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特開2024-46179ボールねじ及びこれを備える電動アクチュエータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046179
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ボールねじ及びこれを備える電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240327BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20240327BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/20 E
F16H25/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151414
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃央
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA01
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA14
3J062CD07
3J062CD23
3J062CD54
(57)【要約】
【課題】こま式のボールねじにおいて、ねじ軸が軸方向に対して傾くのを防止する。
【解決手段】雌ねじ溝22aを有するナット22と、雄ねじ溝21aを有するねじ軸21と、対向するねじ溝21a,22aで画成される転動路25に連ねて配置された複数のボール23とを備え、ナット22の凹部22bに嵌合されたこま部材24により、転動路25の長手方向の一端部と他端部とを接続する接続路26が形成され、転動路25と接続路26とでボール23を無限に循環させる循環路27が構成されたこま式のボールねじ20において、循環路27を構成する転動路25は、その長手方向の他端部が、その長手方向の一端部を基準として360°以上進んだ位相に配置されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に雌ねじ溝が形成されたナットと、外周面に雄ねじ溝が形成されたねじ軸と、対向する前記雌ねじ溝と前記雄ねじ溝とで画成される転動路内に連ねて配置され、前記ナットと前記ねじ軸の間でトルクを伝達する複数のボールと、前記ナットの外周面に開口する凹部に嵌合されたこま部材とを備え、前記転動路の長手方向の一端部と他端部とを接続する接続路が前記こま部材を用いて形成され、前記転動路と前記接続路とで前記ボールを無限に循環させる循環路が構成されたボールねじにおいて、
前記転動路は、その長手方向の他端部が、その長手方向の一端部を基準として360°以上進んだ位相に配置されていることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記循環路が軸方向に間隔を空けて複数設けられている請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記循環路が、前記ナットの軸方向一方側及び他方側の端部に設けられている請求項2に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記ナットは、前記凹部内で前記転動路を画成する転動路画成部を一体に有し、
前記接続路は、前記転動路画成部の軸方向一方側で前記転動路の長手方向の一端部と接続されると共に、前記転動路画成部の軸方向他方側で前記転動路の長手方向の他端部と接続されている請求項2又は3に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記接続路は、
前記こま部材に形成され、長手方向の一端が前記転動路の長手方向の一端部に接続された第1通路と、
前記こま部材の軸方向外側で前記ナットに形成され、長手方向の一端が前記第1通路の長手方向の他端に接続された第2通路と、
前記ナットの軸端に取り付けられたカバー部材に形成され、長手方向の一端が前記第2通路の長手方向の他端に接続されると共に、長手方向の他端が前記転動路の長手方向の他端部に接続された第3通路とからなる請求項2又は3に記載のボールねじ。
