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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046160
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】車輪脱落検出センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20240327BHJP
【FI】
G01L5/00 103F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151385
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA01
2F051AB05
(57)【要約】
【課題】精度よく車輪脱落の発生度合を推定でき、かつ車両に容易に設けることができる車輪脱落検出センサを提供する。
【解決手段】 車輪300と車輪の回転軸を中心とした円周上に配された複数のねじを含むねじ構造37で車輪が締結され車輪と同期して回転する車輪取付部350とを具備した車両VCに取り付けられ、車輪取付部の近傍に対向して設けられた測定センサ100と測定センサのセンサ出力から車輪脱落の発生度合を推定するセンサ処理装置200とを備え、センサ処理装置は車輪取付部のねじ構造が設けられた箇所を含む、回転する車輪取付部を測定センサで測定する範囲である所定範囲に関して測定センサからのセンサ出力を取得し、取得されたセンサ出力を評価し、少なくともねじ構造が測定センサの近傍を通過する際のセンサ出力の評価の結果に基づいて車輪取付部から車輪が脱落する車輪脱落発生度合を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、前記車輪の回転軸を中心とした円周上に配された複数のねじを含むねじ構造で前記車輪が締結され前記車輪と同期して回転する車輪取付部と、を具備した車両に取り付けられ、前記車輪取付部の近傍に設けられて前記車輪取付部の応力の測定を行う測定センサと、前記測定センサのセンサ出力から車輪脱落の発生度合を推定するセンサ処理装置と、を備えた車輪脱落検出センサであって、
前記センサ処理装置は、
前記車輪取付部の前記ねじ構造が設けられた箇所を含む、回転する前記車輪取付部を前記測定センサで測定する所定範囲に関して前記測定センサからの前記センサ出力を取得し、
前記取得された前記センサ出力を評価し、
少なくとも前記ねじ構造が前記測定センサの近傍を通過する際の前記センサ出力の評価の結果に基づいて、前記車輪取付部から前記車輪が脱落する車輪脱落発生度合を推定する、
車輪脱落検出センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪脱落検出センサにおいて、
前記センサ処理装置は、
前記ねじ構造に含まれる前記複数のねじの全てがそれぞれ、少なくとも1度は前記測定センサの近傍を通過するまでの前記センサ出力を取得し、
前記取得されたセンサ出力について周波数分析を行い、
前記周波数分析の結果における、前記ねじ構造に含まれる前記複数のねじが前記測定センサの近傍を通過する周期に相当する周波数成分である基本周波数成分に少なくとも基づいて、前記車輪脱落発生度合を推定する、
車輪脱落検出センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の車輪脱落検出センサにおいて、
前記センサ処理装置は、前記基本周波数成分の振幅が小さくなるか、前記基本周波数成分の振幅の変化量が所定の閾値よりも小さくなるか、またはその両方に基づいて、前記車輪脱落発生度合が大きくなると推定する、
車輪脱落検出センサ。
【請求項4】
請求項2または3に記載の車輪脱落検出センサにおいて、
前記センサ処理装置は、前記基本周波数成分と、前記基本周波数成分を除いた前記基本周波数成分からの所定帯域内に含まれる周波数成分である帯域内周波数成分との比較に基づいて、前記車輪脱落発生度合を推定する、
車輪脱落検出センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の車輪脱落検出センサにおいて、
前記センサ処理装置は、前記基本周波数成分の振幅である基本波振幅と、前記帯域内周波数成分のうち最大の振幅となる周波数成分の振幅または複数の前記帯域内周波数成分の波形を重ね合わせた波形の振幅である変調波振幅とについて、前記基本波振幅に対して前記変調波振幅の比率が大きくなるか、所定時間内における前記比率の変化量が大きくなるか、またはその両方に基づいて、前記車輪脱落発生度合が大きくなると推定する、
車輪脱落検出センサ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の車輪脱落検出センサにおいて、
前記センサ処理装置は、前記車輪の角速度に応じて前記センサ出力のデータ取得の間隔を変更する、
車輪脱落検出センサ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の車輪脱落検出センサにおいて、
前記測定センサが、前記車輪取付部に交番磁界を印加し、前記交番磁界が印加された前記車輪取付部の表面の磁界を検出するバルクハウゼンノイズ測定のセンサである、
車輪脱落検出センサ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の車輪脱落検出センサにおいて、
前記測定センサが、前記車輪取付部に交番磁界を印加し、
前記センサ処理装置は、前記交番磁界により変化する前記車輪取付部の透磁率を検出する、
車輪脱落検出センサ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の車輪脱落検出センサにおいて、
前記センサ処理装置は、前記車輪の回転速度が所定値よりも小さい場合は、少なくとも前記測定センサの測定の機能を停止する、
