(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047574
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】化粧品容器の射出成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240329BHJP
B29C 45/46 20060101ALI20240329BHJP
B29C 45/27 20060101ALI20240329BHJP
A45D 33/00 20060101ALI20240329BHJP
A45D 33/24 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/46
B29C45/27
A45D33/00 640
A45D33/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023158490
(22)【出願日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2022152919
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505430975
【氏名又は名称】株式会社ヤシマ精工
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】大軒 一真
(72)【発明者】
【氏名】川崎 正臣
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AH55
4F202AH57
4F202AM35
4F202AR14
4F202CA12
4F202CB01
4F202CK02
4F202CK07
4F202CK89
4F206AH55
4F206AH57
4F206AM35
4F206AR14
4F206JA07
4F206JL02
4F206JN14
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】容器蓋に反りが発生することがなく、容器蓋によって容器を密閉することができる化粧品容器の射出成形方法を提供する
【解決手段】ゲート25A、25Bおよび25Cから充填される溶融樹脂の流量を、各ゲートごとに調節することが可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融樹脂をキャビティ内に充填する充填孔を有する金型を用いて成形を行う化粧品容器の射出成形方法であって、複数の充填孔から充填される溶融樹脂の流量を、各充填孔ごとに調節することが可能であることを特徴とする化粧品容器の射出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化粧品容器の射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会は持続的に発展しながら多様化、多角化しており、このような社会の変化に伴い老若男女を問わず本人の個性、趣向及び目的に応じて適切な化粧品を愛用している。
【0003】
特に、このような化粧品は肌を健康かつ清潔に維持させることは勿論、化粧品に色を付与することで使用者各々の個性をより一層好適に表現して美しさを添えるのに大きく役立っており、これにより多様な色調化粧品が広く使用されている。
【0004】
上記の色調化粧品は、基礎化粧を施した後に顔をより一層美しくするために使用されるが、顔の部位に応じてそれに適する化粧を可能にするべくその種類が多様であり、使用者の肌の色または着用する服のデザイン及び色、外出場所に応じてそれに似合う色を選択して使用される。
【0005】
色調化粧品を含む様々な化粧品は、主にコンパクト容器に収容されて使用されるが、前記コンパクト容器は含浸部材またはゲル状の化粧品内容物を収納保管し、使用時に外部蓋を容器本体から開け、パフやブラシなどの化粧道具を利用して化粧品内容物をつけて顔を化粧しながら使用される。
【0006】
一方、近年、バームと呼ばれる化粧品が使用されている。バームとは、硬めのクリームや練り状の剤型を指し、粘度が非常に高く、容器を逆さにしても垂れてこないくらいの硬さのものが一般的にバームと言われているが明確な定義がないため、化粧品会社やブランドによって中身の粘度状態は様々である。
【0007】
外用消炎鎮痛剤として有名なTiger Balm(タイガーバーム)もバームの一種であり、そのため、バームというと薬用的な意味合いが感じられることがあるので、そこを意図して商品名にバームと付けることもあれば、クリームとの差別化のためにバームと付けられることもある。
【0008】
要するに、バームと呼ばれる化粧品は硬めの剤型であるが、肌に塗付した瞬間から皮膚温によって徐々にほぐれ、オイル成分が滑らかにのびるという特徴を備えている。このように、バームと呼ばれる化粧品は揮発性溶媒と水分を含んでおり、バームを収容する容器の密閉力が低下すると、揮発性溶媒と水分が大気中に蒸発し、これによりバームが固まり、バーム本来の機能が喪失するという問題があるため、バームの揮発性溶媒と水分の蒸発を遮断するための方法が必要である。
