理されたときに、生存できる。従って、編集されたツールボックスを含む動物細胞は、編集されたツールボックスを含まない動物細胞から分離できる。
【0426】
[5‐3.抗原抗体反応を使用する形質転換細胞の選択]
編集されたツールボックスは、抗原をコードするポリヌクレオチド、または、抗原に作用可能なヌクレオチドを含み得る。動物ゲノムは編集されたツールボックスを含み得る。
【0427】
例えば、抗原として作用可能なヌクレオチドを含むエクソポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを使用して、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスに挿入できる。
【0428】
編集されたツールボックスを含む動物細胞は、抗原に特異的な抗体と相互作用できる。従って、編集されたツールボックスを含む動物細胞は、編集されたツールボックスを含まない動物細胞から区別できる。
【0429】
[5‐4.表面マーカー遺伝子を使用する形質転換細胞の選択]
編集されたツールボックスは、表面マーカーをコードするポリヌクレオチドを含み得る。動物細胞は、編集されたツールボックスを含み得る。
【0430】
例えば、部位特異的組み換えを使用して、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスに、表面マーカーをコードするポリヌクレオチドを挿入できる。
【0431】
編集されたツールボックスを含む動物細胞は、表面マーカーに特異的な抗体と相互作用できる。抗体は、磁性粒子またはフルオロフォアと相互作用できる。従って、編集されたツールボックスを含む動物細胞は、磁気特性または蛍光シグナルを介して、編集されたツールボックスを含まない動物細胞から区別できる。
【0432】
[5‐5.自殺遺伝子を使用する形質転換細胞の選択]
ツールボックスは、自殺遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含み得る。編集されたツールボックスは、自殺遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る。
【0433】
例えば、ツールボックスのコアドメインは、loxp、自殺遺伝子、およびloxpバリアントを連続して含み得る。この場合、5'末端にloxpを含み、3'末端にloxpバリアントを含むエクソポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えによって自殺遺伝子と交換され得る。
【0434】
編集されたツールボックスを含む動物細胞が自殺遺伝子を含まないので、プロドラッグが提供されるときでも、これらの動物細胞において、アポトーシスが生じない。従って、編集されたツールボックスを含む動物細胞は、編集されたツールボックスを含まない動物細胞から区別できる。
【0435】
[6.編集されたツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物]
[6‐1.編集されたツールボックスが挿入される個々のトランスジェニック動物]
[6‐1‐1.相同性]
相同トランスジェニック動物に含まれる各細胞は、少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスは、少なくとも1つの編集されたツールボックスを含み得る。
【0436】
[6‐1‐2.キメラ]
キメラトランスジェニック動物は、相同トランスジェニック動物以外のトランスジェニック動物を指す。
【0437】
[6‐2.編集されたツールボックスが挿入されたトランスジェニック動物を調製するための方法]
編集されたツールボックスが挿入されたトランスジェニック動物を調製するための方法は、動物細胞からトランスジェニック動物を調製するための方法、動物の組織または臓器へのエクソポリヌクレオチドの送達、または、SSRの導入によってトランスジェニック動物を調製するための方法、および、トランスジェニック動物間の交配によりトランスジェニック動物を調製するための方法を含み得る。動物細胞からトランスジェニック動物を調製するための方法は、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物の細胞からトランスジェニック動物を調製するための方法を含み得る。
【0438】
上記の方法のいずれか1つによって産生されるトランスジェニック動物は、キメラトランスジェニック動物または相同トランスジェニック動物のいずれか1つであり得る。
【0439】
[6‐2‐1.トランスジェニック動物を動物細胞から調製するための方法]
編集されたツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物は、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入されたトランスジェニック動物の細胞から調製され得る。
【0440】
例えば、トランスジェニック動物は、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される体細胞にSSRを導入し、その後SCNTを行うことによって調製され得る。別の例において、トランスジェニック動物は、SSRおよび少なくとも1つのRRSを含むポリヌクレオチドを、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが体細胞マイクロインジェクションによって挿入される体細胞に導入し、その後SCNTを行うことによって調製され得る。トランスジェニック動物は相同トランスジェニック動物であり得る。
【0441】
例えば、トランスジェニック動物は、SSRを含むポリヌクレオチドを、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される配偶子に、配偶子マイクロインジェクションを介して導入することによって調製され得る。別の例において、トランスジェニック動物は、SSRを含むポリヌクレオチド、および、少なくとも1つのRRSを含むポリヌクレオチドを、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される配偶子に、配偶子マイクロインジェクションを介して導入することによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0442】
例えば、トランスジェニック動物は、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される接合子にSSRを導入することによって調製され得る。別の例において、トランスジェニック動物は、SSRで接合子を処理しながら、接合子マイクロインジェクションを介して、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される接合子に、少なくとも1つのRRSを含むポリヌクレオチドを導入することによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0443】
例えば、トランスジェニック動物は、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される胚にSSRを導入することによって調製され得る。別の例において、トランスジェニック動物は、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される胚に、胚マイクロインジェクションを介して、SSRをコードするポリヌクレオチド、および、少なくとも1つのRRSを含むポリヌクレオチドを導入することによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0444】
[6‐2‐2.動物の組織または臓器へのエクソポリヌクレオチドの送達、または、SSRの導入によってトランスジェニック動物を調製するための方法]
【0445】
動物の組織または臓器は、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される細胞を含み得る。編集されたツールボックスを含むトランスジェニック動物は、動物の組織または臓器に、SSRを導入することによって、または、エクソポリヌクレオチドの送達によって調製され得る。
【0446】
例えば、編集されたツールボックスを含むトランスジェニック動物は、動物の乳腺組織に、SSRをコードするポリヌクレオチド、および、少なくとも1つのRRSを含むポリヌクレオチドをマイクロインジェクションすることによって調製され得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0447】
例えば、編集されたツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物は、SSRを動物の生殖器にマイクロインジェクションすることによって調製され得る。トランスジェニック動物の配偶子から得られる子は、トランスジェニック動物であり得る。トランスジェニック動物はキメラトランスジェニック動物であり得る。
【0448】
[6‐2‐3.トランスジェニック動物の交配]
トランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物と第2トランスジェニック動物との間の交配を介して調製され得る。
【0449】
例えば、編集されたツールボックスを含むトランスジェニック動物は、少なくとも1つのRRSを含むツールボックスが挿入される第1トランスジェニック動物と、SSRをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入される第2トランスジェニック動物との間の交配によって調製され得る。
【0450】
第2トランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物の子であり得る、または、第1トランスジェニック動物と血縁関係にあり得る。代替的に、第2トランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物と血縁関係でないことがあり得る。
【0451】
交配によって得られたトランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物の動物ゲノムに含まれるツールボックスの一部と同一のツールボックスを同一の位置に含み得る。
【0452】
交配によって得られたトランスジェニック動物は、第2トランスジェニック動物の動物ゲノムに含まれるツールボックスの一部と同一のツールボックスを同一の位置に含み得る。交配によって得られるトランスジェニック動物は、相同トランスジェニック動物であり得る。
【0453】
交配によって得られるトランスジェニック動物は、ホモ接合体である形質転換細胞を含み得る。交配によって得られるトランスジェニック動物は、ヘテロ接合体である形質転換細胞を含み得る。
【0454】
[7.編集されたツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物の使用]
[7‐1.品種改良された動物]
編集されたツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物が、品種改良された動物として使用され得る。
【0455】
[7‐2.疾患動物モデル]
編集されたツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物は、疾患動物モデルとして使用され得る。
【0456】
[7‐3.疾患耐性動物]
編集されたツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物は、疾患耐性動物として使用され得る。
【0457】
[7‐4.副産物の使用]
編集されたツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物の臓器、肉、皮膚、髪、体液が使用され得るが、使用されるトランスジェニック動物の部分はこれらに限定されない。
[7‐5.バイオリアクター]
編集されたツールボックスが挿入されたトランスジェニック動物がバイオリアクターとして使用され得る。
【0458】
[第4部 CRISPR/酵素系コンポーネントを使用する形質転換]
[1.ツールボックスを含む細胞へのRNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸の導入]
RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸が、部位特異的形質転換のためのツールボックスを含む細胞における動物ゲノムに導入され得る。
【0459】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、Cas9を含み得るが、これに限定されない。ガイド核酸は、gRNAを含み得るが、これに限定されない。
[1‐1.分離形態の導入]
Cas9およびgRNAは、分離形態のツールボックスを含む細胞に導入され得る。
【0460】
Cas9が提供される形態は、DNAプラスミド、DNA線状断片、RNA線状断片およびタンパク質を含み得る。RNA線状断片は、Cas9のmRNAを含み得る。
【0461】
gRNAが提供される形態は、DNAプラスミド、DNA線状断片、RNA線状断片を含み得る。
【0462】
Cas9およびgRNAが共に提供される形態は、リボ核タンパク質(RNP)を含み得る。
【0463】
[1‐2.単一送達ベクター]
Cas9およびgRNAは、単一送達ベクターとして、ツールボックスを含む細胞に提供され得る。
【0464】
Cas9およびgRNAが提供される形態は、DNA線状断片およびRNA線状断片を含み得る。
【0465】
[2.ツールボックスにおけるCRISPR/酵素系コンポーネント]
細胞における動物ゲノムに含まれるツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼとガイド核酸とのうち少なくとも1つを含み得る。
【0466】
部位特異的形質転換が生じる細胞は、CRISPR/酵素系のコンポーネントのすべてまたは一部を発現できるので、部位特異的形質転換を容易に実行できる。
【0467】
[2‐1.ツールボックスにおけるRNA誘導性エンドヌクレアーゼ]
ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、Cas9またはCas9変異体を含み得るが、これらに限定されない。
[2‐1‐1.Cas9およびプロモーターの組み合わせ]
ツールボックスは、Cas9をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
【0468】
ツールボックスは、Cas9転写を開始できるプロモーターを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターから選択される任意の1つであり得る。
【0469】
[2‐1‐2.Cas9、プロモーターおよびRRSの組み合わせ]
ツールボックスは、Cas9をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスは、Cas9の転写を開始できるプロモーターを含み得る。ツールボックスは少なくとも1つのRRSを含み得る。
【0470】
ツールボックスは、Cas9の転写を開始可能なプロモーターの5'末端における少なくとも1つのRRSを含み得る。
【0471】
ツールボックスは、Cas9の転写を開始可能なプロモーターと、Cas9をコードするポリヌクレオチドとの間に少なくとも1つのRRSを含み得る。ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドの3'末端におけるRRSを含み得る。
【0472】
ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドの5'末端における少なくとも1つのRRSを含み得て、Cas9をコードするポリヌクレオチドの3'末端における少なくとも1つのRRSを含み得る。この場合、5'末端におけるRRSのいずれか1つ、および、3'末端におけるRRSのいずれか1つは、同一のSSRと相互作用できる。この場合、5'末端におけるRRSのいずれか1つ、および、3'末端におけるRRSのいずれか1つは、互いに同一であり得る。
【0473】
[2‐2.ツールボックスにおけるガイド核酸]
ツールボックスは、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。ガイド核酸は、gRNAを含み得るが、これに限定されない。
[2‐2‐1.gRNAおよびプロモーターの組み合わせ]
ツールボックスは、gRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
【0474】
ツールボックスは、gRNAの転写を開始可能なプロモーターを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターから選択されるいずれか1つであり得る。gRNAの転写を開始可能な構成プロモーターは、U6プロモーターを含み得るが、これに限定されない。
[2‐2‐2.gRNA、プロモーター、およびRRSの組み合わせ]
ツールボックスは、gRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
【0475】
ツールボックスは、gRNAの転写を開始可能なプロモーターを含み得る。ツールボックスは、少なくとも1つのRRSを含み得る。
【0476】
ツールボックスは、gRNAの転写を開始可能なプロモーターの5'末端における少なくとも1つのRRSを含み得る。
【0477】
ツールボックスは、gRNAの転写を開始可能なプロモーターと、gRNAをコードするポリヌクレオチドとの間に少なくとも1つのRRSを含み得る。ツールボックスは、gRNAをコードするポリヌクレオチドの3'末端におけるRRSを含み得る。
【0478】
ツールボックスは、gRNAをコードするポリヌクレオチドの5'末端において少なくとも1つのRRSを含み得て、gRNAをコードするポリヌクレオチドの3'末端において少なくとも1つのRRSを含み得る。この場合、5'末端におけるRRSの1つ、および、3'末端におけるRRSの1つは、同一のSSRと相互作用できる。この場合、5'末端におけるRRSのいずれか1つ、および、3'末端におけるRRSのいずれか1つは、互いに同一であり得る。
【0479】
[2‐3.ツールボックスにおけるRNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸]
ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得て、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼはCas9を含み得るが、これに限定されない。ガイド核酸は、gRNAを含み得るが、これに限定されない。
[2‐3‐1.Cas9、gRNAおよびプロモーターの組み合わせ]
ツールボックスは、Cas9をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
【0480】
ツールボックスは、Cas9の転写を開始可能なプロモーターを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターから選択される任意の1つであり得る。ツールボックスは、gRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
【0481】
ツールボックスは、gRNAの転写を開始可能なプロモーターを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターから選択されるいずれか1つであり得る。gRNAの転写を開始可能な構成プロモーターは、U6プロモーターを含み得るが、これに限定されない。
【0482】
[2‐3‐2.Cas9、gRNA、プロモーターおよびRRSの組み合わせ]
ツールボックスは、Cas9をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスは、Cas9の転写を開始可能なプロモーターを含み得る。ツールボックスは、gRNAをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスは、gRNAの転写を開始可能なプロモーターを含み得る。ツールボックスは、少なくとも1つのRRSを含み得る。
【0483】
ツールボックスは、Cas9の転写を開始可能なプロモーターの5'末端における少なくとも1つのRRSを含み得る。
【0484】
ツールボックスは、Cas9の転写を開始可能なプロモーターと、Cas9をコードするポリヌクレオチドとの間に少なくとも1つのRRSを含み得る。ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドの3'末端におけるRRSを含み得る。
【0485】
ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドの5'末端における少なくとも1つのRRSを含み得て、Cas9をコードするポリヌクレオチドの3'末端における少なくとも1つのRRSを含み得る。この場合、5'末端におけるRRSのいずれか1つ、および、3'末端におけるRRSのいずれか1つは、同一のSSRと相互作用できる。この場合、5'末端におけるRRSのいずれか1つ、および、3'末端におけるRRSのいずれか1つは、互いに同一であり得る。
【0486】
ツールボックスは、gRNAの転写を開始可能なプロモーターの5'末端における少なくとも1つのRRSを含み得る。
【0487】
ツールボックスは、gRNAの転写を開始可能なプロモーターと、gRNAをコードするポリヌクレオチドとの間に少なくとも1つのRRSを含み得る。ツールボックスは、gRNAをコードするポリヌクレオチドの3'末端におけるRRSを含み得る。
【0488】
ツールボックスは、gRNAをコードするポリヌクレオチドの5'末端において少なくとも1つのRRSを含み得て、gRNAをコードするポリヌクレオチドの3'末端において少なくとも1つのRRSを含み得る。この場合、5'末端におけるRRSの1つ、および、3'末端におけるRRSの1つは、同一のSSRと相互作用できる。この場合、5'末端におけるRRSのいずれか1つ、および、3'末端におけるRRSのいずれか1つは、互いに同一であり得る。
【0489】
[3.CRISPR/酵素系の機能の調節]
[3.1 RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現の調節]
ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、Cas9を含み得るが、これに限定されない。
[3‐1‐1.プロモーターを使用するCas9の転写の調節]
ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0490】
ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターを含み得る。プロモーターは、組織特異的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含み得る。
【0491】
プロモーターが組織特異的プロモーターである場合、特定の組織の細胞にツールボックスが含まれるとき、ツールボックスに含まれるCas9をコードするポリヌクレオチドの転写が開始され得る。
【0492】
組織特異的プロモーターが乳腺組織特異的プロモーターである場合、ツールボックスが乳腺組織の細胞に含まれるとき、ツールボックスに含まれるCas9をコードするポリヌクレオチドの転写が開始され得る。乳腺組織特異的プロモーターには、アルファ‐カゼインプロモーター、ベータ‐カゼインプロモーター、カッパ‐カゼインプロモーター、ミュー‐カゼインプロモーター、および、ベータ‐ラクトグロブリンプロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0493】
組織特異的プロモーターが生殖器特異的プロモーターである場合、ツールボックスが配偶子に含まれるとき、ツールボックスに含まれるCas9をコードするポリヌクレオチドの転写が開始され得る。生殖器特異的プロモーターには、卵巣特異的プロモーターおよび精巣特異的プロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0494】
Cas9をコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターが組織特異的プロモーターである場合、ツールボックスを含むトランスジェニック動物において部位特異的形質転換が生じる部位は限定され得る。追加的に、トランスジェニック動物の他の組織における不必要な部位特異的形質転換の発生が防止され得る。
【0495】
プロモーターが誘導性プロモーターである場合、特定の条件が満たされたとき、転写が開始され得る。誘導性プロモーターは、化学誘導性プロモーター、温度誘導性プロモーター、光誘導性プロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0496】
特定の化学化合物が存在するとき、化学誘導性プロモーターは、転写を開始できる。 化学誘導性プロモーターには、抗生物質誘導性プロモーター、アルコール誘導性プロモーター、ステロイド誘導性プロモーター、金属誘導性プロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。抗生物質誘導性プロモーターには、Tet‐onプロモーター、Tet‐offプロモーターが含まれ得るが、これらに限定されない。ステロイド誘導性プロモーターには、エストロゲン誘導性プロモーターが含まれ得るが、これに限定されない。金属誘導性プロモーターには、銅誘導性プロモーターが含まれ得るが、これに限定されない。
【0497】
温度条件が満たされるとき、温度誘導性プロモーターは転写を開始できる。 温度誘導性プロモーターには、高温刺激誘導性プロモーターおよび低温刺激誘導性プロモーターが含まれ得るが、これに限定されない。高温刺激誘導性プロモーターには、Hspプロモーターが含まれ得るが、これに限定されない。
【0498】
光の波長条件が満たされるとき、光誘導性プロモーターは、転写を開始できる。
【0499】
Cas9をコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターが誘導性プロモーターである場合、ツールボックスを含む形質転換細胞または動物において部位特異的形質転換が生じる時間を調節可能である。
[3‐1‐2.RRSを使用するプロモーターの挿入]
ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドの5'末端におけるRRSを含み得る。
【0500】
核酸は、プロモーターをコードするポリヌクレオチドを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、または、誘導性プロモーターを含み得る。核酸は、プロモーターをコードするポリヌクレオチドの一端または両端においてRRSを含み得る。RRSは、ツールボックスに含まれるRRSと対を形成し得る。
【0501】
核酸と相互作用できるSSRおよびRRSは、ツールボックスに提供され得る。プロモーターをコードするポリヌクレオチドはツールボックスに挿入され得る。この場合、Cas9をコードするポリヌクレオチドの転写は、プロモーターをコードするポリヌクレオチドが挿入される前に開始されないことがあり得て、プロモーターをコードするポリヌクレオチドが挿入された後に開始され得る。
【0502】
[3‐1‐3.転写終止コドンを使用するCas9転写の調節]
ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドを含み得る。 ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、または、誘導性プロモーターであり得る。
【0503】
ツールボックスは、RRS1、転写終止コドン、RRS2を含み得る。RRS1、転写終止コドンおよびRRS2は、Cas9をコードするポリヌクレオチドと、Cas9をコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターとの間に連続して位置し得る。RRS1およびRRS2は互いに同一であり得る。RRS1およびRRS2は、loxpを含み得るが、これに限定されない。
【0504】
RRS1およびRRS2と相互作用できるSSRは、ツールボックスに提供され得る。SSRは、Creを含み得るが、これに限定されない。ツールボックスにおいて、RRS1とRRS2との間に位置する転写終止コドンを含むポリヌクレオチドは欠失され得る。この場合、Cas9をコードするポリヌクレオチドから転写されるmRNAは、転写終止コドンが欠失される前に転写されないことがあり得て、転写終止コドンが欠失された後に転写され得る。
[3‐1‐4.終止コドンを使用するCas9翻訳の調節]
ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0505】
ツールボックスは、Cas9をコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、または、誘導性プロモーターであり得る。
【0506】
ツールボックスは、RRS1、終止コドン、RRS2を含み得る。RRS1、転写終止コドン、RRS2は、Cas9をコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターと、Cas9をコードするポリヌクレオチドとの間に連続して位置し得る。RRS1およびRRS2は、互いに同一であり得る。RRS1およびRRS2はloxpを含み得るが、これに限定されない。
【0507】
RRS1およびRRS2と相互作用できるSSRは、ツールボックスに提供され得る。SSRは、Creリコンビナーゼを含み得るが、これに限定されない。ツールボックスにおいて、RRS1とRRS2との間に位置する終止コドンを含むポリヌクレオチドは欠失され得る。この場合、Cas9をコードするポリヌクレオチドから転写されるmRNAは、終止コドンが欠失される前に転写されないことがあり得て、終止コドンが欠失された後に転写され得る。
【0508】
[3‐2.ガイド核酸発現の調節]
ツールボックスは、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。ガイド核酸は、gRNAを含み得るが、これに限定されない。
[3‐2‐1.RRSを使用するプロモーター挿入]
ツールボックスは、gRNAをコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックスは、gRNAをコードするポリヌクレオチドの5'末端にRRSを含み得る。
【0509】
核酸は、プロモーターをコードするポリヌクレオチドを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、または、誘導性プロモーターを含み得る。構成プロモーターはU6プロモーターを含み得る。核酸は、プロモーターをコードするポリヌクレオチドの一端または両端においてRRSを含み得る。RRSは、ツールボックスに含まれるRRSと対を形成し得る。
【0510】
核酸と相互作用できるSSRおよびRRSは、ツールボックスに提供され得る。プロモーターをコードするポリヌクレオチドはツールボックスに挿入され得る。この場合、gRNAをコードするポリヌクレオチドの転写は、プロモーターが挿入される前は開始されないことがあり得て、プロモーターが挿入された後に開始されることがあり得る。
[3‐2‐2.gRNA転写の調節]
ツールボックスは、gRNAをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0511】
ツールボックスは、gRNAをコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターを含み得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、または、誘導性プロモーターであり得る。構成プロモーターはU6プロモーターを含み得る。
【0512】
ツールボックスは、RRS1、転写終止コドン、RRS2を含み得る。転写終止コドンはポリT配列を含み得る。転写終止コドンはAATAAA配列を含み得る。RRS1、転写終止コドン、RRS2は、gRNAをコードするポリヌクレオチドの転写を開始するプロモーターと、gRNAをコードするポリヌクレオチドとの間に連続して位置し得る。RRS1およびRRS2は、互いに同一であり得る。RRS1およびRRS2は、loxpを含み得るが、これに限定されない。
【0513】
RRS1およびRRS2と相互作用できるSSRは、ツールボックスに提供され得る。SSRは、Creリコンビナーゼを含み得るが、これに限定されない。ツールボックスにおいて、RRS1とRRS2との間に位置する転写終止コドンを含むポリヌクレオチドは欠失され得る。
【0514】
この場合、gRNAをコードするポリヌクレオチドは、転写終止コドンが欠失される前に発現されないことがあり得て、転写終止コドンが欠失された後に発現することがあり得る。
[4.CRISPR/酵素系の標的部位]
細胞における動物ゲノムは、少なくとも1つのツールボックスを含み得る。
【0515】
少なくとも1つのツールボックスは、第1ツールボックスを含み得る。第1ツールボックスは、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0516】
代替的に、第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み得るが、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る。この場合、ガイド核酸、または、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、別個の送達ベクターによって細胞に導入され得る。
【0517】
ガイド核酸はプロトスペーサードメインを含み得る。プロトスペーサードメインは、細胞における動物ゲノムまたはエクソポリヌクレオチドに位置する標的部位と同一であるまたはそれと相補結合できるヌクレオチド配列を含み得る。
【0518】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼはCas9を含み得るが、これに限定されない。ガイド核酸はgRNAを含み得るが、これに限定されない。
【0519】
[4‐1.動物ゲノム]
細胞における動物ゲノムは、gRNAの標的部位を含み得る。標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接するヌクレオチド配列であり得る。PAM配列はNGGを含み得るが、これに限定されない。
【0520】
標的部位は、ポリペプチドの発現に関与できるポリヌクレオチド、または、細胞における動物ゲノムにおけるRNAに位置し得る。
【0521】
標的部位は、細胞における動物ゲノムにおけるポリペプチドまたはRNAをコードするポリヌクレオチドのプロモーター、5'UTR、エクソン、イントロン、3'UTRのうち、いずれか1つに位置し得る。
【0522】
この場合、細胞におけるポリペプチドまたはRNAの発現量は、CRISPR/酵素系を介して影響され得る。標的部位は、細胞における動物ゲノムのセーフハーバーに位置し得る。
【0523】
動物ゲノムがマウスゲノムである場合、マウスゲノムのセーフハーバーは、既に広く知られているrosa26遺伝子座を含み得る。
【0524】
動物ゲノムがウシゲノムである場合、ウシゲノムのセーフハーバーは、テーブル1における遺伝子座を含み得るが、これに限定されない。
【0525】
この場合、CRISPR/酵素系を通して、上の細胞、および、これらの細胞を含むトランスジェニック動物に対して致死的影響を与えない部位特異的形質転換を実行することが可能である。
[4‐2.エクソポリヌクレオチド]
動物ゲノムに含まれる少なくとも1つのツールボックスは標的ツールボックスを含み得る。
【0526】
本明細書において使用される場合、「標的ツールボックス」という用語は、コンポーネントとして、改変ヌクレアーゼのコンポーネントによって認識できる標的部位を含むツールボックスを指し得る。
【0527】
標的ツールボックスは、gRNAのための、少なくとも1つの標的部位を含み得る。標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接するヌクレオチド配列であり得る。PAM配列はNGGを含み得るが、これに限定されない。標的ツールボックスは、第1ツールボックスと同一のツールボックスであり得る。標的ツールボックスは、第1ツールボックスとは異なるツールボックスであり得る。
【0528】
標的部位は、標的ツールボックスにおけるポリペプチドまたはRNAをコードするポリヌクレオチドのプロモーター、5'UTR、エクソン、イントロン、3'UTRのうち、いずれか1つに位置し得る。
【0529】
ポリペプチドは、標的タンパク質の一部を含み得る。この場合、標的ツールボックスを含む細胞、および、これらの細胞を含むトランスジェニック動物の標的タンパク質の発現量は、CRISPR/酵素系を通して影響を受け得る。
【0530】
ポリペプチドは、マーカー遺伝子によって発現されるポリペプチドを含み得る。この場合、マーカー遺伝子は、CRISPR/酵素系を通してノックアウトされ得て、それにより、形質転換細胞の選択のために使用され得る。例えば、細胞における動物ゲノムに含まれる標的ツールボックスが、チミジンキナーゼをコードするポリヌクレオチドを含むとき、チミジンキナーゼは、標的部位として、チミジンキナーゼのエクソンの一部を標的化するCRISPR/酵素系による部位特異的形質転換を通してノックアウトできる。部位特異的形質転換が生した細胞は、標的ツールボックスを含む細胞をガンシクロビルで処理することによって選択できる。
【0531】
ポリペプチドは、リコンビナーゼの一部を含み得る。この場合、細胞における部位特異的組み換えは、CRISPR/酵素系を通して、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドをノックアウトすることによって阻害できる。
【0532】
ポリペプチドはトランスポザーゼを含み得る。この場合、細胞へのトランスポゾン挿入、または、細胞からのトランスポゾン欠失は、CRISPR/酵素系を通して、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドのノックアウトによって阻害され得る。
【0533】
ポリペプチドは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの一部を含み得る。この場合、細胞における部位特異的形質転換は、CRISPR/酵素系を通して、RNA誘導性エンドヌクレアーゼのノックアウトによって防止できる。例えば、細胞における動物ゲノムに含まれる標的ツールボックスが、Cas9をコードするポリヌクレオチドを含むとき、Cas9は、標的部位として、Cas9のエクソンの一部を標的化するCRISPR/酵素系による部位特異的形質転換を通してノックアウトできる。ツールボックスを含む細胞において、標的ツールボックスにおける部位特異的形質転換を同時に実行しながら、細胞におけるCas9発現を低減することにより、標的部位以外の位置における部位特異的形質転換の発生(オフターゲット活性)を防止することが可能である。
【0534】
RNAは、ガイド核酸の一部を含み得る。この場合、細胞における部位特異的形質転換は、CRISPR/酵素系を通したガイド核酸のノックアウトによって防止できる。例えば、細胞における動物ゲノムに含まれる標的ツールボックスが、gRNAをコードするポリヌクレオチドを含むとき、標的部位として、gRNAのプロトスペーサードメインを標的化するCRISPR/酵素系による部位特異的形質転換を通して、gRNAをノックアウトできる。ツールボックスを含む細胞において、標的ツールボックスにおける部位特異的形質転換を同時に実行しながら、細胞におけるgRNA発現を低減することにより、標的部位以外の位置における部位特異的形質転換の発生(オフターゲット活性)を防止することが可能である。追加的に、標的ツールボックスを含む細胞がRNA誘導性エンドヌクレアーゼを発現できるとき、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現に影響することなく、オフターゲット活性を防止することが可能である。
【0535】
標的部位は、標的ツールボックスにおける非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに位置し得る。代替的に、標的部位は、標的ツールボックスにおける未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチドに位置し得る。代替的に、標的部位は、標的ツールボックスにおける非転写ポリヌクレオチドに位置し得る。
【0536】
細胞における動物ゲノムは、互いに同一である標的ツールボックスのうち2以上を含むとき、単一のCRISPR/酵素系を通して、複数の同一の部位特異的形質転換を実行することが可能である。例えば、細胞におけるウシゲノムを含む標的ツールボックスが非転写ポリヌクレオチドを含むとき、標的部位として非転写ポリヌクレオチドの一部を標的化するCRISPR/酵素系を通して、オメガ3をコードするポリヌクレオチドの部位特異的挿入を実行することが可能である。ウシゲノムが、標的ツールボックスのうち2以上を含むとき、オメガ3をコードするポリヌクレオチドを各標的ツールボックスに挿入できるので、オメガ3の発現量が高い細胞またはトランスジェニックウシを調製することが可能である。
【0537】
細胞における動物ゲノムが、互いに異なる標的ツールボックスのうち2以上を含むとき、ガイド核酸が異なるCRISPR/酵素系を通して、複数の異なる部位特異的形質転換を実行することが可能である。例えば、細胞におけるウシゲノムは、第1標的ツールボックスおよび第2標的ツールボックスを含み得る。第1標的ツールボックスは、第1標的部位を含み得て、第2標的ツールボックスは、第2標的部位を含み得る。第1標的部位のヌクレオチド配列は、第2標的部位と異なり得る。第1標的部位と同一である、または、それと相補結合できる第1gRNAを含むCRISPR/酵素系を通して、ヒト免疫グロブリン重鎖をコードするポリヌクレオチドが第1ツールボックスにおいてノックインされ得る。第2標的部位と同一である、または、それと相補結合できる第2gRNAを含むCRISPR/酵素系を通して、ヒト免疫グロブリン軽鎖をコードするポリヌクレオチドが第2ツールボックスにおいてノックインされ得る。第1標的ツールボックスおよび第2標的ツールボックスの両方を含む細胞、または、細胞を含むトランスジェニックウシは、ヒト免疫グロブリン重鎖およびヒト免疫グロブリン軽鎖の両方を発現することによって、ヒト抗体を産生できる。
【0538】
[5.CRISPR/酵素系を使用する部位特異的形質転換]
細胞における動物ゲノムは少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスは、第1ツールボックス、第2ツールボックス、第3ツールボックスのうち、少なくともいずれか1つを含み得る。
【0539】
第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。この場合、ツールボックスを含む細胞に、ガイド核酸、または、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを送達することを介して、CRISPR/酵素系によって、部位特異的形質転換を実行することが可能である。
【0540】
第2ツールボックスは、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。この場合、ツールボックスを含む細胞内に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼを導入することにより、または、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを送達することにより、CRISPR/酵素系を通して、部位特異的形質転換を実行することが可能である。
【0541】
第3ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。この場合、細胞において、CRISPR/酵素系を通して、部位特異的形質転換を実行することが可能である。
【0542】
少なくとも1つのツールボックスを含む細胞における動物ゲノムは、ガイド核酸の標的部位を含み得る。標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接するヌクレオチド配列であり得る。
【0543】
少なくとも1つのツールボックスは標的ツールボックスを含み得る。標的ツールボックスは、ガイド核酸の標的部位を含み得る。標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接するヌクレオチド配列であり得る。標的ツールボックスは、第1ツールボックスと同一のツールボックスであり得る。代替的に、標的ツールボックスは、第1ツールボックスとは異なるツールボックスであり得る。
【0544】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、Cas9を含み得るが、これに限定されない。ガイド核酸は、gRNAを含み得るが、これに限定されない。
【0545】
[5‐1.非相同末端結合(NHEJ)]
DNAの二本鎖が両方切断される場合、すなわち、二本鎖切断が発生する場合、DNAリガーゼによって、切断されたDNA鎖を再び結合することは、非相同末端結合(NHEJ)と呼ばれる。
【0546】
細胞における動物ゲノムは、第1ツールボックス、第2ツールボックス、第3ツールボックスのうち、少なくともいずれか1つを含み得る。Cas9は、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。gRNAは、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。
【0547】
gRNAは、細胞における動物ゲノムまたは標的ツールボックスの標的部位と相補結合できる。Cas9は、gRNAと相互作用でき、それにより、標的部位における二本鎖切断を引き起こすことができる。
【0548】
この場合、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、非相同末端結合(NHEJ)プロセス中に挿入され得る。代替的に、ヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、非相同末端結合(NHEJ)プロセス中に欠失され得る。挿入または欠失に起因して、標的部位で、ヌクレオチド配列において修飾が生じ得る。
【0549】
[5‐2.相同組換え]
細胞における動物ゲノムは、第1ツールボックス、第2ツールボックス、第3ツールボックスのうち、少なくともいずれか1つを含み得る。Cas9は、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。gRNAは、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。
【0550】
ドナーポリヌクレオチドまたはドナーが、細胞に送達され得る。第1ホモロジーアームは、ドナーの5'末端に位置し得る。第2ホモロジーアームは、ドナーの3'末端に位置し得る。
【0551】
第1ホモロジーアームは、細胞における動物ゲノムの一部と同一のヌクレオチド配列を有し得て、第2ホモロジーアームは、細胞における動物ゲノムの一部と同一のヌクレオチド配列を有し得る。この場合、ドナーポリヌクレオチドは、細胞における動物ゲノムにおいて、第1ホモロジーアームと同一のヌクレオチド配列と、第2ホモロジーアームと同一のヌクレオチド配列との間に挿入され得る。
【0552】
代替的に、第1ホモロジーアームは、細胞における標的ツールボックスの一部と同一のヌクレオチド配列を有し得て、第2ホモロジーアームは、細胞における標的ツールボックスの一部と同一のヌクレオチド配列を有し得る。この場合、ドナーは、細胞における標的ツールボックスにおいて、第1ホモロジーアームと同一のヌクレオチド配列と、第2ホモロジーアームと同一のヌクレオチド配列との間に挿入され得る。ドナーはツールボックスを含み得る。
【0553】
[5‐3.相同性非依存的標的化挿入(HITI)]
細胞における動物ゲノムは、第1ツールボックス、第2ツールボックス、第3ツールボックスのうち、少なくともいずれか1つを含み得る。Cas9は、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。gRNAは、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。ドナーは細胞に送達され得る。
【0554】
細胞における動物ゲノムにおける標的部位に位置するものと同一のヌクレオチド配列を有する標的部位は、ドナーの5'末端および3'末端に位置し得る。この場合、CRISPR/酵素系によって、細胞における動物ゲノムに位置する標的部位、ドナーの5'末端における標的部位、および、ドナーの3'末端における標的部位で、二本鎖切断が生じ得る。ドナーは、非相同末端結合(NHEJ)を通して、動物ゲノムの二本鎖切断の間に挿入できる。
【0555】
代替的に、細胞における標的ツールボックスにおける標的部位に位置するものと同一のヌクレオチド配列を有する標的部位は、ドナーの5'末端および3'末端に位置し得る。この場合、CRISPR/酵素系によって、細胞における標的ツールボックスに位置する標的部位、ドナーの5'末端における標的部位、および、ドナーの3'末端における標的部位で、二本鎖切断が生じ得る。非相同末端結合(NHEJ)を通して、標的ツールボックスの二本鎖切断の間にドナーを挿入できる。ドナーは、ツールボックスを含み得る。
【0556】
[5‐4.ノックイン(ノック‐イン)]
細胞における動物ゲノムは、第1ツールボックス、第2ツールボックス、第3ツールボックスのうち、少なくともいずれか1つを含み得る。Cas9は、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。gRNAは、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。
【0557】
ドナーポリヌクレオチドは細胞に送達され得る。この場合、相同組換えを通して、細胞における動物ゲノムに、または、標的ツールボックスの内部に、ドナーを挿入できる。代替的に、HITIを通して、ドナーを細胞における動物ゲノムに、または、標的ツールボックスの内部に挿入できる。
【0558】
例えば、動物ゲノムにおける標的部位、または、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位に存在する配列のうち少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され得て、ドナーポリヌクレオチドが追加され得る。
【0559】
別の例において、ドナーポリヌクレオチドは、動物ゲノムにおける標的部位、または、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位に存在する配列に追加され得る。
【0560】
タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチドをドナーが含む場合、ドナーが挿入される細胞において、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチドがノックインされ得て、それにより、タンパク質またはRNAが発現され得る。
【0561】
[5‐5.ノックアウト(ノック‐アウト)]
細胞における動物ゲノムは、第1ツールボックス、第2ツールボックス、第3ツールボックスのうち、少なくともいずれか1つを含み得る。Cas9は、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。gRNAは、細胞において発現され得る、または、細胞に送達され得る。
【0562】
ドナーポリヌクレオチドは細胞に送達され得る。この場合、相同組換えを通して、動物ゲノムにおける標的部位、または、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位にドナーを挿入できる。代替的に、HITIを通して、動物ゲノムにおける標的部位、または、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位にドナーを挿入できる。
【0563】
ドナーポリヌクレオチドは、細胞に送達されないことがあり得る。この場合、ヌクレオチド挿入、ポリヌクレオチド挿入、ヌクレオチド欠失、または、ポリヌクレオチド欠失が、動物ゲノムにおける標的部位、または、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位において生じ得る。
【0564】
例えば、動物ゲノムにおける標的部位、または、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位に存在する少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され得る。
【0565】
別の例において、動物ゲノムにおける標的部位、または、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位に存在する少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され得て、少なくとも1つのヌクレオチドがそれに追加的に加えられ得る。
【0566】
動物ゲノムにおける標的部位、または、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位が、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチドに位置する場合、タンパク質またはRNAはノックアウトされ得て、それにより、発現量が低減され得る。
【0567】
[6.CRISPR/酵素系による部位特異的形質転換細胞]
形質転換細胞の動物ゲノムは少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスは、第1ツールボックス、第2ツールボックス、第3ツールボックスのうち、いずれか1つを含み得る。第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。第2ツールボックスは、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。第3ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得て、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
【0568】
部位特異的形質転換細胞は、細胞における動物ゲノムにおける標的部位で部位特異的形質転換が生じた細胞を含み得る。
【0569】
部位特異的形質転換細胞は、細胞における標的ツールボックスの内部の標的部位で部位特異的形質転換が生じた細胞を含み得る。
[6‐1.単一細胞]
[6‐1‐1.倍数性]
部位特異的形質転換細胞は2倍体細胞であり得る。2倍体細胞は上述の通りである。部位特異的形質転換細胞は1倍体細胞であり得る。1倍体細胞は上述の通りである。
【0570】
[6‐1‐2.接合性]
部位特異的形質転換細胞は、少なくとも一対の相同染色体を含み得る。少なくとも一対の相同染色体は、相同染色体の関係にある第1染色体および第2染色体を含み得る。部位特異的形質転換細胞はホモ接合体であり得る。
【0571】
ホモ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれる部位特異的形質転換の種類、数、位置のすべては同一であり得る。
【0572】
ホモ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれる部位特異的形質転換の種類および数の両方は同一であり得る。
【0573】
ホモ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれる部位特異的形質転換の種類は同一であり得る。
【0574】
ホモ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれるツールボックスおよび部位特異的形質転換の種類、数、位置のすべては同一であり得る。
【0575】
ホモ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれるツールボックスおよび部位特異的形質転換の種類および数の両方は同一であり得る。
【0576】
ホモ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体に含まれるツールボックスおよび部位特異的形質転換の種類は同一であり得る。
【0577】
代替的に、ホモ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体および第2染色体の両方は、いかなるツールボックスも含まないことがあり得て、第1染色体および第2染色体の両方は、いかなる部位特異的形質転換も含まないことがあり得る。部位特異的形質転換細胞はヘテロ接合体であり得る。
【0578】
ヘテロ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体は、ツールボックスを含まないことがあり得て、第2染色体は、少なくとも1つのツールボックスを含み得る。
【0579】
ヘテロ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第1染色体は、部位特異的形質転換を含まないことがあり得て、第2染色体は、少なくとも1つの部位特異的形質転換を含むことがあり得る。
【0580】
ヘテロ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第2染色体は、第1染色体に含まれるものと同一であるツールボックスを含まないことがあり得る。
【0581】
ヘテロ接合体である部位特異的形質転換細胞において、第2染色体は、第1染色体に含まれるものと同一である部位特異的形質転換を含まないことがあり得る。
[6‐2.細胞コロニー]
部位特異的形質転換細胞は細胞コロニーを形成し得る。
【0582】
[6‐2‐1.相同性細胞コロニー]
相同性細胞コロニーの特徴として、各細胞に保持されるツールボックスは、互いに同一であり、各細胞に含まれる部位特異的形質転換の種類、数、位置のすべても、互いに同一である。
[6‐2‐2.キメラ細胞コロニー]
キメラ細胞コロニーは、相同性細胞コロニー以外の細胞コロニーを指す。
【0583】
例えば、キメラ細胞コロニーは、CRISPR/酵素系によって第1標的部位に部位特異的形質転換が生じたゲノムを有する第1細胞と、CRISPR/酵素系によって第1標的部位において部位特異的形質転換が生じたゲノムを有さない第2細胞との両方を備え得る。
【0584】
[7.CRISPR/酵素系を使用する部位特異的形質転換細胞の選択]
[7‐1.蛍光タンパク質を使用する形質転換細胞の選択]
形質転換細胞は少なくとも1つの標的ツールボックスを含み得る。形質転換細胞は少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスのいずれか1つは、蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む標的ツールボックスであり得る。例えば、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、標的部位として蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドのエクソンを使用する部位特異的形質転換を通して形質転換細胞に挿入され得る。
【0585】
部位特異的形質転換細胞は、蛍光シグナルに関して、部位特異的形質転換が生じなかった細胞とは異なり得る。従って、部位特異的形質転換細胞を区別できる。
【0586】
部位特異的形質転換細胞は、蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。例えば、部位特異的形質転換を通して、蛍光タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むドナーを、少なくとも1つの標的ツールボックスを含む形質転換細胞に挿入できる。ドナーは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0587】
部位特異的形質転換細胞は蛍光タンパク質を発現するので、蛍光シグナルを測定できる。従って、部位特異的形質転換細胞を、部位特異的形質転換が生じなかった動物細胞から区別できる。
[7‐2.抗生物質耐性遺伝子を使用する形質転換細胞の選択]
部位特異的形質転換細胞は抗生物質耐性遺伝子を含み得る。
【0588】
例えば、部位特異的形質転換を通して、抗生物質耐性遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含むドナーを、少なくとも1つの標的ツールボックスを含む形質転換細胞に挿入できる。ドナーは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0589】
部位特異的形質転換細胞は、抗生物質耐性遺伝子を発現できるので、細胞を複合抗生物質で処理したときでも、細胞は生存できる。従って、部位特異的形質転換細胞を、部位特異的形質転換が生じなかった動物細胞から分離できる。
【0590】
[7‐3.抗原抗体反応を使用する形質転換細胞の選択]
部位特異的形質転換細胞は少なくとも1つの標的ツールボックスを含み得る。部位特異的形質転換細胞は少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスのいずれか1つは、抗原をコードするポリヌクレオチド、または、抗原として作用することが可能なヌクレオチドを含む標的ツールボックスであり得る。例えば、抗原をコードするポリヌクレオチドのエクソンが標的部位として使用される部位特異的形質転換を通して、抗原をコードするポリヌクレオチドを含む標的ツールボックスを含む形質転換細胞に、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを挿入できる。
【0591】
部位特異的形質転換細胞は、抗原の発現量に関して、部位特異的形質転換が生じなかった細胞と異なり得る。従って、抗原抗体反応を通して、部位特異的形質転換細胞を区別できる。
【0592】
部位特異的形質転換細胞は、抗原をコードするポリヌクレオチド、または、抗原として作用可能なヌクレオチドを含み得る。例えば、部位特異的形質転換を通して、動物ゲノムにおける標的部位を含む形質転換細胞に、抗原として作用可能なヌクレオチドを含むドナーを挿入できる。ドナーは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0593】
