(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024054775
(43)【公開日】2024-04-17
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240410BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240410BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240410BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240410BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240410BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C33/80
F16C19/06
F16C33/58
F16J15/3204 201
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161222
(22)【出願日】2022-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE08
3J006AE12
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3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006AE41
3J006CA01
3J006CA02
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3J042AA09
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3J042BA01
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3J042CA10
3J216AA02
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3J216AB29
3J216BA02
3J216BA07
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC16
3J216CC33
3J216DA01
3J216DA02
3J216EA06
3J216GA03
3J216GA09
3J701AA02
3J701AA32
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3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA56
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3J701BA73
3J701BA78
3J701CA16
3J701EA31
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3J701FA13
3J701FA31
3J701GA24
3J701XB01
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB18
3J701XB24
3J701XB31
(57)【要約】
【課題】転がり軸受の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からのグリース等の流出および大気側からの異物の侵入を同時に抑制することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】この転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材6が外輪に取付られている。内輪の外周面にシール溝7が周方向に形成され、シール部材6はシール溝7にリップ15が接触する接触シールである。シール溝7の外側溝壁面7cは、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成され、シール部材6は、リップ15の先端部15cが、シール溝7の外側溝壁面7cに接触角度80~100°で当たるR形状に形成されている。軸方向に対する外側溝壁面7cの傾斜角度Iは55~65°である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付られ、前記内輪の外周面にシール溝が周方向に形成された転がり軸受であって、
