(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051168
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】関節リウマチを検査する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240403BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240403BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240403BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240403BHJP
【FI】
C12Q1/68
A61K45/00
A61P19/02
A61P29/00 101
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024031786
(22)【出願日】2024-03-04
(62)【分割の表示】P 2020545923の分割
【原出願日】2019-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2018171296
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 免疫アレルギー疾患等実用化研究事業 免疫アレルギー疾患実用化研究分野「疾患ゲノム情報を活用した自己免疫疾患における核酸ゲノム創薬の推進」に係る委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 随象
(72)【発明者】
【氏名】前田 悠一
(72)【発明者】
【氏名】岸川 敏博
(72)【発明者】
【氏名】坂上 沙央里
(57)【要約】
【課題】関節リウマチの新規バイオマーカー及びその利用方法を提供すること。
【解決手段】関節リウマチを検査する方法であって、(1)被検体から採取された体液に
おける、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される
少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、を含む、検査方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節リウマチを検査する方法であって、
(1)被検体から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、
を含む、検査方法。
【請求項2】
検出したバイオマーカーがmiR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)を含む場合、さらに、
(2a)前記工程(1)で検出された前記BM1の量又は濃度がカットオフ値以下である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
検出したバイオマーカーがmiR-762(BM2)を含む場合、さらに、
(2b)前記工程(1)で検出された前記BM2の量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項4】
検出したバイオマーカーがmiR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)、並びにmiR-762(BM2)を含む場合、さらに、
(2c)前記工程(1)で検出された前記BM1の量又は濃度がカットオフ値以下であり、且つ前記工程(1)で検出された前記BM2の量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項5】
前記体液が全血、血漿、及び血清からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれかに記載の検査方法。
【請求項6】
前記被検体がヒトである、請求項1~5のいずれかに記載の検査方法。
【請求項7】
miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、関節リウマチの検査薬。
【請求項8】
miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、関節リウマチの検査キット。
【請求項9】
被検物質で処理された動物から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法。
【請求項10】
被検物質で処理された動物から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、関節リウマチの誘発性又は増悪性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチを検査する方法、関節リウマチの検査薬、関節リウマチの検査キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis :(RA [ MIM 180300 ])は、自己免疫性の全身炎症性疾患であり、罹患者は全世界の人口の約1%である。関節リウマチは、滑膜の炎症とそれに伴う軟骨・骨破壊による関節破壊を特徴とする。原因不明の自己免疫疾患であり、患者のQOL低下と社会経済的損失を生じている。
【0003】
マイクロRNAは20-25塩基で構成される生体内小分子であり、疾患発症を予測するバイオマーカーとして有望視されている。特に、関節リウマチを含む自己免疫疾患において注目を集めており、関節リウマチの診断に寄与するマイクロRNAに関する発明は報告が認められる(特許文献1)。
【0004】
診断に寄与するマイクロRNAのスクリーニングは、これまで数サンプル~数十サンプルという比較的少数のサンプルを対象に、マイクロアレイ技術等を用いて、患者群および対照群におけるマイクロRNAの生体内発現量を実験的に測定することで実施されていた。しかし、これらの手法では、予め設計された数百程度のマイクロRNAのみがスクジーニング対象となっていた。マイクロRNAは生体内に数千種類存在すると報告されており、より広範囲に生体内マイクロRNAをスクリーニングする技術の開発と適応が必要とされていた。また、ゲノムワイド関連解析を代表とする大規模疾患ゲノム解析が実地され、数万人から数十万人というサンプルにおける疾患ゲノム情報が公開されている。これらの大規模サンプルにおける疾患ゲノム情報を活用した生体内マイクロRNAスクリーニング技術の開発も必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Okada,Y., Muramatsu,T., Suita,N., Kanai,M., Kawakami,E., Iotchkova,V., Soranzo,N. and Inazawa,J. (2016) Significant impact of miRNA-target gene networks on genetics of human complex traits. Sci. Rep., 10.1038/srep22223.