車輪脱落検出センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪脱落の発生度合を推定するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両の車輪が脱落した場合に後続の車両等への悪影響は重大であり、車輪が脱落する事象を未然に防ぐことは重要な課題である。車輪脱落は主に、アクスルフランジ等の車輪取付部における車輪取付用のボルト、ナット等のねじの劣化に起因して発生する場合がある。特に、車輪取付部の車輪が取り付けられた箇所であるボルト締結部への負荷が大きい大型車などにおいて、車輪脱落事故が一定数発生している。
【0003】
こうした現状の下、従来技術における車両の車輪等の検査方法として、以下の技術が提案されている。
1.車輪に加速度センサを設け、車輪のガタつきにより発生する加速度を加速度センサで検出して車輪脱落を検知する技術(特許文献1)。
2.ボルトの劣化度合を検査室等に静置された超音波検査装置を用いて検査する技術(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-329907号公報
【特許文献2】特開昭62-225951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、上記のように車輪に設けた加速度センサが検出した加速度(ガタつき)から車輪脱落の予兆を検知する技術が記載されている。しかしながら、車輪に明確なガタつきが生じるのは車輪脱落の可能性が極めて高まった時である。また、例えば一部のハブボルトに緩みが生じた状態のような状況においては、車輪脱落の可能性を正確に検知することが難しい場合がある。さらに、車両に振動が生じやすい悪路の走行時に発生する振動などを加速度センサが検出した場合、検出結果において悪路による振動と車輪脱落の予兆とを切り分けることは困難であることが考えられる。
【0006】
特許文献2には、上記のようにボルトの劣化度合を超音波により検査する方法が記載されている。しかしながら、車輪に取り付けられたボルト、ナット等の劣化度合を当該手法により頻繁に検査を行うには、設備費や検査委託費等のコストが発生するため困難な場合がある。また設備が大掛かりであるため車載が難しく、ボルト、ナット等のねじによるボルト締結部の走行中の状態を検査することは困難である。
【0007】
この発明の目的は、以上の従来技術の課題を解決すべく、精度よく車輪脱落の発生度合を推定でき、かつ車両に容易に設けることができる車輪脱落検出センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る車輪脱落検出センサは、
車輪と、前記車輪の回転軸を中心とした円周上に配された複数のねじを含むねじ構造で前記車輪が締結され前記車輪と同期して回転する車輪取付部と、を具備した車両に取り付けられ、前記車輪取付部の近傍に設けられて前記車輪取付部の応力の測定を行う測定センサと、前記測定センサのセンサ出力から車輪脱落の発生度合を推定するセンサ処理装置と、を備えた車輪脱落検出センサであって、
前記センサ処理装置は、
前記車輪取付部の前記ねじ構造が設けられた箇所を含む、回転する前記車輪取付部を前記測定センサで測定する所定範囲に関して前記測定センサからの前記センサ出力を取得し、
前記取得された前記センサ出力を評価し、
少なくとも前記ねじ構造が前記測定センサの近傍を通過する際の前記センサ出力の評価の結果に基づいて、前記車輪取付部から前記車輪が脱落する車輪脱落発生度合を推定する。
ここで、前記車輪取付部の「近傍」とは、測定対象物である該車輪取付部から前記測定センサが測定できる範囲のことを意味し、この結果として前記測定センサが、分析および/または評価が可能な前記センサ出力を出力し得るような範囲にあることをいう。
本発明に係る車輪脱落検出センサとして、具体的には例えば、ホイールを取り付けるアクスルフランジたる車輪取付部近傍に応力測定センサを設け、ホイールに同期して回転するアクスルフランジの応力分布を応力測定センサにて非接触で計測し、計測された応力分布をセンサ処理装置で周波数分析し、フランジボルトの数に相当する周波数次数の振幅および前記周波数次数の周辺帯域における次数の振幅から、車輪脱落検知の判定を行うものも含まれうる。
【0009】
上記構成によると、本発明に係る車輪脱落検出センサは、ボルト、ナット等の前記ねじを複数含むねじ構造を有する前記車輪取付部の近傍に非接触で設けられ、前記所定範囲について少なくとも前記車輪取付部の応力の測定を行う測定センサと、前記測定センサのセンサ出力から車輪脱落の発生度合を推定するセンサ処理装置と、を備えているので、非接触で応力の測定を行って車輪脱落発生度合を検出できるため、既存の車両に容易に設けることができ、また定常的に車輪脱落発生度合を監視することで車輪脱落が起きる事態を抑制できる。その際に例えば、前記センサ処理装置で車輪取付部のねじ構造によって生じる応力変動を評価することで、積載量や路面状態等の外乱となる応力変動要素の影響を低減し、精度よく車輪脱落発生度合を推定でき、車輪脱落の予兆を検出できる。
【0010】
前記センサ処理装置は、
前記ねじ構造に含まれる前記複数のねじの全てがそれぞれ、少なくとも1度は前記測定センサの近傍を通過するまでの前記センサ出力を取得し、
前記取得されたセンサ出力について周波数分析を行い、
前記周波数分析の結果における、前記ねじ構造に含まれる前記複数のねじが前記測定センサの近傍を通過する周期に相当する周波数成分である基本周波数成分に少なくとも基づいて、前記車輪脱落発生度合を推定してもよい。
なお、周波数成分は、周波数次数を含む概念である。上記構成により例えば、前記車輪取付部の応力変動として、前記ねじ構造に含まれる複数のねじが通過する周期に相当する周波数成分(前記基本周波数成分)を評価することで、温度変化等の他の応力変動要素やノイズ等の外乱の影響が低減でき、より正確な車輪脱落発生度合の推定が可能となる。基本周波数は、前記ねじ構造に含まれるねじがN本の場合には、前記車輪取付部の単位時間当たりの回転数をf[回転/sec]とすると、fN[Hz]となる。
【0011】