前記シール部材は前記シール溝とリップの外側で接触する接触シールであって、前記シール溝の外側溝壁面は、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成され、軸方向に対する前記外側溝壁面の傾斜角度が55~65°であり、前記リップの先端部が、前記外側溝壁面に80~100°で接触するR形状であるリップ形状を有する転がり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受において、前記リップの先端部は半径が0.03~0.09mmの円弧状である転がり軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受において、前記シール部材は、芯金とゴム材とを有し、前記リップは前記ゴム材から成り、このリップの内側面における、PCDよりも内径側に位置する一部分または全部分の表面粗さがRa=0.4~2.5μmである転がり軸受。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受において、前記シール部材の外径部に、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口が設けられている転がり軸受。
【請求項5】
請求項4に記載の転がり軸受において、少なくとも片側の前記シール部材の外周側部分に対して前記空気出口が複数設けられ、これら空気出口は、径方向に沿って形成される径方向の空気出口と、軸方向に沿って形成される軸方向の空気出口とを有し、これら径方向の空気出口と軸方向の空気出口とが異なる円周方向位置に設けられている転がり軸受。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受において、前記シール部材のリップに、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口が設けられている転がり軸受。
【請求項7】
請求項4に記載の転がり軸受において、前記シール部材に設けられた前記空気出口は、軸方向一方側または両側のシール部材にある転がり軸受。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受において、前記シール部材は、基端部から軸方向内側に突出する副リップを有し、この副リップの先端部と前記シール溝の内側溝壁面との間でラビリンスシールが形成されている転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受に関し、軸受内部からのグリース等の流出および大気側からの異物の侵入を同時に抑制し得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図13に示すサーボモータ用の転がり軸受50において、モータ51の近傍にエンコーダ52が配置される機種については、軸受内部からの発塵およびシール摩耗粉がエンコーダ52に付着することによるエンコーダ52の誤動作防止のため、接触シールにて転がり軸受50としての低発塵が求められる。
【0003】
先行技術に係る転がり軸受のシール構造では、
図14に示すように、低トルクと高シール化を図るために、主リップ53はシール溝54の外側溝壁面に接触させ、副リップ55の先端部とシール溝54の内側溝壁面との間でラビリンスシールを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転がり軸受の内輪高速回転時において、転がり軸受の内圧が上昇するため、シール性が不十分であると空気と共にグリースが外部に吐き出され転がり軸受の周辺を汚損させる。
そこで、本件出願人は、シール形状およびシール接触時に発生する締め代変化による面圧分布の変化を抑えることにより、転がり軸受の内部からのグリース等の発塵、およびゴムシールの摩耗による摩耗粉の発生を抑制することを見出した。
【0006】
この発明の目的は、転がり軸受の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からのグリース等の流出および大気側からの異物の侵入を同時に抑制することができる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり軸受は、
内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付られ、前記内輪の外周面にシール溝が周方向に形成された転がり軸受であって、
前記シール部材は前記シール溝とリップの外側で接触する接触シールであって、前記シール溝の外側溝壁面は、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成され、軸方向に対する前記外側溝壁面の傾斜角度が55~65°であり、前記リップの先端部が、前記外側溝壁面に80~100°で接触するR形状であるリップ形状を有する転がり軸受である。
【0008】
この構成によると、軸方向に対する外側溝壁面の傾斜角度を55~65°とし、リップの先端部をR形状とすることで、転がり軸受の回転時に発生する軸受内圧に対して、リップの先端部が法線方向に当たる状態、いわゆる法線当たりを維持できるようなリップの面圧分布となる。したがって、転がり軸受の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からのグリース等の流出および大気側からの異物の侵入を同時に抑制することができる。