【非特許文献2】Okada,Y., Wu,D., Trynka,G., Raj,T., Terao,C., Ikari,K., Kochi,Y., Ohmura,K., Suzuki,A., Yoshida,S., et al. (2014) Genetics of rheumatoid arthritis contributes to biology and drug discovery. Nature, 506, 376-381.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、関節リウマチの新規バイオマーカー及びその利用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発現者は以前、大規模疾患ゲノム解析結果と、マイクロRNA-標的遺伝子ネットワークをコンピューター上で統合する、情報解析技術、MIGWAS(microRNA enrichment analysis in GWAS)を開発してしいる(非特許文献1)。今回新規に、細胞組織別に測定されたマイクロRNA発現プロファイル情報を情報解析パイプラインに統合することで、細胞組織特異性を考慮した、バイオマーカーマイクロRNAのスクリーニングが可能となった。関節リウマチの大規模ゲノムワイド関連解析結果(非特許文献2)に当該パイプラインを適用することで、関節リウマチの診断に寄与するバイオマーカーマイクロRNA候補を同定することに成功した。さらに、これらの候補マイクロRNAを、独立した関節リウマチ患者群30名および対照群33名から採取された末梢血単核球より抽出したマイクロRNA分画における発現情報を用いて検討し、患者群と対照群とで異なった発現レベルを有する4つのマイクロRNA(miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762)を同定することに成功した。この知見に基づいて、さらに研究を進めた結果、本発明が完成した。
【0009】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. 関節リウマチを検査する方法であって、
(1)被検体から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、
を含む、検査方法。
【0011】
項1A.(1)被検体から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、
を含む、測定方法。
【0012】
項1B. 関節リウマチの検査を補助する方法であって、
(1)被検体から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、
を含む、検査方法。
【0013】
項2. 検出したバイオマーカーがmiR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)を含む場合、さらに、
(2a)前記工程(1)で検出された前記BM1の量又は濃度がカットオフ値以下である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含む、項1に記載の検査方法。
【0014】
項3. 検出したバイオマーカーがmiR-762(BM2)を含む場合、さらに、
(2b)前記工程(1)で検出された前記BM2の量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含む、項1に記載の検査方法。
【0015】
項4. 検出したバイオマーカーがmiR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)、並びにmiR-762(BM2)を含む場合、さらに、
(2c)前記工程(1)で検出された前記BM1の量又は濃度がカットオフ値以下であり、且つ前記工程(1)で検出された前記BM2の量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含む、項1に記載の検査方法。
【0016】
項5. 前記体液が全血、血漿、及び血清からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~4のいずれかに記載の検査方法。
【0017】
項6. 前記被検体がヒトである、項1~5のいずれかに記載の検査方法。
【0018】
項7. miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、関節リウマチの検査薬。
【0019】
項7A. 関節リウマチの検査薬としての使用のための、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤。
【0020】
項7B.関節リウマチを検査するための、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤の使用。
【0021】
項7C.関節リウマチの検査薬の製造のための、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤の使用。
【0022】
項8. miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、関節リウマチの検査キット。
【0023】
項9. 被検物質で処理された動物から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法。
【0024】