前記センサ処理装置は、前記基本周波数成分の振幅が小さくなるか、前記基本周波数成分の振幅の変化量が所定の閾値よりも小さくなるか、またはその両方に基づいて、前記車輪脱落発生度合が大きくなると推定してもよい。これにより、例えば車輪を取り付けるボルトやナット等であるねじの締結力が緩むと前記車輪取付部における圧縮応力が緩和されるため、前記車輪取付部における応力について前記基本周波数成分の振幅が小さくなり、さらに走行中にこれらは変動していくため、こうしたことを評価することでより正確に車輪脱落発生度合の推定をすることができる。
【0012】
前記センサ処理装置は、前記基本周波数成分と、前記基本周波数成分を除いた前記基本周波数成分からの所定帯域内に含まれる周波数成分である帯域内周波数成分との比較に基づいて、前記車輪脱落発生度合を推定してもよい。これにより、例えば前記車輪取付部の一部のボルト等のねじが緩んだ場合、該ボルトが緩んだ個所の圧縮応力が緩和されるので、車輪の回転に対する応力変動は該ボルトの数に相当する周波数に対して振幅変調が生じるのと概ね等価な現象となるので、基本周波数成分と所定帯域内の帯域内周波数成分とを比較等することで、より正確な車輪脱落の検出が可能となる。
【0013】
前記センサ処理装置は、前記基本周波数成分の振幅である基本波振幅と、前記帯域内周波数成分のうち最大の振幅となる周波数成分の振幅または複数の前記帯域内周波数成分の波形を重ね合わせた波形の振幅である変調波振幅とについて、前記基本波振幅に対して前記変調波振幅の比率が大きくなるか、所定時間内における前記比率の変化量が大きくなるか、またはその両方に基づいて、前記車輪脱落発生度合が大きくなると推定してもよい。このように、前記基本波振幅と、前記変調波振幅とを比較等することで、より正確な車輪脱落の検出が可能となる。
【0014】
前記センサ処理装置は、前記車輪の角速度に応じて前記センサ出力のデータ取得の間隔を変更してもよい。これにより、車輪の回転速度は車両の加減速によって変動するが、車輪の角速度に応じて単位回転量当たりのサンプリング間隔を一定とすることができ、すなわち前記センサ出力の取得について前記車輪の所定の回転量当たりのデータ取得数を一定とできるため、例えばボルト等のねじの締結間隔と同期した応力変動の周波数成分を正確に評価することができる。
【0015】
前記測定センサが、前記車輪取付部に交番磁界を印加し、前記交番磁界が印加された前記車輪取付部の表面の磁界を検出するバルクハウゼンノイズ測定のセンサであってもよい。これにより、前記車輪取付部における応力を測定する場合、前記交番磁界による前記車輪取付部の磁化過程における磁界に対する磁化状態の不連続さを検出するバルクハウゼンノイズを測定するセンサを、前記測定センサとすることができ、バルクハウゼンノイズの大きさは磁性体に作用する応力によって変化するため、バルクハウゼンノイズの大きさを評価することで応力を測定することができる。
【0016】
前記測定センサが、前記車輪取付部に交番磁界を印加し、
前記センサ処理装置は、前記交番磁界により変化する前記車輪取付部の透磁率を検出してもよい。
これにより、前記車輪取付部における応力を測定する場合、透磁率を前記励磁構造のインダクタンスから検出でき、応力を測定することができる。
【0017】
前記センサ処理装置は、前記車輪の回転速度が所定値よりも小さい場合は、少なくとも前記測定センサの測定の機能を停止してもよい。これにより、前記車輪取付部の回転速度が所定値よりも小さい状態すなわち車両の車速が極低速状態または停止状態になると、車輪脱落が発生しにくくなると考えられる上、ある程度の速度で測定対象物が回転していないと測定精度が落ちるため、測定センサの機能を停止してその励磁のため等の消費電力を低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる車輪脱落検出センサは、精度よく車輪脱落の発生度合を推定でき、かつ車両に容易に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る車輪脱落検出センサが取り付けられた車両の車輪周りを示す概略図である。
図2】同車輪脱落検出センサのセンサ処理装置の他の構成を示す概略図である。
図3】同車輪脱落検出センサのセンサ処理装置のさらに他の構成を示す概略図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る車輪脱落検出センサを示す概略図である。
図5】同車輪脱落検出センサの他の構成を示す概略図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る車輪脱落検出センサを示す概略図である。
図7】同車輪脱落検出センサの他の構成を示す概略図である。
図8】本発明の第4実施形態に係る車輪脱落検出センサを示す概略図である。
図9】同車輪脱落検出センサの他の構成を示す概略図である。
図10】同車輪脱落検出センサに含まれるブリッジ回路を示す概略図である。
図11】上記のいずれかの車輪脱落検出センサの測定結果を示す模式的な波形図である。
図12】上記のいずれかの車輪脱落検出センサの測定結果の分析結果を示す模式的な波形図である。
図13】上記のいずれかの車輪脱落検出センサの測定結果の他の分析結果を示す模式的な波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の以下の各実施形態に係る車輪脱落検出センサを図面に基づいて説明する。なお図面によっては、数字は同じであるが該数字に続く後ろの大文字アルファベットが異なった符号が付されている場合がある。これは、そうした符号が付された構成、機能等は、互いに類似(またはほぼ同一)の構成、機能等であるが、図面毎に(典型的には実施形態毎に)異なった部分を有していることを示している。該異なった部分については適宜説明を行い、それ以外の部分は、他の箇所の記載等から類推適用等が可能であるため説明を原則省略する。
【0021】
<第1実施形態>