外側溝壁面の傾斜角度が55°より小さくなると、軸受内圧に対してシール部材がめくれやすくなるため適切でない。外側溝壁面の傾斜角度が65°より大きくなると、軸受内圧が発生したとき、リップの先端部が前記傾斜面に強く当たり過ぎるため、トルクが大きくなるか、またはより発熱してしまうため適切でない。
【0009】
前記リップの先端部は半径が0.03~0.09mmの円弧状であってもよい。この場合、転がり軸受の回転時にリップの面圧分布の変化をより確実に抑えることができるうえ、トルクが不所望に大きくなること、リップが不所望に発熱すること等を抑えることができる。
リップの先端部の半径が0.03mmより小さいと、転がり軸受の回転時に軸受内圧が変化しリップの接触位置に微妙なずれが生じたときに、法線当たりとならなくなることが考えられる。リップの先端部の半径が0.09mmより大きいと、転がり軸受の回転時における軸受内圧の上昇時、リップの先端部が傾斜面と強く当たった場合、接触面が増大し、トルクが大きくなるか、または発熱するため適切でない。
【0010】
前記シール部材は、芯金とゴム材とを有し、前記リップは前記ゴム材から成り、このリップの内側面における、PCDよりも内径側に位置する一部分または全部分の表面粗さがRa=0.4~2.5μmであってもよい。この場合、所望の発塵抑制効果を得ることができ、且つ、グリースに対する抵抗を低く抑えることができる。
算術平均粗さRaが0.4μmより小さいと、グリースの移動の抑制効果が小さくなり、発塵抑制効果が小さい。算術平均粗さRaが2.5μmより大きい、つまり粗くし過ぎるとグリースに対する抵抗が大きくなり過ぎ、回転に不利になるため適切でない。
【0011】
前記シール部材に、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口が設けられていてもよい。この場合、転がり軸受の回転時に軸受内圧を空気出口から逃がすことで、シール締め代の過度な変化、および軸受内圧の上昇に起因するグリースの流出を抑制し得る。
【0012】
少なくとも片側の前記シール部材の外周側部分に対して前記空気出口が複数設けられ、これら空気出口は、径方向に沿って形成される径方向の空気出口と、軸方向に沿って形成される軸方向の空気出口とを有し、これら径方向の空気出口と軸方向の空気出口とが異なる円周方向位置に設けられていてもよい。このように径方向の空気出口と軸方向の空気出口の円周方向位置(円周方向の位相)をずらすことで、グリースの流出をより確実に抑制し得る。
【0013】
前記シール部材のリップに、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口が設けられていてもよい。この場合、転がり軸受の回転時に軸受内圧を空気出口から逃がすことで、シール締め代の過度な変化、および軸受内圧の上昇に起因するグリースの流出を抑制し得る。
【0014】
前記シール部材に設けられた前記空気出口は、軸方向一方側または両側のシール部材にあってもよい。
【0015】
前記シール部材は、基端部から軸方向内側に突出する副リップを有し、この副リップの先端部と前記シール溝の内側溝壁面との間でラビリンスシールが形成されていてもよい。この場合、前記接触シールであるリップと前記副リップとで、グリース等の流出防止の効果をさらに高め、異物の侵入の効果をさらに高めることができる。
【0016】
前記副リップは径方向に間隔を隔てて二つ設けられ、これら二つの副リップの間にグリース溜まりが設けられていてもよい。この場合、グリース溜まりに貯留されたグリースにより、潤滑に寄与するグリースが流出しないように遮られ、大気側から異物が侵入することも阻止される。
【0017】
前記保持器は、保持器内径側にグリースを収容可能なグリース収容部を備えていてもよい。この場合、軸受運転時に、静止空間に溜まったグリースが遠心力によりグリース収容部に収容され、さらに軌道面へ供給される。これにより、グリース収容部が無い保持器を備えた転がり軸受よりもグリース寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付けられ、前記内輪の外周面にシール溝が周方向に形成され、前記シール部材は前記シール溝にリップが接触する接触シールである転がり軸受であって、前記シール溝の外側溝壁面は、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成され、前記シール部材は、前記リップの先端部が、前記シール溝の前記外側溝壁面に法線方向に当たるR形状に形成され、軸方向に対する前記外側溝壁面の傾斜角度が55~65°である。このため、転がり軸受の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からのグリース等の流出および大気側からの異物の侵入を同時に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図2】同転がり軸受のシール部材のリップ等の拡大断面図である。
【
