(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024045852
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】近接検知装置および近接検知方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/48 20060101AFI20240327BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20240327BHJP
H01L 31/12 20060101ALI20240327BHJP
H03K 17/78 20060101ALI20240327BHJP
G01S 7/489 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
G01S17/48
G01S7/481 Z
H01L31/12 E
H03K17/78 Q
G01S7/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022150903
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】伊知川 禎一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌平
【テーマコード(参考)】
5F889
5J050
5J084
【Fターム(参考)】
5F889BB02
5F889BC07
5F889BC25
5F889BC29
5F889CA04
5F889FA06
5J050AA11
5J050BB17
5J050EE31
5J050EE39
5J050FF04
5J050FF10
5J084AA04
5J084AB07
5J084AC02
5J084AD03
5J084BA04
5J084BA05
5J084BA20
5J084BA36
5J084BA38
5J084BA39
(57)【要約】
【課題】 発光素子からの光漏れによる検知不良を回避することができる近接検知装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る近接検知装置100は、複数の発光素子110と、複数の受光素子120と、複数の発光素子110を順次駆動する駆動回路130と、複数の発光素子110が順次駆動されたとき、対応する受光素子120の受光信号を測定する測定回路140と、発光素子と受光素子間の距離が相対的に近い測定のとき、発光素子の発光量が抑制されるように発光素子の駆動電流を制御し、かつ抑制された発光量が補償されるように受光素子の検知信号を増幅する制御部150とを有する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子からの光で物体を照射し、その反射光を受光素子で受光することにより物体の近接を検知する近接検知装置であって、
複数の発光素子と、
複数の受光素子と、
前記複数の発光素子を順次駆動する駆動手段と、
前記複数の発光素子が順次駆動されたとき、対応する受光素子から出力される検知信号を測定する測定手段と、
発光素子と受光素子間の距離が相対的に近い測定のとき、当該発光素子の発光量が抑制されるように発光素子の駆動電流を制御し、かつ抑制された発光量が補償されるように受光素子の検知信号を増幅する制御手段と、
を有する近接検知装置。
【請求項2】
複数の発光素子と複数の受光素子は概ね直線状に配置され、受光素子の一方の側には第1の発光素子が配置され、他方の側には第2の発光素子が配置され、第1の発光素子と当該受光素子間の距離は、第2の発光素子と当該受光素子間の距離よりも小さい、請求項1に記載の近接検知装置。
【請求項3】
前記制御手段は、第1の発光素子の発光量を抑制し、かつ第1の発光素子の駆動に対応する受光素子の検知信号を増幅する、請求項2に記載の近接検知装置。
【請求項4】
前記測定手段は、第1の発光素子と第2の発光素子に共通の受光素子から出力される検知信号を測定する、請求項2に記載の近接検知装置。
【請求項5】
発光素子は赤外光を発光し、受光素子は赤外光を受光し、複数の発光素子と複数の受光素子の上方には、赤外光を透過するが外部からの可視光を遮断する光学部材が配置される、請求項2に記載の近接検知装置。
【請求項6】