【0009】
例えば、
図12に示すように、内部に内容物が収容される容器側蓋部50と、容器側蓋部50を密閉するヒンジ側蓋部51とからなり、ヒンジ側蓋部51に形成された密閉突起52が容器側蓋部50の内壁面53に係合することによって容器側蓋部50を密閉する構造の化粧品容器が知られている(特許文献1)。54はヒンジ、55はヒンジ側蓋部51を開閉するための蓋取っ手、56は内容物である。この化粧品容器は合成樹脂を射出成形することによって製造されており、57は、射出成形機のキャビティに溶融樹脂を充填するための充填孔(ゲート)である。すなわち、
図12に示す化粧品容器は、1点ゲート式の金型で射出成形することによって製造されている。
【0010】
ところが、1点ゲート式の金型で射出成形すると、溶融樹脂の流動距離が長い部分と短い部分があり、金型内に充填される溶融樹脂には、ゲート近傍と流動末端との間に大きな圧力差が生じるので、ヒンジ側蓋部51に反りが発生しやすく、射出成形品であるヒンジ側蓋部51によって容器側蓋部50を密閉することが困難となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑み、容器蓋に反りが発生することがなく、容器蓋によって容器を密閉することができる化粧品容器の射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、溶融樹脂をキャビティ内に充填する充填孔を有する金型を用いて射出成形を行う化粧品容器の射出成形方法であって、複数の充填孔から充填される溶融樹脂の流量を、各充填孔ごとに調節することが可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の射出成形法によれば、複数の充填孔から充填される溶融樹脂の流量を、各充填孔ごとに調節することが可能であるから、各充填孔から充填される溶融樹脂の流動距離に差が生じにくく、その結果、金型内に充填される溶融樹脂のあいだに圧力差が生じにくいので、射出成形された容器蓋に反りが発生することもなく、容器蓋によって容器を密閉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の射出成形方法を実施することができる射出成形機の一実施例を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、本発明の射出成形方法によって射出成形することによって得た化粧品容器の容器蓋を開放した状態を示す平面図、
図2(b)は
図2(a)のB-B矢視断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の射出成形方法によって射出成形することによって得た化粧品容器の変形量を流動解析した結果を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例の射出成形方法によって射出成形することによって得た化粧品容器の変形量を流動解析した結果を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の射出成形方法を説明するための概略図である。
【
図6】
図6(a)(b)(c)は、ランナの違いによる射出成形方式を示す斜視図である。
【
図7】
図7(a)(b)(c)は、それぞれ、
図6(a)(b)(c)の射出成形方式を上方から見た平面図である。
【
図8】
図8(a)は
図6(a)における成形品A、B、Cの射出時間4秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図であり、
図8(b)は
図6(a)における成形品A、B、Cの射出時間2秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図である。
【
図9】
図9(a)は
図6(b)における成形品A、B、Cの射出時間4秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図であり、
図9(b)は
図6(b)における成形品A、B、Cの射出時間2秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図である。
【
図10】
図10(a)は
図6(c)における成形品A、B、Cの射出時間4秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図であり、
図10(b)は
図6(c)における成形品A、B、Cの射出時間2秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図である。
【
図11】
図11(a)(b)は、
図2(a)(b)に示す化粧品容器を冷却する方式を説明する概略図である。
【
図12】