図4A】同シール部材を径方向の空気出口で切断して見た部分拡大断面図である。
【
図4B】同シール部材を軸方向の空気出口で切断して見た部分拡大断面図である。
【
図5A】同シール部材のシール溝への接触状態を示す拡大断面図である。
【
図5B】同シール部材の締め代が最小時の面圧分布を示す図である。
【
図5C】同シール部材の締め代が最大時の面圧分布を示す図である。
【
図7A】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受を径方向の空気出口で切断して見た断面図である。
【
図7B】同転がり軸受を軸方向の空気出口で切断して見た断面図である。
【
図8】同転がり軸受のシール部材のリップ等の拡大断面図である。
【
図9A】同シール部材のシール溝への接触状態を示す拡大断面図である。
【
図9B】同シール部材の締め代が最小時の面圧分布を示す図である。
【
図9C】同シール部材の締め代が最大時の面圧分布を示す図である。
【
図10】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受におけるシール部材のリップ等の拡大断面図である。
【
図11】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図12】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の保持器の斜視図である。
【
図13】サーボモータ用の転がり軸受等を概略示す図である。
【
図14】従来例の転がり軸受のシール構造を部分的に示す拡大断面図である。
【
図15A】従来例のシール部材のシール溝への接触状態を示す拡大断面図である。
【
図15B】同シール部材の締め代が最小時の面圧分布を示す図である。
【
図15C】同シール部材の締め代が最大時の面圧分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受を
図1ないし
図6と共に説明する。
<転がり軸受の概略構成>
図1に示すように、この転がり軸受1は、内外輪2,3と、玉4と、保持器5と、シール部材6とを備える深溝玉軸受である。内外輪2,3の軌道面間2a,3aに介在する複数の玉4が保持器5により周方向一定間隔おきに保持され、これら内輪2および外輪3間の軸受空間を塞ぐシール部材6が外輪3に取付られている。この例では、外輪内周面における軸方向両側にシール部材6,6が取付られている。
【0021】
図6に示すように、この例の保持器5は、合成樹脂製であり、二枚の同形状の環状体5a,5aを係合させた二枚合わせ保持器である。この保持器5は、軸方向のポケット形状が円筒形状となるポケットPtに玉4を保持する。各環状体5aは、複数の半円筒形状のポケット壁部5cと、複数の連結板部5bとを有する。二つのポケット壁部5c,5cが軸方向に互いに組み合わされることで、ポケットPtが形成される。前記ポケットPtは円周等配に設けられている。保持器5は、ポケットPt間の連結板部5bに互いに係合する係合孔Kaと係合爪Kbとを有する。係合孔Kaに係合爪Kbを係合し二枚の同形状の環状体5a,5aが係合されることにより保持器5が組立てられる。なお保持器5のポケット形状は球面形状であってもよい。前記軸受空間にはグリースが封入されている。
【0022】
<シール構造について>
各シール部材6は、シール溝7にリップ15が接触する接触シールである。内輪2の外周面にシール溝7が周方向に形成され、各シール溝7に対向する外輪3の内周面にシール部材固定溝9が設けられる。
図1~
図3に示すように、シール部材6は、芯金10にゴム材11をモールドしたものであり、このシール部材6の外周縁が、外輪3のシール部材固定溝9に嵌め込まれて固定される。
図3,
図4Aおよび
図4Bに示すように、シール部材6の外周側部分には、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口12が設けられている。
【0023】
なお
図4Aおよび
図4Bでは、シール部材6の外周側部分の一部分が外輪3のシール部材固定溝9に埋め込まれているように示されているが、この一部分は締め代であり、実際には弾性変形された状態でシール部材固定溝9に嵌め込まれている。またシール部材6のリップ15の一部分についても内輪3のシール溝7に埋め込まれているように示されているが、この一部分は締め代であり、実際には弾性変形された状態でシール溝7に接触している。後述するシール構造についても同様である(
図7A,
図7B,
図10,
図11)。
【0024】
シール部材6に対して空気出口12が複数設けられている。これら空気出口12は、径方向に沿って形成される径方向の空気出口12a(
図4A)と、軸方向に沿って形成される軸方向の空気出口12b(
図4B)とを有する。空気出口12a,12bは、それぞれシール部材6の外周側部分に設けられた溝から成る。これら径方向の空気出口12aと軸方向の空気出口12bとが異なる円周方向位置に設けられている。
【0025】
具体的には、
図3,
図4Aおよび