複数の発光素子と複数の受光素子が基板上に実装され、当該基板と前記光学部材との間には、遮光性のある仕切り部材によって複数の内部空間が形成され、1つの受光素子は、1つの内部空間内に配置される、請求項2に記載の近接検知装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記検知信号を増幅する増幅器を含む、請求項1に記載の近接検知装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記検知信号をソフトウェア処理により増幅する、請求項1に記載の近接検知装置。
【請求項9】
発光素子からの光で物体を照射し、その反射光を受光素子で受光することにより物体の近接を検知する近接検知方法であって、
複数の発光素子を順次駆動するステップと、
前記複数の発光素子が順次駆動されたとき、対応する受光素子から出力される検知信号を測定するステップと、
発光素子と受光素子間の距離が相対的に近い測定のとき、当該発光素子の発光量が抑制されるように発光素子の駆動電流を低下させるステップと、
抑制された発光量が補償されるように受光素子の検知信号を増幅するステップと、
を含む近接検知方法。
【請求項10】
前記増幅するステップは、ソフトウェアによって処理される、請求項9に記載の近接検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の近接の有無を検知する近接検知装置に関し、特に、タッチパネル式ディスプレイ等の電子機器に取り付けられた近接検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネル式ディスプレイを用いた入力やジェスチャ入力等の実用化に伴い車載ディスプレイへの近接検知装置の搭載が増加している。近接検知装置は、例えば、赤外光を発光する赤外LEDとフォトダイオード等の受光素子とを用い、赤外光で物体を照射し、その反射光を受光することで物体の近接を検知する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に車載ディスプレイへの近接検知装置の搭載例を示す。運転席と助手席との間の中央部のセンターコンソール2内に、タッチパネル式のディスプレイ1が配置され、ディスプレイ1には、ドライバまたは同乗者のジェスチャ操作等を検知するための近接検知装置が搭載される。近接検知装置は、
図1(B)に示すように、ディスプレイ1の下部に近接検知ユニットを含み、近接検知ユニット内に4つの発光素子LED1、LED2、LED3、LED4と、2つの受光素子PD1、PD2とが設けられる(これらを総称するとき、発光素子LED、受光素子PDという)。発光素子LEDおよび受光素子PDは、ディスプレイ1の下部に概ね直線状に配置され、発光素子LED1とLED2との間に受光素子PD1が配置され、LED3とLED4との間に受光素子PD2が配置される。発光素子LEDは、赤外線を発光する発光ダイオードであり、受光素子PDは、赤外線の反射光を受光するフォトダイオードまたはフォトトランジスタである。
【0005】
発光素子LEDは、ディスプレイ1の前面に赤外光を照射し、ディスプレイ1の前面にユーザーの操作対象(手や指など)4が接近すると、発光素子LEDからの照射光5が操作対象4で反射され、その反射光が受光素子PDで受光され、操作対象4の近接が検知される。
【0006】
図2に、発光素子LEDおよび受光素子PDの動作タイミングを示す。発光素子LED1、LED2、LED3、LED4は、それぞれの発光が重複しないように、時刻t1、t2、t3、t4のタイミングで順次駆動される。受光素子PD1は、発光素子LED1および発光素子LED2の発光期間と同期するタイミングで受光するように制御され、受光素子PD2は、発光素子LED3および発光素子LED4の発光期間と同期するタイミングで受光するように制御される。つまり、発光素子LED1を発光させたときの反射光が受光素子PD1によって測定され(LED1→PD1)、発光素子LED2を発光させたときの反射光が受光素子PD1によって測定され(LED2→PD1)、発光素子LED3を発光させたときの反射光が受光素子PD2によって測定され(LED3→PD2)、発光素子LED4を発光させたときの反射光が受光素子PD2によって測定され(LED4→PD2)、こうした4回の測定を1回のサイクルとして動作する。
【0007】
