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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049228
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】絶縁転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/62 20060101AFI20240402BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240402BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F16C33/62
F16C19/06
F16C19/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155569
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】國方 優佑
(72)【発明者】
【氏名】西河 崇
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA69
3J701BA70
3J701DA05
3J701EA38
3J701EA41
3J701EA42
3J701EA43
3J701EA44
3J701EA73
3J701FA11
3J701GA01
3J701GA24
3J701XB26
3J701XE03
3J701XE13
3J701XE19
3J701XE30
(57)【要約】
【課題】外輪の外周面などに絶縁被膜を有する絶縁転がり軸受において、電食防止性に優れる絶縁転がり軸受を提供する。
【解決手段】絶縁転がり軸受1は、内輪2および外輪3と、内輪2の外周面および外輪3の内周面に形成される軌道面と、軌道面間に介在する複数の玉4とを備え、外輪3の外周面3aに樹脂被膜6(絶縁被膜)を有し、絶縁転がり軸受1における樹脂被膜6は、絶縁抵抗値が2000MΩ以上、静電容量が10nF以下であり、ポリフェニレンサルファイド樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪と、前記内輪の外周面および前記外輪の内周面に形成される軌道面と、前記軌道面間に介在する複数の転動体とを備え、前記内輪の内周面および前記外輪の外周面から選ばれた少なくとも一つの周面に樹脂被膜またはセラミックス被膜を含む絶縁被膜を有する絶縁転がり軸受であって、
前記絶縁転がり軸受における前記絶縁被膜は、絶縁抵抗値が2000MΩ以上、静電容量が10nF以下であることを特徴とする絶縁転がり軸受。
【請求項2】
前記絶縁被膜が前記樹脂被膜からなり、該樹脂被膜は、ポリフェニレンサルファイド樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1記載の絶縁転がり軸受。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーの含有量が、前記樹脂組成物全体に対して1質量%~10質量%であることを特徴とする請求項2記載の絶縁転がり軸受。
【請求項4】
前記ガラス繊維および前記無機系充填材の合計の含有量が、前記樹脂組成物全体に対して40質量%~70質量%であり、前記樹脂組成物は、前記ガラス繊維よりも前記無機系充填材を多く含み、かつ、前記樹脂組成物全体に対して、前記ガラス繊維を10質量%~30質量%、前記無機系充填材を30質量%~50質量%含むことを特徴とする請求項2または請求項3記載の絶縁転がり軸受。
【請求項5】
前記無機系充填材が、炭化ケイ素、ベリリア、窒化ホウ素、窒化ケイ素、水酸化マグネシウム、アルミナ、および炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の絶縁転がり軸受。
【請求項6】
前記樹脂被膜は、軌道輪の前記周面およびその両側の軸方向端面に形成され、前記周面において膜厚が1mm以下であり、前記周面における膜厚と前記軸方向端面における膜厚との比率が1:1~1:3の範囲内であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の絶縁転がり軸受。
【請求項7】
前記樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、軌道輪の全周において、前記周面の軸方向の一方側から他方側に沿っていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の絶縁転がり軸受。
【請求項8】
前記絶縁被膜が前記セラミックス被膜を含み、前記絶縁被膜の膜厚が0.1mm~1.0mmの範囲内であることを特徴とする請求項1記載の絶縁転がり軸受。
【請求項9】
前記絶縁転がり軸受は、鉄道車両の主電動機の主軸を回転自在に支持する軸受であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁転がり軸受に関し、特に、汎用モータ、発電機、鉄道車両の主電動機など、使用上、軸受内部に電流が流れるおそれがある構造の装置に用いられる絶縁転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄道車両の主電動機に用いられる転がり軸受において、転動体と外輪軌道面との間または内輪軌道面との間で放電が生じ、放電部分に電食を生じることがある。また、その他の発電機など、軸受内部を電流が流れるおそれがある構造の装置に用いられる軸受においても、同様に電食を生じることがある。
【0003】