図4Bに示すように、シール部材6の外周側部分のうち、シール部材固定溝9の内側溝壁面9aに臨む内側面に、二つの径方向の空気出口12a,12aが円周方向に180度位相を隔てて設けられている。径方向の空気出口12aと内側溝壁面9aとで孔が形成される。またシール部材6の外周側部分のうち、シール部材固定溝9の外周溝壁面9cに臨む外周面に、一つの軸方向の空気出口12bが設けられている。軸方向の空気出口12bと外周溝壁面9cとで孔が形成される。この軸方向の空気出口12bは、径方向の空気出口12aに対し90度位相がずれた円周方向位置に設けられている。これら径方向の空気出口12a,12aと軸方向の空気出口12bは、シール部材固定溝9の外周溝壁面9cを介して連通する。よって、転がり軸受1の回転時に軸受内圧を、二つの径方向の空気出口12a,12aから軸方向の空気出口12bを経由して逃がし得る。なお軸方向および径方向の空気出口12a,12bの円周方向位置は前述の位相に限定されるものではない。
【0026】
図1,
図2に示すように、内輪2のシール溝7は、軸方向外側に向かって順次、内側溝壁面7a、溝底面7bおよび外側溝壁面7cを有する。内側溝壁面7aは、軌道面2aの軸方向両側に設けられた内輪肩部に繋がり、軸方向外側に向かうに従って内径側に傾斜する傾斜面に形成されている。この内側溝壁面7aに滑らかに繋がる溝底面7bは、軸方向に略平行に延びる。外側溝壁面7cは、溝底面7bに滑らかに繋がり、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成されている。軸方向に対する外側溝壁面7cの傾斜角度Iは55~65°に設定されている。
【0027】
外側溝壁面7cの傾斜角度Iが55°より小さくなると、軸受内圧に対してシール部材6がめくれやすくなるため適切でない。外側溝壁面7cの傾斜角度Iが65°より大きくなると、軸受内圧が発生したとき、リップ15の先端部が傾斜面に強く当たり過ぎるため、トルクが大きくなるか、またはより発熱してしまうため適切でない。
【0028】
図2に示すように、シール部材6のうち、芯金10の内径よりも径方向内方に延びる内周側部分13は、前記ゴム材11から成る。前記ゴム材11の材質は、ニトリルゴムを標準的に使用するが、使用温度に応じてアクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の他の材質を適用してもよい。
【0029】
シール部材6の前記内周側部分13は、内径側に向かうに従って肉厚が小さくなるくびれ部14と、このくびれ部14にそれぞれ繋がる主リップ(リップ)15と、副リップ16とを有する。これらくびれ部14、主リップ15および副リップ16は一体成形されている。くびれ部14の内径側端部に主リップ15が繋がり、この主リップ15の基端部15aの内側面部分から副リップ16が軸方向内側に突出する。
図1に示すように、副リップ16の先端部とシール溝7の内側溝壁面7aとの間でラビリンスシールRsが形成されている。
【0030】
図2に示すように、主リップ15は、軸方向外側に向かう従って内径側に傾斜する基端部15aと、この基端部15aから内径方向に延びるリップ本体部15bと、このリップ本体部15bにおける先端側の外側面部分に設けられる先端部15cとを有する。この主リップ15の先端部15cが、シール溝7の外側溝壁面7cに法線方向に当たるR形状に形成されている。主リップ15の先端部15cの外径面15caは、軸方向外側に向かうに従って内径側に傾斜し且つ前記R形状に滑らかに繋がる。前記シール溝7の外側溝壁面7cの傾斜角度Iが55~65°の場合、主リップ15の先端部15cは半径が0.03mm以上0.09mm以下の円弧状である。
【0031】
リップ15の先端部15cの半径Rが0.03mmより小さいと、転がり軸受の回転時に軸受内圧が変化しリップ15の接触位置に微妙なずれが生じたときに、法線当たりとならなくなることが考えられる。リップ15の先端部15cの半径Rが0.09mmより大きいと、転がり軸受の回転時における軸受内圧の上昇時、リップ15の先端部15cが傾斜面と強く当たった場合、接触面が増大し、トルクが大きくなるか、または発熱するため適切でない。
【0032】
その他各部の寸法等は以下のように設定されている。
・主リップの基端部の肉厚A、リップ本体部の肉厚B:芯金の厚みtの80%±10%
・リップ本体部の径方向長さD:シール部材の内周側部分(ゴム部断面)の径方向長さCの55%±10%
・リップ本体部における内側面部分から先端部に渡る軸方向寸法E:リップ本体部の肉厚Bの2倍以下
・副リップの内径面からリップ本体部の内径側端部までの径方向寸法F:ゴム部断面の径方向長さCの60%±10%
・軸方向に対する先端部の外径面の傾斜角度G:30°±20°
・リップ本体部に対する基端部の傾斜角度H:135°±20°
【0033】
また
図4Aに示すように、シール部材6のうち、主リップ15の内側面、副リップ16の内径面、内側面および外径面、くびれ部14の内側面、このくびれ部の内側面に繋がるゴム材11の内側面の全部分(