項10. 被検物質で処理された動物から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、関節リウマチの誘発性又は増悪性の評価方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、関節リウマチのバイオマーカーを提供することができる。該バイオマーカーを利用することにより、関節リウマチの検査、関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング、関節リウマチの誘発性又は増悪性の評価等が可能になり得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】試験例2のスクリーニング結果を示す図である。プロットは各々のmiRNAを示す。横軸は、関節リウマチの患者群における発現量を対照群における発現量で除した値の対数値を示し、縦軸は発現量に差がないという帰無仮説を否定する際の偽発見率を、底を10とした対数変換を行い負の符号をつけたものである。
【
図2】試験例3における、hsa-miR-93-5pで診断する場合の、早期関節リウマチ患者(30名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図3】試験例3における、hsa-miR-106b-5pで診断する場合の、早期関節リウマチ患者(30名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図4】試験例3における、hsa-miR-301b-3pで診断する場合の、早期関節リウマチ患者(30名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図5】試験例3における、hsa-miR-762で診断する場合の、早期関節リウマチ患者(30名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図6】試験例3における、全てのバイオマーカー(hsa-miR-93-5p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-301b-3p、hsa-miR-762)を組合わせて診断する場合の、早期関節リウマチ患者(30名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図7】試験例3における、hsa-miR-93-5pで診断する場合の、抗CCP抗体陰性関節リウマチ患者(14名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図8】試験例3における、hsa-miR-106b-5pで診断する場合の、抗CCP抗体陰性関節リウマチ患者(14名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図9】試験例3における、hsa-miR-301b-3pで診断する場合の、抗CCP抗体陰性関節リウマチ患者(14名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図10】試験例3における、hsa-miR-762で診断する場合の、抗CCP抗体陰性関節リウマチ患者(14名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【
図11】試験例3における、全てのバイオマーカー(hsa-miR-93-5p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-301b-3p、hsa-miR-762)を組合わせて診断する場合の、抗CCP抗体陰性関節リウマチ患者(14名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を示す。縦軸は感度を示し、横軸は1-特異度を示す。図中にROC曲線に基づいて算出された曲線下面積(Area Under the Curve, AUC)も示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0028】
1.関節リウマチの検査方法
本発明は、その一態様において、関節リウマチを検査する方法であって、(1)被検体から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーを検出する工程、を含む、検査方法(本明細書において、「本発明の関節リウマチ検査方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0029】
1-1.工程(1)
検査対象である関節リウマチの種類は、特に制限されない。関節リウマチの各種分類基準における全てのクラス、グレード、ステージの関節リウマチが検査対象となる。関節リウマチには、抗CCP抗体陰性の関節リウマチも包含される。
【0030】
被検体は、本発明の検査方法の対象生物であり、その生物種は特に制限されない。被検体の生物種としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギなどの種々の哺乳類動物が挙げられ、好ましくはヒトが挙げられる。
【0031】
被検体の状態は、特に制限されない。被検体としては、例えば関節リウマチに罹患しているかどうか不明な検体、関節リウマチに罹患していると既に別の方法により判定されている検体、関節リウマチに罹患していないと既に別の方法により判定されている検体、関節リウマチの治療中の検体等が挙げられる。
【0032】
体液は、特に制限されない。体液としては、例えば全血、血清、血漿、髄液、唾液、関節液、尿、組織液(気管支肺胞洗浄液を含む)、汗、涙、喀痰、鼻汁などが挙げられ、好ましくは全血、血清、血漿、髄液が挙げられ、より好ましくは全血、血清、血漿が挙げられる。体液は、好ましくは末梢血単核球を含む体液である。体液は、1種単独で採用してもよいし、2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0033】
体液は、当業者に公知の方法で被検体から採取することができる。例えば、全血は、注射器などを用いた採血によって採取することができる。血清は、全血から血球及び特定の血液凝固因子を除去した部分であり、例えば、全血を凝固させた後の上澄みとして得ることができる。血漿は、全血から血球を除去した部分であり、例えば、全血を凝固させない条件下で遠心分離に供した際の上澄みとして得ることができる。