発光素子と受光素子との間隔をほぼ等しくなるように配置した場合、画面の前方で操作対象4を水平に移動させたときの1サイクル中の受光素子PD1、PD2の検知レベルは、
図3に示すように概ね同等なものとなる。このような近接検知機能を有するディスプレイでは、各々の発光素子LEDを発光した際に検知される反射光の分布を基に、操作対象4の水平位置を推定することができる。
【0008】
図4(A)は、P1、P2に位置する操作対象4を例示し、
図4(B)は、操作対象4が画面左側の位置P1に接近するときの受光素子PDの検知レベルを示し、
図4(C)は、操作対象4が画面右側の位置P2に接近するときの受光素子PDの検知レベルを示し、
図4(D)は、操作対象4の水平方向の推定位置Gを示している。
【0009】
位置P1は、発光素子L1の近傍であり、それ故、発光素子LED1を発光したときの受光素子PD1の検知レベルが最も大きく、発光素子LED2、LED3、LED4を発光したときの検知レベルが徐々に小さくなる。また、位置P2は、発光素子L4の近傍であり、それ故、発光素子LED4を発光したときの検知レベルが最も大きく、発光素子LED3、LED2、LED1を発光したときの検知レベルが徐々に小さくなる。
【0010】
このような検知レベルの分布から検知物の水平位置を定量化する手段としては、一般に重心計算法が有効である。この計算方法について説明する。例えば、発光素子LED1、LED2、LED3、LED4で検知される水平位置の座標をx1、x2、x3、x4と設定し、各発光素子LEDの発光量を同じとすると、式(1)から検知物の水平位置を推定することができる。A1、A2、A3、A4は、発光素子LED1、LED2、LED3、LED4を発光したときの検知レベルである。
【0011】
【0012】
ここで、x1~x4をほぼ等間隔として、x1=1、x2=2、x3=3、x4=4とすれば、式(1)は式(2)で表される。
【0013】
【0014】
式(2)から、推定位置Gは、1≦G≦4の範囲で求めることが可能である。仮に、操作対象4が位置P1に接近するとき、検知レベルがA1=2000、A2=700、A3=100、A4=10であれば、式(2)から推定位置G=1.3と算出される。また、位置P2に接近するとき、検知レベルがA1=10、A2=100、A3=700、A4=2000であれば、推定位置G=3.7と算出される。
【0015】
このように操作対象の水平位置を推定することで、例えば、水平位置が規定時間(例えば1秒)内に所定値以上変化した場合には、スワイプ操作がなされたと判定することができ、これは、ジェスチャ操作への適用が可能である。
【0016】
図5は、ディスプレイ1の下部に設けられた近接検知ユニット3の内部構造を示す概略断面図である。近接検知ユニット3は、発光素子LEDと受光素子PDなどの光学素子を搭載した基板10と、基板10上に取り付けられた複数のホルダ(支持部材)20と、複数のホルダ20によって支持されたカバー30とを有する。
【0017】
ホルダ20は、隔壁状の部材であり、カバー30を機械的に支持するとともに、基板10とカバー30との間に複数の内部空間を形成し、内部空間には発光素子LEDや受光素子PDが配置される。ホルダ20は、例えば、遮光性の材料から構成されてもよいし、あるいは表面に反射防止フィルムや光吸収フィルムなどが貼り付けられるようにしてもよい。ホルダ20は、発光素子LEDによって発光された光が隣接する受光素子PDを直接照射しないように光を遮断する。
【0018】
カバー30は、内部の光学素子が外部のユーザーから見えないようにするため、可視光を透過せず赤外線のみを透過するような光学部材から構成される。例えば、カバー30は、ポリカーボネイトのような赤外光を透過可能な材料から構成される材料から構成されてもよいし、あるいは、ガラスなどの表面に可視光を反射する反射フィルムが貼り付けられるようにしてもよい。
【0019】
しかしながら、可視光をほぼ遮断しながら、赤外光をほぼ100%透過するカバー30を実現することは困難であり、赤外光の透過率がせいぜい80%程度になるのが現実的である。その場合、
図6に示すように、発光素子LEDが発光する赤外光Qのうちカバー30を透過しない一部の赤外光Q1が、カバー30の内部などを通って受光素子PDに到達する事象が発生する(以降、これを光漏れと呼ぶ)。
【0020】