部位特異的形質転換細胞に挿入される抗原として作用可能なヌクレオチドは、特定の抗体と相互作用できる。従って、部位特異的形質転換細胞を、部位特異的形質転換が生じなかった動物細胞から区別できる。
【0594】
[7‐4.表面マーカー遺伝子を使用する形質転換細胞の選択]
部位特異的形質転換細胞は少なくとも1つの標的ツールボックスを含み得る。部位特異的形質転換細胞は少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスのいずれか1つは、表面マーカー遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含む標的ツールボックスであり得る。例えば、標的部位として、表面マーカー遺伝子をコードするポリヌクレオチドのエクソンが使用される部位特異的形質転換を通して、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを形質転換細胞に挿入できる。
【0595】
部位特異的形質転換細胞は、表面で発現する表面マーカーの量に関して、部位特異的形質転換が生じなかった細胞とは異なり得る。表面マーカーは特異的な抗体と相互作用できる。抗体は磁性粒子またはフルオロフォアと相互作用できる。従って、磁気特性または蛍光シグナルに基づいて、部位特異的形質転換が生じなかった細胞から部位特異的形質転換細胞を区別できる。
【0596】
部位特異的形質転換細胞は、表面マーカーをコードするポリヌクレオチドを含み得る。例えば、部位特異的形質転換を通して、少なくとも1つの標的ツールボックスを含む形質転換細胞に、表面マーカーをコードするポリヌクレオチドを含むドナーを挿入できる。ドナーは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0597】
部位特異的形質転換細胞は、細胞表面上で表面マーカーを発現できる。表面マーカーは特異的な抗体と相互作用できる。抗体は磁性粒子またはフルオロフォアと相互作用できる。従って、磁気特性または蛍光シグナルに基づいて、部位特異的形質転換が生じなかった細胞から部位特異的形質転換細胞を区別できる。
【0598】
[7‐5.自殺遺伝子を使用する形質転換細胞の選択]
部位特異的形質転換細胞は、動物ゲノムまたはツールボックス内に、自殺遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含み得る。部位特異的形質転換を通して自殺遺伝子がノックアウトされる部位特異的形質転換細胞を調製できる。
【0599】
例えば、チミジンキナーゼをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスを形質転換細胞が含むとき、チミジンキナーゼをコードするポリヌクレオチドのエクソンのヌクレオチド配列の一部が標的部位として使用される部位特異的形質転換を通して、ドナーを挿入できる。
【0600】
部位特異的形質転換細胞の特徴として、自殺遺伝子がノックアウトされるので、プロドラッグで処理されるとき、アポトーシスが生じない。従って、部位特異的形質転換細胞を、部位特異的形質転換が生じなかった動物細胞から区別できる。
【0601】
[8.CRISPR/酵素系を使用する部位特異的トランスジェニック動物]
[8‐1.CRISPR/酵素系を使用する個々の部位特異的トランスジェニック動物]
[8‐1‐1.相同性]
相同性部位特異的トランスジェニック動物に含まれる各細胞は少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスは、第1ツールボックス、第2ツールボックス、第3ツールボックスのうち、少なくとも1つを含み得る。第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。第2ツールボックスは、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。第3ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得て、ガイド核酸をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。
【0602】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、Cas9を含み得るが、これに限定されない。ガイド核酸は、gRNAを含み得るが、これに限定されない。
【0603】
相同性部位特異的トランスジェニック動物に含まれる各細胞は、動物ゲノムの標的部位における少なくとも1つの部位特異的形質転換を含み得る。
【0604】
相同性部位特異的トランスジェニック動物に含まれる各細胞は、ツールボックスの内部の標的部位における少なくとも1つの部位特異的形質転換を含み得る。
【0605】
[8‐1‐2.キメラ]
キメラ部位特異的トランスジェニック動物は、相同トランスジェニック動物以外のトランスジェニック動物を指す。
【0606】
例えば、キメラ部位特異的トランスジェニック動物は、CRISPR/酵素系によって第1標的部位に部位特異的形質転換が生じたゲノムを有する第1細胞と、CRISPR/酵素系によって第1標的部位において部位特異的形質転換が生じたゲノムを有さない第2細胞との両方を備え得る。
【0607】
[8‐2.CRISPR/酵素系を使用する部位特異的トランスジェニック動物の調製方法]
部位特異的トランスジェニック動物を調製する方法は、動物細胞から部位特異的トランスジェニック動物を調製するための方法、エクソポリヌクレオチドを動物の組織または臓器へ送達することにより部位特異的トランスジェニック動物を調製するための方法、および、トランスジェニック動物間で交配することにより部位特異的トランスジェニック動物を調製するための方法を含む。動物細胞から部位特異的トランスジェニック動物を調製するための方法は、少なくとも1つのツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物の細胞から部位特異的トランスジェニック動物を調製するための方法を含む。
【0608】
上記の方法のいずれか1つによって調製される部位特異的トランスジェニック動物は、キメラ部位特異的トランスジェニック動物または相同性部位特異的トランスジェニック動物のいずれか1つであり得る。
【0609】
[8‐2‐1.動物細胞から部位特異的トランスジェニック動物を調製するための方法]
部位特異的トランスジェニック動物は、少なくとも1つのツールボックスを含む形質転換細胞から調製され得る。
【0610】
例えば、部位特異的トランスジェニック動物は、第1ツールボックスが挿入される、体細胞へのgRNAの体細胞マイクロインジェクション、および、その後のSCNTを介して、動物ゲノム、または、体細胞における標的ツールボックスの内部に存在する標的部位における部位特異的形質転換を実行することによって調製され得る。部位特異的トランスジェニック動物は相同性部位特異的トランスジェニック動物であり得る。
【0611】
例えば、動物ゲノム、または、第3ツールボックスを含む配偶子の標的ツールボックスの内部に存在する標的部位にドナーポリヌクレオチドが挿入される部位特異的トランスジェニック動物は、配偶子へのドナーポリヌクレオチドの配偶子マイクロインジェクションを介して調製され得る。部位特異的トランスジェニック動物はキメラ部位特異的トランスジェニック動物であり得る。
【0612】
例えば、動物ゲノム、または、第2ツールボックスを含む接合子の標的ツールボックスの内部に存在する標的部位においてNHEJが生じた部位特異的トランスジェニック動物は、Cas9をコードするポリヌクレオチドの接合子への接合子マイクロインジェクションを介して調製され得る。部位特異的トランスジェニック動物はキメラ部位特異的トランスジェニック動物であり得る。
【0613】
例えば、標的ツールボックスを含む胚への、Cas9をコードするポリヌクレオチドおよびgRNAをコードするポリヌクレオチドの胚マイクロインジェクションを介して、標的ツールボックスの内部に存在する標的部位におけるNHEJを誘導することによって、部位特異的トランスジェニック動物が調製され得る。部位特異的トランスジェニック動物はキメラ部位特異的トランスジェニック動物であり得る。
【0614】
[8‐2‐2.動物の組織または臓器へのエクソポリヌクレオチドの送達によって部位特異的トランスジェニック動物を調製する方法]
【0615】
動物の組織または臓器は、少なくとも1つのツールボックスを含む細胞を備え得る。部位特異的トランスジェニック動物は、Cas9、gRNAまたはドナーポリヌクレオチドを、動物の組織または臓器に導入することによって調製され得る。
【0616】
例えば、第1ツールボックスが挿入される細胞を動物の乳腺組織が含むとき、動物ゲノムにおける乳腺において特異的に発現するタンパク質をコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列の一部を標的部位として標的化するgRNAを乳腺組織へマイクロインジェクションすることを介して、乳腺において特異的に発現するタンパク質がノックアウトされる部位特異的トランスジェニック動物が調製され得る。部位特異的トランスジェニック動物はキメラ部位特異的トランスジェニック動物であり得る。
【0617】
例えば、標的ツールボックスが挿入された細胞を動物の乳腺組織が含むとき、ドナーが標的ツールボックスに挿入された部位特異的トランスジェニック動物が、Cas9をコードするポリヌクレオチド、gRNAをコードするポリヌクレオチド、および、ドナーポリヌクレオチドを乳腺組織にマイクロインジェクションすることを介して調製され得る。部位特異的トランスジェニック動物はキメラ部位特異的トランスジェニック動物であり得る。
【0618】
例えば、第2ツールボックスが挿入された細胞を動物の生殖器が含むとき、Cas9をコードするポリヌクレオチドを動物の生殖器にマイクロインジェクションすることを介して、動物ゲノム、または、生殖器の細胞における標的ツールボックスの内部に存在する標的部位に部位特異的形質転換が誘導され得る。部位特異的トランスジェニック動物の配偶子から得られた子も部位特異的トランスジェニック動物であり得る。部位特異的トランスジェニック動物はキメラ部位特異的トランスジェニック動物であり得る。
【0619】
[8‐2‐3.交配を介したトランスジェニック動物の調製方法]
部位特異的トランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物と第2トランスジェニック動物との間の交配を介して調製され得る。
【0620】
例えば、動物ゲノム、または、標的ツールボックスの内部に存在する標的部位において部位特異的形質転換が生じた子は、第1ツールボックスを含む第1トランスジェニック動物と、第2ツールボックスを含む第2トランスジェニック動物との間の交配を介して調製され得る。
【0621】
第2トランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物の子であり得る、または、第1トランスジェニック動物と血縁関係であり得る。代替的に、第2トランスジェニック動物は、第1トランスジェニック動物と血縁関係でないことがあり得る。
【0622】
交配を介して得られる部位特異的トランスジェニック動物は、同一の位置において、第1トランスジェニック動物の動物ゲノムに含まれるツールボックスの一部と同一であるツールボックスを含み得る。
【0623】
交配を介して得られる部位特異的トランスジェニック動物は、同一の位置において、第2トランスジェニック動物の動物ゲノムに含まれるツールボックスの一部と同一であるツールボックスを含み得る。
【0624】
交配を介して得られる部位特異的トランスジェニック動物は相同性部位特異的トランスジェニック動物であり得る。
【0625】
交配によって得られる部位特異的トランスジェニック動物は、ホモ接合体部位特異的形質転換細胞を含み得る。交配を介して得られるトランスジェニック動物は、ヘテロ接合体部位特異的形質転換細胞を含み得る。
【0626】
[9.CRISPR/酵素系を使用する部位特異的トランスジェニック動物の使用]
[9‐1.品種改良した動物]
部位特異的トランスジェニック動物は、品種改良した動物として使用され得る。
[9‐2.疾患動物モデル]
部位特異的トランスジェニック動物は疾患動物モデルとして使用され得る。
[9‐3.疾患耐性動物]
部位特異的トランスジェニック動物は疾患耐性動物として使用され得る。
【0627】
[9‐4.副産物の使用]
部位特異的トランスジェニック動物の臓器、肉、皮膚、髪、体液が使用され得るが、使用される部位特異的トランスジェニック動物の部分はこれらに限定されない。
[9‐5.バイオリアクター]
部位特異的トランスジェニック動物はバイオリアクターとして使用され得る。
【0628】
[第5部 ツールボックス切除]
[1.トランスポザーゼによるツールボックス切除]
細胞における動物ゲノムは少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスのうちのトランスポゾンツールボックスは、第1端領域および第2端領域においてITRポリヌクレオチドを含み得る。
【0629】
[1‐1.動物ゲノムにおけるトランスポザーゼの使用]
[1‐1‐1.ツールボックス切除の構造]
動物ゲノムは、ITRポリヌクレオチドと相互作用できるトランスポザーゼをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。トランスポザーゼは切除限定トランスポザーゼを含み得る。トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドはトランスポゾンツールボックスに位置し得る。
【0630】
本明細書において使用される場合、「トランスポゾンツールボックス」という用語は、コンポーネントとしてトランスポゾンをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスを指し得る。
【0631】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、トランスポゾンツールボックス以外のツールボックスに位置し得る。トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドはツールボックスの外に位置し得る。
【0632】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの上流に位置し得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターのうちいずれか1つを含み得る。
【0633】
LSLは、トランスポザーゼの転写を調節するプロモーターと、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとの間に位置し得る。
【0634】
[1‐1‐2.ツールボックス切除機構]
細胞において発現するトランスポザーゼは、動物ゲノムから、細胞に存在するトランスポゾンツールボックスを欠失させることができる。
【0635】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターが組織特異的プロモーターである場合、トランスポザーゼは、動物ゲノムを含むトランスジェニック動物の特定の組織の細胞において発現され得る。この場合、特定の組織に含まれる細胞における動物ゲノムにおけるトランスポゾンツールボックスは、トランスポゾンツールボックスのITRポリヌクレオチドとの相互作用を介して欠失され得る。
【0636】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターが誘導性プロモーターである場合、トランスポザーゼは、一定の条件が満たされるときだけ発現できる。この場合、一定の条件を満たす細胞における動物ゲノムにおけるトランスポゾンツールボックスは、トランスポゾンツールボックスのITRポリヌクレオチドとの相互作用を通して欠失させることができる。
【0637】
トランスポザーゼの転写を調節するプロモーターと、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとの間にLSLが位置する場合、Creリコンビナーゼを細胞に導入することによる部位特異的組み換えを介して、LSLに存在する終止コドンが欠失されるときだけ、トランスポザーゼを発現させることができる。この場合、Creリコンビナーゼを含む細胞における動物ゲノムにおけるトランスポゾンツールボックスは、トランスポゾンツールボックスのITRポリヌクレオチドとの相互作用を通して欠失させることができる。
【0638】
[1‐2.動物ゲノムの外のトランスポザーゼの使用]
[1‐2‐1.ツールボックス切除の構造]
動物ゲノムは、ITRポリヌクレオチドと相互作用できるトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る。
【0639】
この場合、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは細胞に送達され得る。トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの上流に位置し得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターのうち、いずれか1つを含み得る。LSLは、トランスポザーゼの転写を調節するプロモーターと、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとの間に位置し得る。トランスポザーゼ自体が細胞に導入され得る。トランスポザーゼは切除限定トランスポザーゼを含み得る。
【0640】
[1‐2‐2.ツールボックス切除機構]
細胞に導入されるトランスポザーゼは、動物ゲノムから、細胞に存在するトランスポゾンツールボックスを欠失させることができる。
【0641】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターが組織特異的プロモーターである場合、動物ゲノムを含むトランスジェニック動物の特定の組織に導入されるトランスポザーゼを発現させることができる。この場合、トランスポザーゼが導入される細胞における動物ゲノムにおけるトランスポゾンツールボックスは、トランスポゾンツールボックスのITRポリヌクレオチドとの相互作用を通して欠失させることができる。
【0642】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターが誘導性プロモーターである場合、細胞に導入されるトランスポザーゼは、一定の条件が満たされるときだけ発現できる。この場合、一定の条件を満たす細胞における動物ゲノムにおけるトランスポゾンツールボックスは、トランスポゾンツールボックスのITRポリヌクレオチドとの相互作用を通して欠失させることができる。
【0643】
トランスポザーゼの転写を調節するプロモーターと、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドとの間にLSLが位置する場合、Creリコンビナーゼと共に導入することによる部位特異的組み換えを介して、LSLに存在する終止コドンが欠失されるときだけ、トランスポザーゼを発現させることができる。この場合、Creリコンビナーゼを含む細胞における動物ゲノムにおけるトランスポゾンツールボックスは、トランスポゾンツールボックスのITRポリヌクレオチドとの相互作用を通して欠失させることができる。
【0644】
[2.部位特異的リコンビナーゼによるツールボックス切除]
細胞における動物ゲノムは、少なくとも1つのツールボックスを含み得る。少なくとも1つのツールボックスのうち、RRSツールボックスの第1端領域はRRS1を含み得て、第2端領域はRRS2を含み得る。
【0645】
本明細書において使用される場合、「RRSツールボックス」という用語は、コンポーネントとしてRRSを含むツールボックスを指し得る。RRS1およびRRS2は互いに同一でも異なってもよい。RRS1およびRRS2は互いに対になり得る。
【0646】
RRS1と相互作用できるSSR1、および、RRS2と相互作用できるSSR2は、互いに同一のSSRであり得る。
[2‐1.動物ゲノムにおける部位特異的リコンビナーゼの使用]
[2‐1‐1.ツールボックス切除の構造]
細胞における動物ゲノムは、SSRをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得る。SSRをコードするポリヌクレオチドはSSRツールボックスに位置し得る。SSRをコードするポリヌクレオチドは、SSRツールボックス以外のツールボックスに位置し得る。SSRをコードするポリヌクレオチドは、ツールボックスの外に位置し得る。
【0647】
SSRをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターは、SSRをコードするポリヌクレオチドの上流に位置し得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターのうち、いずれか1つを含み得る。LSLは、SSRをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターと、SSRをコードするポリヌクレオチドとの間に位置し得る。
【0648】
[2‐1‐2.ツールボックス切除機構]
細胞において発現するSSRは、RRS1およびRRS2との相互作用を通して、動物ゲノムからRRSツールボックスを欠失させることができる。
【0649】
SSRをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターが組織特異的プロモーターである場合、SSRは、動物ゲノムを含むトランスジェニック動物の特定の組織において発現させることができる。この場合、特定の組織に含まれる細胞における動物ゲノムにおけるRRSツールボックスは、RRSツールボックスの両端におけるRRS1およびRRS2との相互作用を通して欠失させることができる。
【0650】
SSRをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターが誘導性プロモーターである場合、SSRは、一定の条件が満たされるときだけ発現できる。この場合、一定の条件を満たす細胞における動物ゲノムにおけるRRSツールボックスは、RRSツールボックスの両端におけるRRS1およびRRS2との相互作用を通して欠失させることができる。
【0651】
SSRの転写を調節するプロモーターと、SSRをコードするポリヌクレオチドとの間にLSLが位置する場合、Creリコンビナーゼを細胞に導入することによる部位特異的組み換えを介して、LSLに存在する終止コドンが欠失されるときだけ、SSRを発現させることができる。この場合、Creリコンビナーゼを含む細胞における動物ゲノムにおけるRRSツールボックスは、RRSツールボックスの両端におけるRRS1およびRRS2との相互作用を通して欠失させることができる。
【0652】
[2‐2.動物ゲノムの外の部位特異的リコンビナーゼの使用]
[2‐2‐1.ツールボックス切除の構造]
動物ゲノムは、SSRをコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る。 この場合、SSRをコードするポリヌクレオチドは細胞に送達され得る。SSRをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターは、SSRをコードするポリヌクレオチドの上流に位置し得る。プロモーターは、構成プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーターのうち、いずれか1つを含み得る。LSLは、SSRをコードするポリヌクレオチドの上流に位置し得る。代替的に、SSR自体が細胞に導入され得る。
【0653】
[2‐2‐2.ツールボックス切除機構]
細胞に導入されるSSRは、RRS1およびRRS2との相互作用を通して、動物ゲノムからRRSツールボックスを欠失させることができる。
【0654】
SSRをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターが組織特異的プロモーターである場合、動物ゲノムを含むトランスジェニック動物の特定の組織の細胞に導入されるSSRを発現させることができる。この場合、RRSツールボックスの両端におけるRRS1およびRRS2との相互作用を通して、SSRが導入された、細胞における動物ゲノムにおけるRRSツールボックスを欠失させることができる。
【0655】
SSRをコードするポリヌクレオチドの転写を調節するプロモーターが誘導性プロモーターである場合、細胞に導入されたSSRは、一定の条件が満たされるときだけ発現できる。この場合、一定の条件を満たす細胞における動物ゲノムにおけるRRSツールボックスは、RRSツールボックスの両端におけるRRS1およびRRS2との相互作用を通して欠失させることができる。
【0656】
SSRの転写を調節するプロモーターと、SSRをコードするポリヌクレオチドとの間にLSLが位置する場合、Creリコンビナーゼと共に導入することによる部位特異的組み換えを介して、LSLに存在する終止コドンが欠失されるときだけ、SSRを発現させることができる。この場合、Creリコンビナーゼを含む細胞における動物ゲノムにおけるRRSツールボックスは、RRSツールボックスの両端におけるRRS1およびRRS2との相互作用を通して欠失させることができる。
【0657】
以降、本開示によって開示される詳細に係る具体的な実施形態を説明する。
【0658】
[RNA誘導性エンドヌクレアーゼとガイド核酸とのうち少なくとも1つを含むツールボックス]
[1.ツールボックス構造]
【0659】
本開示のいくつかの実施形態によって開示されるツールボックスは、第1ITR配列、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドとガイド核酸をコードするポリヌクレオチドとのうち少なくとも1つ、および、第2ITR配列を含み得る。
【0660】
第1ITR配列、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および第2ITR配列は上述したので、詳細な説明は省略する。
図1を参照して、ツールボックスの構造を詳細に説明する。
【0661】
ツールボックス(100)は、第1ITR配列(101)と第2ITR配列(107)との間の改変ヌクレアーゼ(110)のコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0662】
図2は、改変ヌクレアーゼ(110)のコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの様々な実施形態を示す。
【0663】
改変ヌクレアーゼ(110)のコンポーネントをコードするポリヌクレオチドは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(102)をコードするポリヌクレオチドと、ガイド核酸(104)をコードするポリヌクレオチドとのうち少なくとも1つを含み得る。
【0664】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、改変ヌクレアーゼ複合体を構成するCas9タンパク質またはCpf1タンパク質であり得る。ガイド核酸は、改変ヌクレアーゼ複合体を構成するgRNAであり得る。
【0665】
追加的に、改変ヌクレアーゼ(110)のコンポーネントをコードするポリヌクレオチドは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよび/またはガイド核酸の発現のためのプロモーター(106)をコードするポリヌクレオチドを更に含み得る。ツールボックス(100)は、リコンビナーゼ認識部位(RRS)を更に含み得る。リコンビナーゼ認識部位(RRS)の種類および数は1または複数であり得る。
【0666】
リコンビナーゼ認識部位(RRS)がツールボックス(100)内に存在し得る位置は様々であり得る。例えば、リコンビナーゼ認識部位(RRS)は、
図2に示される1~24のうちの1または複数の位置に位置し得る。
【0667】
リコンビナーゼ認識部位(RRS)の種類、数、および/または位置は、ツールボックスの構造の変化を考慮して設計され得る。
【0668】
構造の変化は、ツールボックスに含まれるポリヌクレオチドの交換または欠失を含み得て、ツールボックスに含まれないポリヌクレオチドをツールボックスに挿入することを含み得る。
【0669】
図2を使用して、リコンビナーゼ認識部位(RRS)を含むツールボックスの構造に従って、ツールボックスの構造が変更されるいくつかの実施形態を以下で説明する。
【0670】
例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(102)をコードするポリヌクレオチドに関して、5'末端方向および3'末端方向にリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含むようにツールボックスが設計される場合、ツールボックスに含まれるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを通して、異なる種類のポリヌクレオチドと交換できる。具体的には、異なる種類のリコンビナーゼ認識部位(RRS)が
図2の位置4および5に含まれるとき、ツールボックスに含まれるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを通して、異なる種類のポリヌクレオチドと交換することができる。
【0671】
別の例において、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(102)をコードするポリヌクレオチドに関して、5'末端方向および3'末端方向に対を形成できるリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含むようにツールボックスが設計される場合、ツールボックスに含まれるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを通して欠失させることができる。具体的には、loxpをコードするポリヌクレオチドが
図2の位置4および5に含まれる場合、ツールボックスに含まれるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを通して欠失させることができる。
【0672】
更に別の例において、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(102)をコードするポリヌクレオチドに関して、5'末端方向および/または3'末端方向にリコンビナーゼ認識部位(RRS)を含むようにツールボックスが設計される場合、ツールボックスに含まれないポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを通してツールボックスに挿入できる。具体的には、リコンビナーゼ認識部位(RRS)が
図2の位置5に含まれる場合、ツールボックスに含まれないポリヌクレオチドは、部位特異的組み換えを通してツールボックスに挿入することができる。
【0673】
追加的に、ツールボックスを構成するポリヌクレオチドによってコードされるRNAまたはタンパク質の発現調節を考慮して、リコンビナーゼ認識部位(RRS)の種類、数および/または位置が設計され得る。
【0674】
図2を使用して、リコンビナーゼ認識部位(RRS)を含むツールボックスの構造に従ってRNAまたはタンパク質の発現が調節されるいくつかの実施形態を以下で説明する。
【0675】
ツールボックスを構成するポリヌクレオチドによってコードされるRNAまたはタンパク質の発現の調節は、リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用して、後の段階で、プロモーターをコードするポリヌクレオチドの挿入することを含み得る。
【0676】
例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端方向にリコンビナーゼ認識部位(RRS)が含まれる場合、部位特異的組み換えを通して、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳のためのプロモーターを挿入することによって、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節することが可能である。
【0677】
具体的には、リコンビナーゼ認識部位(RRS)が
図2の17に含まれる場合、部位特異的組み換えを通して、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳のためのプロモーターを挿入することによって、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節することが可能である。
【0678】
ツールボックスを構成するポリヌクレオチドによってコードされるRNAまたはタンパク質の発現の調節は、リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する、ツールボックスに既に存在するプロモーターをコードするポリヌクレオチドによる発現の一時的終結を含み得る。
【0679】
例えば、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド‐終止コドン‐第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド(以降、RSR1)、または、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)‐転写終止コドン‐第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド(以降、RTR1)が、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(102)をコードするポリヌクレオチドと、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳のためのプロモーター(106)との間に含まれる場合、RSR1および/またはRTR1をコードするポリヌクレオチドが部位特異的組み換えを通して欠失されるまで、RNA誘導性エンドヌクレアーゼを発現させることができず、最終的に、改変ヌクレアーゼ複合体を形成できない。
【0680】
具体的には、RSR1またはRTR1をコードするポリヌクレオチドが
図2の21に含まれる場合、部位特異的組み換えを通してRSR1および/またはRTR1をコードするポリヌクレオチドが欠失されるまで、RNA誘導性エンドヌクレアーゼを発現させることができず、最終的に、改変ヌクレアーゼ複合体を形成できない。
【0681】
上述のように、ツールボックスは、様々な構成を有し得て、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞または動物において発揮できる効果も、ツールボックスの構造に従って変化し得る。
【0682】
以降、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞および受精卵を説明する。
[2.ツールボックスが挿入されたゲノムを含む細胞および受精卵]
[2‐1.ツールボックスが挿入されたゲノムを含む細胞および受精卵の構成]
[2‐1‐1.ツールボックスが挿入されたゲノムまたは染色体]
本開示によって提供されるツールボックスは、細胞のゲノムに挿入できる。ツールボックスを挿入できるゲノムの位置はランダムであり得る。ゲノムに挿入できるツールボックスの数は1つであり得る。ゲノムに挿入できるツールボックスの数は、2以上であり得る。ゲノムに挿入できるツールボックスの種類は1または複数であり得る。
【0683】
例えば、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはゲノムに挿入され得る。この場合、第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一でも異なってもよい。
【0684】
細胞が真核細胞であるとき、本開示によって提供されるツールボックスは、染色体に挿入され得る。ツールボックスを挿入できる染色体の位置はランダムであり得る。染色体に挿入できるツールボックスの数は1つであり得る。染色体に挿入できるツールボックスの数は、2以上であり得る。染色体に挿入できるツールボックスの種類は1または複数であり得る。
【0685】
例えば、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは染色体に挿入され得る。この場合、第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一でも異なってもよい。
【0686】
以降、1つの種類のツールボックスが染色体に挿入される場合を想定して、ツールボックスが挿入される染色体の位置を詳細に説明する。
【0687】
説明の便宜上、以下の説明では、1つの細胞に存在するゲノムから形成される4つの染色体があることを想定する。
図3は、1つの細胞に存在するゲノムから形成される4つの染色体を示す。
【0688】
図3に示すように、
図3に示される第1染色体(210)および第2染色体(220)は、相同染色体の関係にあり、第3染色体(230)および第4染色体(240)も相同染色体の関係にある。
【0689】
第1染色体(210)は、第1染色分体(CT1)および第2染色分体(CT2)から成り、第2染色体(220)は、第3染色分体(CT3)および第4染色分体(CT4)から成る。追加的に、第3染色体(230)は、第5染色分体(CT5)および第6染色分体(CT6)から成り、第4染色体(240)は、第7染色分体(CT7)および第8染色分体(CT8)から成る。
【0690】
図4は、ツールボックス(100)が、第1染色分体から第8染色分体(CT1からCT8)のいずれか1つに挿入されるツールボックスのいくつかの実施形態を示す。
【0691】
ツールボックス(100)は、第1染色分体から第8染色分体(CT1からCT8)のうち1つだけに挿入できる。
【0692】
ツールボックス(100)は、第1染色分体から第8染色分体(CT1からCT8)のうち2以上に挿入できる。
【0693】
例えば、ツールボックス(100)は、細胞の染色体のうち、第1染色分体(CT1)だけに挿入できる(
図4の(a)を参照)。
【0694】
別の例において、ツールボックス(100)は、細胞の染色体のうち、第1染色体(210)の第1染色分体(CT1)および第2染色分体(CT2)に挿入できる(
図4の(b)を参照)。
【0695】
更に別の例において、ツールボックス(100)は、細胞の染色体のうち、第1染色体(210)の第1染色分体(CT1)、および、第2染色体(220)の第3染色分体(CT3)に挿入できる(
図4の(c)を参照)。この場合、第1染色体(210)および第2染色体(220)は、相同染色体の関係にあり得る。
【0696】
更に別の例において、ツールボックス(100)は、細胞の染色体のうち、第1染色体(210)の第1染色分体(CT1)、および、第3染色体(230)の第5染色分体(CT5)に挿入できる(
図4の(d)を参照)。この場合、第1染色体(210)および第3染色体(230)は、相同染色体の関係でないことがあり得る。
【0697】
[2‐1‐2.ツールボックスが挿入されたゲノムまたは染色体を有する細胞の種類]
ツールボックスは、体細胞、配偶子または幹細胞のゲノムおよび/または染色体に挿入され得る。
【0698】
説明の便宜上、以下の説明では、体細胞、配偶子、または、幹細胞のゲノムおよび/または染色体に挿入されるツールボックスの種類は、1つの種類であり、ツールボックスは、上述のツールボックス(100)であると想定する。
【0699】
図5は、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムをそれぞれ有する体細胞(301)および配偶子を示す。配偶子は、卵子(303)および精子(305)であり得る。
【0700】
ツールボックス(100)が挿入されたゲノムおよび/または染色体は、体細胞の核(302)、卵子の核(304)、および、精子の核(306)に含まれ得る。
【0701】
細胞のゲノムが挿入されるツールボックス(100)は、各細胞の発現機構に従って転写および/または翻訳され得る。この場合、細胞のゲノムに既に存在するエンドポリヌクレオチドの発現は影響されないことがあり得る。
【0702】
[2‐1‐3.ツールボックスが挿入されたゲノムを含む受精卵]
ツールボックスは、受精卵(受精卵子)または胚のゲノムまたは染色体に挿入され得る。
【0703】
本明細書の一実施形態によれば、第1ITR配列および第2ITR配列の間に含まれるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有する、形質転換された受精卵またはトランスジェニック胚が提供され得る。具体的には、胚は、偶蹄類の胚であり得る。
【0704】
追加的に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に、受精卵または胚のゲノムに存在する標的部位に特異的に結合可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを更に含む、形質転換された受精卵またはトランスジェニック胚が提供され得る。特に、発現調節因子は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端のうち、少なくとも1つに含まれ得る。
【0705】
図6は、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する受精卵、ならびに、ツールボックス(100)が挿入される受精卵からの細胞分裂による2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚および16細胞期胚を示す。
【0706】
ツールボックス(100)が受精卵のゲノムに挿入されることを開始した段階が1細胞期受精卵である場合、ツールボックス(100)が挿入される1細胞期受精卵(401)は、相同であり得る(
図6を参照)。
【0707】
ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する1細胞期受精卵(401)が細胞分裂を経るとき、受精卵(401)は、2細胞期胚(403)、4細胞期胚(405)、8細胞期胚(407)、16細胞期胚(409)、桑実胚、胞胚(胚盤胞)、または、原腸胚に成長し得て、それらは各々、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する細胞から成る。
【0708】
しかしながら、2n細胞期胚のゲノムに挿入されるツールボックス(100)の数および位置は、2n+1細胞期胚のゲノムに挿入されるツールボックス(100)の数および位置と異なり得る(nは0以上の整数)。追加的に、2n+1細胞期胚を構成する2n+1細胞のゲノムに挿入されるツールボックス(100)の位置および数は、互いに異なり得る。
【0709】
この理由は、1細胞期受精卵(401)の核に挿入されるツールボックスの位置および数は、2細胞期胚(403)において維持できるが、2細胞期胚403の状態でも、上述のように、第1プラスミドベクター、トランスポザーゼ、および、2細胞期胚(403)のゲノムの間の相互作用に起因して、より多くのツールボックスが追加的に挿入され得るからである。更に、この理由は、ゲノムに既に挿入されたツールボックス(100)の一部が、2細胞期胚(403)のゲノムとトランスポザーゼとの間の相互作用に起因して欠失され得るからである。
【0710】
すなわち、本明細書によって提供される一実施形態によれば、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚が提供され得る。トランスジェニック胚において、第1ツールボックスは、第1遺伝子座に存在し得て、第2ツールボックスは、第1遺伝子座とは異なる第2遺伝子座に存在し得る。第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは各々、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得る。標的部位は、胚のエンドポリヌクレオチド、または、胚のゲノムに含まれるエクソポリヌクレオチドであり、第1ITR配列および第2ITR配列の間に含まれ得る。特に、第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一でも異なってもよい。
【0711】
本明細書によって提供される別の実施形態によれば、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚が提供され得る。トランスジェニック胚において、第1ツールボックスは、第1遺伝子座に存在し得て、第2ツールボックスは、第2遺伝子座に存在し得て、第1遺伝子座および第2遺伝子座は互いに同一である。第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは各々、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得る。標的部位は、胚のエンドポリヌクレオチド、または、胚のゲノムに含まれるエクソポリヌクレオチドであり、第1ITR配列および第2ITR配列の間に含まれ得る。特に、第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と異なる。
【0712】
例えば、第1細胞のゲノムは、第3ツールボックスを更に含み得て、第3ツールボックスの配列は、第1ツールボックスと同一である。
【0713】
別の例において、第2細胞のゲノムは、第4ツールボックスを更に含み得て、第4ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一である。
【0714】
トランスジェニック胚は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないゲノムを有する第3細胞を更に備え得る。
【0715】
図7は、ツールボックス(100)がいくつかの細胞の各ゲノムに挿入される2細胞期胚、4細胞期胚、8細胞期胚、16細胞期胚を示す。
図7において、第1核(501)は、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する核を表し、第2核(503)は、ツールボックス(100)が挿入されないゲノムを有する核を表す。
【0716】
ツールボックス(100)がゲノムに挿入されることを開始した段階が2m細胞期胚である場合、ツールボックス(100)は、2m細胞期後、胚を構成する細胞のうち、いくつかの細胞のゲノムだけに挿入され得る(mは1以上の自然数)。この場合でも、ツールボックスは、胚を構成するすべての細胞のゲノムに挿入され得る。しかしながら、これは、上述のことから説明でき、従って、ツールボックスが、胚を構成する細胞のうちいくつかの細胞のゲノムに挿入される場合だけに限定して説明が提供される。
【0717】
例えば、ツールボックス(100)が受精卵のゲノムへ挿入されることを開始した段階が、2細胞期胚である場合、ツールボックス(100)は、2細胞期胚(411)を構成する細胞のうち、第1細胞(511)のゲノムだけに挿入され得る。
【0718】
ツールボックス(100)が1つの細胞のゲノムに挿入される2細胞期胚(411)が細胞分裂を経るとき、2細胞期胚(411)は、4細胞期胚(413)、8細胞期胚(415)、16細胞期胚(417)、桑実胚、胞胚、または、原腸胚に成長し得て、ツールボックスは、いくつかの細胞のゲノムだけに挿入される。
【0719】
本明細書によって提供されるいくつかの実施形態によれば、キメラトランスジェニック胚が提供され得て、キメラトランスジェニック胚は、ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、ツールボックスを含まないゲノムを有する第2細胞とを備え得る。
【0720】
具体的には、トランスジェニック胚が提供され得て、トランスジェニック胚は、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、標的部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備える。
【0721】
第1ツールボックスは、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に結合できる第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得て、第2細胞のゲノムは、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できる第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る。追加的に、ITR配列は更に、第1ツールボックスの5'末端および3'末端に含まれ得る。
【0722】
特に、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよく、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよい。標的部位はエンドポリヌクレオチドであり得る。
【0723】
具体的には、標的部位は、トランスジェニック胚のゲノムに存在する18bp~25bpのヌクレオチド配列であり得る。標的部位はエクソポリヌクレオチドであり得る。
【0724】
例えば、標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接する配列であり得る。標的部位およびPAM配列は、第1ITR配列および第2ITR配列の間に含まれ得る。
【0725】
しかしながら、この場合でも、上述と同一の理由により、2m細胞期胚のゲノムに挿入されるツールボックス(100)の数および位置は、2m+1細胞期胚のゲノムに挿入されるツールボックス(100)の数および位置と異なり得る。追加的に、2m+1細胞期胚を構成する2m+1細胞のゲノムに挿入されるツールボックス(100)の位置および数は、互いに異なり得る。
【0726】
ツールボックス(100)がゲノムに挿入されることが開始された段階が、2m細胞期胚である場合、2m細胞期の後の胚を構成する細胞の各ゲノムごとに、ツールボックス(100)は、異なる遺伝子座に挿入され得る(mは1以上の自然数)。
【0727】
[2‐2.ツールボックスが挿入されたゲノムを含む細胞および/または受精卵を産生するための方法]
【0728】
以降、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する細胞を産生するためのいくつかの方法を説明する。説明の便宜上、ゲノムに挿入できる1つの種類のツールボックスがあると想定する。
【0729】
ツールボックス(100)が挿入される細胞を調製するための一方法は、ツールボックス(100)を細胞に送達する段階を備え得る。特に、ツールボックス(100)は、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含み得る。ツールボックス(100)を細胞に送達するための様々な方法があり得る。
【0730】
例えば、ツールボックスは、ツールボックスをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することによって、細胞に送達され得る。ツールボックスをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、ツールボックスをコードするポリヌクレオチドがプラスミドベクターに組み込まれ、次に、細胞に導入される方法を含み得る。追加的に、ツールボックスをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、ツールボックスをコードするポリヌクレオチドがウイルスベクターに組み込まれ、次に、細胞に形質導入される方法を含み得る。
【0731】
ツールボックス(100)が挿入される細胞を調製するための一方法は、トランスポザーゼを細胞に送達する段階を備え得る。トランスポザーゼを細胞に送達するための様々な方法があり得る。
【0732】
例えば、トランスポザーゼは、タンパク質またはポリペプチドの形態で、トランスポザーゼの導入によって、細胞に送達され得る。
【0733】
別の例において、トランスポザーゼは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することによって、細胞に送達され得る。
【0734】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドをプラスミドベクターに組み込み、その後、結果として得られたものを細胞に導入することを含み得る。追加的に、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドをウイルスベクターに組み込み、その後、結果として得られたものを細胞に形質導入することを含み得る。
【0735】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、ツールボックスをコードするポリヌクレオチドを含むベクターに共に組み込まれ得て、次に、細胞に送達され得る。追加的に、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、ツールボックスをコードするポリヌクレオチドが含まれるベクターとは異なるベクターに組み込まれ、次に、細胞に送達され得る。特に、ベクターは、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターであり得る。
【0736】
トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドがプラスミドベクターに組み込まれ、次に、細胞に導入される場合、プラスミドは、核の内部に輸送され得て、次に、トランスポザーゼをコードするmRNAが、転写を通して核において産生され得る。産生されたmRNAは、細胞質内に輸送され、細胞質におけるリボソームおよびtRNAと相互作用し得て、トランスポザーゼは、相互作用を通して細胞質において発現し得る。上の機構で発現されるトランスポザーゼは、核の内部に導入され得る。
【0737】
以降、細胞に送達されるツールボックスおよびトランスポザーゼによって、ツールボックスが細胞のゲノムに挿入される機構を説明する。上記方法によって細胞内に送達されるツールボックス(100)およびトランスポザーゼは、細胞の細胞質内に導入され得る。細胞質内に導入されるツールボックス(100)およびトランスポザーゼは、核膜孔を通して核の内部へ輸送され得る。
【0738】
核の内部において、トランスポザーゼは、ツールボックス(100)のコンポーネントである第1ITR配列(101)および第2ITR配列(107)と相互作用でき、ツールボックス(100)は、相互作用によってゲノム内に挿入され得る。ツールボックス(100)の構成については、
図1を参照されたい。
【0739】
ツールボックス(100)がプラスミドベクターに組み込まれ、次に、細胞内に送達される場合、ツールボックス(100)は、プラスミドベクターから欠失され得て、欠失されたツールボックス(100)は、細胞のゲノムに挿入され得る。
【0740】
細胞は、単離細胞、または、動物の臓器もしくは組織に含まれる非単離細胞であり得る。
【0741】
ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する非単離細胞を調製するための一方法は、個体の組織または臓器への直接注入の方法によって、ツールボックス(100)およびトランスポザーゼを送達する段階を備え得る。
【0742】
この場合でも、ツールボックス(100)が単離細胞のゲノムに挿入される機構と類似する方式で、ツールボックス(100)は、非単離細胞のゲノムに挿入され得る。
【0743】
組織または臓器が生殖組織または生殖器である場合、形質転換された配偶子を継続的に取得できるという利点がある。
【0744】
以降、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する受精卵および/または胚を産生するためのいくつかの方法を説明する。上述のように、説明の便宜上、受精卵のゲノムに挿入できる1つの種類のツールボックスがあると想定する。
【0745】
ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する受精卵および/または胚を産生するための一方法は、ツールボックス(100)を受精卵および/または胚にマイクロインジェクションする段階を含み得る。
【0746】
ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する受精卵および/または胚を産生するための一方法は、トランスポザーゼを受精卵および/または胚にマイクロインジェクションする段階を含み得る。
【0747】
ツールボックスおよびトランスポザーゼを細胞に送達するための方法は上述したので、具体的な詳細は、ここでは省略する。
【0748】
本明細書によって提供されるトランスジェニック胚を調製するための例示的な一方法は、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを受精卵または胚にマイクロインジェクションする段階を含み得る。追加的に、方法は、トランスポゾン遺伝子と相互作用できるトランスポザーゼを受精卵または胚にマイクロインジェクションする段階を含み得る。
【0749】
トランスポザーゼは、タンパク質、ポリペプチド、または、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの形態であり得る。ポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターが組み込まれるものであり得る。更に、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、トランスポゾン遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントと共に単一ベクターに組み込まれ得て、次に、受精卵または胚にマイクロインジェクションされ得る。
【0750】
上記の方法によって調製できるトランスジェニック胚の例示的な実施形態において、トランスジェニック胚は、第1改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座に含まれるゲノムを有する第1細胞と、第2改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座と異なる第2遺伝子座に含まれるゲノムを有する第2細胞とを備え得る。特に、第1改変ヌクレアーゼコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよい。
【0751】
上記の方法によって調製できるトランスジェニック胚の別の例示的な実施形態において、トランスジェニック胚は、第1改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座に含まれるゲノムを有する第1細胞と、第2改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが、第1遺伝子座に含まれるゲノムを有する第2細胞とを備え得る。特に、第1改変ヌクレアーゼコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよい。
【0752】
ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する受精卵および/または胚を調製するための一方法は、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを使用して、体細胞核移植(SCNT)を実行する段階を備え得る。
【0753】
本明細書によって提供されるトランスジェニック胚を調製するための例示的な方法は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニックドナー細胞を調製するための方法、および、トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵子に移植するための方法を含み得る。
【0754】
トランスジェニックドナー細胞の調製は、トランスポゾン遺伝子および改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで細胞を形質転換することを含み得る。追加的に、トランスジェニックドナー細胞の調製は、トランスポゾン遺伝子と相互作用できるトランスポザーゼで細胞を形質転換することを更に含み得る。
【0755】
トランスポザーゼは、タンパク質、ポリペプチド、または、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの形態であり得る。ポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに組み込まれるものであり得る。更に、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、トランスポゾン遺伝子をコードするポリヌクレオチド、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントと共に単一ベクターに組み込まれ得て、次に、受精卵または胚にマイクロインジェクションされ得る。
【0756】
ツールボックス(100)が、受精卵を構成する細胞のゲノムに挿入される機構は、ツールボックス(100)が単離細胞のゲノムに挿入される機構と同様である。
【0757】
[3.ツールボックスが挿入されたゲノムを含むトランスジェニック動物]
[3‐1.ツールボックスが挿入されたゲノムを含むトランスジェニック動物]
本明細書によって提供されるいくつかの実施形態によれば、ツールボックスが挿入されたゲノムを含むトランスジェニック動物が提供され得る。
【0758】
本明細書によって提供される例示的実施形態によれば、第1ITR配列および第2ITR配列の間に含まれる、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有するトランスジェニック動物が提供され得る。具体的には、動物は偶蹄類であり得る。
【0759】
追加的に、動物に存在する標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが第1ITR配列と第2ITR配列との間に更に含まれるトランスジェニック動物が提供され得る。特に、発現調節因子は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端と、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端とのうち1または複数に含まれ得る。
【0760】
本開示において、ツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニック動物は、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する少なくとも1つの細胞を有する動物を指す。形質転換は、一時的形質転換および永久的形質転換の両方を含み得る。