【0034】
工程(1)の検出対象は、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(本明細書において、これらをまとめて「対象バイオマーカー」と示すこともある。)である。
【0035】
対象バイオマーカーは、関節リウマチにおいて発現量が変化しているバイオマーカーであり、これを指標とすることにより関節リウマチを鑑別可能である。
【0036】
対象バイオマーカー中、miR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)は、関節リウマチ検体における量が健常検体における量よりも低い対象バイオマーカーである。
【0037】
対象バイオマーカー中、miR-762(BM2)は、関節リウマチ検体における量が健常検体における量よりも高い対象バイオマーカーである。
【0038】
対象バイオマーカーは、公知のデータベース(例えば、miRBase:http://www.mirbase.org/)でその塩基配列等を特定することができる。例えば、ヒトの場合、その塩基配列は以下の通りである。
>hsa-miR-93-5p MIMAT0000093
CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG(配列番号1)
>hsa-miR-106b-5p MIMAT0000680
UAAAGUGCUGACAGUGCAGAU(配列番号2)
>hsa-miR-301b-3p MIMAT0004958
CAGUGCAAUGAUAUUGUCAAAGC(配列番号3)
>hsa-miR-762 MIMAT0010313
GGGGCUGGGGCCGGGGCCGAGC(配列番号4)。
【0039】
対象バイオマーカーは、成熟miRNAであることが望ましいが、前駆体(例えばpri-miRNA、pre-miRNA等)であってもよい。
【0040】
工程(1)における対象バイオマーカーの数は、1種のみでもよいが、2種以上、3種以上、又は4種の組み合わせであってもよい。より多くの対象バイオマーカーを組み合わせることにより、関節リウマチの検査等を、より正確に行うことが可能になる。
【0041】
また、工程(1)における対象バイオマーカーは、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0042】
検出は、通常は、対象バイオマーカーの量又は濃度を測定することによって行われる。「濃度」とは、絶対濃度に限らず、相対濃度や、単位体積辺りの重量や、絶対濃度を知るために測定した生データなどでもよい。
【0043】
対象バイオマーカーを検出する方法としては、対象バイオマーカーの一部又は全部を特異的に検出できる方法であれば特に制限されない。検出方法としては、具体的には、例えば、RNA-seq解析法、RT-PCR法、核酸チップ解析法、ノーザンブロット法等を挙げることができる。
【0044】
RNA-seq解析法を利用する場合は、具体的には、被検体由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、次世代シークエンサー等を用いてシークエンス解析を行い、得られたデータに基づいてマッピング、遺伝子発現解析、発現量解析等を行い、発現量情報を得る方法が挙げられる。
【0045】
RT-PCR法を利用する場合は、具体的には、被検体由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的領域が増幅できるように、一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識プローブを使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。
【0046】
核酸チップ解析を利用する場合は、核酸プローブ(1本鎖又は2本鎖)を貼り付けた核酸チップを用意し、これに被検体由来のRNAまたは該RNAから常法によって調製された核酸とハイブリダイズさせて、形成された二本鎖を検出する方法を挙げることができる。
【0047】
ノーザンブロット法を利用する場合は、具体的には、プローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした上記発現系由来のmRNAとハイブリダイズさせた後、形成された診断薬と被検者の試料由来のmRNAとの二重鎖を、プローブの標識物(RI若しくは蛍光物質などの標識物質)に由来するシグナルを放射線検出器又は蛍光検出器などで検出、測定する方法を例示することができる。
【0048】
工程(1)を含む本発明の検査方法によれば、関節リウマチの検出指標である対象バイオマーカーの量及び/又は濃度を提供することができ、これにより関節リウマチの検出などを補助することができる。
【0049】
工程(1)を含む本発明の検査方法による検査結果は、治療効果判定、関節リウマチの病態解明、関節リウマチの予後予測、患者層別化、治療方法の選択(個別化医療、治療反応性)等に利用し得る。
【0050】
1-2.工程(2)
本発明の検査方法は、一態様として、検出したバイオマーカーがmiR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)を含む場合、さらに、
(2a)前記工程(1)で検出された前記BM1の量又は濃度がカットオフ値以下である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含むことが好ましい。該工程2aを含む本発明の検査方法によれば、関節リウマチを判定することが可能となる。
【0051】
本発明の検査方法は、一態様として、検出したバイオマーカーがmiR-762(BM2)を含む場合、さらに、