図12は、特許文献1に記載された化粧品容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は例示であり、本発明は下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変更や修正が可能である。
【0017】
図1には、本発明の射出成形方法を実施することができる射出成形機の一実施例の射出成形機1が示されている。射出成形機1は、合成樹脂を射出する射出装置10と、成形を行う型である金型20とを含んでいる。射出装置10は、筒状のバレル11の内のスクリュー12で内部の溶融樹脂Rを混練する。バレル11の先端にはノズル13が設けられ、このノズル13を金型20側のブッシュ21に接続して金型20の内部に溶融樹脂Rを充填することにより、射出成形を行う。
【0018】
金型20は、図中右側の固定側金型部20Aと、左側の可動側金型部20B とに分割され、固定側金型部20Aと可動側金型部20Bとの間には、溶融樹脂Rが充填されるキャビティ22が設けられている。可動側金型部20Bには、キャビティ22となる凹部が形成されている。固定側金型部20Aは、図中右側の固定側ダイプレート2Aに取付けられ、可動側金型部20Bは、左側の移動側ダイプレート2Bに取付けられている。これらのダイプレート2A、2Bは、両側から図示しない型締装置で型締めされる。この状態で金型20内に溶融樹脂Rを充填することにより、キャビティ22内の溶融樹脂Rが高圧を保てるようになっている。
【0019】
固定側金型部20Aの内部には、射出装置10から供給される溶融樹脂Rの通路であるスプル23、ランナ24、および、複数のゲート25A、25B、25Cが設けられている。スプル23は、ブッシュ21の中心に開口され、ブッシュ21に接続された射出装置10のノズル13から射出された溶融樹脂Rをランナ24まで導入するものである。ランナ24は、複数のゲート25A~25Cに連通され、スプル23からの溶融樹脂Rをゲート25A~25Cに導くものである。ゲート25A~25Cの各々は、キャビティ22に溶融樹脂Rを充填するための充填孔であり、先端がキャビティ22の内面に開口されている。各ゲート25A~25Cの内径は、キャビティ22に向かって次第に細くされている。各ゲート25A~25Cの内部には、棒状のバルブロッド26A~26Cが各ゲート25A~25Cの開口に向かって進退可能に設けられている。
【0020】
各バルブロッド26A~26Cは、先端部(図中左側の端部)の外径がゲート25A~25Cの開口の内径よりも大きくされ、基端部(図中右側の端部)が油圧シリンダ装置27A~27Cのピストンに連結されている。各油圧シリンダ装置27A~27Cを駆動させて、各バルブロッド26A~26Cを前進させれば、各ゲート25A~25Cが閉鎖され、各バルブロッド26A~26Cを後退させれば、各ゲート25A~25Cが開放されるようになっている。これにより、溶融樹脂Rの充填は、各ゲート25A~25Cについて、それぞれ別個に開始することができる。ここにおいて、バルブロッド26A~26Cおよび油圧シリンダ装置27A~27Cは、溶融樹脂Rの流通を遮断・開放可能な弁機構を構成するものとなっている。また、弁機構には、溶融樹脂を遮断・開放する開閉機能の他、溶融樹脂の流量を調節する流量調節機能が付加されている。
【0021】
次に、本実施例の射出成形の手順について説明する。まず、射出成形機1に金型20をセットしたら、ゲート25Aのバルブロッド26Aと、ゲート25Bのバルブロッド26Bと、ゲート25Cのバルブロッド26Cを後退させて、ゲート25Aとゲート25Bとゲート25Cを開放する。この状態で、ゲート25Aと25Bと25Cから溶融樹脂Rの充填を開始する。
【0022】
キャビティ22への溶融樹脂Rの充填が完了したら、溶融樹脂Rを冷却・固化させる保圧工程を開始し、樹脂が充分に冷却・固化したならば、金型20を開いて成形品を取り出して射出成形を完了する。
【0023】
このように、複数のゲート25A、25B、25Cから溶融樹脂Rを充填するので、各ゲートから充填される溶融樹脂の流動距離に差が生じにくく、金型内に充填される溶融樹脂のあいだに圧力差が生じにくいので、射出成形することによって得られる容器の構成部品に反りが発生しにくい。また、必要に応じて、上記の流量調節機能を利用して、各ゲート25A、25B、25Cから充填される溶融樹脂の流量を調節することができる。例えば、中央のゲート25Aから充填される溶融樹脂の流量をQリッター/minとした場合、両側部のゲート25Bと25Cから充填される溶融樹脂の流量を1.05Qリッター/minとして、中央のゲートに対して両側部のゲートからの溶融樹脂の充填量を少し増加したり、逆に、両側部のゲート25Bと25Cから充填される溶融樹脂の流量を0.95Qリッター/minとして、中央のゲートに対して両側部のゲートからの溶融樹脂の充填量を少し減少することもできる。さらに、両側部のゲート25Bと25Cから充填される溶融樹脂の流量は必ずしも同一である必要はなく、本発明の効果を得るために、場合に応じて、両側部のゲート25Bと25Cから充填される溶融樹脂の流量を異ならせることもできる。このように、各ゲート25A、25B、25Cから充填される溶融樹脂の流量を適宜調節することにより、金型内に充填される溶融樹脂のあいだに圧力差を生じにくくして、射出成形することによって得られる容器の構成部品に反りを発生しにくくすることができる。なお、ゲートの数量は3つに限定されるものではなく、場合によっては2つでもよく、4つ以上にすることもできる。