【0761】
更に、以降では、トランスジェニック動物によって保持される細胞のうち、ツールボックスが挿入される細胞は、「ツールボックス改変細胞」と呼ばれ、ツールボックスが挿入されない細胞は、「非ツールボックス改変細胞」と呼ばれる。
【0762】
しかしながら、本開示において、「非ツールボックス改変細胞」という用語は、ツールボックスが挿入されない状態にあるゲノムを有する細胞だけを指し、当該用語は、他の目的のためにゲノムが遺伝子改変される細胞の用語として理解されるべきでない。すなわち、ツールボックスが挿入されていないが他の遺伝子操作されたゲノムを有する細胞も、本開示のいわゆる「非ツールボックス改変細胞」であり得る。ツールボックスが挿入されるトランスジェニック動物は、キメラまたは相同動物であり得る。
【0763】
例えば、キメラ動物は、「ツールボックス改変細胞」に加えて、「非ツールボックス改変細胞」を有する動物を指し得る。
【0764】
すなわち、本明細書によって提供される、いくつかの例示的な実施形態によれば、ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、ツールボックスを含まないゲノムを有する第2細胞とを備えるキメラトランスジェニック動物が提供され得る。
【0765】
具体的には、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、標的部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物が提供され得る。
【0766】
第1ツールボックスは、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に結合できる第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つのポリヌクレオチドを含み得て、第2細胞のゲノムは、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できる第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないことがあり得る。追加的に、ITR配列は更に、第1ツールボックスの5'末端および3'末端に含まれ得る。
【0767】
特に、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよく、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの配列、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの配列は、互いに同一でも異なってもよい。標的部位はエンドポリヌクレオチドであり得る。
【0768】
具体的には、標的部位は、トランスジェニック動物のゲノムに存在する18bp~25bpのヌクレオチド配列であり得る。標的部位はエクソポリヌクレオチドであり得る。
【0769】
例えば、標的部位は、PAM配列の5'末端または3'末端に隣接する配列であり得る。標的部位およびPAM配列は、第1ITR配列および第2ITR配列の間に含まれ得る。
【0770】
別の例において、キメラ動物は、「ツールボックス改変細胞」だけを有するが、動物を構成する各「ツールボックス改変細胞」のゲノムにツールボックスが挿入される遺伝子座が異なる動物を指し得る。
【0771】
すなわち、本明細書によって提供される例示的実施形態によれば、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物が提供され得て、第1ツールボックスは第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座および第2遺伝子座は異なる。第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得る。標的部位は、動物のエンドポリヌクレオチド、または、動物のゲノムに含まれる第1ITR配列および第2ITR配列の間に位置するエクソポリヌクレオチドであり得る。特に、第1ツールボックスの配列および第2ツールボックスの配列は同一でも異なってもよい。
【0772】
本明細書によって提供される別の例示的な実施形態によれば、第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック動物が提供され得て、第1ツールボックスは第1遺伝子座に存在し、第2ツールボックスは第2遺伝子座に存在し、第1遺伝子座および第2遺伝子座は同一である。第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み得る。標的部位は、動物のエンドポリヌクレオチド、または、動物のゲノムに含まれる第1ITR配列および第2ITR配列の間に位置するエクソポリヌクレオチドであり得る。特に、第1ツールボックスの配列および第2ツールボックスの配列は異なる。
【0773】
例えば、第1細胞のゲノムは、配列が第1ツールボックスの配列と同一である第3ツールボックスを更に含み得る。
【0774】
別の例において、第2細胞のゲノムは、配列が第2ツールボックスの配列と同一である第4ツールボックスを更に含み得る。
【0775】
トランスジェニック動物は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないゲノムを有する第3細胞を更に備え得る。
【0776】
相同動物は、動物を構成する各「ツールボックス改変細胞」のゲノムにツールボックスが挿入される遺伝子座が同一である動物を指し得る。
【0777】
本明細書によって開示される、いくつかの例示的な実施形態によれば、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する配偶子または受精卵(および/または胚)は、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を備える動物から得られ得て、配偶子は精子または卵子であり得る。
【0778】
本明細書によって開示される、いくつかの例示的な実施形態によれば、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を備える子は、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を備える動物から産生され得る。
【0779】
本明細書によって開示される、いくつかの例示的な実施形態によれば、追加の遺伝子編集が、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を備える動物ゲノムにおいて生じ得る。
【0780】
[3‐2.ツールボックスが挿入されたゲノムを備えるトランスジェニック動物を調製するための方法]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態による、「ツールボックス改変細胞」を備える動物を産生するための一方法は、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する受精卵または胚を代理母の子宮に移植することを備え得る。受精卵または胚を代理母の子宮に移植して、妊娠期間を経た後に、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する動物が産生され得る。
【0781】
ツールボックスが挿入されたゲノムを有する受精卵または胚を産生するための一方法は、ツールボックスおよび/またはトランスポザーゼのマイクロインジェクション(MI)を備え得る。
【0782】
マイクロインジェクション(MI)によって産生される受精卵および/または胚は、キメラまたは相同性であり得る。追加的に、受精卵および/または胚を代理母の子宮に移植することによって得られる動物は、キメラまたは相同性であり得る。
【0783】
ツールボックスが挿入されたゲノムを有する受精卵または胚を産生するための別の方法は、体細胞核移植(SCNT)を実行する段階を備え得る。
【0784】
体細胞核移植は、
図5のツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する体細胞(301)の核を除核卵母細胞に移植することを含み得る。「ツールボックス改変細胞」を含む動物は、体細胞核移植(SCNT)によって産生された受精卵または胚を代理母の子宮に移植することによって産生できる。
【0785】
体細胞核移植(SCNT)によって得られる受精卵および/または胚は相同性であり得る。追加的に、受精卵および/または胚を使用して産生される動物も相同性であり得る。この場合、相同性である、体細胞核移植(SCNT)によって産生される受精卵、胚および/または動物のゲノムは、体細胞(301)のゲノムと同一である配列を有し得る。
【0786】
ツールボックスが挿入されたゲノムを有する受精卵または胚を産生するための別の方法は、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する卵子(303)と精子(305)との間の体外受精のための方法、または、卵子(303)または精子(305)と、野性型(WT)精子または卵子との間の体外受精のための方法を備え得る。
【0787】
体外受精によって産生される受精卵および/または胚はキメラまたは相同性であり得る。追加的に、受精卵および/または胚を代理母の子宮に移植することによって得られる動物は、キメラまたは相同性であり得る。
【0788】
より具体的には、本明細書によって提供されるトランスジェニック動物を調製するための例示的な一方法は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニック胚を調製する段階と、トランスジェニック胚を代理母の子宮に移植する段階とを備え得る。
【0789】
トランスジェニック胚を調製するための例示的な一方法は、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを受精卵または胚にマイクロインジェクションする段階を備え得る。追加的に、トランスジェニック胚の調製は、トランスポゾン遺伝子と相互作用できるトランスポザーゼを受精卵または胚にマイクロインジェクションすることを更に含み得る。
【0790】
トランスジェニック胚を調製するための別の例示的な方法は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントが発現されるトランスジェニックドナー細胞を調製する段階と、トランスジェニックドナー細胞の核を動物の除核卵子に移植する段階とを備え得る。
【0791】
トランスジェニックドナー細胞の調製は、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで細胞を形質転換することを含み得る。追加的に、トランスジェニックドナー細胞の調製は、トランスポゾン遺伝子と相互作用できるトランスポザーゼで細胞を形質転換することを更に含み得る。
【0792】
トランスポザーゼは、タンパク質、ポリペプチド、または、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの形態であり得る。ポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに含まれるものであり得る。更に、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドが、トランスポゾン遺伝子、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドと共にベクターに含まれる形態であり得る。
【0793】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態による「ツールボックス改変細胞」を含む動物を産生するための一方法は、ツールボックスおよびトランスポザーゼを動物の組織に注入する段階を備え得る。この場合、注入された組織の一部だけが「ツールボックス改変細胞」になり得る。組織に注入するための上述の方法を通して産生される動物はキメラ動物であり得る。
【0794】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態による「ツールボックス改変細胞」を含む動物を産生するための一方法は、「ツールボックス改変細胞」を含む精巣を有する雄、または、「ツールボックス改変細胞」を含む卵巣を有する雌の間の自然交配を含み得る。
【0795】
例えば、当該方法は、「ツールボックス改変細胞」を含む精巣を有する雄と、「ツールボックス改変細胞」を含む卵巣を有する雌との間の自然交配を備え得る。
【0796】
別の例において、当該方法は、「ツールボックス改変」を含む精巣を有する雄と、野性型(WT)の雌との間の自然交配、または、「ツールボックス改変」を含む卵巣を有する雌と、野性型(WT)の雄との間の自然交配を含み得る。
【0797】
上述の自然交配を通して産生される動物は、キメラまたは相同動物であり得る。
【0798】
[ツールボックスを使用する第2遺伝子編集]
本開示において、ツールボックスがゲノムに挿入され、上述のように形質転換されるとき、第1遺伝子編集と呼ばれる。
【0799】
追加の第2遺伝子編集が、第1遺伝子編集によってゲノムに挿入されるツールボックスを使用して生じ得る。追加的に、第n+1の遺伝子編集は、第nの遺伝子編集が生じたゲノムを使用して生じ得る(nは2以上の自然数)。第nの遺伝子編集および第n+1の遺伝子編集は、1つの細胞のゲノム、または、別の細胞のゲノムにおいて生じ得る。
【0800】
「第nの遺伝子編集」は、ツールボックスのコンポーネントとして含まれるリコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する遺伝子編集であり得る。
【0801】
追加的に、「第nの遺伝子編集」は、ツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用する遺伝子編集であり得る。
【0802】
更に、「第nの遺伝子編集」は、ツールボックスのコンポーネントとして含まれるPAM配列を有するポリヌクレオチドを使用する遺伝子編集であり得る。
【0803】
説明の便宜上、以降では、ツールボックスのコンポーネントとして含まれるリコンビナーゼ認識部位(RRS)、および/または、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを使用する第2遺伝子編集を説明する。
【0804】
[1.ツールボックスに含まれるリコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子編集]
以降では、ツールボックスに存在するリコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子編集を説明する。リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子編集は、ツールボックス内で生じ得る。
【0805】
[1‐1.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子交換編集]
[1‐1‐1.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子交換編集のためのツールボックス]
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、交換編集のためのツールボックスが提供され得る。
【0806】
交換編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、および、第2ITR配列を含み得る。
【0807】
第1ポリヌクレオチドは、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチドと、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチドとの間に含まれ得る。第1ポリヌクレオチドは、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチド、非転写ポリヌクレオチド、未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチド、および、非機能性ポリヌクレオチドから選択される1または複数であり得るが、これらに限定されない。以降、交換編集のためのツールボックスのいくつかの例示的な実施形態を説明する。
【0808】
例えば、交換編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0809】
別の例において、交換編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、および第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0810】
更に別の例において、交換編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、蛍光タンパク質遺伝子、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、および、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0811】
更に別の例において、交換編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0812】
以降、上述の交換編集のためのツールボックスを使用する第2遺伝子交換編集方法を説明する。すなわち、特定のポリヌクレオチドを交換するための方法を説明する。
【0813】
[1‐1‐2.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子交換編集方法]
交換編集のためのツールボックスが挿入されたゲノムにおいて、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチドと、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチドとの間に存在する第1ポリヌクレオチドは、第2ポリヌクレオチドと交換され得る。
【0814】
第1ポリヌクレオチドを第2ポリヌクレオチドと交換するための一方法は、交換編集のためのツールボックスが挿入される細胞に第2ポリヌクレオチドを送達することを含み得る。第2ポリヌクレオチドを細胞に送達するための様々な方法があり得る。
【0815】
例えば、第2ポリヌクレオチドは、第2ポリヌクレオチドを細胞に導入することによって細胞に送達され得る。第2ポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、第2ポリヌクレオチドをプラスミドベクターに組み込み、次に、結果として得られたものを細胞に導入するための方法を含み得る。追加的に、第2ポリヌクレオチドを細胞に導入することは、第2ポリヌクレオチドをウイルスベクターに組み込み次に、結果として得られたものを細胞に形質導入することを含み得る。
【0816】
第2ポリヌクレオチドは、第3リコンビナーゼ認識部位(RRS3)をコードするポリヌクレオチドと第4リコンビナーゼ認識部位(RRS4)をコードするポリヌクレオチドとの間に位置する。この場合、第3リコンビナーゼ認識部位(RRS3)は、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)と対を形成するものであり得る。第4リコンビナーゼ認識部位(RRS4)は、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)と対を形成し得る。
【0817】
追加的に、第1ポリヌクレオチドを第2ポリヌクレオチドと交換するための一方法は、第1リコンビナーゼおよび第2リコンビナーゼを細胞に送達することを含み得る。
【0818】
この場合、第1リコンビナーゼは、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)および/または第3リコンビナーゼ認識部位(RRS3)と相互作用でき、第2リコンビナーゼは、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)および/または第4リコンビナーゼ認識部位(RRS4)と相互作用できる。リコンビナーゼを細胞に送達するための様々な方法があり得る。
【0819】
例えば、リコンビナーゼは、タンパク質としてリコンビナーゼを細胞に導入することによって細胞に送達され得る。
【0820】
別の例において、リコンビナーゼは、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することによって細胞に送達され得る。リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドをプラスミドベクターに組み込み、次に、結果として得られたものを細胞に導入するための方法を含み得る。追加的に、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドをウイルスベクターに組み込み、次に、結果として得られたものを細胞に形質導入することを含み得る。
【0821】
上述の方法によって細胞に送達される第1リコンビナーゼは、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、および、第3リコンビナーゼ認識部位(RRS3)をコードするポリヌクレオチドと相互作用できる。
【0822】
追加的に、細胞に送達される第2リコンビナーゼは、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、および、第4リコンビナーゼ認識部位(RRS4)をコードするポリヌクレオチドと相互作用できる。
【0823】
相互作用によって、第1ポリヌクレオチドをツールボックスから欠失させることができ、第2ポリヌクレオチドをツールボックスに挿入できる。
【0824】
以降、上記の方法による交換編集のための様々な例示的な実施形態および交換編集の効果を説明する。これらは、第1ポリヌクレオチドおよび/または第2ポリヌクレオチドの種類に従って変化し得る。
【0825】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る、交換編集のためのツールボックスに含まれる、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドおよび第2ガイド核酸についての交換編集を受け得る。
【0826】
この場合、交換編集されたツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞に対する追加の更なる治療が無くても、第2RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよび第2ガイド核酸は発現され、それにより、改変ヌクレアーゼ複合体を形成でき、第3遺伝子編集がゲノムで生じ得る。
【0827】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る交換編集のためのツールボックスに含まれる、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのための交換編集を受け得る。第1ガイド核酸の配列および第2ガイド核酸の配列は、互いに異なり得る。
【0828】
この場合、改変ヌクレアーゼを使用する遺伝子編集の標的部位は、交換編集によって変更され得る。
【0829】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る交換編集のためのツールボックスに含まれる蛍光タンパク質遺伝子は、標的タンパク質をコードする遺伝子(標的タンパク質遺伝子)の交換編集を受け得る。
【0830】
この場合、蛍光タンパク質は、交換編集によって細胞において発現されない。そのような特性を使用して、標的タンパク質遺伝子が細胞のゲノムに挿入されるかどうかを選択可能である。
【0831】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る交換編集のためのツールボックスに含まれる第1標的タンパク質遺伝子は、第2標的タンパク質遺伝子の交換編集を受け得る。そのような第2遺伝子編集により、標的タンパク質は、希望時間に細胞で発現され得る。
【0832】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る交換編集のためのツールボックスに含まれる第1標的タンパク質遺伝子は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのための交換編集を受け得る。
【0833】
そのような第2遺伝子編集により、RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸は細胞において発現され得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸は、改変ヌクレアーゼ複合体を形成でき、形成された改変ヌクレアーゼ複合体によって、追加の第3遺伝子編集が、細胞のゲノムにおいて生じ得る。
【0834】
[1‐2.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子挿入編集]
[1‐2‐1.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する挿入編集のためのツールボックス]
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、挿入編集のためのツールボックスが提供され得る。
【0835】
挿入編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含み得る。以降、挿入編集のためのツールボックスのいくつかの例示的な実施形態を説明する。
【0836】
例えば、挿入編集のためのツールボックスは、第1ITR配列を含むツールボックス、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列であり得る。
【0837】
別の例において、挿入編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0838】
更に別の例において、挿入編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0839】
更に別の例において、挿入編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0840】
更に別の例において、挿入編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0841】
以降、上述の挿入編集のためのツールボックスを使用する第2遺伝子挿入編集のための方法を説明する。すなわち、特定のポリヌクレオチドを挿入するための方法を説明する。
【0842】
[1‐2‐2.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子挿入編集のための方法]
挿入編集のためのツールボックスが挿入されたゲノムにおいて、第1ポリヌクレオチドが、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチドが位置する位置に挿入され得る。
【0843】
第1ポリヌクレオチドを挿入するための一方法は、挿入編集のためのツールボックスが挿入される細胞に第1ポリヌクレオチドを送達することを含み得る。第1ポリヌクレオチドを細胞に送達するための様々な方法があり得る。
【0844】
例えば、第1ポリヌクレオチドは、第1ポリヌクレオチドを細胞に導入することによって、細胞に送達され得る。第1ポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、第1ポリヌクレオチドをプラスミドベクターに組み込み、次に、結果として得られたものを細胞に導入するための方法を含み得る。追加的に、第1ポリヌクレオチドを細胞に導入することは、第1ポリヌクレオチドをウイルスベクターに組み込み次に、結果として得られたものを細胞に形質導入することを含み得る。
【0845】
第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチドは、第1ポリヌクレオチドを含むベクターに更に含まれる。この場合、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)は、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)と対を形成できる。
【0846】
追加的に、第1ポリヌクレオチドを挿入するための一方法が、第1リコンビナーゼを細胞に送達することを含み得る。
【0847】
この場合、第1リコンビナーゼは、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)および/または第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)と相互作用できる。
【0848】
リコンビナーゼを細胞に送達するための方法を上述したので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0849】
上述の方法によって細胞に送達されるリコンビナーゼは、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、および、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチドと相互作用できる。相互作用によって、第1ポリヌクレオチドは、ツールボックスに挿入され得る。
【0850】
以降、上記の方法による挿入編集のための様々な例示的な実施形態、および、それらの挿入編集の効果を説明する。これらは、挿入編集および/または第1ポリヌクレオチドのためのツールボックスの種類に従って変化し得る。
【0851】
第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、および、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る挿入編集のためのツールボックスに含まれる場合、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、ツールボックスに挿入され得る。
【0852】
この場合、改変ヌクレアーゼ複合体は、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、挿入ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳によって細胞内に形成され得る。更なる処理が無くても、細胞内に形成される改変ヌクレアーゼ複合体によって、追加の第3遺伝子編集が、第2遺伝子編集(挿入編集)後に生じ得る。
【0853】
第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが、本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る挿入編集のためのツールボックスに含まれる場合、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの転写のためのプロモーターをコードするポリヌクレオチドがツールボックスに挿入され得る。
【0854】
この場合、プロモーターをコードするポリヌクレオチドが挿入された時点で、第1ガイド核酸が発現され得て、発現を通して、改変ヌクレアーゼ複合体が細胞内で形成され得る。すなわち、プロモーターをコードするポリヌクレオチドを挿入する時点を調節することによって、所望される時点で第1ガイド核酸が発現され得る。最終的には、第3遺伝子編集の時点は、第2遺伝子編集(挿入編集)を通して調節され得る。
【0855】
第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが、本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る、挿入編集のためのツールボックスに含まれる場合、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳のためのプロモーターをコードするポリヌクレオチドがツールボックスに挿入され得る。
【0856】
この場合、プロモーターをコードするポリヌクレオチドが挿入された時点で、RNA誘導性エンドヌクレアーゼが発現され得て、発現を通して、改変ヌクレアーゼ複合体が細胞内で形成され得る。すなわち、プロモーターをコードするポリヌクレオチドを挿入する時点を調節することによって、所望される時点で第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼが発現され得る。最終的には、第3遺伝子編集の時点は、第2遺伝子編集(挿入編集)を通して調節され得る。
【0857】
第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードする第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびポリヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドが、本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る挿入編集のためのツールボックスに含まれる場合、蛍光タンパク質遺伝子がツールボックスに挿入され得る。
【0858】
この場合、ツールボックスのコンポーネントである第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが、蛍光タンパク質遺伝子の挿入によってゲノムに挿入されるかどうかを選択可能である。
【0859】
第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、および、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが、本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る挿入編集ためのツールボックスに含まれる場合、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドがツールボックスに挿入され得る。特に、第2ガイド核酸の配列は、第1ガイド核酸の配列とは同一でも異なってもよい。
【0860】
第2ガイド核酸の配列が第1ガイド核酸の配列と同一であるとき、より大きな量のガイド核酸が細胞において発現され得て、ツールボックスを使用する遺伝子編集効率が増加され得る。
【0861】
第2ガイド核酸の配列が第1ガイド核酸と異なるとき、ツールボックスを使用する遺伝子編集の標的部位は多様であり得る。
【0862】
[1‐3.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子欠失編集]
[1‐3‐1.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する欠失編集のためのツールボックス]
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、欠失編集のためのツールボックスが提供され得る。
【0863】
欠失編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、第1ポリヌクレオチド、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、および、第2ITR配列を含み得る。
【0864】
第1ポリヌクレオチドは、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチド、非転写ポリヌクレオチド、未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチド、および、非機能性ポリヌクレオチドから選択される1または複数を含み得るが、これらに限定されない。
【0865】
第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)および第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)は対を形成し得る。説明の便宜上、以降では、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)の配列が第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)の配列と同一であると想定する。以降、欠失編集のためのツールボックスのいくつかの例示的な実施形態を説明する。
【0866】
例えば、欠失編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、構成プロモーターをコードするポリヌクレオチド、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、終止コドン、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0867】
別の例において、欠失編集のためのツールボックスは、第1ITR配列、構成プロモーターをコードするポリヌクレオチド、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、転写終止コドン、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、第2ITR配列を含むツールボックスであり得る。
【0868】
以降、上述の欠失編集のためのツールボックスを使用する第2遺伝子欠失編集のための方法を説明する。すなわち、特定のポリヌクレオチドを欠失させるための方法を説明する。
【0869】
[1‐3‐2.リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する第2遺伝子欠失の編集のための方法]
欠失編集のためのツールボックスが挿入されたゲノムにおいて、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチドと、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチドとの間に存在する第1ポリヌクレオチドが欠失され得る。
【0870】
第1ポリヌクレオチドを欠失させるための一方法は、欠失編集のためのツールボックスが挿入される細胞に第1リコンビナーゼを送達することを含み得る。
【0871】
第1リコンビナーゼは、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)および/または第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)と相互作用できる。
【0872】
リコンビナーゼを細胞に送達するための方法を上述したので、ここでは方法の詳細を省略する。
【0873】
上述の方法によって細胞に送達される第1リコンビナーゼは、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、および、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチドと相互作用できる。第1ポリヌクレオチドは、相互作用によって、ツールボックスから欠失され得る。
【0874】
以降、上記の方法による欠失編集の様々な例示的な実施形態、および、その欠失編集の効果を説明する。これらは、第1ポリヌクレオチドの種類、および/または、欠失編集のためのツールボックスに従って変化し得る。
【0875】
構成プロモーターをコードするポリヌクレオチド、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、終止コドン、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが、本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る欠失編集のためのツールボックスに含まれる場合、終止コドンをツールボックスから欠失させることが可能である。
【0876】
この場合、第1RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、終止コドンの欠失によって発現され得る。すなわち、ツールボックスに含まれる特定のポリヌクレオチドの転写および/または翻訳の時点は、ツールボックスの部分的コンポーネントの欠失によって調節され得る。
【0877】
構成プロモーターをコードするポリヌクレオチド、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、転写終止コドン(ポリT)、第2リコンビナーゼ認識部位(RRS2)をコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが、本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る欠失編集のためのツールボックスに含まれる場合、転写終止コドン(ポリT)をツールボックスから欠失させることが可能である。
【0878】
この場合、第1ガイド核酸は、転写終止コドン(ポリT)の欠失によって発現され得る。すなわち、ツールボックスに含まれる特定のポリヌクレオチドの転写および/または翻訳の時点は、ツールボックスの部分的コンポーネントの欠失によって調節され得る。
【0879】
[2.ツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用する第2遺伝子編集]
以降、ゲノムに挿入されるツールボックスに含まれるポリヌクレオチドから発現される改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用する第2遺伝子編集を説明する。
【0880】
改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用する第2遺伝子編集は、ツールボックスの外部、または、ツールボックスの内部において生じ得る。
【0881】
[2‐1.発現調節因子を含まないツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用する第2遺伝子編集]
[2‐1‐1.発現調節因子を含まないツールボックス]
【0882】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、発現調節因子を含まないツールボックスが提供され得る。
【0883】
発現調節因子を含まないツールボックスは、第1ITR配列、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチド、および、第2ITR配列を含み得る。
【0884】
以降、発現調節因子を含まないツールボックスのいくつかの例示的な実施形態を説明する。
【0885】
例えば、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする1つのポリヌクレオチドを含むツールボックスであり得る。
【0886】
別の例において、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする2以上のポリヌクレオチドを含むツールボックスであり得る。この場合、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする2以上のポリヌクレオチドの配列は互いに同一でも異なってもよい。
【0887】
ツールボックスに含まれるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする2以上のポリヌクレオチドの配列が同一であるとき、同一のRNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現量は、細胞において増加し、それにより、第2遺伝子編集効率が増加し得る。
【0888】
更に別の例において、ツールボックスは、ガイド核酸をコードする1つのポリヌクレオチドを含むツールボックスであり得る。
【0889】
更に別の例において、ツールボックスは、ガイド核酸をコードする2以上のポリヌクレオチドを含むツールボックスであり得る。この場合、ガイド核酸をコードする2以上のポリヌクレオチドの配列は同一でも異なってもよい。
【0890】
ツールボックスに含まれるガイド核酸をコードする2以上のポリヌクレオチドのうち少なくとも1つの配列が同一であるとき、同一の配列を有するガイド核酸の発現量は、細胞において増加し得て、それにより、第2遺伝子編集効率が増加し得る。
【0891】
ツールボックスに含まれるガイド核酸をコードする2以上のポリヌクレオチドのうち、少なくとも1つの配列が異なるとき、様々な種類のガイド核酸が細胞において発現され得る。この場合、第2遺伝子編集が、より大きい数の標的部位において生じ得る。
【0892】
更に別の例において、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの1または複数の種類、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの1または複数の種類を含むツールボックスであり得る。
【0893】
この場合、第1遺伝子編集によって、更なる処理無しで、ツールボックスが細胞のゲノムに挿入された後に、第2遺伝子編集が、細胞のゲノムに存在する標的部位において生じ得る。ツールボックスから発現されるガイド核酸の1または複数は、標的部位に相補的に結合できる。
【0894】
すなわち、発現調節因子を含むことなく、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスがゲノムに挿入されるとき、更なる処理無しで、第n(nは2以上の自然数)の遺伝子編集がゲノムにおいて生じ得る。
【0895】
発現調節因子を含まない上述のツールボックスが、細胞のゲノムおよび/または染色体に挿入され得る。
【0896】
上述の様々な構成を有する各ツールボックスは、様々な組み合わせを介して、細胞のゲノムおよび/または染色体に挿入され得る。
【0897】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは、単一細胞のゲノムに挿入され得る。
【0898】
例えば、第1ツールボックスは、第1ITR配列、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする1または複数の種類のポリヌクレオチド、および、第2ITR配列を含み得る。第2ツールボックスは、第3ITR配列、ガイド核酸をコードする1または複数の種類のポリヌクレオチド、第4ITR配列を含み得る。
【0899】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスの各々は、異なる細胞のゲノム(および/または染色体)に別個に挿入され得る。
【0900】
例えば、第1ツールボックスが、単一の対象に存在する第1細胞のゲノムに挿入され得て、第2ツールボックスが、対象に存在する第2細胞のゲノムに挿入され得る。第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする1または複数の種類のポリヌクレオチドを含み得る。第2ツールボックスは、ガイド核酸をコードする1または複数の種類のポリヌクレオチドを含み得る。異なる細胞の各々は、単一の対象に含まれる非単離細胞であり得る。
【0901】
異なる細胞の各々は、受精卵および/または胚に含まれる非単離細胞であり得る。
【0902】
以降、発現調節因子を含むことなく、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードする上述のツールボックスを使用する第2遺伝子編集のための方法を説明する。
【0903】
[2‐1‐2.第2遺伝子編集の方法]
本開示において、発現調節因子を含むことなく、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入される、細胞における第2遺伝子編集のための方法を提供する。細胞のゲノムに挿入されるツールボックスの構造に従って、第2遺伝子編集のための様々な方法が提供され得る。
【0904】
例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、ガイド核酸を細胞に送達する段階を含み得る。
【0905】
追加的に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集のための一方法は、ドナーポリヌクレオチドを細胞に送達する段階を含み得る。
【0906】
ガイド核酸を細胞に送達することは、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することを含む。具体的には、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが、RNA、または、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの形態で細胞に導入され得る、または、ベクターに組み込まれ得て、次に、結果として得られたものが細胞に導入され得る。
【0907】
追加的に、ドナーポリヌクレオチドを細胞に送達することは、ドナーポリヌクレオチドを含むベクターを細胞に導入することを含む。
【0908】
ガイド核酸が細胞に送達される場合、ガイド核酸は、標的部位に結合できる。
【0909】
追加的に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、細胞の発現系によってツールボックスにおいて挿入されたポリヌクレオチドから細胞において発現でき、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼがガイド核酸との複合体を形成する状態で、ゲノムに存在する標的部位を切断できる。
【0910】
標的部位が切断されると、インデルが、非相同末端結合(NHEJ)による修復系およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼの反復的な相互作用によって、標的部位において生じ得て、従って、標的部位に近い特定の配列が破壊され得る。その結果、特定の配列を含む遺伝子は、遺伝子がそれ以上通常の機能を実行できない状態、すなわち、ノックアウト状態に到達し得る。
【0911】
追加的に、ガイド核酸と共にドナーポリヌクレオチドが細胞に提供されるとき、ドナーポリヌクレオチドは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼによって切断された標的部位にノックインされ得る。
【0912】
別の例、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に送達する段階を含み得る。
【0913】
追加的に、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集のための一方法は、ドナーポリヌクレオチドを細胞に送達する段階を含み得る。
【0914】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に送達することは、タンパク質および/またはポリペプチドの形態でRNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に送達することを含む。追加的に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に送達することは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することを含み得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドがベクターに組み込まれる状態で細胞に導入され得る。
【0915】
別の例において、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(103)をコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸(105)をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックス(
図8の(a)を参照)挿入されたゲノムを有する細胞において、更なる処理無しでも、ガイド核酸が結合できる標的遺伝子がノックアウトされ得る。
【0916】
図8の(a)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(103)をコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸(105)をコードするポリヌクレオチドが、第1ITR配列(101)と第2ITR配列(107)との間に含まれるツールボックスを示す。
【0917】
具体的には、ツールボックスが細胞のゲノムに挿入されるとき、RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸は、細胞における発現機構によって発現され得る。ガイド核酸は、細胞のゲノムに存在する標的部位(231)に結合でき、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸と改変ヌクレアーゼ複合体を形成する状態で、標的部位(231)を切断できる。
【0918】
図8の(b)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(103)、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(105)を含むツールボックス(
図8の(a)を参照)が挿入されたゲノムにおける、標的部位(231)が切断される形態を示す。標的部位(231)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(103)、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(105)の複合体によって、第1領域(231(a))および第2領域(231(b))に分割され得る。
【0919】
すなわち、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞において、追加の更なる治療無しでも、ガイド核酸の配列の一部と同一、または、それに相補的な配列を有する標的部位を含む標的遺伝子はノックアウトされ得る(
図8の(b)を参照)。
【0920】
しかしながら、ドナーポリヌクレオチドが細胞に提供されるとき、特定の配列を含む遺伝子が上述の機構によってノックアウトされる前に、ドナーポリヌクレオチドがノックインされ得ることも可能である。
【0921】
追加的に、別の例において、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む第1ツールボックス、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含む第2ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞において、更なる処理が無くても、ガイド核酸の配列の一部と同一、または、それに相補的な配列を有する標的部位を含む標的遺伝子がノックアウトされ得る。
【0922】
具体的には、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスが細胞のゲノムに挿入されるとき、細胞における発現機構によって発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸は、改変ヌクレアーゼ複合体を形成でき、改変ヌクレアーゼ複合体は、ガイド核酸が相補結合できる標的部位を切断できる。
【0923】
すなわち、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスの両方が挿入されたゲノムを有する細胞において、更なる処理が無くてもガイド核酸が相補結合できる標的部位を含む標的遺伝子をノックアウトできる。
【0924】
しかしながら、細胞にドナーポリヌクレオチドが提供されるとき、標的部位を含む標的遺伝子が上述の機構によってノックアウトされる前に、ドナーポリヌクレオチドがノックインされ得ることも可能である。
【0925】
上の説明と対照的に、第1ツールボックスは、1個体の第1細胞のゲノムに挿入され得て、第2ツールボックスは個々の第2細胞のゲノムに挿入され得る。
【0926】
この場合、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、細胞における発現機構によって、第1細胞において発現され得て、ガイド核酸は第2細胞において発現され得る。
【0927】
第1細胞において発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、細胞間送達系によって第1細胞から輸送され得る。追加的に、第2細胞において発現されるガイド核酸は、細胞内送達系によって第2細胞から輸送され得る。すなわち、細胞間送達系による輸送を通して、第1細胞において発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼ、および、個体の第2細胞において発現されるガイド核酸は、同一細胞において存在し得る。特に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸は、複合体を形成し得て、遺伝子編集は細胞のゲノムにおいて生じ得る。
【0928】
例えば、第1細胞において発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、第2細胞に移動し得て、それにより、第2細胞において発現されるガイド核酸と複合体を形成し、この場合、第2遺伝子編集が第2細胞において生じ得る。
【0929】
別の例において、第2細胞において発現されるガイド核酸は、第1細胞に移動し得て、それにより、第1細胞において発現するRNA誘導性エンドヌクレアーゼと複合体を形成し、この場合、第2遺伝子編集が第1細胞において生じ得る。
【0930】
追加的に、更に別の例において、第1細胞において発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼ、および、第2細胞において発現されるガイド核酸は、個体に存在する第3細胞に移動し得る。この場合、RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸は、第3細胞において複合体を形成し得て、第2遺伝子編集は、第3細胞において生じ得る。
【0931】
第2遺伝子編集の機構を上述したので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0932】
第2遺伝子編集の上記方法は、単離細胞における遺伝子編集のための方法であり得る。
【0933】
非単離細胞における第2遺伝子編集の一方法は、上述のRNA、プラスミドベクター、ポリペプチド、および/または、タンパク質を個体の組織または臓器に注入するための方法を含み得る。
【0934】
更に、受精卵および/または胚における第2遺伝子編集の一方法は、上述のRNA、プラスミドベクター、ポリペプチド、および/または、タンパク質を受精卵にマイクロインジェクションするための方法を含み得る。以降に、上述の第2遺伝子編集が生じ得る標的部位を説明する。
【0935】
遺伝子編集が生じ得る標的部位は、細胞に提供されるガイド核酸の種類に依存する。
【0936】
ガイド核酸の提供とは、細胞の外部から細胞へガイド核酸を送達することを指し得る。
【0937】
追加的に、ガイド核酸の提供は、細胞のゲノムに挿入されるポリヌクレオチドの発現によるガイド核酸の提供を指し得る。この場合、細胞のゲノムに挿入されるポリヌクレオチドは、ツールボックスのコンポーネントとして含まれるものであり得る。
【0938】
例えば、1つの種類のガイド核酸が細胞に提供されるとき、ガイド核酸が結合できる標的部位で遺伝子編集が生じ得る。
【0939】
別の例において、第1ガイド核酸の2つの異なる種類および第2ガイド核酸が細胞に提供されるとき、遺伝子編集は、第1ガイド核酸が結合できる第1標的部位、および、第2ガイド核酸が結合できる第2標的部位において生じ得る。
【0940】
[2‐2.発現調節因子を含むツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼおコンポーネントを使用する第2遺伝子編集]
[2‐2‐1.発現調節因子を含むツールボックス]
【0941】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、発現調節因子を含むツールボックスが提供され得る。
【0942】
発現調節因子は、特定のポリヌクレオチドの発現のタイミングおよび/または位置を調節するための因子を指し得る。
【0943】
発現調節因子が含まれるツールボックスの場合、発現調節因子に影響する物質および/または条件が処理されない限り、ツールボックスの内部に含まれるポリヌクレオチドの一部の転写および/または翻訳は阻害され得る。
【0944】
本明細書において使用される場合、「発現調節因子に影響する物質および/または条件」という用語は、ポリヌクレオチドの転写および/または翻訳が発現調節因子によって阻害される、ポリヌクレオチドの転写および/または翻訳を誘導できる、または、増大させることができる物質および/または条件を指し得る。
【0945】
発現調節因子を含むツールボックスは、第1ITR配列、発現調節因子、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチド、および、第2ITR配列を含み得る。
【0946】
発現調節因子は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳を調節する因子であり得る。
【0947】
特に、発現調節因子に影響する物質および/または条件が処理されない限り、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳は阻害され得る。
【0948】
発現調節因子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞の場合、発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理が無ければ、改変ヌクレアーゼのコンポーネントは、発現できない。この場合、改変ヌクレアーゼが外部から細胞内部へ追加的に送達されない限り、第2遺伝子編集は、生じることができない。
【0949】
以降、発現調節因子を含むツールボックスのいくつかの例示的な実施形態を説明する。
図9は、発現調節因子を含むツールボックス(130)のいくつかの例示的な実施形態を示す。
【0950】