【請求項6】
前記転動路は、その長手方向の他端部が、その長手方向の一端部を基準として720°以上進んだ位相に配置されている請求項1~3の何れか一項に記載のボールねじ。
【請求項7】
電動モータと、電動モータの回転運動を直線運動に変換して出力する運動変換機構とを備え、該運動変換機構に請求項1に記載のボールねじが使用され、前記電動モータの回転運動を受けて前記ナットが回転するのに伴って出力軸としての前記ねじ軸が直線運動する電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ及びこれを備える電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、特に車両用ブレーキシステムにてブレーキの液圧制御を行うために用いられる電動アクチュエータであって、電動モータと、電動モータの回転運動を直線運動に変換して出力する運動変換機構としてのボールねじと、を備えたものが開示されている。この電動アクチュエータに用いられているボールねじは、電動モータの回転運動を受けて回転するナットと、ナットの回転に伴って軸方向に進退移動するねじ軸と、ナットの内周面に形成したねじ溝(雌ねじ溝)とねじ軸の外周面に形成したねじ溝(雄ねじ溝)とで画成される転動路に沿って連ねて配置され、ナットとねじ軸の間でトルクを伝達する複数のボールと、ナットの外周面に開口する凹部に嵌合され、転動路の長手方向の一端及び他端を接続する接続路をナット内に形成したこま部材と、を備えたいわゆる「こま式」である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-14437号公報
【特許文献2】特開2006-226314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電動アクチュエータにおいては、ボールねじ(こま式のボールねじ)のナットが軸受(転がり軸受)を介してハウジングに対して回転自在に支持されているものの、アクチュエータの出力軸としても機能するねじ軸を直接的に支持するための軸受は設けられていない。この場合、ねじ軸に作用するラジアル荷重やモーメント荷重の影響によってねじ軸が軸方向に対して傾いてしまい、電動アクチュエータによる操作対象の操作精度が低下する可能性がある。
【0005】
これは、例えば特開2006-226314号公報(特許文献2)に記載されているように、こま式のボールねじに設けられるこま部材としては、ナットのねじ溝の隣り合う一周分同士を連結する連結溝を有するものが採用されるのが一般的であることに一因があると考えられる。すなわち、上記のようなこま部材を用いる場合、転動路を転動するボールは、ねじ溝の1ピッチ分転動する前に、連結溝を介して転動路の長手方向一端部から他端部に移送される。そのため、ボールによる荷重負荷部(ラジアル荷重やモーメント荷重を負荷する部位)が周方向の一部領域にしか形成されず、荷重負荷能力が不足する結果、ねじ軸の傾きを効果的に抑制することが難しくなる。
【0006】
上記の実情に鑑み、本発明は、こま式のボールねじにおいて、軸方向に直線運動するねじ軸が軸方向に対して傾くのを可及的に防止することを可能とし、もって、ねじ軸が出力軸として用いられる電動アクチュエータの動作精度向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、内周面に雌ねじ溝が形成されたナットと、外周面に雄ねじ溝が形成されたねじ軸と、対向する雌ねじ溝と雄ねじ溝とで画成される転動路内に連ねて配置され、ナットとねじ軸の間でトルクを伝達する複数のボールと、ナットの外周面に開口する凹部に嵌合されたこま部材とを備え、転動路の長手方向の一端部と他端部とを接続する接続路がこま部材を用いて形成され、上記転動路と上記接続路とでボールを無限に循環させる循環路が構成されたボールねじにおいて、上記転動路は、長手方向の他端部が長手方向の一端部を基準として360°以上進んだ位相に配置されたものであることを特徴とする。
【0008】
上記の構成を有するボールねじ(こま式のボールねじ)によれば、転動路を、ねじ溝の1ピッチ分以上の長さ範囲に亘ってボールが連ねて配置されたものとすることができる。そのため、ボールによる荷重負荷部(ラジアル荷重やモーメント荷重を支持する部位)を全周に亘って形成することができ、ねじ軸に作用するラジアル荷重やモーメント荷重の負荷能力を高めることができる。これにより、ねじ軸が軸方向に対して傾くのを効果的に抑制又は防止することができる。