図1に、本発明の第1実施形態に係る車輪脱落検出センサ1が取り付けられた車両VCの車輪300周りの概略図を示す。車両VCは少なくとも、タイヤ310およびタイヤ310が取り付けられるフレーム330を有する車輪300と、車輪300の回転軸を中心とした円周上に配された複数のねじを含むねじ構造370で車輪300が締結され車輪300と同期して回転する車輪取付部350とを具備している。車輪脱落検出センサ1は少なくとも、本実施形態では車輪取付部350における応力を測定する測定センサ(応力測定センサとも呼ぶ)100と、測定センサ100の出力から車輪取付部350から車輪300の脱落の発生度合(車輪脱落発生度合とも呼ぶ)を推定するセンサ処理装置200とを備え、測定センサ100は、車輪取付部350の近傍に対向して配置される。ここで、車輪取付部350の「近傍」とは、測定対象物である車輪取付部350から測定センサ100が測定できる範囲のことを意味し、この結果として測定センサ100が、分析および/または評価が可能なセンサ出力を出力し得るような範囲にあることをいう。
【0022】
車輪取付部350は、シャフト390の(車幅方向の中央に対して外側の)端部に設けられた、一般的に、ベアリング及び車両VC側の周辺部材への取付構造からなるアクスルユニットに設けられたアクスルフランジであり、例えば炭素鋼や浸炭鋼等の高強度な磁性金属からなる。ねじ構造370は、ハブボルトおよびハブナット等である上記ねじを含む。車輪300(フレーム330)は図1に図示するように、車輪取付部350に固定されたまたはタップ孔に挿通されたハブボルト371にハブナット373で取り付けられる。いずれの場合も本実施形態では、上記複数のねじは車輪取付部350に円周等配で設けられる。
【0023】
車輪脱落検出センサ1では、本実施形態では、応力測定センサ100とセンサ処理装置200とは一体化されて設けられており、車輪取付部350に対向して固定側(車体側)であるナックル等に取り付けられている。本実施形態では、応力測定センサ100の車輪回転軸心Cに対する径方向位置は、前記複数のねじが円周等配されたねじ構造370のP.C.D(Pitch Circle Diameter[ナット座ピッチ直径])またはその近傍である。なお応力測定センサ100は、車輪取付部350を回転させても測定対象範囲の表面形状の変化(軸方向の変化)が少ないような径方向位置となるように配置されることが好ましい。
【0024】
センサ処理装置200は、出力線201によりその出力が例えば車両統合制御装置(VCU[Vehicle Control Unit]またはECU[Electronic Control Unit])に入力されていると、車両の統合制御を行う上で好ましいと考えられる。この際、車両VCには例えば後述の車輪脱落推定結果を受けて車輪脱落の発生度合を報知するアラートシステムなどを別途設けることもできる。センサ処理装置200は、車輪取付部350のねじ構造370が設けられた箇所(例えば上記P.C.D)を含む、回転する車輪取付部350を測定センサ100で測定する範囲である所定範囲に関して測定センサ200からのセンサ出力を取得し、この取得されたセンサ出力を評価し、少なくともねじ構造370が測定センサ100の近傍を通過する際の前記センサ出力の評価の結果に基づいて、車輪脱落発生度合を推定する。上記所定範囲は、例えば車輪取付部350条の上記P.C.Dを含む細い円環帯状となりうる。
【0025】
なお、センサ処理装置200は、不図示の回転センサ等から出力された車輪300の回転数の時間変化率を使用して、車輪300の角速度に応じて前記センサ出力のデータ取得の間隔すなわちサンプリング周波数を変更してもよい。これにより、車輪300の角速度に応じて単位回転量当たりのサンプリング間隔を一定とすることができる。また、センサ処理装置200は、上記の不図示の回転センサ等から出力された車輪300の回転数の時間変化率を使用して、前記車輪の回転速度が所定値よりも小さい場合は、少なくとも測定センサ100の測定の機能を停止するようにしてもよい。これにより、前記車輪取付部の回転速度が所定値よりも小さい場合すなわち車両の車速が極低速または停止状態の場合に、車輪脱落の発生が抑制されるなどと考えられるため、測定センサの機能等を停止してその励磁のため等の消費電力を低減することができる。
【0026】
車輪300が取り付けられた車輪取付部350では、ハブナット373とハブボルト371とによる締結力によって、本実施形態では複数存在するハブナット373とハブボルト371との締結位置(以下、ボルト締結位置とも呼ぶ)を中心に、車輪回転軸心Cに対する円周上の一定間隔で圧縮応力が作用する。車輪脱落検出センサ1は、車輪300と同期して回転する車輪取付部350の表面応力を非接触で定点測定し、車輪回転軸心Cを中心とする円周上の応力分布を計測する。本実施形態の車輪脱落検出センサ1は、上記締結力が低下または喪失すると、締結位置の圧縮応力が緩和されるため、応力測定により車輪脱落の発生度合を推定することができる。
【0027】
図2に、センサ処理装置200の他の構成を表す概略図を示す。図2の例は、図1の例と比較して、車輪脱落検出センサ1の応力測定センサ100とセンサ処理装置200とが接続線101を介して別体である場合を示す。図2の例は、図1の例と比較してノイズが増加する可能性がある一方、センサ処理装置200を応力測定センサ100とは別の場所に配置することができ、これによりスペースに乏しい車輪近傍に設置する必要がある部品の点数や体積を低減することができる。図3の例は、センサ処理装置200のさらに他の構成を表しているが、図2の例と比較して、応力測定センサ100とセンサ処理装置200とが接続線101を介して別体である点が同じであるが、センサ処理装置200を例えば車両統合制御装置などの別の外部処理装置ECの一部機能として構成されている。
【0028】
<第2実施形態>
図4に示す本発明の第2実施形態に係る車輪脱落検出センサ1Aは、上記実施形態1の一具体例であり、対象物に交番磁界を印加してその磁化過程におけるバルクハウゼンノイズを測定する応力測定センサ100A及びセンサ処理装置200Aを少なくとも備える。バルクハウゼンノイズは、磁区を形成する磁壁の動きが磁界の変化に対して磁壁トラップにより不連続的となるために、磁性体の磁化状態が変化する一部過程において生じる磁化状態の不連続さに依存して発生する磁気的または電気的ノイズであり、その大きさは磁性体に作用する応力によって変化する。このため、バルクハウゼンノイズの大きさを評価することで応力を測定することができる。