例えば、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ(132)および発現調節因子(130)をコードするポリヌクレオチドを含み得る(
図9の(a)を参照)。
【0951】
別の例において、ツールボックスは、ガイド核酸(134)および発現調節因子(130)をコードするポリヌクレオチドを含み得る(
図9の(b)を参照)。
【0952】
更に別の例において、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み得て、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端の1または複数において発現調節因子を含み得る。
【0953】
具体的には、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(132)、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(134)を含み得て、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端において発現調節因子(130)を含み得る。追加的に、プロモーターをコードするポリヌクレオチド(131)は、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(134)の5'末端に含まれ得る(
図9の(c)を参照)。
【0954】
具体的には、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(132)、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(134)を含み得て、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(134)の5'末端において発現調節因子(130)を含み得る。追加的に、プロモーターをコードするポリヌクレオチド(131)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(132)の5'末端に含まれ得る(
図9の(d)を参照)。
【0955】
具体的には、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(132)、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(134)を含み得て、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(132)の5'末端において、発現調節因子(130(a))を含み得て、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端に発現調節因子(130(b))を含み得る(
図9の(e)を参照)。
【0956】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの両方がゲノムに含まれる場合でも、発現調節因子がRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端の少なくとも一方に追加的に含まれるとき、特定の処理無しで第2遺伝子編集が生じることができると結論付けることは不可能である。
【0957】
以降、発現調節因子(130)のいくつかの具体的な実施形態を開示する。
図10は、発現調節因子のいくつかの実施形態を示す。
【0958】
例えば、発現調節因子(130)は、誘導性プロモーター(151)をコードするポリヌクレオチドを含み得る(
図10の(a)を参照)。
【0959】
誘導性プロモーター(151)をコードするポリヌクレオチドが細胞のゲノムに挿入される場合、誘導性プロモーターは、発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理無しで、機能することができない。この場合、誘導性プロモーターの3'末端方向に存在するポリヌクレオチドの転写および/または翻訳は生じないことがあり得る。具体的には、誘導性プロモーターがTet‐onプロモーターであるとき、Tet‐onプロモーターに影響する物質(例えばテトラサイクリン)が処理されない場合、Tet‐onプロモーターの3'末端方向に存在するポリヌクレオチドの転写および/または翻訳が生じないことがあり得る。
【0960】
別の例において、発現調節因子(130)は、[リコンビナーゼ認識部位(RRS)(153)‐転写終止コドン(154)‐リコンビナーゼ認識部位(RRS)(155)](以降RTR)をコードするポリヌクレオチドを含み得る。エクソポリヌクレオチドが、リコンビナーゼ認識部位(RRS)(153)と転写終止コドン(154)との間に追加的に含まれ得る。
【0961】
すなわち、本開示において、RTRは、エクソポリヌクレオチドがリコンビナーゼ認識部位(RRS)(153)と転写終止コドン(154)との間に更に含まれることを意味し得る。
【0962】
RTRは、プロモーターをコードするポリヌクレオチド(152)と、転写および/または翻訳されるポリヌクレオチドとの間に含まれ得る(
図10の(b)を参照)。
【0963】
RTRが細胞のゲノムに挿入される場合、発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理無しで、転写終止コドンを欠失させることができない。この場合、RTRの3'末端方向に存在するポリヌクレオチドの転写および/または翻訳は生じないことがあり得る。具体的には、細胞が、RTRに影響する物質であるリコンビナーゼ(例えばCreリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼなど)で処理されないとき、RTRの3'末端方向に存在するポリヌクレオチドの転写が生じないことがあり得る。
【0964】
更に別の例において、発現調節因子(130)は、[リコンビナーゼ認識部位(RRS)(153)‐終止コドン(156)‐リコンビナーゼ認識部位(RRS)(155)](以降、RSR)をコードするポリヌクレオチドを含み得る。エクソポリヌクレオチドは、リコンビナーゼ認識部位(RRS)(153))と終止コドン(156)との間に追加的に含まれ得る。
【0965】
すなわち、本開示において、RSRは、エクソポリヌクレオチドが、リコンビナーゼ認識部位(RRS)(153)と終止コドン(156)との間に更に含まれ得ることを意味し得る。
【0966】
RSRは、プロモーターをコードするポリヌクレオチド(152)と、転写および/または翻訳されるポリヌクレオチドとの間に含まれ得る(
図10の(c)を参照)。
【0967】
RSRが細胞のゲノムに挿入される場合、発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理無しで、終止コドンを欠失させることができない。この場合、RSRの3'末端方向に存在するポリヌクレオチドの転写および/または翻訳は生じないことがあり得る。具体的には、細胞が、RSRに影響する物質であるリコンビナーゼ(例えばCreリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼなど)で処理されないとき、RSRの3'末端方向に存在するポリヌクレオチドの転写および/または翻訳が生じないことがあり得る。
【0968】
更に別の例において、発現調節因子(130)が、プロモーターをコードするポリヌクレオチドを含まないが、リコンビナーゼ認識部位(RRS)(157)を含む場合であり得る(
図10の(d)を参照)。
【0969】
この場合、i)リコンビナーゼ認識部位(RRS)またはその変異体、および、プロモーターをコードするポリヌクレオチド、ならびに、ii)リコンビナーゼ認識部位(RRS)と相互作用できるリコンビナーゼが細胞上で処理されない限り、RRSの3'末端方向に存在するポリヌクレオチドの転写および/または翻訳は生じないことがあり得る。
【0970】
本開示において提供される、発現調節因子を含む各ツールボックス(130)は、組み合わせを形成し、それにより、細胞のゲノム(および/または染色体)に挿入され得る。
【0971】
すなわち、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスは、単一細胞のゲノムに挿入され得て、この場合、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスのうち任意の1または複数が、発現調節因子(130)を含み得る。
【0972】
例えば、第1ツールボックスは、発現調節因子(130)、および、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み得る。第2ツールボックスは、プロモーターをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0973】
別の例において、第1ツールボックスは、発現調節因子(130)、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み得る。第2ツールボックスは、プロモーターをコードするポリヌクレオチド、および、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0974】
更に別の例において、第1ツールボックスは、発現調節因子(130)、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み得る。第2ツールボックスは、発現調節因子(130)、および、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0975】
この場合でも、改変ヌクレアーゼのコンポーネントの発現は、発現調節因子(130)によって阻害できるので、第1遺伝子編集によってゲノムにツールボックスが挿入される場合でも、発現調節因子に影響する物質および/または条件の追加的な治療なしで第2遺伝子編集が生じ得ると結論付けることが不可能である。
【0976】
[2‐2‐2.第2遺伝子編集の方法]
本開示は、発現調節因子を含むツールボックス、および、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含む改変ヌクレアーゼのコンポーネントを発現することによって、第2遺伝子編集の方法を提供する。
【0977】
第2遺伝子編集の様々な方法が、ゲノムに挿入されたツールボックスの構造に従って提供され得る。
【0978】
説明の便宜上、以降では、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが、ツールボックスの構造として、発現調節因子の3'末端に含まれる場合を想定し、それについて説明する。
【0979】
例えば、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド、および、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、誘導性プロモーターを機能させることができる物質および/または条件の処理、ならびに、ガイド核酸の送達を含み得る。更に、細胞における第2遺伝子編集の一方法は更に、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を含み得る。
【0980】
発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理、ガイド核酸の提供、ならびに、細胞におけるドナーポリヌクレオチドの提供が、同時に処理および提供され得て、これらはまた、下の他の例示的な実施形態にも適用可能であり得る。
【0981】
誘導性プロモーターを機能させることできる物質または条件を上述したので、詳細な説明は省略する。追加的に、ガイド核酸および/またはドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する方法も上述したので、詳細な説明は省略する。
【0982】
誘導性プロモーターを機能させることができる物質および/または条件が細胞上で処理されるとき、誘導性プロモーターが活性化され得て、この場合、誘導性プロモーターの3'末端に存在するポリヌクレオチドは、転写および/または翻訳され、それにより、RNA誘導性エンドヌクレアーゼが発現できる。
【0983】
細胞に提供されるガイド核酸は、細胞のゲノムに存在する標的部位に結合できる。追加的に、上述の機構によって発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸との複合体を形成しながら、標的部位を切断でき、この場合、標的部位を含む標的遺伝子はノックアウトされ得る。
【0984】
更に、ドナーポリヌクレオチドが細胞に提供されるとき、ドナーポリヌクレオチドは、標的部位が切断される部位にノックインされ得る。
【0985】
すなわち、細胞上で、誘導性プロモーターを機能させることができる物質および/または条件の処理により、誘導性プロモーターの3'末端に位置するRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳を適時の方式で調節でき、それにより、遺伝子編集も適時の方式で調節できる。
【0986】
別の例において、プロモーターをコードするポリヌクレオチドとRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドとの間に挿入されるRSRを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)およびガイド核酸を細胞に提供することを含み得る。更に、細胞における第2遺伝子編集の一方法は更に、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を含み得る。
【0987】
部位特異的リコンビナーゼ(SSR)を細胞に提供することは、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)タンパク質または部位特異的リコンビナーゼ(SSR)をコードするポリヌクレオチドを細胞に提供することを含み得る。部位特異的リコンビナーゼ(SSR)をコードするポリヌクレオチドは、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに組み込むことにより、細胞に導入され得る。
【0988】
ガイド核酸および/またはドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する方法を上述したので、詳細な説明は省略する。
【0989】
部位特異的リコンビナーゼ(SSR)が細胞に送達されるとき、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)およびリコンビナーゼ認識部位(RRS)は互いに相互作用し得て、終止コドンは相互作用によって欠失され得る。この場合、RSRの3'末端に存在するRNA誘導性エンドヌクレアーゼを発現できる。
【0990】
細胞に提供されるガイド核酸は、細胞のゲノムに存在する標的部位に結合できる。追加的に、発現されたRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸と複合体を形成しながら、標的部位を切断でき、この場合、標的部位を含む標的遺伝子はノックアウトされ得る。
【0991】
更に、ドナーポリヌクレオチドが細胞に提供されるとき、ドナーポリヌクレオチドは、標的部位が切断される部位にノックインされ得る。
【0992】
すなわち、RSRをコードするポリヌクレオチドの3'末端に位置するRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳は、リコンビナーゼ(SSR)の送達によって適時の方式で調節され得て、それにより、遺伝子編集も適時の方式で調節できる。
【0993】
更に別の例において、プロモーターをコードするポリヌクレオチドとガイド核酸をコードするポリヌクレオチドとの間に挿入されるRTRを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に提供する段階を含み得る。更に、細胞における第2遺伝子編集の一方法は更に、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を含み得る。
【0994】
部位特異的リコンビナーゼ(SSR)、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、および/または、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する方法を上述したので、詳細な説明は省略する。
【0995】
部位特異的リコンビナーゼ(SSR)が細胞に提供されるとき、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)とリコンビナーゼ認識部位(RRS)との間の相互作用を通して、転写終止コドンを欠失させることができる。この場合、RSRの3'末端に存在するガイド核酸が発現され得る。ガイド核酸は、細胞のゲノムに存在する標的部位に結合できる。
【0996】
細胞に提供されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸との複合体を形成しながら、標的部位を切断でき、この場合、標的部位を含む標的遺伝子をノックアウトできる。
【0997】
更に、ドナーポリヌクレオチドが細胞に提供されるとき、ドナーポリヌクレオチドは、標的部位が切断される部位にノックインされ得る。
【0998】
すなわち、リコンビナーゼ(SSR)の提供により、RTRをコードするポリヌクレオチドの3'末端に位置するガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳を適時の方式で調節でき、それにより、遺伝子編集も適時の方式で調節できる。
【0999】
更に別の例において、プロモーターをコードするポリヌクレオチドを含むことなく、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、および、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、第1部位特異的リコンビナーゼ(SSR1)をコードするポリヌクレオチドおよびプロモーターを細胞に提供する段階を含み得る。第1部位特異的リコンビナーゼ(SSR1)は、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)と相互作用できる。更に、細胞における第2遺伝子編集の一方法は更に、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を含み得る。
【1000】
第1部位特異的リコンビナーゼ(SSR1)およびドナーポリヌクレオチドを細胞に提供するための方法を上述したので、詳細な説明は省略される。
【1001】
プロモーターをコードするポリヌクレオチドは、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)と対を形成するリコンビナーゼ認識部位(RRS)と共にプラスミドベクターに組み込まれ、次に、細胞に提供され得る。
【1002】
第1部位特異的リコンビナーゼ(SSR1)およびプロモーターをコードするポリヌクレオチドが細胞に提供されるとき、第1部位特異的リコンビナーゼ(SSR1)および第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)は、互いに相互作用でき、それにより、プロモーターをコードするポリヌクレオチドは、細胞のゲノムに存在するツールボックスに挿入できる。この場合、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)の3'末端に存在するRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、転写および/または翻訳され得る。
【1003】
細胞に提供されるガイド核酸は、細胞のゲノムに存在する標的部位に結合できる。追加的に、発現されたRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸と複合体を形成しながら、標的部位を切断でき、この場合、標的部位を含む標的遺伝子はノックアウトされ得る。
【1004】
更に、ドナーポリヌクレオチドが細胞に提供されるとき、ドナーポリヌクレオチドは、標的部位が切断される部位にノックインされ得る。
【1005】
すなわち、第1部位特異的リコンビナーゼ(SSR1)、および、プロモーターをコードするポリヌクレオチドを提供することにより、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチドの3'末端に位置するRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳は、適時の方式で調節でき、それにより、遺伝子編集も適時の方式で調節できる。
【1006】
以降、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが発現調節因子の3'末端に含まれるツールボックスを使用する第2遺伝子編集の方法を説明する。しかしながら、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが発現調節因子の3'末端に含まれるツールボックスを使用する第2遺伝子編集の方法、および、その機構を上で詳細に説明したので、遺伝子編集機構の具体的な詳細は省略する。
【1007】
例えば、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、誘導性プロモーターを機能させることができる物質および/または条件の処理、ならびに、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの細胞への提供を含み得る。更に、細胞における第2遺伝子編集の一方法は更に、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を含み得る。
【1008】
細胞における発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの提供、ならびに、ドナーポリヌクレオチドの提供は、同時に処理および提供され得て、これらの方法も、下の他の例示的な実施形態に適用され得る。
【1009】
別の例において、プロモーターをコードするポリヌクレオチドとガイド核酸をコードするポリヌクレオチドとの間のRTRを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に提供する段階を含み得る。更に、細胞における第2遺伝子編集の一方法は更に、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を含み得る。
【1010】
更に別の例において、プロモーターをコードするポリヌクレオチド無しで、第1リコンビナーゼ認識部位(RRS1)をコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集の一方法は、第1部位特異的リコンビナーゼ(SSR1)をコードするポリヌクレオチドおよびプロモーターを細胞に提供する段階を含み得る。更に、細胞における第2遺伝子編集の一方法は更に、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を含み得る。
【1011】
上述のように、単離細胞における第2遺伝子編集の一方法は、上述の様々な種類の物質(例えば、発現調節因子に影響する物質)、RNA、プラスミドベクター、ウイルスベクター、ポリペプチド、および/または、タンパク質を細胞に直接送達する段階を含み得る。
【1012】
追加的に、非単離細胞における第2遺伝子編集の一方法は、個体の組織または臓器に、上述の様々な種類の物質(例えば、発現調節因子に影響する物質)、RNA、プラスミドベクター、ウイルスベクター、ポリペプチド、および/または、タンパク質を注入する段階を含み得る。
【1013】
更に、受精卵および/または胚における第2遺伝子編集の一方法は、動物の1細胞期前核の状態にある受精卵に、上述の様々な種類の物質(例えば、発現調節因子に影響する物質)、RNA、プラスミドベクター、ウイルスベクター、ポリペプチド、および/または、タンパク質をマイクロインジェクション(MI)する段階を含み得る。
【1014】
追加的に、受精卵および/または胚における第2遺伝子編集の一方法は、動物の2細胞期後の状態にある受精卵に、上述の様々な種類の物質(例えば、発現調節因子に影響する物質)、RNA、プラスミドベクター、ウイルスベクター、ポリペプチド、および/または、タンパク質をマイクロインジェクションする段階を含み得る。
【1015】
上述のように、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞、受精卵および/または胚の場合、遺伝子編集ごとにRNA誘導性エンドヌクレアーゼを提供する必要は無い。この場合、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの大きいサイズに起因する問題(例えば、低い送達効率)を解決することが可能である。
【1016】
[2‐3.ツールボックスから発現された改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚およびトランスジェニック動物]
【1017】
[2‐3‐1.改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚]
【1018】
[2‐3‐1‐1.改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚の構造]
【1019】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、ツールボックスから発現された改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する1または複数の細胞(以降、「第2遺伝子編集細胞」)を胚が含むトランスジェニック胚が提供される。
【1020】
本明細書によって提供される例示的実施形態によれば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、第1ITR配列と第2ITR配列との間のガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを胚が有する、ならびに、エンドポリヌクレオチドがノックアウトされるトランスジェニック胚が提供され得る。特に、ガイド核酸は、エンドポリヌクレオチドに特異的に結合できる。
【1021】
エンドポリヌクレオチドがノックアウトされる形態は、i)エンドポリヌクレオチドの配列における少なくとも1つのヌクレオチドが含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが追加的にエンドポリヌクレオチドの配列に加えられる形態、および、iii)エンドポリヌクレオチドの配列における少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが追加的に加えられる形態から選択される、いずれか1つの形態であり得る。
【1022】
本明細書において使用される場合、「第2遺伝子編集細胞」という用語は、第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する細胞を指し、「第2遺伝子編集」という用語は、上述のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する遺伝子編集、発現調節因子を含まないツールボックスを使用する遺伝子編集、および、発現調節因子を含むツールボックスを使用する遺伝子編集を含み得る。
【1023】
しかしながら、本開示において、「第2遺伝子編集細胞」という用語は、第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する細胞を指すに過ぎず、ツールボックスが細胞のゲノムに含まれるかどうかは関係ない。すなわち、ゲノムにおいて第2遺伝子編集が生じた細胞は、ツールボックスがゲノムに挿入されるときでも、本開示に説明される「第2遺伝子編集細胞」であり得る、または、ツールボックスがゲノムに挿入されないときでも、本開示に説明される「第2遺伝子編集細胞」であり得る。
【1024】
追加的に、本明細書において使用される場合、「非第2遺伝子編集細胞」という用語は、第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを有する細胞を指す。しかしながら、本開示において、「非第2遺伝子編集細胞」という用語は、第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを有する細胞を指すに過ぎず、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有し、上述の第2遺伝子編集が生じなかった細胞も細胞に属し得る。すなわち、第2遺伝子編集が生じなかった限りにおいて、他の遺伝子操作が生じたゲノムを有する任意の細胞は、本開示において、「非第2遺伝子編集細胞」と説明され得る。
【1025】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、ツールボックスから発現する改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用する第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚は、キメラまたは相同であり得る。
【1026】
相同胚とは、「第2遺伝子編集細胞」だけを有するトランスジェニック胚を指し得る。
【1027】
キメラ胚とは、「第2遺伝子編集細胞」に加えて、非第2遺伝子編集細胞を追加的に有するトランスジェニック胚を指し得る。
【1028】
本開示において提供できるキメラトランスジェニック胚の一例は、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞と、第2ツールボックスおよび修飾部位を含むゲノムを有する第2細胞とを備えるトランスジェニック胚であり得る。第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一でも異なってもよい。
【1029】
特に、第1ツールボックスおよび/または第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドから選択される1または複数を含み得る。追加的に、第1ツールボックスおよび/または第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される任意の1または複数に対する発現調節因子を更に含み得る。この場合、ガイド核酸は、標的部位に特異的に結合できる。標的部位はエンドポリヌクレオチドであり得る。
【1030】
標的部位はエクソポリヌクレオチドであり得る。修飾部位は、標的部位の配列が遺伝子編集によって変更されたものであり得る。
【1031】
具体的には、標的部位は第1領域、第2領域および第3領域を含み得て、修飾部位は、第4領域、第5領域、第6領域を含み得る。特に、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は第5領域の配列と異なる。
【1032】
第2領域および第5領域はPAM配列を含み得る。第3領域および第6領域はPAM配列を含み得る。
【1033】
第5領域の配列は、i)第2領域の配列における少なくとも1つのヌクレオチドが含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に追加的に加えられる形態、および、iii)第2領域配列における少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが追加的に加えられる形態から選択される、いずれか1つの形態であり得る。ii)およびiii)の場合、それに追加的に加えられる少なくとも1つのヌクレオチドは、編集対応コンポーネント、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチド、非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチド、非転写ポリヌクレオチド、人工イントロン、発現調節因子から選択される1または複数を含み得る。標的部位は、受精卵および/または胚のエンドポリヌクレオチドであり得る。標的部位および修飾部位は各々、PAM配列に隣接する配列であり得る。
【1034】
標的部位および修飾部位は、5'末端方向に第1ITR配列を各々含み得て、3'末端方向に第2ITR配列を各々含み得る。
【1035】
本開示において提供できるキメラトランスジェニック胚の別の例は、第1ツールボックスおよび標的部位を含む第1細胞、ならびに、ツールボックスを含まないが、修飾遺伝子を含むゲノムを有する第2細胞を備えるトランスジェニック胚であり得る。
【1036】
特に、第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドから選択される1または複数を含み得る。追加的に、第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択されるいずれか1つに対する発現調節因子を追加的に含み得る。この場合、ガイド核酸は、標的部位に特異的結合できる。
【1037】
修飾部位は、標的部位の配列が遺伝子編集によって変更されたものであり得る。
【1038】
具体的には、標的部位は第1領域、第2領域および第3領域を含み得て、修飾部位は、第4領域、第5領域、第6領域を含み得る。特に、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は第5領域の配列と異なる。
【1039】
第5領域の配列は、i)第2領域の配列における少なくとも1つのヌクレオチドが含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に追加的に加えられる形態、および、iii)第2領域配列における少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが追加的に加えられる形態から選択される、いずれか1つの形態であり得る。標的部位は、受精卵および/または胚のエンドポリヌクレオチドであり得る。標的部位および修飾部位は、PAM配列に隣接する配列であり得る。
【1040】
標的部位および修飾部位は、5'末端方向に第1ITR配列を各々含み得て、3'末端方向に第2ITR配列を各々含み得る。
【1041】
具体的には、標的部位およびPAM配列は各々、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得て、修飾部位およびPAM配列は各々、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得る。
【1042】
以降、ゲノムに挿入されるツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼによって第2遺伝子編集が生じた1または複数の細胞を含むトランスジェニック胚を調製するための方法を説明する。
【1043】
[2‐3‐1‐2.改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚を調製する方法]
【1044】
受精卵および/または胚を産生するための一方法は、ツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する、受精卵に「第2遺伝子編集の因子」をマイクロインジェクション(MI)することを含み得る。
【1045】
特に、受精卵および/または胚は、自然交配または体外受精によって取得され得る。自然交配および/または体外受精は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する動物から産生された配偶子と、上の動物とは性別が異なる動物から産生される配偶子との間で実行され得る。
【1046】
本明細書において使用される場合、「第2遺伝子編集の因子」という用語は、ゲノムにおける第2遺伝子編集を可能にするように、細胞、胚または動物に提供される因子を指す。
【1047】
例えば、「第2遺伝子編集の因子」は、これらに限定されないが、発現調節因子、リコンビナーゼ認識部位(RRS)を含むポリヌクレオチド、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、ガイド核酸、ドナーポリヌクレオチドに影響する物質および/または条件から選択される任意の1または複数であり得る。
【1048】
より具体的には、本明細書において提供される、遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚を調製するための例示的な一方法は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有する受精卵または胚に、標的部位に結合できるガイド核酸を提供する段階を含み得る。追加的に、遺伝子編集が生したトランスジェニック胚を調製するための例示的な一方法は、ドナーポリヌクレオチドを受精卵または胚に更に提供することであり得る。特に、ドナーポリヌクレオチドは、ガイド核酸と同時に提供され得る。例えば、ドナーポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、単一ベクターに組み込まれ、その状態で提供され得る。
【1049】
受精卵または胚は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有する動物から産生される配偶子と、上の動物と異なる性別の動物から産生される配偶子との間の体外受精によって得られるものであり得る。
【1050】
より具体的には、本明細書によって提供される、遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚を調製するための別の例示的な方法は、発現調節因子に影響する材料および条件のうちのいずれか1つを、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される任意の1または複数において発現調節因子を含むゲノムを有する受精卵または胚に提供する段階を含み得る。
【1051】
追加的に、遺伝子編集が生したトランスジェニック胚を調製するための例示的な一方法は、ドナーポリヌクレオチドを受精卵または胚に更に提供することであり得る。
【1052】
ドナーポリヌクレオチドは、発現調節因子に影響する物質または条件の任意の1または複数と同時に提供され得る。
【1053】
ツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する受精卵および/または胚を調製するための別の方法は、体細胞核移植(SCNT)を実行する段階を含み得る。
【1054】
特に、体細胞核移植において使用される体細胞は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有し得る。
【1055】
体細胞核移植(SCNT)は、上述の方法によって産生された「第2遺伝子編集細胞」の核を除核卵子に移植する段階を含み得る。特に、「第2遺伝子編集細胞」は、トランスジェニックドナー細胞とみなされ得る。
【1056】
より具体的には、本明細書によって提供される、遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚を調製するための例示的な一方法は、i)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み、標的部位で遺伝子編集が生じたゲノムを有するトランスジェニックドナー細胞を調製するための方法、および、ii)トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵子に移植する方法を含み得る。
【1057】
トランスジェニックドナー細胞を調製するための方法は、標的部位に結合できるガイド核酸を、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有する細胞に提供する段階を含み得る。トランスジェニックドナー細胞を調製するための方法は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有する細胞に、ドナーポリヌクレオチドを提供する段階を更に含み得る。
【1058】
特に、ドナーポリヌクレオチドは、ガイド核酸と同時に提供され得る。例えば、ドナーポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、単一ベクターに組み込まれ、その状態で提供され得る。
【1059】
より具体的には、本明細書によって提供される、遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚を調製するための別の例示的な方法は、i)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される1または複数において発現調節因子を含み、標的部位において遺伝子編集が生じたゲノムを有するトランスジェニックドナー細胞を調製するための方法、および、ii)トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵子に移植するための方法を含み得る。
【1060】
トランスジェニックドナー細胞を調製するための方法は、発現調節因子に影響する材料および条件から選択される1または複数を、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される1または複数において発現調節因子を含むゲノムを有する細胞に提供する段階を含み得る。追加的に、トランスジェニックドナー細胞を調製するための方法は、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を更に含み得る。
【1061】
ドナーポリヌクレオチドは、発現調節因子に影響する物質または条件のうち少なくとも1つと同時に提供され得る。
【1062】
[2‐3‐2.改変ヌクレアーゼを使用して第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック動物]
[2‐3‐2‐1.改変ヌクレアーゼを使用して第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック動物の構造]
【1063】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、トランスジェニック動物が提供され得て、トランスジェニック動物は、ツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する1または複数の細胞(以降、第2遺伝子編集細胞)を含む。
【1064】
本明細書によって提供される例示的実施形態によれば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、第1ITR配列と第2ITR配列との間のガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むゲノムをトランスジェニック動物が有する、ならびに、エンドポリヌクレオチドがノックアウトされるトランスジェニック動物が提供され得る。特に、ガイド核酸は、エンドポリヌクレオチドに特異的に結合できる。
【1065】
エンドポリヌクレオチドがノックアウトされる形態は、i)エンドポリヌクレオチドの配列における少なくとも1つのヌクレオチドが含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが追加的にエンドポリヌクレオチドの配列に加えられる形態、および、iii)エンドポリヌクレオチドの配列における少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが追加的に加えられる形態から選択される、いずれか1つの形態であり得る。
【1066】
ツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼのコンポーネントを使用して第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック動物は、キメラ動物または相同動物であり得る。
【1067】
相同動物は、「第2遺伝子編集細胞」だけを有するトランスジェニック動物を指し得る。
【1068】
キメラ動物は、「第2遺伝子編集細胞」に加えて、「非第2遺伝子編集細胞」を追加的に有するトランスジェニック動物を指し得る。
【1069】
本開示において提供できるキメラトランスジェニック動物の例は、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞、ならびに、第2ツールボックスおよび修飾部位を含むゲノムを有する第2細胞を含むトランスジェニック動物であり得る。第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と同一でも異なってもよい。
【1070】
特に、第1ツールボックスおよび/または第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドから選択される1または複数を含み得る。追加的に、第1ツールボックスおよび/または第2ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される任意の1または複数に対する発現調節因子を更に含み得る。この場合、ガイド核酸は、標的部位に特異的に結合できる。標的部位はエンドポリヌクレオチドであり得る。標的部位はエクソポリヌクレオチドであり得る。修飾部位は、標的部位の配列が遺伝子編集によって変更されたものであり得る。
【1071】
具体的には、標的配列は、第1領域、第2領域および第3領域を含み得て、修飾配列は、第4領域、第5領域および第6領域を含み得る。この場合、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は第5領域の配列と異なる。
【1072】
第2領域および第5領域は各々、PAM配列を含み得る。第3領域および第6領域は各々、PAM配列を含み得る。
【1073】
第5領域の配列は、i)第2領域の配列における少なくとも1つのヌクレオチドが含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に追加的に加えられる形態、および、iii)第2領域配列における少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが追加的に加えられる形態から選択される、いずれか1つの形態であり得る。ii)およびiii)の場合、それに追加的に加えられる少なくとも1つのヌクレオチドは、編集対応コンポーネント、タンパク質またはRNAをコードするポリヌクレオチド、非機能性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、未翻訳RNAをコードするポリヌクレオチド、非転写ポリヌクレオチド、人工イントロン、発現調節因子から選択される1または複数を含み得る。標的部位および修飾部位は、PAM配列に隣接する配列であり得る。
【1074】
標的部位および修飾部位は、5'末端方向に第1ITR配列を各々含み得て、3'末端方向に第2ITR配列を各々含み得る。
【1075】
本開示において提供できるキメラトランスジェニック胚の別の例は、第1ツールボックスおよび標的部位を含むゲノムを有する第1細胞、ならびに、ツールボックスを含まないが、修飾遺伝子を含むゲノムを有する第2細胞を備えるトランスジェニック動物であり得る。
【1076】
特に、第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドから選択される1または複数を含み得る。追加的に、第1ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される任意の1または複数において発現調節因子を更に含み得る。この場合、ガイド核酸は、標的部位に特異的結合できる。
【1077】
修飾部位は、標的部位の配列が遺伝子編集によって変更されたものであり得る。
【1078】
具体的には、標的配列は、第1領域、第2領域および第3領域を含み得て、修飾配列は、第4領域、第5領域および第6領域を含み得る。この場合、第1領域の配列は、第4領域の配列と同一であり、第3領域の配列は、第6領域の配列と同一であり、第2領域の配列は第5領域の配列と異なる。
【1079】
第5領域の配列は、i)第2領域の配列における少なくとも1つのヌクレオチドが含まれない形態、ii)少なくとも1つのヌクレオチドが第2領域の配列に追加的に加えられる形態、および、iii)第2領域配列における少なくとも1つのヌクレオチドが欠失され、少なくとも1つのヌクレオチドが追加的に加えられる形態から選択される、いずれか1つの形態であり得る。標的部位は、動物のエンドポリヌクレオチドであり得る。標的部位および修飾部位は、PAM配列に隣接する配列であり得る。
【1080】
標的部位および修飾部位は、5'末端方向に第1ITR配列を各々含み得て、3'末端方向に第2ITR配列を各々含み得る。
【1081】
具体的には、標的部位およびPAM配列は各々、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得て、修飾部位およびPAM配列は各々、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得る。
【1082】
以降、トランスジェニック動物を調製するための方法を説明する。ここで、トランスジェニック動物は、ゲノムに挿入されたツールボックスから発現された改変ヌクレアーゼによって第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する1または複数の細胞を含む。
【1083】
[2‐3‐2‐2.改変ヌクレアーゼを使用して第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック動物を調製するための方法]
【1084】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る「第2遺伝子編集細胞」を含む動物を産生するための一方法は、代理母の子宮に、改変ヌクレアーゼのコンポーネントによって第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する受精卵および/または胚を移植する段階を含み得る。
【1085】
例えば、上述のように、「第2遺伝子編集細胞」を含む動物は、「第2遺伝子編集のための因子」を代理母の子宮にマイクロインジェクション(MI)することによって産生される受精卵および/または胚を移植することによって産生できる。この場合、産生された動物はキメラまたは相同であり得る。
【1086】
別の例において、「第2遺伝子編集細胞」を含む動物は、上述のように第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する細胞を使用する体細胞核移植(SCNT)によって産生された受精卵および/または胚を代理母の子宮に移植することによって産生できる。この場合、産生された動物は相同であり得る。
【1087】
より具体的には、本明細書によって提供される、第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック動物を調製するための例示的な一方法は、i)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み、標的部位において第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する胚を調製するための方法、ならびに、ii)胚を代理母に移植するための方法を含み得る。
【1088】
胚を調製するための方法は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有する受精卵または胚に、標的部位に結合できるガイド核酸を提供する段階を含み得る。追加的に、胚を調製するための方法は、ドナーポリヌクレオチドを受精卵または胚に提供する段階を更に含み得る。
【1089】
特に、ドナーポリヌクレオチドは、ガイド核酸と同時に提供され得る。例えば、ドナーポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、単一ベクターに組み込まれ、その状態で提供され得る。
【1090】
胚の調製は、i)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含み、第2遺伝子編集が標的部位において生じたゲノムを有するトランスジェニックドナー細胞を調製すること、ならびに、ii)トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵子に移植することを含み得る。
【1091】
トランスジェニックドナー細胞を調製することは、標的部位に結合できるガイド核酸を、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有する細胞に提供する段階を含み得る。追加的に、トランスジェニックドナー細胞を調製することは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むゲノムを有する細胞に、ドナーポリヌクレオチドを提供する段階を更に含み得る。
【1092】
特に、ドナーポリヌクレオチドは、ガイド核酸と同時に提供され得る。例えば、ドナーポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、単一ベクターに組み込まれ、その状態で提供され得る。
【1093】
具体的には、本開示において提供される、遺伝子編集が生じたトランスジェニック動物を調製するための別の方法は、i)RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される1または複数において発現調節因子を含み、標的部位で遺伝子編集が生じたゲノムを有する胚を調製する段階、ならびに、ii)胚を代理母に移植する段階を含み得る。
【1094】
胚を調製するための例示的な方法は、発現調節因子に影響する材料および条件のうちから選択される1または複数を、標的部位、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端のうちから選択される1または複数における発現調節因子を含むゲノムを有する受精卵または胚に提供する段階を含み得る。追加的に、胚の調製は、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供することを更に含み得る。
【1095】
ドナーポリヌクレオチドは、発現調節因子に影響する材料および条件のうちから選択される1または複数と同時に提供され得る。
【1096】
胚を調製するための別の例示的な方法は、i)標的部位、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位い特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される1または複数における発現調節因子を含むゲノムを有するトランスジェニックドナー細胞を調製する段階、および、ii)トランスジェニックドナー細胞の核を除核卵母細胞に移植する段階を含み得る。
【1097】
トランスジェニックドナー細胞を調製することは、発現調節因子に影響する材料および条件から選択される1または複数を、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5'末端、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの5'末端から選択される1または複数において発現調節因子を含むゲノムを有する細胞に提供する段階を含み得る。追加的に、トランスジェニックドナー細胞を調製することは、ドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を更に含み得る。
【1098】
ドナーポリヌクレオチドは、発現調節因子に影響する材料および条件のうちから選択される1または複数と同時に提供され得る。
【1099】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に従って第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する動物を産生するための一方法は、上述の「第2遺伝子編集のための因子」を動物の組織に注入する段階を含み得る。上述の組織への注入の方法を通して産生される動物はキメラ動物であり得る。
【1100】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に従って第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する動物を産生するための一方法は、「第2遺伝子編集細胞」を含む精巣を有する雄、または、「第2遺伝子編集細胞」を含む卵巣を有する雌の自然交配を含み得る。
【1101】
例えば、自然交配は、「第2遺伝子編集細胞」を含む精巣を有する雄と、「第2遺伝子編集細胞」を含む卵巣を有する雌との間で実行され得る。
【1102】
別の例において、自然交配は、「第2遺伝子編集細胞」を含む精巣を有する雄と、野性型(WT)雌との間、または、野性型(WT)雄と「第2遺伝子編集細胞」を含む卵巣を有する雌との間で実行され得る。
【1103】
[3.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスを使用する第2遺伝子編集]
以降、ゲノムに挿入されるツールボックスに含まれるPAM配列を有するポリヌクレオチドにおける第2遺伝子編集を説明する。第2遺伝子編集はドナーポリヌクレオチドのノックインであり得る。
【1104】
すなわち、ゲノムに人工的に挿入されるPAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスは、遺伝子編集を可能にする標的部位として機能し得る。
【1105】
上述のように、ツールボックスは、セーフハーバーに位置し得るので、ツールボックスにおける遺伝子編集の発生は、細胞におけるゲノムにおけるタンパク質またはRNAの発現に影響しないことがあり得る。
【1106】
[3‐1.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックス]
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、第1ITR配列、PAM配列を有するポリヌクレオチド、および、第2ITR配列を含むツールボックスが提供され得る。
【1107】
ツールボックスは更に、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含み得る。例えば、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドから選択される1または複数を更に含み得る。
【1108】
以降、PAM配列を有するポリヌクレオチドのいくつかの例示的な実施形態を説明する。
【1109】
例えば、PAM配列を有するポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子を含み得て、マーカー遺伝子の詳細は上述したので、省略する。
【1110】
別の例において、PAM配列を有するポリヌクレオチドは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および/または、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【1111】
更に別の例において、PAM配列を有するポリヌクレオチドは、開始コドン(AUG)を含まないポリヌクレオチドを含み得る。PAM配列を有するポリヌクレオチドが開始コドン(AUG)を含まないとき、ゲノムい人工的に挿入されるポリヌクレオチドによって転写および/または翻訳されるRNAまたはタンパク質は生じないことがあり得る。
【1112】
すなわち、外から挿入されるポリヌクレオチドが開始コドン(AUG)を含まないとき、RNAまたはタンパク質は発現されないので、細胞内の安定性を維持しながら、外から挿入されるポリヌクレオチドが、改変ヌクレアーゼによって切断されるべき部位として利用され得るという利点がある。
【1113】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、PAM配列(以降、人工編集部位)を有する複数のポリヌクレオチドが、単一ツールボックスに含まれ得る。
【1114】
本明細書において使用される場合、「人工編集部位」という用語は、ツールボックスに存在するPAM配列を有するポリヌクレオチドを指し、人工編集部位は、ゲノムに含まれ得て、遺伝子編集が生じ得る標的部位として機能し得る。
【1115】
例えば、2つの人工編集部位が、単一ツールボックスに含まれ得る。すなわち、第1人工編集部位および第2人工編集部位は、単一ツールボックスに含まれ得る。
【1116】
第1人工編集部位の配列は、第2人工編集部位の配列と同一であり得る。
【1117】
第1人工編集部位の配列は、第2人工編集部位の配列と異なり得る。
【1118】
別の例において、3以上の人工編集部位は、単一ツールボックスに含まれ得る。しかしながら、説明の便宜上、2つの人工編集部位が単一ツールボックスに含まれ得る場合について説明を提供する。
【1119】
本明細書の以下の説明(人工編集部位の数が2である場合についての説明)は、人工編集部位の数がnであるときでも(nは3以上の自然数)、n個の人工編集部位からランダムに選択される2つの人工編集部位の間の関係に適用可能であり得る。
【1120】
図11は、PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスのいくつかの実施形態を示す。
【1121】
図11の(a)は、第1ITR配列(201)と第2ITR配列(207)との間に、PAM配列(203)を有する単一のポリヌクレオチドが含まれるツールボックス(140(a))を示す。
【1122】
図11の(b)は、第1人工編集部位(205)および第2人工編集部位(206)が第1ITR配列(201)と第2ITR配列(207)との間に含まれるツールボックス(140(b))を示す。特に、第1人工編集部位(205)の配列は、第2人工編集部位(206)の配列と同一であり得る。
【1123】
図11の(c)は、第1人工編集部位(202)および第2人工編集部位(204)が第1ITR配列(201)と第2ITR配列(207)との間に含まれるツールボックス(140(c))を示す。特に、第1人工編集部位(202)の配列は、第2人工編集部位(204)の配列と異なる。
【1124】
ツールボックスは、ゲノムまたは染色体に挿入され得す。ツールボックスがゲノムまたは染色体にどのように挿入されるかについての形態および方法は上述したので、詳細な説明は省略する。
【1125】
