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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000503
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20231225BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C23C14/34 K
C23C14/34 J
H01L21/203 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080995
(22)【出願日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2022099203
(32)【優先日】2022-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002428
【氏名又は名称】芝浦メカトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 洋次
(72)【発明者】
【氏名】樋口 勝敏
【テーマコード(参考)】
4K029
5F103
【Fターム(参考)】
4K029AA07
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA58
4K029BB02
4K029BD01
4K029CA06
4K029DA05
4K029DA08
4K029DC03
4K029DC05
4K029DC16
4K029FA05
4K029GA02
4K029JA02
4K029JA06
4K029KA02
5F103AA08
5F103BB22
5F103BB38
5F103BB42
5F103BB44
5F103DD01
5F103GG01
5F103HH03
5F103HH04
5F103LL02
5F103NN01
5F103NN06
5F103RR04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ワークを効率良く加熱しながら成膜できる成膜装置を提供する。
【解決手段】成膜装置1は、内部を真空とすることが可能なチャンバ20と、チャンバ20内に設けられ、複数のワーク10を保持し、円周の軌跡で循環搬送する回転テーブル31と、成膜材料から成るターゲット42と回転テーブル31との間に導入されるスパッタガスをプラズマ化するプラズマ発生器とを有し、回転テーブル31により循環搬送中のワーク10に、スパッタリングにより成膜材料の粒子を堆積させて成膜する成膜部40と、回転テーブル31により循環搬送中のワーク10に、成膜部40により堆積された膜を処理する膜処理部50と、回転テーブル31において、回転軸以外の領域であって、成膜部40及び膜処理部50に対向する円環状の成膜領域FAに設けられ、個々のワーク10が保持される複数の保持領域HAと、複数の保持領域HAに配置された加熱部34と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を真空とすることが可能なチャンバと、
前記チャンバ内に設けられ、複数のワークを保持し、円周の軌跡で循環搬送する回転テーブルと、
成膜材料から成るターゲットと前記回転テーブルとの間に導入されるスパッタガスをプラズマ化するプラズマ発生器とを有し、前記回転テーブルにより循環搬送中の前記ワークに、スパッタリングにより前記成膜材料の粒子を堆積させて成膜する成膜部と、
前記回転テーブルにより循環搬送中の前記ワークに、前記成膜部により堆積された膜を処理する膜処理部と、
前記回転テーブルにおいて、回転軸以外の領域であって、前記成膜部及び前記膜処理部に対向する円環状の成膜領域に設けられ、個々の前記ワークが保持される複数の保持領域と、
前記複数の保持領域に配置された加熱部と、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記加熱部は、前記保持領域における前記回転テーブルと前記ワークとの間に設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記加熱部は、前記ワークが目標の温度まで段階的に上昇するように、温度調整可能に設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項4】
前記回転テーブルの各処理部に対峙する前記成膜領域側の反対側に、前記回転テーブルと間隔を空けて、前記成膜領域に沿って配置された遮熱部を有することを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ワークはトレイを介して前記回転テーブルに保持され、
前記トレイと前記ワークとの間に、前記加熱部からの熱を吸収して電磁波を発する吸収部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項6】
前記回転テーブルにより循環搬送中の前記ワークの表面及び前記膜の少なくとも一方の表面を処理する表面処理部を有することを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項7】
前記成膜部は、GaNを含む前記成膜材料の粒子を堆積させるGaN成膜部を含み、
前記膜処理部は、前記GaN成膜部において堆積された前記成膜材料の粒子を窒化させる窒化処理部を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガリウム(Ga)を窒化させた化合物半導体は、次世代のデバイス材料として注目されている。例えば、窒化ガリウム(GaN:Gallium Nitride)を使用したデバイスとして、発光デバイス、パワーデバイス、高周波通信デバイスなどがある。このようなデバイスは、Gaを窒化させた化合物膜(GaN膜)をシリコン(Si)ウェーハ、シリコンカーバイド(SiC)ウェーハ、サファイヤ基板、ガラス基板に形成することで製造される。
【0003】
従来から、GaNの成膜は、MO-CVD(metal organic chemical vapor deposition)法によって行われている。MO-CVD法は、常温常圧で液体であるガリウム(Ga)の蒸発を抑え、かつGaと窒素(N)を反応させるために、処理に使用するNHガスが大量に必要となるので、材料の使用効率が悪い。さらに、材料ガスの取り扱いが難しく、装置の状態を安定に維持することが難しいため、歩留まりが悪い。また、処理の際に処理ガス中の水素(H)が取り込まれたGaN膜に、脱水素処理という余分な工程が必要となる。
【0004】
そこで、真空のチャンバ内にスパッタガス、プロセスガスを流し、チャンバ内に保持されたワークに対して、スパッタリングによりターゲットの材料を堆積させて窒化させることによって、材料の使用効率を高めた成膜装置が提案されている。このような成膜装置は、水素(H)を含む反応ガスを使用しないため、脱水素等の余分な工程が不要となる。さらに、扱いやすい希ガスをチャンバ内に導入すればよいため、装置の状態を安定に維持しやすく、歩留まりが良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-097041公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スパッタリングによりガリウム(Ga)を窒化させた化合物膜などを成膜する成膜装置においては、成膜時に膜の結晶性を向上させるために、数100℃程度まで加熱しつつ成膜を行う必要がある。加熱源としては、例えば、特許文献1のように基板を載置する回転テーブルから離隔させて固定配置するものがある。
【0007】
しかし、回転テーブルから離隔した位置から加熱する場合、チャンバ内は真空のため、ワークは主に輻射熱でしか加熱されない。すると、たとえ30mm程度の近い距離であっても、必要な温度以上で加熱することが必要となる。例えば、ワークを600℃まで加熱することが必要な場合、1000℃で加熱することが必要となるため、高出力の加熱装置が必要となりコスト高となる。そこで、成膜する際に、ワークに対し効率のよい加熱が行える加熱源を有する成膜装置が求められていた。
【0008】
本発明は、上述のような課題を解決するために提案されたものであり、ワークを効率良く加熱しながら成膜できる成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本実施形態の成膜装置は、内部を真空とすることが可能なチャンバと、前記チャンバ内に設けられ、複数のワークを保持し、円周の軌跡で循環搬送する回転テーブルと、成膜材料から成るターゲットと前記回転テーブルとの間に導入されるスパッタガスをプラズマ化するプラズマ発生器とを有し、前記回転テーブルにより循環搬送中の前記ワークに、スパッタリングにより前記成膜材料の粒子を堆積させて成膜する成膜部と、前記回転テーブルにより循環搬送中の前記ワークに、前記成膜部により堆積された膜を処理する膜処理部と、前記回転テーブルにおいて、回転軸以外の領域であって、前記成膜部及び前記膜処理部に対向する円環状の成膜領域に設けられ、個々の前記ワークが保持される複数の保持領域と、前記保持領域に配置された加熱部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、ワークを効率良く加熱しながら成膜できる成膜装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す透視平面図である。
図2図1中のA-B矢視断面図であり、成膜装置の側面から見た内部構成の詳細図である。
図3図1中のA-C矢視断面図であり、成膜装置の側面から見た内部構成の詳細図である。
図4】実施形態に係る成膜装置による処理のフローチャートである。
図5】LEDの層構造の一例を示す断面図(A)、バッファ層の拡大断面図(B)である。
図6】実施形態の変形例を模式的に示す透視平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
成膜装置の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面は、各部材、各構成部を摸式的に示したものであり、その寸法や間隔等を正確に示したものではない。
[概要]
図1図3に示す成膜装置1は、スパッタリングにより、成膜対象であるワーク10上にGaN(窒化ガリウム:Gallium Nitride)膜、AlN(窒化アルミニウム:Aluminum Nitride)膜を形成する装置である。
【0013】
成膜対象となるワーク10は、例えば、シリコン(Si)ウェーハ、シリコンカーバイド(SiC)ウェーハ、サファイヤ基板、ガラス基板である。
【0014】
成膜装置1は、チャンバ20、搬送部30、成膜部40、膜処理部50、表面処理部60、移送室70、冷却室80、制御装置90を有する。以下、これらを詳述する。
【0015】
成膜装置1は、内部を真空とすることが可能なチャンバ20内で、搬送部30によりワーク10を搬送しながら、ワーク10に成膜処理を行う成膜部40、成膜部40で成膜された膜に化学反応処理を行う膜処理部50、成膜前のワーク10あるいは成膜後のワーク10の表面を処理する表面処理部60の各部によって、各種処理を行う。また、ワーク10をチャンバ20に搬入及び搬出するための移送室70、チャンバ20内から搬出されたワーク10を冷却する冷却室80を有する。これらの各部は制御装置90によって制御される。
【0016】
[チャンバ]
図2に示すように、チャンバ20は内部を真空とすることが可能な容器である。チャンバ20は円柱形状であり、円盤状の天面20a、円盤状の底面20b、及び環状の側面20cにより囲まれて形成されている。チャンバ20の内部は、区切部22によって複数区画に分けられている。区切部22は、円柱形状の中心から放射状に配設された方形の壁板であり、天面20aから底面20bに向けて延び、底面20bには未達である。即ち、チャンバ20の底面20b側には、チャンバ20の円柱状の空間が確保されている。
【0017】
この円柱状の空間には、ワーク10を搬送する回転テーブル31が配置されている。区切部22の下端は、回転テーブル31に載せられたワーク10が通過する隙間を空けて、回転テーブル31におけるワーク10の載置面と対向している。区切部22によって、成膜部40によりワーク10の処理が行われる処理空間41が仕切られる。つまり、成膜部40は、チャンバ20よりも小さい処理空間41を有している。区切部22は、成膜部40で用いられるスパッタガスG1がチャンバ20内に拡散することを抑制する。成膜部40においては、チャンバ20よりも小さく仕切られた処理空間41における圧力を調整すればよいため、圧力調整を容易に行うことができ、プラズマの放電を安定化させることができる。
【0018】
なお、チャンバ20には排気口21が設けられている。排気口21には排気部23が接続されている。排気部23は配管及び図示しないポンプ、バルブ等を有する。排気口21を通じた排気部23による排気により、チャンバ20内を減圧し、真空とすることができる。排気部23は、酸素濃度を低く抑えるため、例えば、真空度が10-4Paになるまで排気する。
【0019】
[搬送部]
搬送部30は、回転テーブル31、モータ32、断熱部33、加熱部34、回転接続部35、遮熱部36を有する。搬送部30は、チャンバ20内に設けられ、複数のワーク10を保持し、ワーク10を円周の軌跡である搬送経路Lに沿って循環搬送する。また、搬送部30は、ワーク10を加熱部34で加熱する。
【0020】
回転テーブル31は、チャンバ20内に配置された円盤状の部材であり、側面20cの内側と接触しない程度に大きく拡がっている。回転テーブル31は、その円中心に設けられた挿入孔31aに、これと同軸の筒状の回転軸311が締結部材31bを介して挿入されることにより支持されている。回転軸311の内部は中空の大気圧空間となっており、開口端である中心孔311aを円形のプレート311bが覆うように固定されている。また、回転軸311は、チャンバ20の底面20bに設けられた貫通孔20dを貫通して外部に突出し、気密となるように締結部材20eによって底面20bと締結されている。
【0021】
モータ32は、チャンバ20外に配置され、不図示のカップリング部材を介して回転軸311を回転させることにより、回転テーブル31を連続的に所定の回転速度で回転させる。回転テーブル31は、例えば、1~150rpmの速度で回転する。
【0022】
ワーク10は、トレイ11に載置されて、回転テーブル31によって搬送される。トレイ11は、回転テーブル31に保持される板体である。トレイ11には、吸収部材12を介してワーク10が載置される。
【0023】
吸収部材12は、上面にワーク10を載置する窪みを有する板体である。吸収部材12は、その上下の面が露出するように、トレイ11に嵌め込まれている。吸収部材12は、加熱部34からの熱を吸収し、ワーク10の熱吸収波長の電磁波を発することでワーク10の加熱効率を高める部材である。例えば、ワーク10がサファイヤ基板の場合、吸収部材12は、サファイヤ基板の熱吸収波長である約2μm~4μmの中赤外線から遠赤外線の間の波長の電磁波を発する部材とする。この熱吸収波長の値は、ワーク10をサファイヤ基板とした場合の値であり、他の材料を採用した場合、その採用した材料に適した波長の吸収部材12を採用する。吸収部材12は、黒色の板状部材である。例えば、カーボングラファイト(carbon graphite)、グラッシーカーボン(glassy carbon)を、吸収部材12として用いる。耐熱性のある硬質の部材の表面を、黒色に塗布したものを吸収部材12として用いてもよい。なお、色は黒色に限定する必要はない。つまり、ワーク10の熱吸収波長を含む波長を有する塗料を塗布してもよく、部分的に吸収波長が異なる部材や塗料として、広範囲な熱吸収波長範囲としてもよい。
【0024】
さらに、本実施形態では、加熱対象であるワーク10が加熱し難いサファイヤ基板であるため、吸収部材12を利用している。ワーク10の材質自体が、熱を吸収しやすいものであれば、吸収部材12を設置する必要は無い。つまり、加熱部34だけで、ワーク10を所望の温度まで加熱可能であれば、吸収部材12は必須ではない。
【0025】
回転テーブル31には、図1に示すように、複数のワーク10が成膜される成膜領域FAが設けられている。成膜領域FAは、図1の2点鎖線で示すように、平面方向から見て、回転テーブル31において、回転軸311以外の領域であって、成膜部40及び膜処理部50に対向する円環状の領域である。成膜領域FAには、個々のワーク10が保持される保持領域HAが、円周方向に等間隔で設けられている。
【0026】
保持領域HAには、溝、穴、突起、治具、ホルダ等の保持部が設けられ、ワーク10を載せたトレイ11をメカチャック、粘着チャックによって保持する。ワーク10は、例えば、トレイ11上に複数配置され、保持領域HAは、回転テーブル31上に60°間隔で6つ配設される。つまり、成膜装置1は、複数の保持領域HAに保持された複数のワーク10に対して一括して成膜することができるため、非常に生産性が高い。なお、トレイ11を省略し、ワーク10を回転テーブル31の保持領域HAに直接保持してもよい。
【0027】
断熱部33は、図2に示すように、断熱性の材料により形成された板体であり、保持領域HAに嵌め込まれて固定されている。断熱部33としては、例えば、セラミクスを用いる。加熱部34は、通電することにより発熱するヒータである。ヒータは抵抗加熱により発熱するものでも、電磁誘導加熱により発熱するものでもよい。加熱部34は円形の板であり、断熱部33上に嵌め込まれている。これにより、加熱部34は、保持領域HAにおける回転テーブル31とワーク10との間に配置され、断熱部33は、加熱部34と回転テーブル31との間に配置される。加熱部34は、少なくとも、ワーク10が吸収部材12上に配置される若しくはワーク10がトレイ11上に配置される範囲の大きさであれば良い。このため、加熱部34は、必ずしもトレイ11を含む大きさにする必要はない。以上のような断熱部33及び加熱部34は、保持領域HAにそれぞれ配置される。
【0028】
ワーク10が回転テーブル31の保持領域HAに載置されると、吸収部材12の下側に加熱部34の上面が対応するように配置される。つまり、図2に示すように、回転テーブル31の下から断熱部33、加熱部34、吸収部材12、ワーク10の順に重なるように配置される。
【0029】
断熱部33により、加熱部34から発する熱が回転テーブル31に逃げて、回転テーブル31がダメージ(変形等)を受けることを抑制できる。また、回転テーブル31の下から熱が放熱するのを抑えることができる。なお、加熱部34は、トレイ11の吸収部材12を介してワーク10を加熱する。但し、上記のように、吸収部材12を省略して、加熱部34がワーク10に接触するように構成してもよい。つまり、加熱部34は、ワーク10に接して直接的に加熱しても、他の部材が介在して間接的に加熱してもよい。
【0030】
回転接続部35は、ワーク10とともに円周の軌跡で循環搬送される加熱部34と電源とを電気的に接続するためのコネクタである。本実施形態の回転接続部35は、回転電極部351と静止電極部352を有するスリップリングである。なお、回転接続部35としては、ロータリーコネクタを用いることもできる。
【0031】
より具体的には、回転電極部351は、導電性の複数のリング電極351aが、チャンバ20の外の回転軸311に複数同軸に配置されている。各リング電極351aは、回転軸311に設けられた孔を通って、回転軸311内からプレート311bの中心を通るケーブル351b(正極線、負極線)によって加熱部34に接続され、回転軸311とともに回転する。
【0032】
静止電極部352は、導電性の複数のブラシ電極352aが、各リング電極351aに接する位置に、回転軸311とは独立に固定された構成部である。ブラシ電極352aは、ケーブル352bを介して制御部353に接続され、制御部353を介して電力供給及び制御がなされる。
【0033】
制御部353は、温度センサ、温度調節器、操作部を有する。温度センサは、加熱部34の温度を検出し、検出温度値の信号を温度調節器に送る。温度調節器は、検出温度値と、予め設定された目標温度値とを比較して、操作部に操作信号を送る。操作部は、操作信号に基づいてブラシ電極352aを介してリング電極351aに電力を印加又は印加停止し、加熱部34を昇温又は降温させる。このように制御部353は、フィードバック制御を行うことで加熱部34の温度を制御する。温度センサは、例えば加熱部34に接触し温度検知可能に設けられる熱電対とすることができる。操作部は、例えばSCR(Silicon Controlled Rectifier: シリコン制御整流子)のような電圧調整器とすることができる。
【0034】
ブラシ電極352aの一部は、リング電極351aの外周に押し当てられているため、摺動接点が形成されている。これにより、回転電極部351と静止電極部352が導通状態となり、回転軸311とともに回転電極部351が回転しても、リング電極351aが常にブラシ電極352aに接した状態が維持されるため、加熱部34に電力を伝達できる。
【0035】
スリップリングである回転接続部35が、チャンバ20外に設けられているのは、ブラシ電極352aとリング電極351aの摺動接点における真空放電を避けるためである。また、図2では簡略化しているが、リング電極351a、ブラシ電極352aに接続されたケーブル351b、352bは、各加熱部34に一対ずつ設けられ、各加熱部34の温度は個別に制御可能となっている。
【0036】
遮熱部36は、回転テーブル31の各処理部に対峙する成膜領域FA側の反対側に、回転テーブル31と間隔を空けて、成膜領域FAに沿って配置されている。つまり、遮熱部36は、回転テーブル31の下面を離隔して覆うように配置されている。遮熱部36は、複数の遮熱板36aを有する。遮熱板36aは、水平なリング状の板体である平板と、平板の外周縁を垂直に立ち上げた筒状の側板から成り、縦断面がL字形の金属製の部材である。なお、筒状の側板には、ワーク10を回転テーブル31に搬送するために、ロードロック部71に対応する部分が切り抜かれることにより、搬送口が形成されている。遮熱板36aは、上下に間隔を空けて複数積層して配置され、支持脚36bによってチャンバ20の底面20bに支持固定されている。遮熱板36aの中央の開口には、回転軸311が間隔を空けて挿通されている。
【0037】
このように、複数の遮熱板36aを、回転テーブル31に近い位置から離隔する方向に重ねて配置することにより、真空中において、加熱部34からの輻射熱を段階的に低減させて、チャンバ20の底面20bへの放熱を抑制することができる。チャンバ20の底面20bからの放熱が抑制されることで、チャンバ20の底面20b及び側面20cの内壁面、回転軸311の軸受け等の熱によるダメージを防止できる。なお、熱のダメージを抑制するために、遮熱板36aの他に反射板を設けて、チャンバ20の底面20bに加熱部34から発せられる光が当たらないようにすることもできる。同様の光の反射の効果を得るために、遮熱板36aの表面に金メッキ処理をすることもできる。
【0038】
[成膜部]
成膜部40は、プラズマを生成し、成膜材料から構成されるターゲット42を該プラズマに曝す。これにより、成膜部40は、プラズマに含まれるイオンをターゲット42に衝突させることで叩き出されたターゲット42を構成する粒子(以下、スパッタ粒子とする)をワーク10上に堆積させて成膜を行う。成膜部40は、成膜材料から成るターゲット42と回転テーブル31との間に導入されるスパッタガスG1をプラズマ化するプラズマ発生器とを有する。
【0039】
プラズマ発生器は、図2に示すように、ターゲット42、バッキングプレート43及び電極44で構成されるスパッタ源と、電源部46とスパッタガス導入部49で構成される。
【0040】
ターゲット42は、ワーク10上に堆積されて膜となる成膜材料で構成された板状部材である。ターゲット42は、回転テーブル31に載置されたワーク10の搬送経路Lに離隔して設けられている。ターゲット42の表面は、回転テーブル31に載置されたワーク10に対向するように、チャンバ20の天面20aに保持されている。ターゲット42は例えば3つ設置される。3つのターゲット42は、平面視で三角形の頂点上に並ぶ位置に設けられている。
【0041】
バッキングプレート43はターゲット42を保持する支持部材である。このバッキングプレート43は各ターゲット42を個別に保持する。電極44は、チャンバ20の外部から各ターゲット42に個別に電力を印加するための導電性の部材であり、ターゲット42と電気的に接続されている。各ターゲット42に印加する電力は、個別に変えることができる。その他、スパッタ源には、必要に応じてマグネット、冷却機構などが適宜具備されている。
【0042】
電源部46は、例えば、高電圧を印加するDC電源であり、電極44と電気的に接続されている。電源部46は、電極44を通じてターゲット42に電力を印加する。尚、回転テーブル31は、接地されたチャンバ20と同電位であり、ターゲット42側に高電圧を印加することにより、電位差が発生する。
【0043】
スパッタガス導入部49は、図2に示すように、チャンバ20にスパッタガスG1を導入する。スパッタガス導入部49は、図示しないボンベ等のスパッタガスG1の供給源と、配管48と、ガス導入口47を有する。配管48は、スパッタガスG1の供給源に接続されてチャンバ20を気密に貫通してチャンバ20の内部に延び、その端部がガス導入口47として開口している。本実施形態のスパッタガス導入部49は、処理空間41の圧力が例えば0.3Pa以上、1.0Pa以下となるように、処理空間41にスパッタガスG1を導入する。
【0044】
ガス導入口47は、回転テーブル31とターゲット42との間に開口し、回転テーブル31とターゲット42との間に形成された処理空間41に成膜用のスパッタガスG1を導入する。スパッタガスG1としては希ガスが採用でき、アルゴン(Ar)ガス等が好適である。スパッタガスG1は、窒素(N)が含まれないガスであり、アルゴン(Ar)単ガスとすることができる。
【0045】
このような成膜部40では、スパッタガス導入部49からスパッタガスG1を導入し、電源部46が電極44を通じてターゲット42に高電圧を印加すると、回転テーブル31とターゲット42との間に形成された処理空間41に導入されたスパッタガスG1がプラズマ化し、イオン等の活性種が発生する。プラズマ中のイオンは、ターゲット42と衝突してスパッタ粒子を叩き出す。
【0046】
また、この処理空間41を回転テーブル31によって循環搬送されるワーク10が通過する。叩き出されたスパッタ粒子は、ワーク10が処理空間41を通過するときにワーク10上に堆積して、スパッタ粒子からなる膜がワーク10上に形成される。ワーク10は、回転テーブル31によって循環搬送され、この処理空間41を繰り返し通過することで成膜処理が行われていく。成膜部40を1回通過する度に堆積する膜の膜厚は、膜処理部50の処理レートにも依るが、例えば1~2原子レベル(5nm以下)程度の薄膜とすることができる。ワーク10が複数回循環搬送されることで、膜の厚みが増し、ワーク10上に所定の膜厚の膜が形成される。
【0047】
本実施形態では、成膜装置1は、複数(ここでは2つ)の成膜部40を備え、成膜部40は、チャンバ20において、区切部22によって区切られた2つの区画に設けられている。複数の成膜部40は、成膜材料を選択的に堆積させることにより、複数の成膜材料の層からなる膜を形成する。特に、本実施形態では、異なる種類の成膜材料に対応するスパッタ源を含み、成膜材料を選択的に堆積させることにより、複数種類の成膜材料の層からなる膜を形成する。異なる種類の成膜材料に対応するスパッタ源を含むとは、すべての成膜部40の成膜材料が異なる場合も、複数の成膜部40で共通の成膜材料であるが、他がこれと異なる場合も含む。成膜材料を1種ずつ選択的に堆積させるとは、いずれか1種の成膜材料の成膜部40が成膜を行う間、他の成膜材料の成膜部40は成膜を行わないことをいう。
【0048】
本実施形態では、一方の成膜部40のターゲット42を構成する成膜材料は、GaとGaNを含む材料であり、ターゲット42はワーク10に堆積させるGa原子を含むスパッタ粒子の供給源となる。ターゲット42は、GaNと、窒素が欠乏した不完全なGaN、すなわちN(窒素)との結合が欠損しているGa原子が含まれている。
【0049】
他方の成膜部40のターゲット42を構成する成膜材料は、Alを含む材料であり、ターゲット42はワーク10に堆積させるAl原子を含むスパッタ粒子の供給源となる。なお、Ga原子を含むスパッタ粒子、Al原子を含むスパッタ粒子を供給可能なスパッタリング用のターゲット42であれば、Ga、Al、N(窒素)以外を含んでいても許容される。
【0050】
2つの成膜部40を区別するため、GaとGaNを含む材料で構成されるターゲット42を有する成膜部40を、成膜部40A(GaN成膜部)とし、Alを含む材料で構成されるターゲット42を有する成膜部40を、成膜部40B(Al成膜部)とする。
【0051】
[膜処理部]
膜処理部50は、プロセスガスG2が導入された処理空間59内で誘導結合プラズマを生成し、当該プラズマ中の化学種と成膜部40によってワーク10上に堆積された膜とを化学反応させることで化合物膜を生成する。膜処理部50は、チャンバ20内において、成膜部40が配置される区画以外の区画に配置されている。
【0052】
導入されるプロセスガスG2は、例えば、酸素又は窒素を含む。プロセスガスG2は、酸素ガス又は窒素ガスの他、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。本実施形態のプロセスガスG2は窒素を含むガスである。本実施形態の膜処理部50は、窒素ガスを含むプロセスガスG2が導入された処理空間59内で誘導結合プラズマを生成し、当該プラズマ中の窒素原子と成膜部40によってワーク10上に堆積された膜とを化学反応させることで窒化膜を生成する窒化処理部である。
【0053】
膜処理部50は、図2に示すように、筒状体51、窓部材52、アンテナ53、RF電源54、マッチングボックス55及びプロセスガス導入部58により構成されるプラズマ発生器を有する。
【0054】
筒状体51は、処理空間59の周囲を覆う部材である。筒状体51は、図1及び図2に示すように水平断面が角丸長方形状の筒であり、開口を有する。筒状体51は、その開口が回転テーブル31側に離隔して向かうように、チャンバ20の天面20aに嵌め込まれ、チャンバ20の内部空間に突き出る。この筒状体51は、回転テーブル31と同様の材質とする。
【0055】
この筒状体51によって、膜処理部50により窒化処理が行われる処理空間59が仕切られて、プロセスガスG2がチャンバ20内に拡散することが抑制される。つまり、膜処理部50は、チャンバ20よりも小さく、処理空間41と離隔した処理空間59を有している。チャンバ20よりも小さい空間に仕切られた処理空間59における圧力を調整すればよいため、圧力調整を容易に行うことができ、プラズマの放電を安定化させることができる。
【0056】
窓部材52は、筒状体51の水平断面と略相似形の石英等の誘電体の平板である。この窓部材52は、筒状体51の開口を塞ぐように設けられ、チャンバ20内の窒素ガスを含むプロセスガスG2が導入される処理空間59と筒状体51の内部とを仕切る。なお、窓部材52は、アルミナ等の誘電体であってもよいし、シリコン等の半導体であってもよい。
【0057】
処理空間59は、膜処理部50において、回転テーブル31と筒状体51の内部との間に形成される。この処理空間59を回転テーブル31によって循環搬送されるワーク10が繰り返し通過することで窒化処理が行われる。
【0058】
アンテナ53は、コイル状に巻回された導電体であり、窓部材52によってチャンバ20内の処理空間59とは隔離された筒状体51の内部空間に配置され、交流電流が流されることで電界を発生させる。アンテナ53から発生させた電界が窓部材52を介して処理空間59に効率的に導入されるように、アンテナ53は窓部材52の近傍に配置されることが望ましい。アンテナ53には、高周波電圧を印加するRF電源54が接続されている。RF電源54の出力側には整合回路であるマッチングボックス55が直列に接続されている。マッチングボックス55は、入力側及び出力側のインピーダンスを整合させることで、プラズマの放電を安定化させる。
【0059】
プロセスガス導入部58は、図2に示すように、処理空間59にプロセスガスG2を導入する。プロセスガス導入部58は、図示しないボンベ等のプロセスガスG2の供給源と、配管57、ガス導入口56を有する。配管57は、プロセスガスG2の供給源に接続されて、チャンバ20を気密に封止しつつ貫通してチャンバ20の内部に延び、その端部がガス導入口56として開口している。
【0060】
ガス導入口56は、窓部材52と回転テーブル31との間の処理空間59に開口し、プロセスガスG2を導入する。
【0061】
このような膜処理部50では、RF電源54からアンテナ53に高周波電圧が印加される。これにより、アンテナ53に高周波電流が流れ、電磁誘導による電界が発生する。電界は、窓部材52を介して、処理空間59に発生し、プロセスガスG2に誘導結合プラズマが発生する。このとき、窒素原子を含む窒素の化学種が発生し、ワーク10上の膜に衝突することにより、膜を構成する原子と結合する。その結果、ワーク上の膜は窒化され、化合物膜として窒化膜が形成される。
【0062】
なお、成膜部40Aにおいて、ターゲット42としてGaNを含む材料を使用しつつ、さらに窒化を行う膜処理部50を設けるのは、以下の理由による。すなわち、Gaは融点が低く、常温常圧では液体状態のため、固体のターゲット42とするためには、窒素(N)を含有させる必要がある。このため、単純にターゲット42の窒素含有量を多くして、ターゲット42のスパッタリングのみで成膜することも考えられる。
【0063】
ここで、成膜レートを向上させるためには、RF放電よりもDC放電スパッタが好ましい。しかし、ターゲット42に窒素を多く含めると、表面が絶縁物となってしまう。このように表面が絶縁物となったターゲット42では、DC放電が生じない場合がある。
【0064】
つまり、GaNのターゲット42に含めることができる窒素量には限界があり、ターゲット42中のGaの窒化は不十分な状態に留まっている。つまり、GaNを含むターゲット42には、N(窒素)原子との結合が欠損しているGa原子が含まれている。
【0065】
成膜されたGaN膜において窒素含有量が少なく窒素欠陥があると、膜の結晶性が悪くなり、平坦性が損なわれるため、足りない窒素を補填することが必要である。そこで、成膜部40に導入されるスパッタガスG1に窒素ガスを添加してスパッタリングすることも考えられるが、ターゲット42の表面が窒化され、表面が絶縁物となる恐れがある。そのため、足りない窒素を補うために、成膜部40AはスパッタガスG1に十分な量の窒素ガスを添加できない。
【0066】
そこで、成膜部40Aで成膜されたGaN膜において、足りない窒素を補填するために、成膜部40Aによる成膜後、さらに、膜処理部50で窒化を行う。このような成膜時の窒化処理の結果、ワーク10上の膜の窒素含有量を増やすことができ、窒素欠陥のないGaN膜を形成することができる。
【0067】
[表面処理部]
表面処理部60は、回転テーブル31により循環搬送中のワーク10の表面及び成膜部40により堆積された膜の表面を処理する。表面処理部60が行う処理は、成膜部40により膜を堆積する前のワーク10の表面に対する酸化膜除去、又は、ワーク上の形成途中の膜の表面の平坦化である。
【0068】
ワーク10上の形成途中の膜とは、ワーク10上に形成する所望の膜厚の膜に至るまでの膜であり、具体的には、膜処理部50による処理が行われたワーク10上の化合物膜、又は、成膜部40により形成されたワーク10上の膜である。換言すれば、搬送部30は、ワーク10が成膜部40と膜処理部50と表面処理部60を通過するようにワーク10を循環搬送する。これにより、表面処理部60が、膜処理部50による処理が行われたワーク10上の化合物膜にイオンを照射する。あるいは、各部40、50、60の搬送部30による搬送方向において、成膜部40、表面処理部60、膜処理部50の順で配置されている場合には、搬送部30は、ワーク10が成膜部40と表面処理部60と膜処理部50を通過するようにワーク10を循環搬送することにより、表面処理部60が、成膜部40により形成されたワーク10上の膜にイオンを照射する。
【0069】
表面処理部60は、チャンバ20において、成膜部40及び膜処理部50が配置される区画以外の区画に配置されている。この表面処理部60は、筒形電極61、シールド62、プロセスガス導入部65及びRF電源66とで構成されるプラズマ発生器を備える。
【0070】
表面処理部60は、図1及び図3に示すように、チャンバ20の上部から内部にかけて設けられた箱型の筒形電極61を備えている。筒形電極61の形状は特に限定されないが、本実施形態では、平面視で略扇形となっている。筒形電極61は底部に開口部61aを有している。開口部61aの外縁、すなわち筒形電極61の下端は、回転テーブル31上のワーク10の上面に対して、わずかな隙間を介して対向している。
【0071】
筒形電極61は、角筒状であり、一端に開口部61aを有し、他端は閉塞されている。筒形電極61は、開口部61aを有する一端が回転テーブル31に向かうように、チャンバ20の天面に設けられた開口21aに絶縁部材61cを介して取り付けられている。筒形電極61の側壁はチャンバ20の内部に延在している。
【0072】
筒形電極61の、開口部61aと反対端には、外方へ張り出すフランジ61bが設けられている。絶縁部材61cが、フランジ61bとチャンバ20の開口21aの周縁との間に固定されることで、チャンバ20の内部を気密に保っている。絶縁部材61cは絶縁性があればよく、特定の材料に限定されないが、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の材料から構成することができる。
【0073】
筒形電極61の開口部61aは、回転テーブル31の搬送経路Lと向かい合う位置に配置される。回転テーブル31は、搬送部30として、ワーク10を搭載したトレイ11を搬送して開口部61aに対向する位置を通過させる。なお、回転テーブル31の径方向におけるトレイ11の大きさよりも、筒形電極61の開口部61aの方が大きい。
【0074】
上述したように、筒形電極61はチャンバ20の開口21aを貫通し、一部がチャンバ20の外部に露出している。この筒形電極61におけるチャンバ20の外部に露出した部分は、図3に示すように、ハウジング61dに覆われている。ハウジング61dによってチャンバ20の内部の空間が気密に保たれる。筒形電極61のチャンバ20の内部に位置する部分、すなわち側壁の周囲は、シールド62によって覆われている。
【0075】
シールド62は、筒形電極61と同軸の扇形の角筒であり、筒形電極61よりも大きい。シールド62はチャンバ20に接続されている。具体的には、シールド62はチャンバ20の開口21aの縁から立設し、チャンバ20の内部に向かって延びた端部は、筒形電極61の開口部61aと同じ高さに位置する。シールド62は、チャンバ20と同様にカソードとして作用するので、電気抵抗の少ない導電性の金属部材で構成すると良い。シールド62はチャンバ20と一体的に成型しても良く、あるいはチャンバ20に固定金具等を用いて取り付けても良い。
【0076】
シールド62は筒形電極61内でプラズマを安定して発生させるために設けられている。シールド62の各側壁は、筒形電極61の各側壁と所定の隙間を介して略平行に延びるように設けられる。隙間が大きくなりすぎると静電容量が小さくなったり、筒形電極61内で発生したプラズマが隙間に入り込んだりしてしまうため、隙間はできるだけ小さいことが望ましい。ただし、隙間が小さくなり過ぎても、筒形電極61とシールド62との間の静電容量が大きくなってしまうため好ましくない。隙間の大きさは、プラズマの発生に必要とされる静電容量に応じて適宜設定すると良い。なお、図3は、シールド62及び筒形電極61の半径方向に延びる2つの側壁面しか図示していないが、シールド62及び筒形電極61の周方向に延びる2つの側壁面の間も、半径方向の側壁面と同じ大きさの隙間が設けられている。
【0077】
また、筒形電極61にはプロセスガス導入部65が接続されている。プロセスガス導入部65は、配管の他、図示しないプロセスガスG3のガス供給源、ポンプ、バルブ等を有する。このプロセスガス導入部65によって、筒形電極61内にプロセスガスG3が導入される。プロセスガスG3は、処理の目的によって適宜変更可能である。例えば、プロセスガスG3は、アルゴンガスなどの不活性ガス、酸素ガス若しくは窒素ガス、又は、アルゴンガスに加えて酸素ガス若しくは窒素ガスを含んでいても良い。
【0078】
筒形電極61には、高周波電圧を印加するためのRF電源66が接続されている。RF電源66の出力側には整合回路であるマッチングボックス67が直列に接続されている。RF電源66はチャンバ20にも接続されている。RF電源66から電圧を印加すると、筒形電極61がアノードとして作用し、チャンバ20、シールド62、回転テーブル31、及びトレイ11がカソードとして作用する。つまり、逆スパッタのための電極として機能する。このため、上記のように、回転テーブル31、及びトレイ11は導電性を有し、電気的に接続されるように接触している。
【0079】
マッチングボックス67は、入力側及び出力側のインピーダンスを整合させることで、プラズマの放電を安定化させる。なお、チャンバ20や回転テーブル31は接地されている。チャンバ20に接続されるシールド62も接地される。RF電源66及びプロセスガス導入部65はともに、ハウジング61dに設けられた貫通孔を介して筒形電極61に接続する。
【0080】
プロセスガス導入部65から筒形電極61内にプロセスガスG3であるアルゴンガスを導入し、RF電源66から筒形電極61に高周波電圧を印加すると、容量結合プラズマが発生し、アルゴンガスがプラズマ化され、電子、イオン及びラジカル等が発生する。この発生させたプラズマ中のイオンをワーク10上の形成途中の膜に照射する。
【0081】
すなわち、表面処理部60は、一端に開口部61aが設けられ、内部にプロセスガスG3が導入される筒形電極61と、筒形電極61に対して高周波電圧を印加するRF電源66と、を有し、搬送部30が開口部61aの直下にワーク10を搬送して通過させることで、ワーク10上に形成された膜に対してイオンを引き込み、イオン照射が行われる。表面処理部60では、ワーク10上に形成された膜にイオンを引き込むために、ワーク10が載置されるトレイ11と回転テーブル31に負のバイアス電圧が印加される。
【0082】
表面処理部60のような筒形電極61を用いることで、トレイ11や回転テーブル31には高周波電圧を印加しなくとも、これらの部材はアース電位のまま、ワーク10が載置されるトレイ11と回転テーブル31に所望の負のバイアス電圧を印加して、成膜された薄膜にイオンを引き込むことが可能となる。これにより、トレイ11や回転テーブル31に高周波電圧を印加する構造を追加したり、所望のバイアス電圧を得るために、アノードとなる電極の面積とカソードとなる電極を取り囲む他の部材の面積比を考慮したりする必要がなくなり、装置設計が容易となる。
【0083】
このため、ワーク10上の形成途中の膜を平坦化するために、ワーク10を移動させながら成膜とイオン照射を繰り返し行う場合であっても、簡易な構造で、ワーク10上に形成された膜にイオンを引き込むことができる。
【0084】
筒形電極61によって、チャンバ20内において、表面処理部60により表面処理が行われる処理空間64が仕切られる。筒形電極61によって、プロセスガスG3がチャンバ20内に拡散することを抑制できる。つまり、表面処理部60は、チャンバ20よりも小さく、処理空間41、59と離隔した処理空間64を有している。チャンバ20よりも小さい空間に仕切られた処理空間64における圧力を調整すればよいため、圧力調整を容易に行うことができ、プラズマの放電を安定化させることができる。なお、上記の成膜部40、膜処理部50、表面処理部60の並び順及び数は特定のものには限定されない。循環搬送されるワーク10に対して、所望の処理を行うことができれば良い。
【0085】
このように、膜処理部50は、窒素ガスをプラズマ化して窒素原子を含む化学種を生成し、ワーク10上に形成された膜と化学反応させることで、化合物膜を生成する機能を有する。膜処理部50では、プラズマ密度の高い誘導結合プラズマを利用することで、当該プラズマ中の化学種と成膜部40によってワーク10上に形成された膜とを効率的に化学反応させることで化合物膜を生成することが可能である。
【0086】
表面処理部60は、ワーク10が載置されるトレイ11と回転テーブル31に負のバイアス電圧を印加して、ワーク10上に形成された膜にイオンを引き込み、薄膜を平坦化する機能を有する。表面処理部60では、筒形電極61を利用することで、簡易にワーク10上に形成された膜にイオンを引き込み、平坦化を行うことが可能である。
【0087】
[移送室]
移送室70は、ゲートバルブGV1、GV2を介して、ワーク10をチャンバ20に搬入及び搬出するための容器である。移送室70は、図1に示すように、チャンバ20に搬入される前のワーク10が収容される内部空間を有する。移送室70は、ゲートバルブGV1を介してチャンバ20に接続されている。移送室70の内部空間には、図示はしないが、ワーク10を搭載したトレイ11をチャンバ20との間で搬入、搬出するための搬送手段が設けられている。移送室70は、図示しない真空ポンプ等の排気手段によって減圧されており、搬送手段によってチャンバ20の真空を維持した状態で、未処理のワーク10を搭載したトレイ11をチャンバ20内に搬入し、処理済みのワーク10を搭載したトレイ11を、チャンバ20から搬出する。
【0088】
移送室70には、ゲートバルブGV2を介して、ロードロック部71が接続されている。ロードロック部71は、移送室70の真空を維持した状態で、図示しない搬送手段によって、外部から未処理のワーク10を搭載したトレイ11を、移送室70内に搬入し、処理済みのワーク10を搭載したトレイ11を、移送室70から搬出する装置である。なお、ロードロック部71は、図示しない真空ポンプ等の排気手段によって減圧される真空状態と、真空破壊される大気開放状態とが切り替わる。
【0089】
[冷却室]
冷却室80は、チャンバ20内から搬出されたワーク10を冷却する。冷却室80は、移送室70に接続された容器を備え、移送室70から搬出されたトレイ11に搭載されたワーク10を冷却する冷却手段を有する。冷却手段としては、例えば、冷却ガスを吹き付ける吹付部を適用できる。冷却ガスは、例えば、スパッタガスG1の供給源からのArガスを用いることができる。高温の状態のワーク10を大気中に搬出すると、ワーク10上に酸化膜が形成される。この酸化膜は不要であるため、もし、酸化膜が形成されてしまうと、この酸化膜を除去する工程が必要になる。この工程を増やさないように、大気中で、ワーク10の表面に酸化膜が形成されない温度まで下げるために、冷却室80が設けられている。冷却する温度としては、酸化膜が形成されない温度、例えば、100度以下であれば良く、80度以下とすることが好ましい。なお、移送室70の処理済みワーク10を搭載したトレイ11は、図示しない搬送手段によって、冷却室80に搬入される。
【0090】
[制御装置]
制御装置90は、排気部23、スパッタガス導入部49、プロセスガス導入部58、63、電源部46、RF電源54、66、モータ32、制御部353、移送室70、ロードロック部71、冷却室80など、成膜装置1を構成する各種要素を制御する。この制御装置90は、PLC(Programmable Logic Controller)や、CPU(Central Processing Unit)を含む処理装置であり、制御内容を記述したプログラムが記憶されている。
【0091】
具体的に制御される内容としては、成膜装置1の初期排気圧力、ターゲット42、アンテナ53及び筒形電極61への印加電力、スパッタガスG1、プロセスガスG2、G3の流量、導入時間及び排気時間、成膜時間、表面処理時間、加熱部34の加熱温度、加熱時間、モータ32の回転速度、冷却温度、冷却時間などが挙げられる。これにより、制御装置90は、多種多様な成膜仕様に対応可能である。
【0092】
なお、制御装置90は、制御部353を介して加熱部34の加熱温度を制御する。加熱部34の加熱温度は、ワーク10が目標の温度まで段階的に上昇するように制御される。つまり、加熱部34は、ワーク10が段階的に温度上昇するように、温度調整可能に設けられている。「段階的に」とは、「徐々に」、「緩やかに」、「急激でない」と同義であり、加熱の開始から目標の温度に達するまでの時間が、ワーク10の破損を防止できる程度の時間であることを意味する。また、制御装置90は、加熱部34の加熱温度をワーク10の種類に応じて調整できる。そして、複数の加熱部34の加熱温度を、個別に調整できる。これにより、サファイヤ基板、シリコンウェーハなど、異なる種類のワーク10を回転テーブル31に載置して、同時並行に処理することができる。
【0093】
[動作]
次に、制御装置90により制御される成膜装置1の動作を説明する。なお、以下のように、成膜装置1により成膜を行う成膜方法も、本発明の一態様である。図4は、本実施形態の成膜装置1による成膜処理のフローチャートである。この成膜処理は、ワーク10の上に、AlN膜、GaN膜を交互に積層し、さらにGaN層を形成する処理である。シリコンウェーハやサファイヤ基板は、GaNとの結晶格子が異なるため、直接GaNの膜を形成した場合、GaNの結晶性が低下するという問題がある。このような結晶格子の不整合を解消するため、AlN膜、GaN膜を交互に積層することにより、バッファ層を形成し、このバッファ層の上にGaN層を形成する。成膜装置1は、例えば、横型のMOSFETやLEDの製造において、シリコンウェーハの上にバッファ層及びGaN層を形成する場合に用いることができる。
【0094】
例えば、図5(A)は、LEDの積層構造を示し、シリコンのワーク10の上に、バッファ層10a、nチャネルを含むGaN層10b、バッファ層10a、pチャネルを含むGaN層10c、発光層10d、透明導電膜10eが積層されている。透明導電膜10eは、ITО(Indium Tin Oxid:酸化インジウムスズ)膜である。なお、電極については図示を省略している。また、図5(B)は、バッファ層10aを示す。
【0095】
まず、チャンバ20内は、排気部23によって排気口21から排気されて、常に所定の圧力まで減圧されている。また、排気とともに、加熱部34が加熱を開始する。同時に、回転テーブル31が回転を開始する。回転する加熱部34からの輻射によってチャンバ20内が加熱される(ステップS01)。排気とともに加熱することにより、チャンバ20内の水分子や酸素分子などの残留気体の脱離が促進される。これにより、成膜時に残留気体が不純物として混入しにくくなり、膜の結晶性が向上する。Q-Massなどのガス分析装置によってチャンバ20内の酸素濃度が所定値以下になったことを検出した後、回転テーブル31の回転を停止する。
【0096】
ワーク10を搭載したトレイ11が、搬送手段によって、ロードロック部71、ゲートバルブGV2、移送室70、ゲートバルブGV1を介してチャンバ20内に順次搬入される(ステップS02)。このステップS02においては、回転テーブル31は、空の保持領域HAを、順次、移送室70からの搬入箇所に移動させる。各保持領域HAは、搬送手段により搬入されたトレイ11を、それぞれ個別に保持する。このようにして、ワーク10を搭載したトレイ11が、回転テーブル31上の全ての保持領域HAに載置される。
【0097】
再び回転テーブル31が回転を開始するとともに、ワーク10が加熱部34によって加熱され、表面処理部60によってワーク10の表面の酸化膜が除去される(ステップS03)。このとき、加熱部34により吸収部材12が加熱されることにより、吸収部材12が、ワーク10が吸収し易い波長の電磁波を発するので、各トレイ11上のワーク10の加熱が促進される。
【0098】
また、回転テーブル31の回転によってワーク10は、表面処理部60の下を繰り返し通過する。表面処理部60では、プロセスガス導入部65から筒形電極61内にプロセスガスG3を導入し、RF電源66から筒形電極61に高周波電圧を印加する。高周波電圧の印加によってプロセスガスG3がプラズマ化され、プラズマ中のイオンが開口部61aの下を通過するワーク10の表面に衝突することで、ワーク10の表面から酸化膜が除去される。
【0099】
予め実験等で求めた酸化膜が除去される所定の時間、表面処理部60による処理が行われた後、成膜部40Bと膜処理部50によるAlN膜の成膜と、成膜部40Aと膜処理部50によるGaN膜の成膜とを交互に繰り返し行うことによるバッファ層の形成を行う。前述のように、成膜部40Aには、GaとGaNを含む材料で構成されるターゲット42が取り付けられており、成膜部40Bには、Alを含む材料で構成されるターゲット42が取り付けられている。
【0100】
まず、成膜部40Bと膜処理部50でワーク10上にAlN膜を成膜する(ステップS04)。即ち、スパッタガス導入部49が、ガス導入口47を通じて、成膜部40Bの処理空間41内にスパッタガスG1を供給する。スパッタガスG1は、Alから構成されたターゲット42の周囲に供給される。電源部46は成膜部40Bのターゲット42に電圧を印加する。これにより、スパッタガスG1をプラズマ化させる。プラズマにより発生したイオンは、ターゲット42に衝突してAl原子を含むスパッタ粒子を叩き出す。
【0101】
未処理のワーク10には、成膜部40Bを通過する際に、表面にAl原子を含むスパッタ粒子が堆積した薄膜が形成される。本実施形態では、成膜部40Bを一回通過する毎に、Al原子1~2個を厚み方向に含み得るレベルの膜厚で堆積させることができる。
【0102】
回転テーブル31の回転により成膜部40Bを通過したワーク10は、膜処理部50を通過し、その過程で薄膜のAl原子が窒化される。即ち、プロセスガス導入部58がガス導入口56を通じて窒素ガスを含むプロセスガスG2を供給する。窒素ガスを含むプロセスガスG2は、窓部材52と回転テーブル31に挟まれた処理空間59に供給される。RF電源54はアンテナ53に高周波電圧を印加する。
【0103】
高周波電圧の印加により高周波電流が流れたアンテナ53が発生させた電界は、窓部材52を介して、処理空間59に発生する。そして、この電界により、この空間に供給された窒素ガスを含むプロセスガスG2を励起させてプラズマを発生させる。プラズマによって発生した窒素の化学種は、ワーク10上のAlの薄膜に衝突することにより、Al原子と結合し、十分に窒化されたAlN膜が形成される。
【0104】
回転テーブル31の回転により膜処理部50を通過し、AlN膜が成膜されたワーク10は、表面処理部60に向かい、表面処理部60にてAlN膜にイオンが照射される(ステップS05)。すなわち、プロセスガス導入部65が配管を通じてアルゴンガスを含むプロセスガスG3を供給する。このプロセスガスG3は、筒形電極61と回転テーブル31に囲まれた筒形電極61内の空間に供給される。RF電源66により筒形電極61に電圧を印加すると、筒形電極61がアノードとして作用し、チャンバ20、シールド62、回転テーブル31、及びトレイ11がカソードとして作用し、筒形電極61内の空間に供給されたプロセスガスG3を励起させてプラズマを発生させる。更にプラズマによって発生したアルゴンイオンは、ワーク10上に成膜されたAlN膜に衝突することにより、当該膜における疎の部分に粒子を移動させて、膜表面を平らにする。
【0105】
このように、ステップS04~S05では、稼働している成膜部40Bの処理空間41をワーク10が通過することで成膜処理が行われ、稼働している膜処理部50の処理空間59をワーク10が通過することで窒化処理が行われる。そして、稼働している表面処理部60の筒形電極61内の空間をワーク10が通過することで、ワーク10上に形成されたAlN膜が平坦化される。なお、「稼働している」とは、各部40、50、60の処理空間においてプラズマを発生させるプラズマ生成動作が行われていることと同義とする。
【0106】
回転テーブル31は、所定の厚みのAlN膜がワーク10上に成膜されるまで、即ちシミュレーションや実験などで予め得られた所定の時間が経過するまで、回転を継続する(ステップS06 Nо)。換言すると、所定の厚みのAlN膜が成膜されるまでの間、ワーク10は成膜部40と膜処理部50とを循環し続ける。なお、Alを原子レベルの膜厚で堆積させる毎に窒化を行うことが好ましいので、成膜と窒化のバランスがとれるように、成膜の速度、窒化の速度および回転テーブル31の回転速度(各処理部の通過速度)を決定することが好ましい。例えば、回転テーブル31の回転速度は、50~60rpm程度の速度とする。
【0107】
所定の時間が経過したら(ステップS06 Yes)、まず成膜部40Bの稼働を停止させる。具体的には、電源部46によるターゲット42への電圧印加を停止する。
【0108】
次に、成膜部40Aと膜処理部50でワーク10上にGaN膜を成膜する(ステップS07)。そして、GaN膜の平坦化を行う(ステップS08)。即ち、スパッタガス導入部49による成膜部40Aのターゲット42の周囲へのスパッタガスG1の供給、電源部46による成膜部40Aのターゲット42への電圧の印加により、成膜部40Aの処理空間41内に供給されたスパッタガスG1をプラズマ化させる。プラズマにより発生したイオンは、ターゲット42に衝突してGa原子を含むスパッタ粒子を叩き出す。
【0109】
回転テーブル31の回転により成膜部40Aを通過したワーク10は、膜処理部50を通過し、その過程で薄膜のGa原子が窒化される。即ち、プロセスガス導入部58がガス導入口56を通じて窒素ガスを含むプロセスガスG2を供給する。窒素ガスを含むプロセスガスG2は、窓部材52と回転テーブル31に挟まれた処理空間59に供給される。RF電源54はアンテナ53に高周波電圧を印加する。
【0110】
高周波電圧の印加により高周波電流が流れたアンテナ53が発生させた電界は、窓部材52を介して、処理空間59に発生する。そして、この電界により、この空間に供給された窒素ガスを含むプロセスガスG2を励起させてプラズマを発生させる。プラズマによって発生した窒素の化学種は、ワーク10上のGaNの薄膜に衝突することにより、Ga原子と結合し、十分に窒化されたGaN膜が形成される。
【0111】
回転テーブル31の回転により膜処理部50を通過し、GaN膜が成膜されたワーク10は、表面処理部60に向かい、表面処理部60にてGaN膜にイオンが照射される(ステップS05)。ワーク10上に成膜されたGaN膜に衝突することにより、当該膜における疎の部分に粒子を移動させて、膜表面を平らにする。
【0112】
これによりAlN膜の表面に、Ga原子を含むスパッタ粒子が堆積した薄膜が形成される。本実施形態では、成膜部40を一回通過する毎に、Ga原子1~2個を含み得るレベルの膜厚で堆積させることができる。
【0113】
このように、ステップS06~S07では、稼働している成膜部40Aの処理空間41をワーク10が通過することでGaを含む膜の成膜処理が行われ、稼働している膜処理部50の処理空間59をワーク10が通過することで窒化処理が行われてGaN膜が形成される。そして、稼働している表面処理部60の筒形電極61内の空間をワーク10が通過することで、ワーク10上に形成されたGaN膜が平坦化される。
【0114】
回転テーブル31は、所定の厚みのGaN膜がワーク10上に成膜される時間として、シミュレーションや実験により得られた時間が経過したら、まず成膜部40の稼働を停止させる。すなわち、所定の時間が経過したら(ステップS09 Yes)、成膜部40Aの稼働を停止させる。具体的には、電源部46によるターゲット42への電圧印加を停止する。なお、Gaを原子レベルの膜厚で堆積させる毎に窒化を行うことが好ましいので、成膜と窒化のバランスがとれるように、成膜の速度、窒化の速度および回転テーブル31の回転速度(各処理部の通過速度)を決定するのが好ましい。例えば、回転テーブル31の回転速度は、50~60rpm程度の速度とする。
【0115】
以上のようなAlN膜とGaN膜の形成を、所定の積層数に達するまで繰り返す(ステップS10 Nо)。所定の積層数に達した場合には(ステップS10 Yes)バッファ層の形成を終了する。
【0116】
引き続いて、バッファ層に重ねて、さらにGaN層を形成する(ステップS11)。このGaN層の形成は、上記のバッファ層におけるGaN膜の形成と同様に行われる。但し、GaN層として設定された所定の厚みとなる時間で成膜を行う。
【0117】
以上のようなバッファ層、GaN層の形成後、上記のように成膜部40Aの稼動を停止させた後、膜処理部50の稼働を停止させる(ステップS12)。具体的には、RF電源54によるアンテナ53への高周波電力の供給を停止する。そして、回転テーブル31の回転を停止させ、成膜されたワーク10が載せられたトレイ11を、搬送手段によって、移送室70を介して冷却室80に搬入し、ワーク10を所定の温度まで冷却した後、ロードロック部71から排出する(ステップS13)。
【0118】
なお、上記の説明では、膜処理部50や表面処理部60は、バッファ層の成膜中(ステップS04~S11)の間は継続して稼働させるようにしているが、ステップS04~S11の各ステップが終わるごとに、膜処理部50や表面処理部60の稼働を停止させてもよい。この場合は、成膜部40B、成膜部40Aの稼働停止後に、膜処理部50の稼働を停止させる。これにより、ワーク10に成膜された膜表面も十分な窒化を行うことができ、窒素欠陥のないAlN膜、GaN膜を得ることができる。
【0119】
[効果]
(1)実施形態の成膜装置1は、内部を真空とすることが可能なチャンバ20と、チャンバ20内に設けられ、複数のワーク10を保持し、円周の軌跡で循環搬送する回転テーブル31と、成膜材料から成るターゲット42と回転テーブル31との間に導入されるスパッタガスG1をプラズマ化するプラズマ発生器とを有し、回転テーブル31により循環搬送中のワーク10に、スパッタリングにより成膜材料の粒子を堆積させて成膜する成膜部40と、回転テーブル31により循環搬送中のワーク10に、成膜部40により堆積された膜を処理する膜処理部50と、回転テーブル31において、回転軸311以外の領域であって、成膜部40及び膜処理部50に対向する円環状の成膜領域FAに設けられ、個々のワーク10が保持される複数の保持領域HAと、複数の保持領域HAに設けられた加熱部34と、を有する。
【0120】
従来のように、加熱源が回転テーブルから離隔して固定配置されている場合、回転するワークに対して加熱される時間が限られるため、加熱されるワークの温度は安定しない。これにより、所望の温度に加熱して、その温度に維持させることが難しい。しかし、本実施形態のように、回転テーブル31の各保持領域HAに加熱部34を有することで、加熱部34は、回転するワーク10と一緒に回転しながらワーク10を加熱することができる。これにより、加熱されるワーク10の温度が低下することがなく、所望の温度に加熱させ、その温度に維持させることができる。
【0121】
また、回転テーブル31の保持領域HA毎に設けられた加熱部34が保持領域HAに保持されたワーク10を加熱するため、回転テーブル31から離隔した位置から輻射熱のみによって加熱する場合と比べて、ワーク10に必要な温度に比べて加熱部34を過度に高温とする必要がなく、効率の良い加熱が可能となる。
【0122】
(2)加熱部34と回転テーブル31との間に、断熱部33が設けられている。このため、加熱部34からの熱が回転テーブル31に伝達することが抑制されるので、回転テーブル31が熱変形して、平坦度が損なわれることが防止される。
【0123】
例えば、回転テーブル31は、ワーク10が成膜部40、膜処理部50、表面処理部60の下方を巡るように通過するため、直径が大きな円盤状であり、比較的低コストで強度及び耐熱性を得るために金属製となっている。すると、回転テーブル31が加熱されると、熱変形し、回転テーブル31の平坦度が損なわれる恐れがある。特に常温状態から600°程度まで加熱するような大幅な温度変化が起こると塑性変形し、冷却しても平坦度が損なわれた状態のまま元に戻らない場合がある。平坦度が損なわれると、回転テーブル31上のワーク10と、成膜部40、膜処理部50、表面処理部60に設けられた区切部22との間の隙間の大きさが変わり、成膜部40、膜処理部50、表面処理部60における圧力を一定に保てなくなり、各処理空間におけるプラズマ放電が不安定になる。また、成膜部40において、ターゲット42と回転テーブル31上のワーク10との位置(距離)関係が予め決められた距離から変わることにより、所望の成膜レートが得られなくなったり、膜厚が面内不均一になる恐れがある。また、回転テーブル31の平坦度が損なわれて保持領域HAの高さ位置や水平位置が変わることで、搬送手段によって移送室70から保持領域HAにワーク10を受け渡す際に、予め決められた位置に受け渡したとしても位置ずれや回転テーブル31との衝突が起こる可能性がある。
【0124】
一方、回転テーブル31の全てを、セラミクスのような断熱材とすることはコスト的に現実的ではない。そこで、回転テーブル31と加熱部34との間に断熱部33を設けて、回転テーブル31との断熱を図ることで、コストを抑えつつ、回転テーブル31上の保持領域HA以外への加熱を抑制している。
【0125】
(3)回転軸311には、回転テーブル31により回転移動する加熱部34に電力供給を可能する回転接続部35が設けられている。このため、円周の軌跡で移動する各加熱部34に、簡易な構造で電力を供給できる。
【0126】
(4)加熱部34は、ワーク10が目標の温度まで段階的に上昇するように、温度調整可能に設けられている。これにより、急激な温度上昇によってワーク10が破損することが防止できる。例えば、回転テーブル31にすべてのワーク10がセットされた後、徐々に温度を上昇させる、つまり、加熱部34の温度が緩やかに上昇するように制御を行うことにより、急激な温度上昇によるワーク10の破損を防止できる。また、Gaの極性は温度によって変わるため、加熱部34の温度調整によって、ワーク10上に成膜された膜(Ga)の結晶相を変化させることもできる。なお、加熱部34は複数の保持領域HAの個々のワーク10が保持される領域に対応して複数設けられ、複数の加熱部34は、個別に温度調整可能に設けられている。このため、処理対象となるワーク10の種類、サイズ等に応じて、適切な温度で加熱できる。
【0127】
(5)回転テーブル31の各処理部に対峙する成膜領域FA側の反対側に、回転テーブル31と間隔を空けて、成膜領域FAに沿って配置された遮熱部36を有する。このため、加熱部34からの輻射によるチャンバ20の加熱が抑制される。チャンバ20の内壁への熱吸収を抑制できるため、チャンバ20の壁面の変形や、回転軸311の軸受けやシール部材などへの加熱によるダメージを防止できる。
【0128】
(6)ワーク10はトレイ11を介して回転テーブル31に保持され、トレイ11とワーク10との間に、加熱部34からの熱を吸収して電磁波を発する吸収部材12が設けられている。このため、吸収部材12から発する電磁波によって、ワーク10を効率良く加熱することができる。例えば、ワーク10がサファイヤ基板やガラス基板であっても、これが吸収する電磁波を発するので、効率良く加熱される。
【0129】
(7)回転テーブル31により循環搬送中のワーク10の表面及び膜の表面の少なくとも一方を処理する表面処理部60を有する。このため、ワーク10の表面、膜の表面の密着性を高めることができる。例えば、ワーク10に酸化膜がついていると、その上に堆積された膜が剥がれ易い。膜の表面に凹凸があると、その上に堆積される膜の密着性が低下する。このため、表面処理部60によってワーク10の表面の酸化膜を除去したり、また、膜の表面を平坦化することで膜の密着性を高めることができる。チャンバ20内で、あらかじめ複数のワーク10をまとめて表面処理できるので、チャンバ20外で個別に表面処理を行うよりも、スループットが向上する。さらに、加熱部34による加熱と同時並行に表面処理を行うことができるため、全体の処理時間を短縮できる。
【0130】
[変形例]
本発明は、上記の実施形態には限定されない。上記の実施形態と基本的な構成は同様として、以下のような変形例も適用可能である。
【0131】
(1)上記の態様では、表面処理部60をチャンバ20内に設けていたが、図5に示すように、チャンバ20の外に、さらに表面処理部60Sを配置してもよい。この表面処理部60Sは、表面処理部60と同様に筒形電極61、RF電源66、プロセスガス導入部65が設けられ、搬入されたワーク10に対して、静止した状態で酸化膜除去処理を行うことができる。この態様では、チャンバ20内でのワーク10への成膜処理中に、チャンバ外で待機中のワーク10の酸化膜除去処理を行うことができるので、チャンバ20内での処理時間を短縮化できる。
【0132】
(2)遮熱板36aの形状や数等は、上記の態様には限定されない。遮熱部36は、回転テーブル31の下面を離隔して覆うように配置されていたが、回転テーブル31の下面の保持領域HAに対応する位置を覆うように、断面がコの字の円環状の遮熱板36aを積層して構成してもよい。また、遮熱板36aは側板と平板から構成される形状を例示したが、平板のみで構成されていても、遮熱効果は得られる。
【0133】
(3)上記実施形態では、加熱部34は複数配置され、各リング電極351aは、ケーブル351bによって加熱部34に接続されるものとした。1つのリング電極351aに対して接続される加熱部34は1つであっても複数であってもよい。1つのリング電極351aに対して加熱部34を複数接続する場合は、例えば、複数の加熱部34のうち、選択された複数の加熱部34間を電気的に接続し、代表する加熱部34のみにケーブル351bを介してリング電極351aを接続する。これにより、加熱部34の個数よりもリング電極351aを少なくし、回転電極部351の長さを短くすることができる。その結果、回転電極部351が配置される回転軸111を短くすることができ、装置設置スペースの縮小や回転テーブル31の回転安定性を図ることができる。
【0134】
(4)チャンバ20内に設ける成膜部40の種類や数、膜処理部50、表面処理部60の種類や数は、上記の態様には限定されない。成膜部40を1つとしても、3つ以上としてもよい。膜処理部50、表面処理部60を複数としてもよい。例えば、成膜部40を、成膜部40Aのみとして、GaN膜を形成する成膜装置1として構成してもよい。また、上記の成膜部40に加えて、これと異種のターゲット材による成膜部40を追加しても、同種のターゲット材料による成膜部40を追加しても、膜処理部50を追加してもよい。
【0135】
また、例えば、図6に示すように、ITОの成膜材料となる酸化インジウムと酸化スズを含むターゲット42を有する成膜部40Cを追加して、ITО膜をチャンバ20内で成膜できるようにしてもよい。この場合、膜処理部50において、窒素ガスを導入する代わりに酸素ガスを導入して、ITO膜の酸化を補うようにしてもよい。また、例えば、成膜部40Aと成膜部40Bと膜処理部50を同時に稼働させて、GaとAlとNとを含むAlGaN(Aluminum Gallium Nitride)膜を成膜できるようにしてもよい。このInGaN膜は、図5(A)に示したように、LEDの発光層14として機能する。つまり、発光層14についても、チャンバ20内で成膜できる。
【0136】
(5)成膜部40は、酸化ガリウム(Ga)を含む成膜材料の粒子を堆積させる成膜部を含み、膜処理部50は、成膜部において堆積された成膜材料の粒子を酸化させる酸化処理部を含んでいてもよい。つまり、上記の成膜部40Aに代えて又はこれに追加してターゲット42としてGa原子と酸素(O)を含む材料を使用する成膜部を設け、窒化処理部に代えて又はこれに追加して、プロセスガスG2として酸素を含むガスを使用する酸化処理部を設けてもよい。
【0137】
(6)上記の態様に加えて、成膜部40として、InNを含む成膜材料から成るターゲット42を有する成膜部を有していてもよい。インジウム(In)単体は融点が低く、実際は固体のターゲット42とするために窒素(N)を添加したInNターゲットとする。InNターゲットが、窒素との結合が不十分なIn原子を含むことは、上記と同様である。
【0138】
(7)上記の態様に加えて、成膜されたGaN膜に対してn型またはp型不純物(ドーパント)を添加する不純物添加処理部を設けてもよい。この場合、循環搬送の経路上に、成膜部、窒化処理部、不純物添加処理部の順に並ぶように配置される。不純物添加処理部は、成膜部40と同様の構成を備える。
【0139】
このような態様では、GaN膜の成膜時に、成膜部40A、膜処理部50とともに、GaN層にMgイオンを添加したpチャネル(p型半導体)を含む層を成膜することができる。また、GaN膜の成膜時に、成膜部40A、膜処理部50とともに、GaN層にSiイオンを添加したnチャネル(n型半導体)を含む層を成膜することができる。
【0140】
不純物添加処理部で添加されるn型不純物またはp型不純物は、上記で例示したものには限定されない。例えば、n型不純物としては、GeまたはSnも挙げられる。この場合、不純物添加処理部に設けられるターゲットを構成する成膜材料はSiの代わりにGeやSnを含む成膜材料を適用することができる。
【0141】
[他の実施形態]
本発明の実施形態及び各部の変形例を説明したが、この実施形態や各部の変形例は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述したこれら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明に含まれる。
【符号の説明】
【0142】
1 成膜装置
10 ワーク
10a バッファ層
10b、10c GaN層
10d 発光層
10e 透明導電膜
11 トレイ
12 吸収部材
20 チャンバ
20a 天面
20b 底面
20c 側面
20d 貫通孔
20e 締結部材
21 排気口
21a 開口
22 区切部
23 排気部
30 搬送部
31 回転テーブル
31a 貫通孔
31b 締結部材
32 モータ
33 断熱部
34 加熱部
35 回転接続部
36 遮熱部
36a 遮熱板
36b 支持脚
40、40A、40B、40C 成膜部
41 処理空間
42 ターゲット
43 バッキングプレート
44 電極
46 電源部
47 ガス導入口
48 配管
49 スパッタガス導入部
50 膜処理部
51 筒状体
52 窓部材
53 アンテナ
54 RF電源
55 マッチングボックス
56 ガス導入口
57 配管
58 プロセスガス導入部
59 処理空間
60、60S 表面処理部
61 筒形電極
61a 開口部
61b フランジ
61c 絶縁部材
61d ハウジング
62 シールド
64 処理空間
65 プロセスガス導入部
66 RF電源
67 マッチングボックス
70 移送室
71 ロードロック部
80 冷却室
90 制御装置
100 制御装置
311 回転軸
311a 中心孔
311b プレート
351 回転電極部
351a リング電極
351b ケーブル
352 静止電極部
352a ブラシ電極
352b ケーブル
353 制御盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6