【0009】
上記の構成を有する転動路、及び接続路からなる循環路は、軸方向に間隔を空けて複数設けることができる。このようにすれば、ねじ軸に作用するラジアル荷重やモーメント荷重の負荷能力を一層高めることができる。但し、循環路は、ナットの軸方向一方側及び他方側の端部に設けるのが好ましい。このようにすれば、循環路の設置箇所(ボールの総数)を最小限に留めつつも、ねじ軸に作用するモーメント荷重の負荷能力を効果的に高めることができる。
【0010】
上記の構成は、例えば、
ナットに、上記凹部内で転動路を画成する転動路画成部を一体に設け、接続路を、転動路画成部の軸方向一方側で転動路の長手方向の一端部と接続すると共に、転動路画成部の軸方向他方側で転動路の長手方法の他端部と接続することによって実現できる他、
接続路を、こま部材に形成され、長手方向の一端が転動路の長手方向の一端部に接続された第1通路と、こま部材の軸方向外側でナットに形成され、長手方向の他端が第1通路の長手方向の他端に接続された第2通路と、ナットの軸端に固定されたカバー部材に形成され、長手方向の一端が第2通路の他端に接続されると共に、長手方向の他端が転動路の長手方向の他端部に接続された第3通路とで構成することによって実現することもできる。
【0011】
また、転動路は、その長手方向の他端部が、その長手方向の一端部を基準として720°以上進んだ位相に配置されたものとしても良い。係る構成によれば、転動路内を転動するボールを、ねじ溝の2ピッチ分以上転動させてから、連結溝を介して転動路の長手方向一端部から他端部に移送することができる。そのため、ボールによる荷重負荷部(ラジアル荷重やモーメント荷重を支持する部位)の長手方向寸法を拡大してねじ軸に作用するラジアル荷重やモーメント荷重の負荷能力を一層高めることができる。
【0012】
上述した本発明に係るボールねじは、電動モータと、電動モータの回転運動を直線運動に変換して出力する運動変換機構とを備えた電動アクチュエータの運動変換機構に使用することができる。この場合において、上記ナットを運動変換機構の回転側(電動モータの回転運動を受ける側)とし、ねじ軸を運動変換機構の直動側として使用すれば、出力軸としてのねじ軸が直線運動する際にねじ軸が軸方向に対して傾くのを効果的に抑制することができるので、アクチュエータの操作対象を精度良く操作することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のことから、本発明によれば、いわゆるこま式のボールねじにおいて、軸方向に直線運動するねじ軸が軸方向に対して傾くのを可及的に防止することが可能となる。これにより、ボールねじのねじ軸が出力軸として用いられる電動アクチュエータの動作精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るボールねじを好適に使用し得る電動アクチュエータの概略縦断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るボールねじを概念的に示す縦断面図である。
図3図2に示すボールねじの斜視図である。
図4】ナットを省略したボールねじの斜視図である。
図5】(a)図は、こま部材の組み付け前のナットの一部を概念的に示す斜視図、(b)図は、(a)図を同図中の矢印A方向から見た時の斜視図である。
図6】(a)図は、こま部材が組み付けられたナットの一部を概念的に示す斜視図、(b)図は、(a)図を同図中の矢印A方向から見た時の斜視図である。
図7】本発明の他の実施形態に係るボールねじの一部を拡大して示す概略縦断面図である。
図8】本発明の他の実施形態に係るボールねじを概念的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、便宜上、まずは、本発明に係るボールねじを好適に使用し得る電動アクチュエータの一例を図1に基づいて簡単に説明し、その後、本発明の実施形態に係るボールねじを図2~8に基づいて説明する。
【0016】