以降、上述のようにPAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞、受精卵、胚または動物における第2遺伝子編集の方法、ならびに、第2遺伝子編集が生じるゲノムの形態を説明する。
【1126】
[3‐2.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおける第2遺伝子編集の方法]
以降、PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入される細胞における第2遺伝子編集の方法を説明する。PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスを細胞に挿入する方法は、上述のツールボックス挿入方法によって十分に説明できるので、ここでは、それについての具体的な詳細を省略する。
【1127】
第2遺伝子編集の様々な方法は、細胞のゲノムに挿入されるツールボックスの構造に従って提供できる。
【1128】
説明の便宜上、以降では、ゲノムにおけるRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを想定し、それについて説明する。
【1129】
例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスと同一であるツールボックスに含まれ得る、または、PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスと異なるツールボックスに含まれ得て、次に、ゲノムに挿入され得る。別の例において、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、ツールボックスのコンポーネントに含まれることなく、ゲノムに挿入され得る。
【1130】
以降、
図11の(a)に示されるツールボックスを使用する第2遺伝子編集の方法を説明する。
図12は、
図11の(a)に示されるツールボックスを使用する第2遺伝子編集のプロセスを示す。
【1131】
PAM配列を有する単一のポリヌクレオチド(203)を含むツールボックス(140(a))が挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集のための一方法は、ガイド核酸およびドナーポリヌクレオチド(232)を細胞に提供する段階を含み得る。
【1132】
ガイド核酸の配列の一部は、PAM配列(203)を有するポリヌクレオチドの配列の一部と同一、または、それに相補的であり得る。ガイド核酸を細胞に提供するための様々な方法があり得る。
【1133】
例えば、ガイド核酸は、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することによって細胞に提供され得る。ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、RNAの形態で導入され得る、または、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに組み込まれ、次に、細胞に導入され得る。
【1134】
別の例において、ガイド核酸は、ツールボックス(140(a))、または、ツールボックス(140(a))とは異なるツールボックスに含まれるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドからガイド核酸を発現することによって、細胞に提供され得る。追加的、ガイド核酸は、ゲノムに挿入されるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドからガイド核酸を発現することによって細胞に提供され得る。
【1135】
更に別の例において、ガイド核酸がツールボックス(140(a))、または、ツールボックス(140(a))とは異なるツールボックスに含まれるが、上述の発現調節因子によって通常に発現しない場合、ガイド核酸は、発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理によって、細胞に提供され得る。発現調節因子に影響する物質および/または条件を上述したので、ここでは具体的な詳細を省略する。ドナーポリヌクレオチドを細胞に送達するための様々な方法があり得る。
【1136】
例えば、ドナーポリヌクレオチドは、ドナーポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターまたはウイルスベクターを細胞に導入することによって細胞に送達され得る。
【1137】
ガイド核酸が上述の方法によって細胞に提供されるとき、ガイド核酸はRNA誘導性エンドヌクレアーゼと相互作用でき、ガイド核酸およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、細胞において複合体を形成できる。
【1138】
追加的に、細胞に送達されるガイド核酸は、ポリヌクレオチド(203)に特異的に結合できる。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸との複合体を形成する状態で、ポリヌクレオチド(203)を切断できる。この場合、細胞に送達されるドナーポリヌクレオチド(232)は、ポリヌクレオチド(203)にノックインされ得て、結果として、ポリヌクレオチド(203)は、2つの部分(203(a)および203(b))に分割され得る(
図12を参照)。
【1139】
次に、
図11の(b)に示すツールボックスを使用して、第2遺伝子編集のための方法を説明する。
図13は、
図11の(b)に示されるツールボックスを使用する第2遺伝子編集のプロセスを示す。
【1140】
第1人工編集部位(205)および第2人工編集部位(206)を含むツールボックス(140(b))が挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集のための一方法は、ガイド核酸およびドナーポリヌクレオチドを細胞に提供する段階を含み得る。
【1141】
上述、第1人工編集部位(205)および第2人工編集部位(206)は、同一の配列を含み得る。
【1142】
ガイド核酸の配列の一部は、第1人工編集部位(205)および/または第2人工編集部位(206)の配列と同一、または、それに相補的であり得る。ガイド核酸を細胞に提供するための様々な方法があり得る。
【1143】
例えば、ガイド核酸は、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することによって細胞に提供され得る。
【1144】
別の例において、ガイド核酸は、ツールボックス(140(b))、または、ツールボックス(140(b))とは異なるツールボックスに含まれるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドからガイド核酸を発現することによって、細胞に提供され得る。
【1145】
更に別の例において、ガイド核酸がツールボックス(140(b))、または、ツールボックス(140(b))とは異なるツールボックスに含まれるが、上述の発現調節因子によって通常に発現しない場合、ガイド核酸は、発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理によって、細胞に提供され得る。
【1146】
ドナーポリヌクレオチドを細胞に送達するための様々な方法があり得て、これらの方法は上述したので、ここでは具体的な説明を省略する。
【1147】
上述の方法によってガイド核酸が細胞に提供されるとき、ガイド核酸は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼと相互作用でき、ガイド核酸およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、細胞において複合体を形成できる。
【1148】
追加的に、細胞に提供されるガイド核酸は、第1人工編集部位(205)および/または第2人工編集部位(206)と特異的に結合できる。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸と複合体を形成する状態において、第1人工編集部位(205)および/または第2人工編集部位(206)を切断できる。
【1149】
この場合、細胞に導入されるドナーポリヌクレオチド(232)は、第1人工編集部位(205)および/または第2人工編集部位(206)にノックインできる。
【1150】
結果として、第1人工編集部位(205)を第1領域(205(a))および第2領域(205(b))に分割できる。追加的に、第2人工編集部位(206)は、第1領域(206(a))および第2領域(206(b))に分割され得る(
図13の(b)から
図13の(d)を参照)。
【1151】
ドナーポリヌクレオチド(232)が第1人工編集部位(205)および第2人工編集部位(206)の両方にノックインされる場合、ドナーポリヌクレオチド(232)がノックインされる細胞において、より多くの量のポリペプチドが発現され得る。ポリペプチドは、ドナーポリヌクレオチド(232)によってコードされるものであり得る(
図13を参照)。
【1152】
更に、
図11の(c)に示されるツールボックスを使用する第2遺伝子編集の方法を説明する。
図14は、
図11の(c)に示されるツールボックスを使用する第2遺伝子編集のプロセスを示す。
【1153】
第1人工編集部位(202)および第2人工編集部位(204)を含むツールボックス(140(c))が挿入されたゲノムを有する細胞における第2遺伝子編集のための一方法は、第1ガイド核酸、第2ガイド核酸、第1ドナーポリヌクレオチド(232(a))および第2ドナーポリヌクレオチド(232(b))を細胞に提供する段階を含み得る。上述のように、第1人工編集部位(202)の配列は、第2人工編集部位(204)の配列と異なる。
【1154】
この場合、第1ガイド核酸の配列の一部は、第1人工編集部位(202)の配列の一部と同一、または、それに相補的であり得る。第2ガイド核酸の配列の一部は、第2人工編集部位(204)の配列の一部と同一、または、それに相補的であり得る。
【1155】
追加的に、第1ドナーポリヌクレオチド(232(a))の5'末端および3'末端は、第1人工編集部位(202)の配列の一部と同一である配列を含み得る。追加的に、第2ドナーポリヌクレオチド(232)(b)の5'末端および3'末端は、第2人工編集部位(204)の配列の一部と同一である配列を含み得る。すなわち、第1ドナーポリヌクレオチド(232(a))および第2ドナーポリヌクレオチド(232(b))の5'末端および3'末端は、相同組換えの配列を含み得る。
【1156】
第1ガイド核酸および第2ガイド核酸を細胞に提供するための様々な方法があり得る。
【1157】
例えば、第1ガイド核酸および第2ガイド核酸は、第1ガイド核酸および/または第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することによって細胞に提供され得る。
【1158】
別の例において、第1ガイド核酸および/または第2ガイド核酸は、ツールボックス140(c)、または、ツールボックス140(c)と異なるツールボックスに含まれる、第1ガイド核酸および/または第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドから、第1ガイド核酸および第2ガイド核酸を発現させることによって細胞に提供され得る。この場合、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、同一の、または、異なるツールボックスに含まれ、次に、細胞に提供され得る。
【1159】
更に別の例において、第1ガイド核酸および/または第2ガイド核酸がツールボックス140(c)、または、ツールボックス140(c)と異なるツールボックスに含まれるが、上述の発現調節因子によって通常に発現されない場合、第1ガイド核酸および/または第2ガイド核酸は、発現調節因子に影響する物質および/または条件の処理によって、細胞に提供され得る。この場合でも、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、同一の、または、異なるツールボックスに含まれ、次に、細胞に提供され得る。
【1160】
第1ドナーポリヌクレオチドおよび第2ドナーポリヌクレオチドを細胞に送達するための様々な方法があり得る。
【1161】
例えば、第1ドナーポリヌクレオチドおよび第2ドナーポリヌクレオチドは、第1ドナーポリヌクレオチドおよび第2ドナーポリヌクレオチドを含むベクターを細胞に導入することによって、細胞に送達され得る。この場合、第1および第2ドナーポリヌクレオチドは、同一のベクターに含まれ、次に、細胞に送達され得る。代替的に、第1および第2ドナーポリヌクレオチドは、異なるベクターに含まれ、次に、細胞に送達され得る。ベクターはプラスミドベクターまたはウイルスベクターであり得る。
【1162】
第1ガイド核酸および/または第2ガイド核酸が、上述の方法によって細胞に提供されるとき、第1ガイド核酸および/または第2ガイド核酸はRNA誘導性エンドヌクレアーゼと相互作用でき、第1ガイド核酸および/または第2ガイド核酸は、細胞におけるRNA誘導性エンドヌクレアーゼと複合体を形成できる。
【1163】
細胞に提供される第1ガイド核酸は、第1人工編集部位(202)と特異的に結合できる。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、第1ガイド核酸と複合体を形成する状態で、第1人工編集部位(202)を切断できる。この場合、細胞に提供される第1ドナーポリヌクレオチド(232(a))は、第1人工編集部位(202)にノックインできる。
【1164】
追加的に、細胞に提供される第2ガイド核酸は、第2人工編集部位(204)に特異的に結合できる。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、第2ガイド核酸と複合体を形成する状態で、第2人工編集部位(204)を切断できる。この場合、細胞に提供される第2ドナーポリヌクレオチド(232(b))は、第2人工編集部位(204)にノックインできる。
【1165】
結果として、第1人工編集部位(202)は、第1領域(202(a))および第2領域(202(b))に分割され得る。追加的に、第2人工編集部位(204)は、第1領域(204(a))および第2領域(204(b))に分割され得る(
図14の(b)から
図14の(d)を参照)。
【1166】
第2遺伝子編集が生じたツールボックス(140(c))の形態は、第1ドナーポリヌクレオチド(232(a))が第1人工編集部位(202)にノックインされる形態であり得る(
図14の(b)を参照)。
【1167】
追加的に、第2遺伝子編集が生じたツールボックス(140(c))の別の形態は、第2ドナーポリヌクレオチド(232(b))が第2人工編集部位(204)にノックインされる形態であり得る(
図14の(c)を参照)。
【1168】
更に、第2遺伝子編集が生じたツールボックス(140(c))の形態は、第1ドナーポリヌクレオチド(232(a))が第1人工編集部位(202)にノックインされる形態であり得て、第2ドナーポリヌクレオチド(232(b))は、第2人工編集部位(204)にノックインされる(
図14の(d)を参照)。
【1169】
すなわち、第2遺伝子編集がツールボックス(140(c))で生じるとき、互いに異なる配列を有する第1ドナーポリヌクレオチド(232(a))および第2ドナーポリヌクレオチド(232(b))はそれぞれ、第1人工編集部位(202)および第2人工編集部位(204)にノックインされ得る。この場合、第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドは、第1および第2ドナーポリヌクレオチド(232)がノックインされる細胞において発現され得る。第1ポリペプチドは、第1ドナーポリヌクレオチド(232(a))によってコードされるものであり得て、第2ポリペプチドは、第2ドナーポリヌクレオチド(232(b))によってコードされるものであり得る。
【1170】
上述の例と異なり、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが細胞のゲノムに挿入されないとき、第2遺伝子編集は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に追加的に提供することによって実行され得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に送達するための様々な方法があり得る。
【1171】
例えば、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、タンパク質としてRNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に導入することによって細胞に送達され得る。追加的に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞い導入することによって細胞に送達され得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドをプラスミドベクターまたはウイルスベクターに組み込み、次に、細胞に導入することを含み得る。
【1172】
上述のように、単離細胞における第2遺伝子編集のための一方法は、上述のRNA、プラスミドベクター、ポリペプチドおよび/またはタンパク質を単離細胞に直接送達するための方法を含み得る。
【1173】
更に、非単離細胞における第2遺伝子編集のための一方法は、上述のRNA、プラスミドベクター、ポリペプチドおよび/またはタンパク質を個体の組織または臓器に注入するための方法を含み得る。
【1174】
更に、受精卵および/または胚における第2遺伝子編集のための一方法は、1細胞期前核の状態で、RNA、プラスミドベクター、ポリペプチドおよび/またはタンパク質を動物の受精卵にマイクロインジェクションするための方法を含み得る。
【1175】
以降、PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおける第2遺伝子編集の発生の効果を説明する。
【1176】
第2遺伝子編集に起因する効果は、本開示において開示されるいくつかの例示的な実施形態によって提供されるツールボックスに含まれるPAM配列を含むポリヌクレオチドの種類に従って変化し得る。
【1177】
例えば、PAM配列を含むポリヌクレオチドがマーカー遺伝子であるとき、ドナーポリヌクレオチドが、標的部位としてPAM配列を含むポリヌクレオチドにノックインされる場合、マーカー遺伝子によってコードされるポリヌクレオチドを細胞において発現させることができない。そのような特性を通して、ドナーポリヌクレオチドがゲノムにノックインされる細胞が選択され得る。マーカー遺伝子を使用して遺伝子編集が生じた細胞の選択に関する詳細を後に説明する。
【1178】
別の例において、PAM配列を含むポリヌクレオチドが、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドであるとき、ドナーポリヌクレオチドが、標的部位としてPAM配列を含むポリヌクレオチドにノックインされる場合、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、細胞において発現できない。
【1179】
この場合、標的部位は、PAM配列を含むポリヌクレオチドの転写および翻訳によって発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼを使用して切断されるもの、および、ドナーポリヌクレオチドがノックインされるものであり得る。RNA誘導性エンドヌクレアーゼが細胞においてもはや発現しないので、ドナーポリヌクレオチドのノックイン後に望ましくない追加的な遺伝子編集が生じないという利点がある。
【1180】
以降、第2遺伝子編集が生じた、PAM配列を有するポリヌクレオチドを含む上述のツールボックスがゲノムに挿入された細胞、受精卵、胚または動物を使用して産生される胚または動物の構造、ならびに、その調製方法を説明する。
【1181】
[3‐3.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおいて第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚および動物]
【1182】
[3‐3‐1.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおいて第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚]
【1183】
[3‐3‐1‐1.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおいて第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚の構造]
【1184】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、トランスジェニック胚を提供でき、トランスジェニック胚は、ツールボックスに含まれるPAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する第2遺伝子編集細胞(以降、「PAM第2遺伝子編集細胞」)の1または複数を含む。
【1185】
追加的に、本明細書において使用される場合、「PAM非第2遺伝子編集細胞」という用語は、PAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを含む細胞を指す。
【1186】
しかしながら、本開示において、「PAM非第2遺伝子編集細胞」という用語は単に、第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを有する細胞を指し、上述の第2遺伝子編集が生じなかった、ツールボックス(100)が挿入されたゲノムを有する任意の細胞も、それに対応し得る。すなわち、PAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じなかった場合でない限り、異なる遺伝子操作を有するゲノムを有する細胞も、本開示に係る「PAM非第2遺伝子編集細胞」になり得る。「PAM第2遺伝子編集細胞」を含むトランスジェニック胚はキメラまたは相同であり得る。
【1187】
相同胚は、「PAM第2遺伝子編集細胞」だけを有するトランスジェニック胚を指し得る。
【1188】
キメラ胚とは、「PAM第2遺伝子編集細胞」に加えて、PAM非第2遺伝子編集細胞を有するトランスジェニック胚を指し得る。
【1189】
以降、ゲノムに挿入されるPAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する1または複数の細胞を含むトランスジェニック胚を調製するための方法を説明する。
【1190】
[3‐3‐1‐2.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおいて第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚を調製するための方法]
【1191】
ツールボックスに含まれるPAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する受精卵または胚を産生するための一方法は、PAM配列を有するポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する受精卵または胚に「第2遺伝子編集のための因子」をマイクロインジェクション(MI)することを含み得る。
【1192】
本明細書において使用される場合、「第2遺伝子編集の因子」という用語は、ゲノムにおける第2遺伝子編集を可能にするように、細胞、胚または動物に提供される因子を指す。例えば、「第2遺伝子編集の因子」は、これらに限定されないが、発現調節因子、リコンビナーゼ認識部位(RRS)を含むポリヌクレオチド、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、ガイド核酸、ドナーポリヌクレオチドに影響する物質および/または条件から選択される任意の1つであり得る。
【1193】
ツールボックスに含まれるPAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する受精卵または胚を産生するための一方法は、体細胞核移植(SCNT)を含み得る。体細胞核移植(SCNT)は、第2遺伝子編集が生じた、上記方法により産生されたPAM配列を有するポリヌクレオチドを含む細胞の核を除核卵子に移植することを含み得る。
【1194】
[3‐3‐2.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおいて第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚]
【1195】
[3‐3‐2‐1.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおいて第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック胚の構造]
【1196】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、トランスジェニック動物が提供され得て、トランスジェニック動物は、ツールボックスに含まれるPAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じたゲノムを有するPAM第2遺伝子編集細胞の1または複数を含み得る。
【1197】
「PAM第2遺伝子編集細胞」を含むトランスジェニック動物はキメラ動物または相同動物であり得る。
【1198】
相同動物は、「PAM第2遺伝子編集細胞」だけを有するトランスジェニック動物を指し得る。
【1199】
キメラ動物とは、「PAM第2遺伝子編集細胞」に加えて、PAM非第2遺伝子編集細胞を有するトランスジェニック動物を指し得る。
【1200】
以降、ゲノムに挿入されるツールボックスに含まれるPAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する1または複数の細胞を含むトランスジェニック動物を調製するための方法を説明する。
【1201】
[3‐3‐2‐2.PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおいて第2遺伝子編集が生じたトランスジェニック動物を調製するための方法]
【1202】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む動物を産生するための一方法は、上記方法によって産生されるPAM配列を有するポリヌクレオチドにおいて第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する受精卵または胚を代理母の子宮に移植する段階を含み得る。
【1203】
例えば、上述のように、「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む動物は、「第2遺伝子編集のための因子」を代理母の子宮にマイクロインジェクション(MI)することによって産生される受精卵および/または胚を移植することによって産生できる。この場合、産生された動物はキメラまたは相同であり得る。
【1204】
別の例において、上述のように、「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む動物は、「PAM第2遺伝子編集細胞」を使用する体細胞核移植(SCNT)によって産生される受精卵および/または胚を代理母の子宮に移植することによって産生できる。この場合、産生された動物は相同であり得る。
【1205】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む動物を産生するための一方法は、上述の「第2遺伝子編集のための因子」を、PAM配列を有するポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する動物の組織に注入する段階を含み得る。組織への注入の方法を通して産生される動物はキメラ動物であり得る。
【1206】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に係る「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む動物を産生するための一方法は、「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む精巣を有する雄、および/または、「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む卵巣を有する雌の間の自然交配を含み得る。
【1207】
例えば、自然交配は、「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む精巣を有する雄と、「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む卵巣を有する雌との間で実行され得る。
【1208】
別の例において、自然交配は、「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む精巣を有する雄と、野性型雌との間、または、野性型雄と「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む卵巣を有する雌との間で実行され得る。
【1209】
[4.第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する細胞を含むトランスジェニック動物の使用態様]
【1210】
以降、上述の「第2遺伝子編集細胞」および/または「PAM第2遺伝子編集細胞」の1または複数を含むトランスジェニック動物を利用するための態様を説明する。
【1211】
「第2遺伝子編集」は、上述のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用する遺伝子編集、発現調節因子を含まないツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼを使用する遺伝子編集、発現調節因子を含むツールボックスから発現される改変ヌクレアーゼを使用する遺伝子編集、および、PAM配列を有するポリヌクレオチドを含むツールボックスにおける遺伝子編集から選択される任意の1または複数であり得るが、これらに限定されない。
【1212】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、トランスジェニック動物を利用する一態様は、バイオリアクター、品種改良した動物、疾患耐性動物および疾患動物モデルを含み得る。
【1213】
例えば、「第2遺伝子編集細胞」および/または「PAM第2遺伝子編集細胞」が、ドナーポリヌクレオチドがゲノムにノックインされる細胞である場合、トランスジェニック動物はバイオリアクターとして利用され得る。
【1214】
トランスジェニック動物が大型動物である場合、ノックインされたドナーポリヌクレオチドによって発現できるポリペプチドを大規模に取得することができる。
【1215】
ドナーポリヌクレオチドは、ヒトアルブミンをコードするポリヌクレオチド、ヒトインターロイキン‐2をコードするポリヌクレオチド、ヒトエリスロポエチンをコードするポリヌクレオチド、ヒトインスリンをコードするポリヌクレオチド、オメガ3をコードするポリヌクレオチドであり得るが、これらに限定されない。
【1216】
ドナーポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および、リンカーをコードするポリヌクレオチドが含まれる形態であり得る。この場合、標的タンパク質およびリンカーが含まれる融合タンパク質が、ドナーポリヌクレオチドがノックインされるゲノムを有する細胞において発現され得る。発現される融合タンパク質におけるリンカーは、切断でき、それにより、標的タンパク質を取得することができる。リンカーは上述したので、ここでは具体的な詳細を省略する。
【1217】
以降、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および、リンカーをコードするポリヌクレオチドがドナーポリヌクレオチドにノックインされるゲノムを有する細胞を含むトランスジェニック動物から標的タンパク質を産生するためのプロセスを説明する。
【1218】
図15は、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および、リンカーをコードするポリヌクレオチドがドナーポリヌクレオチドにノックインされる、ならびに、ドナーポリヌクレオチドがノックインされる、細胞を含むトランスジェニック動物から標的タンパク質が産生されるプロセスを示す。
【1219】
図15の(a)は、動物のゲノムに存在する、ドナーポリヌクレオチド(150)、プロモーター(145)、および、標的部位(142)を含むベクターを示す。
【1220】
図15の(b)は、ドナーポリヌクレオチド(150)が標的部位(142)にノックインされる形態を示す。
【1221】
図15の(c)は、ドナーポリヌクレオチド(150)がノックインされる、細胞、胚または動物において発現する融合タンパク質(160)を示す。
図15の(d)は、インスリン(148)が融合タンパク質(160)から得られる形態を示す。
【1222】
以降、ドナーポリヌクレオチド(150)は、ヒトインスリンをコードするポリヌクレオチド(143)、および、リンカーをコードするポリヌクレオチド(141)を含むことを想定する。
【1223】
ガイド核酸およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼが細胞に提供されるとき、ガイド核酸およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼは相互作用して、それにより、細胞内に複合体を形成し、改変ヌクレアーゼ複合体は、ガイド核酸の一部と同一、または、それに相補的である配列を有するポリヌクレオチド(142)を切断できる。ドナーポリヌクレオチド(150)が細胞に提供されるとき、ドナーポリヌクレオチド(150)は、ポリヌクレオチド(142)にノックインされ得る(
図15の(a)を参照)。ドナーポリヌクレオチド(150)がノックインされる形態は、ポリヌクレオチド(142)を切断することによって産生される第1領域(142(a))と第2領域(142(b))との間にドナーポリヌクレオチド(150)が含まれる形態である。
【1224】
ガイド核酸およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に提供する方法は上述したので、ここでは具体的な詳細を省略する。
【1225】
上の説明に基づき、融合タンパク質(160)は、ドナーポリヌクレオチド(150)がノックインされるゲノムを有する1または複数の細胞を含む動物から発現され得る。融合タンパク質(160)は、ポリヌクレオチドの第1領域(142(a))によってコードされるポリペプチド(144)、リンカー(146)、および、ヒトインスリン(148)が含まれる形態であり得る。融合タンパク質(160)を動物から取得して精製することができる(
図15の(c)を参照)。ヒトインスリン(148)は、取得された、および/または、精製された融合タンパク質(160)に存在するリンカー(146)を切断することによって取得できる(
図15の(d)を参照)。
【1226】
上述のように、ヒトインスリンを含む融合タンパク質は、ヒトインスリンをコードするポリヌクレオチド、および、リンカーをコードするポリヌクレオチドが含まれる構造を有するドナーポリヌクレオチドを使用して、動物の身体において発現させることができるので、ヒトインスリンの小さいサイズに起因して、動物の身体において、低血糖ショックが生じないことがあり得る。
【1227】
別の例において、「第2遺伝子編集細胞」および/または「PAM第2遺伝子編集細胞」が、エクソポリヌクレオチドおよび/またはエンドポリヌクレオチドがノックアウトされるゲノムを有する細胞であるとき、トランスジェニック動物は、品種改良した動物、疾患耐性動物、または、疾患動物モデルとして利用され得るが、これらに限定されない。
【1228】
品種改良した動物とは、ホエイタンパク質をコードするポリヌクレオチドがノックアウトされた動物、または、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが挿入またはノックインされる動物を指し得る。
【1229】
具体的には、品種改良した動物とは、ホエイタンパク質をコードするポリヌクレオチドがノックアウトされた動物を指し得る。ホエイタンパク質は、ベータラクトグロブリン、アルファラクトグロブリン、ウシ血清アルブミンであり得るが、これらに限定されない。ホエイタンパク質がベータラクトグロブリンであるとき、主なアレルギー誘導因子として当業者に知られているベータラクトグロブリンは、動物の母乳に含まれないことがあり得る。
【1230】
具体的には、品種改良した動物とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが挿入またはノックインされた動物を指し得る。標的タンパク質は、ヒトアルブミンをコードするポリヌクレオチド、ヒトインターロイキン‐2をコードするポリヌクレオチド、ヒトエリスロポエチンをコードするポリヌクレオチド、ヒトインスリンをコードするポリヌクレオチド、オメガ3をコードするポリヌクレオチドであり得るが、これらに限定されない。
【1231】
具体的には、疾患耐性動物は、感染症耐性動物、または、狂牛病(牛海綿状脳症)防止ウシを指し得る。感染症は、これに限定されないが、トリパノソーマ症であり得る。狂牛病(牛海綿状脳症)防止ウシは、プリオンタンパク質をコードするポリヌクレオチドがノックアウトされたゲノムを有する細胞を含むウシであり得る。
【1232】
具体的には、疾患動物モデルは腫瘍動物モデルであり得る。腫瘍動物モデルは、癌抑制遺伝子がノックアウトされたゲノムを有する細胞を含む動物であり得る。例えば、癌抑制遺伝子は、RB1遺伝子、p53遺伝子、pVHL遺伝子、APC遺伝子、ST5遺伝子、YPEL3遺伝子、ST7遺伝子、および、ST14遺伝子であり得るが、これらに限定されない。
【1233】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、「第2遺伝子編集細胞」および/または「PAM第2遺伝子編集細胞」の1または複数を含むトランスジェニック動物を利用する一態様は、第2遺伝子編集がトランスジェニック動物から生じたゲノムを有する配偶子または受精卵(および/または胚)を得ることを含み得る。この場合、配偶子は精子または卵子であり得る。
【1234】
「第2遺伝子編集細胞」および/または「PAM第2遺伝子編集細胞」を含む子は、第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する配偶子を、野性型(WT)の、または、第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する別の配偶子と受精させることによって産生できる。
【1235】
第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する受精卵(および/または胚)が代理母の子宮に移植される場合、「第2遺伝子編集細胞」を含む個体および/または子を産生できる。
【1236】
[ツールボックスを使用する形質転換細胞の選択]
[1.蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスを使用する形質転換細胞の選択]
[1‐1.蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムの構造]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックス(以降、蛍光ツールボックス)が提供され得る。
【1237】
蛍光ツールボックスは、第1ITR配列をコードするポリヌクレオチドと第2ITR配列をコードするポリヌクレオチドとの間に蛍光タンパク質遺伝子が含まれる構造を有し得る。
【1238】
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを含む細胞が提供され得る。特に、細胞に挿入される蛍光ツールボックスの位置および数は変化し得る。細胞は体細胞、配偶子または幹細胞であり得る。
【1239】
追加的に、本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを含む受精卵および/または胚が提供され得る。特に、上の細胞のうち、受精卵および/または胚を構成する細胞のうち少なくとも1つは、蛍光ツールボックスを含む必要があり、蛍光ツールボックスを含む細胞の数は限定されない。
【1240】
蛍光ツールボックスが挿入される、細胞、受精卵および/または胚を調製するための方法は、ツールボックスが挿入される細胞を調製するための上記方法と同様であるので、ここでは、それについての具体的な説明を省略する。
【1241】
蛍光タンパク質は、発現機構に従って、蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞、受精卵および/または胚において発現され得る。蛍光タンパク質の発現によって細胞から蛍光が発生し得て、蛍光シグナルが、蛍光の発生に従って、細胞の外から提供され得る。
【1242】
細胞の外に提供される蛍光シグナルを使用することによって、蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞、受精卵および/または胚は、蛍光ツールボックスが挿入されない胚および/または受精卵から区別できる。
【1243】
本開示によって提供されるツールボックスが挿入される細胞が調製され、かつ、ツールボックスが挿入される細胞、胚および/または受精卵が正確に選択される必要があるときに上述の蛍光ツールボックスが使用される場合、ツールボックスが挿入される細胞、胚、および/または受精卵を容易に区別できる。
【1244】
追加的に、「n+1」(nは1以上の自然数)個の蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞において、「n」個の蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞と比較して、より多くの量の蛍光タンパク質が発現され得る。すなわち、「n+1」(nは1以上の自然数)個の蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞において提供される蛍光シグナルが、「n」個の蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞において提供される蛍光シグナルより大きいことがあり得る。
【1245】
この場合、蛍光ツールボックスが挿入される細胞は、より大きい蛍光シグナルを提供する細胞を選択することによって、より正確に選択できる。
【1246】
更に、胚を構成する細胞全体のゲノムに含まれる蛍光ツールボックスの数が「n+1」である第1胚の場合、胚を構成する細胞全体のゲノムに含まれる蛍光ツールボックスの数が「n」である第2胚において発現されるものと比較して、より大きい量の蛍光タンパク質を発現させることができる。すなわち、第1胚において提供される視覚信号は、第2胚において提供される視覚信号より大きいことがあり得る。
【1247】
この場合、蛍光ツールボックスが挿入される胚は、より大きい蛍光シグナルを提供する第1胚を選択することによって正確に選択できる。
【1248】
以降、そのような蛍光ツールボックスを使用する第2遺伝子編集の後に、第2遺伝子編集が通常に生じた細胞、胚および/または受精卵を選択するための方法を説明する。
【1249】
[1‐2.蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスを使用する形質転換細胞の選択]
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、蛍光ツールボックスを使用する第2遺伝子編集の後に第2遺伝子編集が生じた形質転換細胞、受精卵および/または胚を選択するための方法が提供され得る。蛍光ツールボックスを使用する第2遺伝子編集は、標的部位として蛍光ツールボックスに含まれる蛍光タンパク質遺伝子の1つの領域を有することにより、ドナーポリヌクレオチドをノックインすることを含み得る。
【1250】
例えば、標的部位として蛍光タンパク質遺伝子の1つの領域を有する第2遺伝子編集が、単一の蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞において生じ得る。この場合、蛍光タンパク質を細胞において発現させることができない。すなわち、第2遺伝子編集が生じた細胞において蛍光が発生できず、結果として、視覚信号を細胞の外に提供できない。
【1251】
従って、細胞の外に提供される視覚信号の有無に従って、第2遺伝子編集が生じた細胞を、第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを有する細胞から区別できる。
【1252】
別の例において、第1蛍光ツールボックスおよび第2蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における第1蛍光ツールボックスだけで第2遺伝子編集が生じ得る。この場合、第2遺伝子編集が第1蛍光ツールボックスだけで生じた細胞(以降、第1細胞)において発現する蛍光タンパク質の量は、第2遺伝子編集が生じなかった、第1蛍光ツールボックスおよび第2蛍光ツールボックスが挿入された細胞と比較して、より小さいことがあり得る。すなわち、第2遺伝子編集が生じなかった細胞と比較して、第1細胞において、より小さい量の蛍光が発生し得る。その結果、第1細胞の外に提供される視覚信号が弱くなり得る。
【1253】
従って、細胞の外に提供される視覚信号の強度に従って、第2遺伝子編集が生じた第1細胞を、第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを有する細胞から区別できる。
【1254】
蛍光ツールボックスを使用する第2遺伝子編集のための方法および機構は、ツールボックスを使用する第2遺伝子編集のための上記方法および機構によって説明され得るので、ここでは、それについての具体的な詳細を省略する。
【1255】
第2遺伝子編集が生じた細胞を選択するための上記方法は、単離細胞だけでなく、非単離細胞、受精卵および/または胚においても利用され得る。
【1256】
例えば、胚を構成する細胞全体のゲノムに挿入される蛍光ツールボックスの数が「n+2」(nは1以上の自然数)である胚の場合、第2遺伝子編集が、「n」個の蛍光ツールボックスだけで生じ得る(以降、第2遺伝子編集が「n」個の蛍光ツールボックスだけで生じた胚を、「第1胚」と表現する)。
【1257】
第1胚において発現する蛍光タンパク質の量は、第2遺伝子編集が生じなかった、「n+2」個の蛍光ツールボックスが挿入される状態である胚と比較して小さいことがあり得る。すなわち、第2遺伝子編集が生じなかった胚と比較して、第1胚において、より小さい量の蛍光が発生し得る。その結果、第1胚の外に提供される視覚信号が弱くなり得る。
【1258】
従って、胚の外に提供される視覚信号の強度に従って、第2遺伝子編集が生じた第1胚を、第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを有する胚から区別できる。
【1259】
更に別の例において、第2遺伝子編集が、「n+2」個の蛍光ツールボックスが挿入されたゲノムを有する胚における「n+1」個の蛍光ツールボックスだけで生じ得る。以降、第2遺伝子編集が「n+1」個の蛍光ツールボックスだけで生じた胚を「第2胚」と表現する。
【1260】
上述の第1胚と比較して、第2胚において発現する蛍光タンパク質の量は小さいことがあり得る。すなわち、第1胚と比較して、より大きい数の標的部位において第2遺伝子編集が生じた第2胚において、より小さい量の蛍光が発生し得る。その結果、第2胚の外に提供される視覚信号が弱くなり得る。
【1261】
この場合、第2遺伝子編集が生じた胚は、弱い蛍光シグナルを提供する第2胚を選択することによって、より正確に選択できる。
【1262】
[2.表面タンパク質遺伝子を含むツールボックスを使用する形質転換細胞の選択]
[2‐1.表面タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムの構造]
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、表面タンパク質遺伝子を含むツールボックス(以降、表面ツールボックス)が提供され得る。
【1263】
表面ツールボックスは、第1ITR配列をコードするポリヌクレオチドと第2ITR配列をコードするポリヌクレオチドとの間に表面タンパク質遺伝子が含まれる構造を有し得る。説明の便宜上、以降では、単一の表面ツールボックスが、単一の表面タンパク質遺伝子を含むと想定する。
【1264】
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、表面ツールボックスが挿入されたゲノムを含む細胞が提供され得る。特に、細胞は、体細胞、配偶子または幹細胞であり得る。
【1265】
追加的に、本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、表面ツールボックスが挿入されたゲノムを含む受精卵および/または胚が提供され得る。
【1266】
表面タンパク質は、細胞内発現機構に従って表面ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞、受精卵および/または胚において発現され得る。この場合、表面タンパク質は、細胞、受精卵および/または胚の表面に現れ得る。
【1267】
表面タンパク質と相互作用できる抗体を使用して、表面ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞、受精卵および/または胚は、表面ツールボックスが挿入されないゲノムを有する細胞、受精卵および/または胚から区別できる。この場合、抗体は、磁性粒子またはフルオロフォアと相互作用できる。
【1268】
従って、磁気特性または蛍光シグナルを使用して、表面ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞、胚および/または受精卵を、表面ツールボックスが挿入されないゲノムを有する細胞、胚および/または受精卵から区別できる。
【1269】
本開示によって提供されるツールボックスが挿入される細胞の調製の後に、ツールボックスが挿入される細胞、胚および/または受精卵を正確に選択する必要があるときに、上述の表面ツールボックスが使用される場合、表面タンパク質と相互作用できる抗体を使用して、細胞、胚および/または受精卵を容易に選択することが可能である。
【1270】
図16は、表面ツールボックス(320)が挿入されたゲノムを有する細胞を選択するための例示的な実施形態を示す。説明の便宜上、細胞は単離細胞であると想定する。
【1271】
図16の(a)は、表面ツールボックスが挿入されないゲノム(310)を示す。表面タンパク質は、そのようなゲノム(310)を有する細胞(311)の表面上に発現されない。
【1272】
図16の(b)は、表面ツールボックス(320)が挿入されたゲノムの一部を示す。表面ツールボックス(320)は、第1ITR配列(322)と第2ITR配列(329)との間に表面タンパク質遺伝子(325)が含まれる構造を有し得る。表面タンパク質(323)は、そのようなゲノムを有する細胞(321)の表面上で発現し得る。
【1273】
図16の(c)は、表面タンパク質が発現している細胞、および、表面タンパク質が発現していない細胞の中から、表面タンパク質が発現している細胞を選択するためにクロマトグラフィの使用するプロセスを示す。
【1274】
表面ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を選択するべく、細胞(311および321)が、抗体(324)を含むクロマトグラフィ上に流されるとき、表面ツールボックス(320)が挿入されたゲノムを有する細胞(321)は、抗体(324)と表面タンパク質(323)との間の相互作用によって、クロマトグラフィカラムに結合できる。すなわち、細胞(321)は、表面タンパク質(323)と抗体(324)との間の相互作用によってクロマトグラフィカラムに結合する(
図16の(c)を参照)。
【1275】
以降、そのような表面ツールボックスを使用する第2遺伝子編集の後に、第2遺伝子編集が通常に生じた細胞、胚および/または受精卵を選択するための方法を説明する。
【1276】
[2‐2.表面タンパク質遺伝子を含むツールボックスを使用する形質転換細胞の選択]
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、表面ツールボックスを使用する第2遺伝子編集の後に第2遺伝子編集が生じた形質転換細胞、受精卵および/または胚を選択するための方法が提供され得る。表面ツールボックスを使用する第2遺伝子編集は、表面ツールボックスに含まれる表面タンパク質遺伝子にドナーポリヌクレオチドをノックインすることを含み得る。上述のように、単一の表面タンパク質遺伝子が単一の表面ツールボックスに含まれるという仮定で説明が提供される。
【1277】
例えば、標的として表面タンパク質遺伝子を有する第2遺伝子編集が、単一の表面ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞において生じ得る。
【1278】
この場合、表面タンパク質は細胞において発現できない。すなわち、表面タンパク質は、第2遺伝子編集が生じた細胞の表面上に現れることができず、その結果、第2遺伝子編集が生じた細胞は、表面タンパク質と相互作用できる抗体と相互作用できない。
【1279】
従って、抗体と細胞との間の相互作用の有無に従って、第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する細胞を、第2遺伝子編集が生じなかった細胞から区別できる。
【1280】
2以上の表面ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞の場合でも、上述のように、抗体と細胞との間の相互作用の有無に従って、第2遺伝子編集が生じた細胞を、第2遺伝子編集が生じなかった細胞から区別できる。
【1281】
この場合、第2遺伝子編集が生じた細胞を、ゲノムに挿入された表面ツールボックスのすべてにおいて選択できる。
【1282】
表面ツールボックスを使用する第2遺伝子編集の方法および機構は、ツールボックスを使用する第2遺伝子編集のための上述の方法および機構によって説明できるので、ここでは、具体的な説明を省略する。
【1283】
遺伝子編集が生じた細胞を選択するための上記方法は、単離細胞だけでなく、非単離細胞、受精卵および/または胚においても利用され得る。
【1284】
例えば、胚を構成する細胞全体のゲノムに挿入される表面ツールボックスの数が「n」以上(nは2以上の自然数)である場合、第2遺伝子編集が「n」個の表面ツールボックスのすべてにおいて生じ得る。この場合、表面タンパク質は、第2遺伝子編集が生じた胚において発現できない。すなわち、表面タンパク質は、第2遺伝子編集が生じた胚の表面上に現れることができず、その結果、第2遺伝子編集が生じた胚は、表面タンパク質と相互作用できる抗体と相互作用できない。
【1285】
すなわち、抗体と細胞との間の相互作用の有無に従って、第2遺伝子編集が生じた胚を、第2遺伝子編集が生じなかった胚から区別できる。この場合、選択された胚は、胚を構成する細胞全体のゲノムに挿入される表面ツールボックスのすべてにおいて第2遺伝子編集が生じた細胞であり得る。
【1286】
図17は、表面ツールボックス(320)が挿入されたゲノムを有する細胞において第2遺伝子編集が生じた細胞を選択するための例示的な実施形態を示す。説明の便宜上、細胞が単離細胞であるという仮定に基づいて説明を提供する。
【1287】
図17の(a)は、表面ツールボックス(320)が挿入されたゲノムを有する細胞において第2遺伝子編集が生じなかった場合におけるゲノムおよび細胞(321)を示す。
【1288】
図17の(b)は、表面ツールボックス(320)が挿入されたゲノムを有する細胞において第2遺伝子編集が生じた場合におけるゲノムおよび細胞を示す。
【1289】
表面ツールボックス(320)が挿入されたゲノムを有する細胞のゲノムに挿入される表面ツールボックスにドナーポリヌクレオチド(232)がノックインされ、かつ、表面タンパク質遺伝子(325)が第1領域(325(a))および第2領域(325(b))に分割される場合、表面タンパク質(323)は、細胞(331)の表面上で発現されない。
【1290】
図17の(c)は、ドナーポリヌクレオチド(232)が表面ツールボックスにノックインされた細胞を選択するためにクロマトグラフィを使用するプロセスを示す。
【1291】
ドナーポリヌクレオチド(232)がノックインあれる細胞(331)、および、ドナーポリヌクレオチド(232)がノックインされていない細胞(321)が、抗体(324)が含まれないクロマトグラフィに流されるとき、ドナーポリヌクレオチド(232)がノックインされない細胞(331)は、クロマトグラフィカラムに結合できない。そのような特性を使用して、クロマトグラフィカラムに結合しない細胞(331)を取得することによって、第2遺伝子編集が生じた細胞を選択することが可能である(
図17の(c)を参照)。
【1292】
[3.自殺遺伝子を含むツールボックスを使用する形質転換細胞の選択]
[3‐1.自殺遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムの構造]
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、自殺遺伝子を含むツールボックス(以降、自殺ツールボックス)が提供され得る。
図18の(a)は、自殺ツールボックスの例示的な実施形態を示す。
【1293】
図18の(a)を参照すると、自殺ツールボックス(340)は、自殺遺伝子(347)、および、自殺遺伝子の発現を調節可能な発現調節因子(345)が、第1ITR配列(343)と第2ITR配列(349)との間に含まれる構造を有し得る。
【1294】
説明の便宜上、以降では、単一の自殺遺伝子が単一の自殺ツールボックスに含まれるという仮定に基づいて説明が提供される。追加的に、発現調節因子(345)がTet‐onプロモーターであり、自殺遺伝子(347)がチミジンキナーゼ遺伝子であるという仮定に基づいて説明を提供する。
【1295】
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、自殺ツールボックスが挿入されたゲノムを含む細胞が提供され得る。特に、細胞は、体細胞、配偶子または幹細胞であり得る。
【1296】
追加的に、本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、自殺ツールボックスが挿入されたゲノムを含む受精卵および/または胚が提供され得る。
【1297】
自殺ツールボックス(340)が挿入されたゲノムを有する細胞(341)、受精卵および/または胚がテトラサイクリンで処理されるとき、チミジンキナーゼは、細胞内発現機構に従って、細胞、受精卵および/または胚において発現され得る。
【1298】
チミジンキナーゼが発現される細胞、受精卵および/または胚にプロドラッグ(例えば、ガンシクロビル)が提供されるとき、細胞、受精卵および/または胚の一部でアポトーシスし得る。プロドラッグは、チミジンキナーゼと相互作用し得て、その結果、チミジンキナーゼが発現される細胞でアポトーシスし得る。
【1299】
すなわち、発現調節因子に影響する物質および/または条件、ならびにプロドラッグで処理することにより、自殺ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞はアポトーシスし得る。
【1300】
以降、そのような自殺ツールボックスを使用する第2遺伝子編集の後に、第2遺伝子編集が通常に生じた細胞、胚および/または受精卵を選択するための方法を説明する。
【1301】
[3‐2.自殺遺伝子を含むツールボックスを使用する形質転換細胞の選択]
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、自殺ツールボックスを使用する第2遺伝子編集の後に第2遺伝子編集が生じた形質転換細胞、受精卵および/または胚を選択するための方法が提供され得る。自殺ツールボックスを使用する第2遺伝子編集は、自殺ツールボックスに含まれる自殺遺伝子にドナーポリヌクレオチドをノックインすることを含み得る。上述のように、単一の自殺遺伝子が単一の自殺ツールボックスに含まれるという仮定に基づいて説明を提供する。
【1302】
第2遺伝子編集は、標的部位として自殺遺伝子の一部を有することにより、自殺ツールボックスが挿入されたゲノムを有する単一細胞において生じ得る。特に、標的部位として自殺遺伝子の一部を有することにより、遺伝子編集が生じた細胞にプロドラッグが提供されるときでも、細胞はアポトーシスされない。
【1303】
従って、テトラサイクリンおよびプロドラッグで細胞を処理した後のアポトーシスの有無に従って、第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する細胞を、第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを有する細胞から区別できる。
【1304】
すなわち、テトラサイクリンおよびプロドラッグで処理した後でも生存できる細胞は、第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する細胞であり得る。
【1305】
2以上の自殺ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞の場合でも、上述のように、アポトーシスの有無に従って、第2遺伝子編集が生じたゲノムを有する細胞は、第2遺伝子編集が生じなかったゲノムを有する細胞から区別できる。この場合、選択された細胞は、ゲノムに挿入された自殺ツールボックスのすべてにおいて第2遺伝子編集が生じた細胞であり得る。
【1306】
以降、
図18を参照して、自殺ツールボックスに含まれる自殺遺伝子にドナーポリヌクレオチドがノックインされた、または、ノックインされないときのアポトーシスの有無に関して、より具体的に説明を提供する。
【1307】
図18は、自殺ツールボックス(340)が挿入されたゲノムを有する細胞において第2遺伝子編集が生じた細胞の選択に関する例示的な実施形態を示す。説明の便宜上、細胞は単離細胞であると想定する。
【1308】