(2b)前記工程(1)で検出された前記BM2の量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含むことが好ましい。該工程2bを含む本発明の検査方法によれば、関節リウマチを判定することが可能となる。
【0052】
本発明の検査方法は、一態様として、検出したバイオマーカーがmiR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)、並びにmiR-762(BM2)を含む場合、さらに、
(2c)前記工程(1)で検出された前記BM1の量又は濃度がカットオフ値以下であり、且つ前記工程(1)で検出された前記BM2の量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定する工程、
を含むことが好ましい。該工程2cを含む本発明の検査方法によれば、関節リウマチを判定することが可能となる。
【0053】
カットオフ値は、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などの観点から当業者が適宜設定することができ、例えば、関節リウマチに罹患していない被検体から採取された体液における対象バイオマーカーの量及び/又は濃度に基づいて、その都度定められた値、或いは予め定められた値とすることができる。カットオフ値は、例えば、関節リウマチに罹患していない被検体から採取された体液における対象バイオマーカーの量及び/又は濃度(被検体が複数の場合は、平均値、中央値など)の、例えば0.5~1.5倍の値とすることができる。
【0054】
工程(2)の好ましい一態様においては、被検体が関節リウマチの治療中の検体である場合、カットオフ値を、例えば同一検体についての過去の試料における対象バイオマーカーの量及び/又は濃度に基づいた値とすることにより、治療効果を判定することができる。
【0055】
2.関節リウマチのより高い精度での診断
工程(2)を含む本発明の検査方法により、被検体が関節リウマチに罹患していると判定された場合、本発明の検査方法に、さらに関節リウマチの医師による診断を適用する工程を組み合わせることによって、より高い精度で関節リウマチを診断することができる。また、本発明の検査方法はより正確に関節リウマチを検出できるので、本発明の検査方法に上記工程を組み合わせることによって、より効率的且つより正確に「関節リウマチに罹患している」と診断できる。
【0056】
3.関節リウマチの治療
工程(2)を含む本発明の検査方法により被検体が関節リウマチに罹患していると判定された場合は本発明の検査方法に対してさらに、或いは上記「2.関節リウマチのより高い精度での診断」に記載の様に関節リウマチに罹患していると診断された場合は本発明の検査方法と医師による診断を適用する工程との組合せに対してさらに、(3)関節リウマチに罹患していると判定又は診断された被検体に対して、該疾患の治療を行う工程を行うことによって、被検体の該疾患を治療することが可能となる。また、本発明の検査方法はより正確に関節リウマチを検出できるので、本発明の検査方法に対して、或いは本発明の検査方法と医師による診断を適用する工程との組合せに対して工程3を組み合わせることによって、関節リウマチに罹患している被検体をより効率的に、より確実に治療できる。
【0057】
関節リウマチの治療方法は、特に制限されないが、代表的には投薬治療が挙げられる。投薬治療に用いる医薬としては、特に制限されないが、例えば抗リウマチ薬、生物学的製剤(バイオ医薬品)、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド(副腎皮質ステロイド)等が挙げられる。医薬は、1種、2種、又は3種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
4.関節リウマチの検査薬
本発明は、その一態様において、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤(本明細書において、「本発明の検査薬」と示すこともある。)を含む、関節リウマチの検査薬(本明細書において、「本発明の検査薬」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0059】
miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、miR-762、関節リウマチ等については、上記「1.関節リウマチの検査方法」における定義と同様である。
【0060】
本発明の検出剤は、対象バイオマーカーを特異的に検出できるものである限り特に制限されない。該検出剤としては、例えば対象バイオマーカーに対するプライマー、プローブ等が挙げられる。
【0061】
本発明の検出剤は、その機能が著しく損なわれない限りにおいて、修飾が施されていてもよい。修飾としては、例えば、標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等の付加が挙げられる。
【0062】
本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6-FAM(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミン(TMR)〕を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる〔Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照〕。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製、オリゴヌクレオチドECL 3’-オリゴラベリングシステム等)。
【0063】
本発明の検出剤は、任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明の検査薬は、検出剤を固定化した基板(例えばプローブを固定化したマイクロアレイチップ等。)の形態として提供することができる。