このような電食を防止する手段として、従来、軸受の軌道輪の外表面に樹脂被膜を形成することが知られている。例えば、特許文献1では、ガラス繊維と、比抵抗が1×1010Ω・cm以上で且つ熱伝導率が10W/m・K以上の充填材とを含む樹脂組成物で形成した樹脂被膜を有する絶縁転がり軸受が提案されている。充填材は樹脂被膜の放熱性を改善するために用いられており、例えば、SiC(炭化ケイ素)、AlN(窒化アルミニウム)、BeO(べリリア)、BN(窒化ホウ素)、Al(アルミナ)などの粉末、繊維などが挙げられている。また、特許文献1には、ガラス繊維と充填材の合計の含有量は20質量%~60質量%であることが記載され、また充填材の含有量は10質量%~40質量%であることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、電食防止を目的として、絶縁抵抗値が1000MΩ以上に、静電容量を27nF以下にそれぞれ規制したアルミナを主成分とするセラミック製の絶縁被膜を有する絶縁転がり軸受が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-218846号公報
【特許文献2】特開2007-333031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に鉄道車両などで使用される主電動機はインバータ制御されており、近年、スイッチング時の騒音低減のため、キャリア周波数を高くする傾向にあり、それに伴い転がり軸受内部には高周波の電流が流れる。電食を防止するためには、転動体自体をセラミックスなどの絶縁体にすることなどが考えられるが、コストの上昇に繋がってしまう。
【0007】
軸受の部材自体を絶縁体にすることなく軸受の絶縁性を高める手法として、特許文献1や特許文献2のように金属製の部材表面に絶縁被膜を設けた転がり軸受が知られているが、主電動機の高性能化が更に継続する中で、よりキャリア周波数が高い主電動機においても絶縁性能を十分確保することが望ましい。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、外輪の外周面などに絶縁被膜を有する絶縁転がり軸受において、電食防止性に優れる絶縁転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の絶縁転がり軸受は、内輪および外輪と、上記内輪の外周面および上記外輪の内周面に形成される軌道面と、上記軌道面間に介在する複数の転動体とを備え、上記内輪の内周面および上記外輪の外周面から選ばれた少なくとも一つの周面に樹脂被膜またはセラミックス被膜からなる絶縁被膜を有する絶縁転がり軸受であって、上記絶縁転がり軸受における上記絶縁被膜は、絶縁抵抗値が2000MΩ以上、静電容量が10nF以下であることを特徴とする。
【0010】
ここで、絶縁転がり軸受における絶縁被膜の絶縁抵抗値Rは下記式(1)を用いて算出することができる。
【0011】
【数1】
Z:インピーダンス(Ω)
R:絶縁抵抗値(Ω)
f:周波数(Hz)
C:静電容量(F)
【0012】
上記式(1)中、周波数は、絶縁転がり軸受が使用されるキャリア周波数、つまり転がり軸受に流れる電流の周波数に相当する。また、インピーダンスZは、軸受外輪の全周面が接触する治工具に軸受外輪を組み込んだ後、LCRメータを用いて、例えば、負荷電圧1Vの測定条件で電流波形と電圧波形の位相差から測定される。
【0013】
なお、絶縁抵抗値Rは、一般に、下記式(2)を用いて算出することができる。
【0014】
【数2】
ρ:電気抵抗率(Ω・m)
l:長さ(m)
A:断面積(m
【0015】
上記式(2)中、絶縁被膜の電気抵抗率ρは、選定した材料により決定されるパラメータである。また、長さlは膜厚(後述する下記式(3)における距離d)に相当し、断面積Aは下記式(3)における面積Sに相当する。
【0016】
絶縁転がり軸受における絶縁被膜の静電容量Cは下記式(3)を用いて算出することができる。
【数3】
ε:真空中の誘電率(8.8542×10-12)(F/m)
ε:絶縁被膜の比誘電率
S:面積(m
d:距離(m)
【0017】
上記式(3)中、絶縁被膜の比誘電率εは、選定した材料により決定されるパラメータである。また、面積Sは、軌道輪において絶縁被膜が形成される表面積に相当し、距離dは、絶縁被膜の膜厚に相当する。
【0018】
上記絶縁被膜が上記樹脂被膜からなり、該樹脂被膜は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0019】
上記熱可塑性エラストマーの含有量が、上記樹脂組成物全体に対して1質量%~10質量%であることを特徴とする。
【0020】
上記ガラス繊維および上記無機系充填材の合計の含有量が、上記樹脂組成物全体に対して40質量%~70質量%であり、上記樹脂組成物は、上記ガラス繊維よりも上記無機系充填材を多く含み、かつ、上記樹脂組成物全体に対して、ガラス繊維を10質量%~30質量%、上記無機系充填材を30質量%~50質量%含むことを特徴とする。
【0021】
上記無機系充填材が、炭化ケイ素、ベリリア、窒化ホウ素、窒化ケイ素、水酸化マグネシウム、アルミナ、および炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする。
【0022】
上記樹脂被膜は、軌道輪の上記周面およびその両側の軸方向端面に形成され、上記周面において膜厚が1mm以下であり、上記周面における膜厚と上記軸方向端面における膜厚との比率が1:1~1:3の範囲内であることを特徴とする。
【0023】
上記樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、軌道輪の全周において、上記周面の軸方向の一方側から他方側に沿っていることを特徴とする。
【0024】
上記絶縁被膜が上記セラミックス被膜を含み、上記絶縁被膜の膜厚が0.1mm~1.0mmの範囲内であることを特徴とする。