【0029】
応力測定センサ100Aは少なくとも、測定対象物である車輪取付部350に対して交番磁界を印加する一次コイル110Aと、その両端が測定対象物に向けられたコの字型(U‐shaped type)形状の一次コイル110Aの一次コア130Aと、車輪取付部350の表層の磁化状態を検出する二次コイル150Aと、その両端が測定対象物に向けられたコの字型(U‐shaped type)形状の二次コイル150Aの二次コア170Aとからなる。なお、これらを保持するハウジングや前記コイルへの配線部等は適宜設けられるものとし、図示は割愛する。一次コイル110Aは、図3の車輪取付部350のねじ構造370が設けられた箇所(例えば上記P.C.D)を含む上記所定範囲を測定し、上記センサ出力を出力する。図4の一次コイル110Aは、対象物に対して二次コイル150Aからの検出信号が十分に得られる程度の磁界を印加するために、必要な電流量を通電できる線径であることが好ましい。二次コイル150Aは、微弱な磁束であっても誘起電圧として十分なS/N比を得るために、なるべく巻数の多いコイルを形成することが好ましいが、マグネットワイヤを細線化するコスト、スペース、後述の処理回路の入力インピーダンス等から適切なコイル仕様が総合的に判断して決定される。一次コイル110Aおよび二次コイル150Aのそれぞれのコア130A,170Aは、例えばフェライトコア、圧粉磁心、積層鋼板、等の励磁周波数に対して十分に透磁率の高い磁性体コアであることが好ましい。なお、二次コイルは空芯コイルとすることもできる。
【0030】
本実施形態では、応力測定センサ100Aにおいて、少なくとも一次コイル110Aおよびコア130Aにより、車輪取付部350に交番磁界を印加する励磁機構を構成する。また、応力測定センサ100Aにおいて、少なくとも二次コイル150Aおよびコア170Aにより、前記交番磁界が印加された車輪取付部350の表面の磁界を検出する磁界検出機構を構成する。
【0031】
センサ処理装置200Aは少なくとも、一次コイル110Aを駆動する励磁部210Aと、二次コイル150Aの例えば誘起電圧の信号処理を行って応力相当信号を出力する推定処理部230であるバルクハウゼンノイズ信号処理部230Aと、出力された応力相当信号から車輪脱落発生度合を推定する車輪脱落推定部250Aと、を有する。励磁部210Aは、測定対象物である車輪取付部350に交番磁界を印加するための電力を一次コイル110Aに供給する機能を有し、特に一次コイル110Aを正弦波状に励磁できることが好ましい。励磁部210Aの交番磁界を印加する機能は、例えば電流制御回路(不図示)により正弦波状の電流を印加することによるものであると、短絡などの故障発生時における安全要件上から好ましい場合があるが、正弦波状の電圧を印加するものであってもよい。前記交番磁界の周波数は、実験や実測、シミュレーション等による結果から、設計者が任意に決定することができる。しかし該周波数は、一般には比較的少ない電力で磁界変化量を大きくするため、ある程度の高周波である一方で、後述のバルクハウゼンノイズとの帯域干渉を避けることが好ましく、0.1~20kHz程度に設定される場合が多い。
【0032】
バルクハウゼンノイズ信号処理部230Aは、二次コイル130Aの誘起電圧である上記センサ出力からバルクハウゼンノイズの大きさを評価可能な信号に変換する機能を有する。具体的にはバルクハウゼンノイズ信号処理部230Aは、不図示の、バルクハウゼンノイズを抽出するフィルタや、バルクハウゼンノイズの大きさを評価するための整流回路等を有していてもよい。バルクハウゼンノイズを抽出するフィルタは、一次コイル110Aの励磁周波数などバルクハウゼンノイズ以外の周波数帯域を減衰させるハイパスフィルタであってもよい。また該フィルタは、バルクハウゼンノイズの周波数帯域をより重点的に抽出するためバンドパスフィルタとすることもできる。あるいは一次コイル110Aの励磁周波数を特に重点的に減衰させるため、バンドエリミネーションフィルタを適用してもよい。またフィルタの前に、微小な誘起電圧を増幅するために、二次コイル150Aからの出力に対してインピーダンスの高い回路を形成するためにプリアンプ回路(不図示)を設けてもよい。また、前記フィルタによって抽出されたバルクハウゼンノイズは一般に極めて微弱な電圧であるため、必要に応じてフィルタの後に増幅回路(不図示)を設けてもよい。
【0033】
バルクハウゼンノイズは測定対象物の磁化状態が変化する一部区間において発生する信号であるため、そのままではバルクハウゼンノイズの大きさを的確に判断することが難しい場合がある。そこで、整流回路(不図示)は、例えば負の電圧を切り捨てる半波整流回路や、絶対値電圧とする全波整流回路や、整流されたバルクハウゼンノイズを積分する積分回路等であってもよい。こうすることで、バルクハウゼンノイズの総合的な大きさを評価することができる。なお、積分回路は、ローパスフィルタであってもよく、あるいはダイオード等で電圧減少を抑制した積分回路および一定間隔で電圧をリセットする回路であってもよい。後者の場合、回路でのリセット間隔は、例えば励磁周波数の周期、またはその整数倍の周期、またはその半分の周期であってもよく、前記リセットのタイミングと同期してリセットが行われる前に信号をサンプリングする機能が設けられているとより好ましい。あるいは、例えば一定間隔でリセットされるピークホールド回路として構成してもよい。磁化状態が変化する一部区間で発生したバルクハウゼンノイズのピーク値を測定することで、バルクハウゼンノイズの大きさを評価することができる。また、上記リセット間隔は、少なくとも励磁周波数の周期の半分以上の周期であることが望ましく、前記リセットのタイミングと同期してリセットが行われる前に信号をサンプリングする機能が設けられているとより好ましい。
【0034】