光漏れが生じると、検知対象(操作対象4)が無くても受光素子PDが赤外光を受光することとなる。この光漏れの量が大きくなると、受光素子PDの受光量によって近接物を検知する、というそもそもの原理が成り立たなくなり、近接検知システムの動作に支障を来してしまうことになる。
【0021】
ところで、水平位置の推定精度を安定させるには、前述のように各測定回で使用する発光素子LED-受光素子PD間の距離を同じにすることが望ましいが、製品のデザイン上の制約などから、現実にはこれを満たせないこともある。例えば、カバー30上に凹凸やマークがデザインされている場合には、これらを避けるように光学素子を配置する必要があり、結果として発光素子LED-受光素子PD間の距離を均等にできないこともある。
【0022】
図7に、デザイン上の制約により発光素子LED-受光素子PD間の距離を均等にできない配置例を示す。カバー30の表面上の位置Aに突起やマークを配置する場合、これにより赤外光の光路が妨げられないよう受光素子PD1を右方向に移動させることになり、受光素子PD1が発光素子LED2に近づくこととなる。その結果、発光素子LED2-受光素子PD1間の距離Dが他の発光素子と受光素子の組み合わせよりも小さくなる。発光素子LED-受光素子PD間の距離が近ければ、発光素子LEDの発光量が同じであっても、光漏れの経路が短いために光漏れが大きくなり、距離が短い発光素子LED-受光素子PDの測定回に検知機能の不良が発生しやすくなる。
図7に示す配置例の場合には、発光素子LED2-受光素子PD1間の距離Dは、例えば30~35mmであり、その他の発光素子と受光素子間の距離は、例えば、35~40mmであり、発光素子LED2-受光素子PD1の組み合わせによる測定回において近接検知機能の動作不良が発生しやすくなる。
【0023】
本発明は、このような従来の課題を解決し、発光素子からの光漏れによる検知不良を回避することができる近接検知装置および近接検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る近接検知装置は、発光素子からの光で物体を照射し、その反射光を受光素子で受光することにより物体の近接を検知するものであって、複数の発光素子と、複数の受光素子と、前記複数の発光素子を順次駆動する駆動手段と、前記複数の発光素子が順次駆動されたとき、対応する受光素子から出力される検知信号を測定する測定手段と、発光素子と受光素子間の距離が相対的に近い測定のとき、当該発光素子の発光量が抑制されるように発光素子の駆動電流を制御し、かつ抑制された発光量が補償されるように受光素子の検知信号を増幅する制御手段とを有する。
【0025】
ある態様では、複数の発光素子と複数の受光素子は概ね直線状に配置され、受光素子の一方の側には第1の発光素子が配置され、他方の側には第2の発光素子が配置され、第1の発光素子と当該受光素子間の距離は、第2の発光素子と当該受光素子間の距離よりも小さい。ある態様では、前記制御手段は、第1の発光素子の発光量を抑制し、かつ第1の発光素子の駆動に対応する受光素子の検知信号を増幅する。ある態様では、前記測定手段は、第1の発光素子と第2の発光素子に共通の受光素子から出力される検知信号を測定する。ある態様では、発光素子は赤外光を発光し、受光素子は赤外光を受光し、複数の発光素子と複数の受光素子の上方には、赤外光を透過するが外部からの可視光を遮断する光学部材が配置される。ある態様では、複数の発光素子と複数の受光素子が基板上に実装され、当該基板と前記光学部材との間には、遮光性のある仕切り部材によって複数の内部空間が形成され、1つの受光素子は、1つの内部空間内に配置される。ある態様では、前記制御手段は、前記検知信号を増幅する増幅器を含む。ある態様では、前記制御手段は、前記検知信号をソフトウェア処理により増幅する。
【0026】
本発明に係る近接検知方法は、発光素子からの光で物体を照射し、その反射光を受光素子で受光することにより物体の近接を検知するものであって、複数の発光素子を順次駆動するステップと、前記複数の発光素子が順次駆動されたとき、対応する受光素子から出力される検知信号を測定するステップと、発光素子と受光素子間の距離が相対的に近い測定のとき、当該発光素子の発光量が抑制されるように発光素子の駆動電流を低下させるステップと、抑制された発光量が補償されるように受光素子の検知信号を増幅するステップとを含む。ある態様では、前記増幅するステップは、ソフトウェアによって処理される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、発光素子と受光素子間の距離が相対的に近い測定のとき、当該発光素子の発光量が抑制されるように発光素子の駆動電流を制御し、かつ抑制された発光量が補償されるように受光素子の検知信号を増幅するようにしたので、発光素子からの光漏れを抑制しつつ、各測定回の感度を均一にすることができ、信頼性の高い近接検知を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】従来の近接検知装置の一例を示し、
