(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046362
(43)【公開日】2024-04-03
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240327BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240327BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
H01L29/78 652M
H01L29/78 653A
H01L29/78 655B
H01L29/78 652J
H01L29/78 658F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022151694
(22)【出願日】2022-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】谷ツ田 雄司
(57)【要約】
【課題】
IGBTにおいて、オフ時のキャリア排出経路を設けてアバランシェに対する破壊耐量を確保しつつ、IE効果を高めてオン電圧の低減ができる半導体装置を提供する。
【解決手段】
半導体装置1は、内部にゲート絶縁膜10を介してゲート電極9が形成された第1のトレンチ7と、内部にトレンチ内絶縁膜14を介してトレンチ内エミッタ電極13が形成された第2のトレンチ8とを有し、エミッタ層11は第2のトレンチ8には接しておらず、縦断面における、第1のトレンチ7の幅をWgとし、第2のトレンチ8の幅をWeとし、第1のトレンチ7と第2のトレンチ8との間に挟まれたボディ層6の幅をWbとしたとき、Wg≦Wb、かつ、We/Wb≧2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層よりも裏面側に設けられた第2導電型のコレクタ層と、
前記コレクタ層に電気的に接続されたコレクタ電極と、
前記ドリフト層よりも表面側に設けられた第2導電型のボディ層と、
ボディ層を貫き前記ドリフト層に達する第1のトレンチおよび第2のトレンチと、
前記第1のトレンチの内部に設けられたゲート電極と、
前記第1のトレンチの内部の側壁部と前記ゲート電極との間および底面部と前記ゲート電極との間に設けられたゲート絶縁膜と、
前記第2のトレンチの内部に設けられたトレンチ内エミッタ電極と、
前記第2のトレンチの内部の側壁部と前記トレンチ内エミッタ電極との間および底面部と前記トレンチ内エミッタ電極との間に設けられたトレンチ内絶縁膜と、
前記ボディ層の表面に設けられ、前記第1のトレンチに接し、前記第2のトレンチからは離間した第1導電型のエミッタ層と、
前記エミッタ層と前記ボディ層と前記トレンチ内エミッタ電極とに電気的に接続されたエミッタ電極と、を有し、
2つの前記第2のトレンチの間に前記第1のトレンチと2つの前記ボディ層とが配置された半導体装置において、
縦断面における、前記第1のトレンチの幅をWgとし、前記第2のトレンチの幅をWeとし、前記第1のトレンチと前記第2のトレンチとの間に挟まれた前記ボディ層の幅をWbとしたとき、Wg≦Wb、かつ、We/Wb≧2であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、
0.5μm≦Wg≦1.8μmであることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1において、
縦断面における前記第1のトレンチの深さをtdとしたとき、1.0μm≦td≦2.0μmであることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1において、
縦断面における、前記第1のトレンチの前記側壁部の前記ゲート絶縁膜の厚さをtaとし、前記第1のトレンチの前記底面部の前記ゲート絶縁膜の厚さをtbとしたとき、ta<tbであることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項1において、
0.5μm≦Wb≦1.8μmであることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1において、