細胞のゲノムに挿入される自殺ツールボックス(340)にドナーポリヌクレオチド(232)がノックインされる場合、自殺遺伝子(347)は、第1領域(347(a))および第2領域(347(b))に分割され得る。特に、ドナーポリヌクレオチド(232)がノックインされた細胞(351)をテトラサイクリンで処理することによってTet‐onプロモーター(345)が機能するときでも、チミジンキナーゼは細胞において発現できない。この場合、細胞にプロドラッグが提供されるときでも、細胞(351)はアポトーシスされない(
図18の(b)を参照)。
【1309】
一方、細胞のゲノムに挿入されないドナーポリヌクレオチドが自殺ツールボックス(340)にノックインされない場合、細胞をテトラサイクリンで処理することによって、Tet‐onプロモーター(345)を機能させることができる。自殺遺伝子(347)の転写および/または翻訳は、Tet‐onプロモーター(345)の機能によって開始でき、それにより、チミジンキナーゼを発現できる。チミジンキナーゼが発現される細胞にプロドラッグが提供されると、細胞はアポトーシスされ得る。
【1310】
この場合、アポトーシスされない細胞(351)を取得することができ、この場合、第2遺伝子編集が生じた細胞を選択できる(
図18の(a)を参照)。
【1311】
遺伝子編集が生じた細胞を選択するための上記方法は、単離細胞だけでなく、非単離細胞、受精卵および/または胚にも適用できる。
【1312】
例えば、胚を構成する細胞全体のゲノムに挿入される自殺ツールボックスの数が「n」以上(nは2以上の自然数)であるとき、「n」個の自殺ツールボックスのすべてにおいて第2遺伝子編集が生じ得る。この場合、胚にテトラサイクリンが提供されるときでも、第2遺伝子編集が生じなかった上述の胚においてチミジンキナーゼは発現できない。特に、胚にプロドラッグを提供するときでも、胚を構成する細胞はアポトーシスされない。
【1313】
すなわち、胚を構成する細胞のアポトーシスの有無に従って、第2遺伝子編集が生じた胚を、第2遺伝子編集が生じなかった胚から区別できる。この場合、ゲノムに挿入された表面ツールボックスのすべてにおいて第2遺伝子編集が生じた胚を選択できる。
【1314】
[ツールボックスを使用する性別の選択]
[1.SRY遺伝子挿入および/またはSRY遺伝子ノックアウトによる性別の選択]
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態に従って性別を選択するための一方法は、SRY遺伝子をゲノムに挿入する段階、または、ゲノムからSRY遺伝子をノックアウトする段階を含み得る。
【1315】
以降、SRY遺伝子がゲノムに挿入される雄個体、および、当該雄個体を産生するための方法を説明する。追加的に、SRY遺伝子がゲノムからノックアウトされる雌個体、および、当該雌個体を産生するための方法を説明する。
【1316】
[1‐1.SRY遺伝子挿入による雄個体の産生]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に従って、SRY遺伝子が挿入されるXX染色体を有する雄の動物を提供できる。
【1317】
例えば、SRY遺伝子がエンドポリヌクレオチドに挿入されたゲノムを有する雄の動物を提供できる。
【1318】
別の例において、SRY遺伝子がエクソポリヌクレオチドに挿入されたゲノムを有する雄の動物を提供できる。エクソポリヌクレオチドは、ツールボックスに存在し得る、または、ツールボックスの外に存在し得る。SRY遺伝子は、様々な機構を介してゲノムに挿入され得る。
【1319】
例えば、SRY遺伝子は、ツールボックスのコンポーネントとしてゲノムに挿入できる。ツールボックスのコンポーネントとして、SRY遺伝子を細胞、受精卵(および/または胚)および/または組織のゲノムに挿入するための方法は、ツールボックスを挿入するための上記方法によって十分に説明できるので、ここでは、それについての具体的な説明を省略する。
【1320】
別の例において、SRY遺伝子は、ゲノムに挿入される、改変ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドから発現される改変ヌクレアーゼ複合体によって、ゲノムにノックインされ得る。
【1321】
改変ヌクレアーゼ複合体によってSRY遺伝子を細胞、受精卵(および/または胚)および/または組織のゲノムに挿入するための一方法は、SRY遺伝子を含むドナーポリヌクレオチドを細胞、受精卵(および/または胚)および/または組織に提供する段階を含む。
【1322】
更に別の例において、SRY遺伝子は、リコンビナーゼ認識部位(RRS)を使用してゲノムに挿入され得る。
【1323】
リコンビナーゼ認識部位(RRS)によって、SRY遺伝子を細胞、受精卵(および/または胚)および/または組織のゲノムに挿入するための一方法は、SRY遺伝子、リコンビナーゼ認識部位(RRS)、および、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)を細胞、受精卵(および/または胚)および/または組織に提供する段階を含む。この場合、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)はリコンビナーゼ認識部位(RRS)と相互作用できる。
【1324】
ツールボックス、トランスポザーゼ、ドナーポリヌクレオチド、リコンビナーゼ認識部位(RRS)、部位特異的リコンビナーゼ(SSR)などを細胞、受精卵(および/または胚)および/または組織に提供するための方法を上述したので、ここでは、それについての具体的な説明を省略する。
【1325】
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に従って、SRY遺伝子が挿入されるXX染色体を有する雄の動物を産生するための方法を提供できる。
【1326】
例えば、SRY遺伝子が挿入されるXX染色体を有する雄の動物を産生するための一方法は、SRY遺伝子が挿入されるX染色体を有する精子および野性型卵子を受精させる段階を含み得る。
【1327】
SRY遺伝子が挿入されるX染色体を有する精子は、SRY遺伝子が挿入されたゲノムを有する生殖器(または生殖組織)を有する動物から産生され得る。
【1328】
別の例において、SRY遺伝子が挿入されるXX染色体を有する雄の動物を産生するための一方法は、SRY遺伝子が挿入されるX染色体を有する卵子および野性型精子を受精させる段階を含み得る。
【1329】
SRY遺伝子が挿入されるX染色体を有する卵子は、SRY遺伝子が挿入されたゲノムを有する生殖器(または生殖組織)を有する動物から産生され得る。
【1330】
追加的に、別の例において、SRY遺伝子が挿入されるXX染色体を有する雄の動物を産生するための一方法は、SRY遺伝子が挿入されるXX染色体を有する受精卵および/または胚を代理母の子宮に移植する段階を含み得る。
【1331】
SRY遺伝子が挿入されるXX染色体を有する受精卵および/または胚は、上述の体細胞核移植(SCNT)またはマイクロインジェクション(MI)によって産生され得る。
【1332】
追加的に、別の例において、SRY遺伝子が、挿入されるXX染色体を有する雄の動物を産生うるための一方法は、上述のSRYツールボックス、トランスポザーゼ、ドナーポリヌクレオチド、リコンビナーゼ認識部位(RRS)および/または部位特異的リコンビナーゼ(SSR)などを動物の生殖器または生殖組織に注入する段階を含み得る。
【1333】
精子は、上記方法によって産生されたXX染色体を有する雄の動物から取得され得る。
【1334】
[1‐2.SRY遺伝子のノックアウトによる雌個体の産生]
[1‐2‐1.SRY遺伝子のノックアウトによる雌個体の産生]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、SRY遺伝子がノックアウトされるXY染色体を有する雌動物を提供できる。
【1335】
以降、SRY遺伝子ノックアウトのためのツールボックス、および、SRY遺伝子がノックアウトされるゲノムを有する動物を産生するための方法を説明する。
【1336】
[1‐2‐1‐1.SRY遺伝子ノックアウトのためのツールボックス]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、Y染色体に存在するSRY遺伝子のノックアウトのためのツールボックス(以降、SRYノックアウトツールボックス)が提供され得る。
【1337】
SRYノックアウトツールボックスは、改変ヌクレアーゼコンポーネントをコードするポリヌクレオチドが第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。SRYノックアウトツールボックスは更に、発現調節因子を含み得る。
【1338】
例えば、SRYノックアウトツールボックスは、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。この場合、ガイド核酸の配列の一部は、SRY遺伝子の配列の一部と同一、または、相補的である。
【1339】
別の例において、SRYノックアウトツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。追加的に、SRYノックアウトツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および/または、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳を調節する発現調節因子が更に含まれる構成を有し得る。この場合、ガイド核酸の配列の一部は、SRY遺伝子の配列の一部と同一、または、相補的である。
【1340】
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、SRYノックアウトツールボックスが挿入されたゲノムを含む細胞が提供され得る。細胞は体細胞、配偶子または幹細胞であり得る。
【1341】
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、SRYノックアウトツールボックスが挿入されたゲノムを含む受精卵および/または胚が提供され得る。
【1342】
図19の(a)は、SRYノックアウトツールボックス(360)が挿入されたゲノムの例示的な実施形態を示す。
【1343】
SRYノックアウトツールボックス(360)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(363)、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(365)が第1ITR配列(361)と第2ITR配列(367)との間に含まれる構成を有し得る。ガイド核酸の配列の一部は、SRY遺伝子の配列の一部と同一、または、相補的であり得る。
【1344】
SRYノックアウトツールボックス(360)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(363)の転写および/または翻訳を調節するために、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド(362)を含み得る。説明の便宜上、誘導性プロモーターはTet‐onプロモーターであると想定する。
【1345】
追加的に、SRYノックアウトツールボックス(360)は、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(365)の転写のために、プロモーターをコードするポリヌクレオチド(364)を含み得る。
【1346】
以降、SRYノックアウトツールボックスが挿入されたゲノムにおけるSRY遺伝子ノックアウトのための方法、および、SRY遺伝子がノックアウトされるゲノムを有する雌動物を産生するための方法を説明する。
【1347】
[1‐2‐1‐2.ツールボックスを使用するSRY遺伝子ノックアウト、および、SRY遺伝子がノックアウトされるゲノムを有する雌個体を産生するための方法]
【1348】
以降、細胞のゲノムにおけるSRY遺伝子をノックアウトするためのいくつかの方法を提供する。説明の便宜上、細胞は単離細胞であると想定する。ゲノムまたは細胞に挿入されるSRYツールボックスの構造に従って、SRY遺伝子のノックアウトのための様々な方法が提供され得る。
【1349】
例えば、SRY遺伝子に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むSRYノックアウトツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞におけるSRY遺伝子のノックアウトのための一方法は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼを細胞に提供する段階を含み得る。
【1350】
別の例において、発現調節因子をコードするポリヌクレオチド、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、SRY遺伝子に特異的に結合できるガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むSRYノックアウトツールボックスが挿入されたゲノムを有る細胞におけるSRY遺伝子のノックアウトのための一方法は、発現調節因子に影響する条件および/または物質を細胞に提供する段階を含み得る。
【1351】
RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、および/または、発現調節因子に影響する物質を細胞に提供するための方法を上述したので、ここでは、それについての具体的な説明を省略する。
【1352】
図19を参照して、SRY遺伝子がノックアウトされる機構を具体的に説明する。
【1353】
図19の(b)は、SRYノックアウトツールボックス(360)が挿入されたゲノムにおいてSRY遺伝子(400)がノックアウトされるゲノムの形態を示す。
【1354】
SRYノックアウトツールボックス(360)が含まれるゲノムを有する細胞において、ガイド核酸は、プロモーターをコードするポリヌクレオチド(364)によって細胞において発現され得て、発現されるガイド核酸は、細胞のゲノムに存在する内在性遺伝子であるSRY遺伝子(400)に相補的に結合できる。
【1355】
SRYノックアウトツールボックス(360)が挿入されたゲノムを有する細胞にテトラサイクリンが提供される場合、Tet‐onプロモーター(362)が機能でき、この場合、細胞においてRNA誘導性エンドヌクレアーゼが発現できる。RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸との複合体を形成しながら、SRY遺伝子(400)を切断できる。
【1356】
すなわち、雄ゲノムにおいてSRY遺伝子(400)をノックアウトできる。この場合、SRY遺伝子(400)は第1領域(400(a))および第2領域(400(b))に分割され得る。
【1357】
本開示において、SRY遺伝子がノックアウトされるゲノムを有する雌動物を産生するための方法が提供される。
【1358】
例えば、SRY遺伝子がノックアウトされるゲノムを有する雌動物を産生するための一方法は、SRY遺伝子がノックアウトされたY染色体を有する精子と卵子とを受精させる段階を含み得る。
【1359】
SRY遺伝子がノックアウトされるY染色体を有する精子は、SRY遺伝子が挿入されたゲノムを有する生殖器(または生殖組織)を有する動物から産生され得る。追加的に、卵子は野性型卵子であり得る。
【1360】
別の例において、SRY遺伝子がノックアウトされるゲノムを有する雌動物を産生するための一方法は、SRY遺伝子がノックアウトされたXY染色体を有する受精卵および/または胚を代理母の子宮に移植する段階を含み得る。
【1361】
SRY遺伝子がノックアウトされるXY染色体を有する受精卵および/または胚は、上述の体細胞核移植(SCNT)またはマイクロインジェクション(MI)によって産生され得る。
【1362】
更に別の例において、SRY遺伝子がノックアウトされたゲノムを有する雌動物を産生するための一方法は、上述の発現調節因子およびRNA誘導性エンドヌクレアーゼを動物の生殖器または生殖組織に注入する段階を含み得る。
【1363】
母乳または卵子は、上記方法によって産生されるXY染色体を有する雌動物から取得できる。
【1364】
[1‐2‐2.運動性損傷遺伝子のノックインによる雌個体の産生]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、Y染色体を有する精子の運動性は、運動性損傷遺伝子のノックインを介して損傷され得て、この場合、XX染色体を有する雌動物を比較的高い確率で提供できる。
【1365】
以降、運動性損傷遺伝子のノックインのためのツールボックス、および、運動性損傷遺伝子がノックインされたゲノムを有する精子を産生するための方法を説明する。
【1366】
[1‐2‐2‐1.運動性損傷遺伝子のノックインのためのツールボックス]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、運動性損傷遺伝子のノックインに使用できるツールボックス(以降、「Y染色体標的ツールボックス」)を、Y染色体だけに存在し得るポリヌクレオチドに提供できる。
【1367】
例えば、ツールボックスは、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。この場合、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、Y染色体だけに存在し得るポリヌクレオチドの一部と同一または相補的である配列を有する。
【1368】
別の例において、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドが第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。追加的に、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および/または、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドの転写および/または翻訳を調節する発現調節因子が更に含まれる構成を有し得る。この場合、ガイド核酸の配列の一部は、Y染色体だけに存在できるポリヌクレオチドの配列の一部と同一または相補的であり得る。
【1369】
上述の例示的な実施形態において開示されるY染色体だけに存在できるポリヌクレオチドはSRY遺伝子であり得る。
【1370】
運動性損傷遺伝子のノックインに使用できるツールボックスは、上述のSRYノックアウトツールボックスであり得る。
【1371】
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、「Y染色体標的ツールボックス」が挿入されたゲノムを含む細胞が提供され得る。細胞は体細胞、配偶子または幹細胞であり得る。
【1372】
追加的に、本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、Y染色体標的ツールボックスが挿入されたゲノムを含む受精卵および/または胚が提供され得る。
【1373】
[1‐2‐2‐2.ツールボックスを使用する運動性損傷遺伝子のノックイン、および、運動性損傷遺伝子がノックインされた精子を産生する方法]
【1374】
以降、細胞のゲノムに対する運動性損傷遺伝子のノックインのいくつかの方法を提供する。説明の便宜上、細胞は単離細胞であると想定する。運動性損傷遺伝子のノックインのための様々な方法が、細胞のゲノムに挿入される「Y染色体標的ツールボックス」の構造に従って提供され得る。
【1375】
例えば、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含む「Y染色体標的ツールボックス」が挿入されたゲノムを有する細胞のゲノムに運動性損傷遺伝子をノックインするための一方法は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよび運動性損傷遺伝子を細胞に提供する段階を含み得る。
【1376】
別の例において、発現調節因子をコードするポリヌクレオチド、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含む「Y染色体標的ツールボックス」が挿入されたゲノムを有する細胞のゲノムに運動性損傷遺伝子をノックインするための一方法は、発現調節因子に影響する条件および/または物質、ならびに、運動性損傷遺伝子を細胞に提供する段階を含み得る。
【1377】
運動性損傷遺伝子を細胞に提供することは、運動性損傷遺伝子を含むプラスミドベクターを細胞に導入する段階を含み得る。
【1378】
発現調節因子に影響する物質、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、および/または、運動性損傷遺伝子が細胞に提供される場合、細胞において発現されるガイド核酸は、細胞のゲノムに存在するY染色体だけに存在し得るポリヌクレオチドに相補的に結合できる。追加的に、細胞の発現系によって注入または発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、ガイド核酸と複合体を形成しながら、Y染色体だけに存在し得るポリヌクレオチドを切断できる。この場合、運動性損傷遺伝子は、Y染色体だけに存在し得るポリヌクレオチドにノックインされ得る。
【1379】
本開示において、運動性損傷遺伝子がSRY遺伝子にノックインされたY染色体を有する精子を産生するための方法を提供する。
【1380】
例えば、運動性損傷遺伝子がノックインされるY染色体を有する精子を産生するための一方法は、発現調節因子に影響する物質、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、および/または、運動性損傷遺伝子を動物の生殖器または生殖組織に注入する段階を含み得る。
【1381】
運動性損傷遺伝子がノックインされたY染色体を有する雄の動物の生殖器または生殖組織において、運動性損傷遺伝子がノックインされたY染色体を有する精子を産生できる。
【1382】
別の例において、運動性損傷遺伝子がノックインされるY染色体を有する精子を産生するための一方法は、発現調節因子に影響する物質、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、および/または、上述の運動性損傷遺伝子を精子に直接提供する段階を含み得る。
【1383】
上記方法によって取得される、運動性損傷遺伝子がノックインされたY染色体を有する精子は、運動性が低減し得て、その結果、これらの精子は、X染色体を有する精子と比較して、卵子と受精することが比較的困難であり得る。
【1384】
この場合、XX染色体を有する受精卵および/または胚を産生する確率は、XY染色体を有する受精卵および/または胚を産生する確率より高く、その結果、XX染色体を有する雌個体を産生できる。
【1385】
[2.X染色体およびY染色体への蛍光タンパク質遺伝子のノックインによる性別の選択]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態に従って性別を選択するための一方法は、個体のX染色体およびY染色体にそれぞれ特異的に存在する遺伝子に隣接する部位への、異なる種類の蛍光タンパク質遺伝子の各々のノックインを実行することを含み得る。
【1386】
以降、X染色体およびY染色体にそれぞれ特異的に存在する遺伝子に隣接する部位への蛍光タンパク質遺伝子のノックインに使用されるツールボックスの構造、ならびに、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞におけるツールボックスの動作機構を説明する。
【1387】
[2‐1.X染色体およびY染色体への蛍光タンパク質遺伝子のノックインのためのツールボックス]
本開示において提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、動物のX染色体に特異的に存在する遺伝子に隣接する第1標的部位、および、Y染色体に特異的に存在する遺伝子に隣接する第2標的部位における異なる蛍光タンパク質遺伝子の各々のノックインのためのツールボックス(以降、XY染色体分類ツールボックス)が提供される。
【1388】
説明の便宜上、以降では、X染色体に特異的に存在する遺伝子はDAX遺伝子であると想定し、Y染色体に特異的に存在する遺伝子は、SRY遺伝子であると想定する。
【1389】
例えば、XY染色体分類ツールボックスにおいて、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドは、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得る。第1ガイド核酸は、第1標的部位の配列の一部と同一または相補的である配列を含み、第2ガイド核酸は、第2標的部位の配列の一部と同一または相補的である配列を含む。
【1390】
第1標的部位は、DAX遺伝子に隣接するポリヌクレオチドであり、第2標的部位は、SRY遺伝子に隣接するポリヌクレオチドである。
【1391】
別の例において、XY染色体分類ツールボックスにおいて、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドは、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれ得る。この場合、ツールボックスは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節する発現調節因子を含み得る。
【1392】
第1ガイド核酸は、第1標的部位の配列の一部と同一または相補的である配列を含み、第2ガイド核酸は、第2標的部位の配列の一部と同一または相補的である配列を含む。
【1393】
本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、「XY染色体分類ツールボックス」が挿入されたゲノムを含む細胞が提供され得る。細胞は体細胞、配偶子または幹細胞であり得る。
【1394】
追加的に、本開示によって提供されるいくつかの例示的な実施形態によれば、XY染色体分類ツールボックスが挿入されたゲノムを含む受精卵および/または胚を提供できる。
【1395】
図20の(a)は、XY染色体分類ツールボックスが動物のゲノムに挿入される形態を示す。
【1396】
図20の(b)は、XY染色体分類ツールボックスが挿入されたゲノムに存在する内在性遺伝子であるDAX遺伝子(421)およびSRY遺伝子(431)、ならびに、DAX遺伝子に隣接する標的部位(420)、および、SRY遺伝子に隣接する標的部位(430)を示す。
【1397】
XY染色体分類ツールボックス(370)は、第1ITR配列(371)と第2ITR配列(379)との間に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(373)、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(375)、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(377)を含み得る。
【1398】
ツールボックス(370)は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節する誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド(372)を含む。説明の便宜上、誘導性プロモーターはTet‐onプロモーターであると想定する。追加的に、ツールボックス(370)は、第1ガイド核酸の発現を調節するプロモーター(374)、および、第2ガイド核酸の発現を調節するプロモーター(376)を更に含み得る。
【1399】
第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(375)は、DAX遺伝子(421)に隣接する第1標的部位の配列の一部(420)と同一または相補的な配列を含み、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド(377)は、SRY遺伝子(431)い隣接する第2標的部位(430)の配列の部分と同一または相補的な配列を含む。
【1400】
以降、DAX遺伝子に隣接する第1標的部位に第1蛍光タンパク質遺伝子をノックインし、XY染色体分類ツールボックスが挿入されたゲノムにおけるSRY遺伝子に隣接する第2標的部位に第2蛍光タンパク質遺伝子をノックインするための方法と、各個体の性別を選択するための方法を説明する。
【1401】
[2‐2.X染色体およびY染色体における蛍光タンパク質遺伝子のノックインのための方法、ならびに、性別を選択するための方法]
【1402】
第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞における蛍光タンパク質遺伝子のノックインのための一方法は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、第1蛍光タンパク質遺伝子、および、第2蛍光タンパク質遺伝子を細胞に提供する段階を含み得る。
【1403】
発現調節因子をコードするポリヌクレオチド、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、第1ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド、および、第2ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞に蛍光タンパク質遺伝子をノックインする一方法は、発現調節因子に影響する物質および/または条件、第1蛍光タンパク質遺伝子、ならびに、第2蛍光タンパク質遺伝子を細胞に提供する段階を含み得る。
【1404】
この場合、第1蛍光タンパク質遺伝子の5'末端および3'末端は、第1標的部位の配列の一部と同一の配列を含み得て、第2蛍光タンパク質遺伝子の5'末端および3'末端は、第2標的部位の配列の部分と同一である配列を含み得る。
【1405】
第1蛍光タンパク質遺伝子および第2蛍光タンパク質遺伝子を細胞に導入することは、第1蛍光タンパク質遺伝子および第2蛍光タンパク質遺伝子を含む非ウイルスベクター(例えばプラスミドベクター)またはウイルスベクターを細胞に導入することを含み得る。
【1406】
以降、
図20を参照して、細胞のゲノムに存在する第1標的部位に第1蛍光タンパク質遺伝子をノックインするための機構、および、細胞のゲノムに存在する第2標的部位に第2蛍光タンパク質遺伝子をノックインするための機構をより具体的に説明する。
【1407】
図20の(c)は、第1標的部位(420)に第1蛍光タンパク質遺伝子(423)がノックインされ、第2標的部位(430)に第2蛍光タンパク質遺伝子(433)がノックインされるゲノムの形態、および、ノックインによって発現される蛍光のプロセスを示す。
【1408】
第1ガイド核酸は、XY染色体分類ツールボックス(370)に含まれるプロモーターをコードするポリヌクレオチド(374)によって、XY染色体分類ツールボックス(370)が挿入されたゲノムを有する細胞において発現できる。この場合、第1ガイド核酸は、第1標的部位(420)に特異的に結合できる。追加的に、テトラサイクリンの処理に起因するTet‐onプロモーターの機能によって発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、第1標的部位(420)を切断でき、第1蛍光タンパク質遺伝子(423)を第1標的部位(420)にノックインできる。特に、第1標的部位(420)は、第1領域(420(a))および第2領域(420(b))に分割できる。
【1409】
追加的に、第2ガイド核酸は、XY染色体分類ツールボックス(370)に含まれるプロモーター(376)をコードするポリヌクレオチドによって細胞において発現でき、第2ガイド核酸は、第2標的部位(430)に相補的に結合できる。追加的に、テトラサイクリンの処理に起因するTet‐onプロモーターの機能によって発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼは、第2標的部位(430)を切断でき、第2蛍光タンパク質遺伝子(433)を第2標的部位(430)にノックインできる。特に、第2標的部位(430)は、第1領域(430(a))および第2領域(430(b))に分割できる。
【1410】
以降、上述のように、第1蛍光タンパク質遺伝子および第2蛍光タンパク質遺伝子のノックインを介して胚および/または個々の性別を選択するための方法を説明する。
【1411】
例えば、第1蛍光タンパク質遺伝子および第2蛍光タンパク質遺伝子をノックインすることによって性別を選択するための一方法は、発現調節因子を影響する物質および/または条件、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、第1蛍光タンパク質遺伝子、および/または、第2蛍光タンパク質遺伝子を、上述のツールボックスがノックインされたゲノムを有する雄の生殖組織および/または生殖器に注入する段階を含み得る(
図20を参照)。
【1412】
第1蛍光タンパク質遺伝子(423)および/または第2蛍光タンパク質遺伝子(433)が雄の生殖組織および/または生殖器にノックインされる場合、第1蛍光タンパク質遺伝子(423)がノックインされるX染色体を有する第1精子(520)、および、第2蛍光タンパク質遺伝子(433)がノックインされるY染色体を有する第2精子(530)を雄から産生できる。
【1413】
第1精子(520)および野性型卵子(500)が受精される場合、第1蛍光タンパク質遺伝子がノックインされたゲノムを有する第1胚(521)を産生できる。第1胚(521)において、第1蛍光タンパク質を発現できる。この場合、第1蛍光(523)は、第1蛍光タンパク質の発現によって、第1胚から発生でき、蛍光シグナルは、蛍光の発生に従って、細胞の外に提供され得る。
【1414】
第2精子(530)および野性型卵子(500)が受精される場合、第2蛍光タンパク質遺伝子がノックインされたゲノムを有する第2胚(531)を産生できる。第2胚(531)において、第2蛍光タンパク質を発現できる。この場合、第2蛍光(533)は、第2蛍光タンパク質の発現によって、第2胚から発生でき、蛍光シグナルは、蛍光の発生に従って、細胞の外に提供され得る。
【1415】
互いに異なる蛍光シグナルを、第1蛍光タンパク質遺伝子がノックインされたゲノムを有する第1胚から、および、第2蛍光タンパク質遺伝子がノックインされたゲノムを有する第2胚から提供でき、その結果、XX染色体を有する胚(521)、および、XY染色体を有する胚(531)を互いに区別できる。
【1416】
別の例において、第1蛍光タンパク質遺伝子および第2蛍光タンパク質遺伝子のノックインによって性別を選択するための一方法は、上述のツールボックスがノックインされたゲノムを有する配偶子の受精のときに、発現調節因子に影響する物質および/または条件、RNA誘導性エンドヌクレアーゼ、第1蛍光タンパク質遺伝子および/または第2蛍光タンパク質遺伝子を受精卵にマイクロインジェクション(MI)する段階を含み得る。
【1417】
この場合、第1蛍光タンパク質遺伝子(423)または第2蛍光タンパク質遺伝子(433)がノックインされる胚を産生できる。
【1418】
上述のように、相互に異なる蛍光タンパク質を、第1蛍光タンパク質遺伝子がノックインされるゲノムを有する胚、および、第2蛍光タンパク質遺伝子がノックインされるゲノムを有する胚において発現させることができる。この場合、蛍光シグナルを使用して、XY染色体を有する胚からXX染色体を有する胚を区別できる。
【1419】
上記の方法によって選択される胚が代理母の子宮に移植されるとき、所望の性別の個体を産生できる。
【1420】
上記方法の使用は、蛍光タンパク質を比較的早い段階で胚において発現できるので、より迅速に選択すること、および、より迅速に選択された胚を代理母の子宮により安全に移植することを可能にするという利点を有する。
【1421】
[ツールボックス切除系]
[1.ツールボックス切除系の構造]
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、切除ツールボックスを提供できる。切除ツールボックスは、「ツールボックス切除のためのコンポーネント」を含む。「ツールボックス切除のためのコンポーネント」とは、ツールボックスが挿入されたゲノムからツールボックスを切除することを可能にする因子の発現を可能にするポリヌクレオチドを含む構造を指す。
【1422】
切除ツールボックスは、改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチドを含み得る。説明の便宜上、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが切除ツールボックスに含まれることを想定する。
【1423】
以降、切除ツールボックスの構造の様々な種類、切除ツールボックスの調製の方法、および、特定の条件下でゲノムから様々な種類の切除ツールボックスが切除される機構をより具体的に開示する。
【1424】
[1‐1.特定の条件においてトランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドの発現を可能にする構造を有するツールボックスが挿入されたゲノムの構造]
【1425】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、トランスポザーゼの発現が誘導性プロモーターおよび/または組織特異的プロモーターによって調節される切除ツールボックスを提供できる。切除ツールボックスは、部位特異的組み換えを介して挿入または切除することによって調製され得る。
【1426】
以降、部位特異的組み換えを介して挿入することによって切除ツールボックスが産生されるとき、切除ツールボックスの構造および産生の方法を説明する。
【1427】
例えば、切除ツールボックスは、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド、および、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1428】
別の例において、切除ツールボックスは、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド、および、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1429】
更に別の例において、切除ツールボックスは、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド、第1トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド、第2トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1430】
図21は、トランスポザーゼの発現を誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターによって調節できる切除ツールボックスの実施形態を示す。
【1431】
切除ツールボックス(700(b))は、ツールボックス切除のためのコンポーネント(700(c))が第1ITR配列(701)と第2ITR配列(705)との間に含まれる構成を有し得る。追加的に、切除ツールボックス(700(b))は、1または複数のリコンビナーゼ認識部位を更に含み得る。
【1432】
ツールボックス切除のためのコンポーネント(700(c))は、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド(707)、第1トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(704)、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド(709)、および、第2トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(706)を含み得る。この場合、第1トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(704)および第2トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(706)は同一の配列を有し得る。第1トランスポザーゼおよび第2トランスポザーゼは、第1ITR配列(701)および第2ITR配列(705)と相互作用できる。以降、切除ツールボックス(700(b))を調製するための方法を説明する。
【1433】
切除ツールボックス(700(b))を調製するための一方法は、ツールボックス(700(a))が挿入されたゲノムを有する細胞に、リコンビナーゼ、および、ツールボックス切除のコンポーネント(700(c))を提供する段階を含み得る。
【1434】
リコンビナーゼは、ツールボックス(700(a))に含まれるリコンビナーゼ認識部位(RRS)(703)、および、ツールボックス切除のためのコンポーネント(700(c))に含まれるリコンビナーゼ認識部位(702)と相互作用できる。
【1435】
リコンビナーゼを提供するための方法は上述したので、ここでは具体的な詳細を省略する。
【1436】
ツールボックス切除のためのコンポーネント(700(c))を細胞に提供するための様々な方法があり得る。例えば、ツールボックス切除のコンポーネントは、ツールボックス切除のコンポーネントを含むプラスミドベクターを細胞に導入することによって、細胞に提供できる。
【1437】
上述のように、細胞に提供されるリコンビナーゼは、ツールボックス(700(a))に含まれるリコンビナーゼ認識部位(RRS)(703)、および、ツールボックス切除のためのコンポーネントに含まれるリコンビナーゼ認識部位(702)と相互作用できる。ツールボックス切除のためのコンポーネントは、ツールボックス(700(a))のリコンビナーゼ認識部位(RRS)(703)の位置に挿入され得る。上記に基づいて、特定の条件下でトランスポザーゼの発現を可能にする切除ツールボックス(700(b))を調製できる。
【1438】
以降、部位特異的組み換えを介して終止コドンの切除によって産生される切除ツールボックスの構造、および、それを産生するための方法を説明する。
【1439】
例えば、切除ツールボックスは、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド、リコンビナーゼ認識部位、および、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1440】
別の例において、切除ツールボックスは、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド、リコンビナーゼ認識部位、および、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1441】
更に別の例において、切除ツールボックスは、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド、リコンビナーゼ認識部位、第1トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド、リコンビナーゼ認識部位、第2トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1442】
図22は、トランスポザーゼの発現を誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターによって調節できる切除ツールボックスの別の実施形態を示す。
【1443】
切除ツールボックス(800(b))は、ツールボックス切除のためのコンポーネントが第1ITR配列(801)と第2ITR配列(808)との間に含まれる構成を有し得る。
【1444】
ツールボックス切除のためのコンポーネントは、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド(802)、第1リコンビナーゼ認識部位(803(b))、第1トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(804)、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド(805)、第2リコンビナーゼ認識部位(806(b))、第2トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(807)を含み得る。第1トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(804)および第2トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(807)は同一の配列であり得る。第1トランスポザーゼおよび第2トランスポザーゼは、第1ITR配列(801)および第2ITR配列(808)と相互作用できる。
【1445】
追加的に、第1リコンビナーゼ認識部位(803(b))および第2リコンビナーゼ認識部位(806(b))は同一の配列であり得る。以降、切除ツールボックス(800(b))を調製するための方法を説明する。
【1446】
切除ツールボックス(800(b))を調製するための一方法は、ツールボックス(800(a))が挿入されたゲノムを有する細胞にリコンビナーゼを提供する段階を含み得る。
【1447】
細胞に提供されるリコンビナーゼは、ツールボックス(800(a))に含まれる第1RSR(803(a))および第2RSR(806(a))を構成するリコンビナーゼ認識部位(RRS)と相互作用できる。第1RSR(803(a))および第2RSR(806(a))は同一の配列であり得る。
【1448】
上述のように、細胞に提供されるリコンビナーゼが、第1RSR(803(a))および第2RSR(806(a))を構成するリコンビナーゼ認識部位(RRS)と相互作用するとき、終止コドンは欠失され得る。
【1449】
上記に基づいて、特定の条件下でトランスポザーゼを発現させることができる切除ツールボックス800(b)を産生できる。
【1450】
[1‐2.特定の条件においてリコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドの発現を可能にする構造を有するツールボックスが挿入されたゲノムの構造]
【1451】
本開示のいくつかの例示的な実施形態によれば、リコンビナーゼの発現が誘導性プロモーターおよび/または組織特異的プロモーターによって調節される切除ツールボックスを提供できる。
【1452】
例えば、切除ツールボックスは、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド、構成プロモーターをコードするポリヌクレオチド、RSRをコードするポリヌクレオチド、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1453】
別の例において、切除ツールボックスは、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド、構成プロモーターをコードするポリヌクレオチド、RSRをコードするポリヌクレオチド、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1454】
更に別の例において、切除ツールボックスは、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド、構成プロモーターをコードするポリヌクレオチド、RSRをコードするポリヌクレオチド、第1トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド、リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド、構成プロモーターをコードするポリヌクレオチド、RSRをコードするポリヌクレオチド、および、第2トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドが、5'から3'末端方向に、第1ITR配列と第2ITR配列との間に含まれる構成を有し得る。
【1455】
図23は、リコンビナーゼの発現を誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターによって調節できる切除ツールボックスの実施形態を示す。
【1456】
切除ツールボックス(900(b))は、ツールボックス切除のためのコンポーネントが第1ITR配列(901)と第2ITR配列(906)との間に含まれる構成を有し得る。
【1457】
ツールボックス切除のコンポーネントは、誘導性プロモーターをコードするポリヌクレオチド(908)、第1リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド(909)、組織特異的プロモーターをコードするポリヌクレオチド(910)、第2リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド(911)、プロモーターをコードするポリヌクレオチド(903)、RSRをコードするポリヌクレオチド(904)、および、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(905)を含み得る。追加的に、ツールボックス切除のためのコンポーネントは、1または複数のリコンビナーゼ認識部位(RRS)を更に含み得る。
【1458】
第1リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド(909)および第2リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド(911)は同一の配列を有する。第1リコンビナーゼおよび第2リコンビナーゼは、RSRをコードするポリヌクレオチド(904)を構成するリコンビナーゼ認識部位(RRS)と相互作用できる。以降、切除ツールボックス900(b)を調製するための方法を説明する。
【1459】
切除ツールボックス(900(b))を調製するための一方法は、ツールボックス(900(a))が挿入されたゲノムを有する細胞に、第3リコンビナーゼ、および、ツールボックス切除のコンポーネント(900(c))を提供する段階を含み得る。
【1460】
第3リコンビナーゼ、および、ツールボックス切除のためのコンポーネント(900(c))を細胞に提供するための方法は上述したので、ここでは詳細な説明を省略する。
【1461】
細胞に提供される第3リコンビナーゼは、細胞に提供される、ツールボックス(900(a))に含まれるリコンビナーゼ認識部位(RRS)(902)、および、ツールボックス切除のためのコンポーネント(900(c))に含まれるリコンビナーゼ認識部位(RRS)(907)と相互作用できる。
【1462】
上の相互作用によって、ツールボックス切除のためのコンポーネント(900(c))を、ツールボックス(900(a))のリコンビナーゼ認識部位(RRS)(902)の位置に挿入できる。上記に基づいて、特定の条件下でトランスポザーゼを発現させることができる切除ツールボックス900(b)を調製できる。
【1463】
[2.切除ツールボックスを使用する切除機構]
以降、本開示によって提供される切除ツールボックスが特定の条件下で切除される機構を説明する。
【1464】
追加的に、ゲノムにノックインされたドナーポリヌクレオチドが、本開示によって提供される切除ツールボックスから発現される物質によってゲノムから切除される機構を説明する。
【1465】
[2‐1.切除ツールボックスの切除機構]
[2‐1‐1.トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチドを特定の条件下で発現できる構成を有する切除ツールボックスの切除機構]
【1466】
本開示は、トランスポザーゼの発現が上述の誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターによって調節される切除ツールボックスの切除機構についての説明を提供する。
【1467】
説明の便宜上、誘導性プロモーターは、細胞複製段階において生じ得る低温条件において機能できるプロモーターであると想定し、組織特異的プロモーターは、生殖組織において活性化させることができるプロモーターであると想定する。生殖組織は、精巣または卵巣であり得る。
【1468】
以降、
図21を参照して、細胞複製段階において切除ツールボックス(700(b))が細胞のゲノムから切除される機構を説明する。説明の便宜上、細胞は単離細胞であると想定する。
【1469】
細胞複製段階において、低温条件は、上述の切除ツールボックス(700(b))が挿入されたゲノムを有する細胞に適用され得る。低温条件において、誘導性プロモーター(707)を機能させることができ、誘導性プロモーター(707)の機能によって細胞において第1トランスポザーゼを発現させることができる。
【1470】
第1トランスポザーゼが細胞において発現するとき、第1トランスポザーゼは、細胞のゲノムに存在する第1ITR配列(701)および第2ITR配列(705)と相互作用できる。この場合、切除ツールボックス(700(b))を細胞のゲノムから切除できる。
【1471】
従って、切除ツールボックス(700(b))が挿入されたゲノムを有する細胞が複製される段階において、切除ツールボックス(700(b))を細胞のゲノムから切除できる。この場合、切除ツールボックス(700(b))が挿入されたゲノムを有する複製された細胞を産生できない。
【1472】
次に、切除ツールボックス(700(b))が生殖組織においてゲノムから切除される機構を説明する。
【1473】
切除ツールボックス(700(b))が挿入されたゲノムを有する上述の生殖組織において、組織特異的プロモーター(709)は機能でき、第2トランスポザーゼは、組織特異的プロモーター(709)の機能によって生殖組織において発現させることができる。
【1474】
第2トランスポザーゼが生殖組織において発現されるとき、第2トランスポザーゼは、組織のゲノムに存在する第1ITR配列(701)および第2ITR配列(705)と相互作用できる。この場合、切除ツールボックス(700(b))を生殖組織のゲノムから切除できる。
【1475】
すなわち、切除ツールボックス(700(b))を生殖組織のゲノムから切除できる。従って、切除ツールボックス(700(b))が挿入されたゲノムを有する配偶子は、切除ツールボックス(700(b))が挿入されたゲノムを有する細胞および/または動物から産生できない。
【1476】
本開示において提供される切除ツールボックス(800(b))の切除機構は、上述のツールボックス(700(b))と実質的に同一であるので、詳細な説明は省略する。
【1477】
[2‐1‐2.リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチドを特定の条件下で発現できる構造を有する切除ツールボックスの切除機構]
【1478】
本開示は、リコンビナーゼの発現が上述の誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターによって調節される切除ツールボックスの切除機構についての説明を提供する。説明の便宜上、以降、誘導性プロモーターは、細胞複製段階において生じ得る低温条件において機能できるプロモーターであると想定し、組織特異的プロモーターは、生殖組織において機能させることができるプロモーターであると想定する。
【1479】
以降、切除ツールボックス(900(b))が細胞複製段階においてゲノムから切除される機構を説明する。
【1480】
細胞複製段階において、低温条件は、上述の切除ツールボックス(900(b))が挿入されたゲノムを有する細胞に適用され得る。低温条件において、誘導性プロモーター(908)を機能させることができ、誘導性プロモーター(908)の機能によって細胞において第1リコンビナーゼを発現させることができる。
【1481】
細胞において発現される第1リコンビナーゼは、切除ツールボックス(900(b))に存在するRSRをコードするポリヌクレオチド(904)を構成するリコンビナーゼ認識部位(RRS)と相互作用できる。この場合、RSRをコードするポリヌクレオチド(904)から終止コドンを切除でき、トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド(905)の転写および/または翻訳が生じ得る。すなわち、終止コドンの切除によって、トランスポザーゼを細胞において発現させることができる。
【1482】
発現されたトランスポザーゼは、細胞のゲノムに存在する第1ITR配列(901)および第2ITR配列(906)と相互作用できる。この場合、切除ツールボックス(900(b))は、細胞のゲノムから切除できる。
【1483】
従って、切除ツールボックス(900(b))が挿入されたゲノムを有する細胞を使用して細胞複製が試みられるとき、切除ツールボックス(900(b))を細胞のゲノムから切除できる。この場合、切除ツールボックス(900(b))が挿入されたゲノムを有する、複製された細胞を産生できない。
【1484】
次に、切除ツールボックス(900(b))が生殖組織においてゲノムから切除される機構を説明する。
【1485】
切除ツールボックス(900(b))が挿入されたゲノムを有する上述の生殖組織において、組織特異的プロモーター(910)を機能させることができ、第2リコンビナーゼを組織特異的プロモーター(910)の機能によって組織において発現させることができる。
【1486】
生殖組織において発現される第2リコンビナーゼは、切除ツールボックス(900(b))に存在するRSRをコードするポリヌクレオチド(904)を構成するリコンビナーゼ認識部位と相互作用できる。この場合、RSRをコードするポリヌクレオチド(904)から終止コドンを切除できる。終止コドンの切除によって、トランスポザーゼを細胞において発現させることができる。
【1487】
発現されたトランスポザーゼは、細胞のゲノムに存在する第1ITR配列(901)および第2ITR配列(906)と相互作用できる。この場合、切除ツールボックス(900(b))を生殖組織のゲノムから切除できる。
【1488】
すなわち、切除ツールボックス(900(b))を生殖組織のゲノムから切除できる。従って、切除ツールボックス(900(b))が挿入されたゲノムを有する配偶子は、切除ツールボックス(900(b))が挿入されたゲノムを有する細胞および/または動物から産生できない。
【1489】
[2‐2.遺伝子編集が生じた部分の切除機構]
以降、ゲノムにノックインされたドナーポリヌクレオチドが、切除ツールボックスから発現されるトランスポザーゼによってゲノムから切除される機構を説明する。
【1490】
以前の開示によれば、切除ツールボックスがRNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含むと、および、ドナーポリヌクレオチドのノックインは、切除ツールボックスから発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼを使用する遺伝子編集に起因し得ると想定された。
【1491】
特定の条件下でトランスポザーゼが切除ツールボックスから発現される機構を上述したので、ここでは、トランスポザーゼの発現の機構についての具体的な説明を省略する。
【1492】
遺伝子編集によってゲノムにノックインされるドナーポリヌクレオチドは、切除ツールボックスから発現されるトランスポザーゼによってゲノムから切除できる。
【1493】
例えば、ドナーポリヌクレオチドが、切除ツールボックスの内部にノックインされるとき、切除ツールボックスから発現されるトランスポザーゼによって切除ツールボックスを切除することによって、ドナーポリヌクレオチドをゲノムから切除できる。
【1494】
別の例において、ドナーポリヌクレオチドが、切除ツールボックス以外のツールボックスの内部にノックインされるとき、ドナーポリヌクレオチドが、ドナーポリヌクレオチドの5'および3'末端において、切除ツールボックスから発現されるトランスポザーゼと相互作用できるITR配列を有する場合において、ドナーポリヌクレオチドをゲノムから切除できる。
【1495】
更に別の例において、ドナーポリヌクレオチドが、ツールボックスではないエンドポリヌクレオチドにノックインされるときでも、ドナーポリヌクレオチドが、ドナーポリヌクレオチドの5'および3'末端において、切除ツールボックスから発現されるトランスポザーゼと相互作用できるITR配列を有する場合において、ドナーポリヌクレオチドをゲノムから切除できる。
【1496】
[3.切除ツールボックスの利用]
以降、ツールボックスの構造を切除ツールボックスに変更する必要がある場合を説明する。すなわち、切除ツールボックスの利用の態様を説明する。
【1497】
説明の便宜上、以降では、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドがツールボックスに含まれることを想定する。
【1498】
ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を産生した当業者が、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞および/または動物を第三者に販売する場合、当業者から細胞および/または動物を購入した第三者は、細胞および/または動物から発現されたRNA誘導性エンドヌクレアーゼを取得できる。この場合、第三者によって細胞および/または動物から発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼの入手は、正当な利益とみなすことができる。
【1499】
更に、当業者が、ツールボックスを使用してドナーポリヌクレオチドが細胞のゲノムにノックインされたゲノムを有する細胞および/または動物を販売するとき、細胞および/または動物を購入した第三者は、細胞および/または動物からドナーRNAおよび/またはタンパク質を取得できる。ドナーRNAおよび/またはタンパク質は、ドナーポリヌクレオチドの転写および/または翻訳によって発現されるものである。この場合、第三者から購入した細胞および/または動物からのドナーRNAおよび/またはタンパク質の入手は、正当な利益とみなすことができる。
【1500】
細胞および/または動物から発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼ、ドナーRNA、および/またはドナータンパク質の入手に加えて、細胞および/または動物を購入した任意の第三者は、購入した細胞および/または動物を使用して、不当な利益を有し得る。
【1501】
例えば、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を購入した任意の第三者が不当な追加の利益を有し得る例には、第三者が、細胞の複製による、ツールボックスおよび/またはドナーポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する細胞の大規模な産生、または、販売に関与する場合が含まれ得る。
【1502】
別の例において、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する配偶子を購入した任意の第三者が不当な追加の利益を有し得る例には、第三者が、配偶子を使用した体外受精による、ツールボックスおよび/またはドナーポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する個体の産生に関与する場合が含まれ得る。
