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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046161
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20240327BHJP
   F16C 19/04 20060101ALI20240327BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/04
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151386
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】石田 光
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA12
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701CA14
3J701FA13
3J701FA32
3J701GA24
3J701GA31
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB18
(57)【要約】
【課題】グリース保持性に優れる転がり軸受を提供することにある。
【解決手段】外周面に転走面(3a)が形成された内輪(3)と、内周面に転走面(5a)が形成された外輪(5)と、前記内輪(3)の転走面(3a)と前記外輪(5)の転走面(5a)との間に介在する複数の転動体(7)とを備える転がり軸受(1)において、前記外輪(5)の内周面における前記転走面に隣接した部分(5b)に複数の溝(21)が形成されており、前記外輪(5)の転走面側端における前記溝の深さ(D)が、転動体径の0.5%以上かつ3.5%以下の範囲にある。前記溝(21)が、前記外輪(5)の端面側から前記転走面(5a)側に向かって次第に深くなるテーパ状に形成されていてもよい。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に転走面が形成された内輪と、
内周面に転走面が形成された外輪と、
前記内輪の転走面と前記外輪の転走面との間に介在する複数の転動体と、
を備える転がり軸受であって、
前記外輪の内周面における前記転走面に隣接した部分に複数の溝が形成されており、
前記外輪の転走面側端における前記溝の深さが、転動体径の0.5%以上かつ3.5%以下の範囲にある、
転がり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受において、
前記溝が、前記外輪の端面側から前記転走面側に向かって次第に深くなるテーパ状に形成されている、
転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高速回転するモータに用いられる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸は、加工能率を上げるために高速で回転するものが好ましく、これに用いられる転がり軸受には、高い信頼性で潤滑を維持できることが要求される。そのための技術として、例えば、外輪転走面に隣接する両側部分にグリースポケットを設けてグリースを保持することにより、転走面への油分供給性の向上を図ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-275176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えば縦軸で使用されるdmn100万以上の高速スピンドルモータの場合、せん断安定性に劣るグリースを用いると、グリース保持性が劣ることから油分供給性が不十分となる。上記の高速スピンドルモータ用に、せん断安定性に優れ軟化し難いグリースを用いた場合も、軸受の雰囲気温度が十分高くないと、やはり油分供給性が不十分となる。
【0005】
他方で、軸受の雰囲気温度を高い状態、例えば80℃以上とすると、酸化劣化が主要因でグリースの寿命が低下する。また、油供給性に優れる低粘度でちょう度の大きいグリースを用いる場合、縦軸使用においてグリース保持性に劣るため、十分な油供給性が得られない。したがって、転がり軸受の内部における軸受自体のグリース保持性を高めることが求められる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記の課題を解決するために、グリース保持性に優れる転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するために、本発明に係る転がり軸受は、。
外周面に転走面が形成された内輪と、
内周面に転走面が形成された外輪と、
前記内輪の転走面と前記外輪の転走面との間に介在する複数の転動体と、
を備える転がり軸受であって、
前記外輪の内周面における前記転走面に隣接した部分に複数の溝が形成されており、
前記外輪の転走面側端における前記溝の深さが、転動体径の0.5%以上かつ3.5%以下の範囲にある。
【0008】
この構成によれば、外輪の転走面に隣接する複数の溝を設けた部分の表面積が増加することにより、軸受自体の構造によってグリース保持性が向上する。特に、前記溝の深さを上記の範囲とすることにより、潤滑耐久性および溝による音響、振動の両面において良好な性能が得られる。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記溝が、前記外輪の端面側から前記転走面側に向かって次第に深くなるテーパ状に形成されていてもよい。この構成によれば、溝の毛細管力の効果がより大きく影響し、グリースの基油が溝に留められやすくなり、転走面へ供給される油分が増加する。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明に係る転がり軸受によれば、転がり軸受のグリース保持性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る転がり軸受の概略構成を示す断面図である。