図4Aの点線L1で表記した部分)に渡る表面粗さが算術平均粗さRaで0.4μm以上2.5μm以下である。算術平均粗さRaが0.4μmより小さいと、グリースの移動の抑制効果が小さくなり、発塵抑制効果が小さい。算術平均粗さRaが2.5μmより大きい、つまり粗くし過ぎるとグリースに対する抵抗が大きくなり過ぎ、回転に不利になるため適切でない。
【0034】
この例では、主リップ15の内側面だけでなく、副リップ16およびくびれ部14の内側面等に渡って表面粗さを規定しているが、少なくとも、主リップ15の内側面における、ピッチ円直径(PCD)よりも内径側に位置する一部分または全部分の表面粗さが算術平均粗さRaで0.4μm以上2.5μm以下となるように規定してもよい。
【0035】
<シール部材6の接触状態および面圧変化のFEM解析結果>
図5Aはこのシール部材6のシール溝7への接触状態を示す拡大断面図である。
図5Bは同シール部材の締め代が最小時の面圧分布を示す図であり、
図5Cは同シール部材の締め代が最大時の面圧分布を示す図である。
図5B,
図5Cの各縦軸はこのシール部材のリップの面圧(単位 kgf/mm
2)を示し、各横軸はリップの先端部15cのシール溝7cとの内径側での接触の位置を基準位置(零)とした接触部分の外径側傾斜方向の座標(単位 mm)を示す。
【0036】
図5B,
図5Cに示す解析結果によれば、シール部材6の締め代の最小時と最大時とでリップ15の面圧の変化が小さい。これに対し、
図15A,
図15B,
図15Cに示す従来例のシール部材56の解析結果では、シール部材56の締め代の最小時(
図15B)と最大時(
図15C)とでリップ57の面圧の変化が比較的大きくなっており、一点に集中してしまうため適切でない。
【0037】
つぎに、本実施形態の評価結果について説明する。表1は、外側溝壁面の傾斜角度による、シール性、低トルクおよび低発熱の評価結果を示している。表中の「○」は、良好を意味し、「△」は、「○」よりも効果が劣ることを意味し、「×」は、不良を意味している。表1の結果から、外側溝壁面の傾斜角度を55~65°とすることで、高いシール性能を有し、低トルクおよび低発熱の転がり軸受を得られることがわかる。なお、R形状のリップ部と、外側溝壁面との接触角度は90°とした。
【0038】
【0039】
表2は、R形状のリップ部と、外側溝壁面との接触角度による、シール性、低トルクおよび低発熱の評価結果を示している。表中の「○」は、良好を意味し、「△」は、「○」よりも効果が劣ることを意味し、「×」は、不良を意味している。表2の結果から、R形状のリップ部と、外側溝壁面との接触角度を80~100°とすることで、高いシール性能を有し、低トルクおよび低発熱の転がり軸受を得られることがわかる。なお、外側溝壁面の傾斜角度は60°とした。
【0040】
【0041】
<作用効果>
以上説明した転がり軸受1によれば、外側溝壁面7cの傾斜角度Iを55~65°とし、リップ15の先端部15cをR形状とすることで、転がり軸受1の回転時に発生する軸受内圧に対して、リップ15の先端部15cが法線方向に当たる状態、いわゆる法線当たりを維持できるようなリップ15の面圧分布となる。したがって、転がり軸受1の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からのグリース等の流出および大気側からの異物の侵入を同時に抑制することができる。
【0042】
リップ15の先端部15cは半径が0.03~0.09mmの円弧状である。このため、転がり軸受1の回転時にリップ15の面圧分布の変化をより確実に抑えることができるうえ、トルクが不所望に大きくなること、リップ15が不所望に発熱すること等を抑えることができる。
主リップ15の内側面等の表面粗さがRa=0.4~2.5μmであるため、所望の発塵抑制効果を得ることができ、且つ、グリースに対する抵抗を低く抑えることができる。
【0043】
シール部材6の外周側部分に、この転がり軸受1の内圧を逃がす空気出口12が設けられている。このため、転がり軸受1の回転時に軸受内圧を空気出口12から逃がすことで、シール締め代の過度な変化、および軸受内圧の上昇に起因するグリースの流出を抑制し得る。径方向の空気出口12aと軸方向の空気出口12bとが異なる円周方向位置に設けられている。このように径方向の空気出口12aと軸方向の空気出口12bの円周方向位置つまり円周方向の位相をずらすことで、グリースの流出をより確実に抑制し得る。
【0044】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0045】
図7Aおよび
図7Bに示すように、シール部材6Aの副リップ16a,16bは、径方向に間隔を隔て二つ平行に設けられ、これら二つの副リップ16a,16bの間にグリース溜まり17が設けられていてもよい。このグリース溜まり17にグリースが貯留されている。一方の副リップ16aは、主リップ15の基端部15aの内側面部分から軸方向内側に突出する。他方の副リップ16bは、主リップ15のリップ本体部15bの内側面部分から軸方向内側に突出する。なおこの例のリップ本体部15bは、基端部15aの内径側端に繋がり軸方向外側に向かう従って内径側に傾斜する。