【0064】
固定化に使用される固相は、ポリヌクレオチド等を固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相への検出剤の固定は、特に制限されない。固定方法は、例えばマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製など)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である〔例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等〕。
【0065】
プライマーやプローブ等は、対象バイオマーカーやそれに由来する核酸等を選択的に(特異的に)認識するものであれば、特に限定されない。ここで、「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、対象バイオマーカーが特異的に検出できること、またRT-PCR法においては対象バイオマーカー若しくはそれに由来する核酸(cDNA等)が特異的に増幅されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または増幅物が対象バイオマーカーに由来するものであると判断できるものであればよい。
【0066】
プライマーやプローブの具体例としては、下記(a)に記載するポリヌクレオチド並びに下記(b)に記載するポリヌクレオチド:
(a)対象バイオマーカーの塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/若しくは当該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、並びに
(b)対象バイオマーカーの塩基配列若しくはそれに相補的な塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0067】
相補的なポリヌクレオチド又は相補的な塩基配列(相補鎖、逆鎖)とは、対象バイオマーカーの塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチド又は塩基配列を意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0068】
プライマーやプローブ等は、例えば対象バイオマーカーの塩基配列をもとに、例えば各種設計プログラムを利用して設計することができる。具体的には前記対象バイオマーカーの塩基配列を設計プログラムにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列を、プライマーまたはプローブとして使用することができる。
【0069】
プライマーやプローブ等の塩基長は、上述のように連続する少なくとも15塩基の長さを有するものであれば特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。塩基長としては、例えばプライマーとして用いる場合であれば、例えば15塩基~35塩基が例示でき、例えばプローブとして用いる場合であれば、例えば15塩基~35塩基が例示できる。
【0070】
本発明の検査薬には、本発明の検出剤以外の、他の検出剤(例えば、他のmiRNA等の核酸を検出するためのプローブや、抗体等)が含まれていてもよい。この場合の本発明の検査薬は、関節リウマチの他に、他の疾患や状態も検査することができる検査薬であってもよい。この場合、本発明の検出剤は、関節リウマチ検査用の検出剤として含まれている。この観点から、本発明の検査薬は、その一態様において、本発明の検出剤からなる関節リウマチ検査用検出剤を含む、関節リウマチの検査薬である。
【0071】
本発明の検査薬は、組成物の形態であってもよい。該組成物には、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0072】
本発明の検査薬は、キットの形態であってもよい。該キットには、上記検出剤或いはこれを含む上記組成物のほかに、被検体の体液における対象バイオマーカーの検出に使用し得るものを含んでいてもよい。このようなものの具体例としては、各種試薬(例えば緩衝液等)、器具(例えば体液の精製、分離用器具)等が挙げられる。
【0073】
5.関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法
本発明は、その一態様において、被検物質で処理された動物から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法(本明細書において、「本発明の有効成分スクリーニング方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0074】
体液、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、miR-762、関節リウマチ、対象バイオマーカーの量又は濃度の測定等については、上記「1.関節リウマチの検査方法」における定義と同様である。
【0075】
動物の生物種は特に制限されない。動物の生物種としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギなどの種々の哺乳類動物が挙げられる。
【0076】
被検物質としては、天然に存在する化合物又は人工に作られた化合物を問わず広く使用することができる。また、精製された化合物に限らず、多種の化合物を混合した組成物や、動植物の抽出液も使用することができる。化合物には、低分子化合物に限らず、タンパク質、核酸、多糖類等の高分子化合物も包含される。
【0077】