車輪脱落推定部250Aは、例えばバルクハウゼンノイズ信号処理部230Aから出力される応力相当信号について上記所定範囲における車輪取付部350のボルト締結位置とそれ以外の場所との応力変化を分析する応力変化分析機能部251Aと、前記応力変化分析機能部251Aの結果を所定閾値との比較などの所定条件で車輪脱落発生度合を推定する応力変化評価機能部253Aとを有する。
【0035】
<応力変化分析機能 例1>
応力変化分析機能部251Aは、例えば車輪取付部350の回転軸心Cに対する(円周等配されたねじのうちの)2つのボルト締結位置間の角度(ボルト締結位相の角度とも呼ぶ)以上に車輪取付部350が回転した際のデータを取得し、前記データ内での上下限値の差分、データの変化勾配、等を導出してもよい。
【0036】
<応力変化評価機能 例1>
上記の場合、応力変化評価機能部253Aは、前記データ内での上下限値の差分、データの変化勾配の大きさ、またはその両方から、車輪脱落の発生度合を推定してもよい。ハブナット373とハブボルト371とのボルト締結が正常である場合はボルト締結位置周辺には比較的強い圧縮応力が作用し、上記ボルト締結に緩みが生じると圧縮応力が緩和される傾向を示す。従って、少なくともボルト締結位相の角度以上に車輪取付部350が回転した際の取得データにおいて、上下限値の差分の大きさが小さくなるか、または変化勾配が小さくなると、ボルト締結に緩みが生じて圧縮応力が緩和された影響が強く生じていると推定できるため、車輪脱落の発生度合が上昇したと推定することができる。
【0037】
<応力変化分析機能 例2>
応力変化分析機能部251Aは、例えばねじ構造370に含まれる上記複数のねじの全てがそれぞれ、少なくとも1度は測定センサ110Aの近傍を通過するまで、すなわち全てのボルト締結位置がそれぞれ、少なくとも1度は応力測定センサ100Aの測定箇所を通過するまで、車輪取付部350が回転した際のデータ(センサ出力)を取得し、取得したデータを例えばフーリエ変換等により周波数分析してもよい。前記データの取得は、特に車輪が1回転するまでのデータか、あるいはその整数倍に相当するデータであると、一部または複数のボルト締結位置に緩みが生じた場合の周波数成分の変化がより明確になるため好ましい。
【0038】
<応力変化評価機能 例2>
この場合、応力変化評価機能部253Aは、ボルト締結位置が測定センサ110Aの近傍を通過する周期に相当する周波数成分(後述の周波数次数等)を評価してもよい。なお、本実施形態ではねじ構造370に含まれる複数のねじによる周波数成分を基本周波数成分と呼び、以下ではこの基本周波数成分を中心に説明を行う。本実施形態における基本周波数は、ねじ構造370に含まれる複数のねじがN本の場合には、車輪取付部350の単位時間当たりの回転数をf[回転/sec]とすると、fN[Hz]となる。車輪取付部350の応力は、回転する車輪取付部350のボルト締結位置と概ね同期して変動するため、ボルト締結位置の圧縮応力はボルト締結位置が応力測定センサ100Aの測定箇所を通過する周期に相当する周波数成分によって評価することができる。例えば、上記ボルト締結に緩みが生じた場合、ボルト締結位置が応力測定センサ100Aの測定箇所を通過する周期に相当する周波数成分の応力が減少するため、前記周波数成分が減少すると車輪脱落の発生度合が上昇したと推定することができる。
【0039】
また、例えば一部のボルト締結に緩みが生じた場合、当該ボルト締結の位置が応力測定センサ100Aの測定箇所を通過する場合のみ応力の変動が少なくなるため、周波数分析の結果は振幅変調に類似した傾向を示す。すなわち、上記複数のねじが上記測定センサの近傍を通過する周期に相当する周波数成分に対応する、上記複数のねじのボルト締結位置の通過周期に相当する周波数成分(基本周波数成分)が減少した場合、基本周波数成分を除いたこの基本周波数成分からの所定帯域内である周辺帯域の周波数成分(帯域内周波数成分)が上昇する。従って、例えばボルト締結位置が応力測定センサ100Aの測定箇所を通過する周期に相当する周波数について、周辺帯域における所定の周波数成分の大きさが大きくなるか、あるいはボルト締結位置が応力測定センサ100Aの測定箇所を通過する周期に相当する周波数の周波数成分に対する前記周辺帯域の周波数成分の比率が大きくなると、車輪脱落の発生度合が上昇したと推定することができる。
【0040】
車輪脱落推定部250Aは、上記のいずれかの評価結果または複数の評価結果に基づいて、車輪脱落発生度合を車輪脱落推定結果として出力する。車輪脱落検出センサ1Aを設ける車両VCにおいては、前記推定結果において車輪脱落の発生度合が所定より大きくなると、所定の方法で警告(アラート等)を発するか、または車両の走行速度を制限するような機能を設けると安全上好ましい。尚、上記説明における応力測定センサ100A並びにセンサ処理装置200Aの機能部の区分は構成を説明する便宜上設けたものであり、これらの区分に限定されるものではない。本実施形態の応力測定センサおよびセンサ処理装置として記載された機能からなる車輪脱落検出センサであれば、どのような区分であっても採用できる。これは以下の実施形態でも同様である。
【0041】
図5の例は、図4の例と比較して、相違点として応力測定センサ100Bの二次コイル150Bの軸心を測定対象表面に対して垂直に配置する例、すなわち直方体状、直棒状または直円柱状等の二次コア170Bの一方の端のみが測定対象物350に向けられて配置された例であり、他は実質的に同一である。図4の例に対して二次コイル150Bの検出信号強度が低下するが、省スペースでの配置が可能となり、二次コイル150Bにコア170Bが容易に挿入できるため二次コイル150Bの巻線が容易となる。
【0042】
<第3実施形態>
図6に示す本発明の第3実施形態に係る車輪脱落検出センサ1Cは、上記実施形態1の他の具体例であり、対象物に交番磁界を印加し、その際の電流および電圧から、磁性体の透磁率を測定する応力測定センサ100C、及びセンサ処理装置200Cを少なくとも備える。磁性体の透磁率はその磁性体に作用する応力によって変化するため、透磁率を評価することで応力を測定することができる。本実施形態では、該透磁率の変化をインダクタンスの変化から検出する例で説明する。