【0024】
次に、本発明の効果を具体的な実験例に基づいて説明する。
〔本発明例〕本発明例は、中央のゲート25Aから充填される溶融樹脂の流量Qリッター/minに対して、両側部のゲート25Bと25Cから充填される溶融樹脂の流量を0.95Qリッター/minとする条件で射出成形を行った。その結果、
図2(a)(b)に示すような化粧品容器を得た。
図2(a)(b)において、Lは容器蓋、Cは容器であり、
図5に示す化粧品容器と類似する外観を備えている。25A、25B、25Cと記載された箇所は、それぞれ各ゲートに対応する位置を示す。
図2(b)に示すように、容器Cの内側面には螺子溝thが形成されており、螺子溝thに螺合することが可能な螺子溝を有する、別途射出成型することによって得た容器が容器Cと螺合される。
〔比較例〕本比較例では、前記実験例と同一の金型20を用い、溶融樹脂Rの充填をゲート25Aのみから行い、ゲート25Bと25Cは閉鎖した。
【0025】
〔射出条件〕これらの実験例および比較例では、以下のような同一射出条件で射出成形を行った。
射出条件使用材料:ポリプロピレン(メルトフローインデックス=15g/10分、230℃、2.16kg)
成形温度:200℃
金型温度:30℃
【0026】
〔実験結果〕
図3は、本発明の射出成形方法によって射出成形することによって得た化粧品容器の変形量の流動解析結果を示し、
図4は、比較例の射出成形方法によって射出成形することによって得た化粧品容器の変形量の流動解析結果を示す。
図3および
図4において、黒色が濃くなるほど、変形量が大きいことを示す。
図3と
図4を比較すると明らかなように、本発明の射出成形方法によって射出成形することによって得た化粧品容器の変形量は、比較例の射出成形方法によって射出成形することによって得た化粧品容器の変形量より少ないことが分かる。上記の流動解析結果は、東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社製の流動解析ソフト「3D TIMON(登録商標)」を用いて、樹脂(ポリプロピレン)の温度200℃、金型温度30℃、射出速度50mm/sec、保圧80mPa、冷却時間10秒の条件で流動解析を行うことにより得た。
【0027】
図5は、本発明の射出成形方法を説明するための概略図であり、
図5に基づいて、本発明の射出成形方法を説明する。
図5において、31は容器蓋、32は内容物である化粧品が充填される容器、33はヒンジ、34、35および36はキャビティ内に溶融樹脂を充填するための充填孔(ゲート)である。いま、ゲート34のみからキャビティ内に溶融樹脂を充填するとした場合、容器蓋31側に充填される溶融樹脂の圧力が高く、ヒンジ33を経て容器32側へ充填される溶融樹脂の圧力は相対的に低くなるので、成形品に反りが発生しやすくなる。そのため、射出成形した後、容器蓋31によって容器32を閉めて、容器蓋31の上に重りを載せて成形品の反りを矯正する、形状矯正処理が必要な場合がある。形状矯正処理は余分な工程であるから、製造コストの上昇につながり、好ましくない。
【0028】
そこで、複数のゲート34、35、36からキャビティ内に溶融樹脂を充填することにより、各ゲートから充填される溶融樹脂の流動距離に差が生じにくく、キャビティ内に充填される溶融樹脂のあいだに圧力差が生じにくいので、射出成形することによって得られる成形品に反りが発生しにくくなる。また、必要に応じて、上記の流量調節機能を利用して、各ゲート34、35、36からキャビティ内に充填される溶融樹脂の流量を調節することで、射出成形品の形状はより良好になり、上記の形状矯正処理は不要となる。さらに、本発明の射出成形方法を上記の流動解析ソフトと組み合わせることにより、射出成形品の形状は一層良好になるので好ましい。すなわち、流動解析ソフトと本発明の射出成形方法を連動させることにより、容器32の中心を点対称の中心とする、ほぼ完璧な形状の射出成形品を得ることができる。
【0029】
上記したように、射出装置から直接、金型のキャビティ内に溶融樹脂が充填されるのではなく、射出装置のノズルから金型に向けて射出された溶融樹脂は、スプルと呼ばれる最初の通路から、その射出成形品に適した設計(直径、長さ、形状)が施されたランナと呼ばれる通路を経て、キャビティに溶融樹脂を充填するための充填孔であるゲートまで導かれる。良好な形状の射出成形品を得るためには、ランナ設計が非常に重要である。そこで、具体的な実施例に基づいて、ランナ設計の適否について説明する。
【0030】
すなわち、メルトフローレートが25g/10分のポリプロピレン樹脂を使用して、その樹脂温度を230℃、金型温度を30℃、射出時間(ランナの通過時間)を2秒又は4秒とし、ランナ直径を4mm、ゲート直径を0.7mmとし、