【1503】
更に別の例において、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する動物を購入した任意の第三者が不当な追加の利益を有し得る例には、第三者が、動物を使用することによって、ツールボックスおよび/またはドナーポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する配偶子の産生または販売に関与する場合が含まれ得る。
【1504】
更に別の例において、ツールボックスが挿入されたゲノムを有する動物を購入した任意の第三者が不当な追加の利益を有し得る例には、第三者が、動物を使用することによって、ツールボックスおよび/またはドナーポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する子の産生または販売に関与する場合が含まれ得る。
【1505】
上述のように、細胞および/または動物を購入した任意の第三者が不当な追加の利益を有することを防止するための安全策として、当業者は第三者に対し、ツールボックスの構造を切除ツールボックスの構造に変更した後に、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する細胞および/または動物を販売することができることが可能である。
【1506】
以降、ツールボックスの構造が切除ツールボックスの構造に変更された場合の機構および効果を説明する。
【1507】
説明の便宜上、以降では、切除ツールボックスの切除機構および効果だけを説明するが、これは、同一の方式で、ドナーポリヌクレオチドに適用することもできる。
【1508】
切除ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞および/または動物を当業者が販売する場合、細胞および/または動物を購入した任意の第三者が、上述のような不当な追加の利益を有することを試みる場合、切除ツールボックスは、細胞および/または動物のゲノムから切除され得る。
【1509】
例えば、切除ツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞を購入した任意の第三者が、細胞を複製することを試みる場合、切除ツールボックスに含まれる誘導性プロモーターを機能させることができ、次に、トランスポザーゼを発現させることができ、その結果、切除ツールボックスを細胞のゲノムから切除できる。
【1510】
別の例において、切除ツールボックスが挿入されたゲノムを有する動物を購入した任意の第三者が、動物を使用して配偶子を産生することを試みる場合、その中の組織特異的プロモーターの活性によって組織においてトランスポザーゼを発現させることができ、その結果、切除ツールボックスが切除された配偶子を産生できる。
【1511】
更に別の例において、切除ツールボックスが挿入されたゲノムを有する動物を購入した任意の第三者が、動物を使用して子を産生することを試みる場合、その中の組織特異的プロモーターの活性によって生殖組織においてトランスポザーゼを発現させることができ、その結果、切除ツールボックスが切除された子を産生できる。
【1512】
すなわち、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有する細胞および/または動物を購入した任意の第三者が不当な追加の利益を有することを防止するために、当業者は、ツールボックスの構造を切除ツールボックスの構造に変更できる。
【1513】
[実験例1 体細胞核移植を使用して標的タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニック胚の調製]
【1514】
本発明者は、標的タンパク質遺伝子をウシゲノムに挿入するべく以下の実験を行った。
【1515】
標的タンパク質遺伝子の挿入を視覚的に確認するために、本発明者は、蛍光タンパク質遺伝子を標的タンパク質として選択し、実験を行い、蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスを調製し、SCNT法によって調製されたツールボックスを含むウシ受精卵を調製した。
【1516】
[1.標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスベクターの調製]
緑色蛍光タンパク質遺伝子および赤色蛍光タンパク質遺伝子が含まれるツールボックスを含む最終発現ベクターを調製するために、Gateway(登録商標)PCRクローニング(MultiSite Gateway ProPlus, Invitrogen, 12537100, Life Technologies,米国カリフォルニア州カールスバッド)を使用して、緑色蛍光タンパク質および赤色蛍光タンパク質遺伝子を増幅した。
【1517】
緑色蛍光タンパク質遺伝子および赤色蛍光タンパク質遺伝子の増幅に使用されるPCRプライマーを下のテーブル2に示す。本明細書において、配列番号は、配列識別番号として表現される。
[テーブル2]
【表2】
【1518】
本発明者は、増幅された緑色蛍光タンパク質遺伝子および/または赤色蛍光タンパク質遺伝子を使用して最終発現ベクターを調製した。
【1519】
図24の(a)は、緑色蛍光タンパク質の発現のための最終発現ベクターの一部を示し、
図24の(b)は、赤色蛍光タンパク質の発現のための最終発現ベクターの一部を示す。
【1520】
最終発現ベクターの調製のために、エントリーベクターとしてpDonor(Invitrogen(登録商標))を使用し、デスティネーションベクターとして(p‐CCAGGプロモーターを有する)PB‐CAベクターおよび(Tet‐onプロモーターを有する)PB‐TETベクターを使用した。この実験例において使用されるpiggyBac(PB)配列を下のテーブル3において示す。
[テーブル3]
【表3】
【1521】
[2.クローン胚の調製(SCNT)]
[2‐1.ウシ細胞の単離]
本発明者は、標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスをゲノムに挿入するために、ウシ胎児から線維芽細胞を単離した。
【1522】
メスを使用して妊娠45日目のウシ胎児組織を刻み、25%(w/v)トリプシンおよび1mM EDTA(Invitrogen)を加えたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,Invitrogen,米国カリフォルニア州カールスバッド)を使用して、37℃で1時間にわたって解離させた。
【1523】
トリプシン処理した細胞を1500rpmで2分間にわたって遠心分離し、Ca2+およびMg2+を含まないDPBSで1回洗浄し、100mmプラスチック培養皿に播種した。
【1524】
播種された細胞を、10%(v/v)FBS、1mMグルタミン、25mM NaHCO3、1%(v/v)最小必須培地(MEM)が加えられたDMEM培地において、5%CO2および95%空気の加湿空気条件で、39℃で6~8日間培養した。
【1525】
播種された細胞から、未付着細胞および薄片の塊を除去した後に、培養皿において互いにコンフルエンシーを有するように付着細胞を培養し、0.1%トリプシンおよび0.02%EDTAを使用して、5分間のトリプシン処理によって、4~6日間の間隔で更に培養した。更なる継代培養のために、培養細胞を3個の新しい培養皿に分注して、次に、-196℃で液体窒素において冷凍培地中で保存した。
【1526】
[2‐2.ツールボックスベクタートランスフェクション]
本発明者は、上記の方法によって保存された細胞を解凍し、3~4日間にわたって培養し、トリプシンを使用して単一層から線維芽細胞を回収し、回収された線維芽細胞を使用して、SCNTのためのドナー細胞を調製した。
【1527】
トランスフェクションの約18~24時間前に、回収された線維芽細胞を6ウェルプレートに分注した。細胞が約50~60%のコンフルエンシーに到達したとき、知られている製造業者の方法に従って、トランスフェクションが線維芽細胞に移行した。
【1528】
緑色蛍光タンパク質遺伝子を含むプラスミドベクター(PB‐CA‐GFP)、pCy43ベクター(トランスポザーゼ発現ベクター、Sanger Institute、英国、ヒンクストン)が、回収された線維芽細胞にトランスフェクトされ、次に、緑色蛍光タンパク質が発現されたドナー細胞(以降、GFPドナー細胞)を調製した。
【1529】
追加的に、赤色蛍光タンパク質遺伝子を含むプラスミドベクター(PB‐TET‐RFP)、pCy43ベクター(トランスポザーゼ発現ベクター、Sanger Institute、英国、ヒンクストン)が、回収された線維芽細胞にトランスフェクトされ、次に、赤色蛍光タンパク質が発現されたドナー細胞(以降、RFPドナー細胞)を調製した。pCy43ベクターは、PB‐CA‐GFPまたはPB‐TET‐RFPの転移に使用された。
【1530】
緑色蛍光タンパク質の発現は、上記の方法によって調製されたGFPドナー細胞において確認された。
【1531】
図25の(a)は、GFPドナー細胞における緑色蛍光タンパク質の発現を示す(
図25の(a)を参照、左:可視光条件、右:蛍光条件)。
【1532】
追加的に、上記の方法によって調製されたRFPドナー細胞が、ドキシサイクリン(2mg/ml)およびネオマイシン(1mg/ml)で処理されたとき、ドキシサイクリンの除去後8日目に、赤色蛍光タンパク質の発現が確認され、RFP発現の消滅が確認された。
【1533】
図25の(b)は、RFPドナー細胞をドキシサイクリンおよびネオマイシンで処理したときの赤色蛍光タンパク質の発現を示し(
図25の(b)(b‐1)を参照、上:可視光条件、下:蛍光条件)、ドキシサイクリンの除去後8日目のRFP発現の消滅を示す(
図25の(b)(b‐2)を参照、上:可視光条件、下:蛍光条件)。
【1534】
上の結果から、赤色蛍光タンパク質の発現タイミングは、Tet‐onプロモーターが使用されるときに、ドキシサイクリン処理によって調節できることが確認された。
【1535】
言い換えれば、誘導性プロモーター(例えばTet‐onプロモーター)が発現調節因子として使用されるとき、誘導性プロモーターを活性化できる条件または物質(例えばドキシサイクリン)の処理を通して、誘導性プロモーターを機能させることができる。標的タンパク質の転写および/または翻訳は、適時の方式で、誘導性プロモーターの機能によって調節できることが確認された。
【1536】
蛍光タンパク質の発現の存在の確認を通して、標的タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有するドナー細胞を選択し、選択されたドナー細胞を使用して、体細胞核移植(SCNT)によって、トランスジェニック胚を産生した。
【1537】
[2‐3.ドナー細胞を使用するクローン胚の調製(SCNT)]
上記の方法によって調製されたGFPドナー細胞またはRFPドナー細胞の各々の核を、各除核卵母細胞(除核卵子)に移植し、電気融着し、イオノマイシンによって4分間活性化し、次に、6‐DMAPにおいて4時間にわたって培養した。
【1538】
緑色蛍光タンパク質を発現できるクローン胚(以降、GFPクローン胚)、または、上述のように電気融着によって取得された赤色蛍光タンパク質を発現できるクローン胚(以降、RFPクローン胚)を培養器(39℃、5%CO2)で、鉱油で覆われた既知組成培地の25μL微小液滴において7~8日間培養した。既知組成培地は、従来知られている方法によって調製された。
【1539】
[2‐4.標的タンパク質遺伝子を含むツールボックス挿入の確認]
[2‐4‐1.PCR、RT‐PCR結果]
緑色蛍光タンパク質遺伝子および赤色蛍光タンパク質遺伝子が、上記の方法によって産生されたウシトランスジェニック胚(GFPクローン胚およびRFPクローン胚)のゲノムに挿入されたかどうかを確認するために、および、その中のmRNA発現の有無を検出するために、DNA PCRおよびRT‐PCR(Eppendorf Vapo Protect Mastercycler,Eppendorf,ドイツ)を行った。
【1540】
DNA PCRのために、DNA抽出キット(DNeasy Blood & Tissue kit 69506,Qiagen,リンブルフ,オランダ)を使用して、トランスジェニックウシの血液または細胞からゲノムDNAを抽出した。
【1541】
RT‐PCRのために、RNA抽出キット(Easy spin total RNA extraction kit, Cat. 17221, iNtRON,ソンナム,韓国)を使用してトータルRNAを抽出し、cDNA合成のために、cDNA合成キット(RNA to cDNA EcoDry (登録商標) Premix Kit, PT5153‐2, Clontech,米国カリフォルニア州)を使用してcDNAを合成した。cDNA合成のために、1μgのトータルRNAを使用した。PCRに使用されるプライマーを下のテーブル4に示す。
[テーブル4]
【表4】
【1542】
図26は、トランスジェニック胚(GFPクローン胚およびRFPクローン胚)のRT‐PCRおよびDNA PCRの結果を示す(A:鋳型としてゲノムDNAを使用するPCR結果、B:鋳型としてcDNAを使用するPCR結果、C:RT‐PCRを介したGAPDH mRNA発現、M:分子マーカー、対照:非形質転換胚)。
【1543】
[2‐4‐2.胚における蛍光タンパク質発現の確認]
トランスジェニック胚(GFPクローン胚およびRFPクローン胚)においてモザイク現象が無いGFPまたはRFPの発現を視覚的に確認した。
【1544】
図27の(a)は、GFPクローン胚における緑色蛍光タンパク質の発現を示す(左:可視光条件、右:蛍光条件)。
【1545】
図27の(b)は、7日齢RFPクローン胚をドキシサイクリンで処理し、次に、更に2日間培養したときの結果を示す。形質転換胚をドキシサイクリンで処理したとき、赤色蛍光タンパク質の発現を確認した(
図27の(b)を参照、破線の右)。非形質転換胚をドキシサイクリンで処理したとき、赤色蛍光タンパク質の発現は確認されなかった(
図27の(b)を参照、破線の左)。
【1546】
この実験から、形質転換のための標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する細胞および/または胚が、任意の特定の危険性無く、生存できることが確認された。
【1547】
[実験例2 マイクロインジェクションを介して標的タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシの調製]
【1548】
本発明者は、標的タンパク質遺伝子をウシゲノムに挿入するべく以下の実験を行った。
【1549】
上述のように、標的タンパク質遺伝子の挿入を視覚的に確認するべく、本発明者は、蛍光タンパク質遺伝子を標的タンパク質として選択することによって実験を行い、蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスを調製し、それにより、マイクロインジェクション(MI)法を介して調製されたツールボックスを含むウシ受精卵を調製し、受精卵を代理母の子宮に移植し、それにより、蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシを調製した。
【1550】
[1.標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスベクターの調製]
黄色蛍光タンパク質遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子および赤色蛍光タンパク質遺伝子が含まれるツールボックスを含む最終発現ベクターを調製するために、黄色蛍光タンパク質遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、および、赤色蛍光タンパク質遺伝子が、Gateway(登録商標)PCRクローニング(MultiSite Gateway ProPlus, Invitrogen, 12537100, Life Technologies,米国カリフォルニア州カールスバッド)を使用して増幅された。
【1551】
黄色蛍光タンパク質遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子および赤色蛍光タンパク質遺伝子の増幅に使用されるプライマーを、Addgene(登録商標)(http://www.addgene.org、プラスミド#34879)から購入した。
【1552】
増幅された遺伝子を使用して、黄色蛍光タンパク質遺伝子が含まれるツールボックスを含む最終発現ベクター(以降、YFPベクター)を調製した。
図28の(a)は、YFPベクターの一部を示す。
【1553】
追加的に、Gateway(登録商標)PCRクローニング(MultiSite Gateway ProPlus, Invitrogen, 12537100, Life Technologies,米国カリフォルニア州カールスバッド)を使用して、β‐カゼインプロモーターおよびヒトインターロイキン2(hIL2)のcDNAを増幅させた。これらのcDNAを、インヒュージョンクローニング(In fusion HD cloning kit, lontech, 639644,米国カリフォルニア州)によってPB‐GFPに挿入し、それにより、GFPおよびhIL2遺伝子を含むツールボックス(5'PB‐β‐カゼインプロモーター‐hIL2‐pA‐pCAG‐GFP‐Pa‐3'PB構造)を含む最終発現ベクター(以降、GFP‐hIL2ベクター)を調製した。
図28の(b)は、GFP‐hIL2ベクターの一部を示す。
【1554】
更に、Rox‐GFP‐polyA‐roxおよび赤色蛍光タンパク質遺伝子を、Gateway(登録商標)PCRクローニング(MultiSite Gateway ProPlus, Invitrogen, 12537100, Life Technologies、米国カリフォルニア州カールスバッド)によって増幅し、増幅されたRox‐GFP‐polyA‐roxおよび赤色蛍光タンパク質遺伝子を使用して、Rox‐GFP‐polyA‐roxおよび緑色蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックス(5'PB‐pCAG‐rox‐GFP‐pA‐rox‐RFP‐pA‐3'PB構造)を含む最終発現ベクター(以降、GFP‐RFPベクター)を調製した。
図28の(c)は、GFP‐RFPベクターの一部を示す。実験に使用されるSleeping Beauty(SB)配列が下のテーブル5において示される。
[テーブル5]
【表5】
【1555】
[2.胚の調製(MI)]
[2‐1.卵子採取およびin vitro成熟(IVM)]
生理食塩水(35℃)に採取されたウシ卵巣を2時間以内に畜殺場から実験室に移した。使い捨てのシリンジ(10mL)に取り付けられた18ゲージ針を使用して、2~8mmの毛包から卵丘卵母細胞複合体(COC)を吸い出した。
【1556】
均等に粒状になった細胞質を有し、3層以上の卵丘細胞で囲まれたCOCを、吸い出されたCOCから選択した。
【1557】
10%FBS、2mM NaHCO3(Sigma‐Aldrich Corp.,米国ミズーリ州セントルイス)および1%ペニシリン‐ストレプトマイシン(v/v)が追加されたHEPES緩衝液組織培地199(TCM‐199;Invitrogen,米国カリフォルニア州カールスバッド)を用いて、選択されたCOCを3回洗浄した。
【1558】
選択されたCOCを、4ウェルディッシュ(ウェルあたり30~40個の卵母細胞、Falcon(登録商標)、Becton‐Dickinson Ltd.、英国プリマス)において、39℃、5%CO2で、22時間培養した。使用した培地は、10% FBS、0.005AU/ml FSH(Antrin, Teikoku、日本)、100μMシステアミン(Sigma‐Aldrich)、および、1μg/mLの17βエストラジオール(Sigma‐Aldrich)を追加したTCM‐199(450μl)であった。
【1559】
[2‐2.精子採取、体外受精(IVF)、および、胚の生体外培養(IVC)]
解凍したウシ精液から遠心分離によって精子を単離し、遠心分離は、1500rpmで15分間、パーコール不連続勾配(45~90%)で行った。
【1560】
90%パーコール(Nutricell、Campinas、ブラジル、サンパウロ)(1mL)およびcapacitation‐TALP(Nutricell)(1mL)を使用してパーコール溶液45%を調製した。
【1561】
遠心分離によって取得された精子ペレットを、1500rpmで5分間、capacitation‐TALP(Nutricell)で2回洗浄した。
【1562】
精子ペレットから取得された、活動的な運動性を有する精子を、成熟卵子との受精に使用した(24時間IVM)。
【1563】
鉱油で覆われたIVF‐TALP培地(Nutricell)の30μLの微小液滴において、39℃および5%CO2の加湿条件下で、卵子および精子1~2×106個/mLを18時間にわたって受精させた。
【1564】
鉱油で覆われた培地(Sigma‐Aldrich)において予定運命の接合子を培養し、培養条件は、5%O2、5%CO2、および、90%N2大気、39℃であった。
【1565】
インキュベーション後の2日目において、接合子の切断率を記録し、国際受精卵移植学会(IETS)のステップに従って、胚の発生をモニタリングした。
【1566】
[2‐3.マイクロインジェクション(MI)]
マイクロインジェクター装置(Femtojet, Eppendorf,ドイツ)を使用して、上述のYFPベクター、GFP‐hIL2ベクターおよびGFP‐RFPベクター(以降、ツールボックスベクター)、ならびに、トランスポザーゼベクターを、卵丘細胞が除去された受精卵の細胞質にマイクロインジェクションした。
【1567】
受精卵の細胞質におけるマイクロインジェクションされたベクターのそれぞれの量は、100ng/mLであった(ツールボックスベクターとトランスポザーゼベクターとの間の比は1:1であった)。
【1568】
Sleeping Beauty(SB)のトランスポザーゼベクター(pCMV (CAT) T7‐SB100X)およびpiggyBac(PB)のトランスポザーゼベクター(pCy43)は、Addgene(登録商標)(http://www.addgene.org、プラスミド#34879)から購入し、Sanger Institute(英国ヒンクストン)から提供された。
【1569】
ベクターマイクロインジェクション後の7日間、蛍光タンパク質を発現する胚を選択した。
【1570】
すなわち、上記の方法を使用して、黄色蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する胚(以降、YFP胚)、緑色蛍光タンパク質遺伝子およびhIL2遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する胚(以降、GFP‐hIL2胚)、ならびに、Rox‐GFP‐polyA‐roxおよび赤色蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する胚(以降、GFP‐RFP胚)を産生した。
【1571】
[3.標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシの調製]
[3‐1.トランスジェニックウシの調製]
【1572】
本発明者は、上述のマイクロインジェクションによって調製されたウシ胚を代理母の子宮に移植することによってトランスジェニックウシを調製した。
【1573】
20%FBSを追加したPBSにおいて、経頸管法によって、蛍光タンパク質を発現する胚を代理母の子宮角に移植した。
【1574】
分娩後発情の45日目に、直腸検査および超音波検査によって、胚の生存および妊娠を確認した。
【1575】
[3‐2.SNU‐SB1(雌)個体の産生、標的タンパク質遺伝子を含むツールボックス挿入の有無の確認]
【1576】
SNU‐SB1(雌)は、上記の方法によってYFP胚が移植された代理母から生まれた。
図29の(a)はSNU‐SB1を示す。
【1577】
黄色蛍光タンパク質の発現は、SNU‐SB1の鼻において確認し、黄色蛍光タンパク質の発現は、初代培養皮膚細胞において確認した。
【1578】
図29の(b)は、SNU‐SB1の鼻における黄色蛍光タンパク質の発現を示し、
図29の(c)は、SNU‐SB1の初代培養皮膚細胞における黄色蛍光タンパク質の発現を示す(
図29の(c)を参照、左列:野性型ウシの皮膚細胞、右列:トランスジェニックウシの皮膚細胞、上:可視光条件、下:蛍光条件)。
【1579】
更に、黄色蛍光タンパク質遺伝子の挿入をDNA PCRによって確認した。
図29の(d)は、DNA PCRを介した黄色蛍光タンパク質遺伝子の挿入を確認する結果を示す(
図29の(d)を参照、1:分子マーカー、2:野性型ウシ、3:ポジティブコントロール群、4:トランスジェニックウシの血液、5:トランスジェニックウシの耳組織、6:トランスジェニックウシの胎盤、7:ネガティブコントロール群)。
【1580】
DNA PCRのためのDNA抽出方法は上述したので、ここでは詳細な説明を省略する。
【1581】
[3‐3.SNU‐PB2(雌)個体の産生、および、標的タンパク質遺伝子を含むツールボックス挿入の有無の確認]
【1582】
SNU‐PB2(雌)は、上記の方法によってGFP‐hIL2胚が移植された代理母から生まれた。
【1583】
緑色蛍光タンパク質の発現は、SNU‐PB2の目、鼻などにおいて確認された。緑色蛍光タンパク質の発現も、SNU‐PB2の初代培養皮膚細胞において確認された。
【1584】
図30の(a)は、SNU‐PB2の目および鼻における緑色蛍光タンパク質の発現を示し、
図30の(b)は、SNU‐PB2の初代培養皮膚細胞における緑色蛍光タンパク質の発現を示す(
図30の(b)を参照、左:可視光条件、右:蛍光条件)。
【1585】
更に、GFP‐hIL2ベクターに含まれる遺伝子である緑色蛍光タンパク質遺伝子がゲノムに挿入されたことは、DNA PCR(Eppendorf Vapo Protect Mastercycler, Eppendorf,ドイツ)を介して確認された。
【1586】
図30の(c)は、DNA PCRを介して緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたことを確認する結果を示す(
図30の(c)を参照、1:分子マーカー、2:野性型ウシ、3:トランスジェニックウシの血液、4:ポジティブコントロール群、5:ネガティブコントロール群)。
【1587】
追加的に、ゲノムにおける緑色蛍光タンパク質遺伝子の挿入、および、mRNA発現が、ウシ初代培養細胞を使用して、RT‐PCR(Eppendorf Vapo Protect Mastercycler、Eppendorf、ドイツ)を介して確認された。
【1588】
図30の(d)は、RT‐PCRを介して緑色蛍光タンパク質遺伝子の挿入を確認する結果を示す(
図30の(d)を参照、1:野性型ウシのcDNA、2:トランスジェニックウシのcDNA、3:ネガティブコントロール群)。
【1589】
DNA PCRおよびRT‐PCRのためのDNAおよびRNA抽出方法は上述したので、ここでは、それらについての具体的な説明を省略する。
【1590】
上の結果から、GFP‐hIL2ベクターに含まれる遺伝子がSNU‐PB2のゲノムに挿入されたことが確認された。
【1591】
[3‐4.SNU‐PB1(雄)個体の産生、標的タンパク質遺伝子を含むツールボックス挿入の有無の確認]
【1592】
SNU‐PB1(雄)は、上記の方法によってGFP‐RFP胚が移植された代理母から生まれた。
図31の(a)はSNU‐PB1における緑色蛍光タンパク質の発現を示す。
【1593】
SNU‐PB1から単離されて培養された初代培養皮膚細胞にDreリコンビナーゼがトランスフェクトされる前に、緑色蛍光タンパク質の発現を観察した。
【1594】
SNU‐PB1から単離して培養した初代培養皮膚細胞にDreリコンビナーゼをmRNAの形態でトランスフェクションした後に、細胞において赤色蛍光タンパク質の発現を観察した。
【1595】
図31の(b)は、SNU‐PB1から単離されて培養された初代培養皮膚細胞における緑色蛍光タンパク質の発現、および、赤色蛍光タンパク質の発現を確認する結果を示す(
図31の(b)を参照、上:可視光条件、下:蛍光条件、左:Dreリコンビナーゼによるトランスフェクション前、右:Dreリコンビナーゼによるトランスフェクション後)。
【1596】
更に、Dreリコンビナーゼでトランスフェクションする前に、ゲノムおよびmRNA発現における緑色蛍光タンパク質遺伝子の挿入を、DNA PCRおよびRT‐PCRによって確認した(
図32の(a)および
図32の(b)を参照)。
図32の(a)は、Dreリコンビナーゼでトランスフェクションする前のDNA PCRの結果を示す(
図32の(a)を参照、1:分子マーカー、2:野性型ウシ、3:トランスジェニックウシの血液、4:ポジティブコントロール群(緑色蛍光タンパク質遺伝子)、5:陰性群)。
図32の(b)は、Dreリコンビナーゼでトランスフェクションする前のRT‐PCR結果を示す(
図32の(b)を参照、1:分子マーカー、2:野性型ウシ、3:トランスジェニックウシ、4:陰性群)。
【1597】
追加的に、Dreリコンビナーゼによるトランスフェクション後にゲノムから緑色蛍光タンパク質遺伝子が切除されたことを確認した。
図32の(c)は、Dreリコンビナーゼによるトランスフェクション後のDNA PCR結果を示す(
図32の(c)を参照、1:分子マーカー、2:Dreによるトランスフェクション前、3:Dreによるトランスフェクション後、4:陰性群)。
【1598】
DNA PCRおよびRT‐PCRのためのDNAおよびRNA抽出方法は上述したので、ここでは、それらについての具体的な説明を省略する。
【1599】
上の結果から、本発明者は、リコンビナーゼ認識部位(RRS)が挿入されたゲノムを有する細胞または動物にリコンビナーゼを提供することにより、適時の方式で調節することによって、所望の種類の標的タンパク質を発現できることを確認した。
【1600】
[4.標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有するトランスジェニック子ウシの産生]
【1601】
[4‐1.トランスジェニック子ウシ]
[4‐1‐1.SNU‐F1‐1ウシ]
子ウシ(SNU‐F1‐1)は、雌ウシ(SNU‐SB1)と雄ウシ(SNU‐PB1)との間の自然交配によって生まれた。
【1602】
図33の(a)は、子ウシであるSNU‐F1‐1、および、親ウシであるSNU‐SB1を示す(
図33の(a)を参照、左矢印:SNU‐F1‐1、右矢印:SNU‐SB1)。
【1603】
本発明者は、子ウシであるSNU‐F1‐1の初代培養皮膚細胞において緑色蛍光タンパク質が発現されることを視覚的に確認し、Dreリコンビナーゼによる処理後に赤色蛍光タンパク質が発現されることを視覚的に確認した。
【1604】
図33の(b)は、Dreリコンビナーゼによる処理前に、SNU‐F1‐1の初代培養皮膚細胞において、緑色蛍光タンパク質が発現されること、および、Dreリコンビナーゼによる処理後に、赤色蛍光タンパク質が発現されることを示す(上:Dreによる処理前、下:Dreによる処理後)。
【1605】
更に、GFP‐RFPベクターの構造であるPB‐CAGプロモーター‐Rox‐GFP‐Rox‐RFP‐PBがSNU‐F1‐1のゲノムに挿入されることがDNA PCR分析を介して確認された。
【1606】
図34は、SNU‐F1‐1のDNA PCR分析結果を示す(
図34を参照、1:分子マーカー、2:ポジティブコントロール群(GFP‐RFPベクター)、3:野性型ウシから取得されるDNA、4:SNU‐PB1の血液から取得されるDNA、5:SNU‐F1‐1の血液から取得されるDNA、6:SNU‐F1‐1の細胞にDreリコンビナーゼを処理することによって取得されるDNA、7:ネガティブコントロール群(ヌクレアーゼを含まない水))。DNA PCRのためのDNA抽出方法は上述したので、ここでは、それについての具体的な説明を省略する。
【1607】
追加的に、本発明者は、子ウシ(SNU‐F1‐1)のDNA配列を分析し、分析結果から、雄ウシ(SNU‐PB1)のゲノムに挿入されるPB‐CAGプロモーター‐Rox‐GFP‐Rox‐RFP‐PBを含むツールボックスが子ウシ(SNU‐F1‐1)のゲノムに挿入されたことを確認した。ツールボックスの挿入遺伝子座は後に説明する。
【1608】
[4‐1‐2.SNU‐F1‐2ウシ]
雌ウシ(SNU‐PB2)は、雌ウシ(SNU‐PB2)と雄ウシ(SNU‐PB1)との間の自然交配によって、SNU‐F1‐2を妊娠した。雌ウシ(SNU‐PB2)は妊娠中、異なるウシに攻撃されて負傷したので、雌ウシ(SNU‐PB2)を安楽死させた。
【1609】
本発明者は、SNU‐F1‐2胎児から取得された胎児線維芽細胞において緑色蛍光タンパク質が発現されることを視覚的に確認した。
【1610】
図35は、SNU‐F1‐2胎児の線維芽細胞において緑色蛍光タンパク質が発現することを示す(下の
図35を参照、左:可視光条件、右:蛍光条件)。
【1611】
追加的に、SNU‐F1‐2胎児のDNA配列分析を通して、本発明者は、雌ウシ(SNU‐PB2)のゲノムに挿入されたPB‐ベータ‐カゼインプロモーター‐hIL2‐pA‐CAGプロモーター‐GFP‐pA‐PBを含むツールボックスも、胎児SNU‐F1‐2のゲノムに送達されたことを確認した。ツールボックスの挿入遺伝子座は後に説明する。
【1612】
この実験を通して、トランスフェクションのための標的タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する動物が健康問題無く生存でき、子を産生できることを確認した。
【1613】
追加的に、これらの結果を通して、F0世代トランスジェニックウシゲノムに含まれるツールボックスをF1世代に伝達できることを確認した。
【1614】
[4‐2.雌ウシの母乳]
ゲノムに挿入された遺伝子から発現されるタンパク質を雌ウシの母乳に含めることができることを実証するべく、本発明者は、SNU‐PB2のゲノムに挿入されたツールボックスと同一の構造のツールボックス(5'PB‐βカゼインプロモーター‐hIL2‐pA‐pCAG‐GFP‐Pa‐3'PBの構造のツールボックス)が挿入された雌ウシの母乳を分析した。
【1615】
共焦点顕微鏡を使用して、蛍光タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入されたゲノムを有する雌ウシの母乳の分析の結果として、緑色蛍光タンパク質が雌ウシの母乳から発現したことが視覚的に確認された。
【1616】
図36の(a)は、共焦点顕微鏡を使用して、ウシ母乳における蛍光タンパク質の発現の有無を確認する結果を示す(
図36の(a)を参照、左:野性型ウシ母乳、右:ツールボックスが挿入されたトランスジェニックウシの母乳)。
【1617】
追加的に、ツールボックスコンポーネントによって発現されるヒトインターロイキン(hIL)が雌ウシの母乳に含まれることがELISAで確認された。
【1618】
図36の(b)は、ヒトインターロイキンが母乳に含まれることをELISAを介して確認した結果を示す(
図36の(b)を参照、上:ELISA対照、下:1~3;野性型ウシ母乳、4~8;ツールボックスを挿入されたトランスジェニックウシの母乳)。
【1619】
緑色蛍光タンパク質およびヒトインターロイキン(hIL)が含まれる母乳を子ウシが摂取するときでも、子ウシは健康問題無く生存できることが確認された。
【1620】
この実験から、エクソポリヌクレオチドの転写および翻訳を通して発現されるタンパク質が、トランスジェニック雌ウシの母乳に含まれ得ることが確認された。すなわち、トランスジェニックウシをバイオリアクターとして利用できることが確認された。
【1621】
[5.標的タンパク質遺伝子を挿入できるゲノムにおける挿入遺伝子座]
本発明者は、標的タンパク質遺伝子(例えば、蛍光タンパク質遺伝子)を含むツールボックスをF0トランスジェニックウシおよび子ウシのゲノムに挿入できる挿入遺伝子座を配列分析を通して確認した。
【1622】
配列分析のためにDNA試料を調製した。DNA抽出キットを使用して、製造業者のプロトコルに従って、血液または初代培養細胞からDNA試料を抽出した。ゲノムDNAの品質(O.D.260/280比は1.8~2.0、O.D.260/230比は1.6より大きい)、および、ライブラリを調製するための量(1μg)は、Qubit(登録商標)蛍光光度計dsDNA分析キット(Invitrogen、カリフォルニア州)およびInfinite(登録商標) F200 Pro NanoQuant(TECAN、メンネドルフ)を使用して確認した。
【1623】
大規模な配列分析のためのライブラリを調製するべく、Covaris S2 Ultrasonicatorを使用して、F0トランスジェニックウシ(SNU‐SB1、SNU‐PB1、SNU‐PB2)および子ウシ(SNU‐F1‐1、SNU‐F1‐2)の試料から精製されたゲノムDNAをランダムに切断して、それにより、平均サイズ350bpのDNA断片を取得した。DNAシーケンシングライブラリは、TruSeq DNA PCRフリー試料調製キット(Illumina(米国カリフォルニア州サンディエゴ))を使用して調製した。ライブラリは、製造業者のプロトコルに従って調製した。
【1624】
最終ライブラリのサイズおよび品質は、Agilent High Sensitivity DNAキット(AgilentTechnologies、サンタクララ)によって評価した。
【1625】
シーケンシングは、TruSeq Paired End Cluster Kit v3およびTruSeq SBS Kit v3‐HS (FC‐401‐3001)を使用して、Illumina HiSeq 2500において実行した。画像分析は、HiSeqコントロールソフトウェア(ver. 2.2.58)を使用して実行した。
【1626】
残りのリードは、BWA ver.0.7.5a.およびBosウシゲノム(UMD 3.1, http://asia.ensembl.org/Bos_taurus/Info/Annotation)を使用して実行した。標的タンパク質遺伝子配列を同時にマッピングした。
【1627】
標的タンパク質遺伝子の挿入遺伝子座は、BWAによって形成されるマッピングデータBAM(整列形式)を使用して分析した。
【1628】
Smith‐Waterman的スコアリング方式によって決定されたように、BWAとは、リードの端において、ヌクレオチドの一部が省略(以降、ソフトクリップ)され得ることを意味する。挿入遺伝子座は、ソフトクリップされた配列のマッピングパターンを確認することによって推定された。
【1629】
更に、標的タンパク質遺伝子挿入の指標として、ゲノム構造の変化を評価することと並行して、Dellyソフトウェアを適用した。最後に、IGVソフトウェアを使用して、候補挿入遺伝子座をマニュアルでチェックした。
【1630】
コピー数多型(CNV)は、Control‐FREECソフトウェアによって確認した。このソフトウェアは、関心のある領域の重複を計算するために使用される。
【1631】
[5‐1.標的タンパク質遺伝子を挿入できる親世代トランスジェニックウシゲノムにおける挿入遺伝子座]
【1632】
以降、標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスが挿入される配列分析によって確認される親世代トランスジェニックウシゲノムにおける挿入部位を説明する。下のテーブル6は、ツールボックスがSNU‐SB‐1のゲノムに挿入される挿入遺伝子座を開示する。下のテーブル7は、ツールボックスがSNU‐PB‐1のゲノムに挿入される挿入遺伝子座を開示する。下のテーブル8は、ツールボックスがSNU‐PB‐2のゲノムに挿入される挿入遺伝子座を開示する。
【1633】
下のテーブル6から10に記載の遺伝子座番号は、ツールボックスが挿入される染色体における、人工的に番号が付された位置を示す。
【1634】
上述のように、ツールボックスの遺伝子座は、以下の2つ、すなわち、ツールボックスに基づいて、ツールボックスの5'末端に最も近い位置の内在性遺伝子(以降、5'遺伝子)、および、ツールボックスに基づいて、ツールボックスの3'末端の最も近くに位置する内在性遺伝子(以降、3'遺伝子)のうち1または複数によって指定できる。
【1635】
例えば、下のテーブル6における遺伝子座番号4‐1および21‐1は、ウシゲノムに存在する異なる遺伝子座である。
【1636】
別の例において、下のテーブル7における遺伝子座番号6‐1および6‐2は、ウシゲノムに存在する異なる遺伝子座である。
[テーブル6]
【表6】
[テーブル7]
【表7】
[テーブル8]
【表8】
【1637】
[5‐2.標的タンパク質遺伝子を挿入できる子ウシゲノムにおける挿入遺伝子座]
[5‐2‐1.親世代トランスジェニックウシゲノムおよび子ウシゲノムに挿入される標的タンパク質遺伝子の挿入遺伝子座の比較]
【1638】
以降、配列分析で確認された、標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスが親世代トランスジェニックウシゲノムに挿入される挿入部位、および、標的タンパク質遺伝子を含むツールボックスが子ウシゲノムに挿入される挿入部位を比較した。
【1639】
下のテーブル9は、ツールボックスがSNU‐F1‐1のゲノムに挿入された挿入遺伝子座を開示する。
[テーブル9]
【表9】
【1640】
子ウシの皮膚線維芽細胞を使用する配列分析の結果として、ツールボックスが子ウシSNU‐F1‐1のゲノムに挿入された挿入遺伝子座は、ツールボックスが親世代ウシ(SNU‐PB1、雄)のゲノムに挿入された挿入遺伝子座と部分的に重複することを確認した(テーブル7および9を参照)。
【1641】
下のテーブル10は、SNU‐F1‐2のゲノムにツールボックスが挿入された挿入遺伝子座を開示する。
[テーブル10]
【表10】
【1642】
子ウシSNU‐F1‐2の胎児線維芽細胞を使用する配列分析の結果として、ツールボックスが子ウシSNU‐F1‐2のゲノムに挿入された挿入遺伝子座は、ツールボックスが親世代ウシ(SNU‐PB2、雌)のゲノムに挿入された挿入遺伝子座と部分的に重複することを確認した(テーブル8および10を参照)。
【1643】
上述のように、標的タンパク質遺伝子が親世代動物ゲノムに挿入された少なくとも1つの挿入遺伝子座を、子世代および現在の動物ゲノムにそのまま伝達できることが配列分析を通して確認された。
【1644】
[5‐2‐2.ゲノムに挿入された標的タンパク質遺伝子の数と、標的タンパク質の発現量との間の相関]
【1645】
本発明者は、SNU‐F1‐1およびSNU‐F1‐2を分析し、それにより、標的タンパク質の発現量と、細胞のゲノムに挿入された標的タンパク質遺伝子の数との間の相関を評価した。このことは、SNU‐F1‐1の皮膚線維芽細胞、および、SNU‐F1‐2胎児由来の線維芽細胞における蛍光の強度を測定することによって確認された。
【1646】
蛍光強度の測定によって、SNU‐F1‐2胎児由来の線維芽細胞における蛍光タンパク質の発現量が、SNU‐F1‐1線維芽細胞より約2.2倍高いことが確認された(
図35を参照、上:SNU‐F1‐1、下:SNU‐F1‐2、左:可視光条件、右:蛍光条件)。
【1647】
SNU‐F1‐1およびSNU‐F1‐2試料の蛍光強度の定量化のため、ImageJ(v1.50、NIH)を使用して、サイズおよび密度が同一の細胞画像を取得した。
【1648】
標的タンパク質遺伝子がSNU‐F1‐2のゲノムにおける6個の挿入部位に挿入される一方で、標的タンパク質遺伝子がSNU‐F1‐1のゲノムにおける3個の挿入部位に挿入されるという結果から、トランスジェニックウシ細胞における標的タンパク質遺伝子(外から挿入された遺伝子によって発現された形質転換タンパク質)の発現量が、外から挿入された遺伝子のコピー数と相関することが確認された。
【1649】
[実験例3 標的部位としてゲノムに挿入された標的タンパク質遺伝子を有する遺伝子編集]
【1650】
本発明者は、上記の方法によってウシゲノムに人工的に挿入された標的タンパク質遺伝子を標的として有する遺伝子編集を実行できることを実証する実験を実行した。
【1651】
すなわち、下の実験結果によって、ゲノムに人工的に挿入された「人工編集部位」においても遺伝子編集が可能であることを支持できる。
【1652】
ゲノムに人工的に挿入された標的タンパク質遺伝子において遺伝子編集が生じ得ることをより効果的に確認するべく、本発明者は、標的タンパク質遺伝子として緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する細胞を使用して以下の実験を行った。
【1653】
[1.標的タンパク質遺伝子のノックアウト]
[1‐1.緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する線維芽細胞の単離]
外から挿入される標的タンパク質遺伝子をノックアウトできることを確認するべく、本発明者は、緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する線維芽細胞(以降、GFP線維芽細胞)を、緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する形質転換胚の組織から単離した。
【1654】
GFP線維芽細胞を単離するべく、GFP胚が移植された代理母から胎児を採取した。胎児の採取は、代理母の妊娠の40日目に行われた。
【1655】
採取された胎児の皮膚を、コラゲナーゼによって酵素消化にかけ、次に、初代培養線維芽細胞を培養皿に付着させた。
【1656】
初代培養線維芽細胞を、培養皿において、培地に(DMEM(Gibco、米国カリフォルニア州カールスバッド)、15%FBS(Gibco)、100mMベータメルカプトエタノール(Sigma)、1%NEAA(Sigma)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco))よって増殖させた。
【1657】
単離した線維芽細胞における緑色蛍光タンパク質の発現は、蛍光顕微鏡(ニコン、日本、東京都)によって確認した。
【1658】
[1‐2.標的タンパク質遺伝子を標的化するCRISPR/Cas9ベクタートランスフェクション]
上記方法によって単離されたGFP線維芽細胞ゲノムに挿入された緑色蛍光タンパク質遺伝子をノックアウトするべく、単一のガイドRNA(sgRNA)を使用する修飾CRISPR/Cas9系を使用した。
【1659】
緑色蛍光タンパク質遺伝子をノックアウトするべく、U6プロモーターを有するsgRNA発現ベクター、および、CMVプロモーターを有するCas9発現ベクターを調製した。
【1660】
図37の(a)は、緑色蛍光タンパク質遺伝子を特異的に標的化する、設計されたsgRNAを示す。
【1661】
図37の(b)は、sgRNA発現ベクター、および、Cas9発現ベクターを示す(左:sgRNA発現ベクター、右:Cas9発現ベクター)。
【1662】
sgRNA発現ベクターおよびCas9タンパク質発現ベクター(合計10g、1:3の比)を、上記の方法によって単離した線維芽細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトされた線維芽細胞を、培養器で更に10日間培養した(38℃、5%CO2)。
【1663】
[1‐3.蛍光タンパク質の発現の確認、および、ノックアウト確認のためのインデル]
sgRNA発現ベクターおよびCas9発現ベクターを、上記の方法で単離した線維芽細胞にトランスフェクトし、次に、緑色蛍光タンパク質の発現の切除を蛍光顕微鏡で確認した。
【1664】
図38の(a)は、緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する線維芽細胞にsgRNA発現ベクターおよびCas9発現ベクターがトランスフェクトされた後に緑色蛍光タンパク質が発現されなかったことを確認する結果を示す(
図38の(a)を参照、a:可視光条件、a':蛍光条件)。
【1665】
すなわち、sgRNA発現ベクターおよびCas9発現ベクターのトランスフェクション後に緑色蛍光タンパク質遺伝子がノックアウトされたことが確認された。
【1666】
追加的に、本発明者は、緑色蛍光タンパク質陰性コロニーを含む線維芽細胞から全ゲノムDNAを単離し、PCR増幅によって、標的部位としての緑色蛍光タンパク質遺伝子のインデルを確認した。
【1667】
全ゲノムDNAの単離は、G‐spin(登録商標)トータルDNA抽出ミニキット(iNtRON、韓国、ソウル)を使用して実行した。
【1668】
PCR増幅によって、標的部位のインデルを識別するべく、標的部位を含む575bp断片をプライマーによって増幅した。プライマーを下のテーブル11に示す。
[テーブル11]
【表11】
図38の(b)は、緑色蛍光タンパク質遺伝子においてインデルが生じたことを示す。
【1669】
この実験を通して、外から提供されたガイド核酸が、ウシゲノムにおける特異的遺伝子のノックアウトを引き起こすことができること、および、ウシゲノムにおける特異的遺伝子においてノックアウトが生じた場合でも、ウシが生存できることが確認された。
【1670】
[2.ドナーポリヌクレオチドのノックイン」
本発明者は、標的遺伝子として、上記の方法によって産生されたトランスジェニックウシゲノムに挿入された緑色蛍光タンパク質遺伝子を使用してドナーポリヌクレオチドがノックインされた実験を行った。
【1671】
初代培養細胞は、上記の方法によって産生されたトランスジェニックウシ(例えばSNU‐PB2)から取得され、プラスミドベクターは、Nucleofactor(登録商標)技術(Neon, Invitrogen;プログラム#16)を通して初代培養細胞にトランスフェクトされた。
【1672】
プラスミドベクターとして、i)U6プロモーターを有するsgRNA発現ベクター(Toolgen、韓国、ソウル、GFP遺伝子標的)、ii)CMVプロモーターを有するCRISPR/Cas9発現ベクター、iii)ドナーDNA(ピューロマイシン耐性遺伝子)発現ベクターを使用した。
【1673】
トランスフェクトされた初代培養細胞を4μg/mLピューロマイシン(Gibco)と共に3日間培養した。新鮮な培地と交換した後、初代培養細胞を更に10日間培養した。
【1674】
結果として、sgRNA発現ベクター(Toolgen、韓国、ソウル)、CRISPR/Cas9発現ベクター、および、ドナーDNA(ピューロマイシン耐性遺伝子)発現ベクターでトランスフェクトされた初代培養細胞の場合、ピューロマイシンで処理されたときでも、コロニーが生存したことが確認された。
【1675】
図39は、緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する初代培養細胞が、緑色蛍光タンパク質遺伝子に結合できるgRNA、Cas9、および、ドナーDNA(ピューロマイシン耐性遺伝子)でトランスフェクトされるとき、初代培養細胞がピューロマイシン耐性を有することを示す。
【1676】
追加的に、緑色蛍光タンパク質を標的化する、sgRNA発現ベクター(Toolgen、韓国、ソウル)、CRISPR/Cas9発現ベクター、および、ドナーDNA(ピューロマイシン耐性遺伝子)発現ベクターでトランスフェクトされた初代培養細胞の場合、緑色蛍光タンパク質はもはや発現されないことが確認された。
【1677】
図40は、緑色蛍光タンパク質を標的化する、sgRNA発現ベクター、CRISPR/Cas9発現ベクター、および、ドナーDNA(ピューロマイシン耐性遺伝子)発現ベクターでトランスフェクトされた初代培養細胞において緑色蛍光タンパク質が発現しないことを示す(
図40を参照、1:トランスフェクション前、2:トランスフェクション後)。
【1678】
i)コロニーの生存の結果、および、ii)緑色蛍光タンパク質の非発現の上の結果から、sgRNAおよびCRISPR/Cas9を使用するCRISPR/Cas系がSNU‐PB‐2の初代培養細胞において機能することを確認した。
【1679】
更に、本発明者は、標的遺伝子として、上述の子ウシ(SNU‐F1‐1)のゲノムに挿入される緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP遺伝子)を使用してドナーポリヌクレオチド(赤色蛍光タンパク質遺伝子を含む)をノックインするための実験を実行した。
【1680】
上記の方法のように、SNU‐F1‐1の初代培養細胞は取得され、i)U6プロモーター(Toolgen、韓国、ソウル、GFP遺伝子標的化)を有するsgRNA発現ベクター、ii)CMVプロモーターを有するCRISPR/Cas9発現ベクター、および、iii)ドナーDNA(赤色蛍光タンパク質遺伝子を含む)発現ベクターが、Nucleofactor技術(Neon, Invitrogen;プログラム#16)を介して初代培養細胞にトランスフェクトされた。
【1681】
図41は、ドナーポリヌクレオチド(414)が、初代培養細胞のゲノムに存在する緑色蛍光タンパク質遺伝子にノックインされるプロセスを示す。
【1682】
sgRNA発現ベクター(Toolgen、韓国、ソウル)、CRISPR/Cas9発現ベクター、および、ドナーDNA(赤色蛍光タンパク質遺伝子を含む)発現ベクターでトランスフェクトされた初代培養細胞の場合、緑色蛍光タンパク質はもはや発現しないこと、および、赤色蛍光タンパク質が発現されることが確認された(
図42を参照)。
【1683】
図42は、緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する初代培養細胞において緑色蛍光タンパク質遺伝子がノックアウトされ、赤色蛍光タンパク質遺伝子のノックイン後、赤色蛍光タンパク質遺伝子がそこで発現されることを示す。
【1684】
i)緑色蛍光タンパク質の非発現、および、ii)赤色蛍光タンパク質の発現の上の結果から、子ウシの初代培養細胞にいても、sgRNAおよびCRISPR/Cas9を使用するCRISPR/Cas系が機能できることが確認された。
【1685】
この実験から、標的部位として外から挿入された人工編集部位を有することによりノックインできるドナーポリヌクレオチドを確認した。
【1686】
追加的に、細胞のゲノムに存在する標的部位にドナーポリヌクレオチドがノックインされるときでも細胞が生存できることが、この実験から確認された。
【1687】
更に、標的遺伝子として蛍光タンパク質遺伝子を使用してドナーポリヌクレオチドがノックインされる場合、外に提供される細胞の蛍光シグナルが蛍光タンパク質の非発現に起因して弱くなるという事実を利用して、蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたゲノムを有する細胞を使用して、第n+1の遺伝子編集が生じた細胞(第nの遺伝子編集が生じた細胞;nは1以上の自然数)を選択できることが、この実験から確認された。
【1688】
[実験例4 RNA誘導性エンドヌクレアーゼが発現されるトランスジェニックウシ]
[1.RNA誘導性エンドヌクレアーゼが発現されるトランスジェニックウシの調製]
RNA誘導性エンドヌクレアーゼが発現されるトランスジェニックウシ(以降、spCas9ウシ)を調製するために、本発明者は以下の実験を実行した。
【1689】
[1‐1.ベクターの調製]
ピューロマイシン耐性遺伝子および赤色蛍光タンパク質遺伝子(RFP遺伝子)を含むspCas9 cDNA(Toolgenにより提供)をPCRによってクローニングした。
【1690】
追加的に、NCBIデータベースに基づくFat‐1 DNAを合成し、EF1アルファプロモーターと共にFat‐1遺伝子をクローニングした。
【1691】
Cas9‐Puro‐RFP、EF1アルファ、および、fat‐1 DNAをpiggyBacトランスポゾン発現ベクター(PBトランスポゾン発現ベクター)に挿入し、それにより、最終発現ベクター(以降、spCas9ベクター;PB‐CAG‐Cas9‐RFP‐EF1‐fat1)を調製した。
図43の(a)は、spCas9ベクターの一部を示す。
【1692】
この実験例において使用されるpiggyBac(PB)配列は、上のテーブル3に示されるものと同一である。
【1693】
[1‐2.胚の調製(MI)]
spCas9遺伝子をウシゲノムに組み込む方法、および、その条件の実験は、標的タンパク質遺伝子の挿入、および、その条件の実験と同一であるので、spCas9遺伝子が挿入されたゲノムを有する胚を調製するための方法は簡潔に説明する。
【1694】
上述のように、ウシ卵子は、COCを卵巣から分離し、その後、洗浄することによって採取され、精子は、遠心分離によってウシ精液から分離することによって採取された。
【1695】
採取された卵子と精子との間の体外受精によって取得された受精卵から卵丘細胞を除去後、マイクロインジェクター装置(Femtojet,Eppendorf,ドイツ)を使用して、spCas9ベクターおよびトランスポザーゼベクターを細胞質にマイクロインジェクションした(各々50ng/mL、1:1の比率)。トランスポザーゼベクター(pCy43)は、Sanger Institute(英国、ヒンクストン)によって提供された。マイクロインジェクションされた胚において、赤色蛍光タンパク質が発現した。
【1696】
図43の(b)は、spCas9ベクターがマイクロインジェクションされる胚において赤色蛍光タンパク質が発現したことを示す。
【1697】
spCas9ベクターが赤色蛍光タンパク質遺伝子を含むので(
図43の(a)を参照)、ベクターがマイクロインジェクションされた胚のゲノムにspCas9遺伝子が挿入されたことが、赤色蛍光タンパク質の発現の結果によって確認された。
【1698】
[1‐3.トランスジェニックウシの調製]
[1‐3‐1.トランスジェニックウシ]
形質転換胚を代理母の子宮に移植する方法、および、その実験条件は上述したので、spCas9ウシ(F0)を産生する方法は、下で簡潔に説明する。
【1699】
上記の方法によって産生された胚を、分娩後発情の45日目に代理母の子宮に移植した。直腸検査および超音波検査によって確認されるように、合計4頭の代理母が妊娠したことが分かった。妊娠期間後、4頭のspCas9ウシ(F0)が生まれた。
図43の(c)は、SNU‐Cas9‐2(F0)を示す。下のテーブル12は、トランスジェニックウシの性別および年齢を開示する。
[テーブル12]
【表12】
【1700】
spCas9ウシの血液分析のために、全血液試料(5mL)を頸静脈から採取した。採取した試料の一部(1mL)を全血球計算(CBC)(Hemavet 950、Drew Scientific、米国)に使用し、残りの試料を血清化学分析(BS‐400、Mindray、中国)に使用した。血液分析によって確認されたCBCおよび血清分析のすべての値は参照範囲であった。Cas9が発現されたときでも、spCas9ウシの健康問題が無かったことが確認された。
【1701】
本発明者は、SNU‐Cas9‐4(雌)から卵子を取得し、SNU‐Cas9‐2(雄)から精子を取得した。
【1702】
精子を取得するべく、50~55℃の温水を含む人工腟(富士平工業、日本、東京都)を使用して、18月齢雄トランスジェニックウシから精液を採取し、採取された精子を即時に冷凍庫に移して凍結した。
【1703】
OPTIXcell(IVM technologies、フランス)を使用して精液を50%:50%の比で希釈し、室温で10分間放置した。次に、希釈された精液を再度、50%:50%の比に希釈し、精子の濃度を5.0×107/mLにして4℃で2時間放置した。
【1704】
濃縮された精子を500μLの精液ストロー(IMV technologies、フランス)に入れ、ストローパウダー(富士平工業、日本、東京都)で密封した。ストローを30分にわたって液体窒素表面の5.0cm上で凍結させ、次に、液体窒素タンクに入れた。
【1705】
配偶子を確保したSNU‐Cas9‐2(雄)とSNU‐Cas9‐4(雌)との間の自然交配によって、spCas9遺伝子が挿入されたゲノムを有する子を産生した。
【1706】
[1‐3‐2.RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドがトランスジェニックウシゲノムに挿入されたことの確認]
[1‐3‐2‐1.蛍光タンパク質発現の確認
【1707】
spCas9ウシの細胞において蛍光タンパク質が発現したかどうかを判定するべく、初代培養細胞をspCas9ウシの耳皮膚組織から単離および培養した。
【1708】
初代培養細胞の単離のために、生検パンチによって、直径0.5mmで耳皮膚組織を分離した。1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むPBSで組織を3回以上洗浄し、メスを用いて可能な限り小さく切った。切除された組織をHBSS中で4型コラゲナーゼ(Gibco)と共に、37℃で16時間インキュベートした。
【1709】
1週間後、皮膚線維芽細胞の増殖を観察し、培養皿に新鮮な培地(10%FBS、1%NEAA、100mMベータメルカプトエタノール、1%P/Sを追加したDMEM)を再充填した。
【1710】
初代培養細胞がコンフルエンシーになった後に、いくつかの細胞を冷凍庫に保管し、いくつかの細胞を、凍結保存無しで、蛍光顕微鏡によって観察した。
図44の(a)は、spCas9ウシの初代培養細胞における赤色蛍光タンパク質の発現を示す。
【1711】
追加的に、各spCas9ウシにおいて、赤色蛍光タンパク質の発現比を確認した。これは合計で3回カウントし、100個の細胞のうち、赤色蛍光タンパク質が発現された細胞の比を計算することによって行った。各spCas9ウシの赤色蛍光タンパク質の発現比を上のテーブル12に示す。
【1712】
spCas9ベクターは、赤色蛍光タンパク質遺伝子を含むように設計されるので、spCas9遺伝子がspCas9ウシゲノムに挿入されたことが上の結果から予測できる。
【1713】
しかしながら、本発明者は、各spCas9ウシゲノムにおける、spCas9およびFat1遺伝子挿入、ならびに、spCas9およびFat1発現をより正確に確認するために、DNA PCRおよびRT‐PCRを行った。
【1714】
[1‐3‐2‐2 DNA PCRおよびRT‐PCR結果]
DNA抽出キット(DNeasy Blood&Tissue kit 69506、Qiagen、リンブルフ、オランダ)を使用して培養細胞からゲノムDNAを抽出した。spCas9およびFat1に特異的なPCRプライマーと共に抽出されたDNAを使用して、PCR(Eppendorf Vapo Protect Mastercycler、Eppendorf、ドイツ)を実行した。DNA PCRおよびRT‐PCRのプライマーを下のテーブル13に示す。
[テーブル13]
【表13】
【1715】
PCR産物をDNAマーカーと共に1%アガロースゲルにロードした。結果として、spCas9遺伝子がspCas9ウシゲノムに挿入されたことがDNA PCRおよびRT‐PCRによって確認された。
【1716】
図44の(b)は、spCas9ウシを使用するDNA PCR結果を示す(M:分子マーカー、1:SNU‐Cas9‐1(F0)、2:SNU‐Cas9‐2(F0)、3:SNU‐Cas9‐3(F0)、4:SNU‐Cas9‐4(F0)、5:野性型ウシ、(+):ポジティブコントロール(spCas9 DNA)、(‐):ネガティブコントロール群DNA)。
【1717】
図44の(c)は、spCas9ウシを使用するRT‐PCR結果を示す(M:分子マーカー、1:SNU‐Cas9‐1(F0)、2:SNU‐Cas9‐2(F0)、3:SNU‐Cas9‐3(F0)、4:SNU‐Cas9‐4(F0)、5:野性型ウシ、(‐):ネガティブコントロール群DNA)。