We/Wb≦20であることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記第1のトレンチと前記第2のトレンチとの間に挟まれた前記ボディ層と前記ドリフト層との間に設けられた、前記ドリフト層よりも不純物濃度が高い第1導電型の第1のバリア層を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記第1のバリア層と前記ドリフト層との間に設けられた第2導電型の第2のバリア層を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項1において、
前記第2のトレンチは、一部の領域において第3のトレンチと第4のトレンチとに分割されており、
前記第3のトレンチと前記第4のトレンチとの間に挟まれた領域に、第1導電型の層が表面に形成されていない第2導電型の不活性ボディ層を有し、
前記不活性ボディ層は、前記エミッタ電極と電気的に接続されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
請求項9において、
縦断面における前記不活性ボディ層の幅をWb’としたとき、0.5μm≦Wb’≦1.8μmであることを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
請求項1において、
前記エミッタ層と前記ボディ層と前記トレンチ内エミッタ電極とが、1つのコンタクトホールを介して前記エミッタ電極と接続されており、
前記コンタクトホールの底面の位置は前記エミッタ層の底面の位置よりも深いことを特徴とする半導体装置。
【請求項12】
請求項11において、
0.25μm≦Wb≦1.8μmであることを特徴とする半導体装置。
【請求項13】
請求項11において、
We/Wb≦40であることを特徴とする半導体装置。
【請求項14】
請求項11において、
前記第2のトレンチは、一部の領域において第3のトレンチと第4のトレンチとに分割されており、
前記第3のトレンチと前記第4のトレンチとの間に挟まれた領域に、第1導電型の層が表面に形成されていない第2導電型の不活性ボディ層を有し、
前記不活性ボディ層は、前記エミッタ電極と電気的に接続されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項15】
請求項14において、
縦断面における前記不活性ボディ層の幅をWb’としたとき、0.25μm≦Wb’≦1.8μmであることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置などに用いられる半導体装置の一種として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)がある。
【0003】
スイッチング素子としてIGBTを用いたパワーモジュールの高電力化・高密度化に対応するため、耐圧を保持しつつ、高い次元で高性能・高信頼を維持可能な半導体装置の実現が求められる。
【0004】
例えば、破壊耐量の向上に関する技術として、特許文献1の
図7には、開口幅の異なるマスクパターンを用いたドライエッチングにより、幅がWT1の第1のトレンチ(17)と幅がWT2の第2のトレンチ(20)を形成したものが記載されている。ここで、第2のトレンチ(20)の幅は第1のトレンチ(17)よりも広いので、一括でドライエッチングすることで、第2のトレンチ(20)の深さを第1のトレンチ(17)よりも深く形成することができる。第1のトレンチ(17)内には第1のゲート電極(19)が形成されており、第2のトレンチ(20)内には第2のゲート電極(22)が形成されている。また、第2のゲート電極(22)は、第1のゲート電極(19)に接続されているが、エミッタ電極(24)に接続してもよいことが記載されている(段落0032参照)。第1のトレンチ(17)の周囲には、N+型のエミッタ領域(16)が形成されており、第2のトレンチ(20)の周囲には、N+型のエミッタ領域(16)が形成されていない。P型のベース領域(15)の下には、キャリア蓄積のためのN型のキャリア蓄積層(14)が形成されている。
【0005】
特許文献1の技術によれば、第2のトレンチ(20)の深さが第1のトレンチ(17)よりも深い場合には、600Vの逆バイアス印加時の電界強度分布は、深さが同じ場合に比べて、特許文献1の