図6(a)(b)(c)に示すように、3種類のランナを使用して、1点ゲートで3個の射出成形品A、B、Cを得る場合について、上記流動解析ソフト「3D TIMON(登録商標)」を使用して流動解析を行った。
図6(a)(b)(c)において、右側上部の上方から下方に向かう矢印が溶融樹脂の入口を示している。
図7(a)(b)(c)は、それぞれ、
図6(a)(b)(c)の射出成形方式を上方から見た平面図である。
【0031】
各射出成形方式について、射出圧力(MPa)の時間経過(秒)を示す図が、
図8(a)(b)、
図9(a)(b)、
図10(a)(b)である。射出圧力とは、ゲートに負荷される圧力をいう。
図8(a)は
図6(a)における成形品A、B、Cの射出時間4秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図であり、
図8(b)は
図6(a)における成形品A、B、Cの射出時間2秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図である。
図8(a)において、射出時間4秒直後において、成形品BとAのあいだには、射出圧力において7MPaの差が見られた。また、
図8(b)において、射出時間2秒直後において、成形品BとAのあいだには、射出圧力において3MPaの差が見られた。
【0032】
図9(a)は
図6(b)における成形品A、B、Cの射出時間4秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図であり、
図9(b)は
図6(b)における成形品A、B、Cの射出時間2秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図である。
図9(a)において、射出時間4秒直後において、成形品BとA、Cのあいだには、射出圧力において4MPaの差が見られた。また、
図9(b)において、射出時間2秒直後において、成形品BとA、Cのあいだには、射出圧力において3MPaの差が見られた。
【0033】
図10(a)は
図6(c)における成形品A、B、Cの射出時間4秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図であり、
図10(b)は
図6(c)における成形品A、B、Cの射出時間2秒における射出圧力(縦軸:MPa)と時間(横軸:秒(sec))の関係を示す図である。
図10(a)において、射出時間4秒直後において、成形品CとA、Bのあいだには、射出圧力において2MPaの差が見られた。また、
図10(b)において、射出時間2秒直後において、成形品CとBのあいだには、射出圧力において7MPaの差が見られた。
【0034】
上記の結果から、射出時間(射出速度)による圧力差が小さく、充填バランスが良好なランナは
図6(b)のランナであると言える。すなわち、射出時間(射出速度)による圧力差が小さい設計のランナを使用すれば、良好な形状の射出成形品を得ることが可能である。
【0035】
本発明は、容器蓋に反りが発生することがなく、容器蓋によって容器を密閉することができる化粧品容器の射出成形方法を提供することを目的としており、容器蓋に反りが発生する要因としては、金型内に充填される溶融樹脂の圧力分布、金型内に充填される溶融樹脂の収縮量の差異、金型内に充填された溶融樹脂の冷却量の差異などが考えられる。前記の溶融樹脂の圧力分布と溶融樹脂の収縮量の差異については、前記の流動解析と適切なランナ設計を行うことにより解決することができる。溶融樹脂の冷却量の差異については、金型を適切に冷却することにより解決することができる。一般的な冷却方式は、金型を2層構造として、金型の外層側に適切な冷却媒体(例えば、水)を流通させる構造であるが、これでは不均一な冷却を避けることができない。そこで、
図11(a)(b)に示すように、冷却媒体を射出成形品の内側に沿って周回するように流通させることにより、射出成形品を均一に冷却することが可能になる。その結果、容器蓋および容器に反りが発生することはない。
【0036】
すなわち、
図11(b)の矢示37から38に示すようにして、容器内に供給される冷却媒体(水)を、矢印39、40a、40bに示すように、射出成形品の内側に沿って周回するように流通させた後、矢印41、42、43に示すように、金型外に排出させることにより、射出成形品を均一に冷却することができ、容器蓋および容器に反りが発生することはない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上説明したように、本発明は、化粧品容器の射出成形方法として好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 射出成形機
10 射出装置
20 金型
11 バレル
12 スクリュー
13 ノズル
21 ブッシュ
20A 固定側金型部
20B 可動側金型部
22 キャビティ
23 スプル
24 ランナ
25A、25B、25C ゲート
26A、26B、26C バルブロッド
27A、27B、27C 油圧シリンダ装置
31 容器蓋
32 容器
33 ヒンジ
34 ゲート
35 ゲート
36 ゲート