図1(A)は、近接検知装置を搭載したディスプレイの配置例を示し、
図1(B)は、近接検知装置による操作対象の検知例を示す図である。
【
図2】従来の近接検知装置の発光素子および受光素子の動作タイミングを示す図である。
【
図3】操作対象を水平に移動させたときの受光素子の検知レベルを示す図である。
【
図4】操作対象が位置P1、P2に接近するときの1サイクル中の受光素子の検知レベルと、検知レベルの分布から算出された推定位置を示す図である。
【
図5】近接検知ユニットの内部構成を示す概略断面図である。
【
図6】
図5に示す近接検知ユニットの光漏れを説明する図である。
【
図7】近接検知ユニットにおいて発光素子と受光素子間の距離を均一に配置することができない例を示す図である。
【
図8】
図8(A)は、本発明の第1の実施例に係る近接検知装置の構成を示すブロック図、
図8(B)は、第1の実施例に係る近接検知装置の具体的な構成を示す図である。
【
図9】本発明の第1の実施例における操作対象を水平に移動させたときの受光素子の検知レベルを示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施例に係る近接検知装置の構成を示す図である。
【
図11】本発明の第2の実施例に係る近接検知装置の動作フローを示す図である。
【
図12】本発明の第3の実施例に係る近接検知ユニットの内部構成を示す概略断面図である。
【
図13】本発明の第3の実施例に係る近接検知装置の発光素子および受光素子の動作タイミングを示す図である。
【
図14】本発明の第3の実施例における操作対象を水平に移動させたときの受光素子の検知レベルを示す図である。
【
図15】本発明の第3の実施例に係る近接検知装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施例の形態について説明する。1つの態様では、本発明の近接検知装置は、発光素子と、当該発光素子からの光によって照射された物体からの反射光を受光する受光素子とを含み、物体の近接の有無を光学的に検知する。発光素子は、例えば、赤外光を発光する発光ダイオードやレーザーダイオードなどであり、受光素子は、赤外光を受光するフォトダイオードやフォトトランジスタなどである。1つまたは複数の発光素子と1つまたは複数の受光素子が電子機器等の周辺に一体に取り付けられ、電子機器へのユーザーの操作対象の近接が検知される。近接検知装置が取り付けられる電子機器は特に限定されないが、電子機器は、例えば、タッチパネル式ディスプレイである。電子機器は、ユーザーの操作対象の近接が検知されたとき、例えば、スワイプ等のジェスチャ操作を検知する。
【実施例0030】
次に、本発明の第1の実施例に係る近接検知装置ついて説明する。
図8(A)は、本発明の実施例に係る近接検知装置の電気的な構成を示すブロック図である。本実施例の近接検知装置100は、複数の発光素子110と、複数の受光素子120と、複数の発光素子110の各々を駆動する駆動回路130と、複数の受光素子120の各々の受光を測定する測定回路140と、近接検知装置100の全体を制御する制御部150とを含む。
【0031】
近接検知装置100は、例えば、
図1(B)に示すような車載ディスプレイ1に搭載され、ディスプレイ1へのユーザーの操作対象の近接の有無を検知する。発光素子110は、
図7の近接検知ユニットに示すように、発光素子LED1~LED4を含み、受光素子120は、発光素子LED1とLED2の間に配置された受光素子PD1、発光素子LED3とLED4との間に配置された受光素子PD2を含む。駆動回路130は、