図3(b)に示すように、第1のトレンチ(17)付近よりも第2のトレンチ(20)付近の方が、トレンチの先端(底)部において電界強度分布が高くなり、また、ターンオフ時にVCE波形のターンオフサージ電圧が最大となった時のホールキャリア分布は、深さが同じ場合に比べて、特許文献1の
図5(b)に示すように、第1のトレンチ(17)付近よりも第2のトレンチ(20)付近の方が、トレンチ上部におけるホールのキャリア密度が大きくなることが記載されている(段落0025~0026参照)。
【0006】
そして、特許文献1の技術によれば、第2のトレンチ(20)の場合、第1のトレンチ(17)と異なり、その上部にはN+型のエミッタ領域(16)が無く、よって、npnpサイリスタが構成されないため、第2のトレンチ(20)付近の電界強度が高くなっても構造的にラッチアップは起こらない。そして、第1のトレンチ(17)付近のホールのキャリア密度が下がることでnpnトランジスタのベース電流が下がるため、破壊耐量が向上することが記載されている(段落0027参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、第2のトレンチ(20)の周囲にはN+型のエミッタ領域(16)が形成されていないので、アバランシェで発生するホールの排出経路となり、アバランシェによる破壊を抑制することができると推測される。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、IGBTがオフの時のホール排出のための構成を有する影響で、IGBTがオン状態の時を考えると、IE(Injection Enhancement)効果を維持しにくく、オン電圧の低減が不十分である可能性がある。IE効果とは、半導体装置の表面側にキャリア(ホールおよび電子の一方)を蓄積させ、これによりエミッタ側からのホールおよび電子の他方の注入が促進されオン電圧を低減できる効果である。ホール排出の効果とホールを蓄積するIE効果はトレードオフの関係にある。特許文献1では、P型のベース領域(15)の下にキャリア蓄積のためのN型のキャリア蓄積層(14)が形成されており、これによりIE効果を得ることを意図していると考えられる。しかしながら、特許文献1のように、P型のベース領域(15)の下にN型のキャリア蓄積層(14)を設けた場合、IGBTがオフの時にPN接合境界から空乏層が下に伸びにくくなり、耐圧マージンが低下するという問題がある。また、N型のキャリア蓄積層(14)がホールの排出を妨げるため、ホールの排出の効果が弱くなるという問題もある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、IGBTにおいて、オフ時のキャリア排出経路を設けてアバランシェに対する破壊耐量を確保しつつ、IE効果を高めてオン電圧の低減ができる半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の半導体装置は、例えば、第1導電型のドリフト層と、前記ドリフト層よりも裏面側に設けられた第2導電型のコレクタ層と、前記コレクタ層に電気的に接続されたコレクタ電極と、前記ドリフト層よりも表面側に設けられた第2導電型のボディ層と、ボディ層を貫き前記ドリフト層に達する第1のトレンチおよび第2のトレンチと、前記第1のトレンチの内部に設けられたゲート電極と、前記第1のトレンチの内部の側壁部と前記ゲート電極との間および底面部と前記ゲート電極との間に設けられたゲート絶縁膜と、前記第2のトレンチの内部に設けられたトレンチ内エミッタ電極と、前記第2のトレンチの内部の側壁部と前記トレンチ内エミッタ電極との間および底面部と前記トレンチ内エミッタ電極との間に設けられたトレンチ内絶縁膜と、前記ボディ層の表面に設けられ、前記第1のトレンチに接し、前記第2のトレンチからは離間した第1導電型のエミッタ層と、前記エミッタ層と前記ボディ層と前記トレンチ内エミッタ電極とに電気的に接続されたエミッタ電極と、を有し、2つの前記第2のトレンチの間に前記第1のトレンチと2つの前記ボディ層とが配置された半導体装置において、縦断面における、前記第1のトレンチの幅をWgとし、前記第2のトレンチの幅をWeとし、前記第1のトレンチと前記第2のトレンチとの間に挟まれた前記ボディ層の幅をWbとしたとき、Wg≦Wb、かつ、We/Wb≧2であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の半導体装置によれば、第2のトレンチの側壁部にはエミッタ層が接していないため、オフ時のキャリア排出経路が形成されるとともに、第2のトレンチが幅広で形成され第2のトレンチの内部にトレンチ内絶縁膜を介してトレンチ内エミッタ電極が設けられているので、幅広の第2のトレンチの下にキャリアを多く蓄積することができ、IE効果を高めることができる。