【0025】
上記絶縁転がり軸受は、鉄道車両の主電動機の主軸を回転自在に支持する軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の絶縁転がり軸受は、内輪の内周面および外輪の外周面から選ばれた少なくとも一つの周面に樹脂被膜またはセラミックス被膜からなる絶縁被膜を有する絶縁転がり軸受であって、絶縁転がり軸受における絶縁被膜は、絶縁抵抗値が2000MΩ以上、静電容量が10nF以下である。上記式(1)に示すように、キャリア周波数が大きくなるほどインピーダンスが低くなるところ、上記のように絶縁抵抗値および静電容量を規定することで、キャリア周波数が高い主電動機(例えば1000Hz)においても高インピーダンス化(例えば10Ω以上)を図ることができ、電食防止性に優れる。
【0027】
絶縁被膜が樹脂被膜であり、該樹脂被膜は、少なくとも、PPS樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物からなるので、絶縁性を維持しながら、絶縁被膜の放熱性を改善でき、更に上記無機系充填材(高熱伝導充填材)の添加に伴う成形性の低下を、熱可塑性エラストマーによって補うことができる。また、樹脂被膜の放熱性が改善されることにより、軸受温度の上昇を抑制しつつ樹脂被膜の膜厚を大きくできる。その結果、静電容量を低減でき、高インピーダンス化に繋がる。
【0028】
樹脂被膜は、軌道輪の周面およびその両側の軸方向端面に形成され、周面において膜厚が1mm以下の部分を有し、周面における膜厚と、軸方向端面における膜厚の比率が1:1~1:3の範囲内であるので、放熱性を周面における樹脂被膜が主に担い、高インピーダンス化を軸方向端面の樹脂被膜が主に担うことで、放熱性、絶縁性のバランスに優れる。
【0029】
熱可塑性エラストマーの含有量が、樹脂組成物全体に対して1質量%~10質量%であるので、弾性率の低下を抑制しつつ、成形時の樹脂組成物の流動性や、樹脂被膜の耐衝撃性を改善でき、更に、ガラス繊維および無機系充填材の合計の含有量が、樹脂組成物全体に対して40質量%~70質量%であるので、樹脂被膜の放熱性と機械的強度に一層優れる。
【0030】
樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、軌道輪の全周において、周面の軸方向の一方側から他方側に沿っている、つまり、軌道輪の全周において樹脂の配向の方向性が所定の方向(軸方向の一方側から軸方向の他方側に向かう方向)に規定されている。この場合、当該樹脂被膜は、成形キャビティの全周にわたり溶融樹脂が同時に射出充填されることで形成されることになるので、ウェルド部が樹脂被膜に形成されない。その結果、樹脂被膜は、局所的に強度が低いところがなくなり、機械的強度が一層向上する。
【0031】
絶縁被膜がセラミックス被膜であり、該セラミックス被膜は、アルミナを主成分とし、膜厚が0.1mm~1.0mmの範囲内であるので、静電容量が低減され、さらなる高インピーダンス化を図ることができる。
【0032】
本発明の絶縁転がり軸受は、高インピーダンス化が図られているので、軸受の電食を抑制できる。このため、鉄道車両の主電動機の主軸を回転自在に支持する軸受として好適に利用でき、鉄道車両用主電動機の信頼性の向上、メンテナンス工数やコストの削減に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の絶縁転がり軸受の一例を示す拡大断面図である。
図2図1の外輪にインサート成形する成形金型の要部断面図などである。
図3】本発明の絶縁転がり軸受の他の例を示す拡大断面図である。
図4】本発明の絶縁転がり軸受が適用される鉄道車両の台車の構成を示す図である。
図5】主電動機の構成を示す図である。
図6】固定側の転がり軸受周囲の構成を示す拡大図である。
図7】自由側の転がり軸受周囲の構成を示す拡大図である。
図8】インピーダンスの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の絶縁転がり軸受の一例について、図1を用いて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。絶縁転がり軸受1は、外周面に内輪軌道面を有する内輪2と内周面に外輪軌道面を有する外輪3とが同心に配置され、内輪軌道面と外輪軌道面との間に複数の玉(転動体)4が配置される。この玉4は、保持器5により保持される。
【0035】
内輪2、外輪3、および玉4には鉄系材料を用いることができる。鉄系材料としては、転がり軸受などに使用されるSUJ2などの軸受鋼、浸炭鋼、機械構造用炭素鋼、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼などが挙げられる。
【0036】
図1において、外輪3の外周面3aおよび端面3b、3b’は、絶縁被膜として樹脂被膜6で被覆されている。外輪3の外周面3aには円周溝が2列形成され、外輪3の両端面3b、3b’にはそれぞれ円周溝が形成されている。樹脂被膜6の一部は、これらの円周溝に埋没している。樹脂被膜6は、図2に示すように、外輪3に対して、後述する樹脂組成物をインサート成形することで形成され、外輪3の外周面3aおよびその両側の軸方向端面(端面3b、3b’)に形成されている。
【0037】
ここで、絶縁転がり軸受における絶縁被膜のインピーダンスZと、絶縁抵抗値Rと、静電容量Cとの関係は、上述したように、下記式(1)にて表すことができる。
【0038】
【数4】
Z:インピーダンス(Ω)
R:絶縁抵抗値(Ω)
f:周波数(Hz)
C:静電容量(F)
【0039】
このため、更なる高周波域において絶縁転がり軸受にて高インピーダンス(高抵抗)を得るためには、絶縁被膜の絶縁抵抗値Rを大きくしたり、絶縁被膜の静電容量Cを小さくしたりする必要がある。