図2に示すように、サイクル期間中、発光素子LED1~LED4の発光が重複しないように発光素子LED1~LED4を順次駆動し、測定回路140は、サイクル期間中、発光素子LED1を発光させたときに受光素子PD1で受光された検知信号を測定し(LED1→PD1)、発光素子LED2を発光させたときに受光素子PD1で受光された検知信号を測定しLED2→PD1)、発光素子LED3を発光させたときに受光素子PD2で受光された検知信号を測定し(LED3→PD2)、発光素子LED4を発光させたときに受光素子PD2で受光された検知信号を測定する(LED4→PD2)。
【0032】
制御部150は、駆動回路130による発光素子110の駆動を制御したり、測定回路140による受光素子120の測定を制御する。さらに制御部150は、測定回路140による測定結果に基づきディスプレイ1への操作対象の近接の有無を判定したり、サイクル中に測定された受光素子PD1、PD2の検知レベルの分布に基づき操作対象の水平位置を推定し、その推定結果からスワイプ等のジェスチャ操作を判定する。
【0033】
制御部150は、ディスプレイ1の表示を制御する表示コントローラの一部であってもよいし、あるいは表示コントローラとは個別に設けられ、表示コントローラと連携して動作するものであってもよい。例えば、表示コントローラは、制御部150によってスワイプ操作が検知されると、この検知結果に応じた表示制御(例えば、メニュー画面の表示や次のページ画面の表示など)を行うことができる。制御部150は、ハードウェアおよび/またはソフトウェアを用いて実施される。制御部150は、例えば、ROM/RAMを含むマイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、メモリ等を含み、ROMまたはメモリに記憶されたプログラムを実行することで各部を制御してもよい。
【0034】
図8(B)は、本発明の第1の実施例に係る近接検知装置の具体的な構成例を示す図である。発光素子110および受光素子120は、
図5や
図7に示すような近接検知ユニット内に配置された発光素子LED1、LED2、LED3、LED4と受光素子PD1、PD2とを含む。
【0035】
駆動回路130は、
図2に示すタイミングで発光素子LED1、LED2、LED3、LED4を順次駆動するためのマルチプレクサ(Mux1)132と、マルチプレクサ132で選択された発光素子LEDに駆動電流を供給する電流源134とを含む。電流源134は、後述するように、制御部150からの制御信号C1に応答して、光漏れを生じさせる可能性のある発光素子LEDへの駆動電流を減少させる。
【0036】
測定回路140は、
図2に示すタイミングで順次駆動された発光素子LEDの発光に対応する受光素子PD1、PD2を選択するためのマルチプレクサ(Mux2)142と、選択された受光素子PDによって光電変換された検知信号を測定する測定器144と、制御部150からの制御信号C2に応答して、発光量が抑制された発光素子に対応する受光素子PDによって測定された検知信号を増幅する増幅器146とを含む。制御部150は、増幅器146から出力される検知信号に基づき検知レベルを算出し、式(1)により操作対象の水平位置を推定する。
【0037】
発光素子LED-受光素子PD間の距離が近くなると、上述したように、光漏れの経路が短くなることで光漏れが大きくなり、検知機能の不良が発生しやすくなる。そこで、本実施例では、駆動回路130は、制御部150からの制御信号C1に応答して、発光素子LED-受光素子PD間の距離が近い測定回では、他の発光素子と受光素子の組合せの測定回よりも発光素子LEDの発光量を抑制するように発光素子LEDへの駆動電流を制御する。例えば、
図7に示す配置例では、発光素子LED2-受光素子PD1の測定回における発光素子LED2の駆動電流を、他の発光素子と受光素子の組合せの測定回のときの駆動電流よりも低下させ、発光素子LED2の発光量を抑える。発光素子LED2の発光量が小さくなれば、これに比例して受光素子PD1が感知する光漏れの光量を抑えることができ、光漏れの影響を抑制することが可能になる。
【0038】
図9は、発光素子LED2の発光量を抑制した場合に、操作対象を水平に移動させたときの受光素子の検知レベルを示している。同図に示すように、発光素子LED2の発光量を抑制すると、発光素子LED2-受光素子PD1の検知レベルは、他の発光素子と受光素子の組合せの測定回の検知レベルよりも低下する。つまり、発光素子LED2-受光素子PD1の測定は、感度が低下することを意味する。その結果、式(1)による水平方向の位置推定に誤差が生じたり、発光素子LED2-受光素子PD1の測定回による検知すべき位置の検知範囲が狭くなる懸念がある。それ故、本実施例ではさらに、測定回路140は、制御部150からの制御信号C2に応答して、測定器144で測定された発光量を抑制した発光素子に対応する受光素子の検知信号を後段の増幅器146で増幅する。