本発明の有効成分スクリーニング方法は、より具体的には、指標とするバイオマーカーが、miR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)である場合、上記指標の値が、被検物質で処理されていない動物から採取された体液における対応バイオマーカーの量又は濃度(対照値)よりも高い場合に、前記被検物質を関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分(或いは、関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分の候補物質)として選択する工程を含む。
【0078】
本発明の有効成分スクリーニング方法は、別の具体例として、指標とするバイオマーカーが、miR-762(BM2)である場合、上記指標の値が、被検物質で処理されていない動物から採取された体液における対応バイオマーカーの量又は濃度(対照値)よりも低い場合に、前記被検物質を関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分(或いは、関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分の候補物質)として選択する工程を含む。
【0079】
対応バイオマーカーとは、指標としている対象バイオマーカーと同じmiRNAを意味する。
【0080】
「高い」とは、例えば指標の値が、対照値の2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍であることを意味する。
【0081】
「低い」とは、例えば指標の値が、対照値の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、1/100であることを意味する。
【0082】
6.関節リウマチの誘発性又は増悪性の評価方法
本発明は、その一態様において、被検物質で処理された動物から採取された体液における、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とする、関節リウマチの誘発性又は増悪性の評価方法(本明細書において、「本発明の毒性評価方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0083】
体液、miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、miR-762、関節リウマチ、対象バイオマーカーの量又は濃度の測定、動物の生物種、被検物質等については、上記「1.関節リウマチの検査方法」及び「6.関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法」における定義と同様である。
【0084】
本発明の毒性評価方法は、より具体的には、指標とするバイオマーカーが、miR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)である場合、上記指標の値が、被検物質で処理されていない動物から採取された体液における対応バイオマーカーの量又は濃度(対照値)よりも低い場合に、前記被検物質を関節リウマチの誘発性又は増悪性があると判定する工程を含む。
【0085】
本発明の毒性評価方法は、別の具体例として、指標とするバイオマーカーが、miR-762(BM2)である場合、上記指標の値が、被検物質で処理されていない動物から採取された体液における対応バイオマーカーの量又は濃度(対照値)よりも高い場合に、前記被検物質を関節リウマチの誘発性又は増悪性があると判定する工程を含む。
【0086】
対応バイオマーカーとは、指標としている対象バイオマーカーと同じmiRNAを意味する。
【0087】
「高い」とは、例えば指標の値が、対照値の2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍であることを意味する。
【0088】
「低い」とは、例えば指標の値が、対照値の1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、1/100であることを意味する。
【実施例0089】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0090】
試験例1.関節リウマチバイオマーカーのスクリーニング1
MIGWAS解析パイプラインにおいては、データベースに登録されたマイクロRNAを対象に、複数のアルゴリズムを用いて予測した標的遺伝子のリストを作成する。対象マイクロRNAをコードする遺伝子と標的遺伝子の双方において、該当疾患のゲノムワイド関連解析における要約統計量から算出される遺伝子レベルのP値が閾値未満である、すなわち疾患感受性が認められているかを判定する。さらに、データベースに登録された細胞組織別に測定されたマイクロRNA発現プロファイル情報を取得し、各組織別にマイクロRNAの発現情報を正規化し、組織特異的に発現量の高いマイクロRNAを同定する。それらのマイクロRNAを対象に、各組織別のMIGWAS解析パイプラインを実施することで、実際の生体内の特定の組織において機能しているマイクロRNAを優先的にスクリーニングすることが可能となる。
【0091】
関節リウマチの大規模ゲノムワイド関連解析結果(患者群19243名および対照群61565名)に対して、MlGWAS解析パイプラインを適用し、バイオマーカー候補として48個のマイクロRNAを同定した。
【0092】
試験例2.関節リウマチバイオマーカーのスクリーニング2
独立した関節リウマチ患者群30名および対照群33名から採取された末梢血単核球より抽出したマイクロRNA分画における発現情報の検討を行った。次世代シークエンサーHiSeq2500を用いて詳細な発現情報を取得したところ、関節リウマチにおける発現量が有意に健常人と異なるマイクロRNA、すなわちバイオマーカー候補として94個のマイクロRNAを同定した。
【0093】
試験例3.スクリーニング結果の解析