したがって、本発明の半導体装置によれば、IGBTにおいて、オフ時のキャリア排出経路を設けてアバランシェに対する破壊耐量を確保しつつ、IE効果を高めてオン電圧の低減ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図13】実施例13の半導体装置の製造方法のプロセスフロー。
【
図14A】実施例13の半導体装置の製造方法を説明する縦断面図。
【
図14B】実施例13の半導体装置の製造方法を説明する縦断面図。
【
図14C】実施例13の半導体装置の製造方法を説明する縦断面図。
【
図14D】実施例13の半導体装置の製造方法を説明する縦断面図。
【
図14E】実施例13の半導体装置の製造方法を説明する縦断面図。
【
図14F】実施例13の半導体装置の製造方法を説明する縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。各図、各実施例において、同一または類似の構成要素については同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【実施例0015】
【0016】
実施例1の半導体装置1は、第1導電型(
図1ではn型)のドリフト層2と、ドリフト層2よりも裏面側に設けられた第2導電型(
図1ではp型)のコレクタ層4と、コレクタ層4に電気的に接続されたコレクタ電極5とを有する。なお、半導体装置1は、ドリフト層2とコレクタ層4との間に第1導電型のバッファ層3も有しているが、バッファ層3の有無に関わらず実施例1の効果は得られるので、省略した構成に適用してもよい。
【0017】
さらに、半導体装置1は、ドリフト層2よりも表面側に設けられた第2導電型のボディ層6と、ボディ層6を貫きドリフト層2に達する第1のトレンチ7および第2のトレンチ8とを有する。
【0018】
ここで、半導体装置1は、第1のトレンチ7の内部に設けられたゲート電極9と、第1のトレンチ7の内部の側壁部とゲート電極9との間および底面部とゲート電極9との間に設けられたゲート絶縁膜10とを有する。ゲート電極9はトレンチゲートとも呼ばれる。ゲート電極9は、例えばポリシリコンで形成されている。ゲート電極9にはゲート電位Gが印加されるので、
図1ではゲート電極9にGの符号を表示している。
【0019】
さらに、半導体装置1は、第2のトレンチ8の内部に設けられたトレンチ内エミッタ電極13と、第2のトレンチ8の内部の側壁部とトレンチ内エミッタ電極13との間および底面部とトレンチ内エミッタ電極13との間に設けられたトレンチ内絶縁膜14と、ボディ層6の表面に設けられ、第1のトレンチ7に接し、第2のトレンチ8からは離間した第1導電型のエミッタ層11と、エミッタ層11とボディ層6とトレンチ内エミッタ電極13とに電気的に接続されたエミッタ電極12とを有する。トレンチ内エミッタ電極13は、例えばポリシリコンで形成されている。トレンチ内エミッタ電極13にはエミッタ電位Eが印加されるので、
図1ではトレンチ内エミッタ電極13にEの符号を表示している。エミッタ層11とボディ層6は、層間絶縁膜15に設けられた1つのコンタクトホールを介してエミッタ電極12に接続されており、トレンチ内エミッタ電極13は、層間絶縁膜15に設けられた別のコンタクトホールを介してエミッタ電極12に接続されている。
【0020】
ドリフト層2と、バッファ層3と、コレクタ層4と、ボディ層6と、エミッタ層11は、半導体で形成されており、例えばシリコン基板などの半導体基板内にそれぞれの層が形成されている。実施例1では、第1導電型がn型、第2導電型がp型のIGBTである場合を例として説明しているが、これに限らず、第1導電型がn型、第2導電型がp型であってもよい。第1導電型がn型、第2導電型がp型の場合は、実施例中のキャリアに関する記載について、ホールと電子を逆にして読み替えればよい。例えば、キャリア排出経路でホールを排出するとの記載は、電子を排出すると読み替えればよい。