図7の例で言えば、発光素子LED2と受光素子PD1の測定において、測定器144で測定された受光素子PD1の検知信号が増幅器146によって増幅される。好ましくは、増幅器146は、発光素子LED2の発光量が抑制された分を補償するように検知信号を増幅する。
【0039】
次に、近接検知ユニットが
図7に示す配置例を有すると仮定したときの近接検知装置100の動作を説明する。駆動回路130は、マルチプレクサ(Mux1)132によって、測定回毎に発光素子LED1、2、3、4 が順に点灯するように切り替えるが、同時に電流源134では、各測定回の検知レベルがほぼ同じとなるように発光素子LEDへの駆動電流を制御する。但し、電流源134は、制御信号C1に応答して、発光素子LED2の点灯時のみ駆動電流の大きさを下げる。発光素子LED2の駆動電流をどの程度小さくするかは、発光素子LED2と受光素子PD1間の距離に応じて予め決定される。また、発光素子と受光素子間の距離が相対的に短くなる測定は、予め制御部150に設定される。
【0040】
測定回路140のマルチプレクサ142は、発光素子LED1、2の点灯時には受光素子PD1を選択し、発光素子LED3、4の点灯時には受光素子PD2を選択し、測定器144は、選択された受光素子PDによって光電変換された検知信号を測定する。測定器144の後段に備えた増幅器146は、発光素子LED1、3、4の測定回では受光素子PDの検知信号の増幅を行わず、発光素子LED2と受光素子PD1との組み合わせの測定回のみ、制御信号C2に応答して、発光素子LED2の駆動電流を抑えた分を補償するように検知信号の増幅を行う。例えば、発光素子LEDの駆動電流の電流値を20%抑制したならば、その受光素子で測定された検知信号の電流値を20%増幅する。
【0041】
こうすることで、距離が近い発光素子LED2-受光素子PD1の測定回に発生する光漏れを抑えつつ、最終出力となる検知レベルにおいては、各測定回の感度を均一にすることができるので、安定した検知範囲や位置精度を実現することができる。
【0042】
上記では、発光素子LED2-受光素子PD1間の距離が近いなる例を説明したが、これは一例であり、他の発光素子と受光素子の組合せにおいて距離が近いときにも同様に発光素子の発光量の抑制と受光素子の検知信号の増幅が行われる。上記では、1組の発光素子と受光素子の距離が近くなる例を説明したが、これに限らず、複数組の発光素子と受光素子との間の距離が近くなる場合には、それらの複数組で発光素子の発光量の抑制と受光素子の検知電流の増幅が行われる。
【0043】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。第1の実施例は、受光素子の検知信号を増幅器146により電気的に増幅したが、第2の実施例は、この増幅処理をソフトウェア処理で実現する。
【0044】
図10に、第2の実施例による近接検知装置の構成例を示し、第2の実施例は、第1の実施例と同様の構成を有するが、第1の実施例で用いた増幅器146を備えていない。その代わりに、測定器144で測定された検知信号は、制御部150のA/D変換部152に供給され、そこでデジタル信号に変換された後、アルゴリズム処理部154によって検知信号の増幅が行われる。
【0045】
なお、アルゴリズム処理部154は、検知信号の増幅の他にも、各測定によって得られた検知レベルに基づき式(1)による操作対象の水平方向の位置を推定する処理を行うことが可能である。さらに、アルゴリズム処理部154は、駆動回路130の電流源134を制御するための制御信号C1をソフトウェアによって処理することも可能である。アルゴリズム処理部154は、例えば、ソフトウェアを格納するROM/RAMやソフトウェアを実行するCPUやマイクロコントローラを含んで構成される。
【0046】
図11に、アルゴリズム処理部154の動作フローを示す。各測定回の検知レベルL1、L2、L3、L4は、A/D変換部152によってデジタル値に変換され、アルゴリズム処理部154に提供される(S100)。アルゴリズム処理部154は、発光素子LED2-受光素子PD1の測定回で得られた受光素子PD1の検知レベルL2に対してのみ、発光素子LED2の発光量を抑えた分を補償するように定数を掛けて検知レベルL2を増幅し(S110)、次いで、検知レベルL1、L2、L3、L4に基づき、式(1)に従い操作対象の水平方向の位置Gを推定する処理を行う(S120)。