【0043】
応力測定センサ100Cは少なくとも、測定対象物である車輪取付部350を含めて磁路を形成する交番磁界を励磁するコイル110Cと、その両端が測定対象物に向けられたコの字型(U‐shaped type)形状のコイルの110Cのコア130Cとからなる。なお、これらを保持するハウジングや前記コイルへの配線部等は適宜設けられるものとし、図示は割愛する。コイル110Cのコア130Cも、例えばフェライトコア、圧粉磁心、積層鋼板、等の励磁周波数に対して十分に透磁率の高い磁性体コアであることが好ましい。
【0044】
センサ処理装置200Cにおけるインダクタンス推定部230Cは、上記推定処理部230であり、電圧と電流との関係からコイル110Cのインダクタンスを推定する。インダクタンス推定部230Cは、整流回路(不図示)を有してもよい。コイル110Cが所定の交番磁界を印加するための交流電流を励磁部210Cが出力する場合、上記整流回路はコイル110Cに発生する電圧を取得する。コイル110Cが所定の交番磁界を印加するための交流電圧を励磁部210Cが出力する場合、上記整流回路はコイル110Cに流れる電流を取得する。いずれの場合も、磁路を形成する車輪取付部350の透磁率の変化により、印加した電圧および電流の一方に対する他方の出力が変化するため、透磁率の変化を測定しうる。励磁部210Cによる交番磁界の周波数は、実験や実測、シミュレーション等による結果から、設計者が任意に定めうる。なお、透磁率変化によるインダクタンスの変化をより大きな差として検出するため、センサ処理装置200Cはコンデンサや抵抗素子からなる共振回路が設けられていてもよく、検出信号の整流及び増幅等を行う機能が設けられていてもよい。
【0045】
図7の例は、図6の例に対し、応力測定センサ100Dがコアを有しない空芯のコイル110Dを有する例を示す。図7の例は、図6の例よりも高周波の交番磁界を印加する場合に主に適している。
【0046】
<第4実施形態>
図8に示す本発明の第4実施形態に係る車輪脱落検出センサ1Eは、上記実施形態1のさらに他の具体例であり、図6図7の例のように車輪取付部350の透磁率変化によるインダクタンス変化を計測する応力測定センサ100Eを用いるが、図6図7の例とは異なり、ブリッジ回路を使用してインダクタンス変化を検出する例である。ブリッジ回路は、いわゆる交流ブリッジであり、本実施形態では、インダクタンス変化の検出感度を向上させるためホイートストンブリッジが採用される。
【0047】
応力測定センサ100Eは、略同一箇所に設けられたコイル110Ea、コイル110Ebからなるコイル110Eと、それとは異なる場所において、同様に略同一箇所に設けられたコイル150Ea、コイル150Ebからなるコイル150Eとを少なくとも備える。各コイルは図6または図7の例のどの形式のものも用いることができるが、巻線の形状や巻回方向等のコイル仕様は、ボルト締結によって生じる車輪取付部350の応力分布による透磁率変化の影響をより受けやすい仕様とすることが好ましい。
【0048】
図8に示す例において、コイル110Eとコイル150Eは、P.C.Dのような車輪取付部350の回転軸心Cに対する略同一の円周PCD上で、異なる位相で取り付けられる。コイル110Eとコイル150Eが取り付けられる位相の間隔は、車輪取付部350へのボルト締結により生じる応力分布において十分に変化が生じうる位相差に設けることが好ましく、省スペースなセンサ配置とする具体例としては、車輪取付部350の各ねじの締結位置の間隔(位相差)の概ね半分か、またはそれ以下に設定される。このように配置すると、例えばコイル110Eと車輪取付部350との位置関係がボルト締結位置の圧縮応力の影響が比較的強く生じる位置である場合に、コイル150Eは前記圧縮応力の影響が比較的弱い位置に存在し得るため、コイル110Eとコイル150Eの各インダクタンス間に差が生じ得る。
【0049】
図9の例は、図8の例と比較して、応力測定センサ100Fのコイル配置が異なる例を示している。コイル110Fは車輪取付部350の回転座標上の位置において、ボルト締結位置が存在するP.C.D近傍の径方向位置に設けられる。コイル150Fは、径方向でコイル110FよりもP.C.Dから離れた位置に設けられ、図9の例においてはコイル110Fよりも外径側に配置される。なお、コイル150Fはコイル110Fよりも内径側に配置されてもよい。このように配置すると、例えばコイル110Fが車輪取付部350のボルト締結による応力変化が比較的大きく生じる位置にある場合に、コイル150Fは応力変化が比較的少ない位置に存在し得るため、コイル110Eとコイル150Eの各インダクタンス間に差が生じ得る。
【0050】
図10の例は、図8(または図9)の例における応力測定センサ100E(100F)の各コイル110E、150E(110F、150F)であるコイル110、150で構成されるブリッジ回路BCの例を示す。コイル110は、コイル110E、110Fのように略同一箇所に設けられたコイル110a、コイル110bからなり、コイル150は、コイル150E、150Fのように略同一箇所に設けられたコイル150a、コイル150bからなる。これらの4つのコイルは、コイル110aとコイル110bとが対角要素となるように、またコイル150aとコイル150bとが対角要素となるように、ブリッジ回路BCを形成する。センサ処理装置200E、200Fの信号処理部230E、230Fは、ブリッジ回路BCの差動電圧に対して整流や増幅を行い、各コイルのインダクタンス変化に対応した応力相当信号を出力する。
【0051】
図4図10を用いて説明を行った各実施形態では、構成要素がコイルや、整流・増幅等を行う処理回路となるため、車輪脱落検出センサを安価に構成できて好ましいと考えられるが、これら以外の応力測定センサおよびセンサ処理装置を使用してもよい。例えば、X線や、音響、レーザー照射等によっても応力測定が可能であり、車輪脱落検出センサにこれらを適用することもできる。なお、センサのコスト増加やセンサ処理装置が大掛かりとなること、車両の車輪回りの熱や異物等の環境面等を考慮すると、実施形態2~4のいずれかの構成を用いる方が好ましいと考えられるが、本願は上記のX線等の他の応力測定方式を除外するものではない。