【0046】
また
図8に示すように、シール溝との接触部分となる主リップ15の先端部15cは、このR形状の軸方向寸法L2が径方向寸法L3比で50%±10%となるように形成される。
面圧に関係する、主リップ15の基端部15aにおけるA1部肉厚およびリップ本体部のB1部長さは以下のように設定されている。
・A1部肉厚:芯金の厚みtの80%±10%
・B1部長さ:シール部材の内周側部分(ゴム部断面)の径方向長さC1部肉厚の50%±10%
【0047】
その他各部の寸法等は以下のように設定されている。
内径側に位置する副リップのD1部肉厚、E1部の軸方向長さ、および設定位置F1は以下のように設定されている。
・D1部肉厚:ゴム部断面の径方向長さC1の15%±5%
・E1部の軸方向長さ:芯金の厚みtの180%±10%
・設定位置F1:ゴム部断面の径方向長さCに対し芯金内径部より70%±5%の位置
【0048】
<シール部材6Aの接触状態および面圧変化のFEM解析結果>
図9Aはこのシール部材6Aのシール溝7への接触状態を示す拡大断面図である。
図9Bは同シール部材の締め代が最小時の面圧分布を示す図であり、
図9Cは同シール部材の締め代が最大時の面圧分布を示す図である。
図9B,
図9Cの各縦軸はこのシール部材のリップの面圧(単位 kgf/mm
2)を示し、各横軸はリップの先端部15cのシール溝7cとの内径側での接触の位置を基準位置(零)とした接触部分の外径側傾斜方向の座標(単位 mm)を示す。
【0049】
図9B,
図9Cに示す解析結果によれば、シール部材6Aの締め代の最小時と最大時とでリップ15の面圧の変化が小さい。これに対し、
図15A,
図15B,
図15Cに示す従来例のシール部材56の解析結果では、シール部材56の締め代の最小時(
図15B)と最大時(
図15C)とでリップ57の面圧の変化が比較的大きくなっており、一点に集中してしまうため適切でない。
【0050】
この構成によると、グリース溜まり17に貯留されたグリースにより、潤滑に寄与するグリースが流出しないように遮られ、大気側から異物が侵入することも阻止される。その他前述の実施形態と同様の作用効果を奏する。また接触シールである主リップ15と二つの副リップ16a,16bとで、グリースの流出防止の効果をさらに高め、異物の侵入の効果をさらに高めることができる。
【0051】
図10に示すように、主リップ15に、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口18が設けられていてもよい。主リップ15の先端部15cにおいて、例えば、複数の径方向の空気出口18が円周等配に設けられている。各空気出口18は溝から成る。空気出口18と、この空気出口18に臨む外側溝壁面7cとで孔が形成される。なお主リップ15の先端部15cにおける径方向の空気出口18は一つであってもよい。また複数の径方向の空気出口18は円周方向に不等配に設けられていてもよい。
図10の構成によると、転がり軸受の回転時に軸受内圧を空気出口18から逃がすことで、シール締め代の過度な変化、および軸受内圧の上昇に起因するグリースの流出を抑制し得る。
【0052】
図11に示すように、シール部材6は、外輪内周面における軸方向一方側のみに取付られていてもよい。この場合、転がり軸受の回転時に軸受内圧が過度に上昇することを未然に防止できるうえ、部品点数の低減を図りコスト低減を図れる。なお内外輪2,3のいずれか一方または両方にシール溝、シール部材固定溝が設けられていてもよい。
【0053】
図12に示すように、樹脂製波形保持器において、保持器内径側にグリースを収容可能なグリース収容部19を備えていてもよい。この保持器5Aは、ポケット壁部5cの内径面に、切り欠き部であるグリース収容部19が設けられている。グリース収容部19は、ポケット壁部5cの内径面を一部切り欠いた凹曲線となる曲面形状となる。このグリース収容部19は、環状体5aの射出成形時に形成されるが、射出成形後の追加工によって形成することも可能である。このようなグリース収容部19を備えた保持器5Aを有する転がり軸受によれば、軸受運転時に、静止空間に溜まったグリースが遠心力によりグリース収容部19に収容され、さらに軌道面へ供給される。これにより、グリース収容部が無い保持器を備えた転がり軸受よりもグリース寿命を延ばすことができる。
【0054】
各実施形態では、保持器として樹脂製波形保持器が適用されているが、一般的ないわゆる鉄板波形保持器であってもよい。
また保持器は、内部に玉を保持するポケットを、環状体の円周方向の複数箇所に有するし、ポケットの軸方向一方側を開口した形状のいわゆる冠型保持器であってもよい。
【0055】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1…転がり軸受、2…内輪、3…外輪、4…玉、5,5A…保持器、6,6A…シール部材、7…シール溝、7c…外側溝壁面、12…空気出口、12a…径方向の空気出口、12b…軸方向の空気出口、15…リップ、15c…先端部、16a,16b…副リップ、17…グリース溜まり、18…空気出口、19…グリース収容部