図1では、一例として、ドリフト層2の不純物濃度は低濃度であるためn-と表記し、エミッタ層11の不純物濃度は高濃度であるためn+と表記し、バッファ層3はn、ボディ層6とコレクタ層4はpと表記しているが、これに限られず、所望の動作が可能な範囲で不純物濃度は適宜変更が可能である。本実施例以降の実施例における不純物濃度に関する記載についても同様である。
【0021】
実施例1の半導体装置1は、基本セル構成16として、2つの第2のトレンチ8の間に第1のトレンチ7と2つのボディ層6とが配置された構造となっている。
【0022】
すでに説明したとおり、実施例1の半導体装置1は、内部にゲート絶縁膜10を介してゲート電極9が形成された第1のトレンチ7と、内部にトレンチ内絶縁膜14を介してトレンチ内エミッタ電極13が形成された第2のトレンチ8とを有し、エミッタ層11は第2のトレンチ8には接していない構造となっている。
【0023】
第2のトレンチ8の側壁部にはエミッタ層11が接していないため、オフ時のキャリア排出経路となり、これがない場合に比べてアバランシェに対する破壊耐量を向上させることができる。具体的には、第2のトレンチ8の側壁部に接しているボディ層6が、アバランシェで発生するホールの排出経路となり、エミッタ層11に経路を阻害されることなくエミッタ電極12にホールを排出することができる。また、この領域の縦方向構造は、寄生サイリスタ構造(エミッタ層11のn+/ボディ層6のp/ドリフト層2のn-/コレクタ層4のpで形成されたnpnpサイリスタ構造)ではないので、ラッチアップすることがなく、破壊耐量が向上する。
【0024】
さらに、実施例1の半導体装置1は、上記のようにオフ時のキャリア排出経路を設けてアバランシェに対する破壊耐量を確保しつつ、これとトレードオフの関係にあるIE効果を高めてオン電圧の低減ができる構造を有している。具体的には、実施例1の半導体装置1は、縦断面における、第1のトレンチ7の幅をWgとし、第2のトレンチ8の幅をWeとし、第1のトレンチ7と第2のトレンチ8との間に挟まれたボディ層6の幅をWbとしたとき、Wg≦Wb、かつ、We/Wb≧2となっている。
【0025】
WgとWbの大きさは、通常用いられる範囲である0.5μm≦Wg≦1.8μm、0.5μm≦Wb≦1.8μmであることが望ましいが、これに限られない。また、Wbは、一般的にWg以上であることが望ましいため、Wg≦Wbとした。
【0026】
その上で、We/Wb≧2、すなわち、第2のトレンチ8の幅(We)がボディ層6の幅(Wb)の2倍以上である幅広の第2のトレンチ8とした。上限の目安としてはWe/Wb≦20であるが、これに限られない。
【0027】
実施例1の半導体装置1によれば、幅広の第2のトレンチ8により、IGBTがオン状態の時に幅広の第2のトレンチ8の下に裏面のコレクタ側からのキャリアであるホールを多く蓄積することができるのでIE効果を高めることができ、これにより表面のエミッタ側からの電子の注入が促進されオン電圧を低減できる。すなわち、幅広の第2のトレンチ8により、IE効果を高めてオン電圧の低減ができる。なお、蓄積されたホールは、その後、ボディ層6を経由してエミッタ電極12に排出される。また、第2のトレンチ8を幅広にした場合でも、オフ時のキャリア排出経路は引き続き確保されているので、アバランシェに対する破壊耐量を確保しつつ、IE効果を高めてオン電圧の低減ができる。
【0028】
さらに、トレンチ内エミッタ電極13は、フィールドプレートとして働くので、第2のトレンチ8を幅広にした場合でも高耐圧を保持できる効果もある。
【0029】
また、トレンチ内エミッタ電極13は、トレンチ内絶縁膜14によってドリフト層2から絶縁されているので、第2のトレンチ8の下に蓄積したホールがトレンチ内絶縁膜14を貫通してトレンチ内エミッタ電極13に抜けてしまうことがなく、IE効果を維持することができる。
【0030】