図1に示す電動アクチュエータ1は、電動モータ2と、電動モータ2の回転運動を直線運動に変換する運動変換機構5と、電動モータ2の回転運動を運動変換機構5の回転側部材に伝達する動力伝達機構6と、電動モータ2を支持(収容)すると共に、運動変換機構5及び動力伝達機構6を収容したケーシング10とを備える。なお、以下の説明で使用する「軸方向」とは電動モータ2の回転軸4の軸心に沿う方向である。
【0017】
ケーシング10は、例えばアルミ合金の型成型品(アルミダイカスト品)である第1ケース11と第2ケース12とを備え、両ケース11,12はボルト等の締結部材を用いて軸方向に結合される。
【0018】
電動モータ2は、ステータコアやステータコイルを含むモータ本体3と、回転軸4とを備え、ステータコイルは図示外の動力電源と電気的に接続される。この電動モータ2には、回転軸4の回転量(回転角)を検出・制御することができるモータ、例えば三相ブラシレスモータが好ましく使用される。
【0019】
運動変換機構5は、電動モータ2の回転軸4と平行に配置され、外周面に螺旋状の雄ねじ溝21aが形成された直動側のねじ軸21と、ねじ軸21の外周に回転可能に嵌合され、内周面に螺旋状の雌ねじ溝22aが形成された回転側のナット22と、対向する雄ねじ溝21aと雌ねじ溝22aの間に転動可能に配置され、ねじ軸21とナット22の間でトルクを伝達する複数のボールと、循環部材としてのこま部材とを備えたボールねじ(こま式のボールねじ)20で構成される。ねじ軸21は、電動アクチュエータ1の出力軸としても機能する。なお、図1においては、ボール及びこま部材の図示を省略している。
【0020】
動力伝達機構6は、電動モータ2の回転運動をボールねじ20のナット22に伝達するものであり、電動モータ2の回転軸4と一体的に回転する駆動ギヤ7と、ナット22と一体回転可能に設けられ、駆動ギヤ7と噛み合った従動ギヤ8とを備えたギヤ機構で構成される。図示例では、ナット22に一体に設けたフランジ部9aと、ナット22の外周面に嵌合した止め輪9bとで従動ギヤ8を軸方向両側から挟持することにより、従動ギヤ8とナット22が一体回転する。なお、図示は省略するが、ナット22の外周面にロックナットを螺着させ、このロックナットと上記フランジ部9aとで従動ギヤ8を挟持するようにしても良い。本実施形態では、従動ギヤ8に、駆動ギヤ7よりも大径でかつ歯数の多いものを採用している。そのため、動力伝達機構6に入力された回転軸4の回転運動は、減速されると共にトルクが増加された上でナット22に伝達される。これにより、小型の電動モータ2を採用することができる。
【0021】
従動ギヤ8の軸方向外側には、ボールねじ20のナット22の軸方向一方側の端部をケーシング10(の第1ケース11)に対して回転自在に支持する転がり軸受13と、ナット22の軸方向他方側の端部をケーシング10(の第2ケース12)に対して回転自在に支持する転がり軸受14とが配置される。図示例の転がり軸受13,14は、何れも、複数のボールを介して相対回転する外輪及び内輪を備えた玉軸受(深溝玉軸受)である。
【0022】
ねじ軸21には、ボールねじの直動側を構成するねじ軸21がその中心軸回りに回転するのを規制する回転規制部15が設けられる。図示例の回転規制部15は、一部をねじ軸21の径方向外側に突出させた状態でねじ軸21の端部に固定された一対の回り止めピン16と、ケーシング10の第2ケース12の内周に形成されて軸方向に延び、回り止めピン16がスライド可能に嵌め込まれた一対の案内溝17とで構成される。
【0023】
以上の構成により、電動モータ2の回転軸4が回転すると、動力伝達機構6を構成する駆動ギヤ8が一体的に回転すると共に、駆動ギヤ8と噛み合った従動ギヤ9、さらには従動ギヤ9が一体回転可能に固定されたボールねじ20のナット22が回転する。これに伴い、ナット22(電動モータ2の回転軸4)の回転方向に応じて、ボールねじ20のねじ軸21は、その中心軸回りに回転することなく軸方向に進退移動する。ねじ軸21が進退移動すると、図示しない操作対象も例えば軸方向に操作される。操作対象としては、例えば、ねじ軸21と一体的に軸方向に変位するように設けられた油圧シリンダのピストンを挙げることができる。
【0024】