【1718】
[1‐3‐2‐3.配列分析(RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを挿入できる遺伝子座)]
【1719】
更に、本発明者は、spCas9ウシ(F0)の配列分析によってspCas9遺伝子の挿入を確認した。配列分析の結果を下のテーブル14に示す。
[テーブル14]
【表14】
【1720】
更に、spCas9遺伝子は、上のテーブルに記載される遺伝子座に加えて、配列識別番号GJ059944.1の位置に挿入できることが確認された。
【1721】
この実験から、spCas9をコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシおよび/または形質転換細胞においてspCas9が継続的に発現される場合でもウシが生存できることが確認された。
【1722】
[1‐3‐3.トランスジェニックウシの必須遺伝子の発現量の変化の確認]
spCas9トランスジェニックウシ(F0)において発現されるspCas9およびFat1が必須遺伝子の発現に影響するかどうかを確認するべく、RNAシーケンシング(RNA‐seq)分析を実行した。RNA‐seq分析のために、spCas9トランスジェニックウシの初代培養細胞からRNAを抽出した。
【1723】
RNA品質は、Agilent RNA 6000 nano kit(Agilent Technologies、米国カリフォルニア州)におけるrRNAバンドインテグリティ分析によって評価された。
【1724】
cDNAライブラリの構築の前に、ポリA mRNAのエンリッチメントのために、2μgのトータルRNA、および、オリゴ(dT)を有する磁気ビードを使用した。
【1725】
その後、精製されたmRNAを短い断片に分解し、二本鎖cDNAを即時に合成した。
【1726】
TruSeq Stranded mRNA試料調製キット(Illumina、米国カリフォルニア州)を使用して、合成されたcDNAを末端修復およびポリ(A)に加え、シーケンシングアダプターと連結した。
【1727】
BluePippin 2%アガロースゲルカセット(Sage Science、米国マサチューセッツ州)によって自動的に精製された適切な断片をPCR増幅の鋳型として選択した。
【1728】
最終ライブラリのサイズおよび品質をAgilent High Sensitivity DNA kit(Agilent Technologies,カリフォルニア州)を使用して電気泳動によって評価し、断片は350~450bpの範囲にあることが分かった。構築されたライブラリは、Illumina HiSeq2500シーケンサー(Illumina、米国カリフォルニア州)によってシーケンシングされた。
【1729】
シーケンシング結果によって識別された低品質の読み取りは、製造業者の指示に従って除いた。除いた読み取りは、アライナーSTAR v.2.3.0e (Dobin et al. 2013)を使用して、ヒト参照ゲノム(Ensemblリリース72, Flicek P. et al., 2013)にマッピングした。
【1730】
遺伝子発現量は、Ensemblリリース72の遺伝子アノテーションデータベースを使用して、Cufflinks v2.1.1 (Trapnell C. et al, 2010)によって測定した。
【1731】
非コード遺伝子領域をマスクオプションで除去した。測定の正確度を増大させるために、複数の読み出し補正およびフラグバイアス補正のオプションを適用し、他のすべてのオプションをデフォルト値に設定した。
【1732】
発現差異分析のために、「‐m intersection‐nonempty」オプションおよび‐rオプションでHTSeq‐count v0.5.4p3 (Anders S. et al. 2014)ツールを使用して、遺伝子量カウントデータを生成し、両方の配列を考慮した。算出されたリードカウントデータに基づいて、TCC(Sun J. et al.,2013)と呼ばれるRパッケージを使用して、DEGを識別した。タグカウントデータを比較するべく、TCCパッケージは、ロバスト正規化手法を適用した。正規化因子は、反復DEGES/edgeR法を使用して算出された。デフォルトパラメータセットと共にRパッケージのp.adjust関数を使用して、p値に基づいてQ値を算出した。差異発現遺伝子のQ値の閾値は0.05未満であることが分かった。
【1733】
Gene Ontology(GO)データベースは、生物学的プロセス(BP)、細胞コンポーネント(CC)、および、分子機能(MF)という3つのカテゴリに従って、遺伝子を分類し、選択された遺伝子の機能を予想する。
【1734】
DEG分析において識別される遺伝子を特徴評価するべく、フィッシャーの正確確率検定(Fisher R. A., 1922)を使用して、GOベースのトレンド試験を実行した。0.001未満のP値を統計的に有意とみなした。
【1735】
上記の方法によるRNA‐seq分析では、必須遺伝子が、変更された発現量を有する遺伝子のリストに含まれなかったことを確認した。すなわち、必須遺伝子は、spCas9の発現に影響されないことが確認された。
【1736】
以下のテーブル15は、spCas9トランスジェニックウシの細胞における発現量の大きい変化を有する10個の遺伝子を開示する(発現量が増加した上位5個の遺伝子、および、発現量が減少した上位5個の遺伝子)。
[テーブル15]
【表15】
【1737】
[1‐4.トランスジェニックウシの子ウシの調製]
[1‐4‐1.トランスジェニックウシの子ウシ]
[1‐4‐1‐1.体外受精(IVF)による子ウシの産生]
卵子は、畜殺場に由来するもの、または、生きているウシの卵巣から取得された。卵丘細胞が付着した卵子は、顕微鏡検査によって選択された。
【1738】
選択された卵子は、組織培地(TCM199)(18‐Nakseongdae R & D center)において22時間にわたって成熟させた。組織培地には、10%血清およびエストロゲン、上皮成長因子、ならびに、1%抗生物質を追加して使用した。
【1739】
22時間成熟させた卵子を凍結解凍させたspCas9ウシ(F0)の精子と受精させた。受精の約16時間後、卵丘細胞を除去し、顕微鏡で受精胚を評価した。
【1740】
評価された胚のうち、生存胚を生体外培養培地に移した。使用した培地には血清を含めなかった(Islam et al., Theriogenology, 2011)。
【1741】
選択された胚は、1期培地で約4日間インキュベートし、2期培地で更に約3日間インキュベートした。次に、胚盤胞の発生を評価した。
【1742】
成長した胚のうち、赤色蛍光タンパク質が発現した胚を識別した。本発明者は、赤色蛍光タンパク質が発現した胚が、Cas9が発現した胚であることを確認した。赤色蛍光タンパク質が発現した胚を選択し、代理母に移植した。これにより、spCas9を発現するウシ(F1)が産生された。
【1743】
[1‐4‐1‐2.自然交配および体細胞核移植を介する子ウシの産生]
spCas9を発現するウシ(F1)は、spCas9雌ウシ(F0)とspCas9雄ウシ(F0)との間の自然交配によって生まれた。
【1744】
spCas9を発現するウシ(F1)の数を増大させるべく、体外受精方法に加えて、体細胞核移植方法が使用され得る。以降、体細胞核移植方法を説明する。
【1745】
畜殺場から取得された卵子を約20~24時間培養した後に、卵丘細胞を酵素(ヒアルロニダーゼ)で物理的に除去し、第1極体および核をマイクロピペットで除去した。
【1746】
追加的に、spCas9を発現するウシ(F1)の耳皮膚線維芽細胞を培地において最大100%まで培養した。
【1747】
電気ショック法を通して、培養されたウシ(F1)の耳皮膚線維芽細胞に除核卵子を融着させた。
【1748】
カルシウムおよび6‐DMAPを通して、融着させた胚を活性化した。活性化後、生存しているクローン胚を上述の血清フリー培地で培養した。
【1749】
[1‐4‐2.トランスジェニック子ウシの必須遺伝子の発現量変化の確認]
上記方法によって産生されるトランスジェニック子ウシのRNA‐seq分析の結果として、発現量が変化した遺伝子のリストに必須遺伝子が含まれなかったことが確認された。すなわち、spCas9の発現は、トランスジェニック子ウシの場合でも、必須遺伝子に影響しない。
【1750】
[2.トランスジェニックウシにおいて発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼを使用する第2遺伝子編集‐ノックアウト]
本発明者は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼを発現する上述のトランスジェニックウシ(spCas9ウシ)に由来する体細胞および受精卵において、標的遺伝子のノックアウトを効果的に誘導できるかどうか確認するための実験を行った。
図45は、spCas9ウシの細胞のゲノムにおける標的遺伝子のノックアウトのための方法を示す。
【1751】
spCas9トランスジェニックウシの細胞におけるCas9活性の有無を確認するべく、ウェブサイト(www.rgenome.net)のプロトコルを使用して、様々な標的遺伝子についてのsgRNAを発現可能なプラスミドベクターを合成した。
【1752】
sgRNAを発現可能なプラスミドベクターを調製するための方法を上述したので、詳細な説明は省略する。
【1753】
下のテーブル16は、様々な標的遺伝子(PRNP遺伝子、ベータラクトグロブリン(BLG)遺伝子、網膜芽細胞腫1(Rb1)遺伝子、Nanog遺伝子、TP53遺伝子、IFNT遺伝子、および、βカゼイン(BCN)遺伝子)についてのsgRNA配列を示す。
【表16】
【1754】
[2‐1.体細胞におけるノックアウト]
本発明者は、spCas9ウシ(F0)の体細胞においてspCas9を発現できたこと、および、標的遺伝子のノックアウトが発生できたことを確認するために、当業者に広く知られているDNA PCR(Eppendorf Vapo Protect Mastercycler、Eppendorf、ドイツ)を使用して、T7エンドヌクレアーゼ1アッセイ(T7E1アッセイ)を行った。
【1755】
上述のsgRNAの各々を発現可能なプラスミドベクターを、spCas9aトランスジェニックウシから単離された線維芽細胞にトランスフェクトし、トランスフェクトされた初代培養細胞を、38℃および5%CO2の培養器において10日間更に培養した。
【1756】
48時間後、培養細胞を回収し、DNA抽出キット(DNeasy Blood & Tissue kit 69506、Qiagen、リンブルフ、オランダ)を使用して、トランスフェクトされた細胞の各々から各細胞のゲノムDNAを抽出した。
【1757】
各抽出されたDNAをPCRチューブに入れ、Direct PCR溶解キットを使用して10μLのバッファを加え、0.5μLのプロテイナーゼKをそれに追加的に加えた。
【1758】
それぞれのDNAを含むPCRチューブをPCR装置において56℃で180分間処理し、85℃で15分間処理し、次に、PRNPフォワードプライマーおよびPRNPリバースプライマーを加えた後に、PCRにかけた。PCR後、10~15μLのPCR産物を取得した。
【1759】
PCR産物を0.2μLのT7エンドヌクレアーゼI(T7E1酵素)および2μLのバッファ(最終体積20μL)と混合し、37℃で約30分間反応させた。反応生成物を電気泳動にかけた。
【1760】
電気泳動の結果、初代培養細胞に存在する上述の標的遺伝子(PRNP遺伝子、ベータラクトグロブリン(BLG)遺伝子、網膜芽細胞腫1(Rb1)遺伝子、Nanog遺伝子、TP53遺伝子、βカゼイン(BCN)遺伝子)のすべてにおいて変異が生じたことが確認された。
【1761】
図46の(a)は、spCas9ウシ線維芽細胞におけるPRNP遺伝子、ベータラクトグロブリン(BLG)遺伝子、網膜芽細胞腫1(Rb1)遺伝子、Nanog遺伝子、TP53遺伝子、βカゼイン(BCN)遺伝子の、DNA PCR産物をT7E1で処理した後の電気泳動の結果を示す。下のテーブル17は、各標的遺伝子のインデルを識別するためのDNA PCRのプライマーを開示する。
[テーブル17]
【表17】
【1762】
追加的に、PRNP遺伝子である標的遺伝子がノックアウトされたことが配列分析を通して確認された。
図46の(b)は、配列分析を通して、spCas9ウシのPRNP遺伝子のインデルを示す。
【1763】
この実験を通して、spCas9が、spCas9ウシの体細胞において発現できること、および、体細胞におけるCRISPR/Cas9系の機能により、標的遺伝子のノックアウトを誘導できることが確認された。
【1764】
[2‐2.体外受精によって産生されたF1受精卵におけるノックアウト]
本発明者は、spCas9ウシの配偶子を使用して体外受精によって産生された受精卵においてspCas9を発現できること、および、発現されたspCas9によって標的遺伝子のノックアウトが生じ得ることを確認するために以下の実験を行った。
【1765】
[2‐2‐1.RNA誘導性エンドヌクレアーゼを発現する受精卵の産生]
SNU‐Cas9‐2から取得された精子と、野性型卵子とを受精させ、受精卵(および/または胚)を産生した。ウシから配偶子を取得する方法、および、体外受精の方法は上述したので、詳細な説明は省略する。
【1766】
体外受精卵(および/または胚)を既知組成培地において7日間培養した。7日後、いくつかの胚盤胞が(モザイク現象無しで)赤色蛍光タンパク質を発現したことが蛍光顕微鏡(ニコン、日本、東京都)で観察された。
【1767】
図47の(a)は、spCas9ウシを使用して産生された桑実胚および胚盤胞における赤色蛍光タンパク質の発現を示す(
図47の(a)を参照、(a‐1):可視光条件における桑実胚、(a‐1'):蛍光条件における桑実胚、(a‐2):可視光条件における胚盤胞、(a‐2'):蛍光条件における胚盤胞)。
【1768】
すなわち、spCas9受精卵のゲノムへのspCas9遺伝子の挿入が視覚的に確認された。
【1769】
[2‐2‐2.sgRNAベクターの胚盤胞へのマイクロインジェクションの結果]
PRNP遺伝子に特異的に結合可能なmRNAの形態のsgRNAを、上述のSNU‐Cas9‐2の精子を使用して体外受精により産生された胚盤胞にマイクロインジェクションした。マイクロインジェクションの方法は上述したので、詳細な説明は省略する。
【1770】
PRNP遺伝子のインデルは、DNA PCR(Eppendorf Vapo Protect Mastercycler、Eppendorf、ドイツ)を介して確認した。
【1771】
DNA PCR分析に使用されるPRNPプライマー(フォワードプライマー:配列識別番号30、リバースプライマー:配列識別番号31)は、テーブル17に開示されている。特異的インデルを確認するためのDNA PCR分析方法を下に記載する。
【1772】
体外受精により取得された胚盤胞にsgRNAをマイクロインジェクションし、8個の最終的に選択胚盤胞されたから抽出されたDNAを各PCRチューブに移植した。Direct PCR溶解キットを使用して、10μlバッファを加え、0.5μlプロテイナーゼKを追加的に加えた。
【1773】
PCRチューブをPCR装置において56℃で180分間処理し、85℃で15分間処理し、次に、PRNPフォワードプライマーおよびPRNPリバースプライマーを加えた後に、PCRにかけた。PCR後、10~15μLのPCR産物を取得した。
【1774】
PCR産物を0.2μLのT7エンドヌクレアーゼI(T7E1酵素)および2μLのバッファ(最終体積20μL)と混合し、37℃で約30分間反応させた。反応生成物を電気泳動にかけた。
【1775】
電気泳動の結果、各胚盤胞から抽出されたDNAのPRNP遺伝子においてインデル頻度を確認した。
【1776】
図47の(b)は、体外受精によって産生された胚盤胞に(PRNP遺伝子を標的化する)sgRNAをマイクロインジェクションした後に、T7E1処理によるPRNP遺伝子のインデル頻度を確認した(
図47の(b)を参照、上:(‐)T7E1、下:(+)T7E1、1:マーカー遺伝子、2~9:sgRNAがマイクロインジェクションされた胚盤胞、10:野性型受精卵、11:PRNP遺伝子)。追加的に、PRNP遺伝子のインデルを、胚盤胞のゲノム配列分析によって確認した。
【1777】
図47の(c)は、体外受精によって産生された胚盤胞に(PRNP遺伝子を標的化する)sgRNAをマイクロインジェクションした後、胚盤胞の配列分析を通して、PRNP遺伝子のインデル結果を示す。
【1778】
上述のいくつかの実験を通して、spCas9ウシの配偶子を使用して産生された受精卵においてspCas9を発現できること、および、発現されたspCas9によって標的遺伝子のノックアウトを誘導できることが確認された。
【1779】
[2‐3.自然交配によって産生された子ウシの細胞におけるノックアウト]
Cas9もspCas9ウシの自然交配によって生まれたウシの細胞において発現されることを確認するべく、本発明者は、ウシの初代培養細胞を単離し、以下の実験を実行した。
【1780】
ウシ(SNU‐Cas9‐F1)は、SNU‐Cas9‐4(雌)とSNU‐Cas9‐2(雄)との間の自然交配によって生まれた。初代培養細胞はSNU‐Cas9‐F1ウシから単離された。
図48の(a)は、赤色蛍光タンパク質が初代培養細胞において均一に発現することを示す。
【1781】
DNAは、DNA抽出キット(DNeasy Blood & Tissue kit 69506、Qiagen、リンブルフ、オランダ)によって初代培養細胞から抽出した。DNA PCRは抽出されたDNAを使用して実行した。Cas9およびFat1に関するDNA PCR結果は陽性であることが示された。
【1782】
図48の(b)は、SNU‐Cas9‐F1ウシの初代培養細胞を使用して取得されたDNA PCR結果を示す(
図48の(b)を参照、1:サイズマーカー、2:spCas9遺伝子、3:ネガティブコントロール群、4:Fat1遺伝子、5:ネガティブコントロール群)。
【1783】
これらの結果を通して、SNU‐Cas9‐F1の初代培養細胞が、F0世代の形質転換遺伝子を含むことが確認された。
【1784】
更に、本発明者は、spCas9ウシの自然交配によって生まれたウシ(F1)の細胞においても標的遺伝子のノックアウトが生じることができたことを確認するために、sgRNAがウシの初代培養細胞にトランスフェクトされた実験を行った。
【1785】
具体的には、DNAは、PRNP遺伝子に特異的に結合できるsgRNAでトランスフェクトされる初代培養細胞から抽出し、抽出されたDNAは、各PCRチューブにロードした。
【1786】
Direct PCR溶解キットを使用して、10μlバッファを加え、0.5μlプロテイナーゼKを追加的に加えた。
【1787】
PCRチューブをPCR装置において56℃で180分間処理し、85℃で15分間処理し、次に、PRNPフォワードプライマーおよびPRNPリバースプライマーを加えた後に、PCRにかけた。PCR後、10~15μLのPCR産物を取得した。
【1788】
PCR産物を0.5~1μLのT7エンドヌクレアーゼIおよび2μLのバッファ(最終体積20μL)と混合し、37℃で約30分間反応させた。反応生成物を電気泳動にかけた。電気泳動の結果、PRNP遺伝子におけるインデル頻度を確認した。
【1789】
図49は、PRNP遺伝子を標的化するsgRNAでトランスフェクトされたSNU‐Cas9‐F1の初代培養細胞のDNA PCRを介して、PRNP遺伝子のインデルを確認する結果を示す(
図49を参照、1:サイズマーカー、2:野性型ウシ、3:SNU‐Cas9‐2ウシ、4:SNU‐Cas9‐F1、5:ネガティブコントロール群、6:ポジティブコントロール群(PRNP遺伝子))。
【1790】
PRNP遺伝子における変異の識別のためにDNA PCR分析に使用されるPRNPプライマーをテーブル17に開示する。
【1791】
この実験を通して、導入遺伝子の子への生殖細胞系伝達、および、トランスジェニック雌ウシの受胎能力を確認した。
【1792】
追加的に、この実験を通して、トランスジェニック子においてspCas9を発現できること、および、発現したspCas9が、細胞または動物において提供されるガイド核酸と複合体を形態でき、それにより、標的遺伝子をノックアウトすることを確認した。
【1793】
標的遺伝子の種類に応じて、様々な効果が見られ得る。例えば、この実験のように、標的遺伝子としてPRNP遺伝子が使用されるとき、狂牛病への耐性を有するウシを産生できる。
【1794】
別の例において、この実験のように、ベータ‐ラクトグロブリン遺伝子を標的遺伝子として使用するとき、アレルゲンを含まない母乳を取得できる。
【1795】
すなわち、spCas9を発現できるトランスジェニックウシは、母乳タンパク質工学に使用できる。
【1796】
[3.トランスジェニックウシにおいて発現されるRNA誘導性エンドヌクレアーゼを使用する第2遺伝子編集‐ノックイン]
本発明者は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼが発現する上述のトランスジェニックウシ(spCas9ウシ)(F0)に由来する細胞においてノックインが効果的に生じ得ることを確認するべく、spCas9‐2A‐GFPを有するウシ胎児から初代培養細胞を取得した。
【1797】
GFP発現が、取得されたspCas9‐2A‐GFP細胞において観察された。標的としてGFP位置でmCherry遺伝子をノックインするための実験を実行した。
【1798】
具体的には、2つの異なる方法、すなわち、1)HITI(3‐2.HITIのための細胞へのベクター挿入)、および、2)HDR(3‐3.HDRのための細胞へのベクター挿入)を使用して、Cas9が発現される細胞においてノックイン実験を実行した。
[3‐1.ベクター構造]
HDRノックインおよびHITIノックインの実験のために、2種類のドナーベクターが調製された。
図50の(a)は、HITIのためのドナーベクターの一部を示す。
【1799】
HITIのためのドナーベクターは、ノックインのために第1標的部位がドナーポリヌクレオチドの5'末端に含まれ、第2標的部位がドナーポリヌクレオチドの3'末端に含まれる構成を有し得る。HITIのためのドナーベクターの配列は、配列識別番号44と同一である(SEQ名:HITI_RFP donor_1)。第1標的部位および第2標的部位は、GFP遺伝子に特異的に結合できるsgRNAに結合でき、改変ヌクレアーゼによって切断され得る。
図50の(b)は、HDRのためのドナーベクターの一部を示す。
【1800】
HDRのためのドナーベクターは、ノックインのために第1相同ヌクレオチド配列(
図50の(b)に記載の5'‐HR)がドナーポリヌクレオチドの5'末端に含まれ、第2相同ヌクレオチド配列(
図50の(b)に記載の3'‐HR)がドナーポリヌクレオチドの3'末端に含まれる構成を有し得る。第1相同ヌクレオチド配列および第2相同ヌクレオチド配列は、ウシアルブミン遺伝子に含まれる配列の一部と同一である。HDRのためのドナーベクターの配列は、配列識別番号45と同一である(SEQ名:HDR_RFP donor_1)。
【1801】
実験において使用されるHDRのためのドナーベクターにおける第1相同ヌクレオチド配列は、配列識別番号45の第1~第532のヌクレオチド配列と同一であり、第2相同ヌクレオチド配列は、配列識別番号45の第2585~第3044のヌクレオチド配列と同一である。
図58は、HDRのドナーベクターの配列(配列識別番号45)を示し、配列全体のうち強調された部分は、第1相同ヌクレオチド配列および第2相同ヌクレオチド配列を表す。
【1802】
[3‐2.HITIにおける細胞へのベクター挿入]
spCas9ウシ(F0)から取得された初代培養細胞は、上記方法によって単離および培養した。spCas9ウシ(F0)の培養された初代培養細胞はトリプシンによって単離された。電気穿孔法によって、GFPに特異的に結合できるsgRNA(1μg)、および、HITIのためのドナーベクター(1μg)で単離細胞(1×105~3×105)をトランスフェクトした。トランスフェクションは、Neonの器具を使用して誘導され、当該器具に含まれるプログラム16がトランスフェクションの条件として適用された。トランスフェクションの12時間後、細胞を新鮮培地で交換し、抗生物質および選択マーカーを使用して、mCherry遺伝子がノックインされた細胞を確認した。
【1803】
図51の(a)は、mCherry遺伝子のノックインを確認するDNA PCR結果を示す。レーン1はマーカー遺伝子を表し、レーン2はspCas9ウシのゲノムDNA(対照群)を表し、レーン3は、HITIのためのドナーベクターでトランスフェクトされた細胞を表し、レーン4は、ネガティブコントロール群を表す。DNA PCRのフォワードプライマー配列は、配列識別番号46(SEQ名:HITI_pr_RFP_F_1)であり、DNA PCRのリバースプライマー配列は、配列識別番号47(SEQ名:HITI_pr_RFP_R_1)である。
【1804】
図51の(b)は、初代培養細胞がHITIのためのドナーベクターでトランスフェクトされたspCas9ウシの初代培養細胞におけるmcherryの発現を確認する結果を示す。
【1805】
[3‐3.HDRのための細胞へのベクター挿入]
spCas9ウシ(F0)から取得された初代培養細胞を、上記方法と同一の方式で単離および培養した。
【1806】
電気穿孔法によって、GFP遺伝子に特異的に結合できるsgRNA(1μg)、および、HDRのためのドナーベクター(1μg)で単離細胞(1×105~3×105)をトランスフェクトした。トランスフェクションは、Neonの器具を使用して誘導され、当該器具に含まれるプログラム16がトランスフェクションの条件として適用された。トランスフェクションの12時間後、細胞を新鮮培地で交換し、抗生物質および選択マーカーを使用して、mCherry遺伝子がノックインされた細胞を確認した。
【1807】
図52の(a)は、mCherry遺伝子のノックインを確認するDNA PCR結果を示す。レーン1はマーカー遺伝子を表し、レーン2はspCas9ウシのゲノムDNA(対照群)を表し、レーン3は、HDRのためのドナーベクターでトランスフェクトされた細胞を表し、レーン4は、ネガティブコントロール群を表す。DNA PCRのフォワードプライマー配列は、配列識別番号48(SEQ名:HDR_pr_RFP_F_1)であり、DNA PCRのリバースプライマー配列は、配列識別番号49(SEQ名:HDR_pr_RFP_R_1)である。
【1808】
図52の(b)は、初代培養細胞がHDRのためのドナーベクターでトランスフェクトされたspCas9ウシの初代培養細胞におけるmcherryの発現を確認する結果を示す。
【1809】
この実験を通して、spCas9は、トランスジェニックウシの細胞において発現できること、および、発現したspCas9が、細胞において提供されるガイド核酸と複合体を形成し、それにより、標的遺伝子にドナーポリヌクレオチドをノックインできることを確認した。
【1810】
標的遺伝子の種類に応じて、様々な効果が見られ得る。例えば、βカゼイン遺伝子が標的遺伝子として使用されるとき、ドナーポリヌクレオチドの種類に応じて、トランスジェニックウシの母乳において様々なタンパク質を発現できる。
【1811】
[3‐4.ドナーがノックインされたspCas9初代培養細胞を使用する体細胞核移植]
本発明者は、上述のHDRおよびHITI法によって調製された初代培養細胞を使用して体細胞核移植を実行した。体細胞核移植方法の説明を上述したので、詳細な説明は省略する。
【1812】
体細胞核移植を通してmCherryが発現された胚が取得されたことが確認された。
【1813】
図53は、mCherry遺伝子がノックインされたゲノムを有するspCas9ウシの初代培養細胞を使用する体細胞核移植を通して産生された胚におけるmCherryの発現を示す。
【1814】
上述の実験方法と同一の実験は、異なる遺伝子を含むドナーベクターを使用して実行できるので、標的タンパク質をコードする遺伝子がノックインされた様々な種類の細胞を正確に調製できる。これは、標的タンパク質を発現するウシの大規模な産生のために使用できる。
【1815】
[実験例5 RNA誘導性エンドヌクレアーゼおよびガイド核酸を発現するトランスジェニックウシ]
【1816】
[1.RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含むベクターの調製]
【1817】
増幅させたspCas9遺伝子、ベータ‐ラクトグロブリン遺伝子(BLG遺伝子)を標的化するsgRNA、および、赤色蛍光タンパク質遺伝子を使用して、最終発現ベクター(以降、spCas9‐sgRNAベクター)を調製した。
図54は、spCas9およびsgRNAを発現するための最終発現ベクターの一部を示す。
【1818】
最終発現ベクターに含まれるsgRNAの配列は、テーブル16に開示される配列識別番号24と同一である。
【1819】
[2.胚の調製(MI)]
ツールボックスをウシゲノムに組み込むための方法、および、その実験条件は、上述の標的タンパク質遺伝子を組み込むための方法、および、その実験条件と同一なので、spCas9およびsgRNAが挿入されたゲノムを有する胚を調製するための方法を簡潔に説明する。
【1820】
上述のように、ウシ卵子は、COCを卵巣から分離し、その後、洗浄することによって採取され、精子は、遠心分離によってウシ精液から分離することによって採取された。
【1821】
採取された卵子と精子との間の体外受精によって取得された受精卵から卵丘細胞を除去後、マイクロインジェクター装置(Femtojet,Eppendorf,ドイツ)を使用して、上述のspCas9‐sgRNAベクターおよびトランスポザーゼベクターを細胞質にマイクロインジェクションした(spCas9‐sgRNAベクターおよびトランスポザーゼは各々50ng/mL、1:1の比率)。
【1822】
赤色蛍光タンパク質の発現を、マイクロインジェクション後に産生された胚(spCas9‐sgRNA胚)において視覚的に確認され、トランスジェニックウシは胚を使用して調製された。
【1823】
[3.トランスジェニックウシの調製]
[3‐1.トランスジェニックウシ]
形質転換胚を代理母の子宮に移植するための方法、および、その実験条件は上述したので、以降、トランスジェニックウシを産生するための方法を簡潔に説明する。
【1824】
上記の方法によって産生されたspCas9‐sgRNA胚は、分娩後発情の45日目に代理母の子宮に移植された。胚の生存、および、代理母の妊娠は、直腸検査および超音波検査によって確認された。
【1825】
spCas9遺伝子およびsgRNAが挿入されたゲノムを有するトランスジェニックウシ(SNU‐Cas9‐BLG‐KO‐1)(雄)が代理母から生まれ、SNU‐Cas9‐BLG‐KO‐1(雄)から精子が取得された。
【1826】
[3‐2.RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのトランスジェニックウシゲノムへの挿入の有無の確認]
【1827】
[3‐2‐1.蛍光タンパク質発現の確認]
初代培養細胞は、上述の初代培養細胞単離法によって、SNU‐Cas9‐BLG‐KO‐1(雄)の皮膚組織から単離され、赤色蛍光タンパク質の発現は、初代培養細胞から確認された。
【1828】
図55の(a)は、SNU‐Cas9‐BLG‐KO‐1の初代培養細胞における赤色蛍光タンパク質の発現を示す(
図55の(a)を参照、左:可視光条件、右:蛍光条件)。
【1829】
spCas9‐sgRNAベクターは、赤色蛍光タンパク質遺伝子を含むように設計され、上の結果から、spCas9遺伝子およびsgRNAをコードするポリヌクレオチドがSNU‐Cas9‐BLG‐KO‐1(雄)のゲノムに挿入されたことが視覚的に確認された。
【1830】
[3‐2‐2.DNA PCRおよびRT‐PCRの結果]
spCas9遺伝子およびsgRNAをコードするポリヌクレオチドをSNU‐Cas9‐BLG‐KO‐1(雄)のゲノムへの挿入の有無は、DNA PCRおよびRT‐PCR(Eppendorf Vapo Protect Mastercycler,Eppendorf,ドイツ)を使用して確認された。DNA PCRおよびRT‐PCRを実行するために使用されたプライマーを下のテーブル18において示す。
[テーブル18]
【表18】
【1831】
DNA PCRおよびRT‐PCR法は上述したので、その詳細な説明は省略する。
【1832】
[3‐2‐3.ベータラクトグロブリンにおけるインデルの確認]
全ゲノムDNAが、G‐spin(登録商標)トータルDNA抽出ミニキット(iNtRON、ソウル、韓国)によって、SNU‐Cas9‐BLG‐KO‐1(雄)の線維芽細胞から単離された。
【1833】
β‐ラクトグロブリン遺伝子の変異が、単離された全ゲノムDNAを使用いて、蛍光PCR(fPCR)によって確認された。
【1834】
図55の(b)は、fPCRを使用する、SNU‐Cas9‐BLG‐KO‐1の線維芽細胞におけるベータ‐ラクトグロブリン遺伝子のノックアウトを確認する結果を示す(
図55の(b)を参照、左:野性型ウシ線維芽細胞、右:BLGがノックアウトされた線維芽細胞)。
【1835】
ベータ‐ラクトグロブリン遺伝子における変異を確認するためのプライマーを下のテーブル19において開示する。
[テーブル19]
【表19】
【1836】
この実験を通して、spCas9およびガイド核酸の両方を発現できるトランスジェニックウシの場合、更なる処理が適用されなくても、ガイド核酸の一領域と同一または相補的である配列を含む標的遺伝子をノックアウトできることが確認された。
【1837】
追加的に、標的遺伝子がノックアウトされても、形質転換細胞、トランスジェニック胚、および/またはトランスジェニック動物は生存できることが確認された。
【1838】
標的遺伝子の種類に従って様々な効果が現れ得る。特に、ベータラクトグロブリン(BLG)遺伝子がこの実験における標的遺伝子として使用される場合、アレルゲンを含まない母乳を取得できる。すなわち、spCas9および/またはガイド核酸を発現できるトランスジェニックウシは、母乳タンパク質工学において利用できる。
【1839】
更に、spCas9およびガイド核酸が継続的に発現されるときでも、形質転換細胞、トランスジェニック胚および/またはトランスジェニック動物は生存できることが確認された。
【1840】
[実験例6 RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現が発現調節因子によって調節されるトランスジェニックウシ]
【1841】
本発明者は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントの発現を調節できるウシ初代培養細胞を調製し、ウシ初代培養細胞において遺伝子編集を調節できることを確認した。
【1842】
[1.ベクターの調製]
改変ヌクレアーゼのコンポーネントの発現を調節できるウシの初代培養細胞を産生するためのベクターを調製した。
【1843】
図56を参照して、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節できるベクターを説明する。
【1844】
ベクターは、spCas9 DNA(Toolgenが提供)の5'末端の方向に[loxP‐緑色蛍光タンパク質遺伝子‐ポリA‐loxP]を含む。[loxP‐緑色蛍光タンパク質遺伝子‐ポリA‐loxP]が切除されるまで、Cas9の発現は生じない。
【1845】
図56において開示されるsgRNAは、標的遺伝子としてTP53遺伝子を有し、sgRNAの配列は、配列識別番号27(GCGCGGACGCGGGTGCCGGGCGG)と同一である。
【1846】
[2.RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節できるウシ細胞の調製]
本発明者は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節できるウシ細胞を産生するべく、野性型ウシから線維芽細胞を単離した。
【1847】
ウシ線維芽細胞を単離するための方法を実験例1において上述したが、詳細な説明は省略する。
【1848】
単離された線維芽細胞を6ウェルプレートに分注した。細胞が約50~60%のコンフルエンシーに到達したとき、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節できる上述のベクター(
図56の(a)を参照)(以降、発現調節ベクター)がトランスフェクトされた。
【1849】
緑色蛍光タンパク質の発現が、発現調節ベクターでトランスフェクトされたウシ細胞において確認された。緑色蛍光タンパク質の発現が確認されたウシ細胞が選択された。
【1850】
緑色蛍光タンパク質遺伝子が発現調節ベクターに含まれるので、緑色蛍光タンパク質が発現されるウシ細胞は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼの発現を調節できるウシ細胞(以降、発現調節可能細胞)である。
【1851】
[3.形質転換細胞におけるT7E1アッセイの結果]
上記方法によって調製された発現調節可能細胞に関して、Creリコンビナーゼ(発現調節因子に影響する物質)で発現調節可能細胞を処理したときだけ遺伝子編集が生じ得ることを確認するべく、本発明者は、Creリコンビナーゼで発現調節可能細胞を処理した。次に、Creリコンビナーゼで処理した発現調節可能細胞、および、Creリコンビナーゼで処理していない発現調節可能細胞に関して、DNA PCRおよびT7E1アッセイを実行した。
【1852】
Creリコンビナーゼで処理されていない発現調節可能細胞からDNAを抽出し、次に、抽出されたDNA(試料1)をPCRチューブに移した。追加的に、Creリコンビナーゼで処理された発現調節可能細胞からDNAを抽出し、次に、抽出されたDNA(試料2)をPCRチューブに移した。更に、ネガティブコントロール群として、DNAを含まない蒸留水をPCRチューブにロードした。
【1853】
ポジティブコントロール群として、spCas9 DNAおよびsgRNAをコードするポリヌクレオチドが挿入されたゲノムを有するウシの初代培養細胞からDNAを抽出し、[loxP‐緑色蛍光タンパク質遺伝子‐ポリA‐loxP2772](すなわち、発現調節因子)(
図56の(b)を参照)を含まないベクターでトランスフェクトし、次に、抽出されたDNA(ポジティブコントロール群)をPCRチューブに移した。
【1854】
Direct PCR溶解キットを使用して、試料1、試料2、ネガティブコントロール群の試料、ポジティブコントロール群の試料を含むPCRチューブの各々に、10μLのバッファを加え、次に、0.5μLのプロテイナーゼKをPCRチューブの各々に追加的に加えた。
【1855】
PCRチューブの各々をPCR装置において56℃で180分間処理し、85℃で15分間処理し、次に、PRNPフォワードプライマーおよびPRNPリバースプライマーを加えた後に、PCRにかけた。PCR後、PCR産物を各々10~15μL取得した。
【1856】
PCR産物の各々を0.5~1μLのT7エンドヌクレアーゼIおよび2μLのバッファ(最終体積20μL)と混合し、37℃で約30分間反応させた。反応生成物を電気泳動にかけた。
【1857】
結果として、Creリコンビナーゼで発現調節可能細胞を処理したとき、標的遺伝子においてインデルが生じたことが確認された。
【1858】
図57は、Creリコンビナーゼで処理されていない発現調節可能細胞、および、Creリコンビナーゼで処理された発現調節可能細胞における標的遺伝子のインデルを確認するDNA PCR結果を示す(
図57を参照、1:サイズマーカー、2:ネガティブコントロール群、3:Creリコンビナーゼで処理されていない発現調節可能細胞、4:Creリコンビナーゼで処理された発現調節可能細胞、5:ポジティブコントロール群)。
【1859】
この実験を通して、本発明者は、改変ヌクレアーゼのコンポーネントの発現を調節できる発現調節因子が挿入されたゲノムを有するウシまたはウシの細胞が使用されるとき、遺伝子編集が希望時間に達成されるように調節できることを確認した。
【1860】
[参照番号]
100、320、340:ツールボックス
101、107、201、207、322、329、343、349、361、367、371、379、701、705、801、808、901、906:ITR配列
102、103、132、363、373::RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド
104、105、134、365、375、377:ガイド核酸をコードするポリヌクレオチド
110:改変ヌクレアーゼのコンポーネントをコードするポリヌクレオチド
130、130(a)、130(b):発現調節因子
202、203、204、205、206:PAM配列を有するポリヌクレオチド
210、220、230、240:染色体
231、420、430:標的部位
232、232(a)、232(b)、423、433:ドナーポリヌクレオチド
401:受精卵
403、405、407、409、411、413、415、417:胚
704、706、804、807、905:トランスポザーゼをコードするポリヌクレオチド
700(b)、800(b):切除ツールボックス
909、911:リコンビナーゼをコードするポリヌクレオチド
【1861】
[産業上の利用可能性]
遺伝子編集ツールをコードする遺伝子が挿入されるゲノムを有するトランスジェニック動物が使用されるとき、遺伝子がノックインまたはノックアウトされる動物をより効率的に調製できる。
【1862】
例えば、トランスジェニック動物において発現される遺伝子編集ツールを使用して、標的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニック動物を調製できる。この場合、トランスジェニック動物をバイオリアクターとして利用できる。
【1863】
別の例において、トランスジェニック動物において発現される遺伝子編集ツールを使用して、特異的な遺伝子がノックアウトされたゲノムを有するトランスジェニック動物を調製できる。この場合、疾患動物モデルまたは品種改良動物として、トランスジェニック動物が使用され得て、特に、トランスジェニック動物が大型動物である場合、トランスジェニック動物は、標的タンパク質を産生するためのバイオリアクターとして使用されるとき、または、疾患動物モデルとして使用されるとき、より良い産業上の利用可能性を有し得る。
【1864】
更に、遺伝子編集ツールをコードする遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニック細胞、胚および動物は、プラットフォーム技術として使用できる。
【1865】
例えば、遺伝子編集ツールをコードする遺伝子が挿入されたゲノムを有するトランスジェニック細胞、胚および動物は、様々な種類の遺伝子をノックインするために使用でき、トランスジェニック細胞、胚および動物は、様々な標的タンパク質を産生するために使用できる。
【1866】
[配列表フリーテキスト]
配列識別番号1~配列識別番号4、配列識別番号7~配列識別番号12、配列識別番号15、配列識別番号16~配列識別番号22、配列識別番号30~配列識別番号43、配列識別番号47~配列識別番号56はプライマー配列を示す。
【1867】
配列識別番号5、配列識別番号6、配列識別番号13および配列識別番号14はトランスポゾン遺伝子の配列を示す。配列識別番号23~配列識別番号29はガイド核酸の配列を示す。配列識別番号45~配列識別番号46は、ドナーベクターの配列を示す。
【1868】
[項目1]
トランスジェニック動物であって、
第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、
第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞と
を備え、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に対する特異的結合が可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、特に、
標的部位は、トランスジェニック動物のエンドポリヌクレオチド、または、トランスジェニック動物のゲノムに含まれるエクソポリヌクレオチドであり、第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置し、
第1ツールボックスは、第1細胞のゲノムの第1遺伝子座に存在し、
第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、
第1遺伝子座は第2遺伝子座と異なる、
トランスジェニック動物。
[項目2]
第1ツールボックスの配列および第2ツールボックスの配列は同一である、項目1に記載のトランスジェニック動物。
[項目3]
第1細胞は、第1細胞のゲノムにおいて第3ツールボックスを更に含み、第3ツールボックスの配列は第1ツールボックスの配列と同一である、項目1または2に記載のトランスジェニック動物。
[項目4]
第2細胞は、第2細胞のゲノムにおいて、第4ツールボックスを更に含み、第4ツールボックスの配列は第2ツールボックスの配列と同一である、項目1から3のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物。
[項目5]
第1細胞は、第1細胞のゲノムにおいて第3ツールボックスを更に含み、第3ツールボックスの配列は、第1ツールボックスの配列と同一である、項目4に記載のトランスジェニック動物。
[項目6]
第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスの5'末端および3'末端においてITR配列を含む、項目1から5のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物。
[項目7]
トランスジェニック動物は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないゲノムを有する第3細胞を更に含む、項目1から6のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物。
[項目8]
トランスジェニック動物であって、
第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、
第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞と、
を備え、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位への特異的結合が可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、特に、
標的部位は、トランスジェニック動物のエンドポリヌクレオチド、または、トランスジェニック動物のゲノムに含まれるエクソポリヌクレオチドであり、第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置し、
第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と異なり、
第1ツールボックスは、第1細胞のゲノムの第1遺伝子座に存在し、
第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、
第1遺伝子座は、第2遺伝子座と同一である、
トランスジェニック動物。
[項目9]
第1細胞は、第1細胞のゲノムにおいて第3ツールボックスを更に含み、第3ツールボックスの配列は、第1ツールボックスの配列と同一である、項目8に記載のトランスジェニック動物。
[項目10]
第2細胞は、第2細胞のゲノムにおいて、第4ツールボックスを更に含み、第4ツールボックスの配列は第2ツールボックスの配列と同一である、項目8または9に記載のトランスジェニック動物。
[項目11]
第1細胞は、第1細胞のゲノムにおいて第3ツールボックスを更に含み、第3ツールボックスの配列は、第1ツールボックスの配列と同一である、項目10に記載のトランスジェニック動物。
[項目12]
第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスの5'末端および3'末端においてITR配列を含む、項目8から11のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物。
[項目13]
トランスジェニック動物は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないゲノムを有する第3細胞を更に含む、項目8から12のいずれか一項に記載のトランスジェニック動物。
[項目14]
トランスジェニック胚であって、
第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、
第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞と
を備え、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位に対する特異的結合が可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、特に、
標的部位は、トランスジェニック胚のエンドポリヌクレオチド、または、トランスジェニック胚のゲノムに含まれるエクソポリヌクレオチドであり、第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置し、
第1ツールボックスは、第1細胞のゲノムの第1遺伝子座に存在し、
第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、
第1遺伝子座は第2遺伝子座と異なる、
トランスジェニック胚。
[項目15]
第1ツールボックスの配列および第2ツールボックスの配列は同一である、項目14に記載のトランスジェニック胚。
[項目16]
第1細胞は、第1細胞のゲノムにおいて第3ツールボックスを更に含み、第3ツールボックスの配列は、第1ツールボックスの配列と同一である、項目14または15に記載のトランスジェニック胚。
[項目17]
第2細胞は、第2細胞のゲノムにおいて、第4ツールボックスを更に含み、第4ツールボックスの配列は第2ツールボックスの配列と同一である、項目14から16のいずれか一項に記載のトランスジェニック胚。
[項目18]
第1細胞は、第1細胞のゲノムにおいて第3ツールボックスを更に含み、第3ツールボックスの配列は、第1ツールボックスの配列と同一である、項目17に記載のトランスジェニック胚。
[項目19]
第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスの5'末端および3'末端においてITR配列を含む、項目14から18のいずれか一項に記載のトランスジェニック胚。
[項目20]
トランスジェニック胚は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないゲノムを有する第3細胞を更に含む、項目14から19のいずれか一項に記載のトランスジェニック胚。
[項目21]
トランスジェニック胚であって、
第1ツールボックスを含むゲノムを有する第1細胞と、
第2ツールボックスを含むゲノムを有する第2細胞と
を備え、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、標的部位への特異的結合が可能なガイド核酸をコードするポリヌクレオチドのうち少なくとも1つを含み、特に、
標的部位は、トランスジェニック胚のエンドポリヌクレオチド、または、トランスジェニック胚のゲノムに含まれるエクソポリヌクレオチドであり、第1ITR配列と第2ITR配列との間に位置し、
第1ツールボックスの配列は、第2ツールボックスの配列と異なり、
第1ツールボックスは、第1細胞のゲノムの第1遺伝子座に存在し、
第2ツールボックスは、第2細胞のゲノムの第2遺伝子座に存在し、
第1遺伝子座は、第2遺伝子座と同一である、
トランスジェニック胚。
[項目22]
第1細胞は、第1細胞のゲノムにおいて第3ツールボックスを更に含み、第3ツールボックスの配列は、第1ツールボックスの配列と同一である、項目21に記載のトランスジェニック胚。
[項目23]
第2細胞は、第2細胞のゲノムにおいて、第4ツールボックスを更に含み、第4ツールボックスの配列は第2ツールボックスの配列と同一である、項目21または22に記載のトランスジェニック胚。
[項目24]
第1細胞は、第1細胞のゲノムにおいて第3ツールボックスを更に含み、第3ツールボックスの配列は、第1ツールボックスの配列と同一である、項目23に記載のトランスジェニック胚。
[項目25]
第1ツールボックスおよび第2ツールボックスはそれぞれ、第1ツールボックスおよび第2ツールボックスの5'末端および3'末端においてITR配列を含む、項目21から24のいずれか一項に記載のトランスジェニック胚。
[項目26]
トランスジェニック胚は、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、および、ガイド核酸をコードするポリヌクレオチドを含まないゲノムを有する第3細胞を更に含む、項目21から25のいずれか一項に記載のトランスジェニック胚。
【1869】
[項目1]
目的のタンパク質を発現するトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法であって、前記方法は、
標的エクソポリヌクレオチドを含むゲノムを有する有蹄動物の胚または受精卵を調整することと、
前記標的エクソポリヌクレオチドのいくつかの核酸配列に結合することができるドナーおよびガイド核酸を調整することと、
前記ドナーおよび前記ガイド核酸を、調整された前記受精卵または前記胚にマイクロインジェクションして、修飾された標的エクソポリヌクレオチドを含むゲノムを有する有蹄動物の胚または受精卵を生成することと、
前記有蹄動物の胚または前記受精卵を代理母に移植することと、を備え、
前記標的エクソポリヌクレオチドは、RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする核酸、および外因性配列であるガイド核酸結合配列(標的配列)を含み、
前記ガイド核酸は、前記標的エクソポリヌクレオチドに存在する前記ガイド核酸結合配列(標的配列)と相補的結合を形成するガイドRNAであり、
前記ガイド核酸は、RNA配列、または前記ガイドRNAをコードするDNA配列を含むベクターとしてマイクロインジェクションされ、
前記ドナーは、前記目的のタンパク質をコードする核酸を含み、前記ドナーは、ベクターの形態であり、
前記トランスジェニック有蹄動物は、ゲノムにおいて、前記目的のタンパク質をコードする前記核酸を含み、前記目的のタンパク質をコードする前記核酸が、前記標的エクソポリヌクレオチドが修飾されるように前記標的エクソポリヌクレオチドに挿入され、
これにより、前記トランスジェニック有蹄動物は、前記ゲノムに挿入された前記目的のタンパク質をコードする前記核酸によって、前記目的のタンパク質を発現する、
トランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目2]
前記有蹄動物の胚または前記受精卵は、標的エクソポリヌクレオチドを含むゲノムを有する卵、または、標的エクソポリヌクレオチドを含むゲノムを有する精子によって産生される、
項目1に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目3]
前記RNA誘導性エンドヌクレアーゼは、Cas9タンパク質、Cpf1タンパク質、またはこれらの変異体である、
項目1または2に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目4]
前記ガイド核酸は、前記RNA誘導性エンドヌクレアーゼと複合体を形成することができる、
項目1から3のいずれか一項に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目5]
前記ガイド核酸結合配列(標的配列)は、前記RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする前記核酸に存在するいくつかの配列であり、
前記標的エクソポリヌクレオチドは、別個のガイド核酸結合配列(標的配列)を含まない、
項目1から4のいずれか一項に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目6]
前記目的のタンパク質をコードする前記核酸は、前記トランスジェニック有蹄動物の前記RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする前記核酸に挿入され、
これにより、前記RNA誘導性エンドヌクレアーゼをコードする前記核酸が修飾される、
項目5に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目7]
前記トランスジェニック有蹄動物は、前記RNA誘導性エンドヌクレアーゼを発現しない、
項目6に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目8]
前記ガイド核酸結合配列(標的配列)は、前記標的エクソポリヌクレオチドに含まれる非転写ポリヌクレオチド配列である、
項目1から4のいずれか一項に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目9]
前記標的エクソポリヌクレオチドは、前記ガイド核酸の一部を含み、
前記ガイド核酸の一部は、プロトスペーサードメインである、
項目1から4のいずれか一項に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目10]
前記ガイド核酸結合配列(標的配列)は、前記標的エクソポリヌクレオチドに含まれる前記プロトスペーサードメインに位置する、
項目9に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目11]
前記目的のタンパク質をコードする前記核酸は、前記トランスジェニック有蹄動物の前記プロトスペーサードメインに挿入され、
これにより、前記プロトスペーサードメインが修飾される、
項目10に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目12]
前記ドナーは、前記ガイド核酸と同時に提供される、
項目1から11のいずれか一項に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
[項目13]
前記ドナーおよび前記ガイド核酸は、1つのベクターに含まれる形態で提供される、
項目12に記載のトランスジェニック有蹄動物を作成するための方法。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-02-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野性型ウシ動物では天然には発現しない目的のタンパク質を発現するトランスジェニックウシ動物を作成するための方法であって、前記方法は、
ゲノムが標的遺伝子およびCas9タンパク質をコードする配列を含むポリヌクレオチドを有するウシの受精卵またはウシの胚を調整することと、
ガイドRNAまたは前記ガイドRNAをコードする核酸、および前記目的のタンパク質をコードする核酸を含むドナーを、調整された前記受精卵または前記胚に導入して、前記目的のタンパク質をコードする前記核酸を前記標的遺伝子に挿入することと、
ゲノムが前記目的のタンパク質をコードする前記核酸を含むトランスジェニックウシ受精卵またはトランスジェニックウシ胚を得ることと、
前記トランスジェニックウシ受精卵またはトランスジェニックウシ胚を代理母の子宮に移植することと、備え、
前記ガイドRNAは、前記標的遺伝子の一部に結合することができ、かつ、調整されたウシの前記受精卵またはウシの前記胚において発現される前記Cas9タンパク質と複合体を形成することができ、前記複合体は前記標的遺伝子の中で切断を誘導することができ、
作成された前記トランスジェニックウシ動物は、前記標的遺伝子に挿入された前記目的のタンパク質をコードする前記核酸を有する、方法。
【請求項2】
調整された前記胚が前記Cas9タンパク質を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Cas9タンパク質が、ストレプトコッカス ピオゲネス由来のCas9タンパク質(SpCas9タンパク質)、またはその変異体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記標的遺伝子がセーフハーバーサイトに位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標的遺伝子が、PRNP遺伝子、ベータラクトグロブリン(BLG)遺伝子、網膜芽細胞腫1(Rb1)遺伝子、Nanog遺伝子、TP53遺伝子、前記Cas9タンパク質をコードする前記配列を含む前記ポリヌクレオチド、IFNT遺伝子、アルブミン遺伝子、およびベータカゼイン(BCN)遺伝子からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記目的のタンパク質が、アルブミン、インターロイキン、インスリン、エリスロポエチン、抗体、または前記抗体の断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体の前記断片が、ガンマ鎖、デルタ鎖、アルファ鎖、ミュー鎖、イプシロン鎖、カッパ鎖、またはラムダ鎖である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
調整されたウシの前記受精卵またはウシの胚が、卵子と精子との間の体外受精により生成され、前記卵子または前記精子は、前記標的遺伝子および前記Cas9タンパク質をコードする前記配列を含む前記ポリヌクレオチドを含むゲノムを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記導入することは、マイクロインジェクションまたはエレクトロポレーションにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ガイドRNAをコードする前記核酸または前記ドナーを、プラスミドベクターまたはウイルスベクターに組み込むことによりウシの前記受精卵またはウシ胚に導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
野性型ウシ動物では天然には発現しない目的のタンパク質を発現するトランスジェニックウシ動物であって、前記トランスジェニックウシ動物のゲノムは、Cas9タンパク質をコードする配列と、前記目的のタンパク質をコードする核酸とを含むポリヌクレオチドを有する、トランスジェニックウシ動物。
【請求項12】
前記トランスジェニックウシ動物が、前記Cas9タンパク質を発現する、請求項11に記載のトランスジェニックウシ動物。
【請求項13】
前記Cas9タンパク質が、ストレプトコッカス ピオゲネス由来のCas9タンパク質(spCas9タンパク質)、またはその変異体である、請求項11に記載のトランスジェニックウシ動物。
【請求項14】
前記目的のタンパク質が、アルブミン、インターロイキン、インスリン、エリスロポエチン、抗体、または前記抗体の断片である、請求項11に記載のトランスジェニックウシ動物。
【請求項15】
前記抗体の前記断片が、ガンマ鎖、デルタ鎖、アルファ鎖、ミュー鎖、イプシロン鎖、カッパ鎖、またはラムダ鎖である、請求項14に記載のトランスジェニックウシ動物。
【外国語明細書】