【0040】
また、静電容量Cは、下記式(3)にて表わすことができる。
【数5】
ε:真空中の誘電率(8.8542×10-12)(F/m)
ε:絶縁被膜の比誘電率
S:面積(m
d:距離(m)
【0041】
このため、絶縁転がり軸受における絶縁被膜の静電容量Cを小さくするためには、絶縁被膜の比誘電率εを小さくしたり、絶縁被膜の膜厚を大きくしたりする必要がある。
【0042】
本発明の絶縁転がり軸受において絶縁被膜は、絶縁抵抗値が2000MΩ以上、静電容量が10nF以下である。これにより、高周波域でも高インピーダンス化を図ることができ、電食防止性に優れる。絶縁被膜は、高インピーダンス化とコスト低減を両立する観点から、絶縁抵抗値が2000MΩ以上20000MΩ以下であることが好ましく、4000MΩ以上18000MΩ以下であることがより好ましく、6000MΩ以上16000MΩ以下であることがさらに好ましい。また、絶縁被膜は、静電容量が1nF以上10nF以下であることが好ましく、1nF以上8nF以下であることがより好ましく、1nF以上5nF以下であることがさらに好ましい。
【0043】
絶縁被膜の膜厚T、T(円周溝の部分を除く、以下同じ)は、静電容量Cが10nF以下を満たす限りにおいて、特に限定されない。例えば、外輪3の外周面3aに形成される絶縁被膜の膜厚Tと、端面3b、3b’に形成される絶縁被膜の膜厚Tが略一定になるように絶縁被膜を形成してもよい。また、外輪3の外周面3aに形成される絶縁被膜の膜厚Tが、端面3b、3b’に形成される絶縁被膜の膜厚Tよりも小さくなるように絶縁被膜(図1では樹脂被膜6)を形成してもよい。
【0044】
また、絶縁被膜が樹脂被膜の場合、絶縁性と放熱性の観点から膜厚を決定することが好ましい。すなわち、樹脂被膜の膜厚が大きいと、静電容量が小さくなる(インピーダンスが高くなる)ものの、放熱性は低下しやすい。一方、樹脂被膜の膜厚が小さいと、放熱性は向上するものの、静電容量は大きくなる(インピーダンスが低くなる)。また、樹脂被膜の成形が困難になりやすく、樹脂被膜の機械的強度が確保しにくい。そのため、放熱性、絶縁性、機械的強度のバランスを考慮すると、樹脂被膜の膜厚は、例えば0.3mm~2mmの範囲内であり、0.3mm~1.5mmの範囲内であることが好ましい。特に、放熱性を考慮すると、膜厚が1mm以下であることが好ましく、0.3mm~0.9mmであってもよい。
【0045】
ここで、軸受サイズが大きくなると、それに伴い軌道輪において絶縁被膜が形成される表面積が大きくなる。その結果、上記式(3)より、絶縁被膜の静電容量Cが大きくなり、高インピーダンス化の妨げとなり得る。そこで、軸受サイズが大きい場合(例えば、軸受外径が70mm以上、好ましくは90mm以上)において、放熱性を確保する場合には、放熱性への影響が大きい周面(内周面および/または外周面)上に形成される樹脂被膜の膜厚Tを薄くするとともに、静電容量Cを小さくするため、軸方向端面(幅面)上に形成される樹脂被膜の膜厚Tを、膜厚Tよりも厚くすることが好ましい。この場合、樹脂被膜において、周面における膜厚Tと軸方向端面における膜厚Tの比率は、例えば1:1~1:3の範囲内であり、好ましくは1:1.2~1:3の範囲内であり、より好ましくは1:1.2~1:2の範囲内である。さらにこの場合、周面における膜厚Tが1mm以下であることが好ましい。
【0046】
本発明において、樹脂被膜は、絶縁抵抗値および静電容量が上記の数値範囲を満たす限りにおいて、特に限定されない。樹脂被膜はPPS樹脂を含む樹脂組成物で構成されることが好ましく、特に、PPS樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物で構成されることがより好ましい。以下には、この樹脂組成物について説明する。
【0047】
PPS樹脂は、ベンゼン環がパラの位置で、硫黄結合によって連結されたポリマー構造を持つ結晶性の熱可塑性樹脂である。PPS樹脂は、融点約280℃、熱伝導率約0.3W/m・Kを有し、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、難燃性に優れる所謂スーパーエンジニアリングプラスチックの一種である。
【0048】
PPS樹脂は、分子構造から架橋型、リニア型などがあるが、これらの分子構造や分子量に限定されることなく使用することができる。架橋型のPPS樹脂は、例えば、製造工程中に酸素存在下で熱処理を行ない、分子量を必要な水準に高めることで得られる。架橋型のPPS樹脂は、分子の一部がお互いに酸素を介して架橋された二次元または三次元の架橋構造を有する。一方、リニア型のPPS樹脂は、製造工程において熱処理がないために分子中に架橋構造は含まれず、分子は一次元の直鎖状とされている。
【0049】
PPS樹脂の含有量は、特に限定されないが、含有量が多い方が流動性において有利な反面、放熱性の低下を招きやすい。PPS樹脂の含有量は、樹脂組成物全体に対して、例えば20質量%~70質量%であり、29質量%~50質量%が好ましい。
【0050】
ガラス繊維は、SiO、B、Al、CaO、MgO、NaO、KO、Feなどを主成分とする無機ガラスから紡糸して得られる。一般に、無アルカリガラス(Eガラス)、含アルカリガラス(Cガラス、Aガラス)などを使用できる。
【0051】
ガラス繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上が好ましい。平均繊維長が0.1mm未満であると、補強効果が小さくなり、耐摩耗性が低下するおそれがある。また、平均繊維長の上限値は、例えば1mm以下であり、0.8mm以下であってもよい。なお、本明細書における平均繊維長は数平均繊維長である。また、ガラス繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、例えば5μm~20μmであり、好ましくは10μm~15μmである。平均繊維径は、本分野において通常使用される電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などにより測定できる。平均繊維径は、上記測定に基づき数平均繊維径として算出できる。