【0052】
<計測結果等>
図11図13は、上記のいずれかの実施形態における車輪脱落検出センサが検出した応力測定結果、応力変動量および周波数特性における応力振幅を示す。同図では、正常時と異常時の結果も重ねて示しており、車輪脱落の発生度合の推定指標についての模式図を示している。
【0053】
図11では、ハブボルトおよびハブナット等のねじを5本含むねじ構造を有して、車輪が5か所でボルト締結された車輪取付部が1回転した場合の応力測定結果の例を示す模式的な波形図である。同図では、車輪取付部に車輪が正常に締結されている例(正常時)と、一部のボルト締結力が弱まっている場合であり1本のねじで大きくボルト締結力が弱まっている例(異常時a)および2ヶ所でボルト締結力が弱まり気味でかつ2ヶ所で大きくボルト締結力が弱まっている例(異常時b;1本のねじは正常状態)とを示す。同図の縦軸の物理量が実際にどのような応力状態またはセンサ出力状態となるかは、実施形態2~4の各構成および当業者によって任意に定められる構成等によって決定されるものであるが、同図は車輪を固定した際のボルト締結により車輪取付部の回転周方向に応力変動が生じた場合を例に概略を示すものである。同図の横軸には、5か所のボルト締結位置について、1~5の番号を付している。
【0054】
同図の正常時の特性波形は、各ボルト締結位置において締付けによる応力の作用で波形が周期的に大きく下方へ向かい、ボルト締結位置から遠い位置では応力がほぼボルト締付け無しの場合の値か同値に近い値となっているため、正弦波状となっている。異常時aの特性波形では、5番目のボルト締結位置においてのみ、締付けが緩んできて応力が大きく弱まって振幅が小さくなっており、ここのみ正常時の特性波形と異なっている。異常時bの特性波形では、3,4番目のボルト締結位置において締付けによる応力が若干弱まって振幅が小さくなっており、2、5番目のボルト締結位置において締付けによる応力が大きく弱まって振幅がさらに小さくなっている。以上のことから、異常時aでは、5番目のねじのボルトが離脱する可能性が高く、異常時bでは、将来4本のねじにおいてボルト離脱の可能性が高く、そのうちの2本がより脱落の危険性が比較的高い状態と推定しうる。
【0055】
図12は、図11の例に示す応力測定結果における応力変動量(図11の振幅の変化量)に対して、各ねじに対応したボルト締結部の約1ピッチ分に相当する周期における応力変動量を各時間について(各ねじについて)導出した例を示す。図11の場合と同じねじにおいて、正常時の例と比較して、異常時a, bともに応力変動量が低下して該応力変動量が小さくなっている部分が存在しているため、該応力変動量の大きさを所定の閾値と比較するなどすることで評価を行い、車輪脱落発生度合を推定することができる。具体的には、応力変動量の大きさが所定の閾値を下回ると車輪脱落の発生度合が高まったことを出力してもよく、あるいは応力変動量の低下度合や低下傾向によって車輪脱落の発生度合を連続または段階的に評価した結果を出力してもよい。後者の場合、瞬時的な信号変化に対して閾値超過の回数、応力変動評価周期の延長、応力変動推定結果のフィルタリング等により定常的な評価信号を適宜求めるものとする。
【0056】
図13は、図11の例に示す応力測定結果を周波数分析した結果の例を示す。横軸は車輪取付部の単位時間当たりの回転数(回転周波数)に対する次数(周波数次数)を示し、図中のX次は、複数のねじが応力測定センサの近傍を通過する周期(この周期の波を基本波とも呼ぶ)に相当する周波数成分(基本周波数成分)に対応する次数であって、図11の例においては5本のねじの例であるため5次に相当する。なお、0次は材料特性やセンサギャップ等の評価外要素に極めて強く依存する次数であるため、車輪脱落の推定からは除外してもよい。
【0057】
図13では、正常時と比較して、異常時a, bのいずれの例においてもX次の周波数成分の振幅(基本波振幅)が低下しており、X次の周波数成分の基本波振幅が低下すると車輪脱落発生度合が高いとして推定してもよい。また、異常時a、異常時bのように一部のボルト締結力が低下した場合、正常時には見られない振幅変調に類似した現象が発生してX次の周辺の帯域における周波数成分の振幅が上昇する。そこで、基本周波数成分の影響が及んでいると考えられる前記X次からの所定帯域内における周辺帯域の周波数成分(帯域内周波数成分)の振幅(変調波振幅)で推定を行ってもよい。例えば、いずれかの帯域内周波数成分の変調波振幅が単体で大きくなると、車輪脱落発生度合が高いとして推定してもよい。または、X次の基本周波数成分と帯域内周波数成分とを比較する形で、例えば基本周波数成分の基本波振幅に対する帯域内周波数成分の変調波振幅の比率が上昇すると車輪脱落発生度合が高いと推定してもよい。なお変調波振幅として、帯域内周波数成分のうち最大の振幅となる周波数成分の振幅であってもよく、または複数の前記帯域内周波数成分の波形を重ね合わせた波形の振幅であってもよい。車輪脱落発生度合は、具体的には例えば、図12図13に示すいずれかの方法によって推定されてもよく、あるいはこれらを組み合わせて推定されてもよい。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 車輪脱落検出センサ
100 測定センサ(応力測定センサ)
110A、110B、110C、110D、110E、110F 一次コイル
150A、150B、150E、150F 二次コイル
200 センサ処理装置
210A、210B、210C、210D、210E、210F 励磁部
230 推定処理部
250A、250B、250C、250D、250E、250F 車輪脱落推定部
300 車輪
350 車輪取付部
370 ねじ構造
371 ねじ(ハブボルト)
373 ねじ(ハブナット)
VC 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13