IE効果を高めるための技術としては、トレンチゲートの間隔が狭い部分と広い部分とを設け、トレンチゲートの間隔が広い部分に第2導電型のフローティング層(フローティングP層)を設け、フローティング層にホールを蓄積する技術もある。しかしながら、フローティング層を設ける構成の場合、IGBTがオン状態になると、フローティング層に過渡的にホールが流れ込み、フローティング層の電位が上昇し、フローティング層に隣接するトレンチゲートのゲート電位が持ち上げられ、ターンオン速度の加速が起こって、出力電圧の時間変化率dV/dtの制御性が低下する問題が生じる可能性がある。これに対して、実施例1の半導体装置1によれば、そのような問題は発生せず、dV/dt制御性を確保できる。
【0031】
実施例1の半導体装置1では、絶縁膜の信頼性が高いという効果もある。例えば、ターンオフ時は、高電界におけるキャリア(ホール)排出経路が主に第2のトレンチ8側となるので、スイッチング動作を行うゲート電極9が設けられた第1のトレンチ7はその影響を受けにくく、そうでない場合に比べゲート絶縁膜10の信頼性は高くなる。また、第2のトレンチ8が幅広のトレンチとなっているので、細いトレンチが多数設けられているものに比べれば全体のトレンチの数が減り、ゲート電極9またはトレンチ内エミッタ電極13と半導体基板のドリフト層2またはボディ層6との対向面積の合計(すべてのトレンチの対向面積の合計)が減るので、トレンチ内に設ける絶縁膜(ゲート絶縁膜10とトレンチ内絶縁膜14)の面積の合計も減り、細いトレンチが多数設けられているものに比べれば絶縁膜の信頼性確保に対するマージンは向上すると考えられる。
【0032】
実施例1の半導体装置1では、トレンチ内エミッタ電極13が設けられた第2のトレンチ8を有することで、ゲート電極9が設けられた第1のトレンチ7の数が減るので、すべてが第1のトレンチ7の場合に比べて、コレクタ-ゲート間の容量である帰還容量を低減できるという効果もある。
【0033】
帰還容量をさらに低減するためには、縦断面における第1のトレンチ7の深さをtdとしたとき、1.0μm≦td≦2.0μmとすることが望ましい。一般的なトレンチの深さは3μm~8μmであることが多いが、それより浅いトレンチとすることで、帰還容量を低減することができる。なお、IE効果を高める観点においては浅いトレンチにすることは必須ではないので、上記以外の深さのトレンチにしてもよい。また、第1のトレンチ7と第2のトレンチ8とを同一のプロセスで製造するためには、第1のトレンチ7と第2のトレンチ8の深さを同じにすることが望ましい。
【0034】
帰還容量をさらに低減するためには、縦断面における、第1のトレンチ7の側壁部のゲート絶縁膜10の厚さをtaとし、第1のトレンチ7の底面部のゲート絶縁膜10の厚さをtbとしたとき、ta<tbとすることが望ましい。なお、IE効果を高める観点においてはta<tbは必須ではないので、ta=tbとしてもよい。なお、ta<tbの場合は、ta=tbの場合よりも製造プロセスが増加するので、必要に応じて採用の可否を決めればよい。また、ゲート絶縁膜10とトレンチ内絶縁膜14とを同一のプロセスで製造するためには、トレンチ内絶縁膜14の厚さをゲート絶縁膜10の厚さと同じにすることが望ましい。
【0035】
以上説明した構成により、実施例1の半導体装置1によれば、IGBTにおいて、オフ時のキャリア排出経路を設けてアバランシェに対する破壊耐量を確保しつつ、IE効果を高めてオン電圧の低減ができる半導体装置を提供することができる。また、dV/dt制御性や、絶縁膜の信頼性や、帰還容量の面も含め、トータルバランスに優れたIGBTを実現できる。
実施例2の半導体装置1は、第1のトレンチ7と第2のトレンチ8との間に挟まれたボディ層6とドリフト層2との間に設けられた、ドリフト層2よりも不純物濃度が高い第1導電型の第1のバリア層17を有する点で、実施例1と相違する。
第1のバリア層17は、IGBTがオン状態において、エミッタ側に流れ込むホールにとって障壁(バリア)になるので、第1のバリア層17の下のホール濃度が増加し、IGBT導通時のオン電圧をさらに低減することができる。
実施例2では、第1のバリア層17の影響で実施例1に比べてアバランシェに対する破壊耐量は多少減少するものの、減少後の破壊耐量は確保しつつ、幅広の第2のトレンチ8によってIE効果を高めてオン電圧の低減ができるという点では実施例1と同じ効果を得られる。