【0052】
ガラス繊維の含有量は、特に限定されないが、含有量が多い方が機械的強度において有利な反面、流動性の低下を招きやすい。ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物全体に対して、例えば10質量%~50質量%であり、10質量%~30質量%が好ましい。ガラス繊維の含有量が10質量%未満であると、機械的強度の向上効果が得られにくく、耐クリープ性などが低下するおそれがある。
【0053】
熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材は、主に樹脂被膜の熱伝導性の改善のために配合される。また、その他の特性(電気絶縁性、耐水性、耐薬品性、耐熱性、硬度(相手攻撃性))や入手取得性などを考慮して、上記無機系充填材として、炭化ケイ素、ベリリア、窒化ホウ素、窒化ケイ素、水酸化マグネシウム、アルミナ、および炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上を用いることが好ましい。なお、これらの熱伝導率を下記の表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
上記無機系充填材の熱伝導率は15W/m・K以上が好ましい。また、上記無機系充填材として電気絶縁性が高いことが好ましい。例えば、比抵抗値が1010Ω・cm以上が好ましく、1012Ω・cm以上がより好ましい。
【0056】
上記無機系充填材の含有量は、特に限定されないが、含有量が多い方が放熱性において有利な反面、機械的強度や流動性の低下を招きやすい。上記無機系充填材の含有量は、樹脂組成物全体に対して、例えば10質量%~50質量%であり、30質量%~50質量%が好ましい。上記無機系充填材の含有量が10質量%未満であると、熱伝導性の効果が得られにくくなるおそれがある。
【0057】
上記樹脂組成物に用いる熱可塑性エラストマーは、特に限定されないが、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系など、PPS樹脂よりも融点の低いものを用いることが成形性の改善の面で好ましい。熱可塑性エラストマーは、耐熱性、耐水性、耐薬品性、入手取得性などを考慮して、用いることができる。
【0058】
熱可塑性エラストマーの含有量が多くなると樹脂組成物の流動性や耐衝撃性が向上する一方、多くなりすぎると弾性率が低下する傾向がある。熱可塑性エラストマーの含有量は、樹脂組成物全体に対して、例えば0.5質量%~30質量%であり、好ましくは1質量%~20質量%であり、より好ましくは1質量%~10質量%である。
【0059】
なお、本発明の効果を阻害しない程度に、上記樹脂組成物に対して周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。例えば、上記樹脂組成物に対して、熱伝導率が10W/m・K未満の無機系充填材(ガラス繊維を除く)を配合してもよい。
【0060】
上述した各材料の含有量は、成形性、機械特性などに基づいて設定できる。本発明に用いる樹脂組成物の特に好ましい形態は、樹脂組成物全体に対して、PPS樹脂を29質量%~50質量%、ガラス繊維および熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材を合計で20質量%~70質量%(好ましくは40質量%~70質量%)、熱可塑性エラストマーを1質量%~10質量%含む。ガラス繊維と上記無機系充填材の合計量を規定することで、放熱性および機械的強度の両立を図りやすい。また、上記樹脂組成物は、ガラス繊維よりも上記無機系充填材を多く含み、かつ、樹脂組成物全体に対して、ガラス繊維を10質量%~30質量%、上記無機系充填材を30質量%~50質量%含むことが好ましい。さらに、上記ガラス繊維は、平均繊維長が200μm以上であり、かつ、平均繊維径が10μm~15μmであることがより好ましい。
【0061】
上記樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。該成形用ペレットを用いて、軌道輪(例えば外輪)に溶融樹脂を射出成形する。例えば、射出成形は300℃以上の温度で行われる。
【0062】
この射出成形について図2を用いて説明する。図2(a)は成形金型の要部断面図を示し、図2(b)は図2(a)の方法により得られた絶縁転がり軸受の説明図を示す。
【0063】
図2(a)において、成形金型は可動側型板7と固定側型板8とで構成されている。この成形金型の内部に軌道輪(図2では外輪3)を配置した状態で、可動側型板7に固定側型板8が衝合されて、キャビティCが形成される。キャビティCは、樹脂被膜6(図1参照)に対応する形状に形成される。具体的には、キャビティCは、外輪3の外周面3a側に形成されるキャビティと、外輪3の端面3b側、3b’側に形成されるキャビティとを有する。キャビティCは、ゲートGによってランナー9と連結されている。なお、図2(a)は一部断面図を示しているが、キャビティCは外輪3の形状に沿って、円環状に形成される。
【0064】
図2(a)において、ゲートGは、外輪3の端面3b側のキャビティに面して設けられている。ゲートGから溶融樹脂が注入されると、図2(b)の矢印(MD)で示すように、金型内を溶融樹脂が流れる。具体的には、溶融樹脂は、外輪3の端面3b側のキャビティから、外輪3の外周面3a側のキャビティを通って、外輪3の端面3b’側のキャビティへ導かれる。
【0065】
そして、溶融樹脂が充填された後、保圧を経て、一定時間冷却して樹脂が固化される。その後、型開きすることで外周面および両端面に樹脂被膜6が形成された外輪が得られる。この場合、樹脂被膜6の一方の軸方向端面には、ゲート痕10が形成される。
【0066】
図2(b)の絶縁転がり軸受1では、樹脂被膜6における樹脂の流れ方向(MD)が、外輪3の全周において、一方の軸方向端面から外周面を介して他方の軸方向端面に連続的に沿っている。この場合、外輪3に形成された樹脂被膜6の樹脂の流れ方向(MD)が、幅面から外周面を介して反対側の幅面まで一直線上であるともいえる。
【0067】
図2において、ゲート方式はディスクゲートである。ディスクゲートは、ピンゲート(円周上に分散している)とは異なり、円周上に連続している。そのため、溶融樹脂が、一方の軸方向端面から他方の軸方向端面に同じ方向に流れるため、強度の弱いウェルド部が形成されない。
【0068】
射出成形において、ゲートの位置は、特に限定されないが、樹脂被膜において、図2に示すような樹脂の流れ方向(MD)が形成されるようにゲートを設けることが好ましい。具体的なゲートの位置として、例えば、図2(a)に示すように、外輪3の端面3bの円周溝3dと対向する位置にゲートGを設けてもよい。
【0069】
また、図2(a)では、ゲートGが、そのゲートGから溶融樹脂が注入される方向がキャビティCの軸方向と一致するように設けられているが、これらの方向が異なるようにゲートを設けてもよい。例えば、ゲートGから溶融樹脂が注入される方向がキャビティCの軸方向に対して、所定角度傾斜するように、また直交するように設けてもよい。
【0070】
図2において、射出成形後、必要に応じて、樹脂被膜の外周面と幅面に研磨加工を施し、所望の寸法・精度に仕上げることで絶縁転がり軸受が得られる。
【0071】
本発明の絶縁転がり軸受の他の例について、図3を用いて説明する。図3に示す絶縁転がり軸受11は、上述した樹脂被膜の代わりに、絶縁被膜としてセラミックス被膜16を有している。
【0072】
図3に示すように、絶縁転がり軸受11は、外周面に内輪軌道面を有する内輪12と内周面に外輪軌道面を有する外輪13とが同心に配置され、内輪軌道面と外輪軌道面との間に複数の玉14が配置される。この玉14は、保持器15により保持される。図3においては、外輪13の外周面13aおよび両端面13b、13b’はセラミックス被膜16で被覆されている。外輪3の両端面13b、13b’の内径側部分は、テーパ状に形成されており、該テーパ部分にもセラミックス被膜16が形成されている。上記テーパ部分は、内径側に進むにつれて軸方向長さが短くなるようなテーパ状に形成されている。
【0073】
なお、図3では、外輪13の外周面13aおよび両端面13b、13bには円周溝が形成されていない。また、セラミックス被膜16の膜厚は、外輪13の外周面13aに形成される膜厚と、端面13b、13b’に形成される膜厚Tが略一定になるように形成されている。
【0074】
図3において、絶縁転がり軸受11におけるセラミックス被膜16は、上述の樹脂被膜と同様に、絶縁抵抗値が2000MΩ以上、静電容量が10nF以下である。
【0075】
ここで、セラミックス被膜の膜厚を大きくした場合、通常、絶縁抵抗値は大きくなりやすく、静電容量は小さくなりやすい傾向を示す。一方で、セラミックス被膜が、例えば溶射層である場合、セラミックス被膜の膜厚を大きくするためには、溶射作業時間が長くなり、製造コストが増大しやすい。また、膜厚の大きい溶射層は、相手面との嵌合時に欠損する(信頼性が低下する)おそれがある。
【0076】
本発明において、高インピーダンス化の観点から、セラミックス被膜の膜厚は、0.1mm以上であることが好ましく、0.7mmよりも大きくてもよい。さらに、高インピーダンス化と信頼性を両立する観点から、膜厚は0.1mm~1.0mmの範囲内であることが好ましく、0.1mm~0.9mmの範囲内であることがより好ましい。これにより、信頼性確保とコスト抑制をしつつ、静電容量を低減でき、さらなる高インピーダンス化を図ることができる。
【0077】
また、セラミックス被膜が溶射層である場合、樹脂による封孔処理を組み合わせて絶縁被膜としてもよい。この場合、例えば被膜の膜厚を大きくしつつ、嵌合時の欠損のおそれを低下させることができるため、被膜の膜厚を0.1mmよりも大きくしやすい。
【0078】
なお、セラミックス被膜の場合、樹脂被膜の場合よりも放熱性に優れるため、周面上に形成された箇所の膜厚が、軸方向端面(幅面)上に形成された箇所の膜厚と同程度であってもよい。セラミックス被膜は、製造工程の簡略化の観点から、周面における膜厚と軸方向端面における膜厚は同じであることが好ましい。
【0079】
セラミックス被膜のベース材料としては、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、チタニアなどの金属酸化物、窒化ケイ素、炭化珪素、またはこれらの混合物などであり、セラミックス被膜の主成分がアルミナであることが好ましい。例えば溶射材の組成は、アルミナの含有量95.0~98.5質量%とし、他の金属酸化物の含有量1.5~5.0質量%としてもよく、また、アルミナの含有量97.0質量%以上、ジルコニアなどの金属酸化物の含有量1.5~2.5質量%としてもよい。
【0080】
セラミックス被膜は、プラズマ溶射法、エアロゾルデポジション(以下、ADと記す)法などにより形成できる。セラミックス被膜がプラズマ溶射法により形成される場合、被膜が多孔質になりやすいため、絶縁性向上の観点から、溶射層を樹脂などにより封孔処理することが好ましい。プラズマ溶射法により得られる被膜は、多孔質膜中の空隙に比較的低誘電率な樹脂材料を充填できるとともに、孤立した空孔を有しやすいので、実効的な比誘電率を低下でき、高インピーダンス化に適する。
【0081】
本明細書においてAD法は、原料セラミックスの微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材であるスリーブ本体に向けてエアロゾル噴射ノズルより噴射し、エアロゾルをこの基材表面に高速で衝突させ、微粒子の構成材料からなる被膜を基材上に形成させる方法である。AD法での皮膜形成時、エアロゾル中ではセラミックスの微粒子は分散状態を維持している。AD法により得られる被膜は、上記のようにエアロゾルに分散した微粒子から被膜を形成するので、得られる被膜は緻密膜となりやすく、放熱性に特に優れる。
【0082】
セラミックス被膜は、2層以上の被膜層を積層形成してもよい。積層形成する場合、例えば、プラズマ溶射法、AD法のいずれかの方法を繰り返し用いてもよいし、両方の方法を組み合わせて(例えば、1層目はAD法、2層目はプラズマ溶射法など)積層形成してもよい。
【0083】
上述したように、本発明では絶縁被膜として、樹脂被膜またはセラミックス被膜を用いることができる。ここで、例えば、樹脂被膜で用いられるPPS樹脂の比誘電率は約4であり、セラミックス被膜で用いられるアルミナからなる場合、比誘電率は約10である。高インピーダンス化のためには絶縁被膜の静電容量Cが小さくなるように、絶縁被膜の比誘電率が小さくすることが好ましく、この観点ではPPS樹脂が好ましい。なお、セラミックス被膜を用いる場合、膜厚を大きくしてもよい。
【0084】
特に、本発明の絶縁転がり軸受では、絶縁被膜の静電容量Cが1nF以上5nF以下となるように、使用用途やニーズに応じて最適な材料、絶縁被膜の膜厚とすることが好ましい。
【0085】
本発明の絶縁転がり軸受の構成は、上記図1図3の構成に限らない、例えば、本発明の絶縁転がり軸受は、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などにも適用できる。
【0086】
上記図1図3の絶縁転がり軸受は、外輪の外周面および両端面に絶縁被膜が被覆された構成としたが、これに限らない。例えば、外輪の外周面のみに絶縁被膜が被覆された構成としてもよい。また、絶縁被膜が形成される軌道輪は外輪に限らず、内輪でもよい。この場合、内輪の少なくとも内周面に上述の絶縁被膜が形成される。
【0087】
次に、本発明の絶縁転がり軸受の適用例を説明する。図4図7には、鉄道車両の主電動機の主軸を回転自在に支持する軸受に適用した例を示す。
【0088】
まず、図4では、主電動機用主軸の支持構造を有する鉄道車両の台車の構成を説明する。図4は、この台車の構成を示す図である。図4に示すように、台車21は、鉄道車両に備えられる台車であって、台車本体22と、主電動機30と、カップリング24と、駆動装置25と、車軸26と、車輪27と、車軸軸受装置28とを備えている。主電動機30は、主電動機取付部22aにおいて台車本体22に支持されている。また、主電動機30の主軸23は、カップリング24を介して駆動装置25に接続されている。駆動装置25は、主軸23に固定された小歯車25aと、車軸26に固定された大歯車25bとを有し、小歯車25aと大歯車25bとは互いに噛み合うように配置されている。車軸26には、一対の車輪27が固定されており、その両端は車軸軸受装置28により台車本体22に対して支持されている。また、車軸軸受装置28は、台枠22bにおいて台車本体22に支持されている。
【0089】
図4を参照して、主電動機30による車輪27の動作について説明する。まず、主電動機30が動作することにより主軸23が回転する。このとき、主軸23の回転は、カップリング24を介して駆動装置25に伝達され、主軸23に固定された小歯車25aが回転する。この小歯車25aの回転により、小歯車25aと噛み合う大歯車25bが回転する。この大歯車25bに固定された車軸26が回転することにより、車軸26の両端に固定された車輪27が回転し、台車21が走行する。
【0090】
図5は、主電動機30の構成を示す図である。図5に示すように、主電動機30は、コイル32aを有するステータ32と、ステータ32に対向するように配置されたロータ33と、ステータ32およびロータ33を取り囲むように配置されたフレーム31とを主に備えている。ロータ33の中心部(回転軸)を含む部位には、主軸23が貫通するように固定されている。主電動機30において、まず、3相交流電流がステータ32のコイル32aに供給される。このとき、ロータ33の周りに回転磁界が形成され、この回転磁界によりロータ33に誘導電流が発生する。このように、ロータ33の周りに回転磁界が形成され、かつロータ33に誘導電流が発生することにより、ロータ33を回転軸周りに回転させるように働く電磁力が発生し、ロータ33が回転する。このロータ33の回転は、主軸23を介して外部に取り出される。
【0091】
主電動機30は、主軸23をその外周面23aに対向して配置される部材に対して軸周りに回転自在に支持する第1軸受装置40および第2軸受装置45をさらに備えている。第1軸受装置40は、主軸23の固定側を支持する第1の転がり軸受(深溝玉軸受)41を備えており、第2軸受装置45は、主軸23の自由側を支持する第2の転がり軸受(円筒ころ軸受)46を備えている。これらの転がり軸受は、主電動機30の主軸23およびロータ33を支持し、ロータ33の自重による荷重を受ける。第1の転がり軸受41、第2の転がり軸受46がそれぞれ本発明の絶縁転がり軸受である。なお、これらの転がり軸受を主電動機用軸受ともいう。
【0092】
図6は、第1軸受装置40の構成を示す拡大図である。図6に示すように、第1軸受装置40は、第1の転がり軸受41と、ハウジング42と、ストッパ43と、端蓋44と、油切り44aとを備えている。第1の転がり軸受41の内輪41aは、ストッパ43と油切り44aとにより挟まれ、内輪41aの内周面が主軸23の外周面23aに接触している。また、外輪41bの外周面が樹脂被膜41cを介してハウジング42に対して固定されている。例えば、内輪41aは主軸23としまりばめ、外輪側はハウジング42と中間ばめで使用される。また、外輪41bの両端面は樹脂被膜41cを介してハウジング部品(ハウジング42および端蓋44)により押えられ、軸方向に固定されている。
【0093】
また、図7は、第2軸受装置45の構成を示す拡大図である。第2軸受装置45の構成は、転がり軸受の形式が異なるものの、それ以外の構成は第1軸受装置40と同様である。
【0094】
図6において、第1の転がり軸受41は、内輪41aと外輪41bとの間の軸受空間がシール部材により閉じられない開放形軸受とされ、潤滑剤(潤滑油やグリース)がこの軸受空間に供給されることで、該潤滑剤が軌道面などに介在して潤滑がなされる。また、シール部材を設けて潤滑剤を封入する態様としてもよい。軸受回転時には、グリースなどは転動体と軌道面や保持器との摩擦、グリースの撹拌抵抗により発熱し、高温になる。なお、グリースなどには、通常、主電動機用軸受に用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。
【0095】
一般に、主電動機用軸受は、鉄道車両の定期検査に合わせて、グリースの入れ替えや状態検査などのメンテナンスが行われる。主電動機用軸受のメンテナンス必要頻度は、主電動機ひいては鉄道車両のメンテナンス必要頻度の支配要因の一つである。また、主電動機用軸受のメンテナンス必要頻度は、グリースの潤滑寿命により支配される。グリースは、基油の酸化などにより劣化が進行するため、一般的にグリースの潤滑寿命は、軸受の温度が低い方が長くなる。そのため、主電動機のメンテナンス頻度を少なくし、メンテナンスコストを低減するためには、軸受温度の低減が必要である。また、主電動機用軸受には使用中に漏洩電圧が印加されることで電食による損傷が生じることがある。
【0096】
図4図7に示すように、本発明の絶縁転がり軸受を主電動機用軸受に適用することで、高速回転により軸受の温度が上昇する場合であっても、その発熱をハウジング部品などを介して放出することができる。そのため、軸受温度の上昇を抑制しつつ絶縁被膜の膜厚を大きくできる。その結果、高インピーダンス化が図られ、通電による電食防止性に特に優れる。
【実施例0097】
材質、膜厚が異なる絶縁被膜を備えた4種の絶縁転がり軸受の外輪を用いて、インピーダンスの周波数特性を測定した。
【0098】
絶縁被膜がセラミックス被膜の場合、該被膜は、アルミナの含有量95.0~98.5質量%、他の金属酸化物の含有量1.5~5.0質量%の溶射材を用いて溶射により形成した。また、別のセラミックス被膜の場合、アルミナの含有量97.0質量%以上、ジルコニアなどの金属酸化物の含有量1.5~2.5質量%の溶射材を用いた。絶縁被膜の膜厚は、0.1mm~1.0mmであった。
【0099】
絶縁被膜が樹脂被膜の場合、該樹脂被膜は、ガラス繊維および熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材の合計の含有量が、樹脂被膜の樹脂組成物全体に対して40質量%~70質量%であり、樹脂組成物は、ガラス繊維よりも無機系充填材を多く含み、かつ、樹脂組成物全体に対して、ガラス繊維を10質量%~30質量%、無機系充填材を30質量%~50質量%含み、さらに熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物を用いて射出成形により形成した。樹脂被膜の膜厚は、0.3mm~2.0mmであった。測定に供した絶縁転がり軸受における絶縁被膜は、いずれも絶縁抵抗値が2000MΩ以上、静電容量が10nF以下であった。なお、これらを満たすことで、実車において電食が防止された。
【0100】
インピーダンスZは、軸受外輪の全周面が接触する治工具に軸受外輪を組み込んだ後、LCRメータを用いて、負荷電圧1Vの測定条件で電流波形と電圧波形の位相差から測定した。
【0101】
上記4種の絶縁被膜の静電容量は、0.5nF、1.0nF、5.0nF、10.0nFであった。これらのサンプルのインピーダンスの周波数特性を図8に示す。図8に示すように、静電容量が10.0nF以下の場合、例えば、1000Hzの高周波数でもインピーダンスが10Ωよりも大きくなることが確認された。このため、本発明の絶縁転がり軸受は、高性能化により高周波数で稼働する主電動機であっても、絶縁性能を十分に確保することができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の絶縁転がり軸受において、絶縁被膜によって電気絶縁性を有しており、電食防止性に優れるので、軸受内部を電流が流れるような構造の装置に用いられる種々の転がり軸受に適用できる。特に、鉄道車両の主電動機用主軸の支持構造に用いる転がり軸受などに好適である。
【符号の説明】
【0103】
1 絶縁転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 玉(転動体)
5 保持器
6 樹脂被膜
7 可動側型板
8 固定側型板
9 ランナー
10 ゲート痕
11 絶縁転がり軸受
12 内輪
13 外輪
14 玉(転動体)
15 保持器
16 セラミックス被膜
21 台車
22 台車本体
23 主軸
24 カップリング
25 駆動装置
26 車軸
27 車輪
28 車軸軸受装置
30 主電動機
31 フレーム
32 ステータ
33 ロータ
40 第1軸受装置
41 第1の転がり軸受
42 ハウジング
43 ストッパ
44 端蓋
45 第2軸受装置
46 第2の転がり軸受
47 ハウジング
48 ストッパ
49 端蓋
C キャビティ
G ゲート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8