【0047】
第2の実施例によっても、第1の実施例と同様に、相対的に距離が近い発光素子LED2-受光素子PD1の測定回に発生する光漏れを抑えつつ、最終出力となる検知レベルにおいて、各測定回の感度を均一にすることができるので、安定した検知範囲や位置精度を実現することができる。また、第2の実施例では、従来の近接検知装置と比較して、発光素子LEDの駆動電流の制御とソフトウェア処理の計算を変更するだけでよく、ハードウェアの増加を伴わないため、コストアップなしに上記した効果を実現することができる。
【0048】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。
図12は、第3の実施例による近接検知ユニットの内部構造を示す概略断面図である。本実施例の近接検知ユニットは、
図7に示す配置例と異なり、近接検知ユニットは、3つの発光素子LED1、LED2、LED3と、それらの間に2つの受光素子PD1、PD2とを配置させる。水平サイズの小さいディスプレイでは、3つの発光素子LED/2つの受光素子PDによって近接検知ユニットが構成されることがある。
【0049】
図13は、第3の実施例の近接検知装置の発光素子と受光素子の動作タイミングを示す図である。第3の実施例では、時刻t1で発光素子LED1を発光させたときに受光素子PD1で受光された検知信号を測定し(LED1→PD1)、時刻t2で発光素子LED2を発光させたときに受光素子PD1で受光された検知信号を測定し(LED2→PD1)、時刻t3で発光素子LED2を発光させたときに受光素子PD2で受光された検知信号を測定し(LED2→PD2)、時刻t4で発光素子LED3を発光させたときに受光素子PD2で受光された検知信号を測定する(LED3→PD2)。つまり、発光素子LED2の発光は、受光素子PD1と受光素子PD2の両方で測定される。
【0050】
図12に示すように、仮に発光素子LED2と受光素子PD2間の距離D1が他の発光素子と受光素子の組合せよりも近いとすると、発光素子LED2-受光素子PD1の測定回では発光素子LED2の発光量を抑制しないが、発光素子LED2-受光素子PD2の測定回では発光素子LED2の発光量(駆動電流)を抑制し、発光素子LED2から受光素子PD2への光漏れが抑制される。その場合、
図14に示すように、発光素子LED2-受光素子PD2の測定回の検知レベルは、他の測定回の検知レベルよりも低下する。
【0051】
図15は、第3の実施例による近接検知装置の構成を示す図であり、第1の実施例と同一構成については同一参照番号を付してある。駆動回路130Aは、マルチプレクサ(Mux1)132Aによって、測定回毎に発光素子LED1、2、3が順に点灯するように切り替えるが、同時に電流源134では、各測定回の検知レベルがほぼ同じとなるように発光素子LEDへの駆動電流を制御する。但し、電流源134は、制御信号C1に応答して、発光素子LED2-受光素子PD2の測定回のみ発光素子LED2の駆動電流を下げ、発光量を抑制する。
【0052】
一方、測定回路140のマルチプレクサ142は、発光素子LED1、2の点灯時には受光素子PD1を選択し、発光素子LED2、3の点灯時には受光素子PD2を選択し、測定器144は、選択された受光素子PDによって光電変換された検知信号を測定する。測定器144の後段に備えた増幅器146は、制御信号C2に応答して、発光素子LED2-受光素子PD2の測定回のみ、発光素子LEDの発光量を抑えた分を補償するように検知信号を増幅する。
【0053】
本実施例によれば、発光素子と受光素子間の距離が相対的に小さい組み合わせの測定回において、発光素子の発光量を抑えることで発光素子からの光漏れが受光素子によって受光されることを軽減し、発光量を抑えた分を補償するように受光素子の検知電流を増幅させることで、発光量を抑制した測定回の感度の低下を防止する。これにより、光漏れによる近接検知システムの動作不良を防止し、安定した検知範囲と位置推定の精度を保った近接検知装置を提供することができる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲において、種々の変形、変更が可能である。