上述したとおり、図1に示す電動アクチュエータ1には、ボールねじ20のナット22(の軸方向一方側及び他方側の端部)を直接的に支持する転がり軸受13,14が設けられている一方で、ねじ軸21を直接的に支持するための軸受は設けられていない。そのため、ねじ軸21が軸方向に対して傾いた状態で進退移動し、操作対象を正確に(必要量)操作できない可能性がある。以下説明する本発明に係るボールねじ20は、ねじ軸21の傾きを抑制可能な特徴的構成を有することから、電動アクチュエータ1用の運動変換機構として好適に採用し得る。以下、ボールねじ20について詳細に説明する。
【0025】
図2に本発明の一実施形態に係るボールねじ20の概略縦断面図を示し、図3にボールねじ20の概略斜視図を示す。ボールねじ20は、複数のボール23を介して相対回転するねじ軸21及びナット22と、ナット22に組み付けられたこま部材24とを備えた、いわゆるこま式のボールねじである。ねじ軸21の外周面には螺旋状の雄ねじ溝21aが形成され、ナット22の内周面には雄ねじ溝21aと対向する螺旋状の雌ねじ溝22aが形成されている。そして、互いに対向する雄ねじ溝21aと雌ねじ溝22aの間にボール23が転動する転動路25が形成され、この転動路25に沿って複数のボール23が連ねて配置されている。そのため、ねじ軸21とナット22が相対回転すると、転動路25に配されたボール23は、雄ねじ溝21a及び雌ねじ溝22aの双方と接触しながら転動路25の長手方向に沿って移動し、ねじ溝21とナット22の間でトルクを伝達する。ボール23の移動方向は、ねじ軸21とナット22の相対回転方向に応じて変わる。
【0026】
こま部材24は、ねじ軸21とナット22が相対回転するのに伴って転動路25の長手方向に沿って移動(転動)するボール23を循環させるための循環部材として機能する。そのため、こま部材24は、転動路25の長手方向の一端部と他端部とを接続する接続路26を有する。本実施形態の接続路26は、図2に示すように、長手方向の一端が転動路25の長手方向の一端部に開口すると共に長手方向の他端が転動路25の長手方向の他端部に開口するようにこま部材24の内部を貫通する孔部で構成される。上記の接続路26を有するこま部材24が設けられていることにより、ボールねじ20には、転動路25と接続路26との協働により、転動路25に連ねて配置された複数のボール23を(無限に)循環させ得る循環路27が設けられる。
【0027】
図2及び図3に示すように、ナット22には、その外周面に開口した2つの凹部22bが軸方向に間隔を空けて設けられ、各凹部22bに、上記構成を有するこま部材24がナット22の外周側から嵌め込まれている。本実施形態では、ナット22の軸方向一方側及び他方側の端部に凹部22bがそれぞれ設けられ、各凹部22bにこま部材24が嵌め込まれている。そのため、転動路25及び接続路26からなる循環路27は、ナット22の軸方向一方側及び他方側の端部に設けられている。凹部22bに嵌め込まれたナット22は、使用時等にナット22から離脱しないように、圧入、加締め等の適宜の手段でナット22に固定される。
【0028】
各循環路27を構成する転動路25であって、複数のボール23が連ねて配置された転動路25は、何れも、長手方向の他端部が、長手方向の一端部を基準として360°以上進んだ位相に配置されたものとされる(図2及び図4を参照)。ここでは、長手方向の他端部が長手方向の一端部を基準として360°超720°未満進んだ位相に配置された転動路25を例示している。
【0029】
上記の構成を有する本実施形態のボールねじ(こま式のボールねじ)20によれば、軸方向に間隔を空けて設けられる2つの転動路25のそれぞれを、ねじ溝21a,22aの1ピッチ分以上の長さ範囲に亘ってボール23が連ねて配置されたものとすることができる。この場合、ボール23による荷重負荷部(ラジアル荷重やモーメント荷重を支持し得る部位)をねじ軸21の全周に亘って形成することができるので、ねじ軸21に作用するラジアル荷重やモーメント荷重の負荷能力を高めることができる。特に、本実施形態では、ナット22の軸方向一方側及び他方側の端部に上記構成の転動路25を設けているので、ボール23の使用個数(組み込み個数)を抑えつつ、ねじ軸21に作用するラジアル荷重やモーメント荷重の負荷能力を高めることができる。従って、係る構成のボールねじ20を図1に示す電動アクチュエータ1に組み込んで使用すれば、電動アクチュエータ1の出力軸が軸方向に対して傾くのを効果的に抑制又は防止することができ、操作対象を精度良く操作することのできる電動アクチュエータ1を実現することができる。
【0030】
本実施形態では、図2図5(a)(b)及び図6(b)に示すように、ナット22に、こま部材24が嵌め込まれる凹部22bの範囲内で転動路25を画成する(雌ねじ溝22aを有する)転動路画成部22cを一体に設け、こま部材24に設けた接続路26を、転動路画成部22cの軸方向一方側で転動路25の長手方向の一端部と接続すると共に、転動路画成部22cの軸方向他方側で転動路25の長手方向の他端部と接続することにより上記の構成を実現している。なお、この場合、こま部材24には、転動路画成部22c(に由来する凸部)を収容する収容溝24aを設けておく。これにより、こま部材24をナット22の凹部22bに収まり良く嵌合することができる。
【0031】
循環路27を構成する接続路26は、図7に示すものとすることもできる。図7に示す接続路26は、ナット22の凹部22bに嵌合されたこま部材24に形成され、長手方向の一端が転動路25の長手方向の一端部(又は他端部)に接続された第1通路26aと、こま部材24の軸方向外側でナット22(の転動路画成部22c)に形成され、長手方向の一端が上記第1通路26aの長手方向の他端に接続された第2通路26bと、ナット22の軸端に(設けた被取付部22d)に固定されたカバー部材28に形成され、長手方向の一端が上記第2通路26bの長手方向の他端に接続されると共に、長手方向の他端が転動路25の長手方向の他端部に接続された第3通路26cとで構成されている。
【0032】
詳細な図示は省略しているが、図7に示す構成において、カバー部材28を取り付けるためにナット22の軸端に設ける被取付部22dは、環状に(すなわち、ナット22の端面の全周に亘って)設けるのではなく、円弧状(扇状)等、ナット22の端面の周方向一部領域に設けるのが好ましい。これにより、ナット22が軸方向に大型化するのを回避することができる。
【0033】
以上で説明した実施形態では、転動路25及び接続路26からなる循環路27を軸方向の二箇所(特に軸方向一方側及び他方側の端部)に間隔を空けて設けるようにしたが、循環路27(転動路25)は、軸方向に間隔を空けて三箇所以上に設けるようにしても良い。
【0034】
図8は、本発明の他の実施形態に係るボールねじ20の部分概略縦断面図である。同図に示すボールねじ20は、転動路25(を含む循環路27)を軸方向の一箇所のみに設けた点において、以上で説明した実施形態とは構成を異にしている。但し、この場合においても、ねじ軸21にラジアル荷重やモーメント荷重が作用したときにねじ軸21に生じる傾きを抑制又は防止するため、転動路25は、長手方向の他端部が長手方向の一端部を基準として720°以上進んだ位相に配置されたものとしている。
【0035】
図示例においては、図2に示す実施形態と同様に、ナット22に、こま部材24が嵌め込まれる凹部22bの範囲内で転動路25を画成する(換言すると雌ねじ溝22aを有する)転動路画成部22cを一体に設け、こま部材24に設けた接続路26を、転動路画成部22cの軸方向一方側で転動路25の長手方向の一端部と接続すると共に、転動路画成部22cの軸方向他方側で転動路25の長手方向の他端部と接続することにより上記の構成を実現している。
【0036】
図示は省略するが、図8に示す構成を有する転動路25を含む循環路27は、軸方向の一箇所のみならず、軸方向に間隔を空けて複数設けることができる。特に、図2に示す実施形態と同様に、ナット22の軸方向一方側及び他方側の端部に上記転動路25を含む循環路27をそれぞれ設けておけば、ねじ軸21に作用するラジアル荷重やモーメント荷重の負荷能力を大幅に高めることができるので、ねじ軸21が軸方向に対して傾くのを効果的に防止することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明を行ったが、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0038】
1 電動アクチュエータ
2 電動モータ
5 運動変換機構
6 動力伝達機構
10 ケーシング
13,14 転がり軸受
20 ボールねじ
21 ねじ軸
21a ねじ溝(雄ねじ溝)
22 ナット
22a ねじ溝(雌ねじ溝)
22b 凹部
22c 転動路画成部
23 ボール
24 こま部材
25 転動路
26 接続路
27 循環路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8