図2A図1の転がり軸受の複数の溝のパターンの一例を示す概略図である。
図2B図1の転がり軸受の複数の溝のパターンの他の例を示す概略図である。
図2C図1の転がり軸受の複数の溝のパターンの他の例を示す概略図である。
図2D図1の転がり軸受の複数の溝のパターンの他の例を示す概略図である。
図3A図1の転がり軸受の複数の溝の断面形状の一例を模式的に示す断面図である。
図3B図1の転がり軸受の複数の溝の断面形状の他の例を模式的に示す断面図である。
図3C図1の転がり軸受の複数の溝の断面形状の他の例を模式的に示す断面図である。
図3D図1の転がり軸受の複数の溝の断面形状の他の例を模式的に示す断面図である。
図4図1の転がり軸受の溝周辺部分を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1に、本発明の第1実施形態に係る転がり軸受1を示す。この転がり軸受1は、例えば、100万dmn以上の高速スピンドルモータの回転軸を支持するために用いられる。この例では、転がり軸受1は深溝玉軸受として構成されている。転がり軸受1は、外周面に転走面3aが形成された内輪3と、内周面に転走面5aが形成された外輪5と、内輪3の転走面と前記外輪5の転走面との間に介在する複数の転動体であるボール7とを備える。なお、以下の説明では、内輪3に形成された転走面を「内輪転走面3a」と呼び、外輪5に形成された転走面を「外輪転走面5a」と呼ぶ。
【0014】
転がり軸受1は、さらに、内輪3と外輪5との間に形成された軸受空間9において、ボール7を保持する保持器11を備えている。外輪5の内周面における軸心C方向の両端部付近にはそれぞれ係止溝13が設けられており、各係止溝13に嵌合されたシール部材15によって軸受空間9が密閉されている。軸受空間9内における、少なくともボール7の周囲に、潤滑用のグリースが封入される。
【0015】
なお、本発明に係る転がり軸受1は、例示した深溝玉軸受に限定されず、例えば、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受等であってよい。
【0016】
本実施形態では、図2Aに示すように、外輪5の内周面における外輪転走面5aに隣接した両側部分5bに複数の溝21が形成されている。具体的には、複数の溝21は、互いに平行に延びる多数の直線状の溝21の組合せによって、規則的なパターンを形成するように構成されている。複数の溝21のパターンとして、同図の例では、転がり軸受1の軸心C方向に対して傾斜した、互いに直交して延びる直線状の溝21からなる格子状としている。複数の溝21のパターンは、この例に限定されず、例えば、図2Bに示すように軸心C方向に互いに平行に延びる直線状であってもよく、図2Cに示すように周方向に体外に平行に延びる直線状であってもよく、図2Dに示すように軸心C方向と周方向に互いに直交して延びる直線状の溝21からなる格子状であってもよい。
【0017】
溝21の断面形状は、本実施形態では、図3Aに示すように三角形状としている。もっとも、溝21の断面形状はこの例に限定されず、例えば、図3Bに示すように四角形状であってもよく、図3Cに示すようにテーパ状であってもよく、図3Dに示すように円弧状であってもよい。
【0018】
複数の溝21は、例えばローレット加工によって設けることができるが、これに限らず、例えば放電加工やマシニング,旋盤による切削加工等、他の加工方法によって設けてもよい。また、複数の溝21は、外輪5の内周面における外輪転走面5aに隣接した両側部分5bに、各隣接部分を外径側へ凹ませた周方向に延びる溝21であるグリースポケットを設けたうえで、グリースポケットの表面に設けてもよい。
【0019】
図4に示すように、本実施形態では、複数の溝21全体が、外輪5の端面側から外輪転走面5a側に向かって次第に深くなるテーパ状に形成されている。具体的には、図示の例では、溝底が、軸心C方向に対して、外輪転走面5a側に向かって次第に深くなる直線状に形成されている。このように構成することにより、溝21の毛細管力の効果がより大きく影響し、グリースの基油が溝21に留められやすくなり、転走面へ供給される油分が増加する。
【0020】
また、本実施形態に係る転がり軸受1において、外輪転走面5a側端における溝21の深さD(以下の説明では、単に「溝深さD」という。)が、転動体径の0.5%以上かつ3.5%以下の範囲にあることが耐久性の点から実使用上好ましいことが見出された。以下この点について説明する。
【0021】
図1に示したのと同様の構成を有する深溝玉軸受について、溝深さDのボール径に対する比率を0.1%~5.0%と変化させたサンプルを用意し、下記の試験条件にて軸受を回転させる耐久試験を行い、外輪5の温度変化および音響振動の程度を確認した。
・軸受種類:深溝玉軸受
・回転速度:10000min.-1
・軸受予圧(アキシアル荷重):588N
・試験時間:500時間
上記試験の結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1に示す通り、溝深さDのボール7径比が0.3%以下の比較例においては、外輪5温度の急上昇が認められた。また、溝深さDのボール径比が4.0%以上の比較例においては、外輪5温度の急上昇はないものの、音響振動が大きくなることが確認された。他方で、溝深さDのボール径比が0.5%以上かつ3.5%以下の範囲にある実施例において、長時間の動作後であっても外輪5温度の急上昇や音響振動の増大が発生せず、良好な耐久性を示した。
【0024】
以上説明した本実施形態に係る転がり軸受1によれば、外輪転走面5aに隣接する複数の溝21を設けた部分の表面積が増加することにより、軸受自体の構造によってグリース保持性が向上する。特に、前記溝21の深さDを上記の範囲とすることにより、潤滑耐久性および溝による音響、振動の両面において良好な性能が得られる。
【0025】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0026】
1 転がり軸受
3 内輪
3a 内輪転走面
5 外輪
5a 外輪転走面
5b 外輪転走面に隣接する両側部分
21 溝
D 溝の深さ
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4