試験例1で得られた候補miRNAと試験例2で得られた候補miRNAとで重複している4つのmiRNAを、信頼性が高いバイオマーカーとして抽出した(hsa-miR-93-5p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-301b-3p、hsa-miR-762、FDR補正後Q値<0.05)。各miRNAの関節リウマチ患者と健常人での発現量を評価したボルケーノプロットを
図1に示す。3個のマイクロRNA(hsa-miR-93-5p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-301b-3p)においては患者群で発現レベルが有意に低く、1個のマイクロRNA(hsa-miR-762)においては患者群で発現レベルが有意に高かった。本発明に含まれるマイクロRNA(hsa-miR-93-5p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-301b-3p、hsa-miR-762)は、関節リウマチの患者群および対照群との間での異なる発現レベルを有し、その比(オッズ比)は各々、0.696倍、0.570倍、0.516倍、2.23倍である。この詳細データを表1に示す。
【0094】
【0095】
これら4個のマイクロRNAを組み合わせることで、10.86倍という高い比率をもって患者群と対照群を区別することが可能となり、関節リウマチの診断に寄与すると考えられる。さらに、同定したバイオマーカーそれぞれで診断する場合及び全てを組合わせて診断する場合の、早期関節リウマチ患者(30名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を作成した結果を
図2~6に示す。特に、全てを組合わせて診断する場合は、感度70%、特異度70%と高精度であることが確認された。
【0096】
さらに、上記解析を抗CCP抗体陰性関節リウマチ患者についても行った。本発明に含まれるマイクロRNA(hsa-miR-93-5p、hsa-miR-106b-5p、hsa-miR-301b-3p、hsa-miR-762)は、抗CCP抗体陰性関節リウマチの患者群および対照群との間での異なる発現レベルを有し、その比(オッズ比)は各々、0.733倍、0.641倍、0.567倍、2.65倍である。この詳細データを表2に示す。
【0097】
【0098】
これら4つのマイクロRNAを組み合わせることで、9.95倍という高い比率をもって抗CCP抗体陰性関節リウマチ群と対照群を区別することが可能である。さらに、同定したバイオマーカーそれぞれで診断する場合及び全てを組合わせて診断する場合の、抗CCP抗体陰性関節リウマチ患者(14名)に対する受信者動作特性(ROC)曲線を作成した結果を
図7~11に示す。特に、全てを組合わせて診断する場合は、感度50%、特異度94%と高精度であることが確認された。このことから、早期リウマチ患者における抗CCP抗体での偽陰性(見逃し例)を診断することができる。
検出したバイオマーカーがmiR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)を含む場合、さらに、
(2a)前記工程(1)で検出された前記BM1の量又は濃度がカットオフ値以下である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定することを補助する工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
検出したバイオマーカーがmiR-93-5p、miR-106b-5p、及びmiR-301b-3pからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカー(BM1)、並びにmiR-762(BM2)を含む場合、さらに、
(2c)前記工程(1)で検出された前記BM1の量又は濃度がカットオフ値以下であり、且つ前記工程(1)で検出された前記BM2の量又は濃度がカットオフ値以上である場合に、前記被検体が関節リウマチに罹患していると判定することを補助する工程、
を含む、請求項1に記載の方法。
miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法に使用するための、関節リウマチの検査薬。
miR-93-5p、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの検出剤を含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法に使用するための、関節リウマチの検査キット。
被検物質で処理された動物から採取された体液における、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とすることを含み、さらに
指標とするバイオマーカーがmiR-106b-5pを含む場合、
miR-106b-5pの量又は濃度が、被検物質で処理されていない動物から採取された体液におけるmiR-106b-5pの量又は濃度よりも高い場合に、前記被検物質を関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分として選択する工程、
を含む、
関節リウマチの予防又は治療剤の有効成分のスクリーニング方法。
被検物質で処理された動物から採取された体液における、miR-106b-5p、miR-301b-3p、及びmiR-762からなる群より選択される少なくとも1種のバイオマーカーの量又は濃度を指標とすることを含み、さらに
指標とするバイオマーカーがmiR-106b-5pを含む場合、
miR-106b-5pの量又は濃度が、被検物質で処理されていない動物から採取された体液におけるmiR-106b-5pの量又は濃度よりも低い場合に、前記被検物質を関節リウマチの誘発性または増悪性があると判定する工程、
を含む、
関節リウマチの誘発性又